特許第6010212号(P6010212)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6010212
(24)【登録日】2016年9月23日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】電力変換装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20161006BHJP
   H02M 7/12 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   H02M7/48 E
   H02M7/12 A
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-500041(P2015-500041)
(86)(22)【出願日】2013年2月14日
(86)【国際出願番号】JP2013053509
(87)【国際公開番号】WO2014125594
(87)【国際公開日】20140821
【審査請求日】2015年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻野 宏之
(72)【発明者】
【氏名】安藤 彰修
(72)【発明者】
【氏名】細川 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】奥山 涼太
【審査官】 麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−37236(JP,A)
【文献】 特開平7−288980(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0126367(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源から供給される交流電力を直流電力に変換するコンバータと、
直流電流を平滑化させる直流リアクトルと、
前記コンバータから前記直流リアクトルを介して与えられた直流電力を交流電力に変換して負荷に供給するインバータと、
電流指令値と前記直流リアクトルに流れる直流電流との偏差に基づいて演算されたフィードバック制御量と、前記コンバータから前記直流リアクトルを介して与えられる直流電圧に応じて設定されたフィードフォワード制御量との和に従って、前記コンバータを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記インバータの出力周波数が第1の領域にあるとき、前記フィードフォワード制御量の演算に用いられる制御ゲインを、前記出力周波数が前記第1の領域よりも低周波数の第2の領域にあるときと比較して小さくする、電力変換装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記インバータの出力周波数が前記第1の領域にあるときには、前記電圧検出値に基づくフィードフォワード制御を非実行とする一方で、前記インバータの出力周波数が前記第2の領域にあるときには、前記フィードフォワード制御を実行する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記インバータの出力周波数が高くなるほど前記制御ゲインを小さくする、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記交流電源から供給される交流電流を検出する交流電流検出器と、
前記交流電流検出器の出力を整流する整流回路と、
前記インバータの高電圧側入力端子および低電圧側入力端子の間の直流電圧を検出する直流電圧検出器とをさらに備え、
前記制御部は、
前記電流指令値と前記整流回路からの直流電流との偏差に基づいて前記フィードバック制御量を演算し、
前記直流電圧検出器から受けた電圧検出値に応じて前記フィードフォワード制御量を設定する、請求項1から3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
電力変換装置の制御方法であって、
前記電力変換装置は、
前記交流電源から供給される交流電力を直流電力に変換するコンバータと、
直流電流を平滑化させる直流リアクトルと、
前記コンバータから前記直流リアクトルを介して与えられた直流電力を交流電力に変換して負荷に供給するインバータとを含み、
前記制御方法は、
電流指令値と前記直流リアクトルに流れる直流電流との偏差に基づいて演算されたフィードバック制御量と、前記コンバータから前記直流リアクトルを介して与えられる直流電圧に応じて設定されたフィードフォワード制御量との和に従って、前記コンバータを制御するステップと、
前記インバータの出力周波数が第1の領域にあるとき、前記フィードフォワード制御量の演算に用いられる制御ゲインを、前記出力周波数が前記第1の領域よりも低周波数の第2の領域にあるときと比較して小さくするステップとを備える、電力変換装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置およびその制御方法に関し、例えば、同期機を起動させるサイリスタ起動装置に好適に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
サイリスタ起動装置は、三相交流電力を直流電力に変換するコンバータと、直流電流を平滑化させる直流リアクトルと、コンバータから直流リアクトルを介して与えられた直流電力を所望の周波数の三相交流電力に変換して同期機に与えるインバータとを備える。サイリスタ起動装置は、例えば、特開2001−37236号公報(特許文献1)に開示されるように、コンバータに入力される三相交流電流を検出する交流電流検出器と、インバータから出力される三相交流電圧を検出する交流電圧検出器と、交流電流検出器および交流電圧検出器の検出結果に基づいてコンバータおよびインバータを制御する制御回路とを備える。同期機に与える三相交流電力を制御することにより、停止状態の同期機を起動させて所定の回転速度で回転駆動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−37236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなサイリスタ起動装置において、直流リアクトルに流れる電流波形は、インバータに含まれる複数のサイリスタのスイッチングに起因して、直流電流にリップル(交流成分)が重畳した波形となっている。この直流電流のリップルは、インバータの負荷が増えることによって大きくなる。
【0005】
一方、サイリスタ起動装置では、上記の特許文献1に記載されるように、コンバータを、所定の電流指令値に従って電流制御する。この電流制御は、直流リアクトルに流れる直流電流を電流指令値に一致させるためのフィードバック制御によって行なわれる。そのため、上述のようにインバータの負荷が増えた場合には、負荷の変化に対してインバータに与える直流電圧を速やかに追従させることが困難となっていた。
【0006】
このような制御応答性の低さから、従来のサイリスタ起動装置では、直流電流のリップルを抑制するためにインダクタンスの大きい直流リアクトルの設置が必要となっていた。これにより、装置の大型化および高価格化を招いてしまうという問題があった。
【0007】
それゆえに、この発明の主たる目的は、小型で低価格の直流リアクトルを用いた電力変換装置およびその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明のある局面によれば、電力変換装置は、交流電源から供給される交流電力を直流電力に変換するコンバータと、直流電流を平滑化させる直流リアクトルと、コンバータから直流リアクトルを介して与えられた直流電力を交流電力に変換して負荷に供給するインバータと、電流指令値と直流リアクトルに流れる直流電流との偏差に基づいて演算されたフィードバック制御量と、コンバータから直流リアクトルを介して与えられる直流電圧に応じて設定されたフィードフォワード制御量との和に従って、コンバータを制御する制御部とを備える。制御部は、インバータの出力周波数が第1の領域にあるとき、フィードフォワード制御量の演算に用いられる制御ゲインを、出力周波数が第1の領域よりも低周波数の第2の領域にあるときと比較して小さくする。
【0009】
この発明の別の局面によれば、電力変換装置の制御方法であって、電力変換装置は、交流電源から供給される交流電力を直流電力に変換するコンバータと、直流電流を平滑化させる直流リアクトルと、コンバータから直流リアクトルを介して与えられた直流電力を交流電力に変換して負荷に供給するインバータとを含む。電力変換装置の制御方法は、電流指令値と直流リアクトルに流れる直流電流との偏差に基づいて演算されたフィードバック制御量と、コンバータから直流リアクトルを介して与えられる直流電圧に応じて設定されたフィードフォワード制御量との和に従って、コンバータを制御するステップと、インバータの出力周波数が第1の領域にあるとき、フィードフォワード制御量の演算に用いられる制御ゲインを、出力周波数が第1の領域よりも低周波数の第2の領域にあるときと比較して小さくするステップとを備える。
【発明の効果】
【0010】
この発明による電力変換装置では、直流リアクトルのインダクタンスを小さくできるため、装置の小型化および低価格化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る電力変換装置の代表例であるサイリスタ起動装置の構成を示す図である。
図2図1におけるコンバータ制御部の電流制御を実現するための制御ブロックの構成例を説明する図である。
図3】本実施の形態によるコンバータの電流制御によるリップル抑制の効果とインバータ2の出力周波数との関係を示す図である。
図4図2におけるゲイン乗算部の構成の一例を示すブロック図である。
図5】ゲイン乗算部におけるゲインの設定の第一の例を説明する概念図である。
図6】ゲイン乗算部におけるゲインの設定の第二の例を説明する概念図である。
図7】ゲイン乗算部におけるゲインの設定の第三の例を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る電力変換装置の代表例であるサイリスタ起動装置の構成を示す図である。
【0014】
図1を参照して、サイリスタ起動装置100は、交流電源e1から三相交流電力を受けて同期機4を起動させる。サイリスタ起動装置100は、電力変換部10と、交流電流検出器8と、交流電圧検出器9と、コンバータ制御部20と、インバータ制御部30と、ゲートパルス発生回路40とを備える。サイリスタ起動装置100は、直流電圧検出器7と、交流電流検出器8と、交流電圧検出器9とをさらに備える。
【0015】
電力変換部10は、電力線LN1を介して交流電源e1から三相交流電力を受ける。交流電流検出器8は、電力変換部10に供給される三相交流電流を検出し、電流検出値I1,I2,I3をコンバータ制御部20へ出力する。
【0016】
電力変換部10は、コンバータ1と、インバータ2と、直流リアクトル3とを含む。コンバータ1は、交流電源e1からの三相交流電力を直流電力に変換する。コンバータ1は、少なくとも6個のサイリスタを含む三相全波整流回路である。各サイリスタは、ゲートにコンバータ制御部20からのゲートパルスを受ける。6個のサイリスタを所定のタイミングでオンさせることにより、三相交流電力を直流電力に変換することできる。
【0017】
直流リアクトル3は、コンバータ1の高電圧側出力端子1aとインバータ2の高電圧側入力端子2aとの間に接続され、直流電流を平滑化させる。コンバータ1の低電圧側出力端子1bとインバータ2の低電圧側入力端子2bとは直接接続される。
【0018】
直流電圧検出器7は、インバータ2の入力端子2a,2bの間の直流電圧VDCを検出し、電圧検出値VDCをコンバータ制御部20へ出力する。
【0019】
インバータ2は、コンバータ1から直流リアクトル3を介して与えられた直流電力を所望の周波数の三相交流電力に変換する。インバータ2は、少なくとも6個のサイリスタを含む。各サイリスタは、ゲートにインバータ制御部30からのゲートパルスを受ける。6個のサイリスタを所定のタイミングでオンさせることにより、直流電力を所定の周波数の三相交流電力に変換することができる。
【0020】
インバータ2で生成された三相交流電力は、電力線LN2を介して同期機4に与えられる。同期機4の極数が2極の場合、通常時の回転速度は3000rpm〜3600rpmである。
【0021】
同期機4は、三相コイルを含む。三相コイルはそれぞれ、電力線LN2に接続される。三相コイルに三相交流電力を供給すると、回転磁界が発生し、同期機4が回転する。
【0022】
交流電圧検出器9は、同期機4の三相コイルに供給される三相交流電圧を検出し、電圧検出値V1,V2,V3をインバータ制御部30へ出力する。
【0023】
コンバータ制御部20は、交流電流検出器8から受けた電流検出値I1,I2,I3、および直流電圧検出器7から受けた直流電圧VDCに基づいてコンバータ1を制御する。具体的には、コンバータ制御部20は、直流リアクトル3に流れる直流電流が所定の電流指令値Id*に一致するように、コンバータ1を電流制御する。コンバータ制御部20は、後述する方法によって、電流検出値I1,I2,I3および電圧検出値VDCに基づいて位相制御角(点弧角)αを算出し、算出した位相制御角αをゲートパルス発生回路40へ出力する。ゲートパルス発生回路40は、コンバータ制御部20から受けた位相制御角αに基づいてコンバータ1のサイリスタのゲートに与えるゲートパルスを生成する。
【0024】
インバータ制御部30は、交流電圧検出器9から受けた電圧検出値V1,V2,V3に基づいてインバータ2を制御する。インバータ制御部30は、図示しない回転子位置検出部を含む。回転子位置検出部は、交流電圧検出器9から受けた電圧検出値V1,V2,V3に基づいて同期機4の回転子の回転位置を検出する。インバータ制御部30は、検出された回転子の回転位置に基づいて位相制御角(点弧角)γを算出し、算出した位相制御角γをゲートパルス発生回路40へ出力する。ゲートパルス発生回路40は、インバータ制御部30から受けた位相制御角γに基づいてインバータ2のサイリスタのゲートに与えるゲートパルスを生成する。
【0025】
このようなサイリスタ起動装置は、例えば発電所において、停止状態の同期発電機を同期電動機として起動させるために使用される。同期発電機を同期電動機として所定の回転数で回転駆動させた状態で、サイリスタ起動装置を同期発電機から切り離すとともに、ガスタービンなどによって同期発電機を回転駆動させて交流電力を生成する。
【0026】
図2は、図1におけるコンバータ制御部20の電流制御を実現するための制御ブロックの構成例を説明する図である。
【0027】
図2を参照して、コンバータ制御部20は、整流回路200と、ゲイン乗算部210,250と、減算部220と、PI演算部230と、加算部240と、演算部260とを含む。
【0028】
整流回路200は、交流電流検出器8から電流検出値I1,I2,I3を受ける。整流回路200は、全波整流型のダイオード整流器を用いており、電流検出値I1,I2,I3を直流電流Idに変換する。
【0029】
ゲイン乗算部210は、整流回路200からの直流電流IdにゲインK1を乗じて減算部220へ出力する。直流電流IdにゲインK1を乗じた値は、直流リアクトル3に流れる直流電流に比例する。
【0030】
減算部220は、電流指令値Id*と直流電流K1・Idとの電流偏差ΔIdを演算し、演算した電流偏差ΔIdをPI演算部230へ出力する。電流指令値Id*は直流電流の目標値であり、同期機4の運転状態に応じて設定される制御指令である。PI演算部230は、所定の比例ゲインおよび積分ゲインに従って、電流偏差ΔIdに応じたPI出力を生成する。PI演算部230は、電流フィードバック制御要素を構成する。
【0031】
具体的には、PI演算部230は、比例要素(P:proportional element)、積分要素(I:integral element)および加算部を含む。比例要素は電流偏差ΔIdに所定の比例ゲインを乗じて加算部へ出力し、積分要素は所定の積分ゲインで電流偏差ΔIdを積分して加算部へ出力する。加算部は、比例要素および積分要素からの出力を加算してPI出力を生成する。このPI出力は、電流制御を実現するためのフィードバック制御量Vfbに相当する。なお、フィードバック制御量の演算として、PI演算を例示したが、それ以外の制御演算によってフィードバック制御量を演算することも可能である。
【0032】
ゲイン乗算部250は、直流電圧検出器7から直流電圧VDCを受ける。ゲイン乗算部250は、直流電圧VDCにゲインK2を乗じて加算部240へ出力する。このゲイン乗算部250の出力K2・VDCは、電流制御におけるフィードフォワード制御量Vffに相当する。
【0033】
加算部240は、PI演算部230およびゲイン乗算部250からの出力を加算して、電流制御のための電圧指令値を生成する。この電圧指令値は、コンバータ1が出力すべき直流電力の電圧値を規定する制御指令である。
【0034】
演算部260は、加算部240から与えられる電圧指令値を用いて位相制御角αを算出する。ここで、交流電源e1の線間電圧の実効値をEとすると、直流電圧VDCの平均値Edαは、重なり角を無視すれば次式(1)で与えられる。
【0035】
dα=1.35Ecosα ・・・(1)
演算部260は、この式(1)のEdαに加算部240から与えられる電圧指令値を入れて解くことにより、位相制御角αを算出する。演算部260は、算出した位相制御角αをゲートパルス発生回路40へ出力する。
【0036】
ゲートパルス発生回路40は、位相制御角αに基づいて、コンバータ1のサイリスタに与えるゲートパルスを生成する。コンバータ1がゲートパルス発生回路40によって生成されたゲートパルスに従ってスイッチング制御されることにより、電流指令値Id*に従った直流電流がコンバータ1から出力される。
【0037】
このようにコンバータ制御部20は、直流電流を電流指令値Id*に一致させるためのフィードバック制御系に、直流電圧VDCに基づくフィードフォワード制御を適用する。これにより、インバータ2のスイッチングによって生じる直流電圧VDCのリップルの変化に対抗する直流電圧をコンバータ1から速やかに出力させることができる。その結果、直流電流のリップルが増加するのを防止できる。
【0038】
その一方で、直流電圧VDCのリップルはインバータ2の出力周波数に依存しており、インバータ2の出力周波数が高くなるに従って直流電圧VDCのリップルが小さくなる。そのため、インバータ2の出力周波数が高いときにも上述したフィードフォワード制御を適用すると、却って直流電流のリップルを増加させてしまう可能性がある。
【0039】
図3に、本実施の形態によるコンバータ1の電流制御によるリップル抑制の効果とインバータ2の出力周波数との関係を示す。図3の縦軸には直流電流のリップルの抑制率および増加率が示され、横軸にはインバータ2の出力周波数が示される。なお、直流電流のリップルの抑制率は、フィードフォワード制御の適用による直流成分に対する交流成分の割合であるリップル率の減少量に相当する。また、直流電流のリップルの増加率は、フィードフォワード制御の適用によるリップル率の増加量に相当する。
【0040】
図3を参照して、インバータ2の出力周波数が高くなるに従って、直流電流のリップルの抑制率が減少する。これは、交流電源e1からコンバータ1に入力される交流電力の周波数と比べてインバータ2の出力周波数が高くなると、コンバータ1の電流制御が追いつかず、フィードフォワード制御の効果が薄まるためである。
【0041】
その一方で、インバータ2の出力周波数が高くなるほど、直流電流のリップル率が減少する。そのため、図3に示すように、インバータ2の出力周波数がある周波数fthを超えると、フィードフォワード制御の適用によるリップル率の変化が減少から増加に転じる。すなわち、インバータ2の出力周波数が周波数fthのとき、フィードフォワード制御を実行したときの直流電流のリップル率とフィードフォワード制御を非実行としたときの直流電流のリップル率とが等しくなる。そして、インバータ2の出力周波数が周波数fthよりも高くなると、フィードフォワード制御の適用によって直流電流のリップルが増加してしまい逆効果となる。以下の説明では、インバータ2の出力周波数が周波数fthよりも高くなる領域を「高周波数領域」と表記し、インバータ2の出力周波数が周波数fth以下となる領域を「低周波数領域」とも表記する。
【0042】
本発明の実施の形態による電力変換装置では、フィードフォワード制御量の演算に用いられるゲインK2を、インバータ2の出力周波数に応じて可変に設定する。具体的には、コンバータ制御部20は、インバータ2の出力周波数が高周波領域であるか否かの判定結果に応じてゲインK2を変更する。
【0043】
図4は、図2におけるゲイン乗算部250の構成の一例を示すブロック図である。
図4を参照して、ゲイン乗算部250は、回転速度検出部252と、比較器254と、スイッチ256と、乗算部258とを含む。
【0044】
回転速度検出部252は、インバータ制御部30内部の回転子位置検出部(図示せず)から同期機4の回転子位置を示す回転位置信号POSを受ける。回転数検出部252は、回転位置信号POSに基づいて同期機4の回転子の回転速度Nmを検出する。同期機4の回転子の回転速度Nmは、インバータ2の出力周波数に対応する。
【0045】
比較器254は、同期機4の回転子の回転速度Nmと所定の閾値Nthとを比較し、比較結果を出力する。回転速度Nmが閾値Nthを超えたとき、比較器254の出力信号はH(論理ハイ)レベルとなり、回転速度Nmが閾値Nth以下のとき、比較器254の出力信号はL(論理ロー)レベルとなる。比較器254に入力される閾値Nthは、図3における周波数fthに基づいて設定される。
【0046】
スイッチ256は、比較器254の出力信号に応じて、ゲインK2_H,K2_Lのいずれか一方を選択し、選択したゲインをゲインK2として乗算部258へ出力する。具体的には、ゲインK2_H,K2_Lは互いに異なる値であり、ゲインK2_HがゲインK2_Lよりも高い値に設定される(K2_H>K2_L)。比較器254の出力信号がHレベルのとき、すなわち、同期機4の回転子の回転速度Nmが閾値Nthより高いときには、スイッチ256はゲインK2_Lを選択する。一方、比較器254の出力信号がLレベルのとき、すなわち、同期機4の回転子の回転速度Nmが閾値Nth以下のときには、スイッチ256はゲインK2_Hを選択する。
【0047】
乗算部258は、直流電圧検出器7からの直流電圧VDCにゲインK2を乗じることにより、フィードフォワード制御量Vffを算出する。
【0048】
このように、ゲイン乗算部250は、インバータ2の出力周波数が高周波数領域であるか否かの判定結果に応じてフィードフォワード制御量Vffの演算に用いるゲインK2を可変に設定する。ゲイン乗算部250は、インバータ2の出力周波数が高周波領域である場合には、インバータ2の出力周波数が低周波領域である場合と比較して、ゲインK2を低くする。したがって、高周波数領域では、低周波数領域と比較して、同じ直流電圧VDCに基づいて設定されるフィードフォワード制御量Vffが小さくなる。これにより、高周波数領域における直流電流のリップルの増加を抑えることができる。
【0049】
以下に、図5図7を用いて、ゲイン乗算部250におけるゲインK2の設定の詳細を説明する。
【0050】
図5は、ゲイン乗算部250におけるゲインK2の設定の第一の例を説明する概念図である。
【0051】
図5(a)を参照して、ゲイン乗算部250は、高周波領域でのゲインK2_Lをゼロに設定する。すなわち、インバータ2の出力周波数が低周波領域である場合には、フィードフォワード制御を実行する一方で、インバータ2の出力周波数が高周波領域である場合には、フィードフォワード制御量Vffをゼロに設定することにより、実質的にフィードフォワード制御を非実行(無効)とする。
【0052】
図5(b)には、図5(a)に示されるゲインK2の設定による直流電流のリップル抑制の効果とインバータ2の出力周波数との関係を示す。図5(b)を参照して、直流電流のリップルの抑制率は高周波領域においてゼロに維持される。高周波領域ではフィードフォワード制御を非実行とすることにより、図3に示したような直流電流のリップルの増加を抑制できる。
【0053】
図6は、ゲイン乗算部250におけるゲインK2の設定の第二の例を説明する概念図である。
【0054】
図6を参照して、ゲイン乗算部250は、高周波領域でのゲインK2_LをゲインK2_Hよりも小さい正数に設定する(0<K2_L<K2_H)。すなわち、インバータ2の出力周波数が高周波領域である場合には、低周波領域である場合と比較してゲインK2を小さくしてフィードフォワード制御を実行する。なお、ゲインK2_Lは、直流電圧VDCのリップルの大きさに応じて、直流電流のリップルを抑制するのに適切な値に予め定められる。
【0055】
図7は、ゲイン乗算部250におけるゲインK2の設定の第三の例を説明する概念図である。
【0056】
図7を参照して、ゲインK2は、インバータ2の出力周波数が高くなるに従って小さい値となるように設定される。ゲインK2は、インバータ2の出力周波数ごとに、実験等によって、フィードフォワード制御の適用による直流電流のリップルの抑制率が最も高くなるように予め定められる。
【0057】
以上説明したように、本実施の形態による電力変換装置では、コンバータの電流制御において、直流電圧VDCに基づいたフィードフォワード制御に用いられる制御ゲインを、インバータの出力周波数が高くなるほど小さくする。これにより、直流電圧VDCのリップルが小さくなる高周波領域において、フィードフォワード制御によって直流電流のリップルが増えるのを抑制できる。
【0058】
また、フィードフォワード制御に用いられる制御ゲインをインバータの出力周波数に応じて可変に設定することにより、インバータの出力周波数範囲にわたって、コンバータの電流制御によって直流電流のリップルを低減することができる。これにより、直流リアクトルのインダクタンスを大きくする必要がなくなるため、サイリスタ起動装置の小型化および低価格化を実現できる。
【0059】
なお、上記の実施の形態では、直流電圧検出器7から受けた電圧検出値VDCに応じてフィードフォワード制御量Vffを設定する構成について説明したが、交流電圧検出器9によって検出された三相交流電圧V1,V2,V3に基づいて直流電圧VDCを演算する構成としてもよい。この場合、直流電圧検出器7を設ける必要がないので、装置のさらなる小型化および低価格化が実現できる。
【0060】
今回開示された実施の形態はすべて例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の適用は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0061】
1 コンバータ、2 インバータ、3 直流リアクトル、4 同期機、7 直流電圧検出器、8 交流電流検出器、9 交流電圧検出器、10 電力変換部、20 コンバータ制御部、30 インバータ制御部、40 ゲートパルス発生回路、100 サイリスタ起動装置、200 整流回路、210,250 ゲイン演算部、220 減算部、230 PI演算部、240 加算部、252 回転速度検出部、254 比較器、256 スイッチ、258 乗算部、260 演算部、e1 交流電源。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7