(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
樹脂マトリックスに埋め込まれた強化成分の繊維を含む繊維強化複合材料であって、前記樹脂マトリックスは、アミノ化リグニンで架橋したエポキシ樹脂を含み、かつ5重量%未満のリグニン系炭水化物を含むことを特徴とする、繊維強化複合材料。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、アミノ化リグニンで架橋したエポキシ樹脂を含み、かつ5重量%未満のリグニン系炭水化物を含む樹脂マトリックスに埋め込まれた強化成分の繊維を含む繊維強化複合材料に関する。
【0010】
炭水化物は、炭素、水素および酸素からなる有機化合物の一群である。炭水化物の例には、糖、セルロースおよびヘミセルロースがある。
【0011】
「リグニン系炭水化物」という表現は、本発明に使用されるリグニンに由来する炭水化物をいう。リグニンは、リグニン分子に結合もしくは連結した炭水化物を含んでも、あるいは炭水化物を遊離不純物として含んでもよい。リグニン系炭水化物は、本発明に使用されるリグニンと共に樹脂マトリックスになる。
【0012】
本発明の一実施形態では、樹脂マトリックスは、1.5重量%未満、好ましくは1重量%未満のリグニン系炭水化物を含む。
【0013】
本発明の発明者らは、エポキシ樹脂の従来のポリアミン硬化剤の代わりにアミノ化リグニンを使用できることを見出した。本明細書では、他に記載がない限り、「アミノ化リグニン」という表現は、ポリアミンによるアミノ化反応に供したリグニンと理解されるべきである。「アミノ化」、「アミノ化反応」、「アミノ化プロセス」という表現、または他の任意の対応する表現は、本明細書では、他に記載がない限り、少なくとも1つのアミノ基を有機分子に導入するプロセスをいうものと理解されるべきである。本明細書では、他に記載がない限り、「ポリアミン」という表現は、2つ以上の第一級アミノ基−NH
2を含む有機化合物と理解されるべきである。精製されたリグニンをアミノ化プロセスに使用すると、得られたアミノ化リグニンの質は本質的に均一である。精製されたリグニンを使用すると、バッチによるばらつきを大きくすることなく、本質的に一定のアミノ化反応が得られるという利点がある。精製されたリグニンを使用した結果、形成されたアミノ化リグニンは本質的に純粋である。「本質的に純粋な」という表現は、アミノ化リグニンに繊維および木材などの不純物が微量しか含まれていないものと理解されるべきである。
【0014】
繊維強化複合材料の製造の硬化剤としてアミノ化リグニンを使用すると、より環境に優しく持続可能な複合材料が得られる。本発明者らは、アミノ化リグニンを使用すると、エポキシ樹脂と架橋が形成されて最終繊維強化複合材料の強度が増加する点に注目した。アミノ化リグニンは樹脂を効率的に架橋し、マトリックスに繊維を結合することができることが見出された。アミノ化リグニンが硬化剤として使用するのに好適であるという利点をなぜ有するかに関する任意の特定の理論に本発明を限定するものではないが、アミノ化リグニンを使用すると、アミノ化反応に供していないリグニンと比較して、たとえば天然繊維およびエポキシ樹脂の界面での接触が、改善されると考えられる。
【0015】
本発明者らは、5重量%未満の炭水化物を含む出発材料としてのアミノ化リグニンが、本質的に純粋であるという利点を有することによって、得られた繊維強化複合材料の特性を容易に制御することができ、最終複合材料の特定の純度レベルを確保できることを見出した。
【0016】
本発明では、樹脂マトリックスはエポキシ樹脂を使用することにより形成される。エポキシ樹脂は、通常少なくとも2つのエポキシ基を含む低分子量プレポリマーまたはより高分子量のポリマーである。エポキシ樹脂は、重合または半重合材料である。エポキシ樹脂は、工業的に製造することができる。エポキシ樹脂製造のための原材料は通常、石油由来であるが、植物由来の原料も市販されており、エピクロロヒドリン(epichlorhydrin)の製造には、たとえば植物由来のグリセロールが使用される。本発明に使用することができるエポキシ樹脂の例として、二官能性および多官能性エポキシ樹脂、たとえばビスフェノールAのジグリシジルエーテル(DGEBPA)、トリグリシジルp−アミノフェノール(TGAP)、4,4’−ジアミノジフェニルメタンのテトラグリシジルエーテル(TGGDDM)、およびエポキシノボラックを挙げることができる。
【0017】
本発明の一実施形態では、エポキシ樹脂は熱硬化エポキシ樹脂である。本発明の一実施形態では、エポキシ樹脂は常温硬化エポキシ樹脂である。
【0018】
本発明の一実施形態では、繊維は、天然繊維、合成繊維およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0019】
本発明の一実施形態では、繊維は合成繊維である。本発明の一実施形態では、合成繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、ケブラーおよびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0020】
本発明の一実施形態では、繊維は天然繊維である。本明細書では、他に記載がない限り、「天然繊維」という表現は、植物源、動物源または鉱物源に由来する繊維と理解されるべきである。本発明の一実施形態では、天然繊維はセルロースを含む。本発明の一実施形態では、天然繊維は木、わら、麻、亜麻、ケナフまたはこれらの任意の組み合わせから得られる。
【0021】
本発明の一実施形態では、強化成分の繊維はマットまたはシートの形態である。繊維はマット中で配向していても、あるいは配向していなくてもよい。本発明の一実施形態では、繊維は樹脂マトリックスに混合されて等方性混合物を形成する。
【0022】
本発明の一実施形態では、樹脂マトリックスは、アミノ化リグニンで架橋された未変性リグニンをさらに含む。「未変性リグニン」という表現は、本明細書では、他に記載がない限り、アミノ化反応に供されていないリグニン、すなわち非アミノ化リグニンと理解されるべきである。未変性リグニンは、本発明の一実施形態では、前処理してもよく、たとえば本発明に使用される前に精製または精留してもよい。本発明の発明者らは、未変性リグニン、すなわちアミノ化反応に供していないリグニンは、アミノ化リグニンを硬化剤として使用すると、繊維強化複合材料に必要とされるエポキシ樹脂の一部の代わりに使用することができることを見出した。したがって、最終複合材料におけるバイオベースの材料の比率を高めることができる。
【0023】
本発明の一実施形態では、繊維強化複合材料における未変性リグニンとエポキシ樹脂との重量比は1:20〜1:1、好ましくは1:10〜2:3である。本発明の一実施形態では、繊維強化複合材料におけるアミノ化リグニンとエポキシ樹脂との重量比は1:10〜3:2、好ましくは1:6〜1:1である。
【0024】
本発明の一実施形態では、樹脂マトリックスは、エポキシ樹脂で架橋した追加の硬化剤を含む。追加の硬化剤は、従来のポリアミン硬化剤であってもよい。
【0025】
本発明はさらに、樹脂マトリックスに埋め込まれた強化成分の繊維を含む繊維強化複合材料を製造するための方法であって、
a)エポキシ樹脂と5重量%未満の炭水化物を含むアミノ化リグニンとを混合することにより樹脂マトリックスを形成し、樹脂マトリックスを繊維と混合するステップ;および
b)エポキシ樹脂およびアミノ化リグニンを架橋するために、ステップa)で形成された組成物を40〜180℃の温度で加熱するステップ
を含む方法に関する。
【0026】
本発明の一実施形態では、ステップa)を高くて60℃の温度、好ましくは高くて40℃の温度で行う。
【0027】
本発明の一実施形態では、アミノ化リグニンは、1.5重量%未満、好ましくは1重量%未満の炭水化物を含む。リグニン中に存在する炭水化物の量は、規格SCAN−CM 71に従いパルスドアンペロメトリー検出器(HPAE−PAD)を用いた高速陰イオン交換クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0028】
本発明の一実施形態では、ステップb)の加熱を80〜140℃の温度で行う。本発明の一実施形態では、ステップb)を0.5〜24時間行う。
【0029】
本発明の一実施形態では、本方法は、ステップa)の前に、粉末の形態のアミノ化リグニンを形成するステップをさらに含む。本発明の一実施形態では、樹脂マトリックスを形成するステップa)は、粉末の形態のアミノ化リグニンをエポキシ樹脂に溶解させることを含む。本発明の一実施形態では、樹脂マトリックスを形成するステップa)は、アミノ化リグニンをエポキシ樹脂に溶解させることを含む。
【0030】
本発明の一実施形態では、ステップa)においてエポキシ樹脂と混合する前にアミノ化リグニンを溶媒、追加の硬化剤、反応性希釈剤またはこれらの任意の組み合わせと混合する。反応性希釈剤の例として、単官能性または二官能性脂肪族エポキシ、たとえばオルト−クレシル(crecyl)グリシジルエーテル(CGE)、ネオ−ペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジ−グリシジルエーテル、C
12〜C
14アルキルグリシジルエーテル、およびグリセロールジ−グリシジルエーテルを挙げることができる。
【0031】
本発明の一実施形態では、本発明に使用されるアミノ化リグニンの平均分子量は、5000〜12000g/mol、好ましくは7000〜10000g/molである。
【0032】
「平均分子量」という表現は、本明細書において、他に記載がない限り、重量平均分子量と理解されるべきである。
【0033】
本発明の一実施形態では、アミノ化リグニンの置換レベルは60〜95%である。一実施形態では、本発明はさらに、リグニンの反応性末端位の置換レベルが80〜100%である硬化剤に関する。アミノ化リグニンの反応部位または置換部位は、たとえば電位差滴定または元素分析により測定することができる。
【0034】
本発明の一実施形態では、アミノ化リグニン1グラム当たりのmmol単位での結合したアミノ基の量は、電位差滴定により判定した場合3〜10(mmol/g)である。アミノ基は、リグニンに結合している。本発明の一実施形態では、アミノ化リグニンは、本質的に遊離ポリ−アミン化合物を含まない。本発明の一実施形態では、アミノ化リグニンは、元素分析により判定した場合、少なくとも5重量%の結合窒素、好ましくは5〜20重量%の結合窒素を含む。本発明の一実施形態では、アミノ化リグニンの多分散性指数(PDI)は、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SEC−HPLC)により判定した場合3〜7である。多分散性指数(PDI)は、あるポリマーサンプルの分子量分布の尺度である。PDIは、重量平均分子量を数平均分子量で割った値として計算される。PDIは、1バッチのポリマーにおける個々の分子量の分布を示す。
【0035】
本発明の一実施形態では、樹脂マトリックスを形成するためのステップa)においてアミノ化リグニンと共に追加の硬化剤を使用する。本発明の一実施形態では、追加の硬化剤はポリアミン硬化剤である。本発明の一実施形態では、ポリアミン化合物は、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、エチレンアミン、アミノエチルピペラジン(AEP)、ジシアナミド(Dicy)、ジエチルトルエンジアミン(DETDA)、ジプロペンジアミン(DPDA)、ジエチレンアミノプロピルアミン(DEAPA)、ヘキサメチレンジアミン、N−アミノエチルピペラジン(N−AEP)、メンタンジアミン(MDA)、イソホロンジアミン(IPDA)、m−キシレンジアミン(m−XDA)およびメタフェニレンジアミン(MPDA)からなる群から選択される。
【0036】
本発明の一実施形態では、ステップa)は、エポキシ樹脂、アミノ化リグニンおよび未変性リグニンを混合することを含む。
【0037】
本発明の一実施形態では、本方法に使用される未変性リグニンの乾物含量は少なくとも95%である。
【0038】
本発明の一実施形態では、未変性リグニンの灰分率は1.5重量%またはそれ未満である。灰分含量は、有機物が燃焼する前にアルカリ塩が溶融しないように、リグニンサンプルを炭化し、すぐに燃焼させ(たとえば30分間20〜200℃、その後温度を200〜600℃に1時間調整し、その後温度を1時間600〜700℃に調整する)、最後にリグニンサンプルを700℃で1時間強熱することにより測定することができる。リグニンサンプルの灰分含量とは、燃焼および強熱後に残るサンプルの質量をいい、サンプルの乾燥含量に対する比率として表される。
【0039】
本発明の一実施形態では、未変性リグニンは5重量%未満、好ましくは1.5重量%未満、一層好ましくは1重量%未満の炭水化物を含む。未変性リグニンに存在する炭水化物の量は、規格SCAN−CM 71に従いパルスドアンペロメトリー検出器(HPAE−PAD)を用いた高速陰イオン交換クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0040】
本発明の一実施形態では、ステップa)においてアミノ化リグニンとエポキシ樹脂との重量比は1:10〜3:2、好ましくは1:6〜1:1である。本発明の一実施形態では、ステップa)において未変性リグニンとエポキシ樹脂との重量比は1:20〜1:1、好ましくは1:10〜2:3である。
【0041】
繊維は、押出、成形、積層、引き抜き成形、含浸、プリプレグ法、巻きまたはこれらの任意の組み合わせを用いることにより、樹脂マトリックスと混合または化合することができる。
【0042】
本発明はさらに、本発明による方法により得られる樹脂マトリックスに埋め込まれた強化成分の繊維を含む繊維強化複合材料に関する。
【0043】
上述のように、アミノ化リグニンは、エポキシ樹脂の硬化剤として、いくつかの実施形態では、未変性リグニンの硬化剤として本発明に使用される。リグニンは、繊維強化複合材料の製造の前にアミノ化される。このため、本発明の一実施形態では、本方法は、アミノ化リグニンを形成するステップをさらに含む。本発明の一実施形態では、本方法は、粉末の形態のアミノ化リグニンを形成するステップをさらに含む。
【0044】
本明細書では、他に記載がない限り、「リグニン」という表現は、任意の好適なリグニン原料に由来するリグニンと理解されるべきである。使用されるリグニンは、本質的に純粋なリグニンであってもよい。「本質的に純粋なリグニン」という表現は、少なくとも90%純粋なリグニン、好ましくは少なくとも95%純粋なリグニンと理解されるべきである。本発明の一実施形態では、本質的に純粋なリグニンは、高くて10%、好ましくは高くて5%の他の成分を含む。こうした他の成分の例として、抽出物および炭水化物、たとえばヘミセルロースを挙げることができる。
【0045】
本発明の一実施形態では、リグニンは、クラフトリグニン、スルホン化リグニン、リグニンスルホン酸、スルホメチル化リグニン、水蒸気爆砕リグニン、バイオリファイナリーリグニン、超臨界分離リグニン、加水分解リグニン、フラッシュ沈殿リグニン、バイオマス由来リグニン、アルカリパルプ化法で得られたリグニン、ソーダ法で得られたリグニン、オルガノソルブパルプ化で得られたリグニンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される。本発明の一実施形態では、リグニンは木質系リグニンである。リグニンは、針葉樹、広葉樹、一年生植物またはこれらの組み合わせに由来し得る。
【0046】
異なるリグニン成分は、異なった特性、たとえば分子量、モル質量、多分散性、ヘミセルロースおよび抽出物の含有量ならびに組成を有することがある。
【0047】
「クラフトリグニン」は、本明細書において、他に記載がない限り、クラフト黒液に由来するリグニンと理解されるべきである。黒液は、リグニン残渣、ヘミセルロース、およびクラフトパルプ化法に使用される無機薬品のアルカリ性水溶液である。クラフトパルプ化法の黒液は、様々な比率で異なる軟材種および硬材種に由来する成分を含む。リグニンは、たとえば沈殿および濾過を含む様々な技術により黒液から分離することができる。リグニンは通常、11〜12未満のpH値で沈殿し始める。異なる特性を有するリグニン画分を沈殿させるため、様々なpH値を使用してもよい。こうしたリグニン画分は、分子量分布、たとえばMwおよびMn、多分散性、ヘミセルロースおよび抽出物の含有量が互いに異なる。より高いpH値で沈殿したリグニンのモル質量は、より低いpH値で沈殿したリグニンのモル質量より大きい。さらに、より低いpH値で沈殿したリグニン画分の分子量分布は、より高いpH値で沈殿したリグニン画分の分子量分布より広い。このためリグニンの特性は、最終用途に応じて変化させることができる。
【0048】
沈殿したリグニンは、酸性洗浄ステップを用いて無機不純物、ヘミセルロースおよび木材抽出物から精製することができる。さらに濾過により精製を達成することもできる。
【0049】
本発明の一実施形態では、リグニンはフラッシュ沈殿リグニンである。「フラッシュ沈殿リグニン」という用語は、本明細書において、黒液の流れのpHを、200〜1000kPaの過圧の影響下、二酸化炭素ベースの酸性化剤、好ましくは二酸化炭素を用いてリグニンの沈殿レベルまで低下させ、リグニンを沈殿させるため圧力を急激に解放することにより、連続的なプロセスで黒液から沈殿したリグニンと理解されるべきである。フラッシュ沈殿リグニンを製造するための方法は、フィンランド特許出願第20106073号に開示されている。上記方法の滞留時間は、300秒未満である。フラッシュ沈殿リグニンの粒子は、2μm未満の粒子直径を有し、凝集塊を形成し、凝集塊は、たとえば濾過により黒液から分離することができる。フラッシュ沈殿リグニンの利点は、通常のクラフトリグニンと比較して高いその反応性にある。フラッシュ沈殿リグニンは、その後の処理に必要な場合に精製および/または活性化してもよい。
【0050】
本発明の一実施形態では、リグニン、たとえばフラッシュ沈殿リグニンの乾物含量は、70%未満、好ましくは40〜70%、一層好ましくは50〜60%である。
【0051】
本発明の一実施形態では、リグニンを純粋なバイオマスから分離する。分離プロセスは、バイオマスを強アルカリまたは強酸で液化し、続いて中和プロセスを行うことから始めてもよい。アルカリ処理後、リグニンは、上述と同様のやり方で沈殿させることができる。本発明の一実施形態では、バイオマスからのリグニンの分離は、酵素処理ステップを含む。酵素処理は、バイオマスから抽出されるリグニンを変性させる。純粋なバイオマスから分離されたリグニンは、硫黄を含まず、したがってその後の処理に有用である。
【0052】
「スルホン化リグニン」は、本明細書において、他に記載がない限り、サルファイトパルプ化を用いた木材パルプの製造の副生成物として得られるリグニンと理解されるべきである。
【0053】
本発明の一実施形態では、リグニンは水蒸気爆砕リグニンである。水蒸気爆砕は、木材および他の繊維状有機材料に適用できるパルプ化および抽出技術である。
【0054】
「バイオリファイナリーリグニン」は、本明細書において、他に記載がない限り、バイオマスを燃料、化学物質および他の材料に変える精製施設またはプロセスから回収できるリグニンと理解されるべきである。
【0055】
「超臨界分離リグニン」は、本明細書において、他に記載がない限り、超臨界流体分離または抽出技術を用いてバイオマスから回収できるリグニンと理解されるべきである。超臨界条件は、特定の物質の臨界点を超える温度および圧力に対応する。超臨界条件では、明らかな液相および気相が存在しない。超臨界水または液体抽出は、超臨界条件下で水または液体を利用することによりバイオマスを分解し、セルロース系糖に変える方法である。水または液体は、溶媒として働き、植物物質セルロースから糖を抽出し、リグニンが固体粒子として残る。
【0056】
本発明の一実施形態では、リグニンは加水分解リグニンである。加水分解されたリグニンは、紙−パルプまたはウッドケミカルスのプロセスから回収することができる。
【0057】
本発明の一実施形態では、リグニンは、オルガノソルブ法に由来する。オルガノソルブは、リグニンおよびヘミセルロースを可溶化するため有機溶媒を使用するパルプ化技術である。
【0058】
本発明の一実施形態では、本発明に使用されるように選択されたリグニンを、アミノ化する前に精製する。本発明の一実施形態では、アミノ化リグニンを製造するための方法において、精製されたリグニンを使用する。本発明の一実施形態では、リグニンを透析、溶媒抽出、ナノ濾過または限外濾過により精製する。精製ステップでは、フェノール系化合物と塩および無機化合物の一部とが除去され、その後のプロセスステップにおいて副反応が減少する。
【0059】
本発明の一実施形態では、本発明に使用されるように選択されたリグニンを、アミノ化反応に供する前に精留する。リグニンの精留により、少ないフェノール系成分をリグニンから減少または除外することができる。本発明の一実施形態では、選択されたリグニンを精製して少なくとも70%の低分子量リグニンを除去する。「低分子量リグニン」という表現は、1000〜3000g/mol、好ましくは1500〜2500g/molの平均分子量を有するリグニンと理解されるべきである。リグニンの平均分子量は、高圧サイズ排除クロマトグラフィー(HP−SEC)を用いて測定することができる。低分子量リグニンを除去すると、望ましくない副反応を減少させることによりアミノ化反応がより効率的になる。低分子量リグニンは、高分子量リグニンより反応性が高く、したがってより副反応を起こしやすい。さらに、アミノ化プロセスは、低分子量リグニンの非存在下でより制御しやすい。原料材料がより均一であるため、アミノ化反応の制御を容易にすると考えられる。
【0060】
本発明に使用されるように選択されたリグニンは、硬化剤として使用できる特性を有するアミノ化リグニンを製造するのに好適な任意の方法により、アミノ化することができる。本発明の一実施形態では、リグニンは、
a)3000〜15000g/mol、好ましくは3500〜15000g/mol、一層好ましくは4000〜10000、なお一層好ましくは5000〜8000g/molの平均分子量を有するリグニンが溶解しているアルカリ溶液とポリアミン化合物を混合するステップ;
b)ステップa)で形成された溶液のpHを少なくとも0.5pH単位ずつ低下させ、ただしpHを少なくとも12の値に低下させ、好ましくはpHを10.5〜11.5に低下させ、溶液をカルボニル化合物と混合するステップ;および
c)アミノ化リグニンを形成するため、ステップb)で形成された溶液を加熱するステップ
を含む方法によりアミノ化される。
【0061】
本発明の一実施形態では、アルカリ溶液は、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物を含む。本発明の一実施形態では、ステップa)のアルカリ溶液のpHは、12を超え、好ましくは12.5〜14、一層好ましくは12.8〜14、なお一層好ましくは12.5〜13.5、最も好ましくは約13である。本発明の一実施形態では、ポリアミン化合物は、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、エチレンアミン、アミノエチルピペラジン(AEP)、ジシアナミド(Dicy)、ジエチルトルエンジアミン(DETDA)、ジプロペンジアミン(DPDA)、ジエチレンアミノプロピルアミン(DEAPA)、ヘキサメチレンジアミン、N−アミノエチルピペラジン(N−AEP)、メンタンジアミン(MDA)、イソホロンジアミン(IPDA)、m−キシレンジアミン(m−XDA)およびメタフェニレンジアミン(MPDA)からなる群から選択される。
【0062】
「カルボニル化合物」という表現は、本明細書において、カルボニル基を含む化合物と理解されるべきである。カルボニル基は、炭素−酸素二重結合を含む。アルデヒドおよびケトンは、カルボニル化合物である。カルボニル化合物はアルデヒドであってもよい。本発明の一実施形態では、アルデヒドは、パラホルムアルデヒド、ホルムアルデヒド、グリオキサールおよびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。溶液は、ステップc)において50〜100℃の温度、好ましくは70〜95℃の温度で1〜24時間、好ましくは2〜16時間、一層好ましくは3〜6時間加熱してもよい。本発明の一実施形態では、pHは、ステップb)において、塩酸(HCl)、硫酸(H
2SO
4)、硝酸(HNO
3)またはリン酸(H
3PO
4)などのプロトン酸を用いることにより調整する。
【0063】
上記に記載の本発明の実施形態は、互いにどのように組み合わせて使用してもよい。実施形態のいくつかは、本発明の別の実施形態を形成するため一緒に組み合わせてもよい。本発明に関係する複合材料または方法は、上記の本発明の実施形態の少なくとも1つを含めばよい。
【0064】
本発明の利点は、伝統的な複合材料と比較してバイオベースの材料の比率が高い繊維強化複合材料を製造できることである。本発明の利点は、エポキシ樹脂の従来の石油系硬化剤と同様のやり方でバイオベースの硬化剤を使用できることである。従来のポリアミン硬化剤と同様にアミノ化リグニンを硬化剤として用いて、同様の種類の複合材料特性を達成することができる。
【0065】
本発明の利点は、樹脂マトリックスの硬化剤としてアミノ化リグニンを使用することにより、必要とされるエポキシ樹脂の一部の代わりに未変性リグニンが使用できることで、得られた複合材料におけるバイオベースの材料の比率が、石油系材料から製造される繊維強化複合材料に比較してさらに一層高まることである。
【0066】
本発明の利点は、リグニンが容易に入手でき、安価な原料材料であることである。
【実施例】
【0067】
次に、その例が添付図面に図示されている本発明の実施形態について、詳細に言及する。
【0068】
以下の説明では、本発明のいくつかの実施形態が非常に詳細に開示されるので、当業者は、本開示に基づき本発明を利用することができる。実施形態のステップの多くは、本明細書に基づき当業者に明らかであるため、すべてのステップが考察されているわけではない。
【0069】
図1は、アミノ化リグニンを製造するための、本発明の一実施形態による方法を図示する。
【0070】
リグニンを含むアルカリ溶液を形成する前に、各成分の原料、特にリグニンの原料を選択する。上述のように、リグニンは、たとえばクラフトリグニン、スルホン化リグニン、水蒸気爆砕リグニン、バイオリファイナリーリグニン、超臨界分離リグニン、加水分解リグニン、フラッシュ沈殿リグニン、バイオマス由来リグニン、アルカリパルプ化法で得られたリグニン、ソーダ法で得られたリグニンおよびこれらの組み合わせから選択することができる。選択されたリグニンを最初に、たとえば透析または限外濾過により精製することで、少ないフェノール系成分と塩および無機化合物の一部とが除去され、副反応が減少する。さらにアミノ化反応に使用されている他の成分およびその量を選択する。
【0071】
様々な調製および前処理の後、
図1に示す本発明の実施形態では、ステップ1)を行う。リグニンをアルカリ溶液に溶解させる。ステップa)における溶液のpHは、たとえば12.5〜13.5であってもよい。そこにポリアミン化合物を加える。
【0072】
ステップ1)の後、ステップ2)を行う、すなわち溶液のpHを少なくとも0.5pH単位ずつだが、少なくとも12またはそれ未満のpH値に低下させ、その後その中でカルボニル化合物を混合する。ステップ3)では、リグニンが反応してアミノ化リグニンが形成できるように、形成された溶液を85〜90℃の温度で3〜6時間加熱する。
図1に示した実施形態に従い形成されたアミノ化リグニンをさらに精製し、たとえば乾燥させて粉末を形成してもよい。
【0073】
図2は、本発明による繊維強化複合材料を製造するための本発明の一実施形態を図示する。
【0074】
ステップa)では、
図1に示した実施形態に従い形成されたアミノ化リグニンをエポキシ樹脂中で分散または混合する。この反応混合物に木質系繊維などの繊維を加え、その後エポキシ樹脂がアミノ化リグニンで架橋を形成できるように、反応混合物を40〜180℃の温度で加熱する。
【0075】
実施例1 アミノ化リグニンの調製
本例では、
図1に示す本発明の実施形態によりリグニンをアミノ化した。
【0076】
アミノ化反応を行う前に、以下の手順に従い、本例に使用したリグニン、標準クラフトリグニン(SKL:Standard Kraft Lignin)を精製した:5gのSKLを50mlの0.1M NaOH溶液に溶解させ、1.5lの水中で透析(透析管:分画分子量(NMWL:nominal molecular weight limit)3500)により精製し、水は24時間8時間毎に3回交換した。その後、SKLを凍結乾燥させて、精製されたSKLの綿状の褐色粉末(pSKL)を得た(収量:4.1g、82%)。
【0077】
次いで精製されたリグニンを以下のやり方で処理した:ジムロート冷却器および滴下漏斗を備えた250mlの三口フラスコ中で、1.6gの精製されたSKLを100mlの0.5M NaOH溶液に溶解させた(pH=13.3、適応温度(aT)=22.9℃)。次いで3.3ml(3.17g、30.7mmol)のジエチレントリアミン(DETA)を滴下して加えた(pH=13.3)。一定に撹拌しながら、濃縮HCl溶液を加えることによりpH値をpH=11〜11.2に低下させた(aT=29.1℃)。撹拌の5分後、0.8ml(3.46g、29.2mmol)のCH
2O溶液(37%水)を15分の期間にわたり滴下して加え、次いでこの溶液を90℃に加熱し、一定温度下で16時間撹拌してアミノ化リグニンを調製した。
【0078】
室温まで冷却後、100mlの溶液を1.5lの水中で透析(透析管:NMWL3500)し、水は24時間8時間毎に3回交換し、凍結乾燥して強吸湿性の綿状の淡褐色粉末を得た(収量:1.90g)。
【0079】
実施例1に沿って製造されたアミノ化リグニンの分子量を、高速サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて判定した。リグニンの検出は、UV−検出器PDA−100を用いて280nmの波長で行った。このUV−検出器は、リグニン系芳香族材料に由来する成分に対する感度が高い。
【0080】
固体リグニンサンプルをオーブンで105℃の温度にて一晩乾燥させた。10gの乾燥させたリグニンを秤量し、10mlのメスフラスコに移した。このリグニンサンプルを0.1M(1mg/ml)の水酸化ナトリウム(NaOH)に十分に溶解させた。クロマトグラフィーを行う前に、リグニン溶液を0.45μMのフィルターで濾過した。
【0081】
アミノ化リグニンの分子量は、以下の通り高速サイズ排除クロマトグラフィーを用いて判定した。
【0082】
2回の並行測定を行った。0.1M NaOHを溶離液として使用した。較正は、1100〜73900g/molの分子量を有する標準物質Na−ポリスチレンスルホン酸を用いて行った。品質管理のため、標準品質クラフトリグニンおよびPSS分子量標準物質を使用した。使用したカラムは、スルホン化スチレン−ジビニルベンゼンコポリマーマトリックスを詰めたPSS MCXプレカラム、1000Åおよび100000Å分離カラムであった。アイソクラティック分析プログラムを使用した。分析時間は45分であった。注入量は50μlであった。流量は0.5ml/分であった。温度は25℃であった。クロマトグラフィーの結果、数平均分子量Mn、重量平均分子量M
w、ピーク分子量M
pおよび多分散性指数PDIの各値を報告することができる。本解析から、実施例1に沿って製造されたアミノ化リグニンの平均分子量は約9000g/molであることが示された。
【0083】
実施例2 麻繊維強化複合材料の調製
本例では繊維強化複合材料を製造した。以下の成分およびその量を使用した:
アミノ化リグニン 15g
Epilox(登録商標)L285 17g
麻繊維 10g
【0084】
実施例1に従いアミノ化リグニンを製造した。実施例1に沿って製造したアミノ化リグニンは、5重量%未満の炭水化物を含み、約9000g/molの平均分子量を有した。製造したアミノ化リグニンの特性により、アミノ化リグニンは、本例の硬化剤として使用できるようになった。
【0085】
実施例1で得られた15gのアミノ化リグニンを、ガラス中で17gのEpilox(登録商標)L285エポキシ樹脂(Epilox(登録商標)A19−00+Epilox(登録商標)P13−20)に分散させた。温度を40℃未満に維持した。この反応混合物に麻繊維を混合して、その中に前記繊維を埋め込んだ。次いで反応混合物を125℃の温度で24時間加熱し、この間にエポキシ樹脂とアミノ化リグニンとの間で架橋が形成された。
【0086】
形成された麻繊維強化エポキシ樹脂複合材料のサンプルを異なる期間THF溶媒に浸漬することにより、架橋の形成を判定した。10.4gのサンプルを200mlの溶媒(THF)に室温で2時間、6時間および24時間浸漬した。前記期間後、固体残渣を抽出し、秤量した。結果を表1に示す。これらの結果によれば、形成された材料は、THFに不溶であり、溶液中で膨潤しなかった。
【0087】
試験結果から、アミノ化リグニンを使用するとエポキシ樹脂との架橋が形成される、すなわちアミノ化リグニンが、エポキシ樹脂を硬化する硬化剤として働くことができ、その結果繊維強化樹脂複合材料が形成されることが示された。
【0088】
【表1】
【0089】
実施例3 ガラス繊維強化複合材料の調製
本例では繊維強化複合材料を製造した。以下の成分およびその量を使用した:
アミノ化リグニン 60g
エポキシ樹脂 120g
未変性リグニン 80g
トリエチレンテトラアミン(TETA) 15g
反応性希釈剤(Epilox(登録商標)P13−20) 20g
ガラス繊維 100g
【0090】
実施例1に従いアミノ化リグニンを製造した。実施例1に沿って製造したアミノ化リグニンは、5重量%未満の炭水化物を含み、約9000g/molの平均分子量を有した。製造したアミノ化リグニンの特性により、アミノ化リグニンは、本例の硬化剤として使用できるようになった。
【0091】
実施例1で得られた60gのアミノ化リグニンを15gのTETAと混合した。120gのEpilox(登録商標)エポキシ樹脂(Epilox(登録商標)A18−00)と20gのEpilox(登録商標)P13−20と80gの未変性リグニンをミキサーで十分に混合した。次いでアミノ化リグニンを含む混合物を、エポキシ樹脂を含む混合物に加え、十分に混合して均一な混合物を形成した。温度を50℃未満に維持した。次いでこの混合物にガラス繊維を混合して、その中に前記繊維を埋め込んだ。形成された混合物を金型内で115℃の温度で加熱し、その過程でエポキシ樹脂とアミノ化リグニンとの間、および未変性リグニンとアミノ化リグニンとの間に架橋が形成された。
【0092】
上記の実施例2に記載したのと同様のやり方で、形成されたガラス繊維強化エポキシ樹脂複合材料のサンプルをTHFで抽出試験に供した。試験結果(表2を参照)から、アミノ化リグニンが、エポキシ樹脂を効率的に硬化し、さらに未変性リグニンの架橋を形成することが示された。試験結果からは、TETA、すなわち伝統的な硬化剤の量が、硬化特性に影響を与えることなく、アミノ化リグニンで代用できることも示された。アミノ化リグニンを使用すると、最終複合材料の特性に影響を与えることなく、通常使用される量のエポキシ樹脂の最大40%をバイオベースの材料、すなわち未変性リグニンで代用できることも示された。
【0093】
【表2】
【0094】
実施例4 予め含浸されたガラス繊維織物を用いたラミネートの調製
ジシアノジアミド(DICY) 2g
アミノ化リグニン 15g
DGEBA系エポキシプレポリマー 100g
イミダゾール(促進剤) 0.1g
アセトンまたはプロピルアルコール 40g
ガラス繊維マット 5層
【0095】
実施例1に従いアミノ化リグニンを製造した。実施例1に沿って製造したアミノ化リグニンは、5重量%未満の炭水化物を含み、約9000g/molの平均分子量を有した。製造されたアミノ化リグニンの特性により、アミノ化リグニンは、本例の硬化剤として使用できるようになった。
【0096】
15gのアミノ化リグニン、2gのDICY、100gのエポキシ樹脂、0.1gのイミダゾールおよび40gのアセトンまたはプロピルアルコールを十分に混合した。形成された樹脂マトリックスを使用してガラス繊維布に含浸させて、積層に好適な特性を有するプリプレグを得た。エポキシ樹脂、アミノ化リグニンおよびDICYは、形成されたプリプレグの約45重量%を構成し、層状に構成されたガラス繊維(55重量%)は、強化材として機能した。
【0097】
5層のプリプレグを用いてラミネートを製造した。この構築物を12バールの圧力、175℃の温度で70分間プレスし、その間にエポキシ樹脂とアミノ化リグニンとの間に架橋が形成された。
【0098】
試験結果から、アミノ化リグニンが効率的にエポキシ樹脂を硬化することが示された。試験結果からは、アミノ化リグニンを使用すると、最終複合材料の特性に影響を与えることなく、従来の石油系硬化剤、たとえばDICYの代用が可能になることも示された。
【0099】
表3では、異なるガラス繊維複合材料の特性を比較しており、特に従来の硬化剤を用いて製造されたガラス繊維複合材料の特性を、アミノ化リグニンを用いることにより製造されたガラス繊維複合材料の特性と比較する。
【0100】
【表3】
【0101】
科学技術の進歩に伴い、本発明の基本的な考え方を様々なやり方で実施できることは、当業者に明らかである。したがって本発明およびその実施形態は、上述の例に限定されるものではなく、むしろ特許請求の範囲の範囲内で変化してもよい。