【実施例】
【0049】
以下、本発明を、具体的実施例に基づき更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例の態様に限定されるものではない。
(試験例1 金属化合物中の透明酸化物半導体物質と金属との比率の検討)
本試験例では、ガラス基板からなる透明の基板10上に、酸化亜鉛(ZnO)と銅(Cu)からなる金属化合物層30aと、Cuからなる金属層20を、金属化合物層30a中のZnOとCuの比率を、8:2、7:3、6:4、5:5の4段階に変化させて成膜した実施例1〜4の積層体1について、光学特性の検討を行った。
【0050】
まず、透明なガラス基板からなる透明基板10の上に、ZnOを主成分とする市販の透明酸化物半導体物質ZnOをボンディングしたターゲットと、酸化物生成自由エネルギーが高い金属であるCuをボンディングしたターゲットをスパッタリング装置にセットし、ZnO:Cu(体積比)が8:2(実施例1)、7:3(実施例2)、6:4(実施例3)、5:5(実施例4)になるように、投入電力を変えて二源成膜し、実施例1〜4の金属化合物層30aを作製した。
スパッタ条件は、無加熱、到達圧力5.00E−4Pa、スパッタ圧力4.40E−1Pa、アルゴンガス雰囲気中で、DC投入電力はZnOターゲットが1.66〜0.75kw、Cuターゲットが0.11〜0.2kwで、膜厚40nmを狙って金属化合物層30aを成膜した。
【0051】
成膜された金属化合物層30aの膜厚は37.2〜44.7nmであった。
膜厚、面抵抗値の測定値から、比抵抗を算出し、また、膜厚、透過率、反射率と基板の屈折率の測定値から、金属化合物層の屈折率(n)及び消衰係数(k)を算出した。
屈折率の測定値及び消衰係数の計算値を、
図2、3に示す。
図2、
図3より、比抵抗は7.32E−2〜4.58E+0Ω・cmであり、屈折率は、可視域(400nm〜700nm)で2.17〜2.7であり、消衰係数は0.475〜1.53であった。
【0052】
次に、実施例1〜4のそれぞれの金属化合物層30aの薄膜上に、CuをDCスパッタリング法により120nm成膜して、裏面側(ガラス面側)からの反射率を測定して可視域(400nm〜700nm)での平均反射率、最大反射率と最小反射率の差を計算した。なお、平均反射率及び最大反射率と最小反射率の差の算出に当たり、反射率の値は、光入射面であるガラス面の反射率をキャンセルした。
【0053】
結果を、
図4、
図5に示す。
図5に示すように、実施例2〜4では、平均反射率10%以下、最大反射率と最小反射率の差が5.72%以下の低反射率で暗黒色の反射が得られたが、実施例1においては、最大反射率と最小反射率との差が24.69%と大きく、赤味がかった反射が得られた。
【0054】
実施例1において、700nmでの反射率が高いのは、金属化合物層の膜厚が薄く、他の実施例2〜4と比較して屈折率が低く消衰係数が小さいためである。
尚、実施例1では、算出した屈折率と消衰係数から計算することにより、膜厚を50nmにシフトさせることで、最大反射率8.33%、平均反射率4.08%、最大と最少の反射率差が6.57%になることが確認できた。
【0055】
光学定数については、金属化合物層30a中のCuの比率が、20%から50%まで多くなるほど屈折率は高くなり、消衰係数も高くなる傾向を示すことがわかった。
また、測定波長が400nmから700nmまで、長波長になるほど、屈折率及び消衰係数の値が高くなることがわかった。これは、Cuの光学定数(特に、消衰係数k)によるものであり、Cuの反射率が、550nm付近を境にして長波長域において反射率が高く、短波長域において反射率が低いことによるものと考えられる。
【0056】
実施例1では、最大反射率と最小反射率との差が24.69%と大きく、赤味がかった反射が得られて、また、実施例4では、膜中のCuの比率が高くなっているため、500nm〜700nmの屈折率が高く消衰係数も高くなっている。これにより、長波長域での反射率が高く、短波長域での反射率は低い。ZnOとCuの比率は、実施例2の7:3と実施例3の6:4が良好な結果を示しており、屈折率は、略2.17〜2.54の範囲で、消衰係数は0.66〜1.20であることがわかった。
【0057】
(試験例2 窒素ガス依存性の検討)
本例では、透明酸化物半導体物質として、ZnOを用いてスパッタリングにより金属化合物
層30aを成膜する場合において、窒素ガス導入量が光学特性に与える影響について検討した。
試験例1の実施例4と同様の手順で、透明酸化物半導体物質ZnOと酸化物生成自由エネルギーが高い金属であるCuを、体積比5:5で混合したターゲットを作製した。
このターゲットを用い、無加熱、到達圧力8.00E−4Pa、スパッタ圧力1.60E−1Pa、投入電力DC0.3kwで、窒素ガスを、それぞれ、流量0sccm(実施例5)、10sccm(実施例6)、20sccm(実施例7)、30sccm(実施例8)、40sccm(実施例9)、50sccm(実施例10)、60sccm(実施例11)、100sccm(実施例12)として、膜厚40nmを目安に、金属化合物層30aを成膜した。
また、窒素ガスの代わりに、酸素ガスを流量5sccm(実施例13)、10sccm(実施例14)導入して、同様に成膜した。
【0058】
実施例5〜14の金属化合物層30aについて、膜厚、透過率、反射率、基板の屈折率から、金属化合物層30aの屈折率(n)と消衰係数(k)を、試験例1と同様に算出した。
結果を、
図6、
図7に示す。
図6、
図7に示すように、実施例5〜14の金属化合物層30aでは、屈折率は、可視域(400nm〜700nm)で1.95〜2.71の範囲であり、消衰係数は0.90〜1.57の範囲であった。
次に、実施例5〜14の金属化合物層30a上に、CuをDCスパッタリング法により120nmの金属層20として成膜して、実施例5〜14の積層体1を作製した。裏面側(ガラス面側)から、実施例5〜14の積層体1の反射率を測定し、可視域(400nm〜700nm)での平均反射率、最大反射率と最小反射率の差を計算した。
【0059】
実施例5〜12の積層体1の反射率の測定結果を、
図8に、実施例5〜14の積層体1の平均反射率及び最大反射率と最小反射率の差を、
図9に示す。
図9に示すように、平均反射率15%以下、最大反射率と最小反射率の差が10%以下となったのは、実施例6〜12の窒素流量10sccm〜100sccmの範囲であり、平均反射率10%以下、最大反射率と最小反射率の差が5%以下となるのは、実施例7〜12の窒素流量20sccm〜100sccmの範囲と実施例14の酸素流量10sccmのときであった。
【0060】
さらに、平均反射率10%以下、最大反射率と最小反射率の差が2.5%以下という更に良好な反射率を示すのは、実施例8〜11の窒素流量30sccm〜60sccmの範囲であった。良好な反射率の基準として、平均反射率10%以下、最大反射率と最小反射率の差が2.5%以下の値を用いているのは、平均反射率10%以下において、反射が充分に抑えられ、最大反射率と最小反射率の差が2.5%以下において、赤味、黄味、青味などのない暗黒色が得られるためである。
同様に、屈折率と消衰係数について見てみると、実施例7〜12、14では、屈折率が2.17〜2.71の範囲で消衰係数が0.9〜1.57の範囲であるが、より低反射で暗黒色を呈する実施例8〜11では、屈折率が2.25〜2.66、消衰係数が1.20〜1.57の範囲であることがわかった。
【0061】
また、スパッタ時に酸素ガスを導入した場合であっても、実施例13の酸素流量5sccmに対比して、実施例14の酸素流量10sccmでは、平均反射率が10%台から4%程度まで低減し、最大反射率と最小反射率の差も、5%程度から3%程度まで低減していることから、最適な導入ガス量を選定することにより、屈折率と消衰係数を制御でき、低反射で暗黒色を呈する積層体1が作製できることがわかった。
【0062】
(試験例3 金属化合物の他の構成物質の例)
本例では、金属化合物層30aを構成する透明酸化物半導体物質として、試験例1、2のZnOの代わりに酸化インジウム(In
2O
3)を用い、酸化物生成自由エネルギーが高い金属として、Cuの代わりにMoを用いて、検討を行った。
In
2O
3を主成分とする透明酸化物半導体物質をボンディングしたターゲットと、Moをボンディングしたターゲットをスパッタリング装置にそれぞれセットし、透明酸化物半導体物質:Moの2つの体積比が10:1(実施例15)、10:2(実施例16)、10:3(実施例17)、10:4(実施例18)、10:5(実施例19)、10:10(実施例20)となるように、投入電力を変えて二源成膜し、実施例15〜19の金属化合物層30aを作製した。
スパッタ条件は、無加熱、到達圧力8.00E−4Pa、スパッタ圧力1.60E−1Pa、Ar雰囲気中で、透明酸化物半導体物質のDC投入電力を0.18kw〜0.46kwの範囲、MoのDC投入電力を0.1kw〜0.45kwの範囲で、膜厚40nmを目安に二源スパッタで金属化合物層30aを成膜した。
【0063】
その後、実施例15〜19の金属化合物層30aの薄膜上に、それぞれ、CuをDCスパッタリング法により120nm成膜して、裏面側(ガラス面側)からの反射率を測定して可視域(400nm〜700nm)での平均反射率、最大反射率と最少反射率の差を計算した。
反射率の測定値を
図10に、平均反射率、最大反射率と最少反射率の差を、
図11に示す。
平均反射率15%以下、最大反射率と最少反射率との差10%以下となったのは、透明酸化物半導体物質とMoのDC投入電力比率が10:3、10:4の実施例17、18であった。実施例17では、平均反射率が11.56%、最大反射率と最少反射率との差が3.40%であり、実施例18では、平均反射率が14.02%で、最大反射率と最少反射率との差が3.13%であった。
10:2、5の実施例16、19については、平均反射率が17%弱と高いが、最大反射率と最少反射率との差は、3.71%と4.16%であり、見た目には暗黒色を呈していた。
【0064】
(試験例4 金属化合物層の構成物質の検討)
本例では、ZnO、Cu、In
2O
3の合金からなる金属化合物層30aを、ZnO及びCuとIn
2O
3との比率を変化させて成膜し、好適な比率について検討した。
透明酸化物半導体物質であるZnOと酸化物生成自由エネルギーが高い金属であるCuの比率が体積比5:5のターゲットと、In
2O
3のターゲットをスパッタリング装置内にセットし、ZnO・Cu混合物とIn
2O
3との体積比が、10:1(実施例21)、10:2(実施例22)、10:3(実施例23)、10:4(実施例24)、10:5(実施例25)となるように投入電力の比率を変えて二源成膜し、実施例21〜25の金属化合物層30aを作製した。
スパッタ条件は、無加熱、到達圧力8.00E−4Pa、スパッタ圧力1.60E−1Pa、アルゴン(Ar)雰囲気中で、ZnO・Cu混合物ターゲットのDC投入電力を0.14kw〜0.72kwの範囲、In
2O
3ターゲットのDC投入電力を0.1kwで、膜厚40nmを目安に二源スパッタで金属化合物層30aを成膜した。
【0065】
その後、実施例21〜25の金属化合物
層30aの薄膜上に、それぞれ、CuをDCスパッタリング法により120nm成膜して、裏面側(ガラス面側)からの反射率を測定して可視域(400nm〜700nm)での平均反射率、最大反射率と最少反射率の差を計算した。
反射率の測定値を
図12に、最大反射率と最小反射率の差を、
図13に示す。
平均反射率15%以下、最大反射率と最少反射率との差10%以下となったのは、ZnO・Cu混合ターゲットとIn
2O
3ターゲットのDC投入電力比率が10:3〜5の実施例23〜25であった。実施例23では、平均反射率が12.92%、最大反射率と最少反射率との差が6.17%、実施例24では、平均反射率が11.79%、最大反射率と最少反射率との差が5.80%、実施例25では、平均反射率が9.38%、最大反射率と最少反射率との差は、4.64%であった。
本試験例の範囲では、In
2O
3の比率増加に従い、平均反射率と最大反射率と最少反射率との差が小さくなり、より本発明の目的に合致した良好な光学特性を有する積層体1が得られていた。
【0066】
(試験例5 金属化合物層の構成物質の検討)
本例では、試験例4のIn
2O
3の代わりにSnO
2を用い、ZnO、Cu、SnO
2の合金からなる金属化合物層30aを、ZnO及びCuとSnO
2との比率を変化させて成膜し、好適な比率について検討した。
試験例4のIn
2O
3ターゲットの代わりにSnO
2ターゲットをスパッタリング装置内にセットし、ZnO・Cu混合物とSnO
2との体積比が、10:1(実施例26)、10:2(実施例27)、10:3(実施例28)、10:4(実施例29)、10:5(実施例30)となるように投入電力の比率を変えて二源成膜し、実施例26〜30の金属化合物層30aを作製した。
スパッタ条件は、ZnO・Cu混合物ターゲットのDC投入電力を0.15kw〜0.75kwの範囲、SnO
2ターゲットのDC投入電力を0.1kwで、膜厚40nmを目安に二源スパッタで金属化合物層を成膜した。
【0067】
その後、実施例21〜25の金属化合物層30aの薄膜上に、それぞれ、CuをDCスパッタリング法により120nm成膜して、裏面側(ガラス面側)からの反射率を測定して可視域(400nm〜700nm)での平均反射率、最大反射率と最少反射率の差を計算した。
反射率の測定値を
図14に、最大反射率と最小反射率の差を、
図15に示す。
平均反射率15%以下、最大反射率と最少反射率との差10%以下となったのは、ZnO・Cu混合物ターゲットとSnO
2ターゲットのDC投入電力比率が10:3〜5の実施例28〜30であった。
【0068】
実施例28では、平均反射率が13.12%、最大反射率と最少反射率との差が6.17%であり、実施例29では、平均反射率が9.94%、最大反射率と最少反射率との差が5.44%で、実施例30では、平均反射率が8.69%、最大反射率と最少反射率との差は、6.99%であった。
試験例4のIn
2O
3のターゲットを用いた場合と同様に、SnO
2の比率増加に従い平均反射率が低下するが、実施例29の比率10:4でボトムが生じることから、ZnO・Cu混合物とSnO
2との比率は、10:4が適正であることが分かった。
【0069】
(試験例6 2種類の透明酸化物半導体物質を用いた場合の窒素ガス依存性検討)
本例では、透明酸化物半導体物質として、ZnOとSnO
2の2種類を用いてスパッタリングにより金属化合物
層30aを成膜する場合において、窒素ガス導入量が光学特性に与える影響について検討した。
透明酸化物半導体物質であるZnOと、酸化物生成自由エネルギーが高い金属であるCuと、SnO
2とを、体積比2:3:1となるように混合したターゲットを作製し、スパッタリング装置内にセットした。
スパッタ条件を、無加熱、到達圧力8.00E−4Pa、スパッタ圧力1.60E−1Pa、DC投入電力0.3kwで、Arガス120sccmに、窒素ガスを、それぞれ、0sccm(実施例31)、20sccm(実施例32)、40sccm(実施例33)、60sccm(実施例34)、80sccm(実施例35)、100sccm(実施例36)導入して、それぞれ膜厚40nmを目安に成膜した。
その後、実施例31〜36の金属化合物層30a上に、CuをDCスパッタリング法により120nmの金属層20として成膜して、実施例31〜36の積層体1を作製した。裏面側(ガラス面側)から、実施例31〜36の積層体1の反射率を測定し、可視域(400nm〜700nm)での平均反射率、最大反射率と最少反射率の差を計算した。
実施例31〜36の積層体1の反射率の測定結果を、
図16に、平均反射率及び最大反射率と最小反射率の差を、
図17に示す。
【0070】
図16に示すように、平均反射率15%以下、最大反射率と最少反射率との差が10%以下となったのは、実施例32〜36の窒素流量20sccm〜100sccmの場合であった。実施例32(窒素20sccm)では、平均反射率が13.17%、最大反射率と最少反射率との差が2.78%であり、実施例36(窒素100sccm)では、平均反射率が2.54%、最大反射率と最少反射率との差が6.76%であった。窒素流量の増加に従って徐々に平均反射率が低くなり、逆に最大反射率と最少反射率の差が大きくなっていた。
また、実施例31(窒素0sccm)では、波長550nm以上の反射率が23%以上と高くなっていた。これはCuの反射率の特性が大きく影響しているためである。
また、窒素の導入量が増えるに従って反射率が低下していたことから、窒素導入によって、金属化合物が形成する際に、Cuが窒化していることが分かった。
【0071】
(試験例7 金属層をMoNb膜とAlNd膜の2層構成とした場合の金属化合物層への窒素導入量の検討)
図1の金属層20を、MoNb薄膜とAlNd薄膜の2層構成にした場合について、金属化合物層30a成膜時の窒素流量が、積層体1の反射率の特性に与える影響を検討した。
透明酸化物半導体物質であるZnOと酸化物生成自由エネルギーが高い金属であるCuの比率が体積比5:5のターゲットを作製し、スパッタリング装置内にセットした。
スパッタ条件を、無加熱、到達圧力8.00E−4Pa、スパッタ圧力1.60E−1Pa、DC投入電力0.3kwとし、Arガス120sccmに、窒素ガスを、それぞれ、20sccm(実施例37)、40sccm(実施例38)、60sccm(実施例39)、80sccm(実施例40)、100sccm(実施例41)導入して、それぞれ膜厚40nmを目安に成膜した。
その後、実施例37〜41の金属化合物層30a上に、金属層20として、モリブデン合金(MoNb)25nmを成膜後、引き続きアルミ合金(AlNd)を100nm成膜して、MoNb膜とAlNd膜の2層構成からなる金属層20を成膜した。裏面側(ガラス面側)から、実施例37〜41の積層体1の反射率を測定し、可視域(400nm〜700nm)での平均反射率、最大反射率と最少反射率の差を計算した。
実施例37〜41の積層体1の反射率の測定結果を、
図18に、平均反射率及び最大反射率と最小反射率の差を、
図19に示す。
【0072】
図19に示すように、平均反射率15%以下、最大反射率と最少反射率との差10%以下となったのは、実施例39〜41の窒素流量60sccm〜100sccmの場合であり、実施例39(窒素流量60sccm)では、平均反射率が13.71%、最大反射率と最少反射率との差5.71%であった。また、実施例41(窒素流量100sccm)では、平均反射率が7.46%、最大反射率と最少反射率との差が2.61%であった。
本例では、試験例5の結果とは異なり、金属化合物層30a形成時における窒素流量が20sccm〜100sccmまで増加するにつれ、平均反射率、最大反射率、最少反射率、最大反射率と最少反射率との差の値すべてが、低くなっており、より良好な光学特性を示していた。この結果より、スパッタリング時における窒素導入により、ターゲットから飛散したCuが窒化していることが分かった。
また、流量20sccm〜100sccmの範囲では、窒素流量の増加と共に反射率が低下し続けており、本例の最大流量である窒素流量100sccmにおいても、平均反射率、最大反射率、最少反射率、最大反射率と最少反射率との差の値のいずれも、ボトムに至っていないので、さらに窒素導入量を100sccm以上に増やすことで、より良好な低反射率の積層膜が得られることが分かった。
【0073】
(試験例8 金属層をAlNd膜又はAPC膜とした場合の金属化合物膜厚の検討)
図1の金属層20を、Al合金(AlNd)膜又はAg合金(APC:Ag−Pd−Cu合金)膜とした場合について、金属化合物層30aの膜厚が積層体1の反射率の特性に与える影響を検討した。
透明酸化物半導体物質であるZnOと酸化物生成自由エネルギーが高い金属であるCuの比率が体積比5:5のターゲットを作製し、スパッタリング装置内にセットした。
スパッタ条件を、無加熱、到達圧力8.00E−4Pa、スパッタ圧力1.60E−1Pa、DC投入電力0.3kwとし、Arガス120sccmに窒素ガス60sccmを導入した雰囲気中で、金属化合物であるZnO−Cu膜を膜厚が40nm、50nm、60nmになるように成膜し、金属化合物層30aを得た。
【0074】
その後、膜厚が40nm、50nm、60nmの金属化合物層30a上に、金属層20として、それぞれ、アルミ合金(AlNd)100nm又は、Ag合金(APC)100nmを成膜して、金属層20を成膜した。
金属化合物層30aの膜厚が40nm、50nm、60nmで、金属層20がAlNdである場合を、それぞれ、実施例42〜44とし、金属化合物層30aの膜厚が40nm、50nm、60nmで、金属層20がAPCである場合を、それぞれ、実施例45〜47とした。
裏面側(ガラス面側)から、実施例42〜47の積層体1の反射率を測定し、可視域(400nm〜700nm)での平均反射率、最大反射率と最少反射率の差を計算した。
実施例42〜47の積層体1の反射率の測定結果を、
図20に、平均反射率及び最大反射率と最小反射率の差を、
図21に示す。
【0075】
膜厚40nmの金属化合物層30a上にAlNdを成膜した実施例42では、最大反射率と最少反射率との差が10.68%であったが、実施例43〜47では、平均反射率6.22%〜11.0%、最大反射率と最少反射率との差が4.36%〜6.71%の範囲内にあり、目視的にも暗い色彩で、好適な反射率特性の積層体1を得ることができた。
【0076】
(試験例9 エッチング性評価)
本例では、試験例2の実施例6(窒素流量10sccm)、実施例11(窒素流量60sccm)及び実施例12(窒素流量100sccm)の条件で作製した積層体1のエッチング性の評価を行った。
試験例2の実施例11、12と同様の条件により、硝子基板からなる基板10上に、窒素流量60sccm、100sccmにて、ZnOとCuを体積比5:5で混合したターゲットよりスパッタリングを行って膜厚40nmの金属化合物層30aを形成し、金属化合物層30a上に、スパッタリングにより膜厚120nmのCuからなる金属層20を形成して、それぞれ、実施例48、49の積層体1を得た。
【0077】
また、試験例2の実施例6と同様の条件により、硝子基板からなる基板10上に、窒素流量10sccmにて、ZnOとCuを体積比5:5で混合したターゲットよりスパッタリングを行って膜厚40nmの金属化合物層30aを形成し、金属化合物層30a上に、スパッタリングにより膜厚120nmのCuからなる金属層20を形成して、実施例50の積層体1を得た。
試験例2の実施例11と同様の条件により、PETフィルムからなる基板10上に、窒素流量60sccmにて、ZnOとCuを体積比5:5で混合したターゲットよりスパッタリングを行って膜厚40nmの金属化合物層30aを形成し、金属化合物層30a上に、スパッタリングにより膜厚120nmのCuからなる金属層20を形成して、実施例51の積層体1を得た。
【0078】
試験例2の実施例6と同様の条件により、PETフィルムからなる基板10上に、窒素流量60sccmにて、ZnOとCuを体積比5:5で混合したターゲットを用いてスパッタリングを行って膜厚40nmの金属化合物層30aを形成し、金属化合物層30a上に、スパッタリングにより膜厚120nmのCuからなる金属層20を形成し、更に、窒素流量60sccmにて、ZnOとCuを体積比5:5で混合したターゲットを用いてスパッタリングを行って膜厚40nmの金属化合物層30bを形成して、実施例52の積層体1を得た。
【0079】
実施例48〜52の積層体について、硝酸・過酸化水素系(Ech−1、ジオマテック(株)製)とリン酸・硝酸・酢酸系(Ech−2、ジオマテック(株)製)の2種類のエッチャントを用いて、エッチングを行った。
エッチング手順では、実施例48〜52の積層体1を、それぞれ50ミリ×50ミリに切断し、各エッチャントに浸漬し、液温が一定になるように制御して、エッチング終了時間(終点)を確認した。
【0080】
硝子基板を用いた実施例48〜50のエッチング終点は、硝酸・過酸化水素系(Ech−1)のエッチャントで、いずれも20秒と、同じ時間であり、リン酸・硝酸・酢酸系(Ech−2)のエッチャントで、45〜50秒であり、Ech−1の2倍以上の時間を要した。
フィルム基板を用いた実施例51、52のエッチング終点は、硝酸・過酸化水素系(Ech−1)のエッチャントで17〜18秒であり、リン酸・硝酸・酢酸系(Ech−2)のエッチャントで38〜44秒と、硝子基板を用いた実施例48〜50よりも、10%程度であるがやや早い結果であった。
【0081】
(試験例10 テストパターンのエッチング評価)
試験例9と同様に作製した実施例48〜52の積層体1を用い、20μm、10μm、4μmのテストパターンを版に使用して、硝酸・過酸化水素系(Ech−1)のエッチャント及びリン酸・硝酸・酢酸系(Ech−2)により、湿式エッチングを実施して各サンプルのパターン寸法を確認した。
結果を、表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
表1において、パターン幅は、エッチング後に得られたパターン幅の測定値、後退幅は、各レジスト幅におけるレジスト幅とパターン幅の測定値との差の平均値を2で割ることにより、レジストパターンに対する後退の片側寸法の平均値を算出した値である。
表1に示すように、硝酸・過酸化水素系(Ech−1)のエッチャントにおいて、レジストパターンに対して片側寸法が平均で0.5〜0.6μm程度の後退(オーバーエッチ)が発生しているが、20μm、10μm、4μmを基本とするパターンが形成できた。表裏どちらの面から観察しても良好なパターンであった。
リン酸・硝酸・酢酸系(Ech−2)のエッチャントでは、20μmパターンが確認できたものの、10μm、4μmパターンの確認はできず、また、金属層20のパターンがオーバーハング状となるなどして十分な結果は得られなかった。
しかし、エッチャントの濃度や配合比を調整することでより、いずれのエッチャントにおいても確実なパターン形成が可能であることが分かった。
【0084】
(試験例11 テストパターンのエッチング評価)
本例では、試験例5の実施例30(ZnO・Cu混合物とSnO
2との体積比が10:5)の条件で作製した積層体1のエッチング性の評価を行った。
試験例5の実施例30と同様の条件により、硝子基板からなる基板10上に、ZnO・Cu混合物とSnO
2との体積比が10:5となるようにスパッタリングを行って膜厚40nmの金属化合物層30aを形成し、金属化合物層30a上に、スパッタリングにより膜厚120nmのCuからなる金属層20を形成し、更に、ZnO・Cu混合物とSnO
2との体積比が10:5となるようにスパッタリングを行って膜厚40nmの金属化合物層30bを形成して、実施例53の積層体1を得た。
【0085】
実施例53の積層体1を用い、硝酸・過酸化水素系(Ech−1)のエッチャントと塩化鉄のエッチャント(Ech−3、ジオマテック(株)製)で、20μm、10μm、4μmのテストパターンの版を使用してエッチングを実施してサンプルのパターン寸法を確認した。
結果を、表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
表2の結果より、硝酸・過酸化水素系(Ech−1)のエッチャントで、レジストパターンに対して片側寸法が平均で0.2μm程度の後退(オーバーエッチ)であり、塩化鉄のエッチャント(Ech−3)で0.5μm程度の後退(オーバーエッチ)であり、20μm、10μm、4μmを基本とするパターンが形成できた。但し、塩化鉄のエッチャント(Ech−3)では、金属化合物層30a、30bのエッチングレートが早いため、表裏いずれの面からみた場合でもパターンエッヂ部で僅かながらCuによる反射が確認された。
【0088】
(試験例12 金属化合物層が2種類の金属との混合物からなる例)
基板10上に、CuとNiの2種類の金属と、ZnOとからなる金属化合物層30aを成膜して、その後金属層20としてCuを用いた。初めに、CuとNi(1:1)の合金ターゲットと、ZnOターゲットの二つを装置内にセットし、Cu:Ni:ZnO=1:1:1〜5の比率となるようにそれぞれのターゲットの出力を調整して2源スパッタにより略膜厚55nmの金属化合物層30aを5種類形成した。
スパッタ条件は、無加熱、到達圧力5.00E−4Pa、スパッタ圧力4.3E−1Pa、アルゴンガス雰囲気中で、DC投入電力はZnOターゲットが1.66〜0.35kw、Cuターゲットが0.2kwで、膜厚55nmを狙って金属化合物層30aを形成した。次に、金属化合物層30a上に、別のCuターゲットを使用して膜厚120nmのCuからなる金属層20をスパッタリングにより形成して実施例54〜58の積層体を得た。
【0089】
さらに、Cu:Ni:ZnO=1:1:1の比率において、成膜時に酸素2sccmと4sccmを導入して実施例59〜60の積層体を得た。
金属化合物層30a側(ガラス面側)から、実施例54〜60の積層体の反射率を測定し、可視域(400nm〜700nm)での平均反射率、最大反射率と最少反射率の差を計算した。実施例54〜60の積層体の平均反射率及び最大反射率と最小反射率の差を
図22と
図23に、反射率の測定結果を、
図24に示す。
成膜時に酸素を導入しない場合、平均反射率15%以下、最大反射率と最小反射率との差10%以下となったのは、
図23に示すように、Cu:Ni:ZnOの比率が、1:1:2〜4であった実施例55〜57であった。
成膜時に酸素を導入しない場合、比率1:1:1の実施例54と1:1:5の実施例58では、反射率は、期待する反射率の水準15%以下には至らなかった。酸化物比率が比率1:1:5と多い実施例58では、金属化合物層の吸収が少なくなるため、反射率が増大していたと考えられる。
一方、比率が1:1:1の場合、
図23,
図24の実施例59,60で、成膜中に酸素ガスO
2=2sccm,4sccm等の反応ガスを導入して調整したところ、実施例59では平均反射率15.75%、最大反射率と最小反射率との差が5.65%、実施例60では平均反射率14.78%、最大反射率と最小反射率との差が6.12%に低下し、良好な反射率が得られることが分かった。
【0090】
(試験例13 金属化合物層が1種類の金属(Mo)と2種類の誘電体からなる例)
金属化合物層30aを構成する透明酸化物半導体物質として、ZnOと酸化アルミニウム(Al
2O
3)とMoの比率が(5:1:3)、(4.5:1.5:3)、(4:2:3)の酸化物混合ターゲットを作成した。
酸化物混合ターゲットを装置内にセットし、スパッタ条件を、無加熱、到達圧力8.00E−4Pa、スパッタ圧力1.60E−1Pa、Arガス120sccmにて投入電力0.3kWにて、金
属化合物層30aを成膜した後、AlNd合金を120nm積層して金属層20を成膜し、実施例61〜63の積層体を得た。
【0091】
金属化合物層30a側(ガラス面側)から、実施例61〜63の積層体の反射率を測定し、可視域(400nm〜700nm)での平均反射率、最大反射率と最少反射率の差を計算した。実施例61〜63の積層体の平均反射率及び最大反射率と最小反射率の差を
図25に、反射率の測定結果を、
図26に示す。
図25,
図26に示すように、実施例61〜63の平均反射率及び最大反射率と最少反射率との差はいずれも10%以下で、視認側から見て良好な暗黒色の膜を得ることができた。ZnOとAl
2O
3の比率による大きな差異は、認められなかった。
【0092】
また、実施例62のZnOとAl
2O
3とMoの比率が4.5:1.5:3の金属化合物層30aに対して、Cu、Alをそれぞれ50nm形成して、金属層20を二層構造とし、実施例64,65の積層体を得た。
実施例64,65において、平均反射率及び最大反射率と最少反射率との差のいずれも10%以下であったが、膜厚50nmでは、可視域400〜700nmの多くの領域において、CuよりもAlを成膜した場合の方が低い反射率となることが分かった。これは、Cu,Alの屈折率及び消衰係数の影響により、反射率のボトムとなる最低反射率のピークがずれているためと考えられる。Cu膜を形成する場合には、金属化合物層30aの膜厚を35nm〜40nmと薄くすることにより、実施例64の平均反射率及び最大反射率と最小反射率との差を低下させればよい。
【0093】
また、実施例62のZnOとAl
2O
3とMoの比率が4.5:1.5:3の金属化合物層30aの膜厚を40nm〜60nmの間で、5nm刻みで変動させた膜上に、AlNd合金からなる金属層20を成膜して、実施例66〜70の積層体を得た。
金属化合物層30a側(ガラス面側)から、実施例66〜70の積層体の反射率を測定し、可視域(400nm〜700nm)での平均反射率、最大反射率と最少反射率の差を計算した。実施例66〜70の積層体の平均反射率及び最大反射率と最小反射率の差を
図29に、反射率の測定結果を、
図30に示す。
図29に示すように、実施例66〜69において、平均反射率が15%以下、最大反射率と最小反射率の差が10%以下であった。実施例70では、最大反射率と最小反射率の差は12.78%、平均反射率が15%以下の7.50%となった。
図29では、当然のごとく、膜厚依存性が明確に表れた。このことは、先に記したように、金属層20をCuにした場合にもあてはまることが容易に予想できる。
【0094】
(試験例14 金属化合物層(ZnO:Cu=1:1)と1種類の金属酸化物からなる例)
金属化合物層30aを構成する透明酸化物半導体物質として、ZnOとCuとが比1:1のターゲットと、Al
2O
3のターゲットを装置内にセットして、金属化合物層30aとして(ZnO:Cu=1:1)と1種類の金属酸化物(Al
2O
3)との比率が、(ZnO−Cu):(Al
2O
3)=10:3.5となるようにそれぞれのスパッタ電源の出力を調整して膜厚35nm、50nm、65nmを狙って金属化合物層30aを3種類成膜した。その後金属層20として120nmのCuを積層し、実施例71〜73の積層体を得た。
【0095】
金属化合物層30a側(ガラス面側)から、実施例71〜73の積層体の反射率を測定し、可視域(400nm〜700nm)での平均反射率、最大反射率と最少反射率の差を計算した。実施例71〜73の積層体の平均反射率及び最大反射率と最小反射率の差を
図31に、反射率の測定結果を、
図32に示す。
金属化合物層30aの膜厚が35,50nmである実施例71,72では、平均反射率が15%以下、最大反射率と最小反射率の差が10%以下であった。金属化合物層30aの膜厚が65nmである実施例73では、最大反射率と最小反射率の差は10%以下の2.41%、平均反射率が16.25%となった。
金属化合物層30aを膜厚35nm、50nm、65nmのいずれの膜厚帯とした場合でも、平坦性の良い反射率を得ることができた。金属化合物層30aの膜厚が65nmの実施例73では、可視域全体としての反射率は高めであるが、最大反射率と最少反射率との差が小さいため、暗黒化しており、見た目には良好であった。
【0096】
透明酸化物半導体物質の層と金属層とを組み合わせただけの従来の積層体では、屈折率と消衰係数との関係で、反射率の低減とボトムによる干渉色が明確に成り易い。それに対して、本願の酸化亜鉛と同等以上の酸化物生成自由エネルギーを有する金属との混合物からなる金属化合物層と金属層とを組み合わせれば、より好ましい暗黒色を呈する積層膜を得ることが可能となることが、以上の実施例から分かった。