(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
窯業建材上に、エナメル塗料を塗布してエナメル塗膜を形成する工程(1)、前記工程(1)で得られたエナメル塗膜上に、窯業建材用艶消しクリヤー塗料を、乾燥膜厚が10〜40μmとなるように塗布して艶消しクリヤー塗膜を形成する工程(2)を含む窯業建材用艶消し複層膜形成方法であって、
前記窯業建材用艶消しクリヤー塗料は、
メジアン径(D50)が2〜10μmの光透過性粒状物(a)、
メジアン径(D50)が50〜200μmの光非透過性粒状物(b)、及び、
バインダー樹脂(c)、
を含み、前記バインダー樹脂(c)の固形分質量に対する前記光透過性粒状物(a)の含有量が5〜70質量%であり、かつ、前記バインダー樹脂(c)の固形分質量に対する前記光非透過性粒状物(b)の含有量が0.3〜10質量%であり、および、
前記光非透過性粒状物(b)は、着色樹脂粒状物、ホタル石、ケイ砂、焼成着色ケイ砂、石英、陶磁器粉砕粒子および炭酸カルシウム粒子からなる群から選択される1種またはそれ以上であり、
前記光非透過性粒状物(b)は、可視光における平均光透過率が50%未満の非透過性の粒状物である、
窯業建材用艶消し複層膜形成方法。
前記クリヤー塗膜の乾燥膜厚に対する前記光透過性粒状物(a)のメジアン径(D50)の比が、0.05〜0.5であり、かつ、前記クリヤー塗膜の乾燥膜厚に対する前記光非透過性粒状物(b)のメジアン径(D50)の比が、2.0〜10.0である、
請求項1または2記載の窯業建材用艶消し複層膜形成方法。
請求項1〜4いずれかに記載の窯業建材用艶消し複層膜形成方法によって形成される複層膜の補修部に対して、エナメル補修用塗料を塗布してエナメル補修塗膜を形成する窯業建材用艶消し複層膜補修方法であって、
前記エナメル補修用塗料は顔料を含み、また、メジアン径(D50)が50〜200μmである光非透過性粒状物(b)を含んでもよく、かつ、
塗料固形分体積に対する前記顔料と前記光非透過性粒状物(b)との総量の含有量が2〜10%である窯業建材用艶消し複層膜補修方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の窯業建材用艶消し複層膜形成方法は、窯業建材上に、エナメル塗料を塗布してエナメル塗膜を形成する工程(1)、上記工程(1)で得られたエナメル塗膜上に、窯業建材用艶消しクリヤー塗料を、乾燥膜厚が10〜40μmとなるように塗布して艶消しクリヤー塗膜を形成する工程(2)を含む。
【0018】
工程(1)
本発明の第1の工程は窯業建材上に、エナメル塗料を塗布してエナメル塗膜を形成する工程(1)である。
【0019】
窯業建材
上記窯業建材としては外壁仕上げ材として用いられるものであり、具体的には、窯業系サイディング及び屋根スレート材が挙げられる。窯業系サイディング及び屋根スレート材としては、例えば、JIS A5422によって規定される建材、JIS A5423によって規定される化粧スレート、および、硬質木質セメント板、押出成型セメント板及び軽量発泡コンクリート等のセメント板が挙げられる。
【0020】
上記窯業建材は、次工程(1)で得られるエナメル塗膜との密着性や防水性付与のために、下塗り塗膜を備えていることが好ましい。また、エナメル塗膜を形成しない部分には裏面用塗膜を形成していてもよい。これら下塗り塗膜を形成するための下塗り塗料や裏面用塗膜を形成するための裏面用塗料は、当業者によってよく知られているものを用いることができる。
【0021】
エナメル塗料
本発明の窯業建材用艶消し複層膜形成方法の工程(1)に用いられるエナメル塗料は、バインダー樹脂及び着色顔料を含んでいる。
【0022】
バインダー樹脂
上記バインダー樹脂としては特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリルエマルション樹脂、シリコン変性アクリルエマルション樹脂等が挙げられる。得られる複層膜の耐候性の観点から、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルエマルション樹脂及びシリコン変性アクリルエマルション樹脂が好ましい。
【0023】
着色顔料
上記エマルション塗料に含まれる着色顔料としては特に限定されず、モノアゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料等の有機系着色顔料、黄色酸化鉄、ベンガラ、チタンイエロー、カーボンブラック、二酸化チタン等の無機系着色顔料、グラファイト系顔料、アルミナフレーク顔料等の着色扁平顔料が挙げられる。
【0024】
体質顔料
上記エマルション塗料には体質顔料が含まれても良い。体質顔料としては特に限定されず、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、ケイ酸マグネシウム、クレー、タルク、焼成カオリン等が挙げられる。
【0025】
その他の成分
上記エナメル塗料は、その他の成分として、必要に応じて、例えば、意匠剤、造膜助剤、顔料分散剤、表面調整剤、防腐剤、防かび剤、消泡剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、pH調整剤、粘性調整剤等を含むことができる。上記意匠剤としては、後述の光透過性粒状物(a)や光非透過性粒状物(b)が挙げられる。
【0026】
調製
上記エナメル塗料は、上記バインダー樹脂、着色顔料および必要に応じてその他の成分を攪拌、混合することにより調製することができる。
【0027】
エナメル塗料の塗布
上記エナメル塗料の塗布方法としては特に限定されず、例えば、浸漬、刷毛、ローラー、ロールコーター、エアスプレー、エアレススプレー、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、ダイコーター等、当業者によってよく知られているものが挙げられる。また、上記塗布方法による塗布膜厚は特に限定されず、例えば、乾燥膜厚で20〜300μmとなるように塗布する。
【0028】
乾燥
上記塗布後、得られたエナメル塗膜を加熱して強制乾燥させてもよい。上記加熱条件は特に限定されず、例えば、60〜150℃で30秒〜10分間である。
【0029】
工程(2)
本発明の第2の工程は、上記工程(1)で得られたエナメル塗膜上に、窯業建材用艶消しクリヤー塗料を、乾燥膜厚が10〜40μmとなるように塗布して艶消しクリヤー塗膜を形成する工程(2)である。
【0030】
窯業建材用艶消しクリヤー塗料
本発明の窯業建材用艶消し複層膜形成方法の工程(2)に用いられる窯業建材用艶消しクリヤー塗料は、光透過性粒状物(a)、光非透過性粒状物(b)及びバインダー樹脂(c)を含んでいる。
【0031】
光透過性粒状物(a)
上記光透過性粒状物(a)は、高い透明感を維持しつつ、艶消し効果を発現する。また、複層膜の表面の凹凸を形成しないので、得られた複層膜を補修時にも補修部が目立たなくする機能を発現する。
【0032】
上記光透過性粒状物(a)とは可視光における平均光透過率が50%以上の透明の粒状物であり、透明樹脂ビーズ及び/又は透明ガラスビーズであることが好ましい。
【0033】
上記光透過性粒状物(a)のメジアン径(D50)は2〜10μmである。メジアン径(D50)が2μm未満の場合は艶消し効果が小さくなり、10μmを超える場合は複層膜の表面の凹凸に影響を与えてしまい、補修時に補修部が目立ってしまう。好ましくは3〜8μmである。
なお、本明細書におけるメジアン径(D50)は、レーザー回折式粒度分布計によって測定される体積換算の積算50%となる粒子径をいう。
【0034】
上記透明樹脂ビーズとしては、具体的には、タフチックF−200(東洋紡
社製、メジアン径(D50)3μm)、タフチックFH−S005(東洋紡
社製、メジアン径(D50)5μm)、タフチックFH−S008(東洋紡
社製、メジアン径(D50)8μm)等の透明アクリル樹脂ビーズ、透明アクリロニトリル樹脂ビーズ、SP−500(東レ社製、メジアン径(D50)5μm)等の透明ナイロン樹脂ビーズ等が挙げられる。また、上記透明ガラスビーズとしては、SPL−5(ユニチカ社製、メジアン径(D50)5μm)等が挙げられる。複層膜の耐候性の観点から、透明アクリル樹脂ビーズ及び/又は透明ガラスビーズであることがさらに好ましい。
【0035】
光非透過性粒状物(b)
上記窯業建材用艶消しクリヤー塗料に含まれる光非透過性粒状物(b)は、複層膜の表面に凹凸を付与し、ブロッキングを抑制する機能を有する。
【0036】
上記光非透過性粒状物(b)とは、顔料を除く、可視光における平均光透過率が50%未満の非透過性の粒状物である。
【0037】
上記光非透過性粒状物(b)のメジアン径(D50)は50〜200μmである。メジアン径(50)が50μm未満の場合は複層膜の表面の凹凸の付与が小さくなり、ブロッキングの抑制が不充分になる。200μmを超える場合はクリヤー塗膜の透明性が低下し、また、塗装作業性が低下する。好ましくは60〜150μmであり、さらに好ましくは80〜130μmである。なお、上記光非透過性粒状物(b)は上記光透過性粒状物(a)とは異なり光散乱は発生しないため、補修時に補修部が目立つことはない。
【0038】
上記光非透過性粒状物(b)としては、具体的には、着色顔料による着色や焼成によって光を透過しないようにした着色樹脂ビーズ、着色樹脂フレーク等の着色樹脂、ホタル石、ケイ砂、石英等の天然石、陶磁器粉砕粒子、炭酸カルシウム粒子、雲母片等が挙げられる。
上記着色顔料としては、上記エナメル塗料のところで述べた着色顔料のうちの、有機系着色顔料および無機系着色顔料が挙げられる。
【0039】
上記着色樹脂ビーズとしては、タフチックAR650MZ(東洋紡
社製、メジアン径(D50)60μm)、タフチックAR650ML(東洋紡
社製、メジアン径(D50)80μm)、タフチックAR650L(東洋紡
社製、メジアン径(D50)100μm)、タフチックAR650LC(東洋紡
社製、メジアン径(D50)130μm)等の着色アクリル樹脂ビーズ、セラチップSC−30(北斗産業社製、メジアン径(D50)150μm)等の鱗片状雲母片、カラーサンドNo.8(オクムラセラム社製、メジアン径(D50)100μm)等の焼成着色ケイ砂等が挙げられる。
【0040】
バインダー樹脂(c)
上記窯業建材用艶消しクリヤー塗料に含まれるバインダー樹脂(c)としては特に限定されず、具体的には、上記エナメル塗料のところで述べたバインダー樹脂が挙げられる。得られる複層膜の耐候性の観点から、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルエマルション樹脂及びシリコン変性アクリルエマルション樹脂が好ましい。なお、必ずしも上記エナメル塗料と同一のものを使用する必要はない。
【0041】
ここで、上記バインダー樹脂(c)の固形分質量に対する上記光透過性粒状物(a)の含有量が5〜70質量%である。上記含有量が5質量%未満の場合、塗膜の60度光沢値が30より大きくなり、充分な艶消し効果を得られず、70質量%を超える場合は得られる膜の物性が低下し、かつ、塗布作業性が低下する。好ましくは10〜50質量%であり、さらに好ましくは10〜35質量%である。
【0042】
また、上記バインダー樹脂(c)の固形分質量に対する上記光非透過性粒状物(b)の含有量が0.3〜10質量%である。上記含有量が0.3質量%未満の場合、複層膜の表面の凹凸の形成が不充分になりブロッキングの抑制ができず、10質量%を超える場合はクリヤー塗膜の透明性が低下する。好ましくは0.5〜8質量%であり、さらに好ましくは0.5〜7質量%である。
【0043】
その他の成分
上記窯業建材用艶消しクリヤー塗料は、その他の成分として、必要に応じて、上記エナメル塗料のところで述べたものを含むことができる。
【0044】
調製
上記窯業建材用艶消しクリヤー塗料は、上記光透過性粒状物(a)、光非透過性粒状物(b)、バインダー樹脂(c)および必要に応じてその他の成分を攪拌、混合することにより調製することができる。
【0045】
窯業建材用艶消しクリヤー塗料の塗布
上記窯業建材用艶消しクリヤー塗料の塗布方法としては特に限定されず、上記エナメル塗料のところで述べたものが挙げられる。また、上記塗布方法による塗布膜厚は乾燥膜厚で10〜40μmとなるように塗布する。
【0046】
乾燥
上記塗布後、得られたクリヤー塗膜を加熱して強制乾燥させる。上記加熱条件は特に限定されず、例えば、60〜150℃で30秒〜10分間である。なお、上記工程(1)において得られたエナメル塗膜を強制乾燥していない場合は、クリヤー塗膜を強制乾燥することによって先に塗布して形成したエナメル塗膜も同時に強制乾燥される。
このようにして本発明の窯業建材用艶消し複層膜形成方法によって、窯業建材上にエナメル塗膜とクリヤー塗膜とを備えた窯業建材用艶消し複層膜を形成することができる。
【0047】
窯業建材用艶消し複層膜
本発明の窯業建材用艶消し複層膜は、上記窯業建材用艶消し複層膜形成方法によって得られ、60度光沢値が30以下であり極めて優れた艶消し複層膜である。具体的には、窯業建材上に、エナメル塗膜と、光透過性粒状物(a)および光非透過性粒状物(b)を含んだ乾燥膜厚が10〜40μmであるクリヤー塗膜とを備えるものである。上記窯業建材、エナメル塗膜及びクリヤー塗膜は、上記窯業建材用艶消し複層膜形成方法で述べたものである。
【0048】
乾燥膜厚とメジアン径との比
ここで、上記クリヤー塗膜の乾燥膜厚に対する上記光透過性粒状物(a)のメジアン径(D50)の比が、0.05〜0.5である。上記比が0.05未満である場合、艶消し効果が小さくなり、0.5を超える場合、複層膜の表面に上記光透過性粒状物(a)による凹凸が生じ、補修時に補修部が目立つようになる。好ましくは0.1〜0.4である。
【0049】
また、上記クリヤー塗膜の乾燥膜厚に対する上記光非透過性粒状物(b)のメジアン径(D50)の比が、2.0〜10.0である。上記比が2.0未満である場合、複層膜の表面の凹凸が小さくなって艶消し効果が小さくなり、10.0を超える場合、クリヤー塗膜の透明性が低下する。好ましくは3.0〜8.0である。
【0050】
光沢値の比
本発明の窯業建材用艶消し複層膜は、60度光沢値が30以下である。さらに、60度光沢値に対する85度光沢値の比が0.7〜1.2であることが好ましい。上記比が0.7未満である場合、1.2を超える場合、補修時に補修部が目立つおそれがある。好ましくは0.9〜1.1である。
なお、本明細書における60度光沢値及び85度光沢値は、複層膜の表面を光沢計により測定することができる。
【0051】
窯業建材用艶消しクリヤー塗料
本発明の窯業建材用艶消しクリヤー塗料は、クリヤー塗膜を有する窯業建材上に艶消しクリヤー塗膜を形成するために用いる窯業建材用艶消しクリヤー塗料であって、光透過性粒状物(a)、光非透過性粒状物(b)及びバインダー樹脂(c)を含むものである。上記窯業建材用艶消しクリヤー塗料は、上記窯業建材用艶消し複層膜形成方法の窯業建材用艶消しクリヤー塗料のところで述べたものである。
【0052】
窯業建材用艶消し複層膜補修方法
本発明の窯業建材用艶消し複層膜補修方法は、上記窯業建材用艶消し複層膜の補修部に対して、エナメル補修用塗料を塗布してエナメル補修塗膜を形成するものである。
【0053】
上記窯業建材用艶消し複層膜の補修部は、上記窯業建材用艶消し複層膜のうち、傷つき等によって複層膜に欠陥が生じた部分をいう。上記補修部はエナメル補修用塗料を塗布する前に付着している汚れ等を洗浄し、必要に応じて研磨をしておいてもよい。
【0054】
エナメル補修用塗料
上記エナメル補修用塗料は顔料を含み、また、メジアン径(D50)が50〜200μmである光非透過性粒状物(b)とを含んでも良い。上記顔料としては、上記エナメル塗料のところで述べた着色顔料および体質顔料が挙げられる。また、上記光非透過性粒状物(b)も、同様に上記エナメル塗料のところで述べたものが挙げられる。
【0055】
顔料と光非透過性粒状物(b)との総量の含有量
塗料固形分体積に対する上記顔料と上記光非透過性粒状物(b)との総量の含有量は2〜10%である。上記含有量が2%未満の場合は、エナメル補修用塗膜の透明性が強くなり過ぎ、上記含有量が10%を超える場合は、エナメル補修用塗膜のソリッド感が強くなり過ぎ、艶消し複層膜の補修が充分にできない。好ましくは3〜9%であり、そのようにすることによって、得られるエナメル補修塗膜のソリッド感と透明感を両立させた本発明の窯業建材用複層膜の意匠を、上記エナメル用補修塗料だけで補修することができる。つまりエナメル補修用塗料1つのみを用いる場合であっても、補修前の艶消し複層膜に対して、シェードでの補修跡が目立たない補修が可能となる。なお、上記含有量の算出する際に必要となる顔料の比重は、「塗料原料便覧第7版」(社団法人日本塗料工業会)によるものであり、また、樹脂固形分の比重は1と近似するものとする。
【0056】
なお、上記エナメル補修用塗料の塗料固形分体積に対する顔料と光非透過性粒状物との総量の含有量は、上記艶消し複層膜形成方法のエナメル塗料の含有量よりも5〜15%低いことが好ましい。5%未満の場合は、得られるエナメル補修塗膜のソリッド感が強くなるおそれがあり、また、15%を超える場合は、得られるエナメル補修塗膜の透明性が強くなりすぎて、艶消し複層膜の補修が充分にできないおそれがある。
【0057】
バインダー樹脂
上記エナメル補修用塗料は、通常、バインダー樹脂を含んでいる。上記バインダー樹脂としては、上記エナメル塗料のところで述べたものが挙げられる。
【0058】
艶消し材
上記エナメル補修用塗料は、得られる補修膜の艶を調整するために、艶消し材を含むことができる。上記艶消し材としては、例えば、メジアン径(D50)が2〜10μmの光透過性粒状物(a)、シリカ化合物及び体質顔料等が挙げられる。上記光透過性粒状物(a)は上記窯業建材用艶消し複層膜形成方法の艶消しクリヤー塗料のところで述べたものが挙げられる。上記シリカ化合物としては、例えば、サイリシア446(富士シリシア化学社製)などの疎水性シリカが挙げられる。上記体質顔料としては、上記顔料のところで述べたように、上記エナメル塗料のところで述べた体質顔料が挙げられる。
【0059】
上記エナメル補修用塗料における艶消し材の含有量は、塗料固形分100質量部に対して5〜40質量部であることが好ましい。5質量部未満の場合は、艶消しの効果が不充分になるおそれがあり、また、40質量部を超える場合は、塗膜の透過性が低下し、塗膜の粗度が大きくなるため、艶消し複層膜の意匠を補修が充分にできないおそれがある。さらに好ましくは5〜30質量部である。
【0060】
その他の成分
上記エナメル補修用塗料は、その他の成分として、必要に応じて、上記エナメル塗料のところで述べたものが挙げられる。
【0061】
調製
上記エナメル補修用塗料は、顔料、光非透過性粒状物(b)、バインダー樹脂及び必要に応じて、艶消し材やその他の成分を攪拌、混合することにより調製することができる。
【0062】
エナメル補修用塗料の塗布
上記エナメル補修用塗料の塗布方法としては特に限定されず、上記エナメル塗料のところで述べたものが挙げられる。また、上記塗布方法による塗布膜厚は乾燥膜厚で10〜80μmとなるように塗布することが好ましい。
【0063】
乾燥
塗装されたエナメル補修塗膜の乾燥は、常温で放置して乾燥しても良いし、60〜150℃の加熱による強制乾燥を行なっても良い。屋外で塗装されることが多いため、好ましくは常温で、30分〜24時間程度、放置して乾燥することができる。
【0064】
エナメル補修塗膜を有する窯業建材用艶消し複層膜
本発明のエナメル補修塗膜を有する窯業建材用艶消し複層膜は、窯業建材用艶消し複層膜形成方法によって形成される艶消し複層膜を、上記エナメル補修用塗料を用いて補修することによって得られるものである。得られたエナメル補修塗膜を有する窯業建材用艶消し複層膜は、補修部が目立たず、周囲から際立つことを抑制できる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0066】
[ 製造例1 白色エナメル塗料の製造 ]
BYK190(ビックケミー社製顔料分散剤、固形分濃度40.0%)2部、チタンCR−95(石原産業社製二酸化チタン)15部、沈降性硫酸バリウム#100(堺化学社製沈降性硫酸バリウム)5部、脱イオン水5部からなる顔料分散ペーストにバインダー樹脂としてVONCOAT SA−6360(DIC社製アクリルエマルジョン、固形分濃度50.0%)40部、揮発性塩基化合物として25%アンモニア水溶液 0.3部順次混合した。さらに、サノールLS292(三共社製ヒンダードアミン系安定剤)0.5部、テキサノール(イーストマン社製造膜助剤)3部及び脱イオン水 25部を混合した。最後に、ストーマー粘度計にて75KUとなるようASE−60(ローム&ハース社製増粘剤)を添加して、白色エナメル塗料を得た。白色エナメル塗料における塗料固形分体積に対する顔料と光非透過性粒状物との総量の含有量は18%であった。なお、この含有量の計算に用いた比重の値は、チタンCR−95が4.2、沈降性硫酸バリウム#100が4.3、樹脂は全て1.0とした。
【0067】
[ 製造例2 艶消しクリヤー塗料1の製造 ]
VONCOAT SA−6360を60部、テキサノール5部、チヌビン1130(チバスペシャリティーケミカルズ社製紫外線吸収剤)0.5部、サノールLS2920.5部、光透過粒状物であるタフチックFH−S005(東洋紡
社製透明アクリル樹脂ビーズ、メジアン径(D50)5μm、)4.8部、光非透過粒状物であるタフチックAR650LC(東洋紡社製カーボンブラック着色アクリル樹脂ビーズ、メジアン径(D50)100μm)0.5部、サイリシア446(富士シリシア化学社製シリカ化合物)1.5部及び脱イオン水20部を混合し、さらに、ストーマー粘度計にて65KUとなるようASE−60を添加して艶消しクリヤー塗料1を得た。
【0068】
[ 製造例3 艶消しクリヤー塗料2の製造 ]
タフチックFH−S005の配合量を10.5部とした以外は、製造例2と同様にしてで、艶消しクリヤー塗料2を得た。
【0069】
[ 製造例4 艶消しクリヤー塗料3の製造 ]
光透過粒状物であるタフチックFH−S005 4.8部に代えて、SPL−5(ユニチカ社製透明ガラスビーズ、メジアン径(D50)5μm)4.8部とした以外は、製造例2と同様にして、艶消しクリヤー塗料3を得た。
【0070】
[ 製造例5 艶消しクリヤー塗料4の製造 ]
光非透過粒状物であるタフチックAR650LC 0.5部に代えて、カラーサンドNo.8(オクムラセラム社製硅砂、メジアン径(D50)100μm)0.5部とした以外は、製造例2と同様にして、艶消しクリヤー塗料4を得た。
【0071】
[ 製造例6 艶消しクリヤー塗料5の製造 ]
光透過粒状物であるタフチックFH−S005 4.8部に代えて、タフチックF−200(東洋紡
社製透明アクリル樹脂ビーズ、メジアン径(D50)3μm)4.8部とした以外は、製造例2と同様にして、艶消しクリヤー塗料5を得た。
【0072】
[ 製造例7 艶消しクリヤー塗料6の製造 ]
光透過粒状物であるタフチックFH−S005 4.8部に代えて、タフチックFH−S008(東洋紡
社製透明アクリル樹脂ビーズ、メジアン径(D50)8μm)4.8部とした以外は、製造例2と同様にして、艶消しクリヤー塗料6を得た。
【0073】
[ 製造例8 艶消しクリヤー塗料7の製造 ]
光非透過粒状物であるタフチックAR650LC 0.5部に代えて、タフチックAR650MZ(東洋紡
社製カーボンブラック着色アクリル樹脂ビーズ、メジアン径(D50)60μm)0.5部とした以外は、製造例2と同様にして、艶消しクリヤー塗料7を得た。
【0074】
[ 比較製造例1 艶消しクリヤー塗料8の製造 ]
VONCOAT SA−6360を60部、テキサノール5部、チヌビン1130を0.5部、サノールLS292を0.5部、光透過粒状物であるタフチックFH−S005を4.8部、サイリシア446を1.5部及び脱イオン水20部を混合し、さらに、ストーマー粘度計にて65KUとなるようASE−60を添加して艶消しクリヤー塗料8を得た。
【0075】
[ 比較製造例2 艶消しクリヤー塗料9の製造 ]
光透過粒状物であるタフチックFH−S005 4.8部に代えて、タフチックAR650L(東洋紡績社製透明アクリル樹脂ビーズ、メジアン径(D50)100μm)4.8部とした以外は、比較製造例1と同様にして、艶消しクリヤー塗料9を得た。
【0076】
[ 比較製造例3 艶消しクリヤー塗料10の製造 ]
光非透過粒状物であるタフチックAR650LC 0.5部に代えて、タフチックAR650M(東洋紡
社製カーボンブラック着色アクリル樹脂ビーズ、メジアン径(D50)30μm)0.5部とした以外は、製造例2と同様にして、艶消しクリヤー塗料10を得た。
【0077】
[ 比較製造例4 艶消しクリヤー塗料11の製造 ]
光透過粒状物であるタフチックFH−S005 4.8部に代えて、タフチックAR650MX(東洋紡
社製透明アクリル樹脂ビーズ、メジアン径(D50)40μm)4.8部とした以外は、製造例2と同様にして、艶消しクリヤー塗料11を得た。
【0078】
上記製造例によって得られた艶消し塗料1〜11に含まれる粒状物の内容および配合量について、下記表1および2にまとめる。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
[ 製造例9 白色エナメル補修用塗料1の製造 ]
BYK108を4部、チタンCR−9515部、キシレン5部、酢酸ブチル5部、ダイヤナールBR112(三菱レイヨン社製アクリル樹脂、固形分濃度40.0%)60部をサンドミルにより分散し、顔料分散ペーストを得た。該顔料分散ペーストにダイヤナールBR112を20部、キシレン10部、酢酸ブチル10部を順次混合した。さらに、サノールLS292を0.5部、光透過性粒状物であるタフチックAR650S(東洋紡社製透明アクリル樹脂ビーズ、メジアン径(D50)18μm)5.0部、サイリシア446を5.0部、光非透過性粒状物であるタフチックAR650LCを0.01部を混合し、さらに、ストーマー粘度計にて70KUとなるようにキシレン、酢酸ブチル=1/1混合品を添加し、白色エナメル補修用塗料1を得た。エナメル補修用塗料1における塗料固形分体積に対する顔料と光非透過性粒状物との総量の含有量は6.0%であった。なお、この含有量の計算に用いた比重の値は、チタンCR−95が4.2、サイリシア446が1.0、樹脂およびタフチックAR650Sは1.0、タフチックAR650LCは1.2とした。
【0082】
[ 製造例10 エナメル補修用塗料2の製造 ]
サイリシア446の量を7.0部とした以外は、製造例9と同様にして、エナメル補修用塗料2を得た。エナメル補修用塗料2における塗料固形分体積に対する顔料と光非透過性粒状物との総量の含有量は5.7%である。
【0083】
[ 実施例1 ]
窯業系建材軽量発泡セメント板上に、オーデタイト128シーラー(日本ペイント社製シーラー)を塗布し乾燥させ、乾燥膜厚40μmのシーラー塗膜を形成して被塗物を作成した。
被塗物の表面温度が60℃となるように加熱した後、製造例1で得られた白色エナメル塗料を乾燥膜厚40μmとなるように塗布した後、100℃×3分間加熱して、被塗物上にエナメル塗膜を得た。次いで実施例2で得られた艶消しクリヤー塗料1を乾燥膜厚20μmとなるようにスプレーによって塗布した後、100℃で10分間加熱して、複層膜1を形成した。
【0084】
[ 実施例2〜7、比較例1〜4 ]
艶消しクリヤー塗料1に代えて、製造例3〜8及び比較製造例1〜4で得られた艶消しクリヤー塗料2〜11を用いた以外は、実施例1と同様にして、複層膜2〜11を形成した。得られた複層膜は以下に示す試験を行った。結果は表3および表4に示した。
【0085】
複層膜の光沢値測定方法
得られた複層膜の表面をマイクロトリグロス(BYK Gardner社製光沢計)にて、60度および85度の光沢値を測定した。60度光沢値が3〜30であれば、艶消し意匠として合格レベルであり、さらに3〜15であればより好ましい。
【0086】
また、60度光沢値に対する85度光沢値の比率が0.7〜1.2であれば合格であり、0.9〜1.1であればより好ましい。
【0087】
複層膜の耐ブロッキング性評価方法
得られた複層膜の耐ブロッキング性について評価を行った。上記複層膜を形成した窯業系建材軽量発泡セメント板上を10cm×10cmに切断したものを作成し、厚さ30μmのポリエチレンフィルムを試験板の塗装面を向かい合わせ、50℃の雰囲気下で5.0kg/cm
2の荷重をかけて10分間静置した。ポリエチレンフィルムを剥がした際の状態を以下の基準により評価した。
5・・圧着なし、かつ、合紙跡なし
4・・少し圧着あり、かつ、合紙跡5%以下
3・・少し圧着あり、かつ、合紙跡10%以下
2・・圧着あり、かつ、合紙跡面積30%以下
1・・圧着あり、かつ、合紙跡面積30%以上
【0088】
本発明に係る実施例1〜7の複層膜は60度光沢値が15以下であり、艶消し意匠としては良好である。また、60度光沢値に対する85度光沢値の比率も0.7〜1.2であり、複層膜に光沢値の角度依存性が生じておらず、補修性が良好であると予想できた。さらに、耐ブロッキング性も全ての実施例で良好であった。
一方、メジアン径が50〜200μmの光非透過性粒状物をクリヤー塗料に有しない比較例1および3は、クリヤー塗膜面に対して十分な凹凸を有していないため、耐ブロッキング性が劣った。また、比較例2〜4は60度光沢値に対する85度光沢値の比率が0.7未満であり、補修性に問題があると予想できた。
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
[ 実施例8 ]
エナメル補修塗膜を有する複層膜
実施例1で得られた複層膜1の一部分に対して、製造例10で得られたエナメル補修用塗料をハケ塗りした後、常温で12時間放置して乾燥し、乾燥膜厚が30μmのエナメル補修塗膜を有する複層膜を得た。エナメル補修塗膜の60度光沢値は9.9で、85度光沢値は9.6であった。
【0092】
[ 実施例9〜14、比較例5〜8 ]
実施例1で得られた複層膜1に代えて、実施例3で得られた複層膜3、実施例4で得られた複層膜4、実施例5で得られた複層膜5、実施例6で得られた複層膜6、実施例7で得られた複層膜7、比較例1で得られた複層膜8、比較例2で得られた複層膜9、比較例3で得られた複層膜10、比較例4で得られた複層膜11それぞれの上にエナメル補修用塗料1を用いて、実施例8と同様にしてエナメル補修塗膜を有する複層膜を得た。また、実施例2で得られた複層膜2の上には、エナメル補修用塗料2で、実施例8と同様にしてエナメル補修塗膜を有する複層膜を得た。なお、比較例6におけるエナメル補修塗膜の60度光沢値は9.8で、85度光沢値は18.2であった。
【0093】
スポットライトによる補修塗膜の目視評価
得られたエナメル補修塗膜を有する複層膜に対して、スポットライト(SERIC社製昼光光源)を垂直方向から照射し、スポットライトの照射光に対して45度(正面)及び75度(シェード)から、複層膜の補修部分とその周辺の塗膜の艶に差異があるかを目視で評価した。
3・・正面及びシェード評価どちらでも差異を確認できず
2・・正面では差異を確認できないが、シェードでは僅かに差異を確認できる
1・・正面では差異を僅かに確認でき、かつ、シェードでは差異を明らかに確認できる
【0094】
本発明に係る実施例8〜14で得られたエナメル補修塗膜を有する複層膜はスポットライト照射での試験において、見る角度に関わらず、補修部分とその周辺の塗膜での艶に差異は確認できず、補修部分が目立たなかった。
一方、メジアン径が10μmより大きい光透過性粒状物をクリヤー塗膜中に有する比較例6および8は、太陽光およびスポットライト照射での試験において、補修部分とその周辺の塗膜で正面の艶の差異は僅かであるが、シェードでの艶には差異が明らかに視認でき、補修部分が非常に目立つものであった。
【0095】
【表5】
【0096】
【表6】