(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明する。本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0013】
〔分岐状共役ジエン重合体〕
本実施形態の分岐状共役ジエン重合体は、下記(1)〜(6)の要件を満たす、選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体である。
(1)選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体の分岐状成分が70〜95質量%である。
(2)選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体のGPCで測定された分子量分布曲線において、少なくとも2つのピークを有し、最も低分子量部(分岐させていない成分)のポリスチレン換算ピーク分子量(A)が5万〜15万であり、かつ最も低分子量部(分岐させていない成分)のピークよりも高分子量側(分岐状成分)に有するピークで、最もピーク高さが高いピーク部のポリスチレン換算分子量(B)との比(B/A)が2.5〜3.5である。
(3)選択部分水添前の分岐状共役ジエン重合体の、共役ジエン重合体の二重結合に由来するビニル結合含有量が10〜30%である。
(4)選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体の、共役ジエン重合体の二重結合の水添率が10〜40%である。
(5)選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体のビニル結合部の水添率が80〜99.0%である。
(6)選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体の25℃における5質量%スチレン溶液粘度(5%SV)が20〜50センチポイズ(cP)である。
【0014】
〔分岐状共役ジエン重合体の製造方法〕
本実施形態の選択部分水添された分岐状共役ジエン共重合体は、少なくとも1種類の共役ジエン単量体を極性化合物が共存する炭化水素溶媒中で有機リチウム化合物を重合開始剤として用いて重合させ、得られた活性リチウム末端を有する共役ジエン重合体とカップリング剤を反応させた後、水添触媒による選択部分水添することにより、得ることができる。
【0015】
(共役ジエン単量体)
共役ジエン単量体としては、従来公知のものを用いることができ、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3ブタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘプタジエン、1,3−ヘキサジエン等が挙げられ、これらを一種又は二種以上を組み合わせて用いられる。特に、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。
【0016】
(重合開始剤)
重合開始剤として用いられる有機リチウム化合物は、分子中に一個以上のリチウム原子を結合した化合物であり、例えば、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、ヘキサメチレンリチウム、ブタジエニルジリチウム、イソプレニルジリチウム等が挙げられる。これらは一種又は二種以上を組み合わせて使用してもよい。また、有機リチウム化合物は、共役ジエン重合体の製造において重合途中で一回以上分割添加してもよい。
【0017】
(炭化水素溶媒)
共役ジエン重合体の製造に用いられる炭化水素溶媒としては、例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、イソペンタン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒が使用できる。これらは一種又は二種以上を混合して使用してもよい。
【0018】
(極性化合物)
極性化合物は、共役ジエン単位のミクロ構造調整剤として用いられる。
例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリメチルアミン、トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、トリフェニルホスフィン、ヘキサメチルホスホルアミド、(2,2−ビス(2−オキソラニル)プロパン等が挙げられる。
後述する選択部分水添前の共役ジエン重合体のミクロ構造(シス、トランス、ビニルの比率)は、極性化合物等の使用により制御することができる。
【0019】
(重合温度、時間、雰囲気、圧力)
共役ジエン重合体の製造する際の重合温度は、−10〜150℃が好ましく、より好ましくは30〜120℃である。重合に要する時間は条件によって異なるが、48時間以内であることが好ましく、より好ましくは0.5〜10時間である。また、重合系の雰囲気は窒素ガス等の不活性ガス雰囲気にすることが好ましい。重合圧力は、前記重合温度範囲でモノマー及び溶媒を液相に維持するに充分な圧力の範囲で行えばよく、特に限定されるものでない。さらに、重合系内は触媒及びリビングポリマーを不活性化させるような不純物、例えば、水、酸素、炭酸ガス等が混入しないようにすることが好ましい。
【0020】
(カップリング剤)
カップリング剤としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエオキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラフェノキシシラン等が挙げられる。これらは1種又は2種以上任意に組み合わせて使用することができる。好ましいカップリング剤としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが挙げられる。
これらカップリング剤を使用すると、主として3分岐状成分が得られる。
【0021】
主として3分岐状成分が得られるこれらのカップリング剤の使用量は、活性リチウム末端を有する共役ジエン重合体を製造する際に使用される前記有機リチウム化合物1モルに対して、0.7当量以上であることが好ましく、より好ましくは0.75当量〜0.95当量の範囲である。
主として3分岐状成分が得られるカップリング剤を使用することにより、後述するように、最も低分子量部(分岐させていない成分)のポリスチレン換算ピーク分子量(A)と、最も低分子量部のピークよりも高分子量側(分岐状成分)に有するピークで、最もピーク高さが高いピーク部のポリスチレン換算分子量(B)との比(B/A)を、2.5〜3.5に制御することができる。
なお、カップリング剤の添加量が過剰であった場合は、最もピーク高さが高いピーク部のポリスチレン換算分子量(B)との比(B/A)が、2.5未満となり、2分岐状成分が増加してしまい、添加量が過少であるとカップリング率が低下するため、上記のように、活性リチウム末端を有する共役ジエン重合体を製造する際に使用される前記有機リチウム化合物1モルに対して0.75当量〜0.95当量の範囲が好ましい。
【0022】
活性リチウム末端を有する共役ジエン重合体と前記カップリング剤との反応時間は、広範囲にわたって調整できるが、1分〜60分間が好ましく、より好ましくは1分〜30分間である。カップリング剤は単独で用いても溶媒に溶解して用いてもよいが、溶媒を用いる場合は活性リチウムに対して不活性である炭化水素溶媒を用いる。炭化水素溶媒としては、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等が挙げられる。前記カップリング剤の添加方法については、特に制限はないがバッチ式、あるいは連続方式に添加する方法が一般的に用いられる。
【0023】
活性リチウム末端を有する共役ジエン重合体と前記カップリング剤との反応温度は、50〜130℃の範囲が好ましく、より好ましくは80〜110℃である。反応温度が130℃を超えると、カップリング効率が著しく低下し所望の分岐状共役ジエン重合体が得られない。50℃未満では、該化合物との反応性が著しく低下し好ましない。
【0024】
上記共役ジエン重合体の活性リチウム末端は、カップリング剤や所定のアルコールよりなる停止剤により停止させることができる。
停止剤の添加量は活性リチウム末端のリチウムに対して、0.9〜1.1当量とすることが好ましく、より好ましくは、0.95〜1.05当量である。
この停止剤の添加量が活性リチウム末端のリチウムに対して1.0当量に近いほど、上述する水添触媒の添加量が少なくてすみ、特に、後述する(3)Ti、Ru、Rh、Zr等の有機金属化合物等のいわゆる有機金属錯体等の均一系水添触媒の中の、Ti及び/又はZrのメタロセン系錯体を含む均一系水添触媒を用いた場合、最終的に得られる選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体中におけるTi及び/又はZrの含有量を、25質量ppm以下に低減化できる。
なお、停止剤の添加量がリチウムに対して90当量未満である場合や、1.1当量を超える場合には、後述する水添触媒の添加量を増加させる必要が生じる。
【0025】
(選択部分水添)
本実施形態の選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体は、上記の分岐状共役ジエン重合体の二重結合を選択的に部分水添することにより得られる。
「選択部分水添」とは、所定の不飽和部分を他の不飽和部分よりも優先的に水添することをいい、例えば、分岐状共役ジエン重合体が分岐状ブタジエンである場合、不飽和1,2結合単位を不飽和1,4結合単位に先だって選択的に水添することである。さらに具体的には、不飽和1,2結合単位を優先的に水添していきながら、不飽和1,4結合単位も同時に少しずつ水添されていく状態のなかで、不飽和1,2結合単位(ビニル結合部)の水添率を80〜99.0%を選択的に水添させる。
水添触媒としては、特に制限されず、従来から公知である(1)Ni、Pt,Pd、Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等に担持させた担持型不均一系水素触媒、(2)Ni、Co,Fe、Cr等の有機酸塩又はアセチルアセトン塩等の遷移金属塩と有機アルミニウム等の還元剤とを用いる、いわゆるチ−グラ型水添触媒、(3)Ti、Ru、Rh、Zr等の有機金属化合物等のいわゆる有機金属錯体等の均一系水添触媒が用いられる。
具体的な水添触媒としては、特公昭42−8704号公報、特公昭43−6636号公報、特公昭63−4841号公報、特公平1−37970号公報、特公平1−53851号公報、特公平2−9041号公報に記載された水添触媒を使用することができる。好ましい水添触媒としてはチタノセン化合物及び/又は還元性有機金属化合物との混合物が挙げられる。
水添触媒は、不飽和1,2結合単位を不飽和1,4結合単位に先だって選択的に水添できる触媒であり、本実施形態の選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体を製造するために好ましい。
前記チタノセン化合物としては、特開平8−109219号公報に記載された化合物が使用できるが、具体的には、ビスシクロペンタジエニルチタンジクロライド、モノペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリクロライド等の(置換)シクロペンタジエニル骨格、インデニル骨格あるいはフルオレニル骨格を有する配位子を少なくとも一つ以上もつ化合物が挙げられる。また、還元性有機金属化合物としては、有機リチウム等の有機アルカリ金属化合物、有機マグネシウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機ホウ素化合物あるいは有機亜鉛化合物等が挙げられる。
前記(3)Ti、Ru、Rh、Zr等の有機金属化合物等のいわゆる有機金属錯体等の均一系水添触媒の中でも、Ti及び/又はZrのメタロセン系錯体を含む均一系水添触媒が、水添活性が良好であり、調合が容易であるという観点、さらには経済性の観点からも好ましい。
【0026】
水添反応は、好ましくは0〜200℃、より好ましくは30〜150℃の温度範囲で実施する。
水添反応に使用される水素の圧力は好ましくは0.1〜15Mpa、より好ましくは0.2〜10Mpa、さらに好ましくは0.3〜5Mpaとする。また、水添反応時間は好ましくは3分〜10時間、より好ましくは10分〜5時間である。水添反応は、バッチプロセス、連続プロセス、あるいはそれらの組み合わせのいずれも用いることができる。
【0027】
上記のようにして得られた選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体の溶液は、必要に応じて触媒残渣を除去し、溶液から分離することができる。
溶媒の分離は、分岐状共役ジエン重合体の溶液を撹拌下熱湯中に投入し、スチームストリッピングにより溶媒を除去して行われる。
回収された重合体には、各種フェノール系安定剤、リン系安定剤、イオウ系安定剤、アミン系安定剤等の安定剤を添加することができる。
【0028】
〔分岐状共役ジエン重合体の構造及び物性〕
((1)選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体の分岐状成分の含有量)
本実施形態の選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体の分岐状成分の含有量は、70〜95質量%である。好ましくは80〜95質量%であり、より好ましくは85〜95質量%である。
分岐状成分が70質量%未満では、分岐状共役ジエン重合体のベールがコールドフローし易くベール貯蔵安定性が悪化する傾向にある。さらに、後述する耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂の製造時に、ベールを粉砕する時に、周辺機器に分岐状共役ジエン重合体が付着し易く異物混入の要因となり製品品質の面から好ましくない。一方、分岐状成分が95質量%を超えると、分岐状共役ジエン重合体の熱安定性が劣り好ましくない。
分岐状共役ジエン重合体の分岐状成分を70〜95質量%にするには、上述したカップリング剤の種類に応じ、適宜使用量を調整することが有効である。
分岐状成分の含有量は、カップリング率と同義であり、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0029】
((2)GPC分子量分布曲線におけるピーク数、ピーク分子量、所定のピーク分子量比)
本実施形態の選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体は、ゲルパーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定された分子量分布曲線において、少なくとも2つのピークを有し、最も低分子量部(分岐させていない成分)のポリスチレン(PS)換算ピーク分子量(A)が5万〜15万であり、かつ最も低分子量部(分岐させていない成分)のピークよりも高分子量側(分岐状成分)に有するピークで、最もピーク高さが高いピーク部のポリスチレン(PS)PS換算分子量(B)との比(B/A)が2.5〜3.5(3分岐状成分主体)であり、好ましくは2.6〜3.4であり、より好ましくは2.7〜3.3である。
前記(B/A)比が2.5未満、すなわち2分岐状成分が主体である場合は、選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体のベールがコールドフローし易くベール貯蔵安定性が悪化する傾向がある。また、後述する耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂の製造時に、ベールを粉砕する時に、周辺機器に分岐状共役ジエン重合体が付着し易く異物混入の要因となり製品品質の面から好ましくない。
一方、前記(B/A)比が3.5を超えると、後述する耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂の製造時に、ゴム粒子径が大きくなり更に粒子径分布が広くなり、耐衝撃性と光沢性のバランスが悪化し好ましくない。
本実施形態の選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体においては、(A)は好ましくは8万〜15万、より好ましくは9〜12万、(B)は好ましくは24万〜45万、より好ましくは27万〜36万のPS換算分子量にピークを有する。
ピーク分子量、ピーク分子量比の測定方法については、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0030】
((3)選択部分水添前の分岐状共役ジエン重合体の、共役ジエン重合体の二重結合に由来するビニル結合含有量)
本実施形態の選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体の、水素添加前における分岐状共役ジエン重合体の、共役ジエン重合体の二重結合に由来するビニル結合含有量は10〜30%である。好ましくは12〜25%であり、より好ましくは14〜20%である。
選択部分水添前の分岐状共役ジエン重合体のミクロ構造(シス、トランス、ビニルの比率)は、上述した極性化合物等の使用により制御することができる。共役ジエンとして、1,3−ブタジエンを使用した場合には、1,2−ビニル結合含有量は10〜30%、好ましくは12〜25%であり、共役ジエンとしてイソプレンを使用した場合又は1,3−ブタジエンとイソプレンを使用した場合には、1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合の合計のビニル結合含有量は10〜30%、好ましくは12〜25%である。
1,2−ビニル結合含有量、あるいは1,2−ビニル結合含有量と3,4−ビニル結合含有量との合計量が10%未満では、後述する耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂の製造時に、ビニル芳香族単量体への溶解性に劣り、さらにグラフト効率が悪化し好ましくない。一方、30%を超えると、後述する耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂の製造時に、ゴム粒子径の制御等に問題があり、光沢性が悪化し好ましくない。
選択部分水添前の分岐状共役ジエン重合体の、共役ジエン重合体の二重結合に由来するビニル結合含有量は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0031】
((4)選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体の、共役ジエン重合体の二重結合の水添率)
本実施形態の選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体の、共役ジエン重合体の二重結合の水添率は10〜40%である。好ましくは20〜38%であり、より好ましくは25〜36%である。
当該水添率を上記数値範囲に制御するためには、分岐状共役ジエン重合体の共役ジエンの量から水素量を算出し、分岐状共役ジエン重合体の二重結合の水添率を確認し、所望の水添率が得られていれば、水素の供給を停止すればよく、所定の水添率に達成していない場合は、さらに水素を添加させて水添率を微調整すればよい。
水添率が10%未満では、後述する耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂の熱安定性が低下する。
水添率が40%を超えると、後述する耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂の製造時に、ビニル芳香族単量体への溶解性が劣り好ましくない。
選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体の水添率は核磁気共鳴装置(NMR)により測定できる。
【0032】
((5)選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体のビニル結合部の水添率)
本実施形態の選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体のビニル結合部の水添率は80〜99.0%である。好ましくは85〜98%であり、より好ましくは90〜98%である。
当該ビニル結合部の水添率を上記数値範囲に制御するためには、分岐状共役ジエン重合体の共役ジエンの量から水素量を算出し、当該水素量から分岐状共役ジエン重合体のビニル結合部の水添率を推定して算出し、所望の水添率が得られていれば、水素の供給を停止すればよく、所定の水添率に達成していない場合は、さらに水素を添加させて水添率を微調整すればよい。
ビニル結合部の水添率が80%未満では、後述する耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂の熱安定性、耐衝撃性が低下する。
水添率が99%を超えると、後述する耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂の製造時に、ビニル芳香族単量体への溶解性が劣り好ましくない。
選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体のビニル結合部の水添率は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0033】
((6)選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体の25℃における5質量%スチレン溶液粘度(5%SV))
本実施形態の選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体の25℃における5質量%スチレン溶液粘度(5%SV)は20〜50cPである。好ましくは20〜45cPであり、より好ましくは23〜40cPである。
SVが20cP未満では、選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体のベールがコールドフローし易くベール貯蔵安定性が悪い。さらに、後述する耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂組成物の製造時には、ベールを粉砕する時に、周辺機器に重合体ゴムが付着し易く異物混入の要因となり製品品質の面から好ましくない。
5%SVが50cPを超えると、後述する耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂の製造時に、ビニル芳香族単量体への溶解性が劣り好ましくない。さらに後述する耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂の光沢性が悪化する。
【0034】
〔分岐状共役ジエン重合体を用いた、耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂の製造方法〕
上述した選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体とビニル芳香族単量体との混合物、あるいは、選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体とビニル芳香族単量体と、当該ビニル芳香族単量体と共重合可能な単量体との混合物を、塊状重合、塊状懸濁重合、溶液重合からなる群より選ばれるいずれかの重合方法によりラジカル重合することによって、ビニル芳香族単量体への溶解性が良好でベール操作性に優れ、光沢性、耐衝撃性、熱安定性に優れた耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂を製造することができる。製造方法としては、塊状重合、塊状懸濁重合が好ましい。これらの重合方法について以下実施態様を述べる。
【0035】
前記ビニル芳香族単量体としては、従来公知のものを用いることができ、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、o−クロルスチレン、p−クロルスチレン、m−クロルスチレン、2−メチル−1,4−ジクロルスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの中でもスチレンが好ましい。これらのビニル芳香族化合物は、それぞれ単独又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
前記ビニル芳香族単量体と共重合可能な単量体としては、従来公知のものを用いることができ、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等のニトリル系単量体、メタクリル酸メチルエステル、アクリル酸メチルエステル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等のα、β―不飽和酸系単量体、フェニルマレイミド等が挙げられる。これらの中でもニトリル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、α、β―不飽和酸系単量体が好ましく、ニトリル系単量体がより好ましい。これらのビニル芳香族単量体と共重合可能な単量体は、それぞれ単独、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
前記ビニル芳香族単量体と前記ビニル芳香族単量体と共重合可能な単量体との使用割合は、ビニル芳香族化合物とビニル芳香族単量体と共重合可能な単量体の重量比で、50〜100:50〜0が好ましく、より好ましくは55〜95:45〜5、さらに好ましくは60〜90:40〜10の範囲である。
【0038】
一般に塊状重合においては、上述した本実施形態の選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体のようなゴム状重合体をスチレンのようなビニル芳香族単量体に溶解し、必要に応じてトルエンやエチルベンゼン等の希釈剤、流動パラフィンやミネラルオイル等の内部潤滑剤、酸化防止剤、メルカプタン類やα−メチルスチレン二量体の連鎖移動剤等を加え、開始剤無しの場合は通常95〜200℃において、開始剤重合においては一般により低い温度において、すなわち60〜170℃で、実質的にビニル芳香族単量体の重合が完了するまで重合操作を継続する。
【0039】
また、前記開始剤重合の場合は、重合開始剤として、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等のパーオキシケタール類、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、ベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、ラウロイパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド、ジ−ミリスチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート類、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、tert−ブチルパーオキシアセテート、ジ−tert−ブチルパーオキシイソフタレート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート類のパーオキシエステル類、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド、p−メンタハイドロパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサン等のアゾ化合物類等が用いられる。
これらは一種又は二種以上の組み合わせで用いられる。さらに必要に応じて、連鎖移動剤、例えばメルカプタン類、α−メチルスチレンリニアダイマー、テルピノーレンを用いることができる。
【0040】
耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂の塊状重合に際しては、公知の内部潤滑剤、例えば流動パラフィンを、ビニル芳香族系単量体100質量部に対して1〜5質量部添加してもよい。
【0041】
前記耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂の重合終了後、生成ポリマー中に少量(1〜20%)の未反応のビニル芳香族系単量体、例えばスチレンを含有する場合は、かかる未反応のビニル芳香族系単量体を公知の方法、例えば減圧除去あるいは揮発分除去の目的に設計された押出装置で除去する等の方法によって除去することが好ましい。
【0042】
かかる塊状重合中、必要に応じて攪拌を行うことが好ましい。なお攪拌は、ビニル芳香族系単量体、例えばスチレンの重合体への転化率、すなわちビニル芳香族系単量体の重合率が30%以上まで進んだ後、停止するか緩和することが好ましい。過度の撹拌は得られる耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂の強度を低下させるおそれがある。更に必要ならば、少量のトルエン、エチルベンゼン等の希釈剤の存在下で重合し、重合率60%以上の段階で未反応のビニル芳香族系単量体とともにこれら希釈剤を加熱除去してもよい。
【0043】
前記ビニル芳香族系樹脂の塊状・懸濁重合においては、まず前半の反応を塊状重合で行い、後半の反応を懸濁重合で行う。
すなわち、分岐状共役ジエン重合体のビニル芳香族系単量体、例えばスチレンの溶液を、先の塊状重合の場合と同様に無触媒下で加熱重合又は触媒添加重合し、ビニル芳香族系単量体、例えばスチレンの好ましくは50質量%以下、より好ましくは10〜40質量%までを部分的に重合させる。これが前半の塊状重合である。
次いで、この部分的に重合した混合物を、懸濁安定剤又はこれと界面活性剤の両者の存在下で、水性媒体中に撹拌下に分散させ、反応の後半を懸濁重合で完結させ、洗浄、乾燥し、必要によりペレット又は粉末化する。
【0044】
上述した耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂の製造方法は、従来公知の改変、改良を加えることができる。
【0045】
本実施形態の耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂は、耐衝撃性及び外観特性に優れており、射出成形、押出成形等の加工法で多種多様に実用上有用な製品として使用できる。
さらに加工に際し、必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、充填剤、難燃剤等更に他の熱可塑性樹脂例えば一般用ポリスチレン、メタクリル樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、スチレン・ブタジエンブロック共重合体樹脂、メチルメタクリレート・スチレン共重合体樹脂、無水マレイン酸・スチレン共重合体樹脂等と混合してもよい。
【0046】
(耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂の用途)
本実施形態の耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂は、外観や耐衝撃性、熱安定性に優れるため広範な用途に使用可能である。
例えば、洗濯機、エアコン、冷蔵庫、AV機器、パソコン、OA機器等の家電製品、玩具、食品用トレー、包装容器、化粧品容器、シート等の雑貨、自動車内外装、住宅資材等の構造材料、医療用器具材料、光学材料、電話、携帯電話等に用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、具体的な実施例と比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
〔共役ジエン重合体及び選択水添共役ジエン重合体の特性〕
<(1)共役ジエン単量体単位部分におけるビニル結合の割合(ビニル結合含有量)>
日本電子社製JNME CA500(500MHz)NMR装置を用いて、プロトンNMRにより測定した。
【0049】
<(2)カップリング率及びピーク分子量の測定>
GPC(装置は東ソー社製HLC−8320GPC EcoSECであり、カラムはTSKgel SuperMultipore 2本、溶媒はテトラヒドロフランを使用し、測定条件は、温度35℃、流速0.4mL/分、試料濃度0.1質量%、注入量50μLである。)のクロマトグラフを測定し、カップリングしていない(低分子量側のピーク)ピーク面積とカップリングされた(高分子量側のピーク)ピーク面積の比率からカップリング率を算出した。
分子量が既知の市販の標準単分散ポリスチレンを用いて作成した検量線を使用し、得られたGPCクロマトグラムから、ピーク分子量を求めた。
共役ジエン重合体の分子量分布曲線の低分子側(未カップリング部:最も低分子量部のピーク)のポリスチレン換算ピーク分子量(A)と共役ジエン重合体の分子量分布曲線の高分子側(カップリング部:最も低分子量部のピークよりも高分子量側に有するピークで、最もピーク高さが高いピーク部)のポリスチレン換算ピーク分子量(B)との比を算出し、当該比から各々のピーク分子量(A)、(B)を算出した。
【0050】
<(3)ムーニー粘度の測定>
島津製作所製MOONEY VISCOMETER SMV-202を使用し、100℃で余熱1分、駆動後4分後のトルクであるML1+4(100℃)を測定した。
【0051】
<(4)5質量%スチレン溶液粘度(5%SV)>
5%SVは、5gの選択部分水添された分岐状共役ジエン重合体を、95gのスチレンモノマーに2時間以上かけて溶解させて溶液を得、この溶液の粘度を、25℃において、キャノンフェンスケ粘度計を用いて測定し、センチポイズ(cP)で示した。
【0052】
<(5)形状変化率の測定>
縦4cm、横4cm、高さ5cm(H0)のベール状共役ジエン重合体、又は選択水添共役ジエン重合体に、1kgの荷重をのせ、23℃で60分間放置し、放置後の共役ジエン共重合体の高さ(Ht)(mm)を測定した。
以下の式で形状変化率を評価した。
この値が大きいほど、共役ジエン共重合体ゴムは変形しやすいと評価した。
形状変化率(%)=(H0−Ht)×100/H0
【0053】
<(6)選択水添後の1,2−ビニル結合部の水添率の測定>
選択水添共役ジエン重合体の1,2−ビニル結合部の不飽和結合単位量、及び飽和結合単位量は、日本電子社製JNME CA500(500MHz)NMR装置を用いて、プロトンNMRにより測定した。
1,2−ビニル結合部の水添率は、1,2−ビニル結合部の不飽和結合単位量/(不飽和結合単位の総量+飽和結合単位の総量)×100により算出できる。
【0054】
<(7)全水添率>
1,2−ビニル結合部の不飽和結合単位量、1,4−ブタジエン部の不飽和結合単位量、1,2−ビニル結合部が飽和された飽和結合単位量、1,4−ブタジエン結合部が飽和された飽和結合単位量をそれぞれ測定し、全水添率は、1,2−ビニル結合部及び1,4−ブタジエン結合部の水添後の全不飽和結合単位量/(全不飽和結合単位量+全飽和結合単位量)×100により算出した。
【0055】
<(8)選択水添共役ジエン重合体のビニル芳香族単量体に対する溶解性の測定>
約5mm角サイズにした選択水添共役ジエン重合体(合計5g)を、スチレン95g、に入れ、ヤマト科学製シェイキングバスBW400にて、25℃で往復振とう(振とう数200回/分)させ、選択水添共役ジエン重合体が完全に溶解するまでの時間(hr)を測定した。
溶解時間が10時間以上となる場合、耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂の重合工程に支障をきたすと判断した。
【0056】
<(9)粉砕時の付着性(粉砕された重合体の捕集率)>
20〜30mmの厚みにカットした選択水添共役ジエン重合体を、スクリーン4mmを取り付けたカッティングミル(Retsch社製、SM100)に、スタンダードタイプホッパーにて合計200g投入して粉砕し、試料受器で捕集し、捕集率を算出した。
捕集率が90%以下の場合に、粉砕機内の滞留物が粉砕時の熱により付着し長期滞留し、劣化(ゲル化)する恐れがあり好ましくないと判断した。
【0057】
<(10)選択水添共役ジエン重合体の、ビニル芳香族単量体とシアン化ビニル単量体との混合物に対する溶解性の測定>
約5mm角サイズにした選択水添共役ジエン重合体(合計5.3g)を、スチレン75g、アクリロニトリル25gの混合物に入れ、ヤマト科学製シェイキングバスBW400にて、25℃で往復振とう(振とう数200回/分)させ、選択水添共役ジエン重合体ゴムが完全に溶解するまでの時間を測定した。
溶解時間が10時間以上となる場合、耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂の重合工程に支障をきたすと判断した。
【0058】
〔水添反応に用いる水添触媒の調製〕
<(1)水添触媒I>
窒素置換した反応容器に乾燥、精製したシクロヘキサン1リットルを仕込み、ジクロロビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)チタニウム100ミリモルを添加し、十分に攪拌しながらトリメチルアルミニウム200ミリモルを含むn−ヘキサン溶液を添加して、室温にて約3日間反応させ、水添触媒Iを得た。
<(2)水添触媒II>
窒素置換した反応容器に乾燥、精製したシクロヘキサン2リットルを仕込み、ビス(η5−シクロペンタジエニル)チタニウムジ−(p−トリル)40ミリモルと分子量が約1,000の1,2−ポリブタジエン(1,2−ビニル結合含有量:約85%)150グラムを溶解した後、n−ブチルリチウム60ミリモルを含むシクロヘキサン溶液を添加して室温で5分反応させ、直ちにn−ブタノールを添加攪拌して室温で保存し、水添触媒IIを得た。
【0059】
〔重合体の調製〕
(重合体1の調製)
内容積30リットルの、撹拌翼とジャケットを備えた重合槽を用い、単量体当り100ppmの1,2−ブタジエンを含む濃度15質量%の1,3−ブタジエンのシクロヘキサン溶液を仕込み、単量体100質量部当り0.12質量部のn−ブチルリチウムを添加して撹拌下にピーキング温度90℃で重合を行い、リビングポリマー溶液を得た。
さらに、フィードリチウムに対し0.95当量のテトラメトキシシラン/シクロヘキサン溶液を加えてカップリング反応を行い、共役ジエン重合体の重合を終了させ、水添前の重合体の分析のための重合体溶液を採取した。
その後、重合槽内の得られた共重合体に上述した水添触媒Iを共重合体の重量に対してチタンとして25質量ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度70℃で水添率が20%程度になるまで水添反応を行った。
反応終了後にフィードチタンに対して当量のメタノールを添加し、重合体を反応器より抜き出した。
次に安定剤としてオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを重合体の重量に対して0.3質量%添加した。更に、得られた重合体溶液を攪拌下熱湯中に投下して、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、その後加熱乾燥し、重合体1を得た。
【0060】
(重合体2、3、6、7の調製)
所定の水添率になるまで水添反応を行なった以外は、上述した重合体1と同様の重合操作を実施し、安定剤としてオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを重合体の重量に対して0.3質量%添加した。
更に、得られた重合体溶液を攪拌下熱湯中に投下して、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、その後加熱乾燥し、それぞれ、重合体2、3、6、7を得た。
【0061】
(重合体4の調製)
内容積30リットルの、撹拌翼とジャケットを備えた重合槽を用い、単量体当り100ppmの1,2−ブタジエンを含む濃度15質量%の1,3−ブタジエンのシクロヘキサン溶液を仕込み、単量体100質量部当り0.12質量部のn−ブチルリチウムを添加して撹拌下にピーキング温度90℃で重合を行い、リビングポリマー溶液を得た。
さらに、フィードリチウムに対し0.8当量のテトラエトキシシラン/シクロヘキサン溶液を加えてカップリング反応を行い、共役ジエン重合体の重合を終了させ、水添前の重合体の分析のための重合体溶液を採取した。
その後、重合槽内の得られた共重合体に、上述した水添触媒IIを共重合体の重量に対してチタンとして25質量ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度70℃で水添反応を行った。
反応終了後にフィードチタンに対して当量のメタノールを添加し、重合体を反応器より抜き出した。
次に安定剤としてオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを重合体の重量に対して0.3質量%添加した。
更に、得られた重合体溶液を攪拌下熱湯中に投下して、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、その後加熱乾燥し、重合体4を得た。
【0062】
(重合体5の調製)
内容積30リットルの、撹拌翼とジャケットを備えた重合槽を用い、単量体当り100ppmの1,2−ブタジエンを含む濃度15質量%の1,3−ブタジエンのシクロヘキサン溶液を仕込み、単量体100質量部当り0.12質量部のn−ブチルリチウムを添加して撹拌下にピーキング温度90℃で重合を行い、リビングポリマー溶液を得た。
さらに、フィードリチウムに対し0.95当量のテトラメトキシシラン/シクロヘキサン溶液を加えてカップリング反応を行い、共役ジエン重合体の重合を終了させ、重合体を反応器より抜き出した。
次に安定剤としてオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを重合体の重量に対して0.3質量%添加した。
更に、得られた重合体溶液を攪拌下熱湯中に投下して、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、その後加熱乾燥し、重合体5を得た。
【0063】
(重合体8の調製)
内容積30リットルの、撹拌翼とジャケットを備えた重合槽を用い、単量体当り100ppmの1,2−ブタジエンを含む濃度15質量%の1,3−ブタジエンのシクロヘキサン溶液を仕込み、単量体100質量部当り0.12質量部のn−ブチルリチウムを添加して撹拌下にピーキング温度90℃で重合を行い、リビングポリマー溶液を得た。
さらに、フィードリチウムに対し0.95当量のテトラメトキシシラン/シクロヘキサン溶液を加えてカップリング反応を行い、共役ジエン重合体の重合を終了させ、水添前の重合体の分析のための重合体溶液を採取した。
その後、重合槽内の得られた共重合体に上述した水添触媒Iを共重合体の重量に対してチタンとして100質量ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度70℃で水添反応を行った。
反応終了後にフィードチタンに対して当量のメタノールを添加し、重合体を反応器より抜き出した。
次に安定剤としてオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを重合体の重量に対して0.3質量%添加した。
更に、得られた重合体溶液を攪拌下熱湯中に投下して、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、その後加熱乾燥し、重合体8を得た。
【0064】
(重合体9の調製)
内容積30リットルの、撹拌翼とジャケットを備えた重合槽を用い、単量体当り100ppmの1,2−ブタジエンを含む濃度15質量%の1,3−ブタジエンのシクロヘキサン溶液を仕込み、単量体100質量部当り0.12質量部の、n−ブチルリチウムを添加して、撹拌下にピーキング温度90℃で重合を行い、リビングポリマー溶液を得た。
さらに、フィードリチウムに対し0.65当量のテトラメトキシシラン/シクロヘキサン溶液を加えてカップリング反応を行った後、フィードリチウムに対し0.4当量のメタノールを加えて、共役ジエン重合体の重合を終了させ、水添前の重合体の分析のための重合体溶液を採取した。
その後、重合槽内の得られた共重合体に上述した水添触媒IIを共重合体の重量に対してチタンとして25質量ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度70℃で水添反応を行った。
反応終了後にフィードチタンに対して当量のメタノールを添加し、重合体を反応器より抜き出した。
次に安定剤としてオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを重合体の重量に対して0.3質量%添加した。
更に、得られた重合体溶液を攪拌下熱湯中に投下して、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、その後加熱乾燥し、重合体9を得た。
【0065】
(重合体10の調製)
内容積10リットルの、撹拌翼とジャケットを備えた重合槽に、底部より濃度15質量%の1,3−ブタジエンのn−ヘキサン溶液を毎分300ミリリットルの速度で、同時に単量体100質量部当り0.20質量部のn−ブチルリチウムを連続的にフィードした。
回転数150rpm、重合温度90℃で混合撹拌して重合を行い、さらにオーバーフローしたリビングポリマー溶液は、ノリタケ製スタテイックミキサー(18エレメント)に導入した。スタティックミキサー手前にて、フィードリチウムに対し当量のエタノールを加えて、さらに、内容積4リットルの水添反応機に導入した。
水添反応機手前にて上述した水添触媒IIを共重合体の重量に対してチタンとして25質量ppm添加し、高速撹拌下、水添温度100℃で所定の水添率になるように水素フィード量をコントロールして連続的に選択水添を行った。
水添反応機から出た溶液に、フィードチタンに対して当量のメタノールを添加し、次に安定剤としてオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを重合体の重量に対して0.3質量%添加した。更に、得られた重合体溶液を攪拌下熱湯中に投下して、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、その後加熱乾燥し、重合体10を得た。
【0066】
上述のようにして作製した重合体1〜10の、水添前及び選択部分水添後の特性を下記表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
〔実施例1〜4〕、〔比較例1〜5〕
重合体1〜4(実施例1〜4)、重合体5〜6(比較例1〜2)、重合体7(比較例3)、重合体9〜10(比較例4〜5)の、形状変化率、粉砕時の付着性・滞留量率、スチレンモノマー溶液への溶解性、スチレンとアクリロニトリルとの混合溶液への溶解性の測定結果を、下記表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
上記表2に示すように、重合体1〜4(実施例1〜4)は、形状変化率が30%以下であり、粉砕時の付着性・滞留率が小さいことが分かった。
選択部分水添していない重合体5(比較例1)及び選択部分水添率が5.2%の重合体6(比較例2)は、形状変化率が大きく、粉砕時に付着滞留しやすいことが分かった。
またカップリング率の低い重合体9(比較例4)及びカップリングしていない重合体10(比較例5)も、形状変化率が大きく、粉砕時に付着滞留しやすいことが分かった。
選択水添後の全水添率が40%以上で1,2−ビニル結合部の水添率が、99.0%を超えた重合体7(比較例3)は、形状変化率は小さく、粉砕時の付着滞留も少なく良好であるが、スチレン単量体等への溶解性が非常に悪いことが分かった。
【0071】
〔耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂の特性〕
後述の〔実施例5〜11〕、〔比較例6〜11〕に示すように、耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂を作製し、以下の特性の測定及び評価を行った。
<ゴム粒子平均粒子径>
耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂を、ジメチルフォルムアミドに溶解させ、樹脂中のマトリックスを形成するポリスチレン系樹脂部分のみを溶解させ、その溶液の一部を堀場製作所製の粒径分布(レーザー回折/散乱式)測定装置、LA−920型を使って測定セル中の溶媒ジメチルフォルムアミド液に分散させて測定し、得られた体積平均粒子径をゴム粒子径とした。
【0072】
<ゲル含量>
ゲル含量は、耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂中のゴム状分散粒子の割合であり、質量Wの耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂を、トルエンに3%の割合で溶解し、その溶液を遠心分離して不溶分を沈降せしめ、デカンテーションにより上澄み液を除去して不溶分を得、70℃で15時間程度真空乾燥し、20分間デシケーター中で冷却した後、乾燥した不溶分の質量Gを測定して、下記式により算出した。
ゲル含量(ゴム状分散粒子量)(質量%)=(G/W)×100
【0073】
<膨潤指数>
耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂の膨潤指数は、耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂を、トルエンに溶解し、その溶液を遠心分離して不溶分を沈降せしめ、デカンテーションにより上澄み液を除去してトルエンで膨潤した不溶分の質量Sを測定し、続いてトルエンで膨潤した不溶分を70℃で15時間真空乾燥し、20分間デシケーター中で冷却した後、不溶分の乾燥質量Dを測定して、下記式により算出した。
膨潤度SI=S/D
【0074】
<光沢性>
JIS Z8742(入射角60°)に準拠して光沢を測定した。
【0075】
<耐衝撃性>
アイゾット(Izod)衝撃強度を、JIS K7110(ノッチ付)に従って測定した。
【0076】
<耐衝撃性保持率>
JIS K7110に従って作製した耐衝撃性評価用試験片(ノッチ付)を、100℃のギアオーブンにて500時間加熱後のアイゾット(Izod)衝撃強度を測定し、加熱前のアイゾット(Izod)衝撃強度に対する耐衝撃性の保持率を算出した。
【0077】
<耐変色性>
耐衝撃性ビニル芳香族系樹脂を用い、射出成形にて平板プレート(厚み3mm)を作製し、100℃のギアオーブンにて500時間加熱後の変色性評価を、下記の3段階の基準により実施した。
加熱後も色の変化無し(白):◎
加熱後、ごくわずかに白さが劣る:○
加熱後、少し黄変がみられる:△
【0078】
〔実施例5〕
スチレン92質量部とエチルベンゼン5質量部に、重合体1を8質量部溶解し、更に0.15質量部のオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートとスチレンに対して300質量ppmの、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン及びスチレンに対して200質量ppmのt−ドデシルメルカプタンを添加し、攪拌型の重合槽にて、攪拌50rpm、102℃で5時間、その後、攪拌せずに120℃で1時間、135℃で2時間、150℃で2時間、170℃で2時間と順次昇温して重合を継続し、最終的に230℃で30分間加熱処理を行い、その後、未反応のスチレン及びエチルベンゼンの真空除去を行い、スチレン系樹脂(HIPS)を得た。
これを粉砕後、押出機にてペレット状として、射出成形してスチレン系樹脂の特性と物性を測定した。測定及び評価結果を下記表3に示す。
【0079】
〔実施例6〜9〕
実施例5と同様にして、重合体2〜4及び重合体8についても、スチレン系樹脂(HIPS)を得た。
これらを粉砕後、押出機にてペレット状として、射出成形してスチレン系樹脂の特性と物性を測定した。測定及び評価結果を表3に示す。
【0080】
〔比較例6〜10〕
実施例5と同様にして、重合体5〜7及び重合体9〜10についても、スチレン系樹脂(HIPS)を得た。
これらを粉砕後、押出機にてペレット状として、射出成形してスチレン系樹脂の特性と物性を測定した。測定及び評価結果を表3に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
表3より、重合体1〜4、8(実施例5〜9)は、光沢性と耐衝撃性のバランスに優れており、250℃×30分後の耐衝撃性保持率も良好であることが分かった。
選択部分水添していない重合体5(比較例6)及び選択部分水添率が5.2%の重合体6(比較例7)は、耐衝撃性及び耐衝撃性保持率が低く、耐変色性も劣ることが分かった。
選択水添後の全水添率が40%以上で1,2−ビニル結合部の水添率が、99.0%を超えた重合体7(比較例8)は、ゴム粒子の平均粒子径が大となり光沢が75%以下と劣ることが分かった。
またカップリング率の低い重合体9(比較例9)とカップリングしていない重合体10(比較例10)は、耐衝撃性が劣ることが分かった。
【0083】
〔実施例10〕
スチレン含有量75質量%、アクリロニトリル含有量25質量%のモノマー混合物100質量部に対して、エチルベンゼン10質量部、重合体1を7質量部溶解し、更に0.15質量部のオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートとモノマー混合物100質量部に対して200質量ppmの1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン及びモノマー混合物100質量部に対して1500質量ppmのt−ドデシルメルカプタンを添加し、攪拌型の重合槽にて、攪拌300rpm、100℃で5時間、その後、攪拌せずに120℃で1時間、135℃で2時間、150℃で2時間、170℃で2時間と順次昇温して重合を継続し、最終的に230℃で30分間加熱処理を行い、その後、未反応のスチレン、アクリロニトリル及びエチルベンゼンの真空除去を行い、ABS系樹脂を得た。
これを粉砕後、押出機にてペレット状として、射出成形してABS系樹脂の特性と物性を測定した。測定及び評価結果を表4に示す。
【0084】
〔実施例11、比較例11〕
実施例10と同様にして、重合体2及び重合体5についても、ABS系樹脂を得た。
これらを粉砕後、押出機にてペレット状として、射出成形してABS系樹脂の特性と物性を測定した。測定及び評価結果を表4に示す。
【0085】
【表4】
【0086】
表3及び表4に示すように、重合体1、2を用いた実施例10、11は、耐衝撃性保持率及び耐変色性のいずれも優れていることが分かった。