(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に示されたブレーカーにおいては、蓋部材がケース本体に超音波溶着されてケースが一体化されると共に、固定部が蓋部材(カバー部材)とケース本体とによって表裏両面から挟み込まれて、可動片の姿勢が固定される(同文献の段落(0032)、(0037)等参照)。超音波溶着の工程においては、蓋部材とケース本体との間に適正な摩擦力が生ずるように、蓋部材にはケース本体の方向に応力が掛けられる。この応力は、溶着工程の後も蓋部材の内部に残留し、可動片をケース本体に押圧して、ケース本体に対する可動片の姿勢を安定させる作用を有する。
【0007】
また、2次電池パック又は安全回路等にブレーカーを実装し、ブレーカーの端子を回路に接続する際に、溶接又ははんだ付け等の作業の手際如何によっては、可動片等から伝達された熱によって蓋部材が高温にさらされることがある。通常、端子のはんだ付け等は迅速に遂行されるため、蓋部材が過度の高温にさらされることはないが、例えば、高温雰囲気中におけるはんだ付け等の作業が余儀なくされる過酷な条件下・劣悪な環境下においては、端子のはんだ付け等の作業に手間取ると、蓋部材が高温となり蓋部材の内部に残留していた応力が急激に解放されて、可動片をケース本体に押圧して、ケース本体に対する可動片の姿勢を安定させる残留応力の作用が減縮される。また、応力の解放により蓋部材に歪みが生じ、可動片を適正な姿勢で固定することが困難となる虞がある。
【0008】
このような蓋部材の歪みに伴って可動片の姿勢に変動が生ずるとその先端部に設けられている可動接点とケース本体に設けられている固定接点との位置関係が変動し、通電時における両接点の接触抵抗に影響を及ぼす虞がある。また、可動接点と固定接点との位置関係の変動は、ブレーカーの温度特性を悪化させる一因となる。こうした蓋部材の歪みに伴う不具合は、ブレーカーの小型化を追求する程に顕著に現れる問題とされていた。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、小型化を図りつつ、通電時における安定した抵抗値と良好な温度特性を得ることができるブレーカーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、固定接点を有する固定片と、先端部に可動接点とを有し、前記可動接点を前記固定接点に押圧して接触させる可動片と、温度変化に伴って変形することにより前記可動接点が前記固定接点から離反するように前記可動片を作動させる熱応動素子と、前記固定片、可動片及び熱応動素子を収容するケースとを備えたブレーカーにおいて、前記可動片は、前記可動接点を前記固定接点に押圧するための弾性力を発生する第1弾性部と、前記ケースと当接し、該ケースに対する前記可動片の姿勢を保持するための弾性力を発生する第2弾性部とを有することを特徴とする。
【0011】
この発明において、前記ケースは、前記固定片をインサートして成形される第1ケースと、前記第1ケースに装着される第2ケースを有し、前記第2弾性部は、前記第2ケースと当接して前記可動片を前記第1ケースの側に付勢することが好ましい。
【0012】
この発明において、前記可動片は、前記第1ケースと前記第2ケースによって挟み込まれて前記ケースに対して固定される固定部を有し、前記第2弾性部は、前記固定部に形成されていることが好ましい。
【0013】
この発明において、前記可動片は、前記第1ケースと前記第2ケースによって挟み込まれて前記ケースに対して固定される固定部を有し、前記第2弾性部は、前記固定部から延出されていることが好ましい。
【0014】
この発明において、前記第2弾性部は、前記第1弾性部とは独立して前記固定部から延出されていることが好ましい。
【0015】
また、本発明の電気機器用の安全回路は、前記ブレーカーを備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の2次電池パックは、前記ブレーカーを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のブレーカーによれば、第1弾性部とは別に、ケースと当接するように設けられた第2弾性部の発生する弾性力によって、可動片のケースに対する姿勢が適正に保持される。これにより、ケースに残留する応力の作用を用いることなく、可動片の先端部に設けられている可動接点とケースに設けられている固定接点との位置関係を安定させることが可能となる。従って、通電時における両接点の接触抵抗が低減されると共に、ブレーカーの温度特性が良好に維持される。
【0018】
また、第2弾性部が弾性変形することにより、第2弾性部の周辺領域に発生する応力が第2弾性部に逃されるため、ケースに残留する応力が緩和される。すなわち、第2弾性部が弾性変形によって、より大きい応力を負担することにより、ケースに残留する応力を緩和する。このように、もともとケースに残留する応力が小さくなるので、過酷な条件下でブレーカーを実装しなければならない場合であっても、残留応力の解放に伴って生ずるケースの歪みを減少させることができる。これにより、ブレーカーの小型化を図りつつ、ケースの歪みを減少させて、通電時における安定した抵抗値と良好な温度特性を得ることが可能となる。
【0019】
また、固定片が第1ケースにインサート成形され、第2弾性部が第2ケースと当接して弾性力を発生し、可動片を第1ケースの側に付勢する構成によれば、第1ケースに対する可動片の姿勢が安定する。一方、第1ケースには固定片がインサート成形されているので、固定片に対する可動片の姿勢が安定し、可動接点と固定接点との位置関係がより一層安定する。
【0020】
また、第1ケースと第2ケースによって挟み込まれて固定される固定部に、第2弾性部が形成される構成によれば、第1ケース及び第2ケースに対する可動片の姿勢が安定し、可動接点と固定接点との位置関係がより一層安定する。
【0021】
また、第1ケースと第2ケースによって挟み込まれて固定される固定部から第2弾性部が延出されている構成によれば、第2ケースにおいて第2弾性部と当接する部位の形態の自由度を高めることができる。例えば、固定部から離れた場所に第2弾性部と当接する部位を設けることができる。これにより、ブレーカーの設計自由度を高めることが可能となる。
【0022】
また、第2弾性部が第1弾性部とは独立して固定部から延出されている構成によれば、第2弾性部の弾性変形が第1弾性部の姿勢に影響を及ぼすことがない。これにより、可動接点と固定接点との位置関係がより一層安定する。
【0023】
また、本発明のブレーカーを備えた安全回路又は2次電池パックによれば、ケースの歪みを減少させて、通電時における安定した抵抗値と良好な温度特性が得られる安全回路又は2次電池パックを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態によるブレーカーについて図面を参照して説明する。
図1乃至
図3はブレーカーの構成を示す。ブレーカー1は、固定接点21を有する固定片2と、先端部に可動接点3を有する可動片4と、温度変化に伴って変形する熱応動素子5と、PTC(Positive Temperature Coefficient)サーミスター6と、固定片2、可動片4、熱応動素子5及びPTCサーミスター6を収納するケース7等によって構成されている。ケース7は、樹脂ベース(第1ケース)71と樹脂ベース71の上面に装着されるカバー部材(第2ケース)72等によって構成されている。
【0026】
固定片2は、リン青銅を主成分とする金属板(この他、銅−チタン合金、洋白、黄銅などの金属板)をプレス加工することにより形成され、樹脂ベース71にインサート成形により埋め込まれている。固定片2の一端には外部と電気的に接続される端子22が形成され、他端部の近傍にはPTCサーミスター6が載置されている。PTCサーミスター6は、固定片2の他端部の近傍に3箇所形成された凸状のダボ(小突起)の上に載置される。固定接点21は、銀、ニッケル、ニッケル−銀合金の他、銅−銀合金、金−銀合金などの導電性の良い材料のクラッド、メッキ又は塗布等により可動接点3に対向する位置に形成され、樹脂ベース71の上方に形成されている開口73bから露出されている。端子22は樹脂ベース71の一端から外側に露出されている。
【0027】
可動片4は、板状の金属材料をプレス加工することにより、長手方向の中心線に対して対称なアーム状に形成されている。可動片4の材料としては、固定片2と同等のリン青銅を主成分とするものが好ましい。この他、銅−チタン合金、洋白、黄銅などの導電性弾性材料を用いてもよい。可動片4の長手方向の一端には外部回路と電気的に接続される端子41が形成されて樹脂ベース71から外側に露出される。可動片4の他端(アーム状の可動片4の先端に相当)には可動接点3が形成されている。可動接点3は、固定接点21と同等の材料によって形成され、溶接等の手法によって可動片4の先端部に接合されている。なお、本出願においては、可動片4において、可動接点3が接合されている面(すなわち
図1において下側の面)を裏(うら)面、その反対側の面を表(おもて)面として説明している。可動片4は、可動接点3と端子41の間に、固定部42(アーム状の可動片4の基端に相当)、及び第1弾性部43を有している。固定部42において樹脂ベース71とカバー部材72によって裏表両面側から挟み込まれて可動片4が固定され、第1弾性部43が弾性変形することにより、その先端に形成されている可動接点3が固定接点21の側に押圧されて接触し、固定片2と可動片4とが通電可能となる。樹脂ベース71とカバー部材72には、可動片4の固定部42と当接し、固定部42を固定状態で保持する当接部74と当接部79(
図4参照)がそれぞれ形成されている。本実施形態では、樹脂ベース71の収納部73の外縁から樹脂ベース71の外壁に亘る領域に当接部74が形成されている。また、カバー部材72において、段部77を含み、可動片4を挟んで当接部74と対向する領域に当接部79が形成されている。固定部42は、その裏面において樹脂ベース71の当接部74と当接し、その表面においてカバー部材72の当接部79と当接する。可動片4は、当接部74及び当接部79によって固定部42の裏表両面から挟み込まれて、ケース7に対して固定される。
【0028】
可動片4は、第1弾性部43において、プレス加工により湾曲又は屈曲されている。湾曲又は屈曲の度合いは、熱応動素子5を収納できる限り特に限定はなく、動作温度及び復帰温度における弾性力、接点の押圧力などを考慮して適宜設定すればよい。また、第1弾性部43の下面には、熱応動素子5に対向して一対の小突起44が形成されている。小突起44と熱応動素子5とは接触して、小突起44を介して熱応動素子5の変形が第1弾性部43に伝達される(
図2及び
図3参照)。
【0029】
また、可動片4には、可動片4の厚み方向に貫通し、樹脂ベース71の突起74aが挿通される貫通穴45と、クランク状に形成された段曲げ部46と、段曲げ部46に形成された斜面47と、樹脂ベース71の位置決め部75と係合される一対の係合部48と、可動片4の長手方向に対して垂直な短手方向に可動片4の一部が切除されたくびれ部49が形成されている。貫通穴45、段曲げ部46、斜面47、係合部48及びくびれ部49は、第1弾性部43を挟んで可動接点3とは反対側、すなわち第1弾性部43に対して端子41の側に設けられている。貫通穴45は、可動片4の長手方向の中心線上に設けられている。斜面47は、可動片4の方向に沿って連続して形成されている。係合部48は、可動片4の短手方向に沿って2箇所に設けられている。
【0030】
貫通穴45は、可動片4の固定部42に形成されている。固定部42は、第1弾性部43に対して可動片4の短手方向に幅広に形成されている。これにより、固定部42における可動片4の長手方向に垂直な断面積が、第1弾性部43における該断面積に対して大きい箇所となる。また、貫通穴45は、平面視で(可動片4の厚み方向に視て)可動片4の短手方向に長い長円形状に形成されている。
【0031】
係合部48は、くびれ部49の端子41の側の端縁にて形成される。くびれ部49は、固定部42を挟んで第1弾性部43とは反対側で、固定部42と端子41の間に配設されている。くびれ部49の幅寸法(可動片4の短手方向の長さ寸法、以下同様)は、第1弾性部43の幅寸法に対して同等以下に設定されているのが望ましいが、少なくとも固定部42及び端子41の幅寸法よりも小さく設定されていればよい。本実施形態におけるくびれ部49は、上記特許文献1における第2弾性部としての機能を有しており、端子41に加えられた外力や衝撃を吸収し、可動接点3の位置を適正に維持する。
【0032】
熱応動素子5は円弧状に湾曲した初期形状をなし、バイメタル、トリメタルなどの複合材料からなる。過熱により動作温度に達すると湾曲形状はスナップモーションを伴って逆反りし、冷却により復帰温度を下回ると復元する。熱応動素子5の初期形状は、プレス加工により形成することができる。所期の温度で熱応動素子5の逆反り動作により可動片4の第1弾性部43が押し上げられ、かつ第1弾性部43の弾性力により元に戻る限り、熱応動素子5の材質及び形状は特に限定されるものでないが、生産性及び逆反り動作の効率性の観点から矩形が望ましく、小型でありながら第1弾性部43を効率的に押し上げるために正方形に近い長方形であるのが望ましい。なお、熱応動素子5の材料としては、例えば、高膨張側に銅−ニッケル−マンガン合金又はニッケル−クロム−鉄合金、低膨張側に鉄−ニッケル合金をはじめとする、洋白、黄銅、ステンレス鋼など各種の合金からなる熱膨張率の異なる2種類の材料を積層したものが、所要条件に応じて組み合わせて使用される。
【0033】
熱応動素子5の逆反り動作により固定片2と可動片4との通電が遮断されたとき、PTCサーミスター6に流れる電流が増大する。PTCサーミスター6は、温度上昇と共に抵抗値が増大して電流を制限する正特性サーミスターであれば、動作電流、動作電圧、動作温度、復帰温度などの必要に応じて種類を選択でき、その形状はこれらの諸特性を損なわない限り特に限定されるものではない。
【0034】
ケース7を構成する樹脂ベース71及びカバー部材72は、難燃性のポリアミド、耐熱性に優れたポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの樹脂により成形されている。樹脂ベース71には、熱応動素子5及びPTCサーミスター6などを収納するための収納部73及び可動片4を収納するための開口73a,73bなどが形成されている。なお、樹脂ベース71に組み込まれた熱応動素子5及びPTCサーミスター6の端縁は、収納部73の内部に形成されている枠によってそれぞれ当接され、熱応動素子5の逆反り時に案内される。
【0035】
また、樹脂ベース71は、可動片4の貫通穴45に挿通される突起74aと、可動片4を位置決めするための一対の位置決め部75と、可動片4の端子41を外部に露出させるための窓76を有する。突起74aは、貫通穴45に対応し、平面視で長円形状に形成され、樹脂ベース71を補強する。突起74aの高さすなわち突出量は、可動片4の厚みより大きく設定され、カバー部材72の裏面には、突起74aの頂部に対応する凹部が必要に応じて設けられる。位置決め部75は、可動片4の長手方向に対して垂直な方向に沿って2箇所に設けられている。本実施形態では、窓76の存在によって、樹脂ベース71の側壁の一部が可動片4のくびれ部49に対応する形状に形成され、位置決め部75を構成する。すなわち、位置決め部75は、くびれ部49の近傍において切除された部分に介在し、樹脂ベース71を補強する。
【0036】
カバー部材72は、その内壁面から可動片4の段曲げ部46に対応する形状に突出する段部77と、段部77に形成された斜面78(
図5参照)とを有する。斜面78は、可動片4の斜面47に対応し、可動片4の長手方向に対して垂直な方向に沿って連続して形成されている。
【0037】
カバー部材72には、カバー片8がインサート成形によって埋め込まれている。カバー片8は、上述したリン青銅を主成分とする金属板又はステンレス鋼等の金属板をプレス加工することにより形成される。カバー片8は、
図2及び
図3に示すように、可動片4の上面と適宜当接し、可動片4の動きを規制すると共に、カバー部材72のひいては筐体としてのケース7の剛性・強度を高める。
【0038】
図1に示すように、固定片2、可動片4、熱応動素子5及びPTCサーミスター6等を収納した樹脂ベース71の収納部73を塞ぐように、カバー部材72が、樹脂ベース71の上面に装着される。樹脂ベース71とカバー部材72とは、例えば超音波溶着によって接合される。
【0039】
図2は、通常の充電又は放電状態におけるブレーカー1の動作を示している。通常の充電又は放電状態においては、熱応動素子5は初期形状を維持し(逆反り前であり)、固定接点21と可動接点3は接触し、可動片4の第1弾性部43などを通じてブレーカー1の両端子22、41間は導通している。可動片4の第1弾性部43と熱応動素子5とは接触しており、可動片4、熱応動素子5、PTCサーミスター6及び固定片2は、回路として導通している。しかし、PTCサーミスター6の抵抗は、可動片4の抵抗に比べて圧倒的に大きいため、PTCサーミスター6を流れる電流は、固定接点21及び可動接点3を流れる量に比して実質的に無視できる程度である。
【0040】
図3は、過充電状態又は異常時などにおけるブレーカー1の動作を示している。過充電又は異常により高温状態となると、PTCサーミスター6が過熱され、動作温度に達した熱応動素子5は逆反りし、可動片4の第1弾性部43が押し上げられて固定接点21と可動接点3とが離反する。このとき、固定接点21と可動接点3の間を流れていた電流は遮断され、僅かな漏れ電流が熱応動素子5及びPTCサーミスター6を通して流れることとなる。PTCサーミスター6は、このような漏れ電流の流れる限り発熱を続け、熱応動素子5を逆反り状態に維持させつつ抵抗値を激増させるので、電流は固定接点21と可動接点3の間の経路を流れず、上述の僅かな漏れ電流のみが存在する(自己保持回路を構成する)。この漏れ電流は安全装置の他の機能に充てることができる。
【0041】
過充電状態を解除し、又は異常状態を解消すると、PTCサーミスター6の発熱も収まり、熱応動素子5は復帰温度に戻り、元の初期形状に復元する。そして、可動片4の第1弾性部43の弾性力によって可動接点3と固定接点21とは再び接触し、回路は遮断状態を解かれ、
図2に示す導通状態に復帰する。
【0042】
図4は、可動片4の構成を示す。可動片4は、第2弾性部42aを有する。第2弾性部42aは、固定部42の中央部分が可動片4の表面側に隆起するように湾曲し、平面視でなだらかな円弧状に形成されている。第2弾性部42aは、固定部42の中央部に限らず、一部において可動片4の表面側に隆起するように湾曲していればよい。また、可動片4の裏面側に隆起するように湾曲していてもよい。さらには、第2弾性部42aは、第1弾性部43の根元近傍において、第1弾性部43と連続的に形成されている形態であってもよい。このような形態であっても、第2弾性部42aの存在によって、第1弾性部43の機能は妨げられない。第2弾性部42aは、固定部42がカバー部材72と樹脂ベース71とによって挟み込まれて、表裏から圧縮応力を受けたとき弾性変形し、可動片4の長手方向に伸張する。本実施形態においては、第2弾性部42aは、弾性変形し易いように、可動片4の短手方向に沿って、固定部42の端縁から端縁に亘って形成されている。第2弾性部42aが発生する弾性力は、ケース7に対する可動片4の姿勢を保持するように機能する。本実施形態においては、第2弾性部42aは、カバー部材72の当接部79と当接して弾性力を発生し、可動片4の固定部42を樹脂ベース71の当接部74の側に付勢して(固定部42を当接部74に押し付けて)、可動片4の姿勢を保持する。第2弾性部42aは、可動片4の長手方向に沿って形成されていてもよい。
【0043】
図5(a)(b)は、樹脂ベース71に可動片4が組み込まれ、カバー部材72が装着されて溶着される様子を時系列で示す。可動片4は、樹脂ベース71の開口73a,73bに案内されて樹脂ベース71に組み込まれる。このとき、
図1に示すように、可動片4に形成されているくびれ部49の両側の係合部48に位置決め部75が係合されると共に、貫通穴45に樹脂ベース71の突起74aが挿通される。また、貫通穴45に突起74aが挿通されることに加え、一対の係合部48と一対の位置決め部75との係合により、樹脂ベース71に対する可動片4の回転が規制され、仮の位置決めが容易に行われる。
【0044】
この仮の位置合わせの段階では、樹脂ベース71に対する可動片4の位置合わせが正確になされている必要はない。また、可動片4は、後の工程で最終的な位置合わせができるように、樹脂ベース71の上に載置された状態であり、固定されてはいない。なお、樹脂ベース71の開口73a,73b及び突起74aの位置、形状、寸法等は、仮の位置合わせがなされた位置から完全に位置決めされる定位置まで可動片4を案内し易くなるように、可動片4の対応する箇所と相似形に形成されている。
【0045】
図5(a)に示すように可動片4が樹脂ベース71に組み込まれた後、樹脂ベース71にカバー部材72が装着される。カバー部材72は、樹脂ベース71の開口73aに段部77を挿入し、可動片4の段曲げ部46に段部77を押し当てることで可動片4を位置合わせしながら、樹脂ベース71に装着される。
【0046】
図5(b)に示すように、カバー部材72が樹脂ベース71の方向(図中白抜き矢印方向)に押圧されると、可動片4の斜面47とカバー部材72の斜面78とが当接する。斜面47及び斜面78は、可動片4の長手方向に対して垂直な方向に沿って連続して形成されているので、なおもカバー部材72が樹脂ベース71の方向に押圧されると、可動片4の斜面47はカバー部材72の斜面78によって可動片4の長手方向に押される(付勢される)。その結果、斜面78,47によって力の方向が変換され、可動片4の全体が長手方向すなわち固定片2の存在する矢印A方向に押されて移動する。このとき、斜面47に対向して配設されている一対の係合部48と、斜面78に対向して配設されている一対の位置決め部75とが当接して係合する。これにより、突起74a等によって仮の位置合わせがなされていた可動片4は、樹脂ベース71に対して正確に位置決めされる。すなわち、樹脂ベース71に対して可動片4が組み込まれる際に生じている仮の位置合わせ時の誤差は軽減され、樹脂ベース71に対する可動片4の位置決め誤差を、実質的に樹脂ベース71の位置決め部75と可動片4の係合部48の製造時における寸法誤差程度に留めることができる。
【0047】
樹脂ベース71にカバー部材72が装着されるとき、樹脂ベース71がカバー部材72の方向に押圧されながら、樹脂ベース71又はカバー部材72のいずれか一方又は両方に超音波振動が付与されると、樹脂ベース71とカバー部材72との当接部位(主として、樹脂ベース71及びカバー部材72の周縁部)は摩擦熱により溶着し、樹脂ベース71とカバー部材72とが一体化され、ケース7を構成する。
【0048】
図6は、樹脂ベース71にカバー部材72が溶着された後における第2弾性部42aの周辺を拡大して示す。同図において、溶着前の第2弾性部42aの原形は、破線で示される。
図5(b)に示す状態からカバー部材72が樹脂ベース71の方向に押圧されると、第2弾性部42aの頂部は、カバー部材72の当接部79と当接する。なおもカバー部材72が押圧されると、第2弾性部42aは、当接部74と当接部79によって挟まれて圧縮応力を受け、可動片4の長手方向(可動片4の先端方向)に僅かに伸張しながら実線に示すように弾性変形する。
【0049】
溶着時においては、カバー部材72が樹脂ベース71の方向に押圧されることに起因して、当接部74及び当接部79並びに第2弾性部42aには、相応の圧縮応力が発生する。本実施形態にあっては、第2弾性部42aが破線で示した原形から実線で示した形状に弾性変形することにより、当接部74及び当接部79に発生する応力が逃されるため、溶着後に当接部74及び当接部79に残留する応力が緩和される。すなわち、第2弾性部42aが弾性変形によって、より大きい応力を負担することにより、当接部74及び当接部79に残留する応力を緩和する。
【0050】
以上のように、本実施形態のブレーカー1によれば、第1弾性部43とは別に、ケース7のカバー部材72と当接するように設けられた第2弾性部42aの発生する弾性力によって、可動片4のケース7に対する姿勢が適正に保持される。これにより、可動片4の先端部に設けられている可動接点3とケース7に設けられている固定接点21との位置関係が安定し、通電時における両接点の接触抵抗が低減されると共に、ブレーカー1の温度特性が良好に維持される。
【0051】
また、第2弾性部42aが弾性変形することにより、第2弾性部42aの周辺領域に発生する応力が第2弾性部42aに逃されるため、ケース7に残留する応力が緩和される。すなわち、第2弾性部42aが弾性変形によってより大きい応力を負担することにより、ケース7に残留する応力を緩和する。このように、もともとケース7に残留する応力が小さくなるので、過酷な条件下でブレーカー1を実装しなければならない場合であっても、残留応力の解放に伴って生ずるケース7の歪みを減少させることができる。これにより、ブレーカー1の小型化を図りつつ、ケース7の歪みを減少させて、通電時における安定した抵抗値と良好な温度特性を得ることが可能となる。
【0052】
また、固定片2が樹脂ベース71にインサート成形され、第2弾性部42aがカバー部材72と当接して弾性力を発生し、可動片4を樹脂ベース71の側に付勢して可動片4の姿勢を保持するので、第2弾性部42aが可動片4を樹脂ベース71の側に付勢し、固定部42を樹脂ベース71の当接部74に押し付けることにより、樹脂ベース71に対する可動片4の姿勢が安定する。一方、樹脂ベース71には固定片2がインサート成形されているので、固定片2に対する可動片4の姿勢が安定し、可動接点3と固定接点21との位置関係がより一層安定する。
【0053】
また、樹脂ベース71とカバー部材72によって挟み込まれて固定される固定部42に、第2弾性部42aが形成されるので、樹脂ベース71及びカバー部材72に対する可動片4の姿勢が安定し、可動接点3と固定接点21との位置関係がより一層安定する。
【0054】
また、樹脂ベース71にカバー部材72が装着されて超音波溶着されるとき、樹脂ベース71の突起74aの先端がカバー部材72の内壁面と当接し接合される。これに伴い、可動片4が、貫通穴45の周辺すなわち固定部42において、樹脂ベース71及びカバー部材72によって上下方向から強固に接合される。これにより、可動片4が、樹脂ベース71に対して定位置(あるべき位置)で固定される。なお、カバー部材72が樹脂ベース71に溶着され、可動片4が固定された後も、斜面47と斜面78とは当接状態を維持し、可動片4は、矢印A方向に押され続ける。また、これに伴い、位置決め部75と係合部48とは係合状態を維持し、樹脂ベース71に対する可動片4の位置及び姿勢は、正常に維持され続ける。
【0055】
(変形例)
図7は、可動片の変形例の構成を示す。可動片4Aは、固定部42から延出された一対の舌状の第2弾性部42bを有する点で、
図4等に示した可動片4とは異なる。この変形例においても、可動片4は、固定部42が当接部74及び当接部79によって固定部42の裏表両面から挟み込まれることにより、ケース7に対して固定される。
【0056】
一対の第2弾性部42bは、第1弾性部43を挟んで第1弾性部43と平行に固定部42から延出される。第1弾性部43と各第2弾性部42bとの間には、可動片4を厚み方向に貫通する溝42cが形成され、第1弾性部43と各第2弾性部42bとが分離される。すなわち、各第2弾性部42bは、第1弾性部43とは独立して固定部42から延出される。従って、それぞれが独立して変形可能であり、第1弾性部43の弾性変形が各第2弾性部42bの位置及び姿勢等に影響を及ぼすことがなく、各第2弾性部42bの弾性変形が第1弾性部43の位置及び姿勢等に影響を及ぼすこともない。各第2弾性部42bは、可動片4の表面側に隆起し、段曲げされ、その先端部が固定部42及び第1弾性部43に対して側面視で上方に位置される(
図8参照)。第2弾性部42bは、第1弾性部43と平行に固定部42から延出される形態に限られず、可動片4の短手方向に延出される形態であってもよい。また、貫通穴45の内側に延出される形態であってもよい。この形態においては、第2弾性部42bとの干渉を回避するために、突起74aの形状も変更される。
【0057】
図8は、樹脂ベース71にカバー部材72が溶着された後における第2弾性部42bの周辺を拡大して示す。同図において、溶着前の第2弾性部42bの原形は、破線で示される。
図5(b)に示す状態からカバー部材72が樹脂ベース71の方向に押圧されると、第2弾性部42bの先端部は、カバー部材72にインサート成形されているカバー片8の裏面と当接する。なおもカバー部材72が押圧されると、第2弾性部42bは、カバー片8によって
図8において下方に押圧され、可動片4の長手方向(可動片4の先端方向)に僅かに伸張しながら実線に示すように弾性変形する。
【0058】
ケース7に対する可動片4の姿勢を安定させるためには、弾性変形によって生じた応力を用いて可動片4を付勢し保持する構成が有効である。本変形例においては、第2弾性部42bの弾性変形によって可動片4が付勢される。そして、固定部42から離れた位置に第2弾性部42bとカバー片8との当接部位が形成されているため、第2弾性部42bによって付勢された可動片4には、図中反時計回りにモーメントが発生する。このモーメントは、固定部42における第1弾性部43の側を当接部74に押し付け、固定部42における端子41の側を当接部79に押し付けるように作用し、ケース7に対する可動片4の姿勢が安定する。仮に、当接部74、固定部42及び当接部79の間に上下方向に僅かに隙間が生じていても、第2弾性部42bが発生するモーメントを上回る時計回りのモーメントが可動片4に付与されない限り、ケース7に対する固定部42の姿勢が変動する虞はない。
【0059】
本変形例においては、第2弾性部42bが弾性変形することにより、ケース7に対する可動片4の姿勢を安定させるので、構造上、当接部74、固定部42及び当接部79に強い圧縮応力を付与する必要がなく、そのため、ケース7に残留する応力が緩和される。すなわち、第2弾性部42bが弾性変形によってより大きい応力を負担することにより、ケース7に残留する応力を緩和する。このように、もともとケース7に残留する応力が小さくなるので、過酷な条件下でブレーカー1を実装しなければならない場合であっても、残留応力の解放に伴って生ずるケース7の歪みを減少させることができる。これにより、通電時における安定した抵抗値と良好な温度特性を得ることが可能となる。
【0060】
また、樹脂ベース71とカバー部材72によって挟み込まれて固定される固定部42から第2弾性部42bが延出されているので、カバー部材72において第2弾性部42bと当接する部位の形態の自由度を高めることができる。例えば、変形例においては、カバー部材72にインサート成形されているカバー片8に第2弾性部42bを直接当接させることにより、カバー部材72の歪みをより一層抑制することができる。カバー片8を構成する金属材料は、カバー部材72を構成する樹脂材料に対して、一般的に弾性係数が高いからである。
【0061】
また、第2弾性部42bが第1弾性部43とは独立して固定部42から延出されているので、第2弾性部42bの弾性変形が第1弾性部43の姿勢に影響を及ぼすことがない。これにより、可動接点3と固定接点21との位置関係がより一層安定する。
【0062】
また、可動片4とカバー片8とが第2弾性部42bを介して接触しているので、
図2に示す通電時において、可動片4に電流が流れることによって発生するジュール熱をカバー片8に伝導させて、熱応動素子5の発熱を抑制できる。ノート型パーソナルコンピュータ、タブレット型携帯情報端末機器又はスマートフォンと称される薄型の多機能携帯電話機等の電子機器にブレーカー1が適用される場合、CPUの負荷の変動やLCDのバックライトの明るさの変動によって可動片4に流れる電流が変動する。このような電流の変動に対して熱応動素子5が過度に敏感に作動してブレーカー1が頻繁に反応すると、電子機器の動作に支障を来たす。本変形例においては、可動片4に発生するジュール熱をカバー片8に伝導させるので、可動片4に流れる電流に対して熱応動素子5が過度に敏感に作動することを抑制できる。
【0063】
なお、本発明は上記実施形態の構成に限られることなく、少なくとも可動片4が、可動接点3を固定接点21に押圧するための弾性力を発生する第1弾性部43と、ケース7と当接し、ケース7に対する可動片4の姿勢を保持するための弾性力を発生する第2弾性部42a又は第2弾性部42bを有していればよい。また、第2弾性部42a及び第2弾性部42bを有する構成であってもよい。
【0064】
また、本発明は、上記変形例の他、種々の変形が可能である。例えば、第2弾性部42a又は第2弾性部42bの形態は、ケース7と当接し、ケース7に対する可動片4の姿勢を保持するための弾性力を発生する形態であれば、
図4又は
図6に示したものに限られない。また、第2弾性部42a及び第2弾性部42bは、側面視で可動片4の裏面側に突出し、樹脂ベース71と当接して弾性力を発生し、固定部42をカバー部材72の側に付勢して可動片4の姿勢を保持する構成であってもよい。また、第2弾性部42a若しくは第2弾性部42bに加えて、又は第2弾性部42a若しくは第2弾性部42bに替えて、カバー片8に可動片4と当接する第2弾性部を設けた構成であってもよい。この構成によれば、カバー片8に設けられた第2弾性部が可動片4の固定部42を樹脂ケース71の側に付勢する。
【0065】
さらにまた、板状の金属材料によって形成される可動片4は、それ自身で弾性を有しているので、その一部を板ばね状の第2弾性部として機能させるように構成してもよい。この場合、必要に応じて、可動片4の一部を屈曲、湾曲、段曲げ又は折返したり、樹脂ベース71の一部を凹状に形成することにより、第2弾性部が弾性変形するための空間を形成したり、カバー部材72に第2弾性部と当接する凸部を形成したりすればよい。また、第2弾性部の弾性変形を容易にするために、第2弾性部の周縁に可動片4を厚み方向に貫通する溝等を形成してもよい。このような第2弾性部によっても、可動片4は樹脂ベース71又はカバー部材72の側に付勢されてその姿勢が安定し、固定接点21に対する可動接点3の相対的な位置が安定する。
【0066】
また、
図1等においては、可動片4は、貫通穴45、段曲げ部46、斜面47、係合部48及びくびれ部49の構成を有する形態であるが、これらの構成うちのいずれか又は全てが廃されていてもよい。例えば、貫通穴45を廃する場合は、樹脂ベース71の突起74aも廃される。また、段曲げ部46、斜面47が廃される場合は、可動片4は平面状に形成され、樹脂ベース71の当接部74及びカバー部材72の当接部79が平坦な形状となる。この構成においては、段曲げ部46及び斜面47を廃することにより、可動片4及び樹脂ベース71の長手方向の寸法を小さくして、ブレーカー1のさらなる小型化を図ることができる。なお、可動片4の段曲げ部46及び斜面47は、必要に応じて樹脂ベース71の外部に設けられていてもよい。また、係合部48及びくびれ部49が廃される場合は、可動片4は、固定部42から端子41に亘って等幅に形成され、これに伴い樹脂ベース71の位置決め部75の形状も変更される。
【0067】
また、樹脂ベース71とカバー部材72との接合手法は、超音波溶着に限られることなく、両者が強固に接合される手法であれば、適宜適用することができる。例えば、液状又はゲル状(膠状)の接着剤を塗布・充填し、硬化させることにより、両者が接着されてもよい。また、ケース7は、樹脂ベース71とカバー部材72等によって構成される形態に限られることなく、2個以上の部品によって可動片4が挟まれて保持される形態であればよい。この場合、一方が第1ケース、他方が第2ケースとなる。
【0068】
また、本実施形態では、PTCサーミスター6による自己保持回路を有しているが、このような構成を省いた形態であっても適用可能であり、導通抵抗を抑制しつつ、ブレーカー1の小型化を図ることができる。また、可動片4をバイメタル又はトリメタル等によって形成することにより、可動片4と熱応動素子5を一体的に形成する構成であってもよい。この場合、ブレーカーの構成が簡素化されて、さらなる小型化を図ることができる。
【0069】
また、特開2005−203277号公報に示されるような、固定部42又はその近傍において、端子41の側と可動接点3の側に構造的に分離されている形態に、本発明を適用してもよい。
【0070】
また、本発明のブレーカー1は、
図9に示した2次電池パック及び
図10に示した安全回路等にも広く適用できる。