特許第6010360号(P6010360)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6010360
(24)【登録日】2016年9月23日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】エアフィルタユニット
(51)【国際特許分類】
   B01D 46/52 20060101AFI20161006BHJP
【FI】
   B01D46/52 A
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-142103(P2012-142103)
(22)【出願日】2012年6月25日
(65)【公開番号】特開2014-4530(P2014-4530A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年6月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232760
【氏名又は名称】日本無機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】廣東 道博
(72)【発明者】
【氏名】林 嗣郎
(72)【発明者】
【氏名】杉本 数弘
【審査官】 関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−190731(JP,A)
【文献】 特開昭51−118166(JP,A)
【文献】 特開2009−136760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 46/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気流中の塵を捕集するエアフィルタユニットであって、
繊維製濾材を第1の方向に沿って複数回折ったジグザク形状のプリーツ濾材と、
前記プリーツ濾材に形成される複数の折り畳み空間のそれぞれを維持するために前記折り畳み空間のそれぞれに挿入される、波形状に折り曲げられて前記第1の方向に延びる複数の金属製の空間維持部材と、
前記折り畳み空間に前記空間維持部材が挿入された前記プリーツ濾材の周囲を囲み、前記プリーツ濾材を支持固定する金属製のフィルタ枠体と、
前記プリーツ濾材における前記第1の方向の両端部と当接することにより、前記フィルタ枠体との間の隙間をシールする繊維製シール材と、を有し、
前記空間維持部材の線膨張係数は、前記フィルタ枠体の線膨張係数以上であり、
前記空間維持部材のうち、前記第1の方向と直交する第2の方向において前記プリーツ濾材の最も外側に位置する両側部を含む側部領域に設けられる第1の空間維持部材の線膨張係数は、いずれも、前記側部領域に挟まれる中央部領域に設けられる第2の空間維持部材の線膨張係数に比べて小さい、ことを特徴とするエアフィルタユニット。
【請求項2】
前記第1の空間維持部材には、前記第2の空間維持部材の金属材料と同じ金属材料であって、0〜400℃の平均線膨張係数が前記第2の空間維持部材に比べて小さい熱処理金属材料が用いられる、請求項1に記載のエアフィルタユニット。
【請求項3】
前記フィルタ枠体に、ステンレス鋼が用いられ、前記第1の空間維持部材及び前記第2の空間維持部材に、アルミニウムあるいはアルミニウム合金が用いられる、請求項1または2に記載のエアフィルタユニット。
【請求項4】
前記第1の空間維持部材の線膨張係数をAとし、前記第2の空間維持部材の線膨張係数をBとしたとき、比A/Bは0.4以上1.0未満である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエアフィルタユニット。
【請求項5】
前記第1の空間維持部材の表面には、型押しされて形成された凹凸部が複数設けられている、請求項1〜4のいずれか1項に記載のエアフィルタユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気流中の塵を捕集するエアフィルタユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造工程や自動車用鋼板の塗装乾燥工程等において導入空気を清浄化するための高温用エアフィルタが用いられている。半導体の製造、特にフラットパネルディスプレイの製造時の成膜や微細パターンの形成時、数100℃の高温を要求される工程において導入空気を清浄化するニーズがある。このため、耐熱性に優れた高温用エアフィルタが求められている。
【0003】
従来より、濾材をフィルタ枠体に収容する際、濾材とフィルタ枠体とをセラミックセメントにより接着固定する方法が用いられてきた(特許文献2)。
一般に、高温用エアフィルタユニットの使用時、エアフィルタユニットは例えば300〜400℃の温度に加熱され、使用されないときは、室温に冷やされるので、室温と300〜400℃の高温との間を繰り返す熱履歴を受ける。このため、濾材とフィルタ枠体の間に用いられる接着剤が、接着剤と濾材、あるいは接着剤とフィルタ枠体との間の膨張係数の違い及び上記熱履歴とにより、接着剤の層が損傷しクラックが入り、エアフィルタユニットのシール性が維持できない場合がある、この場合、クラックを通して小さな塵等が通過し、下流に流れてしまう。さらには、濾材の一部が破損する場合もある。
【0004】
これに対して、シリコーン樹脂及び耐熱性の無機系のシール剤等の接着剤を使用することなく、高温域でも使用でき、且つ、エアフィルタの製作のための作業効率を向上させるエアフィルタが知られている(特許文献2)。
当該エアフィルタは、ジグザグ状に折り畳まれた濾紙(プリーツ濾材)の折り畳み空間に波形のセパレータ(空間維持部材)を介挿したフィルタパックを、濾紙のジグザグ状の端部側に配置した平均繊維径1μm以下の超極微細ガラス繊維からなる密度20〜120kg/mのシート状シール材を介してフィルタ枠に収容する。すなわち、当該エアフィルタは、濾紙の端部をシート状シール材に当接させることによりエアフィルタユニットのシール性を確保する。
特に、当該エアフィルタを高温域で用いるために、フィルタ枠体に高温使用に耐えられるようにステンレス鋼が用いられ、アルミニウムあるいはアルミニウム合金のセパレータが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭63−6023号公報
【特許文献2】特許第4472398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記エアフィルタでは、上述した熱履歴を受けることにより、長期間繰り返しエアフィルタを使用すると、図7に示すように、アルミニウムあるいはアルミニウム合金からなるセパレータ114が矢印の方向に収縮して、濾紙112の両側部の折り畳み空間を適正に維持できなくなる。さらには、セパレータ114の収縮によりセパレータ114で保持されない濾紙112の部分が折れ曲がって濾紙112の図中の上下方向の端部が上記シート状シール材と当接しなくなり、シート状シール材と濾紙との間に隙間ができる場合がある。このような場合、塵等がエアフィルタの下流側に流れ、エアフィルタの機能を発揮しない。なお、図7中の符号116はフィルタ枠体であり、符号112は、プリーツ濾材である。
【0007】
そこで、本発明は、従来の問題点を解決するために、複数サイクルの熱履歴を受けても、長期間安定してエアフィルタの特性を維持することができるエアフィルタユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、従来のエアフィルタユニットでは、フィルタ枠体と接する濾紙(プリーツ濾材)の両側部を含む側部領域に設けられるセパレータ(空間維持部材)の収縮が特に大きく、この収縮がエアフィルタユニットのシール性の上で大きな問題となっていることを知見した。さらに、本発明者は、上述したセパレータ(空間維持部材)の収縮が、セパレータの線膨張係数とフィルタ枠体の線膨張係数との差異によって生じることを見出した。すなわち、濾紙(プリーツ濾材)の側部領域に設けられるセパレータ(空間維持部材)の線膨張係数を、フィルタ枠体の線膨張係数に近づけるために、濾紙(プリーツ濾材)の中央部領域に設けられるセパレータ(空間維持部材)の線膨張係数に比べて低くすることにより、濾紙(プリーツ濾材)の側部領域に設けられるセパレータ(空間維持部材)の収縮を抑制することができ、これにより、エアフィルタユニットのシール性を維持することができることを知見し、本発明に至っている。
【0009】
すなわち、本発明の一態様は、気流中の塵を捕集するエアフィルタユニットである。当該エアフィルタユニットは、
繊維製濾材を第1の方向に沿って複数回折ったジグザク形状のプリーツ濾材と、
前記プリーツ濾材に形成される複数の折り畳み空間のそれぞれを維持するために前記折り畳み空間のそれぞれに挿入される、波形状に折り曲げられて前記第1の方向に延びる複数の金属製の空間維持部材と、
前記折り畳み空間に前記空間維持部材が挿入された前記プリーツ濾材の周囲を囲み、前記プリーツ濾材を支持固定する金属製のフィルタ枠体と、
前記プリーツ濾材における前記第1の方向の両端部と当接することにより、前記フィルタ枠体との間の隙間をシールする繊維製シール材と、を有する。
前記空間維持部材の線膨張係数は、前記フィルタ枠体の線膨張係数以上である。
前記空間維持部材のうち、前記第1の方向と直交する第2の方向において前記プリーツ濾材の最も外側に位置する両側部を含む側部領域に設けられる第1の空間維持部材の線膨張係数は、いずれも、前記側部領域に挟まれる中央部領域に設けられる第2の空間維持部材の線膨張係数に比べて小さい。
【0010】
その際、前記第1の空間維持部材には、前記第2の空間維持部材の金属材料と同じ金属材料であって、0〜400℃の平均線膨張係数が前記第2の空間維持部材に比べて小さい熱処理金属材料が用いられる、ことが好ましい。
【0011】
また、前記フィルタ枠体に、例えばステンレス鋼が用いられ、前記第1の空間維持部材及び前記第2の空間維持部材に、例えばアルミニウムあるいはアルミニウム合金が用いられる。
【0012】
さらに、前記第1の空間維持部材の線膨張係数をAとし、前記第2の空間維持部材の線膨張係数をBとしたとき、比A/Bは0.4以上1.0未満である、ことが好ましい。
【0013】
さらに、前記第1の空間維持部材の表面には、型押しされて形成された凹凸部が複数設けられている、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上記エアフィルタユニットによれば、繰り返し熱履歴を受けても、長期間安定してエアフィルタの特性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態のエアフィルタユニットの概観斜視図である。
図2】(a)は、本実施形態のエアフィルタユニットの正面図であり、(b)は、(a)に示すX−X線に沿った矢視断面図である。
図3】本実施形態のエアフィルタユニットの構造の一例を説明する図である。
図4】本実施形態のエアフィルタユニットの構造の他の例を説明する図である。
図5】本実施形態のエアフィルタユニットの構造の他の例を説明する図である。
図6】本実施形態のエアフィルタユニットの構造の他の例を説明する図である。
図7】従来のエアフィルタユニットについて説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のエアフィルタユニットについて詳細に説明する。
【0017】
[エアフィルタユニット]
図1は、本実施形態のエアフィルタユニットの外観斜視図である。図2(a),(b)は、本実施形態エアフィルタ10の正面図及びそのX−X断面図である。
図1に示すエアフィルタユニット10は、高温用エアフィルタユニットであり、例えば、350℃以上(例えば最高400℃まで)の温度において耐熱性を有する。
エアフィルタユニット10は、プリーツ濾材12と、空間維持部材であるセパレータ14と、フィルタ枠体16と、繊維製シール材18(図2(b)参照)と、を主に有する。
【0018】
プリーツ濾材12は、繊維製濾材を第1の方向(図1の上下方向)に沿って複数回折ったジグザク形状を成している。プリーツ濾材12は、無機質繊維製濾紙を含む。無機質繊維製濾紙としては、例えば、極細ガラス繊維を有機バインダで結合した抄造法によるガラス繊維紙であり、HEPAやULPA用などの濾材を使用することができる。プリーツ濾材12は、シート状の濾材を、気流の上流及び下流側に向くように山折り、谷折りを行うことにより、例えば90回折ることにより形成される。
【0019】
セパレータ14は、プリーツ濾材12に形成される複数の折り畳み空間のそれぞれを維持するための空間維持部材であり、この折り畳み空間のそれぞれに挿入される複数の金属製の部材である。セパレータ14は、繊維製シール材18に当接している。具体的には、セパレータ14は、波形状に折り曲げられて形成されて、図1に示すように、折り畳み空間に挿入され、図中の上下方向に延びている。セパレータ14の材料は、オーステナイト系あるいはフェライト系のステンレス鋼、1000系の純アルミニウム(1000番台のアルミニウム)、2000系のAl−Cu系合金、3000系のAl−Mn系合金、4000系のAl−Si系合金、5000系のAl−Mg系合金、6000系のAl−Mg−Si系合金、7000系のAl−Zn−Mg系合金、さらに、8011H18等を含む8000系のアルミニウム合金を含む。アルミニウム合金8011H18は、例えば、Al:97.52質量%以上、Cu:0.1質量%、Si:0.5〜0.9質量%、Fe:0.6〜1.0質量%、Mn:0.2質量%、Zn:0.1質量%、Ti:0.08質量%の組成を有する。特に、セパレータ14の重量を低下させる点で、アルミニウムあるいはアルミニウム合金を用いることが好ましい。セパレータ14は多数の折り畳み空間のそれぞれに挿入されるので、ステンレス鋼を用いると重量が増大し、エアフィルタユニット10の設置作業性が劣り、エアフィルタユニット10の設置場所が制限されるため、実用上好ましくない。セパレータ14は、板厚を例えば25〜65μmである。
【0020】
フィルタ枠体16は、折り畳み空間のそれぞれにセパレータ14が挿入されたプリーツ濾材12の周囲を囲み、プリーツ濾材12を支持固定する金属製の部材である。フィルタ枠体16は、気流の流れる上下流側(図2(b)の左右方向の両側)にリブ16aを立設した4枚の枠板が組み合わされて構成されている。リブ16aの先端部は、エアフィルタユニット10の内側に向かって折り曲げられている。フィルタ枠体16は、熱耐久性を有する点から、ステンレス鋼、例えば、SUS304あるいはSUS430で構成されることが好ましい。フィルタ枠体16は、この他に、アルミニウムあるいはアルミニウム合金や鋼を用いることもできる。
【0021】
繊維製シール材18は、フィルタ枠体16に設けられたプリーツ濾材12における第1の方向の両端部(図1中の上下方向の両端部)と当接することにより、フィルタ枠体16との間の隙間をシールする。
繊維製シール材18には、超極細ガラス繊維が用いられる。繊維製シール材18は、例えば、厚さ1〜4mm、目付80〜120g/m、密度20〜120kg/mの無機質繊維で構成したものを使用することができる。超極細ガラス繊維は、例えば、平均繊維径1μm以下の超極細ガラス繊維である。繊維製シール材18は、この繊維をバインダを用いることなく、紡糸・集綿したシート状に成形して、繊維製シール材18が形成されることが好ましい。超極細ガラス繊維製の繊維製シール材18の密度が120kg/mを超えると、フィルタ枠体16やセパレータ12等に使用される金属の伸びの吸収性が悪くなる。一方、繊維製シール材18の密度が20kg/m未満であると、フィルタパック(プリーツ濾材12の折り畳み空間にセパレータ14が挿入された組立体)を押さえる力が小さいために塵等のリークを生じ、シール性が保てないという問題がある。また、上記平均繊維径が1μmを超えると、プリーツ濾材12のジグザグ形状の端部の凹凸に馴染み難くシール性が不十分となる。
【0022】
このようなエアフィルタユニット10において、セパレータ14のいずれの線膨張係数も、フィルタ枠体16の線膨張係数以上になっている。エアフィルタユニット10の使用中、エアフィルタユニット10の温度が室温から300℃以上の高温になって、セパレータ14及びフィルタ枠体16に熱膨張が生じても、セパレータ14とフィルタ枠体16の線膨張係数の違いに起因して、フィルタ枠体16の熱膨張はセパレータ14の熱膨張と同等かそれより小さい。このため、室温のみならず高温においても、セパレータ14が繊維製シール材18と当接した状態は維持され、セパレータはプリーツ濾材12の形状を保持することができる。一方、セパレータ14の線膨張係数が、フィルタ枠体16の線膨張係数より小さい場合、セパレータ14及びフィルタ枠体16に熱膨張が生じると、熱膨張の違いにより、セパレータ14と繊維製シール材18との間に隙間ができ、セパレータ14が繊維製シール材14に当接しない。この結果、高温状態でプリーツ濾材12の形状を部分的に保持できなくなる場合が生じる。このため、セパレータ14の線膨張係数は、フィルタ枠体16の線膨張係数以上になっている。ここで、線膨張係数は、0度と400℃における長さから求められる平均した線膨張係数をいう。
【0023】
さらに、セパレータ14は、線膨張係数の大小によって2つのセパレータに分けられている。線膨張係数の小さいセパレータ14aは、第1の方向(図1中の上下方向)と直交する第2の方向(図1中の左右方向)において、プリーツ濾材12の最も外側に位置する両側部を含む側部領域R1に設けられ、セパレータ14aに比べて線膨張係数の大きいセパレータ14bは、側部領域R1に挟まれた中央部領域R2に設けられている。
側部領域R1は、プリーツ濾材12の折り畳み空間の総数をN個とすると、側部領域R1の範囲の端は、上記第2の方向(図1中の左右方向)の、プリーツ濾材12の両側部から折り畳み空間を順番に数えて、例えば0.05・N個〜0.1・N個(0.05・N,0.1・Nが整数でないときは、0.05・N,0.1・Nを越えない最大の整数)の折り畳み空間の範囲にある。例えば、プリーツ濾材12の折り畳み空間の総数を90個とすると、側部領域R1の中央部側の端は、プリーツ濾材12の両側部から折り畳み空間を順番に数えて、4個〜9個目までの折り畳み空間の範囲に位置し、したがって、この場合、線膨張係数の大きいセパレータ14aは、両側部から連続して4〜9個の折り畳み空間に設けられる。
上記範囲内に位置するセパレータ14aは、フィルタ枠体16に近く、室温〜高温の熱履歴を大きく受けるため、セパレータ14の収縮はそれ以外の領域のセパレータ14bに比べて大きい。このため、セパレータ14aの熱膨張係数は、フィルタ枠体16の線膨張係数に近づくように、セパレータ14bの線膨張係数に比べて小さい。
【0024】
なお、エアフィルタユニット10が室温と300〜400℃の高温の間を繰り返す熱履歴を受けることで、セパレータ14が熱収縮するのは、以下の理由によると考えられる。
すなわち、300〜400℃の高温に昇温すると、セパレータ14は熱膨張しようとするが、この熱膨張に比べて、フィルタ枠体16の熱膨張は同等かそれより小さい。しかも、セパレータ14は、折り畳み空間内にプリーツ濾材12の形状を保持するように挿入されているので、セパレータ14が膨張する余地は少ない。特に、セパレータ14の図1中の上下方向に長いので、セパレータ14は図1中の上下方向に大きく膨張しようとする。しかし、この膨張は、フィルタ枠体16及び繊維製シール材18によって抑えられた状態が続く。特に、フィルタ枠体16に近い側部領域R1にあるセパレータ14の膨張は中央部領域R2に比べて大きく拘束される。この状態が続くことで、セパレータ14はフィルタ枠体16に抑えられて形状が安定化する。この後、エアフィルタユニット10の使用が終了し、温度が室温に低下したときセパレータ14は熱収縮する。高温時フィルタ枠体16によって膨張が抑えられて形状が安定化したセパレータ14は、この状態から熱収縮するため、セパレータ14の上下方向の端部は、繊維状シール材18と当接しなくなる。セパレータ14は、このような熱履歴を繰り返し受けることにより、図7に示すように、最終的に隙間が生じる程度に収縮する。例えば、従来のセパレータ14は、5〜10mm程度収縮する。
このため、本実施形態では、特に熱履歴を大きく受け大きく収縮しやすい側部領域R1に設けられるセパレータ14aは、中央部領域R2に設けられるセパレータ14bに比べて線膨張係数を小さくし、フィルタ枠体16の線膨張係数に近づけている。セパレータ14aの、フィルタ枠体16に対する線膨張係数の比率は、1.0〜3.0であることが好ましい。
また、セパレータ14aの線膨張係数をAとし、セパレータ14bの線膨張係数をBとしたとき、比A/Bは0.4以上1.0未満であることが好ましい。
【0025】
このようなセパレータ14aは、セパレータ14bの金属材料と同じ金属材料に350℃〜400℃の温度で、0.5〜2.0時間の加熱処理を施したものが用いられることが好ましい。加熱処理に用いる温度の上限は例えば400℃である。このように加熱処理を予め施したものは、線膨張係数が小さくなるので、セパレータ14aに好適に用いることができる。特に、セパレータ14a及びセパレータ14bにアルミニウムあるいはアルミニウム合金が用いられる場合、上記加熱処理を施すことにより、セパレータ14aの線膨張係数をセパレータ14bの線膨張係数に比べて効率よく小さくすることができ、上記比A/Bを0.4以上1.0未満に容易にすることができる。
【0026】
また、セパレータ14aの表面には、図3に示すように、型押しされて形成された凹凸部が複数設けられていることが好ましい。すなわち、熱履歴に伴ってセパレータ14aが熱膨張あるいは熱収縮するとき、これらの熱膨張あるいは熱収縮を吸収することができ、フィルタ枠体16と同程度の膨張、収縮を実現できる変形部をセパレータ14aに設ける。このような変形部は、セパレータ14aの元となる箔部材を波形状に加工する前に、凹凸部ができるように予め加工するとよい。
さらに、型押しされて形成された凹凸部は、図4(a)〜(c)に示す形態も含む。図4(a)に示すように、セパレータ14の山折り、谷折りの折り線に平行な直線状に延びる凹部及び凸部、及び山折り、谷折りの折り線に直交する直線状に延びる凹部及び凸部を、型押しされて形成された凹凸部として設けることができる。図4(b)に示すように、セパレータ14の山折り、谷折りの折り線に平行な凹部及び凸部を、型押しされて形成された凹凸部として設けることもできる。また、図4(c)に示すように、セパレータ14の山折り、谷折りの折り線に対して斜めに延びる凹部及び凸部(図中の実線、点線)を、型押しされて形成された凹凸部として設けることもできる。
【0027】
さらに、本実施形態では、図5に示すように、エアフィルタユニット10において、フィルタパックの中央部領域R2に位置する少なくとも1枚のセパレータ14bの代わりに、剛性板15を介挿し、剛性板15の上下方向の端部を超極微細ガラス繊維のシート状シール材層18aを介してフィルタ枠体16に当接させるようにするとともに、隣接する各セパレータ14、14の折り線同士が、図6に示されるように、プリーツ濾材12を介して互いに交叉するように配置することが、フィルタパックの形状を維持する点で好ましい。
【0028】
このように、エアフィルタユニット10のセパレータ14の線膨張係数は、フィルタ枠体16の線膨張係数以上であり、セパレータ14のうち、側部領域R1に設けられるセパレータ14aの線膨張係数は、いずれも、中央部領域R2に設けられるセパレータ14bの線膨張係数に比べて小さく設定されているので、側部領域R1に設けられるセパレータ14aの熱膨張は、セパレータ14bに比べてフィルタ枠体16の熱膨張に近づいている。このため、図7に示す従来のセパレータ114のように、多数回の熱履歴を受けて収縮することは少なくなる。
特に、側部領域R1に設けられるセパレータ14aの線膨張係数をAとし、中央部領域R2に設けられるセパレータ14bの線膨張係数をBとしたとき、比A/Bを0.4以上1.0未満とすることにより、より効果的にセパレータの収縮を抑制することができる。
【0029】
[実施例、比較例]
以下、本実施形態の効果を確認するために、種々のセパレータを用いてエアフィルタユニットを作製した。
下記実施例1,2,3及び比較例1,2では、プリーツ濾材12として、Cガラス繊維を材料とする極細ガラス繊維を用いた目付100g/m2の濾材を用い、この濾材を90回山折り及び谷折りを行って、セパレータを折り畳み空間のそれぞれに挿入して、610mm×610mm×290mm(縦方向長さ×横方向長さ×奥行き長さ)のサイズのフィルタパックを作製した。フィルタ枠体として、厚さ2mmのSUS430を用いた。SUS430の線膨張係数は、11.2×10-6-1(0〜400℃の平均)であった。
繊維製シール材14として、厚さ2mm、目付け112g/m2、密度54kg/m3、Eガラス繊維の平均繊維径0.6μm(1700レールス)のシート材を用い、1つのエアフィルタユニットに40g使用した。
エアフィルタユニットでは、図5,6に示す構成を採用し、剛体板15には、厚さ1.2mmのSUS304を用い、図6に示すセパレータの交差角度を3度とした。シート状シール層18aは、繊維製シール材18と同じシール材を用いた。
【0030】
一方、セパレータについては、実施例1では、厚さ60μmのアルミニウム合金3304の箔を波状に折り曲げて使用した。側部領域R1(左右5箇所ずつ計10箇所)に設けられるセパレータ14aには、予め350℃で1時間加熱処理をしたものを用いた。中央部領域R2(80箇所)に設けられるセパレータ14bには、加熱処理をしないものを用いた。セパレータ14aの線膨張係数は、28.29×10-6-1(0〜400℃の平均)であり、セパレータ14bの線膨張係数は、29.18×10-6-1(0〜400℃の平均)であった。
実施例2では、厚さ60μmのアルミニウム合金8011H18の箔を波状に折り曲げて使用した。側部領域R1に設けられるセパレータ14aには、予め350℃で1時間加熱処理をしたものを用いた。中央部領域R2に設けられるセパレータ14bには、加熱処理をしないものを用いた。セパレータ14aの線膨張係数は、28.16×10-6-1(0〜400℃の平均)であり、セパレータ14bの線膨張係数は、28.61×10-6-1(0〜400℃の平均)であった。
実施例3では、厚さ30μmのSUS304と厚さ60μmのアルミニウム合金8011H18の箔を波状に折り曲げて使用した。側部領域R1に設けられるセパレータ14aには、加熱処理しないSUS304をしたものを用いた。中央部領域R2に設けられるセパレータ14bには、加熱処理をしないアルミニウム合金8011H18を用いた。セパレータ14aの線膨張係数は、17.9×10-6-1(0〜400℃の平均)であり、セパレータ14bの線膨張係数は、28.61×10-6-1(0〜400℃の平均)であった。
一方、比較例1では、厚さ60μmのアルミニウム合金3304の箔を波状に折り曲げて使用した。比較例1ではすべてのセパレータに同じ加熱処理をしないものを用いた。したがって、全てのセパレータの線膨張係数は、上述した実施例1のセパレータ14bの線膨張係数と同様の29.18×10-6-1(0〜400℃の平均)であった。
比較例2では、厚さ60μmのアルミニウム合金8011H18の箔を波状に折り曲げて使用した。比較例2ではすべてのセパレータに同じ加熱処理をしないものを用いた。したがって、全てのセパレータの線膨張係数は、上述した実施例2のセパレータ14bの線膨張係数と同様の28.61×10-6-1(0〜400℃の平均)であった。
【0031】
作製したエアフィルタユニットを用いて、エアフィルタユニットの捕集効率とセパレータの収縮を調べた。セパレートの収縮は、エアフィルタユニットの温度を、30℃から1.5時間かけて350℃に昇温し、350℃を1時間維持した後、4時間かけて30℃に降温する工程を1サイクルとして20サイクル繰り返して熱履歴をエアフィルタユニットに与えた。セパレータの収縮は、0サイクル(測定開始直後)、5サイクル目、10サイクル目、15サイクル目の終了直後に複数のセパレータの収縮のうち最大収縮した長さを計測した。
一方、エアフィルタユニットの捕集効率については、矩形ダクトにセットし、風量を35m3/分となるように空気の流れを調整し、エアフィルタユニットの上流側に大気塵粒子を導入し、エアフィルタユニットの上流側と下流側の0.3μm粒子の濃度を、光散乱式粒子計数器を用いて測定を行った。その際、上述した熱履歴のサイクルを与えて測定した。エアフィルタユニットの捕集効率は、0サイクル(測定開始直後)、5サイクル目、10サイクル目、15サイクル目の終了直後に室温の状態で測定し、下記式に従ってエアフィルタユニットの捕集効率を求めた。
捕集効率(%)=[1−(下流側の粒子の濃度/上流側の粒子の濃度)]
×100
【0032】
下記表1は、エアフィルタの捕集効率とセパレータの収縮長さの測定結果を示している。
これによると、側部領域R1と中央部領域R2との間で線膨張係数を異ならせた実施例1,2,3は、いずれも15回目においても捕集効率は99.97%以上あり、合格品である。一方、収縮長さは、許容範囲内の4mm以下であった。
比較例1,2では、収縮長さが許容範囲の上限の4mmを超え、不合格品であった。特に、比較例2では、10サイクル目、15サイクル目において捕集効率は許容範囲の下限である99.97%を下回った。これは、収縮長さが大きくなり、プリーツ濾材の形状を維持することが難しくなり形状変形することにより、捕集効率が低下したものと想定される。
以上より、本実施形態のエアフィルタユニットの効果は明らかである。
【0033】
【表1】
【0034】
以上、本発明のエアフィルタユニットについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0035】
10 エアフィルタユニット
12,112 プリーツ濾材
14,14a,14b,114 セパレータ
15 剛性板
16,116 フィルタ枠体
16a リブ
18 繊維製シール材
18a シート状シール材層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7