(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、中空構造のゴルフクラブヘッドが記載されている。該ゴルフクラブヘッドは、ソール部に重りが設けられる。特許文献1では、ソール部の一次固有振動数が2400Hz以下となるように、ソール部の面積が限定される。これにより、特許文献1の発明では、低い打球音が期待される。
【0003】
下記特許文献2には、中空構造のゴルフクラブヘッドが記載されている。該ゴルフクラブヘッドには、高さが異なる複数のソール面が設けられている。該複数のソール面には、それぞれウエイト部材が設けられている。特許文献2の発明では、ウエイト部材の重量効果が高く、安定した打球が得られるという作用効果が期待される。
【0004】
下記特許文献3には、中空構造のゴルフクラブヘッドが記載されている。該ゴルフクラブヘッドには、ソール部に、フェース部側から、第1領域及び第2領域が定義されている。第2領域は、第1領域及び第2領域のバック側に連なる第3領域よりも小さい厚さで形成されている。また、第2領域は、ソール部の一次振動モードの腹を含む位置に設けられている。このような特許文献3の発明では、高い打球音が期待される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ゴルフクラブの打球音は、ゴルファーにとってきわめて重要である。特に、プロや上級者にとっては、打球音がスコアに大きな影響を与えることは経験則上知られている。従って、打球音は、ゴルフクラブの重要な技術的なスペックの一つである。また、プロや上級者は、金属的な高い打球音ではなく、低い打球音を好む傾向がある。
【0007】
本発明は、近年のゴルファーのニーズの多様化、特にプロ乃至上級者のニーズに対応すべく案出なされたもので、簡単な構造で低い打球音を提供可能なゴルフクラブヘッドを提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のうち請求項1記載の発明は、金属材料からなるヘッド本体と、該ヘッド本体よりも比重が大きい材料からなりかつ前記ヘッド本体に固着された錘部材とを含む中空構造のゴルフクラブヘッドであって、前記ヘッド本体は、底面部を有し、前記底面部は、第1部分と、該第1部分とは段差を有して連なる第2部分とを含み、前記第2部分に前記錘部材が固着されていることを特徴とする。
【0009】
また請求項2記載の発明は、前記第2部分は、前記第1部分よりもヘッド内側に凹んでいる請求項1記載のゴルフクラブヘッドである。
【0010】
また請求項3記載の発明は、前記第2部分は、前記第1部分よりもヘッド外側に突出している請求項1記載のゴルフクラブヘッドである。
【0011】
また請求項4記載の発明は、前記第2部分は、前記第1部分よりも小さい厚さを有している請求項1乃至3のいずれかに記載のゴルフクラブヘッドである。
【0012】
また請求項5記載の発明は、前記第2部分は0.5〜2.0mmの厚さを有している請求項1乃至4のいずれかに記載のゴルフクラブヘッドである。
【0013】
また請求項6記載の発明は、前記第1部分の厚さt1と前記第2部分の厚さt2との差t1−t2は、0.1mm以上である請求項1乃至5のいずれかに記載のゴルフクラブヘッドである。
【0014】
また請求項7記載の発明は、ヘッド底面視において、前記錘部材の周囲に前記第2部分が形成されている請求項1乃至6のいずれかに記載のゴルフクラブヘッドである。
【0015】
また請求項8記載の発明は、前記第2部分には、互いに離間した2つの錘部材が配置されている請求項1乃至7のいずれかに記載のゴルフクラブヘッドである。
【0016】
また請求項9記載の発明は、前記第2部分は、前記第1部分に対し、前記段差の量が大きい2つの主部と、該主部よりも前記段差の量が小さく前記主部の間に形成された副部とを有し、前記2つの錘部材は、それぞれ主部に配置されている請求項8に記載のゴルフクラブヘッドである。
【発明の効果】
【0017】
ゴルフクラブヘッドの底面部の振動は、打球音に影響を与える。本発明のゴルフクラブヘッドは、底面部に錘部材が固着されている。錘部材は、比重が大きい。このため、錘部材が固着された底面部の固有振動数は小さくなる。また、底面部は、第1部分と、該第1部分とは段差を有して連なる第2部分とを含み、この第2部分に錘部材が固着されている。このような第2部分は、第1部分に対して振動しやすくなり、底面部の固有振動数がさらに小さくなる。従って、本発明のゴルフクラブヘッドは、固有振動数が小さくなり、低い打球音が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1には、本実施形態のゴルフクラブヘッド(以下、単に「ヘッド」ということがある。)1の全体斜視図が示されている。
【0020】
ヘッド1は、内部に中空部i(
図6に示す)を具えた中空構造である。中空部iには、重量調整のための発泡材やゲルなどが注入されても良い。しかし、中空部iの主要部は、気体で満たされているのが好ましい。
【0021】
ヘッド1の体積は、特に制限されないが、好ましくは160cm
3 以上、より好ましくは200cm
3以上であり、好ましくは470cm
3以下、より好ましくは460cm
3 以下である。また、ヘッド1の質量は、特に制限されないが、好ましくは170g以上、より好ましくは180g以上であり、好ましくは250g以下、より好ましくは240g以下である。このようなヘッド1は、大きな慣性モーメント及び重心深度を有する。
【0022】
ヘッド1としては、ドライバー、フェアウェイウッド又はユーティリティのタイプが好ましい。本実施形態のヘッドは、ドライバーの例が示されている。
【0023】
図2乃至4には、
図1のヘッドの基準状態の正面図、トウ側から見た側面図、及び、底面図がそれぞれ示されている。基準状態とは、ヘッド1の姿勢を一義的に定めるもので、該ヘッド1が、規定のライ角α及びロフト角βを保った状態で水平面HPに置かれている状態を意味する。
【0024】
図1〜
図4に示されるように、ヘッド1は、ボールを打撃するフェース2を有するフェース部3と、ヘッド上面側を形成する上面部4と、ヘッド底面側を形成する底面部5と、シャフト(図示省略)が挿入されるシャフト差込穴6aを有するホーゼル部6とを具える。
【0025】
ヘッド1の底面部5は、
図4に示されるように、基準状態の底面図において見える部分である。このような底面部5は、いわゆるソール部とサイド部とを含んだ領域である。
【0026】
図5には、ヘッド1の分解斜視図が示されている。ヘッド1は、金属材料で構成されたヘッド本体7と、該ヘッド本体7に固着される錘部材8とを含んでいる。
【0027】
前記ヘッド本体7は、フェース部3、上面部4(
図5では見えない)、底面部5、及び、ホーゼル部6を具える。即ち、ヘッド本体7は、ヘッド1の主要部全部を構成している。ヘッド本体7に好ましい金属材料は、ステンレス鋼、マルエージング鋼、純チタン又はチタン合金等である。本実施形態のヘッド本体7は、チタン合金が採用されている。
【0028】
ヘッド本体7の底面部5は、第1部分10と、該第1部分10とは段差9を有して連なる第2部分20とを含んでいる。
【0029】
第1部分10は、ヘッド外方に凸となる滑らかな三次元凸曲面で形成されている。
【0030】
図6には、
図4のA−A断面が示される。段差9は、第1部分10と第2部分20との間を、階段状につなぐものとして定義される。この実施形態では、段差9により、ヘッドを外側から見たときに、第2部分20の外面が、第1部分10の外面よりもヘッド内側(中空部i側)に凹んでいる。
【0031】
他の態様では、例えば、
図7に示されるように、ヘッド1を外側から見たときに、第2部分20の外面が、第1部分10の外面よりもヘッド外側に突出するような段差9を持っている。さらに、
図8(a)及び
図8(b)に示されるように、段差9は、底面部5の外面のみ又は内面のみに形成されていても良い。
【0032】
第2部分20は、第1部分10よりも小さい面積を持っているが、このような態様に限定されるものではない。
【0033】
錘部材8は、ヘッド本体7よりも比重が大きい金属材料からなる。このような金属材料としては、タングステン、タングステン合金、銅合金又はニッケル合金が望ましい。ヘッド本体7がチタン合金からなる場合、錘部材8には、例えば、比重が5.0以上、より好ましくは6.0以上、さらに好ましくは7.0以上の金属材料が望ましい。
【0034】
錘部材8は、この例では1個である。錘部材8は、この例では、ヘッド本体7の穴14にネジ結合で固着されるネジ軸状である。ただし、錘部材8については、このような実施形態
に限定されるものではなく、種々の個数、形状、及び、種々の取り付け方法が採用され得る。
【0035】
錘部材8は、第2部分20に固着される。ヘッド1の底面部5の振動が打球音に大きな影響を与える。ヘッド1の底面部5に錘部材8が固着された場合、該底面部5の一次の固有振動数(以下、単に、「固有振動数」又は「振動数」ということがある。)は小さくなる。つまり、ヘッド1でボールを打撃したときの底面部5の振動周期は長くなり、ヘッド1の打球音を低くする。しかし、単に、錘部材8を底面部5に取り付けただけでは、その効果も十分なものではない。
【0036】
一方、本発明のように、底面部5の第1部分10と段差9を有して連なる第2部分20に錘部材8が固着された場合、打球音は顕著に低くなる。即ち、第2部分20は、第1部分10に対し、剛性が小さく、錘部材8が固着されることで質量も大きい。従って、第2部分20は、局部的に振動しやすくなり、底面部5の固有振動数がさらに小さくなる。従って、本発明のヘッド1は、簡単な構成により(例えば、錘部材8を小型化しつつ)、固有振動数が小さくなり、プロ等が好む低い打球音を得ることができる。
【0037】
錘部材8は、ヘッド1の重心設計に基づいて、底面部5の任意の位置に固着されるものとして決定される。このようにして決定された錘部材8の位置に、第2部分20が形成されることになる。好ましい態様では、錘部材8がヘッド1の重心よりも後方側に固着される。このような構成によれば、より深い重心が得られる。また、錘部材8は、ヘッド1のトウ側又はヒール側に配置されるのも好ましい。このような構成によれば、トウ側又はヒール側に重心を移動させることができる。
【0038】
図6に示されるように、第1部分10と第2部分20とをつなぐ段差9の高さhは、好ましくは、1.0mm以上、より好ましくは2.0mm以上である。これによって、より小さいヘッド1の固有振動数が得られる。段差9の高さhは、第1部分10と第2部分20の表面の差で定義される。一方、段差9の高さhは、好ましくは10.0mm以下、より好ましくは8.0mm以下である。これによって、ヘッド1の耐久性が、十分に確保される。
【0039】
段差9は、好ましくは、第2部分20を連続して囲むものが良い。しかし、一次の振動モードを考慮した場合、段差9は、少なくとも向き合うようにして第2部分20の両側に形成されていれば、本発明の効果が十分に期待できる。好ましい態様では、
図4に示されるように、段差9は、ヘッド1のトウ・ヒール方向に沿ってのびる一対の段差9a及び9bを含む。好ましい他の態様では、段差9は、ヘッド1の前後方向に沿ってのびる一対の段差9c及び9dを少なくとも含む。
【0040】
第2部分20の形状も、何ら限定されるものではない。好ましい態様では、第2部分20をより効果的に振動しやすくするために、ヘッド底面視において、錘部材8の周囲に第2部分20が形成されているのが望ましい。特に、錘部材8の周囲に第2部分20が環状に形成されているのが望ましい。とりわけ、錘部材8の周囲に第2部分20が環状に連続しているのが望ましい。
【0041】
本発明において必須ではないが、打球音をさらに効果的に低くするために、
図6等に示されるように、第2部分20の厚さt2は、第1部分10の厚さt1よりも小さいのが望ましい。一例として、第2部分20の厚さt2は、0.5〜2.0mmである。このような第2部分20の厚さt2は、底面部5の耐久性を損ねることなく、振動数を効果的に小さくする。
【0042】
さらに、このような実施形態では、第1部分10の厚さt1と第2部分20の厚さt2との差t1−t2は、好ましくは、0.1mm以上であり、より好ましくは0.2mm以上とした場合に、有意な効果が得られやすい。一方、耐久性の低下を防止するために、厚さの差t1−t2は、好ましくは2.5mm以下、より好ましくは2.0mm以下である。
【0043】
図9には、本発明の他の実施形態として、ヘッドを底面側から見た分解斜視図が示されている。また、
図10には、その基準状態の底面図、
図11には、
図10のB−B断面図がそれぞれ示されている。
【0044】
この実施形態でも、特に言及されていない部分については、先の実施形態の説明の内容が適用される。この実施形態では、第2部分20に、互いに離間した2つの錘部材8が配置されている。
【0045】
第2部分20は、底面部5において、トウ・ヒール方向に連続してのびている。また、この実施形態の第2部分20は、中央部からトウ側及びヒール側に向かって幅が漸増している。段差9は、第2部分20のフェース2側をトウ・ヒール方向にのびる段差9Aと、第2部分20のヘッド後方側をトウ・ヒール方向にのびる段差9Bとを少なくとも含んでいる。第2部分20のトウ側及びヒール側は、滑らかに第1部分10(サイド部)につながっている。
【0046】
錘部材8は、第2部分20のトウ側に配置されたトウ側の錘部材8Aと、第2部分20のヒール側に配置されたヒール側の錘部材8Bとからなる。このような実施形態では、第2部分20のトウ側、及び、ヒール側がそれぞれ独自に振動することができる。これにより、底面部5の全体の振動数がさらに小さくなり、ひいては、より低いヘッド1の打球音が得られる。
【0047】
さらに、第2部分20は、主部22と、副部24とを含むのが望ましい。
【0048】
主部22は、第1部分10との段差9の高さh1が大きく、副部24は、主部22よりも前記段差9の高さh2が小さい。主部22は、トウ側及びヒール側に分けて配置されている。副部24は、主部22の間に形成されている。2つの錘部材8A、8Bは、それぞれ主部22に配置されている。
【0049】
このような第2部分20は、第1部分10に対して、撓みやすく、振動しやすい。また、第2部分20の中でも、主部22は、副部24よりも振動しやすくなる。一方、副部24は、トウ側及びヒール側に大きく形成された第2部分20の著しい剛性低下を防ぎ、ヘッド1の耐久性の低下を防止することができる。
【0050】
さらに好ましい態様として、副部24の厚さt2bは、主部22の厚さt2aよりも大きいことが望ましい。このような構成によれば、より確実に、打球音を低く維持しつつ、ヘッド1の底面部5の耐久性を高めることができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記に実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施することができる。
【実施例】
【0052】
本発明の効果を確認するために、
図1〜5及び表1の仕様に基づいて、ウッド型ゴルフクラブヘッドが試作され、各ヘッドの一次の固有振動数が測定された。ヘッドの固有振動数は、
図12に示されるように、ヘッド1のフェース2を加振機(株式会社国際機械振動研究所製PET−01、PET−0A)30の供試体取付台32に取り付け、ヘッド1のフェース2に所定の振動を与え、加振機34、フェース2の振動が加速度ピックアップU1、U2により取り出しされた。これらの振動は、ダイナミックシングルアナライザ(YHP社製HP−5420A)に入力され、ヘッドの一次の固有振動数が求められた。固有振動数が小さいほど、打球音が低いことを意味している。
【0053】
各ヘッドは、表に示されるパラメータを除き、以下の実質的に共通の仕様を持っている。また、比較例1については、底面部が第1部分のみで形成されており、第2部分は設けられていないものとした。実施例1〜7については、第2部分の厚さや段差を異ならせた。
ロフト角:10.0°
ライ角:57.5°
ヘッド体積:450cm
3
ヘッド本体の材料:フェースプレートがTIX51AF、その他はTi-6Al-4V
【0054】
【表1】
【0055】
テストの結果、実施例のヘッドは、いずれも打球音が低いことが確認できた。
【0056】
次に、
図9乃至11及び表1の仕様に基づいて、ウッド型ゴルフクラブヘッドが試作され、各ヘッドの一次の固有振動数(同上)と耐久性とが測定された。即ち、この実施例では、ヘッドに大きな第2部分が設けられているので、耐久性についても評価が行われた。耐久性は、各ヘッドにシャフトを装着したゴルフクラブについて、スイングロボットを用いた打撃試験が行われ、ヘッドが損傷するまでの打球数で評価された。打球数の上限は60000回とされた。各ヘッドは、表に示されるパラメータを除き、表1の実施例と共通の仕様とされている。また、比較例2については、底面部が第1部分のみで形成されており、第2部分は設けられていないものとした。実施例8〜14については、第2部分の厚さや段差を異ならせた。
【0057】
【表2】
【0058】
テストの結果、実施例のヘッドは、いずれも打球音が低いことが確認できた。また、表2の例のように、大きな第2部分が形成された場合でも、良好な耐久性が確認できた。