(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図4は、従来の化粧基材18の補修塗装の一例である。化粧基材18は、基材9の表面に本体塗装17が設けられて構成されている。本体塗装17は、下塗り層3、化粧塗装層4、上塗り層5、コート層6、の構成を有している。化粧基材18は、ビス10が打ち込まれて、建物の下地材に固定されている。化粧基材18にビス10が打ち込まれた部分には、ビス穴11が生じている。ビス穴11には、化粧基材18の外観を良好にするため、パテ12が充填されている。パテ12が充填されている部分は、化粧基材18の意匠性を損なわないように、本体塗装17の塗装の色に調色した補修塗料22で塗装されている。補修塗料22としては、シリコーン樹脂を主成分とする溶剤系無機塗料が用いられている。このように、補修塗装が施されることによって、ビス穴11が目立ちにくくなる。
【0005】
補修塗装においては、ビス穴11が埋められたり傷がついたりした部分などを補修塗装(タッチアップ塗装)するための補修塗料22と、本体塗装17を構成する本体塗料とは、求められる硬化条件が一般的に異なることが多く、種類の異なる塗料を使用する場合が多い。そのため、補修塗料22と本体塗料とは、色を合わせることが難しかったり、艶感が異なったりする場合がある。特に、
図4の補修方法では、本体塗装17が複数の層で構成されているのに対し、補修塗料22により形成される層は一層であり、色の違いが目立ちやすくなる。また、補修塗料22と本体塗料とで異なる種類の塗料を使用すると、本体塗料の色のフレと補修塗料22の色のフレによる色違いも発生しやすい。さらに、補修塗料22を本体塗料の色に合わせて調色することができた場合でも、塗装条件の違いにより、色がばらつくことがあり、補修塗料22で塗装した部分と本体塗料で塗装した部分とで色が違って見えてしまうことがある。塗装条件の違いとは、塗装施工時の、塗料の攪拌の状態の違いや、気温、湿度などの環境条件の違い、施工者の違い、補修する下地の状態の違いなどを挙げることができる。このように、補修塗料22を使用して補修を行う場合、調色や施工の際のわずかな条件の違いで不具合が発生しやすい。また、補修塗料22の使用は調色や施工に工数がかかるため、補修を行う際の大きな負担となる。
【0006】
コンクリートパネルに設けられたビス穴を補修する際に、ビス穴にシーリング材を充填し、その上にパネルと同様な模様を有する樹脂パッチを嵌合して補修する方法が知られている(特許文献2参照)。しかしながら、この方法では、パッチの形をビス穴の形に正確に合わせなければ、ビス穴やシーリング材が見えてしまったりして外観を損ねる可能性がある。また、ビスとしてビス径が異なるものを複数種用いる場合には、ビス径に合わせた複数種のパッチを準備しなければならず、簡単に修復できなくなるおそれがある。また、ビスの頭部がパネル表面と同じ位置になるようにビスを打ち込む工法では、パッチ全体がパネル表面で飛び出し外観が損なわれる。さらに、パッチは樹脂に塗装を施したシートから打ち抜かれて形成されるため、塗装の下地となる樹脂の材質とパネルの材質とが異なる場合には、その上に同様の塗装を施しても、下地の状態が異なることにより、色が違って見えてしまうことがある。また、この方法では、ビス穴は補修できても、傷の補修はできない。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、補修塗装のばらつきや不具合を抑制し、補修の際の工数を低減し、補修後の外観が良好な補修用シール部材
を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る補修用シール部材は、化粧基材の補修に使用される補修用シール部材であって、シートと、前記シートの表面に設けられた前記化粧基材の塗膜構成を有する補修塗膜体と、を有して成り、前記補修塗膜体は前記シートから剥離可能であることを特徴とするものである。
【0009】
上記の補修用シール部材にあっては、前記シートと前記補修塗膜体との間に剥離層を有することが好ましい。
【0010】
本発明に係る補修用シール部材の製造方法は、上記の補修用シール部材の製造方法であって、基材の表面に塗装を施して前記化粧基材を製造するに際し、前記基材の表面に前記シートを貼り付け、前記基材の表面に塗装を施すと同時に前記シートの表面に塗装を施して、前記シートに前記補修塗膜体を形成することを特徴とするものである。
【0011】
上記の補修用シール部材の製造方法にあっては、前記化粧基材の成形の際に切断又は切削加工される前記基材の端部に、前記シートを貼り付けることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る補修用シール部材によれば、化粧基材の塗膜構成を有する補修塗膜体を有し、補修塗膜体が剥離可能であることで、補修塗装のばらつきや不具合を抑制し、補修の際の工数を低減することができ、補修後の外観を良好にすることができる。そのため、化粧基材を簡単に良好に補修することができる。
【0013】
本発明に係る補修用シール部材の製造方法によれば、基材の表面にシートを貼り付け、基材の表面に塗装を施すと同時にシートの表面に塗装を施すことにより、シートに化粧基材と同一の塗膜構成の補修塗膜体を簡単に効率よく形成することができる。そのため、化粧基材を簡単に良好に補修することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1(a)は、補修用シール部材8の実施形態の一例を示している。
図1(b)は、補修用シール部材8で補修した化粧基材18の一例を示している。
【0016】
図1(a)に示すように、補修用シール部材8は、シート1と、シート1の表面に設けられた補修塗膜体7とを有している。補修塗膜体7は、化粧基材18の塗膜構成を有している。本形態では、補修塗膜体7は、下塗り層3と、化粧塗膜層4と、上塗り層5と、コート層6とを有して、化粧基材18の塗膜構成(本体塗装17)と同一の塗膜構成になっている。補修塗膜体7はシート1から剥離可能である。補修塗膜体7がシート1から剥離可能であることで、補修塗膜体7をシート1から剥がして、化粧基材18に容易に貼り付けることができる。そして、化粧基材18の塗膜構成を有する補修塗膜体7を貼り付けて補修塗装することによって、補修塗装の調色や施工のばらつき、不具合を抑制し、補修の工数を低減することができる。また、補修塗膜体7を貼り付けることにより、化粧基材18の塗膜構成と同一の構成の塗膜を、補修部分に設けることができ、簡単に外観の良好な補修塗装を行うことができる。
【0017】
化粧基材18は、基材9の表面に本体塗装17が設けられて構成されている。本体塗装17は、化粧基材18の外観を構成する化粧塗装を形作る塗膜層である。
【0018】
基材9としては、建材として用いられるものであれば、窯業系基材や金属系基材のように無機質のものであっても、樹脂系基材や木材のように有機質のものであっても、いずれでもよい。この中で、基材9として窯業系基材が好ましい。基材9が窯業系基材で構成されることにより、耐火性と通気性に優れた化粧基材18を得ることができる。基材9の形状は、特に限定されず、平板であっても、平板の表面に凹凸を有しているものであってもよい。
【0019】
基材9には、シーラーによるシーラー加工が施されていることが好ましい。基材9にシーラー加工が施されていることにより、表面を保護すると共に、塗料を塗布するための下地を基材9に形成することができる。また、基材9上へ形成される塗膜の塗料が、基材9へ吸い込まれることを抑制することができる。基材9へシーラー加工を施すためのシーラーとしては、特に限定されるものではないが、溶剤系、水溶性あるいはエマルジョン系のシーラーを用いることができる。基材9のシーラー加工は、基材9の養生前であってもよいし、養生後であってもよい。
【0020】
本体塗装17は、本形態では、下塗り層3(本体の下塗り層13)、化粧塗装層4(本体の化粧塗装層14)、上塗り層5(本体の上塗り層15)、コート層6(本体のコート層16)の構成を基材9側からこの順で有して構成されている。そのため、本体塗装17と補修塗膜体7の塗膜構成は同一である。以下、本体塗装17と補修塗膜体7とを総称して「塗装膜」ともいう。なお、シーラーは塗装膜(本体塗装17及び補修塗膜体7)に含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。また、基材9をオートクレーブ養生する前に施すシーラーは、塗装膜に含まなくてよい。基材9をオートクレーブ養生した後に施すシーラーは、塗装膜に含んでもよい。
【0021】
本体塗装17と補修塗膜体7とを構成する各層においては、対応する各層の膜厚が同じであることが好ましい。それにより、本体塗装17と補修塗膜体7の色や艶が同じになって、補修塗膜体7により外観よく補修することができる。本体塗装17及び補修塗膜体7の厚み(塗装膜の全膜厚)は、10〜300μmの範囲であることが好ましく、20〜100μmの範囲であることがより好ましく、30〜60μmの範囲であることがさらに好ましい。本体塗装17及び補修塗膜体7の厚みがこの範囲であることにより、塗膜強度が高く意匠性に優れた化粧基材18と補修用シール部材8とを得ることができる。また、補修塗膜体7は補修する際にシート1から剥離されて取り扱われるが、補修塗膜体7の厚みがこの範囲であることにより、補修塗膜体7を破損しにくくすることができるとともに、補修後に補修部分が突出したりすることを抑制することができる。
【0022】
下塗り層3は、化粧塗装層4の下塗りとなる層である。下塗り層3を設けることにより、化粧塗装層4の定着性を向上して、外観が良好で耐久性のよい塗装膜を得ることができる。下塗り層3は1層又は2層以上の複数の層で形成することができる。下塗り層3の形成方法は、スプレーや刷毛塗りやロール塗装などの任意の方法を採用することができる。下塗り層3の膜厚は、5〜20μmの範囲とすることができるが、これに限定されるものではない。
【0023】
化粧塗装層4は、化粧基材18の外観意匠性を向上させるための着色や化粧模様を有する層である。化粧塗装層4を設けることで、意匠性のよい塗装膜を得ることができ、建築物の意匠性を向上することができる。化粧塗装層4は、任意の有機塗料や水性塗料を用いて形成することができる。この中で、耐久性に優れ、種類豊富な色揃えを有する有機エナメル塗料が好ましい。有機エナメル塗料を用いて化粧塗装層4を形成することにより、化粧基材18に簡単に着色塗装を与えることができる。化粧塗装層4の形成方法は、スプレーや刷毛塗りやロール塗装、インクジェット塗装などの任意の方法を採用することができる。この中で、スプレー塗装により化粧塗装層4を形成することが好ましい一態様である。それにより、化粧基材18に簡単に化粧模様を与えることができる。化粧塗装層4は、1層又は2層以上の複数層で形成することができる。化粧塗装層4の膜厚は特に限定されないが、例えば、30〜60μmの範囲とすることができる。
【0024】
上塗り層5は、化粧塗装層4を保護するための層である。上塗り層5を設けることで、化粧塗装層4を保護して、塗装膜の耐久性を向上することができる。上塗り層5は、化粧塗装層4の表面に設けられている。上塗り層5は、化粧塗装層4の色や柄・模様が視認できる程度の透明性を有するものが好ましい。これにより、高い意匠性を有する化粧基材18を得ることができる。上塗り層5は、任意の有機塗料や水性塗料を用いて形成することができる。この中で、耐久性に優れるエナメル塗料が好ましい。これにより、化粧塗装層4の耐久性を高めて、耐久性のよい化粧基材18を得ることができる。上塗り層5の形成方法は、スプレーや刷毛塗りやロール塗装などの任意の方法を採用することができる。上塗り層5は、1層又は2層以上の複数層で形成することができる。上塗り層5の膜厚は、10〜200μmの範囲とすることができるが、これに限定されるものではない。
【0025】
コート層6は上塗り層5の表面に形成され、本体塗装17及び補修塗膜体7の耐候性や防汚性を高める層である。コート層6は、耐候性を有する層であることが好ましい。これにより、上塗り層5を保護して、塗装膜の耐候性を向上することができる。コート層6は防汚性を有する層であることが好ましい、これにより、塗装膜の防汚性を向上して、汚れにくい建築物を得ることができる。コート層6は、化粧塗装層4の色や柄・模様が視認できる程度の透明性を有することが好ましい。これにより、高い意匠性を有する化粧基材18を得ることができる。コート層6の材料は、アクリル系樹脂塗料、アクリルシリコン系樹脂塗料、フッ素系樹脂塗料などの有機系塗料や、無機系樹脂塗料で形成することができる。この中で、無機系樹脂塗料が好ましく、特にセラミックを含む樹脂塗料が好ましい。これにより、汚れが落ちやすく、色あせしにくい耐候性のよい塗装膜を得ることができる。コート層6の材料は、1種でもよく2種以上の混合物であってもよい。コート層6はスプレーや刷毛塗りやロール塗装など適宜の方法を用いて形成することができる。また、コート層6は、1層又は2層以上の複数層で形成することができる。例えば、セラミックコートと親水セラミックコートとをこの順で有する二層構造のコート層6を用いることができる。コート層6の膜厚は、1〜100μmの範囲とすることができるが、これに限定されるものではない。
【0026】
本体塗装17及び補修塗膜体7の層構成は上記の層構成に限定されるものではない。例えば、上記の層のうち1層又は複数層を含まなくともよい。また、上記の層に加えて、オーバーコート層やクリヤー層などの他の層が、適宜設けられていてもよい。
【0027】
シート1は、補修塗膜体7の支持材となる材料である。シート1を設けることにより、補修用シール部材8の取扱性を向上させることができる。シート1は、耐熱性を有することが好ましい。これにより、塗装後に加熱乾燥して化粧基材18を形成する場合に、補修用シール部材8を同様の加熱乾燥条件で形成することができ、化粧基材18と同一の塗膜構成の補修塗膜体7を容易に形成することができる。また、シート1は切断可能なものであることが好ましい。これにより、補修用シール部材8を簡単に、適宜の大きさに切断することができ、補修用シール部材8を切断する工程を含む補修の作業効率を向上させることができる。
【0028】
シート1の材料は、特に限定されるものではないが、薄膜金属シートが好ましい。中でも、アルミシートが好ましい。シート1がアルミシートで構成された場合、アルミシートは強度が高く、熱にも強いため、化粧基材18と同一の塗膜構成を有する補修塗膜体7をシート1上に容易に形成することができる。また、切断が容易であるため、補修の作業効率が高い補修用シール部材8を簡単に得ることができる。なお、薄膜金属シート(アルミシート)には、表面に樹脂や他の金属層がコートされていてもよいし、されていなくてもよい。シート1がコートされている場合には、シートの表面を平滑にすることができ、シート1上に薄膜を良好に形成することができる。コートされる樹脂は、耐熱性を有することが好ましい。それにより、本体塗装17と同一の構成の塗膜を得やすくすることができる。
【0029】
シート1は補修塗膜体7を積層形成するための支持材となる。補修塗膜体7が形成される前のシート1は、補修塗膜体7を積層する面とは反対側の面が剥離可能な接着面であることが好ましい。これにより、シート1を基材9に容易に貼り付けて塗装し補修塗膜体7を設けることができるとともに、シート1を基材9から容易に剥離して補修用シール部材8を得ることができ、補修用シール部材8の製造効率を向上させることができる。剥離可能な接着面を有する材料としては、テープ材を用いることができる。シート1としてテープ材を用いることにより、シート1を巻き上げることができ、巻き上げられたシート1から必要な量を得ることが容易になるため、取扱性を向上することができる。シート1の材料として、アルミテープが好ましい。これにより、補修用シール部材8の製造効率と補修に使用する際の作業効率とが高く、取り扱いやすい補修用シール部材8を得ることができる。なお、補修塗膜体7を積層形成してシート1を基材9から剥がした後において、補修用シール部材8におけるシート1の表面(外表面)は粘着性を有していないことが好ましい。それにより、補修用シール部材8の取扱性を高めることができる。
【0030】
シート1の厚みは、0.0001〜5mmの範囲が好ましく、0.001〜3mmの範囲がより好ましく、0.01〜1mmの範囲がさらに好ましい。シート1の厚みがこの範囲であることにより、補修塗膜体7への支持強度を高め、切断容易な補修用シール部材8を得ることができる。
【0031】
補修塗膜体7は、化粧基材18の塗膜構成と同一の塗膜構成を有してシート1上に形成されている。すなわち、本形態では補修塗膜体7は本体塗装17により形成されている。補修塗膜体7を構成する各層は、本体塗装17の対応する各層と同じ材料、同じ膜厚で形成されることが好ましい。これにより、補修塗膜体7と本体塗装17とを同一の塗膜で形成することができ、補修部分とそれ以外の部分の色の違いを少なくして、補修部分を目立ちにくくすることができる。補修塗膜体7を構成する各層は、本体塗装17の対応する各層と同じ方法で、同時に形成されることが好ましい。これにより、補修塗膜体7と本体塗装17とを同じ条件で塗装できるため、補修塗膜体7と本体塗装17の色や艶を容易に合わせることができる。そして、補修塗装のばらつきや不具合を減らすことができ、補修の際の工数を低減することができる補修用シール部材8を得ることができる。
【0032】
補修用シール部材8は、シート1と補修塗膜体7との間に剥離層2を有することが好ましい。これにより、補修塗膜体7をシート1から容易に剥離することができ、補修塗膜体7をシート1から剥離する工程を含む補修の作業効率を向上させることができる。剥離層2は、補修塗膜体7をシート1から剥離させるため、シート1表面の補修塗膜体7が設けられる範囲に形成されることが好ましい。
【0033】
剥離層2の材料は、補修塗膜体7をシート1から容易に剥離させることができるものが好ましい。これにより、補修塗膜体7を簡単に剥離して貼り付けることができ、補修の作業効率を向上させることができる。剥離層2の材料として、シート1から剥がした後の補修塗膜体7の表面から容易に除去できるものを用いてもよい。これにより、剥離後の補修塗膜体7の表面から剥離層2を簡単に除去して補修塗膜体7の表面をきれいにすることができ、補修塗膜体7の接着性を高めることができる。剥離層2の材料として、特に限定されるものではないが、潤滑油を用いることができる。具体的には、鉱物性、植物性、動物性などの潤滑油を使用することができる。この中で、鉱物性の潤滑油が好ましい。剥離層2を鉱物性の潤滑油で構成することで、シート1から補修塗膜体7を剥離する際の剥離性を高めることができる。剥離層2として好ましい鉱物性の潤滑油の一例として、鉱物性潤滑油CRC556(呉工業株式会社製「KURE5−56」)を挙げることができる。
【0034】
図1(b)に示すように、化粧基材18は、ビス10により、建物の下地材に固定されて、建築物の壁面が形成されている。ビス10は、化粧基材18を固定する固定具として用いられるものである。固定具としては、ビス10以外にも、釘やネジなど、化粧基材18を固定する目的を満たすものであれば、適宜選ぶことができる。本形態では、ビス10のように打ち込む固定具を用いた場合に、固定具が打ち込まれた部分を良好に補修することができる。
【0035】
化粧基材18には固定具としてビス10が使用されてビス穴11が生じている。ビス穴11は、ビス10を埋め込むように打ち込んで、ビス10で化粧基材18を固定した際に、化粧基材18の表面に生じた凹部である。このビス穴11は、ビス穴11の深さや大きさに応じて、化粧基材18の外観を良好にする目的で、パテ12で埋めることができる。パテ12の材料は、基材9との密着性が高く取り扱いが容易なものであれば、適宜のものを用いてよい。また、防水、電気絶縁等の機能を有するものを用いてもよい。
【0036】
補修用シール部材8を用いた化粧基材18の補修構造において、補修塗膜体7が化粧基材18の表面に貼り付けられている。この補修塗膜体7は接着剤19により、パテ12(ビス穴11)を覆うように化粧基材18とパテ12の表面とに貼り付けられている。補修塗膜体7は、接着剤19を用いて貼り付けることが好ましい。これにより、補修塗膜体7を簡単に貼り付けて、補修塗装を行うことができる。接着剤19は、薄膜化が可能なものを用いることが好ましい。薄膜化が可能な接着剤19を用いることで、補修塗膜体7を貼り付けたときに、補修塗膜体7が化粧基材18上で突出して、補修後の化粧基材18の外観を損ねることを抑制することができる。接着剤19は、透明なものを用いることが好ましい。透明な接着剤19を用いることで、接着剤19が補修塗膜体7からはみ出た場合でも、補修後の化粧基材18の外観を損ないにくくすることができる。接着剤19としては、例えば、樹脂製の接着剤を用いることができる。なお、パテ12や補修塗膜体7が接着性を有している場合などで、補修塗膜体7を化粧基材18やパテ12に貼り付けることができるのであれば、接着剤19を用いなくてもよい。
【0037】
補修用シール部材8により化粧基材18を補修するにあたっては、まず、補修用シール部材8を切断して切り出す。切断は、はさみやカッターなどの適宜の切断工具を用いることができる。このとき、補修したい部分の大きさや形状に合わせて切断する。次に、補修塗膜体7をシート1から剥離して、補修塗膜体7を取り出す。次に、取り出した補修塗膜体7のシート1が設けられていた面に、接着剤19を塗布する。これにより、いわゆる補修シール(タッチアップシール)が形成される。あるいは、接着剤19を化粧基材18の補修したい部分に塗布してもよい。そして、補修塗膜体7のシート1が設けられていた面を接着剤19により化粧基材18の補修を行う部分に貼り付ける。これにより、化粧基材18と同一の構成の塗膜を化粧基材18に貼り付けることができ、簡単に外観の良好な補修塗装を行うことができる。
【0038】
補修用シール部材8の切断は、補修塗膜体7をシート1から剥離して取り出した後に行うこともできる。つまり、補修塗膜体7をシート1から剥離し、この剥離された補修塗膜体7を切断する方法である。ただし、シート1から補修塗膜体7を剥離する前に補修用シール部材8を切断するほうが好ましい。これにより、シート1で支持された状態で補修塗膜体7を切断することができ、補修塗膜体7を破損することを抑制して容易に切断することができる。また、補修塗膜体7を切断する際のくずなどが、補修塗膜体7の接着面に付着することを抑制でき、補修塗膜体7と化粧基材18との接着面をきれいに保って、補修塗膜体7と化粧基材18とを強く接着することができる。
【0039】
本形態のように、切り出される補修塗膜体7の大きさは、補修する部分であるビス穴11の大きさ以上であることが好ましい。これにより、補修塗膜体7でビス穴11を覆って補修することができ、外観の良好な補修塗装を行うことができる。また、あらかじめ補修部分の大きさに合わせて切断した所定の大きさのものを複数個作製してもよい。それにより、作業効率を高めることができるとともに、補修後の外観を良好にすることができる。
【0040】
補修用シール部材8が、剥離層2を有する場合、シート1から剥離して取り出した補修塗膜体7には、剥離層2が付着していないことが好ましい。補修塗膜体7は剥離層2側の面で化粧基材18と接着するため、補修塗膜体7に剥離層2が付着していないことにより、補修塗膜体7を化粧基材18に高い接着性で貼り付けることができる。また、シート1から剥離して取り出した補修塗膜体7に、剥離層2が付着している場合、剥離層2を補修塗膜体7から除去してもよい。それにより、補修塗膜体7の接着性を高めることができる。剥離層2の除去は、布や紙などの拭き取り材を用いて拭き取ることにより行うことができる。また、剥離層2が補修塗膜体7に付着していても、補修塗膜体7を化粧基材18に貼り付けることができるのであれば、剥離層2を除去しなくてもよい。
【0041】
接着剤19は、補修塗膜体7に塗布してもよいし、化粧基材18に塗布してもよい。接着剤19を補修塗膜体7に塗布した場合、補修塗膜体7を化粧基材18に貼り付けたときに接着剤19が補修塗膜体7からはみ出すことを低減することができ、補修後の化粧基材18の外観を損ないにくくすることができる。また、接着剤19を化粧基材18に塗布した場合、補修したい部分(ビス穴11など)に接着剤19を塗布してその上に補修塗膜体7を重ねることにより、補修塗膜体7を貼り付けることができ、簡単に補修することができる。もちろん、接着剤19は補修塗膜体7と化粧基材18の両方に塗布してもよい。
【0042】
なお、接着剤19は、補修塗膜体7がシール1から剥離される前の状態で、すなわち補修塗膜体7が補修用シール部材8を構成している状態で、補修塗膜体7のシート1側の表面に、予め接着層として設けられていても良い。これにより、剥離層2によってシート1から補修塗膜体7を剥がした後、接着層が設けられた補修塗膜体7を、簡単にこの接着層(接着剤19)で化粧基材18に貼り付けることができる。接着層の材料は、補修塗膜体7をシート1から適宜剥がして、化粧基材18に貼り付けることができる材料であれば、何を用いてもよい。但し、接着強度の観点から、接着剤19は後で塗布するほうが好ましい。
【0043】
補修用シール部材8は、ビス10を埋め込んだ部分の補修に限らず、化粧基材18の傷がついた部分の補修や、その他補修塗装が必要な部分の補修に用いることができる。補修用シール部材8は簡単に切断できるので、傷などの補修形状に合わせて、補修用シール部材8を切断することができる。そして、化粧基材18と同一の塗膜構成を有し、シート1から剥離可能な補修塗膜体7を、補修塗装を行いたい部分に貼り付けることで、化粧基材18と同一の構成の塗膜を貼り付けることができ、簡単に補修塗装を行うことができる。
【0044】
図2は、補修用シール部材8の製造方法の一例を示している。
図2(a)は、シート1が貼り付けられた基材9の斜視図であり、
図2(b)は、基材9の表面が塗装されたことにより、補修用シール部材8が形成された基材9の断面図である。
図2(b)では、左側に本体塗装17を設けた基材9の一部分を示し、右側に補修用シール部材8を設けた基材9の一部分を示している。
【0045】
補修用シール部材8を製造する方法にあっては、基材9の表面に塗装を施して化粧基材18を製造するに際し、基材9の表面にシート1を貼り付け、基材9の表面に塗装を施すと同時にシート1の表面に塗装を施して、シート1に補修塗膜体7を形成することが好ましい。これにより、補修塗膜体7と本体塗装17とを同じ材料や同じ環境条件で形成することができるため、補修塗膜体7と本体塗装17の色や艶を容易に合わせることができる。それにより、補修塗装のばらつきや不具合を減らし、補修の際の工数を低減する補修用シール部材8を得ることができる。また、補修用シール部材8と化粧基材18とを同じ製造ラインで製造できることで、補修用シール部材8を容易に製造することができる。
【0046】
補修用シール部材8を製造するにあたっては、まず、
図2(a)に示すように、シート1を基材9に貼り付ける。基材9は、本体塗装17が設けられる前の状態である。シート1を基材9に貼り付けた後、好ましくは、シート1の表面に剥離層2として潤滑油を塗布する。次に、シート1が貼り付けられた基材9を、本体塗装17を設けるラインに投入し塗装を行う。このとき、基材9上のシート1は基材9と同時に塗装されて、化粧基材18と同一の塗膜構成を有する補修塗膜体7がシート1上に形成される。本形態では、下塗り層3、化粧塗装層4、上塗り層5、コート層6の塗装が、各層の塗装装置に順次送られることで行われる。つまり、
図2(b)に示すように、基材9上で補修用シール部材8が形成される。塗装の後には、加熱乾燥を行ってもよい。それにより、塗膜の定着性を高めることができる。そして、シート1を基材9から剥離することにより、基材9上に形成された補修用シール部材8を基材9から剥がす。これにより、補修用シール部材8を得ることができる。
【0047】
シート1を基材9に貼り付ける際、基材9の表面にシーラーが施されていてもよく、シーラーが施されていなくてもよい。基材9の表面にシーラーが施されていない場合には、基材9にシート1を貼り付けた後で、基材9とシート1とにシーラーを施してもよい。それにより、シーラーを含めた層構成を本体塗装17と補修塗膜体7とで同じにすることができる。
【0048】
シート1を基材9に貼り付ける方法は、適宜の方法を用いてよく、接着材を用いても固定具を用いても、シート1が接着性を有していてもよい。この中で、シート1の基材9に貼り付ける側の表面が接着性を有していて、基材9に貼り付けることができることが好ましい。これにより、シート1を基材9に簡単に固定することができ、補修用シール部材8の製造効率を向上させることができる。
【0049】
補修塗膜体7を形成する塗装がなされる前のシート1の表面には、剥離層2の材料を塗布して、剥離層2を形成することが好ましい。それにより、補修塗膜体7を剥離層2の表面上に形成することができるため、補修塗膜体7をシート1から剥がしやすくなり、補修塗装を簡単に行うことができる。潤滑油を用いて剥離層2を形成する場合には、潤滑油を吹き付けたり、コーターでコートしたりすることにより、簡単に剥離層2を形成することができる。なお、接着層(接着剤19)を補修塗膜体7に予め設ける場合は、シート1の表面又はシート1表面に設けられた剥離層2の表面に接着層の材料を塗布することができる。
【0050】
補修用シール部材8の製造において、シート1に補修塗膜体7を設けるときは、補修塗膜体7と本体塗装17とを同じ材料の塗料で形成することが好ましい。これにより、補修塗膜体7と本体塗装17との色や艶を容易に合わせることができ、補修後の化粧基材18の外観を良好にすることができる。シート1に補修塗膜体7を設けるときは、補修塗膜体7と本体塗装17とを同じ膜厚で形成することが好ましい。これにより、補修塗膜体7と本体塗装17との色や艶を合わせやすく、補修後の化粧基材18の外観を良好にすることができる。シート1に補修塗膜体7を設けるときは、補修塗膜体7と本体塗装17とを同じ方法(塗装装置、塗装条件)で形成することが好ましい。これにより、補修塗膜体7と本体塗装17とを同一の構成の塗膜にすることができ、補修部分とそれ以外の部分の色の違いを少なくして、補修後の化粧基材18の外観を良好にすることができる。シート1に補修塗膜体7を設けるときは、補修塗膜体7と本体塗装17とを同時に形成することが好ましい。これにより、同じ環境条件で補修塗膜体7と本体塗装17とを形成することができ、同一の塗膜を容易に形成することができる。したがって、基材9の表面に、シート1を貼り付けて塗装することが好ましいものである。
【0051】
基材9上で形成された補修用シール部材8の補修塗膜体7と本体塗装17とは繋がっていてもよいが、基材9上で分断されていて、繋がっていない方が好ましい。これにより、基材9からシート1を剥がして補修用シール部材8を得る際に、本体塗装17が補修用シール部材8とともに剥離してしまうことを抑制することができる。補修塗膜体7は、シート1からはみ出してシート1の全面を覆うように形成してもよいし、シート1の外縁に沿ってシート1と略同じ範囲で積層して形成してもよいし、シート1の内側にシート1よりも小さい範囲で形成してもよい。この中で、補修塗膜体7をシート1の端部に形成せずにシート1のやや内側に形成することが好ましい。これにより、補修用シール部材8を基材9から剥がして取り出す際、シート1を剥がしやすくすることができる。また、シート1を剥がす作業で誤って補修塗膜体7に触れて破損不良が発生することを抑制することができる。なお、補修塗膜体7と本体塗装17とを繋げて形成したときには、カッターなどで塗膜を切断することができる。
【0052】
補修塗膜体7が設けられたシート1を基材9から剥離した後、シート1の基材9に貼り付けられていた側の表面(補修用シール部材8のシート1側の表面)は、接着性がないことが好ましい。これにより、シート1が意図しない部分に貼り付くことを抑制して、補修用シール部材8の取扱性を向上することができる。基材9から剥離後のシート1の基材9が貼り付けられていた側の表面に粘着性がある場合は、シート1を他のシート材に貼り付けて、他のシート材を含めて補修用シール部材8のシート1としてもよい。この場合、他のシート材は、補修作業の効率の観点から、切断容易なものが好ましい。
【0053】
また、
図2(a)に示すように、補修用シール部材8の製造方法にあっては、化粧基材18の成形の際に切断又は切削加工される基材9の端部20に、シート1を貼り付けることが好ましい。これにより、補修用シール部材8を基材9の廃棄される端部20で製造することができ、材料を効率的に利用して、補修用シール部材8の製造コストを抑えることができる。化粧基材18は、建築物を建造する際、建築物の形状に合わせて切り落とされたり開口部があけられたりして成形される。例えば、
図2(a)では、切断線21の位置で化粧基材18が切断される。このとき、化粧基材18には、廃棄される端部20が生じる。この廃棄される端部20を利用することにより、補修用シール部材8を効率よく製造することができる。
【0054】
化粧基材18を成形する方法は、適宜の方法を用いてよいが、切断して成形する方法が好ましい。化粧基材18をのこぎりやカッターなどの切断工具を用いて切断することにより、容易に化粧基材18を成形することができる。また、化粧基材18を成形する方法は、切削加工して成形する方法が好ましい。化粧基材18をドリルやバイトなどの切削工具を用いて切削加工することにより、厚みのある化粧基材18や硬い化粧基材18を簡単に成形することができる。また、化粧基材18を成形するにあたって、切断及び切削加工の両方を行ってもよい。
【0055】
基材9から補修用シール部材8を剥がして取り出す工程は、化粧基材18の切断前に行ってもよいし、切断後に行ってもよいが、補修塗膜体7を傷付けないためには、化粧基材18の切断前に行うことが好ましい。
【0056】
なお、上記では、基材9の塗装と同時に、補修用シール部材8を製造する方法を説明したが、同じ塗膜構成を形成できるのであれば、化粧基材18と補修用シール部材8とを別々に製造してもよい。
【0057】
図3は、補修用シール部材8で補修した化粧基材18の他の一例を示す断面図である。補修塗膜体7は、化粧基材18と同一の塗膜構成を有している。化粧基材18は基材9の表面に本体塗装17が設けられて構成されている。化粧基材18はビス10により固定されている。本形態では、ビス10の頭部であるビス頭部10aは化粧基材18の表面と略同一の平面上に位置していて、化粧基材18の表面に凹部であるビス穴11は生じていない。補修塗膜体7は、ビス頭部10aを覆うように、ビス頭部10aと化粧基材18とに接着剤19で貼り付けられている。このように、補修用シール部材8を用いて、ビス10が打ち込まれた部分を補修する際に、凹部であるビス穴11が化粧基材18の表面に形成されていないときには、補修塗膜体7でビス頭部10aを覆うだけで、補修塗装を行うことができる。これにより、化粧基材18が薄いなどでビス10を深く埋め込まない施工方法を実施して化粧基材18を固定し、化粧基材18にビス穴11が形成されない場合でも、簡単に外観の良好な補修塗装を行うことができる。また、この場合、ビス穴11にパテ12を充填する工程がないので、施工の工数を減らして、施工を容易にすることができる。また、補修用シール部材8を用いた補修塗装では、ビス頭部10aが本体塗装17からはみ出す場合でも、ビス頭部10aを覆うようにして、補修塗膜体7をビス頭部10aと化粧基材18とに貼り付けることで、簡単に外観の良好な補修塗装を行うことができる。なお、ビス穴11が浅く生じる程度にビス10を打ち込み、ビス穴11にパテ12を充填せずに補修塗装するような施工方法においては、補修塗膜体7でビス穴11を覆うことにより、簡単に補修塗装を行うことができる。