(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
非接触で給電する少なくとも一つの親機電力送信部と、前記少なくとも一つの親機電力送信部から非接触で給電を受ける少なくとも一つの子機電力受信部を具備する非接触給電システムであって、
トランスまたはコンデンサから構成される補償回路を少なくとも一つ備え、
複数の前記親機電力送信部のうちから選択されうる2個の親機電力送信部からなる組のうち少なくとも1つ以上の組において、該組を構成する親機電力送信部が前記補償回路を介して接続されているか、
または複数の前記子機電力受信部のうちから選択されうる2個の子機電力受信部からなる組のうち少なくとも1つ以上の組において、該組を構成する子機電力受信部が前記補償回路を介して接続されており、
前記子機電力受信部の間、または前記親機電力送信部の間を接続する前記補償回路はそれぞれ親機電力送信部がないときの子機電力受信部の端子間の相互インピーダンスまたは相互アドミッタンス、または子機電力受信部がないときの親機電力送信部の端子間の相互インピーダンスまたは相互アドミッタンスが略0になることを特徴とする非接触給電システム。
前記子機電力受信部の間、または前記親機電力送信部の間を接続する前記補償回路はそれぞれ親機電力送信部がないときの子機電力受信部の端子間の自己インピーダンスまたは自己アドミッタンス、または子機電力受信部がないときの親機電力送信部の端子間の自己インピーダンスまたは自己アドミッタンスが略0になることを特徴とする請求項1に記載の非接触給電システム。
前記親機電力送信部の間における相互インピーダンスまたは相互アドミッタンスの絶対値が予め決められた範囲に収まるというのは、前記親機電力送信部の間における相互インピーダンスまたは相互アドミッタンスの値が略0となる条件を満たすことであることを特徴とする請求項3に記載の非接触給電システム。
前記行列Aは、前記親機電力送信部それぞれのインピーダンス行列の虚部、キャパシタンス行列の実部、及びインダクタンス行列の実部のいずれかであることを特徴とする請求項8から請求項10のいずれか一項に記載の非接触給電システム。
前記配分決定部は、前記固有ベクトルの成分のうち絶対値が最大となる成分に対応する電流が電流定格となるように、又は前記固有ベクトルの成分のうち絶対値が最大となる成分に対応する電圧が電圧定格となるように、前記N個の親機電力送信部に供給する前記電気信号を決定することを特徴とする請求項8から請求項14のいずれか一項に記載の非接触給電システム。
前記基準行列は、前記子機電力受信部が存在しないときのインピーダンス行列の実部又はアドミタンス行列の実部であり、あるいは前記N個の親機電力送信部間のインダクタンス行列の実部であり、あるいは前記親機電力送信部間のインピーダンス行列の虚部又は前記親機電力送信部間のアドミタンス行列の虚部が空間中の特定領域に誘導されるエネルギーが前記電気信号の2次形式で表されるときのエルミートな係数マトリクスであることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の非接触給電システム。
前記配分決定部において前記ベクトルYが、前記行列Dの固有ベクトルに収束するように、前記N個の親機電力送信部に供給する電気信号を決定することを特徴とする請求項8から請求項16のいずれか一項に記載の非接触給電システム。
非接触で給電する少なくとも一つの親機電力送信部と、前記少なくとも一つの親機電力送信部から非接触で給電を受ける少なくとも一つの子機電力受信部を具備する非接触給電システムであって、
トランスまたはコンデンサから構成される補償回路を少なくとも一つ備え、
複数の前記親機電力送信部のうちから選択されうる2個の親機電力送信部からなる組のうち少なくとも1つ以上の組において、該組を構成する親機電力送信部が前記補償回路を介して接続されているか、
または複数の前記子機電力受信部のうちから選択されうる2個の子機電力受信部からなる組のうち少なくとも1つ以上の組において、該組を構成する子機電力受信部が前記補償回路を介して接続されており、
前記複数の親機電力送信部を具備する非接触給電の場合、
前記親機電力送信部それぞれは、電力を送信する電力送信素子を備え、
前記子機電力受信部が存在しないときの、前記親機電力送信部の端子間における相互インピーダンスまたは相互アドミッタンスの絶対値が予め決められた範囲に収まるように、複数の前記親機電力送信部のうち、2個の親機電力送信部からなる組の少なくとも1つ以上の組において、前記電力送信素子同士の間にトランスまたはコンデンサから構成される補償回路を備えることを特徴とする非接触給電システム。
非接触で給電する少なくとも一つの親機電力送信部と、前記少なくとも一つの親機電力送信部から非接触で給電を受ける少なくとも一つの子機電力受信部を具備する非接触給電システムであって、
トランスまたはコンデンサから構成される補償回路を少なくとも一つ備え、
複数の前記親機電力送信部のうちから選択されうる2個の親機電力送信部からなる組のうち少なくとも1つ以上の組において、該組を構成する親機電力送信部が前記補償回路を介して接続されているか、
または複数の前記子機電力受信部のうちから選択されうる2個の子機電力受信部からなる組のうち少なくとも1つ以上の組において、該組を構成する子機電力受信部が前記補償回路を介して接続されており、
複数の前記親機電力送信部に供給する電気信号を決定する配分決定部を更に具備する非接触給電システムであって、
前記電気信号は、電流又は電圧あるいはその線形結合量を成分に有し、
前記配分決定部が、前記子機電力受信部が存在するときのインピーダンス行列の実部又はアドミタンス行列の実部の行列の非0の固有値に対する固有値ベクトルの成分に比例するように前記複数の親機電力送信部に供給する前記電気信号を決定することを特徴とする非接触給電システム。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。なお、本発明は、ワイヤレス給電システムにおいて、親機から遠くに存在する子機へ電力を伝送する際の伝送効率を向上するための補償回路を備えることを特徴とする。そのため、まず前提となるワイヤレス給電システム(101、101m1、101m2、102、103、101a、101m2a、103a、104、105)について、以下に説明し、その後に補償回路を備えたワイヤレス給電システム(ワイヤレス給電システム106、107、108)について説明する。
【0036】
(ワイヤレス給電システム101)
図1は、ワイヤレス給電システム101を示す概略図である。この図において、ワイヤレス給電システムは、親機送電制御部1、N個の親機2−1〜2−N(各々を親機2−nとも称す)、及び、M個の子機3−1〜3−M(各々を子機3−mとも称す)を具備する。
親機送電制御部1は、複数の親機2−nに供給する電流を制御する。ここで、親機送電制御部1は、子機存在下での親機間のインピーダンス(抵抗に関する値)マトリクスの実部が作る行列の実部からなる実インピーダンスマトリクスZの‘0’又は ‘略0’でない固有値に対応する固有ベクトルに基づいて電流を制御する。例えば、親機送電制御部1は、実インピーダンスマトリクスZの固有値のうち、固有値の絶対値が、最大の固有値の絶対値(最大固有値と呼ぶ)の5%以上である固有ベクトルに基づいて電流を制御する。
これにより、ワイヤレス給電システムでは、複数の親機2−n間の相互インダクタンスの影響も含めて給電することができ、複数の親機2−nから子機3−mへの電力の伝送効率を向上できる。
親機2−nは、親機送電制御部1の制御に従って、電力(電流)を磁界に変換し、空間に向けて磁界を発生する。子機3−mは、複数の親機2−nから放射された磁界のエネルギーを電力に変換して受電する。子機3−mは、受電した電力を利用して、様々な動作を行う。
【0037】
<親機2−n及び子機3−mについて>
図2は、ワイヤレス給電システム101における親機2−n及び子機3−mの構成を示す概略ブロック図である。この図において、親機2−nは、電源部21−n、電流計24−n、電圧計25−n、スイッチ26−n、及び電力送信部28−nを含んで構成される。電力送信部28−nは、キャパシタ22−n、コイル23−nを含んで構成される。なお、
図2では、信号線は親機送電制御部1と親機2−1の接続のみを表記しているが、親機送電制御部1と他の親機2−nについても信号線は同様に接続されており、同期が取れている。
【0038】
電源部21−nは、親機送電制御部1から入力された電流を親機2−nの回路に供給する。ここで、親機送電制御部1から入力された電流は、後述するように、その振幅が固有電流ベクトルの電流比と等しく、位相は各親機2−nのコイル23−nを流れる電流の位相(つまり、電流計24−nを流れる電流の位相)が全て等しくなるように設定された電流である。これは、各親機のコイル23−nに供給される電流が、周波数のみならず位相までも一致している必要があるためである。キャパシタ22−nは、静電容量により電荷を蓄えたり、放出したりする受動素子である。コイル23−nは、例えば、導線をらせん状に巻いたものである。コイル23−nは、流れる電流によって生ずる磁界によって、エネルギーを蓄えたり、放出したりする受動電気部品である。電流計24−nは、複素電流の大きさを測定する計器であり、その電流振幅および位相を同時に測定できるものである。なお、電源部21−nは、親機送電制御部1から入力された電流を受け入れるコネクタであってもよい。
電流計24−nは、たとえば、A/Dコンバータのように、電流の実時間波形を出力できるものであればよい。すなわち、電流計24−nは、複素電流を測定する計器であり、その電流振幅および位相を同時に測定できるものである。電圧計25−nは、たとえば、A/Dコンバータのように、電圧の実時間波形を出力できるものであればそれでもよい。スイッチ26−nは、電気回路の開閉を行う。すなわち、電圧計25−nは、複素電圧を測定する計器であり、その電圧振幅および位相を同時に測定できるものである。ただし、負の電流は、位相が等しく振幅が負であると考えられる。
【0039】
図2において、電源部21−nの一端は、キャパシタ22−nの一端に接続され、また、電流計24−n及びスイッチ26−nを介してコイル23−nの一端に接続されている。キャパシタ22−nの一端は、電源部21−nの一端に接続され、また、電流計24−n及びスイッチ26−nを介してコイル23−nの一端に接続されている。電圧計25−nの一端は、コイル23−nの一端に接続されている。
電源部21−nの他端は、キャパシタ22−nの他端、電圧計25−nの他端、及びコイル23−nの他端に接続されている。キャパシタ22−nの他端は、電源部21−nの他端、及びコイル23−nの他端に接続されている。電圧計25−nの他端は、コイル23−nの一端に接続されている。
電流計24−nの一端は、電源部21−nの一端、及びキャパシタ22−nの一端に接続されている。電流計24−nの他端は、スイッチ26−nを介して、電圧計25−nの一端及びコイル23−nの他端に接続されている。
【0040】
つまり、親機2−nの回路は、コイル23−nとキャパシタ22−nが並列に接続されている共振回路である。親機2−nの回路では、電源部21−nから入力された電流に基づいてコイル23−nに流れる電流が変化することで、コイル23−nでは磁界が発生する。
また、電流計24−nは、コイル23−nに流れる電流を測定する。電圧計25−nは、コイル23−nに印加される電圧を測定する。スイッチ26−nは、開いた場合に、コイル23−nと電圧計25−nを、電源部21−nやキャパシタ22−n、電流計24−nから切り離す。これにより、電圧計25−nは、電源部21−nやキャパシタ22−nの影響を受けることなくコイル23−nに発生した電圧(例えば、後述する電圧の大きさV
ij)を測定できる。
【0041】
図2において、子機3−mは、スイッチ33−m、整流器34−m、蓄電デバイス35−m、電圧計36−m、負荷37−m、及びスイッチ制御部38−m、及び電力受信部39―mを含んで構成される。電力受信部39―mは、コイル31−m、キャパシタ32−mを含んで構成される。
コイル31−mは、流れる電流によって形成される磁界によって、エネルギーを蓄えたり、放出したりする受動電気部品である。キャパシタ32−mは、静電容量により電荷を蓄えたり、放出したりする受動素子である。スイッチ33−mは、電気回路の開閉を行う。整流器34−mは、交流電力を直流電流に変換する。蓄電デバイス35−mは、充電によって繰り返し使用できる蓄電素子であり、蓄電池やキャパシタを用いることができる。
なお、各子機3−mに含まれる蓄電デバイス(蓄電池ともいう)35−mは、それぞれ異なる蓄電容量(静電容量)であってもよい。電圧計36−mは、電圧を測定する計器である。負荷37−mは、電気エネルギーを消費するものである。
スイッチ制御部38−mは、電圧計36−mが測定した電圧に基づいて、スイッチの開閉を行う。具体的には、スイッチ制御部38−mは、電圧計36−mが測定した電圧が予め定められた閾値以上であるときは、スイッチ33−mを開く。一方、スイッチ制御部38−mは、電圧計36−mが測定した電圧が予め定められた閾値未満であるときは、スイッチ33−mを閉じさせる。
【0042】
コイル31−mの一端は、スイッチ33−mを介して、キャパシタ32−mの一端及び整流器34−mの入力側の一端に接続されている。キャパシタ32−mの一端は、スイッチ33−mを介してコイル31−mの一端に接続され、また、整流器34−mの入力側の一端に接続されている。
コイル31−mの他端は、キャパシタ32−mの他端及び整流器34の入力側の他端と接続されている。キャパシタ32−mの他端は、コイル31−mの他端に接続され、また、整流器34−mの入力側の他端に接続されている。
【0043】
整流器34−mの出力側の一端は、蓄電池35−mの一端、電圧計36−mの一端及び負荷37−mの一端と接続されている。蓄電池35−mの一端は、整流器34−mの出力側の一端、電圧計36−mの一端、負荷37−mの一端と接続されている。電圧計36−mの他の一端は、整流器34−mの出力側の他の一端、蓄電池35−mの他の一端、負荷37−mの他の一端と接続されている。負荷37−mの一端は、整流器34−mの一端、蓄電池35−mの一端、電圧計36−mの一端と接続されている。
整流器34−mの出力側の他の一端は、蓄電池35−mの他の一端、電圧計36−mの他の一端、負荷37−mの他の一端と接続されている。蓄電池35−mの他の一端は、整流器の出力側の他の一端、電圧計36−mの他の一端、負荷37−mの他の一端と接続されている。電圧計36−mの他の一端は、整流器34−mの出力側の他の一端、蓄電池35−mの他の一端、負荷37−mの他の一端と接続されている。負荷37−mの他の一端は、整流器34−mの他の一端、蓄電池35−mの他の一端、電圧計36−mの他の一端と接続されている。
【0044】
コイル31−mは、キャパシタ32−mと共振回路を構成し、複数の親機2−nのコイル23−nが発生した磁界と共鳴する。これにより、コイル31−mには、誘導電流が発生する。発生した誘導電流(交流)は、整流器34−2で直流の電流に変換される。変換された直流電流は、蓄電池35−mに蓄えられ、又は、負荷37−mに供給される。蓄電池35−mに蓄えられた電力は、負荷37−mに供給される。
【0045】
<親機送電制御部1について>
図3は、ワイヤレス給電システム101における親機送電制御部1の構成を示す概略ブロック図である。この図において、親機送電制御部1は、複素電圧検出部11、複素電流検出部12、電流配分決定部(配分決定部)13、電流振幅制御部15、記憶部16及び制御部17を含んで構成される。
【0046】
複素電圧検出部11は、親機2−nの電圧計25−n各々から、電圧計25−nが測定した電圧を示す電圧情報を入力される。複素電圧検出部11は、電流がAcosωtの時、電圧計25−nから入力された電圧情報が示す電圧に、それと同一の周波数のcosωt及びsinωtをそれぞれ乗じ、ローパスフィルタを介してその低周波成分又はDC成分を取り出し、それぞれを実数成分、虚数成分とする。複素電圧検出部11は、算出した電圧の振幅及び位相成分を示す複素電圧情報を電流配分決定部13へ出力する。複素電圧検出部11は、電圧が単一周波数成分の時、電流が正の最大値を取るときの電圧値を実成分とし、そこから1/4周期遅れた時刻の電圧値を虚成分としてもよい。複素電流検出部12は、電流が単一周波数成分の時、電圧が正の最大値を取るときの電流値を実成分とし、そこから1/4周期遅れた時刻の電流値を虚成分としてもよい。
【0047】
複素電流検出部12は、電流計24−n各々から、電流計24−nが測定した電流を示す電流情報を入力される。複素電流検出部12は、電流計24−nから入力された電流情報が示す電流に、それと同一の周波数のcosωt及びsinωtをそれぞれ乗じ、ローパスフィルタを介してその低周波成分又はDC成分を取り出し、取り出した低周波成分又はDC成分に基づいて振幅成分、位相成分を算出する。複素電流検出部12は、算出した電流の振幅及び位相成分を示す複素電流情報を電流配分決定部13及び電流振幅制御部15へ出力する。
【0048】
電流配分決定部13は、制御部17から電流を流す通電命令が入力された場合に、1つの親機2−jのスイッチ26−jだけを閉じさせ、他の親機2−n(n≠j)のスイッチ26−nを開かせるスイッチ切替信号をスイッチ26−n(1≦n≦N)へ出力する。ここで、電流配分決定部13は、j=1からj=Nまで、順にスイッチ切替信号を出力する。
電流配分決定部13は、スイッチ切替信号に基づいてスイッチ26−jが閉じられたときに、親機2−i(i=1〜N)で測定された情報を記憶部16に書き込む。具体的には、電流配分決定部13は、スイッチ切替信号に基づいてスイッチ26−jが閉じられたときに、複素電圧検出部11から入力された複素電圧情報(電圧計25−iが測定した電圧の大きさをV
ijで表す)及び複素電流検出部12から入力された複素電流情報(電流計24−iが測定した電流の大きさI
ijで表す。ここでは、I
ii=I
0)を記憶部16に書き込む。
【0049】
電流配分決定部13は、スイッチ切替信号を出力後、複素電圧情報及び複素電流情報を記憶部16から読み出し、読み出した情報に基づいて、複数の親機2−n各々に供給する電流比を決定する(電流決定処理という)。電流配分決定部13は、決定した電流比を示す情報を、電流振幅制御部15へ出力する。なお、電流決定処理の終了後、電流配分決定部13は、スイッチ26−nのすべてを閉じさせるスイッチ切替信号を、スイッチ26−nへ出力する。
【0050】
電流振幅制御部15は、商用電源から電力を受電する。電流振幅制御部15は、電流配分決定部13から入力された情報が示す電流比に基づいて、商用電源から供給された電流を、親機2−nに割り当てる。電流振幅制御部15は、割り当てた電流(電気信号)を、親機2−nの電源部21−nへ供給する。また、電流振幅制御部15は、複素電流検出部12で算出した複素電流情報に基づいて、各コイル23−n(つまり電流計24−n)を流れる電流の位相が等しくなるように、電源部21−nへ供給する電流を制御する。ただし、電流の振幅は負の振幅も含める。また、電流の位相が等しいとは、位相が0度、又は180度の場合である。なお、電流振幅制御部15がコイル23−nを流れる電流の振幅及び位相を制御する信号を電源部21−nに出力し、電源部21−nは、入力された電流の振幅及び位相を制御する信号に基づいて、出力する電流の振幅及び位相を制御してもよい。なお、電流振幅制御部15は、親機2−nに供給する電流の和が商用電源の定格電流を超えないように電流を割り当ててもよい。また、電流振幅制御部15は、親機2−nに供給する電流の二乗和がアンテナの許容損失を超えないように電流を割り当ててもよい。また、電流振幅制御部15は、各親機2−nに供給する電流のうち最大のものが、親機の定格電流を超えないように、電流を割り当ててもよい。なお、本発明において電気信号は、電圧、電流と電圧との線形結合量であってもよい。
制御部17は、ワイヤレス給電システムの起動時又は定期的に、更新命令を電流配分決定部13へ出力する。
【0051】
図4は、ワイヤレス給電システム101における電流配分決定部13の構成を示す概略ブロック図、コイルが浮遊容量を有する場合の等価回路を説明する図である。
図4(a)は、ワイヤレス給電システム101における電流配分決定部13の構成を示す概略ブロック図であり、この図において、電流配分決定部13は、通電親機選択部131、被測定親機選択部132、電圧、電流入力部133、インピーダンスマトリクス生成部134、及び電流ベクトル生成部135を含んで構成される。
【0052】
通電親機選択部131は、1個の親機2−jを選択し、選択した親機2−jのスイッチ26−jだけを閉じさせるスイッチ切替信号をスイッチ26−jへ出力する。通電親機選択部131は、スイッチ26−jだけを閉じている間に、その親機2−jに対して、電流値が既知の電流(電流計24−jにおける電流の大きさがI
0、角周波数ω
0)を供給させる。
【0053】
被測定親機選択部132は、親機2−jのスイッチ26−jが閉じている間に、親機2−i(1≦i≦N)を、順に選択する。
電圧、電流入力部133は、通電親機選択部131が選択した親機2−iについて、複素電圧検出部11から入力された複素電圧情報(電圧の大きさV
ij)、及び、複素電流検出部12から入力された複素電圧情報(電流の大きさI
ij)を記憶部16に書き込む。
【0054】
インピーダンスマトリクス生成部134は、記憶部16に記憶された複素電圧情報が示す電圧の大きさV
ijに基づいて、インピーダンスマトリクスZ(抵抗に関する値から構成され成分の実部がエネルギーの散逸を表す回路マトリクス)を生成する。具体的には、インピーダンスマトリクス生成部134は、次式(5)を用いて、インピーダンスマトリクスZのi行j列成分Z
ijを生成する。
【0056】
インピーダンスマトリクス生成部134は、生成したインピーダンスマトリクスZを示すインピーダンス情報を、電流ベクトル生成部135へ出力する。
【0057】
電流ベクトル生成部135は、インピーダンス情報が示すインピーダンスマトリクスZの実成分が作る行列(実インピーダンスマトリクス)について、固有値と、それに対応する固有ベクトル(電流ベクトルIという。i番目の成分をI
iで表す)を算出する。すなわち、電流ベクトル生成部135は、インピーダンスマトリクスZの固有ベクトルを算出し、固有ベクトルに基づいて、複数の親機2−nに供給する電力を決定する。
具体的には、電流ベクトル生成部135は、次式(6)で表される電流ベクトルIを算出する。なお、電流ベクトルIは実ベクトルである。
【0059】
電流ベクトル生成部135は、式(6)で表される固有値問題の永年方程式を解くことで、同時に求められる変換行列から電流ベクトルIを算出する。なお、電流ベクトル生成部135は、LR分解法を用いて電流ベクトルIを算出するが、本発明はこれに限らず、QR分解法等、既知の手法を用いて算出してもよい。すなわち、電流ベクトル生成部135は、インピーダンスマトリクスZの実成分の固有ベクトルに比例するように、複数の親機2−n(コイル23−n)に供給する電流を決定する。
【0060】
電流ベクトル生成部135は、算出した電流ベクトルIのうち、電流ベクトルIに対する固有値が最大値(最大固有値とも称する)となる場合の電流ベクトルIを選択する。つまり、電流ベクトル生成部135は、電流ベクトルIに対する固有値が最大のものになるように、複数のコイル23−nに供給する電力を決定する。
電流ベクトル生成部135は、選択した電流ベクトルIをIの絶対値|I|で除算し、除算後のi成分であるI
i/|I|を親機2−iに供給する電流の割合(電流比)として決定する。つまり、電流ベクトル生成部135は、複数の親機2−n各々に供給する電流比を決定する。なお、電流比には、−(マイナス)値も含まれる。
電流ベクトル生成部135は、決定した電流比を示す情報を電流振幅制御部15へ出力する。電流ベクトル生成部135は、スイッチ26−nのすべてを閉じさせるスイッチ切替信号を、スイッチ26−nへ出力する。なお、式(6)中のRe(Z)は実対称であるので、固有値λも実数となる。また、それに対応する固有ベクトルの成分も全て実数となるため、電流比は、電流と電圧を同相で駆動するための駆動制御信号となる。(なお、この時、電源部21−nから出る電流の位相同士は同相とはならない。)
【0061】
<作用効果について>
以下、電流ベクトル生成部135が決定した電流比の電流を、親機2−nに供給した場合の作用効果について説明をする。
【0062】
(インダクタンスマトリクスとインピーダンスマトリクス)
親機2−1〜2−Nには全部でN個のコイル23−1〜23−Nが、子機3−1〜3−Mには全部でM個のコイル31−1〜31−Mがある。各コイル23−1〜23−N、31−1〜31−Mは、それぞれ自己インダクタンスを持つとともに、各コイル間に相互インダクタンスが存在する。これを(N+M)×(N+M)次のインダクタンスマトリクスLの形で書くと式(7)のようになる。
【0064】
ここで、ベクトルl
0mは、(N×1)次の行列であり、子機3−mのコイル31−mから見た各親機2−nのコイル23−nとの間の相互インダクタンスである。また、ベクトルl
m0は、(1×N)次の行列であり、l
0mの転置行列である。l
mは、子機3−mのコイル31−mの自己インダクタンスである。子機3−m間の相互インダクタンスは、受電側であり、値も小さいため無視する。ここで、[l
0m、…、l
0M]の行列をL
PCというものとする。L
PCは、(N×M)の行列である。[l
m0、…、l
M0]
Tの行列をL
CPというものとする。L
CPは、(M×N)の行列であり、親機2−nのコイル23−nから見た各子機3−mのコイル31−mとの間の相互インダクタンスである。[l
1、…、0、…、0、…l
M]の行列をL
CCというものとする。L
CCは、(M×M)の行列である。L
0の行列をL
PPというものとする。L
ppは、(N×N)の行列であり、親機2−n間の相互インダクタンスである。L
0は、以下の次式(8)のように表される親機のインダクタンスマトリクスである。
【0066】
L
iは、コイル23−iの自己インダクタンス、L
ijは、コイル23−iとコイル23−jの間の相互インダクタンスを表す。このように、ワイヤレス給電システム101では、インダクタンスマトリクスLは式(7)、式(8)で表されるように[N+M]×[N+M]次元の行列となる。このインダクタンスマトリクスで表される親機2−nに角周波数ωの電流を流した場合の各コイル23−nのインピーダンスを表すインピーダンスマトリクスは、次式(9)のように表されるN×N次元の行列となる。
【0068】
ここでjは虚数単位、ωはコイルに流される電流の角周波数、ζ
mはm番目の子機3−mのコイル31−mから見た子機3−mの整合回路を含むインピーダンスである。また、l
mは、m番目の子機の自己インダクタンス、ベクトルl
0mはm番目の子機の各親機との相互インダクタンスである。すなわち、インピーダンスマトリクスZは、複数のコイル23−nに基づくものである。
【0069】
(親機のコイルの消費エネルギー)
次に、親機2−nのコイル23−nで消費されるエネルギーを、電流とインピーダンスマトリクスを用いた式で表す。親機2−nのコイル23−nで消費されるエネルギーは、コイル23−nを流れる電流によって生ずる磁界によって子機に伝送されるエネルギーと、コイル23−nの抵抗によるオーム損失の和となる。オーム損失は、磁界によって子機に伝送されるエネルギーに比べて小さいため、インピーダンスマトリクスZに摂動として取り入れられる。コイル23−1〜23−N全体で伝送されるエネルギーPは、式(10)となる。
【0071】
従って、Pが最大となる時、コイル23−1〜23−Nの消費エネルギー(磁界のエネルギーに比例)が最大となる電流ベクトル(各親機のコイル23−nに流す電流比)が与えられる。この際、通常、損失は親機のコイル23−1〜23−Nのオーム損失が主であるので、|I|
2=一定(規格化条件)を課すことにより、コイルが同一のときは、損失一定の条件を課すこととなる。なお、Zは対称行列なので、ReZは実対称行列となる。
なお、親機2−nに供給する電気信号が電圧の場合、規格化条件は、|V|
2=一定である。
【0072】
図4(b)は、ワイヤレス給電システム101におけるコイル23−nが浮遊容量を有する場合の等価回路を説明する図である。
図4(b)において、コイルL’は、浮遊容量C’を有するコイルであり、C’はコイルL’が有する浮遊容量であり、Antはアンテナの等価回路である。
図4Bに示すように、コイル23―nが浮遊容量を有する場合、コイル23−nに流れる電流Iに代わって、アンテナの等価回路に流れる電流Iと電圧Vとの線形結合は次式(11)のように表される。
【0074】
式(11)において、I’は、アンテナの等価回路AntのコイルL’部に流れる電流である。このため、この電流結合した電流I’を、上述した手順でIの代わりに用いることで、Pが最大となる時、コイル23−1〜23−Nの消費エネルギー(磁界のエネルギーに比例)が最大となる電流ベクトル(各親機のコイル23−nに流す電流比)を算出することができる。
【0075】
(電流ベクトルの算出)
|I|
2=一定の条件下で、式(10)を最大化する電流ベクトルIを求めることは、次に示す永年方程式(12)の最大固有値を持つ電流ベクトルIを求めることと数学的に等価である。
【0077】
従って式(12)の実行列ReZを対角化することにより、複数の固有値及びそれぞれの固有値に対応する電流ベクトルが求められる。すなわち、電流ベクトル生成部135は、複数の親機2−n(コイル23−n)を流れる電流の2乗の和が一定になるように、複数の親機2−n(コイル23−n)に供給する電力を決定する。ここで、Re(Z)は実対称行列であるので、λは全て実数である。従って、子機はエネルギーを消費するのみであり、固有値は正の値をとる。
これらの固有値、電流ベクトルの中で最大の固有値に対応する電流ベクトルが、最大の電力転送効率を与える電流ベクトルである。
ここで、式(9)の第2項に現れるm番目の子機3−mの各親機2−1〜2−Nとの相互インダクタンス同士の直積は、式(13)のようにN×N次元の行列となる。
【0079】
この行列のランクは、通常は親機の数Mである。そのため、上記のインピーダンスマトリクス(の実部)の固有値のうち、正の固有値を持つものはM個であり、残りのN−M個の固有値は0となる。
固有値が0に対応する電流ベクトルは、すべての子機3−mに電力を送ることができず、コイル23−1〜23−Nでのオーム損失の原因となるだけであるため、このような電流ベクトルが示す電流の線形結合で表される電流を、コイル23−1〜23−Nに流しても無駄となる。
【0080】
<ワイヤレス給電システムの動作について>
図5は、ワイヤレス給電システム101における電流配分決定部13の動作の一例を示すフローチャートである。
(ステップS501)通電親機選択部131は、更新命令を入力されると、電流ベクトルの記憶部16の親機選択カウンタjに0を代入する。その後ステップS502に進む。
(ステップS502)通電親機選択部131は、記憶部16の親機選択カウンタjを1増加させる。その後ステップS503に進む。
【0081】
(ステップS503)通電親機選択部131は、親機2−jのスイッチ26−jを閉じさせ、他の親機2−n(n≠j)のスイッチ26−nを開かせる。その後ステップS504に進む。
(ステップS504)電流配分決定部13は、親機2−jのコイル23−jに電流を供給する。複素電圧検出部11は、親機2−iの電圧計25−i各々から、電圧計25−iが測定した電圧(V
ij)を示す電圧情報を入力される。複素電流検出部12は、電流計24−i各々から、電流計24−iが測定した電流(I
ij)を示す電流情報を入力される。ここで、i≠jのときI
ij=0である。その後ステップS505に進む。
【0082】
(ステップS505)インピーダンスマトリクス生成部134は、j=Nであるか否かを判定する。j=Nであると判定された場合は、ステップS506に進む。j≠Nと判定された場合は、ステップS502に戻る。
(ステップS506)インピーダンスマトリクス生成部134は、ステップS504で求められたV
ijを成分とする行列を行列Vとして算出する。インピーダンスマトリクス生成部134は、ステップS504で求められたI
ijを成分とする行列を行列Iとして算出する。インピーダンスマトリクス生成部134は、次式(14)を用いて、インピーダンスマトリクスZの成分Z
ijを算出する。
【0085】
(ステップS507)電流ベクトル生成部135は、ステップS506で算出されたインピーダンスマトリクスZについて永年方程式(12)を総電流の二乗和が一定(|I|
2=一定)の条件下で解く。このようにして得られる解は、固有値及び固有値に対応する電流ベクトルIである。電流ベクトル生成部135は、算出した電流ベクトルIのうち、電流ベクトルIに対する固有値が最大値(最大固有値とも称する)となる場合の電流ベクトルIを選択する。
電流ベクトル生成部135は、選択した電流ベクトルIをIの絶対値|I|で除算し、除算後のI
i/|I|のi成分を親機2−iに供給する電流比として決定する。
(ステップS508)
電流ベクトル生成部135は、決定した電流比を示す情報を電流振幅制御部15に出力する。電流振幅制御部15は、入力された情報が示す電流比の電流を、各親機2−nに供給する。具体的には、I
i/|I|に比例する電流を、親機2−iのコイル23−iに供給する。
【0086】
このように、ワイヤレス給電システム101によれば、複数のコイル23−nの相互インダクタンスに基づいたインピーダンスマトリクスZの実成分が作る実インピーダンスマトリクスが最大固有値を持つように、複数のコイル23−nに供給する電力を決定する。具体的には、ワイヤレス給電システムでは、インピーダンスマトリクスZの固有ベクトル(電流ベクトルI)を算出し、電流ベクトルIに基づいて、複数のコイル23−nに電流を供給する。これにより、ワイヤレス給電システムでは、複数の親機2−n間の相互インダクタンスの影響も含めて給電することができ、複数の親機2−nから子機3−mへの電力の伝送効率を向上できる。
また、ワイヤレス給電システム101によれば、複数のコイル23−nを流れる電流の大きさIの2乗の和が一定になるように、複数のコイル23−nに供給する電力を決定する。これにより、ワイヤレス給電システムでは、コイル23−nでのエネルギー損失(電流の大きさIの2乗の和に比例)を一定のもとで、最大のエネルギー効率で複数の親機2−nから子機3−mへ電力を供給できる。
また、ワイヤレス給電システム101によれば、電流ベクトルIに対する固有値が最大のものになるように、複数のコイル23−nに供給する電力を決定する。これにより、ワイヤレス給電システムでは、複数の親機2−nが供給する電力が最大にでき、複数の親機2−nから子機3−mへの電力の伝送効率を向上できる。
【0087】
なお、上記ワイヤレス給電システム101において、電流ベクトル生成部135は、インピーダンスマトリクスZの固有ベクトル(電流ベクトルI)の非零成分の線形結合となるように、複数のコイル23−nに供給する電力を決定してもよい。
【0088】
また、上記ワイヤレス給電システム101において、電流ベクトル生成部135は、最大固有値以外の固有値に対応する電流ベクトルIを選択してもよい。例えば、電流ベクトル生成部135は、2番目に値の大きい固有値(第二固有値とも称する)に対応する電流ベクトルIを選択してもよい。
この点、建物等には、鉄筋構造のものがある。この建物の部屋では、最大固有値は鉄筋に対する給電に対応するものになる場合がある。電流ベクトル生成部135が第二固有値を選択することで、ワイヤレス給電システムでは、鉄筋構造の建物の部屋でも、鉄筋に電力を供給してしまうことを防止できる。つまり、ワイヤレス給電システムでは、種々の固有値に対応する電流ベクトルIを選択することで、子機3−m以外の伝導体に電力を供給してしまうことを防止でき、親機2−nから子機3−mへの電力の伝送効率を向上できる。
なお、3番目以上の固有値に対応する固有ベクトルを選択してもよい。
【0089】
<シミュレーション>
図6は、ワイヤレス給電システム101についてのシミュレーションの結果を示す図である。この図において、x軸とy軸は空間座標を表し、xy平面は床面と平行の面である。z軸は、電力の大きさを表す。
図6のシミュレーションでは、10×10個(450mm間隔)のコイル23−nを床に付設し、床から1mと0.5mの位置にある子機アンテナに電力を送信する場合の電流パターンを示す。
図6のシミュレーションでは、コイル23−n、31−mの大きさは、親機2−n、子機3−m共に同一であり、コイルの直径が十分小さいという仮定の下で計算を行った。
図6において、符号601を付した点601と符号611を付した点611には、床からの距離が0.5mの高さに子機3−1が設置されている。符号602を付した点602と符号612を付した点612には、床からの距離が1mの高さに子機3−2が設置されている。
【0090】
図6(a)は、電流ベクトル生成部135が最大固有値に対応する場合の電流ベクトルIを選択した場合の図である。
図6(a)において、子機3−1での電力は124.241であった。
図6(b)は、電流ベクトル生成部135が第二固有値に対応する場合の電流ベクトルIを選択した場合の図である。
図6(b)において、子機3−2での電力は、任意スケールで7.37623であった。
このように、電流ベクトル生成部135が各々の固有値に対応する電流ベクトルIを選択することで、電力を供給する子機3−mを選択できる。
【0091】
図7は、ワイヤレス給電システム101の変形例であるワイヤレス給電システム101m1における電流配分決定部13aの構成を示す概略ブロック図である。
図7と
図4(a)とを比較すると、電流配分決定部13aの通電親機選択部131a及びインピーダンスマトリクス生成部134aが異なる。その他の構成が持つ機能は同じであるので、その他の構成についての説明は省略する。
【0092】
通電親機選択部131aは、すべての親機2−nのスイッチ26−nを閉じさせるスイッチ切替信号をスイッチ26−nへ出力する。通電親機選択部131aは、親機2−jを1つ選択し、その親機2−jに対して、電流値が既知の電流(電流計24−jにおける電流の大きさがI
0、角周波数ω
0)を供給させる。なお、被測定親機選択部132は、親機2−jに電流が供給されている間に、親機2−iを順に選択して、その複素電圧情報及び複素電圧情報を記憶部16に書き込む。通電親機選択部131a及び被測定親機選択部132は、すべてのjについて同様の処理を行う。
【0093】
図8は、ワイヤレス給電システム101m1における電流配分決定部13aの動作の別の一例を示すフローチャートである。本変形例は、親機2−nにスイッチ26−nがない場合(つまり、スイッチ26−nは常にOnの場合)に適用する。
(ステップS801)通電親機選択部131aは、更新命令を入力されると、電流ベクトルの記憶部16の親機選択カウンタjに0を代入する。その後ステップS802に進む。
(ステップS802)通電親機選択部131aは、記憶部16の親機選択カウンタjを1増加させる。その後ステップS803に進む。
【0094】
(ステップS803)電流配分決定部13aは、親機2−jのコイル23−jに電流を供給する。その後ステップS804に進む。このとき、n≠jの親機の電源部21−nにも誘導電流が流れることがあるが、それも可としてもよい。
(ステップS804)複素電圧検出部11は、親機2−iの電圧計25−i各々から、電圧計25−iが測定した電圧(V
ij)を示す電圧情報を入力される。複素電流検出部12は、電流計24−i各々から、電流計24−iが測定した電流(I
ij)を示す電流情報を入力される。その後ステップS805に進む。
【0095】
(ステップS805)インピーダンスマトリクス生成部134aは、j=Nであるか否かを判定する。j=Nであると判定された場合は、ステップS806に進む。j≠Nと判定された場合は、ステップS802に戻る。
(ステップS806)インピーダンスマトリクス生成部134aは、次式(15)を用いて、インピーダンスマトリクスZの成分Z
ik(kは1からNまでの整数)を算出する。
【0097】
ここで、式(27)は、N×N個の未知数Z
ikを持つN×N個の連立方程式である。
インピーダンスマトリクス生成部134aは、この連立方程式(15)を解くことによりインピーダンスマトリクスZの成分Z
ikを得る。なお、Z
ikは、対象行列であるので、独立な成分はN×(N−1)/2である。しかし、ここではそのことを無視して連立方程式を解く。この場合、複素の範囲でZ
ik=Z
kiとなる。その後、ステップS807へ進む。
【0098】
(ステップS807)電流ベクトル生成部135は、ステップS806で算出されたインピーダンスマトリクスZについて永年方程式(12)を総電流の二乗和が一定(|I|
2=一定)の条件下で解く。このようにして得られる解は、固有値及び固有値に対応する電流ベクトルIである。電流ベクトル生成部135は、算出した電流ベクトルIのうち対応する固有値が最大固有値となる電流ベクトルIを選択する。
電流ベクトル生成部135は、選択した電流ベクトルIに基づいてI
i/|I|を算出し、算出したI
i/|I|を親機2−iに供給する電流比として決定する。
(ステップS808)
電流ベクトル生成部135は、決定した電流比を示す情報を電流振幅制御部15に出力する。電流振幅制御部15は、入力された情報が示す電流比の電流を、各親機2−nに供給する。具体的には、I
i/|I|に比例する電流を、親機2−iのコイル23−iに供給する。
【0099】
このように、ワイヤレス給電システム101m1によれば、親機2−nにスイッチ26−nがない場合でも、電流ベクトルIを計算できる。したがって、電流ベクトルIが示す電流比に応じて、親機2−iのコイル23−iに電流を供給することができる。
【0100】
上記ワイヤレス給電システム101m1において、
図2に示した子機3−mのスイッチ33−mの働きについて説明をする。親機がインピーダンス測定を行っていない期間、すなわち電力転送を行っている期間(S508orS808)において、電圧計36が計測した充電電圧が予め定められた閾値よりも大きくなったときには、スイッチ制御部38が、充電が完了したと判定する。充電が完了したと判定した場合、スイッチ制御部38は、スイッチ33−mを開かせる開閉信号を出力し、スイッチ33−mは開き、これ以上充電は行われない。なお、子機3−mのスイッチ33−mの切り変わりの頻度は、親機2−nのインピーダンスマトリクスの更新間隔より十分大きく、該更新間隔内では、子機3−mのスイッチ33−mは切り変わらないとしてよい。或いは、スイッチ33−mの切り変わりは、親機2−nのインピーダンスマトリクスの更新と同期させてもよい。この場合、親機2−nと子機3−mとの間には、無線などの同期信号の送受信を行うデバイスが必要となる。
【0101】
ここで、制御部17の更新命令により、電流配分決定部13が、再度、電流比を決定すると、スイッチ33−mが開いている子機3−mが無視されたインピーダンスマトリクスZが算出される。この場合、電流配分決定部13は、子機3−mに電力を供給しない電流ベクトルIを選択する。例えば、電流配分決定部13が最大固有値に対応する電流ベクトルIを選択することにより、ワイヤレス給電システムでは、子機3−1を中心に電力が供給される。その後、子機3−1がスイッチを開くと、電流配分決定部13が別の最大固有値に対応する電流ベクトルIを選択する。これにより、ワイヤレス給電システムでは、例えば、子機3−2を中心に電力が供給され始める。
このように、子機3−mのスイッチ33−mを開閉することにより、ワイヤレス給電システムでは、大きな電力を給電する子機3−mを順次選択できる。
【0102】
ただし、スイッチ33−mがない場合でも、ワイヤレス給電システムでは、大きな電力を給電する子機3−mを順次選択できる。
図9は、ワイヤレス給電システム101の変形例であるワイヤレス給電システム101m2における親機及び子機の構成を示す概略ブロック図である。この図は、子機3−mにスイッチがない場合を示した図である。
図9において、不図示の親機送電制御部1と親機20−nの信号線は接続されており、同期が取れている。
図9において、電流計24−1は、複素電流を測定する計器であり、その電流振幅および位相を同時に測定できるものである。電圧計25−1は、複素電圧を測定する計器であり、その電圧振幅および位相を同時に測定できるものである。なお、電源部21−nは、親機送電制御部1から入力された電流を受け入れるコネクタであってもよい。
この場合、蓄電池35−mの充電は続けられる。キャパシタ32−mから負荷を見たインピーダンスの実部はチャージ状態が上がるにつれて大きくなり、親機から見た固有値は低下するものと考える。つまり、ワイヤレス給電システムでは、自然に給電の優先順位が下がり、給電されなくなる(受電拒否モード)。また、この場合には、ワイヤレス給電システムでは、スイッチ33−mを導入するコストを低減できる。なお、子機3−mには、スイッチ33−mを有するものと有しないものが混在してもよい。
【0103】
(ワイヤレス給電システム102)
以下、ワイヤレス給電システム102について説明する。ワイヤレス給電システム102では、インピーダンスマトリクスZの最大固有値に対応する固有ベクトルに収束するように、複数の親機のコイルに供給する電力を決定する。ワイヤレス給電システム102における親機2−n及び子機3−mは、ワイヤレス給電システム101のものと同じである。親機送電制御部1は、電流配分決定部13に代えて、別種の電流配分決定部13bを備える点が異なる。しかし、親機送電制御部1における他の構成は、ワイヤレス給電システム101と同じであるので、説明は省略する。
【0104】
図10は、ワイヤレス給電システム102における電流配分決定部13bの構成の一例を示した概略ブロック図である。この図において、電流配分決定部13bは、初期電流ベクトル生成部136、及び電流ベクトル生成部137を含んで構成される。
初期電流ベクトル生成部136は、制御部17から更新命令が入力された場合に、べき乗法の初期値として、すべてのコイル23−nに同じ振幅I(0)、同位相の電流を供給させる。具体的には、初期電流ベクトル生成部136は、比が同一のとなる電流比を示す情報を電流振幅制御部15に出力する。ただし、初期電流は同じ振幅、同じ位相でなくてもよい。
電流ベクトル生成部137は、複素電圧検出部11から入力された複素電圧情報及び複素電流検出部12から入力された複素電流情報に基づいて、各親機の複素電圧の、複素電流と同相の成分を抽出し、その成分に比例した電流比を決定する(電流決定処理という)。電流ベクトル生成部137は、決定した電流比を示す情報を電流振幅制御部15に出力する。その後、電流ベクトル生成部137は、電流決定処理を繰り返す。
【0105】
図11は、ワイヤレス給電システム102における電流配分決定部13bの動作の一例を示すフローチャートである。
(ステップS1001)初期電流ベクトル生成部136は、更新命令を入力されると、繰り返し回数を示すカウンタkに0を代入する。その後、ステップS1002に進む。
(ステップS1002)初期電流ベクトル生成部136は、比が同一のとなる電流比を示す情報を電流振幅制御部15に出力する。これにより、電流振幅制御部15は、同じ振幅で同位相の電流I
i(0)を、親機2−iへ供給する。その後、ステップS1003に進む。
【0106】
(ステップS1003)電流ベクトル生成部137は、ステップS1002で出力した電流比を示す情報、及びステップS1005で決定した電流比を示す情報を記憶する。その後、ステップS1004へ進む。
(ステップS1004)電流ベクトル生成部137は、複素電圧検出部11から入力された複素電圧情報を、記憶部16に書き込む。ここで、繰り返し回数がkのときに、親機2−iの電流計24−iが測定した電圧で、複素電流検出部12で測定された電流と同相の成分をV
i(k)で表す。その後、ステップS1005へ進む。
【0107】
(ステップS1005)電流ベクトル生成部137は、次式(16)を用いて電流ベクトルI(k+1)のi成分I
i(k+1)を決定する。
【0109】
ここで、V
max(k)は、i=1〜NでのV
i(k)の絶対値の最大値を示す。また、I
maxは、予め定められた値であり、例えば、電流振幅制御部15の最大定格電流である。電流ベクトル生成部137は、式(16)で決定した電流ベクトル成分を決定し、その後、ステップS1006へ進む。
【0110】
(ステップS1006)電流ベクトル生成部137は、カウンタkにk+1を代入する。
その後、ステップS1003へ戻る。
【0111】
<作用効果について>
以下、電流ベクトル生成部137が決定した電流比の電流を、親機2−nに供給した場合の作用効果について説明をする。
固有値は正の値をとるため、子機が最低1つあるとその固有値λ0は、λ0>0を満たす。
【0113】
ここで、P=(I0,I1,・・・In)、Inはn番目の固有値に対する大きさが1の固有ベクトル(電流ベクトル、N×1の列ベクトル)であり、式(17)を満たすものである。
【0114】
diag(a0、a1、・・・、aN−1)は対角行列であり、変数は対角成分を表す。k→∞の極限を考えると、式(18)のようになる。
【0116】
よって、最大固有値以外の固有ベクトルは0に収束する。
【0117】
以下に示すように繰り返し計算を行うことにより、最大固有値に対応する電流ベクトルを、連立方程式や対角化などの計算をすることなく求めることができる。
まず、全コイルに同振幅、同位相の電流をベクトル表示でI(0)を流したときn番目のコイルに観測される流した電流と同位相の電圧成分をベクトル表示でV(0)とすると式(19)の関係が成り立つ。
【0119】
ここで、V(k)、I(k)などのkは、何番目の繰り返し計算であるかを表す。ここで算出したV(0)に係数α(0)を乗じることにより次式(20)のようにI(1)を求める。
【0121】
ここで算出したI(1)を用いてV(1)を式(21)のように求める。
【0123】
以下、繰り返すことにより、I(k)は式(22)のように表される。
【0125】
ここで、αは、電流成分の最大値が定格電流になるように決定してもよいし、N個の送信電力の和が定格になるように決めてもよい。各電流成分間の比は、上の式に従って決定される。このようにして決定したI(k)は最大固有値の固有ベクトルに収束する。
以上のように、電流配分決定部13bは、電流決定処理を繰り返すことにより、I(k)を最大固有値の固有ベクトルに収束させる。すなわち、電流配分決定部13bは、インピーダンスマトリクスZの固有ベクトルに収束するように、親機2−nはコイル23−nに供給する電力を決定する。換言すれば、電流配分決定部13bは、インピーダンスマトリクスZの実成分が最大固有値を持つように、親機2−nはコイル23−nに供給する。
【0126】
このように、ワイヤレス給電システム102によれば、インピーダンスマトリクスZの固有ベクトルに収束するように、親機2−nはコイル23−nに供給する電力を決定する。これにより、ワイヤレス給電システムでは、複数の親機2−nから子機3−mへの電力の伝送効率を向上できる。
なお、電流配分決定部13bは、固有ベクトルの成分のうち絶対値が最大となる成分に対応する電流が電流定格となるように、又は固有ベクトルの成分のうち絶対値が最大となる成分に対応する電圧が電圧定格となるように、N個の親機電力送信部に供給する前記電気信号を決定してもよい。
【0127】
図12は、ワイヤレス給電システム102についての結果を示す図である。この図において、x軸とy軸は空間座標を表し、xy平面は床面と平行の面である。z軸は、電力の大きさを表す。
図12のシミュレーションでは、10×10個(450mm間隔)のコイル23−nを床に付設し、床から1mと0.5mの位置にある子機アンテナに電力を送信する場合の電流パターンを示す。
図12A、
図12B、及び
図12Cのシミュレーションでは、コイル23−n、31−mの大きさは、親機2−n、子機3−m共に同一であり、コイルの直径が十分小さいという仮定の下で計算を行った。
図12A、
図12B、及び
図12Cにおいて、符号1101を付した点1101と符号1111を付した点1111と符号1121を付した点1121には、床からの距離が0.5mの高さに子機3−1が設置されている。符号1102を付した点1102と符号1112を付した点1112と符号1122を付した点1122には、床からの距離が1mの高さに子機3−2が設置されている。
【0128】
図12(a)は、初期電流ベクトル生成部136が同じ振幅、同位相をすべてのコイル23−nに送信する電流ベクトルIを選択した場合の図である。
図12Aにおいて、xy平面上に均一な電力が送信されている。
図12(b)は、電流ベクトル生成部137が第1回目の繰り返し計算を行った後の電流パターンを示す。点1111のみならず点1112にも電力が送信されていることを示している。
図12(c)は、電流ベクトル生成部137が第2回目の繰り返し計算を行った後の電流パターンを示す。点1121のみに電力が送信されていることを示している。
図12Cにおいて、子機3−1での電力は任意スケールで124.236であった。これは、
図6Aで示した子機3−1での電力とほぼ等しく、繰り返し計算は収束していることを示している。
【0129】
(ワイヤレス給電システム103)
以下、ワイヤレス給電システム103について説明する。ワイヤレス給電システム103では、1台の高周波電源をN台の親機で共有する。つまり、親機に供給される電流は、親機の数より少数の高周波電源から供給される。親機は、高周波電源から供給される電流を制限することにより、親機のコイルに供給される電流を制御する。
【0130】
図13は、ワイヤレス給電システム103における親機2b−n及び子機3−mの構成を示す概略ブロック図である。ワイヤレス給電システム103における、親機送電制御部1b、高周波電源4b、電流受入部21b−n、電流制御部(制御部)26b−n、及び電流方向切替部27−n以外の構成は、ワイヤレス給電システム101と同様であるため説明を省略する。また、
図13において、信号線は親機送電制御部1bと親機2b−1の接続のみを表記しているが、親機送電制御部1bと他の親機2b−nについても信号線は同様に接続されており、同期が取れている。なお、電流受入部21b−nは、親機送電制御部1bから入力された電流を受け入れるコネクタであってもよい。
【0131】
高周波電源4bは、商用電源から受電した電力を高周波電流に変換し、変換された高周波電流を電流受入部21b−1〜21b−Nに出力する。
電流受入部21b−nは、高周波電源4bから入力された高周波電流を電流制御部26b−nに供給する。
親機送電制御部1bは、電流計24−nが測定した電流、及び、電圧計25−nが測定した電圧に基づいて、セレクタ切替信号を生成する。また、親機送電制御部1bは、電流計24−nが測定した電流、及び電圧計25−nが測定した電圧に基づいて電流を設定し、設定した電流の正負に応じて電流方向切替信号を生成する。
電流制御部26b−nは、親機送電制御部1bが生成したセレクタ切替信号に基づいて、電流受入部21b−nから入力された電流を制限することにより、コイル23−nに流れる電流を制御する。
電流方向切替部27−nは、親機送電制御部1bが生成した電流方向切替信号に基づき、コイル23−nに流れる電流の向きを切り替える。
電流計24−1は、複素電流を測定する計器であり、その電流振幅および位相を同時に測定できるものである。電圧計25−1は、複素電圧を測定する計器であり、その電圧振幅および位相を同時に測定できるものである。
【0132】
図14は、ワイヤレス給電システム103における電流方向切替部27−nの構成を示す概略回路図、電流制御部26b−nの構成を示す概略ブロック図である。
図14(a)は、ワイヤレス給電システム103における電流方向切替部27−nの構成を示す概略回路図である。
図14(a)に示すように、電流方向切替部27−nは、セレクタSb
1n、Sb
2nを備えている。セレクタSb
1n、Sb
2nの切り替えは、例えば電流計24−n(
図13参照)に流れる電流の向きを取得し、電流方向切替部27−nがコイル23−nに流れる電流の向きを切り替える。セレクタSb
1n、Sb
2nは、例えばリレーである。
図14(a)に示すように、セレクタSb
1n、Sb
2nは、3つのポートを有している。セレクタSb
1nは、入力端子が電圧計25−nの一端に接続され、出力端子の一方がコイル23−nの一端に接続され、出力端子の他方がコイル23−nの他端に接続されている。セレクタSb
2nは、入力端子が電圧計25−nの他端に接続され、出力端子の一方がコイル23−nの他端に接続され、出力端子の他方がコイル23−nの一端に接続されている。
【0133】
図14(b)は、ワイヤレス給電システム103における電流制御部26b−nの構成を示すブロック図である。電流制御部26b−nは、B個のコンデンサC1〜CB、及びセレクタ262b−nを含んで備える。各コンデンサの容量C
b(1≦b≦B)は、式(23)で表される。つまり、コンデンサC1〜CBの容量C
1〜C
Bは、それぞれ異なる。
【0135】
ここで、αは任意の定数(ここでは、α=0.1とする)、ωは、高周波電源4bが出力する高周波の角周波数、Bはコンデンサの数、L
anは親機2−nのコイルのインダクタンスを表す。ただし、αを大きすぎるとC
bが大きくなり、コイルに流れる電流の位相がずれることになるため、α≦0.5が望ましい。
B個のコンデンサC1〜CBの一端は電流計24−nに接続される。B個のコンデンサC1〜CBの他の一端は符合S1〜SBを付した端子S1〜SBに接続される。ここで、端子とは、セレクタ(切替部)262b−nの端子である。なお、符合S0を付した端子S0は開放とする。これは、機能しないスイッチであるが、これのみがオン状態になるときは、電流を遮断することを表し、ソフトウェアを簡略できる。セレクタ262b−nの他の一端は、コイル23−n及び電圧計25−nの一端と接続される。電流制御部26b−nは、電流配分決定部13bから入力されたセレクタ切替信号に応じてセレクタ262b−nの接続を切り替える。ここで、電流制御部26b−nは、端子S1〜SBのうちの1つとセレクタ262b−nを接続させる。つまり、スイッチ切替信号は、どのコンデンサC1〜CBとコイル23−nとを接続させるかを示す信号である。ただし、本発明はこれに限られず、セレクタ262b−nは、2つ以上の端子S1〜SBと接続させてもよい。また、負の電流に対しては、電流方向切替部27−nが電流の向きを反転させる。
【0136】
図15は、ワイヤレス給電システム103における親機送電制御部1bの構成を示す概略ブロック図である。ワイヤレス給電システム103における、電流配分決定部13b、電流振幅制御部15b、及び選択テーブル記憶部18b以外の構成は、ワイヤレス給電システム101における親機送電制御部1と同様のものであるため説明を省略する。
【0137】
電流配分決定部13bは、制御部17から更新命令が入力されたときに、セレクタ切替信号を電流制御部26b−nへ出力する。ここで、セレクタ切替信号は、1つの親機2b−jのセレクタ262b−jだけを端子SBに接続させ、他の親機2b−n(n≠j)のセレクタ262b−i(n≠j)を端子S0に接続させるセレクタ切替信号である。
電流配分決定部13bは、セレクタ切替信号に基づいてセレクタ262b−jが端子SBに接続されたときに、親機2b−j(j=1〜N)で測定された情報を記憶部16に書き込む。具体的には、電流配分決定部13bは、セレクタ切替信号に基づいてセレクタ262b−jが端子SBに接続されたときに、複素電圧検出部11から入力された複素電圧情報(電圧計25−iが測定した電圧の大きさをV
ijで表す)及び複素電流検出部12から入力された複素電流情報(電流計24−iが測定した電流の大きさをI
ijで表す。ここでは、I
ii=I
0)を記憶部16に書き込む。
【0138】
電流配分決定部13bは、セレクタ切替信号を出力した後、複素電圧情報及び複素電流情報を記憶部16から読み出す。電流配分決定部13bは、読み出した情報に基づいて、複数の親機2b−n各々に供給する電流比を決定する。電流配分決定部13bは、決定した電流比を示す情報を、電流振幅制御部15bへ出力する。
【0139】
電流振幅制御部15bは、電流配分決定部13bから入力された電流比を示す情報が示す電流比に基づいて、セレクタ切替信号を生成する。具体的には、電流振幅制御部15bは、選択テーブル記憶部18bが記憶する選択テーブルに基づいて、各電流制御部26b−nのセレクタ切替信号を生成する。選択テーブルの詳細については後述する。
電流振幅制御部15bは、生成したセレクタ切替信号を電流制御部26b−nに出力する。電流振幅制御部15bは、振幅を制御するセレクタ切替信号を出力するが、位相を制御する信号は出力しない。これは、ワイヤレス給電システム103では、電流位相は制御できる上に、Cbが十分小さければ電流受入部21b−nに供給した電流とほぼ同位相の電流がコイル23−nに流れるからである。
【0140】
選択テーブル記憶部18bは、選択テーブルを記憶する。
図16は、ワイヤレス給電システム103における選択テーブル記憶部18bに記憶される選択テーブルの一例を示す概略図である。
図16に示した例では、
図14(b)において、B=10の例を説明する図である。図示するように選択テーブルは、電流比γ及びセレクタ端子の各項目の列を有している。選択テーブルは、電流比毎にセレクタ選択情報が格納される行と列からなる2次元の表形式のデータである。
符合P1を付したデータは、電流比γが0のとき、セレクタ262b−nが端子S0を選択することを示している。符合P2を付したデータは、電流比γが0より大きく〜0.1以下のときにセレクタ262b−nが端子S1を選択することを示している。符合P10を付したデータは、電流比γが0.9より大きく1以下のときにセレクタ262b−nが端子S10を選択することを示している。
【0141】
図17は、電流制御部26b−nのコンデンサの数Bと、親機から子機へのエネルギーの伝送効率の関係を示すグラフである。縦軸は、伝送効率(任意スケール)、横軸は、コンデンサの数Bを表す。
ここで、伝送効率とは、全ての親機から全ての子機へ伝送されたエネルギーの総和を、親機のコイル23−nに流した電流の二乗和(コイルで消費されるジュール熱)で除した値である。つまり、伝送効率とは、全ての親機から全ての子機へ伝送されたエネルギーの総和を、コイルのオーム損失の総和で除した値である。
伝送効率は、コンデンサの数Bが増加するに従って増加し、ほぼB=8程度で飽和する。つまり、コンデンサは8個程度あれば十分であることを示している。
【0142】
このように、ワイヤレス給電システム103では、電流制御部26b−nは、電流配分決定部13bが決定した電気信号を、高周波電源4bから供給される電力を制限することにより生成する。上記の構成により、ワイヤレス給電システム103では、高周波電源を各親機2b−nで共有できる。電流制御部26b−nは、スイッチおよびコンデンサで構成されるため、各親機2b−nに高周波電源を備える場合に比べてコストを削減できる。
【0143】
上記のワイヤレス給電システム103では、コイルとキャパシタとを並列に接続して共振させる例を説明したが、
図18〜
図20に示すようにコイルとキャパシタとを直列に接続するように構成してもよい。
図18は、ワイヤレス給電システム101の変形例であるワイヤレス給電システム101aの概略図である。
図19は、ワイヤレス給電システム101m2の変形例であるワイヤレス給電システム101m2aの概略図である。
図20は、ワイヤレス給電システム103の変形例であるワイヤレス給電システム103aの概略図である。なお、
図19において電源部21−nは、親機送電制御部1から入力された電流を受け入れるコネクタであってもよい。
図20において電流受入部21b−nは、親機送電制御部1bから入力された電流を受け入れるコネクタであってもよい。
【0144】
図18に示すように、ワイヤレス給電システムは、親機送電制御部1、N個の親機2a−1〜2a−N(各々を親機2a−nとも称す)、及び、M個の子機3−1〜3−M(各々を子機3−mとも称す)を具備する。
図18において、電流計は、複素電流を測定する計器であり、その電流振幅および位相を同時に測定できるものである。電圧計は、複素電圧を測定する計器であり、その電圧振幅および位相を同時に測定できるものである。
この図のように、親機2a−nにおいて、キャパシタは、電流計を介してコイルに直列に接続されている。
【0145】
図19に示すように、M個の子機30a−1〜30a−M(各々を子機30a−mとも称す)は、整流器34−m、蓄電デバイス35−m、及び負荷37−m、及び電力受信部39a−m−nを含んで構成される。電力受信部39a−mは、コイル31−m、キャパシタ32a−mを含んで構成される。N個の親機20−1〜20−Nの構成は
図9と同様である。
図19において、
図9と同様に不図示の親機送電制御部1と親機20−nの信号線は接続されており、同期が取れている。また、電流計24−1は、複素電流を測定する計器であり、その電流振幅および位相を同時に測定できるものである。電圧計25−1は、複素電圧を測定する計器であり、その電圧振幅および位相を同時に測定できるものである。
この図のように、キャパシタ32a−mは、一端がコイル31−mの一端に直列に接続され、他端が整流器34−mの入力側の一端に接続されている。
【0146】
図20に示すように、M個の子機3a−1〜3a−M(各々を子機3a−mとも称す)は、スイッチ33−m、整流器34−m、蓄電デバイス35−m、電圧計36−m、負荷37−m、及びスイッチ制御部38−m、電力受信部39b−mを含んで構成される。電力受信部39a−mは、コイル31−m、キャパシタ32b−mを含んで構成される。N個の親機2b−1〜2b−Nの構成は
図13Aと同様である。
図20において、信号線は親機送電制御部1bと親機2b−1の接続のみを表記しているが、親機送電制御部1bと他の親機2b−nについても信号線は同様に接続されており、同期が取れている。また、電流計24−1は、複素電流を測定する計器であり、その電流振幅および位相を同時に測定できるものである。電圧計25−1は、複素電圧を測定する計器であり、その電圧振幅および位相を同時に測定できるものである。
この図のように、キャパシタ32b−mは、スイッチ33−mを介してコイル31−mと直列に接続されている。キャパシタ32b−mは、一端がスイッチ33−mの他端に接続され、他端が整流器34−mの入力側の一端に接続されている。
【0147】
上記のワイヤレス給電システムでは、N個(Nは1以上の整数)の親機電力送信部(1または1b)と、少なくとも一つの子機電力受信部(子機3−n)と、前記複数の親機電力送信部に供給する電気信号を決定する配分決定部(電流配分決定部13)を具備する非接触給電システムにおいて、電気信号は、電流又は電圧あるいはその線形結合量を成分に有し、配分決定部が、子機電力受信部が存在するときのインピーダンス行列の実部又はアドミタンス行列の実部の行列Bと電気信号とに基づく行列が、エネルギーの散逸を表すとき行列Bの非0の固有値に対する固有値ベクトルの成分に比例するようにN個の親機電力送信部に供給する前記電気信号を決定している。
電流配分決定部13は、複数の親機2−nに供給する電気信号の決定を、例えば以下のように行う。
Z
0を子機3−nが無いときのインピーダンス行列、Zを子機3−nがあるときのインピーダンス行列とすると、伝送損失Lossは次式(24)のように表され、伝送パワーPowerは次式(25)のように表される。
【0150】
式(24)及び式(25)において、Iは、次式(26)のように、電流I
1・・・I
Nを要素に持つ行列である。また、Iの上に付した「〜(チルダ)」は、転置行列を表し、Iの右上に付した「*(アスタリスク)」は、複素共役を表している。
【0152】
電流配分決定部13は、子機3−nがある場合、伝送損失Lossを一定としたとき伝送パワーPowerを最大にするように電流Iベクトル(電流パターン)を決定する。例えば、電流配分決定部13は、伝送パワーPowerを伝送損失Lossで除算した値を最大にする電流Iベクトルを用いて、親機2−nのコイル23−nを駆動する。
【0153】
また、上記のワイヤレス給電システムでは、式(10)において、エネルギーPが最大となる電流ベクトルの条件として、親機2−n間のコイルが同一の場合に、損失一定の条件を課す例を説明したが、これに限られない。親機2−n間のコイルが異っていてもよい。
【0154】
次に、親機2−n間のコイルが異なる場合について説明する。
まず、子機3−nが無いときのインピーダンス行列をZ
0とする。なお、Z
0の実部Re(Z
0)は、エルミート行列である。このため、Re(Z
0)の固有値ρ
1・・・ρ
Nは実数であり、0以上の値を取る。多くの場合、ρ
n=0は抵抗0を表すために、事実上はρ
nは0より大きい。従って、Re(Z
0)を正則とみなすことができる。Z
0の実部Re(Z
0)の固有値をρ
1・・・ρ
N(ただしρ
1・・・ρ
Nは0以上の値)のように表し、規格化された固有値ベクトルを次式(27)のように表す。Nは、親機2−nの個数である。行列Jは、N×Nのユニタリ行列である。
【0156】
式(10)を用いて、Re(Z
0)を、次式(28)のように表す。
【0158】
ただし、式(28)において、√ρは、次式(29)である。式(27)〜式(28)において、インピーダンス行列Z
0は、予め記憶部16にテーブルとして記憶させておく。電流配分決定部13は、Re(Z
0)の固有値、及び規格化された固有値ベクトルを、記憶部16に記憶されているインピーダンス行列Z
0を用いて算出する。
【0160】
次に、子機3−nが有るときのインピーダンス行列をZとする。このインピーダンス行列Zは、子機3−nの配置又は個数により変化する値である。このため、電流配分決定部13は、測定した電流値及び電圧値を用いてインピーダンス行列Zを算出する。ここで、エネルギーTを次式(30)のように表し、エネルギーTの最大固有値に対する固有ベクトルaを次式(31)のように表す。
【0163】
なお、式(31)において、Iは、子機3−nがあるときの親機2−nに流れる電流の列ベクトルである。
ここで、伝送損失Lossが、近似的に次式(32)のように表せる場合、この伝送損失Lossを一定値としたとき、次式(33)のように表される伝送パワーPowerを最大にすることは、固有ベクトルaを用いて表した次式(34)の伝送Lossを一定の条件下で、固有ベクトルaとエネルギーTを用いて表した次式(35)の伝送パワーPowerを最大にすることに対応する。
【0168】
電流配分決定部13は、式(30)を用いてエネルギーTを算出し、このエネルギーTの固有値を算出する。そして、電流配分決定部13は、固有値の中から最大固有値を抽出し、抽出した最大固有値に対する固有ベクトルaを算出する。電流配分決定部13は、算出した固有ベクトルaを、式(31)をIで表した次式(36)に代入して電流成分の行列Iを算出する。
【0170】
親機2−n間のコイルが異なる場合であっても、このように算出した電流成分の行列Iを親機2−nに印加することにより、子機3−mが無い場合に、親機2−nのコイルで散逸されるエネルギー当たりの伝送パワーPowerを最大にすることができる。
【0171】
以上のように、本発明によれば、N個(Nは2以上の整数)の親機電力送信部(親機2−n)と、少なくとも一つの子機電力受信部(子機3−m)と、N個の親機電力送信部に供給する電気信号を決定する配分決定部(電流配分決定部13)を具備する非接触給電システムにおいて、電気信号は、電流又は電圧あるいはその線形結合量を成分に有し、配分決定部は、各親機電力送信部に供給する電気信号を成分に持つN行×1列のN次元のベクトルXとするとき、行列A(2次形式を作る行列)をN行×N列の正則なエルミート行列として、式(1)のスカラーが正であり、子機電力受信部が機能するときの電気信号の2次形式行列がエネルギーの散逸を表しその係数を成分とするN行×N列のエルミートである行列Bであり、式(2)のスカラーがエネルギー消費を表し、行列Aが式(3)のように表されるとき、式(4)で表される行列D(エネルギーT(式42))の非0の固有値に対する固有ベクトルYの線形結合に左から行列C
−1(√ρ
−1)を乗じたベクトルC
−1Yの成分に比例するように電気信号を決定する。
なお、ここでの各行列、各ベクトルと上述した各行列、各ベクトルとの対応は、次の通りである。すなわち、ベクトルXは、電流配分決定部13が親機2−nのコイル23−nを駆動する際に用いる電流Iベクトルである。また、行列Aは、子機3−nが無いときのインピーダンス行列をZ
0として、インピーダンス行列Z
0の実部Re(Z
0)であるエルミート行列である。また、行列Bは、子機3−nがあるときのインピーダンス行列Zである。また、行列Cは、行列Dを表わす式(30)の右辺(√ρ)
−1である。
子機があるときの親機に流す電気信号(電流Iベクトル)は、固有ベクトルY(固有ベクトルa)を用いて、式(36)に示すように、行列Yに左から行列Cの逆行列C
−1を乗じたC
−1Yと表わされる。
【0172】
ここで行列Xの要素をx
n(n=1、・・・、N)とし、行列Aの要素をa
ij(a
ij=a
ji*)とすると、式(1)は次式(37)のように表される。
【0174】
また、行列Bの要素をb
ij(b
ij=b
ji*)とすると、式(2)は次式(38)のように表される。
【0176】
この場合、行列Aは、E(単位行列)である。行列Cは、行列Cの転置行列の複素共役と等しく、かつ単位行列Eと等しい。行列Dは、Re(Z)の左右から単位行列Eを乗じたものと等しく、すなわちRe(Z)と等しい。YはRe(Z)の固有ベクトルであるので、ベクトルCYは、ベクトルEYに等しく、すなわち固有ベクトルYと等しい。
【0177】
なお、親機2−n間のコイル23−nが同一の場合、上述した行列A及び行列Bは、各々、単位行列である。また、行列Aは、子機が存在しないときのインピーダンス行列Z
0の実部Re(Z
0)である。また、行列Aは、コイル23−nに基づくアンテナのインダクタンス行列の実部である。さらに、行列Aは、式(37)が、ある特定領域の空間に蓄えられる場のエネルギーの総和であるものである。
【0178】
上記では、損失当たりのエネルギー最大量を決定する方法を説明したが、これは損失で規定しなくても、正値確定(固有値が全て正)な2次形式(基準行列)であればよい。例えば、前記のRe(Z
0)(基準行列)に換えて、次式(39)のように表される親機2−n間の相互インダクタンス行列(基準行列)に1/2を乗じた値を導入した場合について説明する。
【0180】
また、次式(40)に示すエネルギーEは、全空間に蓄えられる親機2−nが誘導する磁界のエネルギーを表している。
【0182】
このため、Re(Z
0)に換えて式(39)の(1/2)Lに書き換えることは、全空間に蓄えられる親機2−nが誘導する磁界に蓄えられるエネルギーを一定にしたときの最大伝送パワーの問題を解くことになる。
また、ある特定空間(ただし全空間ではない)に蓄えられる磁界のエネルギーE’を次式(41)のように表すと、特定空間に蓄えられる磁界エネルギーを一定にしたときの最大伝達パワー問題を解くこととなる。
このエネルギーE’は、ここでLを子機がないときのインダクタンス行列とすれば親機2−nのみの誘導する磁界のエネルギーである。また、このエネルギーE’は、Lを子機があるときのインダクタンス行列とすれば親機2−nと子機3−mが誘導する磁界のエネルギーである。
【0184】
ただし、式(41)において、L’は、次式(42)である。
【0186】
(ワイヤレス給電システム104)
以下、ワイヤレス給電システム104について説明する。ワイヤレス給電システム104では、ワイヤレス給電システム103と同様に1台の高周波電源をN台の親機で共有する。ワイヤレス給電システム104では、電流制御部が共振回路を有する例を説明する。
【0187】
図21は、ワイヤレス給電システム104における親機2c−n及び子機3−mの構成を示す概略ブロック図である。ワイヤレス給電システム104における親機2c−n以外の構成は、ワイヤレス給電システム103と同様であるため説明を省略する。
【0188】
図21に示すように、N個の親機2c−1〜2c−N(各々を親機2c−nとも称す)は、電流受入部21b−n、電流計24−n、電圧計25−n、電流方向切替部27−n、及び電力送信部28c−nを含んで構成されている。電力送信部28c−nは、電流制御部(制御部)26c−n、コイル23−nを含んで構成されている。ワイヤレス給電システム103では、電流制御部26b−nは、一端が電流計24−1を介して電流受入部21b−nの一端に接続され、他端が電圧計25−nの一端とコイル23−nの一端とに接続されている(
図13A参照)。一方、ワイヤレス給電システム104では、電流制御部26c−nは、一端が直接、電流受入部21b−nの一端に接続され、他端が電流計24−1を介して電圧計25−nの一端とコイル23−nの一端とに接続されている。
図21において、信号線は親機送電制御部1bと親機2c−1の接続のみを表記しているが、親機送電制御部1bと他の親機2c−nについても信号線は同様に接続されており、同期が取れている。また、電流計24−1は、複素電流を測定する計器であり、その電流振幅および位相を同時に測定できるものである。電圧計25−1は、複素電圧を測定する計器であり、その電圧振幅および位相を同時に測定できるものである。なお、電流受入部21b−nは、親機送電制御部1bから入力された電流を受け入れるコネクタであってもよい。
電流制御部26c−nは、親機送電制御部1bが生成したセレクタ切替信号に基づいて、電流受入部21b−nから入力された電流を制限することにより、コイル23−nに流れる電流を制御する。
電流方向切替部27−nは、親機送電制御部1bが生成した電流方向切替信号に基づいて、コイル23−nに流れる電流の向きを切り替える。
【0189】
図22は、ワイヤレス給電システム104における電流制御部26c−nの構成を示すブロック図である。電流制御部26c−nは、B個(Bは正の整数)のコンデンサCa0〜Ca(B−1)、及びB個のセレクタ(切替部)Sa0〜Sa(B−1)を含んで構成されている。
セレクタSa0〜Sa(B−1)は、各々2つの入力端子(第1のポート、第2のポート)a(a0、a1、…、a(B−1))とb(b0、b1、…、b(B−1))、1つの出力端子(第3のポート)c(c0、c1、…、c(B−1))、及び入力端子の一方を出力端子と接続するように切り替えるポート切替スイッチを有している。セレクタSa0〜Sa(B−1)は、親機送電制御部1bの電流振幅制御部15bが生成したセレクタ切替信号に応じて、一方の入力端子a又はbが出力端子に接続される。セレクタSa0は、一方の入力端子a0が電流受入部21b−nの一端に接続され、他方の入力端子b0が電流受入部21b−nの他端に接続され且つ接地され、出力端子c0がコンデンサCa0の一端に接続されている。以下同様に、セレクタSak(kは1からB−1までの整数)は、一方の入力端子akが電流受入部21b−nの一端に接続され、他方の入力端子bkが電流受入部21b−nの他端に接続され且つ接地され、出力端子ckがコイルCakの一端に接続されている。セレクタSa0〜Sa(B−1)は、例えばリレーである。
コンデンサCa0〜Ca(B−1)の他端同士は接続され、この接続点は電流計24−nに接続されている。
【0190】
ここで、セレクタ切替信号に応じてセレクタSa0〜Sa(B−1)を切り替えた場合の親機2−nにおけるセレクタとコンデンサについて説明する。セレクタSa0〜Sa(B−1)を切り替えた場合、コンデンサCa0〜Ca(B−1)の一端は、電流受入部21b−nに接続されるか、又は接地される。このため、セレクタSa0〜Sa(B−1)、コンデンサCa0〜Ca(B−1)は、電流計24−nを介して接続されているコイルLnに直列に接続される可変コンデンサと、コイルLnと並列に接続される可変コンデンサの等価回路で表すことができる。
【0191】
図23は、ワイヤレス給電システム104における親機2c−nの等価回路図である。共振回路を有するN個の親機2c−1’〜2c−N’(各々を親機2c−n’とも称す)は、それぞれ可変コンデンサCa
1n、可変コンデンサCa
2n、コイルLn、電流方向切替部27−nを含んで構成されている。
電流方向切替部27−nは、セレクタSb
1n、Sb
2nを備えている。セレクタSb
1n、Sb
2nの切り替えは、連動して、親機送電制御部1bが生成した電流方向切替信号に基づいて、電流方向切替部27−nがコイル23−nに流れる電流の向きを切り替える。セレクタSb
1n、Sb
2nは、例えばリレーである。
可変コンデンサCa
1nは、一端が高周波電源4b’(含む電流受入部)の一端に接続され、他端が可変コンデンサCa
2nの一端とコイルLnの一端とに接続されている等価回路で表すことができる。
図23に示すように、親機2c−1’の共振周波数ω
1は1/(√(L1(Ca
11+Ca
21)))である。同様に、親機2c−2’の共振周波数ω
2は1/(√(L2(Ca
12+Ca
22)))であり、親機2c−N’の共振周波数ω
Nは1/(√(LN(Ca
1N+Ca
2N)))であり、各共振周波数ω
nを等しくするのが望ましい。また、親機2c−n間の相互インダクタンスは、親機2c−nと子機3−mとの間の相互インダクタンスより小さいことが望ましい。
すなわち、
図22において、各親機2c−nの電流制御部26c−nが備えるコンデンサCa0〜Ca(B−1)の合計容量が互いに等しく、コイルL0〜L(B−1)のインダクタンスが互いに等しく、コンデンサCa0〜Ca(B−1)の一端に接続される電流受入部21b−nの出力部のインピーダンスを略0とみなせる場合、セレクタSa0〜Sa(B−1)を切り替えても各親機2c−nの共振周波数ωは等しくなる。各親機2c−nの共振周波数ω
nの2乗(ω
n2)は、次式(43)のように表される。また、各親機2c−nの各コイル23−nにかかる電圧V
lは、高周波電源4bの電圧がV
0の場合、次式(44)のように表される。
【0194】
電流配分決定部13bは、親機2c−1のセレクタSa0〜Sa(B−1)を順次、切り替える。例えば、セレクタSa0のみ電流受入部21b−n側に切り替え、他のセレクタSa1〜Sa(B−1)を接地させるように切り替える。電流配分決定部13bは、このときの電流計24−nの測定値に基づく複素電流情報を記憶部16に書き込む。電流配分決定部13bは、記憶部16に記憶させた値に基づいて、コンデンサCa0〜Ca(B−1)とコイルL(B−1)との接続点(第2接続点)に流れる電流が所望の電流になるようにセレクタSa1〜Sa(B−1)を切り替える。セレクタSa1〜Sa(B−1)を切り替えた後、例えば電流振幅制御部15bは、コイルL(B−1)にかかる電圧を電圧計25−nを用いて取得し、取得した電流値と電圧値とに基づいて、上述したように親機2c−nに供給する電流比を決定する。電流配分決定部13bは、決定した電流比を示す情報を、電流振幅制御部15bへ出力する。
【0195】
共振回路を有していない場合、共振させるために入力する電圧値を高くしないと電流が流れにくい場合があったが(例えばワイヤレス給電システム103)、ワイヤレス給電システム104によれば、共振回路を有しているため電圧値をあげなくても電流が流れる効果が得られる。また、ワイヤレス給電システム104では、親機2c−nの共振周波数を一定にすることができる。
【0196】
また、ワイヤレス給電システム104において、親機送電制御部1bは、電流計24−1を流れる電流値を計測し、所定の電流が流れるように親機2c−nのセレクタSa0〜Sa(B−1)を切り替えることで、親機2c−nを電流源として作用させることができる。また、
図22において、コンデンサの容量をC
i+1=C
i×2(iは0以上の整数)になるようにすることで、少ないコンデンサ及びセレクタにより、多くの電圧値または電流値を選択することができる。
また、
図23に示した等価回路の2つの可変コンデンサCa
1nとCa
2nとを用いて制御するようにしてもよい。この場合、親機送電制御部1bは、可変コンデンサCa
1nとCa
2nとの合計容量が一定になるように制御する。
【0197】
(ワイヤレス給電システム105)
以下、ワイヤレス給電システム105について説明する。
図24は、ワイヤレス給電システム105における親機2d−n及び子機3−mの構成を示す概略ブロック図である。ワイヤレス給電システム105における親機2d−n以外の構成は、ワイヤレス給電システム103と同様であるため説明を省略する。また、子機3−mの構成は、
図20と同様である。なお、電流受入部21b−nは、親機送電制御部1bから入力された電流を受け入れるコネクタであってもよい。
【0198】
図24に示すように、N個の親機2d−1〜2d−N(各々を親機2d−nとも称す)は、電流受入部21b−n、電流計24−n、電圧計25−n、電流方向切替部27−n、及び電力送信部28c−nを含んで構成されている。及び電力送信部28c−nは、電流制御部(制御部)26c−n、コイル23−nを含んで構成されている。
図24において、信号線は親機送電制御部1bと親機2d−1の接続のみを表記しているが、親機送電制御部1bと他の親機2d−nについても信号線は同様に接続されており、同期が取れている。また、電流計24−1は、複素電流を測定する計器であり、その電流振幅および位相を同時に測定できるものである。電圧計25−1は、複素電圧を測定する計器であり、その電圧振幅および位相を同時に測定できるものである。
また、
図24において、電流制御部26c−nの構成は、ワイヤレス給電システム104の電流制御部26c−n(
図22)と同様の構成である。電流方向切替部27−nの構成は、ワイヤレス給電システム104の電流方向切替部27−n(
図23)と同様である。
【0199】
ワイヤレス給電システム104(
図21)において、仮にワイヤレス給電システム102で説明したように測定とスイッチの切り替えとを繰り返す場合、以下のような手順となる。
まず、親機送電制御部1bは、電流計24−nによりコイル23−nに流れる電流を測定する。次に、親機送電制御部1bは、測定した電流に基づいて電流制御部26c−nのセレクタSa0〜Sa(B−1)(
図22参照)を切り替えて電流値が所望の値となるようにする。次に、親機送電制御部1bは、そのときのコイル23−nにかかる同相の電圧を測定し、ワイヤレス給電システム102で説明した繰り返し法を用いる。
しかしながら、電流値を所望の値に制御するには、電流制御部26c−nのセレクタを素早く切り替える必要があるため、セレクタがメカニカルなリレーでは、実現がやや困難である。
【0200】
このため、ワイヤレス給電システム105では、セレクタがメカニカルなリレーであっても適用可能な算出方法について説明する。
主な手順は以下である。
手順(1)親機送電制御部1bは、電流制御部26c−n内のセレクタSa0〜Sa(B−1)の出力端子c0〜c(B−1)を全て電源側に接続されるように制御する。
手順(2)次に、親機送電制御部1bは、電流制御部26c−nのコンデンサCa0〜Ca(B−1)の接続点に流れる次回の電流が、次式(45)になるようにV
(k+1)を決める。なお、kは0以上の整数である。
【0203】
次に、(3)を繰り返した場合の収束状態について説明する。
図24において、親機2d−n、子機3−mともに整合がとれていて、親機2d−n間と子機3−m間の磁界結合が小さい場合、次式(58)のように(N×M)×(N×M)行列を用いて表すことができる。
【0205】
式(46)において、I
Pは親機2d−nのコイル23−nに流れる電流を成分とする(N×1)行列であり、I
Cは、子機3−mのコイル31−mに流れる電流を成分とする(M×1)行列であり、子機3−mの負荷側からコイル23−mに流れる電流を正とする。V
Pは、親機2d―nのコイル23−nにかかる電圧である。また、Rは、子機3−mの負荷行列である。また、L
PCは、子機3−mのコイル31−mから見た各親機2d−nのコイル23−nとの間の相互インダクタンスである。L
CPは、各親機2d−nのコイル23−nから見た子機3−mのコイル31−mとの間の相互インダクタンスである。γは、コイル23−nのオーム損失を対角成分に持つ実対角行列である。また、L
PCの転置行列は、L
PCと等しい。なお、式(46)において、左上のN×M行列が実対角行列であることは、親機2d−n間のコイル23−nの結合を無視でき、電流制御部26c−nのコンデンサCa0〜Ca(B−1)がコイル23−nと整合していることを表している。また、子機3−mのコイル31−mの抵抗については、簡素化のため、ここでは除外している。
【0206】
式(46)より、I
Cを消去してV
PとI
Pとの関係を求めると、次式(47)のようになる。
【0208】
ここで、I
Pについて解くと、次式(48)のようになる。
【0210】
式(48)において、アドミタンスYは、次式(49)である。
【0212】
式(49)において、アドミタンスYは実対角行列であるので、Re(Y)と書ける。このため、式(47)のように、V
Pは、Re(Y)とI
pとの積で表すことができる。
式(49)のように、Re(Y)は実数なので、電圧V
Pが実数であれば、電流I
Pも実数となる。このため、式(45)のα
(k)及びβも実数である。ここで、I
P=I
(k)とすると、V
(k+1)は、次式(50)のように表される。
【0214】
式(50)より、V
(k)は、次式(51)のように表される。
【0216】
式(51)において、Re(Y)の固有値をλnとすると、λnは実数であり0以上であるため、(1−βRe(Y))の固有値は次式(52)になる。
【0218】
図25は、Re(Y)の固有値λと|1−βλ
n|との関係を説明する図である。
図25において、横軸は固定値λであり、縦軸は|1−βλ
n|である。
図25のように、次式(65)が最大値をとる固有ベクトルに収束する。この結果、アドミタンスYの最小固有値(P11)で式(53)が最大になるようにβを決定すれば、収束するベクトルは、コイル23−nのインピーダンスZ
Aの最大固有値に収束する。
【0220】
以上のように、ワイヤレス給電システム105によれば、電流値を所望の値にするためにセレクタを頻繁に切り替えなくともよいため、セレクタがメカニカルなリレーであっても適用可能である。
【0221】
上述したワイヤレス給電システム103では、親機2b−nのコイル23−nと、電流制御部26b−nにおけるコンデンサC1〜CBと、が共振条件を満たしていない。そのため、ワイヤレス給電システム103では、高周波電源4bの出力電圧を高くしなければ、子機に対して効率よくエネルギーを伝送できない。
そこで、以下に示す実施形態では、高周波電源4bの出力電圧が低くてもエネルギーの伝送効率を高める手法について説明する。
【0222】
(第1の実施形態)
親機2b−nのコイル23−nに対して、直列にコンデンサを接続することにより、共振をとることができるが、これは親機2b−nのコイルが1つの場合に限られる。ワイヤレス給電システム103(
図13)のように、親機2−nのコイル(電力を送信する電力送信素子)がN個(N≧2)と複数個ある場合、子機がない場合のインピーダンス行列Z
0(ここでは、インピーダンス行列Zppとする)は、次式(54)で表される。
【0224】
ここで、L
ij(j≠i)は、親機2−iのコイル23−iと親機2−jのコイル23−jとの間の相互インダクタンス、ωは、高周波電源4bが出力する高周波の角周波数を表す。但し、式(54)の行列内のjは虚数単位である。
式(54)に示すように、インピーダンス行列Zppには、親機2−iのコイルと親機2−jのコイルの間の相互インダクタンスL
ij(j≠i)に起因するインピーダンスが非対角項(i=jである対角項以外の成分)に残る。このように非対称項にインピーダンスが残ると、親機から離れた子機、すなわち親機コイルとの磁気結合が小さい子機コイル(電力を受信する電力受信素子)に、エネルギーを伝送することが困難となる。
【0225】
そこで、本実施形態のワイヤレス給電システム106では、親機2−iのコイルと親機2−jのコイルの間に補償トランス部29T(補償回路)を設けることにより、上記インピーダンス行列Zppの非対称項(非対角成分)を略0とし、インピーダンス行列Zppを略0とする。ここで、略0とは、補償回路を入れていないとき親機2−i間の相互インピーダンスまたは相互アドミッタンスよりも十分に小さく、さらには親機2−iと子機3−iの間の相互インピーダンスまたは相互アドミッタンスよりも十分小さいことである。
インピーダンス行列Zppの非対称項(非対角成分)を略0とすることは、親機電力送信部端子間における相互インピーダンスまたは相互アドミッタンスの絶対値を略0にすることである。
ワイヤレス給電システム106は、この補償トランス部29Tを備える構成以外の構成については、
図13に示すワイヤレス給電システム103と同様の構成であるので、以下では、適宜
図13を参照しつつ補償トランス部の構成について詳細に説明する。
【0226】
図26は、ワイヤレス給電システム106における補償トランス部29Tの構成について説明するための図である。
図26においては、
図13に示すワイヤレス給電システム103のコイル23−1〜コイル23−Nのうち、コイル23−1〜コイル23−3を示す。なお、ワイヤレス給電システム106の親機コイルは、ワイヤレス給電システム103の親機コイルと同様であり、以下では、コイル23−1〜コイル23−Nからなる部分をアンテナ部23Gと称する。また、各々のコイルの自己インダクタンスを、コイル23−1、コイル23−2、コイル23−3、・・・、コイル23−Nに対応して、それぞれL
11、L
22、L
33、・・・、L
NNとする。
【0227】
また、
図26では、ワイヤレス給電システム103の電流制御部26b−n(
図14(a))において、記憶部16に書き込まれるインピーダンスZppが略0となるときのコンデンサをコンデンサCd1〜Cd3で示している。
ワイヤレス給電システム106は、ワイヤレス給電システム103と同様に電流制御部26b−nを有し、コンデンサCd1〜CdNを有する。そこで、以下では、コンデンサCd1〜CdNからなる部分を共振コンデンサ部26Gと称する。また、各々の容量値はコンデンサCd1、Cd2、Cd3、・・・、CdNに対応して、それぞれC
1、C
2、C
3、・・・、C
Nとする。
【0228】
なお、例えば、
図14(b)において、電流振幅制御部15bが端子S1とコイルS23−nを導通させた場合、コンデンサCdi(i=1〜N)は、
図14(b)に示す電流制御部26b−nのコンデンサC1〜CBのうち、コンデンサC1である。ワイヤレス給電システム106の動作時、すなわち、子機がある場合のインピーダンス行列Zを算出する際には、子機の個数、及び位置に応じて電流制御部26b−nのコンデンサC1〜CBのいずれかが選択される。そのため、各親機におけるコンデンサC1以外のコンデンサC2〜CBの容量値は、コンデンサC1の容量値の設定値、及び子機の予定個数、及び予定位置に応じて、子機がある場合のインピーダンス行列Zが略0となるように設定される。ここで、インピーダンス行列Zppの非対称項(非対角成分)を略0とすることは、親機電力送信部の間における相互インピーダンスまたは相互アドミッタンスの絶対値を略0にすることである。
【0229】
また、
図26では、コイル23−1〜コイル23−3に対応して設けられるトランス(補償トランスT12、T13、T23)を示している。ワイヤレス給電システム106は、ワイヤレス給電システム103と相違し、コイル23−1〜コイル23−Nのうち2つのコイルからなるコイルの組の間に補償トランスが挿入されている。これらの補償トランスからなる部分を補償トランス部29Tと称する。なお、補償トランスの数は、コイルの組の数と同じく、最大でN×(N−1)/2である。ここでは、その最大の数だけ補償トランスが設けられる場合の補償トランスの相互インダクタンスを、トランスT12、トランスT13、・・・、トランスT1N、トランスT23、・・・、トランスT(N−1)Nに対応して、それぞれM
12、M
13、・・・、M
1N、M
23、・・・、M
(N−1)Nとする。
【0230】
ここで、補償トランス部29Tを構成する各トランスTijの相互インダクタンスは、M
ij=−L
ijとなるように設定される。
なお、N個のコイル23−1〜23−Nの全てのペア、すなわちN×(N−1)/2個のペアの全てに対して、トランスを設けることが望ましいが、配置とコストとの関係から、自己インダクタンスL
ijが伝送効率上無視できないほど大きいペアに対してのみトランスを設けてもよい。
【0231】
また、補償トランス部29Tを構成する各補償トランスの構成は、コアレストランスであってもよく、トランスのサイズを小さくするという観点と、ある補償トランスからの漏れ磁界がアンテナ部23Gや他の補償トランスとカップリングすることを防止するという観点から、コア付きトランスとしてもよい。また、補償トランスとしてコア付きトランスを用いる場合、トランスコアにおけるエネルギー損失は、ワイヤレス給電システム106におけるエネルギーの伝送効率の低下を招くので、トランスコアにエアギャップを設ける構成としてもよい。
【0232】
親機2−nのコイル同士の間に補償トランスを設けたときの、インピーダンス行列Zppは、次式(55)で表される。
【0234】
ここで、式(55)中のjは虚数単位である。式(55)のインピーダンス行列Zppにおいては、共振コンデンサ部26G(第1項)、補償トランス部29T(第2項)、及びアンテナ部23G(第3項)各々のインピーダンス行列を第1〜第3項に分けて示している。このうち、第2項と第3項、すなわち、補償トランス部29Tを示す行列と、アンテナ部23Gを示す行列の和をインピーダンス行列Zpp’と称する。インピーダンス行列Zpp’の非対角項は、補償トランスの相互インダクタンスM
ijを、M
ij=−L
ijとなるように設定したので、0となる。つまり、補償トランスを用いることにより、インピーダンス行列Zpp’を対角行列とすることができる。従って、共振コンデンサ部26Gにおける各コンデンサの容量値C
i(i=1〜N)をC
i×(M
ii+L
ii)=1/(ω
2)の共振条件を満足するように設定することにより、インピーダンス行列Zppを略0にできる。
【0235】
このように、ワイヤレス給電システム106では、
図13に示すワイヤレス給電システム103に対して、ワイヤレス給電システム103における電流方向切替部27−1〜電流切替部27−Nと、コイル23−1〜23−Nとの間に、補償トランス部29Tを設ける。この設計方法の手順を下記に示す。
【0236】
(手順1)M
ij=−L
ij(i≠j)となるように、トランスTijの相互インダクタンスを決定する。なお、式(55)において、M
ij=M
ji、L
ij=L
jiとする。これにより、インピーダンス行列Z
0の非対角成分を略0とすることができる。
【0237】
(手順2)式(55)において、補償トランスの相互インダクタンスM
iiをi番目のチャネルに接続されている補償トランスの自己インダクタンスの総和とする。すなわち、M
iiを各トランスに磁界の漏れがないことを前提として、次式(56)で表す値とする。
【0239】
(手順3)C’
i×(M
ii+L
ii)=1/(ω
2)を満たすようにC’
iを決定し、各電流制御部26b−i(n=1〜N)のコンデンサCdi(
図14参照)の容量値をこのC’
iの容量値に設定する。これにより、インピーダンス行列Z
0の対角成分を略0とすることができる。
【0240】
これにより、ワイヤレス給電システム106において、電流配分決定部13が算出に用いるインピーダンス行列Z
0(予め記憶部16にテーブルとして記憶させておく行列)は、補償回路を設けることにより、その非対称項(非対角成分)が略0となり、さらに共振条件を満たすことにより、その対角成分もほぼ0となるため、略0となる。電流配分決定部13は、Re(Z
0)の固有値、及び規格化された固有値ベクトルを、この記憶部16に記憶されているインピーダンス行列Z
0を用いて算出する。
また、電流配分決定部13は、測定した電流値及び電圧値を用いて、子機3−nの配置又は個数により変化する値であるインピーダンス行列Zを算出する。そして、電流配分決定部13は、インピーダンス行列Z
0、及びインピーダンス行列Zに基づいて、式(31)により行列Iを算出し、算出した行列Iの各成分が示す電流をそれぞれ対応する親機2−nに印加する。
これにより、ワイヤレス給電システム106において、伝送パワーPowerを最大にすることができることに加えて、高周波電源4bの出力電圧が低くてもエネルギーの伝送効率を高めることができ、親機との磁気結合が小さい子機コイルに、エネルギーを伝送することが可能となる。
【0241】
(第2の実施形態)
第1の実施形態のワイヤレス給電システム106で示した補償トランス部29Tを、コンデンサ(以下、補償コンデンサと称す)で構成した補償コンデンサ部29C(補償回路)に置き換えた場合のワイヤレス給電システム(ワイヤレス給電システム107とする)について説明する。ワイヤレス給電システム107は、補償トランス部29Tが補償コンデンサ部29Cとなる以外の構成については、ワイヤレス給電システム106と同様の構成である。そのため、以下では、適宜、ワイヤレス給電システム106の構成と比較しつつ、補償コンデンサ部29Cの構成について詳細に説明する。
図27は、ワイヤレス給電システム107における補償コンデンサ部29Cの構成について説明するための図である。
ワイヤレス給電システム107は、ワイヤレス給電システム106と同様に、コイル23−1〜コイル23−N(
図27においてはコイル23−1〜コイル23−3を示す)を有する。なお、以下の説明では、これらの親機のコイルからなる部分を、
図26と同様にアンテナ部23Gと称する。また、各々のコイルの自己インダクタンスを、ワイヤレス給電システム106と同様に、コイル23−1、コイル23−2、コイル23−3、・・・、コイル23−Nに対応して、それぞれL
11、L
22、L
33、・・・、L
NNとする。
【0242】
ワイヤレス給電システム107は、ワイヤレス給電システム106と同様に電流制御部26b−nを有し、コンデンサCd1〜CdN(
図27においては、その一部であるコンデンサCd1〜Cd3を示す)を有する。そこで、以下では、コンデンサCd1〜CdNからなる部分を、
図26と同様に共振コンデンサ部26Gと称する。また、ワイヤレス給電システム106と同様に、各々の容量値はコンデンサCd1、Cd2、Cd3、・・・、CdNに対応して、それぞれC
1、C
2、C
3、・・・、C
Nとする。
【0243】
なお、例えば、
図14(b)において、電流振幅制御部15bが端子S1とコイルS23−nを導通させた場合、コンデンサCdnは、ワイヤレス給電システム106と同様に、
図14(b)に示す電流制御部26b−nのコンデンサC1〜CBのうち、コンデンサC1である。ワイヤレス給電システムの動作時、すなわち、子機がある場合のインピーダンス行列Zを算出する際には、子機の個数、及び位置に応じて電流制御部26b−nのコンデンサC1〜CBのいずれかが選択される。そのため、各親機におけるコンデンサC1以外のコンデンサC2〜CBの容量値は、コンデンサC1の容量値の設定値、及び子機の予定個数、及び予定位置に応じて、子機がある場合のインピーダンス行列Zが略0となるように設定される。
【0244】
また、
図27では、コイル23−1〜コイル23−3に対応して設けられるコンデンサ(補償コンデンサCc12、Cc13、Cc23)を示している。ワイヤレス給電システム107は、ワイヤレス給電システム106の補償トランス部29Tの代りに、コイル23−1〜コイル23−Nのうち2つのコイルからなるコイルの組の間に補償コンデンサが挿入されている。これらの補償コンデンサからなる部分を補償コンデンサ部29Cと称する。なお、補償コンデンサの数は、コイルの組の数と同じく、最大でN×(N−1)/2である。ここでは、最大設けられる場合の補償コンデンサの容量値を、補償コンデンサCc12、補償コンデンサCc13、・・・、補償コンデンサCc1N、補償コンデンサCc23、・・・、補償コンデンサCc(N−1)Nに対応して、それぞれC
12、C
13、・・・、C
1N、C
23、・・・、C
(N−1)Nとする。
なお、補償コンデンサ部29Cは、ワイヤレス給電システム106の補償トランス部29Tと同様に、電流方向切替部27−1〜電流切替部27−Nと、コイル23−1〜23−Nとの間に設けられる(
図13に示すワイヤレス給電システム103参照)。
また、補償コンデンサ部29Cを構成する各補償コンデンサCcijの容量値は、以下のように計算された後、この計算結果に応じて設定される。
【0245】
親機2−nのコイル同士の間に補償コンデンサを設けたときの、インピーダンス行列Zppの計算手法について、以下に説明する。
図27に示す回路において、コンデンサCd1〜CdNの一端(電流計24−n側)を接地したときのアンテナ部23G側から見たアドミタンス行列Y
ppの成分をy
cijとすると、y
cij(i≠j)については次式(57)で表される。
【0247】
なお、式(57)を用いるに際して、C
ji=C
ijである。
またy
ciiについては次式(58)で表される。
【0249】
このとき、次式(59)を満たせば、インピーダンス行列Z
ppは0となる。
【0251】
ここで、インピーダンス行列Z
Aは、
図27に示すアンテナ部23Gのインピーダンス行列である。
ワイヤレス給電システム106と同様に、インピーダンス行列Z
ppを0にするための設計方法の手順を下記に示す。
(手順1)インピーダンス行列Z
Aの逆行列、すなわち式(59)の右辺を計算し、左辺のアドミタンス行列Y
ppを算出する。
【0252】
(手順2)手順1にて算出したアドミタンス行列Y
ppの非対角項の成分から、式(57)を用いて、補償コンデンサCc
ijの容量値C
ijを算出する。
【0253】
(手順3)手順2にて算出した容量値C
ijから、式(58)を用いて、コンデンサCdiの容量値C
iを算出する。
これにより、式(59)が満たされるので、インピーダンス行列Z
ppは、その非対称項(非対角成分)が略0となり、補償トランスを用いたワイヤレス給電システム106と同様に、インピーダンス行列Zppを略0とすることができる。
【0254】
なお、この手法では、補償コンデンサCc
ijの容量値C
ij、コンデンサCdiの容量値C
iが全て正(プラス)の値となった場合に、
図27に示す回路を実現できるが、負(マイナス)になったときは、そのようなコンデンサは存在しないので、
図27に示す回路を実現できない。
そのため、アンテナコイルのコイル巻きの方向を隣接するコイル23−N間で変化させ、カップリングが大きい親機コイル間に設ける補償コンデンサCc
ijの容量値C
ijをプラスの値とする。なお、カップリングが小さい親機コイル間の補償コンデンサの容量値が小さい場合、当該補償コンデンサの容量値を0とみなし、補償コンデンサを設定しない。
以下、
図28、及び
図29を参照して、補償コンデンサの具体的な配置方法について説明する。
【0255】
図28は、補償コンデンサを用いる場合の親機コイルの配置図の一例である。また、
図29は、
図28の例の場合における補償コンデンサCc
ijの容量値C
ijの一例を示す図である。
図28は、16個のコイル23−1〜23−16を、一辺が4個の中実方陣の形に並べて配置した例について示している。なお、
図28の例において、各コイルは、線間3mmで巻き数が60ターンであり、隣り合うコイルとは0.363mのピッチで配置されている。また、
図27において、各コイルについてその内側に符号「R」または符号「L」が記載されている。符号「R」は電流を+方向に流した時の向きが右回り、符号「L」は電流を+方向に流した時の向きが左回りであることを示している。すなわち、
図28に示す各コイルは、縦または横に隣接するコイル同士において、電流を+方向に流した時の向きが逆向きとなるように設定されている。
【0256】
この配置の場合、インピーダンスZ
ppを略0とする上述した計算手法により、補償コンデンサC
ijの容量値は、単位をpF(ピコファラッド)として、
図29に示す値となる。例えば、コンデンサCdiの容量値C
iは、それぞれ、
図29にi=jで示す箇所の値である8730pF〜9432pFの間の値となる。
また、隣接するコイル間に設ける補償コンデンサの容量値は、全てプラスの値である691pF〜737pFの間の値となる。例えば、
図28に示すコイル23−6を取り囲むコイル23−1〜23−3、コイル23−5、コイル23−7、コイル23−9〜23−11との間に設ける補償電流を+方向に流した時の向きコンデンサの容量値(計算値)は、次の値となる。すなわち、最小ピッチで隣接するコイル23−2、コイル23−5、コイル23−7、コイル23−10との間に設ける補償コンデンサCc
6・2、Cc
6・5、Cc
6・7、Cc
6・10の容量値C
6・2、C
6・5、C
6・7、C
6・10は、それぞれ
図29に示すように726pF、726pF、737pF、737pFと、正の値となる。一方、斜め方向に隣接するコイル23−1、コイル23−3、コイル23−9、コイル23−11との間に設ける補償コンデンサCc
6・1、Cc
6・3、Cc
6・9、Cc
6・11の容量値C
6・1、C
6・3、C
6・9、C
6・11は、それぞれ
図29に示すように−269pF、−277pF、−277pF、−286pFと、負の値となる。なお、残りの最近接でも第2近接でもないコイル23−4、コイル23−8、コイル23−12〜23−16との間に設ける補償コンデンサCc
6・4、Cc
6・8、Cc
6・12〜Cc
6・16の容量値C
6・4、C
6・8、C
6・12〜C
6・16は、それぞれ
図29に示すように83pF、−127pF、88pF、83pF、−127pF、88pF、−43pFとなる。これらの値は、絶対値がコイル23−6を取り囲むコイルとの間に設ける補償コンデンサの容量値に比べ小さな値となる。このように、最小ピッチで隣接するコイル間の容量値は全てプラスであり、最小ピッチ以上離れたコイルとの間の容量値は、負の値となるか、正での値であってもその値が最小ピッチで隣接するコイル間の容量値に比べて無視できるほど小さい。そのため、本実施形態では、一例として、これらの容量値を0とみなし、容量値を0とみなした所には補償コンデンサを挿入しない。
【0257】
以上、本実施形態において、コイル23−1〜23−9は、中実方陣の形に並べて配置されており、コイルを該コイルの巻きの軸方向から見た平面視において、縦または横に隣接するコイル間で、コイルの相互インダクタンスが正であり、上記平面視において、縦または横に隣接するコイル間にコンデンサから構成される補償回路を備える。このため、アドミタンス行列Y
ppの非対角項の成分の虚部が正になるので、コイル間に挿入される補償回路をコンデンサで実現することができる。また、電流配分決定部13が算出に用いるインピーダンス行列Z
0(予め記憶部16にテーブルとして記憶させておく行列)の非対称項(非対角成分)のうち、縦または横に隣接するコイル間に相当する成分を小さくすることができる。その結果、高周波電源4bの出力電圧が低くてもエネルギーの伝送効率を向上させることができる。
【0258】
これにより、補償回路としてコンデンサ補償部を用いたワイヤレス給電システム107において、電流配分決定部13が算出に用いるインピーダンス行列Z
0(予め記憶部16にテーブルとして記憶させておく行列)は、補償回路を設けることにより、その非対称項(非対角成分)が略0となり、さらに共振条件を満たすことにより、その対角成分もほぼ0となるため、略0となる。電流配分決定部13は、Re(Z
0)の固有値、及び規格化された固有値ベクトルを、この記憶部16に記憶されているインピーダンス行列Z
0を用いて算出する。
また、電流配分決定部13は、測定した電流値及び電圧値を用いて、子機3−nの配置又は個数により変化する値であるインピーダンス行列Zを算出する。そして、電流配分決定部13は、インピーダンス行列Z
0、及びインピーダンス行列Zに基づいて、式(31)により行列Iを算出し、算出した行列Iの各成分が示す電流をそれぞれ対応する親機2−nに印加する。
これにより、ワイヤレス給電システム107において、伝送パワーPowerを最大にすることができることに加えて、高周波電源4bの出力電圧が低くてもエネルギーの伝送効率を高めることができ、親機コイルとの磁界結合が小さい子機コイルに、エネルギーを伝送することが可能となる。
【0259】
なお、相互インダクタンスが正であるコイルの組であって、該コイルの組のコイル間の距離が予め決められた範囲にあるコイルの組のコイル間に、コンデンサから構成される補償回路を備えていてもよい。ここで、コイルの相互インダクタンスが正であるコイルの組とは、例えば、コイルを該コイルの巻きの軸方向から見た平面視において、コイルの巻き方を同一にし、かつ電流の方向が逆であるコイルの組である。また、コイルの相互インダクタンスが正であるコイルの組とは、例えば、同一軸上に平行に配置されたコイルの組であって、コイルの巻き方を同一にし、かつ電流の方向が逆であるコイルの組である。これにより、電流配分決定部13が算出に用いるインピーダンス行列Z
0(予め記憶部16にテーブルとして記憶させておく行列)の非対称項(非対角成分)を小さくすることができる。その結果、高周波電源4bの出力電圧が低くてもエネルギーの伝送効率を向上させることができる。
【0260】
また、これに限らず、電力送信素子(例えば、コイルまたはトランス)の間の距離が予め決められた範囲にある電力送信素子の間に、トランスまたはコンデンサから構成される補償回路を備えていてもよい。これにより、電流配分決定部13が算出に用いるインピーダンス行列Z
0(予め記憶部16にテーブルとして記憶させておく行列)の非対称項(非対角成分)を小さくすることができる。その結果、高周波電源4bの出力電圧が低くてもエネルギーの伝送効率を向上させることができる。
【0261】
また、これに限らず、N個の前記親機電力送信部のうち、2個の親機電力送信部からなる組の少なくとも1つ以上の組において、各親機電力送信部が備える、電力を送信する電力送信素子同士の間にトランスまたはコンデンサから構成されてもよい。これにより、電流配分決定部13が算出に用いるインピーダンス行列Z
0(予め記憶部16にテーブルとして記憶させておく行列)の非対称項(非対角成分)を小さくすることができる。その結果、高周波電源4bの出力電圧が低くてもエネルギーの伝送効率を向上させることができる。
【0262】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、ワイヤレス給電システム106で示した補償トランス部29Tを、ワイヤレス給電システム104に適用した場合のワイヤレス給電システム(ワイヤレス給電システム108とする)について説明する。
図30は、ワイヤレス給電システム108における親機及び子機の構成を示す概略ブロック図である。
ワイヤレス給電システム108では、補償トランス部29Tを備える点がワイヤレス給電システム104と相違し、それ以外の構成はワイヤレス給電システム104と同様であるため説明を省略する。
なお、ワイヤレス給電システム108の説明では、
図22の電流制御部26c−n(i=1〜N)におけるコンデンサCa0〜Ca(B−1)の容量値をC
i1〜C
iBとする。また、ワイヤレス給電システム108では、上記Bの値は3〜約10の値が好ましく、すなわち、電流制御部26c−nにおけるコンデンサの個数は3〜8程度が好ましい。
【0263】
電流制御部26c−nにおけるコンデンサCa0〜Ca(B−1)の容量値C
ijは、ワイヤレス給電システム106についての手順1〜手順3により算出される。
すなわち、手順3において算出された容量値C’
iが、次式(60)を満たすように容量値C
ijに振り分けられる。
【0265】
なお、各容量値C
ijへの振り分けに際し、次式(61)に従って、各容量値C
ijが設定される。
【0267】
これにより、ワイヤレス給電システム108において、電流配分決定部13が算出に用いるインピーダンス行列Z
0(予め記憶部16にテーブルとして記憶させておく行列)は、補償回路を設けることにより、その非対称項(非対角成分)が略0となり、さらに共振条件を満たすことにより、その対角成分もほぼ0となるため、略0となる。電流配分決定部13は、Re(Z
0)の固有値、及び規格化された固有値ベクトルを、この記憶部16に記憶されているインピーダンス行列Z
0を用いて算出する。
また、電流配分決定部13は、測定した電流値及び電圧値を用いて、子機3−nの配置又は個数により変化する値であるインピーダンス行列Zを算出する。そして、電流配分決定部13は、インピーダンス行列Z
0、及びインピーダンス行列Zに基づいて、式(31)により行列Iを算出し、算出した行列Iの各成分が示す電流をそれぞれ対応する親機2−nに印加する。
これにより、ワイヤレス給電システム108において、伝送パワーPowerを最大にすることができることに加えて、高周波電源4bの出力電圧が低くてもエネルギーの伝送効率を高めることができ、親機コイルとの磁界結合が小さい子機コイルに、エネルギーを伝送することが可能となる。
【0268】
なお、インピーダンス行列Zを算出する際、補償トランス部29Tから子機側を見たインピーダンス行列(式(55)の第2項と第3項に相当する)が対角行列になっていることが重要である。子機が存在する場合、子機同士のカップリングが無視できる場合、式(9)によれば子機のカップリングにより、この行列の非対角成分が表われることはない。
【0269】
続いて、ワイヤレス給電システム108による伝送効率の向上について、図面を参照して説明する。
図31は、ワイヤレス給電システム108の親機コイルの配置図である。また、
図32は、親機コイル上を子機コイルが直線LCに沿って移動する際の伝送効率について示す図である。また、
図33は、親機コイル上を子機コイルが直線LPに沿って移動する際の伝送効率について示す図である。
図31は、9個のコイル23−1〜23−9を、一辺が3個の中実方陣の形に並べて配置した例について示している。なお、
図31において、各コイルは、線間3mmで巻き数が60ターンであり、隣り合うコイルとは0.450mのピッチで配置されている。また、
図31(a)は、コイル23−5の中心からコイル23−6の中心を通る直線LCに沿って子機コイルの中心が移動する場合を示しており、
図31(b)は、直線LCを親機コイルの配置の半ピッチ分Y軸の+方向へ平行にずらした直線LPに沿って子機コイルの中心が移動する場合を示している。なお、ここでは、子機コイル(コイル33−M)は1つであるものとする。また、子機コイルは、例えば線間18mmで巻き数が10ターンであるものとする。
【0270】
図32は、子機コイルの中心が
図31(a)に示す移動をしたときの、すなわち
図31(a)における直線LCを移動したときの伝送効率を示している。
図32(a)〜
図32(d)各々において、縦軸は伝送効率、横軸は
図31(a)におけるx座標を表す。
図32(a)〜
図32(d)は、それぞれ親機コイルと子機コイルとの距離(親機が存在するz=0の面と、子機が移動するz=Zcの面との距離)Zcを、0.3m、0.5m、0.7m、0.9mとしたときの伝送効率を示している。
【0271】
また、
図32(a)〜
図32(d)各々において、曲線L0、L1、L2、LAと補償トランスの配置との関係は以下の通りである。
すなわち、直線L0は、補償トランス部29Tがない場合の伝送効率を示している。
曲線L1は、最近接の親機コイル同士の間にのみ補償トランスを設けた場合の伝送効率を示している。例えば、
図31(a)のコイル23−5であれば、最小ピッチの位置にあるコイル23−2、23−4、23−6、23−8との間に補償トランスを設ける場合である。
【0272】
曲線L2は、最近接の親機コイル同士の間と、最近接の次に近接する第2近接の親機コイルとの間に補償トランスを設ける場合の伝送効率を示している。例えば、
図31(a)のコイル23−5であれば、最近接のコイルであるコイル23−2、23−4、23−6、23−8との間と、第2近接のコイルであるコイル23−1、23−3、23−7、23−9との間とに、補償トランスを設ける場合である。また、コイル23−1であれば、コイル23−4とコイル23−2とが最近接のコイルであり、コイル23−5が第2近接のコイルであり、これらのコイルとの間に補償トランスを設け、他のコイル23−3、コイル23−6〜23−9との間には補償トランスを設けない。
曲線LAは、コイル23−1から23−9のうちから、2個のコイルを選択する全ての組み合わせ、すなわち36組のコイルの組全てについて補償トランスを設ける場合の伝送効率を示している。
【0273】
また、
図33は、子機コイルの中心が
図31(b)に示す移動をしたときの、すなわち
図31(b)における直線LPを移動したときの伝送効率を示している。
図33(a)〜
図33(d)各々において、縦軸は伝送効率、横軸は
図31(b)におけるx座標を表す。
図33(a)〜
図33(d)は、それぞれ親機コイルと子機コイルとの距離Zcを、0.3m、0.5m、0.7m、0.9mとしたときの伝送効率を示している。また、
図33(a)〜
図33(d)各々において、曲線L0、L1、L2、LAと補償トランスの配置との関係は、上述の
図32と同様である。
【0274】
図32、
図33に示すように、いずれの高さ(Zc)でも補償トランスを全く設けない場合(曲線L0)に比べて、全てのコイルの組の間に補償トランスを設ける場合(曲線LA)は、当然に伝送効率が改善される。
また、距離Zcが0.7mまでは、最近接コイルの間のみに補償トランスを設けた場合(曲線L1)であっても、曲線LAの場合ほどではないが、第2近接まで補償トランスを設けた場合(曲線L2)に比べて遜色なく伝送効率を改善できていることがわかる。このことから、ワイヤレス給電システム108では、補償トランスをコイルの組全てについてまで設けずに、最近接のコイル同士の間に設けることにより、全く補償トランスを設けない場合に比べて伝送効率を向上できている。
【0275】
なお、各実施形態において、親機電力送信部の間におけるインピーダンス行列またはアドミッタンス行列の成分の少なくとも非対角項が略0となる条件を満たすようにしたが、親機電力送信部の間におけるインピーダンス行列またはアドミッタンス行列の成分の少なくとも非対角項が予め決められた範囲に収まるようにしてもよい。その場合、親機電力送信部それぞれが、電力を送信する電力送信素子(例えば、コイル)を備え、子機電力受信部が存在しないときの、親機電力送信部の間におけるインピーダンス行列またはアドミッタンス行列の成分の少なくとも非対角項が予め決められた範囲に収まるように、複数の親機電力送信部のうち、2個の親機電力送信部からなる組の少なくとも1つ以上の組において、電力送信素子同士の間にトランスまたはコンデンサから構成される補償回路を備えるようにしてもよい。これにより、親機電力送信部の間における相互インピーダンスまたは相互アドミッタンスの絶対値を小さくすることができる。その結果、高周波電源4bの出力電圧が低くてもエネルギーの伝送効率を向上させることができる。
【0276】
以上をまとめると、非接触で給電する少なくとも一つの親機電力送信部と、少なくとも一つの親機電力送信部から非接触で給電を受ける少なくとも一つの子機電力受信部を具備する非接触給電システムであって、トランスまたはコンデンサから構成される補償回路を少なくとも一つ備え、複数の親機電力送信部のうちから選択されうる2個の親機電力送信部からなる組のうち少なくとも1つ以上の組において、該組を構成する親機電力送信部が上記補償回路を介して接続されているか、または複数の子機電力受信部のうちから選択されうる2個の子機電力受信部からなる組のうち少なくとも1つ以上の組において、該組を構成する子機電力受信部が上記補償回路を介して接続されている。
【0277】
また、前記子機電力受信部の間、または親機電力送信部の間を接続する前記補償回路はそれぞれ親機電力送信部がないときの子機電力受信部の端子間の相互インピーダンスまたは相互アドミッタンス、または子機電力受信部がないときの親機電力送信部の端子間の相互インピーダンスまたは相互アドミッタンスが略0になる。ここで略0とは、補償回路を入れていないとき親機電力送信部間の相互インピーダンスまたは相互アドミッタンスよりも十分に小さく、さらには親機電力送信部と子機電力受信部との間の相互インピーダンスまたは相互アドミッタンスよりも十分小さいことである。これにより、インピーダンス行列またはアドミッタンス行列の比対角成分を略0にすることにより、伝送効率を向上させることができる。
【0278】
また、子機電力受信部の間、または親機電力送信部の間を接続する前記補償回路はそれぞれ親機電力送信部がないときの子機電力受信部の端子間の自己インピーダンスまたは自己アドミッタンス、または子機電力受信部がないときの親機電力送信部の端子間の自己インピーダンスまたは自己アドミッタンスが略0になる。これにより、インピーダンス行列またはアドミッタンス行列の対角成分を略0にすることにより、伝送効率を向上させることができる。
【0279】
なお、上記のワイヤレス給電システムでは、スイッチ切替信号の出力前に高周波電源4bの出力を「0」とすることが好ましい。これにより、スイッチ切替時に接点に高電圧がかかることによる火花の発生を防ぐことができ、スイッチの寿命を長くすることができる。また、
図2のスイッチ26−n、
図9のスイッチ26−n、
図14のセレクタ262b−n、
図19のスイッチ26−n、セレクタSa0〜Sa(B−1)には、例えば半導体スイッチを用いてもよい。
なお、電流制御部26b−nは、同時に複数の端子S1〜SBとコイル23−nとを接続させてもよい。
なお、電流制御部26b−nでは、コンデンサの代わりにトランジスタやFET(Field Effect Transitor)などの素子を用いて電流の制御を行ってもよい。これらの素子を用いれば、電流制御部26b−nにおけるエネルギー散逸が、コイルに供給する電力に比べて無視しうる。
なお、上記のワイヤレス給電システムでは、1台の高周波電源4bを用いた例を示したが、電源の数は1台でなくてもよい。そのとき、複数の電源は同一の電流量を出力できるものが望ましいが、必ずしもそれに限られない。
【0280】
上記各ワイヤレス給電システムでは、親機送電制御部1内にある電流振幅制御部15が親機に電力を出力する例を示したが、電源の振幅を制御する部分は各親機2−nに内蔵されていてもよく、その場合は、電流配分決定部13が決定した電流比を示す情報を各親機2−nに信号として送信し、各親機2−nで振幅を制御してもよい。
【0281】
なお、上記各ワイヤレス給電システムにおいては、親機2−nに供給する電流を制御する場合について説明したが、本発明はこれに限らず、親機2−nに印加する電圧を制御してもよい。
なお、上記のワイヤレス給電システムでは、子機3−mに入力された電力は、蓄電池35に蓄電され、直流電源として負荷に供給されたが、DC−ACコンバータを更に備えることにより、交流の電力を負荷に供給するようにしてもよい。
また、上記各ワイヤレス給電システムにおいて、親機2−nはコイル23−nに代えて、子機3−mはコイル31−mに代えて、アンテナを備えてもよい。
【0282】
なお、上記の各ワイヤレス給電システムで用いる電気信号は、オン状態とオフ状態を切り替える信号ではなく、多ビットの制御値、又は連続値の制御値である。
【0283】
なお、上記ワイヤレス給電システムでは、インピーダンス行列Zを用いる例を説明したが、インピーダンス行列Zの代わりにアドミタンス行列、インダクタンス行列、またはキャパシタンス行列を用いるようにしてもよい。
【0284】
また、上記ワイヤレス給電システムにおいて、親機電力送信部(2−n、2b−n、20−n、2a−n、2c−n、2d−n)は、電力を送信する電力送信素子としてのインダクタ(23−n)、及びキャパシタ(22−n、電流制御部26b−nにおけるコンデンサ、電流制御部26c−nにおけるコンデンサ)を備える。子機電力受信部(3−m、30−m、30a−m、3a−m)は、電力を受信する電力受信素子としてのインダクタ(31−m)、及びキャパシタ(32−m、32a―m、32b−m)を備える。
ワイヤレス給電システムでは、親機電力送信部のインダクタ、及びキャパシタ、子機電力受信部のインダクタ、及びキャパシタからなる回路の共振による磁界結合により、送信部のインダクタから受信部のインダクタへと電力を給電する。
なお、ワイヤレス給電システムを、以下の構成としてもよい。すなわち、電力送信部が、電力を送信する電力送信素子としてのキャパシタ、及びインダクタを備え、子機電力受信部が、電力を受信する電力受信素子としてのキャパシタ、及びインダクタを備える。そして、親機電力送信部のインダクタ、及びキャパシタ、子機電力受信部のインダクタ、及びキャパシタからなる回路の共振による静電結合により、送信部のキャパシタから受信部のキャパシタへと電力を給電する構成としてよい。
【0285】
なお、上記各ワイヤレス給電システムにおける親機送電制御部1、1a、1bの一部をコンピュータで実現するようにしても良い。その場合、この制御機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現しても良い。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、親機送電制御部1、1a、1bに内蔵されたコンピュータシステムであって、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでも良い。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
また、上述したワイヤレス給電システムにおける親機送電制御部1、1a、1bの一部、または全部を、LSI(Large Scale Integration)等の集積回路として実現しても良い。親機送電制御部1、1a、1bの各機能ブロックは個別にプロセッサ化してもよいし、一部、または全部を集積してプロセッサ化しても良い。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現しても良い。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いても良い。
また、上記の各ワイヤレス給電システムにおいて、インピーダンスをアドミッタンスと、電圧を電流と、電流を電圧とすることによっても同様な制御をすることが可能である。