【実施例】
【0066】
低温保存実験
以下に詳述する実験は、2010年8月5日に出願された「Stabilization and Storage Media and Method」と題する本出願人による同時係属中の米国特許出願第61/370878号に十分に記載されている。その開示内容はその全体が、国内法が許容する場合、援用によって、具体的に記載されているのと同様に本明細書の内容の一部をなす。
【0067】
一般に、タンパク質(例えば抗体)を溶液中に保存すると経時的に凝集を起こすことが知られている。入念に設計された緩衝液環境中で遅くて制御された凍結速度でタンパク質溶液を凍結することにより、凝集を低減することができるが、保存後の凝集体含有量は不可避的に高くなる。そこで、いろいろなゲル媒体を用いて標的のタンパク質を結合又はカプセル化することにより、代わりの保存アプローチを使用して実験を行った。
【0068】
初期二量体含有量が低いヒトポリクローナルIgGの溶液中又はゲル媒体上の保存
最初に、ヒトポリクローナルIgGの単量体画分(1%二量体)を、VIVASPIN(商標)6限外濾過ユニットを用いて121.5AU(A280nm)に濃縮し、0.2μmシリンジフィルターで濾過した。各種の実験用捕獲(capture)保存ヒドロゲル媒体、及び対照(非捕獲SEC)媒体(上記材料参照)を96ウェルフィルタープレート(MULTITRAP(商標)プレート)に分配した。ヒトポリクローナルIgGの濃縮された単量体画分を抗体試料として用いてMULTITRAP(商標)プロトコルに従った。並行して、抗体試料を、その後の−20℃の溶液中の保存のためのいろいろな「ゲル媒体」として用いた各種の緩衝液と混合した。6.7μlの抗体溶液をそれぞれ13.3μlの各緩衝液と混合した。
【0069】
試料、及びゲル媒体の平衡化/洗浄のために用いた緩衝液は使用したいろいろな媒体に典型的な吸着捕獲緩衝液であった。
・「pH5 IEX」=20mMの酢酸Na、0.02%(w/v)のNa−アジド、pH5.0
・「pH9 IEX」=20mMのNa−グリシン、0.02%(w/v)のNa−アジド、pH9.0
・「PBS」=10mMのリン酸Na、2.7mMのKCl、0.14MのNaCl、0.02%(w/v)のNa−アジド、pH7.4
・「pH5 HIC」=25mMの酢酸Na、0.5mMのEDTA、0.75M(NH
4)
2SO
4、pH5.0。
【0070】
各種のクロマトグラフィーゲル媒体を96−ウェルのMULTITRAP(商標)プレートに入れて保存した。MULTITRAP(商標)プレートを冷蔵庫内に4週間4〜8℃で保存する(プロトコルインキュベーション時間)一方、溶液中の抗体試料を6回の凍結/解凍サイクルを含めて4週間−20℃で保存した。全ての試料を三回実験したが、3つのアニオン交換ゲル媒体、CAPTO(商標)Q、Q SEPHAROSE(商標)FF及びQ SEPHAROSE(商標)XLは単一の試料として実験した。4週間のインキュベーション又は保存後、非結合抗体(フロースルー)(ゲル濾過SEC媒体SEPHADEX(商標)G−50及びSUPERDEX(商標)200)、又は結合した後溶出した抗体(ゲル濾過媒体を除く全ての媒体)を収集した。使用した溶出及びストリップ緩衝液は次の通り。
・溶出緩衝液:「3.3×PBS」=30mMのリン酸Na、8.1mMのKCl、0.42MのNaCl、pH7.4(試料及びゲル媒体の平衡化/洗浄に使用した緩衝液が「pH5 IEX」及び「pH9 IEX」であった試料)、
・溶出緩衝液:0.1MのNa−グリシン pH2.9(試料及びゲル媒体の平衡化/洗浄に使用した緩衝液が「PBS」であった試料)、
・溶出及びストリップ緩衝液:20mMのTris−HCl pH7.5(試料及びゲル媒体の平衡化/洗浄に使用した緩衝液が「pH5 HIC」であった試料)、
・ストリップ緩衝液:10mMのNaOH、1MのNaCl(試料及びゲル媒体の平衡化/洗浄に使用した緩衝液が「pH5 IEX」及び「pH5 HIC」であった試料)、
・ストリップ緩衝液:0.5Mの酢酸(試料及びゲル媒体の平衡化/洗浄に使用した緩衝液が「PBS」及び「pH9 IEX」であった試料)。
【0071】
溶出は、二段階で、最初に溶出緩衝液で、次にストリップ緩衝液で行った。後者は、通例バイオプロセシングで、溶出緩衝液で溶出しなかったあらゆる残留タンパク質を除去し、そして可能な追加の用途のためのカラムを調製するのに使用される。各々の試料の両方の溶出画分をそれぞれ分析した。溶液中、SEC対照媒体上又は結合媒体上に保存した全ての試料をSECによって分析した。結果を表1A〜1Dに示す。
【0072】
【表1】
これらのゲル媒体上に保存した全ての試料は、−20℃で溶液中に試料を保存する場合と比べて抗体二量体含有量が少なかった。出発材料は1.0%の二量体を含有し、保存用ゲル媒体としてCAPTO(商標)MMCを使用する再現の2つはこの初期二量体含有量レベルより少ない二量体を含有していた。
【0073】
【表2】
親和性ゲル媒体上に保存した試料は、−20℃で溶液中に試料を保存した場合と比べて少ない抗体二量体を含有していた。しかしながら、非捕獲SEC媒体上の保存ではより高いレベルの二量体が得られた。出発材料は1.0%の二量体を含有しており、nタンパク質A又はMABSELECT(商標)を保存用ゲル媒体として使用すると、初期二量体含有量より少ない二量体含有量であった。
【0074】
【表3】
HICゲル媒体からの全体の回収率は、おそらく吸着緩衝液中の低過ぎる伝導率(塩濃度)を使用することに起因する抗体の結合がよくないために悪い。HICゲル媒体への結合を促進するために、より高い濃度の(NH
4)
2SO
4が必要であった。得られた結果は、ゲル媒体への結合が溶液中の保存と比べて保存中より少ない二量体を与えることを示し、CAPTO(商標)Phenyl高置換度(より高いリガンド濃度)媒体の場合、二量体含有量は1.0%(出発材料中のレベル)未満であった。
【0075】
【表4】
CAPTO(商標)Adhereゲル媒体上に保存した試料は、−20℃で溶液中に試料を保存した場合と比べて少ない抗体二量体含有量を有していた。二量体含有量は、出発材料で見られたと同様に1.0%未満であった。他のゲル媒体上の保存では、溶液中での保存とほぼ同じレベルの二量体タンパク質が得られた。
【0076】
高い初期二量体含有量を有するヒトポリクローナルIgGの溶液中又はゲル媒体上での保存
ポリクローナルヒトIgG(GAMMANORM(登録商標)165mg/ml)を次の平衡化/洗浄緩衝液で30mg/mlに希釈した。
・20mM酢酸Na、0.02%(w/v)Na−アジド、pH5.0
・20mM Na−グリシン、0.02%(w/v)Na−アジド、pH9.0
・10mMリン酸Na、2.7mM KCl、0.14M NaCl、0.02%(w/v)Na−アジド、pH7.4
・50mM酢酸Na、1mM EDTA、1.5M (NH
4)
2SO
4、pH5.0。
【0077】
1.5Mの(NH
4)
2SO
4を含有する第4の緩衝液溶液と抗体溶液を混合すると幾らかのタンパク質が沈殿した。これらの出発材料の吸光度を(清澄化した溶液で)測定した。
【0078】
【表5】
SPINTRAP(商標)カラムを40μlの次のゲル媒体(すなわち200μlの20%ゲルスラリー)で充填し、SPINTRAP(商標)プロトコルに従って平衡化した。
・CAPTO(商標)MMC混合モード媒体、20mMの酢酸Na、0.02%(w/v)のNa−アジド、pH5.0
・CAPTO(商標)Sカチオン交換媒体、20mMの酢酸Na、0.02%(w/v)のNa−アジド、pH5.0
・CAPTO(商標)Adhere混合モード媒体、20mMのNa−グリシン、0.02%(w/v)のNa−アジド、pH9.0
・CAPTO(商標)Qアニオン交換媒体、20mMのNa−グリシン、0.02%(w/v)のNa−アジド、pH9.0
・MABSELECT(商標)、親和性媒体、10mMのリン酸Na、2.7mMのKCl、0.14MのNaCl、0.02%(w/v)のNa−アジド、pH7.4
・SEPHADEX(商標)G−50、対照SEC媒体、10mMのリン酸Na、2.7mMのKCl、0.14MのNaCl、0.02%(w/v)のNa−アジド、pH7.4
・CAPTO(商標)Phe hs、フェニルリガンドを含有するHIC媒体、50mMの酢酸Na、1mMのEDTA、1.5Mの(NH
4)
2SO
4、pH5.0
・pH HIC 6%、pH応答性ポリマー系のHIC媒体、50mMの酢酸Na、1mMのEDTA、1.5Mの(NH
4)
2SO
4、pH5.0
・pH HIC 16%、pH応答性ポリマー系のHIC媒体、50mMの酢酸Na、1mMのEDTA、1.5Mの(NH
4)
2SO
4、pH5.0。
【0079】
平衡化後、40μlの試料を各々のカラムに加えた(照合緩衝液(matching buffer))。結合抗体を含有する各ゲル媒体の3つのSPINTRAP(商標)カラムをそれぞれ室温(+20℃)で、冷蔵庫(+4〜8℃)内に、及び冷凍庫(−20℃)内に保存した。並行して、各種の緩衝液を含有する溶液中の抗体の部分試料をSPINTRAP(商標)カラムと同じ温度でも保存した。
【0080】
24〜26日間のインキュベーション時間の後60μlの照合緩衝液を全てのSPINTRAP(商標)カラムに加えた。フロースルー(非結合性画分)を収集し、吸光度(A280nm)を測定した。
【0081】
各種のゲル媒体を洗浄した後、400μlの次の溶出緩衝液で溶出した。
・CAPTO(商標)MMC、20mMのリン酸Na、1MのNaCl、pH7.0
・CAPTO(商標)S、20mMのリン酸Na、1MのNaCl、pH7.0
・CAPTO(商標)Adhere、0.5Mの酢酸
・CAPTO(商標)Q、20mMのリン酸Na、1MのNaCl、pH7.0
・MABSELECT(商標)、0.5Mの酢酸
・SEPHADEX(商標)G−50、溶出しない、フロースルー画分を収集した
・CAPTO(商標)Phe hs、20mMのリン酸Na、1MのNaCl、pH7.0
・pH HIC 6%、20mMのリン酸Na、1MのNaCl、pH7.0
・pH HIC 16%、20mMのリン酸Na、1MのNaCl、pH7.0。
【0082】
溶出した画分の吸光度(A280nm)を測定した。溶液中に保存した全ての試料及び各種のゲル媒体からのフロースルー/溶出画分をSECにより分析した。抗体回収率と二量体含有率を表2A〜4Dにまとめて示す。
【0083】
【表6】
CAPTO(商標)S上の保存の結果は二量体含有率が大幅に低下し、抗体回収率は高い。CAPTO(商標)MMCでは、保存後の二量体含有率が溶液中の保存と比較してやや低く、低めの温度で良好な回収率である。
【0084】
【表7】
CAPTO(商標)Adhere上の保存は、溶液中の保存と比べてずっと改良された結果が得られる。回収率は非常に高く、単量体IgGの100%より高い回収率で示されるように二量体から単量体への変換が可能である。CAPTO(商標)Q上の保存の結果は、溶液中での保存と比べて二量体含有率が少ないが、回収率は80%未満であった。
【0085】
【表8】
MABSELECT(商標)上の保存は溶液中の保存と比べてずっと改良された結果を示す。回収率は非常に高く、単量体IgGの100%より高い回収率で示されるように二量体から単量体への変換が可能である。SEPHADEX(商標)G−50上での保存の結果は溶液中での保存と比べてやや低い二量体含有率を示すが、おそらく非結合特性のために全てのゲル媒体で最も高いタンパク質回収率を有する。
【0086】
【表9】
HICゲル媒体の場合、標的の沈殿に起因して比較のための出発材料がなかった。出発材料の吸光度(A280nm)は28.5AUであり、一方他の出発材料では40AUを越えていた。清澄化後のタンパク質回収率はpH HIC 6%及びpH HIC 16%ゲル媒体で良好であった。他のゲル媒体と比べて、保存後の二量体含有率は低い範囲であり、凝集の安定化又は低減に対する正の効果を示した。
【0087】
全ての保存条件に対する結果をグラフとして
図4A〜Cに示す。CAPTO(商標)Adhere又はMABSELECT(商標)上の保存は、保存後非常に低いレベルの二量体又は凝集体と単量体IgGの高い回収率を示し、保存中二量体レベルを低下する媒体の明白な能力を反映している。CAPTO(商標)Adhere又はMABSELECT(商標)上の保存は、保存後非常に低いレベルの二量体又は凝集体と単量体IgGの高い回収率を示し、保存中二量体レベルを低減する媒体の明白な能力を反映している。
【0088】
GAMMANORM(登録商標)(165mg/ml)の希釈直後の初期二量体含有率は使用した緩衝液に応じて6.9〜24.6%であった。いろいろな温度で3.5週間保存後、二量体含有率は各種の溶液で少し低かった。
【0089】
緩衝液の組成、pH、塩含有率及び種類は、タンパク質濃度と比較してより速く、またより高い程度で平衡に影響を及ぼすようである。pH5.0での低塩緩衝液中のGAMMANORM(登録商標)の保存の結果は、pH7.4又はpH9.0での保存と比べて、希釈直後と3.5週間保存後のいずれも二量体含有率がずっと低い。
【0090】
温度の効果はあまり明らかではない。
【0091】
これらの実験によると、GAMMANORM(登録商標)の溶液中最良の保存条件は、20mMの酢酸Na、0.02%のNa−アジド中pH5.0、+20℃での保存のようである。
【0092】
しかしながら、二量体含有率に対する最も顕著な効果は、抗体を結合媒体上、殊にCAPTO(商標)Adhere及びMABSELECT(商標)上に保存したときに観察された。ただし、これらのゲル媒体上の保存はそれぞれpH9.0及びpH7.4で行った。この効果は非常に大きく、単量体IgGの回収率を計算したとき、その結果はCAPTO(商標)Adhere及びMABSELECT(商標)上に保存した試料で100%より高かった。しかし、総タンパク質回収率は98%(SEPHADEX(商標)G−50、非結合媒体)より高くなることはなかった。
【0093】
このように、結合媒体上に保存することは以下のような幾つかの利益を有し得る。
1.凝集に対するIgGの安定化(減速動力学)
2.IgG二量体の除去(洗練)
3.単量体形成の促進(単量体/二量体平衡の逆転)。
【0094】
低い初期二量体含有率の出発材料をゲル媒体上に保存すると、安定化及び洗練の利益が得られるであろう。高い初期二量体含有率で始めると、二量体の量の低減及び単量体の割合の上昇という利益も得られるであろう。
【0095】
非結合媒体から得られた結果では、二量体含有率が全く又は少ししか低下しない。低い初期二量体含有率で出発する第1の実験では、非結合性ゲル媒体(SUPERDEX(商標)200及びSEPHADEX(商標)G−50)上での保存の結果、溶液中での保存と比べて少し多い二量体が得られた。高い初期二量体含有率で出発すると、SEPHADEX(商標)G−50での保存では、溶液中の保存と比べて少し少ない二量体が得られた。しかしながら、全体の二量体含有率は、捕獲ゲル媒体での保存と比べて常にそれより高かった。
【0096】
当業者には理解されるように、本発明の可撓性バッグは、粒子状材料をカラムチャンバー内に導入し、その材料を充填床、膨張床、圧密化床又は流動床として流体と接触させて分離又は反応プロセスを達成する分離又は反応ユニットの調製に使用し得る。
【0097】
様々な態様及び好ましい実施形態に従って本発明を説明して来たが、本発明の範囲は単にそれに限定されるとは考えられず、また本出願人は全ての変形及び等価物も特許請求の範囲内に入ることを意図しているものと理解されたい。