【文献】
田口 祐ほか,優先度付き評価に基づく競合型PSOによる複数解探索手法 A Competitive PSO Based on Evaluation with Priority for Finding Plural Solutions,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.109 No.124,2009年 7月 6日,第109巻,pp.83-86
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記初期条件設定ステップは、前記始点条件と終点条件との間に、複数の中間点条件を設定する中間点条件設定工程を有することを特徴とする請求項1に記載の最適解探索方法。
前記出力ステップは、前記最適化計算ステップで計算された解の結果、及び計算時の前記制約条件をオペレータに提示することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の最適解探索方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した如く、転炉で行われる溶銑の精錬では、様々な副原料が吹練条件に応じて投入されることとなるが、投入量の決定は非常に複雑で難しいものとなっている。
そこで、特許文献1のような予測モデルを用いて最適解を探索することで、副原料の投入量を決定することが考えられる。その場合、計算に用いる制約条件の選定が問題となる。例えば、制約溶銑の品質の調整が容易ではない工程や、データに大きなノイズ要素が存在する工程の最適化計算をするとき、溶銑の品質をできる限り維持するために、制約条件に始点条件(必ず実現しなくてはいけない条件)と終点条件(出来れば実現したい条件)を加えることがある。
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術を用いて、終点条件内に存在する解、若しくは終点条件に近い解を求める場合、始点条件から最適化計算し始めると、評価関数によっては始点条件の境界線近傍に解が集中してしまう虞がある。このような問題を解決する場合、終点条件から最適化計算を始め、終点条件に解が存在しない場合には制約条件を逐次緩和させて再計算する方法があるが、探索回数が増加してしまうため、最適解を探索する時間が長くなる。また、特許文献1は、過去の解情報をリセットせずに次の解探索を行っている。
この過去の解情報は最適化計算を行う上で重要な情報となり得る。
【0008】
一方で、最適解を探索するにあたり、粒子群最適化(PSO:Particle Swarm Optimization)のような集団的降下法を使用することが考えられる。この場合、制約条件が変化する状況下においては、リセットされない過去の解情報が逆に解の探索を妨げる虞がある。なぜならば、制約条件を限定したり、制約条件を緩和したりする際に、前段階の範囲を探索していた粒子は、限定された条件部分や追加された条件部分へ辿り着くまでに、無駄な解の探索(解の存在する可能性が低い範囲での探索)を行うためである。
【0009】
また、特許文献1は、制約条件の範囲を限定するのみであるが、範囲を限定するだけでは、状況の表現が的確に表現できないことがある。例えば、制約条件が複数存在し、且つトレードオフ等の関係によって制約条件間に明確な優先順位が存在する場合には、範囲を限定するだけではなく、範囲を緩和する方が状況を的確に表現できる。
ゆえに、実操業下においては、短時間で、且つ効率的に最適解を探索することが求められているため、特許文献1の技術を改良する要望が挙げられている。
【0010】
そこで、特許文献1の技術に、特許文献2の最適化技術を適用することが考えられる。特許文献2は、見つけにくい解をより、短時間で見つけることができる点(解)と、制約条件が無い場合の最適点(最適解)とが制約条件の範囲外にある場合を想定して最適化を行っており、確率密度によって探索点を絞り、境界線内側近傍もしくは境界線近傍部分の探索点の配置密度を上げることによって最適点の発見確率を上げている。
【0011】
しかしながら、特許文献2の技術は、制約条件を1つとして考えているが、実操業では一つの変数に、可能な限り実現したい条件(終点条件)と、必ず実現しなくてはいけない条件(始点条件)とが存在することが多くある。そのため、特許文献2の技術では、制約条件外に最適点があることから評価関数も境界線近傍に行くことが多く、終点条件内に解を向かわせることは困難である。また、実操業下での解の探索を考えた場合、始点条件が操業条件の限界点であるとすると、ノイズの大きさによっては始点条件近傍に解が集中することを好まないことがある。ゆえに、特許文献2に記載された技術をそのまま転炉の副原料投入量決定の最適計算を適用することはできない。
【0012】
そこで、本発明は上記問題点を鑑み、制約条件をもとに解を探索する順番を設定し、その後、制約条件の終点条件内、若しくは終点条件近傍で解を探索して、これら解の中から最適解を決定する最適解探索方法、及び最適解探索装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明に係る最適解探索方法は、制約条件を満たすような入力条件に対して、評価関数に基づいて最適化計算を行って最適解を求める最適解探索方法において、前記制約条件は、解の探索において必須とされる始点条件と、解の探索において遵守した方が望ましいとされる終点条件とを有し、前記入力条件を入力する入力ステップと、前記始点条件を設定する始点条件設定工程と、前記終点条件を設定する終点条件設定工程と、これら設定された条件の組み合わせを踏まえて作成される探索パターンの順番を設定する探索パターン順番設定工程と、前記設定された探索パターンのうち、最適化計算において解を探索する際に、最初に使用する探索パターンを設定する初期探索パターン設定工程と、最適化計算において解を探索する際に、最初の探索する点を設定する初期探索点設定工程とで構成され、前記設定された条件を最適化計算を行うための初期の条件として設定する初期条件設定ステップと、前記制約条件を満たす解を発見する解探索工程と、前記解探索工程で新たに発見された解を保存する解保存工程とを有し、解探索条件を満たすまで解の計算を行う最適化計算ステップと、前記最適化計算ステップにおいて発見された解とこれまでに得られた最適解とを比較し、且つそれらの解の差を算出する解比較工程と、前記解比較工程で算出された解の差を基に、次回の解探索の際に使用する探索パターンを求める次回探索パターン選択工程と、前記次回探索パターン選択工程で求められた次回の探索パターンを設定する次回探索パターン設定工程と、前記次回探索パターン設定工程で設定された新たな探索パターンにおいて探索点を設定する新探索点設定工程とで構成され、前記設定した探索パターンを前記最適化計算ステップに戻す探索パターン設定ステップと、前記解探索条件
を満たした際に、前記解保存工程で保存された解の中から最適解を決定する最適解決定ステップと、前記最適解決定ステップで決定された最適解を出力する出力ステップと、を有することを特徴とする。
【0014】
好ましくは、前記初期条件設定ステップは、前記始点条件と終点条件との間に、複数の中間点条件を設定する中間点条件設定工程を有するとよい。
好ましくは、前記最適化計算ステップは、粒子群最適化方法に基づいた集団的降下法を用いるものとされ、前記探索パターン設定ステップは、これまでの探索パターンから新たな探索パターンに変更して前記新探索点を設定する際に、これまでの最適解を解保存工程において保存し、この最適解とその周辺に解を探索する粒子を散布するとよい。
【0015】
好ましくは、前記探索パターン設定ステップは、前記制約条件の範囲を緩める緩和条件確認部が備えられており、前記緩和条件確認部は、前記制約条件によって当該制約条件の範囲を緩めることが必要とされた場合、前記制約条件の範囲を緩める緩和条件を作成するとよい。
好ましくは、前記出力ステップは、前記最適化計算ステップで計算された解の結果、及び計算時の前記制約条件をオペレータに提示するとよい。
【0016】
本発明に係る最適解探索方法は、転炉の副原料の投入量の算出に用いるとよい。
本発明に係る最適解探索装置は、制約条件を満たすような入力条件に対して、評価関数に基づいて最適化計算を行って最適解を求める最適解探索装置において、前記制約条件は、解の探索において必須とされる始点条件と、解の探索において遵守した方が望ましいとされる終点条件とが有するものであり、前記入力条件を入力する入力部が備えられている入力手段と、前記始点条件を設定する始点条件設定部と、前記終点条件を設定する終点条件設定部と、これら設定された条件の組み合わせを踏まえて作成される探索パターンの順番を設定する探索パターン順番設定部と、前記設定された探索パターンのうち、最適化計算において解を探索する際に、最初に使用する探索パターンを設定する初期探索パターン設定部と、最適化計算において解を探索する際に、最初の探索する点を設定する初期探索点設定部とが備えられ、前記設定された条件を最適化計算を行うための初期の条件として設定する初期条件設定手段と、前記制約条件を満たす解を発見する解探索部と、前記解探索部で新たに発見された解を保存する解保存部とが備えられ、解探索条件を満たすまで解の計算を行う最適化計算手段と、前記最適化計算手段において発見された解とこれまでに得られた最適解とを比較し、且つそれらの解の差を算出する解比較部と、前記解比較部で算出された解の差を基に、次回の解探索の際に使用する探索パターンを求める次回探索パターン選択部と、前記次回探索パターン選択部で求められた次回の探索パターンを設定する次回探索パターン設定部と、前記次回探索パターン設定部で設定された新たな探索パターンにおいて探索点を設定する新探索点設定部とが備えられ、前記設定した探索パターンを前記最適化計算手段に戻す探索パターン設定手段と、前記解探索条件を満たした際に、前記解保存部で保存された解の中から最適解を決定する最適解決定部が備えられている最適解決定手段と、前記最適解決定手段で決定された最適解を出力する出力部が備えられている出力手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の最適解探索方法、及び最適解探索装置よれば、制約条件をもとに解を探索する順番を設定し、その後、制約条件の終点条件内、若しくは終点条件近傍で解を探索して、これら解の中から最適解を決定することになるため、最も良い解を短時間に算出することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る最適解探索方法、および最適解探索装置1の実施の形態を、図をもとに説明する。
本発明に係る最適解探索方法、および最適解探索装置1の詳細を述べる前に、本発明の技術が適用される転炉30について、図をもとに説明する。
図6に示す如く、脱りん処理を行う転炉30は、気体酸素を溶銑に吹き込む上吹きランス31と炉底から酸素又は不活性ガスを溶銑に吹き込む羽口33を備えた上底吹き型であって、上吹きランス31からの気体酸素により酸素を供給し、羽口33からの酸素又は不活性ガスにより溶湯を攪拌するものである。また、転炉30は、供給装置32を備えている。この供給装置32は、副原料(生石灰、固体酸素源等)を供給するものであって、例えば、ホッパーやシュート等である。
【0020】
図1は、前述した転炉30において、投入する副原料の量を正確、且つ短時間で算出するための最適解を探索する装置のシステム構成を示したものである。なお、最適解を探索するにあたっては、本実施形態では、粒子群最適化法(Particle Swarm Optimization、PSO法)等の集団的降下法を用いている。
最適解探索装置1は、転炉30における入力条件を入力する入力手段2と、最適化計算を行うための初期の条件を設定する初期条件設定手段3と、解探索条件を満たすまで解の計算を行う最適化計算手段10と、最適化計算手段10での計算に用いる探索パターンを設定し、設定した探索パターンを前記最適化計算ステップに送る探索パターン設定手段13と、解探索条件を満たした際に、後述の解保存部12で保存された解の中から最適解を決定する最適解決定手段18と、最適解決定手段18で決定された最適解を出力する出力手段20と、を備えている。
【0021】
まず、入力手段2では、最適化計算を行うため、転炉30における初期の条件(制約条件を満たすような入力条件)を入力部に入力する。本実施形態の入力条件は、転炉30に投入する副原料の量を決定するために必要な溶銑の成分(溶銑燐比率、溶銑温度、溶銑配合率など)、目標値(溶鋼燐比率、溶鋼温度など)及び、それ以外の情報(炉令、休炉時間など)を入力する。
【0022】
初期条件設定手段3では、最適化計算を行うための初期の条件、すなわち制約条件の始点条件(解の探索において遵守することが必須とされる条件)及び終点条件(解の探索において遵守した方が望ましいとされる条件)の設定と、これら設定された条件(始点条件及び終点条件)の組み合わせを踏まえて作成される探索パターンの順番の設定と、初期の探索パターンに選ばれた条件の設定、及び初期の探索点の設定が行われる。
【0023】
また、初期条件設定手段3では、始点条件と終点条件の間に位置し、且つ可能であれば遵守した方が望ましいとされる中間点条件の設定も必要な場合に行われる。この中間点条件を設定することで、より多くの探索パターンが設定でき、制約条件間の関係を精度良く表した最適化計算が可能となる。
本実施形態の初期条件設定手段3では、探索パターンの探索順番の設定は、始点条件と終点条件に中間点条件を加えた3パターンの組み合わせを踏まえて作成されている。
【0024】
図1に示すように、この初期条件設定手段3は、始点条件を設定する始点条件設定部4と、終点条件を設定する終点条件設定部6と、これら設定された条件の組み合わせを踏まえて作成される探索パターンの順番を設定する探索パターン順番設定部7と、設定された探索パターンのうち、最適化計算において解を探索する際に、最初に使用する探索パターンを設定する初期探索パターン設定部8と、最適化計算において解を探索する際に、最初の探索する点を設定する初期探索点設定部9と、を備えている。
【0025】
また、本実施形態の初期条件設定手段3は、始点条件と終点条件との間に、複数の中間点条件を設定する中間点条件設定部5を有する。
転炉30における初期の制約条件を設定するにあたっては、以下の方法を用いる。
一般的な最適化問題(P) は、不等式制約、等式制約、上下限制約を有しており、以下の式(1)のように定義できる。
【0027】
ここで、x=(x
1,・・・,x
n)はn次元決定変数ベクトル、f(x)は評価関数、g
j(x)≦α はq個の不等式制約、h
j(x)=βはm−q個の等式制約であり、f,g
j,h
jは線形あるいは非線形の実数値関数である。l
i,u
iはそれぞれn個の決定変数x
iの下限値、上限値である。
本実施形態の評価関数f(x)は、コストを算出する関数であり、xは、副原料の投入量を示すことになる。また、例えば、g(x)が溶鋼燐比率を求める関数であり、h(x)が溶鋼温度を求める関数となる。
【0028】
また、本実施形態で設定する始点条件、終点条件、及び中間点条件については、不等式制約、等式制約、及び決定変数の上下限値である。
ここで、始点条件、終点条件、及び中間点条件と、この3つの条件を踏まえて組合せられる探索パターンについて、説明する。
図2は、始点条件と終点条件についての模式図である。始点条件は、副原料A及び副原料Bの限定(規制)が緩和された条件であり、終点条件よりも粒子の探索範囲が広くなっている。一方で、終点条件は、副原料A及び副原料Bの限定を厳しくして、粒子の探索範囲を狭めている。
【0029】
なお、中間点条件は、図示していないが、始点条件と終点条件との間に存在し、副原料A及び副原料Bの限定を終点条件より若干緩和して設定される。これら3つの条件は、それぞれの操業条件や操業における目標値によって決定される。制約条件を満たす解を少なくとも1つ以上発見したい場合には、始点条件を許容限界まで緩和すると望ましい。
図3に示すように、探索パターンは、上述した始点条件、中間点条件、及び終点条件を用いて、制約条件のパターン分けを行ったものである。
【0030】
本実施形態では、転炉30の操業においてスラグがスロッピングすることを抑えるための合計投入量制約(副原料B制約)と、転炉30の炉内壁を保護すべく、スラグ中に存在する副原料Aの成分比率を一定以上に守るための副原料A制約とを用いている。
合計投入量制約(副原料B制約)については、投入できる限界量を始点条件に設定し、できるだけ守りたい合計投入量を終点条件に設定している。なお、副原料B制約の中間点条件の設定は行っていない。
【0031】
副原料A制約については、スラグ中の副原料Aの成分比率が許容される限界点を始点条件に設定し、スラグ中の副原料Aの成分比率が十分に満足する点を終点条件に設定している。なお、副原料A制約の中間点条件は、始点条件と終点条件の間に設定している。
制約条件は他にも存在するが、条件の規制を緩和することが難しい制約条件については、あえて始点条件、及び終点条件を設定しなくてもよい。このような場合の制約条件は、終点条件のみが存在する、もしくは始点条件と終点条件が同じ条件と見なすことができる。
【0032】
表1に示すように、本実施形態では、探索パターンを6つに設定している。
図3(f)に示すように、パターン6は、2つの制約条件で始点条件となっており、パターン1〜パターン5の範囲を含むものとなっている。すなわち、パターン6は、粒子の探索範囲が6つの探索パターンのうち、最も緩和されたものである。
図3(b)〜
図3(e)に示すように、パターン番号が小さくなるにつれて、粒子の探索範囲は小さくなり、制約条件の規制が厳しくなる。
【0033】
図3(a)に示すように、パターン1は、最も厳しい規制であり、2つの制約条件で終点条件となる。
【0035】
これら6個のパターンに基づいて、探索パターンの順番(粒子が解を探索する範囲の順番)を設定する。本実施形態においては、表2に示す探索の順番で解の探索を行う。なお、探索パターンの順番は、表2に示す順番だけでなく、転炉30の操業下において任意に設定することができる。
【0037】
本実施形態の探索順は、最初に解を探索する「探索順1」に、探索領域が最も広いパターン6を配置し、最後に解を探索する「探索順6」にパターン1を配置する。「探索順1」と「探索順6」との間には、順次制約条件が縮小するように探索パターンを配置する。
このとき、探索パターンの順番の設定にあたっては、副原料A制約と合計投入量制約(副原料B制約)とが干渉し合う関係にならないようにする。
【0038】
なお、制約条件が干渉し合う関係のときに探索パターンの順番を設定する場合については、後述する変形例で説明する。
次に、最初に探索する範囲として設定されたパターン6内にそれぞれの粒子を割り振り、割り振られた地点を最適化計算を行うための粒子の初期探索地点と設定する。なお、PSO法における粒子の探索範囲は、通常、各PSO変数で設定される範囲である。
【0039】
最適化計算手段10では、制約条件を満たすまで、PSO法など最適化手法で解の計算を繰り返し行われ、制約条件を満たす解を発見した際には解保存部12で保存する。
図1に示すように、最適化計算手段10は、制約条件を満たす解を発見する解探索部11と、解探索部11で新たに発見された解を保存する解保存部12とを備えている。
解探索部11では、転炉30における制約条件を満たす解を発見されるまで探索する。そして、解探索部11で発見された解は、解保存部12に保存される。解保存部12には、複数個、解が保存されていて、それら複数の解は最適解の候補とされる。
【0040】
ここで、解探索部11で解の探索を行い、解探索部11で発見された解を解保存部12に保存するまで過程を、詳細に述べる。
各変数の制約条件を始点条件として、PSO法を用いて最適化計算を開始する。
PSO法は集団的降下法の一つであり、集団的降下法での探索ルーチンは一般的に以下のように記述できる。
【0041】
(1)初期化: 集団に属する解をランダムに発生させる。
(2)評価: 発生した全ての解を評価する。
(3)終了判定: 終了条件を満足すると、探索を終了する。
(4)各解に対して、
(a) 生成: 各解と集団の情報に基づき、新しい解を生成する。
【0042】
(b) 評価: 生成された新しい解を評価する。
(c) 更新: 新しい解が古い解より良ければ、最適解を新しい解に置き換える。
(5)終了判定へ戻る。
なお、(2)の「評価」では、発生した全ての解が評価関数の値と制約条件とを満たしているか否かについて、評価している。(2)の「評価」で制約条件を満たす解が発見されなかった場合、(4)(a)の「生成」に移り、制約条件を満たす解が発見されるまで探索を繰り返す。また、(1)「初期化」については、上述した粒子の初期探索地点の設定に該当する。
【0043】
探索パターン設定手段13は、過去の解の探索結果をリセットする際に、解情報を全てリセットしてしまうと、これまでの最適解まで失ってしまい、解が最後まで発見できない可能性や効率的な解探索ができない問題を回避するものであり、過去の解の探索結果をリセットする際にも、最適解(最適点)の情報を記憶するようになっている。更に、その最適解の周辺に粒子を重点的に配置することで効率的な探索を可能にしている。
【0044】
探索パターン設定手段13では、これまでの探索パターンから新たな探索パターンに変更して新探索点を設定する際に、これまでの最適解を解保存部12において保存し、この最適解とその周辺に解を探索する粒子を散布する。
図1に示すように、探索パターン設定手段13は、最適化計算手段10において発見された解とこれまでに得られた最適解とを比較し、且つそれらの解の差を算出する解比較部14と、解比較部14で算出された解の差を基に、次回の解探索の際に使用する探索パターンを求める次回探索パターン選択部15と、次回探索パターン選択部15で求められた次回の探索パターンを設定する次回探索パターン設定部16と、次回探索パターン設定部16で設定された新たな探索パターンにおいて探索点を設定する新探索点設定部17と、を備えている。
【0045】
ここで、探索パターン設定手段13において、次回の探索パターンを設定し、設定された探索パターンの中で新たな探索点を設定する過程を詳細に説明する。
まず、最適化計算手段10で発見した解が下位の探索順のパターン(例えば、表1のパターン1)まで到達しているかを判断する。このとき、その解が下位の探索順のパターンに到達したと判断された場合、そのパターンまで探索順を進める。なお、その解が下位の探索順のパターンに到達しておらず、且つ現状のパターンのままの場合、最適化計算を終えるための終了条件の判定を行う。
【0046】
終了条件を満たしていないと判断された場合、現状のパターンで解の探索を継続する。なお、終了条件を満たしていると判断された場合、最適解決定手段18へ移り、最適解の決定を行う。
なお、本実施形態の終了条件については、「指定回数の探索を行ったかどうか」と「一定回数以内に最適解が更新されているかどうか」を終了条件としている。
【0047】
表3に示すように、解が下位の探索順のパターンまで到達していると判断された場合、到達したパターンの制約条件を変更する。具体的には、発見された最適解のパターンより緩い条件(始点条件に近い条件)のパターン、及び探索していたパターンは、探索済みとする。ゆえに、より緩い条件のパターンにおける解の探索が実施されないようになっている。
【0049】
表4に示すように、探索中のパターンで解が発見されなかった場合、それより厳しい条件のパターンでは解が存在しないと判断され、この厳しい条件のパターン、及び探索中のパターンを探索済みとする。ゆえに、より厳しい条件のパターンにおける解の探索が実施されないようになっている。
【0051】
到達したパターンの制約条件を変更した後、最適解以外の解情報を消去し、発見された暫定の最適解を1つの粒子の探索座標に再設定し、その最適解の周辺の探索点に指定された数の粒子を探索座標に設定する。また、残りの粒子の探索点を該当探索順番のパターン内でランダムに再設定する。
このようにすることで、範囲縮小によってパターンを変更した後に一度見つけた解が見つからないといった問題を無くし、効率的な最適解探索が行える。なお、暫定最適解の近傍に配置されなかった残りの粒子の探索点については、設定されたパターンの制約条件の範囲内で再度ランダムに再設定される。
【0052】
最適解の近傍の上限値と下限値を算出するにあたっては、式(2)、及び式(3)を用いる。
最適解近傍の上限値 = min(探索座標上限 ,最適解探索座標+(探索座標上限−
探索座標下限)×近傍範囲(%)/2) ・・・(2)
最適解近傍の下限値 = max(探索座標下限 ,最適解探索座標−(探索座標上限−
探索座標下限)×近傍範囲(%)/2) ・・・(3)
粒子の探索点が再設定された後、発見された解が最下位の探索順のパターンに到達しているか否かを判断する。探索終了条件まで最適化計算を行う。
【0053】
発見された解が最下位の探索順のパターンに(例えば、表1の「探索順6」のパターン1)まで到達している場合、最終の探索順であるため、パターンは変更されない。この場合、探索を終了する探索終了条件まで最適化計算を行う。
最適解決定手段18では、解探索条件を満たした際に、最適解決定部19において、解保存部12で保存された解の中から最も評価関数の良い解を副原料の投入量の最適解とし
、最適化計算を終了する。
【0054】
出力手段20では、最適解決定手段18で決定された副原料の投入量の最適解及び当該最適解に関する制約条件を出力部から出力する。
副原料の投入量の最適解を出力するにあたっては、その最適解を転炉30の設備の近傍に配備されたモニタなどの表示器に示し、転炉30の操業に携わるオペレータに通達する。オペレータに最適解を通達することによって、転炉30の操業の安定化や操業効率の向上を図ることができる。
【0055】
以下、本発明の最適解探索装置1を用いて最適解を探索する方法について、図をもとに詳しく説明する。
図4は、最適解探索装置1を用いて最適解を探索する方法を示したフローチャートである。
図4に示すように、ステップS1−1では、転炉30に投入する副原料の量を決定するために必要な溶銑の成分(溶銑燐比率、溶銑温度、溶銑配合率など)、目標値(溶鋼燐比率、溶鋼温度など)及び、それ以外の情報(炉令、休炉時間など)を入力する(入力ステップ)。
【0056】
ステップS1−2では、始点条件設定工程、終点条件設定工程及び中間点条件設定工程で、最適化計算を行うための初期の条件、すなわち制約条件の始点条件、終点条件及び中間点条件の設定が行われ、これら設定された条件(始点条件、終点条件及び中間点条件)の組み合わせを踏まえて作成される探索パターンの順番の設定が探索パターン順番設定工程で行われる(初期条件設定ステップ)。
【0057】
ステップS1−3では、初期探索パターン設定工程で、ステップS1−2で設定した探索順番の1番目にあたるパターンの制約条件を設定する(初期条件設定ステップ)。
ステップS1−4では、初期探索点設定工程において、最適化計算を行うために、ステップS1−3で設定されたパターン内にそれぞれの粒子を割り振り、割り振られた地点を粒子の初期探索地点と設定する(初期条件設定ステップ)。
【0058】
ステップS1−5及びステップS1−6では、解探索工程でPSO法を用いて転炉30における制約条件を満たす解を探索する(最適化計算ステップ)。
ステップS1−7では、では、解探索工程で発見された解を解保存部12に保存する(解保存工程、最適化計算ステップ)。
ステップS1−8では、解比較工程で、探索によって発見された解が下位の探索順のパターンまで到達しているかを判断する(探索パターン設定ステップ)。解が下位の探索順のパターンに到達している場合、ステップS1−11に移行する(yes)。また、解が下位の探索順のパターンに到達しておらず、現状のパターンのままの場合、ステップS1−9に移行する(no)。
【0059】
ステップS1−9では、最適化計算を終えるための探索終了条件を満たしているかどうかを判断する(探索パターン設定ステップ)。探索終了条件を満たしていない場合、ステップS1−5(解探索工程)に戻り、現状のパターンで解の探索を継続する(no)。探索終了条件を満たしている場合、ステップS1−10に移行する(yes)。
ステップS1−10では、終了条件を満たした後、現状の探索パターンの中でもっとも評価関数の良かった解を最適解として決定する(最適解決定ステップ)。
【0060】
ステップS1−11では、ステップS1−8で解が下位の探索順パターンまで到達していることが分かった場合、ここで到達したパターンに制約条件を次回探索パターン選択工程で変更する(探索パターン設定ステップ)。
ステップS1−12では、次回探索パターン設定工程で最適解以外の解情報を消去する(探索パターン設定ステップ)。
【0061】
ステップS1−13では、新探索点設定工程で発見された暫定の最適解を1つの粒子の探索座標に設定し、指定された粒子数だけその近傍にランダムに探索座標を設定する(探索パターン設定ステップ)。
ステップS1−14では、残りの粒子の探索点を該当探索順番のパターン内で再設定する(探索パターン設定ステップ)。
【0062】
ステップS1−15では、解が最下位の探索順のパターンまで到達しているか否かを判断する(探索パターン設定ステップ)。解が最下位の探索順のパターンまで到達している場合、ステップS1−16に移行する(yes)。解が最下位の探索順のパターンまで到達していない場合、ステップS1−5(解探索工程)に戻り、現状のパターンで解の探索を継続する(no)。
【0063】
ステップS1−16では、終了条件を満たすまで、最適化計算を繰り返す(最適化計算ステップ)。
ステップS1−17では、終点条件を満たした際に、最適解決定工程において、解保存部12で保存された解の中から最も評価関数の良い解を副原料の投入量の最適解とする(最適解決定ステップ)。
【0064】
ステップS1−18では、最適解決定ステップで決定された副原料の投入量の最適解及び当該最適解に関する制約条件を転炉30の設備の近傍に配備されたモニタなどの表示器に出力する(出力ステップ)。
以上述べた最適解探索方法、及び最適解探索装置1を用いることで、制約条件をもとに解を探索する順番を設定し、その後、制約条件の終点条件内、若しくは終点条件近傍で解を探索して、これら解の中から最適解を決定することになるため、最も良い解を短時間に算出することが可能となる。
【0065】
[変形例]
ところで、上述した最適解探索装置1、及び最適解探索方法は、始点条件、及び終点条件を有する2つの制約条件が干渉し合う関係ではない場合、始点条件と終点条件の組合せ(制約条件)を基に作成される探索パターンの順番を設定し、そして最初の探索パターンで解を探索した後、その解を基に次回の探索パターンを再設定して再び解を探索し、これら解の中から最適解を決定する技術であることを述べた。
【0066】
しかしながら、上述の最適解探索装置1、及び最適解探索方法は、2つ制約条件が干渉し合う場合についても採用することができる。
この場合、探索パターン設定手段13に、制約条件の範囲を緩める緩和条件確認部を備えておくとよい。この緩和条件確認部は、制約条件によって当該制約条件の範囲を緩めることが必要とされた場合、前記制約条件の範囲を緩める緩和条件を作成する。
【0067】
具体的には、制約条件間で干渉し合う関係の場合、それら制約条件の間に優先順位がつけられることがある。最適解を探索する際に、制約条件を緩和する緩和ループ(緩和条件確認部)を加えて、探索パターンの探索順を変更することで、制約条件間で干渉し合う関係の場合においても本発明の最適解探索装置1、及び最適解探索方法を採用することが可能となる。
【0068】
例えば、制約条件Aと制約条件Bが干渉する関係にあり、且つ制約条件Aの重要度が高い場合(優先権がある場合)、探索パターンの順番は表6に示すように設定する。なお、変形例の探索パターンについては、表5に示すものを採用しているが、上述した始点条件と終点条件の組合せを基に作成される探索パターンであれば、いずれのものを採用することもできる。
【0071】
以下、上述した探索パターン、及び探索パターンの順番で最適化計算を行う場合について、
図5を基に説明する。
なお、
図5に示されているステップS1−1〜ステップS1−5、ステップS1−7〜ステップS1−18については、
図4に示すステップステップS1−1〜ステップS1−5、ステップS1−7〜ステップS1−18と同様であるので、説明は省略する。
【0072】
つまり、変形例の特徴である緩和条件確認部に該当する、ステップS2−6、ステップS2−19〜ステップS2−22に着目して、説明する。
まず、
図5に示すステップS1−1〜ステップS1−5については、上述したように進めてゆく。
ステップS2−6では、ステップS1−5で解を探索した結果、解が発見されているか否かを判断する(解探索工程)。解が発見されている場合、表6に示す探索順1,5,6の探索パターン(パターン3,パターン2,パターン1)の中から最適解を見つける(最適化計算ステップ)。このとき、探索順2〜4のパターン(パターン6,パターン5,パターン4)は、優先順の関係から自動的に「探索済」となる。そして、ステップS1−7に移行する(yes)。また、解が発見されていない場合、ステップS2−19に移行する(no)。
【0073】
ステップS2−19では、表6に示す探索順1で解が見つからない場合、探索順2〜4に進むための緩和条件を満たしているか否かを判断する(最適化計算ステップ)。例えば、一定回数以上の探索を行っても解が発見されない場合などが挙げられる。緩和条件を満たす場合、ステップS2−20に移行する(yes)。緩和条件を満たさない場合、ステップS1−5(解探索工程)に戻って解探索を再度行う(no)。
【0074】
ステップS2−20では、探索順2のパターン6に変更する(最適化計算ステップ)。
ステップS2−21では、粒子を再度散布するために解情報を消去する(最適化計算ステップ)。
ステップS2−22では、パターン6内に粒子を再散布し、その後、ステップS1−5に戻って解を探索する(最適化計算ステップ)。
【0075】
このように、
図5に示す制約条件を緩和する緩和ループ(ステップS2−6,ステップS2−19〜ステップS2−22)を加えて、探索パターンの探索順を変更することで、複数の段階に分けて解を探索することで、より良い最適解を決定することができる。
そして、
図5に示すステップS1−7〜ステップS1−18については、上述した実施形態のように進める。
【0076】
上記した変形例に係る最適解探索方法、及び最適解探索装置1であっても、制約条件をもとに解を探索する順番を設定し、その後、制約条件の終点条件内、若しくは終点条件近傍で解を探索して、これら解の中から最適解を確実に決定することが可能となる。
ところで、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせなどを適宜変更可能である。また、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な事項を採用
している。