【実施例1】
【0008】
図1は、本発明の実施例1としての浸水防止装置20の外観斜視図である。本実施例においては、浸水防止装置20が浸水を防止する対象物(浸水防止対象物)として、現金自動取引装置10(以下、ATM10とも呼ぶ)を採用する。
【0009】
浸水防止装置20は、筐体22と、孔部24と、防水膜28と、蓋部36と、樹脂シート37とを備える。筐体22の上には、防水膜28が敷設され、その上にATM10が載置されている。
【0010】
筐体22には、蓋部36および樹脂シート37が、ATM10の全周を囲んで配置されている。筐体22において、蓋部36および樹脂シート37の下には溝部26が形成されている。溝部26については、
図2において説明する。通常状態においては、溝部26および樹脂シート37は溝部26を閉塞する。
【0011】
蓋部36は、金属製の板状部材から成る。蓋部36は、図示した矢印S1,S2の方向に開閉可能である。樹脂シート37は、隣り合う蓋部36の間に配置されている。樹脂シート37は隣接するこの2つの蓋部36と接続されている。隣り合う2つの蓋部36が矢印S1,S2の方向に垂直に開く場合、2つの蓋部36の間に配置されている樹脂シート37は、蓋部36が開くのを阻害しないように折りたたまれる。樹脂シート37は、柔軟性を備え、かつ、破れにくい素材から成る。本実施例においては樹脂シート37としてABSシートを採用する。また、樹脂シート37は、剛性ゴムシートとしてもよい。
【0012】
孔部24は、筐体22の周縁に形成されている。浸水時には、孔部24から筐体22の内部に水が侵入する。筐体22の内部には、通常状態において蓋部36を閉状態に維持するロック機構50(後述)が形成されている。ロック機構50は、孔部24から侵入した水によって蓋部36のロックを解除する。
【0013】
図2は、ATM10および浸水防止装置20のA−A断面(
図1参照)を示す断面図である。浸水防止装置20の筐体22内部には、溝部26が形成されている。また、筐体22にはロック機構50が構成されている。
【0014】
防水膜28のうち、筐体22の上に敷設されている部分以外の部分は、溝部26に収容されている。溝部26に収容されている防水膜28を上方向に広げると、防水膜28は、下から上に向かってATM10を覆う袋状の形状になる。溝部26には、防水膜28を上昇させる機構が収容されている。詳細については、後で説明する。
【0015】
ATM10には、通信用や電力供給用のケーブル群14が接続されている。ケーブル群14の他端は、外部機器や外部電源と接続されている。ケーブル群14は、外部から筐体22内を通り、防水膜28を貫通してATM10に接続されている。防水膜28は、ケーブル群14が貫通する孔部に、外部から内部への水の侵入を抑制するためのパッキン16が配置されている。
【0016】
図3は、筐体22の内部構造を示す説明図である。筐体22は、内部に、溝部26とロック機構50とを有する。溝部26には、防水膜28と、浮力材30と、弾性体32と、板状部材34とが収容されている。浮力材30は、木材、発泡スチロール、ポリエチレン等の水に浮く部材や、空気を密閉した浮き袋を採用することができる。浮力材30は、袋形状を構成する防水膜28の開口部周縁に結合されている。
【0017】
上述のように、防水膜28は、筐体22の上に敷設されると共に、その他の部分は折りたたまれた状態で溝部26に収容されている。溝部26に折りたたまれた防水膜28の下には、板状部材34が配置されている。そして板状部材34の下には弾性体32が配置されている。弾性体32の上端は板状部材34に固定され、弾性体32の下端は溝部26の底部に固定されている。弾性体32および板状部材34は、防水膜28を上昇させる機能を有する。本実施例においては、弾性体32として、バネを採用する。その他、弾性体32としてダンパーを採用するとしてもよい。弾性体32は、収縮した状態で溝部26に収容されている。通常時は、蓋部36が閉状態であるため、弾性体32は収縮した状態を保持している。
【0018】
蓋部36は、ヒンジ38を介して筐体22に回動可能に固定されている。蓋部36は、通常時、ロック機構50により閉状態に維持されている。ロック機構50によりロックが解除されると、弾性体32の弾性力が防水膜28および浮力材30を介して蓋部36を押し上げ、蓋部36は、図示した矢印S3の方向に開く。
【0019】
ロック機構50は、筐体51と、弾性体52と、ピストン53と、水溶性部材54と、リンク機構55と、ロック部56とを備える。弾性体52は、筐体51とピストン53と挟まれ収縮状態を維持している。
【0020】
通常時、ピストン53は、固形の水溶性部材54によって、弾性体52を収縮させた状態(収縮状態)に保持されている。水溶性部材54は、通常状態において、弾性体52を収縮状態に維持するために、筐体51とピストン53との間に配置される固形部材である。水溶性部材54としては、カリウム化合物、ナトリウム化合物、硝酸化合物、水溶性高分子などの水溶性の材料を採用することができる。カリウム化合物としては、水酸化カリウム、ヨウ化カリウム、臭化カリウム、炭酸カリウム、塩化カリウム等を採用することができる。ナトリウム化合物としては、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム等を採用することができる。硝酸化合物としては、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸カリウム等を採用することができる。水溶性高分子としては、デンプン糊、カルボキシルメチルセルロース等を採用することができる。
【0021】
浸水時には、孔部24から筐体22の内部に侵入した水が水溶性部材54と接触する。水と接触した水溶性部材54は溶解する。ピストン53は、弾性体52の弾性力によって移動する。弾性体52の弾性力は、ピストン53およびリンク機構55を介してロック部56に伝わり、ロック部56は、ロック状態を解除する方向に移動する。ロックが解除された蓋部36は、弾性体32の弾性力によって開かれる。
【0022】
図4は、孔部24を説明する説明図である。孔部24は、筐体22の周縁に等間隔に形成されている。図示するように、浸水時には、外部の水が孔部24から筐体22の内部に侵入する。筐体22の内部に侵入した水は、ロック機構50まで到達すると水溶性部材54を溶かす。水溶性部材54が溶けることによってロックが解除される。
【0023】
図5は、浸水時における浸水防止装置20の状態を説明する説明図である。上述のように、浸水時には水溶性部材54が水に溶けることによってロック機構50が蓋部36のロックを解除する。弾性体32の弾性力は、板状部材34、防水膜28および浮力材30を介して蓋部36に伝わり、蓋部36を押し開ける。弾性体32の弾性力は、板状部材34を介して防水膜28と浮力材30を上昇させる。
【0024】
開かれた蓋部36は、ATM10の本体に立てかけられた状態となり、ATM10と筐体22との隙間を塞ぐ。蓋部36は、上昇する浮力材30および防水膜28が、ATM10と筐体22との隙間に引っ掛かることを抑制する。
【0025】
上昇した防水膜28は袋状の形状を形成し、ATM10を下から上に覆う。防水膜28は、ATM10を覆うことによって、水99がATM10に侵入することを防止する。浸水によって水99の水面が上昇した場合、水面高さに応じて、浮力材30が浮力によって防水膜28を上昇させる。防水膜28は、水99の水面より高い位置でATM10を覆い、水99がATM10に侵入するのを防止する。
【0026】
実施例1においては、浮力材30は、縫合用糸による縫合によって防水膜28の開口部周縁に結合される。実施例1においては、防水膜28を浮力材30の最上部に縫合する。その結果、浸水時に、水99の水面より高い位置に防水膜28の開口部周縁が位置する。よって、浸水時に、防水膜28の周縁端部からの水99の侵入が防止される。なお、実施例1においては、防水膜28と浮力材30との固定は縫合によって行ったが、接着剤を用いて結合するとしてもよい。
【0027】
以上説明したように、実施例1における浸水防止装置20は、浮力材30に作用する浮力とは別に、弾性体32の弾性力によって防水膜28を上昇させる。従って、浸水防止装置20は、浮力材30の浮力のみで防水膜28を上昇させる場合と比較して、速やかに防水膜28を上昇させることができる。また、弾性体32の弾性力によって防水膜28を上昇させることで、防水膜28がATM10の本体や周辺部材等に引っ掛かって上昇が阻害される可能性を抑制することができる。
【0028】
浸水防止装置20は、蓋部36を有する。通常時において、蓋部36は溝部26を閉塞するので、ATM10の利用者が溝部26に足を引っ掛けることを回避し、安全を確保することができる。浸水時においては、弾性体32の弾性力によって押し開かれた蓋部36は、ATM10と筐体22との隙間を塞ぐ。従って、蓋部36は、上昇する浮力材30および防水膜28がATM10と筐体22との隙間に引っ掛かる可能性を低減することができ、浮力材30および防水膜28をスムーズに上昇させる。
【0029】
浸水防止装置20は、浸水時にロックを解除するロック機構50を備える。ロック機構50は、通常状態においては蓋部36をロックして開かないようにしているので、利用者やメンテナンスを行う作業員が誤ってロックを解除してしまうという誤操作を回避することができる。また、ロック機構50は浸水時に速やかにロックを解除するので、迅速に浮力材30および防水膜28を上昇させ、ATM10が浸水することを防止することができる。
【0030】
浸水防止装置20は、弾性体32によって、浮力材30および防水膜28を上昇させる。従って、ガス圧や空気圧を利用したダンパ等を用いる場合と比較して、比較的簡易な構造によって浮力材30および防水膜28を上昇させることができる。
【0031】
浸水防止装置20は、筐体22として構成されているので、ATM10を設置する地盤に直接的に溝部やロック機構を構成する場合と比較して、容易に設置することができる。浸水防止装置20を備えるATM10は、浸水時に、スムーズに上昇した浮力材30および防水膜28によって、速やかに浸水を防止することができる。
【0032】
本実例においては、自動取引装置に浸水防止装置20を設置している。従って、自動取引装置に格納されている貨幣等を浸水から保護することができる。
【0033】
特許請求の範囲との対応関係としては、板状部材34および弾性体32が特許請求の範囲に記載の上昇機構に対応し、溝部26が特許請求の範囲に記載の収容部に対応する。
【実施例4】
【0041】
本発明の実施例4について説明する。
図10は、実施例4における浮力材90および蓋部96について説明する説明図である。実施例1と実施例4との異なる点は、溝部26を閉塞する蓋部96、および、防水膜28を浮上させる浮力材90の構成である。本説明においては、ロック機構80については、実施例1におけるロック機構50、または、実施例2におけるロック機構60、または、実施例3におけるロック機構70のいずれかを採用する。
【0042】
実施例1における蓋部36および浮力材30と異なり、蓋部96および浮力材90は接合されている。また、実施例4における浸水防止装置20は、ヒンジ38(
図3参照)を備えない。蓋部96はロック機構80によって溝部26に固定されている。
【0043】
図11は、浸水時における浸水防止装置20の状態を説明する説明図である。浸水時に孔部24から水99が侵入し、水面の高さが所定以上まで到達すると、ロック機構80が蓋部96のロックを解除する。ロックが解除されると、蓋部96および浮力材90は接合状態を維持したまま上昇する。浮力材90の上昇に伴い、浮力材90に固定されている防水膜28も上昇する。上昇した防水膜28は袋状の形状を形成し、ATM10を下から上に覆う。防水膜28は、ATM10を覆うことによって、水99がATM10まで到達することを防止する。浸水によって水99の水面が上昇した場合、浮力材90が浮力によって防水膜28を上昇させる。防水膜28は、水99の水面より高い位置でATM10を覆い、水99がATM10に侵入するのを防止する。
【0044】
以上説明したように、実施例4における浸水防止装置20は、蓋部96と筺体22とを固定するためのヒンジを必要とせず、構造を簡易化することができる。また、浸水防止装置20の製造時において、蓋部96と筐体22とを接合する作業を回避することができる。