【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22〜24年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「太陽エネルギー技術研究開発/太陽光発電システム次世代高性能技術の開発/光電荷分離ゲルによる屋内用有機太陽電池の研究開発」事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第一電極と、前記第一電極に対向配置された第二電極と、前記第一電極の前記第二電極と対向する面に設けられた電子輸送層と、前記電子輸送層上に担持された光増感剤と、前記第一電極と前記第二電極の間に介在する正孔輸送層とを備えた光電気素子の製造方法において、前記電子輸送層を形成した第一電極を前躯体を含む液体に浸漬させる工程と、前記前駆体の還元電位より卑である電圧を前記第一電極に印加して前記第一電極の表面に有機分子を膜として析出させる工程とを備えることによって、前記電子輸送層内に前記有機分子を目止め部として内在させることを特徴とする光電気素子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、最初に、本発明に至るまでの経緯を説明し、その後に本発明の実施形態について説明する。
【0021】
図4に本発明に至るまでの光電気素子(色素増感型太陽電池等)の一例を示す。この光電気素子Aでは、第一電極2と第二電極3とが所定の間隙を介して対向配置されている。第一電極2と第二電極3の間隙は封止部9で囲まれて密封されており、この密封された間隙に正孔輸送層4として電解液が充填されている。また、第一電極2の第二電極3側の面には電子輸送層1が形成されている。さらに、電子輸送層1の第二電極3側の面には光増感剤5として色素が層状に形成されている。
【0022】
上記の電子輸送層1には厚み方向に貫通する孔状もしくはスリット状の空隙部10が発生している。この空隙部10が発生する主な理由は、電子輸送層1が電子輸送材を含む溶液を塗布・乾燥する工程で作製する状況であるので、電子輸送層1の全体にわたり均質な構造とすることが難しいためである考えられる。また、空隙部10には光増感剤5の一部が進入して形成されるが、空隙部10が光増感剤5で完全に埋まることはない。従って、正孔輸送層4の電解液が空隙部10に充填され、第一電極2と正孔輸送層4とが直接接触することになる。
【0023】
このような光電気素子Aにおいては、正孔輸送層4中のメディエータの反応は、Mox+e⇔Mredで表される。ここで、「Mox」は酸化体、「e」は電子、「Mred」は還元体、「⇔」は酸化還元反応を示す。そして、光電気素子Aにおいては、
図5に示すように、MredがMoxに還元されると共にこの還元により放出されたe(電子)が光増感剤5及び電子輸送層1を通じて第一電極2に導入された後、第二電極3側に流れることが望ましい反応である。
【0024】
しかし、上記のように電子輸送層1には空隙部10が形成されているため、第一電極2に導入された電子が空隙部10に充填された正孔輸送層4へと直接放出され、この電子が正孔輸送層4中のMoxをMredへと酸化するのに消費されることがあった。すなわち、空隙部10がメディエータ拡散経路となって電子が消費されるという望ましくない反応が生じるために、光電気素子Aの変換効率が向上し難いという問題があった。
【0025】
そこで、発明者らは、従来技術での問題点と、発明者らの研究成果から得られた上記問題点の両方を解決するにあたり、本発明に到った。
【0026】
以下、本発明の実施形態を
図1乃至
図3を基にして説明する。
【0027】
図2は本発明の光電気素子Aの一例を示すものである。この光電気素子Aは、一対の基板6,7が対向して配置して具備されており、一方の基板6の内側の表面に第一電極2が、他方の基板7の内側の表面に第二電極3が相対向させて設けられている。
【0028】
言い換えると、本発明の光電気素子Aは、第1基板6及び第2基板7を有する。また、第1基板6及び第2基板7は一対の基板6、7として設けられている。この場合、第1基板6は第1面601及び第2面602を備え、第2基板7は第1面701及び第2面702を備えている。これにより、第1基板6の第1面601と第2基板7の第2面702とが対向するように第1基板6及び第2基板7が設けられる。従って、第1基板6及び第2基板7は一対として形成される。
【0029】
また、第1基板6の第1面601側には第一電極2が設けられ、第2基板7の第2面702側には第二電極3が設けられている。
【0030】
この場合、第一電極2は第1面201及び第2面202を有し、第二電極3は第1面301及び第2面302を有している。これにより、第一電極2の第1面201と第二電極3の第2面とが対向するように第一電極2及び第二電極3が相対向させて設けられている。
【0031】
また、第1基板6の第1面601と第一電極2の第2面202とは当接してもよく、若しくは、上記第1面601と上記第2面202との間に固定剤(図示せず)を付与し、第1基板6と第一電極2とが固定されるように構成されていてもよい。
【0032】
このような固定剤としては、例えば、液状又は固形の接着剤、絶縁剤、係り止め材等が挙げられる。更に、固定剤は透光性を有する材料からなることが好ましい。ここで、固定剤を用いる場合は、固定剤が硬化する前に貼り合せて第1基板6及び第一電極2を固定してもよく、上記第1面601と上記第2面202との間に固定剤を設けた後に熱圧処理を施すことにより第1基板6及び第一電極2を固定してもよい。この場合、固定剤は第一電極2よりも高い光透過率を有することが好ましい。これにより光電気素子Aが第一電極2の第2面側から光が入射されるように形成されても、固定剤による光の吸収をできる限り抑えることができる。
【0033】
第一電極2の基板6側と反対側の表面702には半導体等からなる電子輸送層1が設けられており、また、基板6,7の間には正孔輸送層(電荷輸送層)4が設けられている。
【0034】
言い換えると、第一電極2の第1面201には、電子輸送層1が設けられている。この電子輸送層1は、例えば、半導体から形成される。また、第1基板6及び第2基板7の間には正孔輸送層(電荷輸送層)4が設けられている。このような正孔輸送層4は、半導体等から形成することができる。
【0035】
図1は本発明の光電気素子Aの一例の詳細を示すものである。第一電極2と第二電極3とが所定の間隙を介して対向配置されている。第一電極2と第二電極3の間隙は封止部9で囲まれて密封されており、この密封された間隙に正孔輸送層4が充填されて封入されている。また、第一電極2の第二電極3側の面には、目止め部8を内在する電子輸送層1が形成されている。さらに、電子輸送層1の第二電極3側の表面(目止め部8の第二電極3側の表面も含む)には光増感剤5が層状に形成されて担持されている。
【0036】
言い換えると、
図1で例示される本発明の光電気素子Aは、第一電極2と第二電極3とを有し、第一電極2の第1面201と第二電極3の第2面302との間に所定間隔を設けるように第一電極2及び第二電極3が対向配置されている。また、第一電極2の第1面201と第二電極3の第2面302との間の間隙(所定間隔)が封止部9で囲まれて密封されている。この密封された間隙に正孔輸送層4が充填されて封入されている。
【0037】
また、第一電極2の第1面201には電子輸送層1が設けられ、この電子輸送層1は目止め部8を内在するように形成されている。
【0038】
この場合、電子輸送層1は、当該電子輸送層1の厚み方向に貫通する空隙部10を有し、上記目止め部8は、空隙部10に配置されていることが好ましい。
【0039】
一対の基板6,7のうち、電子輸送層1を設けた第一電極2が被着される第1基板6は、透光性のガラスやフィルム、光を透過するように加工された金属で形成することができる。例えば、上記金属が線状(ストライプ)、波線状、格子状(メッシュ状)、パンチングメタル状、粒子の集合体状であれば、隙間を光が通過でき、さらに透明導電材料を用いる必要がないため、材料コスト削減による経済的な観点から好ましい。これらの形状の基板を用いる場合は、素子の耐久性の観点からプラスチックやガラスなどの構造材料と共に適用することもできる。
【0040】
また、他方に位置する第2基板7を光入射用基板として機能させるのであれば、この基板6は光を透過しない材料を用いることができる。その場合、第1基板6は導電性を有してもよい。つまり、基板6を第一電極2として作用させるように導電性材料から形成されていることが好ましい。このような導電性材料としては、例えば、炭素、アルミニウム、チタン、鉄、ニッケル、銅、ロジウム、インジウム、スズ、亜鉛、白金、金などの材料やステンレスなどの金属から形成された線状(ストライプ)、波線状、格子状(メッシュ状)、金属箔、パンチングメタル状、粒子の集合体状の材料のうち少なくとも1種類を含む合金を用いることができる。本発明では後述するように、ラジカル化合物がハロゲンイオンなどに比べて金属を腐食しにくいために、基板6,7及び第一電極2、第二電極3には汎用の金属を用いることができる。
【0041】
また、基板7は、基板6と同じ材料で形成することができる。基板7の透光性はあってもなくてもよいが、両側の基板6,7から光を入射させることを可能にすることができる点で、透明であることが好ましい。また、上記のように基板6に金属箔を使用した場合は、基板7は透光性のある材料で形成することが好ましい。
【0042】
この場合、第2基板7の第2面702と第二電極3の第1面301とは当接してもよく、若しくは、上記第2面702と上記第1面301との間に透光性固定剤を付与し、第2基板7と第二電極3とが固定されるように構成されていてもよい。
【0043】
このような透光性固定剤としては、例えば、液状又は固形の接着剤、絶縁剤、係り止め材等が上げられる。ここで、透光性固定剤を用いる場合は、透光性固定剤が硬化する前に貼り合せて第2基板7及び第二電極3を固定してもよく、上記第2面702と上記第1面301との間に透光性固定剤を設けた後に熱圧処理を施すことにより第2基板7及び第二電極3を固定してもよい。
【0044】
第一電極2は、基板6に成膜され、光電気素子Aの負極として機能するものであり、金属そのもので形成するようにしてもよく、又は基板やフィルム上に導電材層を積層して形成するようにしてもよい。
【0045】
言い換えると、第一電極2は、第1基板6に成膜され、この第一電極2は、例えば、光電気素子Aの負極として機能するものである。また第一電極2は、金属そのもので形成するようにしてもよく、若しくは第一電極2は、基板又はフィルム基板上に導電材層を積層して形成するようにしてもよい。
【0046】
このような、好ましい導電材としては金属、例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等、又は炭素、若しくは導電性の金属酸化物、例えばインジウム−錫複合酸化物、アンチモンをドープした酸化錫、フッ素をドープした酸化錫等、あるいは上記化合物の複合物が挙げられる。
【0047】
本発明では電子移動速度が速いラジカル化合物を用いるので、第一電極2の表面201での電子の漏れを防ぐため、つまり整流性を持たせるために、上記化合物上に酸化シリコン、酸化スズ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウムなどでコートした材料を第一電極2に用いるのが好ましい。
【0048】
言い換えると、本発明の光電気素子Aは、電子移動速度が速いラジカル化合物を用いるので、第一電極2の第1面201での電子の漏れを防ぐように構成されている。この場合、第一電極2は導電材層及びコート層を備え、このコート層は、導電材層を覆うように構成されていることが好ましい。またコート層は導電材層での電子の整流性を持たせるために、酸化シリコン、酸化スズ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウムなどの材料からなることが好ましい。
【0049】
この第一電極2は、表面抵抗が低い程よいものであり、好ましい表面抵抗の範囲としては、200Ω/□以下であり、より好ましくは50Ω/□以下である。表面抵抗の下限は特に制限されないが、通常0.1Ω/□である。
【0050】
また、第一電極2は光透過率が高い程よいものであり、好ましい光透過率の範囲としては50%以上であり、より好ましくは80%以上である。さらに第一電極2の膜厚は、1〜100nmの範囲内にあることが好ましい。膜厚がこの範囲内であれば、均一な膜厚の電極膜を形成することができ、また光透過性が低下せず、十分な光を電子輸送層1に入射させることができるからである。
【0051】
更に、第二電極3は、第一電極2と同様に、表面抵抗が低い程よいものであり、好ましい表面抵抗の範囲としては、200Ω/□以下であり、より好ましくは50Ω/□以下である。表面抵抗の下限は特に制限されないが、通常0.1Ω/□である。
【0052】
また、第二電極3は光透過率が高い程よいものであり、好ましい光透過率の範囲としては50%以上であり、より好ましくは80%以上である。さらに第二電極3の膜厚は、1〜100nmの範囲内にあることが好ましい。膜厚がこの範囲内であれば、均一な膜厚の電極膜を形成することができ、また光透過性が低下せず、十分な光を正孔輸送層4に入射させることができるからである。
【0053】
透明な第一電極2を使用する場合、光は電子輸送層1が被着される側のこの第一電極2から入射させることが好ましい。
【0054】
言い換えると、本発明の光電気素子Aが透明な第一電極2を備える場合、光は電子輸送層1が被着される第一電極2の第2面202側から入射させることが好ましい。
【0055】
第二電極3は、光電気素子Aの正極として機能するものであり、上記の第一電極2と同様に形成することができる。この第二電極3は、正孔輸送層4に用いる電解質の還元体に電子を与える触媒作用を有する素材を使用することが好ましい。これにより、第二電極3は光電気素子Aの正極として効率よく作用するように構成される。
【0056】
このような素材としては、例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等の金属、又はグラファイト、カーボンナノチューブ、白金を担持したカーボン等の炭素材料、若しくはインジウム−錫複合酸化物、アンチモンをドープした酸化錫、フッ素をドープした酸化錫等の導電性の金属酸化物、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子などを挙げることができる。これらのうち、白金やグラファイト、ポリエチレンジオキシチオフェンなどが特に好ましい。
【0057】
第二電極3が設けられる側の基板7は、第二電極3の被着面側に透明導電膜(図示しない)を有することもできる。
【0058】
言い換えると、第2基板7は、第二電極3の被着面(第二電極3の第1面301)側に透明導電膜を有することもできる。この場合、第2基板7は、第二電極3の第1面301側に位置し、第2基板7の第2面702と第二電極3の第1面301との間に上記透明導電膜を設けられることとなる。
【0059】
このような透明導電膜は、例えば第一電極2の材料としてあげたものから成膜することができる。
【0060】
つまり、透明導電膜は、基板又はフィルム基板上に積層して形成するようにして成膜することができる。この透明導電膜は透明導電性材料を備える。更に透明導電性材料として、例えば、インジウム−錫複合酸化物、アンチモンをドープした酸化錫、フッ素をドープした酸化錫等の導電性の金属酸化物、或いはこれらの複合物が挙げられる。
【0061】
この場合、第二電極3も透明であることが好ましく、第二電極3も透明であれば、第二電極3の第1面301側から、あるいは第一電極2の第2面202と第二電極3の第1面301との両側から光を照射させるようにしてもよい。
【0062】
これは、例えば反射光などの影響により基板6,7の両側からの光照射が期待される場合に有効だからである。尚、第一電極2を備えた基板6及び第二電極3を備えた基板7を透明導電基板として形成することができる。
【0063】
電子輸送層1としては、Cd、Zn、In、Pb、Mo、W、Sb、Bi、Cu、Hg、Ti、Ag、Mn、Fe、V、Sn、Zr、Sr、Ga、Si、Crなどの金属元素の酸化物、SrTiO
3、CaTiO
3などのペロブスカイト、CdS、ZnS、In
2S
3、PbS、Mo
2S、WS
2、Sb
2S
3、Bi
2S
3、ZnCdS
2、Cu
2Sなどの硫化物、CdSe、In
2Se
3、WSe
2、HgS、PbSe、CdTeなどの金属カルコゲナイド、その他GaAs、Si、Se、Cd
2P
3、Zn
2P
3、InP、AgBr、PbI
2、HgI
2、BiI
3などを用いることができる。また、これらの半導体材料から選ばれる少なくとも一種以上を含む複合体、例えば、CdS/TiO
2、CdS/AgI、Ag
2S/AgI、CdS/ZnO、CdS/HgS、CdS/PbS、ZnO/ZnS、ZnO/ZnSe、CdS/HgS、CdS
x/CdSe
1−x、CdS
x/Te
1−x、CdSe
x/Te
1−x、ZnS/CdSe、ZnSe/CdSe、CdS/ZnS、TiO
2/Cd
3P
2、CdS/CdSeCd
yZn
1−yS、CdS/HgS/CdSなどを用いることができる。また、ポリフェニレンビニレンやポリチオフェンやポリアセチレン、テトラセン、ペンタセン、フタロシアニンなどの有機半導体を用いることもできる。
【0064】
また、さらに、電子輸送層1は、その分子内の一部として繰り返し酸化還元が可能な酸化還元部を有すると共に、他の一部として電解質溶液を含んで膨潤してゲルとなる部位を有する有機化合物でもよい。
【0065】
言い換えると、上記有機半導体は有機化合物からなり、電子輸送層1は、この有機化合物を含むことにより構成されてもよい。この場合、上記有機化合物は、その分子内に繰り返し酸化還元が可能な酸化還元部及び電解質溶液を含んで膨潤するゲル部位を有するように形成されている。
【0066】
ここで、前記電子輸送層1に用いられる有機化合物について詳しく説明する。この有機化合物は、その分子内の一部として繰り返し酸化還元が可能な酸化還元部を有すると共に、他の一部として電解質溶液を含んで膨潤してゲルとなる部位(以下ゲル部位と呼ぶ)を有する。酸化還元部はゲル部位に化学的に結合している。分子内での酸化還元部とゲル部位の位置関係は、特に限定されないが、例えばゲル部位で分子の主鎖などの骨格が形成される場合に、酸化還元部は側鎖として主鎖に結合している。またゲル部位を形成する分子骨格と酸化還元部を形成する分子骨格が交互に結合した構造であってもよい。
【0067】
ここで、酸化還元(酸化還元反応)とは、イオンや原子や化合物が電子を授受することであり、酸化還元部とは、酸化還元反応(レドックス反応)により安定的に電子を授受することができる部位をいうものである。
【0068】
また、有機化合物は酸化還元部を有しており、電解質溶液によって膨潤された状態で電子輸送層1を形成している。すなわちゲル状態では有機化合物は立体網目構造をとり、この網目空間内を液体が満たしている。
【0069】
酸化還元部とゲル部位を有する有機化合物は、低分子体でもよいし、高分子体でもよい。低分子体である場合、水素結合などを介したいわゆる低分子ゲルを形成する有機化合物を使用することができる。また高分子体の場合は数平均分子量1000以上の有機化合物であれば、自発的にゲル化の機能を発現することができるために好ましい。高分子体の場合の有機化合物の分子量の上限は特に制限されないが、100万以下であることが好ましい。また、ゲルの状態は、例えば、こんにゃく状や、イオン交換膜のような外観形状であることが好ましいが、特に制限されるものではない。
【0070】
また、「繰り返し酸化還元が可能な酸化還元部」とは、酸化還元反応において可逆的に酸化体および還元体となる部位を指す。この酸化還元部は酸化体と還元体が同一電荷を持つ酸化還元系構成物質であることが好ましい。
【0071】
上記のような酸化還元部とゲル部位とを一つの分子中に有する有機化合物は、次の一般式で表すことができる。
【0072】
(X
i)
nj:Y
k
(X
i)
nおよび(X
i)
njはゲル部位を示し、X
iはゲル部位を形成する化合物のモノマーを示すものであり、ポリマー骨格で形成することができる。モノマーの重合度nは、n=1〜10万の範囲が好ましい。YはXに結合している酸化還元部を示すものである。またj,kはそれぞれ1分子中に含まれる(X
i)
n、Yの数を表す任意の整数であり、いずれも1〜10万の範囲が好ましい。酸化還元部Yはゲル部位(X
i)
nおよび(X
i)
njをなすポリマー骨格のいかなる部位に結合していてもよい。また、酸化還元部Yは種類の異なる材料を含んでいてもよく、この場合は電子交換反応の観点から酸化還元電位が近い材料が好ましい。
【0073】
酸化還元部とゲル部位を一分子中に有し、電子輸送層1として機能する有機化合物としては、キノン類が化学結合したキノン誘導体骨格を有するポリマー、イミドを含有するイミド誘導体骨格を有するポリマー、フェノキシルを含有するフェノキシル誘導体骨格を有するポリマー、ビオロゲンを含有するビオロゲン誘導体骨格を有するポリマーなどが挙げられる。これらの有機化合物では、それぞれポリマー骨格がゲル部位となり、キノン誘導体骨格、イミド誘導体骨格、フェノキシル誘導体骨格、ビオロゲン誘導体骨格がそれぞれ酸化還元部となる。
【0074】
上記の有機化合物のうち、キノン類が化学結合したキノン誘導体骨格を有するポリマーの例として、下記[化5]〜[化8]の化学構造を有するものが挙げられる。
【0075】
[化5]〜[化8]において、Rはメチレン、エチレン、プロパン−1,3−ジエニル、エチリデン、プロパン−2,2−ジイル、アルカンジイル、ベンジリデン、プロピレン、ビニリデン、プロペン−1,3−ジイル、ブト−1−エン−1,4−ジイルなどの飽和又は不飽和炭化水素類;シクロヘキサンジイル、シクロヘキセンジイル、シクロヘキサジエンジイル、フェニレン、ナフタレン、ビフェニレンなど環状炭化水素類;オキサリル、マロニル、サクシニル、グルタニル、アジポイル、アルカンジオイル、セバコイル、フマロイル、マレオイル、フタロイル、イソフタロイル、テレフタロイルなどケト、二価アシル基;オキシ、オキシメチレノキシ、オキシカルボニルなどエーテル、エステル類;サルファンジイル、サルファニル、サルホニルなど硫黄を含む基;イミノ、ニトリロ、ヒドラゾ、アゾ、アジノ、ジアゾアミノ、ウリレン、アミドなど窒素を含む基;シランジイル、ジシラン−1,2−ジイルなど珪素を含む基;またはこれらの基の末端を置換した基或いは複合した基を示す。
【0076】
[化5]はポリマー主鎖にアントラキノンが化学結合して構成される有機化合物の例である。[化6]はアントラキノンが繰り返しユニットとしてポリマー主鎖に組み込まれて構成される有機化合物の例である。また[化7]はアントラキノンが架橋ユニットとなっている有機化合物の例である。さらに[化8]は酸素原子と分子内水素結合を形成するプロトン供与性基を有するアントラキノンの例を示すものである。
【0081】
また酸化還元部Yがイミドを含有するイミド誘導体骨格を有するポリマーとして、[化9]や[化10]に示すポリイミドを用いることができる。ここで、[化9]や[化10]において、R
1〜R
3はフェニレン基などの芳香族基、アルキレン基、アルキルエーテルなど脂肪族鎖、エーテル基である。ポリイミドポリマー骨格はR
1〜R
3の部分で架橋していてもよく、また、用いた溶媒中で膨潤するのみで溶出しなければ架橋構造を有さなくてもよい。架橋した場合はその部分がゲル部位(X
i)
nおよび(X
i)
njに相当する。また架橋構造を導入する場合、架橋ユニットにイミド基が含有されていてもよい。イミド基は、電気化学的に可逆な酸化還元特性を示すのであれば、フタルイミドやピロメリットイミドなどが好適である。
【0084】
また、フェノキシルを含有するフェノキシル誘導体骨格を有するポリマーとして、例えば[化11]に示すようなガルビ化合物(ガルビポリマー)が挙げられる。このガルビ化合物において、ガルビノキシル基([化12]参照)が酸化還元部位Yに相当し、ポリマー骨格がゲル部位(X
i)
nおよび(X
i)
njに相当する。
【0087】
また、ビオロゲンを含有するビオロゲン誘導体骨格を有するポリマーとして、例えば、[化13]や[化14]に示すようなポリビオロゲンポリマーを挙げることができる。このポリビオロゲンポリマーにおいては、[化15]に示す部分が酸化還元部Yに相当し、ポリマー骨格がゲル部位(X
i)
nおよび(X
i)
njに相当する。
【0091】
なお、[化5]〜[化7]、[化9]〜[化11]、[化13]及び[化14]で示すm、nは、モノマーの重合度を示すものであり、1〜10万の範囲が好ましい。
【0092】
前述したように、上記の酸化還元部とポリマー骨格を有する有機化合物は、ポリマー骨格がその骨格間に電解質溶液を含有して膨潤し、これにより電子輸送層1がゲル化してゲル層となる。このようにポリマー骨格間に電解質溶液が含まれることで、酸化還元部の酸化還元反応により形成されるイオン状態が電解質溶液中の対イオンで補償され、酸化還元部を安定化させることができるものである。前記電解質溶液としては、例えば後述する正孔輸送層4を形成する電解質溶液が挙げられる。
【0093】
以上のような電子輸送層1の中でも、TiO
2及び上記酸化還元部とゲル部位を一分子中に有する有機化合物が、正孔輸送層4を形成する電解質溶液中への光溶解の回避と、高い光電変換特性を得ることができる点で好ましい。
【0094】
第一電極2の表面201に形成される電子輸送層1の厚みは、0.01〜100μmの範囲内であることが好ましい。この範囲内であれば、十分な光電変換効果が得られ、また、可視光及び近赤外光に対する透過性が悪化することもないからである。電子輸送層1の厚みのより好ましい範囲は0.5〜50μmであり、特に好ましい範囲は1〜20μmである。
【0095】
電子輸送層1が無機化合物である場合、電子輸送層1の層は半導体とバインダーの混合溶液を、公知慣用の方法、例えば、ドクターブレードやバーコータなどを使う塗布方法、スプレー法、ディップコーティング法、スクリーン印刷法、スピンコート法などにより第一電極2の表面に塗布し、その後、加熱焼成やプレス機での加圧などによりバインダー成分を除去することによって形成することができる。
【0096】
また、電子輸送層1が無機化合物である場合、電子輸送層1の層の表面粗さは、実効面積/投影面積において10以上であることが好ましい。表面粗さを10以上にすることにより、電荷分離界面の表面積を上げることができるために、光電変換特性を向上させることができるものである。より好ましい表面粗さは100〜2000である。
【0097】
また、電子輸送層1が有機化合物である場合、電子輸送層1を形成するにあたっては、溶液などを塗布して形成する湿式の形成方法が、より簡便で低コストな製法であることから好ましい。特に電子輸送層1を数平均分子量1000以上のいわゆる高分子の有機化合物で形成する場合は、成形性の観点から湿式の形成方法が好ましい。湿式のプロセスとしては、スピンコート法や液滴を滴下乾燥して得られるドロップキャスト法、スクリーン印刷やグラビア印刷などの印刷法などが挙げられる。そのほか、スパッタ法や蒸着法などの真空プロセスを採用することもできる。
【0098】
上記のようにして形成される電子輸送層1においては、上記のような空隙部10が形成されることがある。従って、本実施形態では、この空隙部10を塞いで閉塞するための目止め部8が形成されている。目止め部8は有機分子が空隙部10に充填されて電子輸送層1に内在されている。
【0099】
目止め部8を形成する有機分子は、上記構造式[化1]に示す部位を1分子内に2つ以上存在する前駆体を電解重合して得られる分子(化合物)を含むことが好ましい。これにより、第一電極2と正孔輸送層4のメディエータとの接触が抑制され、開放電圧の向上、さらには変換効率の向上が図れる。
【0100】
このようにして得られる有機化合物は、酸化還元部として、下記構造式[化16]に示すビピリジニウム構造単位を有する。
【0101】
このビピリジニウム構造単位は、電解重合により、前駆体の構造式[化1]に示す構造を有する部位からXで示される置換基が脱離すると共にこの部位におけるXで示される置換基が脱離した位置同士が結合することで生成する。
【0102】
このピリジウム構造が単位1電子還元されるとピリジウムカチオンラジカルが生成し、更に1電子還元されるとピリジウムジラジカルが生成する。逆に、ピリジウムジラジカルが1電子酸化されるとピリジウムカチオンラジカルが生成し、更に1電子酸化されると元のピリジウム構造単位に戻る。
【0103】
このように有機化合物は繰り返し安定した酸化還元能を発現する。また、有機化合物が酸化還元時にラジカル状態を経ることによって、非常に速い自己電子交換反応が生じ、有機化合物間で電子が授受されやすくなる。有機化合物の酸化還元時のラジカル状態は例えばESR(電子スピン共鳴)などにより観測される。
【0105】
また、上記構造式[化16]に示す部位の対アニオンA
−としては、例えば、臭素イオン、塩素イオン、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、及びテトラフルオロホウ酸イオンの群れから選ばれる少なくとも一つのアニオンが挙げられる。これにより、第一電極2と正孔輸送層4のメディエータとの接触が抑制され、開放電圧の向上、さらには変換効率の向上が効率的に図れる。
【0106】
より具体的には、目止め部8を形成する有機分子の前駆体としては、前記構造式[化1]に示す部位が2つ存在するものを含み、この前駆体より有機分子が直鎖状ポリマーで形成されることが好ましい。これにより、空隙部10の孔径が小さい部分に対しても効果的にポリマーによる目止めが実施でき、開放電圧の向上、さらには変換効率の向上が効率的に図れる。
【0107】
前駆体が、構造式[化1]に示す構造を有する部位を1分子中に2つ有する化合物のみである場合には、有機分子は直鎖状の分子となる。例えば、前駆体が下記構造式[化17]に示す化合物である場合には、有機化合物は前記構造式[化2]に示す直鎖状の分子となり、前駆体が、下記構造式[化18]に示す化合物である場合には、有機分子は前記構造式[化3]に示す直鎖状の分子となる。
【0110】
そして、より好ましい直鎖状ポリマーの有機分子としては、上記[化2]又は[化3]を繰り返し単位とするものである。これにより、電子輸送層1の空隙部10に有機化合物からなるポリマーが目止め部8として効果的に形成される。従って、第一電極2と正孔輸送層4のメディエータとの接触が抑制され、開放電圧の向上、さらには変換効率の向上が効率的に図れる。
【0111】
また、目止め部8を形成する有機分子の前駆体としては、前記構造式[化1]に示す部位が3つ以上存在するものを含み、この前駆体より有機分子が三次元的な架橋型ポリマーで形成されることが好ましい。これにより、電子輸送層1の空隙部10に有機化合物からなるポリマーが目止め部8として効果的に形成される。従って、第一電極2と正孔輸送層4のメディエータとの接触が抑制され、開放電圧の向上、さらには変換効率の向上が効率的に図れる。
【0112】
前駆体の少なくとも一部が構造式[化1]に示す構造を有する部位を1分子中に3以上有する化合物である場合には、有機分子は架橋型ポリマーとなる。例えば、前駆体が、下記構造式[化19]に示す化合物である場合には、有機分子は前記構造式[化4]に示すような分子となる。
【0114】
そして、より好ましい架橋型ポリマーの有機分子としては、上記[化4]を繰り返し単位とするものである。これにより、電子輸送層1の空隙部10に有機化合物からなるポリマーが目止め部8として効果的に形成される。従って、第一電極2と正孔輸送層4のメディエータとの接触が抑制され、開放電圧の向上、さらには変換効率の向上が効率的に図れる。
【0115】
電解重合法による有機化合物の重合にあたっては、例えば、前駆体を含有する液体(溶液)に、電子輸送層1が形成された第一電極2とカウンター電極とを浸漬する。この状態で第一電極2とカウンター電極との間に電圧が印加すると、電気化学的反応により前駆体が第一電極2の第1面201側で重合する。これにより重合した有機化合物が析出する。この場合、前駆体の還元電位より卑である電圧を第一電極2に印加して第一電極2の表面201側に重合した有機化合物を膜として析出させることができる。
【0116】
この電解重合法では、CVD(Chemical Vapor Deposition)の場合のような高度な設備や技術は必要とされず、それでいて有機化合物が析出する速度が速く、しかも析出した有機分子は第一電極2から剥離しにくくなり、更に有機分子の緻密化及び薄膜化が容易となる。
【0117】
このように電子輸送層1内の空隙部10に目止め部8が形成されると、有機分子が緻密化して酸化還元部位が密に配置される。このため電子輸送層1が高い電子輸送性を発揮する。
【0118】
また、電子輸送層1を構成する有機化合物が三次元的に広がることによってこの有機化合物の安定性が高くなる。更にこの有機化合物の溶媒への溶解性が低減し、電解質溶液の溶媒の選択の幅が広がる。また、電解重合によって生成する有機化合物は高分子量化するため、前駆体の電解重合により形成される目止め部8は高い耐久性を発揮する。
【0119】
目止め部8の厚みは、電子輸送層1の厚みと同等か、電子輸送層1の厚みよりも若干薄くするのが好ましい。これにより、空隙部10の閉塞効果(目止め効果)が充分に得られ、また、可視光及び近赤外光に対する透過性が悪化することもないからである。
【0120】
以上のようにして形成される電子輸送層1の表面101(目止め部8の表面801も含む)上には、光増感剤5が担持される。これにより、光増感剤5で光電荷分離の界面を形成することができるため、光電変換効率を向上させることができるものである。
【0121】
このような光増感剤5としては、公知な材料を用いることができるものであり、半導体超微粒子などの無機材料でも、色素、顔料などの有機材料でもよい。
【0122】
本発明における光増感剤5は、効率よく光を吸収し、電荷を分離する色素であることが好ましい。このような色素としては、例えば、9−フェニルキサンテン系色素、クマリン系色素、アクリジン系色素、トリフェニルメタン系色素、テトラフェニルメタン系色素、キノン系色素、アゾ系色素、インジゴ系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、キサンテン系色素などが挙げられる。または、RuL
2(H
2O)
2タイプのルテニウム−シス−ジアクア−ビピリジル錯体(ここで、Lは4,4’−ジカルボキシル−2,2’−ビピリジンを示す。)、または、ルテニウム−トリス(RuL
3)、ルテニウム−ビス(RuL
2)、オスニウム−トリス(OsL
3)、オスニウム−ビス(OsL
2)などのタイプの遷移金属錯体、または亜鉛−テトラ(4−カルボキシフェニル)ポルフィリン、鉄−ヘキサシアニド錯体、フタロシアニンなどが挙げられる。
【0123】
その他、例えば、「FPD・DSSC・光メモリーと機能性色素の最新技術と材料開発」((株)エヌ・ティー・エス)のDSSCの章にあるような色素も適用することができる。
【0124】
中でも電子輸送層1上で会合性を有する色素は、密に充填して電子輸送層1の表面101を覆うように構成されていることが好ましい。これは、電子輸送層1と正孔輸送層4との絶縁体層として機能するという観点に基づく。
【0125】
光増感剤5が絶縁体層として機能する場合、電荷分離界面において発生電子の整流性を付与することができ、電荷分離後の電荷の再結合を抑制することができる。また、電子輸送材料と正孔輸送材料に存在する電子と正孔の再結合点を劇的に減らすことができるものであり、それにより得られる光電気素子の変換効率をより向上させることができるものである。
【0126】
会合体を形成して効果のある色素としては、[化20]の構造で示されるものが好ましく、具体的には、[化21]の構造で示される色素が好ましい。なお、有機溶剤などに溶けている色素と電子輸送層1上に担持された色素の吸収スペクトルの形状から会合性の判別は可能である。会合していれば、前者と後者でスペクトルの形状が大きく異なることが知られている。
【0128】
(但し、X
1、X
2はアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環を少なくとも一種類以上を含み、それぞれ置換基を有していてもよい。X
2に半導体と吸着する部位、例えば、カルボキシル基、スルホニル基、ホスホニル基を有する。)
【0130】
また、上記光増感剤5に用いることができる半導体超微粒子としては、硫化カドミウム、硫化鉛、硫化銀などの硫化物半導体などを挙げることができる。また、上記半導体超微粒子の粒子径としては、本発明の電子輸送層1層に対して光増感作用があれば特に制限はないが、1〜10nmの範囲が好ましい。
【0131】
目止め部8を内在する電子輸送層1に光増感剤5を担持させる方法は、例えば、光増感剤5を溶解あるいは分散させた溶液に、電子輸送層1を被着させた第一電極2を備えた基板6を浸漬させる方法が挙げられる。この溶液の溶媒としては、水、アルコール、トルエン、ジメチルホルムアミドなど光増感剤5を溶解可能なものであれば全て使用できる。また、光増感剤溶液に一定時間浸漬させている時に、加熱還流をしたり、超音波を印加したりすることもできる。さらに光増感剤5を担持させた後、担持されずに残ってしまった光増感剤5を取り除くために、アルコールで洗浄あるいは加熱還流することが望ましい。
【0132】
光増感剤5の電子輸送層1における担持量は、1×10
−10〜1×10
−4mol/cm
2の範囲内であればよく、特に0.1×10
−8〜9.0×10
−6mol/cm
2の範囲が好ましい。この範囲内であれば、経済的且つ十分に光電変換効率向上の効果を得ることができるからである。
【0133】
正孔輸送層4には電解質を用いることができる。正孔輸送層4に電解質を用いる場合、この電解質は支持塩と、酸化体と還元体からなる一対の酸化還元系構成物質の、いずれか一方あるいは両方である。
【0134】
支持塩(支持電解質)としては、例えば過塩素酸テトラブチルアンモニウム、六フッ化リン酸テトラエチルアンモニウムなどのアンモニウム塩、イミダゾリウム塩やピリジニウム塩、過塩素酸リチウムや四フッ化ホウ素カリウムなどアルカリ金属塩などが挙げられる。
【0135】
酸化還元系構成物質とは、酸化還元反応において可逆的に酸化体および還元体の形で存在する一対の物質を意味するものである。
【0136】
このような酸化還元系構成物質としては、例えば、塩素化合物−塩素、ヨウ素化合物−ヨウ素、臭素化合物−臭素、タリウムイオン(III)−タリウムイオン(I)、水銀イオン(II)−水銀イオン(I)、ルテニウムイオン(III)−ルテニウムイオン(II)、銅イオン(II)−銅イオン(I)、鉄イオン(III)−鉄イオン(II)、ニッケルイオン(II)−ニッケルイオン(III)、バナジウムイオン(III)−バナジウムイオン(II)、マンガン酸イオン−過マンガン酸イオンなどが挙げられるが、これらに限定はされない。この場合、電子輸送層1を形成する有機化合物の酸化還元部とは区別されて機能する。また、電解質溶液がゲル化または固定化されていてもよい。
【0137】
正孔輸送層4に用いられる電解質を溶解するために使用される溶媒は、酸化還元系構成物質を溶解してイオン伝導性に優れた化合物が好ましい。溶媒としては水性溶媒及び有機溶媒のいずれも使用できるが、構成物質をより安定化するため、有機溶媒が好ましい。
【0138】
このような有機溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、γ−ブチロラクトン等のエステル化合物、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジオキソシラン、テトラヒドロフラン、2−メチル−テトラヒドロフラン等のエーテル化合物、3−メチル−2−オキサゾジリノン、2−メチルピロリドン等の複素環化合物、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル化合物、スルフォラン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性化合物などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いることもでき、また、2種類以上を混合して併用することもできる。
【0139】
中でも、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネ−ト化合物、γ―ブチロラクトン、3−メチル−2−オキサゾジリノン、2−メチルピロリドン等の複素環化合物、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、吉草酸ニトリル等のニトリル化合物が好ましい。
【0140】
また、正孔輸送層4にイオン性液体を用いることも、不揮発性,難燃性などの観点から有効といえる。
【0141】
その場合、公知公例のイオン性液体全般を用いることができるが、例えばイミダゾリウム系、ピリジン系、脂環式アミン系、脂肪族アミン系、アゾニウムアミン系イオン性液体や、欧州特許第718288号明細書、国際公開第95/18456号パンフレット、電気化学第65巻11号923頁(1997年)、J. Electrochem. Soc.143巻,10号,3099頁(1996年)、Inorg. Chem. 35巻,1168頁(1996年)に記載された構造のものが挙げられる。
【0142】
また、正孔輸送層4として、ゲル化電解質、あるいは高分子電解質を使用することもできる。
【0143】
ゲル化剤としては、ポリマー、またはポリマー架橋反応等の手法によるゲル化剤、または重合することができる多官能モノマーによるゲル化剤、オイルゲル化剤などが挙げられる。
【0144】
ゲル化電解質、又は高分子電解質には一般に用いられるものを適用することができるが、本発明における上記ゲル化電解質、又は高分子電解質は、例えば、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ化ビニリデン系重合体、ポリアクリル酸などのアクリル酸系重合体、ポリアクリロニトリルなどのアクリロニトリル系重合体およびポリエチレンオキシドなどのポリエーテル系重合体であることが好ましい。若しくは本発明における上記ゲル化電解質、又は高分子電解質は、その分子の構造中にアミド構造を有する化合物であることが好ましい。
【0145】
以上のように形成される光電気素子Aにあって、電子輸送層1に光が照射されると、電子輸送層1から電子又は正孔が生成し、この電子又は正孔が正孔輸送層4中のメディエータの酸化還元反応に関与する。ここで、メディエータとは、上記例示される酸化還元系構成物質を意味する。
【0146】
この正孔輸送層4のメディエータが電気化学的酸化反応又は還元反応を伴う酸化還元対となる。このときの電流を、第一電極2を負極、第二電極3を正極として光電気素子Aから外部に取り出すことができるものである。
【0147】
そして、上記の光電気素子Aは、目止め部8により電子輸送層1に形成される空隙部10が閉塞される。これにより空隙部10が正孔輸送層4のメディエータ拡散経路となることがない。よって、開放電圧の低下が生じにくくなって、変換効率に優れるものとなる。
【0148】
すなわち、正孔輸送層4中のメディエータの反応は、Mox+e⇔Mredで表される。ここで、「Mox」は酸化体、「e」は電子、「Mred」は還元体、「⇔」は酸化還元反応を示す。
【0149】
本発明の光電気素子Aにおいては、
図3に示すように、MredがMoxに還元されると共にこの還元により放出されたe(電子)が光増感剤5及び電子輸送層1を通じて第一電極2に導入された後、第二電極3側へと流れる。
【0150】
そして、電子輸送層1の空隙部10は目止め部8で閉塞されているため、第一電極2に導入されたe(電子)が正孔輸送層4へと空隙部10を通過するのを目止め部8で遮断することができる。これにより、第一電極2に導入されたe(電子)が目止め部8により正孔輸送層4へと直接放出されるにくくなる。
【0151】
従って、第一電極2に導入されたe(電子)が正孔輸送層4中のMoxをMredへと酸化するのに消費されることが少なくなり、変換効率に優れるものとなる。
【実施例】
【0152】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0153】
(実施例1)
・ガルビモノマーの合成
反応容器内に、4−ブロモ−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール(135.8g;0.476mol)と、アセトニトリル(270ml)とを入れ、さらに不活性雰囲気下で、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド(BSA)(106.3g;129.6ml)を加え、70℃で終夜撹拌し、完全に結晶が析出するまで反応した。析出した白色結晶を濾過し、真空乾燥した後、エタノールで再結晶して精製することによって、[化22]において符号「1」で示す、(4−ブロモ−2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)トリメチルシラン(150.0g;0.420mol)の白色板状結晶を得た。
【0154】
次に、反応容器内で前記(4−ブロモ−2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)トリメチルシラン(9.83g;0.0275mol)を、不活性雰囲気下、テトラヒドロフラン(200ml)に溶解し、調製された溶液をドライアイス/メタノールを用いて−78℃に冷却した。この反応容器内の溶液に1.58Mのn−ブチルリチウム/ヘキサン溶液(15.8ml;0.025mol)を加え、78℃の温度で30分撹拌することでリチオ化した。その後、この溶液に4−ブロモ安息香酸メチル(1.08g;0.005mol、Mw:215.0、TCI)のテトラヒドロフラン(75ml)溶液を添加した後、−78℃〜室温で終夜撹拌した。これにより溶液は黄色から薄黄色、アニオンの発生を示す濃青色へと変化した。反応後、反応容器内の溶液に飽和塩化アンモニウム水溶液を、溶液の色が完全に黄色になるまで加えた後、この溶液をエーテル/水で分液抽出することにより黄色粘稠液体状の生成物を得た。
【0155】
次に反応容器内に、前記生成物、THF(10ml)、メタノール(7.5ml)、撹拌子を入れ、溶解後、10N−HCl(1〜2ml)を反応容器内の溶液が赤橙色に変化するまで徐々に加え、30分間、室温にて撹拌した。次に溶媒除去、エーテル/水による分液抽出、溶媒除去、カラムクロマトグラフィー(ヘキサン/クロロホルム=1/1)による分画、ヘキサンによる再結晶の各操作を経て精製し、[化23]において符号「2」で示す、(p−ブロモフェニル)ヒドロガルビノキシル(2.86g;0.0049mol)の橙色結晶を得た。
【0156】
次いで、反応容器内で前記(p−ブロモフェニル)ヒドロガルビノキシル(2.50g;4.33mmol)を、不活性雰囲気下、トルエン(21.6ml;0.2M)に溶解し、この溶液に2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(4.76mg;0.0216mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.150g;0.130mmol)、トリ−n−ブチルビニルスズ(1.65g;5.20mmol,Mw:317.1,TCI)を素早く加え、100℃で17時間加熱撹拌した。
【0157】
これにより得られた反応生成物をエーテル/水で分液抽出し、溶媒除去した後、フラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/クロロホルム=1/3)にて分画し、さらにヘキサンで再結晶して精製することによって、[化23]において符号「3」で示す、p−ヒドロガルビノキシルスチレン(1.54g;2.93mmol)の橙色微結晶を得た。
【0158】
・ガルビモノマーの重合
上記ガルビモノマーの合成で得られたガルビモノマー(p−ヒドロガルビノキシルスチレン)1gと、テトラエチレングリコールジアクリレート57.7mgと、アゾビスイソブチロニトリル15.1mgを、テトラヒドロフラン2mlに溶解した後、窒素置換し、一晩還流することで、ガルビモノマーを重合させ、[化22]における符号「4」で示すガルビポリマーを得た。
【0159】
・電子輸送層の形成
第一電極が設けられた基板として、厚み0.7mm、シート抵抗100Ω/□の導電性ガラス基板を用意した。この導電性ガラス基板はガラス基板と、このガラス基板の一面に積層された、フッ素ドープされたSnO
2からなるコーティング膜とから構成され、前記ガラス基板が基板、コーティング膜が第一電極となる。
【0160】
上記ガルビポリマー([化22]の符号「4」で示す)をクロロベンゼンに1質量%の割合で溶解させた。この溶液を、前記導電性ガラス基板に設けた第一電極上に、2000rpmでスピンコートし、60℃、0.01MPa下で1時間乾燥することで、厚み30nmの電子輸送層を形成した。
【0161】
【化22】
【0162】
・電子輸送層を設けた第一電極への電解重合処理
上記[化1]で表せられる部位を有するポリビオロゲン前躯体をメンシュトキン反応により合成した。4−シアノピリジン及び1,3,5−(ブロモメチル)−メシチレンをアセトニトリルに溶解し、不活性雰囲気下で終夜還流行った。反応終了後、再結晶精製をメタノールで行い、ポリビオロゲン前駆体を得た(スキームを[化23]に示す)。次いで、得られた化合物(Z1)0.02M、ヨウ化ナトリウム0.1M水溶液中に、電子輸送層(ガルビ膜)を設けた上記第一電極(FTO電極)を浸漬し、この第一電極(FTO電極)に対し−0.75Vの定電圧印加を10秒間行った。さらに得られた膜を4−シアノ−1−メチル−ピリジニウム塩 0.02M、NaCl 0.1M水溶液中で末端修飾を行い、電子輸送層を設けた第一電極にガルビ膜を形成した。このガルビ膜が第一電極の目止め部として形成される。
【0163】
・色素担持処理
次に、このように目止め部を形成した電子輸送層に、構造式[化24]に示すD131色素のアセトニトリル飽和溶液をスピンコートで塗布することによって、光増感剤(色素)を電子輸送層の表面に付着させた。
【0164】
【化23】
【0165】
【化24】
【0166】
・第二電極の作製
一方、表面にフッ素ドープSnO
2を形成した厚み1mmの導電性ガラス基板(旭硝子製、10Ω/□)を用い、このSnO
2の表面に白金をスパッタ法により設けて第二電極とした。
【0167】
・貼り合わせ
そして、上記の第二電極を形成された部分を囲むように、熱溶融性接着剤(三井デュポンポリケミカル製「バイネル」)の封止材を導電性ガラス基板の上に配置し、その上に上記第一電極を形成したガラス基板を重ね、加熱しながら加圧して貼り合わせた。この第二電極を形成したガラス基板にはダイヤモンドドリルで孔が開けてある。
【0168】
・電解液注入
次に、水に、OH−TEMPO 0.5M、塩化カリウム 0.5mol/lをそれぞ
れ溶解した電解質溶液を調製し、この電解液をガラス基板にダイヤモンドドリルで明けた上記の孔から注入した後に、孔を紫外線硬化樹脂を用いて封止することによって、正孔輸送層を形成した。
【0169】
・光電気素子評価
実施例1で作製した光電変換素子に、蛍光灯(パナソニック社製「FLR20S・W/M」)で200ルクスの光を照射したところ、この照射下での開回路電圧(OCP)は800mVであり、光を遮断すると次第に0mVへと収束した。さらに再び光照射すると800mVへと収束し、この光応答挙動は繰り返して安定に発現するものであった。
【0170】
また、50mV印加でのクロノアンペロメトリー(CA測定)では、蛍光灯(パナソニック社製「FLR20S・W/M」)による200ルクスの光照射下において、2.4μA/cm
2程度の光起電流が観測され、光を遮断すると次第に0A/cm
2へと収束した。さらに再び光照射すると2.4μA/cm
2程度の光起電流が観測され、繰り返して(40サイクル)安定に発現するものであった。
【0171】
(実施例2)
実施例1の電解重合処理の代わりに、化合物(Z1) 0.02M、ヨウ化ナトリウム 0.1M水溶液中に、電子輸送層(ガルビ膜)を設けた上記第一電極(FTO電極)を浸漬し、この第一電極(FTO電極)に対し、−0.75Vの定電圧印加を5分間行った。その他は実施例1と同様に行った。
【0172】
実施例2で作製した光電変換素子に、蛍光灯(パナソニック社製「FLR20S・W/M」)で200ルクスの光を照射したところ、この照射下での開回路電圧(OCP)は900mVであり、光を遮断すると次第に0mVへと収束した。さらに再び光照射すると900mVへと収束し、この光応答挙動は繰り返して安定に発現するものであった。
【0173】
また、50mV印加でのクロノアンペロメトリー(CA測定)では、蛍光灯(パナソニック社製「FLR20S・W/M」)による200ルクスの光照射下において、2.34μA/cm
2程度の光起電流が観測され、光を遮断すると次第に0A/cm
2へと収束した。さらに再び光照射すると2.34μA/cm
2程度の光起電流が観測され、繰り返して(40サイクル)安定に発現するものであった。
【0174】
(比較例1)
実施例1において、電解重合処理を行わなかった(「化合物(Z1) 0.02Mの定電圧印加」を「処理を無し」とした)以外は、実施例1と同様の手順で光電気素子を作製した。
【0175】
比較例1で作製した光電変換素子に、蛍光灯(パナソニック社製「FLR20S・W/M」)で200ルクスの光を照射したところ、この照射下での開回路電圧(OCP)は566mVであり、光を遮断すると次第に0mVへと収束した。さらに再び光照射すると566mVへと収束し、この光応答挙動は繰り返して安定に発現するものであった。
【0176】
また、50mV印加でのクロノアンペロメトリー(CA測定)では、蛍光灯(パナソニック社製「FLR20S・W/M」)による200ルクスの光照射下において、2.30μA/cm
2程度の光起電流が観測され、光を遮断すると次第に0A/cm
2へと収束した。さらに再び光照射すると2.30μA/cm
2程度の光起電流が観測され、繰り返して(40サイクル)安定に発現するものであった。
【0177】
【表1】