特許第6010563号(P6010563)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6010563
(24)【登録日】2016年9月23日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】防錆塗料組成物前駆体
(51)【国際特許分類】
   C09D 179/02 20060101AFI20161006BHJP
   C09D 129/14 20060101ALI20161006BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20161006BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20161006BHJP
   C09D 7/14 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   C09D179/02
   C09D129/14
   C09D5/08
   C09D5/24
   C09D7/14
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-1037(P2014-1037)
(22)【出願日】2014年1月7日
(65)【公開番号】特開2015-129220(P2015-129220A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2014年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029698
【氏名又は名称】テック大洋工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鳥潟 浩司
【審査官】 安藤 達也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−015256(JP,A)
【文献】 特開平08−041320(JP,A)
【文献】 特開平10−330650(JP,A)
【文献】 特開2002−327151(JP,A)
【文献】 特開2000−119599(JP,A)
【文献】 特開2001−064587(JP,A)
【文献】 特開2014−037522(JP,A)
【文献】 特表平09−500837(JP,A)
【文献】 特表2000−516023(JP,A)
【文献】 国際公開第99/025778(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/024829(WO,A1)
【文献】 特開平08−120228(JP,A)
【文献】 特開2007−112971(JP,A)
【文献】 特開2011−057749(JP,A)
【文献】 特開2002−299876(JP,A)
【文献】 特公昭55−050514(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00〜C09D201/10
B05D1/00〜B05D7/26
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアニリンと、ポリビニルブチラールと、アルコール系溶媒とを含むゲル状の防錆塗料組成物前駆体であって、
前記ポリアニリンと前記ポリビニルブチラールとは、ポリアニリン:ポリビニルブチラール=10:30〜40:10の範囲の質量比で混合されて該ポリビニルブチラールのマトリックス内に該ポリアニリンが分散されてなり、
前記ポリアニリン及び前記ポリビニルブチラールと、該アルコール系溶媒との質量比は、前記ポリアニリン及び前記ポリビニルブチラール:アルコール系溶媒=5:95〜60:40の範囲にあり、
前記ポリアニリンと、前記ポリビニルブチラールと、前記アルコール系溶媒とを、加圧分散装置に供給し、5〜80MPaの範囲の圧力をかけることにより得られてなり、
歪みの値が0.1であり貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”が線形となる線形粘弾性領域下、25±1℃の範囲の温度で、0.1〜100ラジアン/秒の範囲の周波数について周波数分散測定により得られた貯蔵弾性率G’が0.01〜300Paの範囲にあり、損失弾性率G”が0.01〜100Paの範囲にあることを特徴とする防錆塗料組成物前駆体。
【請求項2】
請求項1記載の防錆塗料組成物前駆体において、
前記貯蔵弾性率G’は、前記周波数を横軸とし該貯蔵弾性率G’を縦軸とする両対数グラフ上で、該周波数の値がa、該貯蔵弾性率G’の値がbである座標を(a,b)とするときに、座標(0.1,0.01)、(100,1)、(0.1,110)、(100,300)により囲まれる領域内にあり、
前記損失弾性率G”は、該両対数グラフ上で、該周波数の値がa、該損失弾性率G”の値がcである座標を(a,c)とするときに、座標(0.1,0.01)、(100,1)、(0.1,30)、(100,100)により囲まれる領域内にあることを特徴とする防錆塗料組成物前駆体。
【請求項3】
請求項記載の防錆塗料組成物前駆体において、
前記ポリアニリン及び前記ポリビニルブチラールと前記アルコール系溶媒との質量比は、前記ポリアニリン及び前記ポリビニルブチラール:アルコール系溶媒=20:80であることを特徴とする防錆塗料組成物前駆体。
【請求項4】
請求項1〜請求項のいずれか1項記載の防錆塗料組成物前駆体において、
前記アルコール系溶媒は、イソプロパノールとメトキシプロパノールとを含むことを特徴とする防錆塗料組成物前駆体。
【請求項5】
請求項1〜請求項のいずれか1項記載の防錆塗料組成物前駆体において、
前記アルコール系溶媒は、イソプロパノール10〜45質量部、メトキシプロパノール10〜45質量部、ブタノール10〜35質量部、キシレン5〜25質量部、エチルベンゼン5〜25質量部からなることを特徴とする防錆塗料組成物前駆体。
【請求項6】
請求項記載の防錆塗料組成物前駆体において、
前記アルコール系溶媒は、イソプロパノール40質量部、メトキシプロパノール40質量部、ブタノール10質量部、キシレン5質量部、エチルベンゼン5質量部からなることを特徴とする防錆塗料組成物前駆体。
【請求項7】
ポリアニリンと、ポリビニルブチラールと、アルコール系溶媒とを含むゲル状の防錆塗料組成物前駆体の製造方法であって、
前記ポリアニリンと前記ポリビニルブチラールとを、ポリアニリン:ポリビニルブチラール=10:30〜40:10の範囲の質量比で混合して該ポリビニルブチラールのマトリックス内に該ポリアニリンを分散し、
前記ポリアニリン及び前記ポリビニルブチラールと、前記アルコール系溶媒との質量比を、前記ポリアニリン及び前記ポリビニルブチラール:アルコール系溶媒=5:95〜60:40の範囲とし、
前記ポリアニリン、前記ポリビニルブチラールと、前記アルコール系溶媒とを、加圧分散装置に供給し、5〜80MPaの範囲の圧力をかけることにより分散させ、
前記防錆塗料組成物前駆体を、歪みの値が0.1であり貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”が線形となる線形粘弾性領域下、25±1℃の範囲の温度で、0.1〜100ラジアン/秒の範囲の周波数について周波数分散測定により得られた貯蔵弾性率G’が0.01〜300Paの範囲にあり、損失弾性率G”が0.01〜100Paの範囲とすることを特徴とする防錆塗料組成物前駆体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆塗料組成物前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性樹脂としてのポリアニリンを防錆塗料組成物に用いることが検討されている。
【0003】
前記ポリアニリンは、例えば、アニリン塩酸塩0.2モルの水溶液100mlにドデシル硫酸ナトリウム(SDS)0.2モルを加えて加熱し、さらに重合開始剤として過硫酸化アンモニウム0.25モルを加えて、酸化重合させることにより合成することができる。そして、得られた反応溶液にアセトン又はメタノールを加えることにより、ポリアニリンの沈澱を得ることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
前記のようにして得られたポリアニリンは、直径10〜50nm程度の粒子であり、非常に凝集しやすいという特性を備えているため、保存することが難しいという問題がある。そこで、前記ポリアニリン粒子の凝集を防ぐために、該ポリアニリン粒子をポリビニルブチラール及びアルコール系溶媒と混合した後、該アルコール系溶媒を揮発させることが行われている。
【0005】
このようにすると、ポリアニリンがポリビニルブチラールのマトリックス内に分散された直径8mm程度の固形混合物を得ることができる。従って、ポリアニリンを凝集させることなく、前記固形混合物の形状で保存することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3426637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記ポリアニリンを含む固形混合物は、高硬度で粉砕しにくく、そのままでは、前記アルコール系溶媒を再度加えて混練しても該アルコール系溶媒に分散させることができず、防錆塗料組成物に用いることが難しいという不都合がある。
【0008】
本発明は、かかる不都合を解消して、ポリアニリンを凝集させることなく保存することができ、しかもポリアニリンを含む防錆塗料組成物を容易に得ることができる防錆塗料組成物前駆体を提供することを目的とする。
【0009】
かかる目的を達成するために、本発明の防錆塗料組成物前駆体は、ポリアニリンと、ポリビニルブチラールと、アルコール系溶媒とを含むゲル状の防錆塗料組成物前駆体であって、歪みの値が0.1であり貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”が線形となる線形粘弾性領域下、25±1℃の温度で、0.1〜100ラジアン/秒の範囲の周波数について周波数分散測定により得られた貯蔵弾性率G’が0.01〜300Paの範囲にあり、損失弾性率G”が0.01〜100Paの範囲にあることを特徴とする。
【0010】
一般に、ポリマーのレオロジーにおいて、貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”は、歪みの値が0.01〜0.1の範囲のときに線形となり、この領域を線形粘弾性領域(LVR)という。そこで、ポリマーの貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”は、前記線形粘弾性領域において測定される。
【0011】
本発明では、前記防錆塗料組成物前駆体の特性に応じて、歪みの値を0.1として、前記線形粘弾性領域下、25±1℃の温度で、0.1〜100ラジアン/秒の範囲の周波数について周波数分散測定を行う。この結果、本発明の防錆塗料組成物前駆体は、前記周波数分散測定により得られた貯蔵弾性率G’が0.01〜300Paの範囲にあり、損失弾性率G”が0.01〜100Paの範囲にある。
【0012】
本発明の防錆塗料組成物前駆体は、前記貯蔵弾性率G’と前記損失弾性率G”とがそれぞれ前記範囲にあるので、例えば、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂等の合成樹脂と所望の割合で混合することにより、ポリビニルブチラール及び該合成樹脂中にポリアニリンが均一に分散している防錆塗料組成物を得ることができる。
【0013】
また、本発明の防錆塗料組成物前駆体は、例えば、アルコール系溶媒等を希釈剤として所望の濃度に希釈することにより、ポリビニルブチラール及び該希釈剤中にポリアニリンが均一に分散している防錆塗料組成物を得ることができる。また、本発明の防錆塗料組成物前駆体は、希釈することなく、そのまま防錆塗料組成物としてもよい。
【0014】
前記貯蔵弾性率G’が300Paを超えるか、前記損失弾性率G”が100Paを超えるときには、前記合成樹脂と混合したり、前記アルコール系溶媒等の希釈剤により希釈したりすることができない。一方、前記貯蔵弾性率G’が0.01Pa未満であるか、前記損失弾性率G”が0.01Pa未満であるときには、ポリアニリンが凝集してしまい、ポリビニルブチラールと前記合成樹脂又は前記希釈剤との中にポリアニリンが均一に分散している防錆塗料組成物を得ることができない。
【0015】
また、本発明の防錆塗料組成物前駆体において、前記貯蔵弾性率G’は、前記周波数を横軸とし該貯蔵弾性率G’を縦軸とする両対数グラフ上で、該周波数の値がa、該貯蔵弾性率G’の値がbである座標を(a,b)とするときに、座標(0.1,0.01)、(100,1)、(0.1,110)、(100,300)により囲まれる領域内にあり、前記損失弾性率G”は、該両対数グラフ上で、該周波数の値がa、該損失弾性率G”の値がcである座標を(a,c)とするときに、座標(0.1,0.01)、(100,1)、(0.1,30)、(100,100)により囲まれる領域内にあることが好ましい。
【0016】
本発明の防錆塗料組成物前駆体は、前記貯蔵弾性率G’と前記損失弾性率G”とがそれぞれ前記領域内にあることにより、前記防錆塗料組成物を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の防錆塗料組成物前駆体における周波数と貯蔵弾性率G’との関係を示すグラフ。
図2】本発明の防錆塗料組成物前駆体における周波数と損失弾性率G”との関係を示すグラフ。
図3】本発明の防錆塗料組成物前駆体の製造方法及び該防錆塗料組成物前駆体を用いる防錆塗料組成物の製造方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0019】
本実施形態の防錆塗料組成物前駆体は、ポリアニリンと、ポリビニルブチラールと、アルコール系溶媒とを含むゲル状体であって、歪みの値が0.1であり貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”が線形となる線形粘弾性領域下、25±1℃の範囲の温度で、0.1〜100ラジアン/秒の範囲の周波数について周波数分散測定により得られた貯蔵弾性率G’が0.01〜300Paの範囲にあり、損失弾性率G”が0.01〜100Paの範囲にある。
【0020】
さらに、本実施形態の防錆塗料組成物前駆体において、前記貯蔵弾性率G’は、前記周波数を横軸とし該貯蔵弾性率G’を縦軸とする両対数グラフ上で、該周波数の値がa、該貯蔵弾性率G’の値がbである座標を(a,b)とするときに、座標(0.1,0.01)、(100,1)、(0.1,110)、(100,300)により囲まれる領域内にあることが好ましい。また、前記損失弾性率G”は、前記両対数グラフ上で、前記周波数の値がa、前記損失弾性率G”の値がcである座標を(a,c)とするときに、座標(0.1,0.01)、(100,1)、(0.1,30)、(100,100)により囲まれる領域内にあることが好ましい。
【0021】
図1に、座標(0.1,0.01)、(100,1)、(0.1,110)、(100,300)により囲まれる領域Aを示す。また、図2に座標(0.1,0.01)、(100,1)、(0.1,30)、(100,100)により囲まれる領域Bを示す。
【0022】
次に、図3を参照して、本実施形態の防錆塗料組成物前駆体の製造方法について説明する。本実施形態の防錆塗料組成物前駆体の製造方法では、まず、図3のSTEP1において、ポリアニリンを製造する。
【0023】
前記ポリアニリンは、例えば、次のようにして得ることができる。まず、アニリン塩酸塩0.2モルの水溶液100mlにドデシル硫酸ナトリウム(SDS)0.2モルを加えて加熱する。次に、得られた溶液をさらに0℃以下の温度に保持して攪拌しながら、重合開始剤としての過硫酸化アンモニウム0.25モルを加えて、酸化重合反応を4時間行う。
【0024】
このようにすると、当初不均一系であった反応溶液が反応の進行に伴って均一系となり、ポリアニリン特有の緑色の溶液が得られる。次に、得られた反応溶液にアセトン又はメタノールを加えることにより、ポリアニリンの沈澱が得られる。前記のようにして得られたポリアニリンは、直径10〜50nm程度の粒子であり、非常に凝集しやすいという特性を備えている。
【0025】
次に、図3のSTEP2において、前記ポリアニリンの粒子の凝集を防ぐために、該ポリアニリン粒子をポリビニルブチラール及びアルコール系溶媒と混合する。このとき、前記ポリアニリン粒子と前記ポリビニルブチラールと前記アルコール系溶媒とは、例えば、ポリアニリン粒子:ポリビニルブチラール:アルコール系溶媒=10:30:60〜32:8:60の範囲の質量比で混合する。
【0026】
前記アルコール系溶媒としては、イソプロパノール、メトキシプロパノール等のアルコールと他の有機溶媒との混合溶媒を用いることができる。このような前記アルコール系溶媒として、例えば、イソプロパノール10〜45質量部、メトキシプロパノール10〜45質量部、ブタノール10〜35質量部、キシレン5〜25質量部、エチルベンゼン5〜25質量部からなるものを挙げることができ、さらに具体的には、イソプロパノール40質量部、メトキシプロパノール40質量部、ブタノール10質量部、キシレン5質量部、エチルベンゼン5質量部からなるものを挙げることができる。
【0027】
次に、図3のSTEP3において、前記アルコール系溶媒を揮発させることにより、固形混合物が形成される(STEP4)。前記固形混合物は直径8mm程度であり、ポリビニルブチラールのマトリックス内にポリアニリンが均一に分散されて含有されている。
【0028】
次に、図3のSTEP5において、前記固形混合物を前記アルコール系溶媒に浸漬して膨潤させる。このとき、前記固形混合物と前記アルコール系溶媒とは、固形混合物:アルコール系溶媒=5:95〜60:40の範囲の質量比、例えば、固形混合物:アルコール系溶媒=20:80の質量比とする。
【0029】
次に、図3のSTEP6において、前記アルコール系溶媒により膨潤させた前記固形混合物を、該アルコール系溶媒と共に、加圧分散装置に供給し、加圧分散する。前記加圧分散装置は、試料を溶媒と共に狭隘な流路に供給し、5〜80MPaの範囲の圧力、例えば30〜50MPaの範囲の圧力をかけて該流路から噴出せしめることにより、該試料を該溶媒に均一に分散させる装置である。
【0030】
この結果、図3のSTEP7において、ポリアニリン粒子が前記ポリビニルブチラール及び前記アルコール溶媒に均一に分散されたゲル状体からなり、前記貯蔵弾性率G’が前記領域A内にあり、前記損失弾性率G”が前記領域B内にある防錆塗料組成物前駆体を得ることができる。
【0031】
本実施形態では、直径10〜50nm程度のポリアニリン粒子の凝集を防ぐために、該ポリアニリン粒子を一旦前記固形混合物としているが、該ポリアニリン粒子は該固形混合物とすることなく、直接防錆塗料組成物前駆体としてもよい。この場合には、前記ポリアニリン粒子を、前記ポリビニルブチラール及び前記アルコール系溶媒と、例えば、ポリアニリン粒子:ポリビニルブチラール:アルコール系溶媒=5:5:90の質量比で混合する。そして、得られた混合物を、そのまま前記加圧分散装置に供給し、5〜80MPaの範囲の圧力、例えば20〜50MPaの範囲の圧力をかけることにより、前記防錆塗料組成物前駆体を得ることができる。
【0032】
次に、本実施形態の防錆塗料組成物前駆体は、図3のSTEP8において、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂等の合成樹脂と所望の割合で混合することにより、ポリビニルブチラール及び該合成樹脂中にポリアニリンが均一に分散している防錆塗料組成物を得ることができる(STEP9)。前記エポキシ樹脂としては、例えば、大日本塗料株式会社製エポニックスAL−W(商品名)、大日本塗料株式会社製エポオール#60−W(商品名)等を挙げることができる。
【0033】
また、前記ポリウレタン樹脂としては、大日本塗料株式会社製Vグラン下塗(商品名)、大信ペイント株式会社製ダプニューウレタンサーフェサー(商品名)、関西ペイント株式会社製セラテクトUマイルド(商品名)、イサム塗料株式会社製ハイアート#3000(商品名)等を挙げることができる。また、前記フッ素樹脂としては、スズカファイン株式会社製ラフトンワイドフッソ等を挙げることができる。
【0034】
前記エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂は、硬化剤としてイソシアネート系化合物を用いることができる。前記イソシアネート系化合物として、例えば、ヘキサエチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジメチルビフェニレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジイソシアネートジメチルベンゼン、ジイソシアネートジメチルシクロヘキサン等を挙げることができる。
【0035】
また、本実施形態の防錆塗料組成物前駆体は、前記エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂に代えて、他の合成樹脂と所望の割合で混合することにより、前記防錆塗料組成物を得ることもできる。前記他の合成樹脂として、例えば、塩化ゴム(例えば、関西ペイント株式会社製ラバテクト中塗(商品名))、アルキド系樹脂(例えば、大日本塗料株式会社製アクリルマイン中塗(商品名))、フタル酸樹脂(例えば、関西ペイント株式会社製SDシリコマリン中塗(商品名))等を挙げることができる。
【0036】
また、本実施形態の防錆塗料組成物前駆体は、図3のSTEP10において、前記アルコール系溶媒等を希釈剤(シンナー)として所望の濃度に希釈することにより、ポリビニルブチラール中にポリアニリンが均一に分散している防錆塗料組成物を得ることもできる(STEP9)。また、用途によっては、前記防錆塗料組成物前駆体を希釈することなく、そのままSTEP9の防錆塗料組成物として用いてもよい。
【0037】
本実施形態で得られた防錆塗料組成物は、前記アルコール系溶媒等を希釈剤(シンナー)として所望の濃度に希釈することにより使用することができる。
【0038】
次に、本発明の実施例を示す。
【実施例】
【0039】
〔実施例1〕
本実施例では、まず、ポリアニリン粒子10質量部を、ポリビニルブチラール30質量部及びアルコール系溶媒60質量部と混合した後、該アルコール系溶媒を揮発させることにより、ポリアニリンを含有する固形混合物を形成した。前記アルコール系溶媒は、イソプロパノール40質量部、メトキシプロパノール40質量部、ブタノール10質量部、キシレン5質量部、エチルベンゼン5質量部からなる混合溶媒を用いた。
【0040】
次に、ポリアニリンを含有する前記固形混合物20質量部を前記アルコール系溶媒80質量部に浸漬して膨潤させた後、前記加圧分散装置に供給し、加圧力を5MPaとして、防錆塗料組成物前駆体を得た。
【0041】
次に、粘弾性測定装置(Malvern Instruments Ltd.製、商品名:GeminiII)を用い、歪みの値を0.1に設定して貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G”が線形となる線形粘弾性領域下、25±1℃の範囲の温度で、0.1〜100ラジアン/秒の範囲の周波数について周波数分散測定により、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体の貯蔵弾性率G’と損失弾性率G”と測定した。貯蔵弾性率G’の測定結果を図1に、損失弾性率G”の測定結果を図2に、それぞれ示す。
【0042】
図1から、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、貯蔵弾性率G’が0.03〜2.50Paの範囲であって領域A内にあることが明らかである。また、図2から、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、損失弾性率G”が0.05〜2.56Paの範囲であって領域B内にあることが明らかである。
【0043】
本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、前記エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂又はフッ素樹脂のいずれか1種の合成樹脂と所望の割合で混合することにより、ポリビニルブチラール及び前記合成樹脂中にポリアニリンが均一に分散している防錆塗料組成物を得ることができた。
【0044】
また、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、イソプロパノール40質量部、メトキシプロパノール40質量部、ブタノール10質量部、キシレン5質量部、エチルベンゼン5質量部からなるアルコール系溶媒を希釈剤(シンナー)として所望の濃度に希釈することにより、ポリビニルブチラール及び該希釈剤中にポリアニリンが均一に分散している防錆塗料組成物を得ることができた。
【0045】
また、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、希釈することなく、そのまま防錆塗料組成物とすることもできた。
【0046】
〔実施例2〕
本実施例では、前記加圧分散装置における加圧力を10MPaとした以外は、実施例1と全く同一にして、防錆塗料組成物前駆体を得た。
【0047】
次に、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体を用いた以外は実施例1と全く同一にして、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体の貯蔵弾性率G’と、損失弾性率G”とを測定した。結果を図1,2に示す。
【0048】
図1から、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、貯蔵弾性率G’が0.99〜14.2Paの範囲であって領域A内にあることが明らかである。また、図2から、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、損失弾性率G”が0.54〜10.0Paの範囲であって領域B内にあることが明らかである。
【0049】
本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、前記エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂又はフッ素樹脂のいずれか1種の合成樹脂と所望の割合で混合することにより、ポリビニルブチラール及び前記合成樹脂中にポリアニリンが均一に分散している防錆塗料組成物を得ることができた。
【0050】
また、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、実施例1と全く同一のアルコール系溶媒を希釈剤として所望の濃度に希釈することにより、ポリビニルブチラール及び該希釈剤中にポリアニリンが均一に分散している防錆塗料組成物を得ることができた。
【0051】
また、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、希釈することなく、そのまま防錆塗料組成物とすることもできた。
【0052】
〔実施例3〕
本実施例では、前記加圧分散装置における加圧力を20MPaとした以外は、実施例1と全く同一にして、防錆塗料組成物前駆体を得た。
【0053】
次に、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体を用いた以外は実施例1と全く同一にして、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体の貯蔵弾性率G’と、損失弾性率G”とを測定した。結果を図1,2に示す。
【0054】
図1から、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、貯蔵弾性率G’が16.0〜73.4Paの範囲であって領域A内にあることが明らかである。また、図2から、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、損失弾性率G”が3.48〜39.4Paの範囲であって領域B内にあることが明らかである。
【0055】
本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、前記エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂又はフッ素樹脂のいずれか1種の合成樹脂と所望の割合で混合することにより、ポリビニルブチラール及び前記合成樹脂中にポリアニリンが均一に分散している防錆塗料組成物を得ることができた。
【0056】
また、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、実施例1と全く同一のアルコール系溶媒を希釈剤として所望の濃度に希釈することにより、ポリビニルブチラール及び該希釈剤中にポリアニリンが均一に分散している防錆塗料組成物を得ることができた。
【0057】
また、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、希釈することなく、そのまま防錆塗料組成物とすることもできた。
【0058】
〔実施例4〕
本実施例では、前記加圧分散装置における加圧力を30MPaとした以外は、実施例1と全く同一にして、防錆塗料組成物前駆体を得た。
【0059】
次に、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体を用いた以外は実施例1と全く同一にして、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体の貯蔵弾性率G’と、損失弾性率G”とを測定した。結果を図1,2に示す。
【0060】
図1から、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、貯蔵弾性率G’が21.5〜95.7Paの範囲であって領域A内にあることが明らかである。また、図2から、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、損失弾性率G”が5.2〜44.9Paの範囲であって領域B内にあることが明らかである。
【0061】
本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、前記エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂又はフッ素樹脂のいずれか1種の合成樹脂と所望の割合で混合することにより、ポリビニルブチラール及び前記合成樹脂中にポリアニリンが均一に分散している防錆塗料組成物を得ることができた。
【0062】
また、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、実施例1と全く同一のアルコール系溶媒を希釈剤として所望の濃度に希釈することにより、ポリビニルブチラール及び該希釈剤中にポリアニリンが均一に分散している防錆塗料組成物を得ることができた。
【0063】
また、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、希釈することなく、そのまま防錆塗料組成物とすることもできた。
【0064】
〔実施例5〕
本実施例では、前記加圧分散装置における加圧力を50MPaとした以外は、実施例1と全く同一にして、防錆塗料組成物前駆体を得た。
【0065】
次に、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体を用いた以外は実施例1と全く同一にして、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体の貯蔵弾性率G’と、損失弾性率G”とを測定した。結果を図1,2に示す。
【0066】
図1から、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、貯蔵弾性率G’が106.3〜230.1Paの範囲であって領域A内にあることが明らかである。また、図2から、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、損失弾性率G”が20.4〜61.1Paの範囲であって領域B内にあることが明らかである。
【0067】
本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、前記エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂又はフッ素樹脂のいずれか1種の合成樹脂と所望の割合で混合することにより、ポリビニルブチラール及び前記合成樹脂中にポリアニリンが均一に分散している防錆塗料組成物を得ることができた。
【0068】
また、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、実施例1と全く同一のアルコール系溶媒を希釈剤として所望の濃度に希釈することにより、ポリビニルブチラール及び該希釈剤中にポリアニリンが均一に分散している防錆塗料組成物を得ることができた。
【0069】
また、本実施例で得られた防錆塗料組成物前駆体は、希釈することなく、そのまま防錆塗料組成物とすることもできた。
【符号の説明】
【0070】
符号なし。
図3
図1
図2