(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記クラッド露出部は、前記ダブルクラッドファイバの軸に垂直な断面において該軸を中心として180°未満の角度で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の余剰光除去構造。
前記ファイバ収容部内の前記クラッド露出部の上流端に充填される第2の樹脂であって、前記被覆材の屈折率よりも低い屈折率を有する第2の樹脂をさらに備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の余剰光除去構造。
【背景技術】
【0002】
ダブルクラッドファイバを用いたクラッド励起型のファイバレーザにおいて、コアに吸収されなかった励起光(余剰励起光)は、共振器の出射部においてもクラッド内を伝搬する。特に高出力のファイバレーザでは、ある程度のパワーの励起光が供給されるため、共振器の出射部において余剰励起光が生じやすい。このような余剰励起光はマルチモードで伝搬しているためにビーム品質が良くない。したがって、このような余剰励起光が信号光とともにファイバレーザから出射されると、ファイバレーザの出力ビームの品質が悪化してしまい、出力ビームを用いた微細な加工ができなくなってしまう。
【0003】
また、アイソレータやコリメータなどの出射光学系は、品質の制御性やコストの面から信号光の伝搬のみを目的として設計されている。したがって、これらの出射光学系に余剰励起光が入射すると意図せぬ光吸収を引き起こし、発熱や発火などの重大な事故が生じるおそれがある。
【0004】
したがって、余剰励起光はレーザ出射端に至る前に光ファイバの外部に放射させる必要がある。このような余剰励起光を光ファイバの外部に放射させる構造として、ダブルクラッドファイバの被覆材を全周にわたって除去してクラッドを露出させ、露出させたクラッドを、被覆材よりも屈折率の高い2枚の光学基板で挟んだものが知られている(例えば特許文献1参照)。このようにクラッドを屈折率の高い光学基板で挟むことで、クラッドの露出部と光学基板との接触部において余剰励起光を光学基板に放射させることができる。
【0005】
しかしながら、この構造では、クラッドと光学基板との間の接触が線接触であるため、余剰励起光を十分に除去するためには、この接触長を非常に長くする必要があり効率的ではない。また、長い距離にわたって被覆材を除去する必要があるため、被覆材の除去過程でクラッドを傷つけ易く、信頼性を欠くことになる。
【0006】
このような観点から、
図1に示すような構造も考えられている。
図1に示される構造においては、補強部材500で囲まれた空間内で2つのダブルクラッドファイバ510,610が融着されている。ダブルクラッドファイバ510の被覆材520の下流側端部が全周にわたって除去されており、これによりクラッド530が被覆材520から露出している。同様に、ダブルクラッドファイバ610の被覆材620の上流側端部が全周にわたって除去されており、これによりクラッド630が被覆材620から露出している。露出されたダブルクラッドファイバ510のクラッド530の端部とダブルクラッドファイバ610のクラッド630の端部とが融着点700で融着されている。
【0007】
これらの露出したクラッド530,630の周囲(及び被覆材520,630の周囲)には、クラッド530,630の屈折率以上の屈折率を有する樹脂540が充填されている。この構造では、露出したクラッド530がその全周にわたって樹脂540に接触しており、クラッド530と樹脂540との間の接触面積が大きいために、余剰励起光がクラッド530から樹脂540に放射される効率が向上する。
【0008】
しかしながら、
図1に示す構造では、被覆材520の一部が全周にわたって除去されているため、クラッド530及びコアを伝搬してきた余剰励起光は、被覆材520が除去された部分の最上流部542において局所的に樹脂540に入射することとなる。したがって、この最上流部542で余剰励起光が局所的に樹脂540に吸収され、発熱量が多くなってしまう。このような局所的な発熱は、ダブルクラッドファイバ510を局所的に高温にし、その信頼性を大きく損なうおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、余剰光を効率的に除去するとともに、余剰光の放射による局所的な発熱を緩和して信頼性を向上させた余剰光除去構造を提供することを第1の目的とする。
【0011】
また、本発明は、高品質のレーザビームを出射することのできる信頼性の高いファイバレーザを提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様によれば、余剰光を効率的に除去するとともに、余剰光の放射による局所的な発熱を緩和して信頼性を向上させた余剰光除去構造が提供される。この余剰光除去構造は、コアと、上記コアを被覆し上記コアよりも屈折率の低いクラッド(内部クラッド)と、上記クラッドを被覆し上記クラッドよりも屈折率の低い被覆材(外部クラッド)とを有するダブルクラッドファイバ
の前記クラッド内を伝搬する余剰光を除去するために用いられる。上記余剰光除去構造は、上記ダブルクラッドファイバの一部を収容するファイバ収容部と、上記ファイバ収容部内で、上記ダブルクラッドファイバの長手方向に沿って上記クラッドの全周のうち一部を上記被覆材から露出させたクラッド露出部と、上記ファイバ収容部内に充填され少なくとも上記クラッド露出部を被覆する第1の樹脂とを備えている。この第1の樹脂は、上記クラッドの屈折率以上の屈折率を有している。
上記クラッド露出部は、上記クラッドの全周が上記被覆材で被覆されている部分に対して光の伝搬方向の下流側に位置している。
【0013】
このような構成により、ダブルクラッドファイバ内のクラッドを伝搬してきた余剰光がクラッド露出部と第1の樹脂との界面に至ると、第1の樹脂の屈折率がクラッドの屈折率以上であるため、余剰光が第1の樹脂に入射し放射される。これにより、余剰光が信号光とともに出射されることによるレーザビームの品質悪化を防止するとともに、余剰光除去構造の後流側で余剰励起光が原因で生じる発熱や発火を防止して出射光学系の信頼性を向上することができる。
【0014】
このとき、クラッド露出部においては、上記クラッドの全周のうち一部のみが露出しているため、クラッド露出部の最上流部で第1の樹脂に放射される余剰光の量が、全周にわたってクラッドが露出している従来構造に比べて低減される。したがって、余剰光が第1の樹脂で吸収されることによる局所的な発熱を緩和することができ、余剰光除去構造の信頼性を向上させることができる。
【0015】
本発明の第2の態様によれば、高品質のレーザビームを出射することのできる信頼性の高いファイバレーザが提供される。このファイバレーザは、信号光を発生させる信号光発生器と、励起光を発生させる励起レーザダイオードと、クラッドポンプファイバとを備えている。上記クラッドポンプファイバは、上記信号光が伝搬するコアと、上記コアを被覆し上記励起光が伝搬するクラッドと、上記クラッドを被覆し上記クラッドよりも屈折率の低い被覆材とを有している。上記ファイバレーザは、上記クラッドポンプファイバにおける余剰光を除去するように構成された上記余剰光除去構造を備えている。
【0016】
ここで、上記ダブルクラッドファイバの軸に垂直な断面において該軸を中心として180°未満の角度で上記クラッド露出部を形成することが好ましい。このように全周のうち軸を中心として180°未満の角度の範囲でのみクラッドを露出させることにより、被覆材に力がかかった場合に、この力を分解して得られる半径方向の力が、被覆材のいずれかの点で被覆材をクラッドに押しつける方向に働くこととなる。したがって、被覆材が剥がれにくくなる。
【0017】
上記ファイバ収容部は、上記クラッド露出部に対向するように配置された、熱放射のよい放熱板を含んでいることが好ましい。また、上記被覆材の屈折率より低い屈折率を有する第2の樹脂を、上記ファイバ収容部内の上記クラッド露出部の上流端に充填してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る余剰光除去構造によれば、余剰光を効率的に除去するとともに、余剰光の放射による局所的な発熱を緩和して信頼性を向上させることができる。また、本発明に係るファイバレーザによれば、高品質のレーザビームを出射することのできる信頼性の高いファイバレーザを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る余剰光除去構造の実施形態について
図2から
図9を参照して詳細に説明する。なお、
図2から
図9において、同一又は相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0021】
図2は、本発明の第1の実施形態におけるファイバレーザ1を示す模式図である。このファイバレーザ1は、信号光を発生させる信号光発生器10と、励起光を発生させる複数の励起レーザダイオード(LD)20と、信号光発生器10からの信号光と励起LD20からの励起光とを結合して出力する光カプラ30と、光カプラ30の出力端32に端部が接続されたクラッドポンプファイバ40と、クラッドポンプファイバ40の出力端42に接続された出力側光ファイバ50と、出力側光ファイバ50に設けられたアイソレータ52とを備えている。
【0022】
図3は、クラッドポンプファイバ40を模式的に示す断面図である。
図3に示すように、クラッドポンプファイバ40は、信号光発生器10により生成された信号光を伝搬するコア60と、コア60を被覆するクラッド(内部クラッド)62と、クラッド62を被覆する被覆材(外部クラッド)64とを備えている。コア60は、例えばYbなどの希土類元素が添加されたSiO
2からなり、信号光を伝搬する信号光導波路となっている。クラッド62は、コア60の屈折率よりも低い屈折率の材料(例えばSiO
2)からなる。被覆材64は、クラッド62の屈折率よりも低い屈折率の樹脂(例えば低屈折率ポリマー)からなる。これにより、クラッド62は励起光を伝搬する励起光導波路となる。
【0023】
このような構成のクラッドポンプファイバ40において、信号光発生器10からの信号光はコア60の内部を伝搬し、励起LD20からの励起光はクラッド62及びコア60の内部を伝搬する。励起光がコア60を伝搬する際に、コア60に添加された希土類元素イオンが励起光を吸収して励起され、誘導放出によってコア60中を伝搬する信号光が増幅される。
【0024】
このように、励起光はクラッドポンプファイバ40中を伝搬するにつれてコア60により吸収されるため減衰するが、上述したように、コアに吸収されなかった励起光(余剰励起光)がクラッドポンプファイバ40の出射側に生じることとなる。本実施形態では、このような余剰励起光が出力ビームの品質を悪化させたり、アイソレータ52などの出射光学系の発熱や発火を引き起こしたりすることを防止するために、
図4に示すような余剰光除去構造70をクラッドポンプファイバ40の出射端近傍に設けている。
【0025】
図4は、本発明の第1の実施形態における余剰光除去構造70を模式的に示す図であり、
図5は
図4のV-V線断面図である。
図4及び
図5に示すように、余剰光除去構造70は、クラッドポンプファイバ40の一部を収容する略直方体状のファイバ収容部72を備えている。ファイバ収容部72の内部では、クラッドポンプファイバ40の全周のうち一部、例えばクラッドポンプファイバ40の軸に垂直な断面(
図5)においてこの軸を中心として180°未満の角度(例えば60°)で被覆材64が除去されている。したがって、この範囲でクラッド62が被覆材64から露出しており、クラッド露出部74が形成されている。
図4に示すように、このクラッド露出部74は、クラッドポンプファイバ40の長手方向に沿って所定の長さだけ延びている。
【0026】
また、ファイバ収容部72の内部には、クラッド62の屈折率以上の屈折率を有する樹脂(例えば熱硬化性樹脂)76が充填されており、この樹脂76により上記クラッド露出部74が覆われている。なお、
図4に示す符号77は硬質の樹脂材であり、ファイバ収容部72の内部を封止している。
【0027】
このような構成により、クラッド62を伝搬してきた余剰励起光がクラッド露出部74と樹脂76との界面に至ると、樹脂76の屈折率がクラッド62の屈折率以上であるため、余剰励起光は樹脂76に入射することとなる。このように、余剰励起光はクラッドポンプファイバ40の外部(樹脂76)に放射される。これにより、余剰励起光が信号光とともに出射されることによるレーザビームの品質悪化を防止するとともに、余剰光除去構造70の後流側で余剰励起光が原因で生じる発熱や発火を防止して出射光学系の信頼性を向上することができる。
【0028】
ここで、本実施形態のクラッド露出部74においては、クラッド62の全周のうち一部のみが露出しているため、クラッド露出部74の最上流部で樹脂76に放射される余剰励起光の量が、全周にわたってクラッドが露出している
図1に示す従来構造に比べて低減される。したがって、余剰励起光が樹脂76で吸収されることによる局所的な発熱を緩和することができ、余剰光除去構造70の信頼性を向上させることができる。
【0029】
このとき、クラッド露出部74は、クラッド62の全周のうち一部を露出するものであればよいが、本実施形態のようにクラッドポンプファイバ40の軸に垂直な断面(
図5)においてこの軸を中心として180°未満の角度でクラッド露出部74を形成することが好ましい。
図6に示すように、クラッド露出部74がクラッドポンプファイバ40の軸を中心として180°以上の角度で形成されている場合には、例えば、被覆材64の点Pに力Fが加わったとすると、この力Fは半径方向の力f
1と接線方向の力f
2に分解することができるが、このとき、
図6からわかるように、半径方向の力f
1はクラッド62から被覆材64を剥がす方向に働いている。これは点Pに限られるものではなく、被覆材64のいずれの点においても力Fを分解して得られる半径方向の力はクラッド62から被覆材64を剥がす方向に働く。一方、
図7に示すように、クラッド露出部74がクラッドポンプファイバ40の軸を中心として180°未満の角度で形成されている場合には、例えば、被覆材64の点Qに力Fが加わったとすると、この力Fは半径方向の力f
3と接線方向の力f
4に分解できるが、この半径方向の力f
3は、被覆材64をクラッド62に押しつける方向に働く。すなわち、クラッド露出部74がクラッドポンプファイバ40の軸を中心として180°未満の角度で形成されている場合には、被覆材64の少なくとも一部において被覆材64をクラッド62に押しつける方向に力が働くこととなる。したがって、クラッド露出部74がクラッドポンプファイバ40の軸を中心として180°未満の角度で形成されている場合には、180°以上の角度で形成されている場合に比べて被覆材64が剥がれにくいという利点がある。
【0030】
図5に示すように、ファイバ収容部72の一部は熱放射の良い放熱板78で構成されている。この放熱板78は、クラッド露出部74に対向するように配置されている。このように熱放射のよい放熱板78をクラッド露出部74に対向するように配置することで、余剰励起光が樹脂76に入射することにより生じた樹脂76の熱を放熱板78を介して効果的に放熱することができる。このような放熱板78としては、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金による陽極酸化処理を表面に施した金属板が挙げられる。
【0031】
上述したクラッド露出部74は、例えば
図8に示されるような装置80を用いて形成することができる。この装置80は、クラッドポンプファイバ40の両端部を保持する保持部82と、クラッドポンプファイバ40の表面を削り取るカンナ状の刃84とを備えている。
【0032】
この装置80を用いてクラッド露出部74を形成する際には、まず、保持部82によりクラッドポンプファイバ40を保持した状態で、刃84をクラッドポンプファイバ40の表面に接触させ、クラッドポンプファイバ40の長手方向に所定の距離だけ移動させる。これにより、クラッドポンプファイバ40の表面にある被覆材64が上記所定の距離だけ剥離され、クラッド62が被覆材64から露出する。
【0033】
その後、保持部82で保持したクラッドポンプファイバ40を軸周りに例えば20°回転させるとともに、刃84を最初の位置に戻す。そして、刃84を再度クラッドポンプファイバ40の表面に接触させ、クラッドポンプファイバ40の長手方向に先ほどと同じ距離だけ移動させる。これにより、同じように被覆材64が上記所定の距離だけ剥離され、クラッド62が被覆材64から露出する。例えば、上記動作をもう1回繰り返してクラッドポンプファイバ40の軸に垂直な断面(
図5)において軸を中心として60°の範囲でクラッド62を被覆材64から露出させて上述したクラッド露出部74を形成する。このように、クラッド露出部74の大きさは、刃84による切削の回数とクラッドポンプファイバ40の回転角度によって制御することができる。
【0034】
図9は、本発明の第2の実施形態における余剰光除去構造170を示す模式図である。
図9に示すように、本実施形態では、ファイバ収容部72内でクラッドポンプファイバ40をその下流側に位置する出力側光ファイバ140に融着させている。すなわち、クラッドポンプファイバ40の下流端部の被覆材64が全周にわたって除去されており、出力側光ファイバ140の上流端部の被覆材164も全周にわたって除去されている。露出されたクラッドポンプファイバ40のクラッド62の端部と出力側光ファイバ140のクラッド162の端部とが融着点180で融着されている。なお、出力側光ファイバ140としては、例えばコアに希土類が添加されていないダブルクラッドファイバを用いることができる。
【0035】
ここで、ファイバ収容部72の内部における融着点180の下流側では、第1の実施形態におけるクラッドポンプファイバ40と同様に、出力側光ファイバ140の全周のうち一部、例えば出力側光ファイバ140の軸に垂直な断面においてこの軸を中心として180°未満の角度(例えば60°)で被覆材164が除去されている。したがって、この範囲でクラッド162が被覆材164から露出しており、クラッド露出部174が形成されている。
図9に示すように、このクラッド露出部174は、出力側光ファイバ140の長手方向に沿って所定の長さだけ延びている。
【0036】
ここで、このクラッド露出部174の上流端には、被覆材164の屈折率より低い屈折率を有する樹脂(例えばUV硬化性樹脂)175が形成されている。この樹脂175とファイバ収容部72とで封止された空間内には、クラッド162の屈折率以上の屈折率を有する樹脂(例えば熱硬化性樹脂)176が充填されており、この樹脂176によって上記クラッド露出部174が覆われている。
【0037】
このような構成において、クラッドポンプファイバ40のクラッド62を伝搬してきた余剰励起光は、ファイバ収容部72内に形成されるエアクラッド182によってクラッドポンプファイバ40のクラッド62及び出力側光ファイバ140のクラッド162を伝播する。そして、その余剰励起光が、出力側光ファイバ140のクラッド露出部174と樹脂176との界面に至ると、樹脂176の屈折率がクラッド162の屈折率以上であるため、余剰励起光は樹脂176に入射することとなり、余剰励起光が出力側光ファイバ140の外部(樹脂176)に放射される。したがって、余剰光除去構造170の後流側、例えば
図2のアイソレータ52などにおいて余剰励起光が原因で生じる発熱や発火を防止して出射光学系の信頼性を向上することができる。
【0038】
ここで、本実施形態のクラッド露出部174においては、全周のうち軸を中心として180°未満の角度の範囲でのみクラッド162が露出しているため、クラッド露出部174の最上流部で樹脂176に放射される余剰励起光の量が、全周にわたってクラッドが露出している
図1に示す従来構造に比べて低減される。したがって、余剰励起光が樹脂176で吸収されることによる局所的な発熱を緩和することができ、余剰光除去構造170の信頼性を向上させることができる。
【0039】
また、本実施形態では、エアクラッド182と樹脂176との間に、被覆材164の屈折率以下の屈折率を有する樹脂175を配置しているので、クラッド162から樹脂176に放射された余剰励起光や樹脂176がエアクラッド182側に漏れ出すことが防止される。なお、本実施形態では、ファイバ収容部72内にエアクラッド182が形成されている例を説明したが、エアクラッド182の代わりにクラッド62,162よりも屈折率の低い材料を用いることもできる。
【0040】
なお、上述したクラッド露出部174は、第1の実施形態のクラッド露出部74と同様に
図8に示されるような装置80を用いて形成することができる。
【実施例1】
【0041】
まず、比較例として
図1に示す従来の余剰光除去構造を作製した。ダブルクラッドファイバ510,610としてコアの径が10μm、クラッド530,630の径が400μmのものを用いた。ダブルクラッドファイバ510,610のそれぞれの被覆材520,620の端部を軸方向に沿って20mmずつ除去し、クラッド530,630を露出させた。エタノールを用いた超音波洗浄を行なって露出したクラッド530,630の表面を清浄した。
【0042】
石英ガラスと線膨張係数を合わせたセラミック部材からなる補強部材500内に、これらのダブルクラッドファイバ510,610のクラッド530,630を突き合わせ融着した。クラッド530,630内を伝搬する余剰励起光はダブルクラッドファイバ(クラッドポンプファイバ)510の長さと励起光のクラッド吸収量から計算すると、約6Wであった。
【0043】
補強部材500の両端とダブルクラッドファイバ510,610との間は硬質のUV硬化性樹脂で固定した。また、露出したクラッド530,630の周囲に充填される樹脂540としては、屈折率1.54の熱硬化性樹脂を用いた。
【0044】
この状態でファイバレーザを駆動させたところ、想定通りクラッド530の露出部の最上流部542が局所的に発熱し、約85℃まで温度が上昇した。樹脂540の耐熱性にもよるが、製造時の樹脂540の温度が上がると樹脂540が熱劣化し、光の吸収量が増え、さらに樹脂540の温度が上昇してしまうというネガティブフィードバックが発生してしまう。実験からの計算によると、このとき用いた樹脂540の寿命は約3万時間であり、非常に短い寿命であることがわかった。
【0045】
同様の方法で、
図9に示す第2の実施形態に係る余剰光除去構造170を作製した。樹脂176としては屈折率1.54の熱硬化性樹脂を用い、樹脂175としては屈折率が1.37のUV硬化性樹脂を用いた。他の部材は上記従来の余剰光除去構造で使用した部材と同様のものを使用した。
【0046】
クラッド露出部174は、
図8に示す装置80を用いて作製した。すなわち、保持部82により保持された出力側光ファイバ140の表面に刃84を接触させ、出力側光ファイバ140の長手方向に30mmだけ移動させてクラッド162を被覆材164から露出させた。そして、出力側光ファイバ140の角度を軸周りに20°ずつ回転させて合計3回の切削を行って合計60°の角度でクラッド162を露出させるようにした。
【0047】
そして、従来の余剰光除去構造に対する試験と同等の条件でファイバレーザを運転したところ、樹脂176の温度上昇は最も高い箇所でも45℃となり、局所的な温度上昇が低減されることがわかった。この温度上昇結果に基づいて樹脂176の寿命を計算すると10万時間以上となり、従来の余剰光除去構造と比べると寿命を圧倒的に長くすることができることがわかった。
【実施例2】
【0048】
実施例2として、
図4に示す余剰光除去構造70を作製した。クラッドポンプファイバ40としては、コア60の径が10μm、クラッド62の径が400μmのものを用いた。このクラッドポンプファイバ40の出射端近傍の被覆材64を
図8に示す装置80を用いて切削した。すなわち、クラッドポンプファイバ40の表面に刃84を接触させ、クラッドポンプファイバ40の長手方向に30mmだけ移動させてクラッド62を被覆材64から露出させた。そして、クラッドポンプファイバ40の角度を軸周りに20°ずつ回転させて合計3回の切削を行って合計60°の角度で露出するようにした。
【0049】
ファイバ収容部72としては、石英ガラスと線膨張係数を合わせたセラミック部材を用い、ファイバ収容部72の両端に配置される樹脂77としては、硬質のUV硬化性樹脂を用いた。また、露出したクラッド62の周囲に充填される樹脂76としては、屈折率1.54の熱硬化性樹脂を用いた。
【0050】
この状態で実施例1の試験と同等の条件でファイバレーザを運転したところ、温度上昇は最も高い箇所でも42℃となった。この結果を基に樹脂76の寿命を計算すると、樹脂76の寿命は10万時間以上となり、従来の余剰光除去構造と比べると寿命を圧倒的に長くすることができることがわかった。
【0051】
これまで本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。