(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記チップの軸線を通る面で切断して得られる切断面において、前記チップと前記中心電極及び/又は前記接地電極とを溶融することにより形成された溶融部の、前記チップの一方の側面から他方の側面までの範囲における、前記チップと前記中心電極及び/又は前記接地電極との接合面を示す直線上での長さFと前記チップの前記軸線に直交する方向の長さLとの比(F/L)が0.6以上である請求項1〜8のいずれか一項に記載のスパークプラグ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、高温環境下における耐火花消耗性に優れたチップを中心電極及び接地電極の少なくとも一方に備えることにより、耐久性に優れたスパークプラグを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段は、
(1) 中心電極と、前記中心電極との間に間隙を設けて配置された接地電極と、を備えるスパークプラグであって、
前記中心電極と前記接地電極との少なくとも一方は前記間隙を形成するチップを有し、
前記チップは、Irを主成分とする金属母材と、一般式ABO
3で示されるペロブスカイト構造を有する酸化物(Aは周期表の第2族元素から選択される少なくとも1種、Bは金属元素から選択される少なくとも1種)の少なくとも1種を含有する酸化物粒と、を有し、
前記チップの断面を観察したとき、前記酸化物粒の占める面積の割合が、1%以上13%以下であることを特徴とするスパークプラグである。
【0009】
前記(1)の好ましい態様として、次の態様を挙げることができる。
(2)前記金属母材はRhを含有し、前記チップに含有される前記酸化物粒の全数Nに対する前記金属母材の結晶粒界に存在する前記酸化物粒の数Mの比(M/N)が0.85以下である。
(3)前記(1)又は(2)のスパークプラグにおいて、前記金属母材の結晶粒の平均粒径が3〜150μmである。
(4)前記(1)〜(3)のいずれか一つのスパークプラグにおいて、前記酸化物粒の平均粒径が0.05〜30μmである。
(5)前記(1)〜(4)のいずれか一つのスパークプラグにおいて、前記金属母材はRhを1質量%以上35質量%以下含有する。
(6)前記(5)のスパークプラグにおいて、前記金属母材はRuを5質量%以上20質量%以下含有する。
(7)前記(1)〜(6)のいずれか一つのスパークプラグにおいて、前記金属母材はNiを0.4質量%以上3質量%以下含有する。
(8)前記(1)〜(7)のいずれか一つのスパークプラグにおいて、前記酸化物がSrZrO
3、SrHfO
3、BaZrO
3、及びBaHfO
3の少なくとも一種である。
(9)前記(1)〜(8)のいずれか一つのスパークプラグにおいて、前記チップは、円柱状であり、その直径Rが大きくとも1mmである。
(10)前記(1)〜(9)のいずれか一つのスパークプラグにおいて、前記チップの軸線を通る面で切断して得られる切断面において、前記チップと前記中心電極及び/又は前記接地電極とを溶融することにより形成された溶融部の、前記チップの一方の側面から他方の側面までの範囲における、前記チップと前記中心電極及び/又は前記接地電極との接合面を示す直線上での長さFと前記チップの前記軸線に直交する方向の長さLとの比(F/L)が0.6以上である。
【発明の効果】
【0010】
この発明によると、前記チップは、Irを主成分とする金属母材と、一般式ABO
3で示されるペロブスカイト構造を有する酸化物粒とを有し、前記チップの断面を観察したときの観察領域の全面積に対する前記酸化物粒の占める面積の割合が、1%以上13%以下であるので、この発明におけるチップは、高温環境下例えば800℃以上の環境下における耐火花消耗性に優れ、耐久性に優れたスパークプラグを提供することができる。
【0011】
前記金属母材がRhを含有すると、高温環境下における金属母材の耐酸化性が向上する。金属母材の耐酸化性が向上すると、金属母材の酸化消耗による酸化物粒の脱落を抑制できる。よって、前記金属母材がRhを含有すると、チップが酸化物を有することによる耐火花消耗性の向上効果を十分に発揮できる。但し、Rhを含有させても、前記金属母材の結晶粒界は、金属母材の結晶粒内と比較して酸化が生じやすい。したがって、金属母材の結晶粒内と比較すると、酸化し易くなっている金属母材の結晶粒界に存在する酸化物粒は脱落し易い。酸化物粒が脱落してしまうと、酸化物を有することによる耐火花消耗性の向上効果が低下してしまう。したがって、前記チップに含有される前記酸化物粒の全数に対する前記金属母材の結晶粒界に存在する前記酸化物粒の数の比が特定の値以下であると、より一層耐消耗性に優れたチップとすることができ、その結果、耐久性により一層優れたスパークプラグを提供することができる。
【0012】
前記金属母材の結晶粒の平均粒径が3〜150μmの範囲内であると、金属母材の脱落を抑制することができるので、耐火花消耗性により一層優れたチップとすることができ、その結果、耐久性により一層優れたスパークプラグを提供することができる。
【0013】
前記酸化物粒の平均粒径が0.05μm以上であると、チップの表面に存在する酸化物粒の飛散を抑制することができ、また、前記酸化物粒の平均粒径が30μm以下であると、酸化物粒がチップから脱落したときの酸化物の損失を低減することができる。よって、前記酸化物粒の平均粒径が0.05〜30μmの範囲内であると、酸化物がチップの耐火花消耗性の向上に充分に寄与することができる。その結果、耐久性により一層優れたスパークプラグを提供することができる。
【0014】
前記金属母材がRhを1質量%以上含有すると、上述した高温環境下における金属母材の酸化を一層抑制できる。また、前記金属母材がRhを35質量%以下含有すると、チップの融点が下がり過ぎることなく、耐火花消耗性に優れたチップとすることができ、その結果、耐久性に優れたスパークプラグを提供することができる。
【0015】
前記金属母材がRhを1質量%以上35質量%以下含有し、かつRuを5質量%以上含有すると、上述した高温環境下における金属母材の結晶粒界における耐酸化性が一層向上する。金属母材の結晶粒界の耐酸化性が向上すると、金属母材自体の脱落や粒界に存在する酸化物粒の脱落を抑制できる。よって、前記金属母材がRuを5質量%以上含有することにより、チップが酸化物を有することによる耐火花消耗性の向上効果を十分に発揮できる。一方、Ruの含有量が20質量%を超えるとかえって耐火花消耗性が低下する。したがって、前記金属母材がRuを5質量%以上20質量%以下含有すると、耐火花消耗性により一層優れたチップとすることができる。その結果、耐久性に優れたスパークプラグを提供することができる。
【0016】
前記金属母材がNiを0.4質量%以上3質量%以下含有すると、後述するチップ製造工程における焼結の際に、Niが液体となって他の金属及び酸化物粉末の間に入り込むことができるので、焼結性が向上し、耐火花消耗性により一層優れたチップとすることができる。その結果、耐久性に優れたスパークプラグを提供することができる。
【0017】
前記酸化物がSrZrO
3、SrHfO
3、BaZrO
3、及びBaHfO
3の少なくとも一種であると、耐火花消耗性により一層優れたチップとすることができ、その結果、耐久性に優れたスパークプラグを提供することができる。
【0018】
前記チップの放電面が小さいと着火性が向上する一方で、放電部分が局所的に高温になるので、通常、チップの火花消耗が加速する。一方、高温域の耐火花消耗性に優れる本発明のスパークプラグにおけるチップの直径Rが大きくとも1mmであるチップである場合には、従来のチップと比較して、着火性を向上させつつ、火花消耗の加速を抑制することができる。
【0019】
前記溶融部の体積を大きくし、比(F/L)が0.6以上とすると、前記チップと中心電極及び/又は接地電極との溶接強度を向上させることができる。一方、溶融部の体積を大きくすると、通常、チップの火花消耗が加速する。しかし、耐火花消耗性に優れる本発明のスパークプラグにおける比(F/L)が0.6以上である場合には、溶接強度を向上させつつ、耐火花消耗性を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明に係るスパークプラグは、中心電極と、前記中心電極との間に間隙を設けて配置された接地電極とを備え、前記中心電極と前記接地電極との少なくとも一方は前記間隙を形成するチップを有する。
【0022】
この発明に係るスパークプラグの一実施例であるスパークプラグを
図1に示す。
図1はこの発明に係るスパークプラグの一実施例であるスパークプラグ1の一部断面全体説明図である。なお、
図1では紙面下方を軸線Oの先端方向、紙面上方を軸線Oの後端方向として説明する。
【0023】
このスパークプラグ1は、
図1に示されるように、軸線O方向に延在する軸孔2を有する略円筒状の絶縁体3と、前記軸孔2内の先端側に設けられた略棒状の中心電極4と、前記軸孔2内の後端側に設けられた端子金具5と、前記絶縁体3を保持する略円筒状の主体金具6と、一端が中心電極4の先端面と火花放電間隙Gを介して対向するように配置されると共に他端が主体金具6の端面に接合された接地電極7と、前記中心電極4と前記接地電極7とにそれぞれ設けられたチップ8,9とを備えている。
【0024】
前記絶縁体3は、該軸孔2内の先端側に中心電極4、後端側に端子金具5、中心電極4と端子金具5との間には中心電極4及び端子金具5を軸孔2内に固定するためのシール体10,11及び伝播雑音を低減するための抵抗体12が設けられている。絶縁体3の軸線O方向の中央付近には径方向に突出した鍔部13が形成され、該鍔部13の後端側には端子金具5を収容し、端子金具5と主体金具6とを絶縁する後端側胴部14が形成されている。該鍔部13の先端側には抵抗体12を収容する先端側胴部15、この先端側胴部15の先端側には中心電極4を収容し、先端側胴部15より外径の小さい脚長部16が形成されている。絶縁体3は、絶縁体3における先端方向の端部が主体金具6の先端面から突出した状態で、主体金具6に固着されている。絶縁体3は、機械的強度、熱的強度、電気的強度を有する材料で形成されることが望ましく、このような材料として、例えば、アルミナを主体とするセラミック焼結体が挙げられる。
【0025】
前記主体金具6は、略円筒形状を有しており、絶縁体3を内装することにより絶縁体3を保持するように形成されている。主体金具6における先端方向の外周面にはネジ部17が形成されており、このネジ部17を利用して図示しない内燃機関のシリンダヘッドにスパークプラグ1が装着される。ネジ部17の後端側にはフランジ状のガスシール部18が形成され、このガスシール部18とネジ部17との間にはガスケット19がはめ込まれている。ガスシール部18の後端側にはスパナやレンチ等の工具を係合させるための工具係合部20、工具係合部20の後端側には加締め部21が形成されている。加締め部21及び工具係合部20の内周面と絶縁体3の外周面との間に形成される環状の空間にはリング状のパッキン22,23及び滑石24が配置され、絶縁体3が主体金具6に対して固定されている。主体金具6は、導電性の鉄鋼材料、例えば、低炭素鋼により形成されることができる。
【0026】
端子金具5は、中心電極4と接地電極7との間で火花放電を行うための電圧を外部から中心電極4に印加するための端子である。端子金具5は、軸孔2の内径よりも外径が大きく、軸孔2から露出して、軸線O方向の後端側端面にその鍔型部の一部が当接する露出部25と、該露出部25の軸線O方向の先端側から先端方向に延在し、軸孔2内に収容される略円柱状の柱状部26とを有する。端子金具5は、低炭素鋼等の金属材料により形成されることができる。
【0027】
前記中心電極4は、略棒状であり、外層27と該外層27の内部の軸心部に同心に埋め込まれるように形成されてなる芯部28とにより形成されている。中心電極4は、その先端が絶縁体3の先端面から突出した状態で絶縁体3の軸孔2内に固定されており、主体金具6に対して絶縁保持されている。芯部28は外層27よりも熱伝導率の高い材料により形成され、例えば、Cu、Cu合金、Ag、Ag合金、純Ni等を挙げることができる。外層27は、Ni合金等の中心電極4に使用される公知の材料で形成されることができる。
【0028】
前記接地電極7は、例えば、略角柱体に形成されてなり、一端部が主体金具6の先端面に接合され、途中で略L字状に屈曲され、他端部が中心電極4の先端部との間に火花放電間隙Gを介して対向するように形成されている。前記接地電極7は、Ni合金等の接地電極7に使用される公知の材料で形成されることができる。この実施形態のスパークプラグ1における火花放電間隙Gは、中心電極4の先端部に設けられたチップ8と接地電極7の先端部に設けられたチップ9との間の最短距離であり、この火花放電間隙Gは、通常、0.3〜1.5mmに設定される。前記チップ8,9は、接地電極7と中心電極4との対向するそれぞれの先端部の少なくとも一方に設けられればよく、例えば、より高温になり易い接地電極7の先端部にチップ9が設けられ、中心電極4の先端部にチップ8が設けられていない場合には、接地電極7に設けられたチップ9と中心電極4との対向するそれぞれの対向面の間の最短距離が火花放電間隙Gとなる。
【0029】
図2は、このスパークプラグ1におけるチップ8,9の断面の一部を模式的に示す要部断面説明図である。チップ8,9は、Irを主成分とする金属母材31と、一般式ABO
3で示されるペロブスカイト構造を有する酸化物(Aは周期表の第2族元素から選択される少なくとも1種、Bは金属元素から選択される少なくとも1種)の少なくとも1種を含有する酸化物粒32と、を有し、前記チップ8,9の断面を観察したとき、前記酸化物粒32の占める面積の割合が、1%以上13%以下である。このようなチップ8,9は、高温環境下例えば800℃以上の環境下における耐火花消耗性に優れ、耐久性に優れたスパークプラグ1を提供することができる。
【0030】
チップ8,9が、前記酸化物粒32を前記割合で含有すると、チップ8,9の耐火花消耗性が向上する理由は、酸化物は金属に比べて仕事関数が低いため、放電され易いので、放電電圧が低下することや、チップ8,9と中心電極4及び接地電極7との溶融により形成されてなる溶融部の表面にも酸化物が残存することで、溶融部にも飛火しやすくなり、チップへの飛火回数が減少するためではないかと考えられる。前記チップ8,9の断面を観察したときの観察領域の全面積に対する前記酸化物粒32の占める面積の割合が、1%未満である場合には、チップ8,9が前記酸化物粒32を含有することによる耐火花消耗性向上の効果が得られない。また、前記面積の割合が、13%を超えると、後述するチップ製造工程において、チップ8,9の焼結密度が低下し、チップ8,9に「す」が生じやすくなり、チップ8,9にひびが入るなどのチップ割れが生じ、かえって耐火花消耗性が低下する。
【0031】
前記チップ8,9の断面における観察領域の全面積に対する前記酸化物粒の占める面積の割合は、例えば、以下のように測定することができる。まず、円柱状のチップ8,9をその中心軸線Xを通る面で切断して研磨し、この断面をSEMにより観察して、観察領域中に認められる酸化物粒それぞれの面積を測定する。全ての酸化物粒について測定した面積の和を求め、観察領域の全面積に対する測定した全酸化物粒の面積の和の割合を算出する。
【0032】
前記金属母材は、Irを主成分とする金属元素からなり、Irのみが含有されてもよいし、Ir以外の金属元素が含有されてもよい。Ir以外に含有される金属元素としては、例えば、Rh、Ru、Ni、Pd、Pt、Re、W、Mo、Al、Co、Fe等を挙げることができる。Ir以外に含有される金属元素は、前述した金属元素が1種のみ含有されてもよいし、また2種以上が任意に組み合わされて含有されてもよい。なお、Irを主成分として含有するとは、金属母材に含有される金属元素の中で最も質量割合の多い金属元素がIrであることをいう。
【0033】
前記金属母材は、Ir以外の金属元素としてRhを含有するのが好ましく、金属母材全体に対して、1質量%以上35質量%以下の割合で含有されるのが特に好ましい。前記金属母材がRhを含有する、特に1質量%以上含有すると、チップが高温環境下に曝されたときに、金属母材の酸化が抑制される。金属母材の酸化が抑制されると、金属母材の酸化消耗による酸化物粒の脱落を抑制できる。よって、金属母材がRhを含有すると、チップが酸化物を有することによる耐火花消耗性の向上効果を十分に発揮できる。Rhの含有量が多くなるにしたがって、チップ8,9の融点が下がる。したがって、前記金属母材がRhを35質量%以下含有すると、チップ8,9の融点が下がり過ぎることなく、耐火花消耗性に優れたチップとすることができる。その結果、耐久性に優れたスパークプラグを提供することができる。
【0034】
前記金属母材は、Irを主成分とし、金属母材全体に対してRhを1質量%以上35質量%以下含有するとき、Ruを5質量%以上20質量%以下含有するのが好ましい。前記金属母材が前記範囲内でRhを含有するときRuを5質量%以上含有すると、高温環境下における金属母材の結晶粒界での酸化を一層抑制できる。金属母材の結晶粒界の酸化を抑制できると、金属母材自体の脱落や結晶粒界に存在する酸化物粒の脱落を抑制できる。よって、前記金属母材がRuを5質量%以上含有することにより、チップが酸化物を有することによる耐火花消耗性の向上効果を十分に発揮できる。Ruの含有量が20質量%を超えると、かえって火花消耗し易くなる。したがって、前記金属母材が前記範囲内でRhを含有するときRuを20質量%以下含有すると、耐火花消耗性により一層優れたチップとすることができる。その結果、耐久性に優れたスパークプラグを提供することができる。
【0035】
前記金属母材は、Niを0.4質量%以上3質量%以下含有するのが好ましい。前記金属母材がNiを0.4質量%以上3質量%以下含有すると、金属母材の融点が低下するのを抑制しつつ、後述するチップ製造工程における焼結の際に、Niが液体となって他の金属及び酸化物粉末の間に入り込むことができるので、焼結性が向上し、耐火花消耗性により一層優れたチップとすることができ、その結果、耐久性に優れたスパークプラグを提供することができる。
【0036】
前記チップ8,9における金属母材31の組成は、次のようにして測定することができる。まず、チップ8,9を切断して断面を露出させ、このチップ8,9の断面において、金属母材31における任意の複数箇所(たとえば、5箇所)を選択し、FE−EPMA(Field Emission Electron Probe Micro Analysis): 日本電子株式会社製 JXA-8500Fを利用して、WDS(Wavelength Dispersive X-ray Spectrometer)分析を行うことにより、各々の箇所の質量組成を測定する。次に、測定した複数箇所の値の平均値を算出して、この平均値を金属母材31の組成とする。なお、測定箇所は、チップ8,9と電極4,7との溶融により形成されてなる溶融部33を除く。
【0037】
前記金属母材の結晶粒は、その平均粒径が3〜150μmであるのが好ましい。前記金属母材の結晶粒の平均粒径が3μm以上であると、金属母材の結晶粒の脱落を抑制することができるので、酸化物を有することによる耐火花消耗性の向上効果が発揮されやすくなり、耐火花消耗性に一層優れたチップとすることができる。また、前記金属母材の結晶粒の粒径が大きくなるにしたがい、金属母材の結晶粒界が直線的になり、チップの内部へ酸化が進行し易くなる。そのため、金属母材の結晶粒が大きすぎても脱落し易くなる。したがって、金属母材の結晶粒の平均粒径は150μm以下であると、脱落し難くなり金属母材に含まれる酸化物の耐火花消耗性の向上効果が発揮される。その結果、耐久性により一層優れたスパークプラグを提供することができる。
【0038】
前記金属母材の結晶粒の平均粒径は、例えば、次のようにして測定することができる。まず、円柱状のチップ8,9をその中心軸線Xを通る面で切断して研磨し、クロスセクションポリッシャー加工:日本電子株式会社製 SM-09010もしくはイオンミリング加工:株式会社日立ハイテクノロジーズ製 IM-4000を施した断面をFE−SEM(Field Emission Scanning Electron Microscope):日本電子株式会社製 JSM-6330Fにより、組成像で観察する。観察領域に認められるすべての金属母材の結晶粒の面積を測定し、それぞれの金属母材の結晶粒と同じ面積となる円から算出した直径を各結晶粒の結晶粒径とし、すべての測定値の算術平均を算出することにより、金属母材の結晶粒の平均粒径を求めることができる。
【0039】
なお、前記観察領域Tとしては、
図3に示すように、断面の端部ではなく、例えば、放電を受ける表面から50μm程度離れた位置を端辺としてチップの径方向の中心付近を選択するのがよい。前記観察領域Tにおいて酸化物粒が20個未満であった場合には、観察領域Tを広げて観察して金属母材の結晶粒の平均粒径を測定するのがよい。
【0040】
前記金属母材の結晶粒の平均粒径は、後述するチップ製造工程において、酸化物の粒径、酸化物の粉末と金属粉末との混合物の圧粉体作製時の圧力、焼結時間及び焼結温度、焼結後におけるサイジング時の圧力及びその後の熱処理温度等を適宜変更することにより、調整することができる。
【0041】
前記酸化物は、一般式ABO
3で示されるペロブスカイト構造を有する酸化物であり、前記一般式におけるAサイトの元素は、無機化学命名法1990年 IUPAC勧告に基づく周期表の第2族元素から選択される少なくとも1種であり、例えば、Mg、Ca、Sr、Baを挙げることができる。前記一般式におけるBサイトの元素は、金属元素から選択される少なくとも1種であり、金属元素としては、例えば、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Hf、Ta、W、Pb、Bi等を挙げることができる。Aサイト及びBサイトの元素は、1種類に限らず、例えば前述した元素を2種類以上含有してもよい。このような酸化物としては、例えば、SrZrO
3、SrHfO
3、SrTiO
3、BaZrO
3、BaHfO
3、CaZrO
3、CaHfO
3、CaTiO
3、MgTiO
3、BaTiO
3等を挙げることができる。酸化物としては、これらの中でも、SrZrO
3、SrHfO
3、SrTiO
3、BaZrO
3が好ましい。前記酸化物粒は、例えば前述したペロブスカイト構造を有する酸化物を1種類のみ含有してもよいし、任意の2種類以上の酸化物を含有してもよい。
【0042】
前記酸化物粒がペロブスカイト構造を有する酸化物を有することは、XRD(X-Ray-Diffractometer)により同定することができる。
【0043】
前記金属母材がRhを含有し、前記チップに含有される前記酸化物粒の全数Nに対する前記金属母材の結晶粒界に存在する前記酸化物粒の数Mの比(M/N)が0.85以下であるのが好ましい。
【0044】
前記金属母材がRhを含有すると、金属母材の耐酸化性が向上するため、金属母材の酸化消耗による酸化物粒の脱落を抑制できる。よって、前記金属母材がRhを含有すると、チップが酸化物を有することによる耐火花消耗性の向上効果が発揮されやすくなる。但し、Rhを含有させても、前記金属母材の結晶粒界は、金属母材の結晶粒内と比較して酸化が進行しやすい。したがって、金属母材の結晶粒内と比較すると、酸化し易くなっている金属母材の結晶粒界に存在する酸化物粒は相対的に脱落し易い。酸化物粒が脱落してしまうと、酸化物を有することによる耐火花消耗性の向上効果が低減してしまう。したがって、前記比(M/N)が0.85以下であると、より一層耐消耗性に優れたチップとすることができ、その結果、耐久性により一層優れたスパークプラグを提供することができる。
【0045】
前記酸化物粒は、その平均粒径が0.05〜30μmであるのが好ましい。前記酸化物粒の平均粒径が0.05〜30μmの範囲内であると、耐火花消耗性により一層優れたチップとすることができる。前記酸化物粒の平均粒径が0.05μm以上であると、チップの表面に存在する酸化物粒の飛散を抑制することができ、また、前記酸化物粒の平均粒径が30μm以下であると、酸化物粒がチップから脱落したときの酸化物の損失を低減することができるので、酸化物がチップの耐火花消耗性の向上に充分に寄与することができる。その結果、耐久性により一層優れたスパークプラグを提供することができる。
【0046】
前記酸化物粒における前記比(M/N)及び平均粒径は、例えば、次のようにして測定することができる。まず、円柱状のチップ8,9をその中心軸線Xを通る面で切断して研磨し、この断面をFE−SEMにより観察する。観察領域に認められる全ての酸化物粒の数nと、金属母材の結晶粒界に存在する酸化物粒の数mとを数える。これらの数n,mから比(m/n)を算出する。観察領域における比(m/n)はチップの全体積における比(M/N)にほぼ等しいと推定し、比(m/n)を比(M/N)とすることができる。また、前記酸化物粒の平均粒径は、次のようにして測定することができる。まず、観察領域に認められるすべての酸化物粒の面積を測定し、それぞれの酸化物粒と同じ面積となる円から算出した直径を酸化物粒の粒径とし、すべての測定値の算術平均を算出することにより、前記酸化物粒の平均粒径を求めることができる。なお、前記比(M/N)や酸化物粒の平均粒径の観察領域は、前述した金属母材の結晶粒を観察した観察領域と同様の領域とすることができ、酸化物粒が小さ過ぎるために視認し難い場合には、さらに倍率を上げて観察をすることができる。
【0047】
前記酸化物粒における比(M/N)及び平均粒径は、後述するチップ製造工程において、酸化物の粉末粒度、酸化物の粉末と金属粉末との混合物の圧粉体作製時の圧力、焼結時間、焼結温度、焼結後におけるサイジング時の圧力及びその後の熱処理温度等を適宜変更することにより、調整することができる。
【0048】
前記チップ8,9の形状や大きさは、特に限定されないが、チップ8,9の放電部分が小さいと、耐火花消耗性の効果をより一層発揮することができる。前記チップ8,9の放電面が小さいと着火性が向上する一方で、前記チップ8,9の放電面が小さいと雰囲気温度がそれ程高くなくても放電部分が局所的に高温になるので、チップ8,9の火花消耗が加速する。一方、耐火花消耗性に優れるこのチップ8,9が、円柱状であり、その直径Rが大きくとも1mmであり、放電部分が局所的に高温になる形状である場合には、着火性を向上させつつ、火花消耗の加速を抑制することができる。前記チップ8,9が円柱状であり、その直径Rが大きくとも1mmである場合に、チップ8,9における金属母材がRhを含有すると、放電部分が高温になった場合に耐酸化性が低下するのを抑制できる点で、より好ましい。
【0049】
図3は、チップが設けられた中心電極を拡大して示す要部断面説明図である。
図3に示すように、前記チップ8の形状は円柱状であり、チップ8の軸線Xを通る面で切断して得られる切断面Sにおいて、チップ8と中心電極4との接合面を示す直線をPとすると、前記チップ8の一方の側面から他方の側面までの範囲における前記直線P上での溶融部33の長さをF(=a+b)とし、前記チップ8の前記軸線Xに直交する方向の長さをLとすると、溶融部33の長さFとチップ8の長さLとの比(F/L)が0.6以上であると、耐火花消耗性の効果をより一層発揮することができる。溶融部33の体積を大きくすると、通常、チップ8の中心電極4への溶接強度を向上させることができる。一方、溶融部33の体積が大きくなるにしたがって熱伝導率が低下してチップ8の火花消耗が加速する。したがって、チップ8が高温環境下に曝される場合には、より一層火花消耗が加速するので耐火花消耗性と溶接強度の維持とを両立するのが難しくなる。しかし、高温環境下における耐火花消耗性に優れるこのチップ8は、溶融部33の体積が通常より大きい場合に、火花消耗が加速するのを抑制することができる。よって、チップ8の中心電極4からの耐剥離性を向上させつつ、耐火花消耗性を向上させることができる。
図3においては、中心電極4に設けられたチップ8について説明したが、接地電極7についても同様である。また、前記チップ8,9における比(F/L)が0.6以上である場合に、チップ8,9における金属母材がRhを含有すると、放電部分が高温になった場合に耐酸化性が低下するのを抑制できる点で、より好ましい。
【0050】
なお、
図3に示す実施形態では、チップ8の軸線Xを中心としてその両側に溶融部33が形成され、チップ8の中心部分には溶融部33が形成されていないので、この実施形態における前記長さFは、前記チップ8と前記中心電極4とを溶融することにより形成された溶融部33の前記直線P上における2つの溶融部33の長さの和すなわち前記長さaと前記長さbとの和になる。チップの電極に接合される面が全て溶融部を介して接合されている場合には、長さFと長さLとは等しく、比(F/L)は1である。
【0051】
前記長さF及び前記長さLは、チップを軸線Xを通る面で切断して得られる切断面を、例えばCTスキャンやFE−SEMで撮影し、得られた画像において、軸線Xに直交する方向における溶融部の長さF及びチップの長さLを測定することにより求めることができる。なお、この実施態様のようにチップが円柱状である場合には、前記長さLはチップの直径であり、軸線X方向のいずれで測定してもよいが、例えば、チップが台形である場合には、チップと中心電極とが接する部位におけるチップの長さLを測定する。
【0052】
前記スパークプラグ1は、例えば次のようにして製造される。
チップ8,9の製造方法について、以下に説明する。チップ8,9は、ペロブスカイト構造を有する酸化物の粉末と金属粉末とを所定の配合割合で混合し、金型プレス成形、又はCIP成形、又は押出成形、又は射出成形等により成形した圧粉体を脱脂し、真空中或いは非酸化性ないし還元雰囲気下で焼結することで、例えば円柱状のチップ8,9を作製することができる。チップ8,9は、前記焼結体に、例えばサイジングによる塑性加工を行い、焼結密度の向上を図ってもよい。
【0053】
中心電極4及び/又は接地電極7は、例えば、真空溶解炉を用いて、所望の組成を有する合金の溶湯を調製し、線引き加工等して、所定の形状及び所定の寸法に適宜調整して、中心電極4及び/又は接地電極7を作製することができる。中心電極4はカップ状に形成したNi合金等からなる外材に、外材より熱伝導率の高いCu合金等からなる内材を挿入し、押し出し加工等の塑性加工にて、外層の内部に芯部を有する中心電極4を形成する。なお、この実施形態のスパークプラグ1の接地電極7は一種類の材料により形成されて成るが、接地電極7が中心電極4と同様に外層とこの外層の軸心部に埋め込まれるように設けられた芯部とにより形成されてもよく、この場合には中心電極4と同様にしてカップ状に形成した外材に内材を挿入し、押し出し加工等の塑性加工した後、略角柱状に塑性加工したものを、接地電極7にすることができる。
【0054】
次いで、所定の形状に塑性加工等によって形成した主体金具6の端面に、接地電極7の一端部を電気抵抗溶接及び/又はレーザ溶接等によって接合する。次いで、接地電極7が接合された主体金具6にZnめっき又はNiめっきを施す。Znめっき又はNiめっきの後に3価クロメート処理を行ってもよい。また、接地電極に施されためっきは剥離してもよい。
【0055】
次いで、上述のように作製したチップ8,9を接地電極7及び中心電極4に抵抗溶接及び/又はレーザ溶接等により溶融固着する。抵抗溶接でチップ8,9を接地電極7及び/又は中心電極4に接合する場合には、例えば、チップ8,9を接地電極7及び/又は中心電極4の所定位置に設置して押し当てながら抵抗溶接を施す。レーザ溶接でチップ8,9を接地電極7及び/又は中心電極4に接合する場合には、例えば、チップ8,9を接地電極7及び/又は中心電極4の所定位置に設置し、チップ8,9の斜め上方から、又はチップ8,9と中心電極4との接触面に平行に、チップ8,9と接地電極7及び/又は中心電極4との接触部分を部分的に又は全周に渡ってレーザビームを照射する。なお、抵抗溶接をした後にレーザ溶接を施してもよい。
【0056】
一方、セラミック等を所定の形状に焼成することによって絶縁体3を作製し、この絶縁体3の軸孔2内にチップ8が接合された中心電極4を挿入し、シール体10,11を形成するガラス粉末、抵抗体12を形成する抵抗体組成物、前記ガラス粉末をこの順に前記軸孔2内に予備圧縮しつつ充填する。次いで前記軸孔2内の端部から端子金具5を圧入しつつ抵抗体組成物及びガラス粉末を圧縮加熱する。こうして抵抗体組成物及びガラス粉末が焼結して抵抗体12及びシール体10,11が形成される。次いで、接地電極7が接合された主体金具6にこの中心電極4等が固定された絶縁体3を組み付ける。最後に接地電極7の先端部を中心電極4側に折り曲げて、接地電極7の一端が中心電極4の先端部と対向するようにして、スパークプラグ1が製造される。
【0057】
本発明に係るスパークプラグ1は、自動車用の内燃機関例えばガソリンエンジン等の点火栓として使用され、内燃機関の燃焼室を区画形成するヘッド(図示せず)に設けられたネジ穴に前記ネジ部17が螺合されて、所定の位置に固定される。この発明に係るスパークプラグ1は、如何なる内燃機関にも使用することができるが、チップ8,9が高温環境下に曝される内燃機関や放電エネルギーが大きく、チップ8,9が高温になりやすい内燃機関に好適に使用される。
【0058】
この発明に係るスパークプラグ1は、前述した実施例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、前記スパークプラグ1は、中心電極4の先端面と接地電極7の先端部における外周面とが、軸線O方向で、火花放電間隙Gを介して対向するように配置されているが、この発明において、中心電極の側面と接地電極の先端面とが、中心電極の半径方向で、火花放電間隙を介して対向するように配置されていてもよい。この場合に、中心電極の側面に対向する接地電極は、単数が設けられても、複数が設けられてもよい。
【実施例】
【0059】
[試験No.1〜27]
<スパークプラグ試験体の作製>
チップは、次のようにして製造した。まず、表1及び表2に示す金属母材の組成と同じ配合割合で金属粉末を配合し、これに所定の割合で酸化物の粉末を混合して成形した圧粉体を、脱脂した後、真空中或いは非酸化性ないし還元雰囲気下で焼結することで、相対密度95%以上の円柱状のチップを作製した。
【0060】
中心電極及び接地電極は、前述したように、所定の組成を有する合金の溶湯を調製し、線引き加工等して、所定の形状及び所定の寸法に適宜調整して作製し、Ni合金からなる外層とCu合金からなる芯部とにより形成される中心電極と、Ni合金からなる接地電極とした。
【0061】
次いで、主体金具の一端面に接地電極を接合し、作製したチップを接地電極の主体金具が接合されていない接地電極の端部にレーザ溶接により接合した。一方、作製したチップを中心電極の先端部にレーザ溶接により接合した。
【0062】
セラミックスを所定の形状に焼成することによって絶縁体を作製し、この絶縁体の軸孔内にチップが接合された中心電極を挿入し、ガラス粉末、抵抗体組成物、ガラス粉末の順に軸孔内に充填し、最後に端子金具を挿入して封着固定した。
【0063】
次いで、接地電極が接合された主体金具に、中心電極が固定された絶縁体を組み付けて、最後に接地電極の先端部を中心電極側に折り曲げて、接地電極に接合されたチップと中心電極の先端面に接合されたチップとが対向するようにして、スパークプラグ試験体を製造した。
【0064】
なお、製造されたスパークプラグ試験体のネジ径はM12であり、チップ間の最短距離を示す火花放電間隙Gは1.1mm、チップの直径は1mmであった。
【0065】
中心電極に溶接されたチップを、その中心軸線を通る面で切断し、得られた切断面をクロスセクションポリッシャー(日本電子株式会社製、SM−09010)で研磨し、得られた研磨面について以下に示す解析を行った。
【0066】
表1及び表2に示す、チップに含まれる金属母材の組成は、上述したチップの研磨面において、FE−EPMA(日本電子株式会社製JXA-8500F)のWDS分析を行うことにより、酸化物を避けて測定した。測定箇所は、チップの金属母材における任意の5箇所を選択して測定し、測定した5箇所の値の平均値を算出して、この平均値を金属母材の組成とした。
【0067】
表1及び表2に示す、チップに含まれる酸化物粒の同定は、上述したチップの研磨面において、XRDを用いて測定した。測定した結果、チップに含まれる酸化物粒はいずれも、表1及び表2に示されるペロブスカイト構造を有する酸化物であった。
【0068】
上述したチップの研磨面を、FE−SEMを用いて観察し、組成像を撮影して撮影画像を得た。観察領域は、放電を受ける表面から50μm離れた位置を端辺としてチップの径方向の中心付近で50μm×50μmの範囲とした。なお、酸化物粒が小さ過ぎるために視認し難い場合には、さらに倍率を上げて撮影した。また、金属母材の結晶粒が観察領域において20個未満であった場合には、観察領域を2倍(100μm×100μm)にし、それでもなお金属母材の結晶粒が観察領域において20個未満の場合には、最大200μm×200μmまで観察領域を広げた。対象物が酸化物かボイドか判別しにくい場合には、WDSのマッピング分析により、対象物を判別した。
【0069】
観察領域における全酸化物粒の占める面積割合は、画像編集ソフト(Photoshop:Adobe社製)により全酸化物粒の面積を測定し、観察領域の全面積に対する全酸化物の面積割合を算出した。
【0070】
酸化物粒の平均粒径は、前記観察領域において観察した全ての酸化物粒の面積を求め、それぞれの酸化物粒と同じ面積となる円から算出した直径を酸化物粒の粒径とし、すべての測定値の算術平均を算出することにより、酸化物粒の平均粒径を算出した。表1及び表2に示すチップにおける酸化物粒の平均粒径は0.05〜30μmの範囲内であった。
【0071】
金属母材の結晶粒の平均粒径は、前記観察領域において観察した全ての金属母材の結晶粒の面積を求め、それぞれの金属母材の結晶粒と同じ面積となる円から算出した直径を金属母材の結晶粒径とし、すべての測定値の算術平均を算出することにより、金属母材の結晶粒の平均粒径を算出した。表1及び表2に示すチップにおける金属母材の結晶粒の平均粒径は3〜150μmの範囲内であった。
【0072】
チップに含有される酸化物粒の全数Nに対する金属母材の結晶粒界に存在する酸化物粒の数Mの比率(M/N)は、前記観察領域における酸化物粒の全数nと金属母材の結晶粒界に存在する酸化物粒の数mとをカウントし、比(m/n)を算出し、これを比(M/N)とした。表1及び表2に示すチップにおける比(M/N)は、いずれも0.85以下であった。
【0073】
上述したチップの切断面をFE−SEMによる組成像で観察し、観察画像において
図3に示す長さFと長さLとを測定した。これらの測定値から比(F/L)の値を算出した。表1及び表2に示すチップにおける比(F/L)は、いずれも0.6以上であった。
【0074】
<実機耐久試験>
製造したスパークプラグ試験体を、試験用のエンジン(過給エンジン、初期放電電圧20kV以上、排気量660cc、3気筒)に取り付け、スロットル全開で、エンジン回転数6000rpmの状態を維持し、200時間運転を行う耐久試験を行った。中心電極及び接地電極母材の先端から0.5mmの温度を測定したところ、それぞれ950℃と1050℃であった。
【0075】
<耐火花消耗性の評価>
実機耐久試験後の中心電極に接合されたチップの体積を、CTスキャン(東芝株式会社製 TOSCANER-32250μhd)で測定し、酸化物が含有されていないチップの消耗体積を1とした場合の各種チップの消耗体積割合(各種チップの消耗体積/酸化物が含有されていないチップの消耗体積)×100(%)を算出した。この算出値を消耗体積割合として以下の基準にしたがって評価した。結果を表1、
図4及び表2に示す。
☆☆:消耗体積割合が55%以下のとき
☆:消耗体積割合が55%を超え60%以下のとき
◎:消耗体積割合が60%を超え65%以下のとき
○:消耗体積割合が65%を超え70%以下のとき
×:消耗体積割合が70%を超えるとき
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
表1、表2及び
図4に示されるように、本願発明の範囲に含まれるチップを備えたスパークプラグは、耐火花消耗性の評価が良好だった。
【0079】
[試験No.41〜47]
金属母材の組成が、Irが68質量%、Rhが20質量%、Ruが11質量%、Niが1質量%であること、FE−SEMによる観察領域における酸化物粒の占める面積割合が5%であること、酸化物の粉末粒度、金属粉末と酸化物の粉末との圧粉体の焼結温度、焼結時間等を調整することにより、前記比(M/N)を変化させたチップを用いたこと以外は、試験No.1〜40と同様にして試験を行い、耐火花消耗性の評価を行った。結果を表3及び
図5に示す。
【0080】
【表3】
【0081】
表3及び
図5に示されるように、金属母材の結晶粒界に存在する前記酸化物粒の数が所定の範囲内であり、比(M/N)が0.85以下であると、耐火花消耗性の評価がより一層良好であった。
【0082】
[試験No.48〜54]
金属母材の組成が、Irが68質量%、Rhが20質量%、Ruが11質量%、Niが1質量%であること、FE−SEMによる観察領域における酸化物粒の占める面積割合が5%であること、酸化物の粉末粒度、金属粉末と酸化物の粉末との圧粉体の焼結温度、焼結時間等を調整することにより、金属母材の結晶粒の大きさを変化させたチップを用いたこと以外は、試験No.1〜40と同様にして試験を行い、耐火花消耗性の評価を行った。結果を表4及び
図6に示す。
【0083】
【表4】
【0084】
表4及び
図6に示すように、金属母材の結晶粒の平均粒径が3〜150μmの範囲内にあると、耐火花消耗性の評価がより一層良好であった。なお、金属母材の結晶粒の平均粒径が160μmのとき、チップから金属母材の結晶粒の脱落を生じた。
【0085】
[試験No.55〜63]
金属母材の組成が、Irが68質量%、Rhが20質量%、Ruが11質量%、Niが1質量%であること、FE−SEMによる観察領域における酸化物粒の占める面積割合が5%であること、酸化物の粉末の粒度、金属粉末と酸化物の粉末との圧粉体の焼結温度、焼結時間等を調整することにより、酸化物粒の大きさを変化させたチップを用いたこと以外は、試験No.1〜40と同様にして試験を行い、耐火花消耗性の評価を行った。結果を表5及び
図7に示す。
【0086】
【表5】
【0087】
表5及び
図7に示すように、酸化物粒の平均粒径が0.05〜30μmの範囲内にあるとき、耐火花消耗性の評価がより一層良好であった。
【0088】
[試験No.64〜69]
金属母材の組成が、Irが68質量%、Rhが20質量%、Ruが11質量%、Niが1質量%であること、FE−SEMによる観察領域における酸化物粒の占める面積割合が5%であること、円柱状のチップの径の長さを変化させたチップを用いたこと以外は、試験No.1〜40と同様にして試験を行い、耐火花消耗性の評価を行った。結果を表6及び
図8に示す。
【0089】
【表6】
【0090】
表6及び
図8に示すように、チップの径が1mmより小さいとき、耐火花消耗性の評価がより一層良好であった。
【0091】
[試験No.70〜75]
金属母材の組成が、Irが68質量%、Rhが20質量%、Ruが11質量%、Niが1質量%であること、FE−SEMによる観察領域における酸化物粒の占める面積割合が5%であること、チップの接地電極への溶接の程度を変化させたスパークプラグを用いたこと以外は、試験No.1〜40と同様にして試験を行い、耐火花消耗性の評価を行った。結果を表7及び
図9に示す。
【0092】
【表7】
【0093】
表7及び
図9に示すように、前記比(F/L)が0.6以上のとき、耐火花消耗性の評価がより一層良好であった。