【文献】
Masanori Ishigaki, Kennchi Ito, Shuji Tomura, Takaji Umeno,A New Isolated Multi-Port Converter Using Interleaving and Magnetic Coupling Inductor Technologies,Applied Power Electronics Conference and Exposition (APEC), 2013 Twenty-Eighth Annual IEEE ,2013年 3月21日,Page(s):1068 - 1074
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した如く、左右のフルブリッジ回路のデューティ比が同一であれば効率よく一方から他方へ電力を伝送することが可能であるが、デューティ比が互いに異なる場合には、非伝送期間での電流が増大し、変換効率が著しく悪化してしまう。従って、左右のフルブリッジ回路間でデューティ比を等しくする制約があり、このことはトランス中点に接続された直流ポートの電圧値を任意に選択することができないことを意味する。
【0005】
この点に鑑み、本願出願人は、先に特願2013−46572号にて、フルブリッジ回路を構成するハーフブリッジ回路間の相間位相差を制御することで、フルブリッジ間でデューティ比が異なっていても変換効率の悪化を抑制し得ることを提案している。しかしながら、この提案技術においても、未だ不十分な場合があり、更なる効率向上が求められている。特に、デッドタイム期間が存在する場合や電源電圧が変動する場合に効率低下が生じ得る問題がある。
【0006】
本発明の目的は、デッドタイム期間や電源電圧が変動する場合においても、高効率で電力を転送することができる、複数の入出力ポートを有する電力変換回路システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、1次側正極母線と1次側負極母線の間に、左アームと、右アームと、1次側コイルを備え、前記左アームは、直列接続された左アーム上トランジスタ及び左アーム
下トランジスタからなり、前記右アームは、直列接続された右アーム上トランジスタ及び右アーム下トランジスタからなり、前記1次側コイルは、前記左アームの接続点と前記右アームの接続点の間に接続される、1次側電力変換回路と、2次側正極母線と2次側負極母線の間に、左アームと、右アームと、2次側コイルを備え、前記左アームは、直列接続された左アーム上トランジスタ及び左アーム
下トランジスタからなり、前記右アームは、直列接続された右アーム上トランジスタ及び右アーム下トランジスタからなり、前記2次側コイルは、前記左アームの接続点と前記右アームの接続点の間に接続される、前記1次側電力変換回路に磁気結合した2次側電力変換回路と、前記1次側電力変換回路と前記2次側電力変換回路の間での電力伝送を制御する制御回路とを備え、前記制御回路は、前記1次側電力変換回路の前記左アーム及び前記右アームのデューティ比と、前記2次側電力変換回路の前記左アーム及び前記右アームのデューティ比が異なっている場合において、前記1次側電力変換回路と前記2次側電力変換回路の間での電力非伝送期間における電流がゼロとなるように、前記1次側電力変換回路の前記左アーム下トランジスタと前記右アーム下トランジスタの相間位相差、及び前記2次側電力変換回路の前記左アーム下トランジスタと前記右アーム下トランジスタの相間位相差の少なくともいずれかを、前記1次側電力変換回路及び前記2次側電力変換回路のオフ時間、並びに前記1次側電力変換回路及び前記2次側電力変換回路の
前記左アーム上トランジスタ及び前記左アーム下トランジスタがともにオフとなるデッドタイムdtとスイッチング角周波数ωswの積dt・ωswに基づき設定することを特徴とする。
【0008】
本発明の1つの実施形態では、前記制御回路は、前記1次側電力変換回路の前記左アーム下トランジスタと前記右アーム下トランジスタの相間位相差、及び前記2次側電力変換回路の前記左アーム下トランジスタと前記右アーム下トランジスタの相間位相差の少なくともいずれかを、さらに、入力電圧変動量に基づき設定することを特徴とする。
【0009】
本発明の他の実施形態では、前記制御回路は、前記1次側電力変換回路の前記左アーム下トランジスタと前記右アーム下トランジスタの相間位相差を、前記2次側電力変換回路のオフ時間に基づき設定し、前記2次側電力変換回路の前記左アーム下トランジスタと前記右アーム下トランジスタの相間位相差を、前記1次側電力変換回路のオフ時間及び前記デッドタイムに基づき設定することを特徴とする。
【0010】
本発明のさらに他の実施形態では、前記制御回路は、前記1次側電力変換回路の前記左アーム下トランジスタと前記右アーム下トランジスタの相間位相差を、前記2次側電力変換回路のオフ時間に基づき設定し、前記2次側電力変換回路の前記左アーム下トランジスタと前記右アーム下トランジスタの相間位相差を、前記1次側電力変換回路のオフ時間及び前記デッドタイム並びに前記入力電圧変動量に基づき設定することを特徴とする。
【0011】
本発明のさらに他の実施形態では、前記1次側コイルは、互いに磁気結合したコイル及びトランス1次側コイルから構成され、前記2次側コイルは、トランス2次側コイル及び前記トランス2次側コイルの中点に接続されるコイルから構成されることを特徴とする。
【0012】
本発明のさらに他の実施形態では、前記1次側コイルは、トランス1次側コイル及び前記トランス1次側コイルの中点に接続されるコイルから構成され、前記2次側コイルは、互いに磁気結合したコイル及びトランス2次側コイルから構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、デッドタイム期間や電源電圧が変動する場合においても、高効率で1次側と2次側の間で電力を転送することができる。また、本発明によれば、磁気素子の数を削減して変換効率を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。本実施形態の電力変換回路システムは、例えばハイブリッド自動車や電気自動車等の電動車両に搭載され得るが、これに限定されない。
【0016】
<前提回路システム>
まず、本実施形態において前提となる回路システムについて説明する。
【0017】
図1に、前提となる電力変換回路システム8を示す。電力変換回路システム8は、電力変換装置10と制御回路50から構成される。電力変換装置10は、4つの入出力ポートを有し、4つの入出力ポートから2つの入出力ポートA〜Dを選択し、選択された2つの入出力ポートの間で電力変換を行う。電力変換装置10は、1次側電力変換回路20と、2次側電力変換回路30を備え、1次側電力変換回路20と2次側電力変換回路30はトランス40により磁気結合される。
【0018】
1次側正極母線60と1次側負極母線62の間に、1次側左アーム23及び1次側右アーム27が互いに並列に接続される。1次側左アーム23は、互いに直列接続される1次側左アーム上トランジスタ22及び1次側左アーム下トランジスタ24から構成される。1次側右アーム27は、互いに直列接続される1次側右アーム上トランジスタ26及び1次側右アーム下トランジスタ28から構成される。
【0019】
入出力ポートA(PORT_A)は、1次側正極母線60と、1次側負極母線62の間に設けられる。入出力ポートC(PORT_C)は、1次側負極母線62と、コイル42,43の接続点であるセンタータップの間に設けられる。2次側電力変換回路30についても同様な構成である。入出力ポートA,B,C,Dには、それぞれ負荷や電源が接続される。
【0020】
トランス40は、1次側コイル39と、2次側コイル49を備える。1次側コイル39は、コイル41〜44が直列接続されて構成され、2次側コイル49は、コイル45〜48が直列接続されて構成される。コイル41,44は1次側の結合リアクトルを構成し、コイル45,48は2次側の結合リアクトルを構成する。
【0021】
制御回路50は、電力変換回路10を制御する各種パラメータを設定し、1次側電力変換回路20と2次側電力変換回路30のスイッチングトランジスタのスイッチング制御を行う。制御回路50は、電力変換モード決定処理部51と、位相差φ決定処理部52と、オフ時間δ決定処理部54と、相間位相差γ決定処理部56と、1次側スイッチング処理部58と、2次側スイッチング処理部59を含む。
【0022】
電力変換モード決定処理部51は、図示しない外部からのモード信号に基づいて、入出力ポートA〜Dのうちから2つの入出力ポートを選択し、選択された2つの入出力ポートの間で電力変換を行うモードを設定する。電力変換モードの1つは、入出力ポートAと入出力ポートBの間の双方向電力伝送モードである(これを絶縁コンバータモードと称する)。他の電力変換モードは、入出力ポートAと入出力ポートCの間、あるいは入出力ポートBと入出力ポートDの間で昇降圧を行うモード(これを昇降圧コンバータモードと称する)である。
【0023】
位相差φ決定処理部52は、電力変換装置10をDC/DCコンバータ回路として機能させるために、1次側電力変換回路20と2次側電力変換回路30の間のスイッチングトランジスタのスイッチング周期の位相差φを設定する。位相差φは、1次側コイル39の両端電圧V1と2次側コイル49の両端電圧V2の電圧波形の位相差である。
【0024】
オフ時間δ決定処理部54は、1次側電力変換回路20と2次側電力変換回路30をそれぞれ昇降圧回路として機能させるために、1次側電力変換回路20と2次側電力変換回路30のスイッチングトランジスタのオフ時間δ(デューティ比)を設定する。
【0025】
相間位相差γ決定処理部56は、両端電圧V1と両端電圧V2の電圧波形の位相差φがゼロであり、かつ、1次側と2次側の電圧波形のデューティ比が異なっていても、非伝送期間の循環電流をゼロとするように1次側電力変換回路20の相間位相差と2次側電力変換回路30の相間位相差を設定する。1次側の相間位相差は、1次側左アーム23と1次側右アーム27のスイッチング制御の位相差(ハーフブリッジ間の位相差)であり、具体的には1次側左アーム下トランジスタ24と1次側右アーム下トランジスタ28のスイッチング制御の位相差である。2次側の相間位相差γ2は、2次側左アーム33と2次側右アーム37のスイッチング制御の位相差(ハーフブリッジ回路間の位相差)であり、具体的には2次側左アーム下トランジスタ34と2次側右アーム下トランジスタ38のスイッチング制御の位相差である。
【0026】
1次側スイッチング処理部58は、電力変換モード決定処理部51、位相差φ決定処理部52、オフ時間δ決定処理部54及び相間位相差γ決定処理部56の出力に基づいて、1次側左アーム23及び1次側右アーム27の各スイッチングトランジスタをスイッチング制御する。
【0027】
2次側スイッチング処理部59は、電力変換モード決定処理部51、位相差φ決定処理部52、オフ時間δ決定処理部54及び相間位相差γ決定処理部56の出力に基づいて、2次側左アーム33及び1次側右アーム37の各スイッチングトランジスタをスイッチング制御する。
【0028】
図2に、オフ時間δ決定処理部54及び相間位相差γ決定処理部56の機能ブロック図を示す。なお、図において、アスタリスク(*)は指令値であることを示す。
【0029】
オフ時間δ決定処理部54は、電圧指令値V
A*と電圧値V
cを2π(1−Vc/V
A*)の関係式を用いてフィードフォワード制御を行うことにより求めた値と、電圧値V
Aに基づいたPI制御を行うことにより求めた値Δδ
1を加算することで1次側電力変換回路20のオフ時間指令値(1次側デューティ指令値)δ
1*を求める。また、電圧指令値V
B*と電圧値V
Dを2π(1−V
D/V
B*)の関係式を用いてフィードフォワード制御を行うことにより求めた値と、電圧値V
Bに基づいたPI制御を行うことにより求めた値Δδ
2を加算することで2次側電力変換回路30のオフ時間指令値(2次側デューティ指令値)δ
2*を求める。これにより、入出力ポートA,Bに接続される負荷に変動があった場合でも、この負荷変動に伴って変化した電圧値V
A,V
Bを考慮してオフ時間指令値(デューティ指令値)δ
1*、δ
2*を決定することができる。
【0030】
相間位相差γ決定処理部56は、γ
1*=2π−δ
2*の関係式を用いて1次側の相関位相差指令値γ
1*を求める。また、γ
2*=2π−δ
1*の関係式を用いて2次側の相間位相差指令値γ
2*を求める。
【0031】
制御回路50は、具体的にはプログラムメモリに記憶されたコンピュータプログラムを実行する、プロセッサ及びメモリを備えるECUで実現できる。複数のプロセッサで分担して処理してもよく、制御回路50の機能の一部を専用のハードウェアで実現してもよい。
【0032】
このような回路システム構成において、2種のモード、すなわち昇降圧コンバータモードと絶縁コンバータモードの動作について説明する。
【0033】
まず、昇降圧コンバータモードでは、例えば1次側の入出力ポートCと入出力ポートAに着目すると、入出力ポートCは、1次側コイル39のコイル41,42を介して1次側左アーム23の上下接続点に接続される。1次側左アーム23の両端は入出力ポートAに接続されているから、入出力ポートCと入出力ポートAの間には昇降圧回路が接続されることになる。また、入出力ポートCは、1次側右アーム27の上下接続点に接続される。1次側右アーム27の両端も入出力ポートAに接続されているから、入出力ポートCと入出力ポートAの間には他の昇降圧回路が接続されることになる。よって、入出力ポートCと入出力ポートAの間には、2つの昇降圧回路が並列に接続されることになる。同様に、2次側電力変換回路30についても、入出力ポートDと入出力ポートBの間には、左右のアーム33,37で2つの昇降圧回路が並列に接続されることになる。
【0034】
次に、絶縁コンバータモードでは、1次側の入出力ポートAと2次側の入出力ポートBに着目すると、入出力ポートAには1次側コイル39が接続され、入出力ポートBには2次側コイル49が接続される。従って、1次側電力変換回路20と2次側電力変換回路30のスイッチング周期の位相差φを調整することで、入出力ポートAに入力された電力を変換して入出力ポートBに伝送し、あるいは、入出力ポートBに入力された電力を変換して入出力ポートAに伝送できる。すなわち、1次側の両端電圧V1が2次側の両端電圧V2に対して進み位相であれば1次側電力変換回路20から2次側電力変換回路30に電力伝送し、2次側の両端電圧V2が1次側の両端電圧V1に対して進み位相であれば、2次側電力変換回路30から1次側電力変換回路20に電力伝送できる。
【0035】
絶縁コンバータモードにおいて、1次側デューティ指令値δ
1*と2次側デューティ指令値δ
2*が同一であれば問題ないが、1次側と2次側で異なる場合は、1次側の両端電圧V1と2次側の両端電圧V2の電圧波形が異なる波形となり、たとえ位相差φを0にしても1次側電力変換回路20と2次側電力変換回路30の間で電力伝送が行われてしまい、位相差φの調整で伝送制御できなくなる。このことは、1次側と2次側のデューティを常に等しくしなければならないという制約となってしまう。
【0036】
しかしながら、1次側の相間位相差指令値をγ
1*=2π−δ
2*の関係式を用いて算出するとともに、2次側の相間位相差指令値をγ
2*=2π−δ
1*の関係式を用いて算出する、すなわち、1次側相間位相差指令値を2次側デューティ指令値を考慮して設定し、2次側相間位相差指令値を1次側デューティ指令値を考慮して設定することで、たとえ1次側と2次側のデューティ指令値が異なっていても、両端電圧V1,V2の電圧波形を合わせこむことが可能となる。このことは、1次側と2次側のデューティ比を等しくしなければならないという制約を課す必要がないことを意味する。
【0037】
以上が前提となる回路構成システムであり、本実施形態は、このような回路構成システムをさらに改良したものである。
【0038】
<本実施形態の回路構成システム>
図3に、以上の回路システム構成を前提とした、本実施形態の電力変換回路システム8を示す。
図1の構成に加え、制御回路50に補正項決定処理部57が付加される。
【0039】
2次側の入出力ポートBに直流電源を接続し、1次側の入出力ポートAに電力を伝送する場合を例にとり説明する。
【0040】
補正項決定処理部57は、
図4に示すように、相間位相差γ決定処理部56で算出される相間位相差指令値を補正する機能ブロックであり、γ
1*=2π−δ
2*、及びγ
2*=2π−δ
1*の関係式を用いて算出される相間位相差指令値をさらに補正するものである。すなわち、デッドタイム期間や入力電圧変動により両端電圧V1,V2の電圧波形が変化し、その電圧波形が互いに相違し得るため、これらの影響を考慮して相間位相差指令値を補正して、両端電圧V1.V2の電圧波形をより高精度に一致させる。
【0041】
補正項決定処理部57は、具体的には、
Δγ
2=dt・ω
sw+(2π―δ
1*)(1−NV
A/V
B) ・・・(1)
但し、dt:デッドタイム
ω
sw:スイッチング角周波数
N:トランス40の巻き数比
VA:1次側電圧
VB:2次側電圧
により補正項を算出し、この補正項をγ
2*=2π―δ
1*により算出された指令値に加算することで補正する。要するに、
γ
1*=2π―δ
2*
γ
2*=2π―δ
1*+Δγ
2
=2π―δ
1*+dt・ω
sw+(2π―δ
1*)(1−NV
A/V
B)
の関係式を用いて相間位相差指令値を算出する。上記の(1)式の右辺第1項はデッドタイムに対応した補正項であり、右辺第2項は入力電圧変動に対応した補正項である。
【0042】
次に、補正項Δγ2について、右辺第1項と右辺第2項に分けてより詳しく説明する。
【0043】
<右辺第1項:デッドタイム補正項>
図5に、2次側から1次側へ電力を伝送する場合の、各スイッチングトランジスタの動作波形を示す。図において、S1〜S4は1次側電力変換回路20の各スイッチングトランジスタ22,24,26,28に対応し、S5〜S8は2次側電力変換回路30の各スイッチングトランジスタ32,34,36,38に対応する(
図1を参照)。図において、「S1,S2」は、S1及びS2のスイッチングタイミングを示す。S1及びS2は交互にオンオフする。「S3,S4」、「S5,S6」、「S7,S8」についても同様である。「NV1」は、1次側の電圧、つまり両端電圧V1とトランス巻き数Nの積で示される電圧波形であり、「V2」は2次側の両端電圧V2の電圧波形であり、「iu」は1次側の電流である。網掛けの部分がデッドタイム期間に対応する。図では、位相差φ、デッドタイム期間の長さλを併せて示す。また、例示的に区間[1]〜[4]を示す。
【0044】
図6に、
図5の区間[1]でのスイッチングトランジスタS1〜S8のオンオフ状態を示す。S1,S4,S5,S8がオン状態であり、それ以外はオフ状態である。このときの電流の流れは図に示す通りである。2次側(送電側)では、S5及びS8がオンであるため、S5→コイル46,47→S8と電流が流れる。また、1次側(受電側)ではS1及びS4がオンであるため、S4→コイル42,43→S1と電流が流れる。
【0045】
図7に、
図5の区間[2]でのスイッチングトランジスタS1〜S8のオンオフ状態を示す。S1,S4,S8がオン状態であり、それ以外はオフ状態である。区間[2]では、区間[1]と比べてS5がオン状態からオフ状態に遷移するが、2次側(送電側)のS5がオフすると、S6に並列に接続されたダイオードを介して電流が流れ続け、2次側の両端電圧V2はゼロに降下する。従って、2次側(送電側)の両端電圧V2を決めるのは、上アームのS5のオンオフとなる。
【0046】
図8に、
図5の区間[3]でのスイッチングトランジスタS1〜S8のオンオフ状態を示す。S1,S4,S6,S8がオン状態であり、それ以外はオフ状態である。
【0047】
図9に、
図5の区間[4]でのスイッチングトランジスタS1〜S8のオンオフ状態を示す。S4,S6,S8がオン状態であり、それ以外はオフ状態である。区間[4]では、区間[3]と比べてS1がオン状態からオフ状態に遷移するが、1次側(受電側)のS1がオフすると、S1に並列に接続されたダイオードを介して電流が流れ続け、S2がオンしない限り1次側の両端電圧V1はゼロにならない。従って、1次側(受電側)の両端電圧V1を決めるのは、下アームのS2のオンオフとなる。
【0048】
通常、
図3に示すようなハーフブリッジ回路を備える回路システムでは、上下のスイッチングトランジスタが短絡しないように、数百ナノ秒〜数マイクロ秒程度のデッドタイムが設けられる。
図5において、S1とS2、S3とS4、S5とS6、S7とS8がともにオフとなるデッドタイム期間が設けられる所以である。他方、デッドタイムが存在すると、上記のように送電側と受電側でトランス40の両端電圧V1,V2を決めるアームが異なるため、両端電圧V1,V2のパルス幅に差異が生じる。すなわち、2次側(送電側)のパルス幅は、1次側(受電側)のパルス幅に対して、デッドタイムdt分だけ削れる(パルス幅が縮小する)ことになる。
【0049】
従って、両端電圧V1,V2を同一波形とするためには、2次側(送電側)の両端電圧V2のパルス幅に、削れたデッドタイムdt分だけ加算すればよいことになる。すなわち、
デッドタイム補正項=dt・ω
sw
とすればよい。
【0050】
図10に、デッドタイム補正項がない場合の両端電圧V1,V2の電圧波形及び1次側の電流iuのコンピュータシミュレーション結果を示す。dt≠0として、D
1>D
2、巻き数比Nとした場合である。
図10(a)は両端電圧V1,V2の波形であり、
図10(b)は1次側電流iuの波形である。1次側と2次側のデューティ比が異なっていることに留意されたい。
図10(a)から分かるように、NV1とV2では図中aで示すようにパルス幅に差異が生じており、V2の方がパルス幅が縮小している。また、
図10(b)から分かるように、両端電圧V1,V2がたとえゼロであっても、1次側電流iuがゼロとならず、非伝送期間において循環電流が生じてしまっている。循環電流は、伝送期間においてインダクタに蓄積されたエネルギを1次側のポートから出力しきれないため非伝送期間において1次側で電流が循環してしまうものであり、循環電流の発生は変換効率の低下を招く。
【0051】
他方、
図11に、デッドタイム補正項がある場合の両端電圧V1,V2の電圧波形及び1次側の電流iuを示す。
図11(a)は両端電圧V1,V2の波形であり、
図11(b)は1次側電流iuの波形である。
図11(a)から分かるように、NV1とV2では図中aで示すようにパルス幅の相違が
図10の場合よりも補正されており、ほぼ同一波形となっている。また、
図11(b)から分かるように、非伝送期間における循環電流が抑制されており、変換効率が向上している。
【0052】
<右辺第2項:電圧変動補正項>
入出力ポートBに接続される電源電圧の変動によっても、両端電圧V1,V2の電圧波形に差異が生じ、循環電流が生じ得る。
【0053】
図12に、入出力ポートBの電源電圧VBが上昇し、NV1<V2の場合の電圧波形及び1次側電流iuの波形を示す。
図12(a)はV2及びNV1の電圧波形であり、
図12(b)はiuの電流波形である。
図12(b)に示すように、非伝送期間において循環電流が生じている。
【0054】
図13に、入出力ポートBの電源電圧VBが下降し、NV1>V2の場合の電圧波形及び1次側電流Iuの波形を示す。
図13(a)はV2及びNV1の電圧波形であり、
図13(b)はiuの電流波形である。この場合においても、
図13(b)に示すように、非伝送期間において循環電流が生じている。
【0055】
このように、電源電圧が上下に変動すると循環電流が生じてしまうが、
図12及び
図13に示すような循環電流を抑制するためには、
図12及び
図13に示す区間[1]〜[3]における電流の変化量の総和をゼロとすればよい。この総和をゼロとするために必要なパルス幅補正量は、
電圧変動補正項=(2π−δ
1*)(1−NV
A/V
B)
とすればよい。NV
A/V
Bは、入力電源電圧VBの変動量であり、電圧変動補正項は、電源電圧の変動量に応じて設定される。
【0056】
図14に、電圧変動補正項がない場合の、入出力ポートBに接続された電源電圧V
Bが下降した場合のシミュレーション結果を示す。
図14(a)は両端電圧V1,V2の波形であり、
図14(b)は電流iuの波形である。非伝送期間において循環電流が生じている。
【0057】
図15に、電圧変動補正項がある場合の、入出力ポートBに接続された電源電圧V
Bが下降した場合のシミュレーション結果を示す。
図15(a)は両端電圧V1,V2の波形であり、
図15(b)は電流iuの波形である。非伝送期間において循環電流が抑制されている。入出力ポートBに接続された電源電圧VBが上昇した場合も同様である。
【0058】
以上のように、本実施形態では、1次側と2次側で異なるデューティで動作する条件下において、デッドタイム補正項及び電圧変動補正項を用いて相間位相差指令値を補正することで、たとえデッドタイム期間が存在し、あるいは電源電圧が変動したとしても非伝送期間における循環電流を抑制して変換効率を向上することができる。
【0059】
なお、電源電圧がコントロールされており、その電圧変動がない、若しくは無視できる程度の場合には、デッドタイム補正項のみで補正すればよい。この場合、
Δγ
2=dt・ω
sw
となる。このことは、上記の(1)式において、電源電圧の変動がない場合、位相差φがゼロにおいてNV
A=V
Bであるから、右辺第2項の電圧変動補正項がゼロとなることから明らかである。
【0060】
また、本実施形態では、2次側の相間位相差指令値γ
2*を補正したが、1次側の相間位相差指令値γ
1*をデッドタイムや電源電圧変動量で補正して電圧波形を一致させてもよく、あるいは両方を補正して電圧波形を一致させてもよい。
【0061】
さらに、本実施形態において、1次変換回路20と2次変換回路30の間で電力伝送する際に、結合リアクトル41,44、1次側及び2次側コイル42,43,46,47、結合リアクトル45,48の3つの磁気素子を通るため、ジュール熱が増大するとともに、ハーフブリッジ間制御で電流リプルが増大する。そこで、
図16に示すように、結合リアクトル45,48をなくすとともに、トランス2次側コイル46,47の接続点にリアクトル100を接続し、片側昇降圧コンバータモードと絶縁コンバータモードに必要なL値は、一方の結合リアクトル41,44で機能させ、もう片側の昇降圧コンバータモードはリアクトル100で機能させることで、磁気素子を削減して変換効率をさらに向上することが可能である。また、磁気素子の数を削減することで、その分だけ回路設計が容易となる利点もある。勿論、
図3において、結合リアクトル41,44をなくすとともに、トランス1次側コイル42,43の接続点にリアクトル100を接続してもよい。
図17に、この場合の回路システム構成を示す。要するに、1次側電力変換回路20及び2次側電力変換回路30のいずれか一方の結合リアクトルを排除し、それに代えてトランスコイルの接続点にリアクトルを接続すればよい。