【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人情報通信研究機構、「高度通信・放送研究開発委託研究/革新的光ファイバの実用化に向けた研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも2つの前記コア被覆ロッドが互いに隣り合って前記スートと接触する位置に配置されると共に、これらの前記コア被覆ロッドよりも小径の充填用ガラスロッドが前記スートと接触するようにこれらの前記コア被覆ロッドと接して配置され、
前記充填用ガラスロッドの軟化温度は、堆積した前記スートが透明ガラス化した際の温度よりも低い
ことを特徴とする請求項1に記載のマルチコアファイバ用母材の製造方法。
前記バンドル工程において、それぞれの前記ガラスロッドの一方の端部がダミーガラスロッドに固定されると共にそれぞれの前記ガラスロッドの他方の端部が他のダミーガラスロッドに固定されることで、前記複数のガラスロッドが束ねられた状態を維持する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のマルチコアファイバ用母材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献2に記載のようにコア被覆ロッドの外径を正六角形にするには、作成した円柱状のコア被覆ロッドを切削する必要があり手間がかかる。そこで、円柱状のコア被覆ロッド(ガラスロッド)を複数本束ねて、束ねたコア被覆ロッドの外周にスートを堆積させることが考えられる。
【0009】
しかし、このようにスートを堆積させるとスートを透明ガラス体化させる焼結工程において、スートに由来するガラス部分と、ガラスロッドに由来するガラス部分との間に空隙が生じることが分かった。
【0010】
この原因は次のように考えられる。すなわち、焼結工程において、複数のガラスロッドの周りにスートが堆積した部材を加熱すると、ガラスロッドよりも外周側に位置する個々のスートがガラスロッド周囲のスートよりも早く透明ガラス化が起こる。透明ガラス化の際、特に外周側のスートはガラスロッド近傍に位置する内周側のスートよりも加熱され易くより早く透明ガラス化が進行する。従って、外周側のスートが、内周側のスートより早く粘性流動を起こして隙間の無い透明ガラス体となる。そして内周側のスートが粘性流動を起こし透明ガラス体となる際、このとき既に一体となった外周側のガラス体にスートが取り込まれている傾向がある。こうして、内周側のスートが一体のガラスとなる段階で外周側に寄せられ、その結果、上記の空隙が生じるのである。
【0011】
そこで、本発明は、不要な隙間が形成されることを抑制することができるマルチコアファイバ用母材の製造方法及びマルチコアファイバの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のマルチコアファイバ用母材の製造方法は、コアとなるコアロッドの外周面がクラッドの一部となるクラッドガラス層で被覆された複数のコア被覆ロッドを含む複数のガラスロッドを束ねるバンドル工程と、束ねられた前記複数のガラスロッドの外周面上に前記クラッドの他の一部となるスートを堆積する外付工程と、前記スートが堆積した前記複数のガラスロッドを加熱して前記スートと前記ガラスロッドとを一体の透明ガラス体とする焼結工程と、を備え、前記スートと接触する位置に配置される前記ガラスロッドにおける前記スートと接触する部分の軟化温度は、堆積した前記スートが透明ガラス化する際の温度よりも低いことを特徴とするものである。
【0013】
このようなマルチコアファイバ用母材の製造方法によれば、束ねられた複数のコア被覆ロッドを含む複数のガラスロッドの外周面上にスートを外付で堆積するため、径の大きなマルチコアファイバ用母材を製造することができる。そしてスートが堆積するガラスロッドのスートと接触する部分の軟化温度はガラスロッド上に堆積したスートが透明ガラス化する温度よりも低い。従って、焼結工程では、当該部分がスートよりも先に粘性流動を起こす傾向にあり、スートをガラスロッドの粘性流動を起こした部分に取り込ませることができる。このため、スートがガラスロッド側から次々と取り込まれて一体の透明ガラスとなる。こうして製造されるマルチコアファイバ用母材に不要な隙間が形成されることを抑制することができる。
【0014】
また、前記スートと接触する位置に配置される前記ガラスロッドの少なくとも一部は前記コア被覆ロッドであり、前記スートと接触する位置に配置される前記コア被覆ロッドの前記クラッドガラス層の軟化温度は、堆積した前記スートが透明ガラス化する際の温度よりも低いことが好ましい。
【0015】
このような構成によれば、スートが付着する位置に配置されるコア被覆ロッドにおいて、クラッドガラス層の外周側の部位のみをスートよりも軟化温度の低い構成とする必要が無く、クラッドガラス層全体を同じ構成にすることができる。従って、スートが付着する位置に配置されるコア被覆ロッドの構成が複雑化することを抑制することができる。そして、焼結工程においてクラッドガラス層がスートよりも早く溶けることで、スートがクラッドガラス層と一体となって、不要な隙間が抑制されたクラッドを形成することができる。
【0016】
この場合、少なくとも2つの前記コア被覆ロッドが互いに隣り合って前記スートと接触する位置に配置されると共に、これらの前記コア被覆ロッドよりも小径の充填用ガラスロッドが前記スートと接触するようにこれらの前記コア被覆ロッドと接して配置され、前記充填用ガラスロッドの軟化温度は、堆積した前記スートが透明ガラス化する際の温度よりも低いことが好ましい。
【0017】
互いに隣り合うコア被覆ロッドと接触するように小径の充填用ガラスロッドが配置されることで、これらのコア被覆ロッドの外周面間の隙間を埋めることができ、製造されるマルチコアファイバ用母材の外周面をより円形に近づけることができる。この場合においても、充填用ガラスロッドの軟化温度が、スートが透明ガラス化する際の温度よりも低いため、焼結工程において、スートと充填用ガラスロッドとの間に隙間ができることを抑制することができ、製造されるマルチコアファイバ用母材に不要な隙間が形成されることを抑制することができる。
【0018】
さらにこの場合、前記充填用ガラスロッドの軟化温度は、前記充填用ガラスロッドと接する前記コア被覆ロッドの前記クラッドガラス層の軟化温度よりも低いことが好ましい。
【0019】
充填用ガラスロッドの軟化温度が、クラッドガラス層の軟化温度よりも低いことで、焼結工程において充填用ガラスロッドがクラッドガラス層よりも先に粘性流動を起こす。従って、焼結工程前に充填用ガラスロッドとコア被覆ロッドとの間に生じる隙間を、焼結工程において粘性流動を起こした充填用ガラスロッドでより適切に埋めることができる。従って、製造されるマルチコアファイバ用母材に不要な隙間が形成されることをより抑制することができる。
【0020】
また、前記スートと接触する位置に配置される前記ガラスロッドの前記スートと接触する前記部分はフッ素が添加されたシリカガラスであり、前記スートは純粋なシリカガラスであることとしても良い。
【0021】
この場合、前記焼結工程は、フッ素系ガスを含む雰囲気内で行うことが好ましい。
【0022】
この場合、スートが粘性流動を起こす際にスートにフッ素が添加され、ガラスロッドのスートと接触する部分との光学的特性が異なることを抑制することができる。
【0023】
また、前記バンドル工程において、それぞれの前記ガラスロッドの一方の端部がダミーガラスロッドに固定されると共にそれぞれの前記ガラスロッドの他方の端部が他のダミーガラスロッドに固定されることで、前記複数のガラスロッドが束ねられた状態を維持することが好ましい。
【0024】
このようにそれぞれのガラスロッドが束ねられた状態を維持することで、束ねられたガラスロッドの外周面上の全体にスートを堆積させることができる。従って、束ねられたガラスロッド全体をマルチコアファイバ用母材とすることができる。
【0025】
また、本発明のマルチコアファイバの製造方法は、上記いずれかに記載のマルチコアファイバ用母材の製造方法により製造されるマルチコアファイバ用母材を線引きする線引工程を備えることを特徴とするものである。
【0026】
このようなマルチコアファイバの製造方法によれば、線引きされるマルチコアファイバ用母材が不要な隙間が形成されることが抑制されているため、不要な隙間の形成が抑制されたマルチコアファイバを得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明によれば、不要な隙間が形成されることを抑制することができるマルチコアファイバ用母材の製造方法及びマルチコアファイバの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係るマルチコアファイバ用母材の製造方法、及び、これを用いたマルチコアファイバの製造方法の好適な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0030】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るマルチコアファイバを示す図である。
図1に示すように本実施形態のマルチコアファイバ1は、複数のコア10と、複数のコア10の外周面を隙間なく囲むクラッド20と、クラッド20の外周面を被覆する内側保護層31と、内側保護層31の外周面を被覆する外側保護層32と、を備える。なお、本実施形態では、コア10の数が3つの場合について説明する。
【0031】
本実施形態のマルチコアファイバ1では、それぞれのコア10が互いに所定距離離れて等間隔で配置されている。それぞれのコア10の直径は、例えば、6μm〜10μmとされ、クラッド20の直径は、例えば、125μm〜230μmとされる。また、それぞれのコア10の屈折率はクラッド20の屈折率よりも高く、それぞれのコア10のクラッド20に対する比屈折率差は、例えば、0.3%〜0.5%とされる。
【0032】
本実施形態では、コア10はゲルマニウム等の屈折率が高くなるドーパントが添加されたシリカガラスから成り、クラッド20はフッ素が添加されたシリカガラスから成る。
【0033】
次に、マルチコアファイバ1の製造方法について説明する。
【0034】
図2は、マルチコアファイバ1の製造方法を示すフローチャートである。
図2に示すように、マルチコアファイバ1の製造方法は、バンドル工程P1、外付工程P2、焼結工程P3、線引工程P4を主な工程として備える。
【0035】
<バンドル工程P1>
本工程では、まず、
図1のマルチコアファイバ1におけるコア10となるコアロッド10Rの外周面がクラッド20の一部となるクラッドガラス層20Rで被覆された複数のコア被覆ロッド2を準備する。
図1に示すように本実施形態では、コア10の数が3つであるため、3本のコア被覆ロッド2を準備する。
【0036】
本実施形態では、それぞれのコア被覆ロッド2が互いに同じ大きさで同じ構成とされる。上記のようにコアロッド10Rはコア10となるためコア10と同じ材料から構成され、クラッドガラス層20Rはクラッド20と同様の材料から構成される。
【0037】
次にコア被覆ロッド2を束ねる位置に配置する。このときにコアロッド10Rの中心間距離が同じとなるように配置する。そして、束ねられる位置に配置されたコア被覆ロッド2を結束バンド51により結束する。結束バンド51は、樹脂製であっても金属製であっても良いが、コア被覆ロッド2の外周面に傷がつくことを防止する観点では樹脂製であることが好ましく、耐熱性が高い点においては金属製であることが好ましい。こうして、
図3に示すようにそれぞれのコア被覆ロッド2が結束された状態となる。
【0038】
なお、特に図示しないが、コア被覆ロッド2を束ねる際、コア被覆ロッド2を束ねた状態でコア被覆ロッド2に囲まれる空間となるべき位置(3つのコア被覆ロッド2で囲まれるべき位置)に充填用ガラスロッドを配置しても良い。この場合、当該空間に配置される充填用ガラスロッドはクラッドガラス層と同様の材料から成ることが好ましい。
【0039】
次に結束されたそれぞれのコア被覆ロッド2の両端部にダミーガラスロッドを固定する。
図4は、このようにそれぞれのコア被覆ロッド2にダミーガラスロッドが固定された様子を示す図である。まず、コア被覆ロッド2が結束バンド51で結束された状態で、それぞれのコア被覆ロッド2の一方の端部に1つのダミーガラスロッド52を固定する。次に、それぞれのコア被覆ロッド2の他方の端部に他の1つのダミーガラスロッド52を固定する。この固定は溶着に行うことが不純物がコア被覆ロッド2に付着することを抑制できる観点から好ましい。このようにそれぞれのコア被覆ロッド2の両端にダミーガラスロッド52を固定することで、それぞれのコア被覆ロッド2が束ねられた状態を維持することができる。次に、それぞれのコア被覆ロッド2を結束していた結束バンド51を外す。こうして、
図4に示すように複数のコア被覆ロッド2が束ねられた状態となる。
【0040】
なお、本工程は結束バンド51を用いてそれぞれのコア被覆ロッド2を束ねた後、ダミーガラスロッド52にそれぞれのコア被覆ロッド2を溶着したが、必ずしもこのような手順とする必要はない。例えば、1つのコア被覆ロッド2の両端にダミーガラスロッド52を適切な位置に固定する。次に他の1つのコア被覆ロッド2を既にダミーガラスロッド52に固定されているコア被覆ロッド2と隣り合うように配置して、配置された他の1つのコア被覆ロッド2の両端をそれぞれのダミーガラスロッド52に固定する。さらに最後のコア被覆ロッド2を既にダミーガラスロッド52に固定されている2つのコア被覆ロッド2と隣り合うように配置して、配置された最後のコア被覆ロッド2の両端をそれぞれのダミーガラスロッド52に固定する。このようにそれぞれのコア被覆ロッド2をダミーガラスロッド52に固定しても、
図4に示すように複数のコア被覆ロッド2が束ねられた状態となる。
【0041】
<外付工程P2>
図5は外付工程P2の様子を示す図である。外付工程P2は、例えば、OVD(Outside vapor deposition method)法により行い、バンドル工程P1で束ねられたそれぞれのコア被覆ロッド2の外周面上にクラッド20の一部となるスート3を堆積する。
【0042】
まず、それぞれのダミーガラスロッド52を不図示の旋盤のチャックに固定して、束ねられた複数のコア被覆ロッド2をダミーガラスロッド52の軸中心に回転させる。そして、
図5に示すように複数のコア被覆ロッド2を回転させながら、クラッド20となるスート3を堆積する。このとき、クラッドガラス層20Rの軟化温度は、堆積したスート3が後述する透明ガラス化する際の温度よりも低くなるようにする。例えば、上記のようにクラッドガラス層20Rがフッ素が添加されたシリカガラスから成る場合、スート3は、純粋なシリカガラスや、クラッドガラス層20Rよりも低濃度のフッ素が添加されたシリカガラスとされる。
【0043】
堆積するスート3は、流量が制御されたキャリアガスにより、気化されたSiCl
4を酸水素バーナ53の火炎中に導入してSiCl
4からSiO
2(シリカガラス)とすると共に、酸水素バーナ53をコア被覆ロッド2の長手方向に複数回往復移動させながら、SiO
2のスート3をそれぞれのコア被覆ロッド2の外周面を被覆するように堆積する。このスート3の堆積により、クラッド20の一部となるガラス多孔体が形成される。このとき、スート3が上記のように何らドーパントが添加されないシリカガラスにより構成される場合には、特にドーパントを加えずにスート3を堆積する。また、スート3にドーパントが添加される場合には、気化されたSiCl
4と共に添加量がコントロールされたドーパントを含有するガスを酸水素バーナの火炎内に導入する。上記のようにスート3がクラッドガラス層20Rよりも低濃度のフッ素が添加されたシリカガラスにより構成される場合には、気化されたSiCl
4と共に気化されたSiF
4を酸水素バーナの火炎内に導入する。
【0044】
このときスート3は、互いに隣り合うコア被覆ロッド2の間にも入り込んで堆積される。このコア被覆ロッド2の間とは、互いに隣り合うコア被覆ロッド2の外周面間のことであり、互いに隣り合うコア被覆ロッド2が互いに離間している必要はない。こうして必要な回数だけ酸水素バーナ53を移動させて、
図6に示すようにスート3が必要な量堆積された状態となる。
【0045】
こうして束ねられた複数のコア被覆ロッド2の外周面上にスート3が堆積された状態となる。この堆積したスート3は多孔質体とされる。
【0046】
<焼結工程P3>
図6に示すスート3が堆積したコア被覆ロッド2を得た後、必要に応じて脱水を行う。脱水は、ヒータが設けられ、Ar、He等のガスが充填された炉内で所定時間エージングされることで行われる。
【0047】
次に焼結工程を行う。焼結工程は、炉内を減圧し、炉内の温度を更に上げてスート3が多孔質体から透明なガラス体となるまで焼結工程を行う。このとき用いる炉は上記の脱水に用いる炉であっても良く、上記脱水に用いる炉と異なる炉であっても良い。
【0048】
上記のようにコア被覆ロッド2のクラッドガラス層20Rの軟化温度は堆積したスート3が透明ガラス化する際の温度よりも低いため、炉の温度を上げると、クラッドガラス層20Rがスート3よりも先に軟化温度に達して粘性流動を起こす。そのため、クラッドガラス層20Rに接触しているスート3は粘性流動を起こしたクラッドガラス層20Rに取り込まれ、次に、取り込まれたスート3よりも外周側に位置するスート3がクラッドガラス層20Rに取り込まれる。そして時間と共に炉内の温度が更に上昇するため、スート3が次々にクラッドガラス層20Rに取り込まれながらスート3が粘性流動を起こす。このため、スート3とクラッドガラス層20Rとの間に隙間ができることが抑制されて、スート3とクラッドガラス層20Rとが一体の透明ガラス体となる。
【0049】
このとき、コア被覆ロッド2のコアロッド10Rは殆ど変化することなく
図7に示すマルチコアファイバ用母材1Pの母材コア部10Pとなる。また、コア被覆ロッド2のクラッドガラス層20Rがマルチコアファイバ用母材1Pの母材クラッド部20Pの一部となりスート3が母材クラッド部20Pの他の一部となる。こうして、マルチコアファイバ用母材1Pを得る。
【0050】
なお、クラッドガラス層20Rが上記のようにフッ素が添加されたシリカガラスから成る場合には、本工程をフッ素系ガスを含む雰囲気で行うことが好ましい。具体的には、本工程を行う炉内にCF
4,C
2F
6,C
4F
8,CC1
2F
2,SiF
4,Si
2F
6,SF
6,NF
3,F
2等のフッ素系ガスを導入する。このような工程とすることで、スート3が透明ガラス化する際にスート3内にフッ素が添加される傾向にあり、クラッドガラス層20Rと炉内でフッ素が添加されたスートとの屈折率差を小さくすることができる。この場合であっても、スート3が透明ガラス化するまでスート3内にフッ素が取り込まれづらく、スート3が透明ガラス化するよりもクラッドガラス層20Rが粘性流動を起こす方が早いため、上記のようにクラッドガラス層20Rにスート3を取り込むことができる。
【0051】
<線引工程P4>
図8は、線引工程P4の様子を示す図である。まず、線引工程P4を行う準備段階として、上記工程によりマルチコアファイバ用母材1Pを紡糸炉110に設置する。
【0052】
次に、紡糸炉110の加熱部111を発熱させて、マルチコアファイバ用母材1Pを加熱する。このときマルチコアファイバ用母材1Pの下端は、例えば2000℃に加熱され溶融状態となる。そして、マルチコアファイバ用母材1Pからガラスが溶融して、ガラスが線引きされる。そして、線引きされた溶融状態のガラスは、紡糸炉110から出ると、すぐに固化して、母材コア部10Pがコア10となり、母材クラッド部20Pがクラッド20となることで、複数のコア10とクラッド20とから構成されるマルチコアファイバ素線となる。その後、このマルチコアファイバ素線は、冷却装置120を通過して、適切な温度まで冷却される。冷却装置120に入る際、マルチコアファイバ素線の温度は、例えば1800℃程度であるが、冷却装置120を出る際には、マルチコアファイバ素線の温度は、例えば40℃〜50℃となる。
【0053】
冷却装置120から出たマルチコアファイバ素線は、内側保護層31となる紫外線硬化性樹脂が入ったコーティング装置131を通過し、この紫外線硬化性樹脂で被覆される。更に紫外線照射装置132を通過し、紫外線が照射されることで、紫外線硬化性樹脂が硬化して内側保護層31が形成される。次に内側保護層31で被覆されたマルチコアファイバは、外側保護層32となる紫外線硬化性樹脂が入ったコーティング装置133を通過し、この紫外線硬化性樹脂で被覆される。更に紫外線照射装置134を通過し、紫外線が照射されることで、紫外線硬化性樹脂が硬化して外側保護層32が形成され、
図1に示すマルチコアファイバ1となる。
【0054】
そして、マルチコアファイバ1は、ターンプーリー141により方向が変換され、リール142により巻取られる。
【0055】
こうして
図1に示すマルチコアファイバ1が製造される。
【0056】
以上説明したように、本実施形態によるマルチコアファイバ用母材1Pの製造方法によれば、束ねられた複数のコア被覆ロッド2の外周面上にスート3を外付で堆積するため、径の大きなマルチコアファイバ用母材1Pを製造することができる。そしてスート3が堆積するコア被覆ロッド2のスート3と接触する部分であるクラッドガラス層20Rの軟化温度は、堆積したスート3が透明ガラス化する際の温度よりも低い。従って、焼結工程P3では、クラッドガラス層20Rがスート3よりも先に粘性流動を起こす傾向にあり、スート3をコア被覆ロッド2の粘性流動を起こしたクラッドガラス層20Rに吸収させることができる。このため、スート3がコア被覆ロッド2側に移動しながら一体となる。こうして製造されるマルチコアファイバ用母材1Pに不要な隙間が形成されることを抑制することができる。従って、本実施形態のマルチコアファイバ用母材1Pの製造方法によれば、不要な空間が無いマルチコアファイバ用母材1Pを製造できたり、マルチコアファイバ用母材1Pに不要な空間が生じる場合であっても、クラッドガラス層20Rの軟化温度とスート3が透明ガラス化する際の温度とが同じ場合と比べて、当該空間の大きさを小さくすることができる。
【0057】
従って、このようなマルチコアファイバ用母材1Pを線引きして得られるマルチコアファイバ1は、不要な空間が形成されることが抑制され、コア10が変形することを抑制することができ良好な通信状態とすることができたり、設計値と異なって強度が弱くなることを抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態のコア被覆ロッド2では、クラッドガラス層20R全体としてその軟化温度が、堆積したスート3が透明ガラス化する際の温度よりも低い構成とされている。従って、クラッドガラス層20Rの外周側の部位のみをスート3が透明ガラス化する際の温度よりも低い構成としていない分、コア被覆ロッドの構成が複雑化することを抑制することができる。
【0059】
また、スート3が純粋なシリカガラスである場合には、スート3を堆積するためのバーナに添加物となるドーパントが添加されたガスを酸水素バーナから噴射される火炎内に導入する必要が無い。このため、外付工程P3が容易となる。
【0060】
また、本実施形態では、それぞれのコア被覆ロッド2の両端がダミーガラスロッド52に固定されることで、それぞれのコア被覆ロッド2の束ねられた状態が維持されている。このため、束ねられたコア被覆ロッド2の外周面全体にスートを堆積させることができる。従って、束ねられたコア被覆ロッド2全体をマルチコアファイバ用母材1Pとすることができる。
【0061】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について
図9,10を参照して詳細に説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0062】
本実施形態においても製造されるマルチコアファイバは、第1実施形態で説明したマルチコアファイバ1である。従って、本実施形態でマルチコアファイバ1となるマルチコアファイバ用母材は、マルチコアファイバ用母材1Pである。
【0063】
次に本実施形態のマルチコアファイバ1の製造方法について説明する。
【0064】
本実施形態においても第1実施形態と同様にして、マルチコアファイバ1の製造方法は、バンドル工程P1、外付工程P2、焼結工程P3、線引工程P4を主な工程として備える。
【0065】
<バンドル工程P1>
図9は、本実施形態のバンドル工程P1後の様子を示す図である。
図9に示すように、本実施形態のバンドル工程P1は、互いに隣り合うコア被覆ロッド2のそれぞれに接して外周側に露出する充填用ガラスロッド4が更に配置される点において、第1実施形態におけるバンドル工程P1と異なる。
【0066】
充填用ガラスロッド4は、充填用ガラスロッド4が接するそれぞれのコア被覆ロッド2よりも小径とされる。また、本実施形態では、充填用ガラスロッド4の軟化温度は、コア被覆ロッド2のクラッドガラス層20Rの軟化温度よりも低くされる。クラッドガラス層20Rが上記のようにフッ素が添加されたシリカガラスである場合、例えば、充填用ガラスロッド4は、クラッドガラス層20Rよりも濃度の高いフッ素が添加されたシリカガラスとされる。
【0067】
本実施形態では、まずそれぞれのコア被覆ロッド2を第1実施形態のバンドル工程P1と同様に束ねた後、互いに隣り合うコア被覆ロッド2と接するように充填用ガラスロッド4を配置して、複数のコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4を含む複数のガラスロッドを結束バンドで結束する。その後、それぞれのガラスロッドの両端にそれぞれダミーガラスロッド52を固定する。この固定は第1実施形態におけるダミーガラスロッド52の固定と同様の理由から溶着により行うことが好ましい。こうして、
図9に示すように複数のコア被覆ロッド2を含む複数のガラスロッドが束ねられた状態となる。
【0068】
なお、本実施形態においても特に図示しないが、コア被覆ロッド2を束ねる際、コア被覆ロッド2を束ねた状態でコア被覆ロッド2に囲まれる空間となるべき位置に他の充填用ガラスロッドを配置しても良い。この場合、当該空間に配置される充填用ガラスロッドはクラッドガラス層と同様の材料から成ることが好ましい。
【0069】
また、本実施形態においても、それぞれのガラスロッドを1つずつ順にダミーガラスロッド52に固定することで、
図9に示すようにそれぞれのガラスロッドが束ねられた状態をしても良い。
【0070】
<外付工程P2>
本実施形態の外付工程P2は、バンドル工程P1で束ねられたコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4を含む複数のガラスロッドの外周面上にクラッド20の一部となるスート3を堆積する。スート3の堆積は、第1実施形態においてスート3を束ねられた複数のコア被覆ロッド2にスート3を堆積した方法と同様に行う。
【0071】
上記のように充填用ガラスロッド4は、互いに隣り合うコア被覆ロッド2のそれぞれに接して外周側に露出するよう配置されるため、充填用ガラスロッド4の外周面上にもスート3が堆積する。すなわち、本実施形態では、充填用ガラスロッド4がスート3と接触するように配置されているのである。また、上記のように充填用ガラスロッド4の軟化温度はコア被覆ロッド2のクラッドガラス層20Rの軟化温度より低くされるため、必然的に、スート3が透明ガラス化する際の温度よりも低いことになる。
【0072】
こうして、
図10に示すようにスート3が必要な量堆積された状態となる。
【0073】
なお、本実施形態では、それぞれのコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4の両端がダミーガラスロッド52に固定されることで、それぞれのコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4の束ねられた状態が維持されている。このため、束ねられたコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4の外周面全体にスートを堆積させることができる。従って、束ねられたコア被覆ロッド2及び充填用ガラスロッド4全体をマルチコアファイバ用母材1Pとすることができる。
【0074】
<焼結工程P3>
本実施形態の焼結工程P3は、第1実施形態の焼結工程P3と同様に行う。上記のように充填用ガラスロッド4の軟化温度はコア被覆ロッド2のクラッドガラス層20Rの軟化温度より低くされるため、まず充填用ガラスロッド4が溶解する。そして、粘性流動を起こした充填用ガラスロッド4が充填用ガラスロッドとコア被覆ロッド2との隙間を埋める。また、このときに粘性流動を起こした充填用ガラスロッド4が接触しているスート3を取り込む。そして、コア被覆ロッド2のクラッドガラス層20Rの温度が軟化温度に達し、クラッドガラス層20Rが粘性流動を起こすと第1実施形態の焼結工程P3と同様に接触するスート3を取り込む。次いでスート3の温度が軟化温度に達して、スート3も粘性流動を起こし、クラッドガラス層20Rと充填用ガラスロッド4とスート3とが一体の透明ガラス体となる。このようにスート3が内側からクラッドガラス層20Rや充填用ガラスロッド4に取り込まれながら粘性流動を起こすため、スート3とクラッドガラス層20R及び充填用ガラスロッドとの間に隙間ができることが抑制される。
【0075】
こうしてコアロッドが母材コア部10Pとなり、クラッドガラス層20Rが母材クラッド部20Pの一部となり、充填用ガラスロッド4が母材クラッド部20Pの他の一部となり、スート3が母材クラッド部20Pの更に他の一部となり、
図7に示すマルチコアファイバ用母材1Pを得る。
【0076】
なお、本実施形態の焼結工程においても、クラッドガラス層20Rが上記のようにフッ素が添加されたシリカガラスである場合には、本工程をフッ素系ガスを含む雰囲気で行うことが好ましい。
【0077】
次に第1実施形態の線引工程P4と同様にして線引工程を行い
図1に示すマルチコアファイバ1を得る。
【0078】
以上説明したように本実施形態のマルチコアファイバ用母材1Pの製造方法によれば、互いに隣り合うコア被覆ロッド2と接触するように小径の充填用ガラスロッド4が配置されることで、これらのコア被覆ロッド2の外周面間の隙間を埋めることができ、製造されるマルチコアファイバ用母材1Pの外周面をより円形に近づけることができる。この場合においても、充填用ガラスロッド4の軟化温度がスート3が透明ガラス化する際の温度よりも低いため、焼結工程P3において、スート3と充填用ガラスロッド4との間に隙間ができることを抑制することができ、製造されるマルチコアファイバ用母材1Pに不要な隙間が形成されることを抑制することができる。
【0079】
また、上記のように本実施形態の充填用ガラスロッド4の軟化温度は、充填用ガラスロッド4と接するコア被覆ロッド2のクラッドガラス層20Rの軟化温度よりも低い。従って、上記のように焼結工程P3において充填用ガラスロッド4がクラッドガラス層20Rよりも先に粘性流動を起こす。このため、焼結工程P3前に充填用ガラスロッド4とコア被覆ロッド2との間に生じる隙間を、焼結工程P3において粘性流動を起こした充填用ガラスロッド4でより適切に埋めることができる。従って、製造されるマルチコアファイバ用母材1Pに不要な隙間が形成されることをより抑制することができる。
【0080】
また、本実施形態では、スート3と接触する位置に配置される互いに隣り合う2つのコア被覆ロッド2と接触するように、充填用ガラスロッド4が配置される。その為、これらのコア被覆ロッド2の外周面間に形成される狭い隙間を充填用ガラスロッド4で覆うことができる。しかも、充填用ガラスロッド4は、充填用ガラスロッド4が接するコア被覆ロッド2よりも小径とされる。このため、コア被覆ロッド2の外周面と充填用ガラスロッド4の外周面との隙間は、第1実施形態のように充填用ガラスロッド4を配置しない場合におけるコア被覆ロッド2の外周面同士の隙間よりも小さい。このため、外付工程P2においてスート3が当該隙間を埋め易く、また、焼結工程P3においてスート3に由来するガラス部分とコア被覆ロッド2や充填用ガラスロッド4に由来するガラス部分との間に隙間が形成されることを抑制することができる。
【0081】
以上、本発明について、第1、第2実施形態を例に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0082】
例えば、上記実施形態において、コア被覆ロッド2を含む複数のガラスロッドを束ねた際に結束バンド51を用いたが、他の方法により束ねても良い。また、束ねた複数のガラスロッドの両端をダミーガラスロッド52に固定したが、他の方法によりガラスロッドが束ねられた状態を維持しても良い。
【0083】
また、上記実施形態では、それぞれのコア10がクラッド20で直接被覆されるマルチコアファイバ1を例に説明したが、MCFはいわゆるトレンチ型のMCFであっても良い。トレンチ型のMCFは、それぞれのコアがコアよりも低屈折率の内側クラッドで個別に被覆され、それぞれの内側クラッドが更に低屈折率のトレンチ部で個別に被覆される。このコアと内側クラッドとトレンチ部とから成る要素はコア要素と呼ばれる場合がある。そして全てのコア要素がトレンチ部よりも高屈折率でコアよりも低屈折率のクラッドで被覆される構造とされる。このようなMCFを製造する場合、コア被覆ロッドは、コアロッドが内側クラッドとなるガラス層で被覆され、内側クラッドとなるガラス層がトレンチ部となるガラス層で被覆され、トレンチ部となるガラス層がクラッドとなるガラス層で被覆された構造とされる。このような構造のコア被覆ロッドを用いる点を除いて、上記実施形態と同様にMCFを製造することができる。
【0084】
また、第2実施形態で説明した充填用ガラスロッド4の軟化温度は、スート3が透明ガラス化する際の温度よりも低ければよく、クラッドガラス層20Rの軟化温度と同じでも良く、クラッドガラス層20Rの軟化温度よりも高くても良い。
【0085】
また、上記実施形態では、3つのコア10を有するマルチコアファイバ1を製造する製造方法を説明したため、コア被覆ロッド2の数も3つとしたが、マルチコアファイバのコアの数はこの限りでない。例えば、クラッドの中心に1つのコアが配置され、そのコアの周りに6つのコアが等間隔で配置される1−6コア配置のマルチコアファイバであっても良い。この場合、中心に1つのコア被覆ロッド2が配置され、その周りに6つのコア被覆ロッド2が配置される。この配置では、中心に配置されるコア被覆ロッド2はスートと接触しないことが考えられる。この場合、中心に配置されるコア被覆ロッド2のクラッドガラス層20Rの軟化温度はスートが透明ガラス化する際の温度よりも高くても良い。
【0086】
また、本発明のマルチコアファイバ用母材の製造方法では、スート3と接触する位置に配置されるガラスロッドにおけるスート3と接触する部分の軟化温度がスートが透明ガラス化する際の温度よりも低ければ良い。従って、例えば、コア被覆ロッド2のクラッドガラス層20Rや充填用ガラスロッド4の外周面近傍のみが、スート3が透明ガラス化する際の温度より低い軟化温度とされても良い。また、コア被覆ロッド2のスート3と接触する部分の軟化温度が、スート3が透明ガラス化する際の温度よりも低い限りにおいて、クラッドガラス層20Rや充填用ガラスロッド4の外周面近傍の一部の軟化温度がスート3が透明ガラス化する際の温度よりも低くされなくても良い。
【0087】
また、スート3が透明ガラス化する際の温度よりもクラッドガラス層20Rや充填用ガラスロッド4の軟化温度を低くするために添加するドーパントは、フッ素に限定されない。例えば、ドーパントとして、ゲルマニウム(Ge),塩素(Cl),ホウ素(B),リン(P)等を挙げることができる。