(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ベース部材が搬送装置に支持され、前記支持台、前記誘導コイル、および前記制御装置が一体として搬送されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の金型加熱装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、予熱炉のヒータの輻射熱によって金型表面を加熱する場合には、金型表面からの放熱が多いため予熱時間が長くかかり(例えば、40〜100分程度)、もちろんその間はコーティング剤を塗布することができないので、作業能率が悪いという問題があった。
【0007】
また、金型の所定の処理には、それぞれ好適に処理するための適正な温度範囲があり、コーティング剤を塗布する処理では、例えば、200〜230℃の適正な温度帯で一定の膜厚になるまでコーティング剤を多層に塗布する。
このコーティング剤は、水溶性であり、塗布すると金型表面の温度を下げるため、多層にコーティングする間に例えば180℃よりも下がると塗布可能温度範囲外となる。このため、コーティング処理を中断して予熱炉で昇温させるので、予熱昇温とコーティング剤塗布を繰り返すから、作業能率が悪いという問題があった。
【0008】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、一方の面に所定の処理が施される金型を好適に加熱して所定の処理層の質を向上させ、かつ所定の処理工程の工数低減を図ることができる金型加熱装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、一方の面に処理が施される
当該一方の面に凹凸形状を有する金型を加熱する金型加熱装置であって、ベース部材と、前記ベース部材に配設され該ベース部材と前記金型の他方の面との間に空間部を形成するように該他方の面を支持する支持台と、前記空間部に配設され前記金型を前記他方の面から加熱する誘導コイルと、前記誘導コイルの動作を制御する制御装置と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る金型加熱装置は、金型を加熱する誘導コイルを備えたことで、誘導コイルに高周波電流を流すと金型内部に生じる渦電流によって内部から金型を加熱することができる。加熱された金型の内部から所定の処理を施す一方の面(例えば、金型の製品形状面)に向かって熱が伝わることから、熱の放散が抑制され金型は温まりやすく(従来と同程度の金型に対して約20分程度で予熱可能)、内部に蓄積された熱によって冷めにくいという温まり方をする(予熱特性)。
このため、本発明に係る金型加熱装置は、金型の表面温度の管理が容易で、しかも加熱に要する消費電力をかなり低減することが可能である。
【0011】
本発明に係る金型加熱装置は、ベース部材と金型の他方の面(例えば、金型の背面部)との間に形成された空間部に誘導コイルを配設して金型の他方の面側から金型の内部を加熱することで、加熱された他方の面側から一方の面に熱が伝わることから、加熱された他方の面側から金型の内部が温められて蓄熱されるため、金型の一方の面が冷めにくいという予熱特性を有する。このような予熱特性は、比較的大きな熱容量を有する金型に対して、所定の処理を施す一方の面の表面温度を適正な温度範囲に維持管理するのに特に好適である。このため、適正な所定の処理を確実に実行することができる。
【0012】
また、本発明に係る金型加熱装置は、金型の他方の面側から加熱することで、金型を加熱しながら一方の面を処理(例えば、コーティング等の処理)することができるため、金型の予熱工程と所定の処理工程を一緒に実行して、金型の予熱温度を好適に管理しながら工数削減を図ることができる。
【0013】
本発明に係る金型加熱装置は、誘導コイルの動作を制御する制御装置を備えたことで、金型の一方の面に形成された製品形状部の凹凸等に応じて誘導コイルの形状や配置を適宜設定して誘導コイルに流れる高周波電流を制御することができるため、一方の面の表面温度を適正な温度範囲、および均一な温度分布になるように好適に調整することができる。
【0014】
このようにして、本発明に係る金型加熱装置は、金型の他方の面側から金型の内部を加熱して、加熱して蓄熱された金型の内部から所定の処理が施される一方の面に伝熱することで、処理が施される一方の面の保温性を向上させて、一方の面の表面温度を適正な温度範囲、および均一な温度分布になるように好適に維持管理することができる。このため、所定の処理層の質を向上させ、かつ所定の処理工程の工数低減を図ることができる
【0015】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の金型加熱装置であって、前記誘導コイルを前記他方の面に沿って移動させるコイル移動装置を備えたことを特徴とする。
【0016】
かかる構成によれば、コイル移動装置を備えたことで、金型の一方の面に形成された製品形状部の凹凸等に応じて温まりにくい部位や温まりやすい部位に適合するように誘導コイルを移動させることができるため、一方の面の表面温度をより適正な温度範囲、および均一な温度分布になるように調整することができる。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の金型加熱装置であって、前記制御装置は、予め設定した予熱パターンにしたがって前記誘導コイルの動作を制御することを特徴とする。
【0018】
かかる構成によれば、誘導コイルに流れる高周波電流の流れのパターンを誘導コイルの形状や配置等に応じて適宜設定したり、前記コイル移動装置によって誘導コイルの移動パターンを金型の一方の面に形成された製品形状部の凹凸等に応じて適宜設定したりすることができるため、自動運転に好適であり、一方の面の表面温度を適正な温度範囲、および均一な温度分布になるようにより好適に調整することができる。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の金型加熱装置であって、前記ベース部材が搬送装置に支持され、前記支持台、前記誘導コイル、および前記制御装置が一体として搬送されることを特徴とする。
【0020】
かかる構成によれば、金型加熱装置を一体として搬送する搬送装置を備えたことで、支持台で金型を支持したままで金型を搬送することができるため、金型を搬送しながら加熱装置で加熱したり、所定の処理工程まで搬送したりすることができる。このため、自動化ラインに好適に適用して生産性を向上させることができる。
【0021】
請求項5に係る発明は、請求項3に記載の金型加熱装置であって、前記予熱パターンを実行する予熱動作が完了したことを報知する報知手段を備えたことを特徴とする。
【0022】
かかる構成によれば、予熱動作が完了したことを報知する報知手段を備えたことで、金型が所定の目標温度になったことを他の装置や次工程の作業者等に報知することができる。
【0023】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の金型加熱装置であって、前記ベース部材が搬送装置に支持され、前記制御装置は、前記報知手段から前記予熱パターンを実行する予熱動作が完了したことを報知する信号を受けたとき、前記搬送装置によって前記金型を搬送することを特徴とする。
【0024】
かかる構成によれば、予熱動作が完了したとき前記搬送装置によって前記金型を搬送することで、自動化ラインを円滑に効率よく運転することができる。
【0025】
請求項7に係る発明は、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の金型加熱装置であって、前記一方の面の温度分布を検出する画像温度センサを備え、前記制御装置は、前記温度分布に基づいて前記誘導コイルの動作を制御することを特徴とする。
【0026】
かかる構成によれば、画像温度センサが検出した温度分布に基づいて前記誘導コイルの動作を制御することで、一方の面の表面温度をより適正な温度範囲、および均一な温度分布になるように確実に調整することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る金型加熱装置は、一方の面に所定の処理が施される金型を好適に加熱して所定の処理層の質を向上させ、かつ所定の処理工程の工数低減を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態に係る金型加熱装置1について、所定の処理であるコーティング剤Cを塗布してコーティング膜CMを形成する処理を行うコーティング剤の塗布装置100に適用して、金型(10,11,12,13)を予熱する場合を例として、適宜
図1から
図4を参照しながら詳細に説明する。
なお、金型加熱装置1は金型10を加熱し、金型加熱装置1Aは金型11を加熱し、金型加熱装置1Bは金型12を加熱し、金型加熱装置1Cは金型13を加熱する。以下の説明において、金型11,12,13は、金型10とは形状等が異なるが、金型に対するコーティング処理等は金型10と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0030】
〈コーティング剤の塗布装置〉
コーティング剤の塗布装置100は、
図1に示すように、金型10の一方の面である表面10a(例えば、製品形状面)にコーティング剤Cを塗布してコーティング膜CMを形成する装置である。
コーティング剤の塗布装置100は、コーティング剤の塗布手段110と、金型加熱装置1と、金型(10等)を所定の工程まで搬送する搬送装置120と、を備えている。
【0031】
コーティング剤の塗布手段110は、スプレーガン移動装置であるロボットRと、ロボットRに搭載した塗布手段であるスプレーガンGと、コーティング剤Cを塗布する中心点(塗布点)を明示するためのレーザポインタ111と、動作を制御する塗布手段制御部112と、を備えている。コーティング剤の塗布手段110は、スプレーガンGを用いて金型10の表面の製品形状部(凹凸部)にコーティング剤Cを吹き付けて塗布する。コーティング膜CMは、所定の膜厚が必要なため、図示は省略するがコーティング剤Cを塗布したら硬化させて多層にコーティングされている。
コーティング剤Cは、珪酸(SiO2)等を基材とし、水ガラスをバインダとするコーティング剤である。なお、ロボットRに搭載した塗装ガンGにて塗布させる例を示したが、作業者(不図示)が塗装ガンGを手で操作して塗布してもよい。
【0032】
レーザポインタ111は、スプレーガンGに搭載され、スプレーガンGの塗布・噴霧方向にレーザ光(赤外線の波長に近い可視光)を放つ。レーザポインタ111は、スプレーガンGがコーティング剤Cを金型10の表面に吹き付けている最中、金型10の表面にレーザ光を照射して塗布点(指示点)を明示する。レーザポインタ111によって明示された指示点は、金型10の表面にコーティング剤Cが塗布されるときの、霧化されたコーティング剤Cが一番多く流れる吹き付け中心である。
【0033】
搬送装置120は、金型(10等)を所定の工程まで搬送する搬送手段121と、塗布手段110が配設されたコーティング剤の塗布工程において、金型(10等)を位置決めして保持するリフタ装置122と、を備えている。
搬送装置120は、金型加熱装置1と金型10とを一緒に搬送し、金型加熱装置1Aと金型11とを一緒に搬送し、金型加熱装置1Bと金型12とを一緒に搬送し、金型加熱装置1Cと金型13とを一緒に搬送することができる。
搬送制御部123は、金型加熱装置1の制御装置5(
図2参照)および塗布手段110の制御部112(
図2参照)に対して相互に信号の送受信ができるように接続されている。
【0034】
かかる構成により、金型加熱装置1によって金型10等を予熱しながら、搬送手段121によってコーティング剤の塗布装置100まで金型10等を搬送することができる。また、コーティング剤の塗布工程では、金型加熱装置1等によって金型10等を保温しながら、コーティング剤の塗布手段110によってコーティング剤Cを塗布することができる。
【0035】
金型10は、
図1に示すように、低圧アルミ鋳造用の金型であり、例えばエンジンの燃焼室のように複雑な凹凸形状をなした曲面や段差が形成された製品形状を有する金型に適用することができる。なお、
図2は、説明の便宜上、製品形状を簡略化して記載したものである。
【0036】
なお、本実施形態においては、コーティング剤の塗布装置100によって、コーティング剤Cを塗布する金型(10等)に適用する場合について説明するが、低圧アルミ鋳造用の金型に限定されるものではなく、金型にはめ込む中子型、熱間プレス成形型、樹脂成形型等に対しても本発明を適用することができる。
【0037】
〈金型加熱装置〉
金型加熱装置1は、
図2に示すように、ベース部材2と、ベース部材2に配設された支持台3と、金型10を加熱する誘導コイル4と、誘導コイル4の動作を制御する制御装置5と、誘導コイル4を移動させるコイル移動装置6と、予熱動作が完了したことを報知する報知手段53と、金型表面の温度分布を検出する画像温度センサ54と、を備えている。
金型加熱装置1は、金型10を所定の適正な温度範囲に予熱する装置であり、コーティング剤C(
図1参照)を塗布する処理の場合には、例えば、金型10の表面10aを1800〜250℃の適正な温度帯になるように管理する。
【0038】
ベース部材2は、支持台3を支持して金型10や誘導コイル4等の構成要素を所定の位置に配設するための部材であるが、特に限定されるものではなく、例えば支持台3と一体に構成してラック形状にしてもよいし、搬送装置120(
図1参照)の上部に配設される載置台(不図示)を適用することもできる。
【0039】
支持台3は、金型10の他方の面(例えば、背面)との間に空間部3aを形成して金型10の背面10bを支持するための部材であるが、特に限定されるものではなく、金型10や誘導コイル4等の形状に適合するようにブロック形状、棚状、壁状、柱状等の種々の形状を採用することができる。
支持台3の上部には、金型10を効率よく加熱するために非磁性耐熱プレート31が配設されている。支持台3は、非磁性耐熱プレート31を介して金型10を支持している。
【0040】
誘導コイル4は、渦巻状、ジグザグ状等の種々の形態をなした電導体からなり、制御装置5によって誘導コイル4に高周波の電流を流すと誘導コイル4から磁力線Zが発生して、金型10の内部に渦電流Eが生じて、金型10を内部から加熱(誘導加熱)する。
【0041】
そして、加熱された金型10の内部からコーティング剤Cを塗布する金型10の製品形状面(表面10a)に向かって熱が伝わることから、熱の放散が抑制され金型10は温まりやすく、しかも内部に蓄積された熱によって金型10の表面10aが冷めにくいというという予熱特性を有する。
【0042】
このため、本発明の実施形態に係る金型加熱装置1は、金型10の表面温度の管理が容易で、しかも加熱に要する消費電力を大幅に(従来の同様の金型に対して1/10程度まで)削減することが可能である。
【0043】
また、誘導コイル4の形状、大きさ、個体の数、配置等は、金型10の形状等に適合するように適宜設定することができるため、金型10を迅速に加熱して、金型10の表面を均等に予熱することができるため、種々の金型10,11,12,13(
図1参照)に好適に適用することができる。
【0044】
誘導コイル4は、長時間の過酷な加熱動作により過熱する場合があるときには、誘導コイル4を冷却するための冷却装置41を設けることが望ましい。冷却装置41は、例えば、誘導コイル4に向けてエアを噴出して誘導コイル4を冷却するように構成することができる。
【0045】
制御装置5は、誘導コイル4に流す高周波電流の周波数や大きさ(IH出力)を制御するインバータ制御部51と、コイル移動装置6等の動作を制御する動作制御部52と、予め設定した所定の予熱動作が完了したことを報知する報知手段53と、金型10の表面温度分布を検出する画像温度センサ54と、を備え、金型10の表面温度が適切な温度範囲になるように管理する。
【0046】
制御装置5は、予め設定した予熱パターンにしたがって誘導コイル4やコイル移動装置6の動作を制御することができる。予熱パターンとは、金型10を予熱するために予め記憶させた動作の設定パターンであり、例えば、IH出力の設定パターンや誘導コイル4を移動させる軌跡や速度等の動作パターンを予め記憶したパターンにしたがって実行することをいう。
【0047】
そして、制御装置5は、予め設定した予熱パターンにしたがって予熱動作が完了したと判定した時は、報知手段53によって、作業者(不図示)や他の装置等に報知する。
報知手段53は、作業者(不図示)に対して視覚的に報知する回転警告灯、聴覚的に報知するメロディ音等を採用することができる。また、報知手段53は、コーティング剤の塗布装置100や搬送装置120に電気信号を送信して報知する通信手段を採用してもよい。
【0048】
画像温度センサ54は、非接触式の温度センサであり、金型10の表面10aから放射される赤外線の強度を測定して表面10aの温度分布を画像として認識することができる。
そして、制御装置5は、画像温度センサ54が測定した金型10の表面10aの温度分布に基づいて誘導コイル4やコイル移動装置6の動作を制御したり、予熱動作の完了を判定したりすることができる。
また、画像温度センサ54は、更にレーザポインタ111により金型10の表面に照射されたレーザ光(赤外線の波長に近い可視光)の指示点の位置を捉えることができる。このため、画像温度センサ54は、画像温度センサ54により作成された表面10aの温度分布の画像データの上に、表面10aに照射されたレーザポインタ111の指示点の位置データを重ねて制御装置5へ送ることができる。
【0049】
なお、画像温度センサ54は、ベース部材2に支柱(不図示)を立てて設置して金型10と一緒に搬送してもよいし、搬送装置120の近傍に固定して設置してもよい。
また、本実施形態においては、画像温度センサ54を採用したが、これに限定されるものではなく、金型10に装着する接触式の温度検出手段を採用することもできる。
また、本実施形態においては、画像温度センサ54によって金型10の表面に照射されたレーザ光(可視光)の指示点の位置を捉えるものとしたが、指示点の位置を捉える別の画像センサを用意してもよい。
【0050】
コイル移動装置6は、誘導コイル4を金型10の背面10bに沿って移動させる装置であり、例えば水平方向に移動させることができるXYテーブル6E(
図4(b)参照)や上下方向にも移動させることができるリフタ装置等を備えたXYZテーブル6F(
図4(c)参照)を採用することができる。XYテーブル6EおよびXYZテーブル6Fは、ガイドレール等の直線移動ガイド機構(不図示)と、モータで駆動するボールねじや流体シリンダ機構等の駆動装置(不図示)と、を備えて構成することができるが、特に限定されるものではないので詳細な説明は省略する。
コイル移動装置6は、誘導コイル4の形状、大きさ、個体の数、配置等に適合するように適宜設定することができる。
【0051】
続いて、本発明の実施形態に係る金型加熱装置の動作について主として
図3と
図4を参照しながら説明する。参照する
図3は、
図2に示すように誘導コイル4を金型10の背面部の全範囲に一様に配設した場合における基本的な予熱特性を説明するグラフであり、誘導コイル4によって金型10を予熱しながらコーティング剤C(
図1参照)を塗布したときの金型10の表面温度を測定箇所H1,H2,H3,H4(
図2参照)ごとに表示したものである。
【0052】
誘導コイル4の出力は、所定の温度T1に到達するまではIH出力72%として昇温特性を観察し(時刻t2まで)、所定の温度T1に到達した後はIH出力30%として保温特性を観察しながら、金型10の表面温度の変化を測定した。
【0053】
IH出力72%における時刻t2までは、2回のコーティング剤塗布を行い(C1,C2)、IH出力30%における時刻t2からは、3回のコーティング剤塗布を行って(C3,C4,C5)、コーティング剤Cの塗布による表面温度の降下の様子(降下特性)を観察した。1回のコーティング剤塗布時間は45〜55秒程度である。
IH出力72%においては、コーティング剤C(
図1参照)を塗布している間でも温度降下が少なく、コーティング剤Cの塗布を完了すると、再びそれまでと同じ温度上昇率(単位時間当たりの温度上昇)で表面温度が上昇する。
【0054】
IH出力30%においては(時刻t2〜t3まで)、コーティング剤C(
図1参照)を塗布している間は温度が降下するが、その後は温度降下が見られず、上昇するか維持される特性を示している。したがって、このようなコーティング剤Cの塗布時における保温特性に合わせてIH出力を適宜設定することで、コーティング剤Cを塗布する間でも一定の温度範囲を維持することができるものと考えられる。
【0055】
また、IH出力72%における時刻t2までの昇温特性は、時間の経過とともに直線的に金型10の表面温度が上昇するため、所定の温度T1に到達するまでの見込み時間の算出が容易である。
一方、金型10の表面温度は、測定箇所H1,H2,H3,H4(
図2参照)によってバラツキがある。具体的には、測定箇所H1では誘導コイル4から最も近い距離であるため温度上昇率が最も高く、測定箇所H4では誘導コイル4から最も遠い距離であるため温度上昇率が最も低くなっている。
【0056】
つまり、主として、誘導コイル4からの距離に比例して距離が遠くなると温度上昇率が下がる傾向にあるため、誘導コイル4からの距離に応じて、距離が遠い箇所にはより大きな予熱(熱量)を与え、距離が近い箇所にはより小さな予熱(熱量)を与えるような予熱パターンで予熱動作を実行することが望ましい。
【0057】
なお、温度上昇率に及ぼす他の因子としては、金型10の彫り込み形状等による熱容量の違い等も考えられるが、画像温度センサ54によって温度分布を計測して適宜考慮することができる。
【0058】
続いて、
図4を参照しながら、金型加熱装置1(1D,1E,1F)が実行する種々の予熱パターンの動作について説明する。
金型加熱装置1Dは、
図4(a)に示すように、誘導コイル4D(4D1,4D2,4D3)の配置や形状を金型14の表面形状に適合させることで、金型14の表面温度が均一な温度分布になるように設定する予熱パターンを実行する。例えば、金型14の表面14a1(コーティングを塗布する面)の位置から誘導コイル4D1までの距離h1、金型14の表面14a2の位置から誘導コイル4D2までの距離h2、金型14の表面14a3の位置から誘導コイル4D3までの距離h3が同じになるように誘導コイル4Dの配置や形状を設定することで(h1=h2=h3)、金型14の表面温度分布を均一にすることができる。
【0059】
また、誘導コイル4D(4D1,4D2,4D3)の配置や形状を調整するのではなく、誘導コイル4D(4D1,4D2,4D3)に流す高周波電流の出力を調整して磁力線Zや渦電流E(
図2参照)の大きさを制御してもよい。金型14の表面14aからそれぞれ誘導コイル4D(4D1,4D2,4D3)までの距離に比例するように高周波電流の出力を調整して予熱(熱量)を与えてもよい。
つまり、金型温度を昇温させて所定の温度に到達させるために、インバータ制御部51により一定のIH出力で制御してもよいし、金型温度を昇温させる予熱パターン中においては、インバータ制御部51によりIH出力を自由に調整して金型温度を昇温することもできる。
【0060】
金型加熱装置1Eは、
図4(b)に示すように、コイル移動装置6Eによって誘導コイル4Eを水平方向に移動する速度を調整することで、金型14の表面14aの温度が均一な温度分布になるように設定する予熱パターンを実行する。例えば、大きな予熱を与える場合には、移動速度を遅くしたり、停止させたり、停止時間を長くしたりすることで、金型14の表面温度が均一な温度分布になるように設定することができる。
【0061】
具体的には、金型14の表面14a1(コーティングを塗布する面)の位置から誘導コイル4D1までの距離h1、金型14の表面14a2の位置から誘導コイル4D2までの距離h2、金型14の表面14a3の位置から誘導コイル4D3までの距離h3が、h2>h1>h3である場合には、それぞれの距離に比例して移動速度を遅くしたり、停止時間を長くしたりすることができる。
【0062】
金型加熱装置1Fは、
図4(c)に示すように、コイル移動装置6Fによって誘導コイル4Fを水平方向だけではなく、上下方向にも移動させる予熱パターンを実行する。
例えば、金型14の表面14aから誘導コイル4Fまでの距離に応じて誘導コイル4Fを上下方向にも移動させる。具体的には、金型14の表面14a2の位置から誘導コイル4Fまでの距離h2に合わせて誘導コイル4Fを上方に移動させ、金型14の表面14a3の位置から誘導コイル4Fまでの距離h3に合わせて誘導コイル4Fを下方に移動させることで、金型14の表面温度が均一な温度分布になるように設定することができる。
【0063】
以上のように構成された金型加熱装置1は、以下のような作用効果を奏する。
すなわち、金型加熱装置1は、金型10の背面10b側から金型10の内部を加熱することで、加熱された背面10b側から金型10の表面10aに熱が伝わることから、金型10の表面10aが冷めにくいという予熱特性を有する。このような予熱特性は、比較的大きな熱容量を有する金型に対して、所定の処理を施す一方の面の表面温度を適正な温度範囲に維持管理するのに特に好適である。
【0064】
また、金型加熱装置1は、金型10の背面10b側から加熱することで、金型10を加熱しながら金型10の表面10aを予熱することができるため、金型10の予熱工程とコーティング剤Cの塗布工程を一緒に実行することができるので、金型10の予熱温度を好適に管理することができる。このため、適正なコーティング膜CMを形成することができ、しかも工数削減を図ることができる。
【0065】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記した実施形態に限定されず、適宜変更して実施することが可能である。例えば、本実施形態においては、金型加熱装置1をコーティング剤の塗布装置100に適用した場合について説明したが、所定の処理は、コーティング剤Cを塗布してコーティング膜CMを形成する処理に限定されるものではなく、熱処理、メッキ処理、塗装等であっても本発明を適用することができる。
【0066】
また、本実施形態においては、搬送装置120に支持して金型10,11,12,13をコーティング剤の塗布手段110まで搬送する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、
図5に示すように、金型14,15,16,17,18,19を所定の位置に配設した状態で、コーティング剤の塗布手段110を構成する塗装ガンGをロボットRで移動させるようにコーティング剤の塗布装置100を構成してもよい。
【0067】
具体的には、ロボットRの周りを取り囲むように金型14等と、金型14等をそれぞれ予熱する金型加熱装置1G,1H,1I,1J,1K,1Lを配設して、予熱が完了した金型14等を予熱が完了した順にコーティング剤の塗布手段110によってコーティング剤C(
図1参照)を塗布することができる。また、金型加熱装置1G等は、金型14等をそれぞれ好適に予熱するコイル移動装置6G,6H,6I,6J,6K,6Lを備えている。
かかる構成により、コーティング剤の塗布装置100、金型14等をそれぞれコーティング剤の塗布装置100まで搬送する必要がないので、構成を簡素化して生産性を向上させることができる。