特許第6010599号(P6010599)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6010599
(24)【登録日】2016年9月23日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】発酵麦芽飲料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 5/00 20060101AFI20161006BHJP
【FI】
   C12C5/00
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-255426(P2014-255426)
(22)【出願日】2014年12月17日
(65)【公開番号】特開2016-111989(P2016-111989A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2015年11月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(72)【発明者】
【氏名】木本 裕
(72)【発明者】
【氏名】山根 健司
【審査官】 植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−065643(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/141544(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/146348(WO,A1)
【文献】 特表2002−528070(JP,A)
【文献】 特開2010−051286(JP,A)
【文献】 吉澤 淑 編, シリーズ<食品の科学> 酒の科学, 朝倉書店, 1998.04.10, p.106-109
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C 1/00
C12C 5/00
C12C 7/00
CAplus/WPIDS(STN)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦芽を原料として含有する発酵前液のマルトースおよびグルコース含有量を発酵前液の糖組成でそれぞれ固形分あたり60質量%以上、15質量%以下に調整し、該発酵前液を発酵させることを特徴とする、発酵麦芽飲料の硫黄臭の低減方法。
【請求項2】
麦芽使用比率が50%未満である、請求項1に記載の低減方法。
【請求項3】
発酵前液にマルトースを含有する糖類組成物を添加する工程をさらに含んでなる、請求項1または2に記載の低減方法。
【請求項4】
枝切り酵素およびβ−アミラーゼを添加し、グルコアミラーゼを添加せずに麦芽の糖化を行って発酵前液を調製する工程をさらに含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の低減方法。
【請求項5】
発酵前液のエキスを10°Pに換算した場合の発酵液の糖質含量が1.2g/100mL以下になるように発酵前液を発酵させる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の低減方法。
【請求項6】
麦芽を原料として含有し、かつ、マルトースおよびグルコースを発酵前液の糖組成でそれぞれ固形分あたり60質量%以上、15質量%以下で含有する発酵前液の、発酵麦芽飲料の硫黄臭の低減のための使用。
【請求項7】
マルトースおよびグルコースを糖組成でそれぞれ固形分あたり60質量%以上、15質量%以下で含有する糖類組成物であって、発酵麦芽飲料の発酵前液の糖組成を調整し、かつ、それにより発酵麦芽飲料の硫黄臭を低減するための発酵前液を調製するための糖類組成物。
【請求項8】
発酵前液の糖組成を固形分あたりマルトース60質量%以上、グルコース15質量%以下に調整するための、請求項7に記載の糖類組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発酵麦芽飲料およびその製造方法に関し、より詳細には硫黄臭が低減ないし抑制された発酵麦芽飲料およびその製造方法に関する。本発明はまた、発酵麦芽飲料の硫黄臭を低減ないし抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
少なくとも麦芽を原料とする発泡性のアルコール飲料として、ビールや発泡酒などの発酵麦芽飲料がある。発酵麦芽飲料では、酒税法において麦芽に対する副原料の使用量が規定されており、ビールでは水以外の原料中の麦芽の使用量(重量)が3分の2以上でなければならない。また、発泡酒では麦芽使用量について2分の1以上3分の2未満、4分の1以上2分の1未満、4分の1未満の3区分が酒税法上設けられており、リキュール(発泡性)(1)に用いる発泡酒では麦芽使用量が2分の1未満でなければならないと定められている。
【0003】
水以外の原料中の麦芽の使用量が2分の1未満である発泡酒等の発酵麦芽飲料は、ビールに比べ酒税率が低く設定されているため、安価で販売可能という大きなメリットを有している。一方で、発酵麦芽飲料においては、同一の製造条件を採用しても使用する麦芽の量によってその香味に変化を生じる。特に、麦芽原料の使用量の減少に伴って、製造された発酵麦芽飲料の香味に影響が表れ、ビールと同様の条件で製造しても、香味的に通常のビールとは異なるものとなることがある。
【0004】
香味的な評価項目として「硫黄臭(S臭)」があり、硫黄臭を改善するため、いくつかの製造方法の提案がなされている。例えば、特許文献1では、麦芽と麦芽よりも多い量の副原料を使用する発泡酒の製造方法において、酵母の栄養源として麹エキスを添加することで、硫黄系の異臭や未熟臭を減少した良好な香味の発酵麦芽飲料を製造する方法が開示されている。また、特許文献2や特許文献3では、原料にビタミンB群に属する物質を加えて発酵することで硫化水素の生成を抑える方法が開示されている。特許文献4では、発酵原液または発酵中の資化性糖に占める3糖類の割合を20質量%以下に制御することで、硫化水素濃度が低く、かつ、残糖感の少ない、原料に麦芽を用いないビールテイストの発酵飲料を得る製造方法が開示されている。
【0005】
麹エキスやビタミンB群を添加する方法では得られる発酵麦芽飲料の基本的な香味の変化を伴い、また通常の製造方法では使用しない原料を使用することになるため、コストアップ要因となったり、酒税法上の手続きが煩雑になるなどの課題があった。また、資化性糖に占める3糖類の割合を制御する方法では、単糖や2糖の含量については考慮されておらず、発明者らの検討において硫黄臭を減少させるには十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−95109号公報
【特許文献2】特開2009−278921号公報
【特許文献3】特開2012−191937号公報
【特許文献4】特開2009−142290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は硫黄臭が低減ないし抑制された発酵麦芽飲料およびその製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、発酵麦芽飲料の硫黄臭を低減ないし抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、マルトースおよびグルコースを一定組成に制御した発酵前液を用いて発酵を行うことによって、製造された発酵麦芽飲料の硫黄臭(S臭)を効果的に抑制ないし低減できることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0009】
本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)麦芽を原料として含有し、かつ、マルトースおよびグルコースをそれぞれ固形分あたり60質量%以上、15質量%以下で含有する発酵前液を発酵させることを特徴とする、発酵麦芽飲料の製造方法。
(2)麦芽使用比率が50%未満である、前記(1)に記載の発酵麦芽飲料の製造方法。
(3)発酵前液にマルトースを添加する工程をさらに含んでなる、前記(1)または(2)に記載の製造方法。
(4)枝切り酵素およびβ−アミラーゼを添加し、グルコアミラーゼを添加せずに麦芽の糖化を行って発酵前液を調製する工程をさらに含んでなる、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)発酵前液のエキスを10°Pに換算した場合の発酵液の糖質含量が1.2g/100mL以下になるように発酵前液を発酵させる、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法により製造された発酵麦芽飲料。
(7)麦芽を原料として含有する発酵前液のマルトースおよびグルコース含有量をそれぞれ固形分あたり60質量%以上、グルコース15質量%以下に調整し、該発酵前液を発酵させることを特徴とする、発酵麦芽飲料の硫黄臭の低減方法。
(8)麦芽を原料として含有し、かつ、マルトースおよびグルコースをそれぞれ固形分あたり60質量%以上、15質量%以下で含有する、発酵麦芽飲料の製造に用いるための発酵前液。
【0010】
本発明によれば発酵前液の糖組成を一定組成に制御することで発酵麦芽飲料の硫黄臭(S臭)を効果的に抑制ないし低減させることができ、さらには低糖質の発酵麦芽飲料を製造することができる。すなわち、本発明は簡易かつ安価な手法で商品特性に優れた発酵麦芽飲料を製造できる点で有利である。
【発明の具体的説明】
【0011】
本発明において「発酵麦芽飲料」とは、炭素源、窒素源および水などを原料として酵母により発酵させた飲料であって、原料として少なくとも麦芽を使用した飲料を意味する。発酵麦芽飲料としては、例えば、ビール酵母により発酵させたビール、発泡酒、さらには発泡酒にリキュールを添加してなるリキュール系新ジャンル飲料(酒税法上、「リキュール(発泡性)(1)」に分類される飲料)などのビール風味発酵麦芽飲料が挙げられる。
【0012】
本発明の製造方法では発泡酒の製造において硫黄臭低減効果をよりよく発揮できる。従って、本発明では好ましい発酵麦芽飲料として発泡酒を挙げることができ、さらに発泡酒にスピリッツを添加してなるリキュール系新ジャンル飲料も好ましい飲料として挙げられる。
【0013】
本発明において「発酵前液」とは、発酵工程に供する原料液のことをいい、麦芽を含む原料を糖化し、必要に応じて糖類などの副原料やその他の原材料を追加することで調製することができる。本発明の製造方法で用いる発酵前液はマルトースおよびグルコースの含有量が特定値に調整されることを条件に常法に従って調製することができる。すなわち、本発明の製造方法で使用する発酵前液は、麦芽のみを糖化して得た麦汁そのものを利用して調製してもよく、麦芽に澱粉等の多糖類や当該多糖類を酵素的または化学的に加水分解した分解物を添加した後に糖化して得たものを利用して調製してもよく、更に必要に応じて副原料として使用できる糖類を糖化した麦汁等に混合して得たものを利用して調製してもよい。また、糖化反応時には必要に応じて酵素等を加えてもよい。
【0014】
本発明の製造方法では、マルトースおよびグルコースをそれぞれ固形分あたり60質量%以上、15質量%以下で含有する発酵前液を発酵工程に使用する。このような発酵前液は、例えば、麦芽のみを糖化させる場合は糖化条件(温度やpH、反応時間、添加する酵素剤の種類および量など)を調整することによって、麦芽に澱粉やその分解物等の糖質を添加して糖化する場合は糖化条件に加え添加する糖質の条件(糖質の種類、組成および量など)を調整することによって、麦汁に糖類を添加する場合は添加する糖類の量および組成などを調整することによって、製造することができる。典型的には、本発明の製造方法で使用する発酵前液は、(i)常法に従って製造された発酵前液にマルトースを添加することによって調製することができ、あるいは、(ii)麦芽の糖化を枝切り酵素およびβ−アミラーゼのような酵素の存在下で行うことによっても調製することができる。
【0015】
本発明の製造方法において上記(i)のように発酵前液にマルトースを添加する場合、マルトース含量が高い糖類組成物を添加することが好ましいが、発酵前液の糖組成が所望の範囲になればよく、精製されたマルトースを必ずしも添加する必要はない。本発明の製造方法で発酵前液に添加することができる糖類組成物は好ましくはマルトース含量が高く、かつ、グルコース含量が低いものであり、より好ましくは固形分当たりのマルトース含有量が60質量%以上(さらに好ましくは65質量%以上、特に好ましくは70質量%以上)であり、かつ、固形分当たりのグルコース含有量が15質量%以下(さらに好ましくは10質量%以下)であるものである。添加する糖類の形態に特に制限はなく、液状(糖液)、結晶、非結晶粉末等を用いることができるが、作業性等を考慮すると糖液が好ましい。当該糖液の糖組成は、澱粉を分解する際の酵素の種類や反応条件を選定することで当業者であれば適宜調整できる。
【0016】
本発明の製造方法において発酵前液に添加できる糖類組成物としては、マルトース含量が高く、グルコース含量が低い糖液および粉糖が挙げられ、具体的には、固形分当たりのマルトース含有量が60質量%以上(好ましくは65質量%以上、特に好ましくは70質量%以上)であり、かつ、固形分当たりのグルコース含有量が15質量%以下(好ましくは10質量%以下)である糖液および粉糖が挙げられる。本発明の製造方法において発酵前液に添加できるより具体的な糖類組成物としては、ハイマルトースシラップMC−70(日本食品化工社製、マルトース含量68%以上)や、ハイマルトースシラップMC−95(日本食品化工社製、マルトース含量92.5〜95.5%、グルコース含量3.0%以下)の他、ハイマルトースMC−90PI(日本食品化工社製、マルトース含量 85〜89%、グルコース含量2〜6%)が挙げられる。
【0017】
本発明の製造方法では上記(ii)のように麦芽の糖化を枝切り酵素およびβ−アミラーゼなどの酵素を添加して行うことで発酵前液の糖組成を所望通りに調整することもできる。すなわち、糖化工程を実施する場合、麦芽の糖化を枝切り酵素およびβ−アミラーゼなどの添加された酵素の存在下で実施することができる。糖化反応に使用することができる酵素としては所望の糖組成の発酵前液が得られる限り特に制限は無いが、枝切り酵素およびβ−アミラーゼを用いることで澱粉を効率的にマルトースまで分解することができ、マルトース含量を高めることができため、枝切り酵素およびβ−アミラーゼを添加するのが好ましい。グルコアミラーゼを用いるとグルコースが多量に生成してしまうため、糖化工程ではグルコアミラーゼを添加しないことが好ましい。糖化工程で酵素を併用する方法を用いれば、麦汁に別途糖類等を添加することなく所望の糖組成とすることができるので、製造効率・コスト等の点で有利である。
【0018】
本発明の製造方法で使用できるβ−アミラーゼの種類は特に制限は無く、例えば、β−アミラーゼL(ナガセケムテックス社製)、GODO−GBA2(合同酒精社製)、ビオザイムM、ビオザイムML、ビオザイムL(アマノエンザイム社製)等を用いることができる。また、枝切り酵素の種類も特に制限は無く、例えば、イソアミラーゼとしてGODO−FIA(合同酒精社製)、イソアミラーゼ(林原社製)やプルラナーゼとしてプルラナーゼ「アマノ」3、クライスターゼPL45(アマノエンザイム社製)、プロモザイムD2(ノボザイムズジャパン社製)、オプチマックスL−1000(ダニスコジャパン社製)等を用いることができる。
【0019】
本発明の製造方法に使用する発酵前液中の糖組成は、発酵麦芽飲料の硫黄臭をよりよく低減ないし抑制する観点から、固形分当りのマルトース含有量を65質量%以上、より好ましくは67質量%、より一層好ましくは69質量%以上とすることができ、固形分当たりのグルコース含有量を10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、より一層好ましくは6質量%以下とすることができ、特に好ましくは固形分当りのマルトース含有量が69質量%以上であり、かつ、固形分当たりのグルコース含有量が6質量%以下の場合である。
【0020】
本発明の製造方法に使用する発酵前液は本発明の効果を妨げない範囲でマルトースおよびグルコース以外の単糖類、2糖類、3糖類などの資化性糖を含んでいてもよい。単糖類としてはフラクトースが挙げられ、2糖類としてはスクロースが挙げられ、3糖類としてはマルトトリオースが挙げられる。なお、スクロースはグルコースとフラクトースに分解されるため、グルコースが資化され硫黄臭が生じる可能性がありスクロース以外の資化性等を用いるのが好ましい。
【0021】
本発明の製造方法では一定糖組成の発酵前液を用いて発酵を行うことにより製造された発酵麦芽飲料の硫黄臭(S臭)を抑制ないし低減することができる。すなわち、本発明の製造方法ではマルトースおよびグルコースをそれぞれ固形分あたり60質量%以上、15質量%以下で含有する発酵前液を発酵させるが、マルトースおよびグルコースの含有量が上記数値範囲を満たさない発酵前液を発酵させた場合と比較して、製造された発酵麦芽飲料の硫黄臭が抑制ないし低減される。本発明において「硫黄臭」とは何らかの硫黄化合物が原因となってビールにつくと考えられる様々な異臭の総称をいい、官能的に好ましくない臭いとして判断されるものを意味する。硫黄臭には硫化水素臭、亜硫酸臭、酵母臭、日光臭などが含まれる(英独和ビール用語辞典(吉田重厚著、財団法人・日本醸造協会発行)参照)。
【0022】
本発明の製造方法では、麦芽を含有し、かつ、一定糖組成の発酵前液を用いて発酵を行うこと以外は通常の発酵麦芽飲料の製造方法と同様に実施することができる。例えば、ビール、発泡酒、リキュール系新ジャンル飲料の製造に通常用いられている原材料を本発明の製造方法に使用することができる。具体的には、麦芽等に加え他の原料を使用してもよく、例えば、窒素原(タンパク分解物、ペプチド、酵母エキス等)、ホップ、苦味料、色素、香料、起泡・泡持ち向上剤、加工澱粉、食物繊維などを添加することができる。これら原料の添加のタイミングも特に制限は無く、発酵前液に添加しても、発酵中に添加してもよい。
【0023】
また、発酵工程はビール、発泡酒、リキュール系新ジャンル飲料の製造に通常用いられている方法に従って実施することができる。例えば、発酵条件は、発酵麦芽飲料の種類および製造スケールに依存して適宜設定することができる。具体的には、下面発酵酵母を用いて、5〜20℃で、3〜15日間発酵を行うことで若ビールを得ることができる。得られた若ビールは、必要であれば更に一定期間熟成させてもよい。発酵に使用するビール酵母は、製造目的とする発酵麦芽飲料に通常使用される酵母から適宜選択することができる。
【0024】
本発明の製造方法では、アルコール発酵後、酵母や固形分を除去するためのろ過工程を行ってもよい。ろ過工程は、珪藻土などろ過助剤を用いた方法や遠心分離法など公知のものを用いればよい。
【0025】
本発明の製造方法では、特に糖質が低減された発酵麦芽飲料を得る際に発酵前液の糖組成を特定範囲とすることで、硫黄臭を感じない良好な香味の発酵麦芽飲料を得ることができる。糖質が低減された発酵麦芽飲料としては、例えば、発酵前液のエキスを10°Pに換算した場合の糖質含量が1.2g/100mL以下の発酵麦芽飲料が挙げられる。
【0026】
本発明の別の面によれば、麦芽を原料として含有する発酵前液を、マルトースおよびグルコース含有量をそれぞれ固形分あたり60質量%以上、15質量%以下に調整した後、発酵させることを特徴とする、発酵麦芽飲料の硫黄臭の低減方法が提供される。
【0027】
本発明の硫黄臭の低減方法では発酵前液を一定組成に調整した後に発酵させることにより製造された発酵麦芽飲料の硫黄臭(S臭)を低減ないし抑制することができる。すなわち、本発明の低減方法では発酵前液がマルトースおよびグルコースをそれぞれ固形分あたり60質量%以上、15質量%以下で含有するように発酵前液を調整し、発酵させるが、マルトースおよびグルコースの含有量が上記数値範囲を満たさない発酵前液を発酵させた場合と比較して、製造された発酵麦芽飲料の硫黄臭を低減することができる。本発明の硫黄臭の低減方法は本発明の製造方法に関する記載に従って実施することができる。
【0028】
本発明のさらに別の面によれば、本発明の製造方法により製造された発酵麦芽飲料が提供される。本発明の発酵麦芽飲料は本発明の製造方法に関する記載に従って実施することができる。本発明の発酵麦芽飲料は好ましくは、発酵前液のエキスを10°Pに換算した場合の糖質含量が1.2g/100mL以下の発酵麦芽飲料である。
【実施例】
【0029】
以下の例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、以下の例において「固形分」当たりの割合に言及した場合には、固形成分の質量に基づいて定められた割合を意味するものとする。また、以下の例において割合(%)は特に断りがない限り質量%を表す。
【0030】
発酵前液の糖組成分析
糖組成の分析は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により実施した。HPLCの条件は以下の通りであった。
カラム:ULTRON PS−80N・L(信和化工社製)
カラム温度:50℃
移動相:純水
流速:0.9ml/分
検出器:示差屈折率計
【0031】
硫黄臭の評価
硫黄臭の有無は訓練されたパネラー4名の官能評価によって以下の4段階より実施した。
臭いを全く感じない:0点
僅かに臭いを感じる:1点
臭いを感じる :2点
強く臭いを感じる :3点
【0032】
平均点が1点未満の場合に硫黄臭全く無し:A、1点以上〜2点未満の場合に硫黄臭ほとんど無し:B、2点以上の場合に硫黄臭有り:Cとした。官能試験時の試料の温度は5℃程度とした。
【0033】
発酵飲料中の糖質含量
得られた発酵飲料の糖質含量(残糖量)は、「生物化学実験法19 澱粉・関連糖質実験法、中村道徳・貝沼圭二編、学会出版センター 発行」の記載に従ってフェノール−硫酸法により測定し、発酵前液のエキス分10°Pあたりの糖質含量(g/100ml)を下記通り算出した。
糖質含量(g/100ml)=糖質含量測定値×10/発酵前液のエキス(°P)
【0034】
また、発酵前液のエキス分は、アルコライザー(アントンパール・ジャパン社製)測定による比重から算出された値を用いた。
【0035】
実施例1:ビールの製造
麦芽原料を用いて常法により麦汁を調製した後、表1に記載された組成に従って糖類(スクロース、グルコースおよびマルトース)を加えて発酵前液を調製した。これに市販のホップ(CSA P90、Hopsteiner社製)およびビール酵母(Weihenstephan W34/70,Fermentis社製)を添加して、10〜12℃程度で10日間発酵させて発酵麦芽飲料(ビール)を調製した。
【0036】
【表1】
【0037】
各発酵麦芽飲料について、官能評価により硫黄臭の有無を確認した。分析結果を表2に示した。
【0038】
【表2】
【0039】
試料3では硫黄臭が全く認められなかった。一方で、試料1および2では硫黄臭が強く感じられた。
【0040】
実施例2:ビールの製造
麦芽原料を用いて常法により麦汁を調製した後、表3に記載された組成に従って糖類(グルコースおよびマルトース)を加えて発酵前液を調製した。これに市販のホップ(CSA P90、Hopsteiner社製)およびビール酵母(Weihenstephan W34/70,Fermentis社製)を添加して、10〜12℃程度で10日間程度発酵させて発酵麦芽飲料(ビール)を調製した。
【0041】
【表3】
【0042】
各発酵麦芽飲料について、官能評価により硫黄臭の有無を確認した。分析結果を表4に示した。
【0043】
【表4】
【0044】
試料4および5では硫黄臭が全く認められず、試料6では硫黄臭が殆ど認められなかった。一方で、試料7、8および9では硫黄臭が強く感じられた。
【0045】
硫黄臭の有無と発酵前液におけるマルトースおよびグルコース含量の関係を見ると、マルトース含量57.9%かつグルコース含量15.5%で硫黄臭ありと判定され、マルトース含量62.2%かつグルコース含量11.3%で硫黄臭なしと判定された。従って、硫黄臭を感じない良好な発酵飲料を製造するための発酵前液の糖組成はマルトース含量60%以上かつグルコース含量15%以下であると考えられる。
【0046】
実施例3:発泡酒の製造
麦芽原料を用いて常法により麦汁を調製したのち、表5に記載された組成に従ってハイマルトースシラップ(コーンスターチより常法により調製、グルコース含量9.0質量%、マルトース含量76.4質量%)およびブドウ糖果糖液糖(日本食品化工社製)を固形分で計316gとなるよう添加して発酵前液を調製した。これに市販のホップ(CSA P90、Hopsteiner社製)およびビール酵母(Weihenstephan W34/70,Fermentis社製)を添加して、10〜12℃程度で10日間程度発酵させて糖質の低減された発酵麦芽飲料(発泡酒)を調製した。
【0047】
【表5】
【0048】
各発酵麦芽飲料について、官能評価により硫黄臭の有無を確認した。分析結果を表6に示した。
【0049】
【表6】
【0050】
試料10および11では硫黄臭は認められなかった。一方で試料12、13および14では硫黄臭が強く感じられた。
【0051】
硫黄臭の有無と発酵前液におけるマルトースおよびグルコース含量の関係を見ると、マルトース含量50.2%かつグルコース含量21.5%で硫黄臭ありと判定され、マルトース含量61.8%かつグルコース含量14.7%で硫黄臭なしと判定された。従って、硫黄臭を感じない良好な発酵飲料を製造するための発酵前液の糖組成はマルトース含量60%以上かつグルコース含量15%以下であると考えられる。
【0052】
実施例4:ビールおよび発泡酒の製造
麦芽原料を用いて常法により糖化反応を行い、更に原料の麦芽1g当りβ−アミラーゼL(ナガセケムテックス社製):2.8μl、プルラナーゼ「アマノ」3(アマノエンザイム社製):0.9μl、GODO−FIA(合同酒精社製):6.5μlを加え51℃で1時間更に糖化反応を行うことで麦汁を得た後、表7に記載された組成に従って必要に応じて糖類(グルコースおよびマルトース)を加えて発酵前液を調製した。これに市販のホップ(CSA P90)およびビール酵母(Weihenstephan W34/70,Fermentis社製)を添加して、10〜12℃程度で10日間程度発酵させて発酵麦芽飲料(ビールおよび発泡酒)を調製した。
【0053】
【表7】
【0054】
各発酵麦芽飲料について、官能評価により硫黄臭の有無を確認した。分析結果を表8に示した。
【0055】
【表8】
【0056】
麦芽に枝切り酵素およびβ−アミラーゼを添加することで得た固形分あたりの糖組成がマルトース60質量%以上かつグルコース15質量%以下の麦汁(発酵前液)を発酵させて得た試料17(ビール)と、前記麦汁に更に糖類を添加した発酵前液を発酵させて得た試料18(発泡酒)はいずれも硫黄臭が全く認められないものであった。