【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、電極を製造するための活物質としてのメチル化アモルファスシリコンの使用に基づく。特に、本発明は、Liイオン電池用のアノードを製造するための活物質として使用される、メチル化アモルファスシリコンをベースとするアロイの製造に基づく。このアロイは、PECVD(プラズマ化学気相成長)によって支持体の上に堆積される。薄層(例えば、ステンレス鋼の上に堆積された70nmの層)の使用は、現在知られている系と比べて高い質量充電/放電容量及び高い効率の恩恵を受けることを可能にする。このようなアノードは、実装するのが容易であり、シリコン/炭素複合材料で作られたアノードを使用する系と比べて、高い充電/放電速度を含むサイクル特性の改善(大きなサイクル数に達することができる)を可能にする。
【0019】
より詳細には、本発明は、メチル化アモルファスシリコン(MS)をベースとする少なくとも1つの材料を含む被覆をその表面の少なくとも一部分の上で支持する少なくとも1つの基材(S)を備えた、Liイオン電池用のアノードに関する。メチル化アモルファスシリコンをベースとする被覆は、連続薄層の形態であることが好ましい。
【0020】
基材(S)は、上層、特に層(MS)を支持するようになっており、リチウムイオンを全く又は殆ど挿入することができない任意の導電性材料で構成することができる。リチウムの挿入を受入れないという材料特性は、サイクルテストを実施し、その間、基材の可逆容量が無視できること、及び、基材が1サイクル又は数サイクル後に不動態化することが検証されることにより、当業者には公知の方法で評価することができる。基材(S)は、むき出しの、又は層、膜若しくは適合された被覆で覆われた、固体支持体の形態にすることができる。基材(S)は、銅、ニッケル、鉄、ステンレス鋼(SS)、モリブデン又はタングステンのうちから選択された金属又は金属アロイをベースとする少なくとも1つの層を含むことが有利である。特に、基材は完全に金属製とすることができ、例えば金属シートとすることができる。基材は、平坦な連続表面の形態にすることができる。基材はまた、電極としての使用に適した任意の形状を有することができ、特に、円筒形状にすることができる。基材は、高い比表面積を有することが有利である。このような基材は、特に結晶学的にテクスチャ付けされた金属基材を提案する特許文献5に記載されているような、高い表面粗度を有する基材の中から選択されることが有利である。基材はその幾何学的表面積より大きい比表面積を有することが好ましく、好ましくはその幾何学的表面積の2倍に等しいか又はそれより大きい、有利にはその幾何学的表面積の5倍に等しいか又はそれより大きい、更により好ましくは幾何学的表面積の10倍に等しいか又はそれより大きい比表面積を有する。実際、等価な表面積に対して、テクスチャ付き基材の存在は、平滑な材料と比べて、基材上に堆積される材料(MS)の量の増加を可能にし、それゆえ、その容量の増大を可能にする。
【0021】
基材(S)は、金属膜層を備えることが有利であり、金属膜を支持する1つ又は複数のの層を含むことができる。材料(MS)は、金属膜の上に直接、又は金属膜と層(MS)との間の中間層の上に堆積される。材料(MS)は、金属又は金属アロイをベースとする層の上に、特に金属膜の上に、直接堆積されることが有利である。
【0022】
本発明の好ましい変形例によれば、メチル化アモルファスシリコン層は連続薄層として堆積される。電池電極に対して、薄層の幾何学的配置は、電極の活物質と集電体とが直接接触するように配置することを可能にする。このことは、活物質と集電物質と電極の凝集を確実にする結合剤とを組み合せた複合材料として電極を成形することに関連した厄介な問題を回避する。逆に言えば、この幾何学的配置で高い体積容量の電極を作ることはあまり容易ではない。本発明を説明する好ましい実施形態において、この幾何学的配置は、活物質を構成する材料の固有の特性を利用することを可能にするという理由で好まれている。
【0023】
しかしながら、本発明の範囲はこの特定の実施形態に限定されない。また、本発明の範囲は、他の形態でのメチル化アモルファスシリコン、例えば、マトリックス内に分散されて複合材料を形成する小さいサイズのメチル化アモルファスシリコン粒子、メチル化アモルファスシリコンをベースとし、例えばシリコンなど他の材料のナノメートル粒子を組み込んだ多孔質又は非多孔質マトリックス、集電板上に堆積された又は大きく展開した表面積を有する集電板の表面上の被覆の形態でのメチル化アモルファスシリコンをベースとするナノ構造体の使用を含む。メチル化アモルファスシリコンをベースとする電極の当該形態は、他の実施形態を構成するこれらの幾何学的配置において、大容量を有し、且つ多数回の充放電サイクルを劣化することなく維持する電極を得るために有利であることが分かる。
【0024】
メチル化アモルファスシリコン(a−Si
1−x(CH
3)
x:H)は、シリコン原子が局所四面体環境を保持する点、及び材料が長距離にわたる規則性を有さない点で水素化アモルファスシリコンに関連する材料である。この材料は、炭素が本質的にメチル基CH
3として組み込まれる、シリコンと炭素との特別なアロイである。このことは、i)この材料内の炭素原子もまたsp
3混成に対応する四面体環境をとること、ii)メチル基は2つのシリコン原子の間(又はシリコン原子と炭素原子との間)の架橋の役割を保障することができない点でアモルファル格子の連続性を分断すること、を意味する。
【0025】
本発明の意味において、「メチル化アモルファスシリコンをベースとする層、又は材料」は、主としてメチル化アモルファスシリコン、特に質量分率で50乃至100%のメチル化アモルファスシリコンを含むアモルファスの、材料の層、又は材料自体を意味する。層又は材料(MS)は、場合によっては最大3原子パーセントまでの不純物でドープされた、メチル化アモルファスシリコンで構成されることが有利である。
【0026】
層(MS)は、不純物の包含によって、例えば、リン又はホウ素、ヒ素、アンチモン、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ビスマスの原子といった、通常のシリコン用ドーパントの包含によってドープすることができる。このドーピングは、層(MS)の導電率を高めることを可能にする。これら不純物の量は、層(MS)中、例えば、0.001乃至3原子パーセントとすることができる。これらの不純物は、イオン注入、拡散により、又はPECVDプロセス中に、反応混合物に加えられる気体の形態で導入することができる。例えば、ホウ素に関してはジボラン、又はリンに関してはホスフィンとすることができる。
【0027】
「低電力」方式で得られるメチル化アモルファスシリコンの利点は、優れた光学的性質及び半導体的性質を維持することである。このことは、これをドープして、アモルファスシリコンa−Si:Hの場合と同様に、N型又はP型の材料を得ることを可能にする。例えば、メチル化アモルファスシリコンにN型特性を与えるためには、少量のホスフィンPH
3を気体混合物に加えることができる。このドーピングは、材料に良好な電子伝導性を与えることを可能にする。電池内の電極材料として使用する場合、このことはメチル化アモルファスシリコンを集電板上の薄層又は被覆として使用する際に有利である。これは、特に電池内の望ましくない直列抵抗の存在を防止する。さらに、リチウムもまたN型ドーパントの役割を果たす。例えばリンによる従前のドーピングは、この役割を材料のリチオ化とは無関係に確保することを可能にし、充電/放電サイクル中の特性を安定化する。
【0028】
本発明の意味において、「アモルファス」は、シリコンの非晶質形態を意味し、即ち、該材料は長距離にわたる規則性を有しない。
本発明の意味において、「連続被覆」は、少なくとも基材の一部分を完全に覆う膜の形態の被覆を意味する。
【0029】
メチル化アモルファスシリコンの層を構成する材料は化学式(I)で表すことができる。
a-Si
1‐x(CH
3)x:H、ここで0<x≦0.4 (I)
本発明の好ましい変形例によれば、式(I)において、0.1≦x≦0.25である。
【0030】
リチウムイオン電池用のアノード材料としてのメチル化アモルファスシリコンの使用は実質的な利点を有する。即ち、i)主としてシリコンをベースとする材料の使用は、シリコンの可逆充電/放電容量に近い可逆充電/放電容量の恩恵を受けることを可能にし、ii)メチル基の存在は、シリコン原子によって形成される3次元格子の平均配位数を減らし、このことが材料を柔らかくし、充放電プロセスに伴う体積変化をより良く支えることを可能にし、電池のより良いサイクル性を得ることを可能にする。従って、メチル化アモルファスシリコンの組成a−Si
1−x(CH
3)
x:Hは、メチル基の含有量xが電極の充電/放電容量を最適化するのに十分に小さく、しかし十分な弾性を有する材料をもたらすのに十分に大きくなるように選択する必要がある。Si−CH
2−Si単位を形成するCH
2基の存在は、シリコン原子の格子を網状にして材料を硬くする原因となるので避ける必要がある。同様に、sp
2混成状態の炭素原子の存在は、電極の容量を損なう小さい炭素クラスタを材料内に形成する傾向があるので、やはり避ける必要がある。実際には、材料作成の方法により、任意の値のメチル基含有量xを有するメチル化アモルファスシリコンa−Si
1−x(CH
3)
x:Hを得ることは困難である。従って、シリコンと炭素との水素化アモルファスアロイの性質を規定し、それをメチル化アモルファスシリコン型の材料と見なすことができるかどうかを判断するのに使用可能な特性評価技術を有することが重要である。
【0031】
従来技術の文献において、著者らは、化学式a−Si
1−xC
x:Hによってアモルファスアロイ型の材料又はグラファイト含有物を含む材料を区別せずに示してきた。実際には、炭素がsp
3形態で存在する単一の均質相を炭素とシリコンが形成するとき、以下の式(II)がこの材料をよりよく表す。
a-Si
1-x(CH
3)
x-y(CH
2)
y:H、ここで0<x≦0.4及びy≦x (II)
【0032】
理想的には、メチル化アモルファスシリコンは、y=0の場合の式(II)で表される材料に相当し、その場合、式(I)が得られる。本明細書の意味において、メチル化アモルファスシリコンと呼ばれることになるのは、i)材料が式(II)に良好に近似して示されるように、sp
2混成状態の炭素原子の存在が十分に低く、ii)材料を良好に近似する式(II)において、yがxに比べて十分に小さいように、炭素のかなりの部分がメチル基として組み込まれる、均質相を構成する材料である。上記の条件における語句「十分に低い(low enough)」及び「十分に小さい(small enough)」の意味は、次の2つの段落でより正確に説明される。
【0033】
赤外分光法は、種々のアロイa−Si
1−xC
x:Hの性質を簡単な方法で判定することを可能にする。一般に、2800cm
−1と3100cm
−1との間のC−H結合の伸縮振動は、炭素原子の混成状態及び存在する炭化水素基の性質を特定することを可能にする。sp
3混成状態の炭素原子に関して、CH
3基の寄与は、2885cm
−1及び2950cm
−1の近傍に中心を有する2つのピークの形となり、CH
2基の寄与は、2860cm
−1及び2920cm
−1の近傍の2つのピークの形となる。これらのピークの正確な位置は材料の組成に僅かに依存することがあり、それらの幅は、それらピークが互いに部分的に重なるような幅である。しかし、当業者には公知のスペクトル調整あるいはデコンボリューションの手順により、これらの種々の寄与を明らかにすることができる。変角振動に対応する領域は、CH
2基とCH
3基のそれぞれの寄与をさらにより明確に分離することが可能である。CH
3基の非常に特徴的な寄与は、1235cm
−1と1250cm
−1との間に中心を有するピークの形で見出される。同様にCH
2基の特徴的な寄与は、1450cm
−1の近傍に中心を有するピークの形で見出される。これらの2つの特性ピークの間で、CH
3基に関連する2つの他のピークが分離され、1つは1340cm
−1と1360cm
−1との間に中心を有し、他は1400cm
−1周辺にあるが、これらのピークは、1235cm
−1と1250cm
−1との間に中心を有するピークよりも強度が弱い。sp
2混成状態の炭素原子に関しては、C−H結合の伸縮振動が特徴的であり、3000cm
−1と3100cm
−1との間に位置する。Si−(CH
3)のメチル基もまた、架橋基Si−(CH
2)−Siとは、Si−C伸縮振動のスペクトルが異なり、メチル基の場合は770cm
−1付近に単一のピークがあり、架橋基の場合は1100cm
−1付近に付加的なピークがある。
【0034】
本明細書において、メチル化アモルファスシリコンは、炭素のかなりの部分がメチル基として組み込まれたシリコン−炭素アロイを指す。炭素のかなりの部分がメチル基の形にあると見なされることになるのは、材料の赤外スペクトルが、赤外スペクトルピークの幅に影響を及ぼさない装置分解能で記録されたとき、i)メチル基の対称変角振動に関連するピーク(最大値が1230cm
−1と1260cm
−1との間に位置する)の高さが、2800cm
−1と3100cm
−1との間のC−H結合の伸縮振動に関連する吸収帯の高さの4分の3より高く、ii)3000cm
−1と3100cm
−1との間のC−H結合の伸縮振動に関連する吸収であって、その振幅が2800cm
−1と3000cm
−1との間のC−H結合の伸縮振動に関連する吸収帯の高さの4分の1を超える吸収が観測されない場合である。
【0035】
本発明の材料とは異なり、かなりのグラファイト相を含むSi/C複合材料及びSiC材料は不透明である。
【0036】
材料(MS)中の炭素原子の濃度[C]の原子濃度[C]及び[Si]の和に対する比をαと呼ぶ。
【数1】
本発明の材料においては、5%≦α≦40%であることが好ましい。
10%≦α≦30%であることが有利である。
【0037】
被覆は、メチル化アモルファスシリコン層(MS)の積層体、即ち、一連の交互の同じ又は異なる層、特に異なる割合のシリコンと炭素とを含む材料の層で構成することができる。そのような積層は、10回まで繰返すことができる。例えば、層(MS)は2乃至20層、好ましくは6乃至12層を含むことができる。
【0038】
得られたアロイの分析のために、アロイ中の種々の元素の量を測定するための、2次イオン質量分析法(SIMS)又は光電子分光法のような当業者には公知の何らかの方法を用いることができる。光学的性質は、透過又は反射分光法、分光偏光解析法、光熱偏向分光法によって測定することができ、電子的性質は、空間電荷によって制限される電流を調べることによって測定することができる。
【0039】
連続層は、アノードとして使用される基材領域の全体を覆うことができる。連続層は、被覆表面のあらゆる点で、10nmより厚い厚さを有することができる。
この厚さは、基材の全表面にわたって実質的に一定であることが有利である。好ましくは、メチル化アモルファスシリコン層(MS)又はメチル化アモルファスシリコン層(MS)の重なりは、30nmより厚いか又はそれに等しい厚さ、有利には100nmより厚いか又はそれに等しい厚さ、さらに良好には、500nmより厚いか又はそれに等しい厚さを有する。これは、10μmまでの厚さを有することができる。
【0040】
従来技術の材料と比較すると以下のことが分かる。
本発明の材料(MS)はSiより導電性が低く、従って直感的には、電極、特にアノード用の材料としての使用はあまり好ましくない。しかし、この材料をドープするという可能性がこの欠点を軽減し、この欠点は、実質的に材料の導電率をさらに高める該材料のリチオ化の後、即ち、1回又は数回の充電/放電サイクル(充電/放電条件による)の化成(forming)期間後には、もはや実際的な帰結とはならない。さらに、シリコンはサイクル性が不十分であり、これがLiイオン電池における電極材料としてのシリコンの使用を制限するので、材料(MS)の、Siよりも非常に高いサイクル性、及び、従来技術より非常に高いリチウム挿入保持能力が、この種の用途に対する決定的な利点となる。
【0041】
基材(S)上へのメチル化アモルファスシリコン(MS)をベースとする層の堆積は、上記の特性を有利に有するシリコンと炭素とのアモルファスアロイを得ることができることを条件として、当業者に公知の任意の方法によって実施することができる。例えば、Solomon他による文献(非特許文献8、非特許文献9)に記載されているように、PECVD(プラズマ化学気相成長)による方法を用いることができる。
【0042】
メチル化アモルファスシリコンは、低電力方式で、シラン(SiH
4)とメタン(CH
4)との混合物のプラズマ強化分解による薄層堆積として有利に得られる。この「低電力」方式は、シラン分子のみがプラズマによって直接分解されるような十分に穏やかなプラズマ励起条件に対応し、このとき、薄層内に取り込まれる炭素は、メタン分子と、プラズマ内のシラン分子の分解から生じる活性種との反応によって形成されるメチル基に由来する(非特許文献8を参照されたい)。この「化学的」様式の取り込みは、堆積装置の幾何学的配置の詳細に依存しないという利点を有する。論理的には、この間接的な励起方式を考慮すると、薄層内のシリコン原子数に対する炭素原子数の比は、気体混合物中のシラン濃度に対するメタン濃度の比よりも実質的に小さくなる。この作成様式において、0と0.2との間のxの値に対応する組成のa−Si
1−x(CH
3)
x:Hの材料を得ることが可能である。この最大値を超えて、低電力方式で、シリコン原子数に対する炭素原子数の比が0.4付近の値となる材料を得ることが可能ではあるが、その材料内では、測定可能な割合の炭素原子がもはやメチル基としてではなく、2つのシリコン原子の間の架橋位置において取り込まれる(非特許文献9を参照されたい)。しかし、この材料は、本明細書の意味においては依然としてメチル化アモルファスシリコンである。同様に、「低電力」方式以外で適切な条件において得られる材料もまた、本明細書の意味においてメチル化アモルファスシリコンと見なすことができる。
【0043】
本発明はまた、前述のような電極を製造するための方法を目的として有し、該方法は、
(i)リチウムイオンをその中に全く又は殆ど挿入することができない導電性材料で作られた基材を準備するステップと、
(ii)該基材の上にメチル化アモルファスシリコンをベースとする層を低電力PECVDによって堆積させるステップと
を少なくとも含む。
【0044】
特に、期待される特性(アモルファス特性、アロイ)を有する材料は、低電力PECVD法を用いて得られる。例えば特許文献4において用いられる高電力PECVD法とは異なり、本発明において用いられる方法は、光スペクトルの赤又は近赤外部分で材料を不透明にさせる、3000cm
−1と3100cm
−1との間に含まれる領域において振動吸収を生じさせることがあるグラファイト相の形成を回避することを可能にする。
【0045】
本発明の意味において、「低電力PECVD」は、プラズマ内の電磁励起の影響下でメタンの直接分解が全く又は殆ど起らないような電力におけるPECVDを意味する。
【0046】
前述のように、低電力方式から逸脱することが必ずしもメチル化アモルファスシリコンを得ることを妨げるとは限らない。同様に、メチル化アモルファスシリコンは、当業者に公知の他の方法で得ることができる。本発明の材料は、例えば、シランと、エタン、アセチレン又はエチレンとの気体混合物から、PECVDによって得ることができる(例えば、非特許文献10を参照されたい)。本発明の材料は、メチルシランCH
3SiH
3から(例えば、非特許文献11を参照されたい)又はこの気体とシランとの混合物からPECVDによって得ることもできる。どの方法を選択しても、堆積の条件を選択し、必要な場合にはドーピング気体を前駆体混合物に加えて材料に十分な導電率を与え、電池における電極の性能を低下させ易い直列抵抗が電極内で出現することを制限することが有利である。
【0047】
層(MS)は、基材(S)の一部分にだけ堆積させることができる。この場合、堆積は所望の幾何学的配置に適合させたマスクを用いて行うことができる。
【0048】
本発明は、基材上へのメチル化アモルファスシリコンアロイのPECVD堆積に基づくものであり、これら全体がLiイオン電池のアノードを構成する。この堆積は、シラン及びメタン、並びに、場合により、例えばホスフィンPH
3又はジボランB
2H
6などのような1種又は数種のドーピング気体のフローによって行われる。
【0049】
本発明の方法の実施のために、以下のパラメータを用いることが好ましい。
基材の温度は、100℃と350℃との間、好ましくは150℃と320℃との間、有利には180℃と280℃との間に含まれる。
反応容器内でのCH
4の一次分解に対する電力閾値は、シランSiH
4に対する電力閾値よりも高い。本発明の方法で用いられる電力は、プラズマによるメタンの分解が起らないように、この閾値より低くとどまるように選択される。
これは、0.3W/cm
2未満、好ましくは0.25W/cm
2未満、有利には0.03W/cm
2と0.15W/cm
2との間に含まれる電力を印加するように選択される。
低電力を選択することにより、炭素をsp
3形態に維持してこれをメチル基として取り込むこと、及び、材料内でのグラファイト相の形成を避けることが可能になる。
シランの気体流量は、標準状態で0.02cm
3/mn
(分)と100cm
3/mn
(分)との間、好ましくは標準状態で0.1cm
3/
mn(分)と50cm
3/
mn(分)との間、有利には標準状態で0.5cm
3/
mn(分)と30cm
3/
mn(分)との間に含まれる。
メタンの気体流量は、標準状態で1cm
3/
mn(分)と200cm
3/
mn(分)との間、好ましくは標準状態で2cm
3/
mn(分)と100cm
3/
mn(分)との間、有利には標準状態で4cm
3/
mn(分)と50cm
3/
mn(分)との間に含まれる。
反応容器内に実装されるシランとメタンとの流量比は、層(MS)内で所望される比αの関数として選択される。
堆積中の圧力は、3mTorrと300mTorrとの間、好ましくは10mTorrと200mTorrとの間、有利には25mTorrと100mTorrとの間に含まれる。
【0050】
堆積は、不規則な表面であっても、その表面上に共形モードで行われ、即ち、材料は、表面のいずれの位置にも効率的に堆積される。従って、単位幾何学的表面積当たりの蓄電容量が、活物質を金属シート上に塗布された複合材料内に粒子として分散させたデバイスの蓄電容量に匹敵する又はそれより高いデバイスを、比較的薄い層であっても作成することができる。
【0051】
この材料は、シリコンと炭素との非化学量論的水素化アロイであることの利点を有する。
シリコン−炭素結合は、主としてsp
3型である。この材料は、特許文献6に記載のように、電池のサイクリングの前にドープ(n又はp)するか又はリチオ化することができる。このように調製された材料は、リチウム蓄電池用のアノード活物質として機能する。
【0052】
本発明の目的は、電極を製造するための活物質、特にアノード材料としての上述の材料(MS)の使用である。
本発明の材料(MS)がリチウム電池内で使用されるとき、リチウム電池はリチウムイオンの挿入及び脱離によって動作し、場合によっては、材料(MS)をベースとする被覆をリチウム電池内に組み込む前に、この被覆を少なくとも部分的にリチオ化することが有利であることが分かっている。リチオ化は、化学的及び/又は電気化学的方法によって終端させた電極上で行うことができる。事前リチオ化が電池の安定性及び充電/放電効率を向上させることが観測されている。
【0053】
本発明の別の目的は、上述のようなメチル化アモルファスシリコンをベースとする少なくとも1つの層を含む膜を堆積させた少なくとも1つの基材を備えた電極である。より正確に言えば、本発明はLiイオン電池のアノードに関する。
【0054】
本発明はまた、このようなアノードを備えたリチウム蓄電池又はLiイオン電池を目的として有する。
Liイオン電池は、上記のアノードと、カソードと、電解質とをさらに備える。
【0055】
カソードの構成に入る活物質は、当業者に公知の材料、例えば以下の材料の1つ又は幾つかの中から選択することができる。
・LiNiO
2、LiCoO
2、LiMO
2。場合により、Ni、Co及びMnを、Mg、Mn(LiMO
2を除く)、Al、B、Ti、V、Si、Cr、Fe、Cu、Zn、Zrから成る群の中から選択された1つ又は幾つかの元素で置換えることができる。
・一般式Li
xM
zPO
4であって、式中xは1と3との間であり、z=1又は2である、リン、リチウム、及び少なくとも1つの遷移金属の混合酸化物。このような酸化物の例は、LiMnPO
4、LiCoPO
4、LiFePO
4、LiVPO
4F、及びLi
3Fe
2PO
4である。
・LiMn
2O
4であって、ここでMnは、Ni、Co、Mg、Al、B、Ti、V、Si、Cr、Fe、Cu、Zn、Zrから成る群の中から選択された1つ又は幾つかの元素で置換えることができる。
【0056】
リチウム蓄電池の分野の当業者に公知の電解質が、選択される。
電解質の溶媒は、直鎖カーボネート、飽和環状カーボネート、不飽和環状カーボネート、環状エーテル、直鎖エーテル、直鎖エステル及びこれらの混合物などの有機溶媒の中から選択される。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネートを挙げることができる。当業者に公知の添加物、例えば、ビニリデンカーボネート、クロロシラン、アルコキシシランを、使用される溶媒又は溶媒混合物に添加することができる。
【0057】
リチウム塩がこの溶媒又はこの溶媒混合物中に溶解される。これは、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF
6)、過塩素酸リチウム(LiClO
4)、ビス(シュウ酸)ホウ酸リチウムLiB(C
2O
4)
2(LiBOB)、リチウムビス(三フッ化メタンスルホニル)イミドLiN(CF
3SO
2)
2(LiTFSI)、リチウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミドLiN(C
2F
5SO
2)
2(LiBETI)、リチウムトリス(三フッ化メタンスルホニル)メチリドLiC(CF
3SO
2)
3(LiTFSM)から成る群の中で選択することができる。
【0058】
電解質の溶媒又は溶媒混合物中のリチウム塩の濃度は、当業者に公知の方法で、例えば0.1Mと1.5Mとの間、好ましくは1Mに調製される。
【0059】
本発明は、その実装の単純さ(1つの材料だけを堆積させる)に加えて、層の厚さをナノメートルスケールからマイクロメートルスケールまで変えることができるので、遭遇する種々の問題を軽減し、非常に優れた特性(優れたエネルギー容量、優れたサイクル性、高い充放電速度)を得ることを可能にする。