【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽エネルギー技術研究開発 太陽光発電システム次世代高性能技術の開発 有機薄膜太陽電池モジュールの創製に関する研究開発(新構造モジュールの研究開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0011】
実施形態を説明する前に、本発明に至った経緯について説明する。
【0012】
太陽電池モジュールは、直列に接続された複数のセルを有し、このセルは、透明な基板と、この透明な基板上に設けられた透明な第1電極と、この第1電極上に設けられた有機光電変換膜と、この有機光電変換膜上に設けられた第2電極(背面電極)と、を備えている。
【0013】
このような構成を有する太陽電池モジュールの例を
図1に示す。この例の太陽電池モジュール100は直列に接続された複数のセル1
1、1
2を有し、各セル1
i(i=1,2)は、透明な基板10上に設けられた透明な第1電極12と、この第1電極12上に設けられた有機光電変換膜14と、有機光電変換膜14上に設けられた第2電極16と、を備えている。各電池セルにおいて、有機光電変換膜14は第1電極12の上面の一部と、側面とを覆っている。第2電極16は、有機光電変換膜14の上面の一部と、側面とを、覆うとともに、次段の電池セルの第1電極12の上面の側面および上面の一部に接続される。
【0014】
この第1例の太陽電池モジュール100においては、セル1
1の発電領域は、有機光電変換膜の上面に位置する第2電極16の端部から第1電極12のセル1
2側の端部までの領域であり、電池セル1
1の非発電領域は、第1電極12のセル1
2側の端部からセル1
2の第2電極16の有機光電変換膜14の上面に位置する端部までの領域となる。各セル1
i(i=1,2)の発電領域の幅を12mmとし、セル1
iの非発電領域の幅を1mmとする。このとき、各セル1
i(i=1,2)の開口率は12mm/(12mm+1mm)=92%である。開口率を上げるためには、非発電領域の面積を小さくし、発電領域の面積を大きくする必要がある。非発電領域の面積部分はセル間の第2電極部分に相当する。
【0015】
太陽電池モジュールのサイズが大きくなると、第2電極用蒸着マスクにおける非発電領域の面積部分の剛性が低下するため、非発電領域の面積部分への正確な位置決めが困難になる。
【0016】
したがって、第2電極用蒸着マスクの非発電領域の面積部分の幅は約1mmに制限される。よって、開口率の増加には発電領域の面積を広くする、すなわち、セルの幅を大きくすることが重要である。
【0017】
また、光電変換効率の増加に伴い短絡電流密度も増加する。短絡電流密度が増加すると、セルの透明電極(第1電極)を流れる電荷の抵抗損失も無視できなくなる。この問題を回避するためには、セルの発電領域の幅を小さくすることである。
【0018】
ところが、セルの発電領域の幅を小さくすることは、発電領域の面積を小さくすることに対応し、その結果、開口率が減少してしまう。例えば、
図1に示す例おいて、発電領域の幅を12mmから6mmに減少させた場合は、開口率は6mm/(6mm+1mm)=86%に減少する。
【0019】
そこで、本発明者達は、短絡電流密度の増加による透明電極の直列抵抗成分の増加に起因する光電変換効率の低下を抑制するために、各セルの発電領域の幅を小さくしても高い開口率が得られることで光電変換効率が高い太陽電池モジュールを発明した。この太陽電池モジュールを以下に実施形態として説明する。
【0020】
(第1実施形態)
第1実施形態による太陽電池モジュールを
図2に示す。この実施形態の太陽電池モジュール100は、直列に接続された複数のセル1
1、1
2、1
3を有し、各セル1
i(i=1,2,3)は、透明な基板10上に設けられた透明な第1電極12と、この第1電極12上に設けられた有機光電変換膜14と、有機光電変換膜14上に設けられた第2電極16と、を備えている。有機光電変換膜14は、
図3に示すように、第1キャリア輸送層14
1と、光電変換層14
2と、第2キャリア輸送層14
3とがこの順序で積層された積層膜である。第1キャリア輸送層14
1が正孔輸送層であれば、第2キャリア輸送層14
3は電子輸送層である。また、第1キャリア輸送層14
1が電子輸送層であれば、第2キャリア輸送層14
3は正孔輸送層である。光電変換層は、有機P型半導体と有機N型半導体が混合したバルクヘテロジャンクション構造を有する。なお、本明細書では、透明であるとは、光の透過率が60%以上であることを意味し、半透明であるとは、光の透過率が30%以上60%未満であることを意味する。
【0021】
各セルにおいて、有機光電変換膜14は第1電極12の上面の一部と、側面とを覆っている。第2電極16は、有機光電変換膜14の上面の一部と、側面とを、覆っている。第1段のセル1
1より後の段のセル1
i(i=2,3)のそれぞれは、第1電極12が前段のセル1
i−1の第2電極16の上面の一部と側面とを覆っている。すなわち、第2段以降の各セルは、前段のセルと一部分が重なるように設けられている。なお、第1実施形態においては、第2段以降のセル1
i(i=2,3)においては、第1電極12、有機光電変換膜14、および第2電極16の、前段のセル1
i−1側の端面、すなわち図面上で左側の端面はそれぞれ、前段のセル1
i−1の第2電極16の右側の端面(側面)よりも前段のセル1
i−1側に位置している。また、太陽電池モジュール100が受ける光は、基板10に対して各セルが設けられた側と反対側から入射する。
【0022】
この第1実施形態の太陽電池モジュール100においては、第1段のセル1
1の発電領域は、第2電極16の左側の端面から有機光電変換膜14の右側の端面までの領域である。また、第2段以降の各セル1
i(i=2,3)においては、発電領域は、前段のセル1
i−1の第2電極16の右側の側面から有機光電変換膜14の右側の側面までの領域である。そして隣接するセルにおける非発電領域は、第2電極16の厚さに相当する領域である。各セルの第1電極12、有機光電変換膜14、第2電極16がそれぞれ、メニスカス塗布法により形成される場合は、それぞれの厚さが0.1mmの精度で形成することが可能である。すなわち、第2電極16の厚さを0.1mmとすることが可能となるので、非発電領域は幅が0.1mmとなる。発電領域を
図1に示す場合と同様に、12mmとすると、第1実施形態の太陽電池モジュールにおける開口率は、12/(12+0.1)=99.2%となる。
【0023】
以上説明したように、本実施形態によれば、
図1に示す場合に比べて、非発電領域の幅を狭くすることが可能となるので、発電領域の幅を小さくしても高い開口率を得ることができる。すなわち、光電変換効率が高い太陽電池モジュールを得ることができる。
【0024】
(製造方法)
次に、第1実施形態の太陽電池モジュールの製造方法について、
図4A乃至
図4Fを参照して説明する。
図4A乃至
図4Fは、太陽電池モジュールの製造方法を示す上面図である。
【0025】
まず、透明な基板10上に第1段のセル1
1の第1電極12を塗布法により形成する(
図4A)。この第1電極12の上面の一部を覆うように第1段のセル1
1の有機光電変換膜14を塗布法により形成する(
図4B)。この有機光電変換膜14の上面の一部を覆うように第1段のセル1
1の第2電極16を塗布法により形成する(
図4C)。続いて、
図4Dに示すように、第1段のセル1
1の第2電極16の上面の一部を覆うように、第2段のセル1
2の第1電極12を塗布法により形成する。この第1電極12の上面の一部を覆うように第2段のセル1
2の有機光電変換膜14を塗布法により形成する(
図4E)。この有機光電変換膜14の上面の一部を覆うように第2段のセル1
2の第2電極16を塗布法により形成する(
図4F)。以下、上述した工程を繰り返すことにより、直列に接続された複数のセルを備えた第1実施形態の太陽電池モジュールが完成する。なお、上記製造方法においては、有機光電変換膜14は同じセルの第1電極12の側面も覆い、第2電極16は同じセルの有機光電変換膜の側面も覆うように形成される。
【0026】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態による太陽電池モジュールを
図5A乃至
図5Dを参照して説明する。
図5A乃至
図5Dは、第2実施形態の太陽電池モジュールの製造方法を示す工程断面図である。
【0027】
まず、
図5Aに示すように、透明な基板10上に、複数のセル1
1、1
2の基本構造(太陽電池素子)2
1、2
2を形成する。各基本構造2
i(i=1,2)は、基板10上に形成された透明な第1電極12と、この第1電極12の上面の一部を覆う有機光電変換膜14と、この光電変換膜14の上面の一部を覆う第2電極16とを有している。これらの基本構造2
1、2
2は、基板10上に互いに分離して形成される。更に各基本構造2
i(i=1,2)においては、第2電極16は、その右側の端面が有機光電変換膜16の右側の端面に一致するように形成される。各基本構造2
i(i=1,2)において、第1電極12、有機光電変換膜14、および第2電極16はそれぞれ、塗布法を用いて形成される。
【0028】
続いて、
図5Bに示すように、第1電極12と同じ材料を用いて、基本構造2
1の第2電極16の上面の一部を覆うとともに基本構造2
2の第1電極12の左側の側面に接続するように、第1セル1
1の第1電極12を形成する。これにより、第1セル1
1の基本構造2
1と第2セル1
2の基本構造2
2が直列に接続される。
【0029】
その後、
図5Cに示すように、有機光電変換膜14と同じ材料を用いて、基本構造2
2の第1電極12の上面における一部の領域を覆うとともに基本構造2
2の有機光電変換膜14の左側の側面に接続するように、セル1
2の有機光電変換膜14を形成する。
【0030】
続いて、
図5Dに示すように、第2電極16と同じ材料を用いて、第2セル1
2の基本構造2
2の有機光電変換膜14の上面における一部の領域を覆うとともに基本構造2
2の第2電極16の左側の側面に接続するように、第2セル1
2の第2電極16を形成する。
【0031】
このようにして製造された太陽電池モジュールにおいては
図5Dに示すように、隣接するセル間には非発電領域が存在しない。このため、開口率は100%となる。
【0032】
なお、第2実施形態においては、第1実施形態と同様に、第2段以降のセル1
i(i=2)においては、第1電極12、有機光電変換膜14、および第2電極16の、前段のセル1
i−1側の端面、すなわち図面上で左側の端面はそれぞれ、前段のセル1
i−1の第2電極16の右側の端面(側面)よりも前段のセル1
i−1側に位置している。また、太陽電池モジュール100が受ける光は、基板10に対して各セルが設けられた側と反対側から入射する。
【0033】
以上説明したように、本実施形態によれば、隣接するセル間の非発電領域を無くすことが可能となるので、発電領域の幅を小さくしても100%の開口率を得ることができる。すなわち、光電変換効率が高い太陽電池モジュールを得ることができる。
【0034】
(第3実施形態)
第3実施形態による太陽電池モジュールの断面を
図6に示す。この第3実施形態の太陽電池モジュール100は、直列に接続されたセル1
1、1
2、1
3を有している。各セル1
i(i=1,2,3)は、基板10上に設けられた第1積層構造4aと、この第1積層構造4aの上面の一部の領域を覆う第2積層構造4bと、を備えている。
【0035】
第1積層構造4aは、基板10上に設けられた透明な第1電極12と、この第1電極12の上面の一部の領域および側面を覆う有機光電変換膜14aと、この有機光電変換膜14aの上面の一部の領域および側面を覆う透明または半透明な第1中間電極15aと、を備えている。
【0036】
第2積層構造4bは、第1中間電極15aの上面の一部の領域および側面を覆う透明または半透明な第2中間電極15bと、この第2中間電極15bの上面の一部の領域および側面を覆う有機光電変換膜14bと、この有機光電変換膜14bの上面の一部の領域および側面を覆う第2電極16と、を備えている。なお、有機光電変換膜14a、14bはそれぞれ、
図2に示す有機光電変換膜14と同じ構成、すなわち一方が順構造を有していれば、他方も順構造を有し、一方が逆構造であれば他方も逆構造となる。
【0037】
第2段以降の各セル1
i(i=2,3)においては、第1積層構造の第1電極12は、前段のセル1
i−1における第2積層構造の第2中間電極15bと接続され、第1積層構造の有機光電変換膜14aは、前段のセル1
i−1における第2積層構造の有機光電変換膜14bと接続され、第1積層構造の中間電極15aは、前段のセル1
i−1における第2積層構造の第2電極16と接続される。
【0038】
第3実施形態の太陽電池モジュール100は、例えば、第1実施形態で説明した製造方法と同様の製造方法を用いて製造される。例えば、第3実施形態の太陽電池モジュール100の製造方法は、以下のように行われる。第1実施形態で説明した塗布法を用いて、第1段のセル1
1における第1積層構造4aの第1電極12、有機光電変換膜14a、および第1中間電極15aを形成し、その後、第2積層構造4bの第2中間電極15bを形成する。
【0039】
次に、第2段以降の各セル1
i(i=2,3)においては、前段のセル1
i−1の第2中間電極15bを形成した後、この第2中間電極15bに接続するように当該セル1
iの第1電極12を形成する。なお、第2中間電極15bが第1電極12と同じ材料であれば、第1電極12と同時に形成してもよい。その後、前段のセル1
i−1の第2積層構造4bの有機光電変換膜14bとともに当該セル1
i(i=2,3)の第1積層構造4aの有機光電変換膜14aを形成する。続いて、前段のセル1
i−1の第2積層構造4bの第2電極16を形成する。続いて、前段のセルの第2積層構造4bの第2電極16に接続するように、当該セル1
i(i=2,3)の第1積層構造4aの中間電極15aを形成し、その後、第2積層構造4bの第2中間電極15bを形成する。以下、上述した工程を繰り返す。
【0040】
このように構成された第3実施形態の太陽電池モジュール100においては、
図6に示すように、隣接するセル1
i、1
i+1(i=1,2)間には、非発電領域が存在しないため、開口率が100%となる。
【0041】
したがって、第3実施形態も第2実施形態と同様に、隣接するセル間の非発電領域を無くすことが可能となるので、発電領域の幅を小さくしても100%の開口率を得ることができる。すなわち、光電変換効率が高い太陽電池モジュールを得ることができる。
【0042】
また、各セルは、一部が重なるように積層された第1および第2積層構造を有し、かつ第1および第2中間電極が透明または半透明である。このため、第1および第2実施形態においては第2電極で吸収された光を、第1および第2中間電極を透過して有機光電変換膜において光電変換に利用することが可能となり、これにより、第1および第2実施形態に比べて、光電変換効率を更に高くすることができる。
【0043】
次に、上記第1乃至第3実施形態の太陽電池モジュールを構成する各要素について詳細に説明する。
【0044】
(基板)
基板10は、他の部材を支持するためのものである。この基板10は、透明で電極を形成でき、熱や有機溶剤によって著しく変質しないものが好ましい。基板10の材料としては、例えば、無アルカリガラス、石英ガラス等の無機材料、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、液晶ポリマー、シクロオレフィンポリマー等のプラスチック、高分子フィルム等が挙げられる。
【0045】
基板10は、光が入射する側であるため、透明もしくは半透明な材料が使用される。基板10の厚さは、その他の構成部材を支持するために十分な強度と可撓性があれば、特に限定されない。
【0046】
また、基板10の光入射面には、例えばモスアイ構造の反射防止膜を設けることで光を効率的に取り込み、セルのエネルギー変換効率を向上させることが可能である。モスアイ構造は、表面に100nm程度の規則的な突起配列を有する構造をしており、この突起構造により厚み方向の屈折率が連続的に変化する。このため、反射防止膜を設けることで屈折率が不連続的に変化する面が無くなり、光の反射が減少し、セルの光電変換効率が向上する。
【0047】
(第1電極12)
第1電極12は、塗布法で成膜ができ、光透過性と導電性を有するもの(透明電極)であれば特に限定されない。
【0048】
透明な第1電極12の材料として、有機系の導電性ポリマーであるポリエチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルホン酸(以下、PEDOT:PSS(poly(3,4−ethylenedioxythiopherene):polystyrene acid)とも云う))、ポリアニリンおよびその誘導体、ポリチオフェンおよびその誘導体等を用いてよい。
【0049】
また、透明な第1電極12の材料として、導電性の金属酸化物膜、半透明の金属薄膜等が挙げられる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、およびそれらの複合体であるITO(Indium Tin Oxide)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO(Fluorine-doped Tin Oxide))、またはインジウム、亜鉛、およびオキサイド等からなる導電性ガラスを用いて作製された酸化スズ膜等が用いられる。特に、ITOまたはFTOが好ましい。また、金、白金、銀、銅等の金属を用いてもよい。
【0050】
電極12の膜厚は、例えば、PEDOT:PSSを用いた場合、30nm〜300nmであることが好ましい。30nmより薄くすると、導電性が低下して抵抗が高くなり、光電変換効率の低下の原因となる。300nmよりも厚くすると、PEDOT:PSSの光吸収が大いいため、光電流が低下する。
【0051】
さらに、第1電極12のシート抵抗は可能な限り低いことが好ましく、10Ω/□以下であることが好ましい。第1電極12は、単層であってもよく、異なる仕事関数の材料で構成される層を積層したものであってもよい。
【0052】
(第1キャリア輸送層14
1および第2キャリア輸送層14
3)
図3に示す第1キャリア輸送層14
1および第2キャリア輸送層14
2は、一方が正孔輸送層で他方が電子輸送層として機能する。
【0053】
順構造型有機薄膜太陽電池の場合、第1キャリア輸送層は正孔輸送層、第2キャリア輸送層は電子輸送層として機能する。一方、逆構造型有機薄膜太陽電池の場合、第1キャリア輸送層は電子輸送層、第2キャリア輸送層は正孔輸送層として機能する。
【0054】
正孔輸送層は、電子をブロックして正孔のみを効率的に輸送する機能、および光電変換層と正孔輸送層との界面で生じたエキシトンの消滅を防ぐ機能を有する。同様に、電子輸送層は、正孔をブロックして電子のみを効率的に輸送する機能、および光電変換層と電子輸送層との界面で生じたエキシトンの消滅を防ぐ機能を有する。
【0055】
正孔輸送層と電子輸送層の有機物を含む材料は、PEDOT−PSSやゾルゲル法にてチタンアルコキシドを加水分解して得たアモルファス性の酸化チタンなどが挙げられる。無機物ではフッ化リチウム、金属カルシウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化バナジウムなどが挙げられる。
【0056】
(光電変換層14
2)
図3に示す光電変換層14
2は、第1キャリア輸送層14
1上に配置される。光電変換層14
2は、バルクへテロ接合型の光電変換層である。バルクヘテロ接合型の光電変換層は、P型半導体とN型半導体が光電変換層中で混合してミクロ層分離構造を取ることが特徴である。バルクへテロ接合型は、混合されたP型半導体とN型半導体が光電変換層内でナノオーダーのサイズのPN接合を形成し、接合面において生じる光電荷分離を利用して電流を得る。
【0057】
P型半導体は、電子供与性の性質を有する材料で構成される。これに対して、N型半導体は、電子受容性の性質を有する材料で構成される。各実施形態においては、P型半導体およびN型半導体の少なくとも一方が有機半導体であってもよい。
【0058】
P型有機半導体としては、例えば、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリピロールおよびその誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、オリゴチオフェンおよびその誘導体、ポリビニルカルバゾールおよびその誘導体、ポリシランおよびその誘導体、側鎖または主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリンおよびその誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリンおよびその誘導体、ポリフェニレンビニレンおよびその誘導体、ポリチエニレンビニレンおよびその誘導体等を使用することができ、これらを併用してもよい。また、これらの共重合体を使用してもよく、例えば、チオフェン−フルオレン共重合体、フェニレンエチニレン−フェニレンビニレン共重合体等が挙げられる。
【0059】
好ましいP型有機半導体は、π共役を有する導電性高分子であるポリチオフェンおよびその誘導体である。ポリチオフェンおよびその誘導体は、優れた立体規則性を確保することができ、溶媒への溶解性が比較的高い。ポリチオフェンおよびその誘導体は、チオフェン骨格を有する化合物であれば特に限定されない。ポリチオフェンおよびその誘導体の具体例としては、ポリ3−メチルチオフェン、ポリ3−ブチルチオフェン、ポリ3−ヘキシルチオフェン、ポリ3−オクチルチオフェン、ポリ3−デシルチオフェン、ポリ3−ドデシルチオフェン等のポリアルキルチオフェン;ポリ3−フェニルチオフェン、ポリ3−(p−アルキルフェニルチオフェン)等のポリアリールチオフェン;ポリ3−ブチルイソチオナフテン、ポリ3−ヘキシルイソチオナフテン、ポリ3−オクチルイソチオナフテン、ポリ3−デシルイソチオナフテン等のポリアルキルイソチオナフテン;ポリエチレンジオキシチオフェン等が挙げられる。
【0060】
また近年では、カルバゾール、ベンゾチアジアゾールおよびチオフェンからなる共重合体であるPCDTBT(ポリ[N−9”−ヘプタ−デカニル−2,7−カルバゾール−アルト−5,5−(4’,7’−ジ−2−チエニル−2’,1’,3’−ベンゾチアジアゾール)])などの誘導体やチエノチオフェンとベンゾジチオフェンからなる共重合体であるPTB7(ポリ[[4,8−ビス[(2−エチルヘキシル)オキシ]ベンゾ[1,2−b:4−5−b’]ジチオフェン−2,6−ジル][3−フルオロ−2−[(2−エチルヘキシル)カルボニル]チエノ[3,4−6]チオフェンジル])やPTB7−Th(ポリ[[4,8−ビス[5−(2−エチルヘキシル)チオフェン−2−イル]ベンゾ[1,2−b:4−5−b’]ジチオフェン−コ−3フルオロチエノ[3,4−b]チオフェン−2−カルボキシレート])などの誘導体が、優れた光電変換効率を得られる化合物として知られている。
【0061】
これらの導電性高分子は、溶媒に溶解させた溶液を塗布することにより成膜可能である。従って、大面積の有機薄膜太陽電池を、印刷法等により、安価な設備にて低コストで製造できるという利点がある。
【0062】
N型有機半導体としては、フラーレンおよびその誘導体が好適に使用される。ここで使用されるフラーレン誘導体は、フラーレン骨格を有する誘導体であれば特に限定されない。具体的には、C
60、C
70、C
76、C
78、C
84等を基本骨格として構成される誘導体が挙げられる。フラーレン誘導体は、フラーレン骨格における炭素原子が任意の官能基で修飾されていてもよく、この官能基同士が互いに結合して環を形成していてもよい。フラーレン誘導体には、フラーレン結合ポリマーも含まれる。溶剤に親和性の高い官能基を有し、溶媒への可溶性が高いフラーレン誘導体が好ましい。
【0063】
フラーレン誘導体における官能基としては、例えば、水素原子;水酸基;フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;シアノ基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基、チエニル基、ピリジル基等の芳香族複素環基等が挙げられる。具体的には、C
60H
36、C
70H
36等の水素化フラーレン、C
60、C
70等のオキサイドフラーレン、フラーレン金属錯体等が挙げられる。
【0064】
上述した中でも、フラーレン誘導体として、60PCBM([6,6]−フェニルC
61酪酸メチルエステル)または70PCBM([6,6]−フェニルC
71酪酸メチルエステル)を使用することが特に好ましい。
【0065】
未修飾のフラーレンを使用する場合、C
70を使用することが好ましい。フラーレンC
70は、光キャリアの発生効率が高く、有機薄膜太陽電池に使用するのに適している。
【0066】
光電変換層におけるN型有機半導体とP型有機半導体の混合比率は、N型有機半導体の含有率をP型半導体がP3AT系の場合、およそN:P=1:1とすることが好ましく、p型半導体がPCDTBT系の場合、およそN:P=4:1とすることが好ましい。また、p型半導体がPTB7系の場合、およそN:P=1:1.5とすることが好ましい。
【0067】
有機半導体を塗布するためには、溶媒に溶解する必要があるが、それに用いる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、テトラリン、デカリン、メシチレン、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン等の不飽和炭化水素系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロブタン、ブロモブタン、クロロペンタン、クロロヘキサン、ブロモヘキサン、クロロシクロヘキサン等のハロゲン化飽和炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類が挙げられる。特に、ハロゲン系の芳香族溶剤が好ましい。これらの溶剤を単独、もしくは混合して使用することが可能である。
【0068】
溶液を塗布し成膜する方法としては、スピンコート法、ディップコート法、キャスティング法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、スプレー法、スクリーン印刷、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、グラビア・オフセット印刷、ディスペンサー塗布、ノズルコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法等が挙げられ、これらの塗布法を単独で、もしくは組み合わせて用いることができる。
【0069】
(第2電極)
第2電極16は、導電性を有する材料を真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法、塗布法等で成膜する。電極材料としては、金属ペースト、金属ナノインク、導電性の金属薄膜、金属酸化物膜等が挙げられる。
【0070】
第2電極16は、単層であってもよく、異なる仕事関数の材料で構成される層を積層したものであってもよい。単層では例えば、銀、アルミニウム、金、銅が挙げられる。合金の例としては、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、カルシウム−アルミニウム合金等が挙げられる。
【0071】
第2電極16の膜厚は、1nm〜500nmであり、好ましくは10nm〜300nmである。膜厚が上記範囲より薄い場合は、抵抗が大きくなりすぎ、発生した電荷を十分に外部回路へ伝達できない。
【0073】
(実施例1)
実施例1は、順構造型の有機光電変換膜を有する第2実施形態の太陽電池モジュールである(
図5A乃至
図5D)。この実施例1の太陽電池モジュールは、以下のように形成される。
【0074】
まず、基板10としてPET、第1電極としてPEDOT:PSSを用いている。ここで、PEDOT:PSS層はそれぞれ順構造型有機光電変換膜14の正極(この実施例1では第1電極)および正孔輸送層(有機光電変換膜の第1キャリア輸送層)として機能する。まず、PEDOT:PSSを、ダイコート塗布装置を用いて6mm幅で短冊状に基板10上に塗布し、150℃で乾燥させる。これにより、第1電極12と有機光電変換膜14の第1キャリア輸送層が形成される。
【0075】
その後、P型有機半導体材料のPTB7−Thとn型有機半導体材料の70PCBMを溶かした溶液を、ダイコート塗布装置を用いて全セルの領域に重なるように塗布し、50℃で乾燥させる。これにより、有機光電変換膜14の光電変換層が形成される。
【0076】
次に、先ほどと同じように、有機光電変換膜14の電子輸送層として酸化チタン層を全セルの領域に重なるように塗布、乾燥する。
【0077】
全セルの領域に重なるように、第2電極16としてAgを、マスクを用いて蒸着により形成する。ここで、作製した複数の太陽電池素子(セルの基本構造)は開口部が6mm、非開口部が1mmである。
【0078】
次に、太陽電池素子1
1の基本構造2
1のAg電極上の一部から隣接する太陽電池素子1
2の基本構造2
2のPEDOT:PSSまでの間の領域に、PEDOT:PSSを塗布法で成膜する。続いて、P型有機半導体材料のPTB7−Thとn型有機半導体材料の70PCBMを溶かした溶液を、太陽電池素子1
1の基本構造2
1のPEDOT:PSS層上の一部から隣接する太陽電池素子1
2の基本構造2
2の光電変換層までの間の領域に、塗布法で成膜する。同様に、太陽電池素子1
1の基本構造2
1の光電変換層上の一部から隣接する太陽電池素子1
2の基本構造2
2の酸化チタン層までの間の領域に、電子輸送層である酸化チタン層を全セルの領域に重なるように塗布、乾燥する。
【0079】
最後に、太陽電池素子1
1の基本構造2
1の酸化チタン層上の一部から隣接する太陽電池素子1
2の基本構造2
1のAg電極間に、Agペースト溶液を塗布して乾燥する。
【0080】
このように、非開口部にも太陽電池素子構造を作製することで当初開口率が6mm/(6mm+1mm)=85.7%だったものが100%に増加した。
【0081】
(実施例2)
実施例2では、逆構造型の有機光電変換膜を有する第2実施形態の太陽電池モジュールである。この実施例2の太陽電池モジュールは、以下のように形成される。
【0082】
まず、基板10としてPET、第1電極としてPEDOT:PSSを用いている。電子輸送層として、PEDOT:PSSを、ダイコート塗布装置を用いて6mmの幅で短冊状に基板10に塗布し、150℃で乾燥させる。これにより、PEDOT:PSSからなる第1電極12および電子輸送層(有機光電変換膜14の第1キャリア輸送層)が形成される。
【0083】
その後、P型有機半導体材料のPTB7−ThとN型有機半導体材料の70PCBMを溶かした溶液をダイコート塗布装置を用いて全セルの領域に重なるように塗布し、50℃で乾燥させる。これにより、有機光電変換膜14の光電変換層が形成される。
【0084】
次に、正孔輸送層(有機光電変換膜14の第2キャリア輸送層)としてPEDOT:PSS層を全セルの領域に重なるように塗布、乾燥する。
【0085】
Agペーストを全セルの領域に重なるように形成する。ここで、作製した複数の太陽電池素子は開口部が6mm、非開口部が1mmである。
【0086】
次に、太陽電池素子1
1のAg電極上の一部から隣接する太陽電池素子1
2のPEDOT:PSS間に、PEDOT:PSSを塗布法で成膜する。続いて、P型有機半導体材料のPTB7−Thと、N型有機半導体材料の70PCBMを溶かした溶液を、太陽電池素子1のPEDOT:PSS層上の一部から隣接する太陽電池素子1
2の光電変換層までの間の領域に塗布法で成膜する。同様に、太陽電池素子1
1の光電変換層上の一部から隣接する太陽電池素子1
2のPEDOT:PSS層までの間の領域に、正孔輸送層であるPEDOT:PSS層を全セルの領域に重なるように塗布、乾燥する。
【0087】
最後に、太陽電池素子1のPEDOT:PSS層上の一部から隣接する太陽電池素子2のAg電極までの間の領域に、Agペースト溶液を塗布して乾燥する。
【0088】
このように、非開口部にも太陽電池素子構造を作製することで当初開口率が6mm/(6mm+1mm)=85.7%だったものが100%に増加した。
【0089】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。