(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、発明を実施するための実施形態について説明する。
【0011】
(第一の実施形態)
図1は電力制御システム100の概略を示す図である。
【0012】
図1の電力制御システム100は、大きくは電力を使用する複数の需要家10からなる
グループ20と、グループ20に属する需要家10に対して電力を供給する電力供給業者
30とに分かれており、需要家10が備える電力管理装置50と電力供給業者30が備え
る電力需給制御装置60がインターネット網または電力網を含むネットワーク40を介し
て接続されている。各需要家10は例えばエアコンや照明、計算機等の電力量を消費する
電気機器(以下、単に機器)11を1または複数備えている。電力供給業者30は、各需
要家10が備える機器11に対して電力を供給する。
【0013】
需要家10としては、例えば一般家庭やオフィスビル等が考えられ、ここでのグループ
20としては、一般家庭の集合やオフィスビルの集合、またはそれらが混在するものであ
ってもよい。また、電力供給業者30としては、電力の発電から配電までを事業とする業
者であってもよいし、電力の配電のみを事業とする業者であってもよい。また、アグリゲ
ーターと呼ばれる電力事業者と需要家を仲介するような業者であってもよい。
【0014】
グループ20は、全体として複数の要請対象を有している。この要請対象とは、グルー
プ20全体として消費する電力量(需要電力量)を調整(削減または増加)可能な機器1
1である。すなわち、電力量の調整を要請する対象となる機器11である。なお、要請対
象としては、各需要家10が備える機器11ごとに1つの要請対象としてもよいし、各需
要家10が備える全ての機器11を含めて1つの要請対象としてもよい。
【0015】
図2は、第一の実施形態に係る電力制御システム100の構成を示す図である。
【0016】
以下では、各需要家10が備える機器11ごとに1つの要請対象とする例を説明する。
すなわち、以下では、要請対象を単に機器11と呼ぶ。
【0017】
各需要家10は、複数の機器11を備える。各需要家10に所属するオペレータがこれ
らの機器11を使用することにより電力量(消費電力量)を消費する。全てまたは一部の
需要家10の機器11には、独自に発電するために太陽光発電システム等の発電装置12
や充放電のための蓄電装置13が含まれるものであってもよい。なお、前述の需要電力量
は、グループ20が備える全ての要請対象の消費電力量の総和として考えることができる
。
【0018】
各需要家10は、需要家内の電力を管理する電力管理装置50を備えている。各需要家
10が備える機器11は、有線または無線で電力管理装置50に接続されており、この電
力管理装置50により、後述する機器11の消費電力量や機器情報等の情報を管理してい
る。また、電力管理装置50は機器11の運転を、オペレータに代わり制御することがで
きる。
【0019】
電力供給業者30は、電力制御システム100の全体として電力需給バランスを制御す
る電力需給制御装置60を備えている。この電力需給制御装置60は、ネットワーク40
を介して各需要家10の電力管理装置50から送信されるデータに基づいて、全体として
電力需給バランスを制御するためにDR計画を作成する。このDR計画には、例えば各需要家
10が備える機器11毎に要請する消費電力量の調整量(削減量または増加量)が含まれ
ている。ここで、調整量とは、需要家10が機器11の使用に際して、所定の時間(例え
ば時間帯)毎に消費する基準の電力量(以下、基準値)からの削減または増加(調整)可
能な電力量である。ここでは、削減要請の場合は削減量を、増加要請の場合は増加量を調
整量とする。すなわち、調整量は、削減量、増加量いずれの場合においても正の値をとる
ものとする。なお、基準値としては、例えば需要家10が機器11を使用するにあたり最
低限必要となる消費電力量や、要請による制約のない状態における過去の消費電力量の平
均値等を用いることができる。
【0020】
また、電力需給制御装置60は、このDR計画に基づいて、各需要家10の電力管理装置
50に対してデマンドレスポンス信号(DR信号)を送信する。このDR信号は、調整量を指
定するものであることが好ましい。また、上記のDR信号には、発電装置12に対して指定
する調整量として、発電量が含まれるものであってもよい。また、蓄電装置13に対して
指定する調整量として、充放電量が含まれるものであってもよい。
【0021】
なお、以下の説明では、1日を1時間単位で24の区分に分割して、この分割された区
分を時間帯と呼ぶ。ここでは、時間帯の時間間隔は1時間で固定とする。また、ここでは
、7:00から19:00をDR計画の対象とする。すなわち、7:00−8:00の時間帯から18:00−
19:00の時間帯の合計12の時間帯を考える。
【0022】
本実施形態では、電力需給制御装置60は、DR計画の対象の時間帯以前(例えば6:00
)に1日分(7:00から19:00)のDR計画を作成する。そして、DR計画の対象の時間帯以
前(例えば7:00)に全ての需要家10に対して一斉にDR信号を送信する。
【0023】
(電力管理装置)
以下、
図2を参照して電力管理装置50の構成について詳細に説明する。
【0024】
電力管理装置50は、ネットワーク40を介して電力需給制御装置60との間でデータ
を送受信する通信部51を備える。また、機器情報作成部52、電力情報収集部53、機
器制御部54、記憶部55を備える。機器情報作成部52、電力情報収集部53、機器制
御部54としては、CPU等の演算処理装置を用いる。また、記憶部55としては、メモリ
や磁気ディスク装置等の記憶装置を用いる。
【0025】
機器情報作成部52は、各需要家10が備える全ての機器11について機器11毎の機
器情報を作成し、記憶部55に格納する。
図3に示すように機器情報は、機器11を特定
するための機器ID(i番目の需要家が備えるk番目の機器:機器(i,k))、機器11の種
類を表す機器タイプ、機器11の要請に対応可能な能力を表す調整余力情報を含む。機器
IDとしては、機器情報作成部52が、例えば電力管理装置50に機器11が接続されたタ
イミングに、例えば接続した順番に割り振ることができる。また、機器タイプとしては、
機器情報作成部52が、例えば電力管理装置50に機器11が接続されたタイミングに機
器11から取得することができる。
【0026】
調整余力情報は、機器11の消費電力量から単位電力量(1kWh)を調整する際のコス
トを示す「応答単価」を含む。すなわち、この応答単価に調整量を乗算することで得られ
る値が、機器11の消費電力量の調整に伴い需要家10に対して与えるコストを表すこと
になる。このコストとしては、例えば消費電力量の調整の際に需要家10が要する金額や
、各需要家10が感じる不快度を示す指標とすることができる。
【0027】
また、調整余力情報は、通信部51がDR信号を受けてから消費電力量の調整を開始する
までの最小の時間を示す「最小調整時間」を含む。この最小調整時間は、通信部51がDR
信号を受けるタイミングから後述の機器制御部54が機器11の運転の制御を開始するタ
イミングまでに最低限必要な時間を示している。すなわち、この最小調整時間により、通
信部51がDR信号を受けるタイミングを制限することができる。
【0028】
また、調整余力情報は、基準値からの削減または増加(調整)可能な調整量の最大値を
示す「最大調整量」を含む。ここでは、最大調整量には、調整量の最大値として、削減量
の最大値と、増加量の最大値とが含まれている。
図3において、「最大調整量」の項目に
は、「削減量の最大値/増加量の最大値」として記載されている。
【0029】
また、必要に応じて、調整余力情報は、1日通算で要請に対応可能な時間の上限値を示
す「通算対応時間」、1日通算で調整可能な調整量(絶対値量)の上限値を示す「通算調
整量」を含む。
【0030】
なお、調整余力情報は、例えば需要家10がタッチパネル等の入力部57を用いて機器
11毎に設定することもできるし、電力供給業者30が機器11毎に事前に設定すること
もできる。調整余力情報は定期的に更新することができる。
【0031】
電力情報収集部53は、各需要家10が備える全ての機器11トータルの消費電力量(
使用量)を電力計等の検出部58により定期的(例えば時間帯毎)に検出する。検出して
得た使用量を、
図4に示すような時系列データとして記憶部55に格納する。このとき、
電力情報収集部53は、機器11毎の消費電力量を検出して、この総和として全ての機器
11トータルの消費電力量を検出するものであってもよい。
【0032】
このとき、需要家10が発電装置12を備える場合には、発電装置12を除いた全ての
機器11トータルの消費電力量から発電装置12による発電量を差し引いた値を使用量と
する。また、需要家10が蓄電装置13を備える場合には、蓄電装置13を除いた全ての
機器11トータルの消費電力量から蓄電装置13による放電量を差し引いた値を使用量と
する。なお、蓄電装置13が充電する際には、充電量を消費電力量として考慮する。
【0033】
なお、電力情報収集部53が機器11の使用量を検出することができない場合には、電
力情報収集部53において、補間処理や過去の履歴に基づいて推定を行うものであっても
よい。また、電力情報収集部53が機器11の使用量を検出する周期が長く、最新の使用
量が得られていない場合には、電力情報収集部53において、上記と同様に補間処理や過
去の履歴に基づいて現時刻までの使用量の値を推定するものであってもよい。
【0034】
機器制御部54は、通信部51から受け取るDR信号に基づいて、機器11の消費電力量
を、基準値に対して調整量を加減した後の電力量に近づける方向に機器11の運転を制御
する。ここで、機器11の運転を制御するとは、機器11のON/OFFの切り替えや、運転条
件(例えば、エアコン等の場合には温度設定)の切り替え等を制御することを言う。
【0035】
すなわち、機器制御部54は、調整量として消費電力量の削減量が指定された場合には
、機器11の消費電力量を基準値から調整量を減算した消費電力量に近づける方向に機器
11の運転を制御する。また、調整量として消費電力量の増加量が指定された場合には、
機器11の消費電力量を基準値から調整量を加算した消費電力量に近づける方向に機器1
1の運転を制御する。
【0036】
通信部51は、機器情報及び使用量を記憶部55から得て、ネットワーク40を介して
電力需給制御装置60の通信部61に対して機器情報及び使用量を定期的に、またはリア
ルタイムに送信する。また、通信部51は、電力需給制御装置60の通信部61からDR信
号を受信する。
【0037】
(電力需給制御装置)
以下、
図2を参照して電力需給制御装置60の構成について詳細に説明する。
【0038】
電力需給制御装置60は、ネットワーク40を介して電力管理装置50との間でデータ
を送受信する通信部61を備える。また、目標値算出部62、選択部63、第1算出部6
4、計画作成部65、記憶部66を備える。目標値算出部62、選択部63、第1算出部
64、計画作成部65としては、CPU等の演算処理装置を用いる。また、記憶部66とし
ては、メモリや磁気ディスク装置等の記憶装置を用いる。
【0039】
目標値算出部62は、記憶部66が記憶する全ての需要家10の使用量と、電力の供給
計画とから得られる供給電力量の予測値と需要電力量の予測値との乖離値である需給アン
バランスを算出する。目標値算出部62は、この需給アンバランスを解消するために必要
となる時間帯毎の電力量(目標値)を算出する。目標値算出部62は、例えば供給計画が
登録されるタイミングに目標値を算出する。
【0040】
ここで、供給計画とは、時間帯毎にグループ20が有する機器11に対して電力供給業
者30から電力の供給が計画(予測)されている供給電力量の予測値ことである。ここで
は、供給計画としては時間帯毎に一定の値が登録されているものとする。なお、この供給
計画としては、DR計画の対象の時間帯以前(例えば5:00)に、例えば現在時刻以降の1
日分の計画を登録することができる。
【0041】
また、需給アンバランスとは、グループ20全体として消費する予定の需要電力量の予
測値から、供給計画に示される供給電力量の予測値を減算することで得られる値である。
この値は、プラスの場合には需要過多であり、マイナスの場合には供給過多であることを
表す。
【0042】
目標値算出部62は、需給アンバランスがプラスの場合には削減量の目標値を算出し、
需給アンバランスがマイナスの場合には増加量の目標値を算出する。具体的には、削減量
及び増加量の目標値としては、例えば需給アンバランスの絶対値として算出することがで
きる。
【0043】
なお、需要電力量の予測値としては、例えば記憶部66が記憶する各需要家10の使用
量の過去のデータを参照することで、DR計画の対象となる時間帯毎に使用量の総和として
算出することができる。例えば、DR計画の対象となる時間帯と同日同時刻の過去数年分の
データの平均として算出するものであってもよいし、DR計画の対象となる時間帯に予測さ
れている温度等の気象条件を基準として、同様の気象条件であった日時について複数のデ
ータの平均として算出するものであってもよい。
【0044】
また、目標値としては、上記に限らず、例えば過去の気象条件等の傾向から予測される
需給電力量の予測モデルに基づいて算出されるものであってもよい。また、目標値は、電
力会社や上位のエネルギー管理システムから与えられたものであってもよい。
【0045】
選択部63は、全ての需要家10についての機器情報に含まれる最小調整時間を用いて
、各時間帯に供給電力量の予測値と需給電力量の予測値とが乖離している場合に、要請の
対象となる機器11を選択する。すなわち、要請の対象となる時間帯の始まりの時刻より
も少なくとも最小調整時間前の時刻に要請が可能な機器11を選択する。具体的には、最
小調整時間が、DR信号を送信する時刻t0と要請の対象となる時間帯の時刻t1との間の
時間間隔以下の機器11を使用要請対象として選択する。
【0046】
ここで、全ての需要家10についての機器情報が
図5のように与えられた際に、DR信号
を送信する時刻t0を7:00とし、12:00−13:00の時間帯に要請の対象となる機器を選
択する場合を例に説明する。この場合には、要請の対象となる時間帯(12:00−13:00)
の始まりの時刻である12:00を時刻t1とする。また、時刻t0と時刻t1との間の時間
間隔は5時間である。
【0047】
したがって、機器(1,1)の最小調整時間(1時間)、機器(1,2)の最小調整時間(3時間
)、機器(2,1)の最小調整時間(6時間)の中で、最小調整時間が5時間以下の機器は機
器(1,1)と機器(1,2)である。したがって、この例では、選択部63は、機器(1,1)及び機
器(1,2)を使用要請対象として選択することができる。このとき、例えば機器11の機器I
D(j,k)の昇順に使用要請対象の機器ID(k)を付与する。すなわち、以下では機器ID(
k)が付与された使用要請対象を使用要請対象kと呼ぶ。
【0048】
第1算出部64は、機器情報を用いて、使用要請対象に対して要請する調整量の総和が
目標値に近づく方向に、時間帯毎に各使用要請対象に対して要請する調整量を算出する。
第1算出部64は、例えば目標値算出部62が目標値を算出するタイミングで調整量を算
出する。
【0049】
第1算出部64は、例えば各使用要請対象に対して要請する消費電力量の調整量を決定
変数とする次式の最適化問題を解く。なお、この最適化問題の解法としては、厳密最適解
を求めるソルバーであるilog CPLEX などの最適化ソルバーや、局所最適解を得るための
手法であるシミュレーティッドアニーニング、タブーサーチ等のヒューリスティック手法
を用いることができる。
【数1】
【0050】
すなわち、この例では第1算出部64は、(式2)乃至(式5)の条件下で(式1)に
示す消費電力量の調整に伴うコストの総和を最小に近づける方向に、各使用要請対象に対
して要請する調整量を算出する。
【0051】
なお、(式2)は使用要請対象に対して要請する調整量の総和が目標値以上であること
を示している。(式3)は使用要請対象に対して要請する調整量が最大調整量以下である
ことを示している。(式4)は使用要請対象に対して要請するトータルの時間が通算対応
時間以下であることを示している。(式5)は使用要請対象に対して要請するトータルの
調整量が通算調整量以下であることを示している。
【0052】
計画作成部65は、第1算出部64が算出する使用要請対象に対して要請する調整量を
用いて使用要請対象に対するDR計画を作成する。計画作成部65は、作成したDR計画を記
憶部66に格納する。
【0053】
通信部61は、記憶部66からDR計画を得て、ネットワーク40を介して電力管理装置
50の通信部51に対してDR計画に沿ったDR信号を送信する。また、通信部61は、電力
管理装置50の通信部51から機器情報及び使用量を受信し、記憶部66に格納する。
【0054】
図6はDR計画の一例を示す図である。
【0055】
図6のDR計画は、11:00から15:00までの合計4のそれぞれの時間帯(以下、スロット)
に、グループ20全体で使用する電力量を200(kWh)削減する例である。このDR計画は、第
1算出部64が
図5の機器情報を用いて算出した結果である。
【0056】
この例では、機器1については、12:00−14:00の2スロットに、それぞれ150(kWh)の調
整量を要請し、機器2については、11:00−15:00の4スロットに、200、50、50、100(kWh
)の調整量を要請し、機器3については、14:00−15:00の1スロットに、100(kWh)の調整
量を要請する例となっている。
【0057】
図7は、電力需給制御方法を説明するフローチャートである。
【0058】
Step1では、通信部61が、通信部51から各需要家の使用量及び機器情報を受信する
。また、受信した使用量及び機器情報を記憶部66に格納する。
【0059】
Step2では、目標値算出部62が、記憶部66から得る供給計画及び各需要家の使用量
を用いて、時間帯tの目標値を算出する。
【0060】
Step3では、選択部63が、記憶部66から得る機器情報を用いて、全ての機器11の
中から時間帯tに要請の対象となる使用要請対象を選択する。
【0061】
以上のStep2およびStep3をDR計画の対象となる全ての時間帯について行う。
【0062】
Step4では、第1算出部64が、記憶部66から得る機器情報を用いて、(式1)乃至
(式5)の最適化問題を解くことで、時間帯毎に使用要請対象に対して要請する調整量を
算出する。
【0063】
Step5では、計画作成部65が、第1算出部64が算出する調整量を用いて、DR計画を
作成する。また、Step6では、通信部61が、通信部51に対してDR計画に沿ったDR信号
を送信する。
【0064】
なお、以上の説明では、要請対象として、消費電力量を調整可能な電気機器とした。こ
の機器としては、OA機器、給湯機器、家庭電気機器、エレベータ、動力機器などであって
も構わない。また、要請に対応可能な能力を有する工場の生産ラインであっても構わない
。
【0065】
また、前述のように要請対象としては、例えば需要家毎に機器を管理している場合には
、1つの機器を1つの要請対象とするのではなく、需要家が備える全ての機器を1つの要
請対象とすることもできる。この場合には、例えば需要家毎に1つの調整余力情報を設定
する。
【0066】
また、時間帯の時間間隔は1時間として説明したが、この時間帯の時間間隔は午前/午
後の2通りといった粗い単位であってもよいし、30分や15分間隔といった細かい単位であ
っても構わない。また時間間隔は必ずしも一定間隔でなくてもよい。
【0067】
また、応答単価としては、調整量として削減量が指定された場合と、増加量が指定され
た場合とで異なる値を有してもよい。
【0068】
また、機器11として蓄電装置13が含まれる場合には、電力管理装置50は蓄電装置
13の蓄電状況(例えば残量)を監視し、電力需給制御装置100に蓄電状況を送信する
ことで、選択部63は、蓄電装置13を使用調整余力として選択する場合には、蓄電装置
13の最小調整時間に加え、蓄電装置13の残量を用いることができる。すなわち、蓄電
装置13の残量が規定のパーセンテージ、例えば残量が50%以上の蓄電装置13のみを
電力削減(放電)の要請の対象とし、50%より低い蓄電装置13は電力増加(充電)の
要請の対象とすることができる。
【0069】
本実施形態の電力需給制御装置または電力需給制御方法によれば、選択部が最小調整時
間を用いて時間帯毎に要請の対象となる使用要請対象を選択するため、電力削減等の要請
を行う時刻によらずに、需要家に対する負担を低減することが可能となる。
【0070】
(第一の変形例)
需要家が使用する電力量に影響を及ぼし得る要因(例えば天候等)の変動により当初予
測されていた需給アンバランスが大きく変更されることがある。この場合には、事前(例
えば6:00)に作成されたDR計画では、十分な精度で電力需給バランスの制御を行うこと
が難しい。また、事前(例えば7:00)に全ての需要家10に対して一斉にDR信号を送信
する場合には、送信後にDR計画が変更になる場合等に対処できないことが考えられる。
【0071】
そこで、本変形例では、電力需給制御装置60が、DR計画を作成するタイミング及びDR
信号を送信するタイミングが第一の実施形態とは異なる。
【0072】
通信部61は、各使用要請対象に対して要請する予定の時間帯の始まりの時刻t2より
も最小調整時間前の時刻t3に、この時点(時刻t3)でのDR計画に沿って各使用要請対
象に対してDR信号を送信する。
【0073】
例として
図6のDR計画を参照して説明すると、
図5の機器情報が与えられた際には、通
信部61は、機器(1,1)に対しては時刻t2(12:00)よりも最小調整時間(1時間)前の
時刻t3である11:00にDR信号を送信する。また、同様に、機器(1,2)及び機器(2,1)に対
しては8:00にDR信号を送信する。
【0074】
目標値算出部62は、需要電力量が大きく変化することが予測される場合に自動で、ま
たはオペレータが指示するタイミングに目標値を算出する。需要電力量が大きく変化する
ケースとしては、例えば天候の変動等が考えられる。
【0075】
ここで、目標値算出部62が各使用要請対象に対して要請する予定の時間帯(時刻t2
)の目標値を新たに算出する際、この時点より前に目標値算出部62が算出した時刻t2
の目標値(第1目標値)に基づいて第1算出部64が算出した時刻t2の要請量を、通信
部61が既に一部の使用要請対象に対して送信している場合を考える。
【0076】
この場合には、目標値算出部62は、需給アンバランスの絶対値から、通信部61がす
でに送信した時刻t2の調整量の総和を減算した値を新たな時刻t2の目標値(第2目標
値)として算出する。
【0077】
第1算出部64は、例えば目標値算出部62が第2目標値を算出したタイミングで、機
器情報及び第2目標値を用いて、(式1)乃至(式5)の最適化問題を解くことで、各使
用要請対象に対して要請する調整量を算出する。なお、この場合(式3)の目標値Etとし
ては第2目標値を用いる。
【0078】
計画作成部65は、第1算出部64が算出する使用要請対象に対して要請する調整量を
用いて使用要請対象に対するDR計画を作成する。計画作成部65は、作成したDR計画を記
憶部66に格納する。
【0079】
これにより、電力需給制御装置60は、直近の目標値から得られるDR計画を用いて、高
精度に電力需給バランスを制御することができる。また、DR信号の送信のタイミングとし
ては、最小調整時間を考慮したものであるため、需要家に対する負担を低減することがで
きる。
【0080】
(第二の変形例)
需要家が使用する電力量に影響を及ぼし得る要因(例えば天候等)の変動により当初予
測されていた需給アンバランスが大きく変更されることがある。したがって、事前(例え
ば6:00)にDR計画を作成する場合には、需給アンバランスが変更された際に対処できな
いことがある。
【0081】
そこで、本変形例では、需要電力量が統計的な揺らぎを有する場合を考慮して、DR計画
を作成する。ここでは、時間帯tにおける需要電力量xが密度関数f(x)に従って揺らぐ
ため、目標値も密度関数f(y)に従って揺らぐことになる。すなわち、密度関数f(y)は
、時間帯tの目標値y(kWh)を確率変数とする確率密度関数であり、時間帯tにy(kWh)
の電力量の過不足が生じる確率を表す関数である。
【0082】
目標値算出部62は、例えば過去の時間帯における需要電力量の予測値と、同様の時間
帯における需要電力量の実績値を用いて、DR計画の対象となる時間帯毎の目標値y(kWh)
を確率変数とする密度関数f(y)を算出する。
【0083】
このとき、密度関数f(y)の関数形、すなわち分布としては、過去の需要電力量の予測
値と実績値の関係から推定することもできるし、経験的に知られている分布を用いること
もできる。また、分布の有するパラメータとしては、例えば最尤推定等の公知の手法を用
いることで推定することができる。
【0084】
図8は、目標値が平均200(kWh)、標準偏差100のパラメータを有する正規分布の密度
関数f(y)として与えられる例を示している。
【0085】
第1算出部64は、機器情報及び目標値算出部62が算出した密度関数f(y)を用いて
、例えば次式の最適化問題を解くことで、各使用要請対象に対して要請する調整量を算出
する。
【数2】
【0086】
なお、ここでは最小調整時間の降順で、かつ最小調整時間が等しい場合には応答単価の
昇順に使用要請対象の機器ID(k)を付与するものとする。ここで、機器ID(k)の使用要
請対象をk番目の使用要請対象と呼ぶ。また、DR信号を送信するタイミングとしては、使
用要請対象毎の最小調整時間を考慮して、調整に対応可能な最遅のタイミングとする。
【0087】
上式において(式6)は、コストの期待値を表す目的関数である。ここでのコストとし
ては、機器11の消費電力量の調整に伴い需要家10に対して与えるコストと、要請する
調整量の総和が目標値に達しない場合のコストが含まれる。
【0088】
このとき、要請の有無の割り当てとして、w
tkが時間帯tに使用する使用要請対象1〜k
に対する調整量の合計量を表すことから、目標値yがw
tk-1以上である場合には、k番目の
使用要請対象を使用するものとする。
【0089】
ここで、k番目の使用要請対象の応答単価はC
kであるため、(式6)中における次式は
k番目の使用要請対象を使用する際に、需要家10に対して与えるコストの期待値を表す
。
【数3】
【0090】
一方、時間帯tの目標値yがw
t|k|より大きくなる場合は、全ての使用要請対象を使用し
た場合でも目標値に到達しない。過不足量にペナルティPを乗じることで得られる次式は
、調整量の過不足が生じる際のコストの期待値を表す。
【数4】
【0091】
時間帯tのコストの期待値は、(式12)のコストの期待値と、(式13)のコストの
期待値の和である。したがって、(式6)に示すように、目的関数は全ての時間帯tにつ
いてのコストの期待値の総和として与えられる。
【0092】
第1算出部64は、(式6)乃至(式11)の最適化問題を解くことで、使用要請対象
に対して要請する調整量の総和が目標値に近づく方向に、かつコストの期待値が最小に近
づく方向に、時間帯毎に各使用要請対象に対して要請する調整量を算出する。なお(式6
)乃至(式11)の最適化問題を確率計画法を用いて解くこともできるし、サンプルパス
最適化法などの近似解法を用いて解くこともできる。
【0093】
これにより、電力需給制御装置60は、目標値の統計的な揺らぎを考慮したDR計画を用
いて、高精度に電力需給バランスを制御することができる。
【0094】
(第二の実施形態)
図9は第二の実施形態に係る電力制御システム200の構成図である。
図9の電力管理
装置50の機器情報作成部52は、
図10に示す調整余力情報を含む機器情報を作成する
。
【0095】
機器情報に含まれる調整余力情報として、機器11の使用に際して、機器11が調整可
能な「最大調整量」を時間帯毎に有する。すなわち、これにより機器11が消費電力量を
調整する時間帯により異なる最大調整量を設定することができる。
【0096】
また、調整余力情報として、機器11の消費電力量から単位電力量(1kWh)を調整す
る際の「応答単価」を時間帯毎に有する。すなわち、これにより機器11が消費電力量を
調整する時間帯により異なる応答単価を設定することができる。
【0097】
電力需給制御装置60の第1算出部64は、機器情報を用いて、例えば次式の最適化問
題を解くことで、時間帯毎に各使用要請対象に対して要請する調整量を算出する。
【数5】
【0098】
なお、機器情報に含まれる調整余力情報の「最大調整量」、「応答単価」は、
図10に
示すように時間帯毎に多段の値を有してもよいし、
図11に示すように要請の対象となる
時間帯と電力管理装置50がDR信号を受けるタイミングとの時間間隔に応じて多段の値を
有してもよい。この場合、特に「応答単価」については、要請の対象となる時間帯と電力
管理装置50がDR信号を受けるタイミングとの時間間隔が短いほどより大きな値として設
定する。
【0099】
これにより、第1算出部64は、各需要家10が機器11の消費電力量の調整に係る要
請を受けてから対応するまでの時間間隔に起因する各需要家10の不快度を最小にする方
向に調整量を算出することができる。ここでの、不快度とは各需要家10が要請を受けて
から対応するまでの時間間隔が大きいほど小さな値を、時間間隔が小さいほど大きな値を
とる、機器11の消費電力量の調整に伴い需要家が感じる不快感を表す指標である。
【0100】
また、例えばエアコンのように設定温度等の変更可能な運転条件が複数ある機器11の
場合には、
図12に示すように、調整余力情報の「最大調整量」、「応答単価」は、運転
条件毎に多段の値を有してもよい。この場合、外気温等の外部環境に応じて複数のテーブ
ルを設定することもできる。
【0101】
本実施形態の電力需給制御装置または電力需給制御方法によれば、需要家に対する負担
を、要請を受けてから対応するまでの時間間隔に起因する不快度として評価することで、
この不快度を低減することが可能となる。
【0102】
(第三の実施形態)
図13は第三の実施形態に係る電力制御システム300の構成図である。
図13の電力
管理装置50の機器情報作成部52は、
図14に示す調整余力情報を含む機器情報を作成
する。
【0103】
すなわち、本実施形態では、調整量として、削減量を示す場合には正の値、増加量を示
す場合には負の値をとる。
【0104】
この場合、調整余力情報の最大調整量としては、調整量の最大値及び最小値、すなわち
調整量として削減量が要請された場合の最大削減量(正の値)と、増加量が要請された場
合の最大増加量(負の値)とが含まれている。また、通算調整量としては、1日通算で調
整可能な調整量(絶対値量)の上限値を示す。すなわち、ここでの通算調整量は、調整量
として例えば1日のうちに削減量と増加量の両方が要請された場合であっても、削減量の
絶対値量と増加量の絶対値量の総和が満たすべきボーダーとなる。
【0105】
目標値算出部62は、需給アンバランスに等しい電力量を目標値として算出する。
【0106】
第1算出部64は、例えば各使用調整余力に対して要請する消費電力量の調整量を決定
変数とする次式の最適化問題を解くことで、時間帯毎に各使用要請対象に対して要請する
調整量を算出する。
【数6】
【0107】
本実施形態の電力需給制御装置または電力需給制御方法によれば、同一の時間帯におい
て一部の機器(または需要家)に対しては電力増加要請を行い、また他の機器(または需
要家)に対しては電力削減の要請を行う等、要請の自由度を増すことが可能となる。
【0108】
(第四の実施形態)
図15は第四の実施形態に係る電力制御システム400の構成図である。
図15の電力
需給制御装置60は第2算出部67をさらに備える。また、電力管理装置50は表示部5
6をさらに備える。
【0109】
第2算出部67は、DR計画と機器情報を用いて、各需要家10に対するインセンティブ
を算出する。具体的には、DR計画に示される時間帯tに使用要請対象kに対して要請する調
整量と、機器情報に示される時間帯tにおける使用要請対象kの応答単価を用いて、調整量
と応答単価とを乗算することで、時間帯tにおける使用要請対象kについてのインセンティ
ブを算出する。そして、全ての時間帯について各需要家10が備える全ての使用要請対象
kについてのインセンティブの総和により、各需要家10に対するインセンティブを算出
する。
【0110】
通信部61は、第2算出部67が算出したインセンティブを得て、ネットワーク40を
介して電力管理装置50の通信部51に対してインセンティブを送信する。
【0111】
表示部56は、通信部51からインセンティブを得て、例えばディスプレイ等によりイ
ンセンティブを表示する。
【0112】
以上説明した少なくとも1つの実施形態の電力需給制御装置または電力需給制御方法に
よれば、電力削減等の要請を行う時刻によらずに、需要家に対する負担を低減することが
可能となる。
【0113】
これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図し
ていない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明
の要旨を逸脱しない範囲で、様々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実
施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載され
た発明とその均等の範囲に含まれるものである。