(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
中心軸に沿って円筒状に延びる陽極筒体と、前記陽極筒体に少なくとも一端が固定され、当該陽極筒体の内面から前記中心軸に向かって延びる複数の板状ベインと、前記陽極筒体の中心軸に対し同心円状に配置される一または複数の均圧環と、を備えるマグネトロンの共振周波数調整方法であって、
前記板状ベインに対して、前記陽極筒体軸方向に前記均圧環と対向する突起部を形成する工程と、
前記突起部を変形させる基点となる切込部を形成する工程と、を有し、
マグネトロンの共振周波数を調整する場合、
前記切込部を基点として、前記突起部を前記均圧環側またはその反対側に変形させる
ことを特徴とするマグネトロンの共振周波数調整方法。
中心軸に沿って円筒状に延びる陽極筒体と、前記陽極筒体に少なくとも一端が固定され、当該陽極筒体の内面から前記中心軸に向かって延びる複数の板状ベインと、前記陽極筒体の中心軸に対し同心円状に配置される一または複数の均圧環と、を備えるマグネトロンの共振周波数調整方法であって、
前記板状ベインを円周方向に貫通し、前記均圧環と接触しない第1の貫通孔を形成する工程と、
前記板状ベインを円周方向に貫通し、前記第1の貫通孔の外周側又は内周側に隣接する第2の貫通孔を形成する工程と、
前記第1の貫通孔と前記第2の貫通孔間で、前記第1の貫通孔内に配置された前記均圧環に対向する仕切部を形成する工程と、を有し、
マグネトロンの共振周波数を調整する場合、
前記仕切部を、前記第1の貫通孔内に配置された前記均圧環側またはその反対側に変形させる
ことを特徴とするマグネトロンの共振周波数調整方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るマグネトロンの構成を示す図である。
図2は、上記マグネトロンの陽極部を上面側から見た図である。本実施形態のマグネトロンは、例えば工業用のマイクロ波発振装置に用いられるマグネトロンに適用した例である。
図1に示すように、マグネトロン100は、中心部に配設された真空管部1と、真空管部1の外周に配設された冷却部2と、真空管部1と同軸に配設された一対の環状磁石3と、環状磁石3を磁気的に継ぐ一対の枠状継鉄4と、フィルタ回路部5と、出力部6と、を備える。フィルタ回路部5は、チョークコイル(図示省略)を含んでいる。出力部6は、アンテナ7、排気管(図示省略)、アンテナカバー8及び絶縁体9を含んでいる。
図1および
図2に示すように、真空管部1は、円筒状の陽極筒体11と、陽極筒体11と同軸上に配置され熱電子放出源となる陰極12と、一対のエンドハット13,14と、陽極筒体11の中心軸10の周りに放射状に配置された複数の板状ベイン21,22と、これらを一つ置きに電気的に接続させるための複数個の均圧環31,32と、一端がいずれか1枚の板状ベイン21,22に接続されたマイクロ波放出用のアンテナ7と、を備える。陽極筒体11は、中心軸10に沿って円筒状に延びている。アンテナ7は、銅からなる棒状であり、板状ベイン21,22のいずれか1つから導出されている。アンテナ7は、出力部6内を中心軸10上に延びて、先端は排気管(図示省略)で挟持固定されている。排気管の全体はアンテナカバー8で覆われている。
【0012】
板状ベイン21,22は、陽極筒体11の内壁面に固着されるとともに中心軸10の周りに放射状に配置されている。
板状ベイン21,22は、中心軸10の近傍からほぼ放射状に延びて、陽極筒体11の内面に固定されている。板状ベイン21,22は、それぞれ実質的に長方形の板状に形成されている。陽極筒体11の内面に固定されていない側の板状ベイン21,22の端面(遊端)21a,22aは、中心軸10に沿って延びる同一の円筒面上に配置されていて、この円筒面をベイン内接円筒と呼ぶ。複数の板状ベイン21,22は、円周方向の一つ置きに、ベインの出力側(
図1における上側)の端部にろう付けされた大小それぞれ対となった均圧環31,32によって連結されている。また、これらの板状ベイン21,22は、円周方向の一つ置きに、入力側(
図1における下側)の端部にろう付けされた大小それぞれ対となった均圧環31,32によっても連結されている。均圧環31,32は、これらの板状ベイン21,22を一つ置きに電気的に接続する。ちなみに、マグネトロンの共振周波数は、板状ベイン21,22のろう付けの状態によっても変わる。
【0013】
以下、同一の均圧環で結合されたベインを、それぞれ第1の板状ベイン21および第2の板状ベイン22と呼ぶこととする。入力側の均圧環31,32を第1の均圧環として、第1の均圧環31,32に結合された板状ベインを第1の板状ベイン21と呼ぶ。そして、出力側の均圧環31,32を第2の均圧環として、第2の均圧環31,32に結合された板状ベインを第2の板状ベイン22と呼ぶ。本実施形態では、径が小さい方の均圧環が第2の均圧環32であり、径が大きい方の均圧環が第1の均圧環31である。なお、入力側では、出力側と大小が逆の均圧環で第1の板状ベイン21および第2の板状ベイン22が結合されている。つまり、径が小さい方の均圧環が第2の板状ベイン22を結合する第2の均圧環32であり、径が大きい方の均圧環が第1の板状ベイン21を結合する第1の均圧環31である。
【0014】
図1に示すように、陰極12は、螺旋状であり、陽極筒体11の中心軸10に配置されている。また、陰極12の両端は、それぞれエンドハット13,14に固着されている。エンドハット13,14は、板状ベイン21,22に対して中心軸10の外側に配置されている。
また、マグネット3と枠状継鉄4が、このような発振部本体を囲むように配設されて、磁気回路を形成している。また、発振部本体を冷却するための冷却部2が枠状継鉄4で囲まれる空間の内部に設けられている。また、陰極12には、図示しないサポートロッドを介して、コイルおよび貫通コンデンサ(図示省略)を有するフィルタ回路5が接続されている。
【0015】
図1および
図2に示すように、マグネトロン100は、板状ベイン21,22の第1端面(第1の溝41が形成される端面)21b,22bに形成され第1の均圧環31と接触しないように形成された第1の溝41と、第1端面21b,22bと反対側の第2端面(第2の溝42が形成される端面)21c,22cに形成され第2の均圧環32と接触しないように形成された第2の溝42と、板状ベイン21,22の第1端面21b,22bに形成され陽極筒体11の外周側で第1の溝41に隣接して形成された第3の溝43(均圧環と略平行なスリット)と、第1の溝41と第3の溝43間に形成され第1の均圧環31に対向する突起部50と、を備える。
突起部50は、力を加えることにより変形する共振周波数調整用の突起である。本実施形態では、突起部50は、第1の溝41の外側(陽極筒体11の外周側)に、共振周波数調整用溝である第3の溝43を形成することによって突起させている。突起部50は、どのような方法で形成してもよい。
【0016】
図3は、板状ベイン21,22に形成された第1乃至第3の溝41〜43と突起部50の構造を説明する断面図である。
図3(a)は、板状ベイン22の断面図、
図3(b)は、
図3(a)の突起部50の拡大図である。
図3に示すように、突起部50は、第1の均圧環31に対向する面50aとその反対の面50bの両面に、切込部51〜53が形成されている。切込部51〜53は、突起部50を第1の均圧環31側またはその反対側に変形させる基点となる切込みである。切込部51〜53は、突起部50の底部から高さ方向に所定間隔で3対形成されている。本実施形態では、切込部51〜53は、例えばV溝であるがU溝であってもよい。切込部51〜53は、力を加える際の目印となるとともに、力を加えたとき規定位置で折れ曲げさせる。すなわち、突起部50は、高さ方向に所定間隔で3対の切込部51〜53を有することで、突起部50を変形させる場合、切込部51〜53のうち任意の切込みの位置(例えば、切込部51)を基点にして突起部50を折り曲げることができる。
【0017】
切込部51〜53を基点にして突起部50を折り曲げることができるので、変形の作業性の向上と折り曲げによる変形量を規定することができる。
なお、切込部51〜53の数や間隔は、限定されない。また、切込部51〜53は、一方の面(例えば、面50a)にのみ形成するものでもよい。
【0018】
次に、マグネトロン100の共振周波数調整方法について説明する。
マグネトロン100の共振周波数調整方法は、中心軸10に沿って円筒状に延びる陽極筒体11と、陽極筒体11に少なくとも一端が固定され、陽極筺体11の内面から中心軸10に向かって延びる複数の板状ベイン21,22と、陽極筒体11の中心軸10に対し同心円状に配置される一または複数の均圧環31,32と、を備えるマグネトロンの共振周波数調整方法であって、板状ベイン21,22に対して、陽極筒体11軸方向に均圧環31,32と対向する突起部50を形成する工程と、突起部50を変形させる基点となる切込部を形成する工程と、を有し、マグネトロンの共振周波数を調整する場合、切込部51〜53を基点として、突起部50を均圧環31,32側またはその反対側に変形させる。
本実施形態では、切込部51〜53,61〜63は、突起部50,60の基部から所定間隔で形成された複数の溝を有し、共振周波数の調整量に応じて、複数の溝のうち、いずれかを選択し、当該選択した溝を基点として、突起部50,60を均圧環31,32側またはその反対側に変形させる。
【0019】
図4は、マグネトロン100の共振周波数の調整例を示す図であり、
図4(a)〜(c)は切込部51〜53を基点にして突起部50を均圧環側に変形させる調整例、
図4(d)〜(f)は切込部51〜53を基点にして突起部50を均圧環と反対側に変形させる調整例をそれぞれ示す。
図4中、矢印に付された「大」「中」「小」は調整の大きさを示している。
図4(a)〜(c)に示すように、突起部50を切込部51〜53を基点に曲げて第1の均圧環31側(内周側)に近づけることにより、板状ベインと該板状ベインが接続されていない均圧環間の容量を変え、共振周波数(発振周波数)を上げることができる。ここで、突起部50には、前記のように切込部51〜53が設けられている。切込部51は、切込部52,53よりも突起部50の基部に形成され、切込部51から所定間隔離して切込部52が形成され、さらに切込部52から所定間隔離して切込部53が形成される。すなわち、突起部50の基部から所定間隔ずつ離れて切込部51〜53が形成されている。共振周波数を最も大きく上げる調整を行う場合、突起部50を、切込部51を基点に曲げて第1の均圧環31側に近づける。
図4(a)に示すように、突起部50が切込部51を基点に曲げられると、突起部50の略全体が第1の均圧環31に近づくこととなり、対向面積が最も大きく、距離も小さくなるので、共振周波数を最も大きく上げる調整を行うことができる。例えば、切込部51を基点に曲げる場合、共振周波数を略5MHz上げる調整を行うことができる。つまり、切込部51〜53のうち、切込部51を選択して曲げるだけで、最も大きい調整量(調整代)を確保することができる。しかもその調整量は、切込部51を選んだ時点で略決定された値(例えば、略5MHz)となる。共振周波数の調整量が直ぐに分かるので、調整に手間を要することがなくなり、作業性が大幅に向上する。
【0020】
共振周波数を中程度上げる調整を行う場合、突起部50を、切込部52を基点に曲げて第1の均圧環31側に近づける。
図4(b)に示すように、突起部50が切込部52を基点に曲げられると、突起部50の略中間位置から曲げられて第1の均圧環31に近づくので、共振周波数を中程度に上げる調整(共振周波数を略3MHz上げる調整)を行うことができる。
【0021】
共振周波数を最も小さく上げる調整を行う場合、突起部50を、切込部53を基点に曲げて第1の均圧環31側に近づける。
図4(c)に示すように、突起部50が切込部52を基点に曲げられると、突起部50の上部位置から曲げられて第1の均圧環31に近づくこととなり、対向面積が最も小さくなるので、共振周波数を最も小さく上げる調整(共振周波数を略1MHz上げる調整)を行うことができる。
以上は、共振周波数を上げる場合の例である。共振周波数を下げる場合には、突起部50を第1の均圧環31と反対側(外周側)に近づけるように曲げればよい。
【0022】
すなわち、共振周波数を最も大きく下げる調整を行う場合、突起部50を、切込部51を基点に第1の均圧環31と反対側に曲げて第1の均圧環31から遠ざける。
図4(d)に示すように、突起部50が切込部51を基点に第1の均圧環31と反対側に曲げられると、突起部50の略全体が第1の均圧環31から遠ざかることとなり、対向面積が最も小さく、距離も大きくなるので、共振周波数を最も大きく下げる調整を行うことができる。例えば、切込部51を基点に第1の均圧環31と反対側に曲げる場合、共振周波数を略5MHz下げる調整を行うことができる。
【0023】
共振周波数を中程度下げる調整を行う場合、突起部50を、切込部52を基点に第1の均圧環31と反対側に曲げて第1の均圧環31から遠ざける。
図4(e)に示すように、突起部50が切込部52を基点に第1の均圧環31と反対側に曲げられると、突起部50の略中間位置から曲げられて第1の均圧環31から遠ざかるので、共振周波数を中程度に下げる調整(共振周波数を略3MHz下げる調整)を行うことができる。
【0024】
共振周波数を最も小さく下げる調整を行う場合、突起部50を、切込部53を基点に第1の均圧環31と反対側に曲げて第1の均圧環31側に近づける。
図4(f)に示すように、突起部50が切込部52を基点に第1の均圧環31と反対側に曲げられると、突起部50の上部位置から曲げられて第1の均圧環31から遠ざかることとなり、対向面積が最も大きくなるので、共振周波数を最も小さく下げる調整(共振周波数を略1MHz下げる調整)を行うことができる。
このように、切込部51〜53のうち、適当な切込部を選択して曲げるだけで、所望の調整量(調整代)を確保することができる。共振周波数の調整量が直ぐに分かるので、調整に手間を要することがなくなり、作業性が大幅に向上する。
【0025】
以上説明したように、本実施形態に係るマグネトロン100は、中心軸10に沿って円筒状に延びる陽極筒体11と、陽極筒体11に少なくとも一端が固定され、陽極筺体11の内面から中心軸10に向かって延びる複数の板状ベイン21,22と、陽極筒体11の中心軸10に対し同心円状に配置され、板状ベイン21,22を一つ置きに電気的に接続させるための均圧環31,32と、を備える。板状ベイン21,22は、陽極筒体11の中心軸10方向に均圧環31,32と対向する突起部50と、突起部50を均圧環31,32側またはその反対側に変形させる基点となる切込部51〜53と、を有する。突起部50は、陽極筒体11軸方向に均圧環31,32と略平行なスリットを設けることで形成される柱状突起である。切込部51は、突起部50の基部から所定間隔で形成された溝である。
【0026】
また、マグネトロン100の共振周波数調整方法では、板状ベイン21,22に対して、陽極筒体11軸方向に均圧環31,32と対向する突起部50を形成する工程と、突起部50を変形させる基点となる切込部51〜53を形成する工程と、を有し、マグネトロン100の共振周波数を調整する場合、切込部51〜53を基点として、突起部50を均圧環31,32側またはその反対側に変形させる。なお、板状ベイン21,22は、銅(無酸素銅など)を材質とするため、曲げてまた元に戻すことが可能である。
【0027】
この構成および方法により、マグネトロン100の共振周波数の調整量(調整代)は、切込部51〜53のうちの適当な切込部の選択で決定することができる。すなわち、切込部51〜53のうち、適当な切込部を選択して曲げるだけで、所望の調整量(調整代)を確保することができる。共振周波数の調整量が直ぐに分かるので、調整に手間を要することがなくなり、作業性が大幅に向上する。また、作業性を行う人が熟練を要することがない。その結果、コスト低減を図ることができる。
【0028】
本実施形態では、陽極筒体11、板状ベイン21,22および均圧環31,32を固着後に均圧環31,32を叩くなどして歪ませて共振周波数を調整する方法ではないので、信頼性を損なうことがない。特に、歪量によっては特性悪化に繋がるおそれがあるが、このような特性悪化を未然に防ぐことができる。また、硬い均圧環や太い均圧環の場合には、適当に歪ませること自体が困難であり、容易に調整できないことがあるがこれも回避することができる。
【0029】
本実施形態では、どんなに変形しにくい均圧環でも、信頼性を損なうことなく、共振周波数の調整が容易に可能となる。また、共振周波数を上げた後、また下げることも容易であり、下げた後、また上げることも容易である。
【0030】
[変形例]
図5は、第1の実施形態に係るマグネトロンの変形例1を示す図であり、
図1の板状ベイン21,22のうち、板状ベイン22を代表して示す。
図5(a)に示すように、マグネトロン100Aは、板状ベイン22の第1端面22bに形成され第1の均圧環31と接触しないように形成された第1の溝41と、第1の端面22bと反対側の第2の端面22cに形成され第2の均圧環32と接触しないように形成された第2の溝42と、板状ベイン22の第1端面22bに形成され陽極筒体11の内周側で第1の溝42に隣接して形成された第4の溝44(均圧環と略平行なスリット)と、第2の溝42と第4の溝44間に形成され第2の均圧環32に対向する突起部60と、を備える。
突起部60は、力を加えることにより変形する共振周波数調整用の突起である。本実施形態では、突起部60は、第2の溝42の内側(陽極筒体11の内周側)に、共振周波数調整用溝である第4の溝44を形成することによって突起させている。突起部60は、どのような方法で形成してもよい。
図5(b)に示すように、マグネトロン100Bは、
図3の板状ベイン22と
図5(a)の板状ベイン22とを組み合わせたものである。
【0031】
上記変形例のマグネトロン100A,100Bの板状ベイン22は、突起部60に均圧環31,32側またはその反対側に変形させる基点となる切込部61〜63を形成し、マグネトロン100A,100Bの共振周波数を調整する場合、切込部61〜63を基点として、突起部60を均圧環31,32側またはその反対側に変形させる。
【0032】
この構成および方法により、マグネトロン100の場合と同様に、切込部61〜63のうち、適当な切込部を選択して曲げるだけで、所望の調整量(調整代)を確保することができる。また、
図5(b)のマグネトロン100Bは、2つの突起部50(切込部51〜53形成)と突起部60(切込部61〜63形成)とを備えるので、調整に係る突起部50,60の個数を、
図1のマグネトロン100に比べて2倍に増やすことができる。調整に係る突起部50,60の個数を増やすことで、1つあたりの調整量(調整代)を小さくすることができ、全体としてより均等な調整を行うことができる。また、調整に係る突起部50,60の個数が増えるので、調整対象を選ぶ選択肢が増え、作業性の向上に繋がる効果がある。
【0033】
(第2の実施形態)
図6は、本発明の第2の実施形態に係るマグネトロンの構成を示す図である。
図1と同一構成部分には、同一符号を付して重複箇所の説明を省略する。
図6に示すように、マグネトロン200は、円筒状の陽極筒体11と、陽極筒体11と同軸上に配置された陰極12と、一対のエンドハット13,14と、陽極筒体11の中心軸10の周りに放射状に配置された複数の板状ベイン121,122と、これらを一つ置きに電気的に接続させるための複数個の均圧環(ストラップリング)31,32と、一端がいずれか1枚の板状ベイン121,122に接続されたマイクロ波放出用のアンテナ7と、を備える。
板状ベイン121,122は、中心軸10の近傍からほぼ放射状に延びて、陽極筒体11の内面に固定されている。板状ベイン121,122は、それぞれ実質的に長方形の板状に形成されている。
【0034】
板状ベイン121,122は、2枚の板状ベインを上下に組み合わせて一体構成とした組合せベインである。例えば、板状ベイン121は、上(出力側)ベイン121Aと下(入力側)ベイン121Bとの組み合わせからなる。また、板状ベイン122は、上(出力側)ベイン122Aと下(入力側)ベイン122Bとの組み合わせからなる。板状ベイン121,122は、2枚の板状ベインを上下に組み合わせ後は1枚の板状ベインとなる。板状ベイン121,122は、2枚の板状ベインを上下に組み合わせる構成を採ることで、板状ベイン内に貫通孔(後記)を容易に形成することができる。また、当該貫通孔内に均圧環31,32を容易に通すことができる。
【0035】
陽極筒体11の内面に固定されていない側の板状ベイン121,122の端面(遊端)121a,122aは、中心軸10に沿って延びる同一の円筒面上に配置されていて、この円筒面をベイン内接円筒と呼ぶ。複数の板状ベイン121,122は、円周方向の一つ置きに、ベインの出力側(
図6における上側)の端部にろう付けされた大小それぞれ対となった均圧環31,32によって連結されている。また、これらの板状ベイン121,122は、円周方向の一つ置きに、入力側(
図6における下側)の端部にろう付けされた大小それぞれ対となった均圧環によっても連結されている。均圧環31,32は、これらの板状ベイン121,122を一つ置きに電気的に接続する。
以下、同一の均圧環で結合されたベインを、それぞれ第1の板状ベイン121および第2の板状ベイン122と呼ぶこととする。また、第1の板状ベイン121を結合する出力側の均圧環を第1の均圧環31、第2の板状ベイン122を結合する出力側の均圧環を第2の均圧環32と呼ぶこととする。本実施形態では、径が小さい方の均圧環が第2の均圧環32であり、径が大きい方の均圧環が第1の均圧環31である。
【0036】
マグネトロン200は、板状ベイン121,122を円周方向に貫通して形成され第2の均圧環32と接触しており、第1の均圧環31と接触しないように形成された第1の貫通孔141と、板状ベイン121,122を円周方向に貫通して形成され第1の貫通孔141の外周側で第1の貫通孔141に隣接して形成された第2の貫通孔14
2と、第1の貫通孔141と第2の貫通孔14
2間に形成され第1の均圧環31に対向する仕切部150と、を備える。
仕切部150は、力を受けて第1の貫通孔141内に配置された第1の均圧環31側またはその反対側に変形する共振周波数調整用の仕切板である。本実施形態では、仕切部150は、第1の貫通孔141の外側(陽極筒体11の外周側)に、第2の貫通孔142を形成することによって第1の貫通孔141と第2の貫通孔142との間に仕切板を形成している。
【0037】
次に、マグネトロン200の共振周波数調整方法について説明する。
マグネトロン200の共振周波数調整方法は、中心軸10に沿って円筒状に延びる陽極筒体11と、陽極筒体11に少なくとも一端が固定され、陽極筺体11の内面から中心軸10に向かって延びる複数の板状ベイン121,122と、陽極筒体11の中心軸10に対し同心円状に配置される一または複数の均圧環31,32と、を備えるマグネトロンの共振周波数調整方法であって、板状ベイン121,122を円周方向に貫通し、均圧環31,32と接触しない第1の貫通孔を形成する工程と、板状ベイン121,122を円周方向に貫通し、第1の貫通孔に隣接する第2の貫通孔を形成する工程と、第1の貫通孔と第2の貫通孔間で、第1の貫通孔内に配置された均圧環31,32に対向する仕切部150を形成する工程と、を有し、マグネトロンの共振周波数を調整する場合、仕切部150を、第1の貫通孔内に配置された均圧環31,32側またはその反対側に変形させる。
【0038】
図7は、マグネトロン200の共振周波数の調整例を示す図であり、
図7(a)は仕切部150を均圧環側に変形させる調整例、
図4(b)は仕切部150を均圧環と反対側に変形させる調整例をそれぞれ示す。
図7(a)に示すように、共振周波数を上げる調整を行う場合、仕切部150を第1の均圧環31側に曲げて第1の均圧環31側に近づける。仕切部150を第1の均圧環31側に近づけることにより、板状ベインと該板状ベインが接続されていない均圧環間の容量を変え、共振周波数を上げることができる。
図7(b)に示すように、共振周波数を下げる調整を行う場合、仕切部150を第1の均圧環31と反対側に曲げて第1の均圧環31から遠ざける。仕切部150を第1の均圧環31から遠ざけることにより、共振周波数を下げることができる。
【0039】
このように、本実施形態に係るマグネトロン200は、中心軸10に沿って円筒状に延びる陽極筒体11と、陽極筒体11に少なくとも一端が固定され、陽極筺体11の内面から中心軸10に向かって延びる複数の板状ベイン121,122と、陽極筒体11の中心軸10に対し同心円状に配置され、板状ベイン121,122を一つ置きに電気的に接続させるための均圧環31,32と、板状ベイン121,122を円周方向に貫通して形成され、均圧環31,32と接触しないように形成された第1の貫通孔141と、板状ベイン121,122を円周方向に貫通して形成され、第1の貫通孔141に隣接して形成された第2の貫通孔14
2と、第1の貫通孔141と第2の貫通孔14
2間に形成され、第1の貫通孔141内に配置された均圧環31,32に対向する仕切部150と、を備える。板状ベイン121,122は、上(出力側)ベイン121Aと下(入力側)ベイン121Bとの組み合わせからなる。
【0040】
また、マグネトロン200の共振周波数調整方法では、板状ベイン121,122を円周方向に貫通し、均圧環31,32と接触しない第1の貫通孔141を形成する工程と、
板状ベイン121,122を円周方向に貫通し、第1の貫通孔に隣接する第2の貫通孔14
2を形成する工程と、第1の貫通孔141と第2の貫通孔14
2間で、第1の貫通孔141内に配置された均圧環31,32に対向する仕切部150を形成する工程と、を有し、マグネトロン200の共振周波数を調整する場合、仕切部150を、第1の貫通孔141内に配置された均圧環31,32側またはその反対側に変形させる。
【0041】
この構成および方法により、仕切部150を曲げるだけで、マグネトロン200の共振周波数を調整することができる。従来例のように、上記固着後に均圧環31,32を叩くなどして歪ませて共振周波数を調整する方法ではないので、信頼性を損なうことがない。特に、歪量によっては特性悪化に繋がるおそれがあるが、このような特性悪化を未然に防ぐことができる。また、硬い均圧環や太い均圧環の場合には、適当に歪ませること自体が困難であり、容易に調整できないことがあるがこれも回避することができる。
【0042】
本実施形態では、どんなに変形しにくい均圧環でも、信頼性を損なうことなく、共振周波数の調整が容易に可能となる。また、共振周波数を上げた後、また下げることも容易であり、下げた後、また上げることも容易である。
【0043】
特に、本実施形態では、板状ベイン121,122に第1の貫通孔141および第2の貫通孔14
2と、第1の貫通孔141内に配置された均圧環31,32に対向する仕切部150と、を設け、共振周波数の調整は、板状ベイン121,122内の仕切部150の変形によって行うので、仕切部150を変形して共振周波数の調整をどのように行ったとしてもマグネトロン200の電界の均一性は保たれ、板状ベイン121,122外部(特に板状ベイン121,122の入力側)に影響を及ぼすことがないという顕著な効果がある。
また、本実施形態では、板状ベイン121,122は、上(出力側)ベイン121Aと下(入力側)ベイン121Bとの組み合わせた組み合わせベインであるので、当該組み合わせ部分において仕切部150の変形が容易であるという利点がある。
【0044】
[変形例]
図8は、第2の実施形態に係るマグネトロンの変形例2を示す図であり、
図6の板状ベイン121,122のうち、板状ベイン122を代表して示す。
図8に示すように、マグネトロン200Aは、板状ベイン122を円周方向に貫通して形成され第1の均圧環31と接触しており、第2の均圧環32と接触しないように形成された第3の貫通孔143と、板状ベイン122を円周方向に貫通して形成され第3の貫通孔143の内周側で第3の貫通孔143に隣接して形成された第4の貫通孔144と、第3の貫通孔143と第4の貫通孔144間に形成され第2の均圧環32に対向する仕切部160と、を備える。
仕切部160は、力を加えることにより変形する共振周波数調整用の仕切板である。本実施形態では、仕切部160は、第3の貫通孔143の内側(陽極筒体11の内周側)に、第4の貫通孔144を形成することによって第3の貫通孔143と第4の貫通孔144との間に仕切板を形成している。
【0045】
変形例2のマグネトロン200Aは、
図6のマグネトロン200の場合と同様に、仕切部160を曲げるだけで、マグネトロン200Aの共振周波数を調整することができる。どんなに変形しにくい均圧環でも、信頼性を損なうことなく、共振周波数の調整が容易に可能となる。また、共振周波数を上げた後、また下げることも容易であり、下げた後、また上げることも容易である。また、
図6のマグネトロン200の場合と同様に、仕切部160を変形して共振周波数の調整をどのように行ったとしても、板状ベイン122(121)の外部に影響を及ぼすことがないという顕著な効果がある。
【0046】
図9は、変形例3を示す図であり、
図6の板状ベイン121,122のうち、板状ベイン122を代表して示す。変形例3は、第2の実施形態に係るマグネトロン200の仕切部に、第1の実施形態に係るマグネトロン100の切込部を形成した例である。
図9(a)に示すように、マグネトロン200Bの仕切部150は、第1の均圧環31に対向する面150aとその反対の面150bの両面に、切込み151が形成されている。切込み151は、板状ベイン122の組み合わせ接合部から上下方向に所定間隔で2対形成されている。本実施形態では、切込み151は、例えばV溝であるがU溝であってもよい。切込み151は、力を加える際の目印となるとともに、力を加えたとき規定位置で折れ曲げさせる。仕切部150を変形させる場合、切込み151の位置を基点にして仕切部160を折り曲げることができる。変形の作業性の向上と折り曲げによる変形量を規定することができる。
【0047】
図9(b)に示すように、マグネトロン200Cの仕切部160は、第1の均圧環31に対向する面とその反対の面の両面に、切込み161が形成されている。切込み161は、板状ベイン122の組み合わせ接合部から上下方向に所定間隔で2対形成されている。本実施形態では、切込み151は、例えばV溝であるがU溝であってもよい。また、切込み161の個数も2以上であってもよい。切込み161は、力を加える際の目印となるとともに、力を加えたとき規定位置で折れ曲げさせる。仕切部160を変形させる場合、切込み161の位置を基点にして仕切部160を折り曲げることができる。変形の作業性の向上と折り曲げによる変形量を規定することができる。
【0048】
変形例3のマグネトロン200B,200Cによれば、第2の実施形態のマグネトロン200の効果に加えて、切込み151,161の位置を基点にして仕切部150,160を折り曲げることができるので、共振周波数の調整量(調整代)さらに容易に調整することができる。
【0049】
なお、本発明は、上記各実施形態および変形例に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、適宜その構成を変更することができる。
【0050】
例えば、板状ベインや均圧環の材質、形状、構造など、さらに突起部の切込部の個数、切込構造などは一例であってどのようなものを適用してもよい。
【0051】
上記した各実施形態例は本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態例の構成の一部を他の実施形態例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態例の構成に他の実施形態例の構成を加えることも可能である。また、各実施形態例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【解決手段】マグネトロン100は、中心軸10に沿って円筒状に延びる陽極筒体11と、陽極筒体11に少なくとも一端が固定され、陽極筺体11の内面から中心軸10に向かって延びる複数の板状ベイン21,22と、陽極筒体11の中心軸10に対し同心円状に配置され、板状ベイン21,22を一つ置きに電気的に接続させるための均圧環31,32と、を備える。板状ベイン21,22は、陽極筒体11軸方向に均圧環31,32と対向する突起部50と、突起部50を均圧環31,32側またはその反対側に変形させる基点となる切込部51〜53と、を有する。