特許第6010724号(P6010724)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6010724
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/12 20060101AFI20161006BHJP
【FI】
   F04B39/12 101B
   F04B39/12 D
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-275530(P2011-275530)
(22)【出願日】2011年12月16日
(65)【公開番号】特開2013-124648(P2013-124648A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2014年11月18日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500309126
【氏名又は名称】株式会社ヴァレオジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110000545
【氏名又は名称】特許業務法人大貫小竹国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 三也
(72)【発明者】
【氏名】金井塚 実
(72)【発明者】
【氏名】名古 恵三
(72)【発明者】
【氏名】白倉 修
【審査官】 佐藤 秀之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−218007(JP,A)
【文献】 実開昭48−045202(JP,U)
【文献】 実開昭55−143462(JP,U)
【文献】 特開2004−190510(JP,A)
【文献】 実開昭60−070792(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、前記ハウジングに区画形成された吸入領域および吐出領域と、前記ハウジング内に軸支されたシャフトと、前記シャフトの回転運動に基づき、冷媒を前記吸入領域から吸入し、前記吐出領域へ吐出する圧縮機構とを備えた圧縮機であって、
前記吸入領域と前記吐出領域とを連通するバイパス通路と、
前記バイパス通路を前記吐出領域側から閉鎖可能とする弁体と、
前記弁体を前記吐出領域側に向かって付勢するスプリングと、
を有し、
前記ハウジングは、シャフトの軸方向に2分割されたシェル部材により構成され、前記吐出領域と前記吸入領域は、それぞれのシェル部材に区画形成され、前記吐出領域に連通する吐出ポートと前記吸入領域に連通する吸入ポートは一方のシェル部材に形成され、前記バイパス通路は、前記吐出ポート及び前記吸入ポートが設けられた前記一方のシェル部材に設けられていることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記バイパス通路には、
前記弁体の外径よりも小さい径に形成された弁口と、この弁口よりも前記吐出領域側に設けられ前記弁体の外径よりも大きい径に形成された弁収容孔とが形成されており、
前記弁体は、前記弁収容孔内にその軸方向に沿って移動可能に収容されていることを特徴とする請求項1記載の圧縮機。
【請求項3】
前記弁体の外周面と前記弁収容孔の内周面との間の通路面積は、前記弁口の面積よりも小さいことを特徴とする請求項2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記弁体は鋼球であり、前記弁口から前記弁収容孔に移行する部分には、前記弁体が着座する弁座面が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置等に用いられる冷凍サイクルの圧縮機に関し、特に圧縮機の停止時に温度変化による冷凍サイクル内の冷媒の移動によって圧縮機内部の潤滑油が圧縮機外へ流出することを抑制する機能を備えた圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用空調装置に用いられる冷凍サイクルは、エンジンルーム側と車室側とを仕切る仕切壁(ファイヤフォール)を境に、車室側にエバポレータが配設され、エンジンルーム側にコンデンサや圧縮機等が配設されている。このような冷凍サイクルにおいては、圧縮機が運転を停止している状態において、日中の日射により車両が暖められると、図6に示されるように、日射により暖められ易い車室側に配されるエバポレータAの温度も上昇する一方で、エンジンルーム内に配されるコンデンサBと圧縮機Cは、エバポレータAほど温度が上昇しない。また、熱容量の大きい圧縮機Cは暖められにくいため、冷凍サイクルの中では、最も温度が低い箇所となり、圧縮機内部に冷媒が凝縮することとなる。このため、圧縮機内には、オイル(潤滑油)と液化した冷媒とにより、オイル貯め容量を超えた液体が滞留することとなる。
【0003】
これに対して、夕刻になり、日射による車両の加熱がなくなると、熱容量の小さいコンデンサの温度は徐々に低下し、エバポレータ、圧縮機、及びコンデンサのそれぞれの温度は次のような関係となる。
エバポレータ温度>圧縮機温度>コンデンサ温度
このため、この温度差により、コンデンサの圧力が冷凍サイクル中で最も低くなってしまい、エバポレータからの圧力によってオイルが溶け込んだ圧縮機内に停留している冷媒がコンデンサ側に押し出されてしまう現象が生じる。
【0004】
温度変化によるこのような現象が繰り返されると、圧縮機内に保持されていたオイルは圧縮機外へ徐々に運び出されてしまい、圧縮機内に残存するオイルが枯渇することになる。このため、長期間空調装置を使用しない状態が続いた後に空調装置を稼働させると、潤滑不良により圧縮機の焼き付きが生じる懸念がある。
【0005】
このような不都合を解消するために、従来においては、下記する特許文献1に示されるように、冷凍サイクルにおける圧縮機の吸入口に連結される低圧配管と吐出口に連結される高圧配管との間をバイパス管路で連結し、このバイパス管路に低圧配管側(エバポレータ側)の冷媒圧力が高圧配管側(コンデンサ側)の冷媒圧力より高くなった場合に冷媒の流通を許容する逆止弁を設け、圧縮機の運転停止時において、低圧配管側の冷媒圧力が高圧配管側の冷媒圧力より高くなった場合にこの圧力差により逆止弁を開放させ、低圧配管側の冷媒をバイパス管路を介して高圧配管側に流し、圧縮機内に冷媒がほとんど流れないようにして圧縮機からのオイルの流出を防止する構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−218007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献に開示される逆止弁は、これを構成する弁体の高圧配管側に圧縮コイルスプリングが配置され、この圧縮コイルスプリングの付勢力によって弁体を閉鎖方向に付勢するように構成されているので、低圧配管側(エバポレータ側)の冷媒圧力が高圧配管側(コンデンサ側)の冷媒圧力に対して圧縮コイルスプリングのバネ力に相当する分だけ高まらない限り、バイパス通路は開放されないこととなる。このため、低圧配管側(エバポレータ側)の冷媒圧力が高圧配管側(コンデンサ側)の冷媒圧力よりも高いにも拘わらず、圧縮コイルスプリングのバネ力に抗して弁体を押し開く圧力に達しない場合には、この圧力差によって圧縮機内の液冷媒がオイルと共に高圧配管側(コンデンサ側)に押し出されてしまい、依然として圧縮機内のオイルが枯渇する恐れがある。
【0008】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、圧縮機の運転が停止している場合において、温度変化による冷凍サイクル内の冷媒の移動によって圧縮機内部の潤滑油が圧縮機外へ流出することを効果的に抑制することが可能な圧縮機を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するために、本発明に係る圧縮機は、ハウジングと、前記ハウジングに区画形成された吸入領域および吐出領域と、前記ハウジング内に軸支されたシャフトと、前記シャフトの回転運動に基づき、冷媒を前記吸入領域から吸入し、前記吐出領域へ吐出する圧縮機構とを備え、前記吸入領域と前記吐出領域とを連通するバイパス通路と、前記バイパス通路を前記吐出領域側から閉鎖可能とする弁体と、前記弁体を前記吐出領域側に向かって(開弁方向に向かって)付勢するスプリングと、を有することを特徴としている。
【0010】
したがって、上述の構成によれば、圧縮機の停止時において、ハウジングに区画形成された吐出領域(高圧配管側)の冷媒圧力と吸入領域(低圧配管側)の冷媒圧力とがバランスしているときは、バイパス通路は常時開いているので、温度変化により吸入領域側(低圧配管側)の冷媒圧力が吐出領域側(高圧配管側)の冷媒圧力より僅かに高まった場合でも、吸入領域側(低圧配管側)の冷媒圧力をバイパス通路を介して吐出領域側(高圧配管側)に速やかに解放することが可能となり、圧縮機内の残留しているオイルが液冷媒と共に高圧配管側へ持ち出されることが無くなる。
【0011】
ここで、前記ハウジングがシャフトの軸方向に2分割されたシェル部材により構成され、前記吐出領域と前記吸入領域がそれぞれのシェル部材に区画形成され、前記吐出領域に連通する吐出ポートと前記吸入領域に連通する吸入ポートとが一方のシェル部材に形成される圧縮機においては、前述した温度変化により移動する冷媒を、コンプレッサの内部をできるだけ通過せずに高圧配管側へ流してコンプレッサ内部のオイルの流出を極力無くすために、前記バイパス通路は、吐出ポート及び吸入ポートが設けられた前記一方のシェル部材に設けることが望ましい。
【0012】
また、バイパス通路には、前記弁体の外径よりも小さい径に形成された弁口と、この弁口よりも前記吐出領域側に設けられ前記弁体の外径よりも大きい径に形成された弁収容孔とが直接またはホルダを介して形成されており、前記弁体は、前記弁収容孔内にその軸方向に沿って移動可能に収容されることが好ましい。
【0013】
このような構成によれば、圧縮機が運転を開始すると、弁収容孔内に収容された弁体が速やかに弁収容孔を移動しバイパス通路が弁体によって閉鎖される。この状態は圧縮機が再び停止してスプリングのバネ力により弁体が吐出領域側に向かって(開弁方向に向かって)移動可能な程度に吐出領域と吸入領域との圧力差が小さくなるまで維持されることとなる。
【0014】
圧縮機が運転を開始するときに、仮に、図7に示されるように、弁体Aが吐出領域の開放された空間に位置していたとすると、吐出領域からバイパス通路Bを通って吸入領域に流入しようとする冷媒ガスは、弁体Aの側方を通過せずに弁体Aとバイパス通路Bの開口端周縁との間を抜けて、吸入領域にそのまま流入してしまうことになり、弁体Aがバイパス通路Bを閉鎖せず、吐出領域から吸入領域に冷媒ガスが吹き抜けてしまうという不都合が生じる。
しかし、上述した構成を採用すれば、吐出領域側から吸入領域側に流入しようとする冷媒が弁収容孔内に保持される弁体の側面を通過し、その後に弁口を通って吸入領域に流出するため、冷媒の流れがバネ力に逆らって弁体を弁口側に押すように働くこととなり、この力により弁体が弁口を速やかに閉鎖することとなる。そして、一旦弁体が弁口を塞ぐと、弁体の前後に吐出圧力と吸入圧力が作用し、この圧力差によりスプリングのバネ力に抗して閉鎖状態が維持されることとなる。
【0015】
また、このような作用をより効果的に得るためには、前記弁体の外周面と前記弁収容孔の内周面との間の通路面積を、前記弁口の面積よりも小さくすることが好ましい。これにより、バイパス通路中における吐出領域から吸入領域に至るまでの圧力降下が、弁口通過前後ではなく、弁体通過前後により優先的に与えられることなり、弁体の上流と下流において確実に圧力差を発生させて弁体を速やかに移動させることができる。
【0016】
尚、上述した構成は、前記弁体を鋼球で構成し、前記弁口に収容される前記スプリングを圧縮コイルバネで構成し、前記弁口から弁収容孔に移行する部分に、前記弁体が着座する弁座面を備える構成によって実現されるとよい。
【発明の効果】
【0017】
以上述べたように、本発明によれば、圧縮機のハウジングに区画形成された吸入領域と吐出領域とをバイパス通路を設けて連通し、このバイパス通路に吐出領域側から閉鎖可能とする弁体と、弁体を吐出領域側に向かって(開弁方向に向かって)付勢するスプリングとを設けたので、吸入領域即ち低圧配管側(エバポレータ側)の冷媒圧力が、吐出領域即ち高圧配管側(コンデンサ側)の冷媒圧力に対しても僅かしか高まらない場合であっても、吸入領域側(低圧配管側)の冷媒圧力をバイパス通路を介して吐出領域側(高圧配管側)に速やかに解放することが可能となり、圧縮機内の停留しているオイルが液冷媒と共に圧縮機外に持ち出される恐れがなくなる。
【0018】
また、ハウジングがシャフトの軸方向に2分割されたシェル部材により構成され、吐出領域と吸入領域とがそれぞれのシェル部材に区画形成され、吐出領域に連通する吐出ポートと吸入領域に連通する吸入ポートが一方のシェル部材に形成される圧縮器においては、バイパス通路を吐出ポート及び吸入ポートが設けられた一方のシェル部材に設けることで、バイパス通路をコンプレッサ内に設ける場合でも、冷媒はコンプレッサの内部をできるだけ通過せずにポート付近だけを通過することとなり、オイルの持ち出しを確実に防ぐことが可能となる。
【0019】
さらに、バイパス通路に、弁体の外径よりも小さい径に形成された弁口と、この弁口よりも吐出領域側において弁体の外径よりも大きい径に形成された弁収容孔とを直接またはホルダを介して形成し、スプリングを弁口に保持し、また、弁体を弁収容孔内にその軸方向に沿って移動可能収容するようにすることで、圧縮機が運転を開始した直後にバイパス通路を弁体の側方を介して流れようとする冷媒によって弁体をスプリングのバネ力に抗して移動させ、弁口を速やかに閉鎖させると共にその状態を安定に維持させることが可能となる。
【0020】
この際、弁体の外周面と弁収容孔の内周面との間の通路面積を、弁口の面積よりも小さくすることで、圧縮機が運転を開始した直後にバイパス通路を通って流れようとする冷媒によって弁体をより敏感に反応させることが可能となり、速やか、且つ、確実に弁口を閉鎖することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1(a)は、本発明に係るバイパス通路が設けられる圧縮器の例を示す断面図であり、図1(b)は、リアシェル部材を軸方向内側から見た図である。
図2図2は、本発明に係る圧縮機の冷媒の流れを説明する概念図であり、(a)はその側断面図であり、(b)は(a)のB−B線で切断した断面図である。
図3図3は、リアシェル部材の断面図であり、図1(b)のA−A線で切断した図(バイパス通路が見えるように切断した図)である。
図4図4は、バイパス通路において弁体とスプリングが設けられた部分を示す拡大断面図であり、(a)は、弁体が弁座面から離反している状態を示す図であり、(b)は、弁体が弁座面に着座している状態を示す図である。
図5図5は、バイパス通路において弁体とスプリングが設けられた部分を示す拡大断面図であり、バイパス通路を流れる冷媒の流れと弁体の挙動を説明する図である。
図6図6は、車両に搭載した冷凍サイクルのエバポレータ、コンデンサ、圧縮機の温度変化を示すグラフと圧縮機が停止している場合の冷媒及びオイルの流れを説明する模式図とを示した図である。
図7図7は、弁体が吐出領域の開放された空間に位置している場合の冷媒の流れと弁体の挙動を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、この発明の実施形態を添付図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1及び図2において、圧縮機1は、冷媒を作動流体とする冷凍サイクルに用いられる往復動型のもので、この圧縮機1は、フロント側シリンダブロック2と、このフロント側シリンダブロック2に組み付けられるリア側シリンダブロック4と、フロント側シリンダブロック2のフロント側(図中、左側)にバルブプレート5を介して組み付けられるフロント側シェル部材6と、リア側シリンダブロック4のリア側(図中、右側) にバルブプレート7を介して組み付けられるリア側シェル部材8とを有して構成されているもので、フロント側シェル部材6とリア側シェル部材8は、それぞれ近接したシリンダブロック2,4を覆うように開口端側が延設されて軸方向で互いに嵌合している。そして、これらフロント側シェル部材6、バルブプレート5、フロント側シリンダブロック2、リア側シリンダブロック4 、バルブプレート7、及び、リア側シェル部材8は、締結ボルト9により軸方向に締結され、前記フロント側シェル部材6とリア側シェル部材8とは、軸方向に2分割された圧縮機のハウジングを構成している。
【0024】
フロント側シリンダブロック2とリア側シリンダブロック4の内部には、それぞれのシリンダブロック2,4を組み付けることによって画設される斜板収容室10が形成され、この斜板収容室10には、フロント側シリンダブロック2 及びリア側シリンダブロック4に形成されたシャフト支持孔11にラジアル軸受19を介してシャフト12が回転自在に支持されている。このシャフト12は、フロント側シェル部材6から一端が突出しており、このフロント側シェル部材6から突出した部分には、ボルト13によって軸方向に取り付けられた中継部材14が固定されている。また、フロント側シェル部材6には、シャフトを覆うようにフロント側へ延設されたボス部6aが一体に形成され、このボス部6aには、図示しない駆動源とベルトを介して連結されるプーリ16が軸受15を介して回転自在に外嵌されている。このプーリ16は、前記中継部材14を介して回転動力をシャフト12に伝達している。
【0025】
それぞれのシリンダブロック2,4には、シャフト支持孔11に対して平行に、且つ、シャフト12を中心とする円周上に等間隔に配された複数のシリンダボア17が形成されている。そして、それぞれのシリンダボア17内には、両端に頭部を有する両頭ピストン18が往復摺動可能に挿入され、この両頭ピストン18とバルブプレート5,7との間に圧縮室25が画成されている。
【0026】
シャフト12には、斜板収容室10に収容されて、該シャフト12と共に一体に回転する斜板20が固定されている。この斜板20は、フロント側シリンダブロック2及びリア側シリンダブロック4に対してスラスト軸受21を介して回転自在に支持されており、その周縁部分が両頭ピストン18の中央部に形成された係留凹部23に係留された半球体状の一対のシュー22により前後を挟み込むように挟持されている。したがって、シャフト12が回転して斜板20が揺動回転すると、その揺動回転運動がシュー22を介して両頭ピストン18の往復運動に変換され、圧縮室25の容積が変化するようになっている。
【0027】
それぞれのバルブプレート5,7には、シリンダブロック側端面に設けられた図示しない吸入バルブによって開閉される吸入孔26と、シェル部材側端面に設けられた図示しない吐出バルブによって開閉される吐出孔27とがそれぞれのシリンダボア17に対応して形成されている。また、フロント側シェル部材6とリア側シェル部材8には、圧縮室25に供給する冷媒を収容するための吸入室28と、圧縮室25から吐出された冷媒を収容するための吐出室29とがそれぞれ画設されている。
【0028】
各シェル部材6,8に形成された吸入室28は、斜板収容室10に低圧通路3 0を介して接続されており、この斜板収容室10は、これに接続された吸入用通路31を介して、リア側シェル部材8に形成された外部サイクルと接続する吸入ポート32と連通している。
【0029】
また、各シェル部材6,8に形成された吐出室29は、吐出用通路33を介してリア側シェル部材8に設けられた吐出ポート34に連通しており、この吐出ポート34を介して外部サイクルと接続している。
【0030】
したがって、両頭ピストン18の往復動に伴い圧縮室25の容積が増大する吸入行程時においては、吸入ポート32から吸入用通路31、斜板収容室10、低圧通路30を介して吸入室28に導かれた冷媒が、吸入孔26を介して圧縮室25に吸入され、圧縮室25の容積が減少する圧縮行程時においては、圧縮室25で圧縮された冷媒が、吐出孔27を介して吐出室29に吐出され、この吐出室29から吐出用通路33を介してリア側シェル部材8に設けられた吐出ポート34へ導かれ、この吐出ポート34から外部サイクルへ圧送される。
【0031】
ところで、リア側シェル部材8には、図3にも示されるように、吸入領域となる吸入用通路31の吸入ポート32の近傍と吐出領域となる吐出用通路33の吐出ポート34の近傍とを連通するバイパス通路40が形成されている。このバイパス通路40は、リア側シェル部材8の吐出用通路33の内面と吸入用通路31の内面から互いに穿設された通路形成用孔40a,40bを、それぞれの先端部を連通させることにより構成されているもので、吐出用通路33から穿設された通路形成用孔40aには、弁体41とスプリング42が収容されている。
【0032】
具体的には、図4に示されるように、バイパス通路40の吐出用通路33から穿設された通路形成用孔40aに、弁体41の外径よりも小さい径に形成された弁口43と、この弁口43よりも吐出領域側(吐出用通路33側)において弁体41の外径よりも大きい径に形成された弁収容孔44とが、バイパス通路40の通路形成用孔40aにその軸方向に沿って直接形成され、弁収容孔44から弁口43へ移行する部分には、弁体41が着座する弁座面45が径を徐々小さくしてテーパ状に形成されている。
【0033】
この例において、弁体41は、鋼球によって構成され、また、スプリング42は、圧縮コイルスプリングによって構成されているもので、スプリング42は弁口43に収容保持され、また、弁体41は弁収容孔44内に収容保持されて、スプリング42によって吐出領域側(吐出用通路33側)へ常時付勢されている。また、弁収容孔44の吐出用通路33に開口する開口端近傍には、弁収容孔44の内周面に開口し、弁収容孔44の軸方向と異なる方向に延設されたストッパ部材取付孔46が形成され、このストッパ部材取付孔46に圧入されたストッパ部材47が弁収容孔44を過ぎるように突設固定されている。したがって、弁体41は、弁収容孔44内に、その軸方向に沿って移動可能であると共に移動範囲がストッパ部材47によって規制された状態で保持されている。
【0034】
また、弁体41の外周面と弁収容孔44の内周面との間の通路面積(弁収容孔44の軸線に対して垂直となる面で弁収容孔44の断面積から弁体41の断面積を引いた値)は、弁口43の断面積よりも小さく設定されている。
【0035】
以上の構成において、圧縮機1が運転を停止している状態において、圧縮機の高圧配管側の冷媒圧力と低圧配管側の冷媒圧力とがほぼ等しくなるように均衡している状態においては、吐出領域と吸入領域との間に形成されるバイパス通路40の弁体41の前後で圧力差は殆どなく、弁体41はスプリング42のバネ力により吐出領域側へ押されて弁座面45から離反した状態にある(図4(a)の状態)。
【0036】
この状態において、日射による影響で冷凍サイクル機器の温度が高くなり、その後、日射による車両の加熱がなくなり、エバポレータ、圧縮機、及びコンデンサのそれぞれの温度が、エバポレータ温度>圧縮機温度>コンデンサ温度、の関係になると、エバポレータからの圧力によって低圧配管側から圧縮機1を介して高圧配管側へ冷媒が流れようとするが、バイパス通路40の弁体41は弁座面45から離反された状態にあるため、吸入領域の吸入ポート32の近傍と吐出領域の吐出ポート34の近傍とはバイパス通路40により連通された状態にあり、このバイパス通路40を介して低圧配管側の冷媒が圧縮機の内部を通過することなく高圧配管側へ速やかに流れることとなる。このため、低圧配管側から流れる冷媒が圧縮器内部のオイルを持ち出すことがなくなり、圧縮器内部のオイルの枯渇を防ぐことが可能となる。
【0037】
これに対して、圧縮機が運転を開始する直後においては、ピストンにより圧縮されて吐出領域に吐出された冷媒は、圧縮機外に吐出されるとともに、一部がバイパス通路を通って吸入領域に流れようとする。この際、吐出領域側から吸入領域側に流入しようとする冷媒は、図5に示されるように、弁収容孔44に収容される弁体41の側面を通過し、その後、弁口43を通って吸入領域に流出しようとするが、弁体41と弁収容孔44との間の通路面積は弁口43の断面積に比して小さく設定されているので、ここで圧力が大きく降下し、弁体41の上流と下流に確実に圧力差が発生することとなる。このため、冷媒はスプリング42のバネ力に抗して弁体41を弁口43側に押すこととなり、弁体41は、この力により弁座面45に速やかに着座し、弁口43を閉鎖することとなる。そして、一旦弁体41が弁口43を塞ぐと、弁体41の前後に吐出圧力と吸入圧力が作用し、この圧力差によりスプリング42のバネ力に抗して閉鎖状態が安定して維持される。
【0038】
そして、この状態は、圧縮機1が再び停止して吐出領域側と吸入領域側との圧力差が十分小さくなりスプリング42のバネ力により弁体41が吐出領域側に向かって(開弁方向に向かって)移動することとなるまで維持されることとなる。
特に、上述した構成においては、弁体41の外周面と弁収容孔44の内周面との間の通路面積が、弁口43の面積よりも小さく設定されているので、圧縮機1が運転を開始した直後にバイパス通路40を弁体41の側方を介して流れようとする冷媒によって弁体41前後に確実に圧力差が発生し、弁体をより速やか移動させ、確実に弁口43を閉鎖させることが可能となる。
【0039】
尚、上述の構成においては、バイパス通路40の途中に弁口43、弁収容孔44、弁座面45を通路の内壁を加工して一体形成した構成例を示したが、これら弁口43、弁収容孔44、弁座面45が形成されたホルダにスプリング42と弁体41とを収容してカートリッジ状に形成し、これをバイパス通路40の途中に設置するようにしてもよい。
また、上述の例では、圧縮器として、両頭ピストンを利用した往復動式圧縮器の例を示したが、圧縮器はこれに限られるものではなく、他のピストン式圧縮器でも他の形式の圧縮器でも同様の構成を採用することが可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 圧縮機
6 フロント側シェル部材
8 リア側シェル部材
12 シャフト
31 吸入用通路
32 吸入ポート
33 吐出用通路
34 吐出ポート
40 バイパス通路
41 弁体
42 スプリング
43 弁口
44 弁収容孔
45 弁座面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7