(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6010839
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】滅菌表示装置および滅菌装置
(51)【国際特許分類】
A23L 3/005 20060101AFI20161006BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20161006BHJP
A61L 2/14 20060101ALI20161006BHJP
G01N 21/65 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
A23L3/005
C12M1/34 A
A61L2/14
G01N21/65
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-37940(P2012-37940)
(22)【出願日】2012年2月23日
(65)【公開番号】特開2013-172657(P2013-172657A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2015年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【弁理士】
【氏名又は名称】一色 昭則
(72)【発明者】
【氏名】堀 勝
(72)【発明者】
【氏名】石川 健治
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昌文
(72)【発明者】
【氏名】太田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 博司
【審査官】
田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−242870(JP,A)
【文献】
特開2006−333824(JP,A)
【文献】
特開2010−187648(JP,A)
【文献】
特開2004−222915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 3/005
A61L 2/14
C12M 1/34
G01N 21/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査食品を測定部位に導入する搬送部と,
前記検査食品の検知部である試料共振器と,
前記検査食品に汚染した汚染菌に共鳴条件となるg 値2.001以上,2.006以下となるような周波数を有する電磁波を照射する電磁波照射部と,
掃引磁場と,変調磁場を前記試料共振器に印加する磁場印加部と,
電子スピン共鳴による吸収信号を検出する吸収信号検出部と
を有することを特徴とする滅菌表示装置。
【請求項2】
前記吸収信号検出部により,滅菌表示される対象を少なくともPenicillium属のカビを含むことを特徴とする請求項1に記載の滅菌表示装置。
【請求項3】
前記電磁波照射部が照射するマイクロ波の波長が9GHz以上であることを特徴とする請求項2に記載の滅菌表示装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の滅菌表示装置と,
被検査食品の滅菌操作をする滅菌操作部と,
前記汚染菌の量に基づいて前記検査食品の滅菌操作を再度行うようにする再滅菌操作部と
を有することを特徴とする滅菌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,滅菌表示装置および滅菌
装置に関する。さらに詳細には,農作物である青果物の糸状菌(カビ)等の微生物を不活性化するために施される,特にプラズマ滅菌装置での処理の後に定量的な不活性化量を計測して表示する滅菌表示装置および滅菌
装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ滅菌装置は,収穫された農作物である青果物に生息する糸状菌(カビ)等の微生物を駆除するために使用される。このとき,前記プラズマ滅菌装置が適切に機能して,微生物を不活性化しているか,どうかの判定手段を提供するものが,滅菌表示装置である。
【0003】
従来,滅菌での指標は,その滅菌方法で抵抗性が最も高いと考えられる生物指標(バイオインディケーター:通称BI)をもちいて行われ,このBIに同様の処理をして,その後その試験微生物であるBIの生存を培養によって確認することで,滅菌方法の有効性を評価しているものとなっている。
培養操作は,集菌した後,少なくても数時間,BIの種類によっては数日といった期間,インキュベータで発育してから,その後に発生するコロニー数をカウントすることで,元の生菌数を見積もる方法がある。目視でコロニー発生を観察できるため,簡便であるが,反面インキュベータで飼育する時間と,その不便さは否めなかった。
【0004】
一方で蛍光染色して,その蛍光シグナルを計測する手段はあった。蛍光発生基質を酵素反応によって付加することで,その選択検出を実現する方法は広く知られているが,迅速に検知できるには至っていない。
参考文献
[1]D.J.R.Lawrence,“FluoresenceTechniquesfortheEnzymologist,MethodsinEnzymology”,4巻,S.P.Colowick編,AcademicPress,ニューヨーク,1957年),174ページ;
[2]S.Udenfriend,“FluorescenceAssayinBIologyandMedicine”,AcademicPress,ニューヨーク,1962年),312ページ;
[3]M.Roth,“MethodsofBIochemicalAnalysis”,17巻,D.Block編(IntersciencePublishers,ニューヨーク,1969年),89ページ
【0005】
また,米国特許第3,661,717号(ネルソン)において,プラスチック容器にBIとなる胞子を内包しておき,滅菌処理を行ってから,その胞子の生存によって呼吸などの生体代謝の結果培地のpHが変化するので,そのpHをpH指示薬の変色で評価する方法が開示されている。この方法においては,培養期間として1〜7日が必要であり,迅速な評価には適さない。
【0006】
また,米国特許第5,252,484号および第5,073,488号(スルーエム)においては,胞子ではなく酵素をプラスチック容器に内包しておき,同様に滅菌処理を行ってから,基質と反応させることで酵素活性度をモニタすることで,BIとなる胞子への滅菌度合いを推測する方法を開示している。この方法においては,酵素と基質の反応生成物に発色団を付与しており,色の変化ないし蛍光によって検出されているが,胞子そのものではなく間接的なモニタを提供しているに過ぎないため,プラズマ滅菌の表示装置には適さない。
【0007】
また,特表2002−516677号公報(スリーエム)には,完全に培養せずに胞子増殖をみて,酵素活性と二重にモニタすることで,最終的なコロニー形成に至る前に結果を出すようにした方法が開示されている。この種の滅菌表示装置は,既に市販されており,高圧蒸気(オートクレーブ)などの滅菌方法の有効性を試験するのに使用されていた。しかしながら,実時間で評価するにはモニタを廃棄していくため環境負荷の面で適さない。
【0008】
また,米国特許4,643,876号(ヤコブス)に記載されている過酸化水素プラズマ滅菌が開示され,アドバンスドステリライゼーションプロダクツ社 登録商標STERRAD100SIGMPステリライザーで使用された場合には,不具合があった。過酸化水素プラズマ滅菌手法では,まず圧力を200Pa(300mTorr)まで5〜6分間真空引きして,次いで,58〜60%過酸化水素水溶液の1.8ml分量を約6分間かけて滅菌チャンバーに注入して,チャンバー内での濃度6〜7mg/ml過酸化水素とし,過酸化水素蒸気を800〜1300Pa(6〜10Torr)に1〜22分間チャンバー内に拡散させる。次いで,370Pa(500mTorr)まで真空引きにより圧力を低下させ,チャンバーから全ての検出可能な過酸化水素蒸気を除去した。次いで,370Pa(500mTorr)において13.56MHzのRF電源から400Wを印加して約15〜16分間プラズマをチャンバー内に発生させた後,チャンバー内が大気圧に到達するまで3〜4分間かけてパージした。45〜55℃においてに酵素活性を検出するように暴露したが,この場合には,プラズマによって酵素のみが早期に不活性化されるため,有効な指示とならないという問題があった。
この問題は,前記特表2002−516677(スリーエム)においては,化学的な処理を施して,物理的な障壁も設けることによって酵素に選択的に生じる早期不活性化防止されることが開示されている。具体的には,ポリグリセロールアルキルエステルまたはポリグリセロールアルキルエーテルの添加が化学的に早期の酵素不活性化を防止できることを開示しているが,実時間で評価するにはモニタを廃棄していくため環境負荷の面で適さない。
【0009】
また,米国アブトック社のプラズマ滅菌器(PLAZLYTE過酸化水素,過酢酸及び酢酸の混合物を使用したプラズマ滅菌器である)がり,この過酢酸又は酢酸ガスの作用によって晴青色から淡黄色に変色することにより滅菌処理を検知する方法(米国特許第5482684号公報)が開示されていた。
この滅菌器に適用するように,特許3435505号もしくは特許公開2009−213609(三雲,ホギメディカル)においては,色素と変色助剤とバインダー(結着剤)とからなる色調の変化を生じるトリフェニルメタン系塩基性色素またはそのカルビノール塩基,またはシアニン系塩基性色素のいずれかと,メルカプト基を有する化合物またはジチオカルバミル基を有する化合物を添加剤(変色助剤)として含むインキをもちいる方法が開示されている。
また,特許4606964号(サクラクレパス)にはpH指示薬の1種であるブロムフェノールブルーを用いる滅菌表示装置(インジケーター)が開示されている。この方法では,色素と変色助剤とバインダーとからなり,プラズマ滅菌法により色調の変化を生じさせるプラズマ滅菌用インジケーターとなっている。(特開平11−178904号公報,特開2002−11081号公報)いずれもモニタを使い捨てとするため,環境負荷の面で適しているとはいえなかった。
【0010】
また,塩基性染料が過酸化水素蒸気や過酸化水素蒸気のプラズマにより生じる酸化力によって酸化分解されて褪色することを原理としたインジケーターには,アミノ基を有するアントラキノン系染料を含むもの(特開2001−174449号公報),アントラキノン系化合物を主成分とする色素と有機アミン系化合物を含むものがあり,特許4151932号(サクラクレパス)においては,第一アミノ基及び第二アミノ基の少なくとも1種のアミノ基を有するアントラキノン系染料を含有する,さらにアルキルトリメチルアンモニウム塩といった4級アンモニウム塩型のカチオン系界面活性剤を含有するインキ組成物からなる変色層を開示している。
【0011】
また,ラクト−ン環をもつフルオラン系無色染料とジチオカルバミル基をもつ化合物(変色助剤)を含むインジケーターが過酸化水素蒸気やこれから生じたプラズマの酸化力により該染料のラクト−ン環が開環して有色のロ−ダミン染料に変化する原理としたインジケーター,
アゾ染料(第3級窒素原子を含む複素環をもつアゾ染料)を使用したインジケーターが過酸化水素ガスなどの酸化性のあるガスを用いた低温プラズマ滅菌法で変色を原理とするインジケーターが開示されている。
pHの変化に伴い色調の変化する化合物を含むものには(特開2002−303618号公報),pH5.5〜9.0の範囲内に変色域を有するpH指示薬として,具体的には,1, 2−ジヒドロキシアンスラキノン(pH5.5〜6.8),ジブロモチモールスルホンフタレイン(ブロモチモールブルー:pH6.0〜7.5),5, 8−キノリンキノン−8−ヒドロキシ−5−キノリル−5−イミド(pH6.0〜8.0),3−アミノ−6−ジメチルアミノ−2−メチルフェナジン塩酸塩(pH6.8〜8.0),フェノールスルホンフタレイン(フェノールレッド:pH6.8〜8.4),o−クレゾールスルホンフタレイン(クレゾールレッド:pH7.2〜8.8),m−クレゾールスルホンフタレイン(pH7.4〜9.0)等,およびこれらの誘導体が挙げられていた。
他にも,吸着指示薬,キレ−ト滴定・金属指示薬から成る群から選ばれる化合物と有機金属化合物を含むもの(特開2003−102811号公報),過酸化水素プラズマ滅菌において発生するラジカルにより変色するライトグリ−ンSF黄色,ギネアグリ−ン,およびブリリアントグリ−ンなどを含むもの(特開2004−101488号公報)が挙げられており,具体的には,
(a)吸着指示薬,キレ−ト滴定・金属指示薬(ヘマトキシリンなど),(b)有機金属化合物,(c)多価アルコ−ル,を含有するもの(特開2004−298479号公報),
(a)アントラキノン系染料,アゾ染料,およびメチン系染料の少なくとも一種,(b)窒素含有高分子(ポリアミド樹脂など),(c)カチオン系界面活性剤,を含有するもの(特開2005−315828号公報),
(a)スチレン・アクリル樹脂またはスチレン・マレイン酸樹脂の少なくとも一種,(b)メチン系染料,を含有するもの(特開2007−40785号公報)が知られていた。
また,特許3418937号公報(三雲,ホギメディカル)においては,無色の発色性色素と発色助剤とバインダー(結着剤)とからなるインジケーターにおいて,過酸化水素低温プラズマ滅菌法により色調の変化を生じるプラズマ滅菌用インジケーターを開示している。トリフェニルメタン系色素であるクリスタルバイオレットを還元して得られるロイコクリスタルバイオレットが,酸化により容易に発色する原理を使用している。しかしながら,ロイコクリスタルバイオレットは,空気中での安定性や光に対する安定性が良好でなく,これらを含むインクを基材上に塗布したものは,空気中で保存する間に色素が酸化されて発色する傾向が強い。そこで,フルオラン系無色色素と発色助剤としてのジチオカルバミル基をもつ化合物またはメルカプト基をもつ化合物及びバインダーとから構成されるインジケーターが開示されている。
これらいずれにおいても,インジケーターを同時に滅菌処理してやる必要があるため,必ずしも毎回の滅菌表示をしているわけではなく,また使用したインジケーターは廃棄する必要があった。
【0012】
これまで挙げてきたように,滅菌法には以下のような化学物質を使用する方法が知られていた。
・エチレンオキシド25〜50%1
・プロピレンオキシド25〜50%1
・オゾン75〜90%2
・ホルムアルデヒド75%未満1
・グルタルアルデヒド80〜90%3
・二酸化塩素60〜80%4
・臭化メチル40〜70%16
・プロピオラクトン75%未満1
・過酢酸40〜80%5
「非特許文献4〜6」
これらも同様に毒性の高い化学物質や廃棄処理を行う上で,問題があった。
【0013】
また,特許公開2010−223972(アラン)によれば,電子スピン共鳴によってスピン標識を利用した虚血マーカーについて開示されている。虚血は血流の低下であり動物では細胞が死にはじめる壊死状態となっている。そのため体液中の虚血組織由来の分子を生じるため,この物質を虚血マーカーとして検出できれば,その虚血状態を検出できる。この虚血マーカーにはノリエプネフリン,THFα,およびナトリウム利尿ペプチドが挙げられている。それ以外にも,脂質であり,スフィンゴリピド,リソリピド,糖脂質,ステロイド,ならびに,ロイコトリエン,プロスタサイクリン,プロスタグランジン,および,トロンボキサンを含むエイコサノイドを含む群を挙げている。また前記スフィンゴリピドは,スフィンゴシン,あるいは,例えば,セラミド(Cer,N−アシルスフィンゴシン),スフィンゴシン−1−リン酸,スフィンゴシルホスホリルコリン,またはジヒドロスフィンゴシンを含むその代謝産物も挙げられている。しかしながら,具体的な電子スピン共鳴のスピン標識を開示しているものでもなく,滅菌とは利用分野が異なっている。
【0014】
また,特許4853812号(エミネット)においては,ミカン,りんご,なし等の青果物の表皮に付着した糸状菌等の微生物を加熱と紫外線照射によって殺菌する方法が開示されている。しかしながら,表皮のみに付着する微生物を滅菌して,内部に影響を与えない方法は滅菌表示方法を備えていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第3,661,717号公報
【特許文献2】米国特許第5,252,484号公報
【特許文献3】米国特許第5,073,488号公報
【特許文献4】特表2002−516677号公報
【特許文献5】米国特許第4,643,876号公報
【特許文献6】米国特許第5,482,684号公報
【特許文献7】特許3,435,505号公報
【特許文献8】特許4,606,964号公報
【特許文献9】特開平11−178904号公報
【特許文献10】特開2002−11081号公報
【特許文献11】特開2009−213609号公報
【特許文献12】特開2001−174449号公報
【特許文献13】特許4,151,932号公報
【特許文献14】特開2002−303618号公報
【特許文献15】特開2003−102811号公報
【特許文献16】特開2004−101488号公報
【特許文献17】特開2004−298479号公報
【特許文献18】特開2005−315828号公報
【特許文献19】特開2007−40785号公報
【特許文献20】特許3,418,937号公報
【特許文献21】特開2010−223972号公報
【特許文献22】特許4,853,812号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】D.J.R.Lawrence,“FluoresenceTechniquesfortheEnzymologist,MethodsinEnzymology”,4巻,S.P.Colowick編,AcademicPress,ニューヨーク,1957年),174ページ
【非特許文献2】S.Udenfriend,“FluorescenceAssayinBIologyandMedicine”,AcademicPress,ニューヨーク,1962年),312ページ
【非特許文献3】M.Roth,“MethodsofBIochemicalAnalysis”,17巻,D.Block編(IntersciencePublishers,ニューヨーク,1969年),89ページ
【非特許文献4】Bruch,C.W.の「気体滅菌」,Ann.Rev.Microbiology15,245〜262(1961年)
【非特許文献5】Janssen, D.W. およびSchneider,P.M.の「エチレンオキシド代替滅菌技術の概説」,Zentralsterilisation 1,16〜32(1993年)
【非特許文献6】Bovallius, A. および Anas.P.の「気体−エアロゾル相のグルタルアルデヒドの表面−汚染除去作用」,Applied and Environmental MicroBIology, 129〜134(1977年8月)
【非特許文献7】Knapp, J.E. らの「気体滅菌剤としての二酸化塩素」,Medical Device &Diagnostic Industry, 48〜51(1986年9月)
【非特許文献8】Portner, D.M. および Hoffman,R.K. の「過酢酸蒸気の殺胞子作用」,Applied MicroBIology 16,1782〜1785(1968年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本願の発明者は,バイオインディケータに由来する電子スピン共鳴の信号を検出する装置を提供することによって,胞子の不活性化に基づいた滅菌表示を行うことができ,プラズマ滅菌時のリアルタイム検出を可能とした。本発明による滅菌表示装置は,電子スピン共鳴を検出出来る,磁場発生装置と電磁波吸収を検出できる装置を含む。この方法によれば,電子式の滅菌表示装置を構築でき,迅速かつ,その都度廃棄されるインジケーターを必要ないという利点がある。
【0018】
鋭意研究を行った結果,本願発明者は糸状菌が胞子状態のときに,特徴的な電子スピン共鳴信号を生じ,プラズマ滅菌により前記胞子が不活性化されることで,前記電子スピン共鳴信号が消失することがわかった。
【0019】
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり,電子スピン共鳴信号を検出する方法を備えた,青果物表皮に付着する糸状菌等の微生物の滅菌状態を表示する滅菌表示装置および滅菌
装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
第1の態様における滅菌表示装置は,被検査食品を測定部位に導入する搬送部と,検査食品の検知部である試料共振器と,検査食品に汚染した汚染菌に共鳴条件となるg 値2.001以上,2.006以下となるような周波数を有する電磁波を照射する電磁波照射部と,掃引磁場と,変調磁場を試料共振器に印加する磁場印加部と,電子スピン共鳴による吸収信号を検出する吸収信号検出部とを有するものである。
この滅菌表示装置は,青果物表面に付着する糸状菌等の胞子を電子スピン共鳴法により検出して,g値にして2.001以上,2.006以下に位置するピークを少なくともモニタすることで,胞子の不活性化度,滅菌を表示することができる。
【0021】
第2の態様における滅菌表示装置では,吸収信号検出部により,滅菌表示される対象を少なくともPenicillium
属のカビを含む。これらのカビを検出することができる。
【0022】
第3の態様における滅菌表示装置では,電磁波照射部が照射するマイクロ波の波長が9GHz以上である。
【0023】
第4の態様における滅菌装置は,上記に記載の滅菌表示装置と,被検査食品の滅菌操作をする滅菌操作部と,汚染菌の量に基づいて検査食品の滅菌操作を再度行うようにする再滅菌操作部とを有する。
この滅菌装置は,滅菌操作部の滅菌操作により滅菌しきれなかった汚染菌に再度滅菌操作することにより,より滅菌効果を高いものとすることができる。
そして,滅菌器による滅菌具合を即座にモニタできるようにしたので,滅菌を必要量に施し,不足する場合に再度滅菌処理を施すようにしたり,滅菌具合をモニタした上で,箱詰め工程に移行することができる。
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば,電子スピン共鳴信号を検出する方法を備えた,青果物表皮に付着する糸状菌等の微生物の滅菌状態を表示する滅菌表示装置および滅菌
装置が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】ミドリカビ胞子からの電子スピン共鳴信号を示すグラフである。
【
図2】ミドリカビ胞子量の違いによる電子スピン共鳴信号を示すグラフである。
【
図3】ミドリカビ胞子のプラズマ滅菌中の電子スピン共鳴信号を検出する機構を示す概略図である。
【
図4】酸素分子からの電子スピン共鳴信号を示すグラフである。
【
図5】酸素分子とミドリカビ胞子からの電子スピン共鳴信号を示すグラフである。
【
図6】プラズマ滅菌中のミドリカビ胞子の電子スピン共鳴信号スペクトルの消失過程,a)酸素ガス流量10sccm,b)15sccm,c)20sccmを示すグラフである。
【
図7】プラズマ滅菌中のミドリカビ胞子の電子スピン共鳴信号強度の消失過程,a)酸素ガス流量10sccm,b)15sccm,c)20sccmを示すグラフである。
【
図8】培養による滅菌効果の評価方法を示す概略図である。
【
図9】培養法により調べられたプラズマ滅菌後の生菌数の処理時間依存性,a)胞子含有率大,b)胞子含有率小を示すグラフである。
【
図10】ヘリウムプラズマにより処理された場合のミドリカビ胞子の電子スピン共鳴信号を示すグラフである。
【
図11】フィルター装着して検出された電子スピン共鳴信号と生菌数の相関を示すグラフである。
【
図12】フィルター装着して検出された電子スピン共鳴信号と生菌数の相関を示すグラフである。
【
図13】フィルター装着して検出された電子スピン共鳴信号と生菌数の相関を示すグラフである。
【
図14】大気圧プラズマ滅菌された場合の電子スピン共鳴信号の変化を示すグラフである。
【
図15】胞子の顕微鏡観察写真 ConAを添加した場合を示す写真である。
【
図16】胞子の顕微鏡観察写真 パラホルムアルデヒドの場合を示す写真である。
【
図17】胞子の顕微鏡観察写真 Tween20の場合を示す写真である。
【
図18】加熱処理にされた場合のミドリカビ胞子の電子スピン共鳴信号を示すグラフである。
【
図19】ラマン分光によるミドリカビ胞子の信号取得方法を示す概略図である。
【
図20】ミドリカビ胞子からのラマン分光信号を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<第1の実施形態>
以下の本発明の実施の形態を詳細に説明するが,以下に記載する構成要件の説明は,本発明の実施態様の一例(代表例)であり,本発明はその要旨を超えない限り,これらの内容に限定されない。
【0032】
滅菌装置は,滅菌表示装置と,滅菌操作部と,再滅菌操作部とを有している。滅菌操作部は,被検査食品の滅菌操作をするためのものである。再滅菌操作部は,汚染菌の量に基づいて検査食品の滅菌操作を再度行うようにするためのものである。
【0033】
滅菌表示装置は,搬送部と,試料共振器と,電磁波照射部と,磁場印加部と,吸収信号検出部とを有するものである。搬送部は,被検査食品を測定部位に導入するためのものである。試料共振器は,検査食品を検知する検知部である。電磁波照射部は,検査食品に汚染した汚染菌に共鳴条件となるg 値2.001以上,2.006以下となるような周波数を有する電磁波を照射するためのものである。磁場印加部は,掃引磁場と,変調磁場を試料共振器に印加するためのものである。吸収信号検出部は,電子スピン共鳴による吸収信号を検出するためのものである。
【0034】
本発明の検出方法の原理は
図1に示すように電子スピン共鳴におけるg 値が,2.003以上であり2.005以下である胞子に由来する信号を検出する。以下に,本発明における電子スピンの測定方法を詳説する。
【0035】
試料に不対電子が存在すれば,その試料に磁場を印加すると不対電子のもつエネルギー準位はゼーマン分裂をおこす。このエネルギー差に共鳴する電磁波を照射すると,共鳴吸収がみられ,この原理を利用した測定方法を電子スピン共鳴法(Electron Spin Resonace;ESR)もしくは常磁性共鳴法(Electron Paramagnetic Resonance;EPR)という。通常,300mTの磁場において9GHzのマイクロ波の吸収を検出することが多い。そこで,マイクロ波の波長として9GHzを含む波長を検出するとよい。例えば,8GHz以上10GHz以下の波長である。
【0036】
ESRで吸収が起きる時の電磁波周波数と印加磁場の比率をg値と呼び,自由電子描像(スピン)の場合のg値を2と定めている。実際の電子では少しずれており,2.00023となっている。
【0037】
マイクロ波の周波数と印加磁場との関係を次式により表す。
hν=gμBH
ここで,hとμBは定数であり,νとHは測定条件である。
h:プランク定数:6.626×10−34(J・s)
μB:ボーア磁子:9.274×10−24(J/K)
ν:マイクロ波の周波数(GHz)
H:磁場(mT)
g値は,マイクロ波の周波数(ν)を一定の値とし,磁場(H)を掃引し,吸収強度が,極大となる磁場(H0)を測定して,g値を求める。
【0038】
本発明では,ミドリカビ(学名:Penicillium Digitatum)の活性な胞子をマイクロ波周波数9.4GHz,マイクロ波パワー0.2mW,変調磁場0.3Gにて電子スピン共鳴の測定方法で測定する。
g 値2.0030で半値幅2.5G ,g 値2.0040で半値幅5.2G ,2.0014で半値幅2.5G といったようにピーク分離できるg 値2.001以上2.005以下の領域にピークが検出される。
【0039】
本発明者らによって水中で放電により胞子を分解した場合には同様の信号の消失が報告されていたが,これは水中のものであり,本発明のプラズマ滅菌法との関係を示したものではない。この点が異なるものである。(応用物理学会予稿集2011年秋31a−ZD−10)
【0040】
胞子をTween 20を添加した滅菌水に添加して懸濁する。その懸濁液をピペットにより石英板上に滴下して,乾燥させる。滴下量を調整して信号を観察した場合,
図2に示すように,比例関係が得られ胞子数に依存した信号強度が得られる。
【0041】
図3に示すように,プラズマ滅菌の効果を調べるために,ここでは低圧のマイクロ波プラズマを利用して,評価をした。酸素ガスを流通して,2.45GHzのマイクロ波をキャビティーに導入することで放電を生じさせた。電場やイオン,電子の影響を除くために,プラズマ発生部から20cm程度離れた位置に,胞子を付着させた石英板を設置している。
【0042】
図4および
図5に,ミドリカビ胞子の有無によるESR信号の違いを示す。
【0043】
図6および
図7に示すように,胞子からの信号は,プラズマ照射前に検出されるもののプラズマの暴露時間にともない,信号が消失していくことがわかる。
【0044】
図8に,培養による滅菌効果の評価方法を示す。
【0045】
図9に示すように,60分照射までの生菌数調査を行うためにサンプルを準備して,生菌数を調べたところ希釈倍率10の5乗で4.4分,10の6乗で2.6分となり,平均3.5分で一桁減少が見られた。60分照射を行うと約1/100まで減少する。このコロニーカウントの結果とESR信号の変化はよく符合することから,ESR信号量は胞子の生菌数をモニタできることを示唆している。
【0046】
図10に示すように,ラジカルの効果かどうかを調べるために化学活性をもたない希ガスであるヘリウムガスの放電を行った。前記と同様に下流部に設置した胞子からの信号を取得するとプラズマ暴露の時間経過に依存した信号変化は,ほぼ見られない。
【0047】
気流を流すために,付着力の低い胞子については,剥離して浮遊する。もしESRの信号が胞子の浮遊によって消失していては,不活性化によるモニタがなされていないことになるため,以下の検証をおこなった。
【0048】
蛇行管をもちいることで,プラズマ光の照射と電荷中性のラジカルの影響かを調べることができる。この実験を行った結果,プラズマ滅菌の効果は酸素ラジカルの影響が大きいことが分かっている。蛇行管をもちいてもESR信号がプラズマ照射時間により,減少する。このことからこの減少は酸素ラジカルによる胞子不活性化と関係している。
【0049】
フィルターは親水性の1μm細孔の66%開口率のフィルターを使用している。18Pa酸素20sccmで照射した結果をしめす。これらの結果を
図11から
図13までに示す。
【0050】
2μl滴下した場合では胞子の重なりがなくなることによって,生菌数が減少した。
【0051】
次にガス分圧を12Pa,10sccmに下げて照射した場合には,信号の減少が緩やかになっており,同時に生菌数の残存も多くなっていることが確認される。
【0052】
<第2の実施形態>
通常の大気圧プラズマをもちいたプラズマ滅菌に適用した場合の実施形態について説明する。
【0053】
本実施形態の滅菌表示装置は,レーザー照射部と,分光部と,ピーク検出部とを有している。レーザー照射部は,被検査食品にレーザー光を照射するためのものである。分光部は,検査食品から散乱する光を分光するためのものである。ピーク検出部は,分光部により分光された光から,ラマンシフトにして少なくとも1075cm
-1以上1125cm
-1以下のピークおよび800cm
-1以上900cm
-1以下のピークを検出するためのものである。
【0054】
懸濁液の作製は,ミドリカビ胞子50mgに滅菌水1500μl,Tween20を24μl添加している。
石英板に懸濁液を15μl滴下して一様となるように塗り広げた。
大気圧プラズマ源は20mm幅で,Ar30slmにO
2 を3slmだけ混合した1%添加のアルゴンガスを供給し9kVの19kHzの高電圧をマイクロホロー電極に印加することで放電を維持した。この放電部はセラミクスに囲われており,多孔のスリット部からプラズマが噴きだしている。このプラズマ源から20mm離れた位置に石英板を設置して処理をおこなった。
【0055】
このように大気圧プラズマ源であっても良い。大気圧プラズマ源は,電子密度が10の15乗以上であり,酸素原子ラジカル密度が10の13乗以上である方が望ましい。このプラズマ源は,マイクロホロー型電極を有したプラズマ源であると望ましい。
【0056】
フロロポリマー製細孔0.45μmをもつフィルターで胞子の周囲を覆って胞子の飛散を防いで観察した。
その結果,実際胞子の飛散は起きておらず,プラズマ滅菌の不活性化効果を見ていることになるが,評価はフィルターによる飛散防止をおこなっている。
【0057】
図15に示すように,Tween20以外にコンカナバリンA(ConA)を使って懸濁液を作製した場合についても実験した。こちらは,胞子周囲にConAの厚い被膜ができプラズマ滅菌の効果が得られないことを示している。
【0058】
図16に示すように,パラホルムアルデヒド2μlを1000μl滅菌水に添加した場合にも,こころみた。パラホルムアルデヒドでは添加したことによって,既に滅菌効果が表れていた。
【0059】
プラズマ滅菌では胞子が多層に重なった場合,下部の胞子には作用が及ばないことも考えられたので,胞子の量を変更して確かめた。懸濁液の滴下量を2μlにしても実験をおこなった。
懸濁液の作製は,ミドリカビ胞子10mgに滅菌水990μl,Tween20を12μl添加している。
図17に示すように,胞子が少なくしたので重なりはほとんどみられなくなった。
【0060】
大気圧プラズマ源は20mm幅で,Ar30slmにO
2 を3slmだけ混合した1%添加のアルゴンガスを供給し9kVの19kHzの高電圧をマイクロホロー電極に印加することで放電を維持した。この放電部はセラミクスに囲われており,多孔のスリット部からプラズマが噴きだしている。このプラズマ源から20mm離れた位置に石英板を設置して処理をおこなった。
【0061】
温度上昇の効果ではないことを調べるために120℃に加熱処理をおこなった。この場合では信号変化がないことから温度の効果によって変化を生じていることではないことがわかっている。
【0062】
プラズマ滅菌によるミドリカビ胞子の胞子壁の変性を評価するために,細胞内物質に付加されて蛍光を発する物質に浸して,蛍光染色をおこなった。その後の胞子について顕微鏡観察をおこなってもよい。細胞壁を破壊された胞子については細胞内部が蛍光染色されて観察されプラズマ滅菌がほどこされたことを確認できる。
【0063】
ラマン分光法によって観察もおこなっている。既往文献において,Changan Xieほか,J.Appl.Phys.94,6138(2003)には近赤外ラマン分光法により酵母,大腸菌の観察結果が知られていた。培地の温度を変えていくことによって,生存酵母のラマン信号が変化するという内容を報告がなされている。しかしながら,ミドリカビなどの微生物については報告がなされていなかった。
【0064】
図19および
図20に示すように,プラズマ照射による滅菌装置に置かれたミドリカビにレーザー光を照射して,その散乱光を検出することでラマン散乱スペクトルを得たところ,プラズマ照射前に見られていたDNAゴーシュ構造に由来する1025〜1125cm
-1の領域に二つのピークが検出された。もう一点注目するのはチロシンに由来する800〜900cm
-1の領域にも二つのピークが検出された。このピークに着目して,プラズマ滅菌処理を施した後では消失することを見出した。このピークが消失した後では生菌数は認められず,そのため,このラマンピークを検出することで滅菌の度合いを確認することが可能となる。
【0065】
<第3の実施形態>
本発明における第3の実施形態は,プラズマ滅菌装置と電子スピン共鳴の原理をもちいた滅菌表示装置で構成されるプラズマ滅菌方法ならびに装置である。
【0066】
搬送コンベアにより搬送される青果物の選果から箱詰めまでの工程間における搬送経路内に各青果物をプラズマ装置によりプラズマ生成したラジカルを照射するプラズマ滅菌装置を用いる。
【0067】
滅菌装置により搬送コンベアにより搬送される青果物の表皮に付着した微生物を殺菌する。
【0068】
主として青果物を処理ステーションに搬送させるコンベヤベルトと,プラズマ滅菌処理ステーションと滅菌表示装置を有する滅菌検知ステーションとを有している。
【0069】
従って図示の本発明による装置は,汎用の殺菌器に対して択一的に使用される。
【0070】
本発明による方法は,この場合例えば下記のように実施される:
収穫された青果物は選果工程に投入され,不良品を選別した後,前記青果物はコンベヤベルト,マニピュレータ又はコンベヤスターを用いて,プラズマ滅菌処理ステーションに供給され,滅菌処理が施され,表皮に付着している糸状菌等の微生物が殺菌される。前記プラズマ滅菌処理ステーションにおける該青果物は,大気圧プラズマで生成した少なくとも酸素原子を含む気流が吹き付けられ,表皮に存在する微生物,例えばミドリカビの胞子のプラズマの不活性化(滅菌)が施される。表皮にのみ作用し内部には影響が及ばないように十分な滅菌を行うが,一部に感染量が多いものなどを処理する場合には,滅菌が不十分になることがある。その時に,滅菌表示装置がリアルタイムに滅菌不足を表示して,再度,別のマニプレータ又は別のコンベヤスターに移され,元のコンベアに戻され,プラズマ滅菌処理ステーションに供給される。
【0071】
プラズマ滅菌処理ステーションに位置する大気圧プラズマ処理装置は,従来技術や特許第4296523号公報に記載されているようなプラズマ装置を用いることができる。
【0072】
プラズマ滅菌処理を滅菌表示装置なしに使用される汎用の方法では,プラズマ滅菌の度合いを調整することができず,過度の処理時間や被処理食物への悪影響などが懸念されていた。しかしながら,感染菌量に応じた滅菌に必要な量だけプラズマ滅菌処理が施される本発明による方法の効果を示した。この場合本発明の効果はプラズマ滅菌による滅菌が指示されることで効率的かつ信頼性のおけるプラズマ滅菌が可能となる。
【0073】
従って本発明による方法は原則的には,例えばBIとして利用される細胞であってもよいし,ミドリカビ胞子に限らず,Penicillium属,Aspergillus属,Fusarium属,Alternaria属,Cephalosporium属,Basilis属のカビにも適している。
【0074】
上記に挙げた実施例は例であり,これに限るものはなく,原理を同じくする滅菌表示についても適用されるものである。
【0075】
以上のような構成に因れば,さまざまな青果物の表皮に付着した糸状菌等の微生物の滅菌効果を表示することができ,適切な滅菌工程をおこなうことができる。したがって,青果物を微生物の増殖による腐敗から防ぐことが可能となる。