特許第6010844号(P6010844)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6010844
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】張力測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/10 20060101AFI20161006BHJP
【FI】
   G01L5/10 F
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-241702(P2012-241702)
(22)【出願日】2012年11月1日
(65)【公開番号】特開2014-92390(P2014-92390A)
(43)【公開日】2014年5月19日
【審査請求日】2015年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】302061613
【氏名又は名称】住友電工スチールワイヤー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100084858
【弁理士】
【氏名又は名称】東尾 正博
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(72)【発明者】
【氏名】及川 雅司
(72)【発明者】
【氏名】星野 康弘
【審査官】 公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−095033(JP,A)
【文献】 特表2000−516346(JP,A)
【文献】 特開2006−300902(JP,A)
【文献】 米国特許第05195377(US,A)
【文献】 特開2009−265003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/04, 5/10
G01L 1/12
G01L 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体の一部を長手方向に飽和漸近磁化範囲まで直流磁化した状態で、前記磁性体の磁化区間の長手方向中央部の表面近傍の空間磁界強度を検出し、その検出値に基づいて磁性体に作用する張力を測定する張力測定方法において、前記磁性体の磁化区間での張力測定を開始する前に、その磁化区間の長手方向両側の隣接部のうちの少なくとも一方を飽和漸近磁化範囲まで直流磁化する隣接部磁化工程を実施しておくことを特徴とする張力測定方法。
【請求項2】
前記隣接部磁化工程を、前記張力測定を開始する前に2回以上実施しておくことを特徴とする請求項1に記載の張力測定方法。
【請求項3】
前記磁性体の磁化区間の両側の隣接部を、少なくとも磁性体に磁場を与える磁化器の1/2以上の長さにわたって直流磁化することを特徴とする請求項1または2に記載の張力測定方法。
【請求項4】
前記磁性体の磁化区間を直流磁化する磁化器と、前記磁化区間の長手方向中央部の表面近傍の空間磁界強度を検出する磁気センサとを備えた張力測定装置を、前記磁性体の磁化区間から長手方向にスライドさせることによって、前記隣接部磁化工程を実施することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の張力測定方法。
【請求項5】
前記磁性体が、伸線加工した鋼線、複数の鋼線を撚り合わせた撚り線、鋼製ロープまたは鋼棒であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の張力測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺の磁性体に作用する張力を、その磁性体の応力磁気効果を利用して測定する張力測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吊り構造物のケーブルやグラウンドアンカーの引張部材等、長尺の鋼製部材にかかっている張力を長期間にわたって精度よく測定する装置として、鋼等の磁性体に現れる応力磁気効果(応力によって磁化が変化する現象)を利用した張力測定装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1の張力測定装置は、本出願人が提案したもので、測定対象材となる磁性体の一部を長手方向に飽和漸近磁化範囲(磁化特性のヒステリシス環線が閉じた領域、磁性物理学の用語では「回転磁化領域」)まで直流磁化し、磁化された部位の表面近傍の空間磁界強度を検出して、その検出値から磁性体に作用する張力を測定するものである。この張力測定装置を用いれば、既設の長尺鋼製部材の任意の位置で張力測定を行うことができるが、測定開始時に限って、低荷重領域で通常求められる測定精度(測定誤差が使用領域の最大荷重の±5%以内)を得られないという難点があることがわかった。
【0004】
上記の測定開始時の測定誤差は、図4に示すように、一定磁界下において磁性体に繰り返し応力変化を与えると、2回目以降の応力変化による磁化の変化は可逆的でほぼ線形な関係(理想的な応力と磁化の関係、以下これを理想磁化曲線と呼ぶ)に近づくが、初回応力負荷前の初期状態は理想磁化曲線から外れていることが原因と考えられる。すなわち、
測定開始前(荷重が負荷される前)の磁化の状態が理想磁化曲線から外れているために、理想磁化曲線を用いて測定開始時(初めて荷重が負荷される時)の空間磁界強度の検出値から張力を求めると、その測定値が実際の張力と大きくずれてしまうと推定される。
【0005】
これに対し、本出願人は、特許文献1の張力測定装置を用いた張力測定を行う場合に、測定開始前の磁性体にその飽和漸近磁化範囲の磁界下で使用荷重領域の上限値以上の荷重を負荷する工程を1回以上実施して、その磁化状態を理想磁化曲線に近づけておくことにより、測定誤差を低減する張力測定方法を提案した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−265003号公報
【特許文献2】特開2011−95033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献2で提案した張力測定方法では、既設の長尺部材に対して測定開始前に大きな負荷をかけようとすると、大がかりな油圧機器等を用いる必要があり、非常に手間がかかる。このため、実際には、既設の長尺部材の張力測定には適用しにくく、新設の長尺部材に適用する場合も、予め工場で負荷をかけた短尺のPC鋼棒等の測定用磁性体を工事現場で架設中の長尺部材に接続するという方法を採らざるをえず、手間がかかっていた。
【0008】
そこで、本発明は、磁性体の応力磁気効果を利用した張力測定方法において、簡単な操作で測定開始時の測定精度を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、磁性体の一部を長手方向に飽和漸近磁化範囲まで直流磁化した状態で、前記磁性体の磁化区間の長手方向中央部の表面近傍の空間磁界強度を検出し、その検出値に基づいて磁性体に作用する張力を測定する張力測定方法において、前記磁性体の磁化区間での張力測定を開始する前に、その磁化区間の長手方向両側の隣接部のうちの少なくとも一方を飽和漸近磁化範囲まで直流磁化する隣接部磁化工程を実施しておくようにした。この方法によれば、測定開始前の磁性体に大きな負荷をかける従来の方法に比べて簡単な操作を行うだけで、測定開始時の測定精度を向上させることができる。
【0010】
ここで、上記のように測定開始前に磁性体の磁化区間の隣接部を直流磁化しておくことによって測定開始時の測定精度が向上する理由は、次のように考えられる。
【0011】
図5に示すように、磁化器によって磁性体を飽和漸近磁化範囲まで直流磁化(準飽和磁化)すると、この後に磁化器による磁化作用がなくなってもある程度の磁束密度が残留すること(残留磁化)が知られている。したがって、張力測定を開始する前に測定対象の磁性体の磁化区間の隣接部を準飽和磁化しておくことにより、測定開始時にはその隣接部が残留磁化状態になっていると考えられる。そして、従来のように磁化区間だけを準飽和磁化した場合は、磁化区間からの磁束の漏洩によって隣接部の磁化特性が不安定となり、それに伴って磁化区間の磁化特性も不安定な挙動を示すのに対し、隣接部を残留磁化状態とすると、隣接部の磁化特性が安定するため磁化区間の磁化特性も安定し、これが測定精度の向上に寄与するものと推定される。
【0012】
ここで、測定開始時の測定精度をより向上させるには、前記隣接部磁化工程を、前記張力測定を開始する前に2回以上実施しておくこと、および前記磁性体の磁化区間の両側の隣接部を、少なくとも磁性体に磁場を与える磁化器の1/2以上の長さにわたって直流磁化することが望ましい。
【0013】
前記磁性体の磁化区間を直流磁化する磁化器と、前記磁化区間の長手方向中央部の表面近傍の空間磁界強度を検出する磁気センサとを備えた張力測定装置を用いる場合は、前記隣接部磁化工程の具体的な実施方法として、その張力測定装置を前記磁化区間から長手方向にスライドさせる方法を採用することができる。
【0014】
また、本発明は、張力測定の対象となる前記磁性体が、伸線加工した鋼線、複数の鋼線を撚り合わせた撚り線、鋼製ロープまたは鋼棒である場合に、特に有効に適用することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の張力測定方法は、上述したように、磁性体の応力磁気効果を利用した測定を開始する前に、磁性体の測定時における磁化区間の長手方向両側の隣接部のうちの少なくとも一方を準飽和磁化しておくことにより、測定開始時の測定精度を向上させるものであるから、測定開始前の磁性体に大きな負荷をかける従来の方法に比べて簡単に実施でき、新たに架設される長尺部材の張力測定だけでなく、既設の長尺部材の張力測定にも容易に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態の張力測定方法に用いる張力測定装置の概略を示す縦断正面図
図2】a〜cは、それぞれ図1の張力測定装置を用いた隣接部磁化工程の説明図
図3】a、bは、それぞれ張力測定精度確認実験の結果を示すグラフ
図4】一定磁界における応力と磁束密度の関係を示すグラフ
図5】残留磁化の発生挙動を説明するグラフ
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。この実施形態の張力測定方法に用いる張力測定装置1は、図1に示すように、長尺の磁性体(測定対象材)Aの一部を囲むように配される筒状の磁化器2と、この磁化器2と磁性体Aとの間に挿入されるスペーサ3と、磁性体A表面近傍の空間磁界強度を検出する磁気センサとしてのホール素子4と、ホール素子4の出力を増幅する増幅器5とで基本的に構成されている。その磁化器2およびスペーサ3は周方向に2分割され、装置全体が既設部材の任意の位置に装着できるようになっている。
【0018】
前記磁化器2は、円筒形の鋼製ヨーク6の内周両端部に、円筒の一部をなす形状の4個の永久磁石7をそれぞれ接着剤で固定し、各永久磁石7の外側端面を覆うカバー8をヨーク6の両端面に取り付けたものである。永久磁石7は、上下一対ずつ磁性体Aの長手方向に間隔をおいて互いに異なる磁極で対向する姿勢で配されており、磁性体Aを長手方向に短い範囲で飽和漸近磁化範囲まで直流磁化(準飽和磁化)するものとなっている。
【0019】
前記スペーサ3は、非磁性のポリエチレン製で、各永久磁石7の内周側に接着固定されて、永久磁石7と磁性体Aとの接触を防止している。そして、その外周面のヨーク6内周面と対向する位置に、前記ホール素子4および増幅器5が複数取り付けられている。
【0020】
前記ホール素子4は、磁化器2内周側の一対の永久磁石7の中間点、すなわち磁性体Aの磁化区間の長手方向中央部の近傍に、周方向に等間隔で配されている。そして、各ホール素子4の出力を増幅器5で増幅してデータ処理装置(図示省略)に送り、その平均値として得られる磁性体A表面近傍の空間磁界強度を、予め実験等により決定された磁界強度と張力との関係式にあてはめて、磁性体Aに作用する張力を求めるようになっている。
【0021】
この実施形態の張力測定方法では、上記構成の張力測定装置1による測定を行う前に、この張力測定装置1(の磁化器2)を用いて、磁性体Aの測定時における磁化区間の長手方向両側の隣接部を準飽和磁化する隣接部磁化工程を実施しておく。
【0022】
具体的には、まず、張力測定装置1を、図2(a)に示すように磁性体Aの所定位置に装着した状態から、図2(b)に示すように磁性体Aの長手方向の一方側(図2では左側)へスライドさせる。これにより、図2(a)の状態のときに準飽和磁化された磁化区間は残留磁化状態となり、磁化区間の左側の隣接部が準飽和磁化される。ここで、張力測定装置1のスライド量は、準飽和磁化される隣接部の長さが少なくとも磁性体Aに磁場を与える磁化器2の1/2以上となるように設定することが望ましい。図2(b)では、張力測定装置1をその長さ寸法と同程度スライドさせることにより、隣接部を十分な長さにわたって準飽和磁化した例を示している。
【0023】
そして、図示は省略するが、張力測定装置1を図2(b)と逆方向にスライドさせて、磁化区間の右側の隣接部を左側の隣接部と同様に準飽和磁化する。このときには、磁化区間と左側の隣接部が残留磁化状態となる。このように磁化区間の左右の隣接部を準飽和磁化する操作を2回以上繰り返す。
【0024】
最後に、図2(c)に示すように、張力測定装置1を装着時の所定位置に戻す。これにより、磁化区間が再び準飽和磁化され、その左右の隣接部が残留磁化状態となるので、この状態で張力測定装置1による測定を開始する。
【0025】
次に、この実施形態の張力測定方法の測定精度向上効果を確認した実験について説明する。この実験では、測定対象の磁性体として、標準径15.2mmの7本撚りのPC鋼撚り線(JIS規格:SWPR7BN)を用いた。そして、このPC鋼撚り線を引張試験機にセットし、これに実施形態の張力測定装置1(外径:40mm、長さ:120mm)を装着して、引張試験機の負荷を変化させながら張力測定装置1での測定を行い、測定前に張力測定装置1を上述のように長手方向両側にスライドさせて隣接部磁化工程を実施した場合(実施例)と、隣接部磁化工程を実施せずに測定を行った場合(比較例)について、引張試験機のロードセルで測定した実際の張力と張力測定装置1の測定値に相当する出力電圧との関係を調べた。その結果を図3に示す。
【0026】
図3から明らかなように、初期状態および初回応力負荷時における張力測定装置1の出力電圧の挙動は、比較例(図3(a))では、特に低荷重領域で2回目以降の負荷に対する出力電圧の再現性のある挙動と大きく異なっているのに対し、実施例(図3(b))では、2回目以降の負荷に対する出力電圧の挙動に近いものとなっている。このことから、比較例では初期状態および初回応力負荷時に大きな測定誤差が生じるが、実施例ではその測定誤差を大幅に低減できることがわかる。
【0027】
定量的には、初期状態における比較例の測定誤差が50%程度(測定誤差は使用領域の最大荷重に対する比率で表す、以下同じ。)であるのに対して実施例では10%程度であり、架設後に通常導入される応力(規格荷重の60%)を負荷したときには、比較例の測定誤差が10%程度であるのに対して実施例では5%程度となっている。なお、この測定誤差は、2回目以降の負荷と出力電圧との関係におけるヒステリシスによるばらつきを含むものである。
【0028】
したがって、この実施形態のように、測定開始前に張力測定装置1をスライドさせて、磁化区間の長手方向両側の隣接部を準飽和磁化しておくことにより、測定開始時からほぼ実用に耐える精度で張力測定を行えることが確認された。
【0029】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0030】
例えば、隣接部磁化工程は、2回以上実施することが望ましいが、1回実施するだけでもよい。また、準飽和磁化する隣接部は磁化区間の長手方向両側が望ましいが、片側だけでもよい。さらに、測定対象材としては、実施形態のような複数の鋼線を撚り合わせた撚り線だけでなく、伸線加工した鋼線、鋼製ロープ、鋼棒等、磁性体で形成されたすべての長尺部材を含む。
【符号の説明】
【0031】
1 張力測定装置
2 磁化器
3 スペーサ
4 ホール素子
5 増幅器
6 ヨーク
7 永久磁石
8 カバー
A 磁性体
図1
図2
図3
図4
図5