【0017】
本発明のボールペンチップを、直接又は中継部材を介して接続するインキタンクは、ポリプロピレン樹脂などの押し出し成形パイプが使用できる。
使用されるインキとしては、水を主媒体とした水性インキ、アルコールなどの有機溶剤を主媒体とした油性インキのいずれも使用可能であり、これに着色成分である顔料及びまたは染料、凍結防止などのための高沸点有機溶剤、被筆記面への定着性を付与する樹脂成分、表面張力や粘弾性、潤滑性などを調整する界面活性剤や多糖類、防錆・防黴剤などが配合されたものであり、誤字修正などを目的とした酸化チタンなどの白色隠蔽成分を配合したものであってもよい。
また、インキの後端にはインキの界面に接して、インキと相溶しない高粘度流体である逆流防止体組成物が配置されている。
特に、低粘度のインキを使用した場合には、インキが後方に移動することを抑制するために、ポリブテンやαオレフィンなどを基材として適宜シリカなどのゲル化剤などで高粘度とした流体や、これに固体の浮き栓を浸漬したものなどの逆流防止体を配置することは有効である。
【実施例】
【0018】
以下、図面に基づいて一例を説明する。
<実施例1>
図1は本発明におけるボールペンチップの一例の縦断面図である。
本発明のボールペンチップは、筆記部材としてのボール1が、ボールホルダー2から一部突出した状態で回転自在に抱持されている。そして、ボールホルダー2の内部には、ボール1を背面より押して前方付勢するコイルスプリング3が配設されている。
【0019】
図2にボールホルダー2の先端部近傍(I部)の拡大図を示す。
ボール抱持部4の先端側にはカシメ加工によってボール1の直径よりも小径に形成されたボール抜け止め部5が形成され、更にその先端側には拡径部6が、拡径部6内には段部7が形成されている。よって、ボール1が先端方向に移動してボール抜け止め部5と周状当接した状態であっても、拡径部6内に段部7があることで抜け止め部5の直上に大きな空間を形成することができるのである。また、拡径部6の内壁はカシメ加工によりその最小径部を段部7よりも先端側に位置させている。これによって拡径部6の内壁は先端方向に縮径する傾斜面を備えている。尚、この実施例は拡径部6の段部7より先端側の内壁の傾斜面の傾きをボール外面の傾斜におよそ合わせたもので、それによってボール抜け止め部5近傍から先端開口部に至るまでボールとの空間幅をおよそ一定に保つようにして、拡径部6内全体でのインキの周状への流れを均一化でき、よりインキがボール抱持部4内に流れ込むことを狙ったものである。
【0020】
<
実施例2>
図3に更に他の一例を示す。
拡径部6の内壁がの一部が曲面で形成されたものである。これはボール抜け止め部5から先端方向に向かって拡径する曲面部分が段部7となり、ボール抜け止め部5近傍に十分に大きな空間を形成しているものである。このように内壁に曲面で形成することにより、拡径部6内に角の凹み部をなくし、表面張力によって拡径部6内のインキが角の凹み部に溜まるようなことがなくなり、拡径部6内のインキの流れやすさを更に向上させ、よりボール抱持部4内への回収をさせやすくしたものである。また、この曲面部分はカシメ加工前のボールホルダー先端側内側に先端が曲面状のピンを打ち込むことで形成することを想定しており、その加工方法を取ることで切削加工よりも刃物の磨耗や耐久性を向上させ、大量生産に適したものにできる利点もある。
【0021】
<
実施例3>
図4に更に他の一例を示す。
ボール抜け止め部5より先端側の拡径部6が2段になっているものである。この形状であるとボール抜け止め部5をボールに押し当てながら形成するカシメ加工の際、拡径部6はボール抜け止め部5から離れた位置にあるので、その変形の影響を受けにくく、拡径部6の形状を管理しやすくなる利点や、更に筆記することによって生じるボール抜け止め部5の磨耗や変形の影響を拡径部6が受けにくくなり、長時間使用しても一定の空間を維持しやすい利点がある。
【0022】
図5、6、7に比較例を示す。
<比較例1>
図5に示したものは、拡径部6に段部7がないものであり、特許文献1に記載された形状のものに相当するものである。これはボールがボール抜け止め部5に周状当接した状態で拡径部6を有するものの、段部7がないことにより、ボール抜け止め部5近傍に十分に大きな空間を確保できていないものである。
【0023】
<比較例2>
また、
図6に示したものは、拡径部6の先端側のみをボール直径よりも小径に形成したもので、拡径部6の段部7はボール抜け止め部5よりも後方に位置しているものである。よって、ペン先を寝かせ、被筆記面に対する傾斜角度が小さい状態で筆記した場合は、被筆記面に引っ張られてボール1は前進し、ボール抜け止め部5とボール1との隙間は小さくなっている状態にある。その状態では拡径部6はボール抜け止め部5より後方に位置することになり、この拡径部6はなんらインキをボール抱持部4内に回収させる効果を持たないものである。
【0024】
<比較例3>
図7に他の一例を示す。
拡径部6の段部7より先端側の内壁が先端方向に向かうほど拡径する傾斜面を備えたものである。拡径する傾斜面を備えることで、拡径部6の入口のボールとの隙間を大きくでき、書き始めにボールホルダー先端部ににじみ出してきたインキのように、ボール表面に多くのインキが乗っている場合でも拡径部6の中にインキを取り込みやすい利点を有するものである。しかし、この比較例3は、少量ではあるが筆記角度50度の条件でインキの付着が発生している。
なお、拡径部6の段部7より先端側の内壁は、カシメ加工前のボール抱持部4となる孔の先端側にボール抱持部4よりも大径の孔を形成し拡径部6と段部7を形成した状態にて、更に先端に円錐状のピンを押し込むことで段部7より先端側の拡径部6の内壁をあらかじめ大きく開かせたあとで、カシメ加工を実施することで形成できるものである。
【0025】
以上説明した実施例、比較例を用いて下記の筆記試験を行った。尚、各実施例、比較例
共に、筆記部材となるボール径は1.0mmのものを使用し、ボールへの付勢力が18gfになるようにコイルスプリングを配置した。また、拡径部の容積はそれぞれ同じとなるように拡径部の縦断面の辺となる部分の寸法を調整した。
【0026】
作成したボールペンチップは、ぺんてる(株)製のボールペン「ビクーニャ」(製品符号:BX157)のインキ収容パイプに固定し、後述の油性インキを充填して、ペン先の方向に遠心力が働くようにして、遠心分離機(国産遠心器(株)製:卓上遠心機H−103N)で遠心処理を施し、筆記具内に存在する気体を除去したものを試験用ボールペンリフィルとして使用するようにした。
【0027】
試験に使用したインキは有機溶剤を収容材とした所謂油性インキであり、配合は次の通りで、配合数値は重量部を示す。
プリンテックス35(カーボンブラック、デグサヒュルスジャパン(株)製) 6.0部VALIFAST VIOLET 1731(油性染料、オリエント化学工業(株)製)
15.0部SPILON RED C−GH(油性染料、保土ヶ谷化学工業(株)製) 1.0部SPILON YELLOW C−GNH(油性染料、保土ヶ谷化学工業(株)製)
1.0部エチレングリコールモノフェニルエーテル 50.0部エチレングリコールモノベンジルエーテル 19.4部エスレックBL−1(ポリビニルブチラール、積水化学工業(株)製) 1.6部エスレックBH−3(ポリビニルブチラール、積水化学工業(株)製) 0.5部ヒタノール1501(フェノール樹脂、日立化成工業(株)製) 3.0部フォスファノールLB400(ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、東邦化学工業(株)製) 1.5部ナイミーンL201(ポリエチレングリコール−1ラウリルアミン、日油(株)製)
1.0部
上記成分のうち、エチレングリコールモノフェニルエーテルの全量と、エスレックBL−1の全量を室温で攪拌、混合溶解した後、プリンテックス35の全量を加えてさらに攪拌した後、ダイノーミル(ビーズミル、(株)シンマルエンタープライズ製)で直径0.3mmのジルコニアビーズを用い10回通しを行い黒色のペーストを得た。
次いで、このペーストに残りの材料の全量を加え、70℃で4時間攪拌して、粘度450mPa・sの黒色のボールペン用油性インキを得た。
【0028】
(直線筆記インキ付着試験)
筆記角度70度と50度にて、それぞれ直線筆記を1m実施し(筆記荷重150gf、筆記速度1cm/s)、ペン先に溜まったインキの付着長さを測定、及び筆記線に落下したボテ個数を計測した。
尚、付着長さの測定方法をとしては、筆記した直後のペン先の写真を撮影し、ボールペンチップの長手方向を基準として、チップ先端に付着したインキの先端から後端までを測定した。
結果を表1に示す
【0029】
【表1】
【0030】
以上、表1に示したようにおよそ通常状態での筆記角度に相当する70度での試験については段部を持たない比較例1が付着長さ、ボテ個数とも劣る結果になり、各実施例と比較例2は良い結果になっている。
しかし、斜めに倒して筆記した状態での筆記角度に相当する50度では、比較例2でも悪い結果になっている。これは斜め書き時にはボールは前進し、ボール抜け止め部より先端側に拡径部を有した段部がなくなってしまっていることを表している。
また、本発明の
各実施例に対して、少量ではあるが比較例3が筆記角度50度の条件でインキの付着が
発生している。これは各実施例が、段部より先端側に拡径部の最小径部を有していることにより、拡径部内を溢れようとするインキを押さえ込む作用が働いているものである。以上の結果によって本発明を適用することでどんな筆記状態においても付着やボテが発生しにくいボールペンチップになっていると言える。