特許第6010849号(P6010849)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6010849
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】ボールペンチップ
(51)【国際特許分類】
   B43K 1/08 20060101AFI20161006BHJP
【FI】
   B43K1/08 Z
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-19349(P2012-19349)
(22)【出願日】2012年1月31日
(65)【公開番号】特開2013-82194(P2013-82194A)
(43)【公開日】2013年5月9日
【審査請求日】2014年10月31日
(31)【優先権主張番号】特願2011-19312(P2011-19312)
(32)【優先日】2011年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-215255(P2011-215255)
(32)【優先日】2011年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005511
【氏名又は名称】ぺんてる株式会社
(72)【発明者】
【氏名】初谷 洋勝
【審査官】 宮本 昭彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−181881(JP,A)
【文献】 実開平07−040180(JP,U)
【文献】 特開平11−268467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/00 − 1/12
B43K 5/00 − 8/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆記部材としてのボールと、このボールを先端開口部から一部突出して抱持するボールホルダーとから少なくともなるボールペンチップであって、前記ボールホルダーの先端側部分内側にボールに周状当接可能なボール抜け止め部を形成し、ボールを抱持するボール抱持部を形成すると共に、このボール抜け止め部より先端側に拡径部を形成し、その拡径部は、前記ボール抜け止め部近傍から先端側に向かって拡径する内壁を有した段部が形成され、かつ、その段部から前記先端開口部に向かって縮径する内壁を有したボールペンチップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
筆記部材としてのボールと、このボールを先端開口部から一部突出して抱持するボールホルダーとから少なくともなるボールペンチップであって、前記ボールホルダーの先端側部分内側にボールに周状当接可能なボール抜け止め部を形成し、ボールを抱持するボール抱持部を形成すると共に、このボール抜け止め部より先端側に拡径部を形成し、その拡径部は、前記ボール抜け止め部近傍から先端側に向かって拡径する内壁を有した段部が形成され、かつ、その段部から前記先端開口部に向かって縮径する内壁を有したボールペンチップに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールペンは、基本的にインキタンクに収容したインキをボールペンチップ内に連通させ、ボールに付着させたインキが、このボールが紙面等の被筆記面に押しつけられ、移動しながら回転することによって被筆記面に転写し筆跡を形成するものである。
しかしながら、ボールに付着しているインキのすべてが被筆記面に転写されているわけではなく、被筆記面と接触していないボールの表面部分に残ったインキは、ボールの回転に伴って再度ボールペンチップ内に戻されようとするが、ボールとボールホルダーとの隙間は微細であり、ボールペンチップ内部に戻ることができずにボールホルダーの先端開口部の外側に付着・堆積することがあり、一定量に溜まると被筆記面に落ちて筆跡のボテ(JIS S 6039ボールペン及び中しん参照)となる問題があった。
【0003】
従来より、上記のような筆跡のボテを改善する為に、特公平5−64120号公報(特許文献1)には、先端開口部を傾斜面の異なる2段のカシメ加工を行うことによって、ボールの周面より外方へ開角する空隙部を設け、インキが再びボールペンチップ内部に戻ることを助長させることが開示されている。
また、特開昭63−252799号公報(特許文献2)には、ボールをボールホルダーの開口部近傍を小径にカシメ加工を行い、抜け止めした後にボールをボール抱持部底面の内方突部に押し付けることでボール受座部を形成し、ボールホルダーの開口部とボールとの間に隙間部を設けることによって、被筆記面に転写されなかったインキをボールホルダー内に戻し、ボテを解消したボールペンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平5−64120号公報
【特許文献2】特開昭63−252799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1、2に記載の発明のように先端開口部のボールとボール抱持部内壁面との隙間を大きく設計したものであっても、筆記状態によってはこの隙間が確保できない場合があった。即ち、ボールペンを紙面などの被筆記面に対して小さい筆記角度にて筆記した場合には、ボールが筆記方向と反対方向に移動する紙面などの被筆記面に引っ張られて、ボール抱持部の底から浮き、ボール抜け止め部又はこの近傍にまで前進することがあった。また、インキ洩れ防止などの目的でボールを前方付勢するコイルスプリングなどの弾撥部材を使用している場合にも、筆記中に被筆記面からボールが離れる瞬間や、低筆記荷重で筆記した場合なども、ボールが前進して、ボールとボールホルダーとの隙間が十分に確保されない場合がある。このような場合、結果としてインキをボールホルダー内部に戻せず筆跡のボテが防止できないものであった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
筆記部材としてのボールと、このボールを先端開口部から一部突出して抱持するボールホルダーとから少なくともなるボールペンチップであって、前記ボールホルダーの先端側部分内側にボールに周状当接可能なボール抜け止め部を形成し、ボールを抱持するボール抱持部を形成すると共に、このボール抜け止め部より先端側に拡径部を形成し、その拡径部は、前記ボール抜け止め部近傍から先端側に向かって拡径する内壁を有した段部が形成され、かつ、その段部から前記先端開口部に向かって縮径する内壁を有したボールペンチップを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、ボール抜け止め部より先端側に段部を有する拡径部を形成したことで、ボール抜け止め部近傍に広い空間を形成することができるので、ボール抱持室内に回収されずに拡径部内に位置するインキが段部に沿って拡径部内を周方向に移動しやすくなり、隙間の大きく開いている部分よりボール抱持室内に収容されるので、ボールが前進してボテが発生しやすい状態においても、ボテの発生を極力抑制できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明のボールペンチップの一例の縦断面図
図2図1のボールペンチップのI部拡大図
図3本発明のボールペンチップの別の変形例を示す図2相当図
図4本発明のボールペンチップの別の変形例を示す図2相当図
図5比較例を示す図2相当図。
図6他の比較例を示す図2相当図。
図7他の比較例を示す図2相当図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のボールペンチップは、紙面などの被筆記面と接触してインキを転写する筆記部材となるボールと、これを回転自在に抱持するボールホルダーとを有しており、このボールホルダーにはインキ流通路となる貫通孔がボールホルダーの全長に亘り形成されている。そして、ボールホルダーの一方の端部にはボール抱持部となる大径の孔が形成されており、その底部として貫通孔の途中にボールの後退規制となる内方突出部が形成されている。
【0010】
ボールの材質としては、タングステンカーバイドやシリコンカーバイドなど、セラミックス焼結体や超硬材などが使用できる。ボールホルダーは、ステンレスや黄銅、洋白などの合金が使用できる。
【0011】
ボール抱持部の開口部近傍にはボールの直径よりも小径な周状部分として、ボールが先端開口側に移動した際の抜け止めとなるボール抜け止め部を形成している。ボールホルダー内に、ボールを前方付勢する弾発部材を入れることによって、このボール抜け止め部にボールを周状当接させ非筆記時に密閉状態とし、インキのにじみ出しやインキ乾燥を防止することもできるが、より高い密閉性を得ることを目的とした場合には、該部を外側からボールに押し付けて塑性変形させ、帯状にボール表面が転写された部分とすることもできる。インキの流通を大きくしたい場合などにおいては、ボールに押し付けないでただボール径よりも小径に形成する場合もある。
【0012】
そして、前記ボール抜け止め部よりも先端開口側に拡径部を形成し、ボールが先端方向に移動した状態であってもボールホルダーの先端開口部とボールとの間に隙間があくようにしている。そしてこの拡径部に段部を有することで拡径部のボール抜け止め部近傍の空間を十分に確保している。また、段部はボール抜け止め部により近い部分に大きな空間を形成する為には軸心に対して90度以上の開き角であるほうが望ましいが、90度より大きいと、拡径部内にボール抱持部とボールとの隙間に流れ込むには段部を乗り上げる必要
がある空間が形成されることになり、そこの空間にインキが残りやすくなるので、ボール抱持部内へのインキの回収を考慮した場合では軸心に対して90度以下で形成していることが望ましい。更に拡径部に位置する内壁部分は、複数の平面の組み合わせだけでなく、曲率の異なる複数の曲面を組み合わせて形成することもできる。また、各面同士の接続部を曲面で形成するといった複数の平面と曲面の組み合わせでも良い。更に、拡径部内の最大径部をボールホルダー先端開口部とボール抜け止め部との間に位置させるような同一曲率の曲面であってもよい。その場合は最大径部を境に、先端側に向かって径の拡大された部分と、径が縮小していく部分とを形成することができる。この径が拡大する部分が段部となり、拡径部に広い空間を持たせているのである。以上のように拡径部と段部の内壁部分に曲面を用いることで拡径部内に角の凹み部をなくすことが可能となり、表面張力によって拡径部内のインキが角の凹み部に溜まるようなことがなくなり、拡径部内のインキの流れやすさを更に向上できるものとなる。
【0013】
また、拡径部の段部より先端側の内壁は拡径部の最小径部を段部より先端側に形成することで、より先端側が縮径するように傾斜させた内壁を形成することができ、これによって拡径部の内壁が先端側に向かって這い上がろうとするインキに対して庇となる。この最小径部は段部より先端側であればボールホルダー先端開口部に至る途中に形成してあっても構わないが、ボールホルダーの先端開口部と同じ位置にすることで、開口部に至るまでより距離の長い傾斜面が形成でき、庇としての効果をより向上できるものである。
【0014】
本発明のボールペンチップの加工方法を記す。
ボールホルダーとなるステンレスや黄銅、洋白などの合金製の線材を適宜長さに切断して円柱形状にし、インキの流通路となる貫通孔を形成した一端側にドリル又はバイトによりボール抱持部となる大径の孔を形成して、ボール抱持部と後孔との間に内方突出部を形成する。内方突出部に放射状の切削刃にて放射状溝を貫通又は非貫通状態まで剪断加工で形成する。前記放射状溝の本数は、使用するインキの粒径や粘度等の性質によって、本数や大きさは適宜である。
前述したボール抱持部となる大径の孔の開口部に更に大径のドリル又はバイトにて内側を削り拡げて段部を形成する。大径の孔を形成するときに階段状の加工部分を有するドリル又はバイトを使用して一度に加工するなどは適宜であるし、切削ではなく圧延加工にて形成することなども可能である。
【0015】
段部を形成した後に、筆記部材となるボールを設置し、ボールホルダーの先端部分にカシメ加工を施して縮径させボールを抱持させる。この後、ボールに衝撃力を付与して、内方突出部にボールの形状が転写された凹みを形成してボール受座としつつ、ボールの前後移動可能距離を稼ぐことができるが、ボールに衝撃力を付与する加工をカシメ加工の前に行ってもよいし、行わなずにカシメ加工時のスプリングバックにてインキの通る隙間を形成することもできる。このカシメ加工において、ボールホルダーの先端部分をボールに押し付けるように倒す加工を施すが、ボールに押し付けられる部分は先端に形成した段部よりも後ろ側の内壁部分とすることが肝要である。即ち、段部より後方の内壁部分をボールの抜け止め部とすることによって、当該ボール抜け止め部より先端側に段部を有する拡径部となる隙間を確保し本発明のボールペンチップとするものである。拡径部の広さや段部の大きさ、各壁部分の向きなどは、段部を形成する際の削り取り形状を調整したり、カシメ加工の程度や向き、カシメ加工を直接受ける外壁の傾斜状態や当てる角度などを調整して適宜なすことが可能である。
例えば、拡径部の最小径部を段部よりも先端側に位置させることによって、拡径部の内壁が、先端開口部に向かって縮径するように傾斜させることができる。このようにすることによって、ホルダー外部に溢れ出そうとするインキに対して庇となり、ボール表面側に折り返させる効果が加わり、インキがボールホルダーの外に出ることを更に抑制することができる。
【0016】
以上の他にも種々なせる。
ボールペンチップ内にコイルスプリングなどの弾撥部材を配置し、ボールを前方付勢して、非使用時にボールとボールホルダーの内壁とが周状に密閉するようにもできる。コイルスプリングの先端は、直線状に起立したものとしたり、棒状の他部材を接続したものとすることができるが、比較的小径に形成された貫通孔を通じてボールを背面より押して前方付勢するため、狭い通路を通過させる必要があるので、先端部分を直線状に起立した形状とするほうが挿入し易く好ましい。
コイルスプリングの設置は、ボールホルダーに挿入した後に、全長を圧縮した状態で、ボールホルダーの後端開口部を縮径するカシメ加工を施すことによって、ボールの後端を付勢した状態で固定したり、ボールペンチップが接続されるインキタンク部材や中継部材でコイルスプリングの後端を受けるようにすることもできる。コイルスプリングの材質としては、ばね用ステンレス鋼線やピアノ線や硬鋼線や、りん青銅線などが使用できる。
【0017】
本発明のボールペンチップを、直接又は中継部材を介して接続するインキタンクは、ポリプロピレン樹脂などの押し出し成形パイプが使用できる。
使用されるインキとしては、水を主媒体とした水性インキ、アルコールなどの有機溶剤を主媒体とした油性インキのいずれも使用可能であり、これに着色成分である顔料及びまたは染料、凍結防止などのための高沸点有機溶剤、被筆記面への定着性を付与する樹脂成分、表面張力や粘弾性、潤滑性などを調整する界面活性剤や多糖類、防錆・防黴剤などが配合されたものであり、誤字修正などを目的とした酸化チタンなどの白色隠蔽成分を配合したものであってもよい。
また、インキの後端にはインキの界面に接して、インキと相溶しない高粘度流体である逆流防止体組成物が配置されている。
特に、低粘度のインキを使用した場合には、インキが後方に移動することを抑制するために、ポリブテンやαオレフィンなどを基材として適宜シリカなどのゲル化剤などで高粘度とした流体や、これに固体の浮き栓を浸漬したものなどの逆流防止体を配置することは有効である。
【実施例】
【0018】
以下、図面に基づいて一例を説明する。
<実施例1>
図1は本発明におけるボールペンチップの一例の縦断面図である。
本発明のボールペンチップは、筆記部材としてのボール1が、ボールホルダー2から一部突出した状態で回転自在に抱持されている。そして、ボールホルダー2の内部には、ボール1を背面より押して前方付勢するコイルスプリング3が配設されている。
【0019】
図2にボールホルダー2の先端部近傍(I部)の拡大図を示す。
ボール抱持部4の先端側にはカシメ加工によってボール1の直径よりも小径に形成されたボール抜け止め部5が形成され、更にその先端側には拡径部6が、拡径部6内には段部7が形成されている。よって、ボール1が先端方向に移動してボール抜け止め部5と周状当接した状態であっても、拡径部6内に段部7があることで抜け止め部5の直上に大きな空間を形成することができるのである。また、拡径部6の内壁はカシメ加工によりその最小径部を段部7よりも先端側に位置させている。これによって拡径部6の内壁は先端方向に縮径する傾斜面を備えている。尚、この実施例は拡径部6の段部7より先端側の内壁の傾斜面の傾きをボール外面の傾斜におよそ合わせたもので、それによってボール抜け止め部5近傍から先端開口部に至るまでボールとの空間幅をおよそ一定に保つようにして、拡径部6内全体でのインキの周状への流れを均一化でき、よりインキがボール抱持部4内に流れ込むことを狙ったものである。
【0020】
実施例2
図3に更に他の一例を示す。
拡径部6の内壁がの一部が曲面で形成されたものである。これはボール抜け止め部5から先端方向に向かって拡径する曲面部分が段部7となり、ボール抜け止め部5近傍に十分に大きな空間を形成しているものである。このように内壁に曲面で形成することにより、拡径部6内に角の凹み部をなくし、表面張力によって拡径部6内のインキが角の凹み部に溜まるようなことがなくなり、拡径部6内のインキの流れやすさを更に向上させ、よりボール抱持部4内への回収をさせやすくしたものである。また、この曲面部分はカシメ加工前のボールホルダー先端側内側に先端が曲面状のピンを打ち込むことで形成することを想定しており、その加工方法を取ることで切削加工よりも刃物の磨耗や耐久性を向上させ、大量生産に適したものにできる利点もある。
【0021】
実施例3
図4に更に他の一例を示す。
ボール抜け止め部5より先端側の拡径部6が2段になっているものである。この形状であるとボール抜け止め部5をボールに押し当てながら形成するカシメ加工の際、拡径部6はボール抜け止め部5から離れた位置にあるので、その変形の影響を受けにくく、拡径部6の形状を管理しやすくなる利点や、更に筆記することによって生じるボール抜け止め部5の磨耗や変形の影響を拡径部6が受けにくくなり、長時間使用しても一定の空間を維持しやすい利点がある。
【0022】
図5、6、7に比較例を示す。
<比較例1>
図5に示したものは、拡径部6に段部7がないものであり、特許文献1に記載された形状のものに相当するものである。これはボールがボール抜け止め部5に周状当接した状態で拡径部6を有するものの、段部7がないことにより、ボール抜け止め部5近傍に十分に大きな空間を確保できていないものである。
【0023】
<比較例2>
また、図6に示したものは、拡径部6の先端側のみをボール直径よりも小径に形成したもので、拡径部6の段部7はボール抜け止め部5よりも後方に位置しているものである。よって、ペン先を寝かせ、被筆記面に対する傾斜角度が小さい状態で筆記した場合は、被筆記面に引っ張られてボール1は前進し、ボール抜け止め部5とボール1との隙間は小さくなっている状態にある。その状態では拡径部6はボール抜け止め部5より後方に位置することになり、この拡径部6はなんらインキをボール抱持部4内に回収させる効果を持たないものである。
【0024】
<比較例3>
図7に他の一例を示す。
拡径部6の段部7より先端側の内壁が先端方向に向かうほど拡径する傾斜面を備えたものである。拡径する傾斜面を備えることで、拡径部6の入口のボールとの隙間を大きくでき、書き始めにボールホルダー先端部ににじみ出してきたインキのように、ボール表面に多くのインキが乗っている場合でも拡径部6の中にインキを取り込みやすい利点を有するものである。しかし、この比較例3は、少量ではあるが筆記角度50度の条件でインキの付着が発生している。
なお、拡径部6の段部7より先端側の内壁は、カシメ加工前のボール抱持部4となる孔の先端側にボール抱持部4よりも大径の孔を形成し拡径部6と段部7を形成した状態にて、更に先端に円錐状のピンを押し込むことで段部7より先端側の拡径部6の内壁をあらかじめ大きく開かせたあとで、カシメ加工を実施することで形成できるものである。
【0025】
以上説明した実施例、比較例を用いて下記の筆記試験を行った。尚、各実施例、比較例
共に、筆記部材となるボール径は1.0mmのものを使用し、ボールへの付勢力が18gfになるようにコイルスプリングを配置した。また、拡径部の容積はそれぞれ同じとなるように拡径部の縦断面の辺となる部分の寸法を調整した。
【0026】
作成したボールペンチップは、ぺんてる(株)製のボールペン「ビクーニャ」(製品符号:BX157)のインキ収容パイプに固定し、後述の油性インキを充填して、ペン先の方向に遠心力が働くようにして、遠心分離機(国産遠心器(株)製:卓上遠心機H−103N)で遠心処理を施し、筆記具内に存在する気体を除去したものを試験用ボールペンリフィルとして使用するようにした。
【0027】
試験に使用したインキは有機溶剤を収容材とした所謂油性インキであり、配合は次の通りで、配合数値は重量部を示す。
プリンテックス35(カーボンブラック、デグサヒュルスジャパン(株)製) 6.0部VALIFAST VIOLET 1731(油性染料、オリエント化学工業(株)製)
15.0部SPILON RED C−GH(油性染料、保土ヶ谷化学工業(株)製) 1.0部SPILON YELLOW C−GNH(油性染料、保土ヶ谷化学工業(株)製)
1.0部エチレングリコールモノフェニルエーテル 50.0部エチレングリコールモノベンジルエーテル 19.4部エスレックBL−1(ポリビニルブチラール、積水化学工業(株)製) 1.6部エスレックBH−3(ポリビニルブチラール、積水化学工業(株)製) 0.5部ヒタノール1501(フェノール樹脂、日立化成工業(株)製) 3.0部フォスファノールLB400(ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、東邦化学工業(株)製) 1.5部ナイミーンL201(ポリエチレングリコール−1ラウリルアミン、日油(株)製)
1.0部
上記成分のうち、エチレングリコールモノフェニルエーテルの全量と、エスレックBL−1の全量を室温で攪拌、混合溶解した後、プリンテックス35の全量を加えてさらに攪拌した後、ダイノーミル(ビーズミル、(株)シンマルエンタープライズ製)で直径0.3mmのジルコニアビーズを用い10回通しを行い黒色のペーストを得た。
次いで、このペーストに残りの材料の全量を加え、70℃で4時間攪拌して、粘度450mPa・sの黒色のボールペン用油性インキを得た。
【0028】
(直線筆記インキ付着試験)
筆記角度70度と50度にて、それぞれ直線筆記を1m実施し(筆記荷重150gf、筆記速度1cm/s)、ペン先に溜まったインキの付着長さを測定、及び筆記線に落下したボテ個数を計測した。
尚、付着長さの測定方法をとしては、筆記した直後のペン先の写真を撮影し、ボールペンチップの長手方向を基準として、チップ先端に付着したインキの先端から後端までを測定した。
結果を表1に示す
【0029】
【表1】
【0030】
以上、表1に示したようにおよそ通常状態での筆記角度に相当する70度での試験については段部を持たない比較例1が付着長さ、ボテ個数とも劣る結果になり、各実施例と比較例2は良い結果になっている。
しかし、斜めに倒して筆記した状態での筆記角度に相当する50度では、比較例2でも悪い結果になっている。これは斜め書き時にはボールは前進し、ボール抜け止め部より先端側に拡径部を有した段部がなくなってしまっていることを表している。
また、本発明の各実施例に対して、少量ではあるが比較例3が筆記角度50度の条件でインキの付着が発生している。これは各実施例が、段部より先端側に拡径部の最小径部を有していることにより、拡径部内を溢れようとするインキを押さえ込む作用が働いているものである。以上の結果によって本発明を適用することでどんな筆記状態においても付着やボテが発生しにくいボールペンチップになっていると言える。
【符号の説明】
【0031】
1 ボール
2 ボールホルダー
3 コイルスプリング
4 ボール抱持部
5 ボール抜け止め部
6 拡径部
7 段部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7