(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお図中、同一または同等の部分には同一の符号を付す。以下の説明において、IFFT(Inverse Fast Fourier Transformation:逆高速フーリエ変換)は、IFFTとIDFT(Inverse Discrete Fourier Transformation:逆離散フーリエ変換)を含む概念とする。したがって本発明の実施の形態においては、IFFTの代わりに、IDFTを行うよう構成してもよい。同様にFFT(Fast Fourier Transformation:高速フーリエ変換)は、FFTとDFT(Discrete Fourier Transformation:離散フーリエ変換)を含む概念とする。またIDFTおよびDFTを行う場合は、以下の説明におけるFFTサイズとは、DFTサイズを意味する。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態に係る通信機の構成例を示すブロック図である。通信機1は、OFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing:直交周波数分割多重)方式の無線通信により他の機器と通信を行う。通信機1は、アンテナ10、変調部11、直並列変換部12、演算部13、IFFT部14、判定部15、送信部16およびコントローラ20を備える。
【0019】
コントローラ20は、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)21、RAM(Random Access Memory)23、およびROM(Read-Only Memory)24を備える。複雑化を避け、理解を容易にするために、コントローラ20から各部への信号線が省略されているが、コントローラ20は通信機1の各部にI/O(Input/Output)22を介して接続しており、それらの処理の開始、終了、処理内容の制御を行う。
【0020】
RAM23には、例えば送信フレームを生成するためのデータが記憶されている。ROM24は、コントローラ20が通信機1の動作を制御するための制御プログラムを格納する。コントローラ20は、制御プログラムに基づいて、通信機1を制御する。
【0021】
図2は、実施の形態に係る通信機の異なる構成例を示すブロック図である。上述の通信機1に受信機能をもたせるため、
図2に示す通信機1はさらに復調部31、並直列変換部32、抽出部33、FFT部34、受信部35、および送受信切替部36を備える。送信機能および受信機能を備える
図2に示す通信機1を用いて、通信機1が行う通信方法について以下に説明する。
【0022】
変調部11は、入力信号を所定の変調方式で変調し、一次変調信号を生成し、直並列変換部12に送る。所定の変調方式は、例えばQPSK(Quadrature Phase-Shift Keying:四位相偏移変調)である。直並列変換部12は、一次変調信号を直並列変換し、並列信号であるサブキャリア変調信号を生成し、サブキャリア変調信号を演算部13に送る。演算部13は、サブキャリア変調信号において同数の連続する要素から成る複数の分割単位の内、先頭から順に1以上の任意の個数の分割単位を抽出する。演算部13は、抽出した分割単位のそれぞれの前後の任意の位置に、分割単位の要素数と同数の、サブキャリア変調信号の要素が取り得る値と異なる複素数、から成る挿入データを挿入し、要素数がFFTサイズに一致する演算データを生成する。演算部13は、演算データをIFFT部14に送る。
【0023】
変調方式がQPSKの場合に、変調信号の各要素の絶対値をAとすると、変調信号の各要素が取り得る値は、A・e
i(π/4)、A・e
i(3π/4)、A・e
i(−π/4)、およびA・e
i(−3π/4)である。したがって変調方式がQPSKの場合には、挿入データの要素は前述のいずれの値とも異なる複素数である。受信側で分割単位と挿入データとを区別することができれば、挿入データの各要素は同じ値であってもよいし、互いに異なる値であってもよい。例えば挿入データを絶対値が(1/2)AのCAZAC(Constant Amplitude Zero Auto-Correlation)系列としてもよい。また例えば演算部13は、上記複素数を0とし、要素の値が0である挿入データを用いる。
【0024】
IFFT部14は、演算データのIFFTを行って逆変換データを生成し、判定部15に送る。判定部15は、逆変換データに基づくベースバンド信号のPAPR(Peak-to-Average Power Ratio:ピーク対平均電力比)を算出し、PAPRが基準に合致するか否かを判定する。PAPRが基準に合致しないと判定した場合には、その旨を演算部13に通知する。演算部13は、抽出する分割単位の数および/または挿入データを挿入する位置を変えて、新たな演算データを生成する。IFFT部14および判定部15は、新たな演算データについて上述の処理を行う。コントローラ20は、基準に合致する逆変換データを検出するまで、演算部13、IFFT部14、および判定部15に、上述の処理を繰り返し行わせる繰り返し手段としての動作を行う。
【0025】
判定部15は、基準に合致する逆変換データを検出した場合には、送信部16に逆変換データを送る。判定部15は、所定の回数、例えば演算データの全てのパターンについて、上述の処理を繰り返し、最も上記PAPRが低い逆変換データを検出するように、または上記PAPRが所定の値以下である逆変換データを検出するように構成することができる。
【0026】
送信部16は、逆変換データを合成してベースバンド信号を生成し、ベースバンド信号から送信信号を生成して、送受信切替部36およびアンテナ10を介して、他の機器に送信信号を送信する。
【0027】
FFTサイズをNとすると、サブキャリア変調信号dは、下記(1)式で表される。式中の添え字のTは、行列を転置表示していることを表す。これは以下の説明においても同様である。
【0029】
分割単位の個数をS個とすると、サブキャリア変調信号dは、下記(2)式で表される。添え字の括弧内の数字は、分割単位を一意に特定するための番号である。また各分割単位は、下記(3)式で表される。
【0032】
挿入データをzとする。演算部13が抽出する分割単位の数を1つとすると、演算データは、下記(4)式で表されるように、
SC
1=S通り存在する。演算部13は、複数の分割単位の内、先頭から順に1以上の任意の個数の分割単位を抽出するため、抽出する分割単位の数が1つである場合には、下記(4)式に示すように、d
(1)を抽出し、d
(1)の前後に挿入データzを挿入して演算データを生成する。
【0034】
また下記(5)式で表されるように、演算部13が抽出する分割単位の数を2つとすると、演算データは、
SC
2通り存在する。
【0036】
また下記(6)式で表されるように、演算部13が抽出する分割単位の数を3つとすると、演算データは、
SC
3通り存在する。下記(7)式で表されるように、演算部13が抽出する分割単位の数を4つとすると、演算データは、
SC
4通り存在する。下記(8)式で表されるように、演算部13が抽出する分割単位の数をS個とすると、演算データは、
SC
S=1通り存在する。
【0040】
すなわち、抽出する分割単位の個数をkとすると、演算データのパターン数は、下記(9)式で表される。
【0042】
演算データのパターン数は合計で、下記(10)式で表される値となる。
【0044】
下記(11)式に示す二項定理の公式に、x=1およびn=Sを代入して変形し、下記(12)式を得る。下記(12)式より、下記(13)式で示すように、演算データのパターン数の合計T=2
S−1を得る。2
S−1個の演算データに基づく逆変換データの内、逆変換データから生成されるベースバンド信号のPAPRが基準を満たす逆変換データを検出するまで、上述の処理を繰り返し行うことで、ベースバンド信号のPAPRを低減することが可能となる。
【0048】
図3は、実施の形態に係る演算部が行う演算処理の例を示す図である。
図3(a)は、複数のサブキャリア変調信号を表している。FFTサイズを8とすると、サブキャリア変調信号d[1]は、下記(14)式で表される。分割単位の個数Sを4とすると、サブキャリア変調信号d[1]は、下記(15)式で表される。また各分割単位は、下記(16)式で表される。
【0052】
後続のサブキャリア変調信号をd[2]、d[3]、d[4]とすると、各サブキャリア変調信号は、下記(17)式で表される。
【0054】
演算部13は、分割単位d
(1)[1]およびd
(2)[1]を抽出し、
図3(b)に示すように、挿入データzをd
(1)[1]の後に2つ挿入して演算データを生成する。判定部15が、該演算データに対応する逆変換データに基づくベースバンド信号のPAPRが基準に合致すると判定した場合には、送信部16は、該演算データに対応する逆変換データに基づくベースバンド信号から生成した送信信号を送信する。
【0055】
演算部13は、サブキャリア変調信号d[1]の内、送信されなかった分割単位d
(3)[1]および分割単位d
(4)[1]、および後続のサブキャリア変調信号d[2]の要素に基づき演算データを生成する。
図3(b)に示すように、演算部13は、分割単位d
(3)[1]、分割単位d
(4)[1]、および分割単位d
(1)[2]を抽出し、
図3(b)に示すように、挿入データzを分割単位d
(3)[1]の後に挿入して演算データを生成する。このように、演算データが生成され、PAPRが基準に合致する逆変換データに基づくベースバンド信号から送信信号が生成され、送信される。
【0056】
図4は、実施の形態に係る通信機が行う送信制御の動作の一例を示すフローチャートである。変調部11は、入力信号を所定の変調方式で変調して一次変調信号を生成し、直並列変換部12は、一次変調信号を直並列変換し、並列信号であるサブキャリア変調信号を生成する(ステップS110)。演算部13は、サブキャリア変調信号において同数の連続する要素から成る複数の分割単位の内、先頭から順に1以上の任意の個数の分割単位を抽出し、抽出した分割単位のそれぞれの前後の任意の位置に、分割単位の要素数と同数の、サブキャリア変調信号の要素が取り得る値と異なる複素数、から成る挿入データを挿入し、要素数がFFTサイズに一致する演算データを生成する(ステップS120)。
【0057】
IFFT部14は、演算データのIFFTを行って逆変換データを生成する(ステップS130)。判定部15は、逆変換データに基づくベースバンド信号のPAPRを算出する(ステップS140)。PAPRが基準に合致しないと判定した場合には(ステップS150;N)、ステップS120に戻り、演算部13は、抽出する分割単位の数および/または挿入データを挿入する位置を変えて、新たな演算データを生成する。
【0058】
PAPRが基準に合致する判定した場合には(ステップS150;Y)、送信部16は、基準に合致する逆変換データを合成してベースバンド信号を生成し、ベースバンド信号から送信信号を生成して、送受信切替部36およびアンテナ10を介して、他の機器に送信信号を送信する(ステップS160)。
【0059】
受信側での処理を以下に説明する。受信部35は、アンテナ10および送受信切替部36を介して送信信号を受信し、ベースバンド信号を生成し、直並列変換して、FFT部34に送る。FFT部34は、直並列変換されたベースバンド信号のFFTを行い、変換データを生成し、抽出部33に送る。抽出部33は、変換データにおいて、同数の連続する要素から成る複数の分割単位の内、値が所定の範囲内である要素の数が閾値以上である分割単位を除く、分割単位を順に抽出する。そして、抽出した分割単位を並直列変換部32に送る。
【0060】
分割単位は、送信側で用いたものと同じである。受信側では、分割単位についての情報を保持している。また送信側で値が0である挿入データを用いた場合には、抽出部33は、上記所定の範囲を、0の近傍の値である閾値以下とする。所定の範囲は、送信側で用いた挿入データによって決定され、受信側では所定の範囲についての情報を保持している。例えば送信側で絶対値が(1/2)AのCAZAC系列を挿入データとして用いた場合には、絶対値が(1/2)Aの近傍の範囲を所定の範囲とする。値が所定の範囲内である要素の数についての閾値は、分割単位の要素数に応じて任意に定めることができる。
【0061】
送信側で値が0である挿入データを用いた場合を例にして説明する。抽出部33は、例えば下記(18)式に示す変換データを受け取ると、zの各要素は閾値以下であるから、d
(1)[1]およびd
(2)[1]を抽出し、並直列変換部32に送る。
【0063】
並直列変換部32は、抽出部33から受け取ったデータを並直列変換し、復調部31に送る。復調部31は、並直列変換部32で並直列変換されたデータを所定の変調方式で復調し、入力信号を復元する。なお復調部31は、バッファを備え、要素数の合計がFFTサイズに一致するまでデータを蓄積した後に、復調するようにしてもよい。
【0064】
受信側では、所定の範囲についての情報を保持していれば、入力信号を復元できるため、送信側では、任意数の分割単位を抽出し、任意の位置に挿入データを挿入することができる。
【0065】
図5は、実施の形態に係る通信機が行う受信制御の動作の一例を示すフローチャートである。受信部35は、アンテナ10および送受信切替部36を介して送信信号を受信し、ベースバンド信号を生成し、直並列変換する(ステップS210)。FFT部34は、直並列変換されたベースバンド信号のFFTを行い、変換データを生成する(ステップS220)。抽出部33は、変換データにおいて、同数の連続する要素から成る複数の分割単位の内、値が所定の範囲内である要素の数が閾値以上である分割単位を除く、分割単位を順に抽出する(ステップS230)。並直列変換部32は、抽出部33から受け取ったデータを並直列変換し、復調部31は、並直列変換部32で並直列変換されたデータを所定の変調方式で復調し、入力信号を復元する(ステップS240)。
【0066】
以上説明したとおり、本発明の実施の形態に係る通信機1によれば、OFDM通信方式において、分割単位を抽出し、挿入データを挿入する演算を施すことで、PAPRを低減することが可能となる。また後述するとおり、PAPRの低減の程度を制御することが可能となる。
【0067】
(具体例)
次に、シミュレーションにより実施の形態に係る発明の効果を説明する。入力信号にランダム信号を用いて、従来技術と実施の形態に係る発明について、ベースバンド信号を生成し、PAPRの算出を繰り返すシミュレーションを行った。変調方式をQPSKとし、FFTサイズを2048として、従来技術と実施の形態に係る発明のPAPRのCCDF(Complementary Cumulative Distribution Function:相補累積分布関数)、すなわちPAPRの発生確率の特性を比較した。従来技術とは、上述のような演算処理を行わずに、入力信号を所定の変調方式で変調した信号からサブキャリア変調信号を生成し、IFFTを行ってベースバンド信号を生成する方法である。
【0068】
図6は、実施の形態に係る通信機におけるベースバンド信号のPAPRのCCDF特性を示す図である。横軸はPAPR(単位:dB)、縦軸はPAPRのCCDFである。実施の形態に係る通信機1においては、分割単位の数を4つとした。分割単位が4の場合の、演算データのパターン数は、上記(13)式より、15個である。実施の形態に係る通信機1において、演算部13で抽出する分割単位の個数に制限を設けない場合をタイプ1とすると、タイプ1における演算データのパターン数は15個である。また演算部13で少なくとも2以上の分割単位を抽出するように制限する場合をタイプ2とすると、タイプ2における演算データのパターン数は、
4C
2+
4C
3+
4C
4=11個である。また演算部13で少なくとも3以上の分割単位を抽出するように制限する場合をタイプ3とすると、タイプ3における演算データのパターン数は、
4C
3+
4C
4=5個である。
【0069】
従来技術のPAPRのCCDF特性を細い実線のグラフで示す。実施の形態に係る通信機1において、タイプ1のPAPRのCCDF特性が太い実線のグラフであり、タイプ2のPAPRのCCDF特性が一点鎖線のグラフであり、タイプ3のPAPRのCCDF特性が二点鎖線のグラフである。いずれの場合も、実施の形態に係る発明のPAPRは従来技術と比較して低減されていることがわかる。また演算データのパターン数が多くなるにつれて、PAPRがより低減されることがわかる。分割単位の個数を増やすと演算データのパターン数が多くなるため、分割単位の個数を増やすことで、PAPRをより低減することができる。
【0070】
PAPRが最小となる場合の伝送率は、タイプ1が55.4%、タイプ2が69.5%、タイプ3が83.1%であった。
【0071】
また入力信号にサブキャリア変調信号の各要素の位相が一致するような、例えば値が全て0である同一信号を用いてシミュレーションを行った。入力信号に同一信号を用いた場合の従来技術のPAPRは33.1dBである。タイプ1におけるPAPRの最小値は27.1dBであり、その場合の伝送率は25%である。タイプ2におけるPAPRの最小値は30.1dBであり、その場合の伝送率は50%である。タイプ3におけるPAPRの最小値は31.9dBであり、その場合の伝送率は75%である。同一信号の場合は、伝送率を下げることで、PAPRが顕著に低減されている。
【0072】
PAPRと伝送率はトレードオフの関係にあるため、例えば伝送率の低下の程度を一定に抑えるために、演算部13は、複数の分割単位の内、半数以上の分割単位を抽出するようにしてもよい。
【0073】
なお実施の形態における、分割単位を抽出して挿入データを挿入する演算を行うことは、BER(Bit Error Rate:符号誤り率)に影響を与えない。
【0074】
上述のシミュレーションにより、実施の形態に係る発明においては、分割単位を抽出し、挿入データを挿入する演算を施すことで、PAPRを低減し、分割単位の数、抽出する分割単位の数、および挿入位置のいずれかを変更することで、PAPRの低減の程度を制御できることがわかった。
【0075】
本発明の実施の形態は上述の実施の形態に限られない。変調部11の変調方式は、QPSKに限られず、QPSK以外のPSK(Phase Shift Keying:位相偏移変調)やQAM(Quadrature Amplitude Modulation:直角位相振幅変調)などを用いることができる。変調部11と直並列変換部12の順序を変えて、入力信号を直並列変換してサブキャリア信号に割り当て、並列信号の各データを所定の変調方式で変調するよう構成してもよい。その場合、受信側では復調部31と並直列変換部32の順序を変えて、復調処理を行う。IFFT部14は、IFFTの代わりにIDFTを行うよう構成してもよいし、FFT部34は、FFTの代わりにDFTを行うよう構成してもよい。