特許第6010869号(P6010869)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6010869
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】III 族窒化物半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/12 20100101AFI20161006BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20161006BHJP
   H01L 33/06 20100101ALI20161006BHJP
【FI】
   H01L33/12
   H01L33/32
   H01L33/06
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-198723(P2013-198723)
(22)【出願日】2013年9月25日
(65)【公開番号】特開2015-65329(P2015-65329A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2015年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(72)【発明者】
【氏名】永田 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮
【審査官】 高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−065632(JP,A)
【文献】 特開2012−169383(JP,A)
【文献】 特開2008−218746(JP,A)
【文献】 再公表特許第2004/008551(JP,A1)
【文献】 特開2013−120774(JP,A)
【文献】 特表2008−539585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205,21/31,21/365,21/469,
21/86,33/00−33/64
H01S 5/00−5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型半導体層と発光層とp型半導体層と、を有するIII 族窒化物半導体発光素子において、
前記発光層は、
井戸層と、
Inを含有するAlGaN層から成る障壁層とを有し、
前記障壁層におけるInの濃度が、6×1019cm-3以下であり、
前記n型半導体層から少なくとも前記発光層と前記p型半導体層との境界面にかけて形成されたピットを有し、
前記発光層と前記n型半導体層との境界面における前記ピットのピット径が、
120nm以上200nm以下の範囲内であり、
前記発光層と前記p型半導体層との境界面における前記ピットのピット径が、
前記発光層と前記n型半導体層との境界面における前記ピットのピット径よりも大きいこと
を特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
請求項1に記載のIII 族窒化物半導体発光素子において、
前記障壁層におけるInの濃度が、
1.0×1016cm-3以上4.5×1019cm-3以下の範囲内であること
を特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のIII 族窒化物半導体発光素子において、
前記発光層と前記n型半導体層との境界面における前記ピットの径に対する、前記発光層と前記p型半導体層との境界面における前記ピットの径の比は、1.1以上1.25以下の範囲内であること
を特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のIII 族窒化物半導体発光素子において、
前記発光層における前記ピットが広がる角度は、前記n型半導体層および前記p型半導体層における前記ピットが広がる角度より小さいこと
を特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光層にかかる応力の緩和を図ったIII 族窒化物半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
III 族窒化物半導体発光素子は、電子と正孔とが再結合することにより発光する発光層を有する。発光層は、井戸層と、障壁層と、を有する。障壁層のバンドギャップは、井戸層のバンドギャップよりも大きい。そして、半導体発光素子には、井戸層と障壁層とを繰り返し積層した多重量子井戸構造(MQW構造)を有するものがある。そして、障壁層として、AlGaN層を用いることがある。しかし、AlGaN層の結晶品質は、それほど高くない。結晶品質の低下は、発光効率の低下を招く。
【0003】
そのため、結晶品質の向上を図る技術が開発されてきている。例えば、特許文献1では、障壁層としてのAlGaN層にInを添加するとともに、ドナー不純物をドーピングすることにより、格子欠陥が少なく結晶品質に優れた半導体層が得られる旨が記載されている(特許文献1の段落[0020]参照)。その場合のIn濃度を、1×1017cm-3から7×1022cm-3までの範囲内とするとよい旨が記載されている(特許文献1の段落[0009]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−64249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
障壁層としてのAlGaN層にInを添加することで、より平坦な半導体層が得られる。また、本発明者ら、その他の研究者の研究の結果、貫通転位に由来するピットにより、発光層にかかる応力を低減させることができることが明らかとなってきている。本発明者らの鋭意研究の結果、このピットを形成するとともにAlGaN層にInを添加した場合には、Inを含むAlGaN層がピットを埋めてしまうことが明らかとなった。そのため、ピットが発光層の応力を緩和する効果が減少する。これにより、半導体発光素子の発光効率は低下する。
【0006】
本発明は、前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題は、表面の平坦な半導体層を有するとともに発光層にかかる応力の緩和を図ったIII 族窒化物半導体発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様におけるIII 族窒化物半導体発光素子は、n型半導体層と発光層とp型半導体層と、を有する。発光層は、井戸層と、Inを含有するAlGaN層から成る障壁層とを有する。この障壁層におけるInの濃度が、6×1019cm-3以下である。また、このIII 族窒化物半導体発光素子は、n型半導体層から少なくとも発光層とp型半導体層との境界面にかけて形成されたピットを有する。そして、発光層とn型半導体層との境界面におけるピットのピット径が、120nm以上200nm以下の範囲内である。発光層とp型半導体層との境界面におけるピットのピット径が、発光層とn型半導体層との境界面におけるピットのピット径よりも大きい。
【0008】
このIII 族窒化物半導体発光素子では、発光層におけるInを含むAlGaN層のIn濃度がそれほど高くない。そのため、Inを含むAlGaN層が、ピットを埋めきってしまうおそれがない。つまり、下地層の膜厚内部で発生したピット層が、発光層の上方にかけてまで継続して存在している。そのため、発光層にかかる応力を緩和することができる。また、発光層の上面は、平坦である。
【0009】
第2の態様におけるIII 族窒化物半導体発光素子では、障壁層におけるInの濃度が、1.0×1016cm-3以上4.5×1019cm-3以下の範囲内である。
【0010】
第3の態様におけるIII 族窒化物半導体発光素子では、発光層とn型半導体層との境界面におけるピットの径に対する、発光層とp型半導体層との境界面におけるピットの径の比は、1.1以上1.25以下の範囲内である。第4の態様におけるIII 族窒化物半導体発光素子においては、発光層におけるピットが広がる角度は、n型半導体層およびp型半導体層におけるピットが広がる角度より小さい。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、表面の平坦な半導体層を有するとともに発光層にかかる応力の緩和を図ったIII 族窒化物半導体発光素子が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る発光素子の構造を示す概略構成図である。
図2】実施形態に係る発光素子の半導体層の積層構造を示す図である。
図3】実施形態に係る発光素子に形成されるピットの巨視的な形状を説明するための図である。
図4】実施形態に係る発光素子の製造方法を説明するための図(その1)である。
図5】実施形態に係る発光素子の製造方法を説明するための図(その2)である。
図6】実施形態に係る発光素子の製造方法を説明するための図(その3)である。
図7】発光層の障壁層に含有させたInの濃度と発光素子の発光強度との関係を示すグラフである。
図8】n型半導体層と発光層との境界面におけるピット径と相対的光出力との関係を示すグラフである。
図9】n型半導体層と発光層との境界面におけるピット径に対する発光層とp型半導体層との境界面におけるピット径の比と相対的光出力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、具体的な実施形態について、半導体発光素子を例に挙げて図を参照しつつ説明する。しかし、これらの実施形態に限定されるものではない。また、後述する半導体発光素子の各層の積層構造および電極構造は、例示である。実施形態とは異なる積層構造であってももちろん構わない。そして、それぞれの図における各層の厚みは、概念的に示したものであり、実際の厚みを示しているわけではない。また、後述するピットの大きさ等については、実際のものより大きく描いてある。
【0014】
1.半導体発光素子
本実施形態に係る発光素子100の概略構成を図1に示す。図2は、発光素子100における半導体層の積層構造を示す図である。発光素子100は、フェイスアップ型の半導体発光素子である。発光素子100は、III 族窒化物半導体から成る複数の半導体層を有する。
【0015】
図1に示すように、発光素子100は、基板110と、低温バッファ層120と、n型コンタクト層130と、n型ESD層140と、n型SL層150と、発光層160と、p型クラッド層170と、p型コンタクト層180と、n電極N1と、p電極P1と、パッシベーション膜F1と、を有している。n型コンタクト層130と、n型ESD層140と、n型SL層150とは、n型半導体層である。p型クラッド層170と、p型コンタクト層180とは、p型半導体層である。
【0016】
基板110の主面上には、各半導体層が、低温バッファ層120、n型コンタクト層130、n型ESD層140、n型SL層150、発光層160、p型クラッド層170、p型コンタクト層180の順に形成されている。n電極N1は、n型コンタクト層130の上に形成されている。p電極P1は、p型コンタクト層180の上に形成されている。
【0017】
基板110は、MOCVD法により、主面上に上記の各半導体層を形成するための成長基板である。そして、その表面に凹凸加工がされていてもよい。基板110の材質は、サファイアである。また、サファイア以外にも、SiC、ZnO、Si、GaNなどの材質を用いてもよい。
【0018】
低温バッファ層120は、基板110の結晶性を受け継ぎつつ、上層を形成するためのものである。そのため、低温バッファ層120は、基板110の主面上に形成されている。低温バッファ層120の材質は、例えばAlNやGaNである。
【0019】
n型コンタクト層130は、n電極N1とオーミック接触をとるためのものである。n型コンタクト層130は、低温バッファ層120の上に形成されている。また、n型コンタクト層130は、n電極N1の下に位置する層である。n型コンタクト層130は、n型GaNである。そのSi濃度は1×1018/cm3 以上である。また、n型コンタクト層130を、キャリア濃度の異なる複数の層としてもよい。n電極N1とのオーミック性を向上させるためである。n型コンタクト層130の厚みは、例えば、4μmである。もちろん、これ以外の厚みを用いてもよい。
【0020】
n型ESD層140は、各半導体層の静電破壊を防止するための静電耐圧層である。n型ESD層140は、n型コンタクト層130の上に形成されている。n型ESD層140は、ノンドープのi−GaNとn型GaNとを積層した半導体層である。n型ESD層140の膜厚は、例えば、300nmである。
【0021】
n型SL層150は、発光層160に加わる応力を緩和するための歪緩和層である。より具体的には、n型SL層150は、超格子構造を有するn型超格子層である。n型SL層150は、n型ESD層140の上に形成されている。図2に示すように、n型SL層150は、InGaN層151と、n型GaN層152とを積層した単位積層体を繰り返し積層したものである。その繰り返し回数は、10回以上20回以下の範囲内である。ただし、これ以外の回数であってもよい。また、ノンドープのGaNをInGaN層151と、n型GaN層152との間に形成してもよい。
【0022】
発光層160は、電子と正孔とが再結合することにより発光する層である。発光層160は、n型SL層150の上に形成されている。発光層160は、障壁層161と、井戸層162と、を積層した単位積層体を繰り返し積層したものである。つまり、発光層160は、この単位積層体を繰り返し積層した多重量子井戸構造(MQW構造)を有するものである。
【0023】
この積層の繰り返し回数は、例えば、5回である。もちろん、これ以外の回数であってもよい。障壁層161は、Inを含むAlGaN層である。また、後述するように、障壁層161におけるIn濃度は、6×1019cm-3以下である。井戸層162は、例えば、InGaN層である。これらは、あくまで例示である。ただし、井戸層162は、Inを含む層である。なお、障壁層161として、上記のInを含むAlGaN層以外の層を有していてもよい。
【0024】
障壁層161の厚みは、10Å以上100Å以下の範囲内である。井戸層162の厚みは、10Å以上50Å以下の範囲内である。これらの数値は、あくまで例示である。そのため、ここで挙げた数値範囲を用いてもよい。なお、発光層160の全体での厚みは、500nm以上700nm以下の範囲内である。もちろん、これ以外の範囲内であってもよい。
【0025】
また、井戸層162の上にキャップ層を有していてもよい。キャップ層は、例えば、GaN層である。キャップ層は、井戸層162を熱から保護するための保護層である。例えば、井戸層162のInを昇華させないようにする役割を担っている。キャップ層の厚みは、2Å以上18Å以下の範囲内である。キャップ層の厚みは、少なくとも2Å以上であるとよい。
【0026】
p型クラッド層170は、発光層160の上に形成されている。図2に示すように、p型クラッド層170は、p型InGaN層171と、p型AlGaN層172と、を繰り返し積層して形成したものである。繰り返し回数は、例えば、5回である。p型InGaN層171のIn組成比は、0.05以上0.12以下の範囲内である。p型InGaN層171の厚みは、2nmである。p型AlGaN層172のAl組成比は、0.25以上0.4以下の範囲内である。p型AlGaN層172の厚みは、2.5nmである。これらの数値は、あくまで例示である。したがって、これ以外の数値であってもよい。また、異なる構成であってもよい。
【0027】
p型コンタクト層180は、p型クラッド層170の上に形成されている。p型コンタクト層180は、p電極P1とオーミック接触するためのものである。p型コンタクト層180の厚みは、80nmである。p型コンタクト層180では、Mgが1×1019/cm3 以上1×1022/cm3 以下の範囲内でドープされている。
【0028】
p電極P1は、p型コンタクト層180の上に形成されている。p電極P1は、p型コンタクト層180とオーミック接触している。p電極P1の材質は、ITOである。
【0029】
n電極N1は、n型コンタクト層130の上に形成されている。n電極N1は、n型コンタクト層130とオーミック接触している。n電極N1は、n型コンタクト層130の側から、V、Alを順に形成したものである。また、Ti、Alを順に形成してもよい。もちろん、これらに限らない。
【0030】
パッシベーション膜F1は、n型コンタクト層130、n型ESD層140、n型SL層150、発光層160、p型クラッド層170、p型コンタクト層180の側面を覆うとともに、p電極P1の一部およびn電極N1の一部を覆っている。つまり、p電極P1の残部およびn電極N1の残部は、パッシベーション膜F1に覆われずに露出している。パッシベーション膜F1の材質は、例えば、SiO2 である。
【0031】
2.ピットの形状
2−1.ピットの全体的な形状
図3に、発光素子100に形成されるピットXを示す。図3では、ピットXの形状については、やや極端に描いてある。ピットXは、貫通転位TD1を起点に形成される。ピットXは、n型ESD層140から成長する。つまり、基板110から上方に成長する貫通転位TD1がn型ESD層140の膜の内部で、横方向、すなわち貫通転位の成長方向に対して垂直な方向に広がる。そして、それがピットXとなる。ピットXは、n型ESD層140からp型クラッド層170に達している。すなわち、ピットXは、n型半導体層からp型半導体層にかけて形成されている。
【0032】
図3に示すように、n型半導体層の膜厚内では、ピットXの直径は、n型半導体層から発光層160に向かうにつれて広がっている。そして、発光層160の膜厚内では、ピットXの直径は、p型半導体層に向かうにつれてわずかに広がっている。そして、p型半導体層の膜厚内では、ピットXの直径は、p電極P1の側に向かうにつれてやや広がっている。
【0033】
なお、ピットXの断面形状は、六角形もしくは円形である。理論的には六角形であるが、実際には、円形に近い形状であることが多い。そのため、便宜上、ピットXの開口幅のことを、ピットXの直径ということとする。ピットXの直径は、図3(D1、D2、D3)からも明らかなように、半導体層の内部の位置によって異なった値をとる。
【0034】
2−2.発光層におけるピット
本実施形態では、発光層160の井戸層162および障壁層161のいずれも、Inを含有している。Inを含むIII 族窒化物半導体層は、エピタキシーによる成長とともに横方向、すなわち膜厚方向に垂直な方向に広がろうとする。これは、Inが触媒のように働いて、III 族窒化物半導体層を押し広げようとするためであると考えられる。そのため、Inを含むIII 族窒化物半導体層は、成長の過程でピットXの内部に入り込もうとする。
【0035】
図3に示すように、Inを含む層は、前に堆積した下地層の上に、形成される。n型SL層150側のすぐ上に形成される障壁層161は、n型SL層150の平坦面150aと、窪み150bと、の双方の面から形成されている。そして、ピットXの箇所における障壁層161および井戸層162は、円錐もしくは六角錐の形状になっている。そして、その円錐もしくは六角錐の形状が堆積する。
【0036】
2−3.p型半導体層におけるピット
p型半導体層の膜厚内では、ピットXはやや広がっている。p型クラッド層170は、p型InGaN層171と、p型AlGaN層172と、を有する。このうちのp型InGaN層171におけるInの含有量は、それほど高くない。そして、Inを含有しないp型AlGaN層172と、p型InGaN層171とが、交互に積層されている。
【0037】
2−4.n型半導体層におけるピット
また、n型半導体層の膜厚内では、ピットXは広がっている。n型SL層150がInGaN層151を有している。しかし、Inを含む半導体層が連続して形成されているわけではない。
【0038】
2−5.ピット径
また、図3にピットXのピット径D1、D2、D3を示す。ピット径D1は、発光層160とn型SL層150との境界面におけるピットXの直径である。すなわち、ピット径D1は、発光層160とn型半導体層との境界面におけるピットXの直径である。ピット径D2は、発光層160とp型クラッド層170との境界面におけるピットXの直径である。すなわち、ピット径D2は、発光層160とp型半導体層との境界面におけるピットXの直径である。ピット径D3は、p型クラッド層170とp型コンタクト層180との境界面におけるピットXの直径である。なお、ピットXは、p型クラッド層170の箇所に至るまで形成されており、p型コンタクト層180には存在しない。
【0039】
これらのピットXの断面形状が六角形である場合には、ピット径D1、D2、D3は、六角形の向かい合う頂点を結ぶ長さを指すこととする。また、これらのピットXの断面形状が円形である場合には、ピット径D1、D2、D3は、円形の直径を指すこととする。なお、今後、ピット径D1、D2、D3という場合には、それぞれの平均値をいうこととする。
【0040】
このピットXのピット径D1は、n型ESD層140の膜厚と、n型ESD層140を成長させる成長温度とにより、変化する値である。n型ESD層140の膜厚を厚くするほど、ピット径D1は大きくなる。逆に、n型ESD層140の膜厚を薄くするほど、ピット径D1は小さくなる。また、n型ESD層140を成長させる成長温度を高くするほど、ピット径D1は小さくなる。逆に、n型ESD層140を成長させる成長温度を低くするほど、ピット径D1は大きくなる。したがって、形成するn型ESD層140の膜厚と、その成長温度とを設定することにより、ピット径D1を調整することができる。また、n型ESD層より上層の半導体層を形成する場合であっても、形成する半導体層の膜厚もしくは成長温度とピット径D1との関係は同様である。
【0041】
本実施形態では、ピット径D1について次の式(1)を満たすようにする。
120nm ≦ D1 ≦ 200nm ………(1)
つまり、ピット径D1を120nm以上200nm以下の範囲内とする。式(1)を満たすピットXを形成することにより、障壁層161としてInを含有するAlGaN層を形成した場合に、発光層160にかかる応力が緩和される。詳細については、後述する実験のところで説明する。また、後述するように、ピットXのピット径D1は、140nm以上180nm以下の範囲内であると、好ましい。
【0042】
図3では、ピット径D2は、ピット径D1よりやや大きい。つまり、発光層160とp型半導体層との境界面におけるピット径D2は、発光層160とn型半導体層との境界面におけるピット径D1よりもやや大きい。また、図3では、ピット径D2は、ピット径D3よりも小さい。
【0043】
なお、このようにピット径が変わる理由として次のようなものが挙げられる。つまり、Inの含有量によって、成長速度比が変わるためであると考えられる。ここで成長速度比とは、ピットの外側におけるc軸方向の成長速度と、ピットの内側におけるピットの斜面に垂直な方向の成長速度と、の比である。また、後述するように、積層する各層の成長温度も、それぞれの層ごとに異なっている。そのため、上記の成長速度比が、変わる。
【0044】
3.半導体発光素子の製造方法
ここで、本実施形態に係る発光素子100の製造方法について説明する。有機金属化学気相成長法(MOCVD法)により、各半導体層の結晶をエピタキシャル成長させる。ここで用いるキャリアガスは、水素(H2 )もしくは窒素(N2 )もしくは水素と窒素との混合気体(H2 +N2 )である。窒素源として、アンモニアガス(NH3 )を用いる。Ga源として、トリメチルガリウム(Ga(CH3 3 )を用いる。In源として、トリメチルインジウム(In(CH3 3 )を用いる。Al源として、トリメチルアルミニウム(Al(CH3 3 )を用いる。n型ドーパントガスとして、シラン(SiH4 )を用いる。p型ドーパントガスとして、シクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C5 5 2 )を用いる。
【0045】
3−1.n型コンタクト層形成工程
まず、基板110の主面上に低温バッファ層120を形成する。その後に、バッファ層120の上にn型コンタクト層130を形成する。このときの基板温度は、1080℃以上1140℃以下の範囲内である。ドープするSiのSi濃度は1×1018/cm3 以上である。
【0046】
3−2.静電耐圧層形成工程
次に、n型コンタクト層130の上にn型ESD層140を形成する。このときの基板温度は、750℃以上950℃以下の範囲内である。そして、この工程では、図4に示すように、底部B1からピットX1を形成する。ピットX1は、この後の半導体層の成長にともなって成長し、ピットXとなるものである。このように、ピットX1を形成しつつ、n型ESD層140を形成する。
【0047】
3−3.n型超格子層形成工程
次に、n型SL層150を形成する。まずは、n型ESD層140の上にInGaN層151から形成する。次に、図2に示すように、InGaN層151の上にn型GaN層152を形成する。そして、このInGaN層151とn型GaN層152とを単位積層体として繰り返し形成する。これにより、図4に示すように、ピットX1は広がる。この段階で、ピット径D1は、式(1)を満たしている。
【0048】
3−4.発光層形成工程
次に、発光層160を形成する。そのために、障壁層161と、井戸層162とを、この順序で積層した単位積層体を繰り返し積層する。つまり、発光層形成工程は、障壁層161を形成する障壁層形成工程と、障壁層161の上に井戸層162を形成する井戸層形成工程と、を有する。そして、これらの工程を繰り返し行う。
【0049】
障壁層161を成長させる際の基板温度を、800℃以上980℃以下の範囲内とする。井戸層162を成長させる際の基板温度を、730℃以上850℃以下の範囲内とする。ここで、発光層160の全体での厚みを、500nm以上700nm以下の範囲内とする。
【0050】
3−5.p型超格子層形成工程
次に、p型クラッド層170を形成する。ここでは、p型InGaN層171と、p型AlGaN層172と、を繰り返し積層する。
【0051】
3−6.p型コンタクト層形成工程
次に、p型コンタクト層180を形成する。基板温度を、900℃以上1050℃以下の範囲内とする。これにより、基板110に各半導体層が積層されることなる。このとき、図6に示すように、ピットXは、n型ESD層140からp型コンタクト層180に達するまでの領域にわたって形成されている。
【0052】
3−7.電極形成工程
次に、p型コンタクト層180の上にp電極P1を形成する。そして、レーザーもしくはエッチングにより、p型コンタクト層180の側から半導体層の一部を抉ってn型コンタクト層130を露出させる。そして、その露出箇所に、n電極N1を形成する。p電極P1の形成工程とn電極N1の形成工程は、いずれを先に行ってもよい。
【0053】
3−8.絶縁膜形成工程
そして、半導体層の側面等およびp電極P1の一部とn電極N1の一部とを、パッシベーション膜F1で覆う。このパッシベーション膜F1として、SiO2 が挙げられる。もちろん、その他の透明性絶縁膜を形成することとしてもよい。もしくは、パッシベーション膜F1で、発光素子100の全体を覆った後に、必要な箇所だけ露出させることとしてもよい。
【0054】
3−9.その他の工程
また、上記の工程の他、熱処理工程等、その他の工程を実施してもよい。以上により、図1に示した発光素子100が製造される。
【0055】
4.実験
4−1.障壁層のIn濃度と光の強度
図7は、発光層160の障壁層161に含まれているInの濃度と、そのときの素子の相対強度を示すグラフである。図7に示すように、In濃度が1.0×1016cm-3のときの強度を基準とした。そのため、このときの相対強度の値は、1である。In濃度が2.03×1019cm-3のときの相対強度の値は、1.010であった。In濃度が3.06×1019cm-3のときの相対強度の値は、1.013であった。In濃度が4.11×1019cm-3のときの相対強度の値は、0.999であった。In濃度が1.05×1020cm-3のときの相対強度の値は、0.943であった。
【0056】
図7のグラフから明らかなように、障壁層161におけるIn濃度が、6.0×1019cm-3以下のときに、発光素子の相対強度が強い。さらに、障壁層161におけIn濃度が、1.0×1016cm-3以上4.5×1019cm-3以下の範囲内のときに、相対強度はより高い値をとる。したがって、障壁層161におけIn濃度が、1.0×1016cm-3以上4.5×1019cm-3以下の範囲内であるとより好ましい。より好ましくは、障壁層161におけIn濃度が、2.0×1019cm-3以上3.0×1019cm-3以下の範囲内のときである。なお、図7において測定した発光素子のピット径D1は、いずれも160nm以上190nm以下であった。
【0057】
4−2.ピット径と光出力
図8は、ピット径D1と相対的光出力との関係を示すグラフである。図8の横軸は、ピット径(nm)である。図8の縦軸は、相対的光出力(a.u.)である。ここでは、ピット径D1が45.8nmのときの相対的光出力を1とした。図8に示すように、ピット径D1が前述の式(1)を満たす場合に、相対的光出力が高い。式(1)の範囲を図8中の両矢印の範囲で示す。また、図8に示すように、好ましくは、ピットXのピット径D1は、140nm以上180nm以下の範囲内である。なお、図8における発光素子の障壁層161のIn濃度は、2.0×1019cm-3だった。
【0058】
4−3.ピット径の比
図9は、ピット径D1に対するピット径D2の比R1と、相対的光出力との関係を示すグラフである。図9の矢印で示すように、ピット径D1に対するピット径D2の比R1が、1.1以上1.25以下の範囲内のときに、相対的光出力は大きい。
【0059】
図9において、障壁層161のIn濃度が1.07×1020cm-3の場合に、比R1が、1.06であった。障壁層161のIn濃度が4.11×1019cm-3の場合に、比R1が、1.11であった。障壁層161のIn濃度が2.03×1019cm-3の場合に、比R1が、1.14であった。障壁層161のIn濃度が1.0×1016cm-3cm-3の場合に、比R1が、1.22であった。図7で説明したように、障壁層161のIn濃度が6.0×1019cm-3以下である場合に、相対的光出力は大きい。
【0060】
4−4.他の発光素子との比較
ここで、本実施形態の発光素子100と、AlGaN層に含有させるInの濃度の高い発光素子とを比較する。障壁層161のAlGaN層に含有させるInの濃度を、仮に6×1019cm-3よりも大きくすると、ピットを埋めるか、もしくはピットの径が下層よりも小さいこととなってしまう。つまり、ピットが上層にいくにしたがい、その径が小さくなってしまう。これでは、発光層160にかかる応力が十分に緩和されない。この場合の発光素子では、発光効率がそれほど高くない。また、障壁層161のAlGaN層にInを含有させないこととすると、平坦な半導体層は得られない。
【0061】
5.変形例
5−1.p電極
本実施形態では、p電極P1として、透明な導電性酸化物であるITOを用いた。しかし、ITOの他に、ICO、IZO、ZnO、TiO2 、NbTiO2 、TaTiO2 の透明な導電性酸化物を用いることができる。また、p電極P1の上に、金属から成る金属電極を形成してもよい。もしくは、p電極P1の上にパッド電極を形成してもよい。
【0062】
5−2.発光素子の種類
本実施形態では、フェイスアップ型の発光素子100を例に挙げて説明した。しかし、本実施形態以外にも、フリップチップ型の発光素子や基板リフトオフ型の発光素子に対しても、本発明を適用することができる。これらの場合であっても、n型半導体層の途中から、ピットが発生することに変わりない。
【0063】
5−3.ピットの長さ
本実施形態では、ピットXは、n型半導体層からp型半導体層にかけて形成されているとした。しかし、ピットXは、n型半導体層から少なくとも発光層160とp型半導体層との境界面にかけて形成されていればよい。つまり、p型半導体層には形成されていなくともよいし、p型半導体層の最上層まで形成されていてもよい。
【0064】
5−4.組み合わせ
以上の変形例を自由に組み合わせてもよい。
【0065】
6.本実施形態のまとめ
以上詳細に説明したように、本実施形態の発光素子100では、発光層160の障壁層161としてInを含有するAlGaN層を用いるとともに、発光層160とn型SL層150との境界面におけるピットXのピット径D1が、120nm以上200nm以下の範囲内である。この場合には、表面は平坦性を有したまま、発光層にかかる応力を緩和することのできる発光素子100が実現されている。
【0066】
なお、以上に説明した実施形態は単なる例示にすぎない。したがって当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能である。積層体の積層構造については、必ずしも図に示したものに限らない。積層構造や各層の繰り返し回数等、任意に選択してよい。また、有機金属気相成長法(MOCVD法)に限らない。キャリアガスを用いて結晶を成長させる方法であれば、他の方法を用いてもよい。
【符号の説明】
【0067】
100…発光素子
110…基板
120…低温バッファ層
130…n型コンタクト層
140…n型ESD層
150…n型SL層
160…発光層
170…p型クラッド層
180…p型コンタクト層
N1…n電極
P1…p電極
F1…パッシベーション膜
X…ピット
D1、D2、D3…ピット径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9