特許第6010926号(P6010926)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6010926接合材料、パワーモジュール及びパワーモジュールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6010926
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】接合材料、パワーモジュール及びパワーモジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20060101AFI20161006BHJP
   H01L 21/52 20060101ALI20161006BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20161006BHJP
   H01L 23/40 20060101ALI20161006BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20161006BHJP
   H01L 25/18 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   B22F1/00 K
   H01L21/52 E
   H01L23/36 M
   H01L23/40 F
   H01L25/04 C
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-43522(P2012-43522)
(22)【出願日】2012年2月29日
(65)【公開番号】特開2013-182901(P2013-182901A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2014年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100129403
【弁理士】
【氏名又は名称】増井 裕士
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(72)【発明者】
【氏名】西川 仁人
(72)【発明者】
【氏名】西元 修司
(72)【発明者】
【氏名】仙石 文衣理
(72)【発明者】
【氏名】長友 義幸
【審査官】 工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/055887(WO,A1)
【文献】 特開2004−071467(JP,A)
【文献】 特開2003−309352(JP,A)
【文献】 特表2013−510220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F1/00−1/02
H01L21/52
H01L23/373
H01L23/40
H01L25/00−25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と被接合体とを接合する際に用いられる接合材料であって、
酸化銀粒子を60質量%以上90質量%以下、前記酸化銀粒子を還元して微細な還元Ag粒子を生成する還元剤を5質量%以上15質量%以下、前記金属部材表面の酸化膜を除去する活性剤を0.5質量%以上10質量%以下の範囲、樹脂を0質量%以上2質量%以下の範囲で含有し、残部が溶剤とされていることを特徴とする接合材料。
【請求項2】
前記活性剤が、ロジン、ロジン誘導体、多価カルボン酸、ハロゲン化物のうちの1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1に記載の接合材料。
【請求項3】
絶縁層の一方の面に金属からなる回路層が配設されたパワーモジュール用基板と、前記回路層上に搭載される半導体素子と、を備えたパワーモジュールであって、
前記回路層と前記半導体素子とが、請求項1又は請求項2に記載の接合材料を用いて接合されており、前記回路層と前記半導体素子と間に、酸化銀が還元されたAgの焼成体からなる接合層が形成されていることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項4】
前記回路層が、銅又は銅合金で構成されていることを特徴とする請求項3に記載のパワーモジュール。
【請求項5】
前記回路層の一方の面に、Ni又はNi合金層が形成されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のパワーモジュール。
【請求項6】
絶縁層の一方の面に金属からなる回路層が配設されたパワーモジュール用基板と、前記回路層上に搭載される半導体素子と、を備えたパワーモジュールの製造方法であって、
前記回路層と前記半導体素子との間に、請求項1又は請求項2に記載の接合材料を配設する工程と、
前記接合材料を介して前記半導体素子と前記パワーモジュール用基板とを積層する工程と、
前記半導体素子と前記パワーモジュール用基板とを積層した状態で加熱して、前記回路層と前記半導体素子と間に、酸化銀が還元されたAgの焼成体からなる接合層を形成する工程と、
を備えていることを特徴とするパワーモジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属部材と被接合体とを接合する際に用いられる接合材料、及び、この接合材料を用いたパワーモジュール及びパワーモジュールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、LEDやパワーモジュールといった半導体装置は、金属部材からなる回路層の上に半導体素子が接合された構造とされている。
ここで、半導体素子等の電子部品を回路層上に接合する際には、例えば特許文献1に示すように、はんだ材を用いた方法が広く使用されている。最近では、環境保護の観点から、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系等の鉛フリーはんだが主流となっている。
【0003】
ところで、特許文献1に記載されたように、はんだ材を介して半導体素子等の電子部品と回路層とを接合した場合には、高温環境下で使用した際にはんだの一部が溶融し、半導体素子等の電子部品と回路層と接合信頼性が低下するおそれがあった。
特に、最近では、半導体素子自体の耐熱性が向上しており、かつ、半導体装置が自動車のエンジンルーム等の高温環境下で使用されることがあり、従来のようにはんだ材で接合した構造では対応が困難となってきている。
【0004】
そこで、はんだ材の代替として、特許文献2、3には、金属酸化物粒子と有機物からなる還元剤とを含む酸化物ペーストを用いて、半導体素子等の電子部品を回路上に接合する技術が提案されている。
金属酸化物粒子と有機物からなる還元剤とを含む酸化物ペーストにおいては、金属酸化物粒子が還元剤によって還元されることによって生成する金属粒子が焼結することで、導電性の焼成体からなる接合層が形成され、この接合層を介して半導体素子等の電子部品が回路上に接合されることになる。
このように、金属粒子の焼成体によって接合層を形成した場合には、比較的低温条件で接合層を形成できるとともに接合層自体の融点は高くなるため、高温環境下においても接合強度が大きく低下しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−172378号公報
【特許文献2】特開2008−208442号公報
【特許文献3】特開2009−267374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献2,3に記載されたように、金属酸化物粒子と有機物からなる還元剤とを含む酸化物ペーストを用いた場合には、この酸化物ペーストを焼成して導電性の焼成体を形成することになる。ここで、金属部材からなる回路層の表面には、焼成時に酸化膜が形成されることになり、この酸化膜によって接合が阻害されるおそれがある。なお、焼成を非酸化雰囲気で実施した場合であっても、酸化物ペーストに含まれる酸素によって、やはり、回路層の表面が酸化されるおそれがあった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、回路層等の金属部材と、半導体素子等の被接合材と、を確実に接合でき、高温環境下における接合信頼性を向上させることができる接合材料、及び、この接合材料を用いたパワーモジュール、パワーモジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の接合材料は、金属部材と被接合体とを接合する際に用いられる接合材料であって、酸化銀粒子を60質量%以上90質量%以下、前記酸化銀粒子を還元して微細な還元Ag粒子を生成する還元剤を5質量%以上15質量%以下、前記金属部材表面の酸化膜を除去する活性剤を0.5質量%以上10質量%以下の範囲、樹脂を0質量%以上2質量%以下の範囲で含有し、残部が溶剤とされていることを特徴としている。
【0009】
この構成の接合材料によれば、前記金属部材の酸化膜を除去する活性剤を含んでいるので、金属部材の接合面に酸化膜が形成されたとしても、この酸化膜を除去することができ、金属部材と被接合体とを確実に接合することができる。また、酸化銀粒子と還元剤とを含有しているので、酸化銀粒子が還元されることによって生成する金属粒子が焼結することで導電性の焼成体からなる接合層が形成されることになり、高温環境下においても接合強度が低下せず、接合信頼性を向上させることが可能となる。さらに、酸化銀を還元した場合には、微細なAg粒子(還元Ag粒子)が生成することから、接合層を緻密な構造の焼成体によって構成することができる。
【0010】
また活性剤の含有量が0.5質量%以上とされているので、確実に金属部材表面の酸化膜を除去することができる。一方、活性剤の含有量が10質量%以下とされているので、焼成体からなる接合層の内部に活性剤成分が過度に残存することが防止される。
【0011】
さらに、酸化銀粒子の含有量が60質量%以上とされているので、焼成体からなる接合層を緻密な構造とすることができる。また、酸化銀粒子の含有量が90質量%以下とされているので、還元剤及び活性剤の含有量を確保でき、金属部材と被接合体とを確実に接合することができる。
また、前記還元剤の含有量が5質量%以上15質量%以下、とされているので、酸化銀粒子を還元して、微細な還元Ag粒子を生成することができる。
【0012】
前記活性剤が、ロジン、ロジン誘導体、多価カルボン酸、ハロゲン化物のうちの1種又は2種以上であることが好ましい。
この場合、金属部材の表面に形成される酸化膜を確実に除去することが可能となり、金属部材と被接合体との接合信頼性を確実に向上させることができる。特に、金属部材が銅又は銅合金で構成されていた場合であっても、銅酸化膜を確実に除去することが可能となる。
【0013】
本発明のパワーモジュールは、絶縁層の一方の面に金属からなる回路層が配設されたパワーモジュール用基板と、前記回路層上に搭載される半導体素子と、を備えたパワーモジュールであって、前記回路層と前記半導体素子とが、前述の接合材料を用いて接合されており、前記回路層と前記半導体素子と間に、酸化銀が還元されたAgの焼成体からなる接合層が形成されていることを特徴としている。
【0014】
この構成のパワーモジュールによれば、金属からなる回路層と半導体素子とが、前述の接合材料を用いて接合されているので、接合材料に含まれる活性剤によって、回路層の接合面に形成される酸化膜を除去することができ、回路層と半導体素子とを確実に接合することができる。また、酸化銀が還元されることで生成する微細なAg粒子(還元Ag粒子)を焼結させているので、接合層を緻密な構造の焼成体によって構成することができる。さらに、高温環境下においても接合強度が低下せず、接合信頼性を向上させることが可能となる。
【0015】
ここで、前記回路層が、銅又は銅合金で構成されていてもよい。
回路層を銅又は銅合金で構成した場合には、焼成時に回路層の表面に銅の酸化膜が形成されることになるが、活性剤によってこの酸化膜を確実に除去でき、回路層と半導体素子とを確実に接合することができる。
また、回路層を銅又は銅合金で構成した場合、回路層の熱伝導性が高いため、半導体素子から発生する熱を回路層で面方向に分散させることができ、放熱を促進することができる。
【0016】
また、前記回路層の一方の面に、Ni又はNi合金層が形成されていてもよい。
回路層がアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されている場合には、回路層の表面に安定なアルミニウムの酸化膜が形成されることになる。そこで、従来から、回路層の表面にNiめっき膜等のNi又はNi合金層を形成している。このようなNi又はNi合金層は、回路層が銅又は銅合金で構成されている場合でも形成されることがある。このように、回路層の一方の面にNi又はNi合金層を形成した場合であっても、前述の接合材料を用いることにより、Ni又はNi合金層の表面に形成された酸化膜を除去でき、回路層と半導体素子とを確実に接合することができる。
【0017】
本発明のパワーモジュールの製造方法は、絶縁層の一方の面に金属からなる回路層が配設されたパワーモジュール用基板と、前記回路層上に搭載される半導体素子と、を備えたパワーモジュールの製造方法であって、前記回路層と前記半導体素子との間に、前述の接合材料を配設する工程と、前記接合材料を介して前記半導体素子と前記パワーモジュール用基板とを積層する工程と、前記半導体素子と前記パワーモジュール用基板とを積層した状態で加熱して、前記回路層と前記半導体素子と間に、酸化銀が還元されたAgの焼成体からなる接合層を形成する工程と、を備えていることを特徴としている。
【0018】
この構成のパワーモジュールの製造方法によれば、金属からなる回路層と半導体素子とを酸化銀を還元して生成した微細なAg粒子(還元Ag粒子)の焼成体からなる接合層によって接合することができる。また、接合材料に含まれる活性剤によって、回路層の接合面に形成される酸化膜を除去でき、回路層と半導体素子との接合信頼性を大幅に向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、回路層等の金属部材と、半導体素子等の被接合材と、を確実に接合でき、高温環境下における接合信頼性を向上させることができる接合材料、及び、この接合材料を用いたパワーモジュール、パワーモジュールの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態であるパワーモジュールの概略説明図である。
図2】本発明の実施形態である接合材料の製造方法を示すフロー図である。
図3図1のパワーモジュールの製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。図1に本発明の実施形態であるパワーモジュールを示す。
このパワーモジュール1は、回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の一方の面(図1において上面)に接合された半導体素子3と、パワーモジュール用基板10の他方側に配設された冷却器40とを備えている。
【0022】
パワーモジュール用基板10は、図1に示すように、絶縁層を構成するセラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
【0023】
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAl(アルミナ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0024】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面に、銅板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12は、純度99.99質量%以上の無酸素銅(OFC)の圧延板を接合することで形成されている。なお、回路層12の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.3mmに設定されている。また、この回路層12には、回路パターンが形成されており、その一方の面(図1において上面)が、半導体素子3が接合される接合面とされている。
【0025】
金属層13は、セラミックス基板11の他方の面に、金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、この金属板(金属層13)は、純度が99質量%以上で、0.2%耐力が30N/mm以下のアルミニウム又はアルミニウム合金の圧延板とされており、より具体的には、純度が99.99質量%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板とされている。
【0026】
冷却器40は、前述のパワーモジュール用基板10を冷却するためのものであり、パワーモジュール用基板10と接合される天板部41と、この天板部41から下方に向けて垂設された放熱フィン42と、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路43とを備えている。この冷却器40(天板部41)は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
【0027】
そして、図1に示すパワーモジュール1においては、回路層12と半導体素子3との間には、銀の焼成体からなる接合層31が形成されている。
なお、接合層31は、図1に示すように、回路層12の表面全体には形成されておらず、半導体素子3が配設される部分にのみ選択的に形成されている。
【0028】
この接合層31は、本発明の実施形態である接合材料によって形成されるものである。
本実施形態である接合材料は、酸化銀粒子と、還元剤と、金属酸化膜を除去する活性剤と、溶剤と、樹脂と、を含有している。
具体的には、酸化銀粒子を60質量%以上90質量%以下、還元剤を5質量%以上15質量%以下、前記活性剤を0.5質量%以上10質量%以下、樹脂を0質量%以上2質量%以下の範囲で含有し、残部が溶剤とされている。
なお、本実施形態における接合材料は、その粘度が10Pa・s以上500Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s以上300Pa・s以下に調整されている。
【0029】
酸化銀粒子は、その粒径が0.1μm以上40μm以下とされたものを使用した。なお、このような酸化銀粉末は、市販品として入手可能なものである。
【0030】
還元剤は、還元性を有する有機物とされており、例えば、アルコール、有機酸を用いることができる。
アルコールであれば、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の1級アルコールを用いることができる。なお、これら以外にも、多数のアルコール基を有する化合物を用いてもよい。
有機酸であれば、例えば、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナンデカン酸などの飽和脂肪酸を用いることができる。なお、これら以外にも、不飽和脂肪酸を用いてもよい。
なお、接合材料を焼結して得られる接合層内部での空隙の発生を抑制するために、熱分解性に優れた分子構造を有する有機物を用いることが好ましい。
【0031】
なお、酸化銀粉末と混合した後に還元反応が容易に進行しない還元剤であれば、接合材料の保存安定性が向上することになる。そこで、還元剤としては、融点が室温以上のものが好ましく、具体的には、ミリスチルアルコール、1−ドデカノール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,10−デカンジオール、ミリスチン酸、デカン酸等を用いることが好ましい。
【0032】
溶剤は、接合材料の保存安定性、印刷性を確保する観点から、高沸点(150℃〜300℃)のものを用いることが好ましい。
具体的には、α-テルピネオール、酢酸2エチルヘキシル、酢酸3メチルブチル等を用いることができる。
【0033】
樹脂は、接合材料の取り扱い性(例えば印刷性)の向上を目的として添加されるものである。
例えば、アクリル樹脂、セルロース系樹脂、ブチラール樹脂等を適用することができる。なお、焼結時に樹脂が焼結温度以下で完全に酸化・分解して接合層内に残存しないようにするため、熱分解性の良いアクリル樹脂を用いることが好ましい。
【0034】
そして、本実施形態における活性剤は、回路層12の接合面に形成された酸化膜を除去する作用を有するものである。本実施形態では、回路層12が銅板で構成されていることから、銅の酸化物を除去するものであればよい。
活性剤としては、ロジン、ロジン誘導体、多価カルボン酸、ハロゲン化物のうちの1種又は2種以上を用いることができる。
ロジン及びロジン誘導体としては、トールロジン、ガムロジン、ウッドロジン、水素添加ロジン、重合ロジン、アビエチン酸等を用いることができる。
多価カルボン酸としては、コハク酸、クエン酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、酒石酸、グルタミン酸、フタル酸、マレイン酸等を用いることができる。
ハロゲン化物としては、エチルアミン塩酸塩、ジエチルアミン塩酸塩、ジメチルアミン塩酸塩、トリメチルアミン塩酸塩、ジエチルアミン臭化水素酸塩、n−プロピルアミン塩酸塩、ジ−n−プロピルアミン塩酸塩、トリ−n−プロピルアミン塩酸塩等を用いることができる。
【0035】
次に、本実施形態である接合材料の製造方法について、図2に示すフロー図を参照して説明する。
まず、前述した酸化銀粉末と還元剤(固体粉末)とを混合し、混合粉末を生成する(粉末混合工程S01)。
また、活性剤、溶剤及び樹脂を混合して、有機混合物を生成する(有機物混合工程S02)。
【0036】
粉末混合工程S01で得られた混合粉末と、有機物混合工程S02で得られた有機混合物と、を混合して撹拌する(撹拌工程S03)。そして、撹拌工程S03で得られた撹拌物を、例えば複数のロールを有するロールミル機を用いて練り込みながら混合する(混錬工程S04)。
このようにして、本実施形態である接合材料が製出されることになる。なお、得られた接合材料は、冷蔵庫等によって低温(例えば5〜15℃)で保存しておくことが好ましい。
【0037】
次に、本実施形態であるパワーモジュール1の製造方法について、図3に示すフロー図を参照して説明する。
まず、回路層12となる銅板と、セラミックス基板11とを接合する(回路層形成工程S11)。ここで、セラミックス基板11がAlで構成されていることから、銅板とセラミックス基板11とを、銅(Cu)と亜酸化銅(CuO)の共晶域での液相を利用したDBC法(Direct Bonding Copper)により接合する。具体的には、銅板とセラミックス基板11とを接触させ、酸素が微量添加された窒素ガス雰囲気中において例えば1075℃で10分加熱することで、銅板とセラミックス基板11とが接合されることになる。
【0038】
次に、セラミックス基板11の他方の面側に、金属層13となるアルミニウム板を接合する(金属層形成工程S12)。金属層13となるアルミニウム板を、セラミックス基板11の他方の面にろう材を介して積層し、加圧・加熱後冷却することによって、前記アルミニウム板とセラミックス基板11とを接合する。なお、このろう付けの温度は、640℃〜650℃に設定されている。
【0039】
次に、金属層13の他方の面側に、冷却器40をろう材を介して接合する(冷却器接合工程S13)。なお、冷却器40のろう付けの温度は、590℃〜610℃に設定されている。
【0040】
そして、回路層12の一方の面に、前述の接合材料を塗布する(接合材料塗布工程S14)。
なお、接合材料を塗布する際には、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、感光性プロセス等の種々の手段を採用することができる。本実施形態では、スクリーン印刷法によって接合材料を回路層12の一方の面の半導体素子3が搭載される部分に形成した。
【0041】
次に、接合材料を塗布した状態で乾燥(例えば、室温、大気雰囲気で24時間保管)した後、接合材料の上に半導体素子3を積層する(半導体素子積層工程S15)。
そして、半導体素子3とパワーモジュール用基板10とを積層した状態で加熱炉内に装入し、接合材料の焼成を行う(焼成工程S16)。このとき、荷重を0〜10MPaとし、焼成温度を150〜400℃とする。
また、望ましくは半導体素子3とパワーモジュール用基板10とを積層方向に加圧した状態で加熱することによって、より確実に接合することができる。
【0042】
このようにして、半導体素子3と回路層12との間に、銀の焼成体からなる接合層31が形成され、半導体素子3と回路層12とが接合される。これにより、本実施形態であるパワーモジュール1が製造される。
【0043】
以上のような構成とされた本実施形態である接合材料においては、回路層12の表面に形成される酸化膜(銅の酸化膜)を除去する活性剤を含んでいるので、回路層12の表面に酸化膜が形成されたとしても、この酸化膜を除去することができ、回路層12と半導体素子3とを確実に接合することが可能となる。
また、酸化銀粒子と還元剤とを含有しているので、酸化銀粒子が還元されることによって生成する金属Ag粒子が焼結することで導電性の焼成体からなる接合層31が形成されることになり、高温環境下においても接合強度が低下せず、接合信頼性を向上させることが可能となる。さらに、酸化銀を還元した場合には、微細なAg粒子(還元Ag粒子)が生成することから、接合層31を緻密な構造の焼成体によって構成することができる。
【0044】
また、本実施形態の接合材料においては、活性剤を0.5質量%以上10質量%以下の範囲内で含有しているので、確実に回路層12の接合面の酸化膜を除去することができるとともに、焼成体からなる接合層31の内部に活性剤成分が過度に残存することが防止される。よって、回路層12と半導体素子3とを確実に接合することが可能となる。
さらに、本実施形態の接合材料においては、酸化銀粒子の含有量が60質量%以上90質量%以下、還元剤を5質量%以上15質量%以下、の範囲で含有しているので、酸化銀粒子を確実に還元することができ、焼成体からなる接合層31を緻密な構造とすることが可能となる。
【0045】
本実施形態における活性剤は、銅板からなる回路層12の接合面に形成された酸化膜(銅の酸化膜)を除去する作用を有するものとされており、具体的には、ロジン、ロジン誘導体、多価カルボン酸、ハロゲン化物のうちの1種又は2種以上とされているので、回路層12の表面に形成される酸化膜を確実に除去することが可能となる。
【0046】
本実施形態であるパワーモジュールにおいては、回路層12と半導体素子3とが、本実施形態である接合材料を用いて接合されているので、接合材料に含まれる活性剤によって、回路層12の接合面に形成される酸化膜を除去することができ、回路層12と半導体素子3とを確実に接合することができる。また、酸化銀が還元されることで生成する微細なAg粒子(還元Ag粒子)を焼結させているので、接合層31を緻密な構造の焼成体によって構成することができる。さらに、高温環境下においても接合強度が低下せず、接合信頼性を向上させることが可能となる。
【0047】
また、本実施形態であるパワーモジュールの製造方法によれば、銅板からなる回路層12と半導体素子3とを酸化銀を還元して生成した微細なAg粒子(還元Ag粒子)の焼成体からなる接合層31によって接合することができる。また、接合材料に含まれる活性剤によって、回路層12の接合面に形成される酸化膜を除去でき、回路層12と半導体素子3との接合信頼性を大幅に向上させることができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、回路層を銅板で構成し、金属層をアルミニウム板で構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、回路層及び金属層が銅板で構成されていてもよい。
あるいは、回路層及び金属層がアルミニウム板で構成されていてもよい。この場合、回路層の一方の面にNi又はNi合金からなるNi層を形成することが好ましい。
【0049】
また、銅板とセラミックス基板とを、銅(Cu)と亜酸化銅(CuO)の共晶域での液相を利用したDBC法により接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、Ag−Cu−Ti系ろう材を用いた活性金属法や鋳造法等によって接合するものであってもよい。
さらに、アルミニウム板とセラミックス基板とをろう付けにて接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、過渡液相接合法(Transient Liquid Phase Bonding)、鋳造法等によって接合するものであってもよい。
【0050】
また、接合材料の原料、配合量については、実施形態に記載されたものに限定されることはない。
さらに、絶縁層としてAlからなるセラミックス基板を用いたものとして説明したが、これに限定されることはなく、SiやAlN等からなるセラミックス基板を用いてもよいし、絶縁樹脂によって絶縁層を構成してもよい。
【0051】
また、冷却器の天板部と金属層との間に、アルミニウム又はアルミニウム合金若しくはアルミニウムを含む複合材(例えばAlSiC等)からなる緩衝層を設けてもよい。
さらに、冷却器の天板部をアルミニウムで構成したものとして説明したが、アルミニウム合金、又はアルミニウムを含む複合材等で構成されていてもよいし、その他の材料で構成されていてもよい。さらに、冷却器として、放熱フィン及び冷却媒体の流路を有するもので説明したが、冷却器の構造に特に限定はない。
【実施例】
【0052】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
本実施形態に記載された方法によって接合材料を製造した。このとき、表1に示すように、組成を変更した。
【0053】
そして、この接合材料を用いて、パワーモジュール用基板の回路層の上に半導体素子を接合した。
ここで、パワーモジュール用基板としては、DBCA基板とDBA基板の2種類を準備した。
【0054】
DBCA基板は、セラミックス基板の一方の面に回路層となる銅板を接合し、セラミックス基板の他方の面に金属層となるアルミニウム板を接合した。ここで、セラミックス基板は、AlNとし、サイズは27mm×17mm×0.6mmとした。回路層となる銅板は、純度99.99質量%以上の無酸素銅(OFC)とし、サイズは25mm×15mm×0.3mmとした。金属層となるアルミニウム板は、純度99.99%以上の4Nアルミニウムとし、サイズは25mm×15mm×0.6mmとした。
【0055】
DBA基板は、セラミックス基板の一方の面に回路層となるアルミニウム板を接合し、セラミックス基板の他方の面に金属層となるアルミニウム板を接合した。ここで、セラミックス基板は、AlNとし、サイズは27mm×17mm×0.6mmとした。回路層となるアルミニウム板は、純度99.99%以上の4Nアルミニウムとし、サイズは25mm×15mm×0.6mmとした。金属層となるアルミニウム板は、純度99.99%以上の4Nアルミニウムとし、サイズは25mm×15mm×0.6mmとした。なお、回路層の表面に、厚さ5μmのNiめっき膜を形成した。
【0056】
半導体素子は、IGBT素子とし、サイズは、13mm×10mm×0.25mmのものを使用した。
半導体素子の接合条件は、加熱温度300℃、加熱時間2時間、加圧圧力3MPaとした。また、雰囲気は、表1に示すように、大気雰囲気又は窒素雰囲気とした。
【0057】
なお、従来例として、上述のDBA基板の回路層の表面に、厚さ5μmのNiめっき膜を形成し、はんだ材(Sn−Ag−Cu系無鉛はんだ)を介して半導体素子を載置し、還元炉内ではんだ接合した。
【0058】
得られた各種パワーモジュールについて、初期接合率、パワーサイクル負荷前後の熱抵抗の上昇率を評価した。
接合率は、超音波探傷装置を用いて評価し、以下の式から算出した。ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積、すなわち半導体素子面積とした。超音波探傷像において剥離は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。
接合率 = (初期接合面積−剥離面積)/初期接合面積
【0059】
熱抵抗は、次のようにして測定した。ヒータチップを100Wの電力で加熱し、熱電対を用いてヒータチップの温度を実測した。また、ヒートシンクを流通する冷却媒体(エチレングリコール:水=9:1)の温度を実測した。そして、ヒータチップの温度と冷却媒体の温度差を電力で割った値を熱抵抗とした。
【0060】
パワーサイクル試験は、ヒータチップに、15V、150Aの通電条件で、通電時間2秒、冷却時間8秒を繰り返し実施し、IGBT素子の温度を30℃から130℃の範囲で変化させた。このパワーサイクルを20万回実施した後、それぞれの熱抵抗の上昇率を測定した。
評価結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
はんだ材を用いた従来例においては、初期接合率は高いものの、パワーサイクル試験後に熱抵抗が大きく上昇している。高温環境下においては、接合信頼性が低下することが確認される。
一方、活性剤を添加していない比較例1−3においては、初期接合率が低い。これは、回路層表面に酸化膜を除去できないため、半導体素子と回路層とのが十分に接合できなかったためと推測される。
【0063】
これに対して、適量の活性剤を含有する本発明の実施例1−6においては、初期接合率が高く、かつ、パワーサイクル試験後の熱抵抗の上昇も抑えられている。よって、高温環境下においても接合信頼性が維持されることが確認された。
【符号の説明】
【0064】
1 パワーモジュール
3 半導体素子(被接合体)
10 パワーモジュール用基板
11 セラミックス基板(絶縁層)
12 回路層(金属部材)
31 接合層
図1
図2
図3