(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基底断面形状の少なくとも1つについて前記変形形状を調整させるとき、前記基底断面形状の一部の領域を調整の対象とする、請求項1に記載のタイヤ断面形状決定方法。
前記基底断面形状の少なくとも1つについて行う前記変形形状の調整は、前記基底断面形状の位置を示す位置情報に、設定された倍率を乗算することにより行う、請求項1または2に記載のタイヤ断面形状決定方法。
前記タイヤ寸法の規格は、タイヤトレッド部の最大外径、あるいは、タイヤサイド部の最大幅の許容される範囲である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のタイヤ断面形状決定方法。
前記タイヤが前記タイヤ寸法の規格を満足するか否かの判定は、複数の試行断面形状のそれぞれを有するタイヤモデルを作成し、作成した前記タイヤモデルに、内圧充填を再現した内圧充填処理を施した処理結果に基づいて行われる、請求項1〜4のいずれか1項に記載のタイヤ断面形状決定方法。
請求項1〜5のいずれか1項に記載のタイヤ断面形状決定方法によって決定されたタイヤ断面形状の外周面の形状に基いてタイヤ加硫用金型の内面形状を決定し前記タイヤ加硫用金型を作製する工程と、
作製した前記タイヤ加硫用金型を用いて未加流タイヤの加硫を行うことにより、タイヤを製造する工程と、を有することを特徴とするタイヤの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の公知の最適形状設計方法をタイヤ断面形状に適用する場合、当該方法は、目標とするタイヤ性能を最適化するために、多様なタイヤの基底断面形状を用いることが好ましく、そのためには、タイヤ断面形状の高次の固有振動モードの変形形状を複数用いなければならない。すなわち、目標とするタイヤ性能を達成するために、タイヤ断面形状を最適化する際、基底断面形状として、タイヤ断面形状の高次の固有振動モードの変形形状を複数用いる。さらに、当該方法は、この複数の基底断面形状に対して重み強度を用いた重み付け加算を行ってタイヤの試行断面形状(サンプル製品形状)を作成する。しかし、この試行断面形状には、タイヤ断面形状に制限が課せられないので、目標とするタイヤ性能を満足する最適なタイヤ断面形状を決定することができたとしても、タイヤ断面形状から作製される実際のタイヤが、JATMA、TRA、ETRTO等で規定されるタイヤ寸法の規格を満たさない場合がある。この場合、タイヤ寸法の規格を満足するように、最適なタイヤ断面形状は修正されて実際のタイヤの作製に反映されるため、実際のタイヤのタイヤ断面形状は最適なタイヤ断面形状と異なることになる。このため、実際のタイヤでは、目標どおりのタイヤ性能を発揮しない場合がある。
このように、上述の最適形状設計方法では、目標通りのタイヤ性能を有するようにタイヤ断面形状を定めてタイヤ寸法の規格に適合したタイヤを作製することが難しい場合がある。
【0007】
そこで、本発明は、目標通りのタイヤ性能を有し、タイヤ寸法の規格に適合したタイヤを容易に作製することができる、最適なタイヤ断面形状を決定するタイヤ断面形状決定方法及びタイヤ断面形状決定装置と、決定したタイヤ断面形状からタイヤを製造するタイヤ製造方法と、タイヤ断面形状を効率よく最適化することができるタイヤ断面形状決定方法をコンピュータに実行させるプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの態様は、タイヤ断面形状を、コンピュータを用いて決定するタイヤ断面形状決定方法である。当該方法は、
コンピュータが、基準とする参照タイヤ断面形状を有するタイヤの複数の固有振動モードのうちタイヤ断面形状が変形する複数の固有振動モードの、タイヤ断面における変形形状を複数の基底断面形状として設定する工程と、
前記コンピュータが、前記複数の基底断面形状の変形部分を、予め定められた範囲内の重み強度の値を用いて重み付け加算をすることにより、複数の試行断面形状を作成する工程と、
前記コンピュータが、複数の試行断面形状のそれぞれから作製されるタイヤがタイヤ寸法の規格を満足するか否かを判定する工程と、
前記タイヤが前記タイヤ寸法の規格を満足しないと判定したとき、前記コンピュータが、前記判定で前記タイヤが前記タイヤ寸法の規格を満足するように、前記基底断面形状の少なくとも1つについて前記変形形状を調整することにより、前記変形形状が調整した基底断面形状を含む複数の基底断面形状を用いて前記重み付け加算を行うことにより調整済試行断面形状の作成を行う工程と、
前記調整済試行断面形状を用いて、前記コンピュータが、前記調整済試行断面形状を有する試行タイヤモデルを作成し、この作成した前記試行タイヤモデルを用いてタイヤ性能のシミュレーションを行うことにより、前記調整済試行断面形状の性能評価を行う工程と、
前記タイヤ性能の評価の結果が予め設定された条件を満足する調整済試行断面形状を、前記重み付け加算に用いる前記重み強度の値を変化させながら前記コンピュータが探索して、前記タイヤ性能の評価に適合したタイヤ断面形状を決定する工程と、を有する。
【0009】
本発明の他の一態様は、前記タイヤ断面形状決定方法によって決定されたタイヤ断面形状の外周面の形状に基いてタイヤ加硫用金型の内面形状を決定し前記タイヤ加硫用金型を作製する工程と、
作製した前記タイヤ加硫用金型を用いて未加流タイヤの加硫を行うことにより、タイヤを製造する工程と、を有することを特徴とするタイヤの製造方法である。
【0010】
本発明の他の一態様は、タイヤ断面形状を決定するタイヤ断面形状決定方法を、コンピュータに実行させる、コンピュータが読み取り可能なプログラムである。
当該プログラムは、
コンピュータの演算部に、基準とする参照タイヤ断面形状を有するタイヤの複数の固有振動モードのうちタイヤ断面形状が変形する複数の固有振動モードの、タイヤ断面における変形形状を基底断面形状として設定させる手順と、
前記コンピュータの前記演算部に、前記基底断面形状の変形部分を、予め定められた範囲内の重み強度の値を用いて重み付け加算をさせることにより、複数の試行断面形状を作成させる手順と、
前記コンピュータの前記演算部に、複数の試行断面形状のそれぞれから作製されるタイヤがタイヤ寸法の規格を満足するか否かを判定させる手順と、
前記タイヤが前記タイヤ寸法の規格を満足しないと判定したとき、前記コンピュータの前記演算部に、前記判定で前記タイヤが前記タイヤ寸法の規格を満足するように、前記基底断面形状の少なくとも1つについて前記変形形状を調整させることにより、前記変形形状が調整した基底断面形状を含む複数の基底断面形状を用いて前記重み付け加算させることにより、調整済試行断面形状の作成を行わせる手順と、
前記調整済試行断面形状を用いて、前記コンピュータの前記演算部に、前記調整済試行断面形状を有する試行タイヤモデルを作成させ、作成した前記試行タイヤモデルを用いてタイヤ性能のシミュレーションを行わせることにより、前記調整済試行断面形状の性能評価を行わせる手順と、
前記タイヤ性能の評価の結果が予め設定された条件を満足する調整済試行断面形状を、前記重み付け加算に用いる前記重み強度の値を変化させながら前記コンピュータの前記演算部に探索させて、前記タイヤ性能の評価に適合したタイヤ断面形状を決定させる手順と、を有する。
【0011】
さらに、本発明の他の一態様は、タイヤ断面形状を決定するタイヤ断面形状決定装置である。当該装置は、
基準とする参照タイヤ断面形状を有するタイヤの複数の固有振動モードのうちタイヤ断面形状が変形する複数の固有振動モードの、タイヤ断面における変形形状を基底断面形状として設定する設定部と、
前記基底断面形状の変形部分を、予め定められた範囲内の重み強度の値を用いて重み付け加算をすることにより、複数の試行断面形状を作成する試行断面形状作成部と、
複数の試行断面形状のそれぞれから作製されるタイヤがタイヤ寸法の規格を満足するか否かを判定する判定部と、
前記タイヤが前記タイヤ寸法の規格を満足しないと前記判定部が判定したとき、前記判定で前記タイヤが前記タイヤ寸法の規格を満足するように、前記基底断面形状の少なくとも1つについて前記変形形状を調整し、前記試行断面形状作成部に、前記変形形状が調整した基底断面形状を含む複数の基底断面形状を用いて前記重み付け加算を行わせることにより調整済試行断面形状の作成を行わせる調整部と、
前記調整済試行断面形状を用いて、前記調整済試行断面形状を有する試行タイヤモデルを作成し、この作成した前記試行タイヤモデルを用いてタイヤ性能のシミュレーションを行うことにより、前記調整済試行断面形状の性能評価を行う評価部と、
前記タイヤ性能の評価の結果が予め設定された条件を満足する調整済試行断面形状を前記重み付け加算に用いる前記重み強度の値を変化させながら探索して、前記タイヤ性能の評価に適合したタイヤ断面形状を決定する決定部と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
上述の態様のタイヤ断面形状決定方法、タイヤ製造方法、タイヤ断面形状決定装置、及びプログラムによれば、目標通りのタイヤ性能を有し、タイヤ寸法の規格に適合したタイヤを容易に作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態のタイヤ断面形状決定方法、タイヤ製造方法、タイヤ断面形状決定装置、及びプログラムを説明する。
【0015】
(タイヤ断面形状決定装置)
図1は、本実施形態のタイヤ断面形状決定方法を行い、最適なタイヤ断面形状を決定するタイヤ断面形状決定装置(以降、装置という)10のブロック図である。装置10は、基準とする参照タイヤ断面形状を有する参照タイヤモデルを用いて、設定された条件の下にタイヤ性能の評価値を目標値にすることができる最適なタイヤ断面形状を決定することができる。装置10は、コンピュータで構成される装置本体12と、装置本体12に接続された入力操作デバイス32(マウス、キーボード)および出力装置34(プリンタ、ディスプレイ)を含む。装置本体12は、CPU14、ROM、RAM等のメモリ16、入出力部18と、を含む。入出力部18は、入力操作デバイス32および出力装置34と接続されている。装置10は、メモリ16に記憶されたプログラムを起動することによって、タイヤ断面形状を決定するための処理モジュール19を形成する。
【0016】
最適なタイヤ断面形状とは、設定されたタイヤ性能における評価値が、設計変数(後述する重み強度)の設定された範囲において、最大値あるいは最小値となり、また入力された値と一致あるいは許容範囲内で一致するタイヤ断面形状をいう。
本実施形態では、最適なタイヤ断面形状を探索するために、参照タイヤモデルにおける複数の固有振動モードのタイヤ断面内の変形形状を複数の基底断面形状として定め、この複数の基底断面形状の変形部分を、重み強度を用いて重み付け加算することにより、試行断面形状を作成する。試行断面形状は、重み強度を予め設定された範囲で変更することにより、複数作成される。このとき、装置10は、複数の試行断面形状のそれぞれから作製されるタイヤがタイヤ寸法の規格を満足するか否かを判定する。タイヤがタイヤ寸法の規格を満足しないと判定したとき、装置10は、上記判定においてタイヤがタイヤ寸法の規格を満足するように、基底断面形状の少なくとも1つについてその変形形状を調整する。これにより、装置10は、変形形状が調整された基底断面形状を含む複数の基底断面形状を用いて調整済試行断面形状を作成する。したがって、調整済試行断面形状に基いて決定される最適なタイヤ断面形状から作製されるタイヤは常にタイヤ寸法の規格を満足する。装置10において決定される最適なタイヤ断面形状から作製されるタイヤは、従来のように、タイヤ寸法の規格に適合するように最適なタイヤ断面形状を修正することはないので、本実施形態の方法で決定された最適なタイヤ断面形状を有するタイヤは、目標通りのタイヤ性能を発揮することができる。以下、装置10について詳細に説明する。
【0017】
装置10は、メモリ16に記憶されたプログラムを起動することによって、第1モデル作成部20、設定部22、試行断面形状作成部24、判定部25、調整部26、第2モデル作成部27、評価部28、及び決定部30を処理モジュール19として形成する。
ここで、評価部28で行われるタイヤ性能の評価は、公知の有限要素法(FEM)等の構造解析手法によって行なわれる。したがって、第1モデル作成部20及び第2モデル作成部27で作成される参照タイヤモデル、試行タイヤモデル等のタイヤモデルは、FEMモデル等の構造解析モデルである。以降では、タイヤモデルはFEMモデルを例として説明し、評価部28で行う計算は、有限要素法に基くシミュレーション計算である。しかし、タイヤモデルは、FEMモデル以外の公知のモデルであってもよい。
【0018】
ここで、タイヤ断面形状は、タイヤ加硫用金型によって規定されるインモールドタイヤ断面形状、あるいは、タイヤデフレート時のタイヤ断面形状である。タイヤデフレート時のタイヤ断面形状は、JATMA、ETRTO,TRA等で規定されるリムサイズのリムに組まれたときのタイヤ断面形状である。タイヤデフレート時のタイヤ断面形状は、インモールドタイヤ断面形状と略一致する形状である。あるいは、タイヤデフレート時のタイヤ断面形状は、インモールドタイヤ断面形状との間で、ある一定の操作をして互いに変換することができる形状である。すなわち、装置10によって取得される最適なタイヤ断面形状は、タイヤ加硫用金型によって規定されるインモールドタイヤ断面形状、または、タイヤデフレート時のタイヤ断面形状であるので、取得したタイヤ断面形状からインモールドタイヤ断面形状を取得することができ、これに基いてタイヤ加硫用金型を容易に作製することができる。したがって、作製したタイヤ加硫用金型を用いて未加流タイヤの加硫を行うことにより、最適なタイヤ断面形状を有するタイヤを効率よく製造することができる。
【0019】
第1モデル作成部20は、基準とする参照タイヤ断面形状を有する参照タイヤモデルを作成する。
図2は、参照タイヤモデルの参照タイヤ断面形状の一例を示す図である。
具体的には、第1モデル作成部20は、基準とする参照タイヤ断面形状の情報が入力操作デバイス32により入力されて、参照タイヤ断面形状の情報を取得する。あるいは第1モデル作成部20は、メモリ16あるいは図示されない記録装置から呼び出されて基準とする参照タイヤ断面形状の情報を取得する。さらに、第1モデル作成部20は、FEMモデルである参照タイヤモデルの節点及び要素に関する情報と、参照タイヤモデルの材料定数に関する情報を作成し統合する。これにより、参照タイヤモデルが作成される。ここで、参照タイヤ断面形状の情報は、タイヤのベルト部材、カーカス部材、トレッド部材、サイド部材、スティフナー部材やビード部材等のタイヤ構成部材の配置位置を定める位置座標と、各タイヤ構成部材に対応した密度、ヤング率、せん断剛性、ポアソン比等の材料定数の値を含む。
【0020】
設定部22は、第1モデル作成部20で作成された参照タイヤモデルの複数の固有振動モードの、タイヤ断面内の変形形状を基底断面形状として設定する。
図3(a),(b)は、2つの基底断面形状の例を示す図である。
具体的には、設定部22は、固有値解析を行うための参照タイヤモデルの剛性マトリクスおよび質量マトリクスを作成する。設定部22は、剛性マトリクスおよび質量マトリクスを用いて参照タイヤモデルの固有値解析を行って、タイヤ断面形状における1次、2次、3次、・・・等の複数の固有振動モードの、タイヤ断面内の変形形状を求める。設定部22が固有値解析をおこなうとき、必ずしも剛性マトリクスの剛性を実際のタイヤの剛性に合わせる必要はなく、設定部22は、ベルト部材等のゴム部材に比べて剛性が高い部分は、剛性を低下させて固有値解析を行ってもよい。
【0021】
設定部22は、求めた複数のタイヤ断面形状の変形形状を基底断面形状として設定する。基底断面形状は、固有値解析を行った参照タイヤモデルの固有振動モードにしたがって変形したタイヤ断面形状であるので、複数設定した基底断面形状のそれぞれは、共通した節点及び要素を持っており、共通した節点における位置座標が基底断面形状毎に異なっている。また、設定される基底断面形状の変形の大きさは正規化されている。正規化は、例えば変形の最大となる変位が例えば1mmとなるように設定されることをいう。
複数の固有振動モードの、タイヤ断面内の変形形状のうち、どの変形形状を基底断面形状として設定するかについては、例えば、出力装置34に画面表示された変形形状を、オペレータが確認しながら、入力操作デバイス16による入力指示による取捨選択によって行われる。
さらに、設定部22は、オペレータのマニュアル入力により、最適化するタイヤ性能の種類やシミュレーション方法や後述する重み付け加算に用いる重み強度の値の範囲を設定する。
設定部22は、設定した複数の情報をメモリ16に記憶させる。
【0022】
本実施形態におけるタイヤの基底断面形状では、固有振動モードの変形形状であればいずれであってもよいが、好ましくは、1〜20次の固有振動モードで、タイヤのトレッドセンターラインを含み、タイヤ中心を通る中心面(タイヤ赤道面ともいう)を対称面としたとき対称(線対称)な固有振動モードの変形形状、好ましくは、1次以上5次以下の固有振動モードの変形形状が好適に用いられる。
【0023】
試行断面形状作成部24は、複数の基底断面形状の情報をメモリ16から呼び出して、この複数の基底断面形状の変形部分を重み付け加算することにより、1つの試行断面形状を作成する。複数の基底断面形状には、後述する調整部25で変形形状が調整された基底断面形状も含まれる。後述するように、タイヤ寸法の規格を満足するように調整された基底断面形状を用いて作成される試行断面形状は、調整されていない基底断面形状を用いて作成される試行断面形状と区別して説明するとき、調整済試行断面形状ともいう。ここで変形部分とは、基底断面形状の節点の位置座標と、参照タイヤ断面形状の対応する節点の位置座標との差分(変位)をいう。重み付け加算とは、各基底断面形状の変形部分について重み強度の値を用いて重み付け加算することをいう。ここで、重み付け加算には、重み付け加算した基底断面形状の加算結果を、用いた重み強度の値の合計で除算して得られる重み付け平均も含まれる。なお、試行断面形状を作成する際、基底断面形状のそれぞれに対して重み強度の値が与えられる。この重み強度の値は、設定部22で定められた範囲の中で逐次変更され、値が変更される度に試行断面形状が作成される。こうして、試行断面形状作成部24は、設定された範囲内全体を重み強度の値がカバーするように重み強度の値を変更して試行断面形状を作成する。本実施形態では、上記重み強度の値が一定の大きさずつ大きくあるいは小さくなるように変更されるが、この他に、上記重み強度の値がランダムに変更されてもよい。
また、試行断面形状作成部24は、決定部30から指示された重み強度の値を用いて試行断面形状を作成することもできる。
試行断面形状作成部24は、作成された複数の試行断面形状の情報をメモリ16に記憶させる。
【0024】
判定部25は、試行断面形状作成部24で作成した複数の試行断面形状のそれぞれから作製されるタイヤがタイヤ寸法の規格を満足するか否かを判定する。
具体的には、試行断面形状は、タイヤ加硫用金型によって規定されるインモールドタイヤ断面形状、または、タイヤデフレート時のタイヤ断面形状として扱われる。このため、試行断面形状からタイヤ加硫用金型を作製し、この試行断面形状を有する実際のタイヤを作製することができるが、本実施形態では、タイヤを再現する有限要素モデルを用いてタイヤの寸法の予測を行う。すなわち、判定部25は、タイヤを再現するタイヤの有限要素モデルがタイヤ寸法の規格を満足するか否かを判定する。タイヤ寸法の規格は、JATMA、ETRTO,TRA等で規定されており、これらのタイヤ寸法の規格について、JATMA、ETRTO,TRA等は、JATMA、ETRTO,TRA等で規定されたリムサイズのリムにリム組みされ、かつ規定された内圧が充填されたときのタイヤの寸法(タイヤトレッド部の最大外径、タイヤサイド部の最大幅)のとり得る許容範囲を規定している。したがって、判定部25は、作成した試行断面形状のそれぞれについて、試行断面形状をタイヤ断面形状とする有限要素モデルからなる試行タイヤモデルを作成し、この試行タイヤモデルに対してリム組み及び内圧充填を再現したリム組み処理及び内圧充填処理を施す。判定部25は、この処理の施された試行タイヤモデルの寸法がタイヤ寸法の規格を満足するか否かを判定する。このように、試行タイヤモデルに内圧充填処理を施すのは、内圧充填によりタイヤが膨張することを再現するためである。
【0025】
判定部25は、試行断面形状の寸法とリム組み処理及び内圧充填処理の施された試行タイヤモデルの寸法との間に一定の関係を見出し、試行断面形状の寸法から試行タイヤモデルの寸法を一義的に算出できる関係式を予め求めることもできる。この場合、判定部25は、上記関係式に従って、試行タイヤモデルの寸法を予測算出することができる。したがって、判定部25は、実際のタイヤを作製することなく、さらに試行タイヤモデルを作成することなく、試行タイヤモデルの寸法を上記関係式を用いて予測算出することにより、試行断面形状から作製されるタイヤがタイヤ寸法の規格を満足するか否かを判定してもよい。
【0026】
図4(a),(b)は、試行断面形状がタイヤ寸法の規格の範囲からはずれた状態を説明する図である。
図4(a)は、タイヤトレッド部の最大外径が、参照タイヤ断面形状に比べて大きくなって規格で規定されているタイヤ最大外径の範囲を超えた場合を示す。一方、
図4(b)は、タイヤサイド部の最大幅が、参照タイヤ断面形状に比べて大きくなって規格で規定されているタイヤ最大幅の範囲を超えた場合を示す。勿論、タイヤトレッド部の最大外径が、規格で規定されているタイヤ最大外径の範囲の下限を下回る、あるいは、タイヤサイド部の最大幅が、規格で規定されているタイヤ最大幅の範囲の下限を下回る場合もある。
【0027】
調整部26は、判定部25の判定においてタイヤがタイヤ寸法の規格を満足しないと判定したとき、タイヤがタイヤ寸法の規格を満足するように、試行断面形状の作成時に用いた基底断面形状のすべてについてその基底断面形状の変形形状を調整する。調整部26は、変形形状が調整された基底断面形状の情報をメモリ16に記憶させる。これにより、調整部26は、変形形状が調整された基底断面形状を含む複数の基底断面形状を用いて、試行断面形状の作成を試行断面形状作成部24に行わせる。
【0028】
具体的には、調整部26は、試行断面形状から作製されるタイヤにおいて、上述のタイヤ寸法の規格の範囲からはずれた部分を識別し、この部分に応じて変形形状を調整するための倍率を、基底断面形状の節点の位置座標(タイヤ赤道面とタイヤ回転軸との交点を原点とする)の値に乗算することで、変形形状が調整された基底断面形状を作成する。なお、タイヤ寸法の規格うち、例えばタイヤトレッド部の最大外径がタイヤ寸法の規格の範囲からはずれた場合、基底断面形状の節点の位置座標のうち、タイヤ径方向の位置座標についてのみ変形形状を調整するための倍率を乗算することが好ましい。また、例えばタイヤサイド部の最大外径がタイヤ法の規格の範囲からはずれた場合、基底断面形状の節点の位置座標のうち、タイヤ幅方向の位置座標についてのみ変形形状を調整するための倍率を乗算することが好ましい。また、基底断面形状の寸法が、タイヤ寸法の規格の範囲から大きくはずれる程、上記倍率を小さくすることが好ましい。このように、基底断面形状の位置座標の値に倍率を乗算するので、調整後の基底断面形状は上記倍率を縮尺倍率として一様に小さく、あるいは大きくなる。しかし、試行断面形状を作成するときに行う重み付けは、上述したように、基底断面形状の変形部分に対して行うので、作成される試行断面形状の大きさに大きな影響を与えない。なお、調整部26は、基底断面形状の変形部分を調整することにより、基底断面形状の変形形状を調整させてもよい。
【0029】
調整部26は、基底断面形状を調整するための倍率について、タイヤがタイヤ寸法の規格を満足するような値を1回で見出すことができない場合、倍率を一定の大きさずつ変更して、タイヤがタイヤ寸法の規格を満足するような倍率を見出す。すなわち、調整部26は、倍率を変更しながら、タイヤがタイヤ寸法の規格を満足するような倍率の値を見出す。
【0030】
なお、調整部26は、試行断面形状に用いる基底断面形状のすべてに対して基底断面形状の変形形状を調整するが、試行断面形状に用いる基底断面形状のうち少なくとも1つについて基底断面形状の変形形状を調整してもよい。この場合、タイヤがタイヤ寸法の規格の範囲を超える部分について寄与の高い基底断面形状を上記調整の対象として優先的に用いる。例えば、タイヤトレッド部の最大外径がタイヤ寸法の規格の範囲を超える場合、タイヤトレッド部の最大外径が大きい、あるいは最も大きい基底断面形状を上記調整の対象として優先的に用いる。
【0031】
また、調整部26は、基底断面形状の少なくとも1つについて基底断面形状の変形形状を調整さするとき、基底断面形状の一部の領域を調整の対象としてもよい。
図5は、タイヤサイド部の最大幅を調整する場合の例を示す図である。
図5では、タイヤサイド部を変形形状の調整の対象とする領域R
Aとし、これ以外の領域を、調整の対象としない領域R
Bとして設定する。タイヤトレッド部やビード部を調整の対象としないのは、タイヤサイド部の最大幅を調整するのに、タイヤトレッド部やビード部は最大幅に全く寄与しないからである。タイヤトレッド部やビード部に倍率を用いて調整をすると、本来調整をする必要のないタイヤトレッド部やビード部が倍率の影響で小さくなるので、調整済試行断面形状を作成するための基底断面形状として好ましくない。このため、調整部26は、調整を必要とする領域のみを、倍率を用いて変形形状の調整をする対象とする。
図5に示すような領域R
Aを調整する際、領域R
Bとの接続部分に段差が生じないように、位置座標の値に乗算する倍率を接続部分で滑らかに変化させてもよい。このような領域R
Aは、オペレータが画面表示された基底断面形状及び試行断面形状を見ながら、マニュアル入力により設定される。調整部26は、調整された基底断面形状をメモリ16に記憶させる。メモリ16に記憶された調整した基底断面形状は、調整部26の指示により、試行断面形状作成部24において再度試行断面形状を作製するために用いられる。
【0032】
こうして、調整部26の指示を受けた試行断面形状作成部24は、変形形状が調製された基底断面形状を含む複数の基底断面形状を用いて複数の試行断面形状の作成を行う。これにより、判定部25において、判定が肯定されるまで、試行断面形状24の試行断面形状の作成、判定部25の判定、及び調整部26の基底断面形状の調整が繰り返し行われる。こうして、基底断面形状を用いて作成される全ての試行断面形状が、予め設定した設計変数(重み強度)の値の組合せから得られる全ての形状、すなわち全設計空間内において、この試行断面形状のそれぞれから作製されるタイヤがタイヤ寸法の規格を満足するような形状となる。
【0033】
第2モデル作成部26は、判定部25の判定で肯定されてメモリ16に記憶された基底断面形状の情報を用いて作成された調整済試行断面形状をタイヤ断面形状として持つ試行タイヤモデルを作成する。試行タイヤモデルは、節点及び要素によって構成される有限要素モデルであり、材料定数が付与される。節点、要素及び材料定数の情報は、予めメモリ16に記憶されたものが呼び出されて用いられてもよいし、入力操作デバイス32から入力されたものが用いられてもよい。試行タイヤモデルは、節点、要素及び材料定数の情報のうち、節点の位置座標のみが、第1モデル作成部20において作成される参照タイヤモデルの節点の位置情報と異なり、これ以外の情報は同じであるモデルを用いることができる。第2モデル作成部26は、作成された試行タイヤモデルの情報をメモリ16に記憶させる。
【0034】
評価部28は、メモリ16に記憶された試行タイヤモデルの情報を呼び出して、この試行タイヤモデルを用いてタイヤ性能のシミュレーションを行うことにより、調整済試行断面形状の性能評価を行う。
評価部28は、入力操作デバイス32等により予め設定されたタイヤ性能の評価値、例えば固有振動数、縦ばね定数、横ばね定数、前後ばね定数、転がり抵抗、ベルト間における層間剪断歪み、摩耗予測値、あるいは、スティフナー部材の所定位置における応力分布や応力歪みの値、さらには、タイヤが地面に接地したときの接地圧力の値等を数値計算によって算出する。これらの具体的な計算は、周知の方法であるので説明は省略される。
【0035】
決定部30は、試行断面形状作成部24において行う重み付け加算に用いる重み強度の値を変更して評価部28でタイヤ性能の評価を行わせることにより、このタイヤ性能の評価の結果が予め設定された条件を満足する調整済試行断面形状を探索して、このタイヤ性能の評価に適合したタイヤ断面形状を決定する。
より具体的には、決定部30は、試行断面形状作成部24が、決定部30から与えられた重み強度の値を用いて調整済試行断面形状を作成し、さらに、第2モデル作成部27がこの調整済試行断面形状から試行タイヤモデルを作成するように、試行断面形状作成部24及び第2モデル作成部27に指示をする。
決定部30は、公知の実験計画法、例えば直交表L81に従って重み強度の値について水準を振り、この値を割り付けることで、試行断面形状作成部24に調整済試行断面形状を作成させる。あるいは、決定部30は、重み強度の値を設定された範囲内で一定の大きさずつ変更して試行断面形状作成部24に調整済試行断面形状を作成させる。
【0036】
決定部30が、重み強度の値を設定された範囲内で一定の大きさずつ変更して試行断面形状作成部24に調整済試行断面形状を作成させる場合、決定部30は、作成した調整済試行断面形状毎に評価部28で得られたタイヤ性能の評価値に基づいて、タイヤ断面形状の設計空間を、曲面近似関数を用いて応答曲面関数として定める。この応答曲面関数は、タイヤ基底断面形状を重み付け加算に用いた重み強度を設計変数とする。すなわち、応答曲面関数は、基底断面形状を重み付け加算に用いる重み強度を設計変数として、タイヤ性能の評価値を、曲面近似関数を用いて表したものである。ここで、曲面近似関数は、チェビシェフの直交多項式やn次多項式、動径基底関数法(RBF)やクリギング法等の関数が挙げられる。そして、得られた曲面近似関数に基づき、例えば多目的遺伝的アルゴリズム等の発見的手法や、勾配法などの数理計画法を用いて最適タイヤ断面形状の探索を行う。
【0037】
決定部30は、こうして、予め設定された条件をタイヤ性能の評価値が満足するように、調整済試行断面形状を探索して、タイヤ性能に適合したタイヤ断面形状を決定する。予め設定された条件とは、例えば、タイヤ性能の評価値の範囲、タイヤ性能の評価値の最小値、あるいはタイヤ性能の評価値の最大値等である。最適なタイヤ性能の評価値を得る際に、別のタイヤ性能の評価値に基いて設計変数に一定の拘束条件を課した状態で、設定されたタイヤ性能の評価値が上記条件を満足するような調整済試行断面形状を探索してもよい。
【0038】
決定部30では、重み強度の値を変更して最適なタイヤ断面形状を作成するので、タイヤ性能の評価を達成する重み強度の値を抽出することで、最適なタイヤ断面形状を容易に求めることができる。このとき、調整部26において、重み強度の値を設定された範囲で変更しても、調整済試行断面形状から作製されるタイヤは、タイヤ寸法の規格を満足することが保証されているので、従来のように、最適なタイヤ断面形状から実際のタイヤを作製するとき、最適なタイヤ断面形状を修正することはない。このため、本実施形態で得られる最適なタイヤ断面形状は、目標どおりのタイヤ性能を発揮することができる。
【0039】
なお、得られた最適なタイヤ断面形状の情報は、出力装置34に出力される他、図示されないタイヤ加硫用金型を作成するCADシステム等に送られる。あるいは、得られた最適な断面形状は、タイヤデフレート時のタイヤ断面形状の情報として、あるいは、インモールドタイヤ断面形状の情報として、メモリ16に記憶され、さらに、図示されないハードディスクや記録メディア等に記録される。
また、決定部30は、最適な評価値が得られない場合、得られた評価値の中で最適な状態に最も近い評価値を持つタイヤ断面形状の情報を第1モデル作成部20に戻してもよい。第1モデル作成部20は、このタイヤ断面形状の情報を、参照タイヤ断面形状の情報として、再度、最適なタイヤの断面形状を求めることができる。
【0040】
(タイヤの断面形状の決定方法)
図6は、本実施形態のタイヤの断面形状の決定方法の処理のフローを示す図である。
まず、装置10は、メモリ16に記憶されているプログラムを呼び出して起動することにより、処理モジュール19を形成する。
【0041】
次に、第1モデル作成部20は、基準とする参照タイヤ断面形状の情報を、入力操作デバイス32による入力により、あるいは図示されない記録装置から呼び出して取得し、節点及び要素に関する情報と、タイヤモデルの材料定数に関する情報を作成する。これにより、参照タイヤ断面形状を有する参照タイヤモデルが作成される(ステップS10)。
【0042】
次に、設定部22は、作成されたタイヤモデルの固有値解析を行って、タイヤ断面形状における1次、2次、3次、・・・等の複数の固有振動モードの、タイヤ断面内の変形形状を求める。設定部22は、求めた複数のタイヤ断面形状の変形形状の中から基底断面形状を設定する(ステップS20)。設定される複数の基底断面形状は、オペレータがディプレイ等に表示された1次、2次、3次、・・・固有振動モードのタイヤ断面の変形形状を見ながら、基底断面形状として利用しようとするものが、入力操作デバイス32を用いて入力設定される。設定された基底断面形状の情報は、メモリ16に記憶される。
【0043】
次に、試行断面形状作成部24は、メモリ16に記憶されている複数の基底断面形状の情報を呼び出し、この複数の基底断面形状を、設定された重み強度の値を用いて重み付け加算をすることにより、複数の試行断面形状を設定する(ステップS30)。上記重み強度については、設計変数となる重み強度の値に関して予め与えられた範囲の中で値が順次変更される。
【0044】
判定部25は、ステップS30で作成された複数の試行断面形状のそれぞれから作製されるタイヤが、JATMA,ETRTO,TRA等で規定されるタイヤ寸法の規格を満足するか否かを判定する(ステップS40)。
判定部25が、複数の試行断面形状のそれぞれから作製されるタイヤの寸法の少なくとも1つがタイヤ寸法の規格を満足しない場合(判定結果が否定の場合)、調整部26は、少なくとも1つの基底断面形状を調整する(ステップS50)。基底断面形状の調整は、タイヤの寸法がタイヤ寸法の規格の範囲の上限を超える場合、基底断面形状の節点の位置座標に1未満の倍率を乗算し、基底断面形状の変形形状を縮小させる。タイヤの寸法がタイヤ寸法の規格の範囲の下限を下回る場合、基底断面形状の節点の位置座標に1より大きい倍率を乗算し、基底断面形状の変形形状を拡大させる。このような倍率は、タイヤの寸法がタイヤ寸法の規格の範囲から大きくはずれるほど1から離れた倍率を用いる。倍率の乗算は、タイヤ径方向の位置座標のみに行ってもよく、あるいは、タイヤ幅方向の位置座標のみに行ってもよい。また、判定部25は、基底断面形状の一部の領域を調整の対象とすることもできる。また、調整の対象とする基底断面形状は、試行断面形状に用いる全ての基底断面形状であってもよいし、タイヤの寸法に大きな寄与を持つ基底断面形状であってもよい。
【0045】
このようにして、調整部26は、上記判定でタイヤがタイヤ寸法の規格を満足するように、基底断面形状の少なくとも1つについて変形形状を調整する。この調整後、試行断面形状作成部24は、調整された基底断面形状を含む複数の基底断面形状を用いて試行断面形状を再度作成する。
こうして、判定部25において判定が肯定されるまで、調整部26において基底断面形状の調整が行われる。
判定部25の判定が肯定されることにより、重み強度の値を設定された範囲内で自在に変更しても、試行断面形状から作製されるタイヤがタイヤ寸法の規格を常に満足することが保証される。この試行断面形状が、調整済試行断面形状である。
【0046】
次に、評価部28及び決定部30は、最適な調整済試行断面形状を探索する(ステップS60)。具体的には、決定部30は、決定部30から指示される重み強度の値を用いて、調整済試行断面形状及び試行タイヤモデルを作成するように、試行断面形状作成部24及び第2モデル作成部27に指示を出す。評価部28は、指示によって作成された試行タイヤモデルを用いてタイヤ性能のシミュレーションを行うことにより、調整済試行断面形状の性能評価を行う。例えば、タイヤ性能がタイヤ縦ばね定数である場合、以下のように、シミュレーションが行われる。まず、試行タイヤモデルに、タイヤに内圧を与えるように、評価部28は、内圧充填処理を施し、その後、評価部28は、地面を再現した平面剛体モデルに試行タイヤモデルを押し付けて、定められた荷重が負荷されるまで試行タイヤモデルを平面剛体モデルに近づける。試行タイヤモデルに負荷された荷重が定められた荷重になるとき、試行タイヤモデルの平面剛体モデルへの押し付けは終了し、試行タイヤモデルのタイヤ回転中心軸と平面剛体モデルの表面との間の距離を求める。これにより、評価部28は、試行タイヤモデルの縦撓みの量を求め、この縦撓みの量で、負荷された荷重を除算することにより、タイヤ縦ばね定数の値を求める。
【0047】
タイヤ性能は、タイヤ縦ばね定数等のばね定数の他に、例えば、タイヤ転動時の転がり抵抗、摩耗予に基づくタイヤ寿命、タイヤ固有振動数やタイヤ転動時の振動レベル、騒音レベル、ハイドロプレーニングの発生速度、操縦安定性能を表すスリップ角度1度当たりの横力の値等であってもよい。これらのタイヤ性能についても、周知のシミュレーション方法で評価することができる。得られたタイヤ性能の評価結果は、メモリ16に記憶される。
【0048】
決定部30は、得られたタイヤ性能の評価結果をメモリ16から呼び出して、タイヤ性能の評価の結果が予め設定された条件を満足する調整済試行断面形状を探索する。探索の方法は、例えば応答曲面関数を用いた方法等が挙げられる。
応答曲面関数を用いる場合、決定部30は、重み強度の値を設定された範囲内で一定の大きさずつ変更し、あるいは実験計画法に基づいて重み強度の値を設定し、(この重み強度の値に基づいて作成された試行タイヤモデルを用いて)タイヤ性能を評価部28に評価させる。決定部30は、この調整済試行断面形状毎のタイヤ性能の評価値に基づいて、タイヤ断面形状の設計空間を、曲面近似関数を用いて応答曲面関数として定める。この応答曲面関数は、タイヤ基底断面形状を重み付け加算に用いた重み強度を設計変数とする。すなわち、応答曲面関数は、基底断面形状を重み付け加算に用いる重み強度を設計変数として、タイヤ性能の評価値を、曲面近似関数を用いて表したものである。ここで、曲面近似関数は、チェビシェフの直交多項式やn次多項式等の関数が挙げられる。
【0049】
こうして、決定部30は、タイヤ性能の評価の結果が予め設定された条件を満足する重み強度の値を見出し、この重み強度の値から作成される調整済試行断面形状を、最適なタイヤ断面形状として決定する(ステップS70)。最適なタイヤ断面形状は、ステップS40の判定で肯定されるように調整された基底断面形状を用いて作成されるので、最適なタイヤ断面形状から作製されるタイヤは、タイヤ寸法の規格を満足することが保証されている。したがって、従来のように、最適なタイヤ断面形状から実際のタイヤを作製するとき、最適なタイヤ断面形状をタイヤ寸法の規格を満足するように修正することはない。このため、本実施形態で得られる最適なタイヤ断面形状は、目標どおりのタイヤ性能を発揮することができる。
【0050】
(タイヤの断面形状の決定方法を実行するプログラム)
本実施形態のタイヤの断面形状の決定方法は、メモリ16に記憶されているコンピュータが読み取り可能なプログラムを起動してコンピュータを用いて実行されるが、このプログラムは、以下の処理手順を有する。すなわち、プログラムは、
(A)コンピュータのCPU14に、基準とする参照タイヤ断面形状を有するタイヤの複数の固有振動モードのうちタイヤ断面形状が変形する複数の固有振動モードの、タイヤ断面における変形形状を基底断面形状として設定させる手順と、
(B)コンピュータのCPU14に、前記基底断面形状の変形部分を、予め定められた範囲内の重み強度の値を用いて重み付け加算をさせることにより、複数の試行断面形状を作成させる手順と、
(C)コンピュータのCPU14に、複数の試行断面形状のそれぞれから作製されるタイヤがタイヤ寸法の規格を満足するか否かを判定させる手順と、
(D)前記タイヤが前記タイヤ寸法の規格を満足しないと判定したとき、前記コンピュータのCPU14に、前記判定で前記タイヤが前記タイヤ寸法の規格を満足するように、前記基底断面形状の少なくとも1つについて前記変形形状を調整させることにより、前記変形形状が調整した基底断面形状を含む複数の基底断面形状を用いて前記重み付け加算を行うことにより、調整済試行断面形状の作成を行わせる手順と、
(E)前記調整済試行断面形状を用いて、前記コンピュータのCPU14に、前記調整済試行断面形状を有する試行タイヤモデルを作成させ、作成した前記試行タイヤモデルを用いてタイヤ性能のシミュレーションを行わせることにより、前記調整済試行断面形状の性能評価を行わせる手順と、
(F)前記タイヤ性能の評価の結果が予め設定された条件を満足する調整済試行断面形状を、前記重み付け加算に用いる重み強度の値を変化させながら前記コンピュータのCPU14に探索させて、前記タイヤ性能の評価に適合したタイヤ断面形状を決定させる手順と、を有する。
このプログラムは、インターネット等の電気回線を通じてコンピュータに転送されてメモリ16に記憶保持されてもよい。また、このプログラムは、CD−ROM等のコンピュータが読み込み可能なnon-transitoryの記録媒体等に記録されてもよい。
【0051】
[実施例、従来例]
本実施形態の方法の効果を確認するために、195/65R15のタイヤのタイヤ断面形状を用いて、このタイヤのタイヤ断面形状の最適化を行った。評価するタイヤ性能として、縦ばね定数、横ばね定数、及び転がり抵抗を用い、縦ばね定数及び転がり抵抗を維持しつつ、横ばね定数を最大化するタイヤ断面形状を探索した。用いた参照タイヤ断面形状及び参照タイヤモデルは、
図2に示したものを用い、基底断面形状は、ビード部の端部を固定したときの4つの固有振動モードの変形形状を用いた。そのうちの2つは、
図3(a),(b)に示すものとした。また、基底断面形状の1つは、
図7(a)に示すようなタイヤ寸法の規格を超えるタイヤ断面形状であったので、
図7(b)に示すように、タイヤ径方向(図中の上下方向)及びタイヤ幅方向(図中の左右方向)について、倍率を用いて基底断面形状を調整した。評価部28及び決定部30では、多目的遺伝的アルゴリズムを用いた手法で、タイヤ断面形状の最適化を行った。
【0052】
転がり抵抗は、試行タイヤモデルを地面剛体モデル上に走行させるシミュレーションを行って算出した。このときのシミュレーション試験条件として、内圧を210kPaとし、転動速度を80km/時とし、負荷荷重を4.5kNとした。転がり抵抗の値は参照タイヤモデルにおける転がり抵抗の値を基準(100)とし、値が大きいほど転がり抵抗が小さくなるように指数化した。縦ばね定数及び横ばね定数も、試行タイヤモデルを地面剛体モデル上に押し付けるシミュレーションを行って算出した。縦ばね定数については、試行タイヤモデルのタイヤ回転中心軸と平面剛体モデルの表面との間の距離を求めて試行タイヤモデルの縦撓みの量を求めるとともに、この縦撓みの量で、負荷された荷重を除算することにより、タイヤ縦ばね定数の値を得た。横ばね定数については、試行タイヤモデルを地面剛体モデル上に押し付けた状態で、地面剛体モデルをタイヤ幅方向に変位させ、試行タイヤモデルのタイヤ軸に作用する横力を地面剛体モデルの変位の量で除算して求めた。このシミュレーション試験条件として、空気圧を210kPaとし、負荷荷重を4.5kNとした。横ばね定数は、タイヤ回転軸方向へ5mmの変位を付与した時に発生する横力より求めた。求めた縦ばね定数及び横ばね定数は、参照タイヤモデルにおける縦ばね定数及び横ばね定数の値を基準(100)とし、値が大きいほど縦ばね定数及び横ばね定数が高くなるように指数化した。
【0053】
図8は、
図7(b)に示す調整された基底断面形状を用いて最適化された実施例のタイヤ断面形状(実線)と、参照タイヤ断面形状(点線)を示している。実施例の最適化されたタイヤ断面形状における縦ばね定数の指数及び転がり抵抗の指数はそれぞれ98,99であるのに対して、横ばね定数は110であった。また、タイヤ寸法(タイヤトレッド部の最大外径)は、参照タイヤ断面形状と変化無く、タイヤ寸法の規格を満足した。なお、実施例の縦ばね定数及び転がり抵抗の指数は、参照タイヤ断面形状に対して低いが、この指数の低下は、許容範囲内のものである。
一方、
図7(a)に示す基底断面形状を用いて最適化された従来例のタイヤ断面形状における縦ばね定数の指数及び転がり抵抗の指数はそれぞれ100,100であるのに対して、横ばね定数は112であった。しかし、タイヤ寸法(タイヤトレッド部の最大外径)は、参照タイヤ断面形状に対して、5mm増加し、この時のタイヤ寸法の規格を満足しなかった。このため、従来例のタイヤ断面形状については、タイヤの作製に際し、最適化されたタイヤ断面形状を修正する必要が生じた。
上記結果より、本実施形態の効果は明らかである。
【0054】
以上、本発明のタイヤ断面形状決定方法、タイヤ製造方法、タイヤ断面形状決定装置、及びプログラムについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。