特許第6010986号(P6010986)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本精工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6010986-車輪支持用転がり軸受 図000005
  • 特許6010986-車輪支持用転がり軸受 図000006
  • 特許6010986-車輪支持用転がり軸受 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6010986
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】車輪支持用転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/66 20060101AFI20161006BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20161006BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20161006BHJP
   C10M 169/02 20060101ALI20161006BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20161006BHJP
   C10M 107/02 20060101ALI20161006BHJP
   C10M 105/32 20060101ALI20161006BHJP
   C10M 105/18 20060101ALI20161006BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20161006BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20161006BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20161006BHJP
【FI】
   F16C33/66 Z
   F16C33/78 Z
   F16C19/18
   C10M169/02
   C10M101/02
   C10M107/02
   C10M105/32
   C10M105/18
   F16J15/3204
   C10N40:02
   C10N50:10
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-87498(P2012-87498)
(22)【出願日】2012年4月6日
(65)【公開番号】特開2013-217428(P2013-217428A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105474
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 弘徳
(74)【代理人】
【識別番号】100108589
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 利光
(72)【発明者】
【氏名】松本 兼明
(72)【発明者】
【氏名】笠原 勇樹
【審査官】 渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−077056(JP,A)
【文献】 特開平02−300293(JP,A)
【文献】 特開2007−046709(JP,A)
【文献】 特開2009−161604(JP,A)
【文献】 特開2011−126976(JP,A)
【文献】 特開2010−096314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
F16C 19/00− 19/56
33/30− 33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車軸部に装着され車輪を回転自在に支持するための転がり軸受であって、内周面に外輪軌道を有する外輪と、外周面に内輪軌道を有する内輪と、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体と、前記外輪の内周面と前記内輪の外周面との間で前記転動体を設けた空間の軸方向開口部を塞ぐシール装置とを備え、グリース組成物を封入してなる車輪支持用転がり軸受において、
前記グリース組成物の基油が、鉱油と合成炭化水素油と、エーテル油及びエステル油の少なくとも1種とを、鉱油:合成炭化水素油:エーテル油及びエステル油の少なくとも1種=50〜80:10〜45:5〜10の割合で混合してなり、アニリン点が80〜120℃の混合油であり、
前記シール装置の弾性部材が、アクリロニトリル量が20〜30%のアクリロニトリルブタジエンゴムをゴム成分とするゴム組成物からなることを特徴とする車輪支持用転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の車輪を回転自在に支持するために使用される車輪支持用転がり軸受に関し、より詳細には、封入グリース組成物の漏洩を防止するとともに、外部からの塵埃、水、水蒸気、泥水等の軸受内部への侵入を防止するためのシール装置を備えた車輪支持用転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の車輪を支持する車輪支持用転がり軸受は、通常、雨水や風雪、塵埃等に曝されながら屋外で使用される。極端な場合には、水中に浸漬した状態で使用されることもある。そこで、従来の車輪支持用転がり軸受では、例えば図1に示されるような密封構造が採られている。図示される転がり軸受Oにおいて、固定輪である外輪相当部材1は、その外周面に形成した取付部2により、懸架装置(図示せず)に支持固定される。従ってこの外輪相当部材1は、使用時にも回転しない。この様な外輪相当部材1の内側には回転輪である内輪相当部材3が、外輪相当部材1と同心に設けられ、使用時にこの内輪相当部材3が回転する。この内輪相当部材3は、ハブ4と内輪5とから成る。このうちのハブ4の内周面にはスプライン溝6が、外端(車両への組み付け時に幅方向外側になる端を言い、図1の左端)部外周面には取付フランジ7が、それぞれ形成されている。車両への組み付け時、スプライン溝6には等速ジョイントを介して回転駆動される駆動軸が挿入され、取付フランジ7には車輪が固定される。
【0003】
外輪相当部材1の内周面には複列の外輪軌道8、8が、ハブ4の中間部外周面と内輪5の外周面とには内輪軌道9、9が、それぞれ形成されている。そして、これら各外輪軌道8、8と内輪軌道9、9との間に転動体10、10を設けて、外輪相当部材1の内側での内輪相当部材3の回転を自在としている。また、転動体10、10を転動自在に保持するために、保持器11、11が設けられている。尚、図示の例では転動体10、10として玉を使用しているが、重量が嵩む車両用のハブユニットの場合には、転動体としてテーパころを使用する場合もある。更に、外輪相当部材1の外端部とハブ4の中間部外周面との間にはシール装置12aと12bとが設けられ、外輪相当部材1の内周面と内輪相当部材3の外周面との間で、転動体10、10を設置した空間13部分の外端開口を塞いでいる。
【0004】
シール装置12aは、図2に拡大して示されるように、芯金105と、スリンガ106と、弾性部材107とから構成される。このうちの芯金105は、低炭素鋼板等の金属板にプレス加工等の打ち抜き加工並びに塑性加工を施す事により、一体成形されている。この様な芯金105は、転がり軸受Oを構成する外輪相当部材1の端部内周面に内嵌固定自在な外径側円筒部109と、この外径側円筒部109の軸方向内端縁(図2の左端縁)から直径方向内方に折れ曲がった内側円輪部110を備えた、断面略L字形で円環状に形成されている。また、スリンガ106は、ステンレス鋼板等、優れた耐食性を有する金属板に、やはりプレス加工等の打ち抜き加工並びに塑性加工を施す事により一体成形されている。この様なスリンガ106は、転がり軸受Oを構成する内輪5の外端部外周面に外嵌固定自在な内径側円筒部112と、この内径側円筒部112の軸方向外端縁(図2の右端縁)から直径方向外方に折れ曲がった外側円輪部113とを備えた、断面L字形で円環状に形成されている。
【0005】
弾性部材107は弾性材料からなり、外側、中間、内側の3本のシールリップ114、115、116を備え、芯金105にその基端部が結合固定されている。そして、最も外側に位置する外側シールリップ114の先端縁をスリンガ106を構成する外側円輪部113の内側面に摺接させ、残り2本のシールリップである中間シールリップ115及び内側シールリップ116の先端縁を、スリンガ106を構成する内径側円筒部112の外周面に摺接させることにより、グリース組成物の漏洩を防止するとともに、外部からの塵埃、水、泥水等の軸受内部への侵入を防止する。
【0006】
シール装置12bは、図3に拡大して示されるように、それぞれが円輪状に形成された芯金216と弾性部材217とから構成される。このうちの芯金216は、金属板により作られ、外輪相当部材1の外端部に内嵌固定されている。また、弾性部材217は弾性材料からなり、芯金216に成形し接着等により接合固定されている。また、この弾性部材217は、外径側、内径側、2本のサイドシールリップ218、219と、1本のラジアルシールリップ220とを備える。そして、2本のサイドシールリップ218、219を、先端縁(図3の左端縁)に向かうほど直径方向外方(図3の上方)に向かう方向に傾斜させる事により、空間13内への異物進入防止機能を確保している。また、ラジアルシールリップ220を、先端縁(図3の右下縁)に向かうほど空間13の内側(図3の右側)に向かう方向に傾斜させる事により、グリース組成物の漏洩防止機能を確保している。
【0007】
更に詳しく説明すると、シール装置12bは、それぞれが円輪状に形成された芯金216と弾性部材217とから構成されている。シール装置12bの芯金216は、低炭素鋼板等の金属板にプレス加工等の打ち抜き加工並びに塑性加工を施す事により、一体成形されている。この芯金216は、転がり軸受Oを構成する外輪相当部材1の端部内周面に内嵌固定自在な外径側円筒部222と、この外径側円筒部222の外端縁(図3の左端縁)から直径方向内方に折れ曲がった支持板部223とを備える。このうちの外径側円筒部222は、内端寄り(図3の右寄り)の大径部224と弾性部材217とにより、芯金216を構成する支持板部223の外側面(図3の左側面)全体を覆うと共に、この弾性部材217の外周縁部を、外径側円筒部222から連続する傾斜部227の外周面と外輪相当部材1の開口端部内周面との間で挟持している。そして、この構成により、芯金216と外輪相当部材1との嵌合部を密封している。また、大径部224の自由状態に於ける外径は、外輪相当部材1の外端開口部の内径よりも僅かに大きく設定されており、この大径部224は、外輪相当部材1の外端開口部に、締まり嵌めで内嵌固定自在とされている。また、支持板部223は、略S字形の断面形状を有し、直径方向内方(図3の下方)に向かうほど空間13内に設置した転動体10、10に近づく方向(図3の右方向)に傾斜している。
【0008】
一方、芯金216と共にシール装置12bを構成する弾性部材217は、芯金216に対してインサート成型し、接着等により接合固定されている。この様な弾性部材217の外周縁部は傾斜部227の外周面を覆っている。また、この様な弾性部材217の一部で傾斜部227の外周面を覆っている部分の自由状態での外径は、外輪相当部材1の外端開口部の内径よりも少し大きく設定されており、大径部224をこの外端開口部に内嵌固定した状態では、弾性部材217の一部で傾斜部227の外周面を覆っている部分が、この傾斜部227の外周面と外端開口部の内周面との間で弾性的に押圧され、当該部分のシール性を確保する。
【0009】
更に、弾性部材217の基部226は、支持板部223の外側面(図3の左側面)を、全周に亙り完全に覆っている。また、この基部226の外側面及び内周縁には、外径側、内径側、2本のサイドシールリップ218、219と、1本のラジアルシールリップ220とが形成されており、2本のサイドシールリップ218、219を、先端縁(図3の左端縁)に向かう程直径方向外方(図3の上方)に向かう方向に傾斜させる事により、空間13内への異物進入防止機能を確保している。また、ラジアルシールリップ220を、先端縁(図3の右下縁)に向かうほど空間13の内側(図3の右側)に向かう方向に傾斜させる事により、グリース組成物の漏洩防止機能を確保している。
【0010】
上記に挙げたシール装置12a、12bの弾性部材107、217は、シール性能やコストを考慮して、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)やその水素化物に、カーボンブラック等の補強材、架橋系薬剤や可塑剤等を配合したゴム組成物が広く使用されている。
【0011】
また、自動車は−40℃程度の寒冷地でも使用されており、このような低温環境においても弾性部材107、217にはシール性能を損失しないことが望まれている。低温でのゴム弾性を維持するためには、一般に、アクリロニトリル量(AN量)を低くしたり、低温性に優れる可塑剤を配合することが有効であることが知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−46709号公報
【特許文献2】特開2004−286193号公報
【特許文献3】特開2003−246976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、AN量が少なくなると耐油性が低下するようになり、グリース組成物の基油が弾性部材中に移行して弾性部材107、217が膨潤し、円滑な回転の支障になる。また、可塑剤が基油に移行して弾性部材107、217が収縮し、シール性能を低下させる。そこで本発明は、低温でのシール性能を高め、−40℃程度の寒冷地でも十分な耐久性を示す車輪支持用転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、低温での使用にも適するように、AN量を少なくしたり、低温性に優れる可塑剤を配合した弾性部材の膨潤や収縮を抑えるために、グリース組成物の基油を種々検討したところ、鉱油と合成油との混合油で、かつ、アニリン点が80〜120℃である基油を用いるとともに、弾性部材を特定量のアクリロニトリルを含有するアクリロニトリルブタジエンゴムを含むゴム成分からなるゴム組成物にすることが有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、上記の目的を達成するために、本発明は下記の車輪支持用転がり軸受を提供する。
(1)車両の車軸部に装着され車輪を回転自在に支持するための転がり軸受であって、内周面に外輪軌道を有する外輪と、外周面に内輪軌道を有する内輪と、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体と、前記外輪の内周面と前記内輪の外周面との間で前記転動体を設けた空間の軸方向開口部を塞ぐシール装置とを備え、グリース組成物を封入してなる車輪支持用転がり軸受において、
前記グリース組成物の基油が、鉱油と合成炭化水素油と、エーテル油及びエステル油の少なくとも1種とを、鉱油:合成炭化水素油:エーテル油及びエステル油の少なくとも1種=50〜80:10〜45:5〜10の割合で混合してなり、アニリン点が80〜120℃の混合油であり、
前記シール装置の弾性部材が、アクリロニトリル量が20〜30%のアクリロニトリルブタジエンゴムをゴム成分とするゴム組成物からなることを特徴とする車輪支持用転がり軸受。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低温での使用にも適するようにAN量を少なくしたり、低温性に優れる可塑剤を配合したゴム組成物からなる弾性部材の膨潤や収縮を抑え、長期にわたり良好な回転性能及びシール性能を維持したシール装置を備える車輪支持用転がり軸受が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】車輪支持用転がり軸受の一例を示す断面図である。
図2図1に示した転がり軸受の一方のシール装置(12a)の拡大図である。
図3図1に示した転がり軸受の他方のシール装置(12b)の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0018】
本発明において、車輪支持用転がり軸受の構造自体には制限がなく、例えば図1に示したようなシール装置12a、12bを備える転がり軸受を例示することができる。また、シール装置12a、12bもその構造自体に制限はなく、例えば図2図3に示したような弾性部材107、217を備える構成とすることができる。
【0019】
弾性材料にも制限はなく、従来から多用されているNBRや水素化NBR(以下、総称して「NBR」)をゴム成分とするゴム組成物で形成することができる。NBRは、ブタジエンとアクリロニトリルとの共重合から得られるが、AN量が少ない方が低温でも使用できることから、AN量が20〜30%のNBRを用いる。AN量が20%未満であると、耐熱性が低すぎるため、ゴム自身の劣化が生じやすい。また、AN量が30%を超えると耐寒性が悪くなり、必要とする耐寒性を得るためには多量の可塑剤を配合する必要があり、ブリードを起こしやすく、更には可塑剤がグリース組成物の基油に移行して収縮しやすくなる。より好ましいAN量は、22〜28%である。
【0020】
また、ゴム組成物には、凝固点が低く、NBRとの相溶性に優れる可塑剤が配合される。耐寒性からは可塑剤の凝固点は低い方が望ましく、十分な耐寒性を得るためには凝固点が0℃以下のものが好ましく、−20℃以下のものがより好ましい。また、NBRとの相溶性からは溶解度パラメータ(SP値)が8.3〜9.5のものが好ましく、8.5〜9.0のものがより好ましい。
【0021】
これらを考慮すると、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤であるアジピン酸ジオクチル(DOA)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、アゼライン酸ジオクチル(DOZ)、セバシン酸ジオクチル(DOS)や、リン酸エステル系可塑剤、エーテルエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、トリメチロールプロパンエステル、ペンタエリスリトールエステル、ジペンタエリスリトールエステル、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステルが好適である。また、可塑剤の配合量は、NBR100重量部に対して5〜15重量部が好ましく、5重量部未満では可塑剤としての性能に加えて十分な耐寒性が得られず、15重量部超では弾性部材の硬さの不足やブリード等が生じるおそれがある。
【0022】
ゴム組成物には、耐摩耗性や機械的強度を高めるために、補強材を配合してもよい。補強材としてはケイ酸塩が好ましく、カオリンクレー(Al・2SiO・2HO)、焼成クレー(Al・2SiO)、ロウ石(Al・4SiO・HO)、セリサイト(KO・3Al・6SiO・2HO)、マイカ(KO・3Al・6SiO・2HO)、ネフェリンシナイト(NaO・KO・Al・2SiO)等のケイ酸アルミニウム類、含水ケイ酸アルミニウム(Al・mSiO・nHO)、タルク(3MgO・4SiO・HO)等のケイ酸マグネシウム類、ワラストナイト(CaO・SiO)等のケイ酸カルシウム類等が挙げられる。中でも、ケイ酸アルミニウム類が好ましい。尚、カオリンクレーは、粒子の結晶度、結晶表面の水酸基の活性度を考慮すると、一般にハードクレーと呼ばれている粒径の細かいもの(粒径2μm以下のものを多く含むもの)が、より補強性に優れることから好ましい。これらのケイ酸塩は、単独でも、複数を混合して使用してもよい。
【0023】
また、補強効果を高めるために、カーボンブラックを併用することが好ましい。カーボンブラックに制限はないが、SAF(Super Abrasion Furnace Black)、ISAF(Intermediate Super Abrasion Furnace Black)、HAF(High Abrasion Furnace Black)、MAF(Medium Abrasion Furnace Black)、FEF(Fast Extruding Furnace black)、GPF(General Purpose Furnace black)、SRF(Simi-Reinforcing Furnace black)、FT(Fine Thermal Furnace black)、MT(Medium Thermal Furnace black)等が挙げられる。中でも、補強性と成形加工性のバランスに優れたHAF、MAF、FEF、GPF及びSRFが好ましく、特にFEF、GPF及びSRFが好ましい。
【0024】
これら補強材の配合量は、ケイ酸塩とカーボンブラックとを併用する場合、NBR100重量部に対してケイ酸塩を10〜150重量部、カーボンブラックを10〜90重量部、かつ、合計で20〜240重量部とする。合計配合量が20重量部未満では十分な補強性が発現されず、耐摩耗性も満足な結果が得られない。一方、合計配合量が240重量部を超えると、補強性と耐摩耗性の更なる向上が認められないだけでなく、成形性が極端に低下して実質的に製造が困難になり、更に硬度が高くなりすぎて伸びが低くなり、本来のゴム弾性が低下してしまう。
【0025】
更に、ゴム組成物には、成形のための加硫剤(架橋剤)、加硫助剤、加硫促進助剤が配合される。加硫剤としては、粉末硫黄、硫黄華、沈降硫黄、高分散性硫黄等の各種硫黄、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、N,N−ジチオ−ビス(ヘキサヒドロ−2H−アゼピノン−2)、チウラムポリスルフィド等の硫黄を排出可能な硫黄化合物、ジクミルパーオキサイド、ジ(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチルヘキサン、ベンゾイルパーオキサイド等の過酸化物等が挙げられる。中でも、分散性や取り扱いの容易さ、耐熱性の点で、高分散性硫黄やモルホリンジスルフィドを使用することが好ましい。
【0026】
尚、硫黄系の加硫剤を用いる場合は、グアニジン系化合物、アルデヒド−アンモニア系化合物、チアゾール系化合物、チオウレア系化合物、スルフェンアミド系化合物、チウラム系化合物、ジチオカルバメート系化合物、キサンテート系化合物等を加硫助剤として併用する必要がある。硫黄系の加硫剤の中でも高分散性硫黄を用いる場合には、チウラム系のテトラメチルチウラムジスルフィド等またはスルフェンアミド系のN−シクロベンジル−2−ベンゾチアジル・スルフェンアミド等と、チアゾール系の2−メツカプトベンゾチアゾール等とを併用することが好ましい。
【0027】
加硫促進助剤としては、酸化亜鉛等の金属酸化物、金属炭酸塩、金属水酸化物、ステアリン酸等の有機酸とその誘導体、及びアミン類等が挙げられる。これら加硫助剤、加硫促進助剤は2種以上を混合使用してもよく、NBR100重量部に対して0.1〜10重量部配合される。
【0028】
その他にも、ゴム組成物には、必要に応じて老化防止剤、カップリング剤、顔料、染料、離型剤、加工助剤、摩耗改良剤、摩擦改良剤、導電性付与剤等を添加することができる。これらは何れも公知のもので構わないが、以下に好ましい例を示す。
【0029】
老化防止剤としては、アミン・ケトン縮合生成物、芳香族第二級アミン類、モノフェノール誘導体、ビス又はポリフェノール誘導体、ヒドロキノン誘導体、硫黄系老化防止剤、リン系老化防止剤等が挙げられる。このうち、アミン・ケトン縮合生成物系の2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体・ジフェニルアミンとアセトンとの縮合反応物、芳香族第二級アミン系のN,N’−ジ−β−ナフチル−p−フェニレンジアミン、4,4’−ビス−(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N−フェニル−N’−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)、p−フェニレンジアミン等が挙げられる。
【0030】
また、熱分解を防止して耐熱性を向上するため、上記の老化防止剤とともに2次老化防止剤を併用することがより好ましい。2次老化防止剤としては、例えば、硫黄系の2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトメチルベンズイミダゾール及びこれらの亜鉛塩等を例示できる。更に、オゾンの作用による亀裂を抑制させるオゾン劣化防止剤として、パラフィンワックスやマイクロクリスタリンワックスをNBR100重量部に対して1〜10重量部添加してもよい。
【0031】
また、成形加工性を向上させる必要がある場合には、加工助剤として未架橋ゴムの流動性や離型性を改良するために、高級脂肪酸エステルやその金属塩を適宜添加するとができる。
【0032】
上記の各成分を用いてゴム組成物を得るための方法は特に限定されないが、上記した各材料の所定量をゴム混練ロール、加圧ニーダー、バンバリーミキサー等の従来から公知のゴム用混練り装置に投入し、均一に混練りすることが可能である。混練り条件は特に限定されないが、通常は30〜80℃の温度で、5〜60分間混練りすることによって、各種添加剤の十分な分散を図ることができる。
【0033】
物性面に言及すると、低温での使用を考慮すると、ガラス転移温度が−40℃以下であることが好ましい。また、ゴム組成物の硬度は、上記に挙げた各種充填剤の添加量等によって影響を受けるが、車輪支持用転がり軸受のシール装置に適用した際の密封性、追従性から、JIS K6301に記載のスプリング硬さAスケールで、50〜90の範囲が好ましい。前記硬さが50未満の場合には、シール装置の摩擦抵抗が大きくなるとともに耐摩耗性が低下する。また、前記硬さが90を超えると、前述のようにゴム弾性が低下するので、シール装置のリップ部の密封性、追従性が低下し、塵埃が多い環境や泥水に曝される状況において使用すると、転がり軸受の寿命が低下するおそれがある。
【0034】
上記ゴム組成物をシール装置の弾性部材とするための方法も特に限定されないが、未加硫のゴム組成物を金型の中で加圧しながら加熱すれば良く、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形等の公知のゴム成形方法により製造することができる。例えば、圧縮成形の場合、金型の中に予め接着剤を塗布した芯金やスリンガを挿入し、先に述べた方法で製造した未加硫のゴム組成物からなるシートを乗せ、通常120〜200℃で30秒〜30分程度加圧加硫することで製造することができる。また、必要に応じて、120〜200℃で10分〜10時間程度後架橋してもよい。
【0035】
本発明では、上記の弾性部材107、217の膨潤や収縮を抑制するために、グリース組成物の基油を、鉱油と合成油とを混合してなり、かつ、アニリン点が80〜120℃の混合油とする。アニリン点が80〜120℃の潤滑油として鉱油が挙げられるが、鉱油は流動点が高いため低温環境で使用すると硬化して良好な潤滑が期待できない。そこで、合成油を混合して流動点を低下させて低温性を改善し、目的とする−40℃以下の低温環境にも対応できるようにする。尚、アニリン点の好ましい範囲は90〜110℃である。
【0036】
合成油の種類及び混合油における合成油の割合は、重量比で、鉱油:合成油=50〜80:50〜20とする。合成油を混合することで鉱油単独の場合よりも高価になるが、鉱油を主成分(50質量%以上)にして合成油の使用量を抑えることにより、コスト増を抑えることができる。但し、合成油の割合が20質量%未満では、低温性が十分ではない。また、合成油の割合は、鉱油:合成油=65〜75:35〜25がより好ましい。
【0037】
また、合成油の種類は、合成炭化水素油やエーテル油、エステル油であり、アニリン点を考慮して適宜選択される。尚、合成炭化水素油やエーテル油、エステル油は、何れもグリース組成物の基油として公知のものを使用できる。アニリン点の面では合成炭化水素油を単独で使用することが好ましいが、合成炭化水素油を使用したグリースは離油しやすいため、合成炭化水素油の一部をエーテル油やエステル油に代えることにより離油度を抑えることができる。具体的には、合成油において、エーテル油及びエステル油の少なくとも1種を基油全量の5〜10質量%とし、合成油の残部を合成炭化水素油とする。エーテル油やエステル油の配合量が5質量%未満では離油性の改善効果が十分ではなく、10質量%を超えるとアニリン点が低くなり、ゴム材料の膨潤が大きくなる。
【0038】
鉱油には制限はないが、パラフィン系やナフテン系のものを使用することができる。また、減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を適宜組み合わせて精製してもよい。
【0039】
また、上記の混合油からなる基油の動粘度は、低温での流動性を考慮して10〜100mm/s(25℃)が好ましい。
【0040】
増ちょう剤は、ゲル構造を形成し、上記基油をゲル構造中に保持する能力があれば、特に制約はない。例えば、Li、Na等からなる金属石鹸、Li、Na、Ba、Ca等から選択される複合金属石けん、ベントン、シリカゲル、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物等の非石けん類を適宜選択して使用できるが、グリース組成物の耐熱性を考慮するとウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物、またはこれらの混合物が好ましい。このウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物としては、具体的にはジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、ポリウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物またはこれらの混合物が挙げられ、これらの中でもジウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物、またはこれらの混合物がより好ましい。耐熱性、音響性を考慮すると、さらに好ましくは、ジウレア化合物を配合することが望ましい。また、ハブ軸受では、一般的に軸受転送面とシールリップとその摺接面とで囲まれる空間には同種のグリース組成物が封入されるため、潤滑部での耐フレッチング性を考慮して芳香族ウレアが特に好適である。
【0041】
グリース組成物には、各種性能を更に向上させるために種々の添加剤を添加してもよい。例えば、酸化防止剤や防錆剤、極圧剤、油性向上剤、金属不活性化剤等をそれぞれ単独で、あるいは2種以上を混合して添加することができる。これら添加剤は、何れも公知のもので構わない。また、添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない範囲であれば特に制限されるものではないが、グリース組成物全量の0.1〜20質量%が適当である。0.1質量%未満では添加効果が十分ではなく、20質量%を超えて添加しても効果が飽和するとともに、基油量が総体的に少なくなるため潤滑性が低下するおそれがある。
【0042】
また、グリース組成物の混和ちょう度は、低温での潤滑性を考慮して265〜295とすることが好ましく、増ちょう剤量を調整する。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0044】
(ゴム材料の作製)
表1に示す配合に従い、NBR、補強材、可塑剤、加硫系添加剤及び各種添加剤を加圧ニーダーにて混練し、ゴム材料を作製した。各種物性値を表2に示すが、ガラス転移温度が−48℃であり、−40℃以下の低温下でもゴム弾性を維持できることがわかる。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
(グリース組成物の調製)
表3に示す配合に従い基油を調製した。また、各グリース組成物において、増ちょう剤には芳香族ウレアを用い、酸化防止剤、防錆剤、摩耗防止剤を添加し、混和ちょう度は265〜295の範囲となるように増ちょう剤量を調整した。
【0048】
(基油のアニリン点、流動点及び離油度の測定)
グリース組成物において、基油のアニリン点はJIS K2256に基づき、流動点はJIS K2269に基づき、離油度はJIS K2220に基づき、それぞれ測定した。結果を表3に併記する。
【0049】
(耐ゴム性試験)
JIS K6258に基づき、ゴム材料をグリース組成物に浸漬し、100℃で70時間放置した後の体積と、浸漬前の体積とから体積変化率を求めた。結果を表3に併記する。
【0050】
【表3】
【0051】
比較例5では、基油に鉱油:合成炭素水素油=50〜80:50〜20の混合油を用いており、流動点が−40℃以下と低く、アニリン点も80〜120℃の範囲にある。そのため、ゴム材料の体積変化率を小さく抑えることができている。しかし、実施例では、更にエーテル油またはエステル油を基油全量の10質量%配合したため、比較例5の特性に加えて離油度も抑えることができる。
【0052】
一方、比較例1では基油が鉱油のみであるため、アニリン点は本発明の範囲であるものの、流動点が高く、低温性に問題がある。また、比較例2では、基油に鉱油と合成油との混合油を用いているが、合成油の割合が低いため、流動点が若干高く、目的とする低温性が確保できていない。また、比較例3では基油が合成炭化水素のみであるため、離油度が高い。また、比較例4では基油がエステル油のみであるため、アニリン点が低く、ゴム材料を大きく膨張させている。更に、グリースコストについては、鉱油のみ、もしくは鉱油の割合が高い比較例1、2では安価であるものの、合成炭化水素油またはエステル油を単独で使用した比較例3、4では高価となる。
【符号の説明】
【0053】
0 転がり軸受
1 外輪相当部材
4 内輪相当部材
10 転動体
11 保持器
12a シール装置
12b シール装置
105 芯金
106 スリンガ
107 弾性部材
217 弾性部材
図1
図2
図3