(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の太陽電池モジュール用の裏面保護シート(以下、単に「裏面保護シート」とも言う。)について詳細に説明する。本発明は以下に記載される実施形態に限定されるものではない。
【0024】
<太陽電池モジュールの基本構成>
先ず、本発明の裏面保護シートが使用される太陽電池モジュールの構成について簡単に説明する。
図1は、本発明の一実施形態である太陽電池モジュ−ル1について、その層構成の一例を示す断面図である。太陽電池モジュール1は、
図1に示すように受光面側から、透明前面基板2、前面封止材層3、太陽電池素子4、背面封止材層5、裏面保護シート6が順に積層された構成である。本発明の裏面保護シートは、このように太陽電池モジュール1において最外層に配置されて使用されるものであるため、高い耐候性を備えることが必須となっている。
【0025】
<裏面保護シート>
本発明の実施形態である裏面保護シート6を、
図2を用いて説明する。裏面保護シート6は、基材層60と、耐候性コーティング層61と、中間層62と、を備える積層体である。耐候性コーティング層61は、基材層60の両面のうち、太陽電池モジュール1として一体化された際に、最外層となる側の面に形成される。中間層62は、基材層60と耐候性コーティング層61の間に、以下に詳細を説明する通りの態様で形成される。
【0026】
[基材層]
基材層60は、変性ポリフェニレンエーテルを含有する第1主剤樹脂からなる樹脂シートであり、その一方の表面に、中間層62を介して、耐候性コーティング層61が積層されることにより、本発明の裏面保護シート6となる。
【0027】
基材層60の厚さは特に限定されないが15μm以上であれば必要な機械強度が得られるので好ましく、250μm以下であれば必要な加工適性が得られるので好ましい。
【0028】
(第1主剤樹脂)
第1主剤樹脂は、変性ポリフェニレンエーテルを主成分として含む樹脂である。変性ポリフェニレンエーテルは芳香族ポリエーテル構造を持つポリフェニレンエーテル(PPE)を主成分とし、これに成形性の向上等を目的としてスチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂をブレンドした、ポリマーアロイであることが好ましいが、共重合による変性であってもよい。ポリフェニレンエーテルと混合する熱可塑性樹脂は特に限定されないが、スチレン系樹脂の使用が好ましい。
【0029】
変性ポリフェニレンエーテルは、その化学構造から、耐熱性や耐加水分解性に優れる。また、ガラス移転点(Tg)が150から190℃と高く、加熱時の熱変形が少ない。更に、特に後述するように、架橋剤を含有する封止材シートとの接着性に優れるため、太陽電池のモジュール化においては、密着性向上のためのプライマーを介することなく、直接封止材シートと接合でき、高い密着強度を得ることができる。そして、本発明においては、露出面側に設けられる耐候性コーティング層61と組み合わせた積層体とすることで、変性ポリフェニレンエーテルの欠点である耐候性を付与することができる。
【0030】
ポリフェニレンエーテルとしては、例えば、ポリ(2,6−ジメチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジエチルフェニレンー1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−n−プロピルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−n−ブチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−クロルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−メチル−6−ブロムフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2−エチル−6−クロルフェニレン−1,4−エーテル)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
スチレン系樹脂としては、例えば、ポリスチレン、スチレン−α−メチルスチレン共重合体、ハイインパクトポリスチレンで代表されるスチレン−ブタジエン共重合体等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
変性ポリフェニレンエーテルにおける変性量、即ちスチレン系樹脂含量は重要であり、5〜20質量%が好ましく、より好ましくは5〜10質量%である。5質量%未満ではシートが脆く成形性にも劣るので好ましくなく、20質量%を超えると封止材シートとの接着性が低下するので好ましくない。変性ポリフェニレンエーテルは、通常、変性率を上げることでシートとしての成形性を付与することができるが、一方、これと反比例して封止材シートとの接着性が低下する。即ち成形性と接着性とはトレードオフの関係にある。ここで、本発明においては、上記のように通常より低い変性率とすることで、長期の接着耐久性を更に向上することができる。このような低い変性率は通常行われないことであり、太陽電池モジュールのように非常に長期間の高耐久性が求められる分野において、封止材シートとの接着性を特異的に高く維持する必要性からの要請であり、当該分野に特有の点である。
【0033】
基材層60は、本発明の効果を害さない範囲内で、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂以外の他の樹脂を含有してもよい。また、例えば、加工性、耐熱性、耐光性、耐候性、機械的性質、寸法安定性、抗酸化性、滑り性、離形性、難燃性、抗カビ性、電気的特性、その他等を改良、改質する目的で、種々のプラスチック配合剤や添加剤、その他の樹脂等を添加することができる。これら添加剤等の添加量としては、特に限定されず、その目的に応じて、任意に添加することができる。一般的な添加剤としては、例えば、滑剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、充填剤、滑剤、強化繊維、補強剤、帯電防止剤、難燃剤、耐炎剤、発泡剤、防カビ剤、着色用添加剤、顔料、改質用樹脂等を挙げることができる。
【0034】
[耐候性コーティング層]
耐候性コーティング層61は、第2主剤樹脂と硬化剤とを含む混合物からなる耐候性コーティング層61を形成するための溶液(以下、単に「コーティング液」とも言う)を、基材層60の一方の表面に塗布し、塗布されたコーティング液から皮膜を形成させたものである。又、耐候性コーティング層61は、ポリイソシアネート化合物等の硬化剤によって第2主剤樹脂を架橋した架橋樹脂として形成されているものであることが好ましい。尚、本明細書の以下の説明では、硬化剤によって架橋されて硬化する前の樹脂化合物のことを「架橋性主剤樹脂(又は単に主剤樹脂)」と呼び、耐候性コーティング層に含まれる樹脂、即ち硬化して耐候性コーティング層を形成している架橋樹脂と区別する。
【0035】
耐候性コーティング層61の厚さは、特に限定されず、裏面保護シート6が適用される条件に合わせて適宜決定すればよい。耐候性コーティング層61の厚さとしては、0.1〜30μmが好ましく、0.5〜7μmがより好ましい。耐候性コーティング層61の厚さが0.1μm未満であると、十分な耐候性を付与することができず、又、耐候性コーティング層61の厚さが30μmを超えても、塗布するコーティング液の量が多く必要であり、コストが嵩むため好ましくない。
【0036】
(第2主剤樹脂)
耐候性コーティング液の主剤樹脂である第2主剤樹脂としては、ポリイソシアネート化合物と反応するための水酸基を有する樹脂を適宜用いることができる。具体的な例としては、架橋性置換基含有アクリル樹脂(以下、単に「アクリル樹脂」とも言う。)、架橋性置換含有フッ素樹脂、架橋性置換基含有ビニル樹脂、架橋性置換基含有オレフィン樹脂等を用いることができる。これらの中でも、架橋性置換基含有アクリル樹脂又は、アクリル樹脂とフッ素系樹脂からなる樹脂(以下、単に「アクリル/フッ素樹脂」とも言う。)を特に好ましく用いることができる。
【0037】
第2主剤樹脂として特に好ましく用いることができるアクリル樹脂及びアクリル/フッ素樹脂は、ポリイソシアネート化合物と反応するための水酸基を複数有し、ポリイソシアネート化合物と反応して架橋されることにより、硬化して強固な被膜を形成する。又、アクリル樹脂及びアクリル/フッ素樹脂は、いずれも、耐候性、耐薬品性が良好である点から、耐候性コーティング層61の耐溶剤性を確保することができる。又、アクリル樹脂及びアクリル/フッ素樹脂は、それ自体は、本発明の基材層60を形成するPPE樹脂との接着性については必ずしも十分ではないが、後に説明する通り、本発明の裏面保護シート6においては、基材層60と耐候性コーティング層61の間に中間層62を形成することによって各層間の接着性を十分に強固なものとしているため、耐溶剤性に優れるアクリル樹脂及びアクリル/フッ素樹脂を、裏面保護シート6においては、第2主剤樹脂として特に好ましく用いることができる。
【0038】
第2主剤樹脂の一例となる架橋性置換基含有アクリル樹脂について説明する。主剤樹脂として用いられるアクリル樹脂は、ポリイソシアネート化合物と反応するための架橋性置換基を複数有し、ポリイソシアネート化合物と反応して架橋されることにより、硬化して強固な被膜を形成する。ここで、架橋性置換基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基等が挙げられる。主剤樹脂は、溶剤可溶性の樹脂又は溶剤に分散可能な樹脂から選択される。入手性及び架橋反応性の観点から、架橋性置換基は水酸基であることが好ましい。好ましい水酸基価の範囲は20以上100以下である。
【0039】
アクリル樹脂としては、一種又は二種以上のアクリル酸化合物と架橋性置換基を有するモノマーとを共重合させたものや、一種又は二種以上のアクリル酸化合物と架橋性置換基を有するモノマーと、一種又は二種以上のエチレン性モノマーとを共重合させたものが使用される。ここで、アクリル酸樹脂を得るために使用するモノマーとして、上記のモノマーに加えて、アクリル酸樹脂に耐光性を付与するための置換基を有するモノマーを使用してもよい。
【0040】
このようなアクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル化合物と、(メタ)アクリル酸若しくはアルキル基としてメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等を有するアルキル(メタ)アクリレート系モノマーと、を共重合させたものが挙げられる。又、共重合のために使用されるモノマーとして、更に、(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる)、N−アルコキシ(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルコキシ(メタ)アクリルアミド(アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基等が挙げられる)、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−フェニル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマー、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のグリシジル基含有モノマー、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、マレイン酸、アルキルマレイン酸モノエステル、フマル酸、アルキルフマル酸モノエステル、イタコン酸、アルキルイタコン酸モノエステル、(メタ)アクリロニトリル、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ブタジエン等のエチレン性不飽和結合を有する各種の化合物を使用してもよい。これらの中でも(メタ)アクリル酸メチルとアクリル酸2−エチルヘキシルとの共重合体、少なくとも(メタ)アクリル酸メチルとアクリル酸2−エチルヘキシルと水酸基含有(メタ)アクリレートからなる共重合体が好適に使用される。又、このような樹脂の好ましい質量平均分子量としては、1000〜300000が挙げられる。
【0041】
第2主剤樹脂の他の一例として、上記のアクリル樹脂に、更に、フッ素系の樹脂を添加したアクリル/フッ素樹脂について説明する。アクリル樹脂に更に添加するフッ素系の樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン等、及びこれらの混合物を用いることができる。アクリル樹脂にこれらのフッ素系樹脂を添加することによって、耐候性がより向上するため、これらのアクリル/フッ素樹脂を第2主剤樹脂として好ましく用いることができる。
【0042】
以上、例示した第2主剤樹脂の水酸基価は18以上100以下であり、好ましくは、20以上90以下である。第2主剤樹脂の水酸基価が18以上であることにより、充分に架橋が進行して、耐候性コーティング層61により好ましい耐溶剤性を付与することができる。第2主剤樹脂の水酸基価が100を超えると、第2主剤樹脂の一部が未反応のまま耐候性コーティング層61に残存して裏面保護シート6の耐候性が低下するため好ましくない。
【0043】
耐候性コーティング液中の第2主剤樹脂の含有量は、10質量%以上60質量%以下であることが好ましい。耐候性コーティング液における第2主剤樹脂の含有量が10質量%以上であることにより、耐候性コーティング層61に十分な耐候性を発現させることができる。又、耐候性コーティング液における主剤樹脂の含有量が60質量%以下であることにより、耐候性コーティング液の塗布性が良好になる。
【0044】
(硬化剤)
第2主剤樹脂の架橋反応を進行させる硬化剤としては、ポリイソシアネート化合物を用いることができる。ポリイソシアネート化合物とは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物である。
【0045】
ポリイソシアネート化合物は、第2主剤樹脂を架橋して硬化(高分子量化)させ、耐候性コーティング層61に含まれる樹脂を形成させる。このとき、ポリイソシアネート化合物は、主剤樹脂とともに耐候性コーティング層61に含まれる樹脂の一部となる。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系、芳香族−脂肪族系等が挙げられるが、耐候性コーティング層が長期間に亘って外部環境に曝されることに伴う着色を抑制するという観点からは、脂肪族系、脂環式系のポリイソシアネート化合物が好ましく使用される。
【0046】
ポリイソシアネート化合物の具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等といった炭素数3〜12の脂肪族イソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等といった炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ビューレット、イソシアヌレート変性物等)等が挙げられる。これらは、単独で、又は2種以上を併用して使用することができる。また、架橋樹脂が架橋ウレタン樹脂の場合には末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーであってもよい。
【0047】
これらのポリイソシアネート化合物の耐候性コーティング液への添加量については、第2主剤樹脂100質量部に対するポリイソシアネート化合物のNCO基の質量が、0.8質量部以上14.0質量部以下、好ましくは0.8質量部以上8.0質量部以下、更に好ましくは、6.5質量部以下となるようにとなるように適宜調整する。これにより、耐候性コーティング層61に好ましい耐溶剤性を付与することができる。NCO基の質量が0.8室量部未満であると、耐溶剤性が不十分となる。又、NCO基の質量が14.0質量部を超えると、中間層62を介したとしても基材層60に対する接着性が不十分となる。
【0048】
(溶剤)
耐候性コーティング液に使用される溶剤は、基材層60に対する塗布性を耐候性コーティング液に付与するために添加される。耐候性コーティング液が基材層60に塗布された後、塗布された耐候性コーティング液に含まれる溶剤が揮発し、次いで生じる硬化反応により、基材層60の表面に耐候性コーティング層61が形成される。
【0049】
溶剤としては、変性ポリフェニレンエーテルを一部溶解する溶剤を用いることができる。尚、本明細書において、「変性ポリフェニレンエーテルを一部溶解する溶剤」とは、変性ポリフェニレンエーテル樹脂に塗布した場合に、その表面近傍部分を適度に溶解させることによって接着性向上に寄与しうる中間層62を形成可能な溶剤であることを意味するものとする。尚、ここで、表面近傍部分とは、樹脂シート等の表面から概ね0.1μm〜5μm程度の範囲にある部分のことを言う。一方、変性ポリフェニレンエーテルの表面に塗布しても、樹脂表面が全く溶解しない溶剤、及び、樹脂がその表面近傍部分のみならず内部まで過剰に溶解して、接着性の向上に寄与しうる中間層62が形成できない溶剤は除くものとする。溶剤は、更に、第2主剤樹脂、硬化剤等の成分を溶解又は分散させることができるものであること、及びコーティング液に含まれる硬化剤と反応しないものであればよい。このような溶剤として、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチル、酢酸ブチル等を、好ましい一例としてあげることができる。
【0050】
溶剤は、以下の補助溶剤を、更に添加したものを、より好ましく用いることができる。補助溶剤は、酢酸ブチルの蒸発速度を基準値1としたときの相対的な蒸発速度(本明細書における「蒸発速度」とは、この速度のことを言うものとする。)が、溶剤の主たる成分の蒸発速度より小さいものを1種類又は複数種類用いることが好ましい。例えば、蒸発速度が3.7程度であるMEKを主たる溶剤として用いた場合には、補助溶剤として、メチルイソブチルケトン(MIBK)(蒸発速度:1.6)、イソプロピルアルコール(IPA)(蒸発速度:1.5)、酢酸ブチル(蒸発速度:1.0)等を、補助溶剤として好ましく用いることができる。なかでも、主たる溶剤としてのMEKと、補助溶剤としてのMIBKを8:2の割合で混合した溶剤を特に好ましい溶剤の具体的な一例としてあげることができる。このように補助溶剤を適切に添加することによって、塗工の際の乾燥速度を調整してコーティング層形成に係る製造適性を向上させることができる。更に、溶剤の蒸発時間を適度に引き延ばすことによって、中間層62の厚みを最適化し、耐候性コーティング層61の基材層60に対する密着性をより好ましいものとすることもできる。
【0051】
(紫外線遮蔽材)
耐候性コーティング層61中は、更に紫外線遮蔽材を含有することが好ましい。紫外線遮蔽材は、太陽電池モジュールの裏面側より入射した紫外線から、耐紫外線性が不十分である基材層60を保護するために設けられる。つまり、紫外線遮蔽材は、裏面保護シート6において、紫外線遮蔽材よりも太陽電池モジュールの内部側に存在する各層を紫外線から保護するために設けられる。
【0052】
紫外線遮蔽材は、紫外線を反射又は吸収するための材であり、具体的には、有機系の紫外線吸収材は反射材や無機系の紫外線吸収材又は反射材が例示され、これらを特に限定されずに使用することができる。しかし、裏面保護シート6が高湿度及び高温に曝される可能性があるという観点からは、高湿度及び高温条件に対して安定な無機系の紫外線遮蔽材が好ましく使用される。
【0053】
紫外線遮蔽材として、無機系の顔料を好ましく用いることができる。例えば、酸化チタン、炭酸カルシウム、カーボンブラック、チタンブラックやCu−Mn系複合酸化物、Cu−Cr−Mn系複合酸化物、或いは、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ケイ素、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、チタンイエロー、クロムグリーン、群青、アルミニウム粉、雲母、炭酸バリウム、タルク等を用いることができる。これらの中でも、耐候性に優れ、塗料化が容易であること及び価格を含め入手が安易であることから、白色顔料としては、酸化チタンを、黒色顔料としては、カーボンブラックを好ましく用いることができる。
【0054】
耐候性コーティング層61に含有される顔料の量は、耐候性コーティング液中の顔料/顔料以外の固形分比(P/V比)で、0.3以上3.0以下であることが好ましく、0.5以上2.0以下であることが更に好ましい。特に、白色顔料として一般的に用いられる酸化チタン顔料の場合は、1.0以上2.0以下であることが好ましい。固形分比(P/V比)が高い方が塗布膜厚を薄くしても隠蔽性を保つことができるために好ましい。顔料の含有量が、0.3未満であると、耐候性を保つことができない場合があり、3.0を超えると接着性の低下につながる場合があり、また塗膜が脆くなる場合がある。
【0055】
(その他の添加剤)
耐候性コーティング層61中には、その他、例えば、シートの加工性、耐熱性、耐候性、機械的性質、寸法安定性、抗酸化性、滑り性、離型性、難燃性、抗カビ性、電気的特性、強度等を改良、改質する目的で、種々のプラスチック配合剤や添加剤等を必要に応じて添加することができる。その他の添加剤としては、分散剤、消泡剤、光安定化剤、熱安定剤、酸化防止剤等が例示される。これらは、公知のものを特に制限なく使用することができ、コーティング液や耐候性コーティング層61に求められる性能に応じて、適宜選択される。
【0056】
[中間層]
中間層62は、下記に説明する製造方法によって、耐候性コーティング液を基材層60の表面上に塗布した際に、基材層60を形成するPPE樹脂の表面から0.1μm〜5μm程度の範囲で樹脂の一部が溶解し、その溶解したPPE樹脂中に、耐候性コーティング層61に含有される第2主剤樹脂の成分の一部が浸透して第1主剤樹脂と第2主剤樹脂が混交する状態となることによって、形成される樹脂層である。PPE樹脂は耐溶剤性が不十分であるために、十分な耐候性を得るための多層構成、若しくは、コーティング加工を必須とするが、本発明におけるように、従来、PPEの弱点とされていた溶剤溶解性を、基材層60と耐候性コーティング層61との接着性向上に結びつけるという発想は従来全く考慮されたことがなかった発想であり、この点に、本発明の新規な点がある。
【0057】
図2は、裏面保護シート6の層構成を模式的に示した断面図であり、
図3は、下記実施例中において詳細を記す通りの実施例1の裏面保護シートを、ミクロトームを用いて切片を作製して、TEM(透過型電子顕微鏡)により、撮影したTEM写真であり、基材層60と耐候性コーティング層61の間に、厚さ1.5μm程度の中間層62が明確に形成されている態様を示すものである。中間層62の厚さは、0.1μm以上5μm以下であることが好ましい。0.1μm未満であると、十分な密着性が得られず、5μmを超えると、基材層60が変形してしまう場合があるため好ましくない。
【0058】
[その他の層]
本発明の裏面保護シート6には、本発明の効果を害さない範囲で、その他の層を設けてもよい。例えば、基材層60の中間層62が形成されていない側の面には、必要に応じて、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等からなる接着強化層や、或いは、シランカップリング剤等の接着性向上剤を含有する樹脂混合物からなるプライマー層を設けてもよい。或いは、基材層60と接着強化層等との間に、例えば裏面保護シート6の強度を増すための他の補強層を設けてもよい。
【0059】
<裏面保護シートの製造方法>
裏面保護シート6は、基材層60の一表面上に、上記において説明したコーティング液を用いて、耐候性コーティング層61を皮膜形成するコーティング工程を経ることによって製造することができる。
【0060】
(耐候性コーティング液の製造方法)
第2主剤樹脂とポリイソシアネート化合物と溶剤とを含む耐候性コーティング液の製造方法は、特に限定されないが、以下に説明する製造方法を好適に用いることができる。
【0061】
第2主剤樹脂と、溶剤、更に必要に応じてその他の添加剤を混合することにより主剤液とすることができる。混合方法としては、主剤樹脂とその他の添加剤を均一に分散する工程を含む製造方法を挙げることができる。また、顔料等のその他の添加剤を分散する工程で分散剤を用いてもよい。この分散の工程には各種の分散機を使用することができる。例えば、ロールミル機、ビーズミル機、高速攪拌分散機、2軸押出し機、バンバリーミキサー、加圧式ニーダー等が挙げられる。耐候性コーティング液は、このようにして調整した主剤液とポリイソシアネート化合物を含有する溶液を硬化剤として使用直前に混合する2液タイプのものであることが好ましい。
【0062】
耐候性コーティング液の樹脂濃度は重量基準で、通常は10%以上100%以下であることが好ましく、20%以上80%以下であることが更に好ましい。また粘度は通常50cP/25℃以上500000cP/25℃以下であることが好ましく、100cP/25℃以上100000cP/25℃以下であることが更に好ましい。
【0063】
尚、ポリイソシアネート化合物を含有する溶液を硬化剤として、2液タイプのコーティング液とする場合、硬化剤には、上記において説明した溶剤を好ましく使用することができる。
【0064】
コーティング工程として、まず、基材層60の一表面上に耐候性コーティング液を塗布する。塗布方法としては、従来公知の方法を特に制限なく使用することができる。このような塗布方法として、印刷法、グラビアコーターによるコーティング法、ロールコーティング法、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、ベタコーティング法、はけ塗り法等を例として挙げることができる。
【0065】
耐候性コーティング液の塗布量としては、耐候性、塗工性能、コストの観点から、乾燥質量で、3.0g/m
2以上15.0g/m
2(乾燥質量)以下が好ましく、5.0g/m
2以上10.0g/m
2以下であることが、より好ましい。
【0066】
次に、耐候性コーティング液中の溶剤を加熱処理により揮発させる。揮発方法としては、従来公知の方法を特に制限なく使用することができる。このような方法としては、加熱法、減圧乾燥法、熱風乾燥法、自然乾燥法等が例示されるが、特に限定されない。耐候性コーティング液に含まれる溶剤を揮発させる条件は、使用される溶剤に合わせて適宜設定すればよいが、加熱時間及び加熱温度については、ギヤオーブンを使用する場合には15秒〜5分間、60以上200℃以下の範囲であることが好ましく、30秒〜2分間、70℃以上120℃以下であることが更に好ましい。このように加熱することにより、好ましい耐溶剤性及び接着性が発現する。この溶剤揮発の過程において、耐候性コーティング液に含まれる主剤樹脂をポリイソシアネート化合物等の硬化剤によって架橋させることにより、耐候性コーティング層61を皮膜形成する。
【0067】
耐候性コーティング液から溶剤が揮発除去されると、第2主剤樹脂、硬化剤及び耐候性コーティング液に添加したその他の添加剤が基材層60の表面に残って膜を形成する。この膜が硬化して耐候性コーティング層61となる。
【0068】
又、上記の皮膜形成過程において、同時に、基材層60を形成するPPE樹脂の表面から0.1〜5.0μm程度の範囲内の樹脂の一部が溶解し、溶解したPPE樹脂内に、耐候性コーティング層61の含有成分である未反応のイソシアネート等が混交した混合樹脂によって、中間層62が、基材層60と耐候性コーティング層61の間に形成される。そして、この中間層62は、基材層60と耐候性コーティング層61の各層の構成成分が互いに混合している層となっており、耐候性コーティング層61と基材層60が剥離しにくくなる構成となっている。よって基材層60と耐候性コーティング層61は、この中間層62を介して強固に接着されることができる。
【0069】
溶剤を揮発させた後、架橋反応を更に十分に進行させるために、裏面保護シート6を養生に付すことが好ましい。養生の条件は、使用される主剤樹脂及び硬化剤の種類に応じて適宜設定すればよいが、例えば、40℃以上60℃以下で3〜7日間放置することが挙げられる。
【0070】
<太陽電池モジュールの製造方法>
太陽電池モジュール1は、例えば、上記の透明前面基板2、前面封止材層3、太陽電池素子4、背面封止材層5、及び裏面保護シート6からなる部材を順次積層してから真空吸引等により一体化し、その後、ラミネーション法等の成形法により、上記の部材を一体成形体として加熱圧着成形して製造することができる。例えば真空熱ラミネート加工による場合、ラミネート温度は、130℃以上190℃以下の範囲内とすることが好ましい。また、ラミネート時間は、5〜60分の範囲内が好ましく、特に8〜40分の範囲内が好ましい。このようにして、上記の各層を一体成形体として加熱圧着成形して、太陽電池モジュ−ル1を製造することができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例によって、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0072】
<耐候性コーティング液の製造>
(製造例1〜6)
まず最初に、製造例1〜6として、本発明の裏面保護シートに使用する耐候性コーティング液を製造した。耐候性コーティング液については、以下に説明する第2主剤樹脂とポリイソシアネート化合物を所定量配合して製造した。具体的製造方法を以下に説明する。
【0073】
[第2主剤樹脂]
表1に示す通り、各製造例毎に、第2主剤樹脂として、以下の第2主剤樹脂1〜4を用いた。
第2主剤樹脂1:アクリルポリオール樹脂、水酸基価81
第2主剤樹脂2:アクリルポリオール樹脂、水酸基価30
第2主剤樹脂3:アクリルポリオール樹脂、水酸基価20
第2主剤樹脂4:アクリルポリオール樹脂、水酸基価17.5
【0074】
[硬化剤]
表1に示す通り、各製造例毎に硬化剤として、以下のヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)系のポリイソシアネート化合物を用いた。
硬化剤:製品名「FG700」(株式会社DNPファインケミカル社製)
上記各化合物を、製造例3については、固形分80%、その他の製造例については、固形分100%となるように調整した。
【0075】
[溶剤]
表1に○印で示す通り、各製造例毎に溶剤として、以下の溶剤を用いた。耐候性コーティング液の樹脂濃度は重量基準で、5〜11%となるようにそれぞれ調整した。
溶剤1:MEK(製品名「MEK」、三協化学社製)、(蒸発速度:3.7)
溶剤2:溶剤1のMEKと、MIBK(製品名「MIBK」、三協化学社製)(蒸発速度:1.6)、を8:2の割合で混合した溶剤
溶剤3:トルエン(製品名「トルエン」、三協化学社製)(蒸発速度:2.0)
【0076】
上記それぞれの第2主剤樹脂、硬化剤を、下記表1の配合比(質量部)で含有する製造例1〜6の耐候性コーティング液を調整した。尚、製造例1〜6の耐候性コーティング液について、主剤樹脂100質量部に対するポリイソシアネート化合物のNCO基の質量を、測定した。その結果を表1中において、「NCO量」として示した。尚、各耐候性コーティング液のP/V比は、製造例3については2.0、その他の製造例については1.0とした。
【0077】
【表1】
【0078】
<裏面保護シートの製造>
上記の通り製造した製造例1〜6の各耐候性コーティング液を、表2に記載の通りに、裏面保護シートの基材層の一方の面に、塗布し、続いて塗布された耐候性コーティング液から溶剤成分を蒸発させることによって、耐候性コーティング層を形成し、実施例1〜4及び比較例1〜3の裏面保護シートを製造した。尚、裏面保護シートの基材層としては、下記に示した基材シート1又は2を用いた。耐候性コーティング液の塗布量は、表2に示した通りであり、塗布はミヤバー法により行い、5分間、100℃のオーブンによる乾燥で溶剤を蒸発させた。更に、40℃で7日間放置して養生した。
裏面保護シート用基材:下記の基材シート1又は2を裏面保護シート用の基材層として用い、後述する試験方法により密着性を評価した
基材シート1:変性ポリフェニレンエーテルシート(ポリ(2,6−ジメチルフェニレン−1,4−エーテル)):厚さ125μm(商品名「Noryl EFR735」、SABICイノベーティブプラスチックス社製)
基材シート2:ポリエチレンテレフタレート(PET)基材:厚さ250μm(商品名「ルミラーT60」、東レ社製)
【0079】
<裏面保護シートの中間層について>
上記の通り作成した実施例1の裏面保護シートをミクロトームを用いて切片を作製して、TEM(透過型電子顕微鏡)により、撮影したTEM写真が
図3である。
図3に示す通り、PPE樹脂からなる基材シート1を基材層とする実施例1の裏面保護シートには、耐候性コーティング層の下部に、厚さ1.5μm程度の範囲で、基材シート1が、溶解している中間層が形成されていることが確認できた。
【0080】
尚、溶剤としてトルエンを用いた比較例2の裏面保護シートについては、基材層の表面の変質等により、コーティング層が形成できなかったため、以下の試験を行わなかった。
【0081】
<裏面保護シートの接着性評価>
[接着性試験]
上記の通り作成した実施例1〜4及び比較例1の裏面保護シートについて、ASTM D3359、JIS 5400に準じた接着性試験を行い、各層間の接着性を以下の基準で評価した。結果については、「初期接着性」として、下記表2に示す。
5:0%のコーティング剥離
4:5%未満のコーティング剥離
3:5以上15%未満のコーティング剥離
2:15以上35%未満のコーティング剥離
1:35以上65%未満のコーティング剥離
【0082】
[湿熱耐久(PCT)試験]
プレッシャークッカー試験機(平山製作所製:HASTTEST)にて120℃、85%RH、1.6atmの条件に設定し、上記実施例、比較例の裏面保護シートを
96時間、及び168時間投入した。各時間経過後に数時間常温放置し、その後、上記の接着性試験を行い、各層間の接着耐久性を以下の基準で評価した。結果については、「耐久接着性」として、下記表2に示す。
【0083】
<裏面保護シートの耐溶剤性評価>
実施例1〜4及び比較例1の裏面保護シートについて、下記の耐溶剤性試験を行い、耐溶剤性を評価した。
【0084】
[耐溶剤性試験]
実施例及び比較例の裏面保護シートの耐候性コーティング層側の表面に、ASTM D5402−06に準じた耐溶剤試験を実施した。溶剤にはアセトンを染み込ませたコットンを用い、1500gの力で約1秒間に1回の速度で25回擦り、表面を観察、以下の評価基準により評価した。評価結果については、「耐溶剤性」として、下記表2に示した。
5:コーティング層の剥離無し、外観変化無し
4:コーティング層の剥離無し、外観変化有り
3:15回擦りでコーティング層の剥離
2:10回擦りでコーティング層の剥離
1:5回擦りでコーティング層の完全剥離
【0085】
<裏面保護シートの耐候性評価>
実施例及び比較例の裏面保護シートについて、下記に詳細を説明する通りのMW(メタルウェザー)試験を行い、耐候性試験後の耐久密着性を評価した。
【0086】
[耐候性試験]
実施例1〜4及び比較例1の裏面保護シートについて、下記条件により、MW(メタルウェザー)試験を行い、同試験後の各裏面保護シートについて、上記接着性試験と同じ方法で接着性試験を行い、同様の評価基準で耐久接着性を評価し、結果を耐候性の評価結果として表2に示した。
(MW試験)
メタルハライドランプ方式試験機 JTM G 01 2000 日本試験機工業会規格 JTM STANDARD Metalhalide Lamp type apparatus
装置名称:ダイプラ・メタルウェザー(ダイプラ・ウィンテス株式会社製)
型式:KU−R5CI−A
光源ランプ:MW−60W
フィルター:KF−1(照射範囲295nmから780nm)
照度:60±5 mW/cm2(ウシオ電機(株)製照度計使用)
試験条件:Lite(照射)63℃50%RH 20時間、Dew(結露)30℃98%RH 4時間、Rest(休止):30℃、98%RH、0.01時間、Dew前後に10sシャワー を1サイクルとして250時間試験実施。
尚、シャワーには25℃、導電率2μS/cm以下の純水を用いた。
【0087】
<裏面保護シートのコーティング層形成に係る製造適性(印刷適性)評価>
実施例1と実施例4について、印刷適性の評価を行った。評価は、耐候性コーティング液の塗布後、指触による痕跡をつけ、「痕跡が残らなくなる」、又は「タック性が無くなる」までの「乾燥時間」を測定し、測定した時間を以下の評価基準で評価する方法により行った。評価結果については、「印刷適性」として、下記表2に示した。
5:乾燥時間60秒以上
3:乾燥時間50秒以上60秒未満
1:乾燥時間50秒未満
【0088】
【表2】
【0089】
表2より、本発明の裏面保護シートは、接着性、耐溶剤性において優れたものであり、太陽電池モジュール用の裏面保護シートに、好ましい耐候性を付与することができるものであることが分かる。又、実施例4に示す通り、特定の配合比からなる溶剤を、適切に選択することによって、更に製造適性(印刷適性)においても優れたものとすることができることが分る。