特許第6011046号(P6011046)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6011046-静電荷像現像用トナーの製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011046
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】静電荷像現像用トナーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/08 20060101AFI20161006BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   G03G9/08 311
   G03G9/08 325
   G03G9/08 331
   G03G9/08 368
   G03G9/08 381
【請求項の数】3
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2012-132701(P2012-132701)
(22)【出願日】2012年6月12日
(65)【公開番号】特開2013-257404(P2013-257404A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2015年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 隼也
(72)【発明者】
【氏名】上田 昇
(72)【発明者】
【氏名】大西 隼也
(72)【発明者】
【氏名】大野 陽平
(72)【発明者】
【氏名】北條 育子
【審査官】 野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−285215(JP,A)
【文献】 特開2005−148409(JP,A)
【文献】 特開2004−109281(JP,A)
【文献】 特開2003−091093(JP,A)
【文献】 特開2012−027179(JP,A)
【文献】 特開2006−215312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/00 − 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも結着樹脂と着色剤を含有するコア粒子の表面に無機層を有し、前記無機層の表面に結着樹脂を含有するシェル層を有するトナー粒子を含有する静電荷像現像用トナーの製造方法であって、
前記コア粒子の水系分散液を調製する工程と、
前記コア粒子の表面に前記無機層を形成する工程と、
前記無機層が形成されたコア粒子の水系分散液にシェル層形成用微粒子の水系分散液を混合して、前記コア粒子の表面の無機層の表面に前記シェル層を形成するシェル化工程とを有し、
前記無機層を形成する工程が、前記コア粒子の表面にゾルゲル法によりシリカを含有する無機層を形成する工程であることを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項2】
前記シェル層を構成する樹脂が、少なくともスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂を含有することを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項3】
前記無機層の厚さが、0.1〜1.2μmの範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静電荷像現像用トナー製造方法に関し、更に詳しくは、電子写真方式の画像形成装置に用いられる静電荷像現像用トナー製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」ともいう。)の分野では、市場からの要求に応じて、高画質化に対応できるトナーが求められている。高画質化に対応するトナーとしては、従来に比べて粒径が小さくかつ粒径分布がシャープなトナーが求められている。トナーが小粒径化し粒径分布がシャープになると個々のトナー粒子の現像挙動が揃うことにより、微小ドットの再現性が著しく向上する。しかしながら、従来の粉砕法によるトナー製造方法では、トナーの微粒化には限界があり、またトナーの粒径分布をシャープにすることは容易ではなかった。
【0003】
これに対して、トナー粒子の形状や粒径分布を任意に制御可能な製造方法として、乳化凝集法が提案されている。この方法は、樹脂微粒子の乳化分散液に着色剤粒子分散液や必要に応じてワックス分散液を混合し、攪拌しながら、凝集剤添加、pH制御等により、それぞれの粒子を凝集させ、さらに加熱することによって、粒子を凝集、融着させてトナー粒子を得るものである。
【0004】
また、省エネルギーの観点から、少ないエネルギーで定着できる低温定着トナーの開発が進められている。トナーの定着温度を下げるためには、結着樹脂の溶融温度や溶融粘度を下げることが必要である。しかしながら、結着樹脂の溶融温度や溶融粘度を下げるため、結着樹脂のガラス転移点や分子量を下げるとトナーの耐熱保管性が劣る、あるいはホットオフセットという現象が発生するなど新たな問題が生じる。
【0005】
低温定着性と耐熱保管性を両立させるためにトナーをコア・シェル構造に制御する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。すなわち、低温定着性に優れたコア粒子表面にガラス転移点や軟化点が高く耐熱性に優れた樹脂粒子からなるシェル層を形成することにより、低温定着性と耐熱保管性を両立させる技術が提案されている。特に乳化凝集法によるトナーの製造においては、このような形状制御や機能向上が容易に行えるという利点がある。一方、近年プロダクションプリント領域においては、複写機、プリンターの高速化及び対応紙種の拡大が進んでおり、このような低温定着性と耐熱保管性の優れたコア・シェル構造のトナーの適用が進んでいる。
【0006】
低温定着が可能なトナーは、低い定着温度で溶融可能であり、また定着温度での溶融粘度が低いために、定着ローラや定着ベルトに圧接されたときに定着画像のトナー画像面が平滑になり、トナー画像が光沢を帯びる傾向がある。このような光沢のある画像は、写真画像においては好まれるものであるが、特に事務用の文書においては、好ましいものではなく、低光沢の画像が望まれている。
【0007】
また、定着ローラや定着ベルトは、コピ−紙などの転写材が通過するときに熱を奪われるため、同一転写材内、すなわち1枚のコピー紙内で、定着ローラや定着ベルトの2周目に相当する部分において、定着温度が下がるために、トナーが十分に溶融せずトナー画像面の光沢度が下がり、同一転写材内で光沢ムラを生じるという問題があった。
【0008】
一方、トナー画像を低光沢にする目的で、トナー粒子中に無機微粒子を含有させる技術が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0009】
この技術によれば、トナー粒子中に無機微粒子を含有させることによって、トナーの弾性が向上し、定着された画像の表面が平滑になりにくく、その結果、画像の剥離性が向上し、かつ低光沢な画像が得られるというものである。しかし、トナー粒子中に無機微粒子を含有させることによって、弾性が高くなり、低温定着性が損なわれてしまうという問題があった。
【0010】
このように低温定着性を維持しつつ、低光沢かつ光沢ムラの発生を抑えるという点において、いまだ十分といえるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−116574号公報
【特許文献2】特開2011−39382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、低温定着性を維持しながら、低光沢かつ光沢ムラの発生しない静電荷像現像用トナー製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、コア・シェル構造を有するトナー粒子において、コア粒子の表面に無機微粒子からなる無機層有するトナー粒子とすることにより、上記課題が解決できることを見いだし本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0019】
1.少なくとも結着樹脂と着色剤を含有するコア粒子の表面に無機層を有し、前記無機層の表面に結着樹脂を含有するシェル層を有するトナー粒子を含有する静電荷像現像用トナーの製造方法であって、
前記コア粒子の水系分散液を調製する工程と、
前記コア粒子の表面に前記無機層を形成する工程と、
前記無機層が形成されたコア粒子の水系分散液にシェル層形成用微粒子の水系分散液を混合して、前記コア粒子の表面の無機層の表面に前記シェル層を形成するシェル化工程とを有し、
前記無機層を形成する工程が、前記コア粒子の表面にゾルゲル法によりシリカを含有する無機層を形成する工程であることを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造方法。
2.前記シェル層を構成する樹脂が、少なくともスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂を含有することを特徴とする第1項に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
3.前記無機層の厚さが、0.1〜1.2μmの範囲内であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の上記手段により、低温定着性を維持しながら、低光沢かつ光沢ムラの発生しない静電荷像現像用トナー製造方法を提供することができる。
【0023】
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0024】
本発明においては、少なくとも結着樹脂と着色剤を含有するコア粒子の表面に、結着樹脂を含有するシェル層を有するコア・シェル構造のトナー粒子を含有する静電荷像現像用トナーにおいて、当該コア粒子の表面に無機層を有することによって、トナーの弾性が高くなり、定着された画像の表面が平滑になりにくくなる効果により、定着画像を低光沢にすることができる。また、定着画像を低光沢にすることによって定着ムラを低減することができたものと考えられる。すなわち、定着画像の光沢度を下げることによって、定着ベルト、あるいは定着ローラの表面温度が下がっても、同一紙面内で光沢ムラが目立たなくなるものと考えられる。
【0025】
さらに、本発明では、シェル層を構成する樹脂として、例えば、スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂を用いた場合には、ポリエステル樹脂の持つ高いガラス転移点と低軟化点特性により、シェル層で低温定着効果が発現され、無機層を有するコア粒子の高い弾性効果によって、低温定着性を維持しながら、低光沢かつ光沢ムラの無い定着画像をより確実に実現させることができる。これによって、低温定着性を維持しながら、低光沢かつ光沢ムラの無い定着画像を実現することができたものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明のトナーの構造を説明する模式図
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の静電荷像現像用トナーの製造方法は、少なくとも結着樹脂と着色剤を含有するコア粒子の表面に無機層を有し、前記無機層の表面に結着樹脂を含有するシェル層を有するトナー粒子を含有する静電荷像現像用トナーの製造方法であって、前記コア粒子の水系分散液を調製する工程と、前記コア粒子の表面に前記無機層を形成する工程と、前記無機層が形成されたコア粒子の水系分散液にシェル層形成用微粒子の水系分散液を混合して、前記コア粒子の表面の無機層の表面に前記シェル層を形成するシェル化工程とを有し、前記無機層を形成する工程が、前記コア粒子の表面にゾルゲル法によりシリカを含有する無機層を形成する工程であることを特徴とする。この特徴は請求項1から請求項3までの請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0028】
本発明の実施態様として、前記シェル層を構成する樹脂が、スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂を含有することが、低温定着性を維持しながら、低光沢かつ光沢ムラの発生しない静電荷像現像用トナー製造方法を提供することができるので好ましい。
【0030】
また、本発明においては、前記無機層の厚さが0.1〜1.2μmの範囲内であることが無機層の効果を発現させることができるので好ましい。
【0034】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明を行う。なお、本願において、「〜」は、その前後の数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0035】
<トナー>
本発明の静電荷像現像用トナーは、コア・シェル構造のトナー粒子からなるもので、少なくとも結着樹脂と着色剤を含有するコア粒子の表面に、結着樹脂を含有するシェル層を有するコア・シェル構造のトナー粒子を含有する静電荷像現像用トナーにおいて、当該コア粒子の表面に無機層を有し、当該無機層の表面にシェル層を有することを特徴としている。図1は上記コア・シェル構造のトナー粒子を説明する模式図であり、コア粒子Cの表面に無機層Bを有し、無機層Bの表面にシェル層Aを有する構造となっている。
【0036】
本発明のトナーを構成するコア・シェル構造のトナー粒子の平均粒径は、好ましくは体積基準メディン径(D50)3〜10μmであり、コア粒子表面に厚さ0.1〜1.2μmの無機層を有し、更にその上に厚さ100〜300nmのシェル層が形成されているものである。
【0037】
〔無機層〕
(無機微粒子)
本発明に係るコア粒子表面の無機層は、無機微粒子から構成されるものであることが好ましく、当該無機層を構成する無機微粒子としては、特に制限されるものではないが、金属酸化物微粒子が好ましい。具体例として、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、及びジルコニア等の微粒子が挙げられる。無機微粒子の粒径は、30〜200nmであることが好ましい。本発明においては、シリカが好ましく、またシリカを含有する無機層としては、コア粒子表面に湿式法で形成されたシリカ微粒子を含有することが好ましい。
【0038】
(無機層の形成)
本発明におけるコア粒子表面をシリカの微粒子からなる無機層で覆う方法としては、例えば、ゾルゲル法を用いたシリカ被覆技術を用いることで達成することが可能である。無機層の形成をゾルゲル法で行うことにより、コア粒子表面をより均一な無機層で被覆することができるため、シェル層の低温定着効果を発揮することができる。また、乾式法によりコア粒子表面に無機層を形成することも可能である。
【0039】
(ゾルゲル法による無機層の形成)
ゾルゲル法によるシリカ被覆は具体的には次のような方法で行う。
【0040】
母体となるコア粒子の水系分散液にシランアルコキサイドを溶解させた水、又は水系媒体を添加する。この分散溶液を、アルカリを加えてある水、又は水系媒体に滴下するか、若しくは上記分散液にアルカリを加えてある水、又は水系媒体を滴下する。この方法によると、コア粒子が含有されている分散液中に溶解していたシランアルコキサイドが、アルカリの存在下で加水分解及び重縮合を起こし、徐々に不溶化していき、更に、疎水性相互作用からコア粒子の表面に堆積することになる。この結果、コア粒子の表面に、シリカを含む粒状塊同士が固着されることによって形成されるシリカの無機層が形成される。
【0041】
上記で使用するシランアルコキサイドとしては、以下のようなものが挙げられる。2官能以上のアルコキサイドとしては、例えば、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、トリエトキシクロロシラン、ジ−t−ブトキシジアセトキシシラン、ヒドロキシメチルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラキス(2−メタクリロキシエトキシシラン)シラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、ビス(トリエトキシシリル)エチレン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)1,7−オクタジエン、2,2−(クロロメチル)アリルトリメトキシシラン、((クロロメチル)フェニルエチル)トリメトキシシラン、1,3−ジビニルテトラエトキシジシロキサン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)メチルジエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)メチルジメトキシシラン(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メタクリルアミドプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、7−オクテニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、及びビニルトリフェノキシシラン等が挙げられる。
【0042】
上記の2官能以上のシランアルコキサイドと併用することのできる1官能のシランアルコキサイドとしては、例えば、(3−アクリロキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、o−アクリロキシ(ポリエチレンオキシ)トリメチルシラン、アクリロキシトリメチルシラン、1,3−ビス(メタクリロキシ)−2−トリメチルシロキシプロパン3−クロロ−2−トリメチルシロキシプロペン、(シクロヘキセニロキシ)トリメチルシラン、メタクリロキシエトキシトリメチルシラン、及び(メタクリロキシメチル)ジメチルエトキシシラン等が挙げられる。これらのシランアルコキサイドは単独で用いても、あるいは2種以上を複合して用いてもよい。
【0043】
なお、本発明において、「水系媒体」とは、水50〜100質量%と、水溶性の有機溶媒0〜50質量%とからなる媒体をいう。水溶性の有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、及びテトラヒドロフランを例示することができ、得られる樹脂を溶解しないアルコール系有機溶媒が好ましい。これらの溶媒の有機性が高くなるとシランアルコキサイドの重縮合物の溶解性が高まり、トナー粒子表面にシランアルコキサイドの重縮合物が堆積し難くなる。従って、上記の水系媒体としては、メタノール又はエタノールを用いることが好ましい。
【0044】
また、上記の方法で作製したシリカなどの無機層を有するコア粒子を高温高湿下においても安定した効果をもたせるために、無機層を有するコア粒子表面の疎水化処理を行うこともできる。疎水化の方法としては、疎水化処理剤とカップリングさせればよい。疎水化処理剤としては、一般的なシラン化合物を用いることができる。具体的には、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、トリエトキシクロロシラン、ジ−t−ブトキシジアセトキシシラン、ヒドロキシメチルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラキス(2−メタクリロキシエトキシシラン)シラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリル)エチレン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)1,7−オクタジエン、2,2−(クロロメチル)アリルトリメトキシシラン、((クロロメチル)フェニルエチル)トリメトキシシラン、1,3−ジビニルテトラエトキシジシロキサン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)メチルジエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メタクリルアミドプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、1,7−オクタジエニルトリエトキシシラン、7−オクテニルトリメトキシシラン、テトラキス(エトキシエトキシ)シラン、テトラキス(2−メタクリロキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、及びメトクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の二官能以上のシラン化合物に加えて、(3−アクリロキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、o−アクリロキシ(ポリエチレンオキシ)トリメチルシラン、アクリロキシトリメチルシラン、1,3−ビス(メタクリロキシ)−2−トリメチルシロキシプロパン、3−クロロ−2−トリメチルシロキシプロペン、(シクロヘキセニロキシ)トリメチルシラン、メタクリロキシエトキシトリメチルシラン、及び(メタクリロキシメチル)ジメチルエトキシシラン等の一官能のシラン化合物が挙げられる。更に、アリルオキシトリメチルシラン、トリメチルクロルシラン、ヘキサメチルジシラザン、ジメチルアミノトリメチルシラン、ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、トリメチルシリルジフェニル尿素、ビス(トリメチルシリル)尿素、又はトリメチルシリルイミダゾールの如きいわゆるシリル化剤も本発明における疎水化処理剤として用いることができる。
【0045】
(乾式法による無機層の形成)
乾式法による無機層の形成は、一般的なトナーの外添剤混合方法と同様の方法を用いることができる。すなわち、ろ過、乾燥して取り出したコア粒子母体と無機微粒子を、例えば、機械式攪拌混合機を用いて、攪拌混合することによってコア粒子表面に無機微粒子からなる無機層を形成させることができる。
【0046】
〔無機層の厚さ〕
無機層の厚さは特に制限されず、通常は0.1〜1.2μmであることが好ましい。無機層の厚さが0.1〜1.2μmの範囲内のとき、低光沢化の効果が確実に得られ、かつ、1.2μm以下では、良好な低温定着性の発現を両立させることができるので好ましい。また、トナー中における無機微粒子の含有量は、0.2〜2質量%であることが、低光沢かつ光沢ムラ防止の効果が得られるので好ましい。すなわち、無機微粒子の含有量が0.2〜2質量%のとき、低光沢化と光沢ムラの発生防止の効果が十分に発現され、かつ、低温定着性も良好に発現される。
【0047】
無機層の厚さは、公知の方法により制御が可能であるが、例えば、ゾルゲル法でシリカを含有する無機層を形成する場合には、後述する実施例にも記載のように、原料であるシランアルコキサイドの添加量を変化させることにより、形成する無機層の厚さを制御することが可能である。また、乾式法で形成する場合には、疎水性シリカ等の無機層形成原料の添加量を変化させて厚さを制御することが可能である。
【0048】
(無機層の厚さの測定法)
無機層の厚さは、「マイクロトラックUPA−150」(日機装社製)を用いてコア粒子及び無機層を形成した粒子の粒径を測定し、その差分を無機層の厚さとした。
【0049】
具体的には以下の手順で行われる。先ず、50mlのメスシリンダーに測定粒子を数滴滴下し、純水を25ml加え、超音波洗浄機「US−1(as one社製)」を用いて3分間分散させ測定用試料を調製する。次いで、測定用試料3mlを「マイクロトラックUPA−150」のセル内に投入し、Sample Loadingの値が0.1〜100の範囲にあることを確認する。そして、下記測定条件にて測定する。
【0050】
(測定条件)
Transparency(透明度):Yes
Refractive Index(屈折率):1.59
Particle Density(粒子比重):1.05mg/cm
Spherical Particles(球形粒子):Yes
(溶媒条件)
Refractive Index(屈折率):1.33
Viscosity(粘度):High(temp) 0.797×10−3Pa・s
Low(temp) 1.00×10−3Pa・s
〔シェル層〕
本発明のトナーを構成するシェル層を構成する樹脂としては、従来、電子写真用トナーの結着樹脂として用いられる樹脂を用いることができる。このような樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン−(メタ)アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂などのビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスルホン樹脂、エポキシ樹脂ポリウレタン樹脂、又は尿素樹脂などを用いることができる。またこれらの樹脂を2種以上混合しても良い。
【0051】
本発明においては、シェル層を構成する樹脂(以下、「シェル樹脂」ともいう。)は、スチレン−アクリル共重合体分子鎖とポリエステル分子鎖とが分子結合した構造のスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂を含むことが低温定着性の観点から好ましい。
【0052】
シェル樹脂において、スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂と共に含有させることのできる樹脂としては、例えばスチレン−アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、及びウレタン樹脂などが挙げられる。
【0053】
シェル樹脂におけるスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂の含有割合は、シェル樹脂100質量%中において70〜100質量%であることが好ましく、90〜100質量%であることがさらに好ましい。
【0054】
シェル樹脂におけるスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂の含有割合を上記範囲とすることにより、コア粒子とシェル層との間に十分な親和性が得られ易くなり所望のシェル層を形成し易くなる。その結果、十分な耐熱保管性、帯電性又は耐破砕性を有するコア・シェル構造のトナー粒子をより確実に作製することができる。
【0055】
またシェル層の厚さは、100〜300nmの範囲内であることが、耐熱保管性、耐破砕性の観点から好ましい。
【0056】
また、トナーを構成するシェル層の樹脂にスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂を用いることにより、以下の効果が得られる。
【0057】
すなわち、一般に、トナー粒子の設計においてポリエステル樹脂を結着樹脂として用いることの利点は、ポリエステル樹脂がスチレン−アクリル系樹脂に比べて高いガラス転移点(Tg)を維持したまま低軟化点化の設計が容易に行えることにある。つまり、ポリエステル樹脂は低温定着性と耐熱保管性との両方を満足するために好適な樹脂である。そして、シェル層に用いられるポリエステル樹脂にスチレン−アクリル系重合体セグメントを導入することによって、ポリエステル樹脂の高いガラス転移点と低い軟化点を維持したままコア粒子のスチレン−アクリル系樹脂との親和性が高められ、これにより、薄層でありながらより均一な膜厚でかつその表面が平滑なシェル層を形成することができる。従って、本発明のトナーによれば、低温定着性と耐熱保管性との両方を満足すると共に優れた帯電性が得られ、さらに、シェル層が剥がれ難くなったことにより、現像器内において撹拌されてストレスを受けても破砕されることのない耐破砕性が十分に得られ、その結果、例えば高速機などの高機能機においても画像ノイズのない高い画質の画像が得られる。
【0058】
そして、本発明においては、スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂におけるスチレン−アクリル系重合体セグメントの含有割合(以下、「スチレン−アクリル変性量」ともいう。)が5質量%以上30質量%以下とされており、特に、5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0059】
スチレン−アクリル変性量は、具体的には、スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂を合成するために用いられる樹脂材料の全質量、すなわち、ポリエステルセグメントとなる未変性のポリエステル樹脂と、スチレン−アクリル系重合体セグメントとなる芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体と、これらを結合させるための両反応性モノマーを合計した全質量に対する、芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体の質量の割合をいう。
【0060】
スチレン−アクリル変性量が上記の範囲にあることにより、スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂とコア粒子との親和性が適正に制御され、薄層でありながらより均一な膜厚でかつ平滑なシェル層を形成することができる。一方、スチレン−アクリル変性量が過小である場合は、均一な膜厚のシェル層を形成することができず、部分的にコア粒子が露出してしまう結果、十分な耐熱保管性及び帯電性が得られない。また、スチレン−アクリル変性量が過大である場合は、スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂が軟化点の高いものとなるため、トナー粒子全体として十分な低温定着性が得られない。
【0061】
また、本発明のトナーにおいては、スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂のポリエステルセグメントを形成するために多価カルボン酸モノマーとして脂肪族不飽和ジカルボン酸が用いられて、このポリエステルセグメントに当該脂肪族不飽和ジカルボン酸に由来の構造単位が含有されることが好ましい。
【0062】
脂肪族不飽和ジカルボン酸とは、分子内にビニレン基を有する鎖状のジカルボン酸をいう。
【0063】
脂肪族不飽和ジカルボン酸に由来の構造単位を有するスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂によれば、薄層でありながらより均一な膜厚でかつ平滑なシェル層を確実に形成することができる。
【0064】
このスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂のポリエステルセグメントを構成する多価カルボン酸モノマーに由来の構造単位における、脂肪族不飽和ジカルボン酸に由来の構造単位の含有割合(以下、「特定の不飽和ジカルボン酸含有割合」ともいう。)が25モル%以上75モル%以下とされることが好ましく、特に30モル%以上60モル%以下であることがより好ましい。
【0065】
特定の不飽和ジカルボン酸含有割合が上記の範囲にあることにより、薄層でありながらより均一な膜厚でかつ平滑なシェル層を一層確実に形成することができる。一方、特定の不飽和ジカルボン酸含有割合が過小である場合は、十分な耐熱保管性及び帯電性が得られないことがあり、また、特定の不飽和ジカルボン酸含有割合が過大である場合は、十分な帯電性が得られないことがある。
【0066】
脂肪族不飽和ジカルボン酸に由来の構造単位としては、下記一般式(A)で表されるものに由来の構造単位であることが好ましい。
【0067】
一般式(A):HOOC−(CR=CR−COOH
〔式中、R、Rは水素原子、メチル基又はエチル基であって、互いに同じであっても異なっていてもよい。nは1又は2の整数である。〕
このような脂肪族不飽和ジカルボン酸に由来の構造単位が含有されていることにより、薄層でありながらより均一な膜厚でかつ平滑なシェル層を一層確実に形成することができる。
【0068】
これは、ビニレン基を有する脂肪族不飽和ジカルボン酸に由来の構造単位を有するスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂を用いることにより、例えば後述する乳化重合凝集法によってトナー粒子を製造する場合に、エマルション化したときの当該スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂による微粒子の乳化安定性が向上するために、コア粒子の表面への凝集が均一に進むためと推察される。また、ビニレン基を有する脂肪族不飽和ジカルボン酸に由来の構造単位を有するスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂は、極性が高いものであるために、これを用いてトナー粒子を例えば後述する乳化重合凝集法によって製造する場合に、シェル層を形成すべきスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂による微粒子のポリエステルセグメント部分が、凝集粒子における表面側に配向し易くなったためとも推察される。
【0069】
シェル樹脂は、低温定着性及び定着分離性などの定着性、並びに、耐熱保管性及び耐ブロッキング性などの耐熱性を確実に得る観点から、ガラス転移点が50〜70℃であることが好ましく、より好ましくは50〜65℃であり、かつ、軟化点が80〜110℃であることが好ましい。
【0070】
シェル樹脂のガラス転移点は、ASTM(米国材料試験協会規格)D3418−82に規定された方法(DSC法)によって測定された値である。
【0071】
また、シェル樹脂の軟化点は、以下のように測定されるものである。
【0072】
まず、20℃±1℃、50%±5%RHの環境下において、シェル樹脂1.1gをシャーレに入れ平らにならし、12時間以上放置した後、成型器「SSP−10A」(島津製作所製)によって3820kg/cmの力で30秒間加圧し、直径1cmの円柱型の成型サンプルを作製し、次いで、この成型サンプルを、24℃±5℃、50%±20%RHの環境下において、フローテスター「CFT−500D」(島津製作所製)により、荷重196N(20kgf)、開始温度60℃、予熱時間300秒間、昇温速度6℃/分の条件で、円柱型ダイの穴(1mm径×1mm)より、直径1cmのピストンを用いて予熱終了時から押し出し、昇温法の溶融温度測定方法でオフセット値5mmの設定で測定したオフセット法温度Toffsetが、シェル樹脂の軟化点とされる。
【0073】
トナーを構成する結着樹脂におけるシェル樹脂の含有割合は、結着樹脂全量の5〜50質量%であることが好ましく、10〜40質量%であることがより好ましい。
【0074】
結着樹脂におけるシェル樹脂の含有割合が上記範囲内であると耐熱保管性と低温定着性が良好となるので好ましい。
【0075】
(スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂の作製方法)
以上のようなシェル樹脂に含有されるスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂を製造する方法としては、既存の一般的なスキームを使用することができる。代表的な方法としては、次の3つが挙げられる。
【0076】
(A−1)ポリエステルセグメントをあらかじめ重合しておき、当該ポリエステルセグメントに両反応性モノマーを反応させ、さらに、スチレン−アクリル系重合体セグメントを形成するための芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体を反応させることにより、スチレン−アクリル系重合セグメントを形成する方法。
【0077】
(A−2)スチレン−アクリル系重合体セグメントをあらかじめ重合しておき、当該スチレン−アクリル系重合体セグメントに両反応性モノマーを反応させ、さらに、ポリエステルセグメントを形成するための多価カルボン酸モノマー及び多価アルコールモノマーを反応させることにより、ポリエステルセグメントを形成する方法。
【0078】
(A−3)ポリエステルセグメント及びスチレン−アクリル系重合体セグメントをそれぞれあらかじめ重合しておき、これらに両反応性モノマーを反応させることにより、両者を結合させる方法。
【0079】
本明細書において、両反応性モノマーとは、スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂のポリエステルセグメントを形成するための多価カルボン酸モノマー及び/又は多価アルコールモノマーと反応し得る基と、重合性不飽和基とを有するモノマーである。
【0080】
(A−1)の方法について具体的に説明すると、
(1)未変性のポリエステル樹脂と、芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体と、両反応性モノマーとを混合する混合工程(1)、
(2)芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合させる重合工程(2)、
を経ることにより、ポリエステルセグメントの末端にスチレン−アクリル系重合体セグメントを形成させることができる。
【0081】
混合工程(1)においては、加熱することが好ましい。加熱温度としては、未変性のポリエステル樹脂、芳香族系ビニル単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及び両反応性モノマーを混合させることができる範囲であればよく、良好な混合が得られると共に、重合制御が容易となることから、例えば80〜120℃とすることができ、より好ましくは85〜115℃、さらに好ましくは90〜110℃である。
【0082】
未変性のポリエステル樹脂、芳香族系ビニル単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及び両反応性モノマーのうち、芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体の使用割合は、用いられる樹脂材料の全質量、すなわち前記の4者の全質量を100質量%としたときの芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体の合計の割合が5質量%以上30質量%以下とされ、特に、5質量%以上20質量%以下とすることが好ましい。
【0083】
用いられる樹脂材料の全質量に対する芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体の合計の割合が上記の範囲にあることにより、スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂とコア粒子との親和性が適正に制御され、薄層でありながらより均一な膜厚でかつ平滑なシェル層を形成することができる。
【0084】
また、芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体の相対的な割合は、下記式(ア)で表されるFOX式で算出されるガラス転移点(Tg)が35〜80℃、好ましくは40〜60℃の範囲となるような割合とすることが好ましい。
【0085】
式(ア):1/Tg=Σ(Wx/Tgx)
〔式(ア)において、Wxは単量体xの重量分率、Tgxは単量体xの単独重合体のガラス転移点である。〕
なお、本明細書においては、両反応性モノマーはガラス転移点の計算に用いないものとする。
【0086】
未変性のポリエステル樹脂、芳香族系ビニル単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及び両反応性モノマーのうち、両反応性モノマーの使用割合は、用いられる樹脂材料の全質量、すなわち前記の4者の全質量を100質量%としたときの両反応性モノマーの割合が0.1質量%以上5.0質量%以下とされ、特に、0.5質量%以上3.0質量%以下とすることが好ましい。
【0087】
(芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体)
スチレン−アクリル系重合体セグメントを形成するための芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体は、ラジカル重合を行うことができるエチレン性不飽和結合を有するものである。
【0088】
芳香族系ビニル単量体としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、p−エチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、3,4−ジクロロスチレン、及びその誘導体が挙げられる。
【0089】
これらの芳香族系ビニル単量体は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0090】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、β−ヒドロキシアクリル酸エチル、γ−アミノアクリル酸プロピル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、及びメタクリル酸ジエチルアミノエチルなどが挙げられる。
【0091】
これらの(メタ)アクリル酸エステル系単量体は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0092】
スチレン−アクリル系重合体セグメントを形成するための芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、優れた帯電性、画質特性などを得る観点から、スチレン又はその誘導体を多く用いることが好ましい。具体的には、スチレン又はその誘導体の使用量が、スチレン−アクリル系重合体セグメントを形成するために用いられる全単量体(芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体)中の50質量%以上であることが好ましい。
【0093】
(両反応性モノマー)
スチレン−アクリル系重合体セグメントを形成するための両反応性モノマーとしては、ポリエステルセグメントを形成するための多価カルボン酸モノマー及び/又は多価アルコールモノマーと反応し得る基と重合性不飽和基とを有するモノマーであればよく、具体的には、例えばアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸及び無水マレイン酸などを用いることができる。
【0094】
(ポリエステル樹脂)
本発明に係るスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂を作製するために用いるポリエステル樹脂は、多価カルボン酸モノマー(誘導体)及び多価アルコールモノマー(誘導体)を原料として適宜の触媒の存在下で重縮合反応によって製造されたものである。
【0095】
多価カルボン酸モノマー誘導体としては、多価カルボン酸モノマーのアルキルエステル、酸無水物及び酸塩化物を用いることができ、多価アルコールモノマー誘導体としては、多価アルコールモノマーのエステル化合物及びヒドロキシカルボン酸を用いることができる。
【0096】
多価カルボン酸モノマーとしては、例えばシュウ酸、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、β−メチルアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、フマル酸、シトラコン酸、ジグリコール酸、シクロヘキサン−3,5−ジエン−1,2−ジカルボン酸、リンゴ酸、クエン酸、ヘキサヒドロテレフタール酸、マロン酸、ピメリン酸、酒石酸、粘液酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラクロロフタル酸、クロロフタル酸、ニトロフタル酸、p−カルボキシフェニル酢酸、p−フェニレン二酢酸、m−フェニレンジグリコール酸、p−フェニレンジグリコール酸、o−フェニレンジグリコール酸、ジフェニル酢酸、ジフェニル−p,p′−ジカルボン酸、ナフタレン−1,4−ジカルボン酸、ナフタレン−1,5−ジカルボン酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ドデセニルコハク酸などの2価のカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、ピレントリカルボン酸、及びピレンテトラカルボン酸などの2価以上のカルボン酸などを挙げることができる。
【0097】
多価カルボン酸モノマーとしては、フマル酸、マレイン酸、又はメサコン酸などの脂肪族不飽和ジカルボン酸を用いることが好ましく、特に、上記一般式(A)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸を用いることが好ましい。
【0098】
脂肪族不飽和ジカルボン酸を用いることにより、得られたスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂が、確実に、薄層でありながらより均一な膜厚でかつ平滑なシェル層を形成することができるものとなる。特に、上記一般式(A)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸を用いることにより、得られたスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂が、一層確実に、薄層でありながらより均一な膜厚でかつ平滑なシェル層を形成することができるものとなる。
【0099】
用いる全多価カルボン酸モノマーにおける脂肪族不飽和ジカルボン酸の割合は、25モル%以上75モル%以下とされることが好ましく、特に30モル%以上60モル%以下であることがより好ましい。
【0100】
用いる脂肪族不飽和ジカルボン酸の割合が上記の範囲にあることにより、得られたスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂が、より一層確実に、薄層でありながらより均一な膜厚でかつ平滑なシェル層を形成することができるものとなる。一方、用いる脂肪族不飽和ジカルボン酸の割合が過小である場合は、得られるトナーに十分な耐熱保管性及び帯電性が得られないことがあり、また、用いる脂肪族不飽和ジカルボン酸の割合が過大である場合は、得られるトナーに十分な帯電性が得られないことがある。
【0101】
多価アルコールモノマーとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物などの2価のアルコール;グリセリン、ペンタエリスリトール、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサエチロールメラミン、テトラメチロールベンゾグアナミン、及びテトラエチロールベンゾグアナミンなどの3価以上のポリオールなどを挙げることができる。
【0102】
上記の多価カルボン酸モノマーと多価アルコールモノマーの比率は、多価アルコールモノマーのヒドロキシ基[OH]と多価カルボン酸のカルボキシ基[COOH]との当量比[OH]/[COOH]が、好ましくは1.5/1〜1/1.5、さらに好ましくは1.2/1〜1/1.2である。
【0103】
ポリエステル樹脂を合成するための触媒としては、従来公知の種々の触媒を使用することができる。
【0104】
スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂を得るための未変性のポリエステル樹脂は、ガラス転移点が40℃以上70℃以下であることが好ましく、より好ましくは50℃以上65℃以下の範囲である。未変性のポリエステル樹脂のガラス転移点が40℃以上であることにより、当該ポリエステル樹脂について高温領域における凝集力が適切なものとなり、定着の際にホットオフセット現象を生じることが抑制される。また、未変性のポリエステル樹脂のガラス転移点が70℃以下であることにより、定着の際に十分な溶融を得ることができて十分な最低定着温度を確保することができる。
【0105】
また、当該未変性のポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、1,500以上60,000以下であることが好ましく、より好ましくは3,000以上40,000以下の範囲である。
【0106】
重量平均分子量が1,500以上であることにより、結着樹脂全体として好適な凝集力が得られ、定着の際にホットオフセット現象を生じることが抑制される。また、重量平均分子量が60,000以下であることにより、十分な溶融を得ることができて十分な最低定着温度を確保することができながら、定着の際にホットオフセット現象を生じることが抑制される。
【0107】
当該未変性のポリエステル樹脂は、用いる多価カルボン酸モノマー及び/又は多価アルコールモノマーとして、カルボン酸価数又はアルコール価数を選択することなどによって、一部枝分かれ構造や架橋構造などが形成されていてもよい。
【0108】
(重合開始剤)
前記重合工程(2)においては、ラジカル重合開始剤の存在下で重合を行うことが好ましく、ラジカル重合開始剤の添加の時期は特に制限されないが、ラジカル重合の制御が容易であるという点で、混合工程の後で添加することが好ましい。
【0109】
重合開始剤としては、公知の種々の重合開始剤が好適に用いられる。具体的には、例えば過酸化水素、過酸化アセチル、過酸化クミル、過酸化−tert−ブチル、過酸化プロピオニル、過酸化ベンゾイル、過酸化クロロベンゾイル、過酸化ジクロロベンゾイル、過酸化ブロモメチルベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、ペルオキシ炭酸ジイソプロピル、テトラリンヒドロペルオキシド、1−フェニル−2−メチルプロピル−1−ヒドロペルオキシド、過トリフェニル酢酸−tert−ヒドロペルオキシド、過ギ酸−tert−ブチル、過酢酸−tert−ブチル、過安息香酸−tert−ブチル、過フェニル酢酸−tert−ブチル、過メトキシ酢酸−tert−ブチル、過N−(3−トルイル)パルミチン酸−tert−ブチルなどの過酸化物類;2,2′−アゾビス(2−アミノジプロパン)塩酸塩、2,2′−アゾビス−(2−アミノジプロパン)硝酸塩、1,1′−アゾビス(1−メチルブチロニトリル−3−スルホン酸ナトリウム)、4,4′−アゾビス−4−シアノ吉草酸、及びポリ(テトラエチレングリコール−2,2′−アゾビスイソブチレート)などのアゾ化合物などが挙げられる。
【0110】
(連鎖移動剤)
また、重合工程(2)においては、スチレン−アクリル系重合体セグメントの分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては特に限定されるものではなく、例えばアルキルメルカプタン、及びメルカプト脂肪酸エステルなどを挙げることができる。
【0111】
連鎖移動剤は、上記の混合工程において樹脂材料と共に混合させておくことが好ましい。
【0112】
連鎖移動剤の添加量は、所望するスチレン−アクリル系重合体セグメントの分子量や分子量分布によって異なるが、具体的には芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体、並びに両反応性モノマーの合計量に対して、0.1〜5質量%の範囲で添加することが好ましい。
【0113】
重合工程(2)における重合温度は、特に限定されず、芳香族系ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体間の重合及びポリエステル樹脂への結合が進行する範囲において適宜選択することができる。重合温度としては、例えば、85℃以上125℃以下であることが好ましく、90℃以上120℃以下であることがより好ましく、95℃以上115℃以下であることがさらに好ましい。
【0114】
スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂の作製においては、重合工程後の残留モノマー量など乳化物からの揮発性有機物質が、1,000ppm以下に抑制されることが実用上好ましく、より好ましくは500ppm以下、さらに好ましくは200ppm以下である。
【0115】
〔コア粒子〕
本発明のトナーを構成するコア粒子は、少なくとも結着樹脂を含有するものであって着色剤を含有したものであっても、着色剤を含有しないものであってもよい。
【0116】
コア粒子を構成する結着樹脂としては、従来から電子写真用トナーの結着樹脂として用いられる樹脂を含んでもよく、このような樹脂としては、公知の種々の樹脂を用いることができる。例えば、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン−(メタ)アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂などのビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスルホン樹脂、エポキシ樹脂ポリウレタン樹脂、又は尿素樹脂などを用いることができる。またこれらの樹脂を2種以上混合しても良い。
【0117】
本発明のトナーを構成するコア粒子は、粉砕法や懸濁重合法によって作製することもできるが、コア・シェル構造とするためには、乳化凝集法によって作製することが好ましい。コア粒子を構成する結着樹脂を得るための重合性モノマーとしては、公知の種々の重合性モノマーが使用できる。重合性モノマーとしては、前述の単官能性モノマーが使用できる。また重合性モノマーとして、多官能性の架橋性モノマーを用いることによって、架橋構造の結着樹脂を用いることもできる。
【0118】
本発明のトナーを構成するコア粒子に用いられる結着樹脂としては、スチレン−(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、及びスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂が好ましい。
【0119】
(スチレン−アクリル樹脂)
コア粒子を構成するスチレン−アクリル樹脂としては、低分子量のスチレン−アクリル樹脂が好ましく、重量平均分子量(Mw)が、20,000〜40,000の範囲内のものが好ましい。重量平均分子量が、上記範囲内であると優れた低温定着性が得られるので好ましい。
【0120】
スチレン−アクリル樹脂を形成するために用いられる重合性モノマーとしては、上記に挙げた芳香族系ビニルモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーを挙げることができる。上記の芳香族系ビニルモノマー及び(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、それぞれ1種単独で、又はそれぞれ2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0121】
重合性モノマーとして、上記の芳香族系ビニルモノマー及び(メタ)アクリル酸エステルモノマーと共に、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、酢酸ビニルなどや、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、エチレン、プロピレン、ブチレン塩化ビニル、N−ビニルピロリドン、又はブタジエンなどを用いることもできる。
【0122】
また、重合性モノマーとして、上記の芳香族系ビニルモノマー及び(メタ)アクリル酸エステルモノマーと共に、多官能ビニル系モノマーを用いることもできる。多官能ビニル系モノマーとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキしレングリコールなどのジアクリレート;ジビニルベンゼン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンなどの三級以上のアルコールのジメタクリレート及びトリメタクリレートなどが挙げられる。
【0123】
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸モノマー(誘導体)及び多価アルコールモノマー(誘導体)を原料として適宜の触媒の存在下で重縮合反応によって製造されたものである。
【0124】
多価カルボン酸モノマー誘導体としては、多価カルボン酸モノマーのアルキルエステル、酸無水物及び酸塩化物を用いることができ、多価アルコールモノマー誘導体としては、多価アルコールモノマーのエステル化合物及びヒドロキシカルボン酸を用いることができる。
【0125】
多価カルボン酸モノマーとしては、例えばシュウ酸、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、β−メチルアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、フマル酸、シトラコン酸、ジグリコール酸、シクロヘキサン−3,5−ジエン−1,2−ジカルボン酸、リンゴ酸、クエン酸、ヘキサヒドロテレフタール酸、マロン酸、ピメリン酸、酒石酸、粘液酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラクロロフタル酸、クロロフタル酸、ニトロフタル酸、p−カルボキシフェニル酢酸、p−フェニレン二酢酸、m−フェニレンジグリコール酸、p−フェニレンジグリコール酸、o−フェニレンジグリコール酸、ジフェニル酢酸、ジフェニル−p,p′−ジカルボン酸、ナフタレン−1,4−ジカルボン酸、ナフタレン−1,5−ジカルボン酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ドデセニルコハク酸などの2価のカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、ピレントリカルボン酸、及びピレンテトラカルボン酸などの2価以上のカルボン酸などを挙げることができる。
【0126】
多価アルコールモノマーとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物などの2価のアルコール;グリセリン、ペンタエリスリトール、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサエチロールメラミン、テトラメチロールベンゾグアナミン、及びテトラエチロールベンゾグアナミンなどの3価以上のポリオールなどを挙げることができる。
【0127】
上記の多価カルボン酸モノマーと多価アルコールモノマーの比率は、多価アルコールモノマーのヒドロキシ基[OH]と多価カルボン酸のカルボキシ基[COOH]との当量比[OH]/[COOH]が、好ましくは1.5/1〜1/1.5、さらに好ましくは1.2/1〜1/1.2である。
【0128】
ポリエステル樹脂を合成するための触媒としては、従来公知の種々の触媒を使用することができる。
【0129】
(スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂)
スチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂とは、スチレン−アクリル系樹脂セグメントとポリエステル樹脂セグメントが両反応性モノマーを介して共重合した樹脂であり、前述のシェル層を構成する樹脂として用いられるスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂を用いることができる。
【0130】
(コア樹脂のガラス転移点)
(ガラス転移点の測定法)
コア粒子を構成する結着樹脂(コア樹脂)のガラス転移点は、低温定着性の観点から35℃〜55℃の範囲内であることが好ましい。ガラス転移点がこの範囲内であると低温定着性と耐高温オフセット性の両方を満足することができるので好ましい。
【0131】
コア樹脂のガラス転移点は、ASTM(米国材料試験協会規格)D3418−82に規定された方法(DSC法)によって測定された値である。
【0132】
(コア樹脂の軟化点)
同じく低温定着の観点から、コア樹脂の軟化点は80℃〜110℃の範囲内であることが好ましい。コア樹脂の軟化点が、この範囲内であると低温定着性と高温オフセット性が良好となるので好ましい。
【0133】
また、コア樹脂の軟化点は、以下のように測定されるものである。
【0134】
まず、20℃±1℃、50%±5%RHの環境下において、コア樹脂1.1gをシャーレに入れ平らにならし、12時間以上放置した後、成型器「SSP−10A」(島津製作所製)によって3820kg/cmの力で30秒間加圧し、直径1cmの円柱型の成型サンプルを作製し、次いで、この成型サンプルを、24℃±5℃、50%±20%RH環境下において、フローテスター「CFT−500D」(島津製作所製)により、荷重196N(20kgf)、開始温度60℃、予熱時間300秒間、昇温速度6℃/分の条件で、円柱型ダイの穴(1mm径×1mm)より、直径1cmのピストンを用いて予熱終了時から押し出し、昇温法の溶融温度測定方法でオフセット値5mmの設定で測定したオフセット法温度Toffsetが、コア樹脂の軟化点とされる。
【0135】
(コア樹脂の重量平均分子量)
コア粒子を構成する結着樹脂の重量平均分子量は、20,000〜40,000の範囲内が好ましい。この範囲内であると、低温定着性が良好なトナーを得ることができるので好ましい。
【0136】
(重量平均分子量の測定方法)
GPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフ)による樹脂の分子量の測定方法としては、濃度1mg/mlになるように測定試料をテトラヒドロフランに溶解させる。溶解条件としては、室温にて超音波分散機を用いて5分間行う。次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理した後、GPCへ10μl試料溶解液を注入する。GPCの測定条件の具体例を下記に示す。
【0137】
装置:HLC−8220(東ソー社製)
カラム:TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZM−M3連(東ソー製)
カラム温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.2ml/min
検出器:屈折率検出器(RI検出器)
試料の分子量測定では、試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて算出する。検量線測定用のポリスチレンとしては10点用いる。
【0138】
(着色剤)
コア粒子が着色剤を含有したものとして構成される場合の着色剤としては、カーボンブラック、磁性体、染料、又は顔料などを任意に使用することができる。
【0139】
カーボンブラックとしてはチャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、又はランプブラックなどを用いることができる。
【0140】
磁性体としては鉄、ニッケル、コバルトなどの強磁性金属、これらの金属を含む合金、フェライト、又はマグネタイトなどの強磁性金属の化合物などを用いることができる。
【0141】
また、顔料としてはC.I.ピグメントレッド2、同3、同5、同7、同15、同16、同48:1、同48:3、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同123、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同208、同209、同222、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントイエロー3、同9、同14、同17、同35、同36、同65、同74、同83、同93、同94、同98、同110、同111、同138、同139、同153、同155、同180、同181、同185、C.I.ピグメントグリーン7、C.I.ピグメントブルー15:3、同15:4、同60、中心金属が亜鉛、チタン、マグネシウムなどであるフタロシアニン顔料などを用いることができ、これらの混合物も用いることができる。染料としてはC.I.ソルベントレッド1、同3、同14、同17、同18、同22、同23、同49、同51、同52、同58、同63、同87、同111、同122、同127、同128、同131、同145、同146、同149、同150、同151、同152、同153、同154、同155、同156、同157、同158、同176、同179、ピラゾロトリアゾールアゾ染料、ピラゾロトリアゾールアゾメチン染料、ピラゾロンアゾ染料、ピラゾロンアゾメチン染料、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93、又は同95などを用いることができ、またこれらの混合物も用いることができる。
【0142】
着色剤の数平均一次粒子径は種類により異なるが、おおむね10〜300nm程度であることが好ましい。
【0143】
コア粒子が着色剤を含有したものとして構成される場合のトナーにおける着色剤の含有割合は、結着樹脂に対して1〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは2〜20質量%である。
【0144】
(ワックス)
ワックスとしては、例えば、低分子量ポリエチレンワックス、低分子量ポリプロピレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックスのような炭化水素系ワックス類、カルナウバワックス、ペンタエリスリトールベヘン酸エステル、ベヘン酸ベヘニル、及びクエン酸ベヘニルなどのエステルワックス類などが挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0145】
ワックスとしては、トナーの低温定着性及び離型性を確実に得る観点から、その融点が50〜95℃であるものを用いることが好ましい。
【0146】
ワックスの含有割合は、結着樹脂全量に対して2〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは3〜18質量%、さらに好ましくは4〜15質量%である。
【0147】
(荷電制御剤)
また、本発明に係るトナー粒子中に、荷電制御剤を含有させる場合は、荷電制御剤としては、公知の種々のものを使用することができる。
【0148】
荷電制御剤としては、水系媒体中に分散することができる公知の種々の化合物を用いることができ、具体的には、ニグロシン系染料、ナフテン酸又は高級脂肪酸の金属塩、アルコキシル化アミン、第4級アンモニウム塩化合物、アゾ系金属錯体、サリチル酸金属塩あるいはその金属錯体などが挙げられる。
【0149】
トナー粒子中に荷電制御剤を含有させる方法としては、上記に示したオフセット防止剤を含有させる方法と同様の方法を挙げることができる。
【0150】
荷電制御剤の含有割合は、結着樹脂全量に対して0.1〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量%とされる。
【0151】
<トナーの製造方法>
本発明のトナーの製造方法は、無機層を有するコア粒子の水系分散液に、シェル層を形成する樹脂微粒子の水系分散液を混合し、無機層を有するコア粒子表面でシェル層を形成することによって作製することを特徴としている。
【0152】
本発明においては、コア粒子の表面に均一にシェル層を形成させることができることから、水系媒体に分散された結着樹脂微粒子と着色剤微粒子などを凝集、融着させてコア粒子を形成し、当該コア粒子表面で架橋性モノマーを重合させてシェル樹脂微粒子を形成し、融着させることによりトナー粒子が得られる乳化重合凝集法によって製造することが好ましい。
【0153】
本発明のトナーを乳化重合凝集法によって製造する場合の、着色剤を含有するトナーの製造例を具体的に示すと、
(1)水系媒体中において、結着樹脂によるコア粒子用結着樹脂微粒子を重合により形成して当該結着樹脂微粒子が分散されてなる分散液を調製するコア粒子用結着樹脂重合工程、
(2)水系媒体中に、着色剤による着色剤微粒子が分散されてなる分散液を調製する着色剤微粒子分散液調製工程、
(3)水系媒体中でコア粒子用結着樹脂微粒子及び着色剤微粒子を凝集させてコア粒子を形成するコア粒子形成工程、
(4)上記のようにして調製したコア粒子の水系分散液に、シランアルコキサイドを溶解させた水又は水系媒体を添加し、この分散液を、アルカリを加えてある水又は水系媒体に滴下するか、若しくは上記分散液にアルカリを加えてある水又は水系媒体を滴下して、コア粒子表面にシリカの無機層を形成させる工程、
(5)無機層で被覆されたコア粒子が分散されてなる水系媒体中に、シェル層樹脂微粒子の水系分散液を添加し、コア粒子の表面に形成された無機層の表面にシェル層を形成させてコア・シェル構造を有するトナー母体粒子を形成するシェル化工程、
(6)熱エネルギーにより熟成させて、トナー母体粒子の形状を調整する熟成工程、
(7)トナー母体粒子の分散系(水系媒体)からトナー母体粒子を濾別し、当該トナー母体粒子から界面活性剤などを除去する洗浄工程、
(8)洗浄処理されたトナー母体粒子を乾燥する乾燥工程、
から構成され、必要に応じて、
(9)乾燥処理されたトナー粒子母体に外添剤を添加する外添剤添加工程
を加えることができる。
【0154】
(1)コア粒子用結着樹脂重合工程
このコア用結着樹脂重合工程においては、コア用樹脂微粒子が形成されて、これがコア粒子形成工程に供される。
【0155】
具体的には、結着樹脂に係る樹脂微粒子は、臨界ミセル濃度(CMC)以下の界面活性剤を含有した水系媒体中に、結着樹脂を形成するための重合性モノマーに必要に応じてワックスや荷電制御剤などのトナー構成成分を溶解、あるいは分散させたモノマー溶液を添加し、機械的エネルギーを加えて液滴を形成させ、次いで、水溶性のラジカル重合開始剤を添加して、液滴中において重合反応を進行させる。なお、前記液滴中に油溶性の重合開始剤が含有されていてもよい。このような結着樹脂重合工程においては、機械的エネルギーを付与して強制的に乳化(液滴の形成)処理が必須となる。かかる機械的エネルギーの付与手段としては、ホモミキサー、超音波、及びマントンゴーリンなどの強い撹拌又は超音波振動エネルギーの付与手段を挙げることができる。
【0156】
このコア粒子用の結着樹脂重合工程において形成させる結着樹脂微粒子は、組成の異なる樹脂よりなる2層以上の構成のものとすることもでき、この場合、常法に従った乳化重合処理(第1段重合)により調製した第1樹脂微粒子の分散液に、重合開始剤と重合性モノマーとを添加し、この系を重合処理(第2段重合)する方法を採用することができる。本発明においては、第1段重合を高分子量ポリエステルとしているので、通常の重縮合反応にてポリエステル樹脂を合成し、これを微粒子化して、水系媒体中で微粒子分散液として、これにスチレン−アクリル系モノマーを加えて、第2段重合、必要に応じて、第3段重合を行う。ポリエステル樹脂を微粒子分散液とする方法としては、機械的方法により粉砕し、界面活性剤を用いて水系媒体中で分散する方法、及び転相乳化法が挙げられるが、本発明においてはいずれの方法を用いてもよい。
【0157】
結着樹脂重合工程において界面活性剤を使用する場合は、界面活性剤として、例えば下記の界面活性剤を使用することができる。
【0158】
(界面活性剤)
水系媒体中には、分散させた微粒子の凝集を防ぐために、分散安定剤が添加されていることが好ましい。
【0159】
分散安定剤としては、公知の種々のカチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などの界面活性剤を使用することができる。
【0160】
カチオン性界面活性剤の具体例としては、ドデシルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルピリジニウムクロライド、ドデシルピリジニウムブロマイド、及びヘキサデイシルトリメチルアンオニウムブロマイドなどが挙げられる。
【0161】
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、ドデシルポリオキシエチレンエーテル、ヘキサデシルポリオキシエチレンエーテル、ノリルフェニルポリキオシエチレンエーテル、ラウリルポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンモノオレアートポリオキシエチレンエーテル、スチリルフェニルポリオキシエチレンエーテル、及びモノデカノイルショ糖などが挙げられる。
【0162】
アニオン性界面活性剤の具体例としては、ステアリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウムなどの脂肪族石鹸や、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、及びポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどが挙げることができる。
【0163】
以上の界面活性剤は、所望に応じて、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0164】
本発明のトナー粒子中には、結着樹脂及び着色剤の他に、必要に応じてワックスや荷電制御剤、磁性粉などの内添剤が含有されていてもよく、このような内添剤は、例えば、この結着樹脂重合工程において、あらかじめ、結着樹脂を形成するためのモノマー溶液に溶解又は分散させておくことによってトナー粒子中に導入することができる。
【0165】
また、このような内添剤は、別途内添剤のみよりなる内添剤微粒子の分散液を調製し、コア粒子形成工程において樹脂微粒子及び着色剤微粒子と共に当該内添剤微粒子を凝集させることにより、トナー粒子中に導入することもできるが、結着樹脂重合工程においてあらかじめ導入しておく方法を採用することが好ましい。
【0166】
(重合開始剤)
結着樹脂重合工程において使用される重合開始剤としては、前述の重合開始剤と同様のものを使用することができる。
【0167】
(連鎖移動剤)
結着樹脂重合工程においては、結着樹脂の分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては前述の重合開始剤と同様のものを使用することができる。
【0168】
この結着樹脂重合工程において得られる結着樹脂微粒子の平均粒子径は、体積基準のメディアン径で例えば50〜500nmの範囲内にあることが好ましい。
【0169】
なお、体積基準のメディアン径は、「マイクロトラックUPA−150」(日機装社製)を用いて測定したものである。
【0170】
(2)着色剤微粒子分散液調製工程
着色剤微粒子分散液は、着色剤を水系媒体中に分散することにより調製することができる。着色剤の分散処理は、着色剤が均一に分散されることから、水系媒体中において界面活性剤濃度を臨界ミセル濃度(CMC)以上にした状態で行われることが好ましい。着色剤の分散処理に使用する分散機としては、公知の種々の分散機を用いることができる。
【0171】
使用される界面活性剤としては、例えば上述の界面活性剤と同様のものを挙げることができる。
【0172】
この着色剤微粒子分散液調製工程において調製される着色剤微粒子分散液中の着色剤微粒子の分散径は、体積基準のメディアン径で10〜300nmの範囲内とされることが好ましい。
【0173】
この着色剤微粒子分散液中の着色剤微粒子の体積基準のメディアン径は、電気泳動光散乱光度計「ELS−800(大塚電子社製)」で測定されるものである。
【0174】
この着色剤微粒子分散液調製工程において界面活性剤を使用する場合は、界面活性剤として、例えば上述のシェル樹脂微粒子分散液調製工程において使用することのできる界面活性剤として挙げたものと同じものを使用することができる。
【0175】
(3)コア粒子形成工程
このコア粒子形成工程においては、必要に応じて、結着樹脂微粒子及び着色剤微粒子と共に、オフセット防止剤や荷電制御剤などのその他のトナー構成成分の微粒子を凝集させることもできる。
【0176】
結着樹脂微粒子及び着色剤微粒子を凝集、融着する具体的な方法としては、水系媒体中に凝集剤を臨界凝集濃度以上となるよう添加し、次いで、結着樹脂微粒子のガラス転移点以上であって、かつ、これら混合物の融解ピーク温度以下の温度に加熱することによって、結着樹脂微粒子及び着色剤微粒子などの微粒子の塩析を進行させると同時に融着を並行して進め、所望の粒子径まで成長したところで、凝集停止剤を添加して粒子成長を停止させ、さらに、必要に応じて粒子形状を制御するために加熱を継続して行う方法である。
【0177】
この方法においては、凝集剤を添加した後に放置する時間をできるだけ短くして速やかに結着樹脂に係る樹脂微粒子のガラス転移点以上であって、かつ、これら混合物の融解ピーク温度以下の温度に加熱することが好ましい。この理由は明確ではないが、塩析した後の放置時間によっては粒子の凝集状態が変動して粒径分布が不安定になったり、融着させた粒子の表面性が変動したりする問題が発生することが懸念されるためである。この昇温までの時間としては通常30分間以内であることが好ましく、10分間以内であることがより好ましい。また、昇温速度としては1℃/分以上であることが好ましい。昇温速度の上限は特に規定されるものではないが、急速な融着の進行による粗大粒子の発生を抑制する観点から、15℃/分以下とすることが好ましい。さらに、反応系がガラス転移点以上の温度に到達した後、当該反応系の温度を一定時間保持することにより、融着を継続させることが肝要である。これにより、コア粒子の成長と、融着とを効果的に進行させることができ、最終的に得られるトナー粒子の耐久性を向上することができる。
【0178】
(凝集剤)
このコア粒子形成工程において使用する凝集剤としては、特に限定されるものではないが、金属塩から選択されるものが好適に使用される。金属塩としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属の塩などの一価の金属塩;カルシウム、マグネシウム、マンガン、銅などの二価の金属塩;鉄、アルミニウムなどの三価の金属塩などが挙げられる。具体的な金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、及び硫酸マンガンなどを挙げることができ、これらの中で、より少量で凝集を進めることができることから、二価の金属塩を用いることが特に好ましい。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0179】
コア粒子形成工程において界面活性剤を使用する場合は、界面活性剤として、例えば上述のシェル樹脂微粒子分散液調製工程において使用することのできる界面活性剤として挙げたものと同じものを使用することができる。
【0180】
このコア粒子形成工程において得られるコア粒子の粒径は、例えば体積基準のメディアン径(D50)が2〜9μmであることが好ましく、より好ましくは4〜7μmである。
【0181】
コア粒子の体積基準のメディアン径は、「コールターマルチサイザー3」(コールター・ベックマン社製)によって測定されるものである。
【0182】
(4)無機層形成工程
上述のようにして調製したコア粒子の水系分散液に、シランアルコキサイドを溶解させた水又は水系媒体を添加する。この分散溶液を、アルカリを加えてある水又は水系媒体に滴下するか、若しくは上記分散液にアルカリを加えてある水又は水系媒体を滴下する。この方法によると、コア粒子が含有されている分散液中に溶解していたシランアルコキサイドが、アルカリの存在下で加水分解及び重縮合を起こし、徐々に不溶化していき、更に、疎水性相互作用からコア粒子の表面に堆積することになる。この結果、コア粒子の表面に、シリカを含む粒状塊同士が固着されることによって形成されるシリカの無機層が形成される。
【0183】
他の方法として、コア粒子を構成するコア用結着樹脂微粒子の表面にゾルゲル法でシリカの無機層を形成し、その後、無機層を有するコア用結着樹脂微粒子の水系分散液と着色剤微粒子分散液とを混合して凝集・融着し、無機層を有するコア粒子の水系分散液を調製することもできる。その他、前述の乾式法により、コア粒子表面に無機層を形成することもできる。
【0184】
(5)シェル化工程
このシェル化工程においては、無機層で被覆されたコア粒子の分散液中にシェル層の結着樹脂を構成するシェル樹脂微粒子の水系分散液を添加して、コア粒子表面の無機層表面にシェル樹脂微粒子を凝集、融着させ、無機層で被覆されたコア粒子の表面にシェル層を被覆させてトナー母体粒子を形成する。
【0185】
具体的には、コア粒子の分散液はコア粒子形成工程における温度を維持した状態でシェル層の結着樹脂を構成するシェル層を構成する樹脂微粒子の水系分散液を添加し、加熱撹拌を継続しながら数時間かけてゆっくりとシェル樹脂微粒子を無機層で被覆されたコア粒子の表面で会合、融着させることによって無機層で被覆されたコア粒子の表面に厚さ100〜300nmのシェル層を被覆させてトナー母体粒子を形成する。加熱撹拌時間は、1〜7時間が好ましく、3〜5時間が特に好ましい。
【0186】
(6)熟成工程
上記のコア粒子形成工程及びシェル化工程における加熱温度の制御によりある程度トナーにおけるトナー粒子の形状の均一化を図ることができるが、さらなる形状の均一化を図るために、熟成工程を経る。
【0187】
この熟成工程は、加熱温度と時間の制御を行うことにより、粒径が一定で分布が狭く形成したトナー母体粒子表面が平滑だが均一な形状を有するものとなるよう制御する。具体的には、コア粒子形成工程及びシェル化工程において加熱温度を低めにして樹脂微粒子同士の融着の進行を抑制させて均一化を促進させ、この熟成工程においても加熱温度を低めに、かつ、時間を長くしてトナー母体粒子を所望の平均円形度となる。すなわち表面が均一な形状のものとなるよう制御する。
【0188】
(7)洗浄工程及び(8)乾燥工程
洗浄工程及び乾燥工程は、公知の種々の方法を採用して行うことができる。
【0189】
(9)外添剤添加工程
この外添剤添加工程は、乾燥処理したトナー母体粒子に必要に応じて外添剤を添加、混合することにより、トナー粒子を調製する工程である。
【0190】
乾燥工程までの工程を経て作製されたトナー母体粒子は、そのままトナー粒子として使用することが可能であるが、トナーとしての帯電性能や流動性、あるいはクリーニング性を向上させる観点から、その表面に公知の無機微粒子や有機微粒子などの粒子、滑材を外添剤として添加することが好ましい。
【0191】
外添剤としては種々のものを組み合わせて使用してもよい。
【0192】
無機微粒子としては、例えばシリカ微粒子、アルミナ微粒子、酸化チタン微粒子などの無機酸化物微粒子や、ステアリン酸アルミニウム微粒子、ステアリン酸亜鉛微粒子などの無機ステアリン酸化合物微粒子、あるいはチタン酸ストロンチウム、及びチタン酸亜鉛などの無機チタン酸化合物微粒子などが挙げられる。
【0193】
これら無機微粒子は、耐熱保管性及び環境安定性の観点から、シランカップリング剤やチタンカップリング剤、高級脂肪酸、又はシリコーンオイルなどによって表面処理が行われたものであることが好ましい。
【0194】
これらの外添剤の添加量は、トナー母体粒子100質量部に対して0.05〜5質量部、好ましくは0.1〜3質量部とされる。
【0195】
外添剤の添加方法としては、乾燥されたトナー母体粒子に外添剤を粉体で添加する乾式法が挙げられ、混合装置としては、ヘンシェルミキサー、及びコーヒーミルなどの機械式の混合装置が挙げられる。
【0196】
〔トナー〕
本発明の「トナー」は、コア粒子の表面に無機層が形成され、更にその上にシェル層が形成されてなる「トナー母体粒子」よりなる。「トナー母体粒子」は、そのままでも「トナー」として使用することができるが、通常この「トナー母体粒子」に、外添剤を添加したものを「トナー粒子」という。「トナー」とは、「トナー粒子」の集合体のことをいう。
【0197】
(トナー粒子の平均粒径)
本発明のトナー粒子の平均粒径は、例えば体積基準のメディアン径(D50)で3〜10μmであることが好ましい。この粒径は、例えば後述する乳化重合凝集法を採用して製造する場合には、使用する凝集剤の濃度や有機溶媒の添加量、融着時間、又は重合体の組成によって制御することができる。
【0198】
体積基準のメディアン径が上記の範囲にあることにより、例えば1200dpi(dpi;1インチ(2.54cm)あたりのドット数)レベルの非常に微小なドット画像を忠実に再現することができる。
【0199】
トナー粒子の体積基準のメディアン径は「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフト「Software V3.51」を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置を用いて測定・算出されるものである。具体的には、トナー0.02gを、界面活性剤溶液20ml(トナー粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、超音波分散を1分間行い、トナー粒子分散液を調製し、このトナー粒子分散液を、サンプルスタンド内の「ISOTONII」(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。ここで、この濃度範囲にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャ径を100μmにして頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒子径を体積基準のメディアン径とする。
【0200】
(トナー粒子の平均円形度)
本発明に係るトナー粒子は、このトナーを構成する個々のトナー粒子について、転写効率の向上の観点から、下記式(T)で示される円形度の算術平均値が0.850〜0.990であることが好ましい。
【0201】
式(T):円形度=粒子投影像と同等の投影面積を有する真円の周囲長/粒子投影像の周囲長
ここで、トナー粒子の平均円形度は「FPIA−2100」(Sysmex社製)を用いて測定される値である。
【0202】
具体的には、トナー粒子を界面活性剤水溶液に湿潤させ、超音波分散を1分間行い、分散した後、「FPIA−2100」を用い、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3000〜10000個の適正濃度で測定を行う。この範囲であれば、再現性のある測定値が得られる。
【0203】
〔現像剤〕
本発明のトナーは、磁性又は非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。
【0204】
キャリアとしては、例えば鉄、フェライト、及びマグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来から公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、これらの中ではフェライト粒子を用いることが好ましい。また、キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂などの被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散してなる樹脂分散型キャリアなどを用いてもよい。
【0205】
キャリアとしては、体積平均粒径が15〜100μmのものが好ましく、25〜80μmのものがより好ましい。
【0206】
〔画像形成装置〕
本発明のトナーは、一般的な電子写真方式の画像形成方法に用いることができ、このような画像形成方法が行われる画像形成装置としては、例えば静電潜像担持体である感光体と、トナーと同極性のコロナ放電によって当該感光体の表面に一様な電位を与える帯電手段と、一様に帯電された感光体の表面上に画像データに基づいて像露光を行うことにより静電潜像を形成させる露光手段と、トナーを感光体の表面に搬送して前記静電潜像を顕像化してトナー像を形成する現像手段と、当該トナー像を必要に応じて中間転写体を介して転写材に転写する転写手段と、転写材上のトナー像を定着させる定着手段を有するものを用いることができる。このような構成を有する画像形成装置の中でも、複数の感光体に係る画像形成ユニットが中間転写体に沿って設けられた構成のカラー画像形成装置、特に、感光体が中間転写体上に直列配置させたタンデム型カラー画像形成装置に好適に用いることができる。
【0207】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明の実施形態は上記の例に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0208】
以下、本発明を実施例で具体的に説明する。
【0209】
《トナー〔1〕の作製》
トナーは以下のようにして作製した。
【0210】
〈コア粒子用樹脂微粒子の分散液調製〉
(1−1)第1段重合
撹拌装置、温度センサ、温度制御装置、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器にあらかじめアニオン性界面活性剤「ラウリル硫酸ナトリウム」2.0質量部をイオン交換水2900質量部に溶解させたアニオン性界面活性剤溶液を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。この界面活性剤溶液に重合開始剤「過硫酸カリウム:KPS」9.0質量部を添加し、内温を78℃とさせた後、
溶液(1)
スチレン 540質量部
n−ブチルアクリレート 270質量部
メタクリル酸 65質量部
n−オクチルメルカプタン 17質量部
上記溶液(1)を3時間かけて滴下し、滴下終了後、78℃において1時間にわたって加熱・撹拌することで重合(第1段重合)を行い「樹脂微粒子(a1)」の分散液を調製した。
【0211】
(1−2)第2段重合
撹拌装置を取り付けたフラスコ内において、
溶液(2)
スチレン 94質量部
n−ブチルアクリレート 60質量部
メタクリル酸 11質量部
n−オクチルメルカプタン 5質量部
上記溶液(2)に、離型剤としてパラフィンワックス(融点:73℃)51質量部を添加し、85℃に加温して溶解させて「単量体溶液(2)」を調製した。一方、アニオン性界面活性剤「ラウリル硫酸ナトリウム」2質量部をイオン交換水1100質量部に溶解させた界面活性剤溶液を90℃に加温し、この界面活性剤溶液に「樹脂微粒子(a1)」の分散液を、樹脂微粒子(a1)の固形分換算で28質量部添加した後、循環経路を有する機械式分散機「クレアミックス」(エム・テクニック社製)により、4時間混合・分散させ、分散粒子径350nmの乳化粒子を含有する分散液を調製し、この分散液に重合開始剤「KPS」2.5質量部をイオン交換水110質量部に溶解させた開始剤水溶液を添加し、この系を90℃において2時間にわたって加熱・撹拌することによって重合(第2段重合)を行って「樹脂微粒子(a11)」の分散液を調製した。
【0212】
(1−3)第3段重合
上記の「樹脂微粒子(a11)」の分散液に、重合開始剤「KPS」2.5質量部をイオン交換水110質量部に溶解させた開始剤水溶液を添加し、80℃の温度条件下において、下記溶液(3)を1時間かけて滴下した。
溶液(3)
スチレン 230質量部
n−ブチルアクリレート 100質量部
n−オクチルメルカプタン 5.2質量部
滴下終了後、3時間にわたって加熱・撹拌することによって重合(第3段重合)を行った。その後、28℃まで冷却し、アニオン性界面活性剤溶液中にコア粒子用樹脂粒子が分散した「コア粒子用樹脂微粒子の分散液」を得た。
【0213】
〈着色剤分散液の調製〉
ドデシル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に撹拌溶解した。この溶液を撹拌しながら、カーボンブラック「モーガルL」(キャボット社製)420質量部を徐々に添加し、次いで、撹拌装置「クレアミックス」(エム・テクニック社製)を用いて分散処理することにより、着色剤の粒子を分散して有する「着色剤分散液」を調製した。この分散液の粒子径を、粒度分布測定装置「マイクロトラックUPA−150」(日機装社製)を用いて測定したところ、117nmであった。
【0214】
〈コア粒子分散液の調製〉
撹拌装置、温度センサ、冷却管を取り付けた反応容器に、「コア粒子用樹脂微粒子の分散液」を5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10(25℃)に調整した。その後、上記「着色剤分散液」を固形分換算で40質量部投入した。次いで、塩化マグネシウム60質量部をイオン交換水60質量部に溶解した水溶液を、撹拌下、30℃において10分間かけて添加した。その後、3分間放置した後に昇温を開始し、この系を60分間かけて90℃まで昇温し、90℃を保持したまま粒子成長反応を継続した。この状態で「コールターマルチサイザー3」(コールターベックマン社製)にて会合粒子の粒径を測定し、体積基準におけるメディアン径(D50)が6.0μmになった時点で、塩化ナトリウム190質量部をイオン交換水760質量部に溶解した水溶液を添加して粒子成長を停止させ「コア粒子分散液」を得た。
【0215】
〈無機層形成粒子1の分散液の調製(無機層の形成)〉
上記のようにして調製した6.0μmの「コア粒子分散液」150質量部を純水1000質量部に分散し、アンモニア水(28質量%)10質量部を添加して5分間撹拌した。次いで、テトラエトキシシラン30質量部を3時間かけて滴下し、さらに室温にて5時間撹拌した。この分散液中の溶媒を50℃、減圧下で留去することにより、コア粒子表面に無機層(シリカ層)が形成された「無機層形成粒子1」を得た。その後、ドデシル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に溶解した溶液に加え、コア粒子表面に無機層が形成された「無機層形成粒子1の分散液」を得た。
【0216】
上記のようにして得られた「無機層形成粒子1」について、無機層の厚さを以下のようにして測定した。
【0217】
〔無機層の厚さの測定〕
無機層の厚さは、「マイクロトラックUPA−150」(日機装社製)を用いてコア粒子及び無機層形成粒子1の粒径を測定し、その差分を無機層の厚さとした。
【0218】
まず、50mlのメスシリンダーに「無機層形成粒子1の分散液」を数滴滴下し、純水を25ml加え、超音波洗浄機「US−1(as one社製)」を用いて3分間分散させ測定用試料を調製した。次いで、測定用試料3mlを「マイクロトラックUPA−150」のセル内に投入し、Sample Loadingの値が0.1〜100の範囲にあることを確認し、下記測定条件にて測定した。
【0219】
(測定条件)
Transparency(透明度):Yes
Refractive Index(屈折率):1.59
Particle Density(粒子比重):1.05mg/cm
Spherical Particles(球形粒子):Yes
(溶媒条件)
Refractive Index(屈折率):1.33
Viscosity(粘度):High(temp) 0.797×10−3Pa・s
Low(temp) 1.00×10−3Pa・s
以上のようにして測定した無機層の膜厚は、0.60μmであった。
【0220】
〈シェル層用樹脂微粒子の分散液調製〉
(スチレンアクリル変性ポリエステル樹脂の合成)
窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した四つ口フラスコに、
ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 500質量部
テレフタル酸 117質量部
フマル酸 82質量部
エステル化触媒(オクチル酸スズ) 2質量部
を入れ、230℃で8時間縮重合反応させ、さらに、8kPaで1時間反応させ、160℃まで冷却した後、
アクリル酸 10質量部
スチレン 30質量部
ブチルアクリレート 7質量部
重合開始剤(ジ−t−ブチルパーオキサイド) 10質量部
の混合物を滴下ロートにより1時間かけて滴下し、滴下後、160℃に保持したまま、1時間付加重合反応を継続させた後、200℃に昇温し、10kPaで1時間保持した後、未反応のアクリル酸、スチレン、ブチルアクリレート、生成した水を除去することにより、「スチレンアクリル変性ポリエステル樹脂」を作製した。
【0221】
この「スチレンアクリル変性ポリエステル樹脂」のガラス転移点は60℃、軟化点は105℃であった。
【0222】
上記で作製した「スチレンアクリル変性ポリエステル樹脂」100質量部を、「ランデルミル 形式:RM」(徳寿工作所社製)で粉砕し、あらかじめ調製した0.26質量%濃度のラウリル硫酸ナトリウム溶液638質量部と混合し、撹拌しながら超音波ホモジナイザー「US−150T」(日本精機製作所製)を用いてV−LEVEL、300μAで30分間超音波分散し、体積基準におけるメディアン径(D50)が250nmであるシェル層用樹脂微粒子が分散された「シェル層用樹脂微粒子の分散液」を調製した。
【0223】
〈トナー〔1〕の作製〉
(トナー母体粒子1の作製)
撹拌装置、温度センサ、冷却管を取り付けた反応容器に、「無機層形成粒子1の分散液」を5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10(25℃)に調整した。次いで、塩化マグネシウム60質量部をイオン交換水60質量部に溶解した水溶液を、撹拌下、30℃において10分間かけて添加した。その後、3分間放置した後に昇温を開始し、この系を60分間かけて80℃まで昇温し、この状態で、「シェル層用樹脂微粒子の分散液」を固形分換算で72質量部を30分間かけて投入し、80℃を保持したまま粒子成長反応を継続した。この状態で「コールターマルチサイザー3」(コールターベックマン社製)にて会合粒子の粒径を測定し、体積基準におけるメディアン径(D50)が6.2μmになった時点で塩化ナトリウム190質量部をイオン交換水760質量部に溶解した水溶液を添加してシェル層の形成を停止させた。その後昇温を行い、85℃の状態で加熱撹拌することにより、粒子の融着を進行させ、平均円形度の測定装置「FPIA−2100」(Sysmex社製)を用いて(HPF検出数を4000個)平均円形度が0.945になった時点で30℃に冷却し、「トナー母体粒子1の分散液」を調製した。
【0224】
上記で調製した「トナー母体粒子1の分散液」を遠心分離機で固液分離し、トナー母体粒子のウェットケーキを形成した。該ウェットケーキを、前記遠心分離機で濾液の電気伝導度が5μS/cmになるまで35℃のイオン交換水で洗浄し、その後「フラッシュジェットドライヤー」(セイシン企業社製)に移し、水分量が0.5質量%となるまで乾燥して「トナー母体粒子1」を作製した。
【0225】
(外添剤処理)
乾燥させた「トナー母体粒子1」に、疎水性シリカ(数平均一次粒子径=12nm)1質量%及び疎水性チタニア(数平均一次粒子径=20nm)0.3質量%を添加し、ヘンシェルミキサーにより混合することにより、トナー〔1〕を作製した。
【0226】
《トナー〔2〕〜〔5〕の作製》
トナー〔1〕の作製において、無機層の厚さが表1になるように調整して、トナー〔2〕〜〔5〕を作製した。すなわち、トナー〔1〕の作製において、前述の無機層形成粒子分散液の調製でテトラエトキシシラン5質量部を30分かけて滴下した他は同じ手順をとることにより、無機層の厚さが0.1μmのトナー〔2〕を作製した。また、無機層形成粒子分散液の調製でテトラエトキシシラン60質量部を6時間かけて滴下した他は同じ手順をとることにより、無機層の厚さが1.2μmのトナー〔3〕を作製した。
【0227】
また、無機層形成粒子分散液の調製でテトラエトキシシラン70質量部を7時間かけて滴下した他は同じ手順をとることにより、無機層の厚さが1.4μmのトナー〔4〕を作製した。さらに、前述の無機層形成粒子分散液の調製でテトラエトキシシラン2.5質量部を15分かけて滴下した他は同じ手順をとることにより、無機層の厚さが0.05μmのトナー〔5〕を作製した。
【0228】
《トナー〔6〕の作製》
(トナー母体粒子6の作製)
トナー〔1〕の作製で用いた「コア粒子分散液」を遠心分離機で固液分離し、コア粒子のウェットケーキを形成した(コア粒子6)。このウェットケーキを、前記遠心分離機で濾液の電気伝導度が5μS/cmになるまで35℃のイオン交換水で洗浄し、その後「フラッシュジェットドライヤー」(セイシン企業社製)に移し、水分量が0.5質量%となるまで乾燥して「コア粒子6」を作製した。この「コア粒子6」に疎水性シリカ(数平均一次粒子径=12nm)1質量%及び疎水性チタニア(数平均一次粒子径=20nm)0.3質量%を添加し、ヘンシェルミキサーを用いて40℃で混合することにより、乾式で形成されたコア粒子表面に無機層を有する「無機層形成粒子6」を作製した。この無機層の厚さを前述と同様の方法で測定したところ、0.60μmであった。
【0229】
この「無機層形成粒子6」420質量部を界面活性剤ドデシル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に分散した。その後、3分間放置した後に昇温を開始し、この系を60分間かけて80℃まで昇温し、この状態で、「シェル層用樹脂微粒子の分散液」を固形分換算で72質量部を30分間かけて投入し、80℃を保持したままシェル形成反応を継続した。この状態で「コールターマルチサイザー3」(コールターベックマン社製)にて会合粒子の粒径を測定し、体積基準におけるメディアン径(D50)が6.2μmになった時点で塩化ナトリウム190質量部をイオン交換水760質量部に溶解した水溶液を添加してシェル形成を停止させた。その後昇温を行い、85℃の状態で加熱撹拌することにより、粒子の融着を進行させ、平均円形度の測定装置「FPIA−2100」(Sysmex社製)を用いて(HPF検出数を4000個)平均円形度が0.945になった時点で30℃に冷却し、「トナー母体粒子6の分散液」を調製した。
【0230】
上記で作製した「トナー母体粒子6の分散液」を遠心分離機で固液分離し、トナー母体粒子6のウェットケーキを形成した。該ウェットケーキを、前記遠心分離機で濾液の電気伝導度が5μS/cmになるまで35℃のイオン交換水で洗浄し、その後「フラッシュジェットドライヤー」(セイシン企業社製)に移し、水分量が0.5質量%となるまで乾燥して「トナー母体粒子6」を作製した。
【0231】
(外添剤処理)
乾燥させた「トナー母体粒子6」に、疎水性シリカ(数平均一次粒子径=12nm)1質量%及び疎水性チタニア(数平均一次粒子径=20nm)0.3質量%を添加し、ヘンシェルミキサーにより混合することにより、トナー〔6〕を作製した。
【0232】
《トナー〔7〕の作製》
トナー〔1〕の作製において、無機層を形成しなかった他は同様にして、トナー〔7〕を作製した。これを比較用トナーとした。
【0233】
【表1】
上記のようにして作製したトナー〔1〕〜トナー〔7〕について、以下の評価を行った。
【0234】
<評価方法>
評価は、二成分系現像方式の画像形成装置に対応する市販の複合プリンタ「bizhub PRO C550(コニカミノルタビジネステクノロジーズ(株)製)」を用いた。なお、定着上ローラ表面における温度が160℃になるように熱源を調整した。
【0235】
また、評価の手順は、各々、A4サイズで500枚の連続プリントを実施し、連続プリント開始時、10枚目付近、100枚目付近、500枚目に段差状の光沢ムラ評価用試料の試料を出力した。段差状の光沢ムラ評価用試料は、A4サイズの画像支持体全面にベタ画像を出力したものを作成し、後述する内容で評価を行った。なお、前記画像形成装置による連続プリントは、温度20℃、相対湿度55%RHのいわゆる常温常湿環境下で行った。
【0236】
〔光沢度の測定〕
定着画像の光沢度は、JIS Z8741 1983 方法2に準じて光沢計「GMX−203」((株)村上色彩技術研究所製)を用い、θで示される角度を75°測定角型を選択し測定を行った。光沢度は、測定画像の中央部及び四隅の計5点平均値とした。
【0237】
(光沢度判定基準)
上記のようにして得られた光沢度40以下を合格と判定した。
〔光沢ムラの測定〕
前述のA4サイズのベタ画像を出力した評価用試料を用い、長手方向に片方の端部よりもう片方の端部に向かい等間隔で10点の光沢度を測定し、同一プリント内における光沢度の差を求めた。なお、光沢度の測定方法は上記測定装置を用いて行い、評価は以下のとおりで◎と○を合格とした。すなわち、光沢度の最大値を100としたときに、光沢度の最小値との差を評価した。
【0238】
光沢差(%)=(光沢度最大値−光沢度最小値)×100/光沢度最大値
(光沢ムラ判定基準)
◎:光沢度の最大値と最小値の差(光沢差)が1%以下(問題なし)
○:光沢差が1%を超えて5%未満(目視でほとんど分からないレベルで問題なし)
△:光沢差が5%以上6%未満(目視で差が見られるが実用上許容範囲)
×:光沢差が6%以上(目視でも差が見られるレベルで問題あり)
〔定着温度(低温定着性評価)〕
市販のカラー複合機「bizhub PRO C6500」(コニカミノルタビジネステクノロジーズ社製)において、定着装置を、定着上ベルトの表面温度を130〜170℃の範囲で、定着下ローラの表面温度を110〜150℃の範囲で変更することができるように改造したものを用い、評価紙「NPi上質紙128g/m」(日本製紙製)上に、定着速度300mm/secで、トナー付着量11.3g/mのベタ画像を定着させる定着実験を、コールドオフセットによる定着不良が観察されるまで、設定される定着温度(定着上ベルトの表面温度)を170℃、165℃・・・と5℃刻みで減少させるよう変更しながら繰り返し行った。なお、定着下ローラは、常に定着上ベルトの表面温度より20℃低い表面温度に設定した。そして、コールドオフセットによる定着不良が観察されない定着実験の最低の定着温度を定着下限温度として評価した。なお、この定着下限温度が低ければ低い程、低温定着性に優れることを意味し、155℃以下であれば実用上問題なく、合格と判断した。
【0239】
【表2】
表2の結果ら明らかなように、本発明のトナー〔1〕〜〔6〕は低温定着性に優れ、光沢度、光沢ムラにおいても優れていることが分かる。それに対して、比較用のトナー〔7〕は、低温定着性は優れているが、光沢度が高く、光沢ムラが大きい結果であった。
【符号の説明】
【0240】
A シェル層
B 無機層
C コア
図1