(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、
図1〜
図6を参照して、この発明を電子鍵盤楽器の鍵盤装置に適用した一実施形態について説明する。
この鍵盤装置は、
図1に示すように、合成樹脂製の鍵盤シャーシ1と、この鍵盤シャーシ1上に配列されて上下方向にそれぞれ回転可能に取り付けられた複数の鍵2と、これら複数の鍵2の押鍵操作に伴って各鍵2にそれぞれアクション荷重を付与する複数のハンマー部材3と、複数の鍵2の押鍵動作に応じてそれぞれオン信号を出力するスイッチ部4とを備えている。
【0011】
鍵盤シャーシ1は、楽器ケース(図示せず)内に配置されるものである。この鍵盤シャーシ1の前端部(
図1では右端部)には、
図1に示すように、前脚部5が底部から上方に突出して形成されている。この前脚部5の上部には、鍵2の横振れを防ぐための鍵ガイド部6が各鍵2にそれぞれ対応して設けられている。
【0012】
また、この鍵盤シャーシ1における前脚部5の後部側(
図1では左側部)には、
図1に示すように、ハンマー載置部7が前脚部5よりも少し高い高さで形成されている。このハンマー載置部7の下面には、ハンマー部材3を支持するためのハンマー支持部8が下側に向けて突出して設けられている。このハンマー支持部8には、ハンマー部材3を上下方向に回転可能に支持する支持軸8aが設けられている。
【0013】
また、この鍵盤シャーシ1の前後方向(
図1では左右方向)におけるほぼ中間部、つまりハンマー鍵載置部7の上部後方には、
図1に示すように、基板載置部10が一段低い高さで形成されている。この基板載置部10の上方には、スイッチ部4がハンマー載置部7と基板支持部11との両方に跨った状態で取り付けられている。この場合、基板支持部11は、基板載置部10の後部側(
図1では左側)上面に起立して設けられている。
【0014】
さらに、この鍵盤シャーシ1の後部、つまり基板載置部10の後部側には、
図1に示すように、鍵載置部12が鍵ガイド部6の上部とほぼ同じ高さで形成されている。この鍵載置部12の上面には、鍵支持部13が上方に突出して形成されている。この鍵支持部13には、鍵2の後端部を上下方向に回転可能に支持する支持軸13aが設けられている。
【0015】
また、この鍵盤シャーシ1における鍵載置部12の後端部には、
図1に示すように、鍵盤シャーシ1の後端部を支持する後脚部14が鍵盤シャーシ1の上部から底部に向けて垂下されている。この後脚部14の下端部には、ハンマー部材3の下限位置を規制するためのフェルトなどの下限ストッパ部15が設けられている。
【0016】
一方、鍵2は、白鍵と黒鍵とを有している。ただし、この実施形態では、1つの白鍵について説明する。この鍵2は、
図1に示すように、その後端部(
図1では左端部)が鍵盤シャーシ1の鍵載置部12上に設けられた鍵支持部13に支持軸13aによって上下方向に回転可能に支持されている。この鍵2の前後方向(
図1では左右方向)におけるほぼ中間部には、鍵盤シャーシ1の基板載置部10上に取り付けられたスイッチ部4を押圧するためのスイッチ押圧部16が下側に突出して形成されている。
【0017】
この場合、スイッチ部4は、
図1に示すように、スイッチ基板17上に配置されたゴムシート18を備え、このゴムシート18にドーム状の膨出部18aが鍵2のスイッチ押圧部16に対応して形成された構成になっている。このスイッチ部4におけるスイッチ基板17は、その前端部(
図1では右端部)がハンマー載置部7上に配置され、他端部(
図1では左端部)が基板載置部10上に設けられた基板支持部11上に配置され、この状態で基板載置部10の上方に浮いた状態で取り付けられている。
【0018】
また、このスイッチ部4は、
図1に示すように、ゴムシート18の膨出部18aがスイッチ押圧部16によって押圧された際に、
図5および
図6に示すように、膨出部18aが弾性変形して、その内部の可動接点がスイッチ基板17の固定接点に接触してオン信号を出力するように構成されている。
【0019】
さらに、鍵2のスイッチ押圧部16の前側(
図1では右側)に位置する鍵2の箇所には、
図1に示すように、ハンマー押圧部20が鍵2の下側に向けて突出して形成されている。このハンマー押圧部20の下部には、ハンマー部材3の後述する鍵当接摺動部26を摺動可能に挿入して保持するハンマー保持部21が設けられている。
【0020】
一方、ハンマー部材3は、
図1および
図2に示すように、ハンマー本体23と、このハンマー本体23の後部(
図2では左側部)に設けられた錘部24と、ハンマー本体23の前部側(
図2では右側部)に設けられて、ハンマー本体23の回転中心となる合成樹脂製の回転取付部25と、ハンマー本体23の前側に位置する先端部(
図2では右端部)に設けられた鍵当接摺動部26とを備えている。
【0021】
このハンマー部材3は、
図1および
図2に示すように、ハンマー本体23の鍵当接摺動部26を鍵盤シャーシ1のハンマー載置部7の前下り部9に設けられた開口部9aに挿入させた状態で、ハンマー本体23の回転取付部25をハンマー載置部7の下面に設けられたハンマー支持部8の支持軸8aに回転可能に取り付けることにより、ハンマー本体23がハンマー支持部8の支持軸8aを中心に上下方向に回転するように構成されている。
【0022】
また、このハンマー部材3は、
図1および
図2に示すように、ハンマー本体23の回転取付部25がハンマー支持部8の支持軸8aに回転可能に取り付けられた際に、ハンマー本体23の前側に位置する先端部(
図1では右端部)に設けられた鍵当接摺動部26が、鍵2のハンマー押圧部20に形成されたハンマー保持部21内に、摺動可能に挿入されるように構成されている。
【0023】
これにより、ハンマー部材3は、
図1および
図2に示すように、通常の状態で、ハンマー本体23が錘部24の重量によってハンマー支持部8の支持軸8aを中心に反時計回りに回転し、ハンマー本体23の錘部24側の後端部(
図1では左端部)が下限ストッパ部15に当接して位置規制されると共に、ハンマー本体23の鍵当接摺動部26が鍵2のハンマー押圧部20を押し上げて鍵2を上限位置に位置規制するように構成されている。
【0024】
また、このハンマー部材3は、
図1および
図2に示すように、鍵2が上方から押鍵されると、鍵2のハンマー押圧部20によってハンマー本体23の鍵当接摺動部26がハンマー本体23の錘部24の重量に抗して押し下げられ、これに伴ってハンマー本体23がハンマー支持部8の支持軸8aを中心に時計回りに回転し、ハンマー本体23の錘部24側の後端部が鍵盤シャーシ1の鍵載置部12の下面に設けられたフェルトなどの上限ストッパ27に当接して、ハンマー本体23の回転が停止するように構成されている。
【0025】
ところで、このハンマー部材3には、
図1および
図2に示すように、ハンマー本体23の回転に伴う遠心力に応じて移動する移動部材28が、ハンマー本体23の長手方向に沿って移動可能に設けられている。この場合、ハンマー本体23には、移動部材28をガイドするガイド孔29が、鍵盤シャーシ1の基板載置部10の下側に対応した状態で、ハンマー本体23の長手方向に沿って設けられている。
【0026】
移動部材28は、
図2および
図3に示すように、全体が高さの高いほぼ三角形状に形成されている。この移動部材28の下部には、ガイド溝28aが形成されている。このガイド溝28a内には、
図3に示すように、ハンマー本体23のガイド孔29内に両側から挿入する一対の係合突起28bが設けられている。
【0027】
これにより、移動部材28は、
図2および
図3に示すように、そのガイド溝28aにガイド孔29の上部側に位置するハンマー本体23の箇所が移動可能に挿入すると共に、一対の係合突起28bがガイド孔29内に両側から挿入してガイド孔29の上部側に位置するハンマー本体23の箇所を移動可能に挟むように構成されている。
【0028】
また、この移動部材28は、
図1および
図2に示すように、付勢部材であるコイルばね30によって初期位置に向けて付勢されている。このコイルばね30は、その一端部30aがハンマー本体23の回転中心側である回転取付部25側に位置するガイド孔29の端部に取り付けられ、他端部30bがガイド孔29に対応する移動部材28の箇所に取り付けられた構成になっている。
【0029】
これにより、コイルばね30は、
図1および
図2に示すように、移動部材28をハンマー本体23の回転取付部25側に向けて弾力的に引き寄せるように構成されている。この場合、ハンマー本体23には、移動部材28を初期位置に位置規制するためのストッパ部31が設けられている。
【0030】
このため、移動部材28は、
図1および
図5に示すように、鍵2が弱い力で押鍵されてハンマー部材3がハンマー支持部8の支持軸8aを中心に時計回りにゆっくり回転する際に、そのハンマー部材3の回転に伴って移動部材28に生じる遠心力がコイルばね30のばね力よりも小さいと、移動部材28がコイルばね30のばね力によってストッパ部31に押し当てられた状態で、ハンマー部材3の回転と共に上方に移動するように構成されている。
【0031】
また、この移動部材28は、
図1および
図6に示すように、鍵2が強い力で押鍵されてハンマー部材3がハンマー支持部8の支持軸8aを中心に時計回りに速い速度で回転する際に、そのハンマー部材3の回転に伴って移動部材28に生じる遠心力がコイルばね30のばね力よりも大きいと、コイルばね30のばね力に抗して移動部材28がストッパ部31から離れる方向に移動し、この状態でハンマー部材3の回転と共に上方に移動するように構成されている。
【0032】
さらに、この移動部材28の上端部には、
図1および
図2に示すように、フック部32がハンマー本体23の回転中心側である回転取付部25側に向けて突出して設けられている。このフック部32の上方に位置する基板載置部10上には、クリック感付与部材33が設けられている。このクリック感付与部材33は、移動部材28がストッパ部31に当接した状態で、ハンマー部材3が鍵2の押鍵操作に伴って時計回りに回転した際に、フック部32が当接して乗り越えることにより、鍵2にクリック感を付与するように構成されている。
【0033】
すなわち、このクリック感付与部材33は、
図1および
図4に示すように、基板載置部10の段差部10aの下部に一端部34aが取り付けられた弾性部材34と、この弾性部材34の上部を押え付ける押え部35とを備えている。弾性部材34は、厚みの薄い撓み変形可能な金属板、あるいはシリコーンゴムやエラストマーなどの柔軟性を有する合成樹脂からなり、鍵盤シャーシ1の前後方向に細長い形状に形成されている。
【0034】
この弾性部材34は、
図1および
図4に示すように、その一端部34aが基板載置部10の段差部10aの下部に取り付けられ、他端部34b側が基板載置部10の開口部10bに対応し、この状態で他端部34b側が上下方向に撓み変形するように構成されている。また、押え部35は、基板載置部10の段差部10aの上部にビス36によって取り付けられ、その下部先端(
図4では左端部)が段差部10aに沿って折り曲げられて弾性部材34の一端部34a上に配置され、この弾性部材34の一端部34a側を押え付けるように構成されている。
【0035】
この場合、弾性部材34は、
図4に示すように、その一端部34aの下面に基板載置部10の開口部10bの縁部が第1支点37aとして当接し、またこの一端部34a側の上面に押え部35の下部先端が第2支点37bとして当接するように構成されている。この場合、弾性部材33は、その一端部34aから第2支点37b間での長さ(L1)が、一端部34aから第1支点37aまでの長さ(L2)よりも、長く(L1>L2)設定されている。
【0036】
これにより、弾性部材34は、
図4に示すように、その他端部34bに移動部材28のフック部32が下側から当接して乗り越える際に、他端部34b側が第2支点37bを中心に上方に撓み変形し、また他端部34bに移動部材28のフック部32が上側から当接して乗り越える際に、他端部34b側が第1支点37aを中心に下方に撓み変形するように構成されている。
【0037】
このため、この弾性部材34は、
図4に示すように、他端部34b側が第2支点37bを中心に上方に撓み変形する際の変形力が、第1支点37aを中心に他端部34b側が下方に撓み変形する際の変形力よりも、大きくなるように構成されている。これにより、弾性部材34は、移動部材28のフック部32が下側から当接して乗り越える際にフック部32に付与される負荷が、移動部材28のフック部32が下側から当接して乗り越える際にフック部32に付与される負荷よりも、大きくなるように構成されている。
【0038】
次に、このような鍵盤装置の作用について説明する。
まず、鍵2が押鍵操作されていない初期状態のときには、
図1に示すように、ハンマー部材3が錘部24の重量によってハンマー支持部8の支持軸8aを中心に反時計回りに回転し、このハンマー部材3の錘部24側の後端部が鍵盤シャーシ1の後脚部14における下端部に設けられた下限ストッパ15に当接している。
【0039】
このときには、
図1に示すように、鍵2のハンマー押圧部20のハンマー保持部21がハンマー本体23の先端部(
図1では右端部)に位置する鍵当接摺動部26によって押し上げられているので、鍵2が鍵盤シャーシ1の鍵載置部12上に設けられた鍵支持部13の支持軸13aを中心に反時計回りに回転して上限位置に規制されている。この状態では、鍵2のスイッチ押圧部16がスイッチ部4の上方に位置して離れている。
【0040】
この状態で、鍵2を弱い力で押鍵操作すると、
図5に示すように、鍵2が鍵支持部13の支持軸13aを中心に時計回りに回転して、ハンマー押圧部20のハンマー保持部21がハンマー部材3の鍵当接摺動部26をゆっくり押し下げる。これにより、ハンマー部材3が錘部24の重量に抗して、
図5において時計回りにゆっくり回転する。
【0041】
このときには、ハンマー部材3のハンマー本体23の回転によって、鍵2にアクション荷重が付与されるので、鍵荷重が重くなる。また、このときには、ハンマー本体23の回転に伴って移動部材28に生じる遠心力がコイルばね30のばね力よりも小さい。このため、移動部材28がコイルばね30のばね力に抗して移動することがなく、コイルばね30のばね力よってストッパ部31に押し当てられた状態を維持し、この状態でハンマー本体23の回転と共に上方に移動する。
【0042】
そして、鍵2の押鍵操作に伴ってハンマー部材3が時計回りに更に回転して、
図5に示すように、ハンマー本体23の後端部(
図5では左端部)が鍵盤シャーシ1の鍵載置部13の下面に設けられたフェルトなどの上限ストッパ27に接近する際に、スイッチ部4が鍵2のスイッチ押圧部16によって押圧されて、ゴムシート18の膨出部18aが弾性変形することにより、スイッチ部4がスイッチ信号を出力する。
【0043】
また、このときには、ハンマー部材3に移動可能に設けられた移動部材28のフック部32が鍵盤シャーシ1の基板載置部10の開口部
10b内に下側から挿入して、クリック感付与部材33の弾性部材34に下側から当接して乗り越えるので、鍵荷重が重くなった後に、急激に軽くなるクリック感がレットオフ感として鍵2に付与される。
【0044】
すなわち、移動部材28のフック部32が弾性部材34の他端部34bに下側から当接して乗り越える際には、他端部34b側が第2支点37bを中心に上方に撓み変形するので、弾性部材34の変形力が大きく、フック部32に付与される負荷が大きい。このため、フック部32が弾性部材34の他端部34bを乗り越えると、フック部32に付与された大きな負荷が急激に抜けて軽くなる。
【0045】
これにより、鍵2に鍵荷重が急激に軽くなるレットオフ感が付与される。この後、ハンマー本体23の後端部(
図5では左端部)が鍵盤シャーシ1の鍵載置部13の下面に設けられたフェルトなどの上限ストッパ27に当接し、ハンマー本体23が上限位置に規制されて、ハンマー部材3の回転が急激に停止する。
【0046】
そして、鍵2から指が離れて鍵2が離鍵動作を開始すると、
図5に示すように、ハンマー部材3のハンマー本体23が錘部34の重量によってハンマー支持部8の支持軸8aを中心に反時計回りに回転し、鍵2がスイッチ部4の膨出部18aの弾性復帰力によって鍵支持部13の支持軸13aを中心に反時計回りに回転を開始する。すると、ハンマー本体23に設けられた移動部材28のフック部32がクリック感付与部材33の弾性部材34に上側から当接して乗り越える。
【0047】
このときには、弾性部材34の他端部34b側が第1支点37aを中心に下方に撓み変形するので、弾性部材34の変形力が小さく、フック部32に付与される負荷が小さい。このため、フック部32が弾性部材34の他端部34bを乗り越える際に、フック部32に付与される負荷が小さく、フック部32が軽い感じのクリック感を鍵2に付与して弾性部材34をすり抜ける。
【0048】
このように、フック部32が弾性部材34の他端部34bを乗り越えると、ハンマー本体23がハンマー支持部8の支持軸8aを中心に反時計回りに更に回転し、鍵2が鍵支持部13の支持軸13aを中心に反時計回りに更に回転する。そして、ハンマー本体23の錘部34側の後端部が鍵盤シャーシ1の後脚部14における下端部に設けられた下限ストッパ15に当接する。
【0049】
これにより、鍵2は、
図1に示すように、ハンマー押圧部20のハンマー保持部21がハンマー本体23の先端部(
図1では右端部)に位置する鍵当接摺動部26によって押し上げられるので、鍵2が鍵支持部13の支持軸13aを中心に反時計回りに回転して上限位置に規制される。この状態では、鍵2が初期位置に戻り、鍵2のスイッチ押圧部16がスイッチ部4の上方に位置して離れる。
【0050】
次に、鍵2を強い力で押鍵操作した場合について説明する。
このときには、
図6に示すように、鍵2が鍵支持部13の支持軸13aを中心に時計回りに回転して、ハンマー押圧部20のハンマー保持部21がハンマー部材3の鍵当接摺動部26を速い速度で押し下げる。これにより、ハンマー部材3が錘部24の重量に抗して、
図6において時計回りに速い速度で回転する。
【0051】
このようにハンマー本体23が回転すると、このハンマー本体23の回転によって、鍵2にアクション荷重が付与されるので、鍵荷重が重くなる。このときには、ハンマー本体23の回転に伴って移動部材28に生じる遠心力がコイルばね30のばね力よりも大きい。このため、移動部材28がコイルばね30のばね力に抗してハンマー本体23の回転中心から離れる方向に移動し、この状態で移動部材28がハンマー本体23の回転と共に上方に移動する。
【0052】
そして、鍵2の押鍵操作に伴ってハンマー部材3が時計回りに回転して、
図6に示すように、ハンマー本体23の後端部(
図6では左端部)が鍵盤シャーシ1の鍵載置部13の下面に設けられたフェルトなどの上限ストッパ27に接近する際に、スイッチ部4が鍵2のスイッチ押圧部16によって押圧されてゴムシート18の膨出部18aが弾性変形することにより、スイッチ部4がスイッチ信号を出力する。
【0053】
また、このときには、ハンマー本体23に移動可能に設けられた移動部材28のフック部32が鍵盤シャーシ1の基板載置部10の開口部
10b内に下側から挿入するが、
図6に示すように、フック部32はクリック感付与部材33の弾性部材34に接触することなく、弾性部材34の他端部34bの後方(
図6では左側)を通過する。このため、クリック感付与部材33によるクリック感が鍵2に付与されることがない。
【0054】
この後、ハンマー本体23の後端部(
図6では左端部)が鍵盤シャーシ1の鍵載置部13の下面に設けられたフェルトなどの上限ストッパ27に当接すると、ハンマー本体23が上限位置に規制されて、ハンマー本体23の回転が急激に停止する。そして、鍵2から指が離れて鍵2が離鍵動作を開始すると、
図6に示すように、ハンマー本体23が錘部34の重量によってハンマー支持部8の支持軸8aを中心に反時計回りに回転を開始する。
【0055】
すると、ハンマー本体23に設けられた移動部材28は、コイルばね30のばね力に抗してハンマー本体23の回転中心から離れる方向に移動した状態で、ハンマー本体23の回転と共に下側に移動する。このときには、移動部材28のフック部32がクリック感付与部材33の弾性部材34に接触することなく、弾性部材34の他端部34bの後方を通過する。このため、クリック感付与部材33によるクリック感が鍵2に付与されることがない。
【0056】
このように、フック部32が弾性部材34の他端部34bの後方を通過すると、ハンマー本体23がハンマー支持部8の支持軸8aを中心に反時計回りに更に回転し、これに伴って鍵2が鍵支持部13の支持軸13aを中心に反時計回りに更に回転する。そして、ハンマー本体23の錘部34側の後端部が鍵盤シャーシ1の後脚部14における下端部に設けられた下限ストッパ15に当接する。
【0057】
これにより、鍵2は、
図1に示すように、ハンマー押圧部20のハンマー保持部21がハンマー本体23の先端部(
図1では右端部)に位置する鍵当接摺動部26によって押し上げられるので、鍵2が鍵支持部13の支持軸13aを中心に反時計回りに回転して上限位置に規制される。この状態では、鍵2が初期位置に戻り、鍵2のスイッチ押圧部16がスイッチ部4の上方に位置して離れる。
【0058】
このように、この鍵盤装置によれば、鍵盤シャーシ1と、この鍵盤シャーシ1上に上下方向に回転可能に取り付けられた鍵2と、この鍵2の押鍵操作に伴って回転して鍵2にアクション荷重を付与するハンマー部材3と、このハンマー部材3に移動可能に設けられ、ハンマー部材3の回転に伴う遠心力に応じて移動する移動部材28と、この移動部材28が当接して乗り越えた際にクリック感を付与するクリック感付与部材33とを備えていることにより、鍵2を押鍵する強さに応じてクリック感を付与することができ、これによりアコースティックピアノの鍵タッチ感に近似した鍵タッチ感を得ることができる。
【0059】
すなわち、この鍵盤装置では、鍵2を強く押鍵すると、移動部材28が遠心力で移動して、この移動部材28をクリック付与部材33から離すことができるので、鍵2にクリック付与部材33によるクリック感が付与されず、また鍵2を弱く押鍵すると、移動部材28が遠心力によってほとんど移動せず、この移動部材28をクリック感付与部材33に当接させて乗り越えさせることができるので、鍵2にクリック付与部材33によるクリック感を付与することができる。これにより、鍵2を押鍵する強さに応じてクリック感を付与することができるので、アコースティックピアノの鍵タッチ感に近似した鍵タッチ感を得ることができる。
【0060】
また、この鍵盤装置では、移動部材28を初期位置に向けて付勢する付勢部材であるコイルばね30を備えているので、ハンマー部材3が回転しないときに、移動部材28を初期位置に確実に配置することができると共に、鍵2が弱い力で押鍵されて移動部材28に対する遠心力がコイルばね30のばね力よりも小さいときにも、移動部材28を初期位置に配置することができ、これによりクリック付与部材33によるクリック感を鍵2に付与することができる。
【0061】
この場合、鍵2が強い力で押鍵されて移動部材28に対する遠心力がコイルばね30のばね力よりも大きいときには、その遠心力によって移動部材28をコイルばね30のばね力に抗して初期位置から移動させることができ、これにより移動部材28をクリック付与部材33に当接させることなく、クリック付与部材33の側方を通過させることができるので、クリック付与部材33によるクリック感が鍵2に付与されないようにすることができる。
【0062】
さらに、この鍵盤装置では、クリック感付与部材33が、上下方向に撓み変形する弾性部材34を有し、移動部材28が弾性部材34に下側から当接する際における弾性部材34の撓み変形力と、移動部材28が弾性部材34に上側から当接する際における弾性部材34の撓み変形力とが、異なることにより、押鍵時と離鍵時とで鍵2に付与されるクリック感を異ならせることができる。
【0063】
この場合、移動部材28が弾性部材34に下側から当接する際における弾性部材34の撓み変形力を、移動部材28が弾性部材34に上側から当接する際における弾性部材34の撓み変形力よりも、大きく設定することにより、押鍵時に鍵2に付与されるクリック感を離鍵時に鍵2に付与されるクリック感よりも強くすることができ、これによってもアコースティックピアノの鍵タッチ感に近似した鍵タッチ感を得ることができる。
【0064】
なお、上述した実施形態では、ハンマー本体23に設けられたガイド孔29に沿って移動する移動部材28が、ハンマー本体23の回転中心を通る放射線R方向に対して交差する方向に沿って移動するように構成した場合について述べたが、これに限らず、例えば
図7に示すように、ハンマー本体23のガイド孔29をハンマー本体23の回転中心を通る放射線Rに沿って設けることにより、移動部材28をハンマー本体23の回転中心を通る放射線R方向に沿って移動するように構成しても良い。
【0065】
このように構成すれば、ハンマー本体23がその回転中心を中心として回転する際に、移動部材28に遠心力を効率よく付与することができるので、移動部材28をハンマー本体23の回転に応じて良好に移動させることができる。
【0066】
また、上述した実施形態では、移動部材28を初期位置に向けて付勢する付勢部材として、コイルばね30を用いた場合について述べたが、必ずしもコイルばね30である必要はなく、板ばねなどのばね部材であっても良く、また必ずしもばね部材である必要もなく、例えば
図8(a)に示す第1変形例、あるいは
図8(b)に示す第2変形例のように構成したものであっても良い。
【0067】
すなわち、
図8(a)に示された第1変形例の付勢部材は、ハンマー部材3に磁石40を設け、この磁石40の磁力で移動部材28を初期位置に吸引するように構成されている。このように構成すれば、ハンマー部材3の回転によって移動部材28に生じる遠心力が磁石40の吸引力よりも大きくなった際に、移動部材28を移動させることができる。
【0068】
また、
図8(b)に示された第2変形例の付勢部材は、ハンマー部材3に傾斜部41を設け、この傾斜部41を移動部材28が遠心力に応じて駆け上るように構成されている。このように構成すれば、ハンマー部材3の回転によって移動部材28に生じる遠心力が徐々に大きくなると、これに伴って移動部材28が遠心力に応じて傾斜部41を徐々に駆け上るように移動させることができ、逆に移動部材28に生じる遠心力が徐々に小さくなると、動部材28が傾斜部41を徐々に駆け下りるように移動させることができる。
【0069】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は、これに限られるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲を含むものである。
以下に、本願の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
【0070】
(付記)
請求項1に記載の発明は、鍵盤シャーシ上に上下方向に回転可能に取り付けられた鍵と、
前記鍵の押鍵操作に伴って回転して前記鍵にアクション荷重を付与するハンマー部材と、
前記ハンマー部材に移動可能に設けられ、前記ハンマー部材の回転に伴う遠心力に応じた位置に移動する移動部材と、
前記押鍵操作に伴って前記移動部材が移動した位置が、所定の移動範囲内にある場合のみ、前記移動部材と当接するフック部材と、
を備えていることを特徴とする鍵盤装置である。
【0071】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の鍵盤装置において、前記移動部材は、前記ハンマー部材の回転中心から離れる方向に移動することを特徴とする鍵盤装置である。
【0072】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の鍵盤装置において、前記移動部材を初期位置に向けて付勢する付勢部材を備えていることを特徴とする鍵盤装置である。
【0073】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の鍵盤装置において、前記フック部材は、上下方向に撓み変形する弾性部材を有し、前記移動部材が前記弾性部材に下側から当接する際における前記弾性部材の撓み変形力と、前記移動部材が前記弾性部材に上側から当接する際における前記弾性部材の撓み変形力とが、異なることを特徴とする鍵盤装置である。