(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
無機フィラーとして、機械的物性や熱伝導率といった特性に優れるAl
2O
3やMgOを未処理で使用した場合、これらのフィラーは、通常、SiO
2(シリカ)のフィラーと比較してシランカップリング剤の効果が得られにくい。すなわち、Al
2O
3やMgOの無機フィラーと樹脂との界面で剥離が発生しやすくなる場合があることが分かった。そのため、機械的物性や熱伝導率について所望の特性が得られなかったり、制御することが困難になったりするという問題があった。また、無機フィラーと樹脂との界面の密着性が弱いために、ナノコンポジット樹脂の製造初期には無機フィラーと樹脂との界面が密着していても長期間の使用においてその界面で剥離が発生し、それに伴う特性変動・劣化、クラック発生などが生じ、長期の信頼性には問題が生ずる場合があった。
【0009】
また、無機フィラーとしてTiO
2(チタニア)を用いた場合、さらには、AlN(窒化アルミニウム)などの金属窒化物を用いた場合も、上述のAl
2O
3やMgOを用いた場合と同様な問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らはこのような課題に対して、無機フィラーとして使用することができるAl
2O
3、MgO、TiO
2などの金属酸化物またはAlNなどの金属窒化物と樹脂の密着性を向上させるために、無機フィラーの表面特性を制御することにより、上記課題を解決することが出来ることを見出した。さらにその手法は、SiO
2に適用しても有効に樹脂との密着を向上させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、一実施の形態によれば、ナノコンポジット樹脂組成物であって、熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂、またはこれらの組み合わせからなる樹脂と、シランカップリング剤と、無機フィラーとを含んでなり、前記無機フィラーが、表面水酸基密度が4〜8個/nm
2の金属酸化物または金属窒化物からなる無機粒子を含む。
【0012】
あるいはまた、前記ナノコンポジット樹脂組成物において、前記無機フィラーが、粒径が、1〜99nmの無機フィラーと、粒径が100nm〜100μmの無機フィラーとを含み、前記粒径が1〜99nmの無機フィラーが、SiO
2からなる無機粒子を含み、前記粒径が100nm〜100μmの無機フィラーが、Al
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される金属酸化物もしくはAlN、あるいはそれらの混合物からなる無機粒子を含むことが好ましい。
ここで、粒径は、各々の無機粒子そのものの粒子の直径であり、各々の粒子を完全な球体と仮定した場合にその直径に相当する値である。粒径が1〜99nmの無機フィラーとは、最大粒径が99nm以下であり、最小粒径が1nm以上である一群の無機フィラーをいい、最大粒径及び最小粒径は、電子顕微鏡による観察で測定して得られた値をいう。同様に、粒径が100nm〜100μmの無機フィラーとは、最大粒径が100μm以下であり、最小粒径が100nm〜100μmである一群の無機フィラーをいう。
【0013】
あるいはまた、前記ナノコンポジット樹脂組成物において、前記無機フィラーが、粒径が1〜99nmの無機フィラーと、粒径が100nm〜100μmの無機フィラーとを含み、前記粒径が1〜99nmの無機フィラーがAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される金属酸化物またはもしくはAlN、あるいはそれらの混合物からなる無機粒子を含み、前記粒径が100nm〜100μmの無機フィラーがSiO
2からなる無機粒子を含むことが好ましい。
【0014】
前記無機フィラーが、粒径もしくは長径が1〜99nmの無機フィラーと、粒径もしくは長径が100nm〜100μmの無機フィラーとを含み、前記粒径もしくは長径が1〜99nmの無機フィラーがSiO
2からなる無機粒子を含み、前記粒径もしくは長径が100nm〜100μmの無機フィラーがAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される金属酸化物もしくはAlN、あるいはそれらの混合物からなる無機粒子を含み、少なくとも前記粒径もしくは長径が100nm〜100μmの無機フィラーが、表面水酸基密度が4〜8個/nm
2の無機粒子であることが好ましい。
【0015】
あるいはまた、前記無機フィラーが、粒径もしくは長径が1〜99nmの無機フィラーと、粒径もしくは長径が100nm〜100μmの無機フィラーとを含み、前記粒径もしくは長径が1〜99nmの無機フィラーがAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される金属酸化物またはもしくはAlN、あるいはそれらの混合物からなる無機粒子を含み、前記粒径もしくは長径が100nm〜100μmの無機フィラーがSiO
2からなる無機粒子を含み、少なくとも前記粒径もしくは長径が1〜99nmの無機フィラーが、表面水酸基密度が4〜8個/nm
2の無機粒子であることが好ましい。
【0016】
あるいはまた、前記無機フィラーが、粒径もしくは長径が1〜99nmの無機フィラーと、粒径もしくは長径が100nm〜100μmの無機フィラーとを含み、前記粒径もしくは長径が1〜99nmの無機フィラーと前記粒径もしくは長径が100nm〜100μmの無機フィラーともにAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される金属酸化物もしくはAlN、あるいはそれらの混合物からなる無機粒子であり、前記粒径もしくは長径が1〜99nmの無機フィラーと前記粒径もしくは長径が100nm〜100μmの無機フィラーの両方が、表面水酸基密度が4〜8個/nm
2の無機粒子であることが好ましい。
【0017】
あるいはまた、前記無機フィラーが、粒径もしくは長径が1〜99nmの無機フィラーと、粒径もしくは長径が100nm〜100μmの無機フィラーとを含み、前記粒径もしくは長径が1〜99nmの無機フィラーと前記粒径もしくは長径が100nm〜100μmの無機フィラーともにSiO
2からなる無機粒子であり、前記粒径もしくは長径が1〜99nmの無機フィラーと前記粒径もしくは長径が100nm〜100μmの無機フィラーの少なくとも一方が、表面水酸基密度が4〜8個/nm
2の無機粒子を含むことが好ましい。
【0018】
また、前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂であることが好ましい。
【0019】
本発明は別の局面によれば、ナノコンポジット樹脂硬化物であって、上記いずれかに記載のナノコンポジット樹脂組成物を硬化させてなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るナノコンポジット樹脂組成物を硬化してなる樹脂硬化物においては、無機フィラーと樹脂との密着性が向上しており、その結果、機械的物性や熱伝導率特性を向上させ、及びそれらの特性を制御することができるようになった。このようなナノコンポジット樹脂組成物を硬化させてなる硬化物は、絶縁材として長期信頼性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0023】
[第1実施形態]
本発明は、第1の実施形態によれば、ナノコンポジット樹脂組成物である。第1実施形態によるナノコンポジット樹脂組成物は、熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂、またはこれらの組み合わせからなる樹脂と、シランカップリング剤と、第一の無機フィラーと、第二の無機フィラーとから構成され、前記第一の無機フィラーが、SiO
2からなる無機粒子であり、前記第二の無機フィラーが、Al
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される金属酸化物もしくはAlN、あるいはそれらの混合物からなる無機粒子であり、前記第一の無機フィラー及び前記第二の無機フィラーの両方が、表面水酸基密度が4〜8個/nm
2の無機粒子である。
【0024】
第1実施形態によるナノコンポジット樹脂組成物を構成する樹脂成分は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれであってもよく、これらの混合物からなる樹脂であってもよい。
【0025】
熱硬化性樹脂としては、ガラス転移温度[Tg]が比較的高く、誘電率が、約4〜7といった低誘電率のものを用いることができる。好ましい熱硬化性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂を挙げることができるが、これらには限定されない。樹脂成分が熱硬化性樹脂であるときは、樹脂成分は、熱硬化性樹脂主剤と、硬化剤と、必要に応じて硬化促進剤とを含む。
【0026】
好ましい熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂の主剤としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等の2官能エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等の多官能型エポキシ樹脂を単独で又は複数組み合わせて使用することができる。
【0027】
熱硬化性樹脂の硬化剤は、熱硬化性樹脂主剤との関係で選択することができる。例えば、熱硬化性樹脂主剤として、エポキシ樹脂主剤を用いる場合には、エポキシ樹脂の硬化剤として一般に使用されているものを用いることができる。特には、硬化剤としては、アミン硬化剤、脂肪族ポリアミン、芳香族アミン、酸無水物系、フェノールノボラック型、フェノールアラルキル、トリフェノールメタン型フェノール樹脂を用いることができるが、これらには限定されない。
【0028】
なお、エポキシ樹脂の硬化剤として、さらには、分子構造中に−NH
3、−NH
2、−NH、のいずれか一種、または複数の官能基が含まれる分子、または酸無水物を特に好適に使用することができる。具体的には、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンのような芳香族アミン、脂肪族アミン、イミダゾール誘導体、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジンなどのグアニジン系硬化剤、チオ尿素付加アミン、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ドデカン酸ジヒドラジドなどのジヒドラジド系硬化剤、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール系硬化剤、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物系硬化剤およびそれらの異性体、変成体を用いることができる。また、硬化剤は、これらのうち1種のものを単独で用いることができ、あるいは、2種以上のものを混合して用いることができる。
【0029】
また、本実施形態において、場合によっては、任意成分である硬化促進剤を使用することもできる。硬化促進剤は、硬化反応を制御するために有効に用いることができる。硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、ベンジルジメチルアミン等の3級アミン類、トリフェニルフォスフィン等の芳香族フォスフィン類、三フッ化ホウ素モノエチルアミン等のルイス酸、ホウ酸エステル等を用いることができるが、これらには限定されない。
【0030】
硬化剤の配合割合は、エポキシ樹脂主剤のエポキシ当量及び硬化剤のアミン当量もしくは酸無水物当量から決定することができる。エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂主剤を用いる場合にも、同様に、各樹脂主剤の反応当量、硬化剤の反応当量に基づき、配合割合を決定することができる。また、硬化促進剤を用いる場合には、硬化促進剤の配合割合は、エポキシ樹脂主剤の重量を100%としたときに、0.1〜5重量%とすることが好ましい。
【0031】
樹脂成分が熱可塑性樹脂であるとき、熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂を使用することができるが、これらには限定されない。また、熱可塑性樹脂を構成成分とする場合には、組成物の調製において、熱可塑性樹脂を溶解するための揮発性溶媒を用いることができる。
【0032】
ナノコンポジット樹脂組成物を構成するシランカップリング剤は、樹脂成分と反応する官能基と、無機フィラー表面の水酸基(やアミノ基)と結合するアルコキシド基とを備えるものを使用することができる。例えば、樹脂成分にエポキシ樹脂を用いる場合には、シランカップリング剤は、アミノ基、メルカプト基、またはエポキシ基を備え、かつアルコキシ基を備えることが好ましい。樹脂成分に、ポリイミド樹脂を用いる場合には、シランカップリング剤は、アミノ基とアルコキシ基とを備えることが好ましい。シランカップリング剤の添加量範囲は、フィラー重量に対して、例えば0.01〜30重量%とすることができるが、これに限定されるものではない。
【0033】
ナノコンポジット樹脂組成物を構成する無機フィラーについて説明する。本明細書中の実施形態で、ナノコンポジット樹脂組成物を構成する無機フィラーを指称する際は、平均粒径もしくは長径が1〜99nmの無機フィラーを第一の無機フィラーとし、平均粒径もしくは長径が100nm〜100μmの無機フィラーを第二の無機フィラーとする。フィラーとして用いる無機粒子には必ず粒径分布があるため、例えば製造時にはある平均粒径で指定して無機粒子を用いる。そのため、上記のように平均粒径で無機フィラーの粒径を指定している。以下、本明細書において、無機フィラーの「平均粒径」とは、BET法により測定して得られた値をいうものとする。いっぽう、無機フィラーの「長径」とは、例えば細長い針状粒子では長手方向の粒子の長さのことであり、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定して得られた値をいうものとする。
【0034】
第1実施形態によるナノコンポジット樹脂組成物を構成する無機フィラーのうち、第一の無機フィラーは、SiO
2からなる無機粒子である。
【0035】
上記第一の無機フィラーの平均粒径もしくは長径は、好ましくは、5〜30nmであり、さらに好ましくは、10〜20nmである。第一の無機フィラーの形状は、典型的には球形であるが、球形に限定されず、楕円形状、針状、板状のものであってもよい。以下、本明細書において、無機フィラーの形状が、球形ではない場合、長径が、上記のサイズの範囲にあることが好ましい。
【0036】
上記第一の無機フィラーは、多孔性(気孔率が70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、または、95%以上)であってもよく、非多孔性(気孔率が70%未満、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、または、20%以下)であってもよい。
【0037】
第1の実施形態において、第二の無機フィラーは、Al
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される金属酸化物、またはAlN、あるいはそれらの混合物からなる無機粒子から構成され。これらの無機粒子は、樹脂のガラス転移温度[Tg]を高め、室温で高い電気絶縁性(10
11Ω・m以上)を与え、ナノコンポジット樹脂の機械的物性や熱伝導率の特性の向上に寄与する。また、第二の無機フィラーとしては、上記のうち一種類であってもよく、これらの二種類以上を混合したものであってもよい。
【0038】
第二の無機フィラーの平均粒径もしくは長径は、好ましくは、10〜100μmであり、さらに好ましくは、10〜60μmである。第二の無機フィラーの形状は、典型的には球形であるが、球形に限定されず、楕円形状、針状、板状のものであってもよい。第二の無機フィラーの形状が、球形ではない場合、平均粒径ではなく、長径が100nm〜100μmであることが好ましい。
【0039】
第二の無機フィラーもまた、多孔性(気孔率が70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、または、95%以上)であってもよく、非多孔性(気孔率が70%未満、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、または、20%以下)であってもよい。
【0040】
上記の平均粒径もしくは長径を有する第一無機フィラーと第二無機フィラーを樹脂に混合して作製したナノコンポジット樹脂組成物あるいはそれを硬化させたナノコンポジット樹脂硬化物に含まれる無機フィラーの粒径を電子顕微鏡で測定すると、前記粒径もしくは長径が1〜99nmの無機フィラーはSiO
2からなる無機粒子を含み、前記粒径もしくは長径が100nm〜100μmの無機フィラーはAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される金属酸化物もしくはAlN、あるいはそれらの混合物からなる無機粒子を含んでいることになる。
ここで粒径を評価するときにはナノコンポジット樹脂組成物あるいはナノコンポジット樹脂硬化物の断面を研磨した後、電子顕微鏡で測定している。
【0041】
本実施形態において、第一の無機フィラーを構成するSiO
2粒子、及び第二の無機フィラーを構成するAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される金属酸化物、またはAlN、あるいはそれらの混合物からなる無機粒子は、表面水酸基密度が4〜8個/nm
2である。表面水酸基密度は、シリカ表面のシラノール基の定量に用いられているリチウムアルミニウムハイドライド法(LiAlH
4法)、赤外線分光法、モルホリン法(TechnicalBulletinFineParticlesNo.11 日本エアロジル)、ターシャリーブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)等の有機アルカリの吸着を利用した酸塩基滴定等の定量法によって測定することが可能である。また、TOF−SIMSによって表面近傍の水酸基量を定量することも可能である。これらの方法は、一般的にシリカの表面水酸基密度の測定方法として知られているが、シリカだけでなくAl
2O
3、MgO、TiO
2あるいはAlNなどの金属窒化物にも適用することができる。ここでは、LiAlH
4法に基づいて赤外線分光法により測定した密度を用いることができる。表面水酸基密度が、4個/nm
2より少ないと、シランカップリング剤が結合する箇所が減少するといった不都合が生じる場合がある。表面水酸基密度が8個/nm
2より多いと、シランカップリング剤が結合しにくくなるといった不都合が生じる場合がある。
【0042】
このような、所定の表面水酸基密度を有する無機粒子は、市販のものを測定し、評価して、表面水酸基密度が4〜8個/nm
2の範囲内にあるものは、そのまま利用しても良い。なお、表面水酸基密度が販売時に特定されている市販品であっても、周囲環境や保存状態によって表面水酸基密度が変化することがあるため、上述の方法によって、表面水酸基密度を測定し、必要に応じて、任意の処理方法を適用して、表面水酸基密度を低減させ、あるいは増加させるように制御してもよい。表面水酸基密度を低減あるいは増加させるように制御する方法としては、特に限定されることなく、公知の方法を採用することができる。
【0043】
一例として、代表的な方法である加熱処理方法を挙げて説明する。加熱処理方法は、高温で無機フィラーを加熱することにより、無機フィラーの表面水酸基密度を低減させる方法である。ここで、加熱温度は、無機フィラーの組成や材質によって任意に選ぶことが可能である。特には、無機フィラーが結晶化せず、無機フィラー同士が焼結しない範囲で選択することが可能である。加熱温度が高すぎると、無機フィラーが結晶化したり焼結したりする不具合が生じる場合がある。逆に加熱温度が低すぎると無機フィラー表面の水酸基密度を低減することができない場合がある。具体的には、結晶化や焼結は目視で確認することができ、また表面水酸基密度は後述の方法で確認することができるため、当業者は、結晶化や焼結が生じず、かつ所望の表面水酸基密度を達成する範囲内で加熱処理温度範囲を選択することができる。また、加熱時間は結晶化しない範囲で任意に選ぶことが可能である。
【0044】
一例として、Al
2O
3を用いる場合には、加熱温度を、1000〜1100℃とし、加熱時間を1〜3時間とすることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0045】
加熱処理以外に、表面水酸基密度を低減あるいは制御する方法の例としては、表面改質などの化学的処理方法が挙げられる。逆に表面水酸基密度を増加させる方法としては、各種溶液(例えば水、過酸化水素水、水酸化アンモニウム)による浸漬処理やオートクレーブ表面処理、加湿など、公知の方法を採用することができる。
【0046】
特定の処理により表面水酸基を制御した無機フィラーの表面水酸基密度は、水酸基の反応性を利用して、上記に定義したような各種の定量法により定量することができる。LiAlH
4法による定量方法は、無機フィラーをリチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH
4)と反応させ、次式によって生成してくる水素をガスクロマトグラフィー等で定量することにより表面水酸基数の定量を行う方法である。なお、この式では水酸基を有する化合物を(−OH)で表している。
4(−OH)+LiAlH
4→(−O)Li+(−O)
3Al+4H
2
【0047】
具体的かつ現実的な定量方法としては、まず、リチウムアルミニウムハイドライド法(LiAlH
4法)を用いて表面水酸基密度を求め、LiAlH
4法で求めた値と、赤外線分光法による水酸基ピークをあらわす3750cm
−1近傍のピーク強度とを比較することによって、赤外線分光法でも表面水酸基密度を定量することが可能である。赤外線分光法での定量が可能になると、加熱処理直後に非破壊で評価することができるので、所望の水酸基密度を得るための加熱温度や加熱時間の調整が可能となる。例えば、加熱処理後に赤外線分光法で表面水酸基密度を定量し、所望の表面水酸基密度に達していない場合には、加熱温度や加熱時間を追加して、さらに加熱処理することが可能となる点で有利である。
【0048】
第1実施形態による樹脂組成物中の第一の無機フィラー、第二の無機フィラーの混合の割合は、それぞれ、硬化前のナノコンポジット樹脂組成物全体の重量を100%としたとき、0.1〜7重量%、70〜85重量%とすることができるが、これに限定されるものではない。
【0049】
本実施形態によるナノコンポジット樹脂組成物は、上記の樹脂成分と、シランカップリング剤と、無機フィラーとからなり、他の成分を含まないものであってもよい。あるいはほかの種類のフィラーを含んでもよく、さらなる任意成分として、従来公知のガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維等の強化繊維を含んでいてもよい。その他、本発明の目的の範囲内でナノコンポジット樹脂組成物の物性を損なわない、その他の添加物を含んでいても良い。
【0050】
本発明は、別の局面によればナノコンポジット樹脂硬化物であって、第1実施形態に係るナノコンポジット樹脂組成物を硬化してなる。
【0051】
次に、本実施形態に係るナノコンポジット樹脂組成物及び硬化物を製造方法の観点から説明する。ナノコンポジット樹脂組成物及び硬化物の製造方法は、第一の無機フィラー、及び第二の無機フィラーを、表面水酸基密度が4〜8個/nm
2となるように加熱処理する第1の工程と、熱硬化性樹脂主剤もしくは熱可塑性樹脂と、第一の無機フィラー及び第二の無機フィラーと、シランカップリング剤とを混合し、分散させる第2の工程と、第2の工程で得られた混合物に熱硬化性樹脂硬化剤と、任意選択的に硬化促進剤とを添加する第3の工程と、第3の工程で得られた混合物を加熱硬化させる第4の工程とを備える。なお、熱可塑性樹脂を用いる場合には、第3、第4の工程を省くことができる。また、市販のフィラーで既に表面水酸基密度が4〜8個/nm
2のものを用いる場合には、第1の工程を省くことができる。
【0052】
第1の工程は、上記において説明した表面水酸基密度の調整方法に従って、例えば加熱処理などの表面処理を行うことにより、表面水酸基密度を4〜8個/nm
2にすることができる。
【0053】
第2の工程として、熱硬化性樹脂主剤と、第一の無機フィラー及び第二の無機フィラーと、シランカップリング剤とを混合し、分散させる。熱硬化性樹脂主剤に変えて、熱可塑性樹脂を使用する場合は、この段階で、必要に応じて熱可塑性樹脂を揮発性溶媒に溶解し、熱可塑性樹脂と、第一の無機フィラー及び第二の無機フィラーと、シランカップリング剤とを混合する。分散には、市販の微粒化装置、粉体混合装置、もしくは超微粒子複合化装置を用いることができ、例えば、ナノマイザー株式会社製のナノマイザー(高圧湿式メディアレス微粒化装置)、ホソカワミクロン株式会社製のノビルタやナノキュラ等を用いることができるが、これらには限定されない。ナノマイザーを用いる場合の処理条件としては、処理圧力を100〜150MPaとし、5〜10分の処理を2〜5回繰り返すことで行うことができる。なお、処理圧力や処理時間は適宜変更することは可能である。
【0054】
続く第3の工程は、第2の工程で分散することによって得られた混合物に、硬化剤と、任意選択的に硬化促進剤とを添加する工程である。第3の工程では、手動撹拌により、分散させた樹脂混合物に、硬化剤と硬化促進剤を、混合することができる。
【0055】
第4の工程は、前記硬化剤を添加した混合物を加熱し、硬化させる加熱硬化工程である。ここでは、通常の方法にしたがって、混合物を熱硬化性樹脂の硬化温度以上の温度で加熱し、硬化させる。加熱は、例えばエポキシ樹脂の場合には、100〜250℃において、1〜20時間程度行うことが好ましい。なお、樹脂成分として、熱可塑性樹脂を使用する場合には、硬化剤の添加及び加熱の必要はない。
【0056】
このようにして得られた第1実施形態による樹脂組成物を硬化してなる樹脂硬化物においては、第一の無機フィラー及び第二の無機フィラーと、樹脂とが剥離しにくくなっている。その結果、機械的物性や熱伝導率特性が向上し、長期の信頼性に優れたものとなっている。
【0057】
なお、第1実施形態の変形形態として、Al
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される金属酸化物、またはAlN、あるいはそれらの混合物からなる無機粒子である第二の無機フィラーのみに対して加熱処理を行い、表面水酸基密度を所定の4〜8個/nm
2となるように調整して、第一の無機フィラーであるSiO
2は未処理としてもよい。特に、未処理では樹脂とのあいだで剥離が生じやすく、したがって加熱処理をすることによる効果の大きいAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される金属酸化物またはAlNからなる無機粒子にだけ処理を行うことで、効率的な製造を行うことができる。
【0058】
[第2実施形態]
本発明は、第2の実施形態によれば、ナノコンポジット樹脂組成物である。第2実施形態によるナノコンポジット樹脂組成物は、熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂、またはこれらの組み合わせからなる樹脂と、シランカップリング剤と、第一の無機フィラーと、第二の無機フィラーとから構成され、前記第二の無機フィラーが、SiO
2からなる無機粒子であり、前記第一の無機フィラーが、Al
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される金属酸化物もしくはAlN、あるいはそれらの混合物からなる無機粒子であり、前記第一の無機フィラー及び前記第二の無機フィラーの両方が、表面水酸基密度が4〜8個/nm
2の無機粒子である。
【0059】
第2の実施形態によるナノコンポジット樹脂組成物において、樹脂成分、シランカップリング剤は第1実施形態において説明したとおりであり、同様の形態とすることができる。
【0060】
第2の実施形態においては、第一の無機フィラーが、Al
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される金属酸化物もしくはAlN、あるいはそれらの混合物からなる無機粒子であり、前記第二の無機フィラーが、SiO
2からなる無機粒子である。すなわち、第1の実施形態とは、第一の無機フィラーを構成する無機粒子と第二の無機フィラーを構成する無機粒子との種類が入れ替わっている点で異なる。
【0061】
第2の実施形態において、第二の無機フィラーは、その平均粒径もしくは長径が100nm〜100μmであることを除き、その他の特徴は、第1実施形態における第一の無機フィラーと同様とすることができる。また、第2の実施形態において、第一の無機フィラーは、その平均粒径もしくは長径が1〜99nmであることを除き、その他の特徴は、第1実施形態における第二の無機フィラーと同様とすることができる。して、第一の無機フィラー及び第二の無機フィラーとも加熱処理等の任意の処理方法により、表面水酸基密度が4〜8個/nm
2となるように調整されている。
【0062】
第1実施形態と同様に、上記の平均粒径もしくは長径を有する第一無機フィラーと第二無機フィラーを樹脂に混合して作製したナノコンポジット樹脂組成物あるいはそれを硬化させたナノコンポジット樹脂硬化物に含まれる無機フィラーの粒径を電子顕微鏡で測定すると、前記粒径もしくは長径が1〜99nmの無機フィラーはAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される金属酸化物もしくはAlN、あるいはそれらの混合物からなる無機粒子を含み、前記粒径もしくは長径が100nm〜100μmの無機フィラーはSiO
2からなる無機粒子を含んでいることになる。
【0063】
第2の実施形態による樹脂組成物中の第一の無機フィラー、第二の無機フィラーの混合の割合もまた、第1実施形態と同様とすることができ、それぞれ、硬化前のナノコンポジット樹脂組成物全体の重量を100%としたとき、0.1〜7重量%、70〜85重量%であるが、これに限定されるものではない。
【0064】
第2実施形態によるナノコンポジット樹脂組成物もまた、硬化することにより樹脂硬化物とすることができる。そして、第2実施形態によるナノコンポジット樹脂組成物及び硬化物の製造方法もまた、第1実施形態において説明したのと概ね同様である。
【0065】
第2の実施形態によるナノコンポジット樹脂組成物及び硬化物は、SiO
2粒子に比べて熱伝導率の良いAl
2O
3、MgO、TiO
2などの金属酸化物またはAlNなどの金属窒化物が粒径の小さい第一の無機フィラーとして使用されているため、第一の無機フィラーが樹脂内で微細に分散されている。ゆえに、熱伝導の均一性に優れる点で有利となる。
【0066】
なお、第2実施形態の変形形態として、Al
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される金属酸化物もしくはAlN、あるいはそれらの混合物からなる無機粒子である第一の無機フィラーのみに対して加熱処理を行い、表面水酸基密度を所定の4〜8個/nm
2となるように調整して、第二の無機フィラーであるSiO
2は未処理としてもよい。特に、未処理では樹脂とのあいだで剥離が生じやすく、したがって加熱処理をすることによる効果の大きいAl
2O
3、MgO、TiO
2等の無機粒子にだけ処理を行うことで、効率的な製造を行うことができる。
【0067】
[第3実施形態]
本発明は、第3の実施形態によれば、ナノコンポジット樹脂組成物である。第3実施形態によるナノコンポジット樹脂組成物は、熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂、またはこれらの組み合わせからなる樹脂と、シランカップリング剤と、第一の無機フィラーと、第二の無機フィラーとから構成され、前記第一の無機フィラー及び前記第二の無機フィラーの両方が、Al
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される金属酸化物もしくはAlN、あるいはそれらの混合物からなる無機粒子であり、それらの両方が、表面水酸基密度が4〜8個/nm
2の無機粒子である。
【0068】
第3の実施形態によるナノコンポジット樹脂組成物において、樹脂成分、シランカップリング剤は第1実施形態において説明したとおりであり、同様の形態とすることができる。
【0069】
第3の実施形態において、第二の無機フィラーは、第1実施形態における第二の無機フィラーと同様とすることができ、第一の無機フィラーは、第2実施形態における第一の無機フィラーと同様とすることができる。ここで、第一の無機フィラーと、第二の無機フィラーとは、両方ともAl
2O
3など、まったく同一の化合物から構成される、粒径のみが異なる粒子であってもよい。あるいは、第一の無機フィラーがAl
2O
3であり、第二の無機フィラーがMgOであるなど、Al
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される金属酸化物もしくはAlN、あるいはそれらの混合物、という選択肢の範囲内で異なる化合物で、異なる粒径の粒子から構成されていてもよい。
【0070】
第1実施形態と同様に、ナノコンポジット樹脂組成物あるいはそれを硬化させたナノコンポジット樹脂硬化物に含まれる無機フィラーの粒径を電子顕微鏡で測定すると、前記粒径もしくは長径が1〜99nmの無機フィラーはAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される金属酸化物もしくはAlN、あるいはそれらの混合物からなる無機粒子を含み、前記粒径もしくは長径が100nm〜100μmの無機フィラーはAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される金属酸化物もしくはAlN、あるいはそれらの混合物からなる無機粒子を含んでいることになる。
【0071】
そして、第一の無機フィラー及び第二の無機フィラーの両方に対して加熱処理を行い、表面水酸基密度を所定の4〜8個/nm
2となるように調整する。
【0072】
第3の実施形態による樹脂組成物中の第一の無機フィラー、第二の無機フィラーの混合の割合もまた、第1実施形態と同様とすることができ、それぞれ、硬化前のナノコンポジット樹脂組成物全体の重量を100%としたとき、0.1〜7重量%、70〜85重量%であるが、これに限定されるものではない。
【0073】
第3実施形態によるナノコンポジット樹脂組成物もまた、硬化することにより樹脂硬化物とすることができる。そして、第3実施形態によるナノコンポジット樹脂組成物及び硬化物の製造方法もまた、第1実施形態において説明したのと概ね同様である。
【0074】
第3の実施形態によるナノコンポジット樹脂組成物及び硬化物は、第一の無機フィラーと第二の無機フィラーともに、SiO
2粒子に比べ熱伝導率の良いAl
2O
3、MgO、TiO
2などの金属酸化物またはAlNなどの金属窒化物が使用されているため、第二実施形態に比べ、熱伝導の均一性といった点でさらに有利となる。
【0075】
[第4実施形態]
本発明は、第4の実施形態によれば、ナノコンポジット樹脂組成物である。第4実施形態によるナノコンポジット樹脂組成物は、熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂、またはこれらの組み合わせからなる樹脂と、シランカップリング剤と、第一の無機フィラーと、第二の無機フィラーとから構成され、前記第一の無機フィラー及び前記第二の無機フィラーの両方が、SiO
2からなる無機粒子であり、それらの両方について、表面水酸基密度が4〜8個/nm
2である。
【0076】
第4の実施形態によるナノコンポジット樹脂組成物において、樹脂成分及びシランカップリング剤は、第1実施形態において説明したとおりであり、同様の形態とすることができる。
【0077】
本実施形態においては、前記第一の無機フィラー及び前記第二の無機フィラーが同一組成であり、SiO
2である。特に、第一の無機フィラーとしては、第1実施形態の第一の無機フィラーとして説明したものと同様とすることができる。また、第二の無機フィラーとしては、第2実施形態の第二の無機フィラーと同様とすることができる。
【0078】
第1実施形態と同様に、ナノコンポジット樹脂組成物あるいはそれを硬化させたナノコンポジット樹脂硬化物に含まれる無機フィラーの粒径を電子顕微鏡で測定すると、前記粒径もしくは長径が1〜99nmの無機フィラーはSiO
2からなる無機粒子を含み、前記粒径もしくは長径が100nm〜100μmの無機フィラーもSiO
2からなる無機粒子を含んでいることになる。
【0079】
SiO
2においても、加熱処理等により表面水酸基密度を低減させることで、より樹脂との密着性を向上することができることがわかった。
【0080】
第4の実施形態による樹脂組成物中の第一の無機フィラー、第二の無機フィラーの混合の割合もまた、第1実施形態と同様とすることができ、それぞれ、硬化前のナノコンポジット樹脂組成物全体の重量を100%としたとき、0.1〜7重量%、70〜85重量%であるが、これに限定されるものではない。そして、第4実施形態によるナノコンポジット樹脂組成物もまた、硬化することにより樹脂硬化物とすることができる。そして、第4実施形態によるナノコンポジット樹脂組成物及び硬化物の製造方法もまた、第1実施形態において説明したのと概ね同様である。
【0081】
第4実施形態によるナノコンポジット樹脂組成物によれば、第一の無機フィラー及び第二の無機フィラーの両方を、SiO
2粒子とすることで、他の実施形態と比較して、コストを低減できる利点が得られる。
【0082】
上記第1、第2、第3、第4実施形態によるナノコンポジット樹脂組成物を半導体モジュールの絶縁封止に用いる場合には、ナノコンポジット樹脂組成物を硬化してなるナノコンポジット樹脂硬化物は、通常、半導体モジュールと一体になって製造される。よって、本発明は、別の局面によれば、半導体モジュールの製造方法をも提供する。半導体モジュールの製造方法は、具体的には、主として、金属ブロックと、絶縁層と、回路素子とを含んでなる半導体素子組立体を、金型内もしくはケース内に設置する工程と、前記第1、第2、第3、第4実施形態によるナノコンポジット樹脂組成物を、金型内もしくはケース内で加熱硬化する工程とにより得ることができる。本発明のナノコンポジット樹脂硬化物の製造方法を用いて、半導体素子を封止することにより、生成される熱が高温に達する半導体素子であっても有効に封止することができ、好ましい絶縁破壊特性をも得ることができる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明を実施例と比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【0084】
実施例では、本発明に係る樹脂組成物を調製し、さらに、硬化させて硬化物を調製した。
【0085】
最初に、特定の表面水酸基密度を有する無機フィラーを調製した。実施例、比較例とも、第二の無機フィラーとして特定の表面水酸基密度を有する平均粒径が30μmのAl
2O
3粒子を用いた。この粒子を1時間にわたって、各加熱温度で加熱処理した。具体的には、実施例1、2、3においては、それぞれ加熱温度を1000℃、1050℃、1100℃とした。比較例1は加熱処理をしなかった。比較例2、比較例3においては、それぞれ加熱温度を950℃、1150℃とした。
【0086】
加熱処理後の表面水酸基密度の定量は、リチウムアルミニウムハイドライド法(LiAlH
4法)により実施した。具体的には、無機フィラーをリチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH
4)と反応させ、発生した水素を、ガスクロマトグラフにより測定することで表面水酸基密度を定量した。表1に、各実施例及び比較例において用いたAl
2O
3粒子の表面水酸基密度、及び加熱温度条件を示す。
【0087】
【表1】
【0088】
次に、先に調製した第二の無機フィラーである特定の表面水酸基密度を有する平均粒径が30μmのAl
2O
3粒子を用いて、実施例及び比較例のナノコンポジット樹脂組成物を調製した。第一の無機フィラーとしては、平均粒径が12nmのSiO
2粒子を用いた。このSiO
2粒子は表面水酸基密度を変えるための加熱処理をせず、表面水酸基密度を測定もしなかった。エポキシ樹脂主剤にはビスフェノールA型エポキシ樹脂(品番:828、三菱化学社製)を用いた。そして、ナノコンポジット樹脂組成物の総重量を100%としたときに、第一の無機フィラーの配合割合が3重量%、第二の無機フィラーの配合割合が、85重量%となるように、第一の無機フィラー及び第二の無機フィラーを、エポキシ樹脂主剤に混合した。また、シランカップリング剤(東レダウコーニング株式会社製、品番:Z−6011)を、フィラー重量に対して、1重量%となるように混合した。
【0089】
次に、この混合物を攪拌することによって、第一の無機フィラー及び第二の無機フィラーを樹脂内で分散させた。ここでは、ナノマイザー株式会社製のナノマイザーを用いて分散させた。その際、処理圧力を130MPaとし、1回6分の処理を3回繰り返した。分散後の混合物に硬化剤を混合し、手動で攪拌した。硬化剤には変性脂環族アミン(品番:113、三菱化学社製)を用いた。硬化剤添加量は、エポキシ樹脂主剤の重量を100gとしたとき、32gとした。攪拌後、硬化処理を実施した。処理条件は80℃で1時間保持した後、150℃で3時間保持した。これを、室温にまで自然冷却し、実施例1〜3及び比較例1〜3のナノコンポジット樹脂硬化物を得た。
【0090】
[試験例]
実施例1〜3及び比較例1〜3のナノコンポジット樹脂硬化物について、ヒートサイクル試験を行った。この試験は、長期間の使用後の界面剥離を確認する目的で行った。低温側は、−40℃で30分保持、高温側は150℃で30分保持を1サイクルとし、これを1000サイクル実施した。試験途中のサンプルを抜取り、第一及び第二の無機フィラーとエポキシ樹脂との界面剥離の発生率を示すグラフを
図1に示す。ここで、界面剥離の発生率とは、ナノコンポジット樹脂硬化物の断面観察によって剥離発生数を観察することによって求めた。具体的にはナノコンポジット樹脂硬化物を切断、研磨することによって断面を出し、電子顕微鏡によって無機フィラーと樹脂の界面を観察し、100個の界面のうちの剥離している個数を数え、発生率とした。
【0091】
実施例1〜3では、1000サイクルの試験で、第一の無機フィラー及び第二の無機フィラーのそれぞれと、樹脂との界面剥離の発生はなかった。比較例1では、試験前からすでに界面剥離が発生しており、試験サイクル数の増加とともに剥離の発生率が増加し、1000サイクル後には、サンプルの約60%程度に第二の無機フィラーと樹脂との界面剥離が発生していた。また、比較例2と比較例3では、試験前や200サイクルまでは界面剥離は発生していなかったが、400サイクル以降に界面剥離が発生し、1000サイクル後には比較例1より発生率は低いもののサンプルの40%程度に界面剥離が発生していた。
【0092】
なお、第一の無機フィラーの粒径を7nm、30nmとした場合、第二の無機フィラーとしてAl
2O
3に替えてMgOとした場合、第二の無機フィラーのAl
2O
3及びMgOの粒径を、10μm、60μmとした場合の樹脂硬化物も製造した。結果は詳細に示していないが、いずれも同様に、1000サイクルの試験での界面剥離の発生はなかった。
【0093】
次に、実施例1〜3と比較例1〜3のナノコンポジット樹脂硬化物について、曲げ試験方法によって曲げ弾性率を評価した。評価対象は、ヒートサイクル試験を行う前のサンプルと、1000サイクル後のサンプルとした。ヒートサイクル試験前のサンプルの曲げ弾性率は、実施例1〜3では15.5GPaであったが、比較例1では13GPaとなり、実施例より低い値を示していた。1000サイクル後のサンプルの曲げ弾性率は、実施例1〜3では変化が見られなかった。また、上述の範囲で第一の無機フィラーの粒径、第二の無機フィラーの粒径、及び第二の無機フィラーの化合物の種類を変えたものでも、同様に1000サイクル後のサンプルの曲げ弾性率は変化しなかった。いっぽう、比較例1のサンプルでは、曲げ弾性率がヒートサイクル試験前の13GPaから10GPa程度に低下していた。比較例2と3でも11GPaまで低下した。第二の無機フィラーと樹脂との界面剥離が、曲げ弾性率に影響していることが分かった。
【0094】
ヒートサイクル試験による界面剥離の発生は長期間の使用によって特性が変化しやすいことを示す。よって、比較例1〜3の樹脂硬化物では、長期信頼性に問題があることが示された。一方、実施例1〜3ではヒートサイクル試験で界面剥離の発生は見られなかった。すなわち、長期間の使用によって特性変化がなく、長期信頼性が得られることがわかった。