(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
収納ケースと、正極端子および負極端子を含むマグネシウムイオン二次電池と、過充電保護機能および過放電保護機能を含む保護回路とを含み、該収納ケースにマグネシウムイオン二次電池および該保護回路が収納されて構成される電池パックであって、
前記マグネシウムイオン二次電池は、正極板と、負極板と、電解質とを含み、
前記負極板は、支持基板と、前記支持基板上に設けられるマグネシウムイオン二次電池の負極板用材料を含み、
前記マグネシウムイオン二次電池の負極板用材料が、複数の粒子状のマグネシウム金属と炭素の同素体とを含み、かつ前記複数の粒子状のマグネシウム金属の少なくとも一部の粒子状のマグネシウム金属は、前記炭素の同素体と接しており、前記粒子状のマグネシウム金属の表面積に対し前記炭素の同素体が接している部分の面積が40%以上であるマグネシウムイオン二次電池の負極板用材料であることを特徴とする電池パック。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のマグネシウムイオン二次電池の負極板用材料について図面を用いて具体的に説明する。
【0017】
<マグネシウムイオン二次電池の負極板用材料>
図1〜
図4に示すように本発明のマグネシウムイオン二次電池の負極板用材料は、マグネシウム金属と炭素の同素体とを含み、かつ該マグネシウム金属と該炭素の同素体とが一部で接触している。以下、本発明のマグネシウムイオン二次電池の負極板用材料を負極板用材料という場合がある。
【0018】
本発明では、負極板用材料として、マグネシウム金属と炭素の同素体とを含み、かつマグネシウム金属と炭素の同素体とが一部で接触している形態をとる材料を用いることで、従来、充放電が不可能とされてきた水系溶媒を用いた液体の電解質であっても充放電が可能となる。また、マグネシウムイオン二次電池の充放電が可能な電解質、例えば、グリニャール試薬のエーテル溶液等を電解質として用いた場合には、サイクル特性や充放電効率の飛躍的な向上が見込まれる。本発明の負極板用材料を用いることで、これらの効果を奏するメカニズムは現在のところ明らかではないが、マグネシウム金属が炭素の同素体と接触していることにより、その表面に酸化皮膜が形成されない、若しくは形成されにくくなり、これにより上記の優れた効果が発揮されるものと考えることができる。また、この場合においては、マグネシウムイオンは、電解質、炭素の同素体の内部、接触界面、マグネシウム金属をこの順で通過するルート、又はこの逆の順で通過するルートで移動しているものと考えられる。いずれにせよ、後述する実施例、及び比較例の結果からみても本発明の負極板用材料の優位性は明らかである。
【0019】
本発明の負極板用材料は、マグネシウム金属と炭素の同素体とを含み、かつマグネシウム金属と炭素の同素体とが一部で接触しているとの条件を満たすものであればよい。例えば、本発明の負極板用材料として、以下に示す4つの形態を挙げることができる。
【0020】
(第1の形態)
第1の形態の負極板用材料は、マグネシウム金属と、炭素の同素体がともに粒子状であり、粒子状のマグネシウム金属1と、炭素の同素体2が一部で接触した構成をとるものである(
図1参照)。
【0021】
本発明の負極板用材料において、マグネシウム金属と炭素の同素体とが一部で接触しているという場合には、以下の態様を挙げることができる。1つの態様としては、マグネシウム金属と炭素の同素体とが直接的に固着されており、これによりマグネシウム金属と炭素の同素体とが一部で接触している態様を挙げることができる。この態様は、例えば、マグネシウム金属と炭素の同素体とを融着等させることで実現可能である。他の態様としては、マグネシウム金属と炭素の同素体とが一部で接触するように、マグネシウム金属と炭素の同素体とを、例えば、バインダー等によって固着させる態様を挙げることができる。バインダーとしては有機高分子化合物、例えば、ポリフッ化ビニリデンや、メチルセルロースやエチルセルロース等のセルロース系高分子化合物、ポリイミド系高分子化合物等を挙げることができる。
【0022】
負極板用材料を構成するマグネシウム金属は、マグネシウム金属単体であってもよく、マグネシウム合金であってもよい。なお、マグネシウム金属単体には、純度が100%のものに限られず、不可避的不純物が含有されているものも含まれる。マグネシウム合金としては、マグネシウム金属を主成分として含むものであればよく、例えば、マグネシウムとアルミニウムの合金、マグネシウムと亜鉛の合金、マグネシウムとアルミニウムと亜鉛との合金、或いはこれ以外の金属とマグネシウム金属との合金を挙げることができる。なお、本願明細書においてマグネシウム合金という場合には、マグネシウム金属を主成分とし、かつマグネシウム金属と他の元素とが同じ相として存在しているものを意味する。マグネシウム合金に含まれる主成分としてのマグネシウム金属の含有量について特に限定はないが、マグネシウム金属の含有量が80質量%未満である場合には、添加した他の元素の相が独立して存在する傾向となる。したがって、この点を考慮すると、マグネシウム合金の総質量に対し、マグネシウム金属は80質量%以上含有されていることが好ましい。以下で説明する第2〜第4の形態の負極板用材料で用いられるマグネシウム金属についても同様である。
【0023】
第1の形態におけるマグネシウム金属の形状についても特に限定はなく、例えば、鱗片形状、偏平形状、紡錘形状、球状のものを用いることができる。また、マグネシウム金属の粒子径についても特に限定はなく、負極板用材料を用いて形成される負極板の厚みなどを勘案して、任意の大きさのものを適宜選択して使用することができる。本実施形態では、平均粒子径が0.1μm〜100μm程度の炭素の同素体を好ましく使用可能である。
【0024】
マグネシウム金属と一部で接触する炭素の同素体について特に限定はないが、本発明では、グラフェン構造を有する炭素、例えば、天然グラファイトや人造グラファイト等のグラファイト、カーボンナノチューブ、フラーレンや、グラフェン結合を有するダイヤモンドライクカーボン等を好ましく用いることができる。このようなグラフェン構造を有する炭素を用いることにより、マグネシウムイオンおよび電解質がスムーズに当該炭素の同素体中を通過することができるものと考えられる。より具体的には、例えば水系溶媒を用いた液体の電解質を用いた場合にあっては、マグネシウムイオンは電解質および水系溶媒と錯体を形成していると考えられるが、この錯体の状態のままで当該炭素の同素体中を通過して電極に達し、電子の授受を行うことが可能となっているものと考えられる。
【0025】
また、これ以外にも、炭素の同素体として、アモルファスカーボン、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー等の炭素も使用可能である。またさらに、有機高分子化合物を熱分解する温度以上で加熱することで得られるの炭素も使用可能である。以下で説明する第2〜第4の形態の負極板用材料で用いられる炭素の同素体についても同様である。以下、炭素の同素体を総称して単に炭素という場合がある。
【0026】
第1の形態における炭素の形状についても特に限定はなく、上記マグネシウム金属の形状と同様の形状のものを用いることができる。また、炭素の粒子径についても特に限定はなく、負極板用材料を用いて形成される負極板の厚みなどを勘案して、任意の大きさのものを適宜選択して使用することができる。本実施形態では、平均粒子径が0.1〜50μm程度の炭素を好ましく使用可能である。
【0027】
第1の形態の負極用材料は、少なくとも1つの粒子状のマグネシウム金属と、1つの粒子状の炭素とから構成されている。なお、
図1に示す形態では、負極板用材料が、複数の粒子状のマグネシウム金属と、複数の粒子状の炭素とから構成されており、負極板用材料を構成する全てのマグネシウム粒子は、炭素と一部で接触しているが、この構成に限定されず、負極板用材料を構成する複数の粒子状のマグネシウム金属のうち、少なくとも一部のマグネシウム金属が、炭素と接触していればよい。
【0028】
(第2の形態)
第2の形態の負極板用材料は、粒子状のマグネシウム金属の表面の少なくとも一部を皮膜状の炭素で被覆する、若しくは粒子状の炭素で覆うことで、マグネシウム金属と炭素とが接触している構成をとる。すなわち、第2の形態の負極板用材料は、コア・シェル構造の負極板用材料である。
図2(a)、(b)、(c)は、コア・シェル構造を説明するための負極板用材料の断面図である。
【0029】
皮膜状の炭素は、
図2(a)に示すようにマグネシウム金属の表面全体を被覆するように固着されていてもよく、
図2(b)に示すようにマグネシウム金属の表面に点在するように固着されていてもよい。また、
図2(c)に示すように皮膜状の炭素にかえて、複数の粒子状の炭素がマグネシウム金属の表面の少なくとも一部に固着する態様をとっていてもよい。いずれの態様にしても、マグネシウム金属の表面の一部は、炭素と接触している。
【0030】
なお、マグネシウム金属と炭素の同素体とが一部で接触しているという場合には、マグネシウム金属の全表面が炭素の同素体と接触している場合も含まれる。例えば、
図2(a)に示すように、皮膜状の炭素がマグネシウム金属の表面全体を被覆するように固着されている場合、すなわち、マグネシウム金属の全表面が炭素の同素体と接触している場合も、マグネシウム金属と炭素の同素体とが一部で接触しているといえる。なお、マグネシウム金属の全表面を皮膜状の炭素で覆う場合には、該皮膜状の炭素は電解質を通過させることができるように空隙を有していることが好ましい。皮膜状の炭素が空隙を有しているか否かは、走査型電子顕微鏡(倍率:1万倍〜5万倍)により確認することができる。
【0031】
なお、マグネシウム金属を覆う皮膜状の炭素が、例えば、グラファイトのようにグラフェン構造を有するものである場合には、その層間を電解質が通過することができると考えられることから、この場合、皮膜状の炭素は空隙を有している必要はない。
【0032】
第2の形態の負極板用材料に炭素が含有されているか否かは、透過型電子顕微鏡を用い、走査透過型電子顕微鏡法によって、EDX検出器でナノオーダーの元素分析により示される元素マッピングによって確認することができる。
【0033】
上述したマグネシウム金属の表面を皮膜状の炭素で覆う形態(
図2(a)、(b)参照)の負極板用材料は、例えば、熱分解温度以上の温度で加熱することで炭素となる有機高分子化合物を溶媒中に分散或いは溶解し、これをマグネシウム金属とを混合した溶液を調製し、この溶液を有機高分子化合物の熱分解以上の温度以上で加熱することで形成することができる。これ以外にも、蒸着法やエアロゾルデポジション法を用いてマグネシウム金属の表面に炭素の皮膜を形成することもできる。蒸着法としては、例えば、物理気相成長法や化学気相成長法等を挙げることができる。
【0034】
有機高分子化合物としては、使用する遷移金属化合物の熱分解開始温度における加熱重量減少率が100重量%未満のものを選択して用いることが好ましい。
【0035】
一方、上述したマグネシウム金属の表面を粒子状の炭素で覆う形態(
図2(c)参照)の負極板用材料は、例えば、粒子状のマグネシウム金属、粒子状の炭素、及びバインダーを溶媒中に分散或いは溶解した溶液を調製し、これを、加熱することにより形成することができる。バインダーとしては、有機高分子化合物、例えば、ポリフッ化ビニリデン等を挙げることができる。
【0036】
(第3の形態)
第3の形態の負極板用材料は、マグネシウム金属の基板1上に、炭素の皮膜が設けられ、これにより、マグネシウム金属と炭素とが接触している(
図3参照)。第3の形態の負極板用材料によれば、当該負極板用材料をそのまま負極板として用いることができる。
【0037】
マグネシウム金属の基板1としては、マグネシウム金属箔等を用いることができる。マグネシウム金属の基板1の厚みについて特に限定はないが、10〜100μmであることが好ましく、10〜50μmであることがより好ましい。
【0038】
第3の形態の負極板用材料は、例えば、上記第2の形態で説明した有機高分子化合物、必要に応じて添加されるバインダーを、溶媒中に分散或いは溶解した溶液を調製し、これをマグネシウム金属の基板上に塗工した後に、有機高分子化合物が熱分解する温度以上で加熱することにより形成することができる。
【0039】
また、これ以外にも、蒸着法やエアロゾルデポジション法を用いて、マグネシウム金属の基板の表面に炭素の皮膜を形成することもできる。蒸着法の例は、上記第2の形態で説明した方法をそのまま適用可能である。
【0040】
炭素の皮膜の厚みについて特に限定はないが、乾燥時の厚みが0.1〜5μm程度であることが好ましい。
【0041】
(第4の形態)
第4の形態の負極板用材料は、マグネシウム金属の基板1上に、粒子状の炭素2が複数設けられ、これにより、マグネシウム金属の基板1と粒子状の炭素2とが接触している構成をとる(
図4参照)。第4の形態の負極板用材料によれば、上記第3の形態と同様に、当該負極板用材料をそのまま負極板として用いることができる。
【0042】
マグネシウム金属の基板1は、上記第3の形態で用いたものと同様のものを使用することができ、ここでの説明は省略する。
【0043】
粒子状の炭素としては、上記第1の形態で説明した粒子状の炭素をそのまま使用することができ、ここでの説明は省略する。
【0044】
第4の形態の負極用材料は、粒子状の炭素、例えば、グラファイト粒子と、バインダーを適当な溶媒に溶解或いは分散した塗工液を調製し、これをマグネシウム金属の基板の表面に塗工・乾燥することで得ることができる。バインダーとしては、有機高分子化合物、例えば、ポリフッ化ビニリデン等を挙げることができる。
【0045】
上記で説明したように、マグネシウム金属が炭素の同素体と接触していることにより、その表面に酸化皮膜が形成されない、若しくは形成されにくくなり、これにより上記の優れた効果が発揮されるものと考えることができる。また、この場合においては、マグネシウムイオンは、電解質、炭素の同素体の内部、接触界面、マグネシウム金属をこの順で通過するルート、又はこの逆の順で通過するルートで移動しているものと考えられる。したがって、上記第1の形態〜第4の形態の全ての形態において、マグネシウム金属の表面積に対する炭素が接触している部分の面積は大きいことが好ましい。具体的には、マグネシウム金属の表面積に対し、炭素が接触している部分の面積は10%以上であることが好ましく、40%以上であることが特に好ましい。なお、マグネシウム金属の表面積とは、マグネシウム金属の全表面のうち、炭素と接触している部分の面積と電解質と接触している部分の面積との合計面積を意味する。
【0046】
炭素の接触面積を大きくする方法としては種々の方法を採用することができ、例えば、粒子状の炭素を用いる場合には、金属マグネシウムと炭素とを接触させたのちに、プレス等を行うことで接触面積を大きくすることができる。また、皮膜状の炭素を用いる場合には、被覆面積を大きくすることで、接触面積を大きくすることができる。なお、接触面積は、走査型電子顕微鏡により確認することができる。
【0047】
以上、負極板用材料として、必須の構成であるマグネシウム金属、炭素、及び任意の構成であるバインダーについて説明したが、本発明の負極板用材料には、例えば、導電性高分子、他の金属材料、導電性セラミック等の導電材や、触媒等の改質材が含まれていてもよい。
【0048】
<マグネシウムイオン二次電池用負極板>
マグネシウムイオン二次電池用負極板は、上記で説明したマグネシウムイオン二次電池の負極板用材料が用いられた負極板である。本発明においては、上記で説明した第1〜第4の形態の負極板用材料に応じて以下の形態をとる。以下、本発明のマグネシウムイオン二次電池用負極板を、単に本発明の負極板という場合がある。
【0049】
図5、
図6に示すように本発明の負極板30の第1の形態は、支持基板20上に、本発明の負極板用材料が設けられた形態である。具体的には、支持基板20上に、上記第1の形態の負極板用材料、或いは第2の負極板用材料が設けられた形態である。なお、
図5は、支持基板20上に上記第1の形態の負極板用材料10が設けられた負極板を示す断面図であり、
図6は、支持基板20上に上記第2の形態の負極板用材料10が設けられた負極板を示す断面図である。
【0050】
第1の形態、第2の形態の負極板用材料を支持するための支持基板20としては、例えば、アルミニウム基板、ニッケル基板、マグネシウム基板、チタン基板、銅基板、カーボン板等を挙げることができる。
【0051】
支持基板20の厚みについて特に限定はないが、10〜100μmであることが好ましく、10〜50μmであることがより好ましい。
【0052】
図5、
図6に示す形態の負極板は、本発明の負極板用材料10と、必要に応じて添加されるバインダーを、適当な溶媒に溶解した塗工液を調製し、これを支持基板20上に塗工・乾燥することで形成することができる。
【0053】
上記では、支持基板20を用いて第1の形態、第2の形態の負極板用材料を支持しているが、例えば、第1の形態の負極板用材料や、第2の形態の負極板用材料をプレスすることで、第1の形態、第2の形態の負極板用材料に一定の支持性を持たせることもできる。この場合には、
図5、
図6に示される支持基板20は不要であり、第1の形態、及び第2の形態の負極板用材料をプレスしたものをそのまま負極板として用いることができる。
【0054】
本発明の負極板の第2の形態としては、上記で説明した本発明の第3の形態の負極板用材料、第4の形態の負極板用材料、すなわち、マグネシウム金属の基板1上に、炭素2が設けられた負極板用材料10をそのまま負極板30として用いた形態である(
図3、
図4参照)。この形態では、マグネシウム金属の基板が、支持体としての機能を兼ね備える。
【0055】
また、本発明におけるマグネシウムイオン二次電池用負極板は、上記で例示した構成以外にも種々の変形態様をとることができる。変形態様の負極板としては、例えば、セパレータ一体型の負極板を挙げることができる。セパレータ一体型の負極板としては、マグネシウム金属の基板上に炭素の同素体、例えば、炭素の皮膜、或いは複数の炭素の粒子が設けられた構成において、さらに炭素の同素体上にセパレータが設けられた態様などを挙げることができる。
【0056】
なお、マグネシウム金属の基板と、セパレータ上に炭素の同素体、例えば、炭素の皮膜、或いは複数の炭素の粒子が設けられ、マグネシウムイオン二次電池内において、このマグネシウム金属の基板と、セパレータ上に設けられた炭素の同素体とが一部で接触している場合、例えば、マグネシウム金属の基板と、セパレータ上に設けられた炭素の皮膜、或いは複数の炭素の粒子とが一部で接触している場合には、マグネシウムイオン二次電池内に、本発明の負極板、すなわち上記変形態様のセパレータ一体型の負極板が存在しているといえる。
【0057】
<マグネシウムイオン二次電池>
次に、
図7を用いて本発明のマグネシウムイオン二次電池について説明する。なお、
図7は、本発明のマグネシウムイオン二次電池100の一例を示す概略図である。
図7に示すように、本発明のマグネシウムイオン二次電池は、正極板40、及び、これに組合される負極板30とから構成され、これらが、外装81で構成される容器内に収容され、かつ、容器内に電解質90が充填された状態で密封された構成をとる。
【0058】
ここで、本発明のマグネシウムイオン二次電池100は、負極板30が上記で説明した本発明の負極板である点を特徴とするものである。具体的には、マグネシウム金属と炭素とが一部で接触している本発明の負極板用材料10が用いられた負極板を必須の構成とする点を特徴とするものである。本発明のマグネシウムイオン二次電池100は、この要件を具備するものであれば他の要件について特に限定はなく、マグネシウムイオン二次電池の分野で従来公知の正極板、電解質、容器を適宜選択して用いることができ、
図7に示す形態に限定されるものではない。負極板については、上記で説明した本発明の負極板をそのまま用いることができ、ここでの説明は省略する。
【0059】
正極板40は、通常、正極基板と、正極基板上に設けられた正極材料から構成される。正極基板としては、例えば、厚みが10〜100μm程度のアルミニウム板、銅板、チタン板、ニッケル板、ステンレス板等を挙げることができる。
【0060】
正極材料は、マグネシウムイオンを可逆的に挿入・脱離することができるものであればよく、例えば、このような正極材料としては、フッ化黒鉛((CF)
n)、二酸化マンガン(MnO
2)等のマンガン酸化物、五酸化二バナジウム(V
2O
5)等のバナジウム酸化物等を挙げることができる。
【0061】
電解質90について特に限定はなく、水系溶媒や有機溶媒を用いた電解液、イオン性液体、固体電解質、ゲル電解質等を使用することができる。
【0062】
電解質の一例として、マグネシウムイオンの挿入・脱離が可能なものとして公知な電解質、例えば、グリニャール試薬(RMgX:Rはアルキル基又はアリール基であり、Mgはマグネシウムであり、Xはヨウ素、臭素、塩素の何れかである。)のエーテル溶液、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド(Mg(TFSI)
2)を、炭酸プロピレンやジメトキシエタン溶媒に溶解した溶液等を挙げることができる。本発明のマグネシウムイオン二次電池100によれば、これらの電解質を用いた場合に、従来公知の負極板を用いた場合と比較して、充放電効率の向上や、サイクル特性の向上が見込まれる。
【0063】
また、本発明によれば、従来のマグネシウムイオン二次電池の負極板を用いた場合に、使用できないとされていた、水系溶媒を用いた液体の電解質、例えば、硝酸マグネシウムを水等の溶媒に溶解した電解質、硝酸リチウムを水等の溶媒に溶解した電解質等を用いた場合であっても充放電が可能となる。
【0064】
正極板、本発明の負極板30、電解質90を用いて製造されるマグネシウムイオン電池の構造としては、従来公知の構造を適宜選択して用いることができる。例えば、正極板及び負極板を、図示しないポリエチレン製多孔質フィルムのようなセパレータを介して渦巻状に巻き回して、電池容器内に収納する構造が挙げられる。また別の態様としては、所定の形状に切り出した正極板及び負極板を、セパレータを介して積層して固定し、これを電池容器内に収納する構造を採用してもよい。いずれの構造においても、正極板及び負極板を電池容器内に収納後、正極板に取り付けられたリード線を外装容器に設けられた正極端子に接続し、一方、負極板に取り付けられたリード線を外装容器内に設けられた負極端子に接続し、さらに電池容器内に電解質90を充填した後、密閉することによってマグネシウムイオン二次電池が製造される。なお、電解質90として、固体電解質やゲル電解質等を用いる場合には、セパレータを不要にすることができる。
【0065】
(電池パック)
次に、
図8を用いて本発明のマグネシウムイオン二次電池100を用いて構成される電池パック200について説明する。なお、
図8は、本発明の電池パック200の一例を示す概略分解図である。
【0066】
図8に示すように電池パック200は、マグネシウムイオン二次電池100が樹脂容器36a、樹脂容器36b、および端部ケース37に収納されて構成される。また、マグネシウムイオン二次電池の一端面であって、正極端子32および負極端子33を備える面と、端部ケース37との間には、過充電や過放電を防止するための保護回路基板34が設けられている。
【0067】
保護回路基板34は、外部接続コネクタ35を備えており、外部接続コネクタ35は、樹脂容器36aに設けられた外部接続用窓38a、および、端部ケース37に設けられた外部接続用窓38bに挿入され外部端子と接続される。また、保護回路基板34には、図示しない、充放電を制御するための充放電安全回路、外部接続端子とマグネシウムイオン二次電池100とを導通させるための配線回路などが搭載されている。
【0068】
電池パック200は、本発明のマグネシウムイオン二次電池100を用いること以外は、従来公知の電池パックの構成を適宜選択することができる。図示しないが、電池パック200は、マグネシウムイオン二次電地100と端部ケース37との間に、正極端子32と接続する正極リード板、負極端子33と接続する負極リード板、絶縁体などを適宜備えていてもよい。
【0069】
なお、本発明のマグネシウムイオン二次電池100は、電池パックへの使用態様以外に、上記保護回路に、さらに過大電流の遮断、電池温度モニター等の機能を備え、且つ、該保護回路をマグネシウムイオン二次電池100に一体化させて取り付けられる態様に用いられてもよい。かかる態様では、電池パックを構成することなく、保護機能および保護回路を含むマグネシウムイオン二次電池として使用することができ、汎用性が高い。なお、上記で説明したいくつかの態様は、例示に過ぎず、本発明の負極板30、あるいは本発明のマグネシウムイオン二次電池200の使用を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0070】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。以下、特に断りのない限り、部または%は質量基準である。
【0071】
(実施例1)
正極板1の作成;
酸化マンガン(MnO
2):10g、アセチレンブラック:1g、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(株式会社クレハ製、KF♯1100)をn−メチルピロリドン(NMP)溶媒(三菱化学株式会社製)に10%溶解したもの:10gを混合し、エクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所)で4000rpmの回転数で5分間攪拌して、正極板1用インキを得た。このインキを、厚み15μmのアルミ基板上に200μmのギャップを有するアプリケーターで塗布し、150℃で乾燥させ、次いで、2ton/cmでプレスすることで正極板1を得た。
【0072】
負極板1の作成;
グラファイト粒子(CGC50、日本黒鉛工業(株)製 平均粒子径5μm):10g、PVDF(株式会社クレハ製、KF♯1100)をn−メチルピロリドン(NMP)溶媒(三菱化学株式会社製)に10%溶解したもの:10gを混合し、エクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所)で4000rpmの回転数で5分間攪拌して、負極板1用インキを得た。このインキを、厚み45μmのマグネシウム合金(アルミニウム3%、亜鉛1%含有)板上に、200μmのギャップを有するアプリケーターで塗布し、100℃で乾燥することで負極板1を得た。
【0073】
電解質1の調製;
硝酸マグネシウム六水和物を濃度が1mol/lとなるように水へ溶解することで電解質1を調製した。
【0074】
三極式コインセル1の作成;
作用極として上記で作成した正極板1を、対極板及び参照極板として上記で作成した負極板1を、電解質として上記で調製した電解質1を用い、実施例1の三極式コインセル1を組み立てた。
【0075】
(実施例2)
負極板2の作成;
上記負極板1用インキを、厚み45μmのマグネシウム合金(アルミニウム3%、亜鉛1%含有)板上に、200μmのギャップを有するアプリケーターで塗布し、100℃で乾燥させ、次いで、2ton/cmでプレスすることで負極板2を得た。
【0076】
電解質2の調製;
マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド(Mg(TFSI)
2)を濃度が0.5mol/lとなるように炭酸プロピレン溶媒へ溶解することで電解質2を調製した。
【0077】
三極式コインセル2の作成;
作用極として実施例1で用いた正極板1を、対極板及び参照極板として上記で作成した負極板2を、電解質として上記で調製した電解質2を用い、実施例2の三極式コインセル2を組み立てた。
【0078】
(実施例3)
電解質3の調製;
マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド(Mg(TFSI)
2)を濃度が0.5mol/lとなるようにジメトキシエタン溶媒へ溶解することで電解質3を調製した。
【0079】
三極式コインセル3の作成;
作用極として実施例1で用いた正極板1を、対極板及び参照極板として実施例2で用いた負極板2を、電解質として上記で調製した電解質3を用い、実施例3の三極式コインセル3を組み立てた。
【0080】
(実施例4)
負極板3の作成;
マグネシウム金属の粒子(平均粒子径15μm):5g、グラファイト粒子(CGC50、日本黒鉛工業(株)製 平均粒子径5μm):5g、メチルセルロースを水溶媒に3%溶解したもの:30gを混合し、エクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所)で4000rpmの回転数で5分間攪拌して、負極板3用インキを得た。このインキを、厚み10μmの銅基板上に、100μmのギャップを有するアプリケーターで塗布し、100℃で乾燥させ、次いで、2ton/cmでプレスすることで負極板3を得た。
【0081】
電解質4の調製;
硝酸マグネシウム六水和物を濃度が1mol/lとなるようにn−メチルピロリドン(NMP)溶媒に溶解することで電解質4を調製した。
【0082】
三極式コインセル4の作成;
作用極として実施例1で用いた正極板1を、対極板及び参照極板として上記で作成した負極板3を、電解質として上記で調製した電解質4を用い、実施例4の三極式コインセル4を組み立てた。
【0083】
(実施例5)
正極板2の作成;
五酸化二バナジウム(V
2O
5):10g、アセチレンブラック:1g、PVDF(株式会社クレハ製、KF♯1100)をn−メチルピロリドン(NMP)溶媒(三菱化学株式会社製)に10%溶解したもの:10gを混合し、エクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所)で4000rpmの回転数で5分間攪拌して、正極板2用インキを得た。このインキを、厚み15μmのアルミ基板上に200μmのギャップを有するアプリケーターで塗布し、150℃で乾燥させ、次いで、2ton/cmでプレスすることで正極板2を得た。
【0084】
三極式コインセル5の作成;
作用極として上記で作成した正極板2を、対極板及び参照極板として実施例2で用いた負極板2を、電解質として実施例3で調製した電解質3を用い、実施例5の三極式コインセル5を組み立てた。
【0085】
(実施例6)
負極板4の作成;
グラファイト粒子(CGC50、日本黒鉛工業(株)製 平均粒子径5μm):10g、PVDF(株式会社クレハ製、KF♯1100)をn−メチルピロリドン(NMP)溶媒(三菱化学株式会社製)に10%溶解したもの:10gを混合し、エクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所)で4000rpmの回転数で5分間攪拌して、負極板4用インキを得た。このインキを、厚み45μmのマグネシウム(マグネシウム純度99.9%、日本金属(株)製)板上に、200μmのギャップを有するアプリケーターで塗布し、100℃で乾燥することで負極板4を得た。
【0086】
電解質5の調製;
硝酸マグネシウム六水和物を濃度が1mol/lとなるようにγブチロラクトン溶媒に溶解することで電解質5を調製した。
【0087】
三極式コインセル6の作成;
作用極として実施例5で用いた正極板2を、対極板及び参照極板として上記で作成した負極板4を、電解質として上記で調製した電解質5を用い、実施例6の三極式コインセル6を組み立てた。
【0088】
(実施例7)
負極板5の作成;
厚み45μmのマグネシウム板(マグネシウム純度99.9%、日本金属(株)製)を厚み45μmのマグネシウム合金板(鉄4%含有、日本金属(株)製)板に変更した以外は、実施例6で用いた負極板4の作成と同様にして、負極板5を得た。
【0089】
三極式コインセル7の作成;
作用極として実施例5で用いた正極板2を、対極板及び参照極板として上記で作成した負極板5を、電解質として実施例6で調製した電解質5を用い、実施例7の三極式コインセル7を組み立てた。
【0090】
(実施例8)
負極板6の作成;
グラファイト粒子(CPB、日本黒鉛工業(株)製 平均粒子径10μm):10g、PVDF(株式会社クレハ製、KF♯1100)をn−メチルピロリドン(NMP)溶媒(三菱化学株式会社製)に10%溶解したもの:10gを混合し、エクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所)で4000rpmの回転数で5分間攪拌して、負極板6用インキを得た。このインキを、厚み45μmのマグネシウム合金(アルミニウム3%、亜鉛1%含有)板上に、200μmのギャップを有するアプリケーターで塗布し、100℃で乾燥することで負極板6を得た。
【0091】
三極式コインセル8の作成;
作用極として実施例5で用いた正極板2を、対極板及び参照極板として上記で作成した負極板6を、電解質として実施例6で調製した電解質5を用い、実施例8の三極式コインセル8を組み立てた。
【0092】
(実施例9)
負極板7の作成;
グラファイト粒子(CPB、日本黒鉛工業(株)製 平均粒子径10μm):10gを、カーボンファイバー(VGCF、昭和電工(株)製 繊維径150nm、繊維長10〜20μm):10gに変更した以外は、実施例8で用いた負極板6の作成と同様にして、負極板7を得た。
【0093】
三極式コインセル9の作成;
作用極として実施例5で用いた正極板2を、対極板及び参照極板として上記で作成した負極板7を、電解質として実施例6で調製した電解質5を用い、実施例9の三極式コインセル9を組み立てた。
【0094】
(実施例10)
負極板8の作成;
グラファイト粒子(CPB、日本黒鉛工業(株)製 平均粒子径10μm):10gを、アセチレンブラック(AB粉状、電気化学工業(株)製):10gに変更した以外は、実施例8で用いた負極板6の作成と同様にして、負極板8を得た。
【0095】
三極式コインセル10の作成;
作用極として実施例5で用いた正極板2を、対極板及び参照極板として上記で作成した負極板8を、電解質として実施例6で調製した電解質5を用い、実施例10の三極式コインセル10を組み立てた。
【0096】
(実施例11)
負極板9の作成;
グラファイト粒子(CGC50,日本黒鉛工業(株)製 平均粒子径5μm):10gを、グラファイト粒子(CGB20,日本黒鉛工業(株)製 平均粒子径15μm)10gに変更し、厚み45μmのマグネシウム(マグネシウム純度99.9%,日本金属(株)製)板を、厚み45μmのマグネシウム合金(ニッケル4%含有,日本金属(株)製)板に変更した以外は、実施例6で用いた負極板4の作成と同様にして、負極板9を得た。
【0097】
電解質6の調製;
マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド(Mg(TFSI)
2)を濃度が0.25mol/lとなるようにエチレングリコール(EG)溶媒へ溶解することで電解質6を調製した。
【0098】
三極式コインセル11の作成;
作用極として実施例5で用いた正極板2を、対極板及び参照極板として上記で作成した負極板9を、電解質として上記で調製した電解質6を用い、実施例11の三極式コインセル11を組み立てた。
【0099】
(実施例12)
負極板10の作成;
グラファイト粒子(CPB、日本黒鉛工業(株)製 平均粒子径10μm):10gを、グラファイト粒子(CGB20,日本黒鉛工業(株)製 平均粒子径15μm)10gに変更しした以外は、実施例8で用いた負極板6の作成と同様にして、負極板10を得た。
【0100】
三極式コインセル12の作成;
作用極として実施例5で用いた正極板2を、対極板及び参照極板として上記で作成した負極板10を、電解質として実施例11で調製した電解質6を用い、実施例12の三極式コインセル12を組み立てた。
【0101】
(実施例13)
負極板11の作成;
グラファイト粒子(CGC50,日本黒鉛工業(株)製 平均粒子径5μm:10gを、グラファイト粒子(UTC16,日本黒鉛工業(株)製 平均粒子径20μm)10gに変更しした以外は、実施例8で用いた負極板6の作成と同様にして、負極板11を得た。
【0102】
三極式コインセル13の作成;
作用極として実施例5で用いた正極板2を、対極板及び参照極板として上記で作成した負極板11を、電解質として実施例11で調製した電解質6を用い、実施例13の三極式コインセル13を組み立てた。
【0103】
(実施例14)
負極板12の作成;
グラファイト粒子(CGC50,日本黒鉛工業(株)製 平均粒子径5μm):10gを、カーボンファイバー(VGCF,昭和電工(株)製 繊維径150nm、繊維長10〜20μm)10gに変更しした以外は、実施例8で用いた負極板6の作成と同様にして、負極板12を得た。
【0104】
三極式コインセル14の作成;
作用極として実施例5で用いた正極板2を、対極板及び参照極板として上記で作成した負極板12を、電解質として実施例11で調製した電解質6を用い、実施例14の三極式コインセル14を組み立てた。
【0105】
(比較例1)
グラファイト粒子(平均粒子径5μm):10gを添加しない以外は全て実施例1で得た負極板1と同様にして負極板Aを得た。
【0106】
三極式コインセルAの作成;
負極板1にかえて、負極板Aを用いた以外は全て実施例1と同様にして、比較例1の三極式コインセルAを組み立てた。
【0107】
(比較例2)
グラファイト粒子(平均粒子径5μm):10gを添加しない以外は全て実施例2で得た負極板2と同様にして負極板Bを得た。
【0108】
三極式コインセルBの作成;
負極板2にかえて、負極板Bを用いた以外は全て実施例2と同様にして、比較例2の三極式コインセルBを組み立てた。
【0109】
(比較例3)
三極式コインセルCの作成;
負極板2にかえて、上記負極板Bを用いた以外は全て実施例3と同様にして、比較例3の三極式コインセルCを組み立てた。
【0110】
(比較例4)
三極式コインセルDの作成;
負極板2にかえて、上記負極板Bを用いた以外は全て実施例5と同様にして、比較例4の三極式コインセルDを組み立てた。
【0111】
実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3、及び実施例5と比較例4は、それぞれ、実施例の負極板がマグネシウム金属と炭素の同素体とを含み、該マグネシウム金属と炭素の同素体とが一部で接触している負極板用材料を含んでいるのに対し、比較例の負極板が炭素の同素体を含んでいない点でのみ異なりそれ以外は共通している。また、実施例6〜14では、結晶性の異なるグラファイトや、グラファイト以外の炭素の同素体を用いた。
【0112】
充放電試験;
各実施例、及び各比較例の三極式コインセルを用いて充放電試験を行った。充放電試験は、下記の電圧範囲で行い各実施例、比較例の三極式コインセルを用いて充放電が可能であるか否かの確認を行った。なお、電流はいずれも30μA/cm
2で流した。具体的には、1回目の放電試験として、下記電圧範囲の下限電圧まで放電を行い、2サイクル目の充放電試験として、下記電圧範囲の上限値までの充電、下記電圧範囲の下限値までの放電を行った。例えば、実施例1、比較例1の評価では、1回目の放電試験として0.5Vまで放電を行い、2サイクル目の充放電試験として1.5Vまでの充電、0.5Vまでの放電を行った。
【0113】
また、実施例2〜14、比較例2〜4については、さらにその後、下記の電圧範囲で充電、放電を繰り返し行った。この繰り返しは、最初の放電を1回目の放電試験、それ以降を2サイクル目の充放電試験とし、これを最大20サイクル目まで行った。例えば、実施例2、比較例2では、1回目の放電試験として0.4Vまで放電を行い、2サイクル目の充放電試験として1.8Vまでの充電、0.4Vまでの放電を行い、この充放電試験を20サイクル目まで繰り返し行った。
【0114】
実施例1、比較例1・・・電圧範囲0.5V〜1.5V
実施例2、比較例2・・・電圧範囲0.4V〜1.8V
実施例3、比較例3・・・電圧範囲0.4V〜1.7V
実施例4・・・・・・・・電圧範囲0.5V〜1.4V
実施例5、比較例4・・・電圧範囲0.4V〜1.5V
実施例6〜実施例14・・・電圧範囲0.3V〜1.8V
【0115】
実施例1の三極式コインセルでは、2サイクル目の充放電を行うことができたが、比較例1の三極式コインセルでは、2サイクル目の充放電を行うことができなかった。なお、実施例1と、比較例1の三極式コインセルは、実施例1の三極式コインセルの負極板がグラファイト粒子を含みこのグラファイト粒子がマグネシウム合金板と接しているのに対し、比較例1の三極式コインセルの負極板がグラファイト粒子を含んでいない点でのみ相違する。
【0116】
実施例2の三極式コインセルでは、比較例2の三極式コインセルに比べサイクル特性の向上が確認された。また、同様に、実施例3の三極式コインセルでは、比較例3の三極式コインセルに比べサイクル特性の向上が確認された。ここでいうサイクル特性とは、最初の放電後の放電容量(mAhr/g)を、所定のサイクル目の放電後の放電容量(mAhr/g)で除して100を掛けたときの放電容量維持率に基づく評価であり、所定のサイクル目における充放電容量維持率を比較した時に、充放電容量維持率が高いほどサイクル特性に優れることを意味する。なお、実施例2と比較例2とのサイクル特性の評価、及び実施例3と比較例3とのサイクル特性の評価は、2サイクル目の放電後の放電容量維持率に基づいて評価を行った。放電容量は、放電レート1Cで定電流放電を行い、縦軸にセル電圧(V)、横軸に放電時間(h)をとり、放電曲線を作成し、この放電曲線から算出される値である。また、「1C」とは、上記三極式コインセルを用いて定電流放電して、1時間で放電終了となる電流値(放電終止電圧に達する電流値)のことを意味する。なお、実施例2、3の三極式コインセルは20サイクル目まで充放電が可能であったのに対し、比較例2、3の三極式コインセルは2サイクル目以降の充放電を行うことができなかった。
【0117】
また、支持基板としての銅箔上に、粒子状のマグネシウム金属と、粒子状の炭素の同素体とが一部で接触した負極板用材料を設けた負極板を用いた実施例4の三極式コインセルにおいても、2サイクル目以降の充放電が可能であることが確認できた。具体的には、20サイクル目まで充放電が可能であった。
【0118】
また、実施例5の三極式コインセルでは、2サイクル目の充放電効率が約80%であるのに対し、比較例4の三極式コインセルでは、2サイクル目の充放電効率が27%であり、本発明の負極板用材料、及びこの負極板用材料を用いた負極板、及びマグネシウムイオン二次電池の優位性が明らかとなった。なお、2サイクル目の充放電効率(%)は、{(2サイクル目の充電後の充電容量)÷(2サイクル目の放電後の放電容量)]×100より算出される値であり、この値が高いほど、電池特性に優れることを意味する。なお、実施例5の三極式コインセルは20サイクル目まで充放電が可能であったのに対し、比較例4の三極式コインセルは3サイクル目以降の充放電を行うことができなかった。
【0119】
実施例6、7は、実施例1〜5で用いた炭素の同素体と同じ炭素の同素体を用い、電解質、及びマグネシウム金属が実施例1〜5と異なる実施例である。実施例8〜14は、実施例1〜5と炭素の同素体が異なる実施例である。また、各実施例では、適宜、マグネシウム金属の材料や、電解質を異ならせている。上記電圧範囲で充放電試験を行ったところ、実施例6〜14の三極式コインセルでは、その全てにおいて、2サイクル目以降の充放電が可能であった。
【0120】
上記実施例6〜14の三極式コインセルを用いた結果から明らかなように、実施例1〜5で用いたマグネシウム金属や電解質を異ならせた場合や、実施例1〜5で用いたグラファイト以外の炭素の同素体や、実施例1〜5で用いたグラファイトと結晶性の異なるグラファイトを用いた場合であっても、実施例1〜5と同様に良好な結果を得ることができた。このことから、炭素の同素体であれば、いずれのものを用いた場合であっても本願の作用効果を奏することが可能であることが明確となった。