特許第6011077号(P6011077)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田中央研究所の特許一覧

<>
  • 特許6011077-非水系電池 図000006
  • 特許6011077-非水系電池 図000007
  • 特許6011077-非水系電池 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011077
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】非水系電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20161006BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20161006BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20161006BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20161006BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20161006BHJP
【FI】
   H01M10/0567
   H01M10/0525
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/587
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-150515(P2012-150515)
(22)【出願日】2012年7月4日
(65)【公開番号】特開2014-13691(P2014-13691A)
(43)【公開日】2014年1月23日
【審査請求日】2015年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻原 信宏
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−151637(JP,A)
【文献】 特開2001−143750(JP,A)
【文献】 特開2015−005329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
負極と、
B−H又はSiを含み、且つヘキサフルオロイソプロピル基を1以上含む化合物を含有し、前記正極と前記負極との間に介在して金属イオンを伝導する非水系のイオン伝導媒体と、を備え
前記イオン伝導媒体は、前記化合物として次式(1)、(2)のうちいずれか1以上を含有する、非水系電池。
【化1】
(但し、Aはアルカリ金属)
【請求項2】
前記イオン伝導媒体は、前記化合物を0.5質量%以上10質量%以下の範囲で含有している、請求項1に記載の非水系電池。
【請求項3】
前記負極は、黒鉛及び易黒鉛化炭素のうち少なくとも1以上を含む炭素材料を負極活物質として含む、請求項1又は2に記載の非水系電池。
【請求項4】
前記正極は、Li,Ni及びMnを含む複合酸化物を正極活物質として含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の非水系電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非水系電池としては、リン酸トリ(トリフルオロエチル)などのリン酸エステル化合物を含む電解液を備えたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この電池では、リチウム金属との反応性が低く自己消火作用を有している、としている。また、非水系電池としては、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン及びホウ酸トリス(2H−ヘキサフルオロイソプロピル)のうち少なくとも1種を含むフッ素置換環状炭酸エステルからなる非水電解液を備えたものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この電池では、大電流充放電特性及び大電流サイクル特性を向上することができる、としている。また、非水系電池としては、ヘキサフルオロイソプロピル基を有するホウ酸リチウム誘導体やアルミン酸リチウム誘導体を添加剤とし、リチウムのイミド塩を支持塩として含む電解液を備えたものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。この電池では、サイクル特性をより高めることができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−88023号公報
【特許文献2】特開2009−43597号公報
【特許文献3】特開2003−151637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1の非水系電池では、自己消火作用については検討しているが、充放電のサイクル特性については検討していなかった。また、特許文献2,3の非水系電池では、サイクル特性を向上することができるが、このほかにも、充放電のサイクル特性をより向上する、新規な添加剤が望まれていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、充放電のサイクル特性をより向上することができる非水系電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、B−H又はSiを含み、且つヘキサフルオロイソプロピル基を1以上含む化合物を電解液に混合すると充放電のサイクル特性をより向上することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の非水系電池は、正極と、負極と、B−H又はSiを含み且つヘキサフルオロイソプロピル基を1以上含む化合物を含有し前記正極と前記負極との間に介在して金属イオンを伝導する非水系のイオン伝導媒体と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の非水系電池は、充放電のサイクル特性をより向上することができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。例えば、充放電の初期において、ヘキサフルオロイソプロピル基に起因するFを含む安定な被膜が負極上に形成されることにより、充放電サイクル時のイオン伝導媒体(電解液)の分解がより抑制されるものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の非水系電池20の一例を示す模式図。
図2】実施例1,3,4及び比較例1の10サイクル後の充電曲線。
図3】実施例5,7,8及び比較例2の10サイクル後の放電曲線。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の非水系電池は、正極と、負極と、B−H又はSiを含み、且つヘキサフルオロイソプロピル基を1以上含む化合物を含有し、正極と負極との間に介在して金属イオンを伝導する非水系のイオン伝導媒体と、を備えている。ここでは、説明の便宜のため、非水系電池は、リチウムを吸蔵及び放出する正極活物質を有する正極と、リチウムを吸蔵及び放出する負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導する非水系のイオン伝導媒体とを備えている、いわゆるリチウム二次電池について主として説明する。
【0011】
本発明の非水系電池の正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、Li(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)、Li(1-x)Mn24などのリチウムマンガン複合酸化物、Li(1-x)CoO2などのリチウムコバルト複合酸化物、Li(1-x)NiO2などのリチウムニッケル複合酸化物、LiV23などのリチウムバナジウム複合酸化物、V25などの遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiV23などが好ましい。更に、Li,Ni及びMnを含む複合酸化物、例えば、LiNinMn(2-n)4(0<n<2)などのリチウムニッケルマンガン複合酸化物は、高電位であり、本発明を適用する意義が高い。導電材は、正極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0012】
本発明の非水系電池の負極は、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、導電性ポリマー、Ti複合酸化物などが挙げられるが、このうち炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。この炭素質材料は、特に限定されるものではないが、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、易黒鉛化炭素、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり支持塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時おける不可逆容量を少なくできるため、好ましい。この負極活物質としては、黒鉛及び易黒鉛化炭素のうち少なくとも1以上を含む炭素材料が好ましく、黒鉛と易黒鉛化炭素の混合物を用いることがより好ましい。こうすれば、放電時の電位変化を与えることができ、好ましい。このとき、負極活物質全体に対して、黒鉛が、50体積%以上100体積%未満の範囲とすることが好ましく、60体積%以上80体積%以下の範囲とすることがより好ましい。また、負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物を用いるものとしてもよい。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。
【0013】
本発明の非水系電池のイオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル−n−ブチルカーボネート、メチル−t−ブチルカーボネート、ジ−i−プロピルカーボネート、t−ブチル−i−プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ−ブチルラクトン、γ−バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3−ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。なお、環状カーボネート類は、比誘電率が比較的高く、電解液の誘電率を高めていると考えられ、鎖状カーボネート類は、電解液の粘度を抑えていると考えられる。
【0014】
本発明の非水系電池に含まれている支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩の濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0015】
この非水系電池のイオン伝導媒体には、B−H又はSiを含み、且つヘキサフルオロイソプロピル基を1以上含む化合物(以下、添加化合物とも称する)を含有している。この添加化合物は、次式(1)、(2)のうちいずれか1以上としてもよい。但し、式(1)のAは、Li,Na,Kなどのアルカリ金属である。このうち、AはNaであることがより好ましい。したがって、このイオン伝導媒体は、ナトリウムトリス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロポキシ)ボロヒドリド(t−HFPBHNaとも称する)及びテトラキス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロポキシ)シラン(t−HFPSiとも称する)のうち少なくとも一方を含有することが好ましい。このイオン伝導媒体は、添加化合物を0.5質量%以上10質量%以下の範囲で含有していることが好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下の範囲で含有していることがより好ましい。この添加化合物を0.5質量%以上の範囲で含有すると、充放電時のサイクル特性(例えば容量維持率など)をより向上でき好ましい。また、添加化合物を10質量%以下の範囲で含有すると、イオン伝導媒体のイオン伝導に関する特性の低下をより抑制することができ好ましい。
【0016】
【化1】
【0017】
本発明の非水系電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、非水系電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0018】
この非水系電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものとしてもよい。図1は、本発明の非水系電池20の一例を示す模式図である。図1に示すように、非水系電池20は、カップ形状の電池ケース21と、正極活物質を有しこの電池ケース21の下部に設けられた正極22と、負極活物質を有し正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。この非水系電池20は、正極22と負極23との間の空間にイオン伝導媒体27を備えている。このイオン伝導媒体27には、B−H又はSiを含み、且つヘキサフルオロイソプロピル基を1以上含む化合物を含有している。
【0019】
以上、詳述した本発明の非水系電池では、充放電のサイクル特性をより向上することができる。この理由は、例えば、充放電の初期において、ヘキサフルオロイソプロピル基に起因するFを含む安定な被膜が負極上に形成されることにより、充放電サイクル時のイオン伝導媒体(電解液)の分解がより抑制されるためであると推察される。
【0020】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0021】
例えば、上述した実施形態では、リチウム二次電池として説明したが、特にこれに限定されない。例えば、イオン伝導媒体は、リチウム以外の金属イオンをキャリアとして伝導するものとしてもよい。金属イオンとしては、Naなどのアルカリ金属や、Mg,Caなどの第2族金属などが挙げられる。
【実施例】
【0022】
以下には、本発明の非水系電池を具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0023】
(塗工電極の作製)
黒鉛を負極活物質として含む電極を作製した。d002=0.388nm以下である黒鉛と、d002=0.34nm以上である易黒鉛化炭素とを、質量比で黒鉛:易黒鉛化炭素=60:40となるように混合し、この混合物を95質量%と、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(クレハ製KFポリマ)を5質量%とを、溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適量加えて分散させた負極合材のペーストとした。この合材ペーストを厚さ10μmの銅箔の両面に塗工、乾燥させて塗工シートとし、その後、この塗工シートを加圧プレス処理し、2.05cm2の面積に打ち抜いて円板状の電極とした。
【0024】
次に、Li,Ni,Mn複合酸化物を正極活物質として含む電極を作製した。正極活物質としてのLiNi0.5Mn1.54を85質量%、導電材としての炭素を10質量%、結着材としてのポリフッ化ビニリデンを5質量%の割合で混合し、正極合材とした。この正極合材をNMPで分散させて正極合材ペーストとした。この合材ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に塗工、乾燥させて塗工シートとし、その後、この塗工シートを加圧プレス処理し、2.05cm2の面積に打ち抜いて円板状の電極とした。
【0025】
(イオン伝導媒体(非水電解液)の作製)
エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比で30:40:30の割合で混合した非水溶媒に、六フッ化リン酸リチウムを1.0mol/Lとなるように加えた。その後、添加化合物を1.0質量%となるように添加した。添加化合物としては、ナトリウムトリス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロポキシ)ボロヒドリド(t−HFPBHNaとも称する)及びテトラキス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロポキシ)シラン(t−HFPSiとも称する)のいずれかとした。
【0026】
(二極式評価セルの作製)
上記作製した黒鉛電極を作用極とし、リチウム金属箔(厚さ300μm)を対極とし、両電極間に上記作製した非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式評価セルを作製した。
【0027】
(実施例1)
上記二極式評価セルにおいて、添加化合物をt−HFPBHNaとし、これを1.0質量%添加した電解液を用いたものを実施例1のセルとした。
【0028】
(実施例2〜4)
添加化合物をt−HFPSiとした以外は実施例1と同様の工程で得られた二極式評価セルを実施例2とした。また、添加化合物を5.0質量%添加した以外は実施例1と同様の工程で得られた二極式評価セルを実施例3とした。また、添加化合物を5.0質量%添加した以外は実施例2と同様の工程で得られた二極式評価セルを実施例4とした。
【0029】
(比較例1)
添加化合物を加えない以外は実施例1と同様の工程で得られた二極式評価セルを比較例1とした。
【0030】
(実施例5)
上記作製した黒鉛電極を負極とし、LiNi0.5Mn1.54電極を正極とし、両電極間に上記作製した非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式評価セルを作製した。上記二極式評価セルにおいて、添加化合物をt−HFPBHNaとし、これを1.0質量%添加した電解液を用いたものを実施例5のセルとした。
【0031】
(実施例6〜8)
添加化合物をt−HFPSiとした以外は実施例5と同様の工程で得られた二極式評価セルを実施例6とした。また、添加化合物を5.0質量%添加した以外は実施例5と同様の工程で得られた二極式評価セルを実施例7とした。また、添加化合物を5.0質量%添加した以外は実施例6と同様の工程で得られた二極式評価セルを実施例8とした。
【0032】
(比較例2)
添加化合物を加えない以外は実施例5と同様の工程で得られた二極式評価セルを比較例2とした。
【0033】
[充放電試験]
上記作製した実施例1〜4,比較例1の二極式評価セルを用い、20℃の温度環境下、0.24mAの電流で0.05Vまで還元(放電)したのち、0.24mAの電流で1.5Vまで酸化(充電)させた。この充放電操作を繰り返し行い、10サイクル目の充電容量をQc10thとし、初期の充電容量をQc1stとし、10サイクル後の容量維持率(%)を、Qc10th/Qc1st×100の式により求めた。また、1サイクル目の放電容量Qd1st×に対する1サイクル目の充電容量Qc1st×として、1サイクル目のクーロン効率(%)を、Qc1st/Qd1st×100の式により求めた。
【0034】
[充放電試験]
上記作製した実施例5〜8,比較例2の二極式評価セルを用い、20℃の温度環境下、0.16mAの電流で4.9Vまで充電したのち、0.16mAの電流で3.5Vまで放電させた。この充放電操作を繰り返し行い、10サイクル目の放電容量をQd10thとし、初期の放電容量をQd1stとし、10サイクル後の容量維持率(%)を、Qd10th/Qd1st×100の式により求めた。このように、10サイクル目の放電容量(mAh/g)や、10サイクル後の容量維持率(%)を求めた。
【0035】
(実験結果と考察)
表1に、実施例1〜8,比較例1,2の電極構成、添加剤、添加量、10サイクル後の容量、10サイクル後の容量維持率をまとめて示す。表2に、実施例1〜4,比較例1の1サイクル目のクーロン効率をまとめて示す。図2は、実施例1,3,4及び比較例1の10サイクル後の充電曲線である。また、図3は、実施例5,7,8及び比較例2の10サイクル後の放電曲線である。表1及び図2に示すように、実施例1〜4では、比較例1に比して10サイクル後の容量が大きく、容量維持率が高いことがわかった。即ち、黒鉛を含む電極において、t−HFPBHNa及びt−HFPSiの少なくとも1以上が電解液に含まれていると充放電のサイクル特性を向上することができることがわかった。また、その添加量は、1.0質量%〜5.0質量%でその効果をより発揮することができることがわかった。また、表1及び図3に示すように、実施例5〜8では、比較例2に比して著しく10サイクル後の放電容量が大きく、容量維持率が高いことがわかった。即ち、黒鉛を含む負極と、LiNi0.5Mn1.54正極とを備えたものにおいて、t−HFPBHNa及びt−HFPSiの少なくとも1以上が電解液に含まれていると、充放電のサイクル特性を著しく向上することができることがわかった。また、その添加量は、1.0質量%〜5.0質量%でその効果をより発揮することができることがわかった。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
表2に示すように、実施例1〜4では、比較例1に比して1サイクル目のクーロン効率が低かった。これは、黒鉛を含む電極において、添加剤としてt−HFPBHNa及びt−HFPSiの少なくとも1以上が電解液に含まれていると、初期の還元反応時に、これらの添加化合物が還元される電気容量に相当する分、還元容量が多くなり、結果として初期のクーロン効率が低下したものと推察された。おそらく、添加化合物に含まれるヘキサフルオロイソプロピル基の部分が還元され、フッ化水素を与え、これがリチウムと反応することにより、フッ化リチウムとなり、負極電極/電解液界面を安定させることにより、電解液の分解が抑制されてサイクル特性が向上するものと推察された。
【符号の説明】
【0039】
20 非水系電池、21 電池ケース、22 正極、23 負極、24 セパレータ、25 ガスケット、26 封口板、27 イオン伝導媒体。
図1
図2
図3