【0011】
本発明の非水系電池の正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS
2、TiS
3、MoS
3、FeS
2などの遷移金属硫化物、Li
(1-x)MnO
2(0<x<1など、以下同じ)、Li
(1-x)Mn
2O
4などのリチウムマンガン複合酸化物、Li
(1-x)CoO
2などのリチウムコバルト複合酸化物、Li
(1-x)NiO
2などのリチウムニッケル複合酸化物、LiV
2O
3などのリチウムバナジウム複合酸化物、V
2O
5などの遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、LiV
2O
3などが好ましい。更に、Li,Ni及びMnを含む複合酸化物、例えば、LiNi
nMn
(2-n)O
4(0<n<2)などのリチウムニッケルマンガン複合酸化物は、高電位であり、本発明を適用する意義が高い。導電材は、正極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【実施例】
【0022】
以下には、本発明の非水系電池を具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0023】
(塗工電極の作製)
黒鉛を負極活物質として含む電極を作製した。d
002=0.388nm以下である黒鉛と、d
002=0.34nm以上である易黒鉛化炭素とを、質量比で黒鉛:易黒鉛化炭素=60:40となるように混合し、この混合物を95質量%と、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(クレハ製KFポリマ)を5質量%とを、溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適量加えて分散させた負極合材のペーストとした。この合材ペーストを厚さ10μmの銅箔の両面に塗工、乾燥させて塗工シートとし、その後、この塗工シートを加圧プレス処理し、2.05cm
2の面積に打ち抜いて円板状の電極とした。
【0024】
次に、Li,Ni,Mn複合酸化物を正極活物質として含む電極を作製した。正極活物質としてのLiNi
0.5Mn
1.5O
4を85質量%、導電材としての炭素を10質量%、結着材としてのポリフッ化ビニリデンを5質量%の割合で混合し、正極合材とした。この正極合材をNMPで分散させて正極合材ペーストとした。この合材ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に塗工、乾燥させて塗工シートとし、その後、この塗工シートを加圧プレス処理し、2.05cm
2の面積に打ち抜いて円板状の電極とした。
【0025】
(イオン伝導媒体(非水電解液)の作製)
エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比で30:40:30の割合で混合した非水溶媒に、六フッ化リン酸リチウムを1.0mol/Lとなるように加えた。その後、添加化合物を1.0質量%となるように添加した。添加化合物としては、ナトリウムトリス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロポキシ)ボロヒドリド(t−HFPBHNaとも称する)及びテトラキス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロポキシ)シラン(t−HFPSiとも称する)のいずれかとした。
【0026】
(二極式評価セルの作製)
上記作製した黒鉛電極を作用極とし、リチウム金属箔(厚さ300μm)を対極とし、両電極間に上記作製した非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式評価セルを作製した。
【0027】
(実施例1)
上記二極式評価セルにおいて、添加化合物をt−HFPBHNaとし、これを1.0質量%添加した電解液を用いたものを実施例1のセルとした。
【0028】
(実施例2〜4)
添加化合物をt−HFPSiとした以外は実施例1と同様の工程で得られた二極式評価セルを実施例2とした。また、添加化合物を5.0質量%添加した以外は実施例1と同様の工程で得られた二極式評価セルを実施例3とした。また、添加化合物を5.0質量%添加した以外は実施例2と同様の工程で得られた二極式評価セルを実施例4とした。
【0029】
(比較例1)
添加化合物を加えない以外は実施例1と同様の工程で得られた二極式評価セルを比較例1とした。
【0030】
(実施例5)
上記作製した黒鉛電極を負極とし、LiNi
0.5Mn
1.5O
4電極を正極とし、両電極間に上記作製した非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式評価セルを作製した。上記二極式評価セルにおいて、添加化合物をt−HFPBHNaとし、これを1.0質量%添加した電解液を用いたものを実施例5のセルとした。
【0031】
(実施例6〜8)
添加化合物をt−HFPSiとした以外は実施例5と同様の工程で得られた二極式評価セルを実施例6とした。また、添加化合物を5.0質量%添加した以外は実施例5と同様の工程で得られた二極式評価セルを実施例7とした。また、添加化合物を5.0質量%添加した以外は実施例6と同様の工程で得られた二極式評価セルを実施例8とした。
【0032】
(比較例2)
添加化合物を加えない以外は実施例5と同様の工程で得られた二極式評価セルを比較例2とした。
【0033】
[充放電試験]
上記作製した実施例1〜4,比較例1の二極式評価セルを用い、20℃の温度環境下、0.24mAの電流で0.05Vまで還元(放電)したのち、0.24mAの電流で1.5Vまで酸化(充電)させた。この充放電操作を繰り返し行い、10サイクル目の充電容量をQc
10thとし、初期の充電容量をQc
1stとし、10サイクル後の容量維持率(%)を、Qc
10th/Qc
1st×100の式により求めた。また、1サイクル目の放電容量Qd
1st×に対する1サイクル目の充電容量Qc
1st×として、1サイクル目のクーロン効率(%)を、Qc
1st/Qd
1st×100の式により求めた。
【0034】
[充放電試験]
上記作製した実施例5〜8,比較例2の二極式評価セルを用い、20℃の温度環境下、0.16mAの電流で4.9Vまで充電したのち、0.16mAの電流で3.5Vまで放電させた。この充放電操作を繰り返し行い、10サイクル目の放電容量をQd
10thとし、初期の放電容量をQd
1stとし、10サイクル後の容量維持率(%)を、Qd
10th/Qd
1st×100の式により求めた。このように、10サイクル目の放電容量(mAh/g)や、10サイクル後の容量維持率(%)を求めた。
【0035】
(実験結果と考察)
表1に、実施例1〜8,比較例1,2の電極構成、添加剤、添加量、10サイクル後の容量、10サイクル後の容量維持率をまとめて示す。表2に、実施例1〜4,比較例1の1サイクル目のクーロン効率をまとめて示す。
図2は、実施例1,3,4及び比較例1の10サイクル後の充電曲線である。また、
図3は、実施例5,7,8及び比較例2の10サイクル後の放電曲線である。表1及び
図2に示すように、実施例1〜4では、比較例1に比して10サイクル後の容量が大きく、容量維持率が高いことがわかった。即ち、黒鉛を含む電極において、t−HFPBHNa及びt−HFPSiの少なくとも1以上が電解液に含まれていると充放電のサイクル特性を向上することができることがわかった。また、その添加量は、1.0質量%〜5.0質量%でその効果をより発揮することができることがわかった。また、表1及び
図3に示すように、実施例5〜8では、比較例2に比して著しく10サイクル後の放電容量が大きく、容量維持率が高いことがわかった。即ち、黒鉛を含む負極と、LiNi
0.5Mn
1.5O
4正極とを備えたものにおいて、t−HFPBHNa及びt−HFPSiの少なくとも1以上が電解液に含まれていると、充放電のサイクル特性を著しく向上することができることがわかった。また、その添加量は、1.0質量%〜5.0質量%でその効果をより発揮することができることがわかった。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
表2に示すように、実施例1〜4では、比較例1に比して1サイクル目のクーロン効率が低かった。これは、黒鉛を含む電極において、添加剤としてt−HFPBHNa及びt−HFPSiの少なくとも1以上が電解液に含まれていると、初期の還元反応時に、これらの添加化合物が還元される電気容量に相当する分、還元容量が多くなり、結果として初期のクーロン効率が低下したものと推察された。おそらく、添加化合物に含まれるヘキサフルオロイソプロピル基の部分が還元され、フッ化水素を与え、これがリチウムと反応することにより、フッ化リチウムとなり、負極電極/電解液界面を安定させることにより、電解液の分解が抑制されてサイクル特性が向上するものと推察された。