特許第6011089号(P6011089)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6011089ロボットシステム並びにロボット制御装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011089
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】ロボットシステム並びにロボット制御装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 9/10 20060101AFI20161006BHJP
【FI】
   B25J9/10 A
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-157033(P2012-157033)
(22)【出願日】2012年7月13日
(65)【公開番号】特開2014-18878(P2014-18878A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100093861
【弁理士】
【氏名又は名称】大賀 眞司
(74)【代理人】
【識別番号】100129218
【弁理士】
【氏名又は名称】百本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】林 浩一郎
【審査官】 臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−152599(JP,A)
【文献】 特表2003−530230(JP,A)
【文献】 特開平05−162091(JP,A)
【文献】 特開2010−253613(JP,A)
【文献】 特開2002−127052(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0200042(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 9/06−15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットアームの先端部に加工用の第1の手先工具又は計測用の第2の手先工具が取り付けられるロボットと、
ワークの加工処理時、仮想空間内の基準座標を基準として作成された加工軌道に沿って前記第1の手先工具のツールセンタポイントを移動させるように前記ロボットの位置及び姿勢を制御するロボット制御部と
を備え、
前記ロボット制御部は、
前記加工軌道と同一の仮想空間上に作成されたタッチセンシング軌道に沿って、前記ワークの表面上に複数設定された目標点に前記第2の手先工具を接触させるタッチセンシング動作を前記ロボットに実行させ、
前記タッチセンシング動作時に検出した、前記目標点ごとにおいて前記第2の手先工具が前記ワークに接触した接触点における前記第2の手先工具のツールセンタポイントの位置及び姿勢を表す第1の位置及び姿勢データと、前記第2の手先工具を前記タッチセンシング軌道に沿って移動させた場合に想定される、前記目標点ごとにおいて前記第2の手先工具が前記ワークに接触したときの当該ツールセンタポイントの位置及び姿勢を表す第2の位置及び姿勢データとに基づいて、最小二乗法により前記仮想空間上の前記ワークと現実の前記ワークとを一致させるための基準座標系の補正量として、前記目標点が3点より少ない場合には並進量のみを算出し、目標点が3点以上の場合は並進及び回転量を算出し、
算出した当該補正量に基づいて前記基準座標系を補正し、
前記ワークの加工処理時には、補正した前記基準座標系を基準とする前記加工軌道に沿って前記第1の手先工具のツールセンタポイントを移動させるように前記ロボットを制御する
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項2】
前記第1及び第2の手先工具は同形状に形成され、
前記ロボット制御部は、
前記タッチセンシング動作時における前記第2の手先工具の姿勢が、前記加工処理時における前記第1の手先工具の姿勢と同一となるように前記ロボットを制御する
ことを特徴とする請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項3】
ロボットアームの先端部に加工用の第1の手先工具又は計測用の第2の手先工具が取り付けられるロボットを制御対象として、ワークの加工処理時に、仮想空間内の基準座標を基準として作成された加工軌道に沿って前記第1の手先工具のツールセンタポイントを移動させるように前記ロボットの位置及び姿勢を制御するロボット制御装置において、
前記加工軌道と同一の仮想空間上に作成されたタッチセンシング軌道に沿って、前記ワークの表面上に複数設定された目標点に前記第2の手先工具を接触させるタッチセンシング動作を前記ロボットに実行させ、
前記タッチセンシング動作時に検出した、前記目標点ごとにおいて前記第2の手先工具が前記ワークに接触した接触点における前記第2の手先工具のツールセンタポイントの位置及び姿勢を表す第1の位置及び姿勢データと、前記第2の手先工具を前記タッチセンシング軌道に沿って移動させた場合に想定される、前記目標点ごとにおいて前記第2の手先工具が前記ワークに接触したときの当該ツールセンタポイントの位置及び姿勢を表す第2の位置及び姿勢データとに基づいて、最小二乗法により前記仮想空間上の前記ワークと現実の前記ワークとを一致させるための基準座標系の補正量として、前記目標点が3点より少ない場合には並進量のみを算出し、目標点が3点以上の場合は並進量又は並進量及び回転量を算出し、
算出した当該補正量に基づいて前記基準座標系を補正し、
前記ワークの加工処理時には、補正した前記基準座標系を基準とする前記加工軌道に沿って前記第1の手先工具のツールセンタポイントを移動させるように前記ロボットを制御する
ことを特徴とするロボット制御装置。
【請求項4】
ロボットアームの先端部に加工用の第1の手先工具又は計測用の第2の手先工具が取り付けられるロボットと、ワークの加工処理時、仮想空間内の基準座標を基準として作成された加工軌道に沿って前記第1の手先工具のツールセンタポイントを移動させるように前記ロボットの位置及び姿勢を制御するロボット制御部とを有するロボットシステムにおけるロボット制御方法において、
前記ロボット制御部が、前記加工軌道と同一の仮想空間上に作成されたタッチセンシング軌道に沿って、前記ワークの表面上に複数設定された目標点に前記第2の手先工具を接触させるタッチセンシング動作を前記ロボットに実行させる第1のステップと、
前記ロボット制御部が、前記タッチセンシング動作時に検出した、前記目標点ごとにおいて前記第2の手先工具が前記ワークに接触した接触点における前記第2の手先工具のツールセンタポイントの位置及び姿勢を表す第1の位置及び姿勢データと、前記第2の手先工具を前記タッチセンシング軌道に沿って移動させた場合に想定される、前記目標点ごとにおいて前記第2の手先工具が前記ワークに接触したときの当該ツールセンタポイントの位置及び姿勢を表す第2の位置及び姿勢データとに基づいて、最二乗法により前記仮想空間上の前記ワークと現実の前記ワークとを一致させるための基準座標系の補正量として、前記目標点が3点より少ない場合には並進量のみを算出し、目標点が3点以上の場合は並進量又は並進量及び回転量を算出する第2のステップと、
前記ロボット制御部が、算出した当該補正量に基づいて前記基準座標系を補正する第3のステップと、
前記ロボット制御部が、前記ワークの加工処理時に、補正した前記基準座標系を基準とする前記加工軌道に沿って前記第1の手先工具のツールセンタポイントを移動させるように前記ロボットを制御する第4のステップと
を備えることを特徴とするロボット制御方法。
【請求項5】
前記第1及び第2の手先工具は同形状に形成され、
前記第1のステップにおいて、前記ロボット制御部は、
前記タッチセンシング動作時における前記第2の手先工具の姿勢が、前記加工処理時における前記第1の手先工具の姿勢と同一となるように前記ロボットを制御する
ことを特徴とする請求項4に記載のロボット制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットシステム並びにロボット制御装置及び方法に関し、例えば多関節のロボットアームを有するロボットによってワーク(加工対象物)を加工処理するロボットシステムに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
この種のロボットシステムにおいて、ロボットアームの先端に取り付けられる手先工具の上記加工処理時における軌道(以下、これを加工軌道と呼ぶ)をCAD(Computer Aided Design)モデルからオフラインで生成した場合、CADモデル空間上で作成された加工軌道を現実のワークの位置及び姿勢に合わせて校正(キャリブレーション)する必要がある。
【0003】
従来、このようなキャリブレーションは、ワークを保持するテーブルの隅部などの形状的な特徴を利用した教示操作により、現実のテーブル上に固定されたテーブル座標系をロボットに計測させるようにして行われている。
【0004】
このような従来のキャリブレーション方法によれば、CADモデル上の基準座標系と、ワークとの相対位置を、実物のテーブル上に固定されたテーブル座標系と、実物のワークの相対位置とに基づいて合わせることができる。すなわち、CADモデル空間上において加工軌道をテーブル座標系基準で生成しておき、実空間上のテーブル座標系を教示することによって、加工軌道と実物のワークとの相対位置を合わせることができる。
【0005】
しかしながら、上述のような教示操作では高精度な位置合わせが困難であるという問題もある。そこで、近年、本願特許出願人より、直交する3平面を有するワークに対するタッチセンシングにより、手先工具のワークの位置を計測し、計測結果に基づいて手先工具及び治具間の相対位置を補正する技術が提案されている(特許文献1)。ここで、タッチセンシングとは、ロボットのロボットアームの先端部に取り付けられた手先工具をワークの表面に押し付けてワークの位置を計測する技術をいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−152599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、この特許文献1には、ワークが直交する3平面を有しない場合、ワークを固定するテーブル等の治具に直交する3平面を設け、この3平面に対するタッチセンシング動作により得られたデータに基づいてキャリブレーションすることが開示されている。
【0008】
しかしながら、この特許文献1に開示されたキャリブレーション方法によると、ワークが直交する3平面を有しない場合にはワークから離れた場所での計測データを用いてキャリブレーションを行うことになるため、絶対位置決め精度の低いロボットではキャリブレーションの精度が低くなる問題があった。
【0009】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、簡易かつ精度良くキャリブレーションを行い得るロボットシステム並びにロボット制御装置及び方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため本発明においては、ロボットシステムにおいて、ロボットアームの先端部に加工用の第1の手先工具又は計測用の第2の手先工具が取り付けられるロボットと、ワークの加工処理時、仮想空間内の基準座標を基準として作成された加工軌道に沿って前記第1の手先工具のツールセンタポイントを移動させるように前記ロボットの位置及び姿勢を制御するロボット制御部とを設け、前記ロボット制御部が、前記加工軌道と同一の仮想空間上に作成されたタッチセンシング軌道に沿って、前記ワークの表面上に複数設定された目標点に前記第2の手先工具を接触させるタッチセンシング動作を前記ロボットに実行させ、前記タッチセンシング動作時に検出した、前記目標点ごとにおいて前記第2の手先工具が前記ワークに接触した接触点における前記第2の手先工具のツールセンタポイントの位置及び姿勢を表す第1の位置及び姿勢データと、前記第2の手先工具を前記タッチセンシング軌道に沿って移動させた場合に想定される、前記目標点ごとにおいて前記第2の手先工具が前記ワークに接触したときの当該ツールセンタポイントの位置及び姿勢を表す第2の位置及び姿勢データとに基づいて、最小二乗法により前記仮想空間上の前記ワークと現実の前記ワークとを一致させるための基準座標系の補正量として、前記目標点が3点より少ない場合には並進量のみを算出し、目標点が3点以上の場合は並進量又は並進量及び回転量を算出し、算出した当該補正量に基づいて前記基準座標系を補正し、前記ワークの加工処理時には、補正した前記基準座標系を基準とする前記加工軌道に沿って前記第1の手先工具のツールセンタポイントを移動させるように前記ロボットを制御するようにした。
【0011】
また本発明においては、ロボットアームの先端部に加工用の第1の手先工具又は計測用の第2の手先工具が取り付けられるロボットを制御対象として、ワークの加工処理時に、仮想空間内の基準座標を基準として作成された加工軌道に沿って前記第1の手先工具のツールセンタポイントを移動させるように前記ロボットの位置及び姿勢を制御するロボット制御装置において、前記加工軌道と同一の仮想空間上に作成されたタッチセンシング軌道に沿って、前記ワークの表面上に複数設定された目標点に前記第2の手先工具を接触させるタッチセンシング動作を前記ロボットに実行させ、前記タッチセンシング動作時に検出した、前記目標点ごとにおいて前記第2の手先工具が前記ワークに接触した接触点における前記第2の手先工具のツールセンタポイントの位置及び姿勢を表す第1の位置及び姿勢データと、前記第2の手先工具を前記タッチセンシング軌道に沿って移動させた場合に想定される、前記目標点ごとにおいて前記第2の手先工具が前記ワークに接触したときの当該ツールセンタポイントの位置及び姿勢を表す第2の位置及び姿勢データとに基づいて、最小二乗法により前記仮想空間上の前記ワークと現実の前記ワークとを一致させるための基準座標系の補正量として、前記目標点が3点より少ない場合には並進量のみを算出し、目標点が3点以上の場合は並進量又は並進量及び回転量を算出し、算出した当該補正量に基づいて前記基準座標系を補正し、前記ワークの加工処理時には、補正した前記基準座標系を基準とする前記加工軌道に沿って前記第1の手先工具のツールセンタポイントを移動させるように前記ロボットを制御するようにした。
【0012】
さらに本発明においては、ロボットアームの先端部に加工用の第1の手先工具又は計測用の第2の手先工具が取り付けられるロボットと、ワークの加工処理時、仮想空間内の基準座標を基準として作成された加工軌道に沿って前記第1の手先工具のツールセンタポイントを移動させるように前記ロボットの位置及び姿勢を制御するロボット制御部とを有するロボットシステムにおけるロボット制御方法において、前記ロボット制御部が、前記加工軌道と同一の仮想空間上に作成されたタッチセンシング軌道に沿って、前記ワークの表面上に複数設定された目標点に前記第2の手先工具を接触させるタッチセンシング動作を前記ロボットに実行させる第1のステップと、前記ロボット制御部が、前記タッチセンシング動作時に検出した、前記目標点ごとにおいて前記第2の手先工具が前記ワークに接触した接触点における前記第2の手先工具のツールセンタポイントの位置及び姿勢を表す第1の位置及び姿勢データと、前記第2の手先工具を前記タッチセンシング軌道に沿って移動させた場合に想定される、前記目標点ごとにおいて前記第2の手先工具が前記ワークに接触したときの当該ツールセンタポイントの位置及び姿勢を表す第2の位置及び姿勢データとに基づいて、最小二乗法より前記仮想空間上の前記ワークと現実の前記ワークとを一致させるための基準座標系の補正量として、前記目標点が3点より少ない場合には並進量のみを算出し、目標点が3点以上の場合は並進量又は並進量及び回転量を算出する第2のステップと、前記ロボット制御部が、算出した当該補正量に基づいて前記基準座標系を補正する第3のステップと、前記ロボット制御部が、前記ワークの加工処理時に、補正した前記基準座標系を基準とする前記加工軌道に沿って前記第1の手先工具のツールセンタポイントを移動させるように前記ロボットを制御する第4のステップとを設けるようにした。
【0013】
従って、本発明のロボットシステム並びにロボット制御装置及び方法によれば、どのような形状の被加工対象に対しても専用の治具を用いることなく加工軌道のキャリブレーションを行うことができる。またタッチセンシング動作時に実際に手先工具がワークに接触した時点のツールセンタポイントの位置及び姿勢に基づいてキャリブレーションを行うため、高い精度でのキャリブレーションを行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡易かつ精度良くキャリブレーションを行い得るロボットシステム並びにロボット制御装置及び方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施の形態によるロボットシステムの概略構成を示す略線図である。
図2】本実施の形態によるキャリブレーション機能の説明に供する概念図である。
図3】ツールセンタポイントの説明に供する概念図である。
図4】本実施の形態によるキャリブレーション機能の説明に供する概念図である。
図5】本実施の形態によるキャリブレーション機能の説明に供する概念図である。
図6】キャリブレーション処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0017】
(1)本実施の形態によるロボットシステムの構成
図1において、1は全体として本実施の形態によるロボットシステムを示す。このロボットシステム1は、テーブル2に固定されたワーク3に対してバリ取りなどの所定の加工処理を施すロボット4と、当該ロボット4の動作を制御するロボット制御部5とから構成される。
【0018】
ロボット4は、基台10上に設置された多関節のロボットアーム11を備え、当該ロボットアーム11の先端にフランジ部12を介して力覚センサ13が固定されている。また力覚センサ13には、スピンドルモータ14を介して手先工具15が交換自在に取り付けられており、これにより手先工具15がワーク3に接触したときに当該手先工具15がワーク3から受ける負荷を、力覚センサ13によって検出し得るようになされている。そして力覚センサ13は、かかる負荷を検出した場合、その負荷の大きさに応じた電圧レベルのセンサ信号を出力する。
【0019】
ロボット制御部5は、制御装置6及びコントローラ7から構成される。制御装置6は、CPU(Central Processing Unit)20及びメモリ21等の情報処理資源を備えるコンピュータ装置であり、例えばパーソナルコンピュータから構成される。制御装置6は、図示しない3次元CAD装置を用いてオフラインで作成された手先工具のツールセンタポイント(TCP:Tool Center Point)の加工軌道の軌道データと、力覚センサ13から出力されるセンサ信号と、コントローラ7から逐次与えられるロボット4の位置及び姿勢を表す位置及び姿勢データとに基づいてロボット4の動作軌道を計算し、かかる計算により得られたロボット4の動作軌道の軌道データをコントローラ7に送出する。
【0020】
コントローラ7は、制御装置6と同様に、CPU22及びメモリ23等の情報処理資源を備えるコンピュータ装置であり、例えばパーソナルコンピュータから構成される。コントローラ7は、制御装置6から与えられるロボット4の動作軌道の軌道データに基づいて、ロボット4が軌道データに従った動作軌道上で動作するようにロボット4の位置及び姿勢を制御する。
【0021】
(2)本実施の形態によるキャリブレーション機能
次に、かかるロボットシステム1に搭載されたキャリブレーション機能について説明する。本ロボットシステム1には、予めオペレータにより作成されたワーク3の加工処理時における手先工具のツールセンタポイントの軌道(加工軌道)をキャリブレーションするキャリブレーション機能が搭載されている。このキャリブレーション機能は、かかる加工軌道が作成されたCADモデル空間(仮想空間)上のワーク3と、現実のワーク3とのずれ量をタッチセンシング動作により検出し、検出結果に基づいて上記加工軌道を補正する機能である。
【0022】
実際上、本ロボットシステム1では、オペレータが3次元CAD装置を用いてオフラインでCADモデル空間上に加工軌道を作成する際、上述のタッチセンシング動作時に用いる手先工具15(以下、計測ピンとする)のツールセンタポイントが移動すべき軌道(以下、これをタッチセンシング軌道と呼ぶ)を同一CADモデル空間上に生成する。つまり図2に示すように、タッチセンシング軌道OR及び加工軌道ORを、CADモデル空間上に設定された同一の基準座標系ΣCADからの相対位置で記述する。このときの基準座標系ΣCADは、どこであっても良い。またタッチセンシング軌道ORの基準座標系は、配置の設計データ等をもとに仮決めすれば良い。
【0023】
そしてワーク3を加工処理する前に、上述のように作成されたタッチセンシング軌道ORに沿って計測ピンを移動させることによって、ワーク3の表面上に複数設定された目標点P〜Pに計測ピンを接触させるタッチセンシング動作を実行させ、実際に計測ピンがワーク3の表面に接触した時点における計測ピンのツールセンタポイントの位置及び姿勢を計測する。なお、ツールセンタポイントの位置及び姿勢とは、図1及び図3に示すように、(ロボット4の基台10上に固定された座標系(以下、これをロボット座標系と呼ぶ)ΣRを基準として)空間上に座標系ΣCADを設定し、この座標系ΣCADを基準としたツールセンタポイントTCPを原点とする座標系(ツールセンタポイント座標系)ΣTCPの位置及び姿勢をいう。
【0024】
このとき図4に示すように、CADモデル空間上のワーク3´の位置及び姿勢と、現実のワーク3の位置及び姿勢とがずれている(一致しない)場合、実際に計測ピンがワーク3の表面に接触したときの計測ピンのツールセンタポイントの位置及び姿勢は、CADモデル空間上のタッチセンシング軌道ORで想定されていた当該ツールセンタポイントの位置及び姿勢からずれる。
【0025】
そこで、図5に示すように、タッチセンシング動作時に複数の各目標点P〜Pにおいて計測ピンがワーク3に実際に接触したときの計測ピンのツールセンタポイントの位置及び姿勢と、タッチセンシング軌道ORに沿って計測ピンを移動させた場合に想定されるそのときの計測ピンの位置及び姿勢とのずれ量に基づいて基準座標系ΣCADを補正することにより、CADモデル空間上のワーク3´と、現実のワーク3とを一致させた補正基準座標系ΣCAD´を算出する。そして、ワーク3の加工処理時には、このようにして得られた補正基準座標系ΣCAD´を基準とする加工軌道ORに沿って手先工具15を移動させるようにロボット4を制御する。
【0026】
以下、このようなキャリブレーション機能について、より具体的に説明する。
【0027】
まずオペレータは、各目標点において計測ピンがワーク3の表面と接触したときの当該計測ピンのツールセンタポイントの位置及び姿勢と、その地点での面の法線方向ベクトルとから構成されるタッチセンシング軌道を、加工軌道と同一のCADモデル空間上に生成する。タッチセンシング軌道は、ワーク3の表面上の目標点に対して、ワーク3から一定距離離れた地点から計測ピンを近付けていくように作成する。この際、ワークの誤差がない理想的な状態での、各目標点において計測ピンがワーク3に接触するときの計測ピンのツールセンタポイントの位置及び姿勢を表す位置及び姿勢データを算出する。
【0028】
そしてタッチセンシング動作時、計測ピンがワーク3の表面上の1つの目標点に接触したときに計測ピンがワーク3から受ける反力を力覚センサ13により検出し、力覚センサ13がこの反力を検出した時点における計測ピンのツールセンタポイントの位置及び姿勢を表す位置及び姿勢データを取得する。このようなツールセンタポイントの位置及び姿勢は、コントローラ7がロボット4から取得するロボット4の位置及び姿勢に基づき算出することができる。
【0029】
以上のようなタッチセンシングによる計測ピンのツールセンタポイントの位置及び姿勢の計測を、ワーク3の表面上に設定された各目標点においてそれぞれ実行し、これら個々の目標点における計測ピンのツールセンタポイントの位置及び姿勢を表す位置及び姿勢データを記憶しておく。
【0030】
そして、算出した位置及び姿勢データと、上述のようにタッチセンシング動作により取得した位置及び姿勢データとに基づいて、基準座標系ΣCADの補正量(並進量及び回転量)を計算する。かかる補正量としては、目標点が3点より少ない場合には並進量のみを算出し、目標点が3点以上(正確には、一直線状に並ばない点が3点以上含まれる)の場合には並進量と回転量とを算出する。
【0031】
ここで、かかる基準座標系ΣCADの補正量のうち、並進量は、個々の目標点に対して実際に計測ピンがワーク3の表面と接触した点(以下、これを計測点と呼ぶ)における当該計測ピンのツールセンタポイントの重心の並進量として算出できる。例えば、目標点がN(N>1)個あるものとして、これら目標点における計測ピンのツールセンタポイントの位置(以下、これを目標点TCP位置と呼ぶ)CADTCPkを次式
【数1】
ただしk=1〜N
とすると、目標点TCP位置CADTCPkの集合体の重心位置CADGは、次式
【数2】
により算出される。
【0032】
なお(1)式及び(2)式において、左上の添え字は基準となる座標系を表す。従って(1)式のCADTCPkは、CADモデル空間上の基準座標系を基準とした目標点pTCPkにおける計測ピンのツールセンタポイントの位置を表し、(2)式のCADGは、当該基準座標系を基準とした目標点TCP位置CADTCPkの集合体の重心位置pGの位置を表す。以下においても同様である。
【0033】
また各目標点TCP位置CADTCPkに対する実際の計測点における計測ピンのツールセンタポイントの位置(以下、これを計測点TCP位置と呼ぶ)CADTCPk´を次式
【数3】
ただしk=1〜N
とすると、計測点TCP位置CADTCPk´の集合体の重心位置CADG´は、次式
【数4】
により算出される。
【0034】
従って、上述した基準座標系ΣCADの補正量のうちの並進成分CADp→p´は、(2)式で表される重心位置CADGと、(4)式で表される重心位置CADG´との差分として、次式
【数5】
により算出することができる。
【0035】
一方、各目標点TCP位置CADTCPkを次式
【数6】
ただしk=1〜N
とし、各計測点TCP位置CADTCPk´を次式
【数7】
ただしk=1〜N
とすると、これら目標点TCP位置CADTCPkと、計測点TCP位置CADTCPk´との関係は、次式
【数8】
と表すことができる。この(8)式において、CAD´CADが、上述した基準座標系ΣCADの補正量の回転成分を表す回転行列である。
【0036】
この場合において、目標点の数が十分多いと(8)式を満たす解は通常存在しないが、基準座標系ΣCADの補正量の回転成分を最小二乗近似解を次式により算出することができる。
【数9】
【0037】
ただし(9)式で算出される最小二乗近似解は回転行列とは限らない。例えば、軸方向の拡大又は縮小などを含む可能性があり、XとYとの二乗誤差が最小となるような3×3の行列となる。そこで、特異値分解を次式
【数10】
とする。なお(10)式において、Sは固有値が対角に並んだ行列を表し、Uは左特異行列を表す。従って、最小二乗近似解の回転行列は、次式
【数11】
により算出することができる。
【0038】
以上のことから、基準座標系ΣCADを補正基準座標系ΣCAD´に補正するための同次変換行列CAD´CADを次式
【数12】
とすると、ロボット座標系ΣR図3)を基準とした基準座標系ΣCADは、次式で与えられる同次変換行列RCAD´によりロボット座標系ΣRを基準とした補正基準座標系ΣCAD´に補正される。
【数13】
【0039】
(3)キャリブレーション処理
ここで、上述のようなキャリブレーション処理は、制御装置6のメモリ21に格納された図示しない制御プログラムに基づき、図6に示す処理手順に従って、制御装置6のCPU20の制御のもとに行われる。
【0040】
これに先立ち、オペレータは、3次元CAD装置を用いてワーク3のCADモデルをCADモデル空間上に作成する。またオペレータは、この後、上述のようにして作成したワーク3のCADモデルを一般的なCAM(Computer Aided Manufacturing)又はロボット用のCAMに取り込み、このCAMを用いて、ワーク3の加工処理時における手先工具15のツールセンタポイントの軌道(加工軌道)と、タッチセンシング動作時における計測ピンのツールセンタポイントの軌道(タッチセンシング軌道)とを同一CADモデル空間上に作成する。次いで、オペレータは、ワーク3をテーブル2上に所定状態に固定し、この後、図6のキャリブレーション処理を開始するよう制御装置6を操作する。
【0041】
制御装置6のCPU20は、かかる操作が行われると図6に示すキャリブレーション処理を開始し、まず、上述のようにCAMを用いて作成されたタッチングセンシング軌道の軌道データに基づいて、計測ピンをワーク3の表面上に設定された最初の目標点の手前まで移動させるようロボット4を制御する(SP1)。
【0042】
続いて、CPU20は、計測ピンをその目標点に押し付ける動作をロボット4に開始させ(SP2)、この後、力覚センサ13から与えられるセンサ信号に基づいて、ロボット4の計測ピンがワーク3の表面に接触するのを待ち受ける(SP3:NO)。
【0043】
CPU20は、やがて力覚センサ13から出力されるセンサ信号に基づいてロボット4の計測ピンがワーク3の表面に接触したことを検知すると(SP3:YES)、そのときコントローラ7から与えられるそのときのロボット4の位置及び姿勢を表す位置及び姿勢データに基づいて、計測ピンのツールセンタポイントの位置及び姿勢を表す位置及び姿勢データを算出し、これを記憶する(SP4)。
【0044】
次いで、CPU20は、タッチングセンシング軌道の軌道データに基づいて、ワーク3の表面上に設定されたすべての目標点について、ステップSP1〜ステップSP4の処理を実行し終えたか否かを判断する(SP5)。
【0045】
CPU20は、この判断で否定結果を得るとステップSP1に戻り(SP5:NO)、この後、目標点を順次他の目標点に切り替えながら、ステップSP1〜ステップSP5の処理を繰り返す。
【0046】
そしてCPU20は、やがてワーク3の表面上に設定されたすべての目標点についてステップSP1〜ステップSP5の処理を実行し終えると(SP5:YES)、上述した(5)式及び(11)式により、基準座標系ΣCADの補正量(並進量及び回転量)を算出する(SP6)。
【0047】
さらにCPU20は、ステップSP6において算出した補正量を利用して(13)式により基準座標系ΣCADを補正し(SP7)、この後、このキャリブレーション処理を終了する。
【0048】
なお、CPU20は、この後に実行される加工処理において、ステップSP7において基準座標系ΣCADを補正することにより得られた補正基準座標系ΣCAD´を基準とする加工軌道上を手先工具15のツールセンタポイントが移動するように、コントローラ7を介してロボット4の動作を制御する。
【0049】
(4)本実施の形態の効果
以上の構成のロボットシステム1によれば、キャリブレーション処理に直交する3平面を必要としないため、どのような形状の被加工対象に対しても専用の治具を用いることなく加工軌道のキャリブレーションを行うことができる。
【0050】
また本ロボットシステム1では、加工箇所の近辺で取得した計測データ(計測ピンの位置及び姿勢を表す位置及び姿勢データ)を用いてキャリブレーションを行うため、高い精度のキャリブレーションを行うことができる。すなわち、従来用いられているキャリブレーション技術は、CADモデル空間内の基準座標系ΣCADと、実空間の基準座標系とを一致させるものであるが、本実施の形態のキャリブレーション技術はCADモデル空間上のワーク3´(図3)と、実空間上のワーク3とを一致させるようにCADモデル空間上の基準座標系ΣCADを補正し、結果として加工軌道をキャリブレーションするものである。このため、結果としてCADモデル空間の基準座標系ΣCADと実空間の座標系はむしろずれることになる場合もあるが、実空間での加工軌道をCADモデル空間上のワーク3´を基準として作成された加工軌道に極めて精度良く近付けることができる。
【0051】
従って、本ロボットシステム1によれば、簡易かつ精度良くキャリブレーションを行うことができる。
【0052】
因みに、本ロボットシステム1において、タッチセンシング動作時に使用する計測ピンをワーク3の加工処理時に使用する手先工具15と同じ形状にし、タッチセンシング動作時の計測ピンの姿勢を加工処理時の手先工具15の姿勢と同じ姿勢とすることによって、タッチセンシング軌道の作成を容易化できるという効果をも得ることができる。これは、このようにすることによって、ロボットシステム1の設計の際、ロボット4が加工軌道に沿って手先工具15のツールセンタポイントを移動させ得るようにロボット4を選定しかつ配置設計を行うだけでタッチセンシング動作が実行可能であることが保証されるからである。
【0053】
(5)他の実施の形態
なお上述の実施の形態においては、本発明を図1のように構成されたロボットシステム1に適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、ワークの加工処理時における手先工具15の加工軌道を3次元CAD装置を用いてオフラインで生成するこの他種々の構成のロボットシステムに広く適用することができる。
【0054】
また上述の実施の形態においては、タッチセンシング動作時に手先工具15がワーク3に接触したことを検出するためのセンサとして力覚センサ13を適用するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、力覚センサ以外の接触式センサや非接触式センサでもよく、例えば非接触式の距離センサや通電スイッチ等を用いるようにしても良い。
【0055】
さらに上述の実施の形態においては、ロボット4の動作を制御するロボット制御部5を制御装置6及びコントローラ7により構成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、これら制御装置6及びコントローラ7を一体化するようにしても良い。
【0056】
さらに上述の実施の形態においては、タッチセンシング動作により取得した計測ピンのツールセンタポイントの位置及び姿勢を表す位置及び姿勢データに基づいて最小二乗法を利用してCADモデル空間内の基準座標系ΣCADの補正量を求めるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば、逐次最小二乗法によりかかる補正量を求めるようにしても良い。
【0057】
さらに上述の実施の形態においては、CADモデル空間内の基準座標系ΣCADを1度だけ補正した補正基準座標系ΣCAD´を求めるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えばこの補正基準座標系ΣCAD´を基準座標系ΣCADの場合と同様に補正するようにしても良く、さらに同様の補正を補正基準座標系ΣCAD´に対して繰り返し複数回行うようにしても良い。このようにすることによって、より精度良くキャリブレーションを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、例えば多関節のロボットアームを有するロボットによってワークを加工処理し、かつワークの加工処理時における手先工具の加工軌道をオフラインで生成するロボットシステムに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1……ロボットシステム、3……ワーク、4……ロボット、5……ロボット制御部、6……制御装置、7……コントローラ、13……力覚センサ、15……手先工具、20……CPU、21……メモリ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6