特許第6011126号(P6011126)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011126
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】油脂製造方法及び油脂製造装置
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/64 20060101AFI20161006BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   C12P7/64
   C12M1/00 H
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-173049(P2012-173049)
(22)【出願日】2012年8月3日
(65)【公開番号】特開2014-30383(P2014-30383A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2015年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(72)【発明者】
【氏名】中田 栄寿
(72)【発明者】
【氏名】田口 和之
(72)【発明者】
【氏名】花井 洋輔
【審査官】 荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−092810(JP,A)
【文献】 特開2010−246407(JP,A)
【文献】 特表2010−538642(JP,A)
【文献】 特開2010−200690(JP,A)
【文献】 彼谷邦光,養殖,2011年 8月,48(9),pp.29-32
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/00− 7/64
C12M 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
Google
Google Scholar
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃棄物を活性汚泥処理して生じる第1汚泥又はその処理物を栄養源として、油脂を生成蓄積する能力を有する微生物であって、(1)オーランチオキトリウム属に属する第1の微生物と、(2)スロストキトリウム属に属する微生物、シゾキトリウム属に属する微生物、及びパリエチキトリウム属に属する微生物からなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、澱粉及び/又はタンパク質を分解する酵素を分泌する特性を有する第2の微生物とを混合培養し、その培養物を固液分離して、前記微生物の菌体を含有する第2汚泥を採取し、該第2汚泥中の微生物の菌体から油脂を抽出することを特徴とする油脂製造方法。
【請求項2】
前記油脂を生成蓄積する能力を有する微生物以外の微生物であって、前記第1汚泥を分解する能力を有する微生物により、前記第1汚泥を分解し、その分解物を前記栄養源とする請求項1記載の油脂製造方法。
【請求項3】
第1汚泥又はその処理物の塩濃度を0.3〜7.0w/v%に調整した培地を用いて、前記混合培養を行う請求項1又は2記載の油脂製造方法。
【請求項4】
有機性廃棄物を活性汚泥処理して生じる第1汚泥又はその処理物を栄養源として、油脂を生成蓄積する能力を有する微生物であって、(1)オーランチオキトリウム属に属する第1の微生物と、(2)スロストキトリウム属に属する微生物、シゾキトリウム属に属する微生物、及びパリエチキトリウム属に属する微生物からなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、澱粉及び/又はタンパク質を分解する酵素を分泌する特性を有する第2の微生物とを混合培養する培養槽と、該培養槽から取り出された培養物を固液分離する分離槽と、該分離槽で分離された第2汚泥から油脂を抽出する抽出装置とを備えていることを特徴とする油脂製造装置。
【請求項5】
前記油脂を生成蓄積する能力を有する微生物以外の微生物であって、前記第1汚泥を分解する能力を有する微生物により、前記第1汚泥を分解する前処理槽を更に備え、該前処理槽によって分解処理された、前記第1汚泥の処理物を前記培養槽に供給するように構成されている請求項記載の油脂製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従属栄養性藻類を利用して油脂を製造する油脂製造方法及び油脂製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
公共分野あるいは産業排水分野において有機性排水を処理する場合、活性汚泥法が広く採用されている。活性汚泥法を用いることで、下水や産業排水は、有機物、リン、窒素などの含有量が低減された処理水と、活性汚泥処理に利用された微生物を含む余剰汚泥とに分離される。このうち下水からの余剰汚泥は、全産業廃棄物中の約20%を占め、年間で8,000万tにも達するが、これら下水汚泥の約7割が焼却処分されているのが現状である。
【0003】
一般に、活性汚泥処理で生じる余剰汚泥の含水率は80〜90%であり、その処分には脱水・乾燥、焼却、運搬等に多大なエネルギーが要される。特にその焼却の際には、重油や天然ガスなどの燃料が多量に消費される。このため、環境負荷への配慮や汚泥減量化の観点から、余剰汚泥の再資源化への取組が行われており、例えば、下記特許文献1,2には、余剰汚泥に含まれる微生物を栄養源にする従属栄養性藻類を利用して、余剰汚泥から油脂を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−246407号公報
【特許文献2】特開2011−92810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来、従属栄養性藻類を利用した汚泥からの油脂製造方法では、汚泥を従属栄養性藻類で処理する前に、あらかじめ汚泥に、熱、磁場、振動、圧力、オゾン、超音波などを付与して、その汚泥に含まれる微生物を分解し又はその汚泥を可溶化させるといった前処理が必要であった。これらの前処理は、設備を大型化・複雑化させるだけでなく、投入するエネルギー量を増加させるといった問題があった。また、その前処理により多種多様な有機成分が生じるため、従属栄養性藻類がそれらの有機成分を完全に資化することができずに、結果として新たな有機性排水を生じるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記従来技術に鑑み、より簡単な装置構成と、より少ない環境負荷で、活性汚泥処理で生じる余剰汚泥からの油脂の製造を可能とする油脂製造方法及び油脂製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従属栄養性藻類による油脂生産について鋭意研究を進めた結果、資化・分解特性の異なる従属栄養藻類を併用することにより、分解や可溶化といった前処理を行わない汚泥を栄養源として生育可能であり、その菌体に油脂を蓄積することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明の油脂製造方法は、有機性廃棄物を活性汚泥処理して生じる第1汚泥又はその処理物を栄養源として、油脂を生成蓄積する能力を有する微生物であって、(1)オーランチオキトリウム属に属する第1の微生物と、(2)澱粉及び/又はタンパク質を分解する酵素を分泌する特性を有する第2の微生物とを混合培養し、その培養物を固液分離して、前記微生物の菌体を含有する第2汚泥を採取し、該第2汚泥中の微生物の菌体から油脂を抽出することを特徴とする。
【0009】
本発明の油脂製造方法によれば、有機性廃棄物を活性汚泥処理して生じる第1汚泥又はその処理物を栄養源として、オーランチオキトリウム属に属する第1の微生物と、澱粉及び/又はタンパク質を分解する酵素を分泌する特性を有する第2の微生物とを混合培養することにより、その培養後の微生物の菌体に油脂を蓄積させることができる。そして、その微生物は前記第1汚泥又はその処理物に付着した状態で生育(増殖)するので、培養後の培養物を固液分離して第2汚泥を採取することにより、その第2汚泥中に油脂を蓄積した微生物の菌体を回収することができる。更に、その第2汚泥から有機溶媒などによる抽出により、前記微生物が生成蓄積した油脂を回収することができる。
【0010】
本発明の油脂製造方法においては、前記第2の微生物はラビリンチュラ科及び/又はヤブレツボカビ科に属する微生物であることが好ましい。
【0011】
また、前記第2の微生物は、スロストキトリウム属に属する微生物、シゾキトリウム属に属する微生物、及びパリエチキトリウム属に属する微生物からなる群から選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。
【0012】
また、前記油脂を生成蓄積する能力を有する微生物以外の微生物であって、前記第1汚泥を分解する能力を有する微生物により、前記第1汚泥を分解し、その分解物を前記栄養源とすることが好ましい。
【0013】
これによれば、あらかじめ汚泥を微生物で処理して易分解化するので、汚泥の栄養源としての利用効率が向上し、油脂の生成効率を高めることができる。
【0014】
また、第1汚泥又はその処理物の塩濃度を0.3〜7.0w/v%に調整した培地を用いて、前記混合培養を行うことが好ましい。
【0015】
これによれば、培養条件の塩濃度を高めることで、汚泥中に含まれる種種雑多な微生物の生育(増殖)を制限しつつ、好塩性である前記油脂を生成蓄積する能力を有する微生物の生育(増殖)を促進して、これにより油脂の生成効率を高めることができる。
【0016】
一方、本発明の油脂製造装置は、有機性廃棄物を活性汚泥処理して生じる第1汚泥又はその処理物を栄養源として、油脂を生成蓄積する能力を有する微生物であって、(1)オーランチオキトリウム属に属する第1の微生物と、(2)澱粉及び/又はタンパク質を分解する酵素を分泌する特性を有する第2の微生物とを混合培養する培養槽と、該培養槽から取り出された培養物を固液分離する分離槽と、該分離槽で分離された第2汚泥から油脂を抽出する抽出装置とを備えていることを特徴とする。
【0017】
本発明の油脂製造装置においては、前記油脂を生成蓄積する能力を有する微生物以外の微生物であって、前記第1汚泥を分解する能力を有する微生物により、前記第1汚泥を分解する前処理槽を更に備え、該前処理槽によって分解処理された、前記第1汚泥の処理物を前記培養槽に供給するように構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、より簡単な装置構成と、より少ない環境負荷で、活性汚泥処理で生じる余剰汚泥から油脂を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態に係る油脂製造装置の概略構成図である。
図2】本発明の第2の実施形態に係る油脂製造装置の概略構成図である。
図3】本発明の第3の実施形態に係る油脂製造装置の概略構成図である。
図4】試験例2において培養後の菌体をナイルレッド染色したときの蛍光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書において「有機性廃棄物を活性汚泥処理して生じる第1汚泥」とは、下水や産業排水などから有機物、リン、窒素などの含有量を低減するために活性汚泥処理に処した後の、その活性汚泥処理に利用された微生物を含む汚泥を意味する。また、「その処理物」とは、活性汚泥処理に利用された微生物を破砕・破壊しない程度に処理した処理物を意味し、具体的には、例えば、微生物分泌酵素によって汚泥を分解した分解物等が挙げられる。汚泥に対して、微生物を破砕・破壊するほどの前処理を行うと、その微生物の破砕・破壊等により多種多様な有機成分が生じ、後述する従属栄養性藻類がそれらの有機成分を完全に資化することができずに、結果として新たな有機性排水を生じるので好ましくない。
【0021】
本明細書において「オーランチオキトリウム属に属する第1の微生物」とは、従属栄養性藻類(生育において炭酸ガス同化を行わず、糖・脂肪酸、アミノ酸などの有機化合物を必要とする藻類)であって、オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属に属し、その菌体に脂肪を生成蓄積するものを意味する。具体的には、例えば、オーランチオキトリウム NBRC102614、NBRC103268、NBRC103269等が挙げられる。特にオーランチオキトリウム NBRC102614を用いることが好ましい(NBRCの番号が付された菌株は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構から分譲を受けることが可能な菌株である。以下同様。)。
【0022】
本明細書において「澱粉及び/又はタンパク質を分解する酵素を分泌する特性を有する第2の微生物」とは、従属栄養性藻類であって、好ましくはラビリンチュラ科(Labyrinthulaceae)及び/又はヤブレツボカビ科(Thraustochytriaceae)、より好ましくはスロストキトリウム(Thraustochytrium)属、シゾキトリウム(Schizochyrium)属、又はパリエチキトリウム(Parietichytrium)属に属し、アミラーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ等、澱粉やタンパク質を分解する酵素を分泌する特性を有しつつその菌体に脂肪を生成蓄積するものを意味する。具体的には、例えば、ストキトリウム(Thraustochytrium)属に属する、スロストキトリウム ATCC18907、ATCC20890、ATCC20891、ATCC20982、ATCC24473、ATCC26185、ATCC28210、ATCC34304等が挙げられる(ATCCの番号が付された菌株は、American Type Culture Collectionから分譲を受けることが可能な菌株である。以下同様。)。また、例えば、シゾキトリウム(Schizochyrium)属に属する、シゾキトリウム ATCC20888、20889、28209、シゾキトリウム MYA―1391(ATCCより入手可能)等が挙げられる。また、例えば、パリエチキトリウム(Parietichytrium)属に属する、Parietichytrium sarkarianum NBRC104108、102984等が挙げられる。特にスロストキトリウム ATCC34304を用いることが好ましい。
【0023】
本明細書において「人工海水」とは海水を模して調製された水溶液を意味し、塩化ナトリウム濃度が0.3〜7.0w/v%の範囲のものであれば特に制限はないが、典型的には、例えば、塩化ナトリウム3.0w/v%、塩化カリウム0.07w/v%、塩化マグネシウム1.08w/v%、硫酸マグネシウム0.54w/v%、塩化カルシウム0.1w/v%の組成の水溶液が挙げられる。なお、以下では便宜上この組成の水溶液を「人工海水」とする。
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
【0025】
(第1の実施形態)
図1には、本発明の第1の実施形態に係る油脂製造装置の概略構成図を示す。この油脂製造装置は、従属栄養性藻類を前培養するための藻類培養タンク5と、汚泥を栄養源として従属栄養性藻類を培養するための培養装置6と、培養装置6で培養した培養物を固液分離するための分離装置7と、分離装置7で固液分離して採取した汚泥から油脂を抽出するための抽出装置9と、抽出装置9で抽出した油脂を精製するための精製装置10とを備えている。これらは配管により連通し、図示しないポンプやバルブによって、所定の処理が成されるまでそれぞれ内容物を留め置いたり、他に移動させたりすることができるようになっている。また、図1には、油脂製造装置の系外の活性汚泥施設に配され、下水や産業排水を活性汚泥処理するための曝気槽1や、曝気槽1で活性汚泥処理に処した後の汚泥を分離するための沈殿池2も図示されている。なお、これらの構成のうち培養装置6と分離装置7と抽出装置9とが、本発明に係る油脂製造装置の構成である「培養槽」と「分離槽」と「抽出装置」とに相当している。
【0026】
藻類培養タンク5においては、上記藻類の前培養に必要な有機化合物、栄養塩などが供給され、藻類の活性や菌体量が最適化される。例えば、オーランチオキトリウムNBRC102614やスロストキトリウム ATCC34304を用いる場合の典型的な前培養の条件を挙げれば20〜40℃、人工海水50%含有−LB培地、ペラ攪拌300〜700rpmの条件である。これらは単独で前培養してもよく、混合培養により前培養してもよい。
【0027】
培養装置6においては、活性汚泥施設において生じた汚泥3と、藻類培養タンク5において前培養した藻類4とが導入され、あるいは必要によっては系外から更に他の藻類が導入され、その2種以上の藻類が汚泥を栄養源にして生育・増殖するにともない汚泥が資化・分解される。このときの条件は、用いる藻類によっても異なるが、例えば、オーランチオキトリウムNBRC102614とスロストキトリウム ATCC34304とを混合培養する場合の典型的な培養の条件を挙げれば20〜40℃、活性汚泥浮遊物質濃度0.1〜5.0w/v%、溶存酸素濃度(DO)1.0〜5.0mg/Lの条件である。
【0028】
ところで、汚泥中には多種多様な微生物が存在し、種類によっては上記藻類の生育を阻害する可能性もある。この点、オーランチオキトリウム属に属する藻類や、それと混合培養するようにして用いることができる後述のスロストキトリウム属に属する藻類は、好塩性で、塩濃度が6w/v%でも生育可能であることから、培養装置6での培養条件の塩濃度を高めることで、これら阻害性の微生物の影響を排除することができる。その塩濃度としては0.3〜7.0w/v%であることが好ましく、0.7〜3.5w/v%であることがより好ましい。なお、ここで塩濃度とは、上記人工海水の50w/v%に相当する塩分を含むときに塩濃度が1.75w/v%であることを意味する。
【0029】
分離装置7においては、培養装置6で培養した培養物、すなわち培養後の汚泥と培地の混合物が導入され、その培養物が固液分離される。即ち、培養装置6において汚泥は藻類によって資化・分解されるが、消化されずに残留する未消化汚泥も存在する。また、上記藻類は汚泥表面に付着して汚泥を資化・分解し、生育・増殖すると同時に菌体に油脂を生成蓄積するので、その未消化汚泥を回収すれば、同時に油脂を蓄積した藻類も回収できる。分離手段としてはフィルターブレス式、スクリュープレス式などの汚泥脱水装置や、膜ろ過などが挙げられるが、例えば沈殿池を利用すれば、自然沈降により、ほとんどエネルギーを消費することなく、未消化汚泥とそこに付着した藻類を回収できる。なお、分離装置7で未消化汚泥を採取した後に残る液部12には、難分解性物質などが含まれないことから、システムの上流にある水処理施設(図1では曝気槽1)へと返送することが可能である。
【0030】
抽出装置9においては、分離装置7で固液分離して採取した汚泥、すなわち未消化汚泥とそこに付着した藻類が導入され、その汚泥から油脂が抽出される。この際、抽出残渣として未消化汚泥11が残留するが、これは培養装置6へ返送し、改めて藻類の栄養源とすることができる。抽出手段としては、例えばヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル等の無極性の有機溶媒を用いた抽出が挙げられる。この際、菌体と排水の分離あるいは菌体の破砕を行わなくても油脂の抽出が可能であるが、これらの操作により油脂の抽出量を増加することができる。菌体と排水の分離手段としては、重力濃縮や膜分離等の手段が挙げられる。また、菌体破砕の手段としては、物理処理(加圧減圧、加熱、凍結、圧搾など)、化学処理(酸処理、アルカリ処理など)、生物処理(酵素など)などが挙げられる。
【0031】
精製装置10においては、抽出装置9で抽出した油脂が導入され、例えば低温蒸留によって高純度化される。あるいはエステル交換反応によるバイオディーゼル燃料化、水素化分解による軽油化といった処理を行なってもよい。
【0032】
(第2の実施形態)
図2には、本発明の第2の実施形態に係る油脂製造装置の概略構成図を示す。この油脂製造装置では、上記第1の実施形態に係る油脂製造装置の構成に加えて、第2の藻類4aを前培養するための藻類培養タンク5aが設けられている。そして、培養装置6には、藻類培養タンク5から第1の藻類が導入されるとともに、この藻類培養タンク5aから第2の藻類4aが導入され、汚泥を栄養源としてそれらが混合培養されるようになっている。そして以降の工程は上記第1の実施形態に係る油脂製造装置と同様にして油脂を製造することができるようになっている。
【0033】
藻類培養タンク5aにおいては、藻類培養タンク5と同様に、第2の藻類の前培養に必要な有機化合物、栄養塩などが供給され、藻類の活性や菌体量が最適化される。例えば、オーランチオキトリウム NBRC102614やスロストキトリウム ATCC34304を用いる場合の典型的な前培養の条件を挙げれば、上述したように20〜40℃、人工海水50%含有−LB培地、ペラ攪拌300〜700rpmの条件である。
【0034】
また、培養装置6において、NBRC102614とスロストキトリウム ATCC34304とを混合培養する場合の典型的な培養の条件を挙げれば、上述したように20〜40℃、活性汚泥浮遊物質濃度0.1〜5.0w/v%、塩濃度0.3〜7.0w/v%、溶存酸素濃度(DO)1.0〜5.0mg/Lの条件である。そして、例えば、藻類培養タンク5において第1の藻類としてオーランチオキトリウムNBRC102614を前培養し、藻類培養タンク5aにおいて第2の藻類としてスロストキトリウム ATCC34304を前培養し、これらを培養装置6に導入して、混合培養することができる。なお、培養装置6には、適宜系外から更に他の藻類が導入されてもよく、その3種以上の藻類の混合培養としてもよい。
【0035】
(第3の実施形態)
図3には、本発明の第3の実施形態に係る油脂製造装置の概略構成図を示す。この油脂製造装置では、上記第1の実施形態に係る油脂製造装置の構成に加えて、あらかじめ汚泥3を微生物で処理するための微生物処理装置13と、その微生物を前培養して供給するための分解菌培養タンク14とが設けられている。なお、これらの構成のうち微生物処理装置13が、本発明に係る油脂製造装置の構成である「前処理槽」に相当している。そして、培養装置6には、微生物処理装置13において処理された汚泥が導入されるとともに、藻類培養タンク5で前培養された藻類が導入される。そして以降の工程は上記第1の実施形態に係る油脂製造装置と同様にして油脂を製造することができるようになっている。
【0036】
汚泥3を処理するための微生物としては、汚泥を構成する糖質、タンパク質、脂肪質などを資化・分解する能力を有するものであればよく、特に制限はないが、例えばアスペルギルス属やバチルス属などに属する微生物が挙げられる。これにより汚泥が易分解化し、栄養源としての利用効率が向上して、油脂の生成効率を高めることができる。この汚泥の前処理は、加熱、粉砕、オゾンといった従来の油脂製造方法で採用されている方法とは異なり、設備を大型化・複雑化させる必要がなく、投入するエネルギーも少なくて済む。また、利用する微生物の特性を把握しておけば、未知の有機成分を生じるおそれもなく、処理後の水質の制御が容易である。
【0037】
なお、図3に示す油脂製造装置によれば、汚泥3を処理するための微生物を汚泥3に添加する方法は、分解菌培養タンク14で培養した微生物を培養物ごと添加する方法であるが、菌体を分離してから添加してもよい。また、別途、粉末やタブレット状に調製された、微生物製剤などを準備しそれを添加する方法などでもよい。
【0038】
分解菌培養タンク14においては、汚泥3を処理するための微生物の前培養に必要な有機化合物、栄養塩などが供給され、藻類の活性や菌体量が最適化される。例えば、その微生物としてアスペルギルス ニジェール NBRC33023を用いる場合の典型的な前培養の条件を挙げれば30〜40℃、人工海水50%含有−LB培地、ペラ攪拌100〜500rpmの条件である。また、その微生物としてバチルス サブティリス NBRC101239を用いる場合の典型的な前培養の条件を挙げれば15〜40℃、ニュートリエント培地、ペラ攪拌100〜500rpmの条件である。
【実施例】
【0039】
以下に具体的に例を示して本発明について更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
(試験例1)
オーランチオキトリウム、スロストキトリウム、シゾキトリウム、パリエチキトリウムのそれぞれに属する微生物の資化・分解特性を調べるためハロー試験を行った。具体的には、50%濃度の人工海水1Lに基質となるスキムミルク、澱粉、又はセルロースを10gと、寒天15gを添加して121℃で15分間の滅菌操作を行い、シャーレに15mlずつ添加してハロー試験用寒天培地を作成した。次に白金耳を用いて菌体1μlを菌増殖用栄養寒天培地から掻きとり、ハロー試験用寒天培地上に播種した。30℃で24時間以上静置培養後、スキムミルク添加寒天培地とセルロース添加寒天培地ではコロニーの最長となる部分の直径および菌が分解して透明になった領域(ハロー)の最長となる部分の直径を測定し判定した。また、澱粉添加培地ではコロニーの最長となる部分の直径を測定した後にヨウ素液(水1Lに対しヨウ化カリウム4g、ヨウ素1.2g添加)をシャーレ全体に滴下し、ハローの最長となる部分の直径を測定し判定した。判定方法はハロー径/コロニー径>1の場合を◎、ハロー径/コロニー径=1の場合を○、1>ハロー径/コロニー径>0の場合を△、ハローが目視で確認できない場合を×とした。
【0041】
また、オーランチオキトリウム、スロストキトリウム、シゾキトリウム、パリエチキトリウムのそれぞれに属する微生物の増殖特性を調べるため倍化時間の測定を行った。具体的には、人工海水50%含有−LB培地100mlに白金耳を用いて菌体1μlずつ各微生物を植菌し、30℃、ペラ攪拌150rpm、DO1.0mg/L以上の条件で培養を行った。定期的に分光光度計(U2900形ダブルビーム分光光度計:日立)を用いて600nmの波長で散乱光強度を測定することで微生物の濃度を測定し、倍化時間を算出した。判定方法は、倍化時間が3時間以内を◎、3時間以上8時間以内を○、8時間以上24時間以内を△、24時間以上を×とした。
【0042】
なお、上記試験には、オーランチオキトリウムに属する微生物としてオーランチオキトリウム NBRC102614、スロストキトリウムに属する微生物としてスロストキトリウム ATCC34304、シゾキトリウムに属する微生物としてシゾキトリウム ATCC20889、パリエチキトリウムに属する微生物として Parietichytrium sarkarianum NBRC104108をそれぞれ用いた。
【0043】
【表1】
【0044】
その結果、表1に示されるように、オーランチオキトリウムは、他の微生物に比べて、増殖速度が速いが、タンパク質、澱粉、又はセルロースの分解能力に劣っていた。一方、スロストキトリウム、シゾキトリウム、パリエチキトリウムは、オーランチオキトリウムに比べて、タンパク質、澱粉、又はセルロースの分解性能は高いが、増殖速度が遅い結果となった。
【0045】
(試験例2)
オーランチオキトリウム NBRC102614の前培養は、人工海水をその終濃度が50v/v%になるように添加して調製した人工海水50%含有−LB培地を滅菌した後、その1000mLに対しビタミン剤(和光純薬社製、ビタミンB1、B2、B12含有)を1g添加した液体培地を用いて、30℃で振とう攪拌することにより行った。この前培養で菌体重量は10g/L程度となった。
【0046】
次に500mL容の三角フラスコに、活性汚泥浮遊物質濃度が2w/v%、人工海水の終濃度が50v/v%となるように余剰汚泥、人工海水、及び水を混合し、これに前培養したオーランチオキトリウム NBRC102614をOD600=0.2となるように接種し、30℃で振とう攪拌を行い、24時間培養した。
【0047】
24時間の本培養後の菌体を、汚泥を含む培養液ごと脂肪染色試薬であるナイルレッドで染色したところ、図4に矢印で示すように、菌体内に脂肪を蓄積していることが確認できた。
【0048】
(試験例3)
スロストキトリウム ATCC34304の前培養は、人工海水をその終濃度が50v/v%になるように添加して調製した人工海水50%含有−LB培地を滅菌した後、その1000mLに対しビタミン剤(和光純薬社製、ビタミンB1、B2、B12含有)を1g添加した液体培地を用いて、30℃で振とう攪拌することにより行った。この前培養で菌体重量は10g/L程度となった。
【0049】
これを用いて、オーランチオキトリウム NBRC102614とともに、スロストキトリウム ATCC34304を1:1の割合で汚泥に接種した以外は、試験例2と同様にして、それらの混合培養を行なった。
【0050】
24時間の本培養後の菌体を、汚泥を含む培養液ごと100ml程度ずつ採取し、遠心分離(4000rpm、5分)により培養固形物を回収した。これに有機溶剤(ヘキサン)を10ml添加し、ボルテックスミキサーにより混合した後に同様の条件で遠心分離を行い、ヘキサン層をピペッティングにより回収した。70℃で4時間ヘキサンを蒸発させ、残留する油の重量を測定し、事前に測定した培養固形物当りの菌体量の値にあてはめて、菌体量当りの油抽出量を算出した。
【0051】
その結果、オーランチオキトリウム NBRC102614の単独よりもスロストキトリウム ATCC34304との併用による混合培養のほうが、油脂の生成量が高いことが確認できた。
【0052】
試験例1の結果からも分かるように、オーランチオキトリウム属に属する微生物は増殖速度が速いが汚泥分解能力が劣る。一方、スロストキトリウム属に属する微生物は、澱粉、タンパク質の分解性能が高いが増殖速度が遅い。上記結果のように、微生物を併用するほうが、単独で用いるより油脂の生成効率が優れているのは、そのように資化・分解特性の異なる従属栄養藻類が併用されたことにより、汚泥が栄養源としてより効率よく利用されたためであると考えられた。
【符号の説明】
【0053】
1 曝気槽
2 沈殿池
3 汚泥
4,4a 藻類
5,5a 藻類培養タンク
6 培養装置
7 分離装置
8 藻類(油含有)+未消化汚泥
9 抽出装置
10 精製装置
11 未消化汚泥
12 液部
13 微生物処理装置
14 分解菌培養タンク
図1
図2
図3
図4