特許第6011132号(P6011132)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011132
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】駆動力配分装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/348 20060101AFI20161006BHJP
   F16H 13/04 20060101ALI20161006BHJP
   F16H 21/20 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   B60K17/348 B
   F16H13/04 H
   F16H21/20 A
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-175877(P2012-175877)
(22)【出願日】2012年8月8日
(65)【公開番号】特開2014-34262(P2014-34262A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2015年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119644
【弁理士】
【氏名又は名称】綾田 正道
(72)【発明者】
【氏名】高石 哲
(72)【発明者】
【氏名】森 淳弘
(72)【発明者】
【氏名】三石 俊一
(72)【発明者】
【氏名】坂上 永悟
(72)【発明者】
【氏名】小川 勝義
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−195198(JP,A)
【文献】 特開2004−251308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/348
F16H 13/04
F16H 21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主駆動輪伝動系と共に回転する第1ローラと、従駆動輪伝動系と共に回転する第2ローラとを、両者の外周面において相互に径方向へ押圧接触させることにより従駆動輪への駆動力配分が可能であり、
前記第2ローラの軸線方向両側における軸部をそれぞれ、ハウジングの固定軸線周りに回転可能に外周ベアリングで支承されたクランクシャフトの偏心中空孔内に内周ベアリングを介して回転自在に支承し、該クランクシャフトの前記固定軸線周りの回転により第2ローラを該固定軸線周りに旋回させて、第1ローラに対する第2ローラの径方向押し付け力を加減することで前記主駆動輪および従駆動輪間の駆動力配分を制御することができ、
前記第2ローラの軸線方向両側における軸部のうち一方の第2ローラ軸部の先端を前記ハウジングから露出させて該一方の第2ローラ軸部の露出先端を前記従駆動輪伝動系に結合すると共に、該一方の第2ローラ軸部に係る前記クランクシャフトの内外周と、この一方の第2ローラ軸部およびハウジングとの間をそれぞれ、前記一方の第2ローラ軸部の露出先端近傍における内周シールおよび外周シールにより液密封止した駆動力配分装置において、
前記一方の第2ローラ軸部に係る内周ベアリングおよび内周シールにより前記一方の第2ローラ軸部と該一方の第2ローラ軸部に係る前記クランクシャフトとの間に画成された内周側環状空所と、前記一方の第2ローラ軸部に係る外周ベアリングおよび外周シールにより前記一方の第2ローラ軸部に係るクランクシャフトと前記ハウジングとの間に画成された外周側環状空所とを連通させる径方向油孔を前記一方の第2ローラ軸部に係るクランクシャフトに設けたことを特徴とする駆動力配分装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四輪駆動車のトランスファーとして有用な駆動力配分装置、特にトラクション伝動式の駆動力配分装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トラクション力伝動式の駆動力配分装置としては従来、例えば特許文献1に記載のようなものが知られている。
この文献に記載の駆動力配分装置は、主駆動輪の伝動系に機械的に結合された第1ローラと、従駆動輪の駆動系に機械的に結合された第2ローラとを具え、これら第1ローラおよび第2ローラを両者の外周面において相互に径方向に押圧接触させることにより、主駆動輪へのトルクの一部を従駆動輪へ分配して出力させ得るようになしたものである。
【0003】
かかる駆動力配分装置にあっては、第1ローラおよび第2ローラ間における径方向押し付け力を加減することにより、これらローラ間のトルク伝達容量、従って主駆動輪および従駆動輪間の駆動力配分を制御することができる。
【0004】
この駆動力配分制御を行うための機構として特許文献1には、第2ローラの軸部をモータ等でハウジングの固定軸線周りに旋回させることにより第2ローラを第1ローラに対し径方向へ相対変位させ、これにより第1ローラおよび第2ローラ間の径方向押し付け力、つまり主駆動輪および従駆動輪間の駆動力配分を制御し得るようにした構成が提案されている。
【0005】
つまり、中空を成すクランクシャフトの外周をハウジングの上記固定軸線周りに回転可能に設け、該中空クランクシャフトの偏心中空孔内に第2ローラの軸部を回転自在に支承し、該クランクシャフトの上記固定軸線周りの回転により第2ローラを当該固定軸線周りに旋回させて、第1ローラに対する第2ローラの径方向押し付け力を加減することで主駆動輪および従駆動輪間の駆動力配分制御が可能な構成を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−173261号公報(図5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで上記型式の駆動力配分装置にあっては、第2ローラを従駆動輪の駆動系に機械的に結合するに際し、第2ローラの軸部を一端において駆動力配分装置のハウジングから露出させ、当該ハウジングから露出した第2ローラ軸部の露出端箇所に従駆動輪伝動系を結合することになる。
【0008】
そして、第2ローラの上記旋回にもかかわらず第2ローラ軸部の上記露出端箇所とハウジングとの間のシールを確実に行うために特許文献1は、ハウジングから露出した第2ローラ軸部の露出端箇所において、中空クランクシャフトの内外周と、第2ローラ軸部およびハウジングとの間にそれぞれシールを介在させた液密封止構造をも提案している。
【0009】
しかし、かかる液密封止構造では中空クランクシャフトの内周と、第2ローラ軸部との間における環状空所が、これら両者間における上記のシールの存在によって行き止まり空間となり、ここに達したローラ掻き上げ油がハウジング内のオイル溜まりに戻り得ず、当該環状空所内に入った作動油がここに留まる傾向となる。
【0010】
かように中空クランクシャフトおよび第2ローラ軸部間の環状空所における作動油の流動性が悪いと、当該作動油による潤滑・冷却能力が不足し、特に中空クランクシャフトおよび第2ローラ軸部間の回転支承を司る軸受のフリクションが大きくなって、伝動効率の悪化や耐久性の低下を招くという問題が生ずる。
【0011】
本発明は、中空クランクシャフトおよび第2ローラ軸部間の環状空所における作動油の流動性が良くなるよう駆動力配分装置を改良して、上記潤滑・冷却能力不足による伝動効率の悪化や耐久性の低下に関する問題を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的のため本発明による駆動力配分装置は、これを以下のように構成する。
先ず前提となる駆動力配分装置を説明するに、これは、
主駆動輪伝動系と共に回転する第1ローラと、従駆動輪伝動系と共に回転する第2ローラとを、両者の外周面において相互に径方向へ押圧接触させることにより従駆動輪への駆動力配分が可能であり、
上記第2ローラの軸線方向両側における軸部をそれぞれ、ハウジングの固定軸線周りに回転可能に外周ベアリングで支承されたクランクシャフトの偏心中空孔内に内周ベアリングを介して回転自在に支承し、該クランクシャフトの前記固定軸線周りの回転により第2ローラを該固定軸線周りに旋回させて、第1ローラに対する第2ローラの径方向押し付け力を加減することで前記主駆動輪および従駆動輪間の駆動力配分を制御することができ、
前記第2ローラの軸線方向両側における軸部のうち一方の第2ローラ軸部の先端を前記ハウジングから露出させて該一方の第2ローラ軸部の露出先端を前記従駆動輪伝動系に結合すると共に、該一方の第2ローラ軸部に係る前記クランクシャフトの内外周と、この一方の第2ローラ軸部およびハウジングとの間をそれぞれ、上記一方の第2ローラ軸部の露出先端近傍における内周シールおよび外周シールにより液密封止したものである。
【0013】
本発明の駆動力配分装置は、上記の前提構成に対し、
上記一方の第2ローラ軸部に係る内周ベアリングおよび内周シールにより上記一方の第2ローラ軸部と該一方の第2ローラ軸部に係る前記クランクシャフトとの間に画成された内周側環状空所と、上記一方の第2ローラ軸部に係る外周ベアリングおよび外周シールにより上記一方の第2ローラ軸部に係るクランクシャフトと上記ハウジングとの間に画成された外周側環状空所とを連通させる径方向油孔を上記一方の第2ローラ軸部に係るクランクシャフトに設けた構成に特徴づけられる。
【発明の効果】
【0014】
かかる本発明の駆動力配分装置によれば、以下の作用効果が奏し得られる。
つまり、ローラ掻き上げ油が内周側環状空所に達した後、ここに留まることなく、一方の第2ローラ軸部に係るクランクシャフトに設けた径方向油孔を経て外周側環状空所に至りこの外周側環状空所からハウジング内のオイル溜まりに戻ることができ、内周側環状空所における作動油の流動性が良い。
このため、当該内周側環状空所内の作動油による潤滑・冷却能力を高く保ち得て、一方の第2ローラ軸部に係る内周ベアリングも確実に潤滑・冷却することができ、伝動効率の悪化や耐久性の低下に関する従来の前記した問題を確実に解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施例になる駆動力配分装置を具えた四輪駆動車両のパワートレーンを、車両上方から見て示す概略平面図である。
図2図1における駆動力配分装置の縦断側面図である。
図3図2に示す駆動力配分装置で用いたクランクシャフトを示す縦断正面図である。
図4図2に示す駆動力配分装置の動作説明図で、 (a)は、クランクシャフト回転角が基準点の0°である位置における第1ローラおよび第2ローラの離間状態を示す動作説明図、 (b)は、クランクシャフト回転角が90°である時における第1ローラおよび第2ローラの接触状態を示す動作説明図、 (c)は、クランクシャフト回転角が180°である時における第1ローラおよび第2ローラの接触状態を示す動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図示の実施例に基づき詳細に説明する。
<実施例の構成>
図1は、本発明の一実施例になる駆動力配分装置1をトランスファーとして具えた四輪駆動車両のパワートレーンを、車両上方から見て示す概略平面図である。
【0017】
図1の四輪駆動車両は、エンジン2からの回転を変速機3による変速後、リヤプロペラシャフト4およびリヤファイナルドライブユニット5を順次経て左右後輪6L,6Rに伝達するようにした後輪駆動車をベース車両とし、
左右後輪(主駆動輪)6L,6Rへのトルクの一部を、駆動力配分装置1により、フロントプロペラシャフト7およびフロントファイナルドライブユニット8を順次経て左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへ伝達することにより、四輪駆動走行が可能となるようにした車両である。
【0018】
駆動力配分装置1は、上記のごとく左右後輪(主駆動輪)6L,6Rへのトルクの一部を左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへ分配して出力することにより、左右後輪(主駆動輪)6L,6Rおよび左右前輪(従駆動輪)9L,9R間の駆動力配分比を決定するもので、本実施例においては、この駆動力配分装置1を図2に示すように構成する。
【0019】
図2において11は、駆動力配分装置1のハウジングを示し、このハウジング11内に入力軸12および出力軸13を、それぞれの回転軸線O1およびO2が交差するよう相互に傾斜させて横架する。
入力軸12は、その両端におけるボールベアリング14,15によりハウジング11に対し回転自在に支承する。
入力軸12の両端をそれぞれ、シールリング25,26による液密封止下でハウジング11から突出させる。
図2において入力軸12の左端を変速機3(図1参照)の出力軸に駆動結合し、右端はリヤプロペラシャフト4(図1参照)を介してリヤファイナルドライブユニット5に駆動結合する。
【0020】
入力軸12および出力軸13の両端近くにそれぞれ配して、これら入出力軸12,13間に一対のベアリングサポート16,17を架設し、これらベアリングサポート16,17をそれぞれの中程で、ボルト(図示せず)によりハウジング11の軸線方向対向内壁に取着する。
ベアリングサポート16,17と入力軸12との間にはローラベアリング21,22を介在させ、これにより入力軸12をベアリングサポート16,17に対し回転自在となすことで、ベアリングサポート16,17を介しても入力軸12をハウジング11内に回転自在に支持する。
【0021】
ベアリングサポート16,17間(ローラベアリング21,22間)における入力軸12の軸線方向中程位置に第1ローラ31を同軸に一体成形し、この第1ローラ31に径方向へ押圧接触し得るよう配して出力軸13の軸線方向中程位置に第2ローラ32を同軸に一体成形する。
これら第1ローラ31および第2ローラ32の外周面31a,32aは、入力軸12および出力軸13の前記した傾斜によっても、相互に線接触し得るような円錐テーパ面とする。
【0022】
出力軸13は、両端(第2ローラ軸部)13L,13Rの近くにおける前記のベアリングサポート16,17に対し旋回可能に支承することで、これらベアリングサポート16,17を介してハウジング11内に旋回可能に支持する。
かように出力軸13(13L,13R)をベアリングサポート16,17に対し旋回可能に支承するに当たっては、以下のような偏心支承構造を用いる。
【0023】
出力軸13(13L,13R)と、これが貫通するベアリングサポート16,17との間にそれぞれ、中空アウターシャフト型式のクランクシャフト51L,51Rを遊嵌する。
クランクシャフト51Lおよび出力軸13(一方の第2ローラ軸部13L)をそれぞれ図2の左側における先端においてハウジング11から突出させ、該突出部においてハウジング11およびクランクシャフト51L間にシールリング(外周シール)27を介在させると共に、クランクシャフト51L および出力軸13(13L)間にシールリング(内周シール)28を介在させることにより、ハウジング11から突出するクランクシャフト51Lおよび出力軸13(13L)の突出部をそれぞれ液密封止する。
【0024】
図2においてハウジング11から吐出する出力軸13の左端13Lは、フロントプロペラシャフト7(図1参照)およびフロントファイナルドライブユニット8を介して左右前輪9L,9Rに駆動結合する。
【0025】
クランクシャフト51L,51Rの中空孔51La,51Ra(半径Ri)と、出力軸13の対応端部13L,13Rとの間にそれぞれローラベアリング(内周ベアリング)52L,52Rを介在させて、出力軸13(13L,13R)をクランクシャフト51L,51Rの中空孔51La,51Ra内で、これらの中心軸線O2の周りに自由に回転し得るよう支持する。
【0026】
クランクシャフト51L,51Rの中空孔51La,51Ra(中心軸線O2)は図3に明示するごとく、外周部51Lb,51Rb(中心軸線O3、半径Ro)に対し偏心させた偏心中空孔とし、これら偏心中空孔51La,51Raの中心軸線O2は外周部51Lb,51Rbの中心軸線O3から、両者間の偏心分εだけオフセットしている。
クランクシャフト51L,51Rの外周部51Lb,51Rbはそれぞれ、ローラベアリング(外周ベアリング)53L,53Rを介して対応する側におけるベアリングサポート16,17内に回転自在に支持し、
この際、クランクシャフト51L,51Rをそれぞれ、第2ローラ32と共に、スラストベアリング54L,54Rで軸線方向に位置決めする。
【0027】
クランクシャフト51L,51Rの相互に向き合う隣接端にそれぞれ、同仕様のリングギヤ51Lc,51Rcを一体に設け、
これらリングギヤ51Lc,51Rcにそれぞれ、共通なクランクシャフト駆動ピニオン55を噛合させ、これらクランクシャフト駆動ピニオン55をピニオンシャフト56に結合する。
【0028】
なお、上記のごとくリングギヤ51Lc,51Rcにクランクシャフト駆動ピニオン55を噛合させるに当たっては、クランクシャフト51L,51Rを両者の外周部51Lb,51Rbが円周方向において相互に整列して同位相となる回転位置にした状態で、当該リングギヤ51Lc,51Rcに対するクランクシャフト駆動ピニオン55の噛合を行わせる。
【0029】
ピニオンシャフト56は、その両端を軸受56a,56bによりハウジング11に対し回転自在に支持する。
図2の右側におけるピニオンシャフト56の右端をハウジング11に貫通してこれから露出させ、
該ピニオンシャフト56の露出端面には、ハウジング11に取着して設けたローラ間押し付け力制御モータ35の出力軸35aをセレーション嵌合などにより駆動結合する。
【0030】
よって、ローラ間径方向押し付け力制御モータ35によりピニオン55およびリングギヤ51Lc,51Rcを介しクランクシャフト51L,51Rを回転位置制御するとき、
出力軸13および第2ローラ32の回転軸線O2が、図3に破線で示す軌跡円αに沿って中心軸線Oの周りに旋回する。
【0031】
図3の軌跡円αに沿った回転軸線O2(第2ローラ32)の旋回により第2ローラ32は、後で詳述するが図4(a)〜(c)に示すごとく第1ローラ31に対し径方向へ接近し、これら第1ローラ31および第2ローラ32のローラ軸間距離L1をクランクシャフト51L,51Rの回転角θの増大につれ、第1ローラ31の半径と第2ローラ32の半径との和値よりも小さくすることができる。
かかるローラ軸間距離L1の低下により、第1ローラ31に対する第2ローラ32の径方向押圧力(ローラ間伝達トルク容量:トラクション伝動容量)が大きくなり、ローラ軸間距離L1の低下度合いに応じてローラ間径方向押圧力(ローラ間伝達トルク容量:トラクション伝動容量)、つまり駆動力配分比を任意に制御することができる。
【0032】
なお図4(a)に示すように本実施例では、第2ローラ回転軸線O2がクランクシャフト回転軸線O3の直下に位置し、第1ローラ31および第2ローラ32の軸間距離L1が最大となる下死点でのローラ軸間距離L1を、第1ローラ31の半径と第2ローラ32の半径との和値よりも大きくする。
これにより当該クランクシャフト回転角θ=0°の下死点においては、第1ローラ31および第2ローラ32が相互に径方向へ押し付けられることがなく、ローラ31,32間でトラクション伝動が行われないトラクション伝動容量=0の状態を得ることができ、
トラクション伝動容量を下死点での0と、図4(c)に示す上死点(θ=180°)で得られる最大値との間で任意に制御することができる。
【0033】
なお本実施例では、クランクシャフト51L,51Rの回転角基準点をクランクシャフト回転角θ=0°の下死点であることとして説明を展開する。
【0034】
<駆動力配分作用>
図1〜4につき上述したトランスファー1の駆動力配分作用を以下に説明する。
変速機3(図1参照)からトランスファー1の入力軸12に達したトルクは、一方でこの入力軸12からそのままリヤプロペラシャフト4およびリヤファイナルドライブユニット5(ともに図1参照)を経て左右後輪6L,6R(主駆動輪)へ伝達される。
【0035】
他方でトランスファー1は、モータ35によりピニオン55およびリングギヤ51Lc,51Rcを介しクランクシャフト51L,51Rを回転位置制御して、ローラ軸間距離L1(図4参照)を第1ローラ31および第2ローラ32の半径の和値よりも小さくするとき、これらローラ31,32が径方向相互押圧力に応じたローラ間伝達トルク容量を持つことから、このトルク容量に応じて、左右後輪6L,6R(主駆動輪)へのトルクの一部を、第1ローラ31から第2ローラ32を経て出力軸13に向かわせ、左右前輪9L,9R(従駆動輪)をも駆動することができる。
かくして車両は、左右後輪6L,6R(主駆動輪)および左右前輪(従駆動輪)9L,9Rの全てを駆動しての四輪駆動走行が可能である。
【0036】
なお、この伝動中における第1ローラ31および第2ローラ32間の径方向押圧反力は、これらに共通な回転支持板であるベアリングサポート16,17で受け止められ、ハウジング11に達することがない。
そして径方向押圧反力は、クランクシャフト回転角θが0°〜90°である間は0となり、クランクシャフト回転角θが90°〜180°である間、θの増大に応じて増加し、クランクシャフト回転角θが180°になるとき最大値となる。
【0037】
かような四輪駆動走行中、クランクシャフト51L,51Rの回転角θが図4(b)に示すごとく基準位置の90°であって、第1ローラ31および第2ローラ32が相互に、この時のオフセット量OSに対応した径方向押圧力で押し付けられて径方向押圧接触している場合、
これらローラ間のオフセット量OSに対応したトラクション伝動容量で左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへの動力伝達が行われる。
【0038】
そして、クランクシャフト51L,51Rを図4(b)の基準位置から、図4(c)に示すクランクシャフト回転角θ=180°の上死点に向け回転操作してクランクシャフト回転角θを増大させるにつれ、ローラ軸間距離L1が更に減少して第1ローラ31および第2ローラ32の相互オーバーラップ量OLが増大する結果、第1ローラ31および第2ローラ32は径方向相互押圧力を増大され、これらローラ間のトラクション伝動容量を増大させることができる。
【0039】
クランクシャフト51L,51Rが図4(c)の上死点位置に達すると、第1ローラ31および第2ローラ32は相互に、最大のオーバーラップ量OLに対応した径方向最大押圧力で径方向へ押し付けられて、これらの間のトラクション伝動容量を最大にすることができる。
なお最大のオーバーラップ量OLは、第2ローラ回転軸線O2およびクランクシャフト回転軸線O3間の偏心量εと、図4(b)につき上記したオフセット量OSとの和値である。
【0040】
以上の説明から明らかなように、クランクシャフト51L,51Rをクランクシャフト回転角θ=0°の回転位置から、クランクシャフト回転角θ=180°の回転位置まで回転操作することにより、クランクシャフト回転角θの増大につれ、ローラ間トラクション伝動容量を0から最大値まで連続変化させることができる。
また逆に、クランクシャフト51L,51Rをクランクシャフト回転角θ=180°の回転位置から、θ=0°の回転位置まで回転操作することにより、クランクシャフト回転角θの低下につれ、ローラ間トラクション伝動容量を最大値から0まで連続変化させることができ、ローラ間トラクション伝動容量をクランクシャフト51L,51Rの回転操作により自在に制御し得る。
【0041】
<トランスファーの潤滑構造>
図2につき上記した本実施例になるトランスファー(駆動力配分装置)1の潤滑に際しては、第1ローラ31および第2ローラ32が回転中に、ハウジング11内の下部に貯留されている作動油を掻き上げ、この掻き上げ油が落下しながら各部の潤滑箇所に達することで遂行される。
【0042】
本発明に係わる潤滑箇所、つまり第2ローラ32の軸部を成す出力軸13(13L,13R)のうち、従駆動輪である左右前輪9L,9Rを結合すべき図2の左端部13Lと、クランクシャフト51L(中空孔51La)との間における環状空所(内周側環状空所)に向かう掻き上げ油の落下経路は以下の通りである。
【0043】
第1ローラ31および第2ローラ32の回転によって掻き上げられた作動油は、矢A1で示すごとく第2ローラ32およびリングギヤ51Lc間の隙間から、これら第2ローラ32およびリングギヤ51Lc間に介在させたスラストベアリング54Lを経て、出力軸13の左端部13Lおよびクランクシャフト51L(中空孔51La)間の環状空所に進入する。
【0044】
しかして出力軸13の左端部13Lおよびクランクシャフト51L(中空孔51La)間には、前輪駆動系の結合箇所においてシールリング28が介在しているため、出力軸13の左端部13Lおよびクランクシャフト51L(中空孔51La)間の環状空所に進入した作動油の抜け出す通路が存在せず、この環状空所に留まる傾向となる。
【0045】
なお、前輪駆動系の結合箇所において出力軸13の左端部13Lおよびクランクシャフト51L(中空孔51La)間にシールリング28を介在させる理由は、以下のためである。
第2ローラ32(出力軸13)は自己の軸線Oの周りに回転するほか、前記した通りクランクシャフト51Lの回転軸線Oの周りに旋回することから、この旋回にもかかわらず、ハウジング11から突出している出力軸13の左端部13Lをハウジング11に対し液密封止する必要がある。
【0046】
そこで本実施例においては前記した通り、クランクシャフト51Lおよび出力軸13の左端部13Lをそれぞれ図2の左端においてハウジング11から突出させ、該突出部においてハウジング11およびクランクシャフト51L間にシールリング27を介在させると共に、クランクシャフト51L および出力軸13(13L)間にシールリング28を介在させることにより、ハウジング11から突出するクランクシャフト51Lおよび出力軸左端部13Lの突出端をそれぞれ液密封止する。
【0047】
かかる液密封止構造によれば、クランクシャフト51Lの回転中、そして出力軸左端部13Lの回転中および旋回中、クランクシャフト51Lがハウジング11に対し径方向相対変位することはないのはもとより、出力軸左端部13Lがクランクシャフト51Lに対し径方向相対変位することもなく、
第2ローラ32(出力軸13)がクランクシャフト51Lの回転軸線Oの周りに旋回するにもかかわらず、ハウジング11から突出している出力軸13の左端部13Lをハウジング11に対し液密封止することができる。
【0048】
しかし上記のシールリング28は、出力軸13の左端部13Lおよびクランクシャフト51L(中空孔51La)間の環状空所に進入した作動油が抜け出すのを妨げて、この環状空所に流入作動油を留まらせてしまう。
かようにクランクシャフト51Lおよび第2ローラ軸部13L間の環状空所における作動油の流動性が悪いと、この作動油による潤滑・冷却能力が不足し、特にクランクシャフト51Lおよび第2ローラ軸部13L間の回転支承を司るローラベアリング52Lのフリクションが大きくなって、伝動効率の悪化や耐久性の低下を招くという問題が生ずる。
【0049】
本実施例においてはこの問題を解消するため図2に示すごとく、シールリング28およびローラベアリング52L間の軸線方向位置において中空クランクシャフト51Lに、その内外周間を連通させる径方向油孔51Ldを設けたものである。
この径方向油孔51Ldは円周方向等間隔に配した多数の油孔として、合計開口面積を要求潤滑油量に対応したものとなす。
【0050】
これにより、矢A1,A2のごとくローラベアリング52Lを通流した後クランクシャフト51Lおよび第2ローラ軸部13L間の環状空所(内周側環状空所)に進入した作動油が、矢A3で示すごとく径方向油孔51Ldを経て、クランクシャフト51Lおよびハウジング11間の環状空所(外周側環状空所)に達し、この環状空所(外周側環状空所)からハウジング11の下部オイル溜まりに戻り得るようになす。
【0051】
<実施例の効果>
上記した本実施例になる駆動力配分装置の潤滑構造によれば、クランクシャフト51Lに上記の径方向油孔51Ldを設けたことで、
クランクシャフト51Lおよび第2ローラ軸部13L間の環状空所における作動油の流動性が上記のように良くなるため、
当該環状空所内の作動油による潤滑・冷却能力を高く保ち得て、クランクシャフト51L
および第2ローラ軸部13L間の回転支承を司るローラベアリング52Lも確実に潤滑・冷却することができ、伝動効率の悪化や耐久性の低下に関する従来の前記した問題を確実に解消することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 駆動力配分装置(トランスファー)
2 エンジン
3 変速機
4 リヤプロペラシャフト
5 リヤファイナルドライブユニット
6L,6R 左右後輪(主駆動輪)
7 フロントプロペラシャフト
8 フロントファイナルドライブユニット
9L,9R 左右前輪(従駆動輪)
11 ハウジング
12 入力軸
13 出力軸
13L,13R 第2ローラ軸部
16,17 ベアリングサポート
31 第1ローラ
32 第2ローラ
35 ローラ間径方向押し付け力制御モータ
51L,51R クランクシャフト
51La,51Ra 偏心中空孔
51Lb,51Rb 外周部
51Lc,51Rc リングギヤ
51Ld 径方向油孔
55 クランクシャフト駆動ピニオン
56 ピニオンシャフト
図1
図2
図3
図4