特許第6011151号(P6011151)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横浜ゴム株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011151
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20161006BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20161006BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20161006BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   C08L9/00
   C08K3/04
   C08K5/098
   B60C1/00 C
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-181830(P2012-181830)
(22)【出願日】2012年8月20日
(65)【公開番号】特開2014-37513(P2014-37513A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2015年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100068685
【弁理士】
【氏名又は名称】斎下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】亀田 慶寛
【審査官】 山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−047759(JP,A)
【文献】 特開2006−232895(JP,A)
【文献】 特開昭58−052331(JP,A)
【文献】 特開2010−270247(JP,A)
【文献】 特開2011−252124(JP,A)
【文献】 特開2012−077137(JP,A)
【文献】 特開2012−077136(JP,A)
【文献】 特開2008−214577(JP,A)
【文献】 特開昭62−104850(JP,A)
【文献】 特開平06−136288(JP,A)
【文献】 特開2004−217817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
C08K 3/00−13/08
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部に対し、有機酸コバルト塩をコバルト量として0.1〜0.4重量部、カーボンブラックを10重量部以上含む補強性充填剤を40〜80重量部配合したタイヤ用ゴム組成物であって、前記カーボンブラックの凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径Dstが145nm以上、窒素吸着比表面積N2SAが45〜70m2/g、沃素吸着量IA(単位mg/g)に対する前記窒素吸着比表面積N2SAの比N2SA/IAが1.00〜1.40であり、前記カーボンブラックのN2SAが55m2/g以下のとき、前記ストークス径のモード径Dstが180nm以下であり、前記カーボンブラックのN2SAが55m2/gを超えるとき、前記ストークス径のモード径Dstが下記の式(1)の関係を満たすことを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
Dst<1979×(N2SA)-0.61 (1)
(式中、Dstは凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径(nm)、N2SAは窒素吸着比表面積(m2/g)である。)
【請求項2】
前記カーボンブラックのDBP吸収量が100〜160ml/100gであることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1〜のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物をコード被覆用ゴムに用いたカーカス層、ベルト層、ベルトカバー層から選ばれる少なくとも1つの層を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイダル特性を制御したカーボンブラックを配合し発熱性を低減しながら、加工性とタイヤにしたときの操縦安定性及び耐久性を従来レベル以上に向上するようにしたタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空気入りタイヤに対する要求性能として、地球環境問題への関心の高まりに伴い燃費性能が優れることが求められている。燃費性能を向上するためには転がり抵抗を低減することが知られている。このため空気入りタイヤを構成するゴム組成物の発熱を抑え、タイヤにしたときの転がり抵抗を小さくすることが行われている。ゴム組成物の発熱性の指標としては一般に動的粘弾性測定による60℃のtanδが用いられ、ゴム組成物のtanδ(60℃)が小さいほど発熱性が小さくなる。
【0003】
ゴム組成物のtanδ(60℃)を小さくする方法として、特許文献1は変性ブタジエンを含むゴム成分にシリカ及びシランカップリング剤を配合することを提案している。しかし近年の転がり抵抗を更に低減する要望や、低転がり抵抗と操縦安定性、耐久性とを高次にバランスさせる要望が強く、シリカ配合系だけでなくカーボンブラックからも上述した性能を向上させることが望まれている。
【0004】
カーボンブラックによりゴム組成物のtanδ(60℃)を小さくする方法として、例えばカーボンブラックの配合量を少なくしたり、カーボンブラックの比表面積を大きくしたり、アグリゲート(凝集体)のサイズを小さくしたりすることが挙げられる。しかし、このような方法では、ゴム組成物の機械的特性が低下し、タイヤにしたときの操縦安定性及び耐久性が低下するという問題がある。
【0005】
特許文献2は、主に比表面積(BET比表面積、CTAB比表面積、沃素吸着指数IA)、DBP構造値、ストークス直径Dst等を調整したカーボンブラックを配合することにより、ゴム組成物を低発熱化することを提案している。しかし、このゴム組成物では、ゴム組成物の機械的特性を確保する効果が必ずしも十分ではなく更なる改良が求められていた。
【0006】
また、空気入りタイヤには、例えば、ベルト層、ビードワイヤインシュレーション、カーカス層などの各種補強ゴム層として、スチールコードをゴム組成物で被覆した補強ゴム層が使用されている。これらの補強ゴム層に使用するスチールコード被覆用ゴム組成物には、スチールコードをゴム引きする際の成形加工性に優れること、スチールコードに対する接着性が高く、長期間に亘り繰り返し変形を受けても接着力を維持する耐久性を備えることが求められる。また、タイヤ構成部材であるので、上述した低発熱性、操縦安定性、耐久性を確保するためのゴム硬度や強度が求められる。
【0007】
このため特許文献3は、ジエン系ゴムに有機酸コバルト塩を配合したゴム組成物により、スチールコードの接着性を改良することを提案している。しかし、このゴム組成物では、スチールコードの接着性を改良するのに有効であるものの、発熱性を小さくし、加工性、耐久性を改良する効果が必ずしも十分ではなく更なる改良が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−132872号公報
【特許文献2】特表2004−519552号公報
【特許文献3】特開2007−099868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、コロイダル特性を制御したカーボンブラックを配合し発熱性を低減しながら、加工性とタイヤにしたときの操縦安定性及び耐久性を従来レベル以上に向上するようにしたタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100重量部に対し、有機酸コバルト塩をコバルト量として0.1〜0.4重量部、カーボンブラックを10重量部以上含む補強性充填剤を40〜80重量部配合したタイヤ用ゴム組成物であって、前記カーボンブラックの凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径Dstが145nm以上、窒素吸着比表面積N2SAが45〜70m2/g、沃素吸着量IA(単位mg/g)に対する前記窒素吸着比表面積N2SAの比N2SA/IAが1.00〜1.40であり、前記カーボンブラックのN2SAが55m2/g以下のとき、前記ストークス径のモード径Dstが180nm以下であり、前記カーボンブラックのN2SAが55m2/gを超えるとき、前記ストークス径のモード径Dstが下記の式(1)の関係を満たすことを特徴とする。
Dst<1979×(N2SA)-0.61 (1)
(式中、Dstは凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径(nm)、N2SAは窒素吸着比表面積(m2/g)である。)
【発明の効果】
【0011】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100重量部に対し、有機酸コバルト塩をコバルト量として0.1〜0.4重量部、カーボンブラック凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径Dstが145nm以上、窒素吸着比表面積N2SAが45〜70m2/g、沃素吸着量IA(単位mg/g)に対する窒素吸着比表面積N2SAの比N2SA/IAが1.00〜1.40であるカーボンブラックを10重量部以上含む補強性充填剤を40〜80重量部配合するようにしたので、粒子径が大きいカーボンブラックを用いてゴム組成物のtanδ(60℃)を小さくし低発熱にしながら、ゴム組成物の粘度を小さくし、ゴム硬度及び強度を確保したため、加工性を従来レベル以上に向上することができると共に、タイヤにしたとき転がり抵抗を小さくしながら、操縦安定性及び耐久性を従来レベル以上に向上することができる。
【0012】
前記カーボンブラックのDBP吸収量が100〜160ml/100gであることが好ましい。
【0013】
尚、本発明において、前記カーボンブラックのストークス径のモード径Dstの上限は、上記のように、N2SAが55m2/g以下のときDstが180nm以下であり、N2SAが55m2/gを超えるときDstが下記の式(1)の関係を満たす。
Dst<1979×(N2SA)-0.61 (1)
(式中、Dstは凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径(nm)、N2SAは窒素吸着比表面積(m2/g)である。)
【0014】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、コード被覆用ゴムに使用することが好ましい。このタイヤ用ゴム組成物をコード被覆用ゴムに用いた補強層を有する空気入りタイヤは、転がり抵抗を小さくし燃費性能を改良しながら、加工性、操縦安定性及び耐久性を従来レベル以上に向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、ジエン系ゴムは、空気入りタイヤに通常用いられる天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等が挙げられる。なかでも天然ゴム、イソプレンゴムが好ましい。これらジエン系ゴムは、単独又は任意のブレンドとして使用することができる。
【0016】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、有機酸コバルト塩を配合することにより、スチールコードに対する接着性を高くする。また、有機酸コバルト塩を配合することでゴム硬度が高まるため操縦安定性が向上する。有機酸コバルト塩の配合量は、コバルト量として、ジエン系ゴム100重量部に対し0.1〜0.4重量部、好ましくは0.15〜0.25重量部にする。コバルト量としての配合量が0.1重量部未満であると、スチールコードに対する初期接着性、耐久接着性を十分に高くすることができない。またゴム硬度を高める効果が不十分になり操縦安定性を向上することが出来ない。逆にコバルト量としての配合量が0.4重量部を超えるとスチールコードに対する耐久接着性が却って低下する。
【0017】
本発明では、有機酸コバルト塩としては、例えばナフテン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト、ホウ酸ネオデカン酸コバルト、アセチルアセトナートコバルト等を例示することができる。また、これらの有機酸コバルト塩のなかでも、ホウ素を含む有機酸コバルト塩が好ましく、例えば有機酸の一部をホウ酸等で置き換えた複合塩であるとよい。ホウ素を含有する有機酸コバルト塩はコバルト含量が20〜23重量%であるオルトホウ酸コバルトが好ましい。ホウ素を含有する有機酸コバルト塩としては、例えばローディア社製マノボンドC22.5及びマノボンド680C、Jhepherd社製CoMend A及びCoMend B、大日本インキ化学工業社製YYNBC−II等を例示することができる。
【0018】
本発明では、下記の特定のカーボンブラックを必ず含む。即ち、特定の凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径Dst、DBP吸収量、窒素吸着比表面積N2SA及び沃素吸着量IAに対する窒素吸着比表面積の比N2SA/IAを限定した新規のカーボンブラックを配合することにより、粒子径が大きいカーボンブラックを用いてゴム組成物のtanδ(60℃)を小さくしながら、操縦安定性及び耐久性を維持・向上することができる。カーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し10重量部以上、好ましくは40〜80重量部にする。カーボンブラックの配合量が10重量部未満であると、タイヤにしたときの操縦安定性及び耐久性が悪化する。
【0019】
本発明で使用するカーボンブラックは、窒素吸着比表面積N2SAが45〜70m2/g、好ましくは48〜62m2/gである。N2SAが45m2/g未満であると、タイヤにしたときの操縦安定性及び耐久性が低下する。N2SAが70m2/gを超えると、tanδ(60℃)が大きくなる。N2SAは、JIS K6217−2に準拠して、測定するものとする。
【0020】
またカーボンブラックの沃素吸着量IA(単位mg/g)に対する窒素吸着比表面積N2SAの比N2SA/IAは1.00〜1.40、好ましくは1.01〜1.27にする。このコロイダル特性の比N2SA/IAが1.00未満であると、ゴム組成物のtanδ(60℃)を小さくすることができない。また比N2SA/IAが1.40を超えると、表面活性が高すぎて混合性が悪化することになる。沃素吸着量IAは、JIS K6217−1に準拠して、測定するものとする。
【0021】
また、カーボンブラックのDBP吸収量は、好ましくは100〜160ml/100g、より好ましくは110〜150ml/100gである。DBP吸収量が100ml/100g未満であると補強性能が低下してしまい、タイヤにしたときの操縦安定性及び耐久性が低下する。またゴム組成物の混合加工性が低下しカーボンブラックの分散性が悪化するのでカーボンブラックの補強性能がより低下する。DBP吸収量が160ml/100gを超えると、耐久性が却って悪化する。また粘度の上昇により加工性が悪化する。DBP吸収量は、JIS K6217−4吸油量A法に準拠して、測定するものとする。
【0022】
本発明で使用するカーボンブラックは、凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径Dst(以下「ストークス径Dst」ということがある。)が、145nm以上、好ましくは150nm以上である。ストークス径Dstを145nm以上にすることにより、ゴム組成物のtanδ(60℃)を小さくしながら、耐久性を維持・向上することができる。本発明において、凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径Dstとは、カーボンブラックを遠心沈降させ、光学的に得た凝集体のストークス径の質量分布曲線における最大頻度のモード径をいう。本発明において、DstはJIS K6217−6ディスク遠心光沈降法による凝集体分布の求め方に準拠して、測定するものとする。
【0023】
またストークス径Dstの上限は、カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2SAとの関係で決定される。すなわちカーボンブラックのN2SAが45m2/g以上55m2/g以下のとき、ストークス径Dstは、180nm以下である。またカーボンブラックのN2SAが55m2/gを超え70m2/g以下のとき、ストークス径Dstは、下記の式(1)の関係を満たす。
Dst<1979×(N2SA)-0.61 (1)
(式(1)中、Dstは凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径(nm)、N2SAは窒素吸着比表面積(m2/g)である。)
【0024】
カーボンブラックのストークス径Dstの上限を上述した範囲にすることにより、カーボンブラックの生産性とコストとの両立が可能になる。
【0025】
すなわち本発明では、N2SAが45〜70m2/gの範囲において、比N2SA/IAを1.00〜1.40、DBP吸収量を100〜160ml/100g、ストークスDstを145nm以上にした特定のカーボンブラックを使用する。このようなカーボンブラックは、凝集体のストークス径が大きく、ゴム組成物のtanδ(60℃)を小さくすると共に、ゴムに対する補強性能を高くするため、タイヤにしたときの耐久性を従来レベル以上に向上することができる。
【0026】
上述したコロイダル特性を有するカーボンブラックは、例えば、カーボンブラック製造炉における原料油導入条件、燃料油及び原料油の供給量、燃料油燃焼率、反応時間(最終原料油導入位置から反応停止までの燃焼ガスの滞留時間)などの製造条件を調整して製造することができる。
【0027】
本発明のタイヤ用ゴム組成物では、上述したカーボンブラックを含む補強性充填剤をジエン系ゴム100重量部に対し40〜80重量部、好ましくは45〜75重量部配合する。補強性充填剤の配合量が40重量部未満であると、ゴム組成物の補強性が十分に得られない。また補強性充填剤の配合量が80重量部を超えるとタイヤにしたときの転がり抵抗が大きくなる。
【0028】
補強性充填剤としては、上述の特定のカーボンブラックのほか、例えば上述の特定のカーボンブラック以外のカーボンブラック、シリカ、クレー、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、活性亜鉛華等を例示することができる。なかでも上述の特定のカーボンブラック以外のカーボンブラック、シリカ、クレーが好ましい。尚、上述の特定のカーボンブラック以外のカーボンブラックとは、上述の特定のカーボンブラックの特定要件のうち少なくとも一つを満たさないものである。
【0029】
本発明のゴム組成物において、補強性充填剤としてシリカを配合することができる。シリカの配合量は、ゴム成分100重量部に対し0〜40重量部、より好ましくは10〜30重量部にすると良い。シリカの配合量をこのような範囲にすることにより、ゴム組成物の低発熱性とタイヤにしたときの耐久性とを両立する。シリカの配合量が40重量部を超えるとタイヤにしたときの耐久性が低下する。
【0030】
シリカとしてはCTAB比表面積が好ましくは80〜300m2/gにするとよい。シリカのCTABが80m2/g未満であると、ゴム組成物に対する補強性が不十分となりタイヤにしたときの耐久性が不足する。またシリカのCTABが300m2/gを超えると、発熱性が悪化しタイヤにしたときの転がり抵抗が大きくなる。なおシリカのCTAB比表面積は、ISO 9277に準拠して求めるものとする。
【0031】
本発明で使用するシリカは、上述した特性を有するシリカであればよく、製品化されたもののなかから適宜選択してもよいし、通常の方法で上述した特性を有するように製造してもよい。シリカの種類としては、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカあるいは表面処理シリカなどを使用することができる。
【0032】
本発明のゴム組成物において、シリカを使用するときは、シリカと共にシランカップリング剤を配合してもよく、シリカの分散性を向上しゴム成分との補強性をより高くすることができる。シランカップリング剤を配合する場合は、シリカ配合量に対して好ましくは3〜20重量%、より好ましくは5〜15重量%配合するとよい。シランカップリング剤の配合量がシリカ重量の3重量%未満の場合、シリカの分散性を向上する効果が十分に得られない。また、シランカップリング剤の配合量が20重量%を超えると、シランカップリング剤同士が縮合してしまい、所望の効果を得ることができなくなる。
【0033】
シランカップリング剤としては、特に制限されるものではないが、硫黄含有シランカップリング剤が好ましく、例えばビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等を例示することができる。
【0034】
タイヤ用ゴム組成物には、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、各種無機充填剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。本発明のタイヤ用ゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0035】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、空気入りタイヤのキャップトレッド部、アンダートレッド部、サイドウォール部、ビードフィラー部、ランフラットタイヤにおける断面三日月型のサイド補強ゴム層、リムクッション部、インナーライナー部、或いはカーカス層、ベルト層、ベルトカバー層などのコード被覆用ゴムなどに好適に使用することができる。とりわけコード被覆用ゴムに使用することが好ましい。これらの部材に本発明のゴム組成物を使用した空気入りタイヤ、特にコード被覆用ゴムを本発明のゴム組成物で構成した補強層を用いた空気入りタイヤは、走行時の発熱性が小さくなるので、転がり抵抗を小さくし燃費性能を改良することができる。同時に、加工性、操縦安定性及び耐久性が優れ、従来レベル以上に維持・向上することができる。
【0036】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
9種類のカーボンブラック(CB1〜CB9)を使用して20種類のゴム組成物(実施例1〜9、比較例1〜11)を調製した。このうち4種類のカーボンブラック(CB1〜CB4)は市販グレード、5種類のカーボンブラック(CB5〜CB9)は試作品であり、それぞれのコロイダル特性を表1に示した。
【0038】
【表1】
【0039】
表1において、各略号はそれぞれ下記のコロイダル特性を表わす。
・N2SA:JIS K6217−2に基づいて測定された窒素吸着比表面積
・IA:JIS K6217−1に基づいて測定された沃素吸着量
・CTAB:JIS K6217−3に基づいて測定されたCTAB吸着比表面積
・DBP:JIS K6217−4(非圧縮試料)に基づいて測定されたDBP吸収量
・24M4:JIS K6217−4(圧縮試料)に基づいて測定された24M4−DBP吸収量
・Dst:JIS K6217−6に基づいて測定されたディスク遠心光沈降法による凝集体のストークス径の質量分布曲線の最大値であるモード径
・△D50:JIS K6217−6に基づいて測定されたディスク遠心光沈降法による凝集体のストークス径の質量分布曲線において、その質量頻度が最大点の半分の高さのときの分布の幅(半値幅)
・α:上述したDst及びN2SAを下記式(2)の関係に当てはめたときの係数α
Dst=α×(N2SA)-0.61 (2)
(式中、Dstは凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径(nm)、N2SAは窒素吸着比表面積(m2/g)である。)
・N2SA/IA:窒素吸着比表面積N2SAと沃素吸着量IAの比
【0040】
表1において、カーボンブラックCB1〜CB4は、それぞれ以下の市販グレードを表わす。またカーボンブラックCB5〜CB9は以下の製造方法により調製した。
・CB1:東海カーボン社製シースト300
・CB2:東海カーボン社製シーストNH
・CB3:東海カーボン社製シースト116HM
・CB4:東海カーボン社製シーストF
【0041】
カーボンブラックCB5〜CB9の製造
円筒反応炉を使用して、表2に示すように全空気供給量、燃料油導入量、燃料油燃焼率、原料油導入量、反応時間を変えて、カーボンブラックCB5〜CB9を製造した。
【0042】
【表2】
【0043】
タイヤ用ゴム組成物の調製及び評価
上述した9種類のカーボンブラック(CB1〜CB9)を用いて、表3,4に示す配合からなる20種類のゴム組成物(実施例1〜9、比較例1〜11)を調製するに当たり、それぞれ硫黄及び加硫促進剤を除く成分を秤量し、55Lのニーダーで15分間混練した後、そのマスターバッチを放出し室温冷却した。このマスターバッチを55Lのニーダーに供し硫黄及び加硫促進剤を加え混合し、スチールコード被覆用ゴム組成物を得た。なお、表3,4において、ジエン系ゴム100重量部に対する有機酸コバルト塩のコバルト量としての配合量を括弧を付して「Co含有量」の欄に記載した。
【0044】
得られたスチールコード被覆用ゴム組成物の一部を下記に示すムーニー粘度試験に供し加工性を評価した。次いで、ゴム組成物を所定形状の金型中で、160℃、20分間加硫して試験片を作製し、動的粘弾性試験を行い、発熱性(60℃のtanδ)を評価した。
【0045】
また、得られたスチールコード被覆用ゴム組成物でスチールコードを被覆したベルト層を有する空気入りタイヤとして、サイズの異なる2種のタイヤ(サイズ225/50/R17及び195/65R15)を製作し、操縦安定性及び耐久性をそれぞれ下記に示す試験方法で評価した。
【0046】
ムーニー粘度
スチールコード被覆用ゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4)を、JIS K6300に準拠してムーニー粘度計にてL型ロータを使用し、予熱時間1分、ロータの回転時間4分、温度100℃、2rpmの条件で測定した。得られた結果は、それぞれのムーニー粘度の逆数を算出し比較例1を100とする指数として表3,4の「加工性」の欄に示した。この「加工性」の指数が大きいほどムーニー粘度が低く、成形加工性が優れることを意味する。
【0047】
発熱性(60℃におけるtanδ)
得られた試験片をJIS K6394に準拠して、東洋精機製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件で、温度60℃における損失正接tanδを測定した。得られた結果は、それぞれのtanδの逆数をとり比較例1を100とし、表3,4の「発熱性」の欄に示した。「発熱性」の指数が大きいほど発熱性が小さく、タイヤにしたとき転がり抵抗が小さく燃費性能が優れることを意味する。
【0048】
操縦安定性
得られた空気入りタイヤ(サイズ225/50/R17)を標準リム(サイズ17×7.5Jのホイール)に組み付け、国産2.5リットルクラスの試験車両に装着し、空気圧230kPaの条件で乾燥路面からなる1周2.6kmのテストコースを実車走行させ、そのときの操縦安定性を専門パネラー3名による感応評価により採点した。得られた結果は、比較例1の値を100とする指数として表3,4の「操縦安定性」の欄に示した。この指数が大きいほど操縦安定性能が優れていることを意味する。
【0049】
耐久性
得られた空気入りタイヤ(サイズ195/65R15)を標準リム(サイズ15×6Jのホイール)に装着し、空気圧200kPaの空気を充填して、ドラム径1707mmで、JIS D4230に準拠する室内ドラム試験機にかけて、荷重3600Nを負荷し、速度80km/hで2時間走行させた後、速度を120km/hに上げて24時間走行させた。その後、24時間走行する毎に速度を10km/hずつ上げ、タイヤ故障を起こすまでの走行距離を測定した。得られた結果は、比較例1の値を100とする指数として表3,4の「耐久性」に示した。この指数が大きいほど耐久性が優れることを意味する。
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
なお、表3,4において使用した原材料の種類を下記に示す。
NR:天然ゴム、RSS#3
CB1〜CB9:上述した表1に示したカーボンブラック
有機酸Co塩−1:ナフテン酸コバルト、DIC社製ナフテン酸コバルト、コバルト含有量10重量%
有機酸Co塩−2:OMG社製マノボンドC22.5、コバルト含有量22重量%
有機酸:三共油化工業社製ナフテン酸、コバルト含有量0重量%
シリカ:東ソーシリカ社製ニップシールAQ (CTAB=160m2/g)
アロマオイル:ジャパンエナジー社製プロセスX−140
亜鉛華:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸
老化防止剤:フレキシス社製SANTOFLEX6PPD
加硫促進剤:大内新興化学工業社製ノクセラーDZ−G
硫黄:不溶性硫黄、四国化成社製ミュークロンOT−20、硫黄分80%
【0053】
表3,4から明らかなように実施例1〜9のタイヤ用ゴム組成物は、加工性、発熱性、操縦安定性、及び耐久性が従来レベル以上に向上することが確認された。
【0054】
表3から明らかなように、比較例1のゴム組成物はカーボンブラックCB1のN2SAが70m2/g超、ストークス径Dstが145nm未満、かつ比N2SA/IAが1.00未満であるため、実施例1〜5のタイヤ用ゴム組成物に比べ、タイヤにしたときの加工性、低転がり抵抗、操縦安定性及び耐久性のバランスが劣る。比較例2のゴム組成物は、カーボンブラックCB2のストークス径Dstが145nm未満であるため、タイヤにしたときの操縦安定性及び耐久性が悪化する。比較例3のゴム組成物は、カーボンブラックCB3のストークス径Dstが145nm未満、比N2SA/IAが1.00未満であるため、ゴム組成物の加工性及びタイヤにしたときの耐久性が悪化する。比較例4のゴム組成物は、カーボンブラックCB4のN2SAが45m2/g未満かつ比N2SA/IAが1.00未満であるので、タイヤにしたときの操縦安定性及び耐久性が悪化する。
【0055】
表4から明らかなように、比較例5のゴム組成物は、補強性充填剤(カーボンブラック)の配合量が40重量部より少ないのでゴム組成物の加工性とタイヤにしたときの操縦安定性及び耐久性が悪化する。比較例6のゴム組成物は、補強性充填剤(カーボンブラック)の配合量が80重量部より多いので、ゴム組成物の加工性及びタイヤにしたときの低転がり性、耐久性が悪化する。
【0056】
比較例7はカーボンブラックの配合量が10重量部より少ないのでゴム組成物の加工性及びタイヤにしたときの耐久性能が悪化する。なお、比較例7及び実施例8は補強性充填剤としてカーボンブラックとシリカとを併用したものである。
【0057】
比較例8は有機酸コバルト塩を配合しないのでタイヤにしたときの操縦安定性及び耐久性が悪化する。比較例9はコバルト含有量が0.1重量部より少ないのでタイヤにしたときの操縦安定性及び耐久性が悪化する。比較例10はコバルト含有量が0.4重量部より多いのでゴム組成物の加工性及びタイヤにしたときの低転がり性、耐久性能が悪化する。比較例11はコバルト含有量が0重量%である有機酸を用いているのでタイヤにしたときの操縦安定性及び耐久性が悪化する。