【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度〜平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Y. KUMAI et al.,Characteristics and structural change of layered polysilane (Si6H6) anode for lithium ion batteries,Journal of Power Sources,2011年,196,1503-1507.,DOI: 10.1016/j.jpowsour.2010.08.040
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のシリコン化合物は、Si基本骨格とリチウムとが結合した構造を有するものである。このシリコン化合物において、Si基本骨格は、層状ポリシランの骨格であるものとしてもよい。
図1は、層状ポリシランの骨格の説明図である。
図1に示すように、層状ポリシランは、Si原子で構成された六員環が複数連なった構造を基本骨格とするものであり、Si原子は、六員環を構成するSi原子同士のSi−Si結合の他に水素原子とのSi−H結合を有している。この層状ポリシランは、線源にCuKαを用いてXRD回折を測定したとき、(001)に由来する2θ=14°付近のピーク、(100)に由来する2θ=27°付近のピーク、(110)に由来する2θ=47°付近のピークが現れる。なお、
図1では、Si−H結合は、Si−Si結合と区別するために便宜上Si−H結合としたが、Siの一部は水素原子以外と結合していてもよく、例えば、他の元素や官能基と結合したもの(以下まとめてSi−R結合とも称する)を含むものとしてもよい。官能基としては、例えば、水酸基や炭化水素基などが挙げられ、炭化水素基としては、アルキル基やアルコキシ基などが挙げられる。
【0013】
本発明のシリコン化合物は、基本組成式が、Si
6H
6-xLi
x(0<x≦6)であるものとしてもよい。即ち、
図1における水素の少なくとも1以上がリチウムと置き換わった構造を有するものとしてもよいし、
図1における水素のすべてがリチウムと置き換わった構造を有するものとしてもよい。このxの値は、より大きい方が好ましく、例えば、x=2以上が好ましく、x=3以上がより好ましく、x=4以上が更に好ましい。例えば、x=6により近いほど電気伝導度がより向上する。このため、電極合材に添加する導電材の量をより低減させることができる。なお、過剰のリチウムはないことが望ましい。
【0014】
本発明のシリコン化合物は、Si基本骨格を有する化合物と、リチウムとを不活性雰囲気下で混合し、Si基本骨格とリチウムとを結合する混合工程を経て作製されているものとしてもよい。こうすれば、Si基本骨格とリチウムとが結合した構造を容易に得ることができる。また、電解液との接触や導電材、結着材などの混合を伴わずに、Si基本骨格とリチウムとが結合した構造を純粋なものとして得ることができる。このシリコン化合物は、電気化学的な処理を与えられていないものとしてもよい。この混合工程では、摩擦力を付与しながらSi基本骨格を有する化合物とリチウムとを混合することが好ましい。摩擦力を付与する混合方法としては、乳鉢と乳棒を用いた摩擦粉砕、粉砕媒体(玉石など)を用いたボールミル、ポットを自転及び公転する遊星ミルなどが挙げられる。このうち、乳鉢によりSi基本骨格を有する化合物とリチウムとを混合することが好ましい。こうすれば、比較的容易にSi基本骨格とリチウムとが結合した構造を得ることができる。なお、この混合工程については、後述する製造方法で詳しく説明する。
【0015】
本発明のシリコン化合物は、リチウム電池の活物質として用いられるものとしてもよい。即ち、本発明のリチウム電池用電極は、上述したシリコン化合物を含むものとしてもよい。また、本発明のリチウム電池は、上述したリチウム電池用電極を備えたものとしてもよい。
【0016】
次に、本発明のシリコン化合物の製造方法について説明する。このシリコン化合物の製造方法は、例えば、Si基本骨格を有する化合物と、リチウムとを不活性雰囲気下で混合し、Si基本骨格とリチウムとを結合する混合工程、を含むものである。こうすれば、Si基本骨格とリチウムとが結合した構造を容易に得ることができる。また、電解液との接触や導電材、結着材などの混合を伴わずに、Si基本骨格とリチウムとが結合した構造を純粋なものとして得ることができる。この混合工程では、摩擦力を付与しながらSi基本骨格を有する化合物とリチウムとを混合することが好ましい。摩擦力を付与する混合方法としては、乳鉢と乳棒を用いた摩擦粉砕、粉砕媒体(玉石など)を用いたボールミル、ポットを自転及び公転する遊星ミルなどが挙げられる。このうち、乳鉢によりSi基本骨格を有する化合物とリチウムとを混合することが好ましい。こうすれば、比較的容易にSi基本骨格とリチウムとが結合した構造を得ることができる。この混合工程では、より強い摩擦力を付与することが好ましい。例えば、0.01MPa以上10MPa以下の範囲が好ましく、0.1MPa以上1MPa以下の範囲がより好ましい。0.01MPa以上では、Si基本骨格とリチウムとが十分結合でき、10MPa以下では、Si基本骨格が壊れてしまうのをより抑制することができる。不活性雰囲気としては、窒素雰囲気や、アルゴン及びヘリウムなどの希ガス雰囲気などが挙げられ、このうち、アルゴン雰囲気がより好ましい。混合時間は、例えば、リチウム金属が目視により確認できなくなるまでなど、適宜設定すればよく、30分以上2時間以下などとしてもよい。
【0017】
この混合工程では、Si基本骨格を有する化合物として層状ポリシランを用いることが好ましい。また、リチウムは、リチウム金属を用いるものとする。混合割合は、少なくともリチウムを含むものとすればよく、Siの1molに対してLiを1mol以下とすることが好ましい。こうすれば、例えば、基本組成式Si
6H
6-xLi
x(0<x≦6)であるシリコン化合物を得ることができる。リチウムの含有量は、大きければ大きい方が好ましい。例えば、x=6により近いほど電気伝導度がより向上する。このため、電極合材に添加する導電材の量をより低減させることができる。なお、過剰のリチウム金属は存在しないことが望ましい。このように、Si基本骨格とリチウムとが結合した構造を、充放電させるなどの電気化学的な処理を行わずに、純粋なものとして容易に得ることができる。
【0018】
次に、本発明のリチウム電池について説明する。本発明のリチウム電池は、上述したシリコン化合物を含むリチウム電池用電極を備えたものである。このリチウム電池は、上述したシリコン化合物を含む蓄電デバイスとすれば、特に限定されないが、例えば、上述したシリコン化合物を負極活物質として含むことが好ましい。また、2次電池として利用することがより好ましい。例えば、本発明のリチウム電池は、リチウムを吸蔵、放出しうる正極活物質を有する正極と、上述したシリコン化合物を負極活物質として有するリチウム電池用電極である負極と、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えているものとしてもよい。
【0019】
本発明のリチウム電池用電極は、上述したシリコン化合物を含む負極である。この電極は、例えば、上述したシリコン化合物と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にしたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。炭素材料、導電助材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン、クロロホルムなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。
【0020】
本発明のリチウム電池において、正極は、LiCoO
2やLiNiO
2等の層状岩塩構造を有する化合物、LiMn
2O
4等のスピネル型構造を有する化合物、LiFePO
4等のポリアニオン化合物などを用いることができる。このリチウム電池において、イオン伝導媒体は、支持塩を有機溶媒に溶解した非水電解液やイオン性液体、ゲル電解質、固体電解質などを用いることができる。このうち、非水電解液であることが好ましい。支持塩としては、例えば、LiPF
6,LiClO
4,LiAsF
6,LiBF
4,Li(CF
3SO
2)
2N,Li(CF
3SO
3),LiN(C
2F
5SO
2)などの公知の支持塩を用いることができる。支持塩の濃度としては、0.1〜2.0Mであることが好ましく、0.8〜1.2Mであることがより好ましい。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、γ−ブチロラクトン(γ−BL)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)など従来の二次電池やキャパシタに使われる有機溶媒が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。また、イオン性液体としては、特に限定されるものではないが、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドや、N−メチル−N−プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−ブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートなどを用いることができる。ゲル電解質としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリフッ化ビニリデンやポリエチレングリコール、ポリアクリロニトリルなどの高分子類またはアミノ酸誘導体やソルビトール誘導体などの糖類に、支持塩を含む電解液を含ませてなるゲル電解質が挙げられる。固体電解質としては、無機固体電解質や有機固体電解質などが挙げられる。無機固体電解質としては、例えば、リチウムの窒化物、ハロゲン化物、酸素酸塩などがよく知られている。なかでも、Li
4SiO
4、Li
4SiO
4−LiI−LiOH、xLi
3PO
4−(1−x)Li
4SiO
4、(0≦x≦1)、Li
2SiS
3、Li
3PO
4−Li
2S−SiS
2、硫化リン化合物などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。有機固体電解質としては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリホスファゼン、ポリエチレンスルフィド、ポリヘキサフルオロプロピレンなどやこれらの誘導体が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。このリチウム電池は、正極と負極との間にセパレータを有していてもよい。セパレータとしては、リチウム電池の使用範囲に耐え得る組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0021】
本発明のリチウム電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。このリチウム電池の一例を
図2に示す。
図2は、コイン型電池20の構成の概略を表す断面図である。このコイン型電池20は、カップ形状の電池ケース21と、正極活物質を有しこの電池ケース21の下部に設けられた正極22と、負極活物質を有し正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。このコイン型電池20は、負極23に層状ポリシランのSi基本骨格とリチウムとが結合した構造を有するシリコン化合物を負極活物質として備えている。
【0022】
以上詳述した本実施形態のリチウム電池によれば、例えば、メカノミリングにより、Si基本骨格を有する化合物(例えば層状ポリシラン)及びリチウム金属にSi−Li結合が生じ、そのまま電極に用いることができる。このため、例えば、電解液中で電気化学的に層状ポリシランへリチウム金属を含有させるものに比して、ロスをより抑制することができ、初期のクーロン効率をより高めることができる。また、電解液中で電気化学的に層状ポリシランへリチウム金属を含有させるものに対して状態が異なるため、充放電サイクルを行った後の容量維持率をより高めることができる。このように、本実施形態のリチウム電池では、電池特性をより高めることができる。更に、電解液中での電気化学的な処理によらず、Si基本骨格へリチウム金属を結合することができるため、より純粋なものを得ることができる。
【0023】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0024】
例えば、上述した実施形態においては、本発明のリチウム電池において、リチウム電池用電極として、導電材、結着材および集電体を用いるものとしたが、これらの一部または全部を有していなくてもよい。例えば、集電体を用いず、本発明のシリコン化合物と導電材と結着材とを混合して加圧成形したものとしてもよい。
【0025】
上述した実施形態においては、本発明をリチウム電池として説明したが、リチウム電池に限定されることなく、電気二重層キャパシタ、電気化学キャパシタなど、各種蓄電デバイスなどとすることができる。
【実施例】
【0026】
以下には、本発明のシリコン化合物及びリチウム電池を具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0027】
[層状ポリシランの合成]
層状ポリシラン(Si
6H
6)の合成は、以下の条件で行った。この合成は、−30℃に冷却した濃塩酸100ml中へケイ化カルシウム(CaSi
2)3gを添加し、4日間、−30℃の暗室で静置した。この処理で、黒色のケイ化カルシウムは黄色へ変化した。この黄色固体をAr雰囲気下で加圧ろ過し、脱気塩酸(−30℃)で洗浄し、脱気HF(フッ化水素)水溶液(−30℃)で洗浄し、さらに脱気アセトン(−30℃)で洗浄し、110℃で一晩減圧乾燥して層状ポリシランを合成した。合成した層状ポリシランを実施例とした。この層状ポリシランの合成の化学反応式を以下の式(1)に示す。
3CaSi
2+6HCl→Si
6H
6+3CaCl
2 …(1)
【0028】
[シリコン化合物の合成]
上記作製した層状ポリシランと、リチウム金属とを、アルゴン雰囲気のグローブボックス内でモル比でLi/Si=1/6,6/6となるように秤量し、乳鉢に入れ、強い摩擦力を与えながら混合物を30分間、リチウム金属が消失するまで混合した。その結果、深緑色の粉末が得られた。基本組成式Si
6H
6-xLi
x(x=1)を実施例1のシリコン化合物とし、基本組成式Si
6H
6-xLi
x(x=6)を実施例2のシリコン化合物とし、基本組成式Si
6H
6-xLi
x(x=3)を実施例3のシリコン化合物とした。また、基本組成式Si
6H
6-xLi
x(x=0)を比較例1のシリコン化合物とした。
【0029】
(X線回折測定)
実施例1,2及び比較例1のシリコン化合物について、X線回折測定を行った。測定装置はリガク社製RINT−TTRを用いた。線源にはCuKα線を用い、電圧50kV、電流300mA、発散スリット(DS)0.5°、スキャッタースリット(SS)0.5°、受光スリット(RS)0.15mmとした。
図3は、シリコン化合物のX線回折測定結果である。X線回折測定の結果、実施例1,2では、(001)面が6.91Åとなり、リチウム化前の比較例1に対して0.27Å拡大したことが判った。これより、Si−Hの一部がSi−Liとなった事が示唆された。更に、モル比でLi/Si=6/6(x=6)となるように混合した実施例2では、黒緑色の粉末が得られた。この実施例2では、(001)面はx=1の実施例1と同様の値を示した。なお、LiClに帰属されるピークが観察されたが、この塩素は出発原料の層状ポリシランの水素の一部が合成時に塩素化した事に由来するものと推察された。
【0030】
(IR測定)
実施例1〜3及び比較例1のシリコン化合物について、IRスペクトルを測定した。測定装置はニコレー社製Magna760型フーリエ赤外分光計、Nic−Plan型赤外顕微鏡を用いた。
図4は、シリコン化合物のIRスペクトル測定結果である。
図4に示すように、リチウムを含まない比較例1では、Si−H伸縮に由来する2100cm
-1付近の吸収ピークが明確に得られた。これに対して、実施例1〜3においては、リチウム量の増加(xの増加)に伴い、そのピークは小さくなった。これにより、リチウム量の増加に伴い、Si−H結合が消失し、Si−Li結合が生じているものと推察された。
【0031】
(XANES測定)
実施例1〜3及び比較例1のシリコン化合物について、X線吸収微細構造解析(XANES)スペクトルを測定した。測定装置は立命館大学SRセンターのBL−10を用いた。測定は、真空下で蛍光収量法により行った。また、ピークリファレンスとして、Si−Siについて金属Si、及びSi−Oについて石英を測定した。
図5は、シリコン化合物のXANESスペクトル測定結果である。
図5に示すように、実施例1〜3においては、リチウム量の増加(Xの増加)に伴い、Si−Siのピークがシフトしており、リチウムの増加に伴い、若干Si基本骨格が還元されていることがわかった。
【0032】
(評価セルの作製)
上述した実施例、比較例のシリコン化合物を活物質とし、この活物質を50質量%、導電材としてのアセチレンブラックを40質量%、結着材としてのテフロン(登録商標)を10質量%を混錬して電極合材を作製した。得られた電極合材の10mgを直径18mmのSUSメッシュに圧着して電極を作製した。電解液にはエチレンカーボネート,ジメチルカーボネートを体積比で3:7に混合した溶媒に、1MのLiPF
6を添加した溶液を用いた。対極にはリチウム金属を用いた。
【0033】
(実施例1、2及び比較例1の評価セル)
上述した実施例1、2のシリコン化合物を活物質として用い、上述した工程を経て得られた評価セルをそれぞれ実施例1、2の評価セルとした。また、上述した比較例1のシリコン化合物を活物質として用い、上述した工程を経て得られた評価セルを比較例1の評価セルとした。
【0034】
(I−V特性評価)
実施例1,2の評価セルについてI−V特性評価を行った。まず、実施例1のシリコン化合物を用いた電極合材を直径18mm×厚さ0.5mmのディスクに成形し、得られた成形体の上下をPt板で挟み、セルを作成した。そして、25℃のもと、定電圧電源装置を用いて両Pt電極間に電圧を印加してIV特性を測定した。
図6は、評価セルのI−V特性及びI−t特性評価結果である。
図6に示すように、リチウムの含有量の小さい実施例1では、電気伝導度が低い結果であった。これに対し、リチウムの含有量の大きい実施例2では、高い伝導度が得られた。したがって、Si基本骨格にリチウムを大量に結合させることにより、伝導性が発現することがわかった。なお、この挙動としては、誘電的でもあった。
【0035】
(電池性能評価)
充放電試験は、0.1V(vs.Li/Li
+)となるまで0.1mAの定電流充電とし、放電は2V(vs.Li/Li
+)となるまで0.1mAの定電流放電とした。この充放電試験を50サイクル行い、初回の放電容量に対する50回目の放電容量の割合を容量維持率として算出した。また、初回の充放電結果より、初期クーロン効率を算出した。初期クーロン効率と容量維持率を表1に示す。表1に示すように、Si基本骨格にリチウムを結合していない比較例1のセルでは、初期クーロン効率が低かった。これは、初回の充放電処理により、電解液の分解や、電解液の分解などにより生成した被膜を通ってリチウムがシリコン化合物に取り込まれるなど、ロスが大きいためであると推察された。これに対して、実施例1、2の評価セルでは、予めシリコン化合物の内部にリチウムが結合して存在するため、初期クーロン効率が飛躍的に向上したものと推察される。また、50サイクル後の容量維持率についても、比較例1に対して、実施例1、2は、高い値を示し、サイクル特性にも好影響を与えることがわかった。
【0036】
【表1】
【0037】
以上、乳鉢内でメカノミリングすることで、シリコン基本骨格とリチウムとが結合した構造を簡便に得ることができる事を確認した。更に、リチウム化することで、層状ポリシランの色が黒色に着色し、リチウムが電子をシリコン骨格へ供給していることも明らかとなった。そして、このような結合を有するシリコン化合物は、初期クーロン効率や容量維持率など、電池特性をより高めることができることが明らかとなった。更に、電気化学的な処理を経ることなく、シリコン基本骨格とリチウムとが結合した構造を、純粋なものとして得ることができた。