(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明のモータ制御装置を適用可能なハイブリッド車両のパワートレーンを示す図である。このハイブリッド車両は、フロントエンジン・リヤホイールドライブ車(後輪駆動車)をベース車両としている。図中、符号1は、第1動力源としてのエンジンを示し、符号2は、駆動車輪(後輪)を示す。
【0010】
図1に示すハイブリッド車両のパワートレーンでは、通常の後輪駆動車と同様に、エンジン1の後方、即ち車両前後方向の後方に、自動変速機3をタンデムに配置している。また、エンジン1(クランクシャフト1a)からの回転を自動変速機3の入力軸3aへ伝達する軸4に結合してモータ/ジェネレータ5を設け、このモータ/ジェネレータ5を、第2動力源としている。
【0011】
モータ/ジェネレータ5は、駆動モータ(電動機)として作用したり、ジェネレータ(発電機)として作用する。このモータ/ジェネレータ5は、エンジン1および自動変速機3間に配置されている。
【0012】
モータ/ジェネレータ5およびエンジン1間、より詳しくは、軸4とエンジンクランクシャフト1aとの間に第1クラッチ6を介挿し、この第1クラッチ6によって、エンジン1およびモータ/ジェネレータ5間を切離し可能に結合する。ここで第1クラッチ6は、伝達トルク容量を連続的もしくは段階的に変更可能なものとする。例えば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量およびクラッチ作動油圧を連続的もしくは段階的に制御して、伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチにより第1クラッチ6を構成する。
【0013】
モータ/ジェネレータ5および自動変速機3間、より詳しくは、軸4と変速機入力軸3aとの間に第2クラッチ7を介挿し、この第2クラッチ7によって、モータ/ジェネレータ5および自動変速機3間を切離し可能に結合する。第2クラッチ7も第1クラッチ6と同様、伝達トルク容量を連続的もしくは段階的に変更可能なものとする。例えば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量およびクラッチ作動油圧を連続的もしくは段階的に制御して、伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチにより第2クラッチ7を構成する。
【0014】
自動変速機3は、周知の任意なものでよく、複数の変速摩擦要素(クラッチやブレーキ等)を選択的に締結・解放することで、これら変速摩擦要素の締結・解放の組み合わせによって、伝動系路(変速段)を決定する。従って自動変速機3は、入力軸3aからの回転を、選択変速段に応じたギヤ比で変速して出力軸3bに出力する。この出力回転は、ディファレンシャルギヤ装置8によって左右後輪2へ分配して伝達され、車両の走行に供される。但し、自動変速機3は、上記したような有段式のものに限られず、無段変速機であってもよいのは言うまでもない。
【0015】
図1に示すハイブリッド車両のパワートレーンでは、停車状態からの発進時などを含む低負荷・低車速時に用いられる電気走行(EV)モードが要求される場合、第1クラッチ6を解放し、第2クラッチ7の締結により、自動変速機3を動力伝達状態にする。この状態でモータ/ジェネレータ5を駆動すると、当該モータ/ジェネレータ5からの出力回転のみが変速機入力軸3aに達する。自動変速機3は、当該入力軸3aへの回転を、選択中の変速段に応じて変速して、変速機出力軸3bから出力する。変速機出力軸3bからの回転はその後、ディファレンシャルギヤ装置8を経て後輪2に至り、車両をモータ/ジェネレータ5のみによって、電気走行(EV走行)させることができる。
【0016】
高速走行時や大負荷走行時などで用いられるハイブリッド走行(HEV走行)モードが要求される場合、第2クラッチ7の締結によって自動変速機3を対応変速段選択状態(動力伝達状態)にしたまま、第1クラッチ6も締結させる。この状態では、第1クラッチ6の締結により始動されたエンジン1からの出力回転、または、エンジン1からの出力回転およびモータ/ジェネレータ5からの出力回転の双方が変速機入力軸3aに達する。自動変速機3は、当該入力軸3aへの回転を、選択中の変速段に応じ変速して、変速機出力軸3bから出力する。変速機出力軸3bからの回転はその後、ディファレンシャルギヤ装置8を経て後輪2に至り、車両をエンジン1およびモータ/ジェネレータ5の双方によって、ハイブリッド走行(HEV走行)させることができる。
【0017】
HEV走行中において、エンジン1を最適燃費で運転させるとエネルギーが余剰となる場合、この余剰エネルギーによってモータ/ジェネレータ5を発電機として作動させることで、余剰エネルギーを電力に変換する。そして、この発電電力をモータ/ジェネレータ5のモータ駆動に用いるために蓄電しておくことによって、エンジン1の燃費を向上させることができる。
【0018】
図2は、
図1に示すパワートレーンの制御システムを示すブロック線図である。統合コントローラ20は、パワートレーンの動作点を統合制御する。パワートレーンの動作点は、目標エンジントルクtTeと、目標モータ/ジェネレータトルクtTm(回転数制御時は目標モータ/ジェネレータ回転数tNm)と、第1クラッチ6の目標伝達トルク容量tTc1と、第2クラッチ7の目標伝達トルク容量tTc2とで規定する。
【0019】
統合コントローラ20には、パワートレーンの動作点を決定するために、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転センサ11からの信号と、モータ/ジェネレータ回転数Nmを検出するモータ/ジェネレータ回転センサ12からの信号と、変速機入力回転数Niを検出する入力回転センサ13からの信号と、変速機出力回転数Noを検出する出力回転センサ14からの信号と、エンジン1の要求負荷状態を表すアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度APO)を検出するアクセル開度センサ15からの信号と、モータ/ジェネレータ5用の電力を蓄電しておくバッテリ9の蓄電状態SOC(持ち出し可能電力)を検出する蓄電状態センサ16からの信号とを入力する。
【0020】
なお、上記したセンサのうち、エンジン回転センサ11、モータ/ジェネレータ回転センサ12、入力回転センサ13、および出力回転センサ14はそれぞれ、
図1に示すように配置することができる。
【0021】
統合コントローラ20は、上記入力情報のうち、アクセル開度APO、バッテリ蓄電状態SOC、および、変速機出力回転数Noから、運転者が希望している車両の駆動力を実現可能な運転モード(EVモード、HEVモード)を選択すると共に、目標エンジントルクtTe、目標モータ/ジェネレータトルクtTm(回転数制御時は、目標モータ/ジェネレータ回転数tNm)、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1、および目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2をそれぞれ演算する。
【0022】
目標エンジントルクtTeは、エンジンコントローラ21に供給され、目標モータ/ジェネレータトルクtTm(目標モータ/ジェネレータ回転数tNm)は、モータ/ジェネレータコントローラ22に供給される。
【0023】
エンジンコントローラ21は、エンジントルクtTeが目標エンジントルクtTeとなるようにエンジン1を制御する。
【0024】
モータ/ジェネレータコントローラ22は、モータ/ジェネレータ5をトルク制御する時、そのトルクTmが目標モータ/ジェネレータトルクtTmとなるよう、また、モータ/ジェネレータ5を回転数制御する時、その回転数Nmが目標モータ/ジェネレータ回転数tNmとなるよう、バッテリ9およびインバータ10を介して、モータ/ジェネレータ5を制御する。
【0025】
統合コントローラ20は、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1および目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2に対応したソレノイド電流を第1クラッチ6および第2クラッチ7の締結制御ソレノイド(不図示)に供給し、第1クラッチ6の伝達トルク容量tTc1が目標伝達トルク容量tTc1に一致するよう、また、第2クラッチ7の伝達トルク容量tTc2が目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2に一致するよう、第1クラッチ6および第2クラッチ7を個々に締結力制御する。
【0026】
第1の実施形態におけるモータ制御装置において、モータ/ジェネレータコントローラ22がモータ/ジェネレータ5の回転数Nmを目標回転数tNmに一致させる回転数制御について説明する前に、回転数制御の基本制御ブロック図について説明する。
図3は、回転数制御の基本制御ブロック図である。
【0027】
制御対象である車両モデルGp(s)は、制御対象イナーシャ項をJとし、制御対象粘性項をCとすると、次式(1)で表される。
【0028】
Gp(s)=1/(J・S+C) …(1)
ここで、制御対象イナーシャ項Jおよび制御対象粘性項Cについて、以下で説明する。
【0029】
図1に代表的に示すごとく、
図1に示したハイブリッド車両用パワートレーンの第1クラッチ6よりもエンジン側におけるエンジンイナーシャ項をJ1、エンジン粘性項をC1とし、第1クラッチ6および第2クラッチ7間におけるモータイナーシャ項をJ2、モータ粘性項をC2とし、第2クラッチ7よりも駆動車輪側における車両イナーシャ項をJ3、車両粘性項をC3とすると、制御対象イナーシャ項Jおよび制御対象粘性項Cはそれぞれ、第1クラッチ6および第2クラッチ7の状態の組み合わせ(クラッチ状態)に応じて変化する。
【0030】
なお、イナーシャ項J1、J2、J3および粘性項C1、C2、C3はそれぞれ、実験等により予め求めておくことができる。
【0031】
つまり、第1クラッチ6および第2クラッチ7が共に解放したクラッチ状態(CL1)においては、制御対象イナーシャ項JはJ2となり、制御対象粘性項CはC2となる。
【0032】
第1クラッチ6が締結し、第2クラッチ7が解放したクラッチ状態(CL2)においては、制御対象イナーシャ項JはJ1+J2となり、制御対象粘性項CはC1+C2となる。
【0033】
第1クラッチ6が解放し、第2クラッチ7が締結したクラッチ状態(CL3)においては、制御対象イナーシャ項JはJ2+J3となり、制御対象粘性項CはC2+C3となる。
【0034】
第1クラッチおよび第2クラッチ7が共に締結したクラッチ状態(CL4)においては、制御対象イナーシャ項JはJ1+J2+J3となり、制御対象粘性項CはC1+C2+C3となる。
【0035】
第1クラッチ6が解放し、第2クラッチ7がスリップしているクラッチ状態(CL5)においては、制御対象イナーシャ項JはJ2となり、制御対象粘性項CはC2となる。
【0036】
第1クラッチ6が締結し、第2クラッチ7がスリップしているクラッチ状態(CL6)においては、制御対象イナーシャ項JはJ1+J2となり、制御対象粘性項CはC1+C2となる。
【0037】
図3に示す構成のフィードバック制御においては、これら制御対象イナーシャ項Jおよび制御対象粘性項Cを用いた式(1)で表される制御対象(車両)モデルGp(s)を第1クラッチ6および第2クラッチ7の状態に応じて切り替えて制御するが、
図1から明らかなように、第1クラッチ6が解放し、第2クラッチ7がスリップしているクラッチ状態(CL5)での制御対象イナーシャ項J=J2および制御対象粘性項C=C2はそれぞれ、第1クラッチ6および第2クラッチ7が共に解放したクラッチ状態(CL1)の制御対象イナーシャ項J=J2および制御対象粘性項C=C2と同じである。また、第1クラッチ6が締結し、第2クラッチ7がスリップしているクラッチ状態(CL6)での制御対象イナーシャ項J=J1+J2および制御対象粘性項C=C1+C2はそれぞれ、第1クラッチ6が締結し、第2クラッチ7が解放したクラッチ状態(CL2)での制御対象イナーシャ項J=J1+J2および制御対象粘性項C=C1+C2と同じである。従って、これら制御対象イナーシャ項Jおよび制御対象粘性項Cを用いた式(1)で表される制御対象(車両)モデルGp(s)は、第2クラッチ7がスリップ状態である時と、第2クラッチ7が解放状態である時とは同じである。
【0038】
従って、一般的な通常のフィードバック制御によってモータ/ジェネレータ5の回転制御を行うと、第2クラッチ7がスリップ状態である時のクラッチ伝達トルクも車両モデルのフリクションと共にフィードバックループで補償することになり、アクセル操作にともなう第2クラッチ7のスリップ時伝達トルクの変化分に対応した補償量がフィードバックループ(積分器)に蓄積され、第2クラッチ7がスリップ状態と非スリップ状態との間で状態変化する過渡時において、上記の蓄積補償分が放出され終わるまで、モータ/ジェネレータ5の回転数Nmを指令値tNmに一致させることができず、モータ/ジェネレータ5の回転制御応答性が悪くなるという問題を生ずる。
【0039】
そこで、本実施形態では、モータ/ジェネレータコントローラ22がモータ/ジェネレータ5の回転数を指令値tNmに一致させるように回転数制御するに際し、この制御を特に
図3の制御ブロック線図に示すごとく行うようにする。
【0040】
つまり、
図3に示すモータ/ジェネレータ5の回転数制御ブロックは、外乱抑制応答時定数τhを用いた伝達関数H(s)=1/(1+τh・s)のローパスフィルタLPFと、このローパスフィルタLPFおよび上記制御対象モデルの逆系{1/Gp(s)}の組み合わせになる位相補償器INVと、指令値追従応答時定数τmを用いた伝達関数K1=(J・τm・C)/τmのモデルマッチング項MM1と、モデルマッチング項MM1の伝達関数K1および制御対象粘性項Cを用いた伝達関数K2=(C+K1)/K1のモデルマッチング項MM2と、リミッタLim1を備える。
【0041】
図3においてはまず、目標モータ/ジェネレータ回転数tNmをモデルマッチング項MM2に通過させてモデルマッチングした後の目標モータ/ジェネレータ回転数tNmから、モータ/ジェネレータ回転数Nmを差し引いて両者間のモータ/ジェネレータ回転数偏差を求める。
【0042】
そして、このモータ/ジェネレータ回転数偏差をモデルマッチングMM1に通過させて、モータ/ジェネレータ回転数偏差をなくすためのモータ/ジェネレータトルク補正量であるモデルマッチング出力ΔTmを求める。
【0043】
位相補償器INVは、モータ/ジェネレータ回転数Nmを発生するモータ/ジェネレータトルクを求め、ローパスフィルタLPFは、制御対象へのモータ/ジェネレータトルク補正量ΔTm’
limに対してフィルタ処理を施す。そして、位相補償器INVからの出力と、ローパスフィルタLPFからの出力との間におけるモータ/ジェネレータトルク偏差演算により、制御対象に加わる外乱の推定値Dest(外乱オブザーバ出力)を求める。モデルマッチング出力ΔTmから外乱オブザーバ出力Destを差し引いてΔTm’とし、リミッタLim1において上下限リミット処理が施されて、制御対象へのモータ/ジェネレータトルク補正量ΔTm’
limとする。
【0044】
図3に示す制御ブロック図では、リミッタLim1において、モータ/ジェネレータ5に指令可能なトルク上限値でトルク指令値の上限を制限する処理が行われるため、トルク指令値の上限が制限された場合に、振動抑制効果が十分に得られなくなる可能性がある。
【0045】
図4は、第1の実施形態におけるモータ制御装置によって行われる回転数制御の制御ブロック図である。
図3に示す基本制御ブロック図に対して、点線で囲まれた部分、すなわち、予測モータトルク指令値算出フィルタIDLと、リミッタLim1aと、ノッチフィルタNCHと、リミッタLim1bが追加されている。
【0046】
予測モータトルク指令値算出フィルタIDLは、制御対象Gp(s)=1/(J・S+C)の逆モデル(J・S+C)と指令値追従応答(規範応答)1/(τm・s+1)を乗算した(J・S+C)/(τm・s+1)の特性を有し、目標モータ/ジェネレータ回転数tNmを入力して、予測モータトルク指令値を算出する。
【0047】
予測モータトルク指令値算出フィルタIDLの出力の後段に設定されるリミッタLim1aは、リミッタLim1と同じ特性のリミット処理を行う。
【0048】
ノッチフィルタNCHは、(s
2+ω
2)/(s
2+2ωs+ω
2)の特性を有するフィルタ処理を行う。ここで、ωは抑制すべき振動の周波数(rad/s)であり、実験により事前に求めることが可能である。すなわち、ノッチフィルタNCHは、リミッタLim1でリミット処理が施された予測モータトルク指令値から、抑制すべき振動の周波数成分を除去する。この後、振動周波数成分が除去された予測モータトルク指令値から、振動周波数成分を含む予測モータトルク指令値を減算した結果が、後述するリミッタLim1bの出力に加算される。振動周波数成分が除去された予測モータトルク指令値から振動周波数成分を含む予測モータトルク指令値を減算した結果とは、振動周波数成分の逆位相の信号である。
【0049】
リミッタLim1bは、モデルマッチングMM1の出力であるモデルマッチング出力ΔTmに対して、リミッタLim1と同じ特性のリミット処理を行う。
【0050】
リミッタLimbの出力に対して振動周波数成分の逆位相の信号が加算されるとともに、外乱オブザーバ出力Destが減算された値がΔTm’としてリミッタLim1に入力される。リミッタLimbの出力に対して振動周波数成分の逆位相の信号が加算されることにより、抑制すべき振動が除去されたモータトルク指令値が制御対象である車両モデルGp(s)に入力される。
【0051】
図5は、第1の実施形態におけるモータ制御装置による制御結果を示す図である。
図5(a)はモータ回転数を、
図5(b)は制御対象Gp(s)に入力されるトルク指令値をそれぞれ示しており、点線は
図3に示す制御ブロック図による制御結果を示し、実線は
図4に示す制御ブロック図による制御結果を示している。ここでは、モータトルク指令値がトルク上限値によって制限される例を示している。
【0052】
図5(a)に示すように、
図3に示す制御ブロック図による制御では、モータ回転数の上昇時に振動が発生しているが、
図4に示す制御ブロック図による制御によれば、モータ回転数は振動が発生することなく滑らかに上昇している。
【0053】
以上、第1の実施形態におけるモータ制御装置によれば、モータ回転数を検出するとともにモータ回転数の指令値を生成し、検出したモータ回転数および生成したモータ回転数の指令値に基づいてモータトルク指令値を算出してモータの制御を行うものであって、モータ回転数の指令値に基づいて予測モータトルク指令値を算出し、算出した予測モータトルク指令値を用いてモータトルク指令値を補正する。
【0054】
特に、モータ回転数の指令値を制御対象モデルの逆モデル(J・S+C)と指令値追従の規範応答モデル(1/(τm・s+1))の積により構成されるフィルタに通した後、モータトルク指令値に施す上限制限処理と同じトルク上限値による上限制限処理を行うことによって予測モータトルク指令値を算出し、算出した予測モータトルク指令値に対してノッチフィルタ処理を施した値を用いてモータトルク指令値を補正する。モータトルク指令値に施す上限制限処理と同じトルク上限値による上限制限処理が施された予測モータトルク指令値に対してノッチフィルタ処理を施すので、モータトルク指令値がトルク上限値で制限されるようなシーンであっても、振動抑制効果を得ることができる。
【0055】
<第2の実施形態>
図6は、第2の実施形態におけるモータ制御装置によって行われる回転数制御の制御ブロック図である。
図3に示す基本制御ブロック図に対して、点線で囲まれた部分、すなわち、制御ブロックMDLと、モデルマッチング項MM1aと、リミッタLim1cと、ノッチフィルタNCHと、リミッタLim1bとが追加されている。
【0056】
制御ブロックMDLは、制御対象である車両モデルGp(s)(=1/(J・S+C))と同じ制御特性M(s)を有し、ノッチフィルタNCHの出力を入力する。
【0057】
モデルマッチング項MM1aは、モデルマッチング項MM1と同じ伝達関数K1(=(J・τm・C)/τm)の特性を有し、モデルマッチング項MM2の出力から制御ブロックMDLの出力を減算した値を入力する。
【0058】
リミッタLim1cは、モデルマッチングMM1aの出力であるモデルマッチング出力に対して、リミッタLim1と同じ特性のリミット処理を行う。
【0059】
ノッチフィルタNCHは、(s
2+ω
2)/(s
2+2ωs+ω
2)の特性を有するフィルタ処理を行う。ここで、ωは抑制すべき振動の周波数(rad/s)であり、実験により事前に求めることが可能である。すなわち、ノッチフィルタNCHは、リミッタLim1cでリミット処理が施されたモデルマッチング出力から、抑制すべき振動の周波数成分を除去する。この後、振動周波数成分が除去された予測モータトルク指令値から、振動周波数成分を含む予測モータトルク指令値を減算した結果が、後述するリミッタLim1bの出力に加算される。振動周波数成分が除去された予測モータトルク指令値から振動周波数成分を含む予測モータトルク指令値を減算した結果とは、振動周波数成分の逆位相の信号である。
【0060】
図7は、第2の実施形態におけるモータ制御装置による制御結果を示す図である。
図7(a)はモータ回転数を、
図7(b)は制御対象Gp(s)に入力されるトルク指令値をそれぞれ示しており、点線は
図3に示す制御ブロック図による制御結果を示し、実線は
図6に示す制御ブロック図による制御結果を示している。
【0061】
図7(a)に示すように、
図6に示す制御ブロック図による制御においても、モータ回転数は振動が発生することなく滑らかに上昇している。また、
図5(b)と
図7(b)とを比較すれば分かるように、
図6に示す制御ブロック図による制御によれば、トルク指令値がトルク上限値で制限される度合いが低減している。これにより、より高い振動抑制効果を得ることができる。
【0062】
以上、第2の実施形態におけるモータ制御装置によれば、モータ回転数の指令値と、制御対象モデルから得られるモータ回転数との偏差に基づいて回転数制御演算を行い、該回転数制御演算の結果に、モータトルク指令値に施す上限制限処理と同じトルク上限値による上限制限処理を行ってからノッチフィルタ処理を施した値を制御対象モデルに入力するとともに、上限制限処理を行った後の値を予測モータトルク指令値とする。第2の実施形態では、回転数制御演算内に数式モデルを用いた擬似フィードバックループが設けられている。すなわち、モータ回転数指令値と制御対象数式モデルから得られるモータ回転数とに基づいて回転数制御演算を行い、回転数制御演算結果に対して回転数制御出力(モータトルク指令値)に施す上限制限処理と同じトルク上限値による上限制限処理を施し、さらにノッチフィルタ処理を施す。ノッチフィルタ処理を施した後の信号を制御対象数式モデルに入力することで制御対象モデルのモータ回転数を更新する。この演算を随時繰り返すことでノッチフィルタを考慮した予測モータトルク指令値を得ることができ、制御対象モデルに入力されるモータトルク指令値がトルク上限値で制限される度合いを低減して、より高い振動抑制効果を得ることができる。
【0063】
<第3の実施形態>
図8は、第3の実施形態におけるモータ制御装置によって行われる回転数制御の制御ブロック図である。
図3に示す基本制御ブロック図に対して、点線で囲まれた部分、すなわち、ノッチフィルタNCHと、リミッタLim1bとが追加されている。
【0064】
リミッタLim1bは、モデルマッチングMM1の出力であるモデルマッチング出力ΔTmに対して、リミッタLim1と同じ特性のリミット処理を行う。
【0065】
ノッチフィルタNCHは、リミッタLim1bの出力に対して、(s
2+ω
2)/(s
2+2ωs+ω
2)の特性を有するフィルタ処理を行う。ここで、ωは抑制すべき振動の周波数(rad/s)であり、実験により事前に求めることが可能である。すなわち、ノッチフィルタNCHは、リミッタLim1bでリミット処理が施されたモデルマッチング出力から、抑制すべき振動の周波数成分を除去する。
【0066】
図9は、第3の実施形態におけるモータ制御装置による制御結果を示す図である。
図9(a)はモータ回転数を、
図9(b)は制御対象Gp(s)に入力されるトルク指令値をそれぞれ示しており、点線は
図3に示す制御ブロック図による制御結果を示し、実線は
図8に示す制御ブロック図による制御結果を示している
図9(a)に示すように、
図8に示す制御ブロック図による制御においても、モータ回転数は振動が発生することなく滑らかに上昇している。また、
図9(b)に示すように、第2の実施形態と同様にトルク指令値がトルク上限値で制限される度合いが低減している。これにより、より高い振動抑制効果を得ることができる。
【0067】
図10は、第3の実施形態におけるモータ制御装置の構成によるボード線図のうちのゲイン線図を示す。
図10において、実線は
図8に示す制御ブロック図のゲイン線図を示し、点線は
図6に示す制御ブロック図のゲイン線図を示す。上述したように、第3の実施形態におけるモータ制御装置では、第2の実施形態におけるモータ制御装置と同等の制振効果を得ることができ、さらに、
図10に示すように、第2の実施形態の構成よりもゲイン余裕が大きく、システムの安定性が高い。
【0068】
以上、第3の実施形態におけるモータ制御装置によれば、モータ回転数を検出するとともにモータ回転数の指令値を生成し、検出したモータ回転数および生成したモータ回転数の指令値に基づいてモータトルク指令値を算出する。算出したモータトルク指令値に対して、最終モータトルク指令値に施す上限制限処理と同じトルク上限値による上限制限処理を行い、上限制限処理が行われたモータトルク指令値にノッチフィルタ処理を施す。また、上限制限処理が施された最終モータトルク指令値と検出したモータ回転数とに基づいて、制御対象に加わる外乱を推定し、ノッチフィルタ処理が施されたモータトルク指令値から推定した外乱を減算した値を最終モータトルク指令値とする。最終モータトルク指令値に上限制限処理を施し、該上限制限処理後の最終モータトルク指令値に基づいてモータの制御を行う。このような構成により、第2の実施形態におけるモータ制御装置と同等の振動抑制効果を得ることができ、さらに、回転数制御フィードバックループの安定余裕を改善することが可能となる。このため、改善した安定余裕を制御ゲイン向上にあてることで回転数制御の目標値応答性能または外乱抑制性能を向上させることが可能となる。
【0069】
本発明は、上述した各実施形態に限定されることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲で様々な応用が適用可能である。