(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記逆止弁(2186)において前記弁部材は、前記ハウジングロータ及び前記ベーンロータの一方に内蔵され、それらロータの径方向に対して交差する方向に往復移動することを特徴とする請求項2に記載のバルブタイミング調整装置。
前記主ロック位相及び前記副ロック位相間の前記回転位相において、前記ハウジングロータに対して前記ベーンロータを進角側へ付勢する進角弾性部材(19)を、備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のバルブタイミング調整装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せることができる。
【0018】
(第一実施形態)
図1に示す本発明の第一実施形態によるバルブタイミング調整装置1は、車両の内燃機関に搭載される。尚、本実施形態において内燃機関の停止及び始動は、エンジンスイッチSWのオフ指令及びオン指令に応じるだけでなく、アイドルストップシステムISSのアイドルストップ指令及び再始動指令にも応じて、実現される。
【0019】
(基本構成)
まず、バルブタイミング調整装置1の基本構成につき、説明する。バルブタイミング調整装置1は、「作動液の圧力」として作動油の圧力を利用する液圧式であり、機関トルクの伝達によりカム軸2が開閉する「動弁」として吸気弁9(後に詳述する
図16参照)のバルブタイミングを調整する。
図1〜4に示すようにバルブタイミング調整装置1は、内燃機関にてクランク軸(図示しない)から出力される機関トルクをカム軸2へ伝達する伝達系に設置の回転駆動部10と、当該駆動部10を駆動するために作動油の入出を制御する制御部40とを、備えている。
【0020】
(回転駆動部)
回転駆動部10において金属製のハウジングロータ11は、リアプレート13とフロントプレート15とをシューリング12の軸方向両端部にそれぞれ締結してなる。リアプレート13は、シューリング12側へ向かって開口するロック孔162,172を、円筒孔状に形成している。
【0021】
シューリング12は、円筒状のハウジング本体120、複数のシュー121,122,123及びスプロケット124を有している。
図2に示すように各シュー121,122,123は、ハウジング本体120のうち回転方向に所定間隔ずつあけた箇所から、径方向内側へ突出している。回転方向において隣り合うシュー121,122,123の間には、それぞれ収容室20が形成されている。スプロケット124は、タイミングチェーン(図示しない)を介してクランク軸と連繋する。かかる連繋により内燃機関の回転中は、機関トルクがクランク軸からスプロケット124へと伝達されることで、ハウジングロータ11がクランク軸と連動して一定方向(
図2の時計方向)に回転する。
【0022】
図1,2に示すように金属製のベーンロータ14は、ハウジングロータ11内に同軸上に収容されており、軸方向両端部をそれぞれリアプレート13とフロントプレート15とに摺動させる。ベーンロータ14は、円筒状の回転軸140及び複数のベーン141,142,143を有している。回転軸140は、カム軸2に対して同軸上に固定されている。かかる固定によりベーンロータ14は、カム軸2と連動してハウジングロータ11と同一方向(
図2の時計方向)に回転可能しつつ、ハウジングロータ11に対して相対回転可能となっている。
【0023】
図2に示すように各ベーン141,142,143は、回転軸140のうち回転方向に所定間隔ずつあけた箇所から径方向外側へ突出し、それぞれ対応する収容室20に収容されている。各ベーン141,142,143は、対応する収容室20を回転方向に分割することで、作動油が入出する進角室22,23,24及び遅角室26,27,28を、ハウジングロータ11内に区画している。具体的には、シュー121及びベーン141の間には進角室22が形成され、シュー122及びベーン142の間には進角室23が形成され、シュー123及びベーン143の間には進角室24が形成されている。また一方、シュー122及びベーン141の間には遅角室26が形成され、シュー123及びベーン142の間には遅角室27が形成され、シュー121及びベーン143の間には遅角室28が形成されている。
【0024】
図1,2に示すようにベーン141は、回転軸140に対して偏心する円筒状の金属製主ロック部材160を、軸方向に往復移動可能に支持している。それと共にベーン141は、作動油の入出する円環空間状の主ロック解除室161を、主ロック部材160の周りに形成している。
図1,5に示すように主ロック部材160は、主ロック解除室161からの作動油排出により、円筒孔状の主ロック孔162へと嵌入する。かかる嵌入により主ロック部材160は、ハウジングロータ11に対するベーンロータ14の回転位相(以下、単に「回転位相」という)を、
図2の主ロック位相Pmにロックする。また一方、
図6〜9に示すように主ロック部材160は、主ロック解除室161に導入された作動油の圧力を受けること等により、主ロック孔162から脱出する。かかる脱出により主ロック部材160は、主ロック位相Pmでの回転位相ロックを解除する。
【0025】
図3,4に示すようにベーン142は、回転軸140に対して偏心する円筒状の金属製副ロック部材170を、軸方向に往復移動可能に支持している。それと共にベーン142は、作動油の入出する円環空間状の副ロック解除室171を、副ロック部材170の周りに形成している。
図4,7に示すように副ロック部材170は、副ロック解除室171からの作動油排出により、円筒孔状の副ロック孔172へと嵌入する。かかる嵌入により副ロック部材170は、回転位相を
図3の副ロック位相Psにロックする。また一方、
図5,6,8,9に示すように副ロック部材170は、副ロック解除室171に導入された作動油の圧力を受けることで、副ロック孔172から脱出する。かかる脱出により副ロック部材170は、副ロック位相Psにおける回転位相のロックを解除する。
【0026】
以上の回転駆動部10では、進角室22,23,24及び遅角室26,27,28に対して入出される作動油の圧力を、ベーンロータ14がハウジングロータ11内にて受ける。このとき、各ロック部材160,170による回転位相ロックの解除下、進角室22,23,24への作動油導入且つ遅角室26,27,28からの作動油排出が生じることで、回転位相が進角側へ変化する(例えば、
図2から
図3への変化)。その結果、バルブタイミングが進角調整される。また一方、各ロック部材160,170による回転位相ロックの解除下、遅角室26,27,28への作動油導入且つ進角室22,23,24からの作動油排出が生じることで、回転位相が遅角側へ変化する(例えば、
図3から
図2への変化)。その結果、バルブタイミングが遅角調整される。さらに、各ロック部材160,170による回転位相ロックの解除下、進角室22,23,24及び遅角室26,27,28に作動油が閉じ込められることで、回転位相の変化が抑制されて、バルブタイミングが略一定に保持される。
【0027】
(制御部)
図1,5〜9に示す制御部40において、主進角通路41は、回転軸140に形成されて進角室22,23,24と連通している。主遅角通路45は、回転軸140に形成されて遅角室26,27,28と連通している。ロック解除通路49は、回転軸140に形成されてロック解除室161,171の双方と連通している。
【0028】
回転軸140に形成される主供給通路50は、供給源としてのポンプ4に搬送通路3を介して連通している。ここでポンプ4は、内燃機関の運転中に機関トルクを受けて駆動されるメカポンプであり、当該運転中は、ドレンパン5から吸入した作動油を継続して吐出する。また、カム軸2及びその軸受を貫通する搬送通路3は、カム軸2の回転に拘らずに常にポンプ4の吐出口と連通可能となっている。これらのことから、内燃機関がクランキングにより始動して完爆するのに伴って、主供給通路50への作動油の供給が開始される一方、内燃機関が停止するのに伴って当該供給が停止する。
【0029】
副供給通路52は、回転軸140に形成されて主供給通路50から分岐している。副供給通路52は、ポンプ4から供給される作動油を、主供給通路50を通じて受ける。ドレン回収通路54は、回転駆動部10及びカム軸2の外部に設けられている。ドレン回収通路54は、ドレン回収部としてのドレンパン5と共に大気に開放され、当該ドレンパン5へ作動油を排出可能となっている。
【0030】
図1,2に示すように制御弁60は、リニアソレノイド62が発生する駆動力と、付勢部材64が当該駆動力と反対向きに発生する復原力とを利用するスプール弁であり、スリーブ66内のスプール68を軸方向に往復移動させる。スプール68が
図5〜7のロック領域Rlへ移動したときには、ポンプ4からの作動油が遅角室26,27,28に導入されると共に、進角室22,23,24及びロック解除室161,171の作動油がドレンパン5に排出される。スプール68が
図8,9の遅角領域Rrへ移動したときには、進角室22,23,24の作動油がドレンパン5に排出されると共に、ポンプ4からの作動油が遅角室26,27,28及びロック解除室161,171に導入される。スプール68が
図8,9の進角領域Raへ移動したときには、遅角室26,27,28の作動油がドレンパン5に排出されると共に、ポンプ4からの作動油が進角室22,23,24及びロック解除室161,171に導入される。スプール68が
図8,9の保持領域Rhへ移動したときには、、ポンプ4からの作動油がロック解除室161,171に導入されつつ、進角室22,23,24及び遅角室26,27,28に作動油が閉じ込められる。
【0031】
制御回路80は、
図1に示すリニアソレノイド62やエンジンスイッチSW、内燃機関の各種電装品等と電気接続されるマイクロコンピュータであり、アイドルストップシステムISSを構成している。制御回路80は、リニアソレノイド62への通電及びアイドルストップを含む内燃機関の運転を、コンピュータプログラムに従い制御する。
【0032】
(主ロック機構)
次に、
図1に示すように、主ロック要素160,161,162の組に収容孔164及び主弾性部材163を組み合わせてなる「主ロック手段」としての主ロック機構16につき、詳細に説明する。
【0033】
収容孔164は、ベーン141において回転軸140とは偏心する円筒孔状に、形成されている。
図10に示すように、主ロック大径部160a及び主ロック小径部160bの間に主ロック段差部160cを有する二段円筒状の主ロック部材160は、収容孔164内に同軸上に収容されている。かかる収容状態下、収容孔164内を軸方向に往復移動する主ロック部材160は、主ロック大径部160aよりもリアプレート13側の主ロック小径部160bを、主ロック孔162に対して入出させる。尚、以下では、
図5,10の如く主ロック部材160が主ロック小径部160bを主ロック孔162に嵌入させる位置を嵌入位置Liといい、
図6〜9,11〜14の如く主ロック部材160が主ロック小径部160bを主ロック孔162から脱出させる位置を脱出位置Leという。
【0034】
図10に示すように主弾性部材163は、金属製のコイルスプリングであり、収容孔164内にて主ロック大径部160aの内周側に同軸上に収容されている。主弾性部材163は、後に詳述する可動部材181の可動受部181dと、主ロック段差部160cとの間において、軸方向に介装されている。かかる介装状態の主弾性部材163は、主ロック部材160をリアプレート13側、即ち嵌入位置Li側へ付勢するように、復原力を発生する。また、こうした主弾性部材163の復原力に抗して、主ロック解除室161からの圧力作用によって主ロック部材160を付勢する力は、脱出位置Le側へ向かって作用する。
【0035】
以上の構成下、主ロック孔162への主ロック部材160の嵌入により実現される主ロック位相Pmは、
図2,15に示す如き最遅角位相に予設定されている。そして、特に本実施形態の主ロック位相Pmは、
図16に示すように、内燃機関の気筒7内のピストン8が下死点BDCに到達するタイミングよりも遅いタイミングにて吸気弁9を閉じるための回転位相に、予設定されている。
【0036】
(ロック制御機構)
次に、
図1に示すように、主ロック機構16に組み付けられる「ロック制御手段」としてのロック制御機構18につき、詳細に説明する。
【0037】
図5,10に示すようにロック制御機構18は、収容孔164を主ロック機構16と共有している。それと共にロック制御機構18は、可動部材181、配置空間182、大気通路183、可動シール184、制御弾性部材185、逆止弁186、連通通路187、制御室188及び感温体189を有している。
【0038】
図10に示すように金属製の可動部材181は、有底円筒状に形成され、収容孔164内にて主ロック部材160及び主弾性部材163の外周側に同軸上に収容されている。可動部材181は、主ロック小径部160bに外嵌されている。かかる外嵌状態の可動部材181は、収容孔164内にて軸方向に往復移動可能、且つ主ロック部材160に対して相対移動可能となっている。
【0039】
図5〜14に示すように可動部材181は、リアプレート13側の第一位置L1と、それとは反対側の第二位置L2とに往復移動する。具体的に、主ロック位相Pmにおいて第一位置L1の可動部材181は、
図5,10に示す開口部側の可動係止部181aによって主ロック段差部160cを係止することで、主ロック部材160を嵌入位置Liに位置決めする。また一方、
図6,7,11,12に示すように、主ロック位相Pm及び他の回転位相において第二位置L2の可動部材181は、可動係止部181aによって主ロック段差部160cを係止することで、主ロック部材160を主ロック孔162からの脱出位置Leに位置決めする。さらに
図8,9,13,14に示すように、主ロック位相Pm及び他の回転位相において可動部材181は、第一位置L1への移動状態で、可動係止部181aからの主ロック段差部160cの離間を伴う脱出位置Leへの移動を、主ロック部材160に対して許容する。
【0040】
図10に示すように可動部材181の外周部には、周方向に連続した円環溝状に、連通溝181bが開口している。また、可動部材181の内周部と連通溝181bの溝底とには、貫通孔状の連通孔181cが開口している。本実施形態において可動係止部181a及び主ロック段差部160cの間に常に形成される主ロック解除室161は、連通溝181b及び連通孔181cを通じてロック解除通路49と常に連通可能となっている。
【0041】
図10〜14に示すように、主弾性部材163の配置される配置空間182は、主ロック大径部160a及び主ロック段差部160cのうち少なくとも後者と、可動部材181にて底部側の可動受部181dとの間に、形成される。この配置空間182は、大気通路183を通じて常に大気開放可能となっている。ここで、本実施形態の大気通路183は、主ロック小径部160bに設けられた主ロック通路部160dと、ベーンロータ14にてベーン141を含む部分に設けられたロータ通路部141a等から、構成されている。
【0042】
図10に示すように可動シール184は、ゴム製の円環状Oリングであり、収容孔164内に同軸上に配置されている。可動シール184は、可動部材181の外周部に保持されることで、収容孔164内にて当該部材181と共に往復移動可能となっている。
【0043】
ここで、本実施形態の収容孔164は、大径孔部164a及び小径孔部164bの間にシート部164cを有する二段円筒孔状であり、可動シール184は、大径孔部164aよりも小径且つ小径孔部164bよりも大径に形成されている。また、シート部164cは、リアプレート13側(
図10,11,14の主ロック位相Pmでは、主ロック孔162側)へ向かうほど縮径するテーパ面状に、形成されている。さらに、可動部材181の外周部のうちシート部164cと軸方向に向き合う保持部181eも、リアプレート13側へ向かうほど縮径するテーパ面状に、形成されている。さらに保持部181eには、可動シール184が嵌合状態にて保持されている。
【0044】
こうした構成から、
図10,13,14に示すように可動シール184は、シート部164cに接触することで、第一位置L1の可動部材181と収容孔164との間を周方向に連続してシールする。また一方、
図11,12に示すように可動シール184は、可動部材181と共に第二位置L2側へと移動することで、大径孔部164aに対しては摺動することなく、シート部164cから離間する。
【0045】
図10に示すように制御弾性部材185は、金属製のコイルスプリングであり、主ロック小径部160bの外周側に同軸上に配置されている。制御弾性部材185は、ベーン141にてリアプレート13側の固定受部141bと、可動係止部181aとの間において、軸方向に介装されている。かかる介装状態の制御弾性部材185は、可動部材181をリアプレート13とは反対側、即ち第二位置L2側へと付勢するように、復原力を発生する。
【0046】
逆止弁186は、その一部がリアプレート13とは反対側にて収容孔164に挿入された状態で、ベーン141に内蔵されている。逆止弁186は、弁ハウジング1860、弁部材1861、弁シール1862及び逆止弾性部材1863を含んでなる。
【0047】
金属製の弁ハウジング1860は、有底円筒状に形成されてベーン141に保持されている。本実施形態において弁ハウジング1860の軸方向は、ロータ11,14の径方向に沿っている。弁ハウジング1860は、ベーン141に設けられた連通通路187に対して、開口部側の弁窓1860aを連通させている。ここで連通通路187は、連通溝181bを通じてロック解除通路49と常に連通可能となっている。
【0048】
図10〜14に示すように弁ハウジング1860の外周部は、可動部材181のうち可動受部181dとの間に、制御室188を常に確保する。また、弁ハウジング1860には、外周部及び内周面部を貫通して制御室188と連通する貫通孔状に、弁孔1860cが設けられている。さらに弁ハウジング1860の内周部は、弁窓1860a側へ向かうほど縮径するテーパ面状に、シート部1860bを形成している。
【0049】
図10に示すように金属製の弁部材1861は、有底円筒孔状に形成され、弁ハウジング1860内に同軸上に収容されている。かかる収容状態にて弁部材1861は、ロータ11,14の径方向に往復移動可能となっている。弁部材1861の外周部のうちシート部1860bと軸方向に向き合う保持部1861aは、連通通路187側へ向かうほど縮径するテーパ面状に、形成されている。それと共に保持部1861aには、弁シール1862が嵌合状態にて保持されている。ここで弁シール1862は、ゴム製の円環状Oリングであり、弁ハウジング1860内に同軸上に配置されている。
【0050】
図10〜14に示すように弁部材1861は、逆止弁186を開弁させる開弁位置Loと、同弁186を閉弁させる閉弁位置Lcとに、往復移動する。具体的に、
図11,12,13に示す開弁位置Loへと移動した弁部材1861は、弁シール1862をシート部1860bから離座させることで、連通通路187及び制御室188の間を連通させる。
【0051】
ここで本実施形態では、後に詳述する内燃機関の停止及び始動に応じて、ロック解除通路49からドレンパン5への作動油排出が実現可能な状態下、
図11,12に示すように弁部材1861が開弁位置Loに移動しているときには、連通通路187を通じた制御室188からの作動油排出が許容されることになる。このとき、制御室188の圧力は低下することから、制御弾性部材185の復原力を受ける可動部材181は、第二位置L2へと移動することで、主ロック孔162への主ロック部材160の嵌入を解除可能となっている。
【0052】
また一方で本実施形態では、後に詳述する内燃機関の通常運転に応じて、ポンプ4からロック解除通路49への作動油導入が実現可能な状態下、
図13に示すように弁部材1861が開弁位置Loに移動しているときには、連通通路187を通じて制御室188に導入される作動油の圧力が、可動受部181dに与えられることになる。このとき、制御室188からの圧力作用によって可動部材181を付勢する力は、制御弾性部材185の復原力に抗してリアプレート13側、即ち第一位置L1側へと向かって作用する。その結果として可動部材181は、第一位置L1に移動することで、主ロック孔162からの主ロック部材160の脱出を許容可能となっている。
【0053】
以上に対し、
図10,14に示す閉弁位置Lcへと移動した弁部材1861は、弁シール1862をシート部1860bに着座させることで、連通通路187及び制御室188の間を遮断する。
【0054】
ここで本実施形態では、ロック解除通路49からドレンパン5への作動油排出が内燃機関の停止及び始動に応じて実現可能な状態下、
図10に示すように弁部材1861が閉弁位置Lcに移動しているときには、連通通路187を通じた制御室188からの作動油排出が規制されることになる。このとき、制御室188の圧力は保持されることから、可動部材181は、制御弾性部材185の復原力に抗して第一位置L1に移動することで、主ロック孔162への主ロック部材160の嵌入を許容可能となっている。
【0055】
また一方で本実施形態では、ポンプ4からロック解除通路49への作動油導入が内燃機関の通常運転に応じて実現可能な状態下、
図14に示すように弁部材1861が閉弁位置Lcに移動しているときには、連通通路187を通じた制御室188への作動油導入が規制されることになる。このとき、制御室188の圧力は保持されることから、可動部材181は、制御弾性部材185の復原力に抗して第一位置L1に移動することで、主ロック孔162からの主ロック部材160の脱出を許容可能となっている。
【0056】
図10に示すように逆止弾性部材1863は、金属製のコイルスプリングであり、弁ハウジング1860内に同軸上に収容されている。逆止弾性部材1863は、弁ハウジング1860の底部と弁部材1861との間において、軸方向に介装されている。かかる介装状態の逆止弾性部材1863は、弁部材1861を閉弁位置Lc側へ付勢するように、復原力を発生する。また、こうした逆止弾性部材1863の復原力に抗して、連通通路187からの圧力作用によって弁部材1861を付勢する力は、開弁位置Lo側へ向かって作用する。
【0057】
図10に示すように感温体189は、矩形板状のバイメタルであり、連通通路187内に収容されて弁窓1860aと向き合っている。感温体189は、熱膨張率の高低が異なる高膨張層189a及び低膨張層189bを、有している。ここで高膨張層189aは、低膨張層189bよりも線膨張係数が高く、且つ低膨張層189bの弁窓1860a側に積層されている。尚、高膨張層189aの材料としては、例えばニッケル−クロム−鉄系(Ni−Cr−Fe系)合金等が選定され、また低膨張層189bの材料としては、ニッケル−鉄系(Ni−Fe系)合金等が選定される。
【0058】
かかる積層構造により感温体189は、設定温度Ts(後に詳述する
図18,19参照)以上に上昇したエンジン温度では、
図10,14の如く膨張した膨張状態Seへと変化することで、自身の端縁部189cを弁窓1860aから離間させる。このとき、閉弁位置Lcの弁部材1861においては、弁窓1860aから連通通路187内へと突入した弁凸部1861bが、膨張状態Seの感温体189と接触することになる。ここで、本実施形態の感温体189は、弁凸部1861bに対する開弁位置Lo側への付勢を膨張状態Seでは緩和するように、各層189a,189bの線膨張係数が予設定されている。故に、連通通路187の圧力が消失している
図10の状態下、かかる付勢緩和作用を受ける弁部材1861は、逆止弾性部材1863の復原力及び制御室188の圧力を受けることで、閉弁位置Lcを維持可能となっている。
【0059】
また一方で感温体189は、設定温度Ts未満に低下したエンジン温度では、
図11,12,13の如く収縮した収縮状態Scへと湾曲変化することで、端縁部189cを弁窓1860aに接近させる。このとき収縮状態Scの感温体189は、弁凸部1861bと接触することで、弁部材1861を開弁位置Lo側に向かって付勢する。故に、連通通路187の圧力が消失している
図11,12の状態にあっても、かかる付勢作用を受ける弁部材1861は、逆止弾性部材1863の復原力に抗して開弁位置Loに移動可能となっている。
【0060】
本実施形態において感温体189に関する設定温度Tsは、上述した付勢作用によって弁部材1860が閉弁位置Lcから開弁位置Lo側へと移動するときの温度に、定義されている。尚、このような設定温度Tsは、各層189a,189bの材料選定等によって調整されることで、例えば40〜60℃の範囲内の温度等に予設定される。
【0061】
(副ロック機構)
次に、
図4に示すように、副ロック要素170,171,172の組に副弾性部材173及び制限溝174を組み合わせてなる「副ロック手段」としての副ロック機構17につき、詳細に説明する。
【0062】
図5に示すように副弾性部材173は、金属製のコイルスプリングであり、ベーン142内に収容されている。副弾性部材173は、ベーン142にてリアプレート13とは反対側のスプリング受部142aと、副ロック部材170のスプリング受部170aとの間において、軸方向に介装されている。かかる介装状態により副弾性部材173は、副ロック部材170をリアプレート13側へ付勢するように、復原力を発生する。したがって、
図7,8に示す副ロック位相Psにおいて副弾性部材173の復原力は、副ロック孔172側へ向かって作用する。また、こうした副弾性部材173の復原力に抗して、副ロック解除室171からの圧力作用によって副ロック部材170を付勢する力は、副ロック位相Psでは、副ロック孔172と反対側へ向かって作用する。
【0063】
図5に示すように制限溝174は、リアプレート13において回転方向に延伸する有底長孔状に、形成されている。この制限溝174の中途部の溝底には、副ロック孔172が開口している。かかる開口構造により、副ロック孔172の回転方向両側にて副ロック部材170が制限溝174に進入するときには、副ロック位相Psを挟む所定の回転位相領域に、回転位相が制限される。また、回転位相が副ロック位相Psに到達することで、制限溝174内の副ロック部材170が副ロック孔172へと嵌入するときには、
図7の副ロック位相Psにて回転位相ロックが実現される。
【0064】
以上の構成下、副ロック孔172への副ロック部材170の嵌入により実現される副ロック位相Psは、
図3,15に示す如く主ロック位相Pmよりも進角した中間位相に、予設定されている。そして、特に本実施形態の副ロック位相Psは、
図16に示すように、内燃機関の気筒7内のピストン8が下死点BDCに到達するタイミング乃至はその近傍のタイミングにて吸気弁9を閉じるための回転位相に、予設定されている。
【0065】
(ベーンロータへの変動トルク作用)
次に、カム軸2からベーンロータ14に作用する変動トルクにつき、説明する。
【0066】
内燃機関の運転中は、カム軸2が開閉駆動する吸気弁9からのスプリング反力等に起因して、変動トルクがベーンロータ14に作用する。
図17に例示するように変動トルクは、ハウジングロータ11に対する進角側へ作用する負トルクと、ハウジングロータ11に対する遅角側へ作用する正トルクとの間にて、交番変動する。本実施形態の変動トルクについては、カム軸2及びその軸受間のフリクション等に起因して、正トルクのピークトルクが負トルクのピークトルクよりも大きくなっており、それらの平均トルクが正トルク側(遅角側)に偏っている。
【0067】
(ベーンロータの付勢構造)
次に、ベーンロータ14を副ロック位相Psへ向かって付勢するための付勢構造につき、説明する。
【0068】
図1に示す回転駆動部10において各ロータ11,14には、それぞれ係止ピン110,146が設けられている。第一係止ピン110は、フロントプレート15においてシューリング12とは軸方向反対側へ突出する円柱状に、形成されている。第二係止ピン146は、回転軸140においてフロントプレート15と実質平行のアームプレート147から軸方向の当該プレート15側へと突出する円柱状に、形成されている。これら各係止ピン110,146は、ロータ11,14の回転中心線から実質同一距離だけ偏心した箇所に、軸方向では互いにずれて配置されている。
【0069】
フロントプレート15及びアームプレート147の間には、進角弾性部材19が配置されている。進角弾性部材19は、実質同一平面上にて金属素線を巻いた渦巻きスプリングであり、その渦巻き中心がロータ11,14の回転中心線と心合わせされている。進角弾性部材19の内周側端部は、回転軸140の外周部に巻装されている。進角弾性部材19の外周側端部は、U字状に屈曲されて係止部190を形成している。係止部190は、係止ピン110,146のうち回転位相に応じたピンにより、係止可能となっている。
【0070】
以上の構成下、副ロック位相Psよりも遅角側、即ちロック位相Ps,Pmの間に回転位相が変化した状態では、進角弾性部材19の係止部190が第一係止ピン110に係止される。このとき、係止部190から第二係止ピン146が離脱するので、進角弾性部材19がねじり弾性変形して発生する復原力は、ハウジングロータ11に対する進角側の回転トルクとしてベーンロータ14に作用する。即ちベーンロータ14は、進角側の副ロック位相Psへ向かって付勢される。ここで、ロック位相Ps,Pmの間にて進角弾性部材19の復原力は、遅角側に偏った変動トルク(
図17参照)の平均値よりも大きくなるように、予設定されている。また一方、副ロック位相Psよりも進角側に回転位相が変化した状態では、係止部190が第二係止ピン146に係止される。このとき、係止部190から第一係止ピン110が離脱するので、進角弾性部材19によるベーンロータ14の付勢作用は制限される。
【0071】
(作動)
次に、第一実施形態の作動を詳細に説明する。
【0072】
(1) 通常運転
始動により完爆した後における内燃機関の通常運転中は、
図18,19に示すように、ポンプ4からの作動油供給が内燃機関の回転速度に応じた高い圧力にて継続される。その結果、各ロック解除室161,171に導入される作動油の圧力作用により、各ロック部材160,170がそれぞれ弾性部材163,173の復原力に抗してロック孔162,172から脱出することで、各ロック位相Pm,Psでの回転位相ロックの解除状態が維持される(
図8,9,13,14)。かかる状態下、スプール68の移動位置を領域Rr,Ra,Rhのいずれかに変更することで、バルブタイミングが適宜調整される。
【0073】
尚、主ロック位相Pmでのロック解除状態は、可動部材181の移動位置に拘らず実現されるが、制御室188の圧力により可動部材181は、制御弾性部材185の復原力に抗して第一位置L1に定位する(
図8,9)。ここで、
図19に示す冷間始動直後の通常運転時等、エンジン温度が設定温度Ts未満であるときには、感温体189の収縮状態Scへの変化により、弁部材1861が開弁位置Loに移動して、逆止弁186が開弁する(
図13)。その結果として可動部材181は、ポンプ4から連通通路187を通じて制御室188に導入される作動油の圧力を受けることで、制御弾性部材185の復原力に抗して第一位置L1に定位する(
図8,13)。また一方、
図18に示す温間始動後の通常運転時、又は
図19に示す冷間始動から時間が経過した後の通常運転時等、エンジン温度が設定温度Ts以上であるときには、感温体189の膨張状態Seへの変化により、弁部材1861が閉弁位置Lcに移動して、逆止弁186が閉弁する(
図14)。その結果として可動部材181は、制御室188に保持される作動油の圧力を受けることで、制御弾性部材185の復原力に抗して第一位置L1に定位する(
図9,14)。
【0074】
(2) 停止・始動
エンジンスイッチSWのオフ指令又はアイドルストップシステムISSのアイドルストップ指令といった停止指令に応じて、
図18,19に示すように通常運転中の内燃機関が停止するときには、燃料カットによって内燃機関を慣性回転状態とする前に、スプール68をロック領域Rlに移動させる。このときポンプ4からの作動油供給は、内燃機関の回転速度に応じた高い圧力で継続される。故に、各ロック位相Pm,Psでの回転位相ロックが上記(1)と同様の原理で解除されると共に、遅角室26,27,28の作動油圧力により回転位相が最遅角位相としての主ロック位相Pmへ変化する。
【0075】
こうした主ロック位相Pmへの変化後、内燃機関を慣性回転状態とすると、ポンプ4からの作動油の供給圧力は、
図18,19に示すように、当該慣性回転の速度に応じて漸次減少する。その結果、各ロック解除室161,171の圧力が消失し、内燃機関が主ロック位相Pmでの停止状態となると、以下に詳述するように、ロック制御機構18が主ロック部材160の状態を制御することで、ロックされる回転位相の切替が実現される。
【0076】
内燃機関の停止中、
図18の如くエンジン温度が設定温度Ts以上となる間の温間停止状態では、感温体189の膨張状態Seへの変化により、弁部材1861が閉弁位置Lcに移動して、逆止弁186が閉弁する(
図10)。その結果として可動部材181は、制御室188に保持される作動油の圧力を受けることで、制御弾性部材185の復原力に抗して第一位置L1に移動する。故に、主ロック解除室161の圧力消失状態にて主弾性部材163の復原力を受ける主ロック部材160は、主ロック孔162への嵌入位置Liに移動した状態となる(
図5,10)。またこのとき、副ロック解除室171の圧力消失状態にて副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、副ロック孔172及び制限溝174の外部でリアプレート13と接触する(
図5)。このような移動及び接触の結果、回転位相が主ロック位相Pmにロックされる。
【0077】
この後、エンジンスイッチSWのオン指令又はアイドルストップシステムISSの再始動指令といった始動指令に応じて、内燃機関のクランキングが設定温度Ts以上で開始される温間始動時には、
図18に示すように可動部材181が第一位置L1に移動したままとなる。これは、感温体189の膨張状態Se下、スプール68の移動位置がロック領域Rlに保持され、且つポンプ4からの作動油供給が実質止まった状態となることで、逆止弁186が閉弁状態に維持されることによる。こうしたことから、主ロック解除室161の圧力消失状態にて主弾性部材163の復原力を受ける主ロック部材160は、主ロック孔162への嵌入位置Liを維持する(
図5,10)。それと共に、副ロック解除室171の圧力消失状態にて副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、副ロック孔172及び制限溝174の外部でリアプレート13と接触する(
図5)。このような嵌入維持及び接触の結果、回転位相が主ロック位相Pmにロックされた状態で、内燃機関が完爆する。
【0078】
以上に対し、内燃機関の停止中に
図19の如くエンジン温度が設定温度Ts未満になった後の冷間停止状態では、感温体189の収縮状態Scへの変化により、弁部材1861が開弁位置Loに移動して、逆止弁186が開弁する(
図11)。その結果として制御室188の圧力が低下するため、当該圧力低下に応じて可動部材181は、制御弾性部材185の復原力によって第二位置L2に移動する。故に、主ロック解除室161の圧力消失状態にて主ロック部材160は、主弾性部材163の復原力に抗して、主ロック孔162からの脱出位置Leに移動する(
図6,11)。それと共に、副ロック解除室171の圧力消失状態にて副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、副ロック孔172及び制限溝174の外部でリアプレート13と接触する(
図6)。このような移動及び接触の結果、各ロック位相Pm,Psでの回転位相ロックが解除された状態となる。
【0079】
この後、エンジンスイッチSWのオン指令又はアイドルストップシステムISSの再始動指令といった始動指令に応じて、内燃機関のクランキングが設定温度Ts未満で開始される冷間始動時には、
図19に示すように可動部材181が第二位置L2に移動したままとなる。これは、感温体189の収縮状態Scによる逆止弁186の開弁状態下、スプール68の移動位置がロック領域Rlに保持され、且つポンプ4からの作動油供給が実質止まった状態となることによる。こうしたことから、主ロック解除室161の圧力消失状態にて主ロック部材160は、主弾性部材163の復原力に抗して、主ロック孔162からの脱出位置Leを維持する(
図6,11)。それと共に、副ロック解除室171の圧力消失状態にて副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、副ロック孔172及び制限溝174の外部でリアプレート13と接触することになる(
図6)。
【0080】
このようにして各ロック位相Pm,Psでの回転位相ロックが解除されている冷間始動時のベーンロータ14は、負トルクの作用によってハウジングロータ11に対する進角側へと相対回転することで、主ロック位相Pmから回転位相を進角させる。その結果、副ロック解除室171の圧力消失状態にて副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、まず、制限溝174へと進入する。これにより、正トルク作用時のベーンロータ14がハウジングロータ11に対する遅角側へと相対回転しても、主ロック位相Pmへの回転位相の戻りは、
図19の如く制限されることになる。
【0081】
さらにこの後、負トルクの作用により回転位相がさらに進角して副ロック位相Psまで変化すると、副ロック解除室171の圧力消失状態で副弾性部材173の復原力を受ける副ロック部材170は、副ロック孔172へ嵌入する(
図7)。またこのとき、主ロック解除室161の圧力消失状態にて主ロック部材160は、主弾性部材163の復原力に抗して、主ロック孔162からの脱出位置Leを維持する(
図7,12)。これら嵌入及び脱出維持の結果、
図19に示すように回転位相が副ロック位相Psにロックされた状態で、内燃機関が完爆する。
【0082】
(作用効果)
以上説明した第一実施形態によると、停止した内燃機関にてエンジン温度が設定温度Ts以上となる間の温間停止状態では、感温体189が膨張して逆止弁186を閉弁させる。これにより
、制御室188からの作動油排出が規制されるので、当該室188の作動油から圧力を与えられる可動部材181は、制御弾性部材185の第二位置L2側への復原力に抗して第一位置L1側に付勢される。その結果、可動部材181が第一位置L1に移動することで、主ロック孔162への主ロック部材160の嵌入が主ロック位相Pmにおいて許容、即ち主ロック位相Pmでの回転位相ロックが許容されることになる。ここで、気筒7内のピストン8が下死点BDCに到達するよりも遅いタイミングにて吸気弁9を閉じる主ロック位相Pmでは、内燃機関の次の始動時に、下死点到達後のピストン8のリフトアップに応じて気筒7内ガスが吸気系に押出されることで、実圧縮比が低下する(デコンプレッション効果)。故に、設定温度Ts以上での温間停止後となる温間始動時、例えばアイドルストップシステムISSによる再始動が
図20の如く頻繁に繰り返される場合でも、可動部材181を第一位置L1に定位させて主ロック位相Pmでの回転位相ロックを維持することで、始動不具合の発生を抑制できるのである。
【0083】
これに対し、停止した内燃機関にてエンジン温度が設定温度Ts未満になった後の冷間停止状態では、感温体189が収縮して逆止弁186を開弁させる。これにより
、制御室188からの作動油排出が許容されるので、可動部材181は、当該室188から与えられる作動油の圧力低下の中、制御弾性部材185の復原力により第二位置L2側に付勢される。その結果、可動部材181が第二位置L2に移動することで、主ロック孔162への主ロック部材160の嵌入が主ロック位相Pmにおいて解除、即ち主ロック位相Pmでの回転位相ロックが解除されることになる。故に、内燃機関の次の始動時には、カム軸2からの変動トルク作用のうち負トルク作用によって、ベーンロータ14がハウジングロータ11に対する進角側へと相対回転する。このとき、主ロック位相Pmよりも進角した副ロック位相Psにまで回転位相が変化すると、副ロック部材170が副ロック孔172に嵌入して回転位相が副ロック位相Psにロックされることで、吸気弁9を閉じるタイミングが可及的に早くなる。これにより、気筒7内ガスの押出し量が減少して、当該ガスの温度が実圧縮比と共に上昇するので、設定温度Ts未満での冷間停止後となる冷間始動時、例えば極低温環境下での車両の長時間放置後の始動時やアイドルストップシステムISSにより一時停止したまま運転終了する場合の再始動時等にあっても、着火性を向上させて始動性を確保できるのである。
【0084】
以上の如き第一実施形態によれば、エンジン温度に適した始動を実現することが、可能となる。
【0085】
ここで、特に第一実施形態によると、逆止弁186において逆止弾性部材1863の復原力により閉弁位置Lc側へ付勢される弁部材1861に対して、温間停止状態の感温体189は、膨張状態Seへの変化により開弁位置Lo側への付勢を緩和する。その結果、閉弁位置Lcに弁部材1861が定位することで、制御室188からの作動油排出が確実に規制されるので、可動部材181を第一位置L1に移動させて、主ロック位相Pmでの回転位相ロックを許容することができる。故に、その後となる温間始動時には、回転位相が主ロック位相Pmに保持されて、始動不具合の発生が抑制され得る。また一方、冷間停止状態の感温体189は、収縮状態Scへの変化により弁部材1861を、逆止弾性部材1863の復原力に抗して開弁位置Lo側へと付勢する。その結果、開弁位置Loに弁部材1861が移動することで、制御室188からの作動油排出が確実に許容されるので、可動部材181を第二位置L2に移動させて、主ロック位相Pmでの回転位相ロックを解除することができる。故に、その後となる冷間始動時には、回転位相が副ロック位相Psへと変化することで、始動性が確保され得る。以上によれば、温間始動時と冷間始動時とにそれぞれ適した回転位相への切替えを、正確に実現可能となるのである。
【0086】
また、第一実施形態によると、可動部材181を軸方向に移動可能に収容する収容孔164は、可動部材181及び逆止弁186の間に制御室188を形成する。故に温間停止状態では、制御室188から可動部材181及び収容孔164間の隙間へ作動油が漏出すると、可動部材181に関して、誤った第二位置L2側への移動が懸念される。しかし、収容孔164に対して同軸上の円環状に形成される可動シール184は、温間停止状態では第一位置L1へと移動する可動部材181に保持されて、当該部材181及び収容孔164の間を周方向に連続してシールするので、そうした懸念は払拭され得る。しかも、同軸上の収容孔164のうち大径孔部164aよりも小径の可動シール184は、温間停止状態での第一位置L1と冷間停止状態での第二位置L2とへ可動部材181と共に往復移動する際、当該孔部164aに対しては摺動しないので、可動部材181に与えられる移動抵抗が低減され得る。以上によれば、主ロック位相Pmにて回転位相ロックを許容乃至は解除するための可動部材181の移動を、正確且つ迅速に実現できる。したがって、温間停止後の温間始動時と冷間停止後の冷間始動時とにそれぞれ適した回転位相への切替えにつき、信頼性を高めることが可能である。
【0087】
さらに、第一実施形態による温間停止状態では、制御室188の作動油から圧力を与えられて第一位置L1に移動する可動部材181は、主ロック部材160との間の主弾性部材163を係止した状態にて、当該移動を実現することになる。故に、かかる係止状態の主弾性部材163は、主ロック部材160を主ロック孔162への嵌入位置Li側に確実に付勢して、主ロック位相Pmでの回転位相ロックを実現し得る。これによれば、温間停止後の温間始動性につき、信頼性を高めることが可能となる。
【0088】
またさらに、第一実施形態によると、主ロック部材160及び可動部材181の間において主弾性部材163の配置される配置空間182は、その密閉率が高くなると、主ロック部材160や可動部材181に大きな移動抵抗を与える懸念がある。しかし、大気通路183を通じて大気開放される配置空間182は、その密閉率が低くなるので、主ロック部材160や可動部材181に与えられる移動抵抗が低減され得る。これによれば、主ロック位相Pmにて回転位相ロックを許容乃至は解除するための各部材160,181の移動を、迅速に実現できる。したがって、温間停止後の温間始動時と冷間停止後の冷間始動時とにそれぞれ適した回転位相への切替えにつき、信頼性を高めることが可能である。
【0089】
加えて第一実施形態によると、主ロック位相Pm及び副ロック位相Ps間の回転位相においてベーンロータ14は、ハウジングロータ11に対する進角側へ進角弾性部材19によって付勢される。故に、内燃機関の冷間始動時に進角弾性部材19の付勢作用を受けるベーンロータ14は、変動トルクの作用も相俟って、ハウジングロータ11に対する回転位相を副ロック位相Psまで素早く変化させ得る。これによれば、冷間始動時の内燃機関において変動トルクを発生させるクランキングの開始から、副ロック位相Psにて回転位相をロックするまでに要する時間を、短縮できるので、特に冷間停止後の冷間始動性につき、信頼性を高めることが可能となる。
【0090】
(第二実施形態)
図21に示すように、本発明の第二実施形態は第一実施形態の変形例である。
【0091】
(ロック制御機構)
「ロック制御手段」としてのロック制御機構2018では、ハウジングロータ11に内蔵の逆止弁2186において弁ハウジング2860の軸方向は、ロータ11,14の径方向に対して実質垂直に交差する直交方向に規定されている。故に、かかる軸方向の弁ハウジング2860内に同軸上に嵌挿される弁部材1861は、ロータ11,14の径方向に対する直交方向に往復移動可能となっている。
【0092】
また、ロック制御機構2018において感温体2189は、円形平板状のバイメタルであり、高膨張層189aの弁窓1860a側に低膨張層189bを有する積層構造となっている。即ち、第一実施形態の感温体189と第二実施形態の感温体2189とでは、弁窓1860aに対する各層189a,189bの位置関係が反対となっている。かかる積層構造により感温体2189は、設定温度Ts以上に上昇したエンジン温度では、
図21の如く膨張した膨張状態Seへと変化することで、自身の中央部2189cを弁窓1860aから離間させる。このとき、弁凸部1861bとの接触により感温体2189は、第一実施形態と同様な付勢緩和作用を、弁部材1861に対して与える。また一方で感温体2189は、設定温度Ts未満に低下したエンジン温度では、
図22の如く収縮した収縮状態Scへと湾曲変化することで、中央部2189cを弁窓1860aに接近させる。このとき、弁凸部1861bとの接触により感温体2189は、第一実施形態と同様な開弁位置Lo側への付勢作用を、弁部材1861に対して与えることになる。
【0093】
(作動・作用効果)
以上説明した第二実施形態では、第一実施形態の説明作動に準じた作動が実現される。故に第二実施形態によれば、第一実施形態と同様な作用効果を得ることができる。しかも第二実施形態では、回転するハウジングロータ11及びベーンロータ14のうち後者に内蔵される弁部材1861は、それらロータ11,14の径方向、即ち回転遠心力の作用方向に対して交差する直交方向に往復移動するので、当該往復移動への回転遠心力の影響が小さくなる。故に逆止弁2186では、主ロック位相Pmでの回転位相ロックを許容するための閉弁と、当該回転位相ロックを解除するための開弁とが、停止した内燃機関のエンジン温度に応じて正確に切替えられ得る。したがって、温間停止後の温間始動時と冷間停止後の冷間始動時とにそれぞれ適した回転位相への切替えにつき、その信頼性を高めることが可能である。
【0094】
(第三実施形態)
図23に示すように、本発明の第三実施形態は第二実施形態の変形例である。
【0095】
(ロック制御機構)
「ロック制御手段」としてのロック制御機構3018では、第二実施形態で説明した感温体2189が複数枚、特に
図23の例では三枚重ねられている。但し、三枚のうち中央の感温体2189は、低膨張層189bの弁窓1860a側に高膨張層189aを位置させている。
【0096】
(作動・作用効果)
以上説明した第三実施形態では、第一実施形態の説明作動に準じた作動が実現される。故に第三実施形態によれば、第一実施形態と同様な作用効果を得ることができる。また、第三実施形態においても弁部材1861は、ロータ11,14の径方向に対する直交方向に往復移動するので、第二実施形態と同様な原理により、回転位相の切替え信頼性を高めることが可能である。さらに第三実施形態では、一枚の感温体2189が小型であるために、それ単独での膨縮変化量が小さくても、当該感温体2189が複数枚重ねて使用されるので、弁部材1861に対する開弁位置Lo側の付勢作用を確実に得ることもできるのである。
【0097】
(他の実施形態)
以上、本発明の複数の実施形態について説明したが、本発明は、それらの実施形態に限定して解釈されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0098】
具体的には、第一〜第三実施形態に関する変形例1として、気筒7内のピストン8が下死点BDCに到達するタイミングよりも遅いタイミングに吸気弁9を閉じる回転位相となる限りにおいて、最遅角位相よりも進角側の主ロック位相Pmを採用してもよい。また、第一〜第三実施形態に関する変形例2として、ロック部材160,170及び逆止弁186,2186をハウジングロータ11に支持させる一方、ロック孔162,172をベーンロータ14に形成してもよい。さらに、第一〜第三実施形態に関する変形例3として、コイルスプリング以外の種類の金属製スプリングの他、例えばゴム製部材等を、弾性部材163,173,185,1863に採用してもよい。またさらに、第一〜第三実施形態に関する変形例4として、内燃機関の完爆に伴って又は任意の時に作動油の供給を開始可能な電動ポンプを、ポンプ4に採用してもよい。
【0099】
第一〜第三実施形態に関する変形例5としては、進角弾性部材19を設けない構成を、採用してもよく、この場合、スプール68のロック領域Rlへの移動と内燃機関の慣性回転とを実行する順番を、逆にする。また、第一〜第三実施形態に関する変形例6として、エンジンスイッチSWのオフ指令又はアイドルストップシステムISSのアイドルストップ指令に応じて内燃機関が停止するときに、回転位相を副ロック位相Psにロックさせた後、エンジンスイッチSWのオン指令又はアイドルストップシステムISSの再始動指令に応じて内燃機関が始動するときに、当該位相Psでの回転位相ロックをそのまま実現させてもよい。
【0100】
第一〜第三実施形態に関する変形例7としては、ゴム製Oリング以外のシール部材により、シール184,1862を構成してもよい。また、第一〜第三実施形態に関する変形例8として可動シール184を、収容孔164の大径孔部164aと実質同径又は僅かに小径に形成して、当該孔部164aに摺動させてもよい。さらに、第一〜第三実施形態に関する変形例9として、シール184,1862を設けなくてもよい。またさらに、第一〜第三実施形態に関する変形例10として、シート部164c,1860bと保持部181e,1861aとを、互いに実質平行な平面状に形成してもよい。
【0101】
第一〜第三実施形態に関する変形例11としては、第一位置L1の可動部材181における可動係止部181aによっては、主ロック段差部160cを係止しない状態で、主ロック部材160を主ロック孔162に嵌入させてもよい。また、第一〜第三実施形態に関する変形例12として、第二位置L2の可動部材181における可動係止部181aによっては、主ロック段差部160cを係止しない状態で、主ロック部材160を主ロック孔162から脱出させてもよい。さらに、第一〜第三実施形態に関する変形例13として、大気通路183を設けなくてもよい。またさらに、第一実施形態に関する変形例14として、第二実施形態の感温体2189に準じて中央部2189cを弁窓1860aに対して離接させる構成、若しくは第三実施形態に準じて感温体2189を複数重ねる構成を、採用してもよい。