特許第6011232号(P6011232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011232
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】二次電池用正極及び非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/36 20060101AFI20161006BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20161006BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
   H01M4/36 C
   H01M4/13
   H01M4/62 Z
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-228589(P2012-228589)
(22)【出願日】2012年10月16日
(65)【公開番号】特開2014-53274(P2014-53274A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年3月9日
(31)【優先権主張番号】特願2012-177340(P2012-177340)
(32)【優先日】2012年8月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】大島 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】牧 剛志
【審査官】 赤樫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−211260(JP,A)
【文献】 特開2001−146427(JP,A)
【文献】 特開2004−171907(JP,A)
【文献】 特表2012−511809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と該集電体に結着された正極活物質層とを含み、
該正極活物質層は、正極活物質粒子と、該正極活物質粒子どうしを結着するとともに該正極活物質粒子と集電体とを結着する結着部と、少なくとも該正極活物質粒子の少なくとも一部表面を被覆するコート層とを含み、該コート層は中性条件でのゼータ電位が正のカチオン性材料を含むカチオン性材料層とゼータ電位が負のアニオン性材料を含むアニオン性材料層とが交互に積層されてなり、該正極活物質粒子のゼータ電位と正負が逆のゼータ電位をもつ材料層が該正極活物質粒子の表面に接合され、
該カチオン性材料層及び該アニオン性材料層の少なくとも一方には無機粒子が含まれており、前記無機粒子はフッ化アルミニウムであることを特徴とする二次電池用正極。
【請求項2】
集電体と該集電体に結着された正極活物質層とを含み、
該正極活物質層は、正極活物質粒子と、該正極活物質粒子どうしを結着するとともに該正極活物質粒子と集電体とを結着する結着部と、少なくとも該正極活物質粒子の少なくとも一部表面を被覆するコート層とを含み、該コート層は中性条件でのゼータ電位が正のカチオン性材料を含むカチオン性材料層とゼータ電位が負のアニオン性材料を含むアニオン性材料層とが交互に積層されてなり、該正極活物質粒子のゼータ電位と正負が逆のゼータ電位をもつ材料層が該正極活物質粒子の表面に接合され、
該カチオン性材料層及び該アニオン性材料層の少なくとも一方には無機粒子が含まれており、前記アニオン性材料層はポリアクリロニトリルを含むことを特徴とする二次電池用正極。
【請求項3】
集電体と該集電体に結着された正極活物質層とを含み、
該正極活物質層は、正極活物質粒子と、該正極活物質粒子どうしを結着するとともに該正極活物質粒子と集電体とを結着する結着部と、少なくとも該正極活物質粒子の少なくとも一部表面を被覆するコート層とを含み、該コート層は中性条件でのゼータ電位が正のカチオン性材料を含むカチオン性材料層とゼータ電位が負のアニオン性材料を含むアニオン性材料層とが交互に積層されてなり、該正極活物質粒子のゼータ電位と正負が逆のゼータ電位をもつ材料層が該正極活物質粒子の表面に接合され、
該カチオン性材料層及び該アニオン性材料層の少なくとも一方には無機粒子が含まれており、
前記アニオン性材料は、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリエチレングリコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ピメロニトリル、アジポニトリル、グルタロニトリル、スクシノニトリル、フタロニトリル、イソフタロニトリル、テレフタロニトリルから選択されることを特徴とする二次電池用正極。
【請求項4】
前記無機粒子はアルミニウム、チタン、マグネシウム及びジルコニウムから選ばれる金属の金属化合物からなる請求項2又は3に記載の二次電池用正極。
【請求項5】
前記無機粒子の粒径は1000nm未満である請求項1〜4のいずれかに記載の二次電池用正極。
【請求項6】
前記コート層の厚さは1nm〜1000nmである請求項1〜5のいずれかに記載の二次電池用正極。
【請求項7】
前記カチオン性材料層のゼータ電位は+20mV以上である請求項1〜6のいずれかに記載の二次電池用正極。
【請求項8】
前記カチオン性材料層は分子構造にNを有する有機カチオンを含む請求項1〜7のいずれかに記載の二次電池用正極。
【請求項9】
前記カチオン性材料層はポリエチレンイミンを含む請求項1〜8のいずれかに記載の二次電池用正極。
【請求項10】
前記アニオン性材料層のゼータ電位は-10mV以下である請求項1〜9のいずれかに記載の二次電池用正極。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の正極を有することを特徴とする非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池などに用いられる正極と、その正極を用いた非水系二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、充放電容量が高く、高出力化が可能な二次電池である。現在、主として携帯電子機器用の電源として用いられており、更に、今後普及が予想される電気自動車用の電源として期待されている。リチウムイオン二次電池は、リチウム(Li)を挿入および脱離することができる活物質を正極及び負極にそれぞれ有する。そして、両極間に設けられた電解液内をリチウムイオンが移動することによって動作する。リチウムイオン二次電池には、正極の活物質として主にリチウムコバルト複合酸化物等のリチウム含有金属複合酸化物が用いられ、負極の活物質としては多層構造を有する炭素材料が主に用いられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池はさらなる高容量化が求められ、正極電位の高電圧化が検討されている。しかし高電圧で駆動された場合には、繰り返し充放電後の電池特性が極端に悪化するという問題があった。この原因としては、充電時に正極近傍で電解液、電解質の酸化分解が生じるためと考えられている。
【0004】
すなわち正極近傍における電解質の酸化分解によってリチウムイオンが消費され、容量が低下すると考えられている。また電解液、電解質の分解物が電極内部やセパレータの空隙に堆積し、リチウムイオン伝導の抵抗となるため出力が低下すると考えられている。したがって、このような問題を解決するには、電解液の分解を抑制することが必要である。
【0005】
そこで特開平11-097027号公報、特表2007-510267号公報などには、正極表面にイオン伝導性高分子などからなる被覆層を形成した非水電解質二次電池が提案されている。被覆層を形成することで、正極活物質の溶出、分解などの劣化を抑制することができる。
【0006】
ところがこれらの公報には、4.3V以上の高電圧で充電した場合の評価が記載されておらず、そのような高電圧駆動に耐え得るのか不明であった。また被覆層の厚さも実質的にμmオーダーであり、リチウムイオン伝導の抵抗となっている。そして被覆層を形成する方法においても、スプレー塗布や1回のディッピング塗布で行われており、均一な膜厚とすることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-097027号公報
【特許文献2】特表2007-510267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高電圧駆動に耐え得る非水系二次電池用の正極を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の二次電池用正極の特徴は、集電体と集電体に結着された正極活物質層とを含み、
正極活物質層は、正極活物質粒子と、正極活物質粒子どうしを結着するとともに正極活物質粒子と集電体とを結着する結着部と、少なくとも正極活物質粒子の少なくとも一部表面を被覆するコート層とを含み、コート層は中性条件でのゼータ電位が正のカチオン性材料を含むカチオン性材料層とゼータ電位が負のアニオン性材料を含むアニオン性材料層とが交互に積層されてなり、正極活物質粒子のゼータ電位と正負が逆のゼータ電位をもつ材料層が正極活物質粒子の表面に接合され、カチオン性材料層及びアニオン性材料層の少なくとも一方には無機粒子が含まれていることにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明の二次電池用正極では、正極活物質粒子のゼータ電位と正負が逆のゼータ電位をもつ材料層が正極活物質粒子の表面に接合されている。例えば正極活物質粒子のゼータ電位が負であれば、先ずカチオン性材料層が積層され、その表面にアニオン性材料層が積層される。そのため、正極活物質粒子とカチオン性材料層とはクーロン力によって強固に接合される。またカチオン性材料層とアニオン性材料層ともクーロン力によって強固に接合される。したがってカチオン性材料層とアニオン性材料層を共に薄膜に形成することができ、コート層の総厚をnmオーダーとすることができるので、薄くかつ均一なコート層を形成することができる。
【0011】
こうして形成されたコート層は正極活物質粒子との接合強度が高いため、高電圧駆動時に正極活物質粒子と電解液との直接接触を抑制することができる。またコート層の総厚みがnmオーダーであれば、リチウムイオン伝導性の抵抗となることも抑制できる。したがって高電圧駆動によっても電解液の分解を抑制することができ、高容量であるとともに繰り返し充放電後も高い電池特性を維持できる非水系二次電池を提供することができる。
【0012】
そしてコート層中に無機粒子を含むことにより、コート層の密度が高くなり、活物質の電解液への接近をより防ぐことが可能となるため、充放電のサイクル特性が向上する。またディッピング法を用いてコート層を形成できるので、生産性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明にいうゼータ電位は、顕微鏡電気泳動法、回転回折格子法、レーザー・ドップラー電気泳動法、超音波振動電位(UVP)法、動電音響(ESA)法にて測定されるものである。特に好ましくはレーザー・ドップラー電気泳動法によって測定されたものである。(具体的な測定条件を以下に説明するが、この限りではない。先ず、DMF、アセトン、水を溶媒とし、固形分濃度0.1wt%の溶液(懸濁液)を調製した。測定は温度25℃で3回の測定を行い、その平均値を算出して求めた。またpHについては中性条件とした。中性条件とは例えばpH7程度である。)
【0014】
本発明の二次電池用正極は、集電体と集電体に結着された正極活物質層とからなる。集電体としては、リチウムイオン二次電池用正極などに一般に用いられるものを使用すれば良い。例えば、アルミニウム箔、アルミニウムメッシュ、パンチングアルミニウムシート、アルミニウムエキスパンドシート、ステンレススチール箔、ステンレススチールメッシュ、パンチングステンレススチールシート、ステンレススチールエキスパンドシート、発泡ニッケル、ニッケル不織布、銅箔、銅メッシュ、パンチング銅シート、銅エキスパンドシート、チタン箔、チタンメッシュ、カーボン不織布、カーボン織布等が例示される。
【0015】
正極活物質層は、正極活物質粒子と、正極活物質粒子どうしを結着するとともに正極活物質粒子と集電体とを結着する結着部と、少なくとも正極活物質粒子の少なくとも一部表面を被覆するコート層とを含む。
【0016】
正極活物質としては、例えばリチウム(Li)元素および4価のマンガン(Mn)元素を含み結晶構造が層状岩塩構造に属するリチウムマンガン系酸化物(Li2MnO3)からなるもの、リン酸オリビン系化合物LiMPO4(LiMnPO4、LiFePO4、LiCoPO4など)、LiCoO2、リチウムシリケート系化合物、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2、xLi2M1O3・(1-x)LiM2O2(0≦x≦1であって、M1は4価のMnを必須とする一種以上の金属元素、M2は4価のMnを必須とする二種以上の金属元素、いずれの場合もLiはその一部が水素で置換されてもよい)で表されるリチウムマンガン系酸化物などが例示される。
【0017】
これらのLi化合物又は固溶体の一部表面は改質されていてもよく、また一部表面を無機物が被覆していてもよい。この場合、改質された表面や被覆した無機物を含めて、正極活物質粒子と称する。
【0018】
コート層は、ゼータ電位が正のカチオン性材料を含むカチオン性材料層と、ゼータ電位が負のアニオン性材料を含むアニオン性材料層とが交互に積層されてなる。ゼータ電位が正のカチオン性材料としては、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリアニリン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドなどのカチオン性ポリマー、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどの分子構造にNを含む有機カチオン、層状複水酸化物(LDH)と称されるMg3Al(OH)8などの無機カチオンなどが例示される。成膜が容易なカチオン性ポリマーが特に好ましい。
【0019】
カチオン性材料は、ゼータ電位が+20mV以上であることが望ましい。ゼータ電位が+20mV未満であると、結合強度が低下するとともに均一なカチオン性材料層を形成することが困難となる。
【0020】
アニオン性材料としては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリエチレングリコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリルなどのアニオン性ポリマー、カルボキシル基を含む化合物、スルホン基を含む化合物、ホスフォン基を含む化合物、ピメロニトリルなどのニトリル基を含む化合物、などの有機アニオン、Zn(HPO4)2、層状チタン酸化合物などの無機アニオンなどが例示される。ポリエチレングリコールを用いる場合には、電解液への溶出を防止するという意味から数平均分子量が500以上のものが好ましく、数平均分子量が20,000のものが特に望ましい。また60℃〜150℃で熱処理されたポリエチレングリコールを用いることも好ましい。熱処理されたポリエチレングリコールを用いることで、電池特性がさらに向上する。熱処理温度が60℃未満では処理時間が長時間となり、150℃を超えると分解が始まるため好ましくない。なお熱処理は、真空中など非酸化性雰囲気が望ましいが、大気中で行うことも可能である。
【0021】
またアニオン性材料として、低分子量ニトリル化合物も好ましく用いられる。この低分子量ニトリル化合物としては、ピメロニトリル、アジポニトリル、グルタロニトリル、スクシノニトリルなどが例示される。またフタロニトリル、イソフタロニトリル、テレフタロニトリルなどの低分子量ニトリル化合物を用いることもできる。あるいはこれらの化合物の水素基が水酸基、アミノ基、スルホン基、カルボキシル基、ハロゲン基、NO2基、SH2基、フェニル基などで置換された化合物も例示される。数平均分子量が1,000以下の化合物を用いることが望ましい。
【0022】
アニオン性材料は、ゼータ電位が-20mV以下であることが望ましい。ゼータ電位が-20mVを超えると、カチオン性材料層との結合強度が低下するとともに、均一なアニオン性材料層を形成することが困難となる。
【0023】
カチオン性材料層及びアニオン性材料層の少なくとも一方には無機粒子が含まれている。無機粒子を含むことによって、充放電のサイクル特性が向上する。この無機粒子としては、アルミニウム、チタン、マグネシウム及びジルコニウムから選ばれる金属の酸化物、フッ化物、リン酸化物、硫酸化物、硫化物、窒化物、酢酸塩、炭酸塩、硝酸化物、ホウ化物などの金属化合物が例示される。リチウムイオン二次電池の正極に用いる場合には、中でも耐酸化性が高いフッ化物が望ましく、フッ化アルミニウムが望ましい。
【0024】
コート層中の無機粒子の含有量は、少しでも含まれればその分効果があるので、ゼロ質量%を超える量と云える。上限も特に制限されないが、多くなり過ぎるとコート層の成膜が困難となるので、成膜可能な量が上限と云える。
【0025】
また無機粒子の粒径は、正極活物質の粒径より小さいことが望ましく、特に1000nm未満であるのがよい。無機粒子の粒径が大きくなると、活物質表面における抵抗を増加させ、容量や出力特性が低下する場合がある。正極活物質の粒径はたとえばD50が2〜10μmである。
【0026】
カチオン性材料層及びアニオン性材料層を形成するには、CVD法、PVD法などを用いることも可能であるが、コストの面から好ましいとはいえない。そこでカチオン性材料又はアニオン性材料をそれぞれ溶媒に溶解し、それを塗布することで形成することが望ましい。塗布にあたっては、スプレー、ローラー、刷毛などで塗布してもよいが、正極活物質粒子の表面に均一に塗布するにはディッピング法にて塗布する事が望ましい。
【0027】
ディッピング法にて塗布すれば、正極活物質粒子どうしの間隙に溶液が含浸されるので、カチオン性材料層又はアニオン性材料層を正極活物質粒子の表面のほぼ全体に塗布することができる。したがって、正極活物質粒子と電解液との直接接触を確実に防止することができる。
【0028】
ディッピング法で塗布する方法として二つの方法がある。先ず、少なくとも正極活物質粒子とバインダーとを含むスラリーを集電体に結着させて正極を形成し、正極活物質粒子のゼータ電位と正負が逆のゼータ電位をもつ材料が溶解した溶液にその正極を浸漬する。例えば正極活物質粒子のゼータ電位が負であれば、カチオン性材料が溶解した溶液にその正極を浸漬する。それを引き上げて乾燥させ、続いてアニオン性材料が溶解した溶液に浸漬し、引き上げて乾燥させる。必要であればこれを繰り返して、所定の厚さのコート層を形成する。
【0029】
もう一つの方法として、正極活物質粒子の粉末を先ず正極活物質のゼータ電位と正負が逆のゼータ電位をもつ材料が溶解した溶液に混合し、それをフリーズドライ法などによって乾燥する。例えば正極活物質粒子のゼータ電位が負であれば、カチオン性材料が溶解した溶液に正極活物質粒子の粉末を混合し、フリーズドライ法などによって乾燥する。次いでアニオン性材料が溶解した溶液と混合して乾燥する。必要であればこれを繰り返して、所定の厚さのコート層を形成する。その後、コート層が形成された正極活物質粒子を用いて正極を形成する。
【0030】
コート層の厚さは、1nm〜1000nmの範囲であることが好ましく、1nm〜100nmの範囲であることが特に望ましい。コート層の厚さが薄すぎると、正極活物質粒子が電解液と直接接触する場合がある。またコート層の厚さがμmオーダー以上となると、二次電池とした場合に抵抗が大きくなってイオン伝導性が低下する。このように薄いコート層を形成するには、上記したディッピング用溶液のカチオン性材料又はアニオン性材料の濃度を低くしておき、交互に繰り返し塗布することで、薄くかつ均一なコート層を形成することができる。
【0031】
コート層は、正極活物質粒子の少なくとも一部表面を被覆すればよいが、電解液との直接接触を防ぐためには、正極活物質粒子のほぼ全面を被覆することが好ましい。
【0032】
カチオン性材料又はアニオン性材料を溶解する溶媒として、有機溶剤を用いることができる。この有機溶剤には特に制限はなく、複数の溶剤の混合物でも構わない。例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、DMF、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドンとエステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸n-ブチル、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート等)あるいはグライム系溶媒(ジグライム、トリグライム、テトラグライム等)の混合溶媒などを用いることができる。
【0033】
また正極活物質粒子の表面に最初に形成される材料層の材料が水溶性である場合には、溶媒として水を用いることが好ましい。少なくとも正極活物質粒子の表面に形成される材料層を水溶液から形成することで、二次電池とした場合のサイクル特性が向上する。この理由は明らかではないが、正極活物質粒子の表面を覆っていた不純物が水に溶解すること、材料のゼータ電位が大きくなって正極活物質とのクーロン力が増大すること、などが考えられている。
【0034】
ディッピング用溶液のカチオン性材料又はアニオン性材料の濃度は、0.001質量%以上かつ5.0質量%未満とすることが好ましく、0.1質量%〜1.5質量%の範囲が望ましい。濃度が低すぎると正極活物質粒子との接触確率が低くコートに長時間要するようになり、濃度が高すぎると正極上での電気化学反応を阻害する場合がある。
【0035】
正極活物質層に含まれる結着部はバインダーが乾燥することで形成された部位であり、正極活物質粒子どうしを、或いは正極活物質粒子と集電体とを結着している。コート層はこの結着部の少なくとも一部にも形成されていることが望ましい。このようにすることで結着強度がより高まるため、厳しいサイクル試験後にも正極活物質層のクラックや剥離を防止することができる。
【0036】
バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PolyVinylidene DiFluoride:PVDF)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、メタクリル樹脂(PMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、変性ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が例示される。正極用バインダーとしての特性を損なわない範囲で、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリブロックイソシアナート、ポリオキサゾリン、ポリカルボジイミド等の硬化剤、エチレングリコール、グリセリン、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルオリゴマ、フタル酸エステル、ダイマー酸変性物、ポリブタジエン系化合物等の各種添加剤を単独で又は二種以上組み合わせて配合してもよい。
【0037】
また正極活物質層には、導電助剤を含むことも好ましい。導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。導電助剤として、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)等を単独でまたは二種以上組み合わせて添加することができる。導電助剤の使用量については、特に限定的ではないが、例えば、活物質100質量部に対して、20〜100質量部程度とすることができる。導電助剤の量が20質量部未満では効率のよい導電パスを形成できず、100質量部を超えると電極の成形性が悪化するとともにエネルギー密度が低くなる。
【0038】
本発明の非水系二次電池は、本発明の正極を備えている。負極及び電解液は、公知のものを用いることができる。負極は、集電体と、集電体に結着された負極活物質層とからなる。負極活物質層は、負極活物質とバインダーとを少なくとも含み、導電助剤を含んでもよい。負極活物質としては、グラファイト、ハードカーボン、ケイ素、炭素繊維、スズ(Sn)、酸化ケイ素など公知のものを用いることができる。またSiOx(0.3≦x≦1.6)で表されるケイ素酸化物を用いることもできる。このケイ素酸化物粉末の各粒子は、不均化反応によって微細なSiと、Siを覆うSiO2とに分解したSiOxからなる。xが下限値未満であると、Si比率が高くなるため充放電時の体積変化が大きくなりすぎてサイクル特性が低下する。またxが上限値を超えると、Si比率が低下してエネルギー密度が低下するようになる。0.5≦x≦1.5の範囲が好ましく、0.7≦x≦1.2の範囲がさらに望ましい。
【0039】
一般に、酸素を断った状態であれば800℃以上で、ほぼすべてのSiOが不均化して二相に分離すると言われている。具体的には、非結晶性のSiO粉末を含む原料酸化ケイ素粉末に対して、真空中または不活性ガス中などの不活性雰囲気中で800〜1200℃、1〜5時間の熱処理を行うことで、非結晶性のSiO2相および結晶性のSi相の二相を含むケイ素酸化物粉末が得られる。
【0040】
またケイ素酸化物として、SiOxに対し炭素材料を1〜50質量%で複合化したものを用いることもできる。炭素材料を複合化することで、サイクル特性が向上する。炭素材料の複合量が1質量%未満では導電性向上の効果が得られず、50質量%を超えるとSiOxの割合が相対的に減少して負極容量が低下してしまう。炭素材料の複合量は、SiOxに対して5〜30質量%の範囲が好ましく、5〜20質量%の範囲がさらに望ましい。SiOxに対して炭素材料を複合化するには、CVD法などを利用することができる。
【0041】
ケイ素酸化物粉末は平均粒径が1μm〜10μmの範囲にあることが望ましい。平均粒径が10μmより大きいと非水系二次電池の充放電特性が低下し、平均粒径が1μmより小さいと凝集して粗大な粒子となるため同様に非水系二次電池の充放電特性が低下する場合がある。
【0042】
負極における集電体、バインダー及び導電助剤は、正極活物質層で用いられるものと同様のものを用いることができる。
【0043】
上記した正極及び負極を用いる本発明の非水系二次電池は、特に限定されない公知の電解液、セパレータを用いることができる。例えばリチウムイオン二次電池の場合には、電解液は、有機溶媒に電解質であるリチウム金属塩を溶解させたものである。電解液は、特に限定されない。有機溶媒として、非プロトン性有機溶媒、たとえばプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等から選ばれる一種以上を用いることができる。また、溶解させる電解質としては、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiI、LiClO4、LiCF3SO3等の有機溶媒に可溶なリチウム金属塩を用いることができる。
【0044】
例えば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの有機溶媒にLiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3等のリチウム金属塩を0.5mol/lから1.7mol/l程度の濃度で溶解させた溶液を使用することができる。
【0045】
セパレータは、正極と負極とを分離し電解液を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い微多孔膜を用いることができる。
【0046】
本発明の非水系二次電池は、形状に特に限定はなく、円筒型、積層型、コイン型等、種々の形状を採用することができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極にセパレータを挟装させ電極体とし、正極集電体および負極集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後、この電極体を電解液とともに電池ケースに密閉して電池となる。
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
【実施例1】
【0048】
本実施例では、正極活物質粒子としてD50が5.5μmであるLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2粉末を用い、カチオン性材料としてポリエチレンイミン(PEI)を用い、アニオン性材料としてポリアクリロニトリル(PAN)を用いた。
【0049】
<ゼータ電位測定>
正極活物質粒子の粉末を0.1質量%の濃度となるようにアセトン中に分散させ、ゼータ電位を測定した。ゼータ電位の測定は、レーザー・ドップラー法にて温度25℃、石英製のセルを用いて測定した。その結果、正極活物質のゼータ電位は-75.7mVであった。次に、上記の正極活物質粉末のアセトン分散液中に、濃度0.1質量%となるように数平均分子量が1,800のポリエチレンイミン(PEI)を溶解させ、25℃で1時間撹拌した。これを濾過し、エタノールで洗浄後に風乾してカチオン性材料層が形成された正極活物質粉末を得た。これを再び0.1質量%の濃度となるようにアセトン中に分散させ、ゼータ電位を上記と同様に測定した。その結果、ゼータ電位は59.8mVであった。
【0050】
このアセトン分散液中に、濃度0.1質量%となるようにポリアクリロニトリル(PAN)(Mw=150000、ポリサイエンス社製)を溶解させ、25℃で1時間撹拌した。これを濾過し、エタノールで洗浄後に風乾してカチオン性材料層の表面にアニオン性材料層が形成された正極活物質を得た。これを再び0.1質量%の濃度となるようにアセトン中に分散させ、ゼータ電位を上記と同様に測定した。その結果、ゼータ電位は-12.7mVであった。
【0051】
すなわち上記した正極活物質粒子は負電荷を帯びているが、カチオン性材料層を形成することで正電荷を帯び、さらにアニオン性材料層を形成することで再度負電荷を帯びることがわかる。以上より、正極活物質粒子表面にカチオン性材料、アニオン性材料が順次積層されていることが示唆される。
【0052】
<正極の作製>
正極活物質粉末としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2が88質量部と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)が6質量部と、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)が6質量部と、を含む混合スラリーをアルミニウム箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、乾燥させて約15μmの厚さで正極活物質層を作製した。
【0053】
数平均分子量(Mn)が1,800のポリエチレンイミン(PEI)を濃度1質量%となるようにエタノールに溶解した溶液に、上記正極を25℃で15分間浸漬し、その後取り出して風乾させた。続いて、ポリアクリロニトリル(PAN)(Mw=150000、ポリサイエンス社製)が1質量%、フッ化アルミニウム粉末(平均粒子径600nm、高純度化学社製)が1質量%となるように溶解及び分散したDMF溶液に25℃で30分間浸漬し、その後取り出して風乾させた。
【0054】
正極活物質粒子どうしの間隙にポリマー溶液が十分に含浸するため、カチオン性材料層とアニオン性材料層は正極活物質粒子のほぼ全面にコートされる。また25℃で浸漬しており、カチオン性材料層やバインダーの溶出は見られなかった。ポリエチレンイミン(PEI)のコート層(カチオン性材料層)と、フッ化アルミニウム粉末を含むポリアクリロニトリル(PAN)のコート層(アニオン性材料層)は、それぞれ約5nmに形成されている。
【0055】
<負極の作製>
グラファイトが97質量部と、導電助剤としてのケッチェンブラック(KB)粉末1質量部と、スチレンブタジエンゴム(SBR)とカルボキシメチルセルロース(CMC)の混合物よりなるバインダー2質量部を混合し、スラリーを調製した。このスラリーを、厚さ18μmの電解銅箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、銅箔上に約15μmの厚さで負極活物質層を形成した。
【0056】
<リチウムイオン二次電池の作製>
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを3:7(体積比)で混合した混合溶媒に、LiPF6を1Mの濃度で溶解させ、非水電解液を調製した。
【0057】
そして上記の正極および負極の間に、セパレータとして厚さ20μmの微孔性ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン積層フィルムを挟装して電極体とした。この電極体をポリプロピレン製ラミネートフィルムで包み込み、周囲を熱融着させてフィルム外装電池を作製した。最後の一辺を熱融着封止する前に上記の非水電解液を注入し、電極体に含浸させた。
【0058】
<試験>
上記で得られたリチウムイオン二次電池を用い、先ず温度25℃において1Cで充電を行い、次に0.33CのCC放電レートにおける放電容量を測定した。その後、温度55℃、1CのCCCV充電(定電流定電圧充電)の条件下において4.5Vで充電し、10分間休止した後、1CのCC放電(定電流放電)で3.0Vにて放電し、10分間休止するサイクルを25サイクル繰り返すサイクル試験を行った。
【0059】
サイクル試験後、再び温度25℃において、1Cで充電を行い、CC放電レート0.33Cにおける放電容量を測定した。
【0060】
25℃におけるサイクル試験前の放電容量に対するサイクル試験後の放電容量の割合である容量維持率を算出し、結果を表1に示す。
【実施例2】
【0061】
ポリアクリロニトリル(PAN)が1質量%、フッ化アルミニウム粉末(平均粒子径600nm、高純度化学社製)が5質量%となるように溶解及び分散したDMF溶液を用いてアニオン性材料層を形成したこと以外は実施例1と同様にして正極を形成し、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製し、実施例1と同様にして容量維持率を算出した。結果を表1に示す。
【0062】
[比較例1]
コート層を形成しなかったこと以外は実施例1と同様の正極を用い、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製し、実施例1と同様にして容量維持率を算出した。結果を表1に示す。
【0063】
<評価>
【表1】
【0064】
表1から、各実施例のリチウムイオン二次電池は、4.5Vという高電圧で充電しているにも関わらず、比較例1のリチウムイオン二次電池に比べて0.33Cレートにおける容量維持率が向上していることがわかる。この効果は、カチオン性材料層とアニオン性材料層とからコート層を形成したこと、及びコート層中にフッ化アルミニウム粉末を含むことによるものであることが明らかである。