(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011239
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】耐硫化性導電材、耐硫化性導電膜および太陽電池
(51)【国際特許分類】
H01B 1/02 20060101AFI20161006BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20161006BHJP
C22C 19/03 20060101ALI20161006BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20161006BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20161006BHJP
C01B 25/08 20060101ALI20161006BHJP
H01L 51/46 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
H01B1/02 Z
H01B5/14 Z
C22C19/03 M
C22C14/00 Z
C22C30/00
C01B25/08 Z
H01L31/04 170
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-230952(P2012-230952)
(22)【出願日】2012年10月18日
(65)【公開番号】特開2014-82166(P2014-82166A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2015年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸明
(72)【発明者】
【氏名】堀江 俊男
(72)【発明者】
【氏名】北原 学
(72)【発明者】
【氏名】田島 伸
【審査官】
神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−200038(JP,A)
【文献】
特開2009−242885(JP,A)
【文献】
特開2000−251898(JP,A)
【文献】
特開2011−009124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/02、5/14、25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト(Co)、チタン(Ti)およびリン(P)を必須元素とし、
全元素の原子比の合計を1としたときに、該必須元素のそれぞれの原子比は0.1〜0.6であることを特徴とする耐硫化性導電材。
【請求項2】
さらに、窒素(N)を含有する請求項1に記載の耐硫化性導電材。
【請求項3】
全元素の原子比の合計を1としたときに、Nの原子比は0.01〜0.55である請求項2に記載の耐硫化性導電材。
【請求項4】
非晶質である請求項1〜3のいずれかに記載の耐硫化性導電材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の耐硫化性導電材からなることを特徴とする耐硫化性導電膜。
【請求項6】
硫黄(S)を含有し受光により起電力を生じ得る光発電層と、
該光発電層の受光側である表面側に形成された表面電極と、
該光発電層の裏面側に形成された裏面電極と、
を有する太陽電池であって、
前記光発電層に接する少なくとも一部は、Co、TiおよびPを必須元素とする耐硫化性導電材からなることを特徴とする太陽電池。
【請求項7】
前記耐硫化性導電材は、請求項1〜4のいずれかに記載の耐硫化性導電材である請求項6に記載の太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも耐硫化性に優れると共に高い導電性を発揮する耐硫化性導電材または耐硫化性導電膜と、その耐硫化性導電材を電極(特に裏面電極)等に用いた太陽電池とに関する。
【背景技術】
【0002】
クリーンエネルギー源である太陽電池や、太陽電池や風力発電等で生じた電力を蓄える蓄電池(例えばナトリウム硫黄電池(NAS電池))などが着目されている。太陽電池は、太陽光などの受光により電子が励起されて起電力が生じる効果(光起電力効果)を利用したものであるが、その歴史は古く、材質、形態、構造などにより多種多様である。
【0003】
太陽電池の一種として、最近では、カルコパイライト系(CIS系)の薄膜多結晶型太陽電池が多く用いられるようになってきた。特に、光起電力効果を生じる光発電層がCu(In,Ga)(Se,S)
2 からなるCIGSS型太陽電池、光発電層がCuInS
2 からなるCIS型太陽電池などのように、光発電層に硫黄(S)を含有したものが着目されている。この他、Sを含有する太陽電池として、光発電層がCu
2ZnSnS
4からなるCZTS型太陽電池、光発電層がCdTe−CdSからなる太陽電池などもある。
【0004】
ところで、Sを含む光発電層に接する電極は、その製造工程中に硫化水素を用いた硫化工程を含むため、硫化物を形成して腐食し易く、強い耐硫化性が要求される。現状ではMoからなる電極が使用されているが、Moは高価であり、また、その耐硫化性も必ずしも十分とはいえない。
【0005】
そもそも、導電性に優れる金属は、一般的に硫化物からなる不働態膜を形成せず、耐硫化性に乏しい。逆に、アルミナシリカなどの酸化物(セラミックス)は耐硫化性に優れるが、絶縁物であり導電性が乏しい。このため導電性を有する耐硫化物としては、上述したMoの他、下記の特許文献で提案されているような、Ag中にRu酸化物を分散等させた接点材料ぐらいしかなかった。このような接点材料は、高価であり、用途が特殊な場合に限られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−298125号公報
【特許文献2】特開平1−307114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、これまで未知であった組成からなる新たな耐硫化性導電材または耐硫化性導電膜と、それらを用いた太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し試行錯誤を重ねた結果、基板上に形成したCo、TiおよびPからなる皮膜が、導電性と共に非常に優れた耐硫化性を発揮することを見出した。この成果を発展させることにより以降に述べる種々の発明を完成させるに至った。
【0009】
《耐硫化性導電材》
(1)すなわち、本発明の耐硫化性導電材は、コバルト(Co)、チタン(Ti)およびリン(P)を必須元素と
し、全元素の原子比の合計を1としたときに、該必須元素のそれぞれの原子比は0.1〜0.6であることを特徴とする。
【0010】
(2)本発明の耐硫化性導電材は、導電性と共に非常に優れた耐硫化性を発現する。しかも本発明の耐硫化性導電材は、比較的安価に得られるため、Sを含む各種デバイス(太陽電池、蓄電池等)や種々の耐硫化バリヤ等に広く利用され得る。
【0011】
もっとも、本発明の耐硫化性導電材が、耐硫化性および導電性に優れる理由は必ずしも定かではない。現状では次のように考えられる。Ti
3P、FeTiP、CrTiPなどのチタンニクタイドは導電性と共に耐酸化性等に優れる。しかし、それらの耐硫化性は十分ではなく、事実、耐酸化性に最も優れると考えられるCrTiPなども、硫化物を形成して導電性を低下させることがわかった。
【0012】
これに対してCo、TiおよびPからなるチタンニクタイドが、耐硫化性に優れ安定した導電性を発揮するのは、それら必須元素が相乗的に協働し、CrTiPなどとは異なる特殊な電子構造を構成したためと考えられる。具体的にいうと、例えば、CoTiP系薄膜はp型半導体としての特性を示し、例えば、酸化反応を生じ易い。このことから、Co、TiおよびPからなる本発明の耐硫化性導電材も、表面に安定的な硫化物被膜を形成し、優れた耐硫化性を発揮するようになったと考えられる。
【0013】
なお、本発明の耐硫化性導電材は、十分に優れた耐硫化性および導電性を発揮するが、必ずしも両者が高次元で両立している必要はない。本発明の耐硫化性導電材は、その用途や実用性に応じて、耐硫化性(硫化雰囲気中における耐腐食性)または導電性の一方に優れていても良い。
【0014】
ところで、本発明の耐硫化性導電材は、上記の必須元素(Co、Ti、P)以外にNを含有していると、より優れた耐硫化性を発現することがわかっている。
【0015】
さらに、本発明の耐硫化性導電材は、結晶質でもよいが、非晶質(アモルファス)であると、均質化または平滑化され、表面欠陥等が少なくなり、高い耐硫化性を発揮し得る。
【0016】
ちなみに本発明の耐硫化性導電材は、その形態を問わず、所定形状をした部材自体であってもよいし、加工、成形等される素材、粉末などでもよい。
【0017】
《耐硫化性導電膜》
本発明は、単に耐硫化性導電材としてのみならず、その一形態である耐硫化性導電膜としても把握される。さらに本発明は、基材と、この基材の少なくとも一部の表面に形成された耐硫化性導電膜とからなる耐硫化導電部としても把握できる。なお、本発明に係る基材は、材質、形状、大きさ等を問わない。耐硫化性導電膜が形成される限り、基材のベース(中核部分)は、Ti、Al、Fe(ステンレスを含む)、Mgなどの金属でも良いし、さらには樹脂、セラミック等でも良い。
【0018】
《太陽電池》
上記の耐硫化導電部材の一例として、例えば、次のような太陽電池がある。すなわち本発明は、Sを含有し受光により起電力を生じ得る光発電層と、該光発電層の受光側である表面側に形成された表面電極と、該光発電層の裏面側に形成された裏面電極と、を有する太陽電池であって、光発電層に接する少なくとも一部は
Co、TiおよびPを必須元素とする耐硫化性導電材からなることを特徴とする太陽電池としても把握できる。より具体的には、表面電極や裏面電極の少なくとも一部が本発明の耐硫化性導電膜からなると、より好適である。
【0019】
《製造方法》
本発明の耐硫化性導電材、耐硫化性導電膜または耐硫化導電部材(太陽電池等)は、その製造方法や形成方法等を問わない。例えば、耐硫化性導電膜は、メッキや化学的気相成長法(CVD)のような化学的方法により形成されてもよいし、物理的気相成長法(PVD)のような物理的方法により形成されてもよい。例えば、PVDを行う場合なら、ターゲット組成を調整することにより、ほぼ所望組成の耐硫化性導電膜の形成が可能となる。
【0020】
《その他》
(1)本発明の耐硫化性導電材(耐硫化性導電膜を含む)は、上述した主要元素(Co、Ti、P、N)以外に、その特性を改善し得る「改質元素」やコスト的または技術的な理由等により除去することが困難な不可避不純物元素を当然に含み得る。
【0021】
(2)本明細書でいう「耐硫化性」は、特に断らない限り、硫化雰囲気下でも安定した導電性を発現することを意味する。その程度は耐硫化性導電材の用途等により異なるため一概にはいえないが、敢えて指標を示すと、H
2Sを20体積%含む500℃の窒素雰囲気(0.1MPa)中に20分間曝す硫化試験後の電気抵抗率(ρ)の増加率(Δρ)が、10倍以下さらには5倍以下とするとよい。なお、硫化試験前の電気抵抗率(ρ
0)、硫化試験後の電気抵抗率(ρ
1)として、増加率:Δρ=(ρ
1−ρ
0)/ρ
0 として表される。なお、本明細書でいう「導電性」の程度も耐硫化性導電材の用途等により異なるため一概にはいえないが、例えば、硫化試験前後で、電気抵抗率が10
−4Ω・m以下さらには10
−5Ω・m以下であると好ましい。
【0022】
(3)特に断らない限り、本明細書でいう「x〜y」は、下限値xおよび上限値yを含む。さらに本明細書中に記載した数値やその「x〜y」に含まれる任意の数値を適宜組合わせて、新たな任意の数値範囲「a〜b」を構成し得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】組成の異なる各試料の電気抵抗率(体積抵抗率)を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。本明細書で説明する内容は、本発明に係る耐硫化性導電材のみならず、耐硫化性導電膜や耐硫化導電部材、それらの製造方法等にも該当し得る。本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を、上述した本発明の構成要素に付加することができる。プロダクトバイプロセスクレームとして理解すれば、製造方法に関する内容も耐硫化導電部材等に関する構成要素となり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0025】
《耐硫化性導電材》
(1)組成
本発明の耐硫化性導電材(耐硫化性導電膜等を含む。)は、必須元素であるCo、TiおよびPからなり、主要な改質元素であるNを適宜含む。これら元素の割合(組成)は問わず、それら以外の他元素が含まれてもよい。
【0026】
もっとも、耐硫化性導電材を構成する全元素の原子比の合計を1としたときに、各必須元素それぞれの原子比は0.1〜0.6、0.2〜0.5さらには0.25〜0.4であると好ましい。特に、各必須元素の原子比がほぼ等しいとより好ましい。いずれの必須元素が過少または過多でも、安定した耐硫化性または導電性が得られないと考えられる。
【0027】
特にNを含む場合、上記した全元素の原子比の合計を1としたときに、Nの原子比が0.05〜0.5、0.1〜0.4さらには0.15〜0.3であると好ましい。このとき、各必須元素の原子比は、Nを除いた全元素内で前述した範囲であると好ましい。
【0028】
なお、本発明の耐硫化性導電材は、不純物を除いて、必須元素のみからなる場合か、さらにNが含まれる場合に、十分に高い耐硫化性を発揮する。このため、それら元素以外の改質元素は特に必要ないが、敢えていうなら、少量のニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)などが含まれてもよいと考えられる。
【0029】
(2)構造
本発明の耐硫化性導電材(特に耐硫化性導電膜)は、明確な結晶構造をとらない非晶質であると、均質的または等方的で、腐食の起点となる結晶粒界や格子欠陥等がなく好ましい。なお、本発明でいう非晶質(アモルファス相)は、X線回折装置(XRD)で強い回折が検出されない程度であれば足り、結晶構造を完全にもたない非晶質でも、XRDで弱い回折が検出される潜晶質でもよい。
【0030】
また本発明の耐硫化性導電材または耐硫化性導電膜は、深さ方向または厚さ方向に関して、組成や組織が連続的に変化した傾斜構造をしていてもよいし、不連続的に変化する多層構造をしていてもよい。また本発明の耐硫化性導電膜は、基材の表面に薄く形成されているだけでも、十分な耐硫化性を発現し得る。例えば、その厚さは10〜1000nmさらには50〜300nm程度でも十分である。基材表面と耐硫化性導電膜の間には、下地層または支持層となる中間層があってもよい。中間層は、導電性に優れた金属の他、例えば、結晶構造をもつTi
3Pなどからなる化合物層でもよい。
【0031】
《製造方法》
(1)耐硫化性導電膜の形成
耐硫化性導電膜の形成(皮膜形成工程)に必要な必須元素は、基材と独立した供給源から供給されてもよいし、基材側からその一部が供給されてもよい。基材と独立した供給源から必須元素が供給される場合、所望組成の耐硫化性導電膜の形成が容易となる。
【0032】
皮膜形成工程は、その種類を問わず、例えば、スパッタ法(スパッタリング)、蒸着法(PVD)、反応性雰囲気下での蒸着法(CVDまたはPVD+CVD)等により行える。基材の材質・形態・特性、耐硫化性導電膜の組成や厚さなどを考慮して適切な方法が選択される。そのなかでも、均一な皮膜を効率的に形成できる蒸着法、特に物理気相蒸着(PVD)法が好ましい。
【0033】
PVDは、真空中で、蒸着原料(ターゲット)から発生させた必須元素を基材表面に付着させる方法である。基材上への皮膜形成には、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、レーザー蒸着法(パルスレーザーデポジション)などを用いることができる。
【0034】
(2)窒化工程
耐硫化性導電材(特に耐硫化性導電膜)へのNの導入は、例えば、PVD等の処理雰囲気へ窒化を導入して行ってもよいし、ガス窒化、イオン窒化、塩浴窒化などの窒化法により行ってもよい。
【0035】
《用途》
本発明の耐硫化性導電材や耐硫化性導電膜は、その用途に限定はなく、種々の利用が考えられる。例えば、硫化物からなる半導体や太陽電池等のデバイス用の電極や接点、硫化雰囲気で用いられる各種電気部材や電子部品(接触端子、NAS電池の硫黄極(正極)の周辺部材、CZTS型太陽電池の裏面電極等)、その他、種々の耐硫化性バリヤとして、本発明の耐硫化性導電材等は好適である。なお、その耐硫化性バリヤは、導電性が必要な部材に限らず、導電性が不要な部材に設けられてもよい。
【実施例】
【0036】
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
《試料の製造》
基材となるガラス基板(コーニング社EAGLE XG)を用意した。この基板上に、RFマグネトロンスパッタ法を用いて、各種の皮膜を成膜した(皮膜形成工程)。
【0037】
ターゲットは、市販されているTiP粉末(10〜100μm)、Co
2P粉末(10〜100μm)、CrP粉末(10〜100μm)およびCo粉末、Ti粉末(10〜100μm)を、所望組成に配合した混合粉末を用いた。この際、混合粉末は揺動混合器を用いて均一に調製した。この混合粉末の圧粉体をターゲートとして、リン化物の薄膜を成膜した。
【0038】
RFマグネトロンスパッタは、100W、1時間、0.5Paの条件下で行った。この際のスパッタガスには、ArガスまたはArとN
2の混合ガスを用いた。こうしてガラス基板上に成膜された表1に示す各試料を製造した。なお、各試料の製造時に用いたターゲットの組成(原子比)とスパッタガスの組成(体積比)も表1に併せて示した。なお、表1に示したターゲット組成は、次のような観点から選択した。すなわち、CoTiPは、p型半導体特性を示し、光発電層を構成するp型CZTS(Cu
2ZnSnS
4)とのマッチングがよい。またCrTiPは、発明者が現在認識しているチタンニクタイド系導電材の内で、硫酸中において最も優れた耐食性を示す。
【0039】
《観察》
(1)各試料に係る皮膜について、ラザフォード後方散乱分析(RBS)により組成分析を行った。このときの測定は、イオン種:He、イオンエネルギー:1.8MeV、散乱角:160°、散乱槽の真空度:3×10
−6Torrの条件下で行った。その結果、各皮膜中に含まれるTi、P、CoまたはCrの原子比は、用いたターゲット組成と実質的に同じであった。Nは軽元素であるため、正確な定量は困難であるが、スパッタガスにN
2 を混在させた試料の皮膜中には、相当量(全体を1とした原子比で0.01〜0.55程度)のNが含まれていることは確認されている。
【0040】
(2)各試料に係る皮膜の結晶構造をX線回折装置(XRD)で解析した。いずれの場合も、シャープなピークが現れず、各皮膜はアモルファス状であることが確認された。またいずれの皮膜も、金属光沢を示しており、触針式粗さ計を用いてガラス基板との段差から求めた厚さは約200〜400nm程度であった。
【0041】
《硫化試験》
(1)各試料の耐硫化性を評価するため、ガラス基板上に成膜された各皮膜を500℃の硫化雰囲気に20分間曝す硫化試験を行った。硫化雰囲気は、H
2Sを20体積%含むN
2ガス雰囲気(10
−1MPa)とした。この試験前後で測定した各試料の体積抵抗率を表1および
図1に併せて示した。
【0042】
(2)この硫化試験後、CrTiPからなる試料C1および試料C2は、金属光沢が消えて黒色に変色し、皮膜が部分的に剥離していた。一方、CoTiPからなる試料1〜3は、いずれも金属光沢を失っておらず、皮膜の剥離も観られなかった。
【0043】
《評価》
表1から明らかなように、CoTiPからなる試料1〜3はいずれも、優れた耐硫化性を示し、硫化雰囲気中でも安定した導電性が確保されることが明らかとなった。具体的には、硫化試験後でも体積抵抗率が10μΩ・m以下となり、その試験前後の増加率(Δρ)は10倍以内さらには5倍以内であった。さらに、Nを含有する試料2および試料3では、Nを含有しない試料1と異なり、硫化試験後の体積抵抗率が減少する(Δρがマイナスになる)ことも明らかとなった。
【0044】
一方、CrTiPからなる試料C1や試料C2は、硫化試験後に体積抵抗率が1000〜10000倍程度に増大しており、耐硫化性に劣ることが明らかとなった。このことから、チタンニクタイド系導電材でも、その組成により、耐食性に優れる雰囲気が全く異なることが明らかとなった。
【0045】
なお、表1および
図1には、Ni単体からなる薄膜を前述した基材に同様に形成した試料C3の耐硫化性も示した。この場合も、試料C1や試料C2と同様に、硫化試験後に体積抵抗率が急増しており、耐硫化性に劣ることがわかった。
【0046】
【表1】