(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第二の測定ステップは、前記試料を第二の検査液に混合してから前記第一の検査液に投入して前記蛍光の強度を測定するステップであり、第二の検査液は、前記第一の検査液中の抗体以外の成分のうち無視し得ない蛍光を発する成分が少なくとも共通していることを特徴とする請求項1記載の蛍光測定方法。
前記第二の測定ステップは、前記試料を第二の検査液に混合してから前記第一の検査液に投入して前記蛍光の強度を測定するステップであり、前記抗体は蛍光試薬によって蛍光標識されており、第二の検査液は、前記第一の検査液中の抗体及び蛍光試薬以外の成分のうち無視し得ない蛍光を発する成分が少なくとも共通していることを特徴とする請求項1記載の蛍光測定方法。
請求項2に記載の蛍光測定方法に使用される蛍光測定キットであって、前記第一の検査液と前記第二の検査液とを収容した試料容器を有しており、試料容器は、試料を前記第二の検査液に投入した後に当該第二の検査液を前記第一の検査液に混合させることが可能な構造を有しており、
収容されている前記第二の検査液は、収容されている前記第一の検査液中の抗体以外の成分のうち無視し得ない蛍光を発する成分が少なくとも共通していることを特徴とする蛍光測定キット。
請求項3に記載の蛍光測定方法に使用される蛍光測定キットであって、前記第一の検査液と前記第二の検査液とを収容した試料容器を有しており、試料容器は、試料を前記第二の検査液に投入した後に当該第二の検査液を前記第一の検査液に混合させることが可能な構造を有しており、
収容されている前記第一の検査液中の抗体は蛍光試薬によって蛍光標識されており、
収容されている前記第二の検査液は、収容されている前記第一の検査液中の抗体及び蛍光試薬以外の成分のうち無視し得ない蛍光を発する成分が少なくとも共通していることを特徴とする蛍光測定キット。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本願発明を実施するための形態(以下、実施形態)について説明する。
図1は、本願発明の実施形態の蛍光測定方法の概略図を示した図である。実施形態の方法は、抗体反応を利用して試料の同定又は定量を行う方法である。
この方法では、同定又は定量の目的物質は抗原であり、この抗体となる物質が試薬として使用される。試薬とは、測定に使用される材料という程度の意味である。抗体自体が蛍光物質である場合もなくはないが、本実施形態では、抗体を蛍光試薬で標識したものが使用される。この際、抗体分子と結合した蛍光色素の分子はクエンチング(消光)された状態であり、抗原との反応によりクエンチングが解消されて蛍光が生じる(又は蛍光が増強される)。このような性質を有する蛍光試薬及び抗体が使用される。
【0013】
一方、蛍光測定は、十分な強度の蛍光を安定して再現性良く得る観点から、液相状態の対象物として行うことが多い(本明細書において「対象物」とは蛍光強度測定の対象という意味である)。液相状態とする場合、抗体や蛍光試薬を溶かし込むことができる緩衝液を使用することが一般的である。本実施形態においても、上述した抗体や蛍光試薬は、適当な緩衝液に溶かし込まれて測定に供される。即ち、蛍光試薬により標識された抗体が緩衝液に溶かし込まれたものが、検査液として使用される。検査液とは、測定に使用される液相材料という程度の意味である。
【0014】
本実施形態では、このように蛍光試薬により標識された抗体が溶かし込まれた検査液(以下、第一の検査液)81を使用し、第一の測定ステップとして、まず試料を投入しない状態で蛍光測定を行う(
図1(1))。蛍光測定は、
図1(1)に示すように、第一の検査液81に対して光源1によって励起光を照射し、励起によって発生した蛍光を検出器3で捉えることにより行う。励起光の波長は、抗体を標識した蛍光色素の特性に応じて選定される。市販されている蛍光試薬は、励起光の波長が定められており、それに応じてフィルタなどを使用して光源1からの光の波長を選択して第一の検査液81に照射するようにする。
【0015】
次に、
図1(2)に示すように、試料Sを第一の検査液81に投入する。この際、試料Sをそのまま第一の検査液81に投入する場合もあるが、第一の検査液81中でなるべく試料Sを均一な状態とする必要があること、またph値などの特性を所定に調整してから投入する必要があることなどから、試料Sは検査液(以下、第二の検査液)82に溶解されてから第一の検査液81に投入される。
その上で、
図1(3)に示すように、第二の測定ステップが行われる。第二の測定ステップは、試料Sが投入された状態の第一の検査液83を対象物として蛍光測定を行うステップである(試料投入後の第一の検査液を、試料未投入の第一の検査液と区別するため、以下、液相対象物と言い換える)。同様に光源1により液相対象物83に励起光が照射され、液相対象物83からの蛍光が検出器3で捉えられる。
【0016】
このようにして第一第二の測定ステップを行った後、本実施形態の方法は、各測定結果から試料の同定又は定量のための演算処理を行う(
図1(4))。この演算処理は、
図1(4)に示すように、第一の測定ステップで測定された蛍光強度F
1と、第二の蛍光強度F
2とをパラメータとし、所定の関係式に従って最終的にQ
1*/Q
1を求める演算処理である。ここでのQ
1とは、試料Sが投入される前の第一の検査液81における抗体分の蛍光強度である。また、Q
1*は、試料Sが投入された後の(反応後の)抗体分の蛍光強度である。抗体分とは、蛍光試薬により標識された抗体が発生した分の蛍光ということである。試料に抗原が含まれている場合、上記のように抗体との反応によりクエンチングの解消が生じるから、Q
1*>Q
1となる。Q
1に対するQ
1*の増強比について、適当な閾値を設定すれば、試料Sに抗原が含まれていたと判断できる(即ち、同定できる)。また、蛍光の増強率と抗原の量との相関関係について予め調べて較正用データを作っておき、Q
1*/Q
1にそれを適用することで試料S中の抗原の定量が行える。
【0017】
本実施形態の方法が特徴的なのは、上記のようにF
1とF
2とからQ
1*/Q
1を求める際、第一の検査液81の特性値である相関比Rを導入している点である。以下、この点について詳説する。
F
1とF
2とからQ
1*/Q
1を求める際、単純にQ
1=F
1、Q
1*=F
2であるとすることはできない。前述した「目的物質以外からの蛍光」の問題があるからである。具体的に説明すると、例えばF
1については、試料Sが投入されていない第一の検査液81においては、蛍光色素により標識された抗体からの蛍光(目的物質からの蛍光)以外に、緩衝液が蛍光を発する場合がある。また、特定の目的のために緩衝液に添加されている材料が蛍光を発する場合もある。
【0018】
例えば、蛍光色素が適正に機能するためにはph値が所定の範囲内である必要があったり、抗体抗原反応が適正に生じるにはph値が所定の範囲内である必要があったりする場合がある。このような場合には検査液のph値の調整が必要であり、ph調整剤が添加される。また、抗体が容器の壁面に付着してしまうことを防止する添加剤(一例としてBSA,ウシ血清アルブミン)が添加されることもある。さらには、抗体や蛍光色素はタンパク質である場合が多く、このため防腐剤が添加されることも多い。このような各種添加剤が蛍光を発する場合があり、しかもその蛍光の波長が抗体からの蛍光と波長が重なっていたり、近い波長であったりする場合がある。このため、Q
1=F
1とすることができない。
【0019】
一方、F
2についても、同様に第一の検査液81の成分である緩衝液や添加剤が蛍光物質である場合、それらが値に含まれており、そのままQ
1*とすることはできない。本実施形態では、さらに第二の検査液82を使用しており、第二の検査液82中の成分が蛍光を発する場合もある。
ここで、測定された蛍光強度F
1について、蛍光標識された抗体(ここでの目的物質)以外の物質から発せられた分の蛍光強度をQ
2とすると、F
1は、以下の式1で表される。
【数1】
また、測定された蛍光強度F
2をF
1とともに扱う場合、蛍光強度としての光度は単位体積当たりの発光強度であるため、第一の検査液と試料投入済みの第二の検査液との混合比k(0<k<1)を導入する必要がある。第二の測定ステップでの液相対象物における単位体積において、第一の検査液81がkの量で存在していれば、試料投入済みの第二の検査液92は1−kの量で存在しているから、測定された蛍光強度F
2は、以下の式で表される。
【数2】
式2で、Q
3やQ
4は、液相対象物83における「目的物質以外からの蛍光」の強度に相当しており、Q
3は試料が蛍光物質を含んでいる場合(例えば抗原が蛍光物質である場合)の当該蛍光物質からの蛍光強度、Q
4は第二の検査液が蛍光物質を含んでいる場合の当該蛍光物質からの蛍光強度である。
【0020】
さて、上記式1や式2において、本実施形態では相関比Rを導入する。相関比Rとは、第一の検査液81において、蛍光標識された抗体分の蛍光強度Q
1に対するそれ以外の成分の蛍光強度Q
2の比である。相関比Rは、第一の検査液81の製造の際などに予め調べられ、定数として式1や式2に適用される。
相関比Rの求め方としては、第一の検査液81について、蛍光試薬及び抗体以外の材料についてまず蛍光強度を測定する。例えば、ph調整剤や器壁付着防止剤、防腐剤等の所定の各添加剤と緩衝液に添加し、蛍光試薬と抗体は投入しない状態で蛍光強度を求める。次に、蛍光試薬と抗体とを所定量投入した上で蛍光強度を再度測定し、これらの結果から相関比Rを求めることができる。尚、蛍光試薬及び抗体以外の材料のうち、蛍光物質であるものが特定されているのであれば、その材料だけの蛍光強度を測って相関値Rとしても良い。例えば、緩衝液だけが蛍光物質であるのであれば、添加剤無しで緩衝液だけの蛍光強度を測り、その結果から相関値Rを求めれば良い。
【0021】
相関比Rを導入すると、式1及び式2は以下の式3及び式4ようになる。
【数3】
式4において、kを0.7〜0.8程度の大きな値とすると、第2項(1−k)(Q
3+Q
4)は、ゼロと見なし得る場合がある。抗体が蛍光物質でない場合やあっても少ない場合、(1−k)Q
3はゼロであるとみなして良い。特に、試料Sについては第二の検査液82に対して微量投入すれば良い場合が多いから、試料Sからの蛍光は無視できる場合が多い。また、Q
4についても、第二の検査液82が蛍光物質でなかったり、蛍光の発光が少ないものであったりする場合、ゼロとみなし得る。各々ゼロとみなし得るとすると、式4は、以下の式5となる。
【数4】
【0022】
よって、式3及び式5から、以下のようにQ
1*/Q
1を導出することができる。
【数5】
即ち、第一の測定ステップでの測定結果F
1と、第二の測定ステップでの測定結果F
2と、各常数k及びRから、式6に従い、目的とする蛍光増強比Q
1*/Q
1が求められることになる。
【0023】
仮に、式4の右辺第二項全体がゼロとみなせない場合でも、第二の検査液82の成分と共通にしておくことで、精度の高いQ
1*/Q
1の導出が可能となる。例えば、第一の検査液81から抗体と蛍光試薬とを除いた成分のものを第二の検査液82として使用するようにする。全てを共通にしなくとも、蛍光成分だけ共通にしても良い。例えば、第一第二の検査液81,82において、抗体及び蛍光試薬以外としては器壁付着防止剤(例えばBSA)だけが蛍光物質なのであれば、同じ器壁付着防止剤を共通して使用するようにする。このようにすると、第二の検査液82の分の蛍光強度Q
4は、第一の検査液におけるQ
2と一致することになり、R・Q
1ということになる。したがって、式4は、以下の式7となる。
【数6】
よって、式3及び式7から、以下のようにQ
1*/Q
1を導出することができる。
【数7】
即ち、第一の測定ステップでの測定結果F
1と、第二の測定ステップでの測定結果F
2と、各定数k及びRから、式8に従い、目的とする蛍光増強比Q
1*/Q
1が求められることになる。尚、式8の場合、式6と比べると、右辺第二項全体をゼロとみなす必要がないので、その分で測定精度が高くなる。
【0024】
次に、このような本実施形態の蛍光測定方法に好適に使用される蛍光光度計について説明する。以下の説明は、蛍光光度計の発明の実施形態の説明でもある。
図2は、
図1に示す蛍光測定方法に好適に使用される蛍光光度計を示した図であり、
図2は斜視概略図、
図3は正面断面概略図である。
図2及び
図3に示す蛍光光度計は、前述したように様々な場所での蛍光測定を考慮し、携帯型となっている。
図2に示すように、本実施形態の蛍光光度計は、全体としては扁平なほぼ直方体の箱状のものである。携帯型であるので、大きさとしては人の手のひらサイズかそれよりも少し大きい程度である。
この蛍光光度計は、
図3に示すように、光源1と、光学系2と、検出器3と、容器装着部4などを備えている。光源1や光学系2、検出器3などは、
図2に示すような扁平なほぼ直方体状のケーシング5内に収められている。
【0025】
この蛍光光度計は、専用の容器に試料を入れて蛍光を測定するようになっている。以下、この容器を試料容器と呼ぶ。試料容器には、予め各検査液が収容されており、蛍光測定キットとして測定者に提供されるようになっている。
図4は、
図2及び
図3に示す実施形態の蛍光光度計に使用される蛍光測定キットの概略図、
図5は
図4の蛍光測定キットに含まれる試料容器の斜視概略図である。
蛍光測定キットは、汚損や異物の混入がないよう個装袋90に試料容器91を封入したものとなっている。試料容器91は、
図5に示すような縦長の細長い容器である。個装袋90内は、キットの劣化防止のため、減圧脱気されたり、又は窒素充填されたりする場合がある。
【0026】
試料容器91は、本体部911と、本体部911の下側に設けられた第一のセル部912と、本体部911内に設けられた第二のセル部913などから成っている。第一のセル部912内には、第一の検査液81が予め収容されている。第二のセル部913内には、第二の検査液82が予め収容されている。
第二のセル部913は、第一のセル部912を含む下側の空間に対して隔壁914によって仕切られている。隔壁914は、不図示の治具によって破断可能となっており、第二の検査液82を第一の検査液81に混合する際、隔壁914は破断される。試料容器91の上端には、容器蓋95が設けられている。試料を投入する際には容器蓋95が開けられ、試料はまず最初に第二のセル部913内の第二の検査液82に投入されて混合される。その後、隔壁914が破断されて試料は第二の検査液82とともに第一の検査液81に投入される。
【0027】
このような試料容器91(特に第一のセル部912)は、励起光や蛍光を十分に透過する材料で形成されている。具体的には、硼珪酸ガラスや石英、サファイアのようなガラス製、PMMA(アクリル樹脂)、ポリスチレン、COC(環状オレフィン・コポリマー)のような樹脂製のものが試料容器91として使用される。尚、励起光を照射した際に試料容器91自体から多くの蛍光が放出されると、液相対象物からの蛍光との見分けが難しくなるので、試料容器91の材料としては、蛍光の自家発光(自ら放出する蛍光)が少ないものが選定される。
尚、コンタミネーションによる測定精度低下の防止の観点から、試料容器91は使い捨て(1回限りの測定で使用されるもの)とされることが好ましい。この観点から、試料容器91の材質としては、PMMAのような樹脂製の方がコスト面で好ましい。
【0028】
一方、
図2及び
図3に示すように、ケーシング5は、上面部の一部が開閉蓋51となっている。開閉蓋51を開くと、
図1に示すように、挿入孔40が露出するようになっている。挿入孔40は、容器装着部4の上端開口である。容器装着部4は、開閉蓋51の開閉箇所から下方に延びるようにして、ケーシング5内に配置されている。
図2に示すように、挿入孔40は、試料容器91の本体部911の断面形状に適合したものとなっており、円周状の部分と直線状の部分(以下、直線状部)401とから成っている。
試料容器91を蛍光光度計に装着する場合、
図1に示すように開閉蓋51を開け、試料容器91を挿入孔40に挿入する。この際、本体部911の側面の平坦面部92を挿入孔40の直線状部401に合わせた状態にする。この状態で、試料容器91は、そのまま下方に押し下げられて容器装着部4に装着される。その後、開閉蓋51は閉じられる。
尚、この蛍光光度計では、試料容器91を容器装着部に装着した状態で試料を投入することができるようになっている。即ち、容器装着部4に試料容器91を装着した状態で容器蓋95が開けられるので、この状態で試料を投入し、不図示の治具で隔壁914を破断させた後、容器蓋95及び開閉蓋51を閉じれば良い。
【0029】
光源1は、液相対象物中の蛍光物質を励起して蛍光を放出させることができる光(励起光)を放射するものである。本実施形態では、LEDランプが光源1として使用されている。励起光を含む光を放射するものであれば特に制限なく使用可能であるが、本実施形態では、コスト上の優位性や省消費電力を考慮し、LEDランプが使用されている。例えば、波長525nmの緑色光を放射するLEDが各社から市販されており、レンズを備えた出力2mW程度のものが好適に採用できる。
光学系2は、光源1からの励起光を試料容器91の第一のセル部912内に導くとともに第一のセル部912内の液相対象物からの蛍光を検出器3に導くものである。本実施形態では、光学系2は、光源1からの光を集光する集光レンズ21と、光路の折り曲げと光の選択を行うためのダイクロイックミラー22と、光路上に配置されたフィルタ23,24等から構成されている。
【0030】
図3に示すように、ダイクロイックミラー22は、容器装着部4に装着された試料容器91の第一のセル部912とほぼ同じ高さの位置に配置されている。ダイクロイックミラー22は、斜め45°の角度で配置されており、その上方に光源1が配置されている。光源1は、下方に向けて光を放出する姿勢となっている。ダイクロイックミラー22は、励起光の波長の光を反射し、測定する蛍光の波長の光を透過するものである。
また、ダイクロイックミラー22を挟んで容器装着部4とは反対側の位置に、検出器3が配置されている。容器装着部4に装着された試料容器91の第一のセル部912と、ダイクロイックミラー22と、検出器3とは、同じ高さに位置しており、水平な光軸(検出用光軸)上に配置されている。一方、光源1から下方に延びる光軸(励起用光軸)は、ダイクロイックミラー22により垂直に折り曲げられ、第一のセル部912に達している。尚、容器装着部4は、励起光や蛍光を遮らないよう開口を有する。
【0031】
フィルタとしては、励起光用フィルタ23と、蛍光用フィルタ24とが配置されている。励起光用フィルタ23は、励起光となる波長の光を選択的に透過するものであり、光源1とダイクロイックミラー22との間の光路上に配置されている。例えば前述したように525nmの緑色光が励起光として使用される場合、510〜545nm程度の波長域の光を透過し、それ以外の波長域の光を反射するものが励起光用フィルタ23として使用される。
蛍光用フィルタ24は、測定する蛍光の波長の光を選択的に透過するものであり、ダイクロイックミラー22と検出器3との間に配置されている。例えば、蛍光の波長が550〜630nmの場合、570〜610nm程度の波長域の光を透過し、それ以外の波長域の光を反射するものが蛍光用フィルタ24として使用される。
【0032】
尚、このように励起光用と蛍光用とでそれぞれにフィルタ23,24が用いられているので、ダイクロイックミラー22ではなく、波長選択性のないハーフミラーを使用しても良い。但し、ハーフミラーの場合には光量が半減するので、ダイクロイックミラー22の方が有利である。励起光用フィルタ23と蛍光用フィルタ24の透過波長域が前述した例である場合、ダイクロイックミラー22としては、例えば570nm以上の波長域の光を透過し、545nm以下の波長域の光を反射する特性(45°入射の場合)のものが使用できる。
【0033】
また、集光レンズ21は、光源1からの光を細いビームにして第一のセル部912内の液相対象物に照射するためのものである。光源1としてのLEDランプは、ビームの広がり角が小さいものが好適に使用されるが、それでも小さな第一のセル部912に照射するものとしては広がりが大きいので、集光レンズ21で絞ってから照射するようにしている。集光レンズ21の開口数NAは、それほど大きいものは必要ではなく、0.5程度で良い。
集光レンズ21による集光位置(最もビームが細くなる位置)は、第一のセル部912の中央である。尚、ビーム径は最も細い位置で0.5〜1.5mm程度である。尚、集光レンズ21は、液相対象物中の蛍光物質から発せられた蛍光を集めて検出器3に入射させる目的でも配置されている。
【0034】
検出器3は、フォトダイオードを使用したものや光電管などの中から適宜選択される。本実施形態では、シリコンフォトダイオードを使用したものが採用されている。
また、
図2に示すように、ケーシング5の前面には、光度計の動作状態や測定結果を表示するディスプレイ52と、幾つかの操作ボタン531〜536が設けられている。操作ボタン531〜536のうちの一つが、測定ボタン(光源1を動作させて検出器3の出力を取得するボタン)である。ディスプレイ52としては、液晶ディスプレイが採用でき、タッチパネルが採用されることもあり得る。この他、ケーシング5の側面には、不図示の電源スイッチが設けられている。
【0035】
次に、
図2及び
図3に示す蛍光光度計の信号処理系について説明する。
図6は、
図2及び
図3に示す蛍光光度計のブロック図である。
図3に示すように、ケーシング5内には、制御ボックス60が設けられている。制御ボックス60内には、各部の制御や信号処理を行う制御部6が設けられている。制御部6は、
図6に示すように、演算処理を行うプロセッサ61や、データやプログラムを記憶するためのメモリ62などを有している。
検出器3は、蛍光を受光する光電変換部(この例ではシリコンフォトダイオード)31と、光電変換部31の出力信号を増幅する増幅器32と、増幅された信号に基づいて蛍光強度の信号として出力する出力回路33とを含んでいる。出力回路33は、光度(蛍光強度)を絶対値で表示するための校正回路を必要に応じて含む。
【0036】
制御部6には、検出器3からの出力の他、各操作ボタン531〜536からの操作信号や電源スイッチからの信号が入力されるようになっている。また、制御部6には、不図示のインターフェースを介してディスプレイ52が接続されている。
尚、
図2に示すように、ケーシング5内には、電池ケース8が設けられている。電池ケース8には、光源1や検出器3、制御部6などに必要な電圧を供給する電池が装着される。
また、
図3には不図示であるが、蛍光光度計は、温度センサ64を内蔵している。
図6に示すように、温度センサ64は制御部6に接続されており、ケーシング5内の雰囲気温度の信号を制御部6に常時送信している。
【0037】
このような蛍光光度計は、試料容器91内に予め収容されている検査液81,82の情報を取得し、この情報を利用して測定を最適化するようになっている。この情報の中に、前述した相関比Rが含まれる。
まず、
図5に示すように、蛍光測定キットに含まれる試料容器91には、収容された検査液81,82の情報をコード化した液情報コード部93が設けられている。本実施形態では、液情報コード部93は、
図5に示すようにバーコードとなっている。液情報コード部93は、試料容器91の側面の平坦面部92に液情報コード部93が設けられている。例えば、バーコードをシールに印刷し、平坦面部92に貼り付けることで液情報コード部93とすることができる。
【0038】
一方、蛍光光度計は、このような液情報コード部93を読み取るコードリーダ7を備えている。液情報コード部93はバーコードであるので、コードリーダ7はバーコードリーダである。
図3に示すように、コードリーダ7は、容器装着部4に取り付けられている。
容器装着部4は、途中の高さの位置に読み取り用開口41を有している。読み取り用開口41の縁から斜め上方に突出するようにしてリーダ取付部42が形成されている。リーダ取付部42は短い筒状の部位である。コードリーダ7は、このリーダ取付部42内に嵌め込まれて保持されており、読み取り用開口41を通して光照射したり受光したりすることが可能となっている。
【0039】
尚、
図3に示すように、読み取り用開口41及びリーダ取付部42は、中央側の側面に形成されている。「中央側」とは、蛍光光度計の中央側ということである。したがって、コードリーダ7も中央側から読み取りを行うようになっている。
図7は、
図3に示すコードリーダ7の概略構成及びその動作原理を示した図である。
図7の(1)は、コードリーダ7が液情報コード部93を読み取っている状態を示し、(2)は試料容器91の装着を検知するセンサとして動作している状態を示している。
図7に示すように、コードリーダ7は、液情報コード部93に光を照射する発光器71と、液情報コード部93からの光を受光する受光器72と、受光器72からの出力信号を処理してデジタル信号を得る二値化素子73とを備えている。
【0040】
前述したように、試料容器91はケーシング5の挿入孔40から挿入される。この際、挿入孔40の直線状部401が平坦面部92に合わせられるので、挿入の際、平坦面部92は中央側を向くことになる。この状態で試料容器91が押し下げられると、
図2及び
図3から解るように、液情報コード部93が読み取り用開口41の前を通り過ぎる状態となり、その際に、コードリーダ7によって液情報コード部93が読み取られる。
【0041】
より具体的に説明すると、本実施形態ではコードリーダ7の位置は固定されており、この位置に対して液情報コード部93が相対的に移動する。発光器71は、一定の領域に光照射しており、この光照射領域を液情報コード部93が通り過ぎることになる。したがって、液情報コード部93は、下端箇所が光照射領域に達して光照射がされ、移動に伴って順次上側の箇所が光照射される。そして、移動終了時(装着完了時)には、上端箇所まで光照射が終了していることになる。つまり、試料容器91の移動によって光照射領域が相対的に走査(スキャン)される。
【0042】
図7(1)に示すように、走査の際、受光器72には光照射された液情報コード部93からの光が入射し、その出力を二値化素子73が処理する。受光器72に入る光は、バーコードの明暗を反映したものとなり、それに従って二値化素子73がデジタル信号を出力する。尚、
図3に示すように本実施形態のコードリーダ7は斜めから光照射するものであるが、液情報コード部93の表面で光は拡散又は散乱され、その光が受光器72で捉えられることになる。受光器72は、発光器71からの強い反射光が入射しないようにすることが推奨される場合が多く、本実施形態でもこれを考慮してコードリーダ7を斜めに取り付けている。
このようなコードリーダ7としては、例えば岡谷電機産業(株)製のRPU813Tなどを使用することができる。また、発光器71にレーザーを使用したものでも良く、例えばHonewell社のH0A6480などを使用することができる。
【0043】
また、本実施形態において、コードリーダ7は、試料容器91の装着完了を検知する容器センサの役割も果たすようになっている。即ち、
図7に示すように、液情報コード部93は、検査液情報をバーコードにした部分に続き、白色の比較的大きな矩形部分(以下、矩形部)94を有している。矩形部92は、試料容器91の装着完了を検知するためにコードリーダ7が読み取る部分(以下、装着検知用識別部)として設けられている。即ち、矩形部94は、反射率の高い部分であり、試料容器が装着位置に正しく位置した際、
図7(2)に示すようにコードリーダ7が光を照射して反射光を受光する位置となっている。尚、装着検知用識別部は、黒色のパターンでも良く、矩形以外のパターンでも良い。
【0044】
図6に示すように、制御部6は、試料容器91の装着状態の確認している旨の情報を保持する装着確認部63を備えている。コードリーダ7が矩形部94を読み取ることで出力される信号は、装着確認部63に送られる。装着確認部63は、情報をソフトウェア的に保持する場合には、装着確認部63はメモリの特定の記憶領域ということなるが、ハードウェア的に保持しても良く、例えば保持回路やフォトカプラ等によって装着確認がオンであることを保持しても良い。
【0045】
次に、このような蛍光光度計を使用した具体的な蛍光測定について説明する。以下の説明は、
図1に示す蛍光測定方法の実施形態のより具体的な説明でもある。
図8は、
図7に示す液情報コード部のフォーマットの一例について示した概略図である。
図8に示すように、この例では、10桁の数字がバーコード化されている。このうち、最初の1桁が検査液特定情報、次の6桁が使用期限情報、次の3桁がR値となっている。
【0046】
本実施形態では、第一第二の二つの検査液が使用されるので、検査液特定情報は、二つの検査液の組合せを特定するものとなっている。同定や定量を行う目的物質に合わせて最適な検査液が第一第二の検査液として選定され、その組合せを示すID番号が検査液特定情報としてコーディングされる。この蛍光光度計が例えば4個程度の異なる目的物質の同定又は定量が可能であるとすると、それぞれの目的物質について最適な検査液の組み合わせが設定され、それぞれの検査液組合せについて0〜3の検査液IDが付与される。
【0047】
使用期限情報については、最初の二桁が西暦の略記(2013年なら13)であり、その次の二桁が月、その次の二桁が日を意味するようになっている。130420なら、2013年4月20日が使用期限という意味である。尚、第一の検査液と第二の検査液について使用期限が異なる場合、どちらか短い方の使用期限が選択され、使用期限情報としてコーディングされる。
【0048】
R値は、前述したように第一の検査液における相関比Rを意味するものとなっている。本実施形態では、R値として3桁の数字があてがわれている。この例では、R値の最初の数字は一の位、後の二つの数字は小数点以下を意味するものとなっている。即ち、
図8に示すように“124”がR値であれば、相関比Rが1.24であることを意味する。
【0049】
このようなフォーマットでコーディングされる検査液情報は、上述したようにコードリーダ7で読み取られ、制御部6に送られる。そして、制御部6で実行される測定プログラムに利用される。この際、直接扱えるデータの形で検査液情報をコーディングするのは難しく、読み取ったデータを別のデータに変換して利用する。メモリ62には、そのような変換を行うためのテーブル(対応表)が記憶されている。
図9は、このテーブルの一例について示した概略図である。
図9に示すように、テーブルは、各検出液IDについて、目的物質名、算出式ID、参照データ等が対応づけられている。目的物質名は、検査液IDで特定される検査液組合せによって同定又は定量が行える目的物質の名称である。算出式IDは、前述した蛍光増強比Q
1*/Q
1を算出する際の式を特定するものである。本実施形態では、前述した式6又は式8に従って算出がされる。算出式IDが“1”が式6、“2”が式8を意味している。
【0050】
参照データは、算出した蛍光増強比Q
1*/Q
1から同定又は定量を行う際に参照するデータである。同定の場合には、ある蛍光増強比Q
1*/Q
1がある閾値を超えているかで試料が目的物質を含むかどうか判断するので、当該閾値が参照データということになる。定量の場合、蛍光増強比Q
1*/Q
1に対応した目的物質の量の対応表であったり、蛍光増強比Q
1*/Q
1から目的物質の量を算出する算出式であったりする。
【0051】
次に、読み取った検査液情報及び
図8に示すテーブルを用いる測定プログラムについて説明する。
図10は、
図1に示す蛍光測定方法を実施する測定プログラムの概略を示したフローチャートである。
蛍光光度計の電源スイッチがオンされるとメインプログラムが自動で起動し、ディスプレイ52に各操作メニューが表示される。ここで測定メニューを選択すると、
図10に示す測定プログラムが起動する。
【0052】
測定プログラムは、まず、試料容器91の装着を確認する。通常は試料容器91が装着されていないので、装着確認部63の出力信号はオフであり、容器無しの旨の信号が制御部6に入力されている。メインプログラムは、容器無しの信号を確認した後、試料容器91の装着を促す初期画面をディスプレイ52に表示する。「試料容器を装着して下さい。」というようなメッセージを表示した画面である。
例外的に、コードリーダ7から容器有りの信号が送られる場合がある。試料容器91が既に装着されていて、コードリーダ7が矩形部94を読み取っている場合である。前回の測定で使用した試料容器91が装着されたままとなっているか、又は試料容器91を装着した後に電源スイッチをオンしたかである。いずれの場合も、測定に必要な検査液情報が取得できていない状態であるので、測定プログラムは、試料容器91の装着をし直させる画面を表示する。「試料容器が装着されたままとなっています。試料容器の装着をし直して下さい。」というような画面である。
【0053】
試料容器91が挿入孔40から挿入され、容器装着部4に正しく装着されると、前述したようにその際の移動を利用して液情報コード部93がコードリーダ7によって読み取られ、検査液情報が制御部6に送られる。制御部6は、メモリ62の所定の領域に検査液情報を格納する。
【0054】
測定プログラムは、メモリ62を参照し、検査液情報が取得できたかどうか確認する。取得できていなければ、上記画面(試料容器の装着を促す画面)の表示状態を維持する。また、測定プログラムは、装着確認部63の出力を参照し、試料容器91が正しく装着されているかどうかチェックする。確認できていなければ、同様に上記画面の表示状態を維持する。
検査液情報が取得でき、試料容器91の装着が確認されたら、
図9に示すように、測定プログラムは、検査液情報を処理し、
図8に示すフォーマットに従って検査液ID、使用期限情報、R値をそれぞれ取得する。
【0055】
次に、測定プログラムは、
図8に示すテーブルをメモリ62から呼び出し、検出液IDに従って当該検出液組合せについての目的物質名を取得する。そして、目的物質名をディスプレイ52に確認のために表示する。例えば、「試料容器の装着を確認しました。目的物質は○○です。」というような表示である。この際、OKボタンとキャンセルボタンがディスプレイ52に表示される。OKボタンが押されるとそのままプログラムが続行され、キャンセルボタンが押されると、プログラムが中止される。キャンセルボタンは、誤って違う目的物質の蛍光測定キットを使用してしまったときのためである。
【0056】
次に、測定プログラムは、システム時刻(プロセッサが内部情報として保有しているリアルタイムクロック)を呼び出し、使用期限情報と比較し、使用期限が過ぎていないかどうか判断する。使用期限が過ぎていれば、エラー処理を行う。即ち、
図9では図示が省略されているが、その旨のエラーメッセージをディスプレイ52に表示する。この際、測定を続行するかどうかを尋ねる画面を表示し、続行ボタンかキャンセルボタンかのいずれかを押させるようにする。そして、この画面で続行ボタンが押された場合、測定プログラムは次のステップに進み、キャンセルボタンが押された場合、測定を行わずに測定プログラムが終了される。
【0057】
使用期限のチェックの後、測定プログラムは、第一の測定ステップを行わせる画面をディスプレイ52に表示する。即ち、測定プログラムは、「まず、試料を投入しない状態で測定ボタンを押して下さい。」というようなメッセージをディスプレイ52に表示する。測定ボタンの押下により光源1が動作し、検出器3が蛍光を捉えて蛍光強度を出力すると、測定プログラムはその値をメモリ変数に格納する。この値は、前述した式6又は式8におけるF
1である。
【0058】
これが完了すると、測定プログラムは、「試料容器を取り出し、試料を投入して下さい。試料投入の際には、容器を軽く振った後、隔壁を破断して第一の検査液を第二の検査液に混合して下さい。その後、容器を再装着して測定ボタンを押して下さい。」というようなメッセージを表示する。そして、次に、測定ボタンの押下がされ、同様に検出器3から蛍光強度が出力されると、測定プログラムはその値を別のメモリ変数に格納する。この値は、前述した式6や式8におけるF
2である。
【0059】
次に、測定プログラムは、取得した算出式IDを参照し、算出式IDに従って式6又は式8のどちらかの式で蛍光増強比Q
1*/Q
1の算出を行う。次に、参照データを参照し、最終的な測定結果を取得し、それをディスプレイ52に表示する。
図9に示す例は同定を行う測定プログラムとなっており、参照データを適用して閾値を超えているかどうか判断する。そして、越えている場合には、「判定結果:Yes(試料は目的物質○○を含んでいます)」というような表示をする。越えていない場合には、「判定結果:No(試料は目的物質○○を含んでいません)」というような表示をする。
【0060】
定量の場合には、参照データを適用して液相対象物中の目的物質の濃度が算出される。そして、混合比kと、第二の検査液に投入した試料の量とに従って、試料中の目的物質の含有量が求められる。尚、第二の検査液に投入する試料の量は、例えば規定の薬さじ1杯分というように共通した量として規定される。また、混合比kも定数として予め定められ、これらの数値を代入しつつ定量が行われる。
【0061】
尚、測定プログラムは、上記測定の際、
図10では図示が省略されているが、一回目の測定ボタンが押された後、装着確認部63の出力の監視を開始する。そして、二回目の測定ボタンが押される前に装着確認部63の出力がオフになったのが確認された場合、測定プログラムは、エラーメッセージを表示する。このエラーメッセージは、「試料投入状態の測定の前に試料容器が取り出されました。試料未投入の状態から測定をやり直して下さい。」というようなメッセージである。このエラーメッセージが表示されると、測定プログラムは、測定プログラムが起動した直後の状態に戻り、試料未投入の試料容器91の装着を促す画面がディスプレイ52に再度表示される。
二回目の測定ボタンが押されるまで、装着確認部63の出力がオフにならなければ、測定プログラムは、上記の通り算出式を選択し、参照データを適用して同定又は定量を行う。
【0062】
尚、
図8では図示が省略されているが、テーブルには、検査液IDで特定される各検査液組合せについて、使用可能温度範囲の情報が登録されている。
図9に示す測定プログラムは、検査液情報を処理して検査液IDを取得した際、テーブルを参照してその検査液IDについての使用可能温度範囲の情報を取得する。そして、温度センサ64から送られる温度データを参照し、雰囲気温度が使用可能範囲に入っているかどうか判断する。使用可能範囲に入っていれば測定プログラムは続行され、入っていなければ、続行ボタンとキャンセルボタンとを表示するエラー動作を行うようになっている。ここで続行ボタンが押されれば測定プログラムは続行され、キャンセルボタンが押されれば測定プログラムは中止される。
【0063】
このような蛍光測定方法について、より具体的な例を採り上げて説明する。より具体的な例として、前述したような禁止薬物の取締のために蛍光測定が行われることを想定する。例えば、上述した蛍光光度計が、コカイン、ヘロイン、覚醒剤、大麻の四つを検出可能なものであるとする。したがって、検査液としては、コカイン用、ヘロイン用、覚醒剤用、大麻用のいずれかが使用されることが予定される。
【0064】
例えば、税関の検査において荷物に禁止薬物らしい白色の粉が付着していたとする。係員は、検査が必要だと判断し、荷物を一時的に取り置いた上で、粉を採取する。そして、まず、コカイン用の蛍光測定キットを使用し、試料を投入しないで蛍光測定した後、粉の一部を試料容器91に投入してもう一度蛍光測定を行う。測定の結果、コカインではないと判断されると、それがディスプレイ52に表示されるので、次に、ヘロイン用の蛍光測定キットを使用し、同様に測定を行う。そして、同様にヘロインではないとの結果が表示された場合、次に覚醒剤用の蛍光測定キットを使用し、同様に測定を行う。覚醒剤ではないとの結果であったら、さらに大麻用の蛍光測定キットを使用して測定を行う。このように、それぞれ専用の蛍光測定キットを順次使用することで、試料が特定の禁止薬物であるかどうか各々同定することができる。
【0065】
税関での禁止薬物の取締以外にも、本実施形態の蛍光光度計を用いることができる。例えば、犯罪捜査の現場で禁止薬物を検出したり、犯行現場に残された化学物質を同定して証拠としたりする場合などである。これらの他にも、例えばスポーツ競技において行われるドーピング検査でも、本実施形態の蛍光光度計を使用することができる。この場合、被検者の尿を微量採取して試料とすることがあり得る。
【0066】
材料の面でより具体的な例を示すと、例えば代表的な覚醒剤として知られるメタンフェタミンについては、動物に免疫して得られた細胞株を培養することによってモノクローナル抗体を抗メタンフェタミン抗体として製造する技術が開示されている(特開平1−96198号公報,特開平5−7497号公報,特開平6−261784号公報等)。また、メタンフェタミンの蛍光標識色素としては、ペンタメチンシアニン誘導体からなるもの(特開平6−66725号公報)やメロシアニン誘導体からなるもの(特開平8−92211号公報)が知られている。
したがって、メタンフェタミン用の検査液としては、適宜選択された抗メタンフェタミン抗体に対して、適宜選択された蛍光標識色素を結合させて標識し、それを緩衝液としてのPBS溶液(リン酸生理延生理食塩水)に溶かしたものを用いることができる。
【0067】
実施形態の蛍光測定方法及び実施形態の蛍光光度計によれば、蛍光増強比Q
1*/Q
1を算出する際に、相関比Rを導入しているので、測定の煩雑化を回避しつつ十分な測定精度を得ることができる。相関比Rを導入しない場合、「目的物質以外からの蛍光」(ここでは、蛍光標識された抗体以外の物質からの蛍光)の強度を予め把握する手段がないので、それが無視し得ない大きさである場合、個別に測定する他ない。具体的には、蛍光試薬及び抗体を投入しない状態の検査液(ph調整剤などの添加剤が添加されただけの緩衝液)についてまず測定を行って蛍光強度を得た後、蛍光試薬及び抗体を投入して第一の検査液の状態としてもう一度測定して蛍光強度を得る。そして、第一の検査液に対して試料を投入した後にさらにもう一度測定し、その上で各値を算出式に代入して蛍光増強比Q
1*/Q
1を求めることになるので、結局、三回測定を繰り返すことになる。一方、実施形態の方法によれば、上記の通り二回の測定で済む。
【0068】
また、本実施形態では、第二の検査液の混合比1−kが0.2〜0.4程度の値に設定されているので、試料や第二の検査液に蛍光物質が含まれる場合でも、目的物質であるクエンチング解消状態の抗体からの蛍光強度に比べてかなり小さくなり、無視し得る(ゼロとみなし得る)場合が多くなる。このため、式6によって蛍光増強比Q
1*/Q
1を求めた場合でも精度低下が問題になることが少なくなる。尚、混合比1−kを0.2よりも小さくするようにするとさらに効果的であるが、試料の量が少なすぎる結果、抗原が存在していたとしても十分な抗体反応が生じず、クエンチング解消作用が十分に生じない可能性がある。したがって、混合比1−kは0.2以上であることが好ましい。また、混合比1−kが0.4以上であると、試料や第二の検査液に蛍光物質が含まれている場合、無視し得なくなる場合が多く、問題が生じ得る。
【0069】
また、前述したように、第一の検査液から蛍光試薬と抗原とを除いた成分と第二の検査液の成分において、少なくとも蛍光物質である成分を一致させておけば、式8に従うことができる。このため、抗体及び蛍光試薬以外の成分については蛍光発光量が多くてゼロとみなせない場合でも、精度低下を招くことなく測定作業を簡略化させる効果が同様に得られることになる。
【0070】
尚、殆どの蛍光物質において、発生する蛍光の量は温度が上昇すると強くなる。しかしながら、この上昇の仕方は多くの蛍光物質で一定であり、したがって、相関比Rは、温度によらずほぼ一定である場合が多い。相関比Rが温度によらず一定であれば、各検査液の使用温度範囲内のどの温度で測定を行っても結果が異なってしまうことはない。
仮に、相関比Rが使用温度範囲内の温度で大きく異なる場合には、その変化率を予め測定しておき、それを参照データの一つとしてメモリ62に記憶しておけば良い。液情報コード部93から取得した相関値Rを、温度センサ63から送られる温度データとメモリ62から読み取った変化率のデータに従って補正し、補正後の相関値Rを適用して蛍光増強比Q
1*/Q
1の算出を行えば良い。
【0071】
上述したような測定作業の簡略化は、専門の技術者が実験室で測定を行うのではなく、禁止薬物の取締現場のように、技術者以外の者が実験室以外で簡易測定する場合に特に意義がある。専門的知識を持たない非技術者に煩雑な作業を行わせることは、測定ミスの原因になり易いし、測定作業が繁雑で時間がかかってしまうと、禁止薬物の取締といった目的にそぐわないものになってしまう。本実施形態の方法は、煩雑化を招くことなく十分な精度が確保されるので、非技術者が実験室外で簡易的に測定する場合等に好適であり、禁止薬物の取締といった、迅速性、簡便性が要求される現場に非常に適した方法となっている。
【0072】
また、実施形態の蛍光光度計によれば、試料容器91に設けられた液情報コード部93でコード化された情報に相関比Rが含まれており、それを読み取って算出式に代入するので、この点でも簡便な方法となっている。例えば、試料容器91には第一の検査液81の名称だけが表示されているような場合もあり得る。この場合、第一の検査液81についての相関比Rの対応表を印刷した紙を蛍光測定キットに含めておき、測定者が測定の際にその紙を見ながら相関比Rを蛍光光度計に手入力するような構成も考えられる。しかしながら、このような作業は非常に面倒であって測定を煩雑にしてしまうし、ミスも生じやすい。また、検査液の製造ロットにより相関比にばらつきがある場合、それを補償して測定を行うことは殆ど不可能である。
【0073】
実施形態の蛍光光度計がコードリーダ7を備えている点も、より測定を簡便にしている。液情報コード部93が前述したようにバーコードである場合、蛍光光度計がコードリーダを内蔵せず、汎用のバーコードリーダを接続して使用する構成であっても実施は可能である。しかしながら、測定の現場に蛍光光度計とバーコードリーダとを用意しなければならず、また測定のたびにバーコードを蛍光光度計に接続してデータを取得する必要で、煩雑この上ない。実施形態に蛍光光度計は、このような煩雑さとは無縁である。
尚、相関比Rについては、試料容器91に表示されている場合の他、
図4に示す個装袋90に表示されていても良い。試料容器91に表示する場合も、相関比Rをそのまま数値で表示しても良いし、QRコード((株)デンソーウェーブ社の登録商標)のような他の情報コードで表示するようにし、それを読み取る手段を蛍光光度計が備えるようにしても良い。
【0074】
また、専門家ではない者が測定するという点では、実施形態の方法及び蛍光光度計は、別の意義ある構成を有している。即ち、前述したように、測定プログラムは、第一の測定ステップが終了した後、試料容器91が装着されたままであることを監視し、万が一、装着確認部63の出力がオフになった場合、試料容器91が取り出されたとして第一の測定ステップを再度行わせるようにしている。この点は、試料容器91の取り違えによる測定ミス、試料容器91を取り出すことによる測定条件の変化などを考慮したものである。
【0075】
前述したように、実施形態の方法では、同定や定量の目的物質毎に蛍光測定キットが用意される。したがって、禁止薬物の取締のような測定現場では、試料容器91が何本も用意されていることが想定される。実施形態の蛍光光度計では、第一の測定ステップを行った後、試料容器91を取り出し、光度計から取り外した状態で試料の投入を行った後、試料容器91を再装着して第二の測定ステップを行うことも可能である。しかしながら、このようにすると、試料容器91の取り違えが生じ易い。物質A用の試料容器91を蛍光光度計に最初に装着して第一の測定ステップを行った後、近くにあった物質B用の試料容器91に取り違えてしまい物質B用の試料容器91に(物質Aだと疑われる)試料を投入してこの試料容器91を装着して第二の測定ステップを行った場合、各検査液が物質A用のものではないので当然ながら測定を誤ることになる。この場合、試料容器91が第一の測定ステップの後に取り外されたことを検知してエラーメッセージを表示し、第一の測定ステップからもう一度やり直させるようにすれば、液情報コード部93が再度読み取られ、目的物質がディスプレイ52に再度表示されるので、取り違えに気がつく。このため、誤った測定結果を得てしまうことが防止される。
【0076】
上記のような問題は、多くの異なる試料について測定しなければならない場合にも生じ得る。例えば、事件捜査において犯行現場で発見された幾つかの物質について同定を行うような場合や、環境調査において異なる幾つかの場所で採取された試料を定量する場合、
採取ポイントを取り違えないように蛍光測定を行う必要がある。例えば、A,B,C三つのポイントで採取された試料A,B,Cがあり、それぞれについて蛍光測定キットが用意されたとする(目的物質は同じとする)。この場合、試料容器Aを装着して第一の測定ステップを行った後、試料容器Aを取り外して試料を投入するようなことをしていると、試料Bを投入した試料容器Bを取り違えて装着してしまい、この状態で第二の測定ステップを行うようなミスが生じ易い。この場合、第一の測定ステップにおいて蛍光強度F
1を取得した第一の検査液と、第二の測定ステップで試料が投入されている第一の検査液とは、違うものである。つまり、同じ抗体について抗原との反応の前後での蛍光増強比を測定したことにならない。このため、測定結果の信頼性が低下する。
【0077】
また、本実施形態の蛍光光度計は携帯型であるため、蛍光光度計が幾つもある状況が想定でき、このような状況では、光度計の取り違えも発生し易い。最初に光度計Aを使用して第一の測定ステップを行った後、試料を投入して試料容器を再装着する際、誤って光度計Bに装着してしまったとする。この場合、検査液は同じでも、光度計が異なるので、光源による励起光の強度とか、検出器の感度とかいった測定条件が異なってくる場合がある。また、経時使用により光学系に汚れ(曇り)があった場合も測定条件が大きく異なってくる。したがって、光度計の取り違えは測定精度の低下、測定結果の信頼性低下に直結し易い。
【0078】
このような測定ミスは、専門の技術者が測定を行う専門の測定機関では生じにくいが、税関の職員のような専門外の者が行うと生じやすい。また、第一の測定ステップの後、試料容器が取り外されると、試料容器が直射日光や強い室内光に晒される結果、内部の検査液に変性や劣化が生じ、これが原因で測定精度が低下する場合もある。本実施形態では、このような点を考慮し、前述したように第一の測定ステップの後に試料容器91が取り外されるとエラー動作となるようにしている。
尚、試料容器91を装着した状態で試料の投入が可能な構造になっており、第一の測定ステップの後、第二の測定ステップの前に試料容器91が取り外されるとエラー表示(警告)を行ったり、測定を中止させたりする点は、相関比Rの導入とは別個の独立した意義を有しており、別個の独立した発明と観念することも可能である。
【0079】
また、測定条件の変化防止という観点では、第一の測定ステップが行われてから第二の測定ステップを行うまでの時間を制限することも有効である。例えば、検査液が空気に触れると少しずつ変性してしまう性質のものである場合、試料容器91は脱気された個装袋90に入れて提供される。この場合、試料容器91を個装袋90から取り出した後、短時間に測定を終了させる必要がある。検査液の変性以外にも、例えば電池の消耗で光源の出力が僅かに低下するとか、何らかの要因で雰囲気温度が変化するとかいった測定条件の変化があり得る。したがって、第一の測定ステップが終了した後、ある一定以上の時間が経過したら、測定を中止させるとか、エラーメッセージを表示するようにすると好適である。ある一定以上とは、例えば5分程度である。
【0080】
尚、前述した測定動作において、検出器3の出力値からバックグラウンドノイズを除去するため、最初は試料容器91が無い状態で測定を行う場合がある。例えば、電源スイッチがオンされた際、試料容器の装着を促す画面を表示する前に自動で光源を動作させて検出器3の出力をモニタし、この値をバックグラウンドノイズとして各測定値から差し引くようにする。この場合のバックグラウンドノイズとしては、例えば励起光の波長と測定する蛍光の波長が一部重なっている場合、励起光が迷光となって蛍光用フィルタを透過して検出器3に入射してしまうことによるノイズがあり得る。
【0081】
尚、本願発明において、第二の検査液を使用することは必須要件ではない。試料を第一の検査液に直接投入して測定する場合もあり得る。特に、第一の検査液における蛍光試薬及び抗体以外の成分が第二の検査液と同じである場合、第二の検査液を使用しない場合があり得る。試料自体が液相のものである場合、それをそのまま計量して第一の検査液に投入する場合もある。これらの場合も、相関比Rの導入の効果は同様に得られる。
また、第二の検査液を使用する場合も、第二の検査液が第一の検査液と同じ試料容器に予め収容されていなくても良い。即ち、蛍光測定キットは、第一の検査液を収容した試料容器と、第二の検査液を収容した別の試料容器を有するものであっても良い。
【実施例1】
【0082】
次に、上述した実施形態の方法に即して蛍光増強比Q
1*/Q
1を実際に求めたより具体的な例について説明する。
この例では、モルヒネが目的物質(抗原)とされた。第一の検査液としては、モルヒネ用抗体を蛍光試薬で標識し、緩衝液に溶解して使用した。蛍光試薬としては、TAMRAが使用された。緩衝液としては、ph調整作用のあるPBS(リン酸塩生理食塩水)に、器壁付着防止剤としてのBSAを1vol%、たんぱく質安定剤としてTween20を0.05vol%で添加したものが使用された。第一の検査液におけるモルヒネ用抗体の濃度は、8nM(ナノモル)程度である。
【0083】
このような第一の検査液について、相関比Rを求めるための実験を行った。まず、モルヒネ用抗原及び蛍光試薬を投入しない状態で蛍光強度を測定したところ、5.3(任意単位)であった。次に、モルヒネ用抗原及び蛍光試薬を投入して蛍光強度を測定したところ、7.1であった。したがって、モルヒネ用抗原及び蛍光試薬の分の蛍光強度は1.8になり、相関比Rは5.3/1.8=2.94となった。7.1の蛍光強度は、前述したF
1である。
一方、第二の検査液は、第一の検査液における緩衝液と全く同じ成分とした。即ち、PBSにBSAを1vol%、Tween20を0.05vol%で添加したものを使用した。この第二の検査液に試料であるモルヒネを投入し、濃度が100nM程度になるようにした。
【0084】
このような試料(モルヒネ)入りの第二の検査液0.25ミリリットルを、0.75ミリリットルの第一の検査液に混合し、全体として1ミリリットルの液相対象物を得た。したがって、混合比kは、0.75である。このような液相対象物について、同様に蛍光測定したところ、蛍光強度(前述したF
2)は23.7であった。モルヒネ用抗原からの蛍光発光は無視できるので、得られたF
1及びF
2を式8に適用して算出したところ、光増強比Q
1*/Q
1は13.6(単位なし)であった。即ち、蛍光強度が13.6倍に増強しており、抗原抗体反応に伴うクエンチングの解消により蛍光強度が大幅に増強されたことが確認された。